日本語と中国語における「上」(up 概念 の認知意味論的対照研究 · 2016. 3....

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日本語と中国語における「上」(UP 概念)の認知意味論的対照研究 A Comparative Study of the Concept of ‘UP’ in Japanese and Chinese From the View Point of Semantic Extension 東京外国語大学 大学院総合国際研究科 言語文化専攻 言語・情報学研究コース 5014032 博士前期課程 2

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日本語と中国語における「上」(UP概念)の認知意味論的対照研究

A Comparative Study of the Concept of ‘UP’ in Japanese and Chinese

From the View Point of Semantic Extension

東京外国語大学 大学院総合国際研究科

言語文化専攻 言語・情報学研究コース

5014032 博士前期課程 2年 張 正

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日本語と中国語における「上」(UP概念)の認知意味論的対照研究

要 旨

本論文は日本語と中国語における空間表現の対照研究である。主に、静態位置関係と

動態位置変化における「上」(UP概念)の言語化を論考する。

本論文の目的は、第一に、静態位置関係を表す日本語の空間名詞と中国語の方位詞を

とりあげ、それぞれの使用における動機付けを明らかにし、そして、日本語の空間名詞

「上(うえ)」と中国語の方位詞<上(shang)>を個別研究対象とし、それぞれの意味拡張

の考察を通して、言語表現の背後に隠れる空間認知の特質を明らかにすることのである。

第二に、動態位置変化の考察においては、日本語の「動詞+あがる/あげる」と中国語

の「動詞+上(shang)」をとりあげる。両者の基本義は「上方移動」を表すが、「−あがる

/−あげる」と<−上(shang)>が複合動詞の後項として機能する場合、その意味拡張には

相違点がみられる。日本語においては、「完成アスペクト:炊き上がる /書き上げる」の

ように、「上」UPという概念が、「良い結果状態」即ち UP=GOODという意味に拡張す

る。一方、中国語では、UP=GOOD の他、「付着・接触:贴上邮票(切手を貼る)」、ま

た「開始アスペクト:吵上(けんかし始める)」のように、<−上(shang)>は ONという平

面概念に意味拡張をおこす。日本語の複合動詞後項「−あがる/−あげる」と中国語の方

向補語<−上(shang)>との比較対照を通し、両言語の移動の表現において、「上」UP概念

がどのように意味拡張するのかを明らかにすることが第二の目的である。

本論文では、以上の 2点をめぐって、これらの表現に反映されている日本語と中国

語の空間認知における特徴について考察を行う。以下、主の内容を紹介する。

第一章では問題提起として、第一に、静態位置関係を表す表現において中国語と日本

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語に見られる類似性と相違に注目する。日本語には、「の中」、「の上」、「の奥」等のよ

うな具体的な位置を指し示す空間名詞が存在している。中国語にも似たようなもの―方

位詞が存在する。機能面や意味面に類似であるが、使用の動機付けでは相違が見られる。

例えば、日本語で「太郎は部屋にいる>で、「太郎」と「部屋」の位置関係は、格助詞「に」

により表し、空間名詞が不要である。一方、中国語で「太郎在房间里」といい、内部空

間を表す方位詞<里(li)」が必要としている。第二に、動態位置変化の表現において、上

方向移動を表す表現の典型として、日本語では「動詞+あがる/あげる」が挙げられ、

中国語では「動詞+上(shang)」が挙げられる。両者の基本義は「上方移動」を表すが、

「−あがる/−あげる」と<−上(shang)>が複合動詞の後項として機能する場合、その意味

拡張には相違点がみられる。両言語の場所表現と移動表現において、「上」UP概念がど

のように意味拡張するのかを明らかにすることが本論文の主旨である。

第二章は本論文で使われる理論的な枠組みを紹介する。

第三章では日本語と中国語の場所表現を比較対照する。中国語と日本語の名詞は、非

有界的(unbounded)への志向性を持つと考えられる。中国語では、名詞が場所を表すには、

方位詞によって、有界的(bounded)になる要請がある。日本語ではこのような制限が

見られない。一方、中国語の方位詞の使用は、場所化・個体化により動機付けられてお

り、一方、日本語の空間名詞の使用はアフォーダンスにより動機付けられていると提案

する。さらに、個別的な考察として、日本語の空間名詞「上(うえ)」と中国語の方位

詞<上(shang)>をとりあげ、それぞれの原義と拡張義の考察を通して、意味ネットワーク

を構築し、文法化の度合いを分析する。結論としては、中国語の方位詞<上(shang)>と日

本語の空間名詞「上(うえ)」において、具体的な位置を示す際、同じく、「上方」<「上

方表面」<「接触」という意味派生の方向が見られる。また、統語面からみると、中国

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語の方位詞<上(shang)>は日本語の空間名詞「上(うえ)」より束縛的になり、文法化の

度合いがより進んでいるとは言える。

第四章では、日本語と中国語の移動表現を比較対照する。日本語の複合動詞後項「−

あがる/−あげる」と中国語の方向補語<−上(shang)>を研究対象とする。日本語の「−あが

る/−あげる」との比較を通し、中国語の<−上(shang)>もアスペクト的な機能を持つと指

摘する。さらに、LCS合成理論を用い、複合動詞における<−上(shang)>の意味変化を分

析し、意味ネットワークを構築する。第四章では劉(1998)の研究を踏まえ、中国語の方

向補語<−上(shang)>の意味を大きく位置関係と時間関係の二つと分けており、位置関係

をさらに、方向意味と接触意味に、時間関係をさらに、結果と開始に分類している。そ

れぞれのグループにおいて、前項動詞と後項の<−上(shang)>と結合する際、どのような

意味関係をなしているのかを分析し、その上、語彙概念構造(Lexical Conceptual Structure)

という形式化を用い、<−上(shang)>が後項動詞として機能する際、意味がどのように変

化するのかを論考する。

第五章では、これまでの観察と考察をまとめて、中国語においては、平面 ONの概

念が日本語より強く、「有界的」な表現を求めるという特徴をもつことを述べる。

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在认知语义学视角下对日汉两语中的“上”(UP)型空间概念的对比研究

摘要

本文主要针对日汉空间概念的表达在语言化的过程中出现的差异进行对比研究。主要

将静态方所位置关系及动态位移变化中存在的“上”(UP)型空间概念作为主要研究对象,针

对其在具体语言表达中体现的概念化进行考察。

本文的主要内容可简要概括为以下几点,第一,将汉语中的方位词与日语中的空间名

词进行对比,对方位词及空间名词在句法中的不同的隐现机制作出说明。其次,选取日语

的方位名词“上(うえ)”与汉语方位词“上(shang)”作为个别研究对象,对其各自的语义

扩张机制作出考察。第二,在对于动态位置变化的考察当中,将日语的“−あがる/−あげ

る”复合动词及汉语中的方向补语“上”作为主要研究对象进行对比研究,两者在基本义上

具有相同之处,都用于对动作的方向作出补充说明。而在派生义中两者存在一定差异,首

先,日语中的“−あがる/−あげる”复合动词可用于表达完成态,例如,“書きあがる/書

きあげる”,在“−あがる/−あげる”的完成义当中,动词“−あがる/−あげる”所体现的“上”

