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富山大学人間発達科学部附属中学校研究紀要 71 :「技術・家庭科」101 111 2018 101 技術・家庭科 技術・家庭科

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富山大学人間発達科学部附属中学校研究紀要 №71:「技術・家庭科」101-111(2018)

―101―

技術・家庭科

技術

・家

庭科

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富山大学人間発達科学部附属中学校研究紀要 №71:「技術・家庭科」101-111(2018)

―102―

技術・家庭科の本質

これからの生活を展望して、

生活をよりよくするために

進んで実践することができる

生活や技術への

興味・関心が高まる

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Ⅰ 技術・家庭科の目標と教科の本質グローバル化や少子高齢社会が進む現代社会では、持

続可能な社会の構築等、今後の社会の急激な変化に主体

的に対応することがこれまで以上に求められている。技

術・家庭科は、実践的・体験的な活動を通して、生活や

社会で利用されている技術についての基礎的な理解や、

家族・家庭、衣食住、消費や環境等についての科学的な

理解を図り、それらに係る技能を身に付けるとともに、

生活や社会の中から問題を見いだして課題設定しそれを

解決する力や、よりよい生活の実現に向けて、生活を工

夫し創造しようとする態度等を育成することをねらい、

「生活の営みに係る見方・考え方を働かせ、生活や技術

に関する実践的・体験的な活動を通して、よりよい生活

の実現や持続可能な社会の構築に向けて、生活を工夫し

創造する資質・能力を育成すること」を目標としている

教科である。つまり、よりよい生活や持続可能な社会の

構築の礎となる生活を工夫し創造する能力と実践的な態

度の育成こそが本技術・家庭科の本質である。

そこで、私たちは、教科の本質を「生活を工夫し創造

する能力と実践的な態度を身に付けること」とし、その

力の育成を目指した技術・家庭科の学習の深まりのため

に、教科特有の見方・考え方を働かせた学習活動となる

よう展開していきたいと考えている。

技術・家庭科における見方・考え方

どの学習内容、題材においても、常に自分と社会等と

のつながりを意識して、目指されるべき生活の在り方へ

の理解を大切にし、変化が激しく一律な正解のないこれ

からの社会においても発揮できる確かな力を育んでいき

たい。

Ⅱ 教科の本質に迫るためにこの教科の本質に迫るために生徒が身に付けなければ

ならない資質・能力は次のとおりである。

育成したい資質・能力

① 生活と技術についての基礎的な理解とそれらに係る

技能の習得

② 生活や社会の中から問題を見いだして課題を設定し、

解決策を構想し、実践を評価・改善し、表現するなど、

課題を解決する力

③ よりよい生活の実現や持続可能な社会の構築に向け

て、生活を工夫し創造しようとする実践的な態度

育成したい資質・能力への迫り方

育成したい資質・能力が着実に育まれる深い学びにし

ていくために、次の2点について充実を図っていきたい。

①実践的・体験的な活動(と言語活動)の充実

基礎的な知識や技能の確実な習得につながるものにな

ること、そして、今後の課題解決への共有性、発展性の

あるものになることを意識する。(研究紀要第64号)

②課題解決学習の充実

次のような学習過程を通して、習得した知識及び技能

を活用し思考力・判断力・表現力等を育成することによ

り、課題を解決する力が養われる。

出典:荒井紀子「新版・生活主体を育む」

題材全体を通して又は1時間の授業の中で、課題が解

決されていく流れを作ったり、本気で解決してみたいと

思える好奇心や感性が揺さぶられる課題との出会いを設

定すべく題材構成や教材選定を吟味したり、学習課題を

含んだ生徒に投げかける全ての問いを慎重に計画するこ

と等を通して上記の①②の充実を図りたい。そして、そ

の充実によって、技術・家庭科の本質に迫っていけると

考え、授業研究に取り組んでいく。

富山大学人間発達科学部附属中学校研究紀要 №71:「技術・家庭科」101-111(2018)

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生活を工夫し創造する能力と実践的な態度を育てる課題学習-教科の本質に迫る授業づくり-

技術

・家

庭科

「技術の見方・考え方」

生活や社会における事象を、技術との関わりの視点

で捉え、社会からの要求、安全性、環境負荷や経済性

等に着目して技術を最適化すること。

「生活の営みに係る見方・考え方」

家族や家庭、衣食住、消費や環境などに係る生活事

象を、協力・協働、健康・快適・安全、生活文化の継

承・創造、持続可能な社会の構築等の視点で捉え、よ

りよい生活を営むために工夫すること。

(明治図書 「新学習指導要領の展開」P19より)

