看護職との連携協働...

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51 千葉看会誌 VOL.18 No.2012. 12 1.趣 旨 他職種の方々から,連携協働の相手である看護職の役 割をどのように捉え,連携するためにどのような工夫を しているのかを伺い,住民の健康と幸福を目指して協働 するために,看護職はどのように変わらねばならないか を考えるヒントを得ることを目的とした。 2.パネラー発表内容 1)本人の望む生活の実現に向けての連携-作業療法士 の立場から(大橋秀行氏) 精神科の臨床経験を基に話をされた。まず職種間で目 標に対する共通認識が乏しい現状について問題提起され た。連携協働の背景には志向性の違いがあり,その違い が対立や緊張を生む基となる。専門職志向 VS 患者志向, 目標志向 VS 原因志向というように。対立関係に陥りが ちな現状を乗り越える方法として,患者本人を含むかた ちで,本人の望む生活を話題の中心に据えた,全職種参 加による検討会のシステム化が有効ではないかと,具体 場面を紹介しながら示された。そうした場面は患者自身 にとっても自己効力感の向上につながり,意義がある。 2)看護職との連携-ソーシャルワーカーの立場から (杉山明伸氏) 近年の医療やケアに対して感じている違和感について 問題提起され,連携協働していくときの前提を示され た。1980年代以降,効率的医療が追求され,ケアマネジ メントや他職種連携が言われるようになった。いろいろ な制度が生まれる中で,背景に為政者の思惑があること を見据える必要がある。「違和感」の例として:見ず知 らずのケアマネジャーから患者の個人情報が FAX で送 られる。制度の運用といって簡単に個人情報を送ってよ いものか。退院調整加算が付くことで,退院が促進され ている。地域に資源が整っていないのに退院させてよい ものか。違和感を大事にしながら,制度を鵜呑みにする のではなく一歩ひいて考えてみることが大事である。 3)看護師と医師の越境的連携-都市型診療所における 家庭医療と教育の実践から-医師の立場から (藤沼康樹氏) 家庭医療とは何かに焦点をあてながら連携について話 された。家庭医療とは疾患ではなく患者・家族を連続し てみていくこと,永く身近に居て全てにかかわること, 地域での出来事に関心を注ぐことである。病気の排除で はなく健康を伸ばすこと,医学的診断を付けることでは なく説明が付かない問題に対して,どのように対処した らよいかを多職種間で考えることが大事である。家庭医 育成の年間プログラムを作成した。到達内容を明確に し,証拠を示す学習経験を積むようにした。採用したの がポートフォリオ。例えば連携について学んだことを根 拠づける経験を記録として集積する。そうして自然に IPWinterprofessional work)が実践される。 3.指定発言 1)長期入院した整形外科疾患をもつ子どもへの復学支 援の体制づくりに研究的に取り組んだ経験から (星野美穂氏) 情報交換や共有の必要性を感じながらも,「任せる」 ということが現場にはあった。各職種が顔を合わせ,抱 える問題とビジョンの共有を重視してかかわった。振り 返る中で各職種の課題が見えた。看護チーム特有の問題 も見えてきた。互いの業務理解で留めず,それぞれが子 どもたちに対してどんな意図でどんな支援をしているの かを知ることで連携が発展する。 パネルディスカッション報告 看護職との連携協働それぞれの職種の立場から 司会:鈴 木 幸 子(埼玉県立大学)              宮 㟢 美砂子(千葉大学)                パネラー:大 橋 秀 行(埼玉県立大学)              杉 山 明 伸(立教大学)                藤 沼 康 樹(医療福祉生協連家庭医療学開発センター)  指定発言:星 野 美 穂(千葉大学大学院看護学研究科博士後期課程) 菅 原 聡 美(千葉大学医学部附属病院)        

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Page 1: 看護職との連携協働 それぞれの職種の立場からopac.ll.chiba-u.jp/da/curator/900116713/13448846_18-2_51.pdfた。連携協働の背景には志向性の違いがあり,その違い

51千葉看会誌 VOL.18 No.2 2012. 12

1.趣 旨 他職種の方々から,連携協働の相手である看護職の役割をどのように捉え,連携するためにどのような工夫をしているのかを伺い,住民の健康と幸福を目指して協働するために,看護職はどのように変わらねばならないかを考えるヒントを得ることを目的とした。

2.パネラー発表内容1 )本人の望む生活の実現に向けての連携-作業療法士

の立場から(大橋秀行氏) 精神科の臨床経験を基に話をされた。まず職種間で目標に対する共通認識が乏しい現状について問題提起された。連携協働の背景には志向性の違いがあり,その違いが対立や緊張を生む基となる。専門職志向VS患者志向,目標志向VS原因志向というように。対立関係に陥りがちな現状を乗り越える方法として,患者本人を含むかたちで,本人の望む生活を話題の中心に据えた,全職種参加による検討会のシステム化が有効ではないかと,具体場面を紹介しながら示された。そうした場面は患者自身にとっても自己効力感の向上につながり,意義がある。2 )看護職との連携-ソーシャルワーカーの立場から(杉山明伸氏) 近年の医療やケアに対して感じている違和感について問題提起され,連携協働していくときの前提を示された。1980年代以降,効率的医療が追求され,ケアマネジメントや他職種連携が言われるようになった。いろいろな制度が生まれる中で,背景に為政者の思惑があることを見据える必要がある。「違和感」の例として:見ず知らずのケアマネジャーから患者の個人情報がFAXで送られる。制度の運用といって簡単に個人情報を送ってよいものか。退院調整加算が付くことで,退院が促進され

ている。地域に資源が整っていないのに退院させてよいものか。違和感を大事にしながら,制度を鵜呑みにするのではなく一歩ひいて考えてみることが大事である。3 )看護師と医師の越境的連携-都市型診療所における

家庭医療と教育の実践から-医師の立場から (藤沼康樹氏) 家庭医療とは何かに焦点をあてながら連携について話された。家庭医療とは疾患ではなく患者・家族を連続してみていくこと,永く身近に居て全てにかかわること,地域での出来事に関心を注ぐことである。病気の排除ではなく健康を伸ばすこと,医学的診断を付けることではなく説明が付かない問題に対して,どのように対処したらよいかを多職種間で考えることが大事である。家庭医育成の3年間プログラムを作成した。到達内容を明確にし,証拠を示す学習経験を積むようにした。採用したのがポートフォリオ。例えば連携について学んだことを根拠づける経験を記録として集積する。そうして自然にIPW(interprofessional work)が実践される。

3.指定発言1 )長期入院した整形外科疾患をもつ子どもへの復学支

援の体制づくりに研究的に取り組んだ経験から (星野美穂氏) 情報交換や共有の必要性を感じながらも,「任せる」ということが現場にはあった。各職種が顔を合わせ,抱える問題とビジョンの共有を重視してかかわった。振り返る中で各職種の課題が見えた。看護チーム特有の問題も見えてきた。互いの業務理解で留めず,それぞれが子どもたちに対してどんな意図でどんな支援をしているのかを知ることで連携が発展する。

  パネルディスカッション報告

看護職との連携協働-それぞれの職種の立場から

司会:鈴 木 幸 子(埼玉県立大学)             宮 㟢 美砂子(千葉大学)               

パネラー:大 橋 秀 行(埼玉県立大学)             杉 山 明 伸(立教大学)               藤 沼 康 樹(医療福祉生協連家庭医療学開発センター) 

指定発言:星 野 美 穂(千葉大学大学院看護学研究科博士後期課程)菅 原 聡 美(千葉大学医学部附属病院)        

Page 2: 看護職との連携協働 それぞれの職種の立場からopac.ll.chiba-u.jp/da/curator/900116713/13448846_18-2_51.pdfた。連携協働の背景には志向性の違いがあり,その違い

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2)病棟師長としての立場から(菅原聡美氏) 多職種連携のできる環境が以前よりも整ってきている。カンファレンスが定期的に行われたり,他職種がベッドサイドに来る場面も多くなったり。しかし一堂に会して特に医師が参加して話し合う場は依然として持ちにくい。患者も加わり同時に話をすることが効果的なように思う。看護師の中にも余裕なく,自分の仕事を回すことが目的になっている人もいる。IPWについて学んでいく機会が必要である。

4.質疑応答1)看護職への期待 「患者をよく知る立場として看護師が存在し得る。患者の生活場面に立ち会い,気持ちや思いを知っていることが強み(大橋氏)」「全体経過を見ているのが看護職。看護部として……という組織側の論理ではなく,一人の専門職として考える部分を大事にして欲しい(杉山氏)」「地域ではかなり役割がオーバーラップする。個人の資質(人間力),患者のために一肌脱ぐこと(アドボケイ

ト)が問われる。看護学研究を医療全体の実践に反映すべき(藤沼氏)」2)連携とは何か 専門職に対する課題からこぼれる問題に対して,だれかれとなく対応しようという動きが出てくることが大切。連携促進には場と会議の進め方などのテクニックも重要。雑談できる力も重要。

5.まとめ 看護職は他職種から,患者やその生活に一番密着し,全体的把握ができ,代弁者となれる職種と捉えられたことで強みを再確認できた。今後は,分担的な職種の理解から一歩抜け出た,専門職その人個人の強みを分かりあったうえでの連携や,雑談もできる日常的な普通の人間関係が大事。情報共有のために一堂に会する機会は必要だが,本人参加という「しかけ」は患者中心を具現化するだけでなく,対立せずに目標の共有ができることにつながる。