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Page 1: 「銀色の翼」hatsumira.com/pdf/hatsumira_prologue.pdf · 2015. 6. 12. · 7 銀色の翼 6 なるほど、どんな人間であっても死だけは平等という訳か。ありがたくて涙が出そうだ。
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5 銀色の翼

  「銀色の翼」

──最後に水を飲んでから、既に2日経っていた。

経験したこともない日差しと気温に身を晒し、呼吸をするだけで肺を焼かれるような熱波

を反射する砂は、まるで火にかけた鍋の上を歩くようだった。

 

手持ちの水を飲み切ってしまえは汗もかかなくなり、手足がしびれて動けなくなる頃に

は、もう空腹を感じる余裕もなくなっていた。

もう水のことしか考えられない。

 

水を腹いっぱい飲めれば、そのまま死んでもいいとすら思えた。

**『…おい人間、生きておるのなら返事をせい…』

 

人は死に直面したとき、母の声を聴くと言う。

 

俺に母親の記憶はない。ともなれば、これがいわゆる神の声というやつなのかも知れな

い。

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7 銀色の翼 6

 

なるほど、どんな人間であっても死だけは平等という訳か。ありがたくて涙が出そうだ。

**『…おい、返事をせんか…』

 

喋るのも鬱陶しいのが見てわからんのか?

 

地獄でも天国でもいい、とにかくここではないどこか、落ち着く場所へ連れていけ。

 

話はそれからだ。

**『…死んでおるのか?』

一郎「…ウッ…!」

ユキカゼ「…おぅ、生きておったか。じゃが砂漠の毒は人間に有害じゃ、このまま寝てお

ればいずれ死ぬぞ?」

一郎「…ここは…どこだ?」

ユキカゼ「ここはレナスの東、ドムトレット砂漠の中央じゃ。オマエはかような場所でな

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9 銀色の翼 8

にをしておる? 

どこぞから逃げ出してきたのか?」

一郎「…水を…くれ…」

ユキカゼ「フム…なんとも図々しい人の子よのう。じゃが良かろう。私は寛容なのじゃ」

ユキカゼ「ほれ、好きなだけ飲むがいい」

 

差し出された水筒に手を伸ばし、蓋を開ける間ももどかしく口をつけると、俺は勢いよ

く溢れる水を喉に流し込んだ。

一郎「ガハッ! 

ゴホッ! 

んっぐ…んっぐ…んっぐ…」

ユキカゼ「馬車馬でもあるまいに、慌てるでないぞ人の子よ。そう急には身体が受け付け

まい。ゆっくりと飲むのじゃ」

一郎「…ブハッ…! 

ここは、どこだって?」

ユキカゼ「じゃから先刻も申したであろう。なんじゃオマエ、迷子か?」

一郎「迷子ではない。自分が何処にいるのかわからんだけだ…」

ユキカゼ「…それを迷子と言うのじゃ阿呆め」

一郎「オマエはなんだ? 

神か?」

ユキカゼ「フム、一部の地域では私をそのような存在とし、崇め奉ることもある。間違っ

てはおらん認識じゃ」

ユキカゼ「フフン…私の名を知りたいか? 

人の子よ。聞けは肝を抜かすぞ?」

ユキカゼ「私の名は、アークジーン王国第一王女! 

ユキカゼなるぞ!」

一郎「…んっぐ…んっぐ…んっぐ…」

ユキカゼ「おい人間、ユキカゼ様じゃぞ? 

目の前におるのじゃぞ? 

水より先に夢中に

なるべきものがあるとは思わんのか!?」

一郎「…あ? 

誰だって?」

ユキカゼ「じゃから! 

ユキカゼじゃ! 

さっさとひれ伏すがよい!」

一郎「すまんが、ヒリッピンのことはよくわからん。水のことは感謝する。いずれ俺の国

から謝礼があるだろう」

ユキカゼ「なに? 

貴様もそのナリでどこぞの王族であるのか?」

一郎「…王族? 

俺は帝国海軍の三森一郎二飛曹だ」

ユキカゼ「テイ…コク…なんじゃと? 

ニヒソーとはなんじゃ?」

一郎「つまり、なんだ、軍人だ」

ユキカゼ「ほぅ、軍人か。して、どこの国の軍人じゃと? 

返答によっては、私も態度を

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11 銀色の翼 10

変えねばならぬ。正直に申せ」

一郎「日本だ」

ユキカゼ「ニ・ポーン…はて、知らん国じゃのう…どこにある?」

一郎「どう説明したものかわからんが、とりあえず東だ」

ユキカゼ「東…と言われてものう、どこを基準にした東じゃ? 

王都を基準にした東はこ

こレナスじゃが。もう600年も前から砂漠で、国などない」

一郎「なにを言っている…?」

ユキカゼ「それは私のセリフじゃ。怪しい奴め」

一郎「オマエこそ怪しいだろ。ヒリッピン人の癖に流暢かつ横柄な日本語を口にしやがっ

て。間者の類いか?」

ユキカゼ「いきなり取って食うたりはせんゆえ、正直に申せ! 

貴様、どこから来たの

じゃ!?」

一郎「だから日本だって言ってるだろが! 

わからねぇ奴だな! 

日本語が話せるならわ

かるだろう! 

ここから一番近い日本軍の基地へ案内しろ! 

この際、陸軍の基地でも構

わん!」

ユキカゼ「命を助けてやったというのになんじゃその口の利きようは! 

無礼にもほどが

ある!」

  ドロン

ユキカゼ『こんがりと丸焼きにして! 

頭からバリバリと食ろうてやろうかっ!』

一郎「…こいつぁまた随分と大きく出やがったな。トカゲに化けるとは何事だ!! 

非常識

にもほどがあるぞヒリッピン人!!」

ユキカゼ『…なんなのじゃぁ…オマエは…?』

一郎「トカゲにだきゃ誰何されたかねぇな」

ユキカゼ『………バフーーー………』

一郎「…熱っづぅ!!」

ユキカゼ『おぉ、すまん、思わずため息が漏れた』

 

ここが地獄なのか天国なのか、あるいはそのどちらでもない別の場所なのか。それはい

まだにわからない。

どちらにせよ、このまま砂漠を彷徨っていたところで野垂れ死には確定だ。

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13 銀色の翼 12

 

その昔、浦島太郎は助けた亀の背に乗り、竜宮城へ案内されたというが、俺の場合は助

けられたトカゲの背に乗り、近くの町まで案内してもらうことになった。

一郎「うむ、トカゲの背中なんてものには初めて乗ったが、なかなか悪くない。一見して

鈍重そうだが、上昇性能は悪くないし旋回能力も高い」

一郎「ちと股座が痛むのが文字通り玉に瑕だが、馬のように鞍を乗せれば、あるいは…?」

ユキカゼ『なーにが�あるいは�じゃ、いい気なものよのう。私が人を乗せて飛ぶことなど、

滅多にあることではないのじゃぞ? 

感謝することじゃ!』

一郎「おいトカゲ! 

太陽の位置からすると、西へ飛んでいるのか? 

どこへ向かってい

る」

ユキカゼ『トカゲトカゲと気安く呼ぶな! 

それと! 

ツノを引っ張るでない! 

なんか

イラッとするのじゃ!』

一郎「うむ、どうも空を飛んでいると、無意識に操縦桿に舵を入れてしまうな」

ユキカゼ『ソウジューカンとはなんじゃ!? 

それと! 

足で首をグリグリするのもやめ

い! 

気分が悪い!』

一郎「足踏み桿の癖だ。いいか? 

俺が右足で踏んだら右に首を振れ、左で踏んだら左。

わかるな?」

ユキカゼ『わかるが! 

なにゆえ貴様の指示通りに飛ばねばならぬのじゃ! 

分をわきま

えんか人間め!』

一郎「ほぅ、トカゲ風情が随分と生意気な口を利くじゃねぇか」

ユキカゼ『痛たた! 

ツノを引くなと言うに! 

叩き落とすぞ! 

人間が!』

一郎「面白い! 

やってみろ!」

ユキカゼ『言ったな!? 

泣き叫ぶでないぞ!?』

 

目測高度300メートル。

 

不意に翼を立て振り扇いだトカゲは、自らのヘソ(あるのか?)を覗き込むように首を

下げ、急速降下の姿勢を作ると翼を畳み、大気を切り裂く鏃のごとく降下を始めた。

降下角、約60度。昨日今日飛び始めたような三式初練乗りであれば、喉が膨らみ口から心

臓が飛び出るほど恐ろしいだろう。

 

罰直棒で後座の教官に頭を小突かれ小突かれ、悔しさに涙を滲ませながら飛んでいたこ

ろの俺ならはいざ知らず、夜間を除く飛行時間にして400時間を数える俺にしてみれば

虚仮威しでしかない。

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15 銀色の翼 14

ユキカゼ『どうじゃ!? 

このまま地面に激突してやろうか!?』

一郎「遅い! 

こんな速度では艦砲に撃ち落されるぞ! 

もっと速度を上げろ!」

 

降下速度は約190ノット前後だろう。零戦に比べるまでもなく全然遅い。

 

それに、おそらくは前方を見ようとすれば首が上を向くトカゲの体格も関係するのだろ

うが、降下角が緩い。

一郎「背面だ! 

背面に入れろ! 

そうすれば角度を深くとっても目標が見える!」

ユキカゼ『うぐっ! 

や! 

やめい! 

ツノを…こらぁっ!』

 

後頭部から生えた2本のツノを握り締め、既に身体に染みついたともいえる左旋回をう

つと、首を無理やり捩じられたトカゲはぐるりと半回転して背中を地面に向けた。

 

体感的にはもはや垂直とも思える70度の背面降下。50番を抱いたまま空母に突入する訓

練は何度もやった。

 

俺は、無意識にトカゲのツノをグッと押し込む。

ユキカゼ『…くっ…!!』

トカゲにしても未体験の角度と速度での急降下なのかも知れない。トカゲの方が先にビ

ビり始めた。

ユキカゼ『やめんか! 

このままでは本当に地面に突き刺さってしまうぞ!』

 

身体をピクリと揺らして引き起こしにかかろうとしたトカゲを、俺はツノを押し込んで

頭を下げさせ、阻止する。

一郎「まだだ! 

まだ早いっ! 

もっと突っ込め!!」

ユキカゼ『お、おい…! 

手を離さんか! 

首を上げねば引き起こせん!!』

一郎「起こすなと言っている! 

いま腹を見せれば撃墜されるぞ!!」

ユキカゼ『やめい! 

やめんか! 

これ以上は本当に…!! 