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実践事例1

1 題材名

第1学年 ネットワークを支える技術

2 題材の目標

○ 情報に関する技術の課題を進んで見付け、社会的、

環境的及び経済的側面等から比較・検討しようとする

とともに、最適な解決策を示そうとしている。

【生活や技術への関心・意欲・態度】

◎ 情報技術の活用場面に応じて、適正に行動すること

ができる。 【生活を工夫し創造する能力】

○ LANやインターネット等の情報通信ネットワーク

の構成と、安全に情報を利用するための基本的な仕組

みについて理解することができる。

【生活や技術についての知識・理解】

3 題材の構成(全6時間)

第1時 情報とわたしたちの生活とのかかわり

第2時 情報のディジタル化

第3時 コンピュータの基本

第4、5時 情報通信ネットワーク

第6時 情報モラルと知的財産

4 技術・家庭科の本質と本実践の関わり

一度発信した情報を再び回収し修正することは非常に

困難であり、情報を発信する際には十分な配慮が必要で

あることから、情報通信ネットワークのもつ危険性を理

解し、科学的な側面から情報セキュリティの確保のため

に対応・対策がとれる力を育むことを目指して指導を行っ

た。

(1)教材と課題の出会わせ方

日常生活でよくある情報通信ネットワーク活用の事例

を取り上げ、実際に「友人の写真」をその友人に渡そう

とした際、情報の発信に伴って発生する可能性のある問

題を捉えた。そして、その問題を解決するために自身が

行う最適な対応・対策を考えた。

(2)技術科特有の見方・考え方と向き合わせる課題設

定と問いかけの仕方

本時において習得すべき力は、「情報通信ネットワー

ク」や「情報セキュリティ」の仕組みを理解することだ

けではない。時代の流れやその時の状況に沿った起こり

うる問題を絶えず導き出しながら、自身のよりよい判断

によって問題を回避したり、解決したりする力を育むこ

とにある。そのために、目に見えないインターネットの

仕組みを糸電話という具体モデルによって可視化させ、

糸電話での情報発信によって起こる問題とを照らし合わ

せながら課題に迫れるようにした。また、自分の考えを

伝え合う場面では、生徒に適切な「問い」を投げかける

ことで、学習した知識及び技能を活用し、思考力・判断

力・表現力等を働かせて技術的な見方・考え方を深めて

いくことにつながった。

5 本実践の成果と課題

① 成果

教材の選定

情報通信ネットワークは、コンピュータによる情報通

信の急速な発達によって広く利用されている中で、さら

にIoTの進展によりその構造がより複雑でブラックボッ

クス化している。事前アンケートでは、「生活に溶け込

んでいるインターネットも目に見えない部分が多く、利

用の際に何が起きているのか分からない。」と不安を抱

く姿があった。そこで、具体物の糸電話はネットワーク

の仕組みを身近な道具でモデル化したものとなり、生活

経験値の少ない生徒にとって具体物を使用して目に見え

る形で構成することが、ネットワークの仕組みの理解と

情報セキュリティ対策の意識を高めるために効果的であっ

た。

課題との出会わせ方

発信者、受信者、第三者等の立場を多様な視点からも

考えられるように問いを与えたことによって、情報通信

ネットワークにおける問題を明らかにし、情報セキュリ

ティ対策や対応の工夫を考えることができた。

富山大学人間発達科学部附属中学校研究紀要 №71:「技術・家庭科」101-111(2018)

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また、情報発信の様子を図に表すことによって、問題

を共有することができた。

[生徒同士の「問い」の投げかけ]