型空间概念表达为预期的结果状态,也就是所谓的基于空间隐喻 UP=GOOD的意义扩张。

汉语的方向补语“上”的义项中,除了存在与日语相类似的结果意义意外,还可以用于表达

始动态,例如,“又吵上架了(またけんかし始めた)”,本文认为方向补语“上”的始动态

用法是基于 ON概念的意义扩张,而日语当中不存在这样的扩张机制,表达始动态常用“−

出す、−始める”。

本文围绕以上两点,这对这些语言表现中反应出来的日汉两种语言各自在空间认知方

面的体现出的特点进行考察。

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目 次

第一章 序論................................................................................................................................ 8

1.1. 問題提起 ......................................................................................................................... 1

1.2. 論文の構成 ................................................................................... 错误! 未定义书签。

第二章 理論的枠組み.............................................................................. 错误! 未定义书签。

2.1. 有界的(bounded)と非有界的(unbounded) .................................. 错误! 未定义书签。

2.2. 文法化の基準 ............................................................................... 错误! 未定义书签。

2.3. 語彙意味論 ................................................................................. 错误! 未定义书签。

2.4. 語彙的複合動詞の分類 ............................................................... 错误! 未定义书签。

第三章 場所表現........................................................................................................................ 6

3.1. 問題提起 ....................................................................................................................... 13

3.2. 場所化・個体化による中国語の方位詞の使用 ....................................................... 18

3.3. アフォーダンスによる日本語の空間名詞の使用 ................................................... 23

3.4. 中国語の方位詞<−上(shang)>と日本語の空間名詞「上(うえ)」 .......................... 28

3.4.1. 中国語の方位詞<−上(shang)>の意味用法および文法化 ................................. 29

3.4.2. 日本語の空間名詞「上(うえ)」の意味用法および文法化 ............................. 35

3.5. 本章の総括 ................................................................................................................... 38

第四章 日本語の「−あがる/−あげる」と中国語の<−上(shang)>の比較 ...................... 39

4.1. 問題提起 ....................................................................................................................... 39

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4.2. 日本語複合動詞「−あがる/−あげる」 ................................................................... 39

4.2.1. 先行研究 ................................................................................................................ 39

4.2.2. 完了・完成を表す「−あがる/−あげる」の意味構造 ................................... 43

4.3. 中国語の方向補語<−上(shang)> ................................................................................ 46

4.3.1. 先行研究 ................................................................................................................ 46

4.3.2. <−上(shang)>複合動詞の分類 ............................................................................. 48

4.3.3. <−上(shang)>複合動詞における V1と V2の意味関係 ................................... 51

4.3.4. <−上(shang)>複合動詞の意味構造 ..................................................................... 58

4.3.5. <−上(shang)>における意味拡張 ......................................................................... 64

4.4. 本章の総括 ................................................................................................................... 66

第五章 結論.............................................................................................................................. 67

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謝辞

本論文の執筆にあたり、まず、指導教員であります望月圭子先生に、心より感謝申し

上げます。望月先生は、本論文を作成にあたり厳しくも優しい指導を賜りました。常に、

激励のメールをお送り頂き、精神的にも常にサポートして頂きました。また、本研究で

使用した中国語学習者誤用コーパス作成にご助力頂きました東京外国語大学望月研究

室の中国語コーパスチームの皆様にも感謝いたします。

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第一章 序論

1.1. 問題提起

本論文は日本語と中国語における空間表現の対照研究である。本論文の目的は日本語

と中国語における上方向にかかわる空間表現から、静態位置関係を表す日本語の空間名

詞「上(うえ)」と中国語の方位詞<上(shang)>、そして、動態位置変化を表す日本語の複

合動詞後項「−あがる/−あげる」と中国語の方向補語<−上(shang)>をとりあげ、それぞれ

の意味拡張の考察を通して、両言語間における空間認知の相違とその言語形式について

研究することである。

まず、静態位置関係の表現は、空間の中におけるモノやヒトの位置を表す。次の(1)(2)

は静態位置関係の表現の例である。

(1) a. 太郎は部屋にいる。

b. 太郎在房间里。

(2) a. 太郎は椅子に座っている。

b. 太郎在椅子上坐着。

(1)と(2)の文では、「太郎」と「部屋(房间)」「椅子(椅子)」は静止状態にある。「太

郎」は目的物となり、「部屋(房间)」「椅子(椅子)」は参照物となる。「太郎」の空間

位置は参照物によって決められている。ここで注目されたいのは、言語表現で表すのは、

空間における客観的な関係ではなく、あくまで言語使用者の認知の仕方に動機づけられ

ていた主観的な関係であるということである。(1a)と(2a)の日本語文に対応する中国語

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文を見れば分かるように、日本語の「部屋に」は、中国語では、「房间里」と言い、方

位詞<里(li) >によって INという内部空間関係を明示するのである。同じように、「椅子

に」は中国語では「椅子上」となり、方位詞「上」によって、ONという表面接触関係

を表す。日本語においても、「の中」、「の上」等のような具体的な位置関係を表す空間

名詞が存在しているが、(1a)と(2a)において、空間名詞の使用は義務的ではない。このよ

うな現象は中国語と対照的である。

また、望月・申(2016)では、以下のような違いを指摘した。

(3) a. 车上睡觉。

b. 電車の中で眠る。

(4) a. 飞机上看电影。

b. 飛行機の中で映画を観る。

(望月・申(2016:23))

望月・申(2016:23)によれば、公共交通機関である電車、飛行機等の移動事象は、日本

語では、英語のように、「決められた路線図上を移動する」という ON の空間認知は存

在せず、「内」、「の中」といった表現が用いられ、平面的認知の表現は用いられない。

また、望月(2013)では、「日本語には英語の「点」(AT),「平面」(ON),「内部空間」(IN)と

いった明確な空間表現が存在せず、「〜内」、「〜の中」「〜こむ」等に象徴される「境界

が曖昧な内部空間」表現が卓越している」と述べている。日本語の「「境界が曖昧な内

部空間」表現が卓越している」のに対して、中国語における方位詞の義務的な使用や、

ON概念の卓越は、中国語では、空間を「有界的(bounded)」にする傾向の強さを反映し

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ているのではないかと考えられる。

次に、動態位置変化の表現に関しては、字面の通り、空間におけるモノやヒトの位置

の変化を表す。以下の(5)は、動態位置変化の表現の例である。

(5) a. 彼は丘を駆け上がった。

b. 他跑上小山。

(5a)の日本語では、「駆け上がる」の前項動詞「駆ける」は移動の様態を表し、後項の

「上がる」は移動の方向を表す。(5b)の中国語は日本語と同じように、複合動詞「跑上」

の前項「跑」と後項の「上」はそれぞれ移動の様態と移動の方向を表す。また、拡張義

において、日本語の「−あがる/−あげる」複合動詞と中国語の方向補語<−上(shang)>

はメタファーを通して抽象的概念であるGOOD RESULTというアスペクト的な用法を

生み出す。

(6) 論文を書き上げる。

(7) 他考上大学了。

(彼は大学の入学試験に合格した。)