意地を張るでない!!』

一郎「俺を信じろ!」

ユキカゼ『…ひぃっ!!』

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17 銀色の翼 16

 

あぁ、もうダメだ、砂漠に頭から突き刺さる。

 

そんな覚悟を決めたのだろう、トカゲは思わず目を閉じた。

一郎「今だっ!! 

戻すぞっ!!」

 

操縦桿代わりのツノを引くと同時に首を上げさせ、大きく大気をはらんだ羽根が、バン

と音を立てて広がり、風に巻かれる木の葉のごとく背面から復帰したトカゲは、不意に掴

んだ翼面荷重で弓のようにしなり、ミシミシと翼骨をきしませる。

ユキカゼ『…ン…ぐぅっ!!』

一郎「いいぞ! 

踏ん張れ!」

 

眼前にどこまでも広がる砂漠の砂は、俺の目には海に見えた。

 

正面に敵空母をとらえ、腹に抱えた50番を飛行甲板に向けて投下。そのまま機銃を掃射

しながら敵艦の上を飛び抜ける。

 

海面ギリギリ、プロペラで海面を叩きそうな低高度で水平飛行に入り、緩く横滑りさせ

ながら敵艦からの反撃を回避しつつ、十分に距離を取り、上昇。

 

翼端で大気を切り裂き、白い雲を引きながら緩ひねりを加えて上昇する。

一郎「うむ、悪くない性能だ。気に入ったぞ! 

トカゲ!」

ユキカゼ『うぅ…もうダメかと思ったのじゃ…ちょっと漏らしてしまったのじゃ…』

一郎「汚ねぇなトカゲ!」

ユキカゼ『うるさいうるさい! 

もうホント! 

なんなのじゃオマエは! 

どこぞの国の

竜騎兵か!?』

 

こうして俺は、滑油漏れ(?)を起こした愛竜の機嫌を騙し騙し飛び続け、近隣の町「オ

ネストダルド」へと舞い降りた。

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   ■オネダル都市部

ユキカゼ「…ここが誠実なる者が住む町、オネダルじゃ…」

一郎「そうか。軍で学んだヒリッピンとは、また随分と違う印象だ。やはり聞くと見ると

ではこれほどまでに知識の差が開くものか」

ユキカゼ「じゃから、ここはヒリッピンではないと言っておろうが」

一郎「だったら海軍基地はどこにあるんだ?」

ユキカゼ「知らんわ! 

とにかくこの町であれば、どの国の者であっても分け隔てなく中

立に対応して…」

一郎「おい見ろ! 

トカゲ人間が歩いてるぞ! 

この町はどうなっている!?」

ユキカゼ「…オマエは私の話を聞いておるのか…?」

一郎「とりあえず水だ。ついでに腹も減った。メシ屋はどこだ?」

ユキカゼ「おい…」

一郎「あの店、酒の看板が出ているな。酒があるのならメシもあるだろう」

ユキカゼ「おいって、メシはいいが、金は持っておるのか?」

一郎「そうか、死ぬ気で飛び出してきたから、金も軍票もおいてきてしまったな…」

一郎「まぁいい、時計と物々交換だ。それがダメなら皿洗いでもするさ」

ユキカゼ「おい待たんか!」

 

人間たるもの、生きていれば、どんな状況にあろうとも腹は減る。

 

トカゲ人間が闊歩し、耳や鼻の尖った連中がウジャウジャと居るような世界であろうと、

腹が減るということは、俺はまだ生きているということなのだろう。

 

ここが何処で、俺が今どんな状況にあろうとも、まずはメシだ。

 

メシさえ食えば、この先どんなに凄惨な出来事が待ち受けていようとも、まぁ、そうい

う物かと納得も出来る。嘆きを抱えたまま散るような惨めを回避出来る。

 

それが若さゆえの単純であるとはわかっていても、受け入れるしかない状況とは往々に

して間近にあるものだ。

              

一郎「…絵を見ながら適当に注文したが、国が違えば食い物の文化もここまで違うのか…

これは肉か?」

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21 銀色の翼 20

ユキカゼ「それは食用ヌーミンのクワッツ・ハポーナじゃ…」

一郎「ヌーミンとはなんだ?」

ユキカゼ「メニューに絵が描いてあるじゃろう? 

それがヌーミンじゃ」

一郎「…二足歩行の河馬…か? 

およそ人の食い物とは思えない容姿だが…ヒリッピンで

は日常的に食うものなのか?」

ユキカゼ「じゃから、ここはヒリッピンではないと何度言わせる気じゃ?」

一郎「ここが何処であろうと、俺は国へ帰らねばならん。その為にも、まずはメシだ」

ユキカゼ「金もない迷子が、どうやって帰るつもりじゃ?」

一郎「それを、メシを食いながら考えるんだ。腹が減っていると答えを焦るばかりで上手

く考えがまとまらん。上空での6割頭、空腹での3割頭と言ってだな…」

一郎「…というか、貴様、何故俺についてくる?」

ユキカゼ「金も持たずにヒョイヒョイと店に入るからだろうが!」

一郎「砂漠で拾った見知らぬ男のことなど捨て置けばいいだろうが」

一郎「む? 

そうか、砂漠で拾われた礼をまだしていなかったな。だが時計を渡してしま

えば、ここの払いに困る」

一郎「他には軍刀ぐらいしか渡せる物はないが、これは共に散ると誓った戦友の形見で俺

のお守りのような物だ、おいそれとくれてやる訳にもいかん」

一郎「おいトカゲ、紙に名前と住所を書け、俺が国へ戻ったら海軍経由で謝礼を届けさせる」

ユキカゼ「謝礼など要らぬわ。私を誰じゃと思うておる」

一郎「むっ!? 

このヌーミン、この見た目でなかなかイケるじゃないか!」

ユキカゼ「この私をガン無視か。目の前のヌーミンに夢中か。そうか」

一郎「美味いぞ。オマエも食え。遠慮するな」

ユキカゼ「遠慮すべきはオマエの方ではないのか? 

まぁよい、ここの払いは私が持つ。

おい給仕! 

料理の追加じゃ! 

同じものを10人前じゃ!」

一郎「おいおい、頼み過ぎだろう。食い切れるのか? 

そもそもオマエ、金は持っている

のか?」

ユキカゼ「当り前じゃ! 

見よこの銭袋を!」

ユキカゼ「これだけあれば、この店ごと買い取れるわい!」

一郎「金を振りかざすな、嫌な女だと思われるぞ。それと、メシをたかるつもりもない。

オマエにはコイツをやる」

ユキカゼ「…なんじゃ? 

これは」

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23 銀色の翼 22

一郎「腕時計を知らんのか」

ユキカゼ「初見じゃ。フム、腕輪の類か? 

なにやら動いておるのう」

一郎「短い針が時間、長い針が分、細長い針が秒を表している」

ユキカゼ「面白いのう。我が城にも時計はあるが、このように小さな物を見たのは初めて

じゃ。魔力で動いておるのか?」

一郎「魔力…? 

普通の手巻きだ、日に一度、ネジを巻いてやる必要がある」

ユキカゼ「…ほぅほぅ、こうか?」

一郎「あまりキツく巻くな。適度に日に何度か巻いてやる方が機械の持ちがいい」

ユキカゼ「フム、気に入ったぞ、人の子よ」

一郎「だろうな。腕時計を欲しがるヒリッピン人の話は先輩から聞いていた通りだ」

ユキカゼ「しつこいのぅ、ここはヒリッピンでもなければ、私もヒリッピン人ではないと、

何度も言っているであろうに」

一郎「だったらここは何処なんだ? 

略図だが航空路図がある、地図上で現在位置を示し

てくれ」

ユキカゼ「…なんじゃこれは?」

一郎「比島周辺の航空路図だ。俺の記憶が確かなら、俺の機が敵空母に体当たりしたのが、

大体このあたりのはずなんだが…」

ユキカゼ「なんじゃこの地図は?」

一郎「オマエから見て、上が北だ。ここがミンダナオ島、ルソン島。こっちがガダルカナ

ル島。ニューニギア島、ブーゲンビル島…」

ユキカゼ「待て待て、地図の見方がわからんわけではない。これは何処の地図じゃと聞い

ておるのじゃ。私の持っている地図とはあまりにも違う。これを見よ」

一郎「なんだ…これは?」

ユキカゼ「現在位置はここ、フィルバンクス地方のオネストダルド。オマエを拾った砂漠

はここから東のレナス地方、ドムトレット砂漠じゃ」

一郎「おい…待て、なんだこの地図…」

 

全く見たことのない地図に、全く知らない地名、それどころか、まったく大陸の形が違う。

一郎「何処なんだ…ここは?」

ユキカゼ「逆に問うが、オマエはどこから来たのじゃ?」

一郎「日本から…来た…」

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25 銀色の翼 24

ユキカゼ「聞いたこともないな。この地図では、大体どのあたりになるのじゃ?」

一郎「わからん…俺の地図と照らし合わせれば、この辺に日本列島があるはずなんだが…」

ユキカゼ「…ないのう、そんな島は…」

一郎「どういうことだ…? 

この国にはまともな地図がないのか…?」

ユキカゼ「なにを言うか、この国ではこの地図が最も正確じゃし、もう何百年も地形も変

わっておらん。おかしいのはオマエの地図の方じゃ」

一郎「ならアメリカは何処だ…? 

イギリスは? 

フランスは? 

ドイツは…?」

ユキカゼ「知らん! 

そんな地名はどこにも存在せん!」

一郎「なん…だって?」

ユキカゼ「オマエはまさか、異世界から来たなどという世迷言を…」

**『…検閲であるっ!! 

全員その場を動くな! 

立ち去る者あらば逃亡とみなし射殺す

るっ!』

ユキカゼ「…ぬ…マズイ…」

一郎「ん? 

おい、どうしたトカゲ? 

なぜ隠れる?」

**

『この付近に! 

銀翼の翼竜が舞い降りたとの目撃情報があった! 

誰か他に、同翼

竜を目撃した者はおらんか!』

**

『目撃した者は正直に名乗り出ろ! 

有用な目撃情報の提供者には、ヴィスラ公国軍

より3万ギームの褒賞を与える!』

**

『…情報提供だけで3万かよ…結構デカいな…』

**

『それだけ大物ってことじゃないのか?』

**

『おい、誰か見た奴いないのか?』

一郎「…なんだかザワついてやがるな…何かあったのか?」

ユキカゼ「…マズイ…マズイマズイマズイマズイ…マズイのじゃ…」

一郎「どうした。物凄く脂っこい汗をかいているな。なんなんだ? 

あいつ等は」

ユキカゼ「あ奴らはヴィスラ公国軍の憲兵じゃ…」

一郎「憲兵だと? 

フン、どこの国でも憲兵って奴は、いけ好かない顔をしてる奴がやる

仕事なんだな」

ユキカゼ「コラ…! 

あまり向うを見るでない…!」

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27 銀色の翼 26

一郎「何故だ? 

メシを食っているだけだ。なにも悪いことはしていない」

ユキカゼ「…うぐぅ…」

一郎「うぐぅじゃねぇ。オマエ、なにか縄を貰う様なことでもしたのか?」

 

俺も横須賀で班長をしていた身だ、こういう時、目をそらす奴が一番目立つということ

をよく知っている。

 

このトカゲ、何をやらかしやがった?

ユキカゼ「マズイ…こっちに来るのじゃ…」

憲兵少尉「おい! 

そこの貴様! 

もっと顔をよく見せろ!」

ユキカゼ「…ひゃ、ひゃい…」

憲兵少尉「…む…?」

ユキカゼ「………………………」

憲兵少尉「…むむむむっっ!?」

ユキカゼ「…あにょ…にゃにか…?」

一郎「いや、いくらなんでもそれで誤魔化すのは無理があるだろ」

憲兵少尉「…むむむ…よく見れば違う…のか?」

一郎「おいウソだろ? 

この国の軍隊には視力検査がないのか? 

それとも目を閉じたま

ま念力で物を見てるのか?」

ユキカゼ「やかましいっ! 

貴様は黙っておれっ!!」

一郎「そうかい。そいつぁ御免よう」

憲兵少尉「むむっ!! 

貴様! 

やはりアークジーン王国第一王女! 

ユキカゼ・ジーンブ

ラッドだな!?」

憲兵少尉「貴様にはヴィスラ公国政府に対する抵抗運動の扇動容疑で逮捕状が出ている!

 

大人しく縛につけ!」

ユキカゼ「…おのれっ!!」

一郎「なぜ俺を睨む?」

ユキカゼ「オマエのせいじゃろうが!!」

一郎「知らん! 

お尋ね者なら最初からそう言っておけ!」

ユキカゼ「…くっ…!」

憲兵少尉「竜に変身する気か!? 

やめておけ! 

店の中で変身すれば、この場にいる無関

係な民をも巻き込むぞ!」

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29 銀色の翼 28

憲兵少尉「善良なる国民までも争いに巻き込むのが貴様たちのやり方だというのかっ!?」

ユキカゼ「…うぐぐ…」

憲兵少尉「よぉし、このままこの者を捕縛しろ!」

憲兵伍長『…はっ!』

一郎「…おい憲兵様よ」

憲兵少尉「なんだ貴様は!? 

貴様もこの者の仲間か!?」

一郎「いや、俺はたまたま同じ席でメシを食っていただけだが、情報提供者には褒賞金が

出るという話だったな?」

憲兵少尉「…そうだが…」

一郎「ならば、ここでコイツとメシを食って、その身柄を足止めしていた俺にはいくら褒

賞金が出るんだ?」

ユキカゼ「おのれ貴様! 

私を金で売る気かっ!!」

一郎「先立つものは金だっ!」

ユキカゼ「思いっきり力強く言い切りおったっ!!」

憲兵少尉「貴様ぁ、ただ偶然居合わせただけの分際で褒賞金を要求するつもりか!」

一郎「俺が居なければコイツもさっさと他の場所に逃げていたはずだ、違うか?」

憲兵少尉「図々しい奴め! 

貴様も一緒に逮捕されたくなければ欲を抑えることだ!」

一郎「フン、ケチくさい軍だな。占領地で金をばらまかない軍は嫌われるぞ?」

憲兵少尉「余計な世話だ! 

構わん! 

さっさとその者を連行しろ!」

一郎「おい待てコラ。そいつを連れていかれると、ここの払いに窮することになる。俺に

報奨金を出すつもりがないなら、そいつは置いていけ」

憲兵少尉「…なにぃ…?」

一郎「なにぃじゃねぇんだよバーカ。そいつを連れていくなら金を出せ。金を出さないな

らそいつを置いていけ。単純な話だろうが」

憲兵少尉「なんなんだぁ貴様は? 

我々はヴィスラ公国陸軍の憲兵隊だぞ!」

一郎「だからなんだ。俺は帝国海軍の飛行隊だ。弱い者いじめばっかしてる腰抜け陸軍が

調子にのるな!」

憲兵少尉「貴様ぁっ!! 

貴様も逮捕するっ!!」

一郎「テメェ! 

丸腰相手に銃突きつけてんじゃねぇぞ! 

イラつくぜオマエ!!」

憲兵少尉「…ぐぉっ!?」

一郎「このヤロ! 

馬鹿タレ! 

誰にケンカ売ったのかわかってんだろなぁっ!?」

ユキカゼ「…お、おい…こら…なにをしておる…!」

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31 銀色の翼 30

一郎「見てわからんか!? 

コイツの方が襟の星が多い! 

まずは上官をぶっ飛ばすのが軍

人のケンカの基本だっ!!」

憲兵伍長「おのれ! 

レジスタンスめ! 

抵抗するか! 

射殺する!!」

  パン!

一郎「……ッッッ!!!」

一郎「危ねぇだろうがこのヤロウ!!」

憲兵伍長「…ぐあっ!!」

一郎「ふざけんじゃねぇぞ! 

軍人同士のケンカで銃持ちだすたぁどういう了見だ! 

メェの原隊じゃそんな真似許してんのかド阿呆め!!」

ユキカゼ「おいコラ! 

やめい! 

やめんか!」

一郎「あ゙ぁ゙っっ!?」

ユキカゼ「あ゙ぁ゙ではない。相手はもうノビておるではないか、その辺にしておくのじゃ…」

一郎「…フン…まぁいい」

一郎「女か酒代、どっちか置いてきゃぁ穏便に済んだものを…高くついたな。覚えておけ!

 

俺が帝国海軍の三森一郎二等飛行兵曹だ!」

ユキカゼ「ノビとる者を相手に、何を偉そうに名乗りを上げておるのじゃ…」

一郎「海軍相手にケンカを売る奴ぁ馬鹿だ。馬鹿に名乗ったところですぐに忘れちまう。

だから、ボコボコにブッ飛ばして悔しい思いをさせてから名乗る。それが海軍流だ」

ユキカゼ「…滅茶苦茶な奴じゃのう…」

一郎「人様に銃を向け、あまつさえ発砲までしたのだ、ならば殺されても文句は言えんの

が軍人だ。引き金に責任を乗せるとはそういうことだと俺は習った」

ユキカゼ「何者なのじゃオマエは?」

一郎「だから何度も言っているだろうが。帝国海軍、三森一郎二飛曹だ。日本の海軍の下

士官は世界一強いのだ」

ユキカゼ「よくわからんが、まぁよい。増援が来る前に、とっととこの場を去ぬるぞ」

一郎「何処へ行く?」

ユキカゼ「いいからついてまいれ」

ユキカゼ「おい店主よ! 

食事代じゃ! 

収めておくがよい!」

店主「これは…王国建国記念10万ギーム硬貨!? 

ですが、お釣りが…」

ユキカゼ「釣りはいらぬ。騒がせた詫びもある。ついでにそこでノビておる憲兵どもをど

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33 銀色の翼 32

こぞ遠くへ捨て置いてくれ、その駄賃じゃ」

店主「はいっ! 

ユキカゼ妃殿下」

ユキカゼ「よさぬか。私は王位を捨てた者じゃ…」

一郎「おいトカゲ、グズグズしてる時間はないんじゃないのか?」

ユキカゼ「わかっておる!」

ユキカゼ「…未だ私を妃殿下とあがめる者もあるというのに、この男にかかれば私も一匹

のトカゲか…なんとも嘆かわしい我が身よ…」

一郎「なにをブツブツ言っている?」

ユキカゼ「なんでもないのじゃ」

ユキカゼ「してオマエ、これからどのように身を振るつもりじゃ?」

一郎「俺は国へ帰るぞ」

ユキカゼ「じゃから、その方法を考えるためにメシを食うたのじゃろう? 

良い案は思い

ついたのか?」

一郎「まったく思いつかん。ここが俺の居た世界とはまるで違うということだけはハッキ

リした程度だ」

一郎「どういう仕組みかはわからんが、どうやら俺は、死んだ直後にこの世界へ飛ばされ

てきたらしい」

ユキカゼ「オマエ、死んだのか」

一郎「知らん。死んだことなど一度もなかったからな。死ねば皆こうなると言われてしま

えば、それを信じるしかなかろう」

一郎「しかし、ともすればおかしなこともある。死んだ者が皆ここへ来るのなら、俺の知

り合いがなぜ一人もいない? 

毎日のように俺の仲間が散っているはずなんだが…」

ユキカゼ「オマエは、何かをどこかで間違って、この世界へ飛ばされてきたのかも知れんな」

ユキカゼ「オマエのような異世界からの漂流者というのも、あり得ない話ではない」

一郎「どういうことだ?」

ユキカゼ「異世界から飛ばされてきたのはオマエが初めてではないということじゃ」

一郎「俺以外にも、居るということか。そいつに会えるか?」

ユキカゼ「それは無理じゃな。なにせ、その相手は600年以上前に異世界からやってき

たという伝説の存在じゃ。実在したという証拠も、今となっては希薄じゃしのぅ」

一郎「伝説…か。それは誰に聞けば詳しい話が聞ける?」

ユキカゼ「私が語って聞かせてやっても構わんが…」

一郎「それは遠慮しよう。お尋ね者と一緒にいると面倒が増える。詳しい奴を教えてくれ

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35 銀色の翼 34

ればそれでいい」

ユキカゼ「ハッキリと物を言う奴じゃのう…オマエがおらなんだら、私もこうはならなかっ

たということだけは理解せいよ?」

一郎「そういう責任のなすりつけ合いも面倒だと言っている。教えてくれれば、俺は今こ

の場でオマエの前から消える。それが一番お互いに面倒がない」

ユキカゼ「フム、確かにな。じゃが私が知る中で、その手の伝承に一番詳しいのは王室賢

者の一人じゃ」

一郎「王室賢者か…そいつはどこへ行けば会える?」

ユキカゼ「王室賢者なのじゃから、当然王都の城におる。会いたいと言ったところで簡単

に会える相手でもないのぅ」

一郎「そうか。まぁ、とにかく王都とやらに行ってみて、先のことはそこで考えるとしよう」

ユキカゼ「王都へ行くと言ってものぅ…王都はここから更に東へ行かねばならぬし、歩い

て行けば何日かかることやら」

一郎「他に手段がないのなら仕方がなかろう。時間をかけて移動しながら、もう一度冷静

に考えてみるのも悪くはないだろう。世話になったな、トカゲ」

ユキカゼ「まぁ、そう急くでない。王室賢者ならば、私が呼び寄せることも可能じゃ」

ユキカゼ「どうじゃ? 

王都から賢者を呼び寄せるまでの間、私の元に剣を預ける気はな

いか?」

一郎「お尋ね者の仲間になる気はない」

ユキカゼ「ヴィスラの憲兵をボコボコにしておいて今さら何を言うか。数日後にはオマエ

の手配書も出回ることになるじゃろう。もうオマエは私の仲間じゃと思われておるじゃろ

うのぅ」

一郎「仲間になるつもりもないが、砂漠で拾ってもらった上に飯を奢ってもらった恩もあ

るか…」

一郎「海軍の男は、受けた恩は倍返し、売られた喧嘩は10倍返しというしな…いいだろう、

恩返しの意味も含めて、世話になることにしよう」

ユキカゼ「よし! 

ならばついてまいれ!」

 

いよいよと、どうにもおかしなことになってきたが、他に寄る辺のあるでなし。

 

空でいかに勇猛であろうと、所詮は俺も地に降りればただの人。

 

一にヨーチン、二にラッパ、楽な連中だと蔑んではいても、そんな奴らが居なければ、

一人では戦うことも出来ないのだ。

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37 銀色の翼 36

 

まずは、軍に戻らなければならない。

 

その為の一歩を、今踏み出したのだと思うしかない。

              

  一

郎「…おいトカゲ、いったいどこまで連れていく気だ?」

ユキカゼ「オマエのせいで迂闊に翼を広げる訳にもいかなくなったのじゃろうが。多少歩

かされたぐらいで不平を申すな、男が下がるぞ?」

一郎「行先もわからず引き回される俺の身にもなれ」

ユキカゼ「そう心配するでない。もうじき我が軍勢�バラウール�のキャンプが見えてくる」

一郎「…キャンプ…拠点のことか?」

ユキカゼ「そうじゃ」

ユキカゼ「平和を愛し、ヴィスラ公国政府の侵略から弱き者を守る為に立ち上がった抵抗

者達の集まる拠点じゃ」

一郎「そう聞けば聞こえはいいが、要は反政府抵抗組織だろう」

ユキカゼ「そう言われると体裁は悪いが、単純に言ってしまえば、自分達の土地や財産を

守るために組織された自警団が�バラウール�なのじゃ」

ユキカゼ「小難しい理由などない、奪われたのなら奪い返す、奪いに来るなら追い返す。

自分たちの為ではなく、弱き者の為、延いてはこの世界の為にと立ち上がった者達じゃ」

一郎「お偉いさんが口だけで語る理想を現実に変えるつらい仕事だな、それは」

ユキカゼ「言ってくれるのぅ。じゃからこうして、私自らが翼を広げ、西へ東へと飛び回っ

ておるのではないか」

ユキカゼ「オマエを砂漠で拾ったのも、ヴィスラの侵略に窮する異種族に対して共闘を申

し入れに行った帰りのことじゃ」

一郎「ほぅ…」

ユキカゼ「見よ、夕餉の煙が立ち上っておろう。あそこが我々の拠点じゃ」

ユキカゼ「オマエのおかげで、すっかり帰りが遅くなってしもうたわ。リンシンは心配し

ておるじゃろうのぅ…それを思うと憂鬱じゃわい…」

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   ■バラウール拠点

リンシン「姫様っっ!!」

ユキカゼ「ぬわっ!?」

リンシン「姫様! 

あまりにもお帰りが遅いので気を揉みましたぞ! 

これ以上戻らぬよ

うであれば捜索を開始せんと部隊を編成しておるところでした!」

ユキカゼ「えぇい! 

それ以上顔を寄せるでない! 

唾液が飛ぶではないか!」

リンシン「しかし姫様! 

遅くなるのであれば一言ご連絡を頂きたいとあれほど…!」

ユキカゼ「オマエはいつも大げさなのじゃ、私ももう小竜ではないぞ?」

リンシン「私にしてみれば、姫様はいつまでも小竜であります。お城の庭で球遊びをした

日が昨日のことのようでありますぞ?」

ユキカゼ「爺の�この間�は若竜の�10年�じゃ。爺の時間感覚で物を語られても困る」

リンシン「…時に、そちらの若僧は?」

ユキカゼ「ウム、砂漠で拾うた。こやつ、中々使えるゆえ、私のそばに置く!」

リンシン「またそのように気軽にポンポンと生き物を拾いめさる! 

いつぞやも虎の子を

拾って自分で面倒を見ると言い出した結果、どうなったのかをお忘れか?」

ユキカゼ「虎の子と人の子では状況も違おう。こやつは私が面倒を見んでも勝手に生きる、

問題はなかろう」

リンシン「若僧! 

貴様、何者か!?」

一郎「…おい、また最初から説明するのか?」

 

一から説明してみろと言われたところで、俺自身、自分に何が起きたのかをまるで理解

していない。

ましてや相手の正体も不明ならば、自分の服していた作戦の内容を漏らす訳にもいかない。

ともなれば、話せる内容もかなり限定され、氏名、所属、兵籍番号の大三目の他には、話

せることなど殆どないのだ。

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   ■バラウール拠点(夜)

リンシン「…フム…して、貴様の言うコークーキとはなんぞや?」

一郎「だから、航空機ってのは、陸軍でいう飛行機のことだ。俺はその搭乗員…陸軍でい

う空中勤務者…敵国でいうパイロットって奴だ」

リンシン「いちいち陸軍に置き換えられてもわからん物はわからん。それで人が空を飛ぶ

というのか?」

ユキカゼ「我らの世界でいう飛竜のような物かのう? 

つまり竜騎兵じゃな?」

一郎「いや、航空機は生き物じゃない、機械だ。油と空気を燃やして空を飛ぶ」

リンシン「わからん。油を食する竜ということか?」

一郎「だから! 

生き物じゃねぇっつってんだろ! 

このトカゲ野郎!」

リンシン「なにをう!?」

一郎「なんだよう!!」

ユキカゼ「私の前でケンカはやめぬか! 

話が全く進まんではないか!」

リンシン「姫様! 

こ奴のあまりにも太々しい態度! 

自軍と離れ、単身となった者にし

ては度が過ぎますぞ! 

やはり公国の送り込んだ先兵に他なりますまい!」

ユキカゼ「フム…確かにのう。訳も分からず異世界に飛ばされてきたわりに、堂々とした

ものじゃ…」

一郎「下らん! 

こちとら一度は死んだ身だ、今更恐いものなどあるものかよ」

リンシン「…フン、無恐怖症という奴か。戦場で死にかけた兵士などによく見られる症状

ですな」

ユキカゼ「またおかしな肝の座り方をしたものよのう。これは日常生活に支障がある病気

なのか?」

リンシン「なに、戦場にあっては死にたがりも珍しくもない。2年もすれば勝手に治る病

気です」

ユキカゼ「そうなのか。フム…」

リンシン「して姫様。この者の処遇、どうされるおつもりか?」

ユキカゼ「それはもう申したであろう。私の手元に置く」

リンシン「理由を申されよ。時勢が時勢ゆえ、身元の知れぬ者を大した理由もなく手元に

置くなど、私めは賛同しかねますぞ」

ユキカゼ「理由は単純じゃ。武の腕が立つ。おまけに竜の扱いも手馴れておる。今は一人

でも多くの戦力が欲しい時じゃ、このまま捨てるには惜しい」

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リンシン「その程度の理由では…」

一郎「おい、勝手に話を進めるな。俺に選択の権利はないのか?」

ユキカゼ「どうせ行く当てもなかろう?」

一郎「俺は日本へ帰るぞ。ここへはその為の情報を集めに来ただけだ」

ユキカゼ「どうやって帰るつもりじゃ? 

貴様の国が何処にあるのかもわからぬというの

に。ましてやオマエは文無しじゃろうが。歩いて帰る気か?」

一郎「必要ならばそうする。10年かかろうが、20年かかろうが、俺は必ず日本へ帰る。帰

らねばならんのだ」

リンシン「姫様…国へ帰りたがる者を無理に引き止めるのもいかがなものかと…」

ユキカゼ「ではリンシンよ、この者の言う故郷、ニ・ポーンという国を知っておるか?」

リンシン「いえ、寡聞にして存じませぬが…」

ユキカゼ「当然じゃ、そのような国、この世界には存在せん」

ユキカゼ「じゃが、この者はそこから来たと申しておる。それに、これを見よ」

リンシン「…これは…?」

ユキカゼ「この者が所有していた物じゃが、驚くな? 

これは時計だそうじゃ」

リンシン「時計…? 

このように小さな物がでありますか…?」

ユキカゼ「事実、原理はわからぬが正確に動いておる。これは後でジーナにでも調べさせ

よう」

リンシン「うぅむ…」

ユキカゼ「ことによるとこ奴、異世界からの漂流者やも知れんぞ?」

リンシン「なんですと!? 

いや、あれはしかし…所詮は子供向けのおとぎ話でありまして、

噂話の域を出ない民間伝承でありますが…」

一郎「なんの話をしている?」

ユキカゼ「なんにせよじゃ、こ奴が私の懸念通りの者であったならば、簡単にハイ、サヨ

ウナラーという訳にはいかん」

ユキカゼ「どうじゃ? 

しばしの間…そうさのぅ、ニ・ポーンに帰る方法がわかるまでの

間でよい、私の元に剣を預けてみては」

リンシン「姫様! 

このような者を簡単に信用なさっては!」

ユキカゼ「しかしなぁ、勝手もわからぬ土地に放り出され、故郷に帰る方法もわからない、

挙句明日メシを食う金もないともなれば、あまりにも不憫じゃろうて」

ユキカゼ「元々、我らが国を飛び出したのも、このような不憫な者のためを思うてのこと

じゃ、違うか? 

リンシンよ」

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45 銀色の翼 44

リンシン「それは…確かに申される通りではありますが…」

リンシン「しかし、この者がヴィスラ公国の手の者である可能性もありまして、その疑い

が晴れぬ以上は、迂闊に手元に置くのは危険に過ぎますぞ!」

ユキカゼ「ならば、こやつは捕虜じゃ。その正体が判明するまでは、迂闊に開放する訳に

もゆかぬ。こうして隠れ家の場所も知られてしまったしのぅ」

リンシン「わかり申した。であれば、独房にでもブチ込んでおきましょう。宜しいな、姫様」

ユキカゼ「うむ、仕方あるまいて」

一郎「おいおい、ちょっと待て。黙って聞いてりゃ好き勝手に話を進めやがって! 

俺は

一刻も早く日本に帰るんだ!」

ユキカゼ「まだわからんのか? 

少なくとも、この世界にはオマエの故郷などありはせん

のじゃぞ?」

一郎「冗談じゃない…国には共に戦うと誓い合った仲間も、必ず守ると約束した人も残し

てきたんだ…俺には、戻って戦わなければならない義務があるんだ!」

ユキカゼ「心配するな。オマエのことを調べるついでに、故郷へ帰る方法も調べてやる。

大人しく従うのじゃ! 

リンシン! 

この者を牢へ!」

リンシン「御意…」

一郎「ぐっ! 

テメこのトカゲ野郎! 

加減ってものを知らねぇのか! 

痛てぇだろが!」

リンシン「武器は預からせてもらおう」

一郎「バッ…! 

ふざけるな! 

そいつは戦友の形見だ! 

返せっ!」

リンシン「取り上げはせん! 

貴様の身の潔白が証明されるまで預かるだけだ!」

一郎「だから俺は帝国海軍の二飛曹だと言っているだろうが! 

これ以上の身の保証が何

処にある!」

リンシン「知らん! 

話は独房で聞いてやる!」

一郎「痛ででっっ!! 

この馬鹿力め!!」

 

なにをどう間違えたというのか、一刻も早く帰らねばならぬこの身は今、石造りの独房

に放り込まれて既に数時間。

 

未だ、頭の混乱は収まらない。

 

敵地で不時着すれば、敵の手に落ちることもあろうとの覚悟はあったが、まさかこうも

数奇な体験をする羽目になるとは思ってもいなかった。

なんにせよ、ここが俺の居た世界とは違う世界だというあまりにも荒唐無稽な現実だけは

 

受け入れなければならないらしい。

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47 銀色の翼 46

   ■地下牢

 

生きて虜囚の辱めを受けるぐらいであればいっそ、と思わないこともないが、自決しよ

うにも形見の友刀は接収の憂き目を見たまま返却される様子もない。

 

このような受け入れがたい現実であっても、眼前にこうして泥臭いまでのトカゲ顔を突

き出されてしまえば、己が正気を疑う以前に溜息も出ようというものだ。

一郎「…帝国海軍所属、横志水三一六七八号、三森一郎二飛曹である。下士官である我が

身に相応しい処遇を望む…」

一郎「…何度同じことを言わせるつもりだ?」

リンシン「貴様が正直にありのままを口にするまでだ」

一郎「何度聞かれようと答えは変わらん!」

リンシン「ならば貴様が異世界から来たことを仮に認めよう…」

リンシン「では、どうやってこの世界へ来た!? 

なんの目的で我がアークジーンの姫様に

近づいた!」

一郎「知らんっ!!」

リンシン「知らんで済むと思っているのかっ!」

一郎「だから何度も説明しただろうが! 

俺は敵の空母に体当たりしたんだ! 

ところが

気が付いたら砂漠に不時着していた!」

一郎「何を言ってるのかわからねーとは思うが! 

俺にもわからん物はわからんのだ! 

バーカ!!」

リンシン「馬鹿とはっ!」

一郎「うるせぇっ! 

いちいち机をドンドン叩くんじゃねぇ! 

イライラするぜオマエ!」

リンシン「それは私のセリフだ! 

姫様の手前優しく接しておれば! 

調子に乗るなよ若

僧が!」

リンシン「退役したとはいえ、我もまた軍人! 

大佐であるぞ! 

それが貴様の国の士官

に対する態度か!」

一郎「うるせぇ! 

星の数なんざ関係あるか! 

男ならゲンコツで来い!」

リンシン「吼えたな若僧っ! 

その言葉! 

我に対する挑戦と受け取った! 

覚悟せい!」

一郎「くらえ! 

このトカゲ野郎!!」

リンシン「ぐぉっ!?」

リンリン「貴様ぁぁぁぁ!! 

貴様は今! 

私の逆鱗に触れたぞっ!!」

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49 銀色の翼 48

一郎「ッ…! 

くっ! 

っ痛ぇな! 

どんだけ固ってーんだよテメェ! 

真っ青なツラし

やがって薄気味悪りぃ!」

リンシン「青い鱗は貴族の証であるっ!! 

それを愚弄するか貴様!!」

一郎「トカゲの世界のことなんざ知るかボケェッ!!」

リンシン「おのれぇ! 

尻尾を踏むとは卑怯なり! 

それが騎士のすることか!」

一郎「テメーこそ爪を突き刺すんじゃねぇよ!! 

雑菌に感染して敗血症になるだろう

が!!」

リンシン「そこらの雑竜と一緒にするな! 

我こそは代々軍人の家計に生まれ、王家に仕

えて来たアルフォンゾ家の族竜なるぞ!」

一郎「知ったことかっ!!」

リンシン「ふんぬぐるっ!!」

ユキカゼ「リンシン…いい加減にせぬか、もう夜ぞ? 

うるそうて眠れぬではないか…

リンシン「姫様! 

またそのようなお召し物で!」

ユキカゼ「王族なれば臣民に見られて恥じる身体は持ち合わせてはおらん。気にするでな

い」

リンシン「しかし! 

かような者の前でそのお姿は…!」

ユキカゼ「イチローよ…貴様も馬鹿か? 

リンシンを相手に取っ組み合いをして勝てる訳

がなかろうに…」

一郎「うるせぇ! 

相手が誰だろうと売られたケンカは買うのが海軍だ! 

海軍が膝をつ

くということは、日本が膝をつくということだ! 

俺が負けなければ日本も負けん!」

ユキカゼ「なんとも強情よのう…かの世界にあっても軍人とは皆このように強情なものか

…」

ユキカゼ「とにかく離れい、男同士で何をイチャイチャしておるか」

リンシン「ぬぅ~~ン…いかな異世界分子とはいえ、この者の礼欠きには我慢の限度があ

りますぞ、姫様」

ユキカゼ「まぁよい。それよりも、なにか新しい話は聞けたのか?」

リンシン「いえ、これといって真新しい情報は何も…」

ユキカゼ「これだけ締め上げて何も吐かんということは、その者の言葉に偽りはなく、謀

もないということじゃろう。もうよい、牢から出してやれ」

リンシン「姫様! 

それはいくらなんでもお戯れが過ぎますぞ!」

ユキカゼ「まがりなりにも、帝国憲兵の手に落ちんとしていた私の身をこの者が救ったの

もまた事実じゃ、オマエはこの私に、恩人に対して不義理を返せと申すか」

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51 銀色の翼 50

リンシン「…それは…そかしそれこそが公国の刺客としての猿芝居である可能性も…!」

ユキカゼ「こうして何時間も鼻を突き合わせて話しておって、まだこの者の性格がわから

ぬのか?」

ユキカゼ「この男は、逼迫の最中にあっても見知らぬ者の施しは受けぬと跳ね除ける気概

と、受けた恩は必ず返すという義理に堅い男じゃ、我が国の軍に、かような男が何人おる?」

リンシン「ぬぅ…」

ユキカゼ「ぬぅではない。確かにいささか、身分をわきまえぬ上からの目線と物言いは気

にかかるが、苦しい修練を耐え抜き、己の戦力にそれなりの自信を持った下士官というの

は、そういう物であろう?」

リンシン「確かに…同じ軍人として、感じる臭いのような物はあり申すが…」

ユキカゼ「少しは己が嗅覚という物を信じてみてはどうじゃ?」

リンシン「しかし…」

ユキカゼ「まぁ、確かに問題はある。この者の正体しかり、また、我らの国の状況も説明

せぬまま仲間に引き入れるも無理があろう」

リンシン「でしたら…!」

ユキカゼ「それを今ここでする必要もあるまい。なに、心配は要らん、本国よりジーナを

召喚しておいた、明日になれば到着するじゃろう。その時に詳しい話をすればよい」

一郎「また勝手に俺のわからない話を進めやがって…」

ユキカゼ「明日、我が国から王室賢者が来る、その者と話せ。さすれば不明の状況もいく

らか緩和されよう」

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53 急襲、ゾンビ兵 52

  「急襲、ゾンビ兵」

   ■地下牢

  「キャー」

リンシン「姫様っ!!」

ユキカゼ「今の悲鳴は…」

兵士「リンシン様! 

ヴィスラ公国軍の急襲です!!」

リンシン「なにっ!?」

兵士「近隣を徘徊していたと思われるヴィスラ公国軍のゾンビ兵団にキャンプが取り囲ま

れました!!」

リンシン「なぜもっと早く気が付かなかったのか!」

兵士「我が軍の搬入物資に紛れて先兵が浸透していたようです! 

輜重隊の兵士と、随伴

していた糧食給仕班が襲われました!」

リンシン「おのれっ!! 

第一小隊を回せ! 

ここへは一兵たりとも敵を近づけさせるな!」

兵士「第一小隊は東部方面の前線よりまだ戻っておりません!」

リンシン「敵の数は!?」

兵士「推定50! 

増えている様子はありません!」

リンシン「承知っ! 

なれば私自らが出るっ! 

短時間にて殲滅せしめん!」

ユキカゼ「リンシン!」

リンシン「姫様はこちらの建物をお出になられぬよう! 

リンシン・アルフォンゾ! 

して参るっ!」

ユキカゼ「気をつけよ! 

リンシン!」

リンシン「御意っ!」

一郎「…敵襲か?」

ユキカゼ「そのようじゃのぅ」

一郎「おいトカゲ、俺も出るぞ、俺の軍刀を返せ」

ユキカゼ「む? 

なにゆえじゃ?」

一郎「俺に丸腰で戦えと言うのか? 

いいから返せ」

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55 急襲、ゾンビ兵 54

ユキカゼ「そうではない。なにゆえオマエが闘う必要がある」

一郎「オマエは何もわかっちゃいないな、民が危機に瀕している時、戦うことが出来ない

軍人がどれほどの無念か」

ユキカゼ「ここはオマエの国ではないし、オマエは我が国の軍人という訳でもない」

一郎「それこそ関係ない。侵略を企む敵が居て、戦闘には直接関係ない飯炊き班にまで被

害が出ているのだろう?」

一郎「俺も一時なれど身を預け、ここの釜のメシを食う立場なれば、飯炊きを殺されては

かなわん。軍刀を返せ」

ユキカゼ「…良かろう。好きにせい」

  ダダッ! ダダッ!

リンシン「ぬぉぉぉぉおぉぉおぉぉぉぉぉおっっ!!」

  ブゥンッ!!

リンシン「ヌゥンッ!!」

  ドゴッ!!

ゾンビ兵『クケェェェェェェ!!』

  シュパー

リンシン「…えぇい! 

まだおるかッッ!! 

次から次へと!!」

  ドゴッ!!

ゾンビ兵『ンホォォォ~イグゥゥゥゥ~~』

  ドゴッ!!

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57 急襲、ゾンビ兵 56

ゾンビ兵『ラメェェェェェェェ~~』

  シュパー

一郎「おう、リンシンのオッサン。ちぃと油断し過ぎじゃねぇのか?」

リンシン「若僧! 

その得物はどうした!?」

一郎「これだけ敵の数が多いと素手ゴロはしんどかろう。トカゲの姫様に返してもらった」

リンシン「何をしに来た!」

一郎「だーからよ、敵の数が多過ぎだろ? 

このままじゃ関係ねぇ連中まで皆殺しにされ

ちまう。指くわえて見てられるか」

リンシン「ここは我らで十分である! 

貴様の手は借りん!」

一郎「言ってる場合かよ」

一郎「それに、こいつぁ俺にとっても降りかかる火の粉って奴だ」

一郎「ビスラだがバサラだか知らねぇが、俺にケンカ吹っかけてくるド阿呆には、身の程っ

てものを教育してやらなきゃならんだろうが」

リンシン「ガッハッハ! 

吼えよるわ! 

若僧が!」

一郎「勘違いすんじゃねぇぞ。テメーやトカゲ姫の為にやってんじゃねぇ。争いとは何の

関係もねぇ女や子供、銃後の民って奴の為にやってんだ。恩を着せるつもりもねぇ」

リンシン「フム! 

ならばよし! 

新手が来るぞ! 

若僧!」

一郎「わぁってらぁ!」

  ブワッ!

一郎「うぉぉぉぉぉぉっっ!!」

  ザシュッ!

リンシン「詰めが甘いわぃっ! 

若僧っ!!」

  ドゴッ!!

一郎「うるせぇっ!! 

見てろっ!!」

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59 急襲、ゾンビ兵 58

  ザシュッ!

リンシン「フンヌゥゥッッ!!!」

  ドゴッ!!

一郎「チッ! 

キリがねぇ! 

何なんだコイツら!? 

後から後からウジャウジャと!」

リンシン「ゾンビ兵だ!」

一郎「なんだか知らねぇが、コイツらには魂ってもんがねぇ!」

一郎「300メートル先の敵機を撃ち落したって、乗ってる奴に当たりゃあ魂が飛び散る

のを手応えで感じるってのに、コイツらはまるで、濡れ畳を切ってるのと代らねぇ!」

リンシン「当り前だ! 

こ奴らは既に一度死んだ兵だ! 

死んだ兵の亡骸を、呪術によっ

て動かしているに過ぎん!」

リンシン「天から垂れた呪術の糸で操られる人形を切ったところで、手応えなぞあるもの

かよ!」

一郎「…ケッ…トカゲ人間の次は動く死体かよ、俺もえらい世界に飛ばされたもんだな!」

一郎「まぁ、相手が死体だってんなら、遠慮はいらんという訳か!」

リンシン「フハハ! 

遠慮だと!? 

そんな言葉が貴様の辞書の何処に載っているというの

だ! 

笑止千万なり!」

一郎「おい! 

オッサン!!」

リンシン「ぬぅ!?」

オークゾンビ『コホォォォォォォ~』

一郎「コイツもその…ザンギって奴か?」

リンシン「ザンギではない、ゾンビである」

一郎「まぁ、どうでも良いんだけどよ………デカくねーか…?」

リンシン「そうさのぅ…恐らくは、オークのゾンビだろうて」

一郎「オークだがラワンだか知らねぇが、こいつぁ反則だろオイ。こいつ、アンタよりデ

カいじゃねぇかよオッサン」

リンシン「フン、臆したか? 

相手が誰だろうと、売られたケンカは買うのが貴様の海軍

なのだろう?」

一郎「おい、オッサン、いま何つった?」

リンシン「ぬ?」

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61 急襲、ゾンビ兵 60

一郎「ぬじゃねぇよ。今アンタ、海軍に対して�臆したか�って言ったか?」

リンシン「言ったがどうした」

一郎「そうかー…言っちまったかー…」

一郎「あのなオッサン、それを言われちまったら海軍はお終いだ。負けるとわかっていて

も一歩たりとも引く訳にはいかねぇ…」

リンシン「おい…待て若僧…!」

一郎「ぬぉあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

リンシン「馬鹿が! 

真正面から突っ込む奴があるか!!」

一郎「うるせぇっ! 

なにがオークだ! 

図体がデカいだけじゃねぇか!」

一郎「デカきゃ偉いってもんじゃねぇぞ! 

巨艦大砲の時代はとっくに終わったってこと

をよぉ! 

航空隊が教えてやる!!」

リンシン「若僧ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

   ■バラウール拠点

ユキカゼ「…で? 

馬鹿正直に真正面から突っ込んで、本当にブッ飛ばしてしまったと?」

リンシン「…御意…オークの顔面に飛び蹴りを食らわせたかと思えば剣を突き立てしがみ

つき、耳から手を突っ込んで奥歯を引っこ抜こうとしておりました」

ユキカゼ「その結果がコレか…」

リンシン「御意」

ユキカゼ「…ハァ…私も長年一国の妃殿下として高みから軍を眺めてきた身じゃが、これ

ほどの馬鹿を見たのは初めてじゃ」

一郎「うるせぇ! 

最後まで立っていたのは俺だ! 

勝ちは勝ちだ! 

ゲホッ! 

ハッ!!」

ユキカゼ「裂けた腹から腸をこぼしながら強がるでないわ、阿呆め」

一郎「…ぐぅッッ…」

ユキカゼ「これ! 

軍医はまだか! 

この者に治癒の呪術を施すのじゃ! 

急げぃ!」

イルザ「ハイハイ、そうギャーギャー喚きなさんなって。ドイツもコイツも好き勝手にポ

コジャカポコジャカ怪我してくれやがって、治す方の身にもなれっての! 

ったく」

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63 急襲、ゾンビ兵 62

ユキカゼ「おう、イルザか! 

早うこやつを治すのじゃ」

イルザ「ハイハイ、って…ありゃりゃ…人間かい? 

私ゃ竜族専門なんだけどねぇ…」

ユキカゼ「…治せん…のか…?」

イルザ「まぁ、手足が4本で目玉が2つの生き物ならなんだって同じだろ。やってはみる

がね…」

一郎「…蝶々トンボも鳥のうちみたいな言い方すんな! 

グフッ…!!」

イルザ

「そうやって憎まれ口叩けている内は大丈夫だ、死にゃぁしない」

イルザ

「…つか、アンタまぁ~随分とボロボロだね! 

よく生きてるもんだ。人間てのも

案外としぶといね!」

ユキカゼ「感心しておらんで、さっさと治さんか!」

イルザ

「あいよ…そんじゃ、痛かったら言うんだよ? 

ホレ♪」

一郎「…ンン…グッッッ…!!!」

イルザ

「ほぉ? 

耐えるじゃないか。ホレ♪ 

ホレッ♪」

一郎「…………ッッッ!!!」

イルザ

「ギャーギャー叫ばれてもかなわんが、普通に耐えられてもつまらんなぁ…オマエ、

名前は?」

一郎「…ミモリッ…! 

イチ…ローッッ…!!」

イルザ

「ミモリ、オマエはつまらん」

ユキカゼ「のぅ、イチローよ…オマエ、命が惜しくはないのか?」

一郎「…ッッッ!!」

一郎「軍人の命は国民の物だ。己が命と引き換えに、一人でも多くの民の平和を、一分で

も長く残すのが仕事だ…」

ユキカゼ「確かに。じゃが、それはあくまでも建前じゃ、軍人とて国民であり人じゃ、命

の価値は変わらんじゃろうに…」

一郎「…本音と建前を区別する余裕がある内はそれでも良かろうが…フン…平和な国だな、

ここは…まるで天国だ…」

ユキカゼ「おい…イチロー…?」

一郎「俺の国には…本音を口にする余裕など…もう…ありはしなかった…」

ユキカゼ「おい! 

しっかりせい! 

イチロー!! 

イルザ! 

どうなっておる!?」

イルザ

「気を失っただけだけだよ。内臓の位置を戻して傷口は癒着させた、魔法の相性も

いい、すぐに治るさ。はい! 

次の患者!」

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65 急襲、ゾンビ兵 64

……

…………

………………

 

幼いころに火事で両親を亡くした俺は、親戚中をたらいまわしにされて、何処へ行って

も厄介者だった。

 

ガキの頃からケンカばかりで、不器用にしか生きられなかった俺のことを、周りの大人

からは、どうせろくな人間にはならないと言われ続けた。

 

それは自分でもよく分かっている、きっと俺はろくな大人にはならないだろうし、どう

せろくな死に方はしないだろう。

 

何故だかわからないが、もっとずっと幼いころから、それだけは、予感めいたものがあっ

た。

 

鳥のようにもっと自由に、もっと上手く生きてみたかった。

 

田に足を漬けながら見上げた空には、戦闘機が飛んでいた。

 

鳥のように自由に見えたそれに、俺は強く惹かれ、憧れた。

 

いつか、あれに乗ろう。あれはきっと、素晴らしい物だ。

 

あれが戦争の道具だということも、なにもわかっていない子供だった俺は、あれに乗れ

ば、ろくでもない人間から�何か�に変われるものだと信じていた。

 

やがて海軍少年航空兵の募集の張り紙に目をとめた俺は、憧れだけを胸に猛勉強を重ね、

厄介者を追い出さんとする親戚の後押しも相乗し、海軍の門をくぐった。

 

その結果、俺の青春は戦争に食われた。

 

それが正義だとは思わないし、正しかったのか、間違っていたのかもわからない。

 

ただ目の前に戦争があって、戦わなければ生きていけなかっただけのことだ。

 

けれど、太陽が毎日沈むように、戦争もいつかは終わる。

 

生まれて来たタイミングが悪かったとは思わないし、戦争のことなんて本当はよくわ

かってなんかいないけれど。

 

それでもこの戦争は、次の子供たちには残してはいけないことだけは、よくわかった。

大人ではなく、軍人になってしまった俺に、次の子供たちへ残せる物があるのなら、それ

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67 急襲、ゾンビ兵 66

はきっと平和くらいだ。

 

だから、負けてはいかんのだ。

 

死んでも、負けてはいかんのだ。

 

………………

 

…………

 

……

ユキカゼ「…? 

なんの音じゃ…?」

リンシン「若僧の歯ぎしりですな」

ユキカゼ「傷が痛むのかのう…?」

リンシン「昔の夢でも見ておるのでしょう。戦場で悔しい思いをした軍人と言うのは、歯

が欠けるほどの悪夢を毎晩見ますゆえ…」

ユキカゼ「そうか…」

リンシン「…面白い男です」

ユキカゼ「フム? 

嫌っておったのではないのか?」

リンシン「立場上、得体の知れない者を嫌うのが私の務めなれば…」

リンシン「しかし、軍人としては立派過ぎるほどに男が出来上がっております。おそらく

は、こ奴の国の軍隊とは、力はもとより心の鍛練に重きを置いたのでしょうな」

リンシン「軍人とはかくあるべき…とでも言いましょうか、そういった訓示を骨の髄まで

叩き込まれておる様子です…むしろ、それ以外の全てを捨てているようにも見えまする」

リンシン「それを立派であると称えることは容易いですが…裏を返せばこのような若僧に

国を背負わせる非道にも思えまする…若者の純粋を利用しているとは思いたくないもので

すな」

ユキカゼ「戦争とは…そういうものじゃ…」

ユキカゼ「国の代表が公国に反旗を翻せば、多くの国民を犠牲にしてしまう…それを嫌う

が故に、私は王国を飛び出し、反公国同盟�バラウール�を立ち上げたのじゃ」

リンシン「このリンシンめもまた同じ思いが故に、姫様について参った次第なれば…」

ユキカゼ「わかっておる…」

リンシン「ともあれ、犠牲になった兵達を弔わねばなりませんな…ゾンビ兵に噛まれた兵

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69 王室賢者ジーナ・ナゴット、来る 68

は、亡骸を焼いて荼毘に付さなねばゾンビ兵になり、いずれ我らの敵になります…」

ユキカゼ「イチローは噛まれておらぬのか?」

リンシン「幸いなことに」

ユキカゼ「そうか…」

リンシン「この者をどうされるおつもりですか?」

ユキカゼ「わからん」

ユキカゼ「わからんが、この者が国へ帰る方法を探してやろうとは思うておる」

リンシン「しかし、この者が真に異世界漂流者であった場合、我々にはどうすることも…」

ユキカゼ「じゃが、私達の戦争にこれ以上巻き込む訳にもいくまいて…」

ユキカゼ「明日になれば、王都より呼び寄せたジーナ・ナゴットも到着するであろう」

ユキカゼ「先のことを講じるにしろ、ジーナが到着してからの話じゃ」

リンシン「御意…」

  「王室賢者ジーナ・ナゴット、来る」

ジーナ

「…急な召喚命令の連絡を受けたのが、昨日の夜中…」

ジーナ

「朝になるのも待たずにお城を出て、深夜発の寝台特急に飛び乗って…」

ジーナ

「ストークス・クリークからは蟲車に乗り換えて、朝からお昼までずーっと揺られっ

ぱなし、まだ地面が揺れてる気がするッス!」

ユキカゼ「面倒をかけていることはわかっておる…」

ジーナ

「だーから言ったじゃないっスか。必ず私が必要になる時が来るって。最初から私

も連れてくればこんな面倒なことにはならなかったんスよ?」

ユキカゼ「わかってはおるが、我々はレジスタンスなのじゃぞ? 

関わらないで済むのな

ら、それに越したことはないじゃろう」

ジーナ

「水臭いっすねぇ、私だって曽祖父の代からお城に仕えてきた賢者の一族なんスか

ら、お姫ぃさまが立ち上がるのなら共にってのが、義理とか人情ってもんじゃないんス

か?」

ユキカゼ「わかっておる!」

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71 王室賢者ジーナ・ナゴット、来る 70

ジーナ

「で? 

用件はなんなんスか? 

この王室賢者ジーナ・ナゴットをわざわざ呼びつ

けた用件は?」

ユキカゼ「伝令からは何も聞いておらぬのか? 

異世界漂流者の件じゃ」

ジーナ「…あれって、敵をかく乱させるための偽情報か、異世界漂流者の件となれば、私

が理由も聞かずにすっ飛んでくると踏んでの釣り餌だったんじゃないんスか?」

ユキカゼ「いや、ガチじゃ」

ユキカゼ「…というか、まだよくわからん。わからんからオマエを呼んだのじゃ」

ジーナ

「まーた�騙り�じゃないんスか? 

長いこと異世界漂流者の研究なんてものをして

ると、そういったヤカラに会うのも一人や二人じゃなかったッスよ?」

ユキカゼ「それを見極めるのが貴様の仕事じゃろうが」

ジーナ

「まぁ、なんにせよ、このジーナ・ナゴットにお任せっスよ!」

ジーナ

「で? 

その漂流者様はどちらに?」

ユキカゼ「こっちじゃ、ついてまいれ」

   ■地下牢

一郎「フンヌッ! 

フンヌッ!!」

ユキカゼ「イチロー! 

オマエ何をしておるか!!」

一郎「む? 

見てわからんか? 

筋肉の鍛練だ」

ユキカゼ「阿呆か! 

怪我も治りきらんうちから何をしておるのじゃ!」

一郎「航空機乗りの基本は体力だ! 

線引きの操縦桿を自在に操る腕力! 

そして上下左

右に振られる操縦席の中で身体を支えるのは強靭な下半身だ!」

ユキカゼ「お、おう、ちょっと何を言っておるのかよくわからんが、とにかく安静にせよ」

一郎「傷はもう塞がった。まだ違和感があるが、この違和感は簡単には消えんだろう」

一郎「ならば、違和感を感じなくなるまでこき使う! 

この違和感が当たり前になるまで

イジメ倒す! 

それが…!」

ユキカゼ「海軍流か?」

一郎「いかにもっ!」

ユキカゼ「……ジーナよ、紹介しよう、こ奴が先刻話した海軍馬鹿じゃ」

一郎「ウム、俺が海軍馬鹿の三森一郎だ!」

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73 王室賢者ジーナ・ナゴット、来る 72

ユキカゼ「嫌味がまったく通じんのかオマエは…」

一郎「で? 

そっちの半分脱げてる奴は何だ?」

ジーナ 「私ッスか? 

私は王室賢者のジーナ・ナゴットっス」

一郎「……名護…?」

ジーナ

「いや、ナゴットっス。ジーナ・ナゴットっスよ」

一郎「難しい名だ。名護では駄目なのか?」

ジーナ

「じゃあもうナゴでいいッス…」

ジーナ

「という訳でお姫ぃさま、後は任せて欲しいッス」

ユキカゼ「む? 

私が立ち会ってはいかんのか?」

ジーナ

「こういうのは、1対1の方が話が進むんスよ。つー訳で、どっか行くっスよ、シッ

シッ」

ユキカゼ「無礼な。私は犬ではないぞ?」

 

専門家という奴は、どこの組織にもいる。

 

俺が海軍に入った時も、身体検査をする軍医官がいて、人相学や手相学、ついには骨相

なる聞いたこともない観相学に通ずる易学の専門家がいて、専攻機種の選定指針をゆだね

るようなこともあった。

 

この手の学者先生という連中は、こちらが質問の意図を理解していようといなかろうと、

矢継ぎ早に質問を投げかけてくる。

 

海軍では、その手の質問に対しては、回答が正しかろうと間違っていようと、間をおか

ずに即答するのが是とされる。

 

答えに迷い、何も答えられぬ奴は咄嗟の判断力に劣り、空では使い物にはならないと判

断されるからだ。

ジーナ「なーるほどー…因みに、イチローさんがこの世界へ来る時に乗っていたというコー

クーキっスけど、今はどこにあるッスか?」

一郎「正確な場所はわからん。おそらくは東の砂漠…俺がトカゲ姫に拾われた地点から、

歩いて2日以内の場所にあるはずだ」

ジーナ「フムフム…では後でお姫ぃさまに詳しいお話を聞いて、回収に向かわせましょう」

一郎「信じるのか?」

ジーナ「まぁ、まだ半信半疑っスけど、先ほど見せていただいたグントー? 

でしたっけ?

あれは少し驚いたっス」

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75 王室賢者ジーナ・ナゴット、来る 74

ジーナ「私たちの世界にも金属はあるッスけど、これほど硬くて靭性の高い金属は初めてっ

ス。出来れば少しお借りして調べてみたいっス!」

一郎「壊さないと約束するなら、貸してやってもいい」

ジーナ 「うーん、壊さないと成分分析とか難しいんスけど、まぁ、サンプルがあるとない

とでは全然違いますし…わかったッス、壊さないと約束するっス」

一郎「軍刀は軍人の魂だ。本来であれば他人に託すような真似はせんのだが、場合が場合

だ。くれぐれも気を付けてくれ」

ジーナ「いやー、それにしても、お話を聞いていると、知らないことがワラワラ出てきて

実に興味深いッス!」

ジーナ

「これまでにも何人か異世界漂流者と話はしたっスけど、大抵は会話中に破綻した

り、どこかで読んだ本の内容を自分の記憶として誤認しているとか、そんな感じばっかだっ

たっスから」

ジーナ

「後は、お話の通りにコークーキが見つかれば確定っス!」

ジーナ「興味は尽きないッス! 

熱なんていう質の悪いエネルギーから高効率で回転動力

を取り出すシステム! 

ハツドーキ! 

これはすごいッス!」

ジーナ

「この世界にも巨大な城門や運河の水門の開閉に使う蒸気機関はあるッスけど、そ

れよりも高温のコアから発生した余剰熱量はどうしてるんスかね?」

一郎「詳しくは知らん。というか、上手く説明が出来ん。力を取り出した後の余剰熱は排

気管から大気解放するついでに、機体表面の整流効果向上に利用している」

ジーナ「面白いッス!! 

ぜひ実物を見てみたいっス!!」

一郎「俺の話はもういいだろう。今度はこちらが質問する番だ」

一郎「聞いた話によると、俺以外にも異世界から来たという奴が居たそうだが?」

ジーナ「あー、はいはい、賢者マジーの話っスか」

一郎「賢者マジー…?」

ジーナ「もう600年も前の大戦当時の話だし、残された記録も大戦で大半が焼失してし

まったっスから、各地に残る伝承どまりで詳しい経緯や正確な記録が残っていないんスよ

ね…」

一郎「それでも構わん」

ジーナ「まぁ、話すと長いんで簡単に説明するッスけど、はるか昔、この世界を作った大

賢者が居たんスよ」

一郎「それがマジーか?」

ジーナ「いやいや、違うッス。マジーとは別の大賢者っす」

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77 王室賢者ジーナ・ナゴット、来る 76

一郎「ややこしいな…その大賢者とやらに名前はないのか?」

ジーナ「ないッス! 

大賢者様は大賢者様、この世に比類する者のない存在っス! 

だか

ら、名前が必要ないッス!」

ジーナ「まぁ、地方によっては大賢者様は二人居るって説もあって、アルティマナスとイ

ンティグラスって名前があったりするんスけど…」

ジーナ「イチローさんに耳慣れない名前が増えると益々ややこしくなるので、そういうの

はこの際無視して、最も基本的なお話で進めましょう」

一郎「そうしてくれ」

ジーナ「えーと、つまり、この世界を作った大賢者が居て、ある日、世界の進化を憂いだ

大賢者様が、この世界の進化の指針を指し示すべく、異世界より賢者マジーを召喚したっ

ス」

一郎「まて、よくわからん。この世を作った神のような奴が居て、そいつが何を憂いだっ

て?」

ジーナ「だから、進化っスよ。言い方は悪いッスけど、育ちの悪い我々にイライラしたっ

て事じゃないっスかね? 

で、異世界からの強制的なテコ入れっス!」

一郎「それがマジー?」

ジーナ「そっス!」

ジーナ

「賢者マジーのおかげで、色々な物が発展したっス。教育や流通、様々な発明、も

ちろん兵器もどんどん進化したッス…」

ジーナ「そしてその結果が、600年前の大戦争っス…急激に進化した世界は、それを受

け入れるだけの余裕がなかったんスね…」

ジーナ

「各種族間のいがみ合いの種を生み、破壊と混乱を尽くす結果となった賢者マジー

は、再び大賢者様の手によって、元の世界へ還されたと言われているっス」

一郎「つまり…」

ジーナ「イチローさんがどうやってこの世界にやって来たのかはわからないッスが、大賢

者様なら、イチローさんを元の世界に返すことが出来るかも知れないってことッス!」

一郎「そうか…」

ジーナ「そうかーって、あんま喜んでないッスね。帰る方法があるかも知れないんスよ?」

一郎「そうは言ってもな…相手がそんな訳の分からん伝説の存在ではどうにもならんだろ

う…」

ジーナ「伝説といっても、そうフワッとした物でもないッスよ? 

その大賢者様の末裔が、

今のアークジーンの王族だと言われてるッスから」

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79 王室賢者ジーナ・ナゴット、来る 78

一郎「と言われてもなぁ…確たる証拠もなかろう」

ジーナ「証拠って訳じゃないッスけど、ジーンブラッド…つまり王家の血族は寿命が長い

んスよ、大体800年ぐらい生きるッス」

一郎「普通のトカゲは短命なのか?」

ジーナ「そっスね、普通は200年も生きないッス」

一郎「約4倍か…」

ジーナ「王家の血族と結婚して血の契約…まぁ簡単に言っちゃうと、王家の血を物理的に

体内に取り入れる儀式なんスけど、それを受けると王家側から寿命を半分受け継ぐことに

なるッス」

ジーナ

「今いる王族の分家筋は、過去に王族から血を与えられた血族ッス」

ジーナ「かく言う私、ジーナ・ナゴットも、過去に王族から血を分け与えられたナゴット

家の一族っス」

一郎「ということは、オマエもトカゲに変身するのか?」

ジーナ

「いや、まぁ…出来なくはないッスけど…ちょっと…小っさいんスよね…」

一郎「どういうことだ?」

ジーナ

「王族の血を受け継いでいるとはいえ、ナゴット家は分家の分家、孫分家ッスから

…お姫ぃさまのような立派な竜にはなれないと…そういうことッス…」

ジーナ「だが! 

だがしかーーし! 

竜王の血に覚醒して竜変身出来るというだけでもエ

リートなんスよっ!?」

一郎「よくわからんが、トカゲ社会にも色々と格差や階級があるということか…」

ジーナ「まぁ、そういうことッス。私は12歳の頃に竜変化出来るようになったんスけど、

家族で大喜びしたっス」

一郎「竜族なら、誰もが竜になれるという訳じゃないのか…」

ジーナ「そうッスね、王族に生まれても竜変化出来ない者もいるッスから。そうなると、

もう結構悲惨ッス…」

一郎「そうか」

一郎「しかしそんなトカゲ話はどうでもいい。そのトカゲ族の先祖と言われる大賢者様と

やらはまだ生きてるのか? 

800年生きる竜族なら、まだ存命している可能性が…」

ジーナ「いやいや、生きているとか死んでいるとか、そういった物理的な存在ではないッ

ス、もはや概念的な存在になっているというか、概念生命体とでもいうべきッスかね?」

一郎「訳が分からん」

ジーナ「例えるなら神秘的な存在と言うか、もっと俗っぽく言えば霊的な存在ッス!」

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81 王室賢者ジーナ・ナゴット、来る 80

一郎「とにかく、そいつに会えば、帰る方法がわかるという訳だな? 

どうすれば会える?」

ジーナ「簡単じゃないッスよ? 

各地に点在する様々な種族の間に伝わる伝承を集めて

いって、調べるしかないッス!」

一郎「どうやって調べればいい。なにか文献があるのか?」

ジーナ「そんな物があるなら、私がとっくに調べてるッスよ」

ジーナ「各種族に伝わる大賢者の伝承は、言ってみれば宗教的シンボルっス。それを異種

族に伝えるということは、神を売り渡す行為っス」

ジーナ「ましてや、かつては土地や水なんかを巡って種族間紛争が絶えなかった時代を思

えば、とてもじゃないッスけど話し合いにすらならないッスよ」

一郎「積みじゃないか」

ジーナ「そう、積みッス」

ジーナ「でも、お姫ぃさまはまだ諦めてないみたいッスけどね」

一郎「トカゲ姫がか」

ジーナ「今、この世界を武力で牛耳ろうとしているのはヴィスラ公国ッス。その非道なや

り方は、イチローさんも昨夜経験したっスよね?」

一郎「あぁ」

ジーナ「ヴィスラ公国に恨みを持つ種族は多いッス。今ヴィスラ側についている国や種族

も、かつては公国に武力で制圧されて、敗国の徒として公国に組みしている連中ッス」

ジーナ「それに対してお姫ぃさまは、戦いに敗れ家族を奪われた種族、土地を奪われ流浪

を続ける種族、そういった者達を集めて、反乱軍を作ろうとしてるッス」

一郎「負けた国の敗残兵を集めたところで強国には勝てんぞ…?」

一郎「一度負けた国の兵士という奴は、守る物を既に敵に奪われてしまった連中だ、そう

いう連中は、またすぐに降参する」

ジーナ「まぁ、私もそう思うんスけど…お姫ぃさまもなかなか頑固でして…」

ジーナ「釘だけではなにも成せぬし、金槌だけでもなにも成せぬが、二つ組み合さば城が

立つ…と」

一郎「口で言うだけなら簡単だ」

ジーナ「簡単ではないことがわかっているから、お城を出たんッスよ、お姫ぃさまは」

一郎「理想を語るだけではなく自らが前線に立つという訳か。考え方自体は嫌いではない

が…」

ジーナ「城の者にしてみればいい迷惑ッス」

一郎「だろうな」

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83 王室賢者ジーナ・ナゴット、来る 82

ジーナ「兎にも角にも、お姫様の異種族間交渉が上手くいかなければ、各種族に伝わる大

賢者様の伝承を集めるのなんてのは、まぁ、無理ッスね」

一郎「全てはお姫様の交渉次第という訳か。なんとも面倒な話になって来たもんだ…」

 

国が違えば文化が違う。文化が違えば価値観も違う。価値観が違う者同士がわかり合う

のは実に難しい。

 

ましてや、同じ種族であっても争いが起きるのがこの世の性質なのだ、それが異種族と

もなれば、言葉が通じれば何とかなるといった簡単な話ではないのだろう。

 

むしろ、言葉が通じるが故に生じる異文化間の齟齬が争いの火種になるのは、戦史に学

ぶまでもなく子供でも知っている純然たる事実だ。

 

二者で話し合いが成立しない時は、第三者を挟むのがこの手の交渉の常套だろう。

となれば、俺がすべきことがおのずと見えてくる。

   ■ユキカゼの寝室

一郎「……という訳だ」

ユキカゼ「なにがという訳なのかはよくわからんが、とにかく犬族との交渉の席にオマエ

も同席したいということじゃな?」

一郎「そうだ」

一郎「俺という第3の存在が居ることで、2種族間の緩衝材になることもあるだろう」

ユキカゼ「う、うむ、用件は理解した」

ユキカゼ「…しかしイチローよ、それだけのことを言うために、このような時間に私の寝

所へやって来たのか?」

一郎「そうだが?」

ユキカゼ「…ノックもせずに、いきなり『入るぞ!』と叫んで侵入してきた理由がそれか?」

一郎「入る前にちゃんと名乗っただろうが」

ユキカゼ「わかった。交渉参加の件も含めて、諸々考えておくゆえ。今日はもう下がれ」

一郎「出来れば交渉相手の種族について、少し話を聞いておきたいのだが」

ユキカゼ「それは明日でもよかろう! 

とにかく出ていくのじゃ! 

私はいま裸ぞ!?」

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一郎「昨夜と同じ格好だろう。見られて恥じる身体ではないのではなかったのか?」

ユキカゼ「状況が違うと申しておるのじゃ! 『見せる』と『見られる』では全く違うで

あろうが! 

なぜそれがわからん!! 

とにかく出てゆくのじゃ!!」

一郎「あ、おい…」

一郎「……わからん……」

 

昨日はあれほど堂々としていたというのに、今日はそれを恥じる。

 

これが価値観の相違という奴の難しさだ。

                     『果つることなき未来ヨリ』本編へつづく。

果つることなき未来ヨリ ─序章─

フロントウイング発 行 2015年 5月25日 初版発行

発行者 山川竜一郎制 作 株式会社フロントウイング著 者 藤崎竜太/七央結日/かづや/桑島由一表 紙 渡辺明夫/フミオ/INO

装 丁 枝松たると印刷・製本 関西美術印刷株式会社

※本書内容を無断で複製・転写・放送・データ配信などをすることは、かたくお断りいたします。※本書は、PC ゲーム『果つることなき未来ヨリ』のオープニング部分のシナリオを、 文庫用に改変し、掲載したものです。実際の本編の内容と一部異なる箇所がございますので、 ご容赦下さい。※本書は PC ゲーム販売告知用の無料配布物のため、落丁・乱丁本があった場合でも交換には 応じかねます。

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