さらに、ネットトラブルや社会問題になっているもの

を例に情報セキュリティ対策を考えた。それによって、

コンピュータウィルスや高額架空請求、なりすまし被害

等のトラブルに巻き込まれたり、知らない間に著作権を

侵害していたりという情報伝達に潜む危険に対し事前に

予期し回避する方法や、予期せぬ状態で発生してしまっ

たトラブルに早く気付き、被害の小さなうちに解決でき

る最適な手立てを考える力が育まれた。

② 課題

情報に関する技術においては、まだまだブラックボッ

クス化されている仕組みが多くあり、今後も発展してい

くそれぞれの技術に対して実生活における課題を発見し、

自分なりに判断して課題を解決できる能力を身に付けな

ければ、「生活を工夫し創造する能力と実践的な態度」

の高まりには到達しない。本時では、見えないものを可

視化させることによって、生徒自身の創造力によりその

ブラックボックス化された仕組みを読み解いたが、実生

活で問題に直面したときに、「獲得した知識及び技能を

どう使うか」を考えた実践までには至らなかった。情報

に関する技術を適切に評価し活用する能力と態度を育く

むとともに、問題が絶えず変化していく時代において

「なぜ問題が起きてしまったのか」「問題を最小限に食い

止めるためにはどうすればよいのか」などと自問できる

力を身に付けさせなければ、技術・家庭科の本質には迫

れない。

(授業者:寺崎明則)

富山大学人間発達科学部附属中学校研究紀要 №71:「技術・家庭科」101-111(2018)

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S1:複数の人とグループを作っているSNSに投稿す

るとみんなに見られて困るのではないかな?

S2:それってLINEなの?SNSとLINEの違いって

何?

S1:Facebookや twitter、Instagramが SNSなん

だぜ!

S2:そうなんですか、先生?

T: S1さんは、どのようなところに違いがあると思

いますか?

S1:え?何だろう?不特定多数の会員制なところか

な?

S2:そうなんだ!

T: いえいえ。全てが登録された利用者同士が交流

できるwebサイトの会員制サービスなんです。

また、スマートフォンで操作できるので若者に

流行していますね。

S1:やっぱり、みんなに見られるってことになって

困るよ。

情報の発信を図表化し、起こりうる問題をまとめたノート

技術

・家

庭科

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実践事例2

1 題材名

日常食の調理における、安全と用途に応じた食品の

選択 B(2)ウ

2 題材の目標

◎ 食品の選択や保存について関心をもち、食生活をよ

りよくしようとしている。

【生活を工夫し創造する能力】

○ 食品の選択や保存について課題を見付け、その解決

を目指して工夫する。【生活を工夫し創造する能力】

◎ 食品を選択するために必要な情報を収集・整理する

ことができる。 【生活の技能】

◎ 生鮮食品と加工食品の表示の意味と良否の見分け方

について理解している。

【生活や技術についての知識・理解】

○ 食品の選択における観点について理解している。

【生活や技術についての知識・理解】

○ 食品の保存に関する基礎的な知識を身に付けている。

【生活や技術についての知識・理解】

3 題材の構成(全4時間)

第1時 生鮮食品の特徴を理解し、その良否の見分け方

や旬の食品のよさを理解する。

第2時 加工食品の目的と特徴、食品添加物の種類や目

的について理解する。

第3時 2種類の「ハム」を比較し、どちらを選択する

か判断するとき、どんな情報が分かれば納得して

選ぶことができるか考える。(本時)