さらに、中国語の方向補語<−上(shang)>は新しい事態の開始を表す意味も持つ。

(8) a. 会议还没开始大家就议论上了。

(会議開始前に皆はすでに討論し始めた。)

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b. 最近又忙上了。

( 近また忙しくなった。)

(望月・申(2016:14))

英語においても、同様に ON概念を用い、off/on,go on等、開始のアスペクトを表

す表現も見られる。一方、日本語においては、開始のアスペクトは、「−出す」「−始め

る/始まる」等の複合動詞が用いられ、この平面的な ON概念とは無縁である。

上述のように、本論文では、日本語と中国語における上方向にかかわる空間表現に

着目し、日本語の空間名詞「上(うえ)」と中国語の方位詞<上(shang)>、そして、日本

語の複合動詞後項「−あがる/−あげる」と中国語の方向補語<−上(shang)>をとりあ

げ、以下の 3点ついて考察を行う。

1)日本語の空間名詞と中国語の方位詞の使用における動機付け

2)日本語の空間名詞「上(うえ)」と中国語の方位詞<上(shang)>の意味・用法に

おける違同点および文法化の度合い

3)日本語の複合動詞後項「−あがる/−あげる」と中国語の方向補語「−上(shan

g)」における意味派生ネットワーク

1.2. 論文の構成

本論文は序論にあたるこの第一章を含め、全部で五章からなる。次の第二章では、

本論文で使われる理論的な枠組みを紹介する。

第三章では日本語と中国語の場所表現を比較対照する。日本語の空間名詞の使用は

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「アフォーダンス」1という概念により動機付けられており、中国語の方位詞の使用は、

「場所化・個体化」により動機付けられていると提案する。さらに、個別的な考察とし

て、日本語の空間名詞「上(うえ)」と中国語の方位詞<上(shang)>をとりあげ、それぞ

れの原義と拡張義の考察を通して、意味ネットワークを構築し、文法化の度合いを分析

する。

第四章では、日本語と中国語の移動表現を比較対照する。日本語の複合動詞後項「−

あがる/−あげる」と中国語の方向補語<−上(shang)>を研究対象とする。中国語の<−上

(shang)>も、日本語の「−あがる/−あげる」との同様、アスペクト的な機能を持つが、

その意味拡張の用法は、日本語のアスペクト的意味拡張よりもさらに多様であることを

指摘する。さらに、語彙概念構造という形式化を用い、複合動詞における<−上(shang)>

の意味変化を分析し、意味ネットワークを構築する。

第 5章では本論文の結論にあたり、今後の課題を述べる。

1 ある事物がある環境の中でそれぞれの知覚者に対して持つ意味で、例えば「椅子」

という物体の概念には、「座る」という動作が内包されている。

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第 2章 理論的枠組み

2.1. 有界的(bounded)と非有界的(unbounded)

本論文は、中国語の方位詞が持つ場所化・個体化の機能を分析する際の方法として、

空間認知が言語化される際、現れる「有界的」と「無界的」の志向性を取り上げる。「有

界的」と「非有界的」に関して、熊代(2013:356)は以下のように説明している。

(9) 有界的(bounded)と非有界的(unbounded)

例えば、全ての動詞は、プロセスを表し、全ての名詞はモノを指示しているとされ

る。モノとはある領域における区域のことである。従って、名詞は全て何らかの区

域を指し示している。このような名詞の種別を考えるとき、その区域内に何らかの

境界が設定されているかどうか、すなわちその区域の「有界性/非有界性」が重要

となる。具体的には、名詞のプロトタイプである加算名詞は、主要領域において境

界が明確に設定され、「有界的」な区域を表している。これに対し、集合名詞はそ

のような境界が明確ではなく、「非有界的」な区域を表している。

(熊代(2013:356))

中国語の研究においては、沈(1995)は「有界的」と「非有界的」という対立した概

念が中国語の名詞、動詞、形容詞といった品詞にどのように反映されているかを明ら

かにした。この論文の 初に出てくるのが、数量詞の文法構造に対する制約作用であ

る。

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(10) a. *盛碗里鱼。

(魚をお椀に盛る)

b. 盛碗里两条鱼。

(魚を二匹お椀に盛る)

(陸(1998:178)の用例)

(10a)の「鱼(魚)」は数量詞がつかない裸名詞で、不自然である。(10b)のように、

名詞の前に数量詞を付け加えると自然になる。沈(1995:369)によれば、中国語では、裸

名詞は非有界的概念を表すだけで、数量詞を付けることによって、はじめてその名詞

の個体性、加算性が明示できるようになるという。

日本語に関しては、池上(1981,2007)では、英語が「個体化指向」「有界的」な事態把

握であるのに対して、日本語は、個体を全体に融合させ、連続体のスキーマによって方

向付けられ、明確な輪郭を持たない「無界的」事態把握であることが述べられている。

日本語の名詞をみると、英語とは違い、可算名詞と不可算名詞の区別、単数と複数の区

別がない。日本語では数を表すために、数量の単位を表す助数詞が必要である。これは、

日本語の名詞が英語の不可算名詞のイメージで扱われていることを示している。

以上、沈(1995)、池上(1981, 2007)を踏まえ、中国語と日本語の名詞は、「非有界的」へ

の志向性を持つと考えられる。本論文の第三章では「有界的」と「非有界的」という対

立した概念を用い、日本語と比較対照し、中国語において、非有界的な名詞が場所を表

す際、方位詞により場所化・個体化にしなければならないという有界性への要請につい

て論考する。

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2.2. 文法化の基準

本論文では、日本語の方位名詞「上(うえ)」と中国語の方位詞<上(shang)>における

文法化の度合いを考察比較する際、大堀(2002)で提示した文法化の進み方の基準を取り

上げる。大堀(2002)は以下のような 5つの基準を設けている。

(11) 文法化の 5つの基準

①意味のスキーマ性(schematicity)の度合い

②閉じたクラスをなすか

③標示の義務制(obligatoriness)

④形式の拘束性(boundness)

⑤文法全体の中で、他の部分と相互作用(interaction)を持つか

(大堀(2002:182−183))

以上の点をまとめれば表(1)のようになる。

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表 1 文法化の度合い

←低い 高い→

(a) 具体的 意味・機能 スキーマ的

(b) 開いたクラス 範列の成立 閉じたクラス

(c) 随意的 標示の義務制 義務的

(d) 自由形式 形態の拘束性 拘束形式

(e) 相互作用なし 文法内の位置 相互作用あり

(大堀(2002:184))

2.3. 語彙意味論

本論文は、日本語と中国語の複合動詞を分析する際の方法として、「語彙意味論」

(Lexical Semantics)の枠組みを用いる。語彙意味論とは、語や形態素の意味構造を研究す

る意味論の下位分野である。本論文の主眼点は、日本語の「−あがる/−あげる」複合動

詞と中国語の<−上(shang)>複合動詞はどのような意味構造に基づいて複合されている

のかにある。

動詞は基本的に外界における状態、出来事、あるいは行為-これらをひっくるめて事

象(event)という-を言語化するものである(影山(1996:44))。本論文では、事象構造の形

式化モデルとして、「語彙概念構造」(Lexical Conceptual Structure; 以下 LCS と略称する)

という形式を用い、影山(1996)で提示されている LCS モデルに基づいて分析を進める。

語彙意味論では、動詞の表す事象を分析する主なアプローチとしては、語彙的アスペ

クトの観点からの見方である。語彙アスペクトとは、「動詞が語彙的に元来持っている

時間的内部構造」を指す。語彙的アスペクトに関する研究は、まず Vender(1967)があげ

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られるが、Vender(1967)は、英語の動詞を語彙的アスペクトの基準から、次の 4 つのタ

イプに分けている。

(12) Vender(1967)の動詞分類

a. 状態(state):know, believe, have, desire, love

b. 到達(achievements):recognize, spot, find, lose, reach, die

c. 活動(activities):run, walk, swim, push a cart, drive a car

d. 達成(accomplishment):paint a picture, make a chair

以上の 4 分類において、 も顕著的な区別は、完結(telic)であるか非完結(atelic)であ

るか、あるいは有界的(bounded)であるか非有界的(unbounded)であるかというところで

ある。影山(1996)を参照にし、Vendlerの動詞 4分類を LCSで分析すると、以下の(13)の

ようになる。

(13) 語彙概念構造の基本形

a. 状態動詞:[y BE AT−z]

b. 活動動詞:[x ACT] or [x ACT ON y]

c. 到達動詞:[BECOME [y BE AT−z]]

d. 達成動詞:[x ACT(ON−y)]CAUSE[BECOME[y BE AT−z]]

影山(1996, 1997)によると、(13a)状態動詞は BE という概念で恒常性を持つ状態を表

している。ATは物理的な位置ないし抽象的状態を表す。全体として、「yが zという静

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止位置ないし静止状態にある」ということを表している。

次に(13b)活動動詞は、限界点がない継続的な事象として捉えられる。ACT なら talk,

dance, work, shineなどの継続活動の自動詞、ACT ONになると kick, hit, kissなどの接触

や打撃の働きかけ動詞を表す。

(13c)の到達動詞は位置変化・状態変化(BECOME)を表し、限界点(z)が設定されており、

完結的事象を表すが、時間幅を要求しない瞬間的な変化を表すので、継続性を持たない。

後に(13d)の達成動詞は、ある行為の結果として、ある位置変化・状態変化がひきお

こされるという二つの事象から合成され、継続的かつ完結的である。

2.4. 語彙的複合動詞の分類

日本語と中国語の複合動詞の語形成(LCS合成)を分析するために、複合動詞におけ

る V1と V2の意味関係を知る必要がある。影山(1999)は、先行研究(長嶋(1976)、森田

(1990)、影山(1993)、Matsumoto(1996, 1998)など)において、V1と V2の間にどのような

意味的な関係がなされているか、という側面から、以下の 5つのパターンに整理してい

る。

(14) a. 手段:V1することによって、V2

切り倒す、踏み潰す、押し開ける、折り曲げる、切り分ける、むしり取

る、(ボールを)打ち上げる、…

b. 様態:V1しながら V2

尋ね歩く、転げ落ちる、遊び暮らす、忍び寄る、舞い上がる、語り明か

す、持ち去る、探し回る、怒鳴り込む、…

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c. 原因:V1の結果、V2

歩き疲れる、抜け落ちる、おぼれ死ぬ、…

d. 並列:V1かつ V2

泣きわめく、忌み嫌う、恋い慕う、慣れ親しむ、…

e. 補文関係:V1という行為/出来事を(が)V2

見逃す、死に急ぐ、聞き漏らす、晴れ渡る、使い果たす、呼び交わす、掻

き回す、使いこなす、…

(影山(1999:195))

また、影山(2013)は従来の語彙的複合動詞の分類を捉え直し、「手段」「原因」「様態」

「並列」の語彙的複合動詞を「主題関係複合動詞(thematic compound verbs)」と呼び、「補

文関係」の語彙的複合動詞を「アスペクト複合動詞(aspectual compound verbs)」と呼ぶ。

影山(2013:11)によれば、主題関係複合動詞は V1、V2ともに主題関係(項関係)を持ち、

V1 は V2 を様々な意味関係で修飾する。アスペクト複合動詞は、文の項関係は基本的

に V1によって決まる。V2は広い意味で語彙的アスペクトを表し、V1が表す事象の展

開について述べる。

本論文では、多義である中国語の補語動詞<−上(shang)>の語彙的意味を、語彙概念構

造及び項構造という形式化で捉え、こうした語彙的意味が、どのように複合動詞の構造

へと具現化していくのかということ、また、影山(2013)で提示した語彙的複合動詞の新

しい分類を用い、<−上(shang)>が持つアスペクト的機能について第四章で論考する。

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第三章 場所表現

本章では、静態位置関係を表す中国語の方位詞と日本語の空間名詞を中心として考察

していく。本章の目的として、第一に、中国語の方位詞と日本語の空間名詞の使用にお

ける動機付けを明らかにすることにある。第二に、個別研究として中国語の方位詞<上

(shang)>と日本語の空間名詞「上(うえ)」をとりあげ、上(UP)という空間概念が、中国語

において、どのような統語的・認知的原則に基づいて文法化されたのかを、日本語との

対照を通して、解明することにある。

3.1. 問題提起

われわれが何等かのターゲットについて、空間的に位置づけるために、常に「参照点」

(reference point)が必要とされる(Langacker (1993:6))。参照点に関して、Talmy(2000a:203)

では、「中心参照物」(primary reference object)と「補助参照物」(secondary reference object)

の二つがあると指摘されている。中心参照物とは、ターゲットとする主体にある空間的

な場所を提供する「地」(ground)となるものである2。補助参照物は、具体的な方向を示

すのに基準となるものである3。

中国語において、モノの位置関係を表す場合、<上(shang)>、 <里(li) >等のような位置

(location)を表す「方位詞 (localizer) 」がよく使われている。以下、中国語の方位詞に関

して、英語と比較して説明しよう。

2 Primary Reference Object, one that has the same syntactic position and largely the same

semantic role as the single Ground objects studied up until now. (Talmy(2000: 203)) 3 Secondary Reference Object, which in many cases is not explicitly named but merely implied

by a particular spatial term. (Talmy(2000: 203))

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(15) a. 书 在 桌子 上。

book be−located table surface

b. A book on the table.

c. 本は机の上にある。

Tai(1989)、Hsieh(1989)が指摘しているように、位置関係を表す際、中国語と英語では、

認知ストラテジーにおいて違いがみられる。英語では、(15b)のように前置詞(prepostion)

を用い、空間関係と次元関係を one−stepで表現する。つまり、中心参照物と補助参照物

の情報がすべて一つの前置詞に含まれている。これに対して、中国語では、まず二つの

名詞の間に介詞「在(zai)」を入れ、be−located という中心参照物との空間関係を表し、

次に参照物の名詞に方位詞をつけ、補助参照物により、次元的な関係を表すという

two−step 的な認知ストラテジーを採用している4。

しかし、「在+NP+方位詞」の表現において、次元的な関係を表す方位詞が現れない

場合もある。Tai(1989)と Hsieh(1989)の two−step 的な認知ストラテジーによればこの現

象についてうまく説明できないのである。

日本語において、モノの位置を表す表現に関して、寺村(1992:136)は以下のように述

べている。

4 English employs a one−step strategy by using prepositions ‘at’, ’on’ and ‘in’ to stand for one−,

two−, and three−dimensional spatial relations. By contrast, Chinese employs a two−step strategy.

In the first step, the copula verb zai ‘to be located at/on/in’ is used to indicate that the relation in

question is a spatial relation of some kind. In the second step, place words such as shangmian and

litou are used to further indicate whether the focal object is on the surface of, or inside, the

reference object. (Tai (1989:352))

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英語には、ものの位置を表すのに in, on, at, over … など、多くの前置詞がある。一

方、日本語にも「京都ニ(住ンデ)イル」「京都デ働イテイル」「京都ノ郊外ヲ歩ク」

のようにいろいろ助詞が使われる。しかし、英語のこれらの前置詞の使い分けの要

因と、日本語のこれらの助詞の使い分けとは、全く違った原理にもとづいていて、

一対一、あるいは一対多というふうに対応させることはできない。

(寺村(1992:136))

寺村(1992)の指摘によれば、英語の前置詞と日本語の助詞には表面的な関連性がある

ものの、原理的な理由により安易に比較することができないのである。

また、田中(1997)では、日本語の空間表現を以下のように三つのタイプに分類してい

る。

(A) 「空間名詞+空間辞」型:{中に、上で、下まで、外へ、等々}

(B) 「空間辞」型:{に、で、を、から、まで、へ}

(C) 「移動動詞―テ」型:{通って、横切って、向かって、等々}

(田中(1997:8))

一見したところ、「移動動詞―テ」型を除いて、日本語の空間表現において、中国語

との類似点があり―「空間名詞+空間辞」のような「two−step」もあれば、空間名詞を

省略され、「空間辞」だけの「one−step」的な表現もある。空間名詞の省略に関しては、

田中(1997:21−22)は「英語は<空間関係が明らかな場合には、それを言語的に明示かせ

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よ>という要請にしたがうのに対して、日本語は、逆に<空間関係が明らかな場合には、

それを暗示化せよ>という要請にしたがう……日本語は助詞言語―名詞を助詞的にす

る言語―であり、脈絡的に冗長な要素は容易に省くことができるという「省略可能性」

がここでは大切である。」と述べている。

中国語の方位詞と日本語の空間名詞(田中(1997)にならって、以下は「空間名詞」と

いう術語を用いる)の比較に関しては、荒川(1992)、王(2009)は、中国語ではモノの位置

を表す方位詞<上(shang)>、<里(li)> 等が、日本語の空間名詞より多用されていると指摘

している。次の文を見よう。

(16) a. 在 脸 * (上) 抹 面霜。

be−located face (surface) plaster cream

b. 顔(?の上)にクリームを塗る。

(王(2009:83))

中国語文(16a)では、方位詞<上(shang)>がないと非文になるが、日本語文(16b)では、

「の上」があると不自然になる。

さらに、筆者が「東京外国語大学満月コーパス」5において、2013 年度に収集された

157中国語作文において、抽出された中国語の方位詞の誤用は、93例があり、その誤用

5科学研究費基盤研究(B) 「英日中国語ウェブ誤用コーパス構築と母語をふまえた英

語・日本語・中国語教授法開発(2013 年度−2015 年度,望月圭子代表)」の助成により、

東京外国語大学中国語専攻の授業時に執筆された日本語母語学習者による中国語学習

者コーパス。

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類型の内訳は、表 2に示す通りである。

表 2 中国語学習者コーパスにおける中国語方位詞の誤用類型

単純方

位詞 誤用数 正用数 delete replace insert

Insert

の比率

里 46 34 8 4 34 0.739

上 28 22 3 8 17 0.340

中 12 7 2 1 9 0.670

下 4 0 0 1 3 0.750

后 3 0 0 0 3 1.000

合計 93 63 13 14 66 0.790

表 2 が示すように、方位詞の誤用 93 例のうち、方位詞を使うべきところに、方位詞

が脱落している誤用タイプ(70.9%)が も多い。具体例を挙げて分析してみよう。

(17) a. 晚上还可以在院子* (里)边看星星边吃饭。

b. 夜は庭(の中)で星を見ながら晩飯を食べることもできる。

(満月コーパス)

例文(17a)は方位詞が欠如した誤用例である。(17a)に対応する日本語は、空間名詞の

「の中」はあってもなくてもよいが、ない方が自然である。日本語母語話者の中国語作

文において、方位詞の欠如の誤用が多いのは母語干渉によるものであると考えられ、ま

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た、方位詞あるいは空間名詞の現れ方に関して、中国語と日本語は大きな違いが存在し

ていることを示唆している。

本章では、中国語の方位詞と日本語の空間名詞の使用における動機付けを明らかにす

る。また、中国語の方位詞<上(shang)>と日本語の空間名詞「上(うえ)」を個別研究対象

としてとりあげ、中国語の方位詞<上(shang)>と日本語の空間名詞「上(うえ)」の考察を

通して、<上(shang)>が日本語の「の上」より文法化が進んでおり、中国語において平面

ONの概念がより卓越していることを論じる。

3.2. 場所化・個体化による中国語の方位詞の使用

山梨(1995:44)では、日本語と英語の場所表現に関して、次のような違いがあると指摘

している。

(18) a. She walked swiftly to the door and went out.

b.{ドアのところに/*ドアに}歩いて行った。

c. He walked to her where she stood in front of the snake cage.

d.{彼女のところに/*彼女に}歩いて行った。

(山梨(1995:44))

山梨(1995)によると、日本語においては、問題の場所ないしは空間にかかわる指示対

象そのものを表現するだけでは不自然であり、その指示対象の背後の場所・空間の関連

領域も補完的に言語化しなければならない傾向がある。(18)からわかるように、英語と

違い、日本語では、「ドア」のようなモノ名詞や「彼女」のようなヒト名詞は直接「行

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く」という移動動作の着点にはなれず、後ろに「ところ」をつけて場所化しなければな

らない。

このような場所化現象は中国語においても観察されている。以下(19)は(19)に当たる

中国語文である。

(19) a. 她走到*门(那儿)。

(彼女が*ドア(のところ)に歩いて行った。)

b. 他走到*她(那儿)。

(彼が*彼女(のところ)に歩いて行った。)

(19)の中国語では、モノ名詞とヒト名詞に「那儿(ところ)」という指示詞をつけて、

場所化している。同様の現象が方位詞にも見られる。王(2009:88)では、中国語の名詞が

場所性を持つかどうかによって、表 3で示しているように分けられている。

表 3 中国語における方位詞(王(2009:88))

名詞の種類 方位詞の不要/必要 例

a. 固有名詞 方位詞不要 北京、中国、大阪……

在大阪(*里)。/大阪にいる。

b. 場所名詞 方位詞任意 学校、図書館、銀行……

在图书馆(里)。/図書館にいる。

c. モノ名詞 方位詞必要 机、皿、本…

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在桌子*(上)。/机にある。

まず、固有名詞に関して、「北京、中国、大阪、東京」等のような地名、国名等は、

本来的に強く場所性を備えているため、<上(shang)> 、<里(li) <等の方位詞をつけないの

が原則である。例として、(20)を挙げよう。

(20) a. 他在东京工作。

(彼は東京で働いている。)

b.*他在东京里工作。

(彼は東京の中で働いている。)

次に、場所名詞に関して、王(2009:88)では、場所名詞は確定した場所を指すものであ

り、方位詞の使用は任意であると指摘しているが、「使用任意」に関しては、詳しく述

べていない。そこで、場所名詞の方位詞の使用規則及び文法機能を説明するために、方

(2002)を挙げる。方(2002:202−203)では、裸の場所名詞には非指示的(non−referential)と指

示的(referential)の二通りの解釈ができ、方位詞をつけると指示的になると指摘した。例

として、(21)を挙げよう。

(21) a. 他住学校。(指示的/非指示的)

(彼は学校に住んでいる。)

b. 他住学校里。(指示的)

(彼は学校の中に住んでいる。)

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c. 他住学校后面。(指示的)

(彼は学校の後に住んでいる。)

(方(2002:202))

(21a)は、一つの読みとして、「学校の施設内で生活しているという日常的な行為」と

解釈される。もう一つは「学校に住んでいる」という解釈である。

「学校の施設内で生活している」の場合は、「学校」は抽象的領域として捉えられる一

方、「学校に住んでいる」の場合は、「学校」を具体的な場所として捉えられている。

「学校」に方位詞<里(li)>をつけると、「学校」が指示的になり、具体的な場所として捉

えられるようになる。以上、(21b)においての方位詞の使用は、「個体化・場所化」とい

う概念によって動機づけられていると考えられる。

後に、モノ名詞について考えよう。モノ名詞は、単独で場所を表すことができず、

常に、後に方位詞を付け加え、個体化・場所化しなければない。

方位詞の個体化・場所化の機能について、储(2009:82)では、裸のモノ名詞における方

位詞の義務的な使用と「モノ名詞+他の成分」における方位詞の任意的な使用を比較し、

以下の表 4のようにまとめている。

表 4 方位詞の個体化・場所化の機能

NP NP+L NP

裸モノ名詞 在黑板上写字 *在黑板写字

a. N+准場所マーカー 他在床沿上发呆 ?他在床沿发呆

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b. N+序数詞+量詞 在课本第一页上打个记号 在课本第一页打个记号

c. 名称+N 他在人民公园里锻炼 她在人民公园锻炼

d. N+位置 在这个位置上站了很久 在这个位置站了很久

(储(2009:82)を参照し、翻訳および例文を筆者が付したもの)

表 4からわかるように、a〜dのモノ名詞に「准場所マーカー」、「序数詞+量詞」、「名

称」、「位置」等を付け加えることにより、一定の場所性を持つようになるため、方位詞

をつけてもつけなくてもよいのである。

表 4の裸モノ名詞については、まず裸モノ名詞の性質について考察する。ここで、第

二章で挙げた沈(1995)の研究を再掲する。沈(1995)では、「有界的」と「非有界的」とい

う対立した概念が中国語の名詞、動詞、形容詞といった品詞にどのように反映されてい

るかを明らかにしている。この論文の 初に出てくるのが、数量詞の文法構造に対する

制約作用である。

(22) a. *盛碗里鱼。(魚をお椀に盛る)

b. 盛碗里两条鱼。(魚を二匹お椀に盛る)

(陸(1998:178)の用例)

(22a)の「鱼(魚)」は裸名詞として現れており、非文法的である。これに対して、(22b)

のように、名詞の前に数量詞を付け加えると自然になる。沈(1995)によれば、中国語で

は、裸名詞は非有界的概念を表すだけで、数量詞を付けることによって、はじめてその

名詞の個体性、加算性が明示できるようになる(沈(1995:369))。また、Rijkhoff(2000)で

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は、類別詞(classifier)がある言語は名詞が「−SHAPE」の特性を持つということを主張し

ている。

類別詞を持つ言語の典型としては、中国語が挙げられる。Rijkhoff(2000)によれば、中

国語の名詞は「−SHAPE」という特性を持ち、その意味領域には輪郭性や個体性が含ま

れていないという。名詞に「一+個」を付加することによって個体化される。

中国語の裸の名詞は、沈(1995)で指摘した「非有界的概念」を表し、Rijkhoff(2000)で

いうように「−SHAPE」という特性を持ち、その意味領域には輪郭性や個体性が含まれ

ていないため、場所を表す際、方位詞や他の成分により、個体化・場所化にする必要が

ある。逆にいうと、方位詞が数量詞等のように、名詞を個体化する機能を持つといえよ

う。

この節の考察の結論として、三種類の名詞における方位詞の使用に関して、以下のよ

うにまとめられる。

1) 地名・国名を表す固有名詞は本来的に場所性を持つため、方位詞が不要である。

2) 場所名詞は任意であるが、方位詞をつけると指示的な場所になる。

3) 裸のモノ名詞は輪郭性や個体性が含まれていないため、方位詞が必要である。

本節での考察を通して、中国語の方位詞の使用は、名詞の有界性によって異なること、

そしてその機能は、非有界的な名詞を個体化・場所化にする機能であることがわかる。

3.3. アフォーダンスによる日本語の空間名詞の使用

3.2では、中国語の方位詞の個体化・場所化する機能について考察をした。本節では、

日本語の空間名詞の使用は何によって動機づけられているのかについて考察を行う。ま

ず、3.2の(18)でも触れたが、日本語においても場所化する必要があるという現象が見ら

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れる。3.2の(18)で挙げた場所化機能をもつ「ところ」の他に、空間名詞も場所化の機能

を持つ。例えば、張(2001)は次のような例をあげ、「の中」の用法を分析している。

(23) a. 映画館(の中)ではぼくらは司令の講評を聞いた。

b. ポケット*(の中)で、ぼくは掌の汗を拭った。

(張(2001:54)の用例)

(23a)において「映画館」の後の「の中」は任意であるが、(23b)において「ポケ

ット」の後の「の中」は必要としている。これについて、張(2001)は「「N+の中」が

動作の場所という役割を果たすとすれば、「電車」や「体育館」のような人間がその中

で行動を営むことができる空間を表す名詞の場合、「の中」は任意だが……箱類、袋類

といった人間が入れない容器類だと、普通動作の空間・場所というイメージを持たない

……空間の内側や内部を表す「の中」を用い、その空間的性格を浮き彫りにする必要が

ある」(張(2001:54))と述べている。張(2001)の説明によれば、場所は、動作と一定の

関係を持つ場合、空間名詞の使用は任意であるが、動作との関係が薄い場合、必要であ

ることが分かった。(23a)における空間名詞の使用任意は、まさに、田中(1997:21−22)

で指摘した日本語は、「<空間関係が明らかな場合には、それを暗示化せよ>」という

要請であろう。本節では、アフォーダンスの理論を用い、空間名詞の省略の動機につい

て論じる。

認知意味論における研究で生態心理学の観点を取り入れた分析として「アフォーダン

ス(affordance)」という考え方がある。アフォーダンスはアメリカの知覚心理学者 Gibson

によって「環境と知覚者の関係がつくる情報」として提案された概念である(菅井

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(2014:3)を参照する)。アフォーダンスを言語研究に取り入れたものに、中川(1995)、本

多(2005)、王(2009)等がある。本多(2005)によるとアフォーダンスとは以下のように説明

される。

(24)アフォーダンス

ある事物のアフォーダンスとは、ある事物がある環境の中でそれぞれの知覚者

に対して持つ意味である。より具体的には、環境の中のものが知覚者に提供する

行為の可能性である。たとえば、椅子は人間に対して、「座る」という行為をア

フォードする……環境の中に存在するものは、物体、物質、場所、事物、他の動

物、人工物のいかんによらず、すべてアフォーダンスを持つ。環境の中で活動し

ている動物は、その探索活動を通じて環境の中のアフォーダンスを知覚してい

る。

(本多(2005:56))

日本語では、モノのアフォーダンスの有無によって、空間名詞の使用、不使用が見ら

れる。例えば、菅井(2013)は、以下の例を挙げている。

(25) a. 椅子に座る。

a’. ??椅子の上に座る。

b. ??椅子に立つ。

b’. 椅子の上に立つ。

(菅井(2013:3))

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菅井(2013:3)によれば、(25a)は空間名詞が不要である。「の上」をつけるとやや不自

然になる。(25b)は空間名詞「の上」がないと不自然であり、(25b’)の空間名詞「の上」

がある方が自然である。これについて、菅井(2013)は「「椅子」というものは、「座る」

という行為をアフォーダンスするように作られているので、(25a)のように動詞「座る」

に対しては「に」という単純な形式で標示されるが、「立つ」という行為をアフォード

しないので、(25b)のように動詞「立つ」に足して無標(無徴)の格標識では標示でき

ず、(25b’)のように「の上に」という複合辞を使わなければならない。」(菅井(2013:3)

より引用、例文番号は筆者による)と述べている。つまり、「椅子は座るところ」であ

るということは、日常知識に含まれているため、「の上」が不要となる。ところが、「立

つ」と「椅子」は空間的関連性が弱いため、「の上」によって、結びつく必要がある。

3.1で挙げている田中(1997)が言っている「省略可能性」は、まさにアフォーダンスによ

るものであると考えられる。

対照として、(25)に対応する中国語文を作る。次の(26)のようになる。

(26) a. *在椅子坐着。

a’. 在椅子上坐着。

b. *在椅子站着。

b’. 在椅子上站着。

(26)から分かるように、中国語の方位詞の使用においては、日本語のようにアフォー

ダンスから影響を受けることは見られない。「坐(座る)」にせよ、「站(立つ)」にせよ、

いずれも方位詞が必要となる。しかし、中国語では、アフォーダンスの意識が完全にな

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いとは言えない。王(2010:31)は、以下に挙げる(27)の例において、名詞が方向性を持

つ趨向動詞と共起する場合、アフォーダンスの関係が成立でき、名詞が無標であること

が可能であると指摘した。

(27) a. 車体は大きく揺れながら、都会の灯の海の中を、轟音を轟かせて走っている。

中国語訳:车身剧烈摇晃着,轰隆隆地驶过市区的灯海。

b. 遅くなってから庭下駄をはいて海岸の上に出た。

中国語訳:夜半时分,她穿上院内用的木屐,走到海岸。

(王(2010:31)より引用、下線部は筆者による)

(27ab)の日本語原文においては、いずれも空間名詞がついている。ところが、中国語

の訳文においては、方位詞が不要である。王(2010:31)によれば、「灯海(灯の海)」は「驶

过(走る)」の経路となり、「海岸(海岸)」は「走到(出る)」の着点となり、動詞と名

詞は空間的に結びついているので、名詞が無標であることが可能になる。確かに、「海

岸(海岸)」、「灯海(灯の海)」は、本章の考察によると、個体性や場所性を持たないモ

ノ名詞であり、場所を表すために、方位詞が必要とするが、ここで、趨向動詞と共起す

る場合、方位詞が不要になるのは、アフォーダンスによるものと考えられる。

本章は、静態の存在事象に注目し、移動事象を今回の考察には入れない。中国語では、

アフォーダンスの意識が完全にないとは言えないが、日本語と比べ、その程度は強くな

いとはいえよう。

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28

3.4. 中国語の方位詞<−上(shang)>と日本語の空間名詞「上(うえ)」

この節では、個別研究として中国語の方位詞<−上(shang)>と日本語の空間名詞「上(う

え)」をとりあげ、上(UP)という空間概念が、中国語において、どのような統語的・認知

的原則に基づいて文法化されたのかを、日本語と対照し、考察していきたい。

まず、3.1 でも触れたが、中国語では、位置を表すには方位詞を使う。方位詞という

カテゴリーは閉じたグラス(closed class)であり、以下のようなものがある。

(28) a. 东/西/南/北,前/后,左/右,上/下,里(中、内)/外,间,中,旁,

b. 之+前(后,上,下,内,中,外,间)

以+东(南,西,北,前,后,上,下,内,外)

c. 东(南, 西,北,前,后,左,右,上,下,里,外)+边(面)

东(南,西,北,前,后,上,下,里,外)+头

d. 面前,跟前,头里,背后,底下,中间

e. 前后,左右,上下

(方(2004:5)を参照)

(28)において、aのグループは、単純方位詞である。b〜eは複合方位詞である。単純

方位詞は一般的に単独として使うことが少なく、用法が複合方位詞より限られている

(劉月華(2004:50−55))。また、劉丹青(2002)では、単純方位詞は文法的な自立性が低く、

複合方位詞よりは文法化が進んでおり、後置詞として認めるべきであると主張している。

本節では、これまでの研究を踏まえ、中国語の方位詞<上(shang)>に焦点を当て、統語

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29

機能や空間認識において、日本語の空間名詞「上(うえ)」と比較対照し、論をすすめる。

3.4.1. 中国語の方位詞<上(shang)>の意味用法および文法化

斉(2014)では、具体的な位置を指し示す際、方位詞<上(shang)>を意味的な視点から、

以下のように 3種類に分類している。

表 5 方位詞<−上(shang)>の意味用法(斉(2014:120))

上 意味 例文

上 1 対象物が参照物の上方にある。 飞机从大桥上飞过。

飛行機が橋の上を飛んで行く

上 2 対象物が参照物の上方にある。か

つ接触している。

城墙上站着一个人。

城壁の上に一人が立っている。

上 3 表面に接触している。 在黑板上写字。

黒板に字を書く。

(斉(2014:120)を要約したもの、日本語訳は筆者による)

以下、斉(2014)を踏まえ、方位詞<上(shang)>の意味用法および文法化について考察

していく。

まず、<上(shang)1>から見よう。斉(2014:120)では、<上(shang)1>を方位詞<上(shang)>

のプロトタイプ的な意味としている。<上(shang)1>は対象物が参照物と接触せず、参照

物の物理的な上方にあることを表す。イメージ・スキーマで表すと、以下のようになる。

点線は「接触しない」ことを表す。

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30

図(1)

統語面においては、(28bc)のように<上(shang)1>が複合方位詞「上面」と入れ替える

ことができ、また、名詞と複合方位詞「上面」の間に名詞を修飾する成分「的」を插入

することもできる。

(29) a. 飞机从大桥上飞过。

b. 飞机从大桥上面飞过。

c. 飞机从大桥的上面飞过。

(飛行機が橋の上を飛んで行く。)

次に、<上(shang)2>に関して、斉(2014:120)では<上(shang)2>の意味を「目的物が参照

物と接触し、参照物の物理的な上方にある」としている。イメージ・スキーマで表すと、

以下のようになる。太線は接触することを表す。

Lm

Tr

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31

図(2)

統語面においては、(29b)のように<上(shang)2>が複合方位詞「上面」と入れ替えるこ

とができる。(29c)は統語的に許すが、別の意味「城壁の表面」という読み取りが生じ

るため、ここで、「??」マークをつける。

(30) a. 城墙上站着一个人。

b. 城墙上面站着一个人。

c. ??城墙的上面站着一个人。

(城壁の上に一人が立っている。)

後に、<上(shang)3>に関しては、斉(2014:120)では<上(shang)3>の意味を「目的物が

参照物の表面と接触している」としている。<上(shang)3>が必ず上の表面との接触を表

すのではなく、(31)のような下の表面、また(32)のような内部関係を表すこともできる。

つまり平面的な認知として捉えられている。

(31) a. 天花板上挂着一盏吊灯。

(天井に吊り下げ式の灯が掛かっている。)

b. 脚底上磨出了水泡。

Lm

Tr

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32

(足にまめができた。)

(32) a.[电车/汽车/飞机/小船]上睡觉

b.[電車/車/飛行機/小船]の中で眠る。

c. sleep [on a train/in a car/on an airplane/in a boat]

さらに、範囲を表すこともできる。

(33) a. 电脑上的资料都保存完好。

(パソコンのデータが元通りに保存されている。)

b. 光有书本上的知识是不够的。

(本の知識だけが全てではない。)

<上(shang)3>をイメージ・スキーマで表すと、以下のようになる。

図(3)

統語面においては、<上(shang)3>が複合方位詞「上面」と入れ替えることができない。

Lm Tr

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33

(34) a. 在黑板上写字。

b. *在黑板上面写字。

c. *在黑板的上面写字。

(黒板に字を書く。)

以上、斉(2014)を踏まえ、<上(shang)1>、<上(shang)2>、<上(shang)3>の意味面、統語面

について考察した。

次に、大堀(2002)で提示した文法化の度合いの段階を参照し、方位詞<上(shang)>にお

ける文法化について簡単に触れる。ここで、説明のため、第二章で挙げた大堀(2002:184)

を再掲する。

表 6 文法化の度合い(大堀(2002:184))

←低い 高い→

(a) 具体的 意味・機能 スキーマ的

(b) 開いたクラス 範列の成立 閉じたクラス

(c) 随意的 標示の義務性 義務的

(d) 自由形式 形態の拘束性 拘束形式

(e) 相互作用なし 文法内の位置 相互作用あり

(大堀(2002:184))

まず、意味から見ると、<上(shang)1>から<上(shang)3>は、具体的な上下関係が段々薄

くなり、<上(shang)3>にはすでにその意味を失っている。また、<上(shang)>が「上面」

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との交換の可能/不可能から見れば、<上(shang)1>は可能であるが、<上(shang)3>は<上

面>と入れ替えると指し示す位置や文の意味が変わるので、意味的に<上(shang)1>と異な

っていると考えられる。さらに、<上(shang)3>は「上面」との交換が不可能という現象

から、<上(shang)3>はすでに元来の意味を失い、独自の意味が生じ、範列が成立したと

考えられる。

次に、標示の義務性に関して、3.2 でもふれたが、裸の名詞を場所化するため、方位

詞は義務的とされている。 後に、<上(shang)1>、<上(shang)2>、<上(shang)3>全ての場合、

名詞との間に修飾成分「的」の挿入が不可となり、すでに自立成分から膠着成分になっ

ていると言えよう。文法化の度合いによって、<上(shang)1>、<上(shang)2>、<上(shang)3>

の文法化の度合いは以下のように表示される。

上(shang)1 < 上(shang)2 < 上(shang)3

また、ここで、望月・申(2016)を参考にして、<上(shang)1>を UPWARD、<上(shang)2>

を ON、<上(shang)3>を WITH として概念化し、方位詞<上(shang)>の意味ネットワーク

を以下の(35)のように想定する。

(35) UPWARD → ON

WITH

(35)では、UPWARDの概念を表す<上(shang)1>はプロトタイプ的な意味になる。ONの

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<上(shang)2>には、まだ UPWARDという方向性が保たれており、さらに「接触」の意味

へと拡張している。<上(shang)3>になると、すでに原義から外れ、UPWARDという方向

性を失い、接触だけを表すようになり、<上(shang)2>から派生されたと考えられる。

3.4.2. 日本語の空間名詞「上(うえ)」の意味用法および文法化

日本語の空間名詞「上(うえ)」の意味に関する記述研究として、宮島(1972)と森田(1989)

がある。宮島(1972)は「上(うえ)」の意味項目を以下のように 4分類している。

1) 「地球の中心から遠ざかる方向」

2) 「足から頭の方へ向ける方向」

3) 「より表面的な方向、ふつう人の目に触れやすい方向」

4) 「身分、値段など価値を表す用法」

森田(1989)は、「上(うえ)」の意味を、具体的な意味の項目として「方向」、「位置」、「段

階」、「連続している言葉の前後」を挙げ、抽象的な意味の項目として「前提」と「方面」

を挙げている。

本節では、宮島(1972)と森田(1989)を踏まえ、「上(うえ)」における具体的な空間

概念を表す意味「上方」と「位置」を中心に論を進める。

まず、「上方」から見よう。「上方」は「上(うえ)」のプロトタイプ的意味であると考

えられる。この意味をイメージ・スキーマで表すと、以下の図(4)のようになる。点線は

位置関係を表す。

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(36) 空はただ、あなたの頭の上にