「保育者の協働性」に関する一考察 · 2017. 3. 3. ·...

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「保育者の協働性」に関する一考察 ~保育者論の講義を通して~ A Study on Collaborations of Teachers Through the lectures on Teacher’s Theory Hisashi YAMAMOTO キーワード:保育者の協働性、保育者養成教育、実習後の学生の学び 1.はじめに 本研究は短期大学の保育者養成課程で学ぶ学生 が、「保育者の協働性」について実習後どのよう なものとして考えているのかを検討することを目 的とする。 昨今、保育士不足・保育所不足・保育者の労働 条件等の保育に関する厳しい現状を示す言説は、 社会においてある程度「当たり前」のものとして 受け入れられているのではないだろうか。厚生労 働省は保育の置かれた厳しい現状を踏まえ「保育 分野の現状と取組について」を作成した。この中 で、子ども・子育て支援の一層の「量的拡充」と 「質の向上」が今後も必要であることを述べてい る。厚生労働省は様々な要因を示しているが、今 後の保育の充実のために、保育所の定員の増加、 保育分野における人材不足の改善と、それに伴う 多様なバックグラウンドを持つ保育人材を確保す る必要性を指摘している 1 長崎女子短期大学幼児教育学科で学ぶ学生は、 幼稚園、保育所等での実習を経て、2年次後期に 講義「保育者論」を受講する。約100名の学生は 実習現場で出会う様々な職種の人たちとの関わり を、少なからず経験し、実習園の指導者の立ち居 振る舞いの観察等を通じて学んできている。先に 述べたような保育所・保育人材の今後見込まれる 増加、多様な保育者との連携を想起すれば、保育 に関わる多様な人たちと、どのように仕事をして いくのかという問いの持つ意義は高まってきてい ると考えられる。 「保育者の協働性」に関しては、高橋ら(2014) による、保育所へのアンケート調査をもとにした 研究がある。高橋らは、保育に係るマニュアル等 を職員間で共有しているか、子どもの保育に関し てどのような情報共有の方法を取っているかとい う具体的な観点を示して調査した。その結果とし て、協働性についての職員間での意識の格差を指 摘している 2 。こうした意識の格差は実習後の学 生にも見られるのではないだろうか。学生たちは 一体実習で何を見てきたのか、そしてそこから何 を学んできたのか。「保育者の協働性」という言 葉から学生は何をイメージするのかを明らかにし、 保育者養成教育へと活かすため、「保育者の協働 性」に関して学生とともに考え、検討することと した。「保育者の協働性」に関する研究は少なく、 本研究が扱うような保育者養成課程で学ぶ学生の 意識に着目して語られることは、管見の限りこれ までの研究には見られない。 本研究を行うにあたり、学生とともに考える機 会を講義「保育者論」において設けた。筆者が担 当する講義「保育者論」では「保育者の協働性」 というテーマで1時間(90分)の講義を行ってい る。以下、講義において学生から出された意見、 長崎女子短期大学紀要 第41号 平成28年度〈2017.3〉 -122-

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Page 1: 「保育者の協働性」に関する一考察 · 2017. 3. 3. · の協働性」を考える上で、「協働性」という言葉 はどのような意味を持つ言葉かと学生に問いかけ

「保育者の協働性」に関する一考察~保育者論の講義を通して~

山 本 尚 史

A Study on Collaborations of TeachersThrough the lectures on Teacher’s Theory

Hisashi YAMAMOTO

キーワード:保育者の協働性、保育者養成教育、実習後の学生の学び

1.はじめに本研究は短期大学の保育者養成課程で学ぶ学生

が、「保育者の協働性」について実習後どのようなものとして考えているのかを検討することを目的とする。昨今、保育士不足・保育所不足・保育者の労働

条件等の保育に関する厳しい現状を示す言説は、社会においてある程度「当たり前」のものとして受け入れられているのではないだろうか。厚生労働省は保育の置かれた厳しい現状を踏まえ「保育分野の現状と取組について」を作成した。この中で、子ども・子育て支援の一層の「量的拡充」と「質の向上」が今後も必要であることを述べている。厚生労働省は様々な要因を示しているが、今後の保育の充実のために、保育所の定員の増加、保育分野における人材不足の改善と、それに伴う多様なバックグラウンドを持つ保育人材を確保する必要性を指摘している1。長崎女子短期大学幼児教育学科で学ぶ学生は、