第4時 いくつかの生鮮食品、加工食品を例に挙げ、そ

の保存方法について、食品の表示の学習を振り返

りながら、整理する。

食品の不適切な扱いによる食中毒の例を基に、

食中毒を防ぐ方法について考える。

4 技術・家庭科の本質と本実践の関わり

食品の表示の意味を正しく理解し、正しく読み取る力

を身に付け、その確かな知識と食品の安全性に対する関

心の高まりによって、自ら考えて食品を選択できる力を

育むことを目指して指導を行った。

(1)教材と課題との出会わせ方

教材については、実際の生活の中でも起こりうる「ハ

ムの選択・購入」とし、いつもならあるはずの表示が一

切ない、包装されていない2種類のハムから選択・購入

する場を設定した。むき出しの状態のハムでは、使用目

的や自分や家族の好み、価値観に合ったものはどちらな

のかが判断できないことを実感させた後、どのような情

報が分かれば納得して選ぶことができるかを考えさせた。

思考・判断するための必要な情報収集を主体的に進めよ

うとする意欲をもたせることをねらった。

(2)家庭科特有の見方・考え方と向き合わせる課題設

定と問いかけの仕方

本時において習得すべき力は、食品表示の内容(原材

料、食品添加物、栄養成分、期限表示、保存方法等)を

正しく理解することだけではない。その習得の過程で

「どちらのハムにするか判断するために、どのような情

報が必要か」という課題を解決する活動を通して、食品

を選択するときの条件である「目的」「栄養」「価格」

「調理の能率」「環境への影響」等に意識が向けられるよ

うにした。様々な視点から、安全でより豊かな食生活の

実現を目指して工夫しようとする家庭科の見方・考え方

が意識の中に根付いていくことをねらった。知識及び技

能の習得と思考力・判断力・表現力等の育成を相互に関

わり合わせる学習過程とするために、自分の考えを伝え

合う場面では、生徒に適切な「問い」を投げかけ、生徒

の考えの背景にあるものを確実に引き出し、食品を選択

するときに必要な視点で食品を見つめることができるよ

うにした。

5 本実践の成果と課題

① 成果

教材の選定

実感をもちながら課題を解決させていくために、中学

生でも自分の判断で選択する機会があり、日常的に食事

作りにおいて扱うことの多い身近なハムを教材にした。

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どの生徒にとっても身近な食品であったため、主体的に

活動する姿が多く見られた。また、包装を取り外したハ

ムを提示したことによって、普段自然と目にするはずの

様々な表示がないことに違和感をもちつつ、どんなこと

が食品購入の際の視点になっているのか、どんな判断基

準で選ぶべきなのかについて必然性をもって考えていた。

課題との出会わせ方

「購入するとしたらどっちのハムにする?」と問いか

け、表示がないハムでは、どちらが良いのか、使用目的

や自分や家族の好みや価値観に合っているのかは、その

見た目や味等だけでは判断しにくいことを実感させるこ

とができた。「これだけでは決められない」ということ

を実感させることによって、課題に向かう意欲をもたせ

ることに効果があった。

考える場面での問いかけ

どうしてその情報が必要なのか、その情報が得られな

かったら困ることがあるのか、と問い返した。情報の必

要性を説明させる際に、理由を語らせることで、考えの

背景にあるそれぞれの食品を選択するときの価値観が生

徒自身の中で整理され、また、聞いている他の生徒は自

分のもっていなかった価値観を理解することができた。

情報の必要性を問い返し、欲しい情報とその理由につ

いては、生徒の言葉をそのまま板書に表した。そうした

ことによって、表示やマークの意味、目的、必要性が理

解しやすくなり、加工食品の表示が、消費者のニーズに

合ったものになっているという実感を伴った理解につな

がった。必然性をもって表示やマークの読み取り方を習

得することによって、それらの情報を活用して用途に応

じた食品を適切に選択することができ、その身に付いた

力によって、これから先、どのような食品を選択する場

面においても目的や用途に合った選択をし、食生活をよ

り一層よいものにしていきたいという意欲の高まりにも

効果が得られたようである。

富山大学人間発達科学部附属中学校研究紀要 №71:「技術・家庭科」101-111(2018)

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2種類の包装されていないハムを見比べて試食している様子

技術

・家

庭科

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以下は生徒の記述である。

② 課題

・A、Bのハムの色や味の違いは食品添加物の発色剤が

関係していることに気付かせたいと考えていた。発色剤

の亜硝酸ナトリウムによって、食中毒菌のボツリヌス菌

の生育を防ぐことができ、安全性が増していることも伝

え、極端に「食品添加物は体に悪影響が出るから摂って

はならない」という捉え方をしている生徒には、食品添

加物に対するこれまでの捉え方に変化を与えたかった。

当初の計画では、第4時の課題追究の場面で補助資料を

提示して話題に挙げる予定だったが、うまく取り上げる

ことができなかった。事前の教材研究が不十分で、生徒

の思考の流れを想定しきれていなかったのが原因である。

食品添加物を気にして食品を選択したい、という考えを

主張する生徒もいたので、第4時の授業の終末には、

「次回食品添加物について学習し、もやもやしているこ

とを解明していこう」と告げて授業を締めくくった。そ

して次時に食品添加物について食品安全委員会の資料を

用いて学習し、もう一度加工食品を選ぶときに大切にし

たいことの記述に加筆させた。

以下は生徒の記述である。

・今回は加工食品の選択に関する学習だけを取り出し、

実践的・体験的な活動を通して、基礎的な知識を理解さ

せた。食品選択という課題に出会ったときによりよい選

択をしようとする態度の育成にもつながったと言えるが、

実際の食品を選択する場面で必要なのは、生鮮食品加工

食品織り交ぜて「目的」「栄養」「価格」「調理の能率」

「環境への影響」等を考慮して選んでいける力である。

その実際の場面でも生きる力の育成を重要に考え、題材

構成を更に検討していきたい。

・食品表示に関する基礎的な知識をより明確に理解させ

るためには、更に整理された意図的な板書や、生徒の考

えたことがうまく活用された構造的な板書が必要である。

批判的思考力の向上には問いかけ、問い返しを、より

適切なものにして、多角的に思考を深められるようにし

ていかなければならない。

これらの手立てに更なる研究と実践が必要である。

富山大学人間発達科学部附属中学校研究紀要 №71:「技術・家庭科」101-111(2018)

―108―

「加工食品を選ぶ時に大切にしたいこと」

(S1)

今までは価格とか内容量ぐらいしか気にしていなかっ

たが、食品の裏に結構色々な情報が載っていた。特に

今回の2種類のハムは原材料と価格が大きく違った。

料理にあったものを選べるようになりたい。

(S2)

見た目だけで判断せず、裏の表示を見て、自分や家

族が安全においしく食べられるようなものを選びたい。

値段だけを重視せず、栄養量、原材料なども大切にし

て、健康を保てるようにしたい。使いやすさも大切だ

から内容量もよく見たい。

(S3)

表示を見ることを大切にしたいけれど、毎回全ての

表示を見るのは時間がかかるから、僕の場合は値段と

期限と内容量を一番に確認したいと思った。

(S4)

私は家族の中に着色料(コチニール色素)がだめな

人がいるので、どんなことよりも第一に原材料をしっ

かり確認したいと思っています。

「加工食品を選ぶ時に大切にしたいこと」

もちろん内容量に対しての値段の安さも大切だが、

原材料名や期限表示などから分かる、保存料や食品添

加物などの情報も得てから買いたいと思った。また、

自分は何のために買うのか、目的(作る料理など)を

頭に置いて選びたい。

(ここからが加筆されたもの)

「食品添加物」という名前だけで少し危険そうなイ

メージを勝手にもっていたがもちろん危険なものもあ

るが無毒性量の百分の一以下が使用基準に設定されて

いることが分かったので、食べ過ぎは気にしつつも気

にしすぎないようにしようと思った。また、分からな

いものや不安なものがあったら、複数の情報を得てはっ

きりさせてから食べるようにするといいと思った。

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6 第4時の授業実践

実践事例3

~題材を通して課題を解決していく実践~

1 題材名

被服製作「自分にぴったりのハーフパンツを作ろう」

2 題材構成

第1時 「衣服のはたらき」

第2時 「似合う色をみつけよう」

第3時 「自分にぴったりのハーフパンツにするには

どんなことにこだわったらいいのか」

→図に表す活動を行った(次ページに図)

第4時 「ハーフパンツを作るための布にはどのような

布が適しているのだろうか」

様々な繊維の特徴を知り、実際にハーフパンツを着用

する場面(T、P、O)と材料となる布の種類を関連付

けて考えることができた。

第5、6時 「ハーフパンツを作るために必要な材料と

道具を用意しよう」

ミシンやまち針等の道具の種類と、どのような作業で

何のために必要になるかを考えていくことで、製作の見

通しをもち、道具の使い方の再確認をすることができた。

製作に必要な布の形や大きさを、ミニチュアのハーフ

パンツを紙で作りながら考えた。自分のハーフパンツ製

富山大学人間発達科学部附属中学校研究紀要 №71:「技術・家庭科」101-111(2018)

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学習活動 指導上の留意点

課題

の設

定・

把握

課題

の追

究・

解決

課題

の定

着・

発展

1 2種類のハムを観察し、どちらを購入するか、

考える。

(比較するハム)

A…発色剤を使わない市販のハム

B…発色剤が使われた市販のハム

2 本時の課題を確認する。

3 どちらのハムにするか決定するときに、手に入

れたい情報はあるか考え、なぜその情報が必要な

のか話し合う。

4 提示したハムの包装に表示される全ての内容を

確認し、その内容を読み取りながら、ワークシー

トに記入して情報を整理する。

5 学習の振り返り

加工食品を選ぶ時に、大切にしたいことを、ワー

クシートに記入する。

・ 「どっちのハムにする?」と問いかけ、表示が見え

ないハムでは、どちらが良くて、使用目的や自分や家

族の好みや価値観に合っているかは、その見た目や味

等だけでは判断しにくいことを実感させる。

・ どうしてその情報が必要なのか、その情報が得られ

なかったら困ることがあるのか、と問い返す。

・ 欲しい情報とその理由については、生徒の言葉をそ

のまま板書に表す。

・ 欲しい情報の中でも、特に重視する情報は何かを問

い、食品を選択するときの大切な視点である「用途や

目的に合わせる」ということに向き合わせたい。

・ ハムの包装の資料を見て表示やマークから読み取れ

る内容をワークシートの表にまとめさせる。

・ 表示の拡大掲示物を用いて、3で挙げられた欲しい

情報と結び付けながら板書にまとめていき、義務づけ

られている表示内容とも合致していることを確認させ

る。

・ 食品添加物の発色剤について取り上げる。

・ 加工食品のよりよい選択には「安心・安全」「自分

や家族の健康」「効率のよさ、使いやすさ」という見

方が大切であることに気付くようキーワードを板書に

表す。

ハムを購入する時、どのような情報を手に入れたら納得して選ぶことができるだろうか

技術

・家

庭科

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作に必要な布の大きさを決定した。

特に「三つ折り」の意味と適切な施し方、「返し縫い」

の意味と適切な方法を、確実に自分のものとする時間と

なった。

課外活動

それぞれ、手芸用品店で、布を購入した。色や柄につ

いても第2時の学習をいかして計画を立ててから購入さ

せた。

第7時~第12時

製作

第13時 「わたしのハーフパンツを紹介します」

製作に使用した布について、その布を選んだ理由や、

どんな時に着用することを想定して大きさや形を決定し

たのかなども含めて、自分の製作したものについての作

品紹介カードを作成した。(学習発表会にて展示)

第14時 「ハーフパンツ評価会」

ハーフパンツ製作の学習の中で身に付けさせたかった

ことを項目にし、生徒同士での評価活動を行った。

富山大学人間発達科学部附属中学校研究紀要 №71:「技術・家庭科」101-111(2018)

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3 本実践を通して

14時間に渡る本題材において、第3時の学習課題

「自分にぴったりのハーフパンツにするにはどんなこと

にこだわったらいいのか」を追究した1時間によって、

「健康、快適、安全」の視点でよりよいハーフパンツ製

作について考えることができた。この1時間の活動がそ

の後の製作に関する基礎的な知識の理解や技能の習得に

対し効果が見られ、自信をもって製作に取り組むことに

つながった。また、自分の身を包む衣類の構造や縫製の

丈夫さも意識できるようになり、豊かな衣生活に向けて

自立していく様子が見られた。さらに、製作した自分の

ハーフパンツに愛着をもつ生徒も多く見られ、完成でき

たことに対する達成感も大きいようであった。

今後も、深い学びのために、実践的・体験的な活動と

課題解決学習を有効的に関わり合わせていく研究を重ね

ていきたい。

(授業者:吉田みづき)

〈参考・引用文献〉

・中学校学習指導要領(平成29年告示)文部科学省

・中学校新学習指導要領の展開,技術・家庭技術編,明

治図書,2017年

・中学校新学習指導要領の展開,技術・家庭編,明治図

書,2017年

・中学校・富山大学人間発達科学部附属中学校「主体性

の高まりをめざす課題学習」(技術・家庭科),2011

年~2017年

・荒井紀子編著「新版 生活主体を育む」ドメス出版,

2013年

・荒井紀子、鈴木真由子、綿引伴子編著「新しい問題解

決学習」教育図書,2009年

・文部科学省国立教育政策研究所「評価基準の作成、評

価方法等の工夫改善のための参考資料(中学校 技術・

家庭)」教育出版,2011年21-41

・教育課程 企画特別部会(平成27年8月20日)論点整

理 補足資料

・『インターネット・ホットラインセンターホームペー

ジ』平成27年11月5日

〈https://www.internethotline.jp/statistics/first_half_2015.pdf〉

・岡嶋裕史『郵便と糸電話で分かるインターネットのし

くみ』集英社新書 平成18年

・愛知教育大学附属名古屋中学校「研究紀要第55集」

富山大学人間発達科学部附属中学校研究紀要 №71:「技術・家庭科」101-111(2018)

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技術

・家

庭科