幼稚園、保育所等での実習を経て、2年次後期に講義「保育者論」を受講する。約100名の学生は実習現場で出会う様々な職種の人たちとの関わりを、少なからず経験し、実習園の指導者の立ち居振る舞いの観察等を通じて学んできている。先に述べたような保育所・保育人材の今後見込まれる増加、多様な保育者との連携を想起すれば、保育

に関わる多様な人たちと、どのように仕事をしていくのかという問いの持つ意義は高まってきていると考えられる。「保育者の協働性」に関しては、高橋ら(2014)による、保育所へのアンケート調査をもとにした研究がある。高橋らは、保育に係るマニュアル等を職員間で共有しているか、子どもの保育に関してどのような情報共有の方法を取っているかという具体的な観点を示して調査した。その結果として、協働性についての職員間での意識の格差を指摘している2。こうした意識の格差は実習後の学生にも見られるのではないだろうか。学生たちは一体実習で何を見てきたのか、そしてそこから何を学んできたのか。「保育者の協働性」という言葉から学生は何をイメージするのかを明らかにし、保育者養成教育へと活かすため、「保育者の協働性」に関して学生とともに考え、検討することとした。「保育者の協働性」に関する研究は少なく、本研究が扱うような保育者養成課程で学ぶ学生の意識に着目して語られることは、管見の限りこれまでの研究には見られない。本研究を行うにあたり、学生とともに考える機会を講義「保育者論」において設けた。筆者が担当する講義「保育者論」では「保育者の協働性」というテーマで1時間(90分)の講義を行っている。以下、講義において学生から出された意見、

長崎女子短期大学紀要 第41号 平成28年度〈2017.3〉

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Page 2: 「保育者の協働性」に関する一考察 · 2017. 3. 3. · の協働性」を考える上で、「協働性」という言葉 はどのような意味を持つ言葉かと学生に問いかけ

記述内容をもとに、保育者養成課程で学ぶ学生が、実習を経て、どのように「保育者の協働性」について考えているのかを検討していきたい。

2.保育所保育指針・全国保育士会倫理綱領における保育者の協働性本章では保育所保育指針、全国保育士会倫理綱

領において「保育者の協働性」がどのように語られているのかを確認したい3。保育所保育指針においては「第7章 職員の資質向上」において協働が語られている。第7章は以下の言葉で始まる4。

第一章(総則)から前章(保護者に対する支援)までに示された事項を踏まえ、保育所は、質の高い保育を展開するため、絶えず、一人一人の職員についての資質向上及び職員全体の専門性の向上を図るよう努めなければならない。

「職員全体の専門性の向上」とあり、園に努める者全ての資質向上が述べられている。これを受けて「1 職員の資質向上に関する基本的事項」の(二)では以下のように「協働性」について述べられている(下線は筆者による)5。

保育所全体の保育の質の向上を図るため、職員一人一人が、保育実践や研修などを通じて保育の専門性などを高めるとともに、保育実践や保育の内容に関する職員の共通理解を図り、協働性を高めていくこと。

ここでは、それぞれの職員が保育の専門性を高めるための取り組みを行うことの必要性に加え、「職員の共通理解」を基礎として「協働性」を高めることで「質の高い保育」の展開に繋がることが期待されている。次に全国保育士会倫理綱領を確認したい。この

綱領には「協働性」という言葉は用いられていないが、「チームワークと自己評価」において以下のように述べられている6。

私たちは、職場におけるチームワークや、関係する他の専門機関との連携を大切にします。また、自らの行う保育について、常に子どもの視点に立って自己評価を行い、保育の質の向上を図ります

ここでは「チームワーク」や「連携」という言葉で、職場にとどまらず他の機関までを含めた幅広い関係性の構築が構想されている。保育所保育指針、全国保育士会倫理綱領の2つからは、保育現場の全ての職員が、保育の質向上のために共通理解を持ち、チームワークを構築していくことが目指されている。講義においても学生には上記2つの資料を配布し、記述内容の共有を行った。

3.実習の振り返りから提示された「保育者の協働性」本章では学生が実習の振り返りを行ったミニレポートの記述内容をもとに「保育者の協働性」を述べていきたい。「保育者の協働性」は第7回の講義で取り上げた。これに先立つ第6回の講義において「保育者の協働性」を考える上で、「協働性」という言葉はどのような意味を持つ言葉かと学生に問いかけたところ、多くの学生が「協力(的)」という言葉で答えた。この段階では「協働」=「協力」という関係でイメージされており、筆者は「協働性」を考える上で「協力(的)」という言葉を最初用いることとした。そのために実習を振り返り、思考を深めていくことを目的として「思い出せる範囲で、園の先生たちの協力的な姿・様子を教えてください」というミニレポートを課した。この課題に対して学生から得た記述のうち、一部を以下に示す。原則として原文に従っているが、明らかな誤字等については筆者で修正を行った。

学生A・「自分のクラスだけの子どもの様子を把握するのではなく、他のクラスの子どもの様子もきちんと把握し支え合っていた」

山 本 尚 史

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・「保育園では、他の保育園の子も入り一緒に消防局の話を聞いたりと、園同士の関わりも大切にして生活を送っていた」・「先生方の仲もとても良くて、子ども達の保育をするにあたって一人の子どものために沢山の先生が関わり、一生懸命考え、毎日終礼を行い担任の先生が反省を発表し、私も聞かせていただいた。それも協力的だと思う。一人一人の子どもを理解し、他の先生方の反省をきちんと聞き、受け止め、一緒になって考える事はとても大切である」

学生B・「気になる子や障がいを持った子の様子をしっかり見ており、毎日先生同士で話し合いをしていました。そこで今日の子ども達の姿を知り、お互いに情報交換を行うことで全てのクラスの先生が、子ども一人一人と関われるようにしていました」

学生C・「先生方の家庭の事情など、急に出勤できなくなった場合など、率先的に代わりの先生が誰か入ったりなど、先生同士の思いやりというか、協働性があった」・「おたより帳記入も、一人の担任の先生が書くのではなく、手分けして書いていた」・「朝から役割が分担されていて、朝礼もしっかり行い、連絡事項やクラスの様子、天気予報など、細かい情報共有があった」

学生D・「てつなぎなど、二人で分けて書いているのだが、一人の先生が他の業務でてつなぎを書くことができなかった時に、園長先生がそれに気づき、てつなぎを書いていた。手伝う際も優しい言葉で先生の事を気遣っておりとてもよかった」

学生E・「子どもが一日の中で怪我をしていたりしたら、終礼の時間に、何故そのような怪我がおきたのか、どうしたら防げていたのか、今後の対策まで話していて、保育者同士が連携しているから、今後同

じような事故が少なくなったりするのだと思いました」・「変わった様子の子どもがいたらクラスの先生だけでなく、園長先生をはじめ皆でその子どもと関わっていくようにしていて、協力的だなと感じました」

学生F・「学年によって行う行事が違い、遠足などに行く前に注意すべき所や誰が引率するかなど、担任以外の主任や園長はもちろん、バスの運転手など関わる全ての人に報告・連絡・相談を行い、協力する姿が見られました」

学生G・「給食の際にアレルギーを持つ子に対して保育者が栄養士と相談しながら職員とどう対処していけばいいかなど協力していた。園で決定した事を保護者に話して了承を得た上で援助をより良くしていた」

学生H・「園の先生が毎朝集まり、必ず本日の活動を報告→パートさんにも報告→全員に伝わるよう」

学生I・「担任ではなくても先生方全員が子ども達のことを把握していた。午睡の際にはリーダー会というのがあって、担当クラスの子どものちょっとした出来事などを話していた」

学生J・「少し元気のない子どもがいると、職員同士でどうしたのか、何かあったのか、家庭での問題など背景にあるものを探っていた」

学生K・「自分一人でできる仕事は後回しにし、他の先生の作業を手伝ったり、みんなで準備しなければいけないことを優先していました」

「保育者の協働性」に関する一考察

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学生L・「お互いに出来ない所を補い合いながら保育をしていた」

学生M・「一日のねらいなどを考える際にも、お互いのクラスの状況などを考えて決めていた」

学生N・「3、4、5歳児担当の先生方は、14時から反省会として主幹保育士の先生と一日の流れを振り返ります。その時に気になる子どもについて話をしたりして、他の先生にも伝えていた。そして保護者の方が来たら、担任の先生がいたら呼んでお話しをすることや、いない場合は他の先生から伝えていた」

学生O・「保育園は年齢層が幅広いため先輩保育者に若い保育者が相談したり、保育者同士で話し合い、意見交換をしっかりした上で保育活動に臨んだり、他の園へ研修へ行き、学んでいったりなど、保育に対する思いが強いと思いました」

学生は「保育者の協働性」を「園の先生たちの協力的な姿・様子」という問いで考えた。このミニレポートから得られた学生の記述には、保育者同士がお互いの保育への思いを受け止め合うことの大切さ、保育者間での思いやり・気遣い、保育者だけでなく園に関わる全ての職員との連携への気づき、保育を計画する上での保育者間で状況確認を行うこと、他の園との関係性の中での保育などが示されていた。実習の経験を踏まえて書かれた多様な観点からの「協力」の姿・様子は多様な「保育者の協働性」のあり方を語っている。このミニレポートの記述内容については、第7回の講義において学生に配布し、各自の考えた内容を共有することとした。

4.グループ活動で導いた「保育者の協働性」についての定義ミニレポートで得られたそれぞれの「保育者の協働性」についてのイメージと、保育所保育指針、全国保育士会倫理綱領の内容を踏まえ、筆者と学生は「長崎女子短期大学幼児教育学科2年が考える「保育者の協働性」」について考察を行った。考察において学生には、ミニレポートを返却し、グループで具体的な事例を出し合い、複数の事例に共通して見えてくるものを抽出してゆく方法を提示した。ミニレポートでそれぞれが書いた具体的事例がどのような共通性を持つのか、学生同士の話し合いを中心に進めた。学生はミニレポートの記述内容の多様性に関心を持ち、話し合いを行った。この取り組みの結果、以下のように「保育者の協働性」が提示された。( )内は学生が補足説明として記述したものである。原則として原文に従っているが、明らかな誤字等については筆者で修正を行った。

・チームワークの大切さ(職員全員が子ども一人一人を把握しておくことで、職員全体で子ども達をサポートすることができる)

・共通理解をはかることである(注意深く子どもを見ることで先生同士で情報を共有できるため、保護者への対応もスムーズに行える。保護者からの信頼を得ることにつながる)

・他を思いやる気持ちである(お互いが助け合っていい関係性をつくれる。子どもたちのいいお手本になれる。信頼関係ができあがる。チームワーク力があがる)

・職員同士の共通理解がある上で子どもの保育をすることである(スムーズに保育できる)

・一人一人の子どもに全員で関わること(子どもがたくさんの愛をもらえる。子どもが自分の気持ちをたくさんの場面で表現できるようになる。一人で悩まず相談し合える)

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・相手を思いやり、一緒に協力して活動する

・他の先生との連携、情報共有、保護者との連携につながる

・他を思いやる気持ち、観察力(子どもたちの見本となる保育者同士の信頼関係が築かれていたからこそ、子どもたちによりよい援助をすることができる)

・人を思いやることである(子どもや保護者・職員のことを考えて行動できる。また一緒に働く職員の人と協力し、頼り頼られる事で信頼関係が築ける)

・情報共有を行うことでチームワークが成り立っている(いろんな先生の保育を知ることで、園全体でよりよい保育ができる)

・先生同士が思いやりの関係性を築くこと

・他を思いやる気持ち、連携、報告・連絡・相談の徹底(保育活動を円滑に進めることができる。子どもの健康を守ることにつながる。職員同士が連携することにより、保育の質があがる)

・お互いに情報を共有し、園全体で子ども一人ひとりの保育を行うこと

・周りの先生と協力して情報を共有していくことである(働きやすい環境)

・人を思いやることで人間関係も円滑になり、仕事もはかどっていく(思いやりは相手の思いやりを生む)

・お互いが助け合いながら働くこと(新任の先生につながっていって、園全体にまわっていく)

・一人一人の子どもを大切に想い、ベストな保育ができるよう、保育者間で高め合いながら働く

こと

・園全体で子ども一人一人の情報共有をすること(一人の子どもに対して一つの保育のやり方ではなく、他の先生の保育のやり方を知ることによって、よりよい保育をすることが出来る)

学生によるグループの話し合いを経て、「保育者の協働性」が示された。ここから見えてくる特徴は、学生が考える「保育者の協働性」には「思いやり」という言葉が目立つことである。さらに「思いやり」が良好な人間関係につながり、チームワークの強化、そしてよい保育の実践へと結びつくことが意識されていることである。また、そのような関係性の中での保育は園全体によい影響を与えることまで考えられていることも特徴である。

5.おわりに学生は自身の実習経験をもとに「保育者の協働性」を考えた。本研究は「保育者の協働性」について、短期大学の保育者養成課程で学ぶ学生が、実習後どのようなものとして考えているのかを検討することを目的とした。そのために学生が実習を振り返り、「保育者の協働性」についてイメージするものを言葉にし、話し合いを行うことで、学生自身による「保育者の協働性」の定義を行った。これらを通して、学生は保育所保育指針や全国保育士会倫理綱領で語られる言葉ではなく、学生自身がイメージした言葉を元に、定義付けを行うことができた。多様な保育者の具体的な協力の姿・様子に共通していると思われるものは、学生にとっては「思いやり」や「共通理解」であった。これらを背景として「保育の質」の向上、そして「保育者間で高め合いながら」保育を行うことができるという視点を、学生が持っていることが分かった。「協力」という言葉で始まった思考は、学生が具体的な経験をもとに学び合いながら、「保育者の協働性」を多様な言葉で語ることとなった。これは実習で得た経験を糧として、それぞれの学生が保育

「保育者の協働性」に関する一考察

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者として保育を振り返った時に生まれたものである。学生が「保育者の協働性」をどのように語るの

か、という視点は、実習事後指導や保育教職実践演習の観点からは、実習を振り返り、設定されたテーマを自らの言葉で語ることである。近年、実習を経た学生の自己成長感をどのようにして高めていくのかは大きな関心を持って保育者養成教育で受け止められている7。第8回の保育者論の講義では、先に示したグループ活動で導いた「保育者の協働性」を全員で共有した。学生たちは他のグループの言葉を読み、自分たちの言葉で「保育者の協働性」というテーマを文字化し、語り得たという実感を得たのではないだろうか。このことは「保育者の協働性」を明らかにするということと同時に、実習での学びを実感するということにもつながったと考えている。今後も学生の実習での学びを共に振り返りながら「保育者の協働性」について考察を深めていきたい。

参考文献1 厚生労働省雇用均等・児童家庭局保育課「保育分野の現状と取組について」『平成28年度全国保育士養成セミナー 行政説明資料』2016年8月24日、13‐27頁。

2 高橋美保・福島雅子・中野綾子・早坂美保「保育所における職員の協働性と資質向上に関する研究」『白鷗大学教育学部論集』8(2)、2014年、403‐418頁。

3 この点については現在刊行されている多くの保育者養成に関するテキストで触れられている。参考としたものとして、大場幸夫他『保育者論』萌文書林、2012年、井上孝之・山崎敦子編『子どもと共に育ちあう エピソード保育者論』みらい、2016年などを挙げておく。

4 厚生労働省『保育所保育指針』より。5 同上。6 全国保育士会HP http://www.z-hoikushikai.com/about/kouryou/index.html(2017年1月12日確認)。

7 この点については、一般社団法人全国保育士養成協議会『平成26年度 専門委員会課題研究報告書 学生の自己成長感を保障する保育実習指導のあり方 -保育実習指導Ⅰ・Ⅱ・Ⅲを中心に-』2015年と、一般社団法人全国保育士養成協議会『平成27年度 専門委員会課題研究報告 学生の自己成長感を保障する保育実習指導のあり方Ⅱ -ヒアリング調査からの検討-』2016年が綿密な調査をもとに報告をしている。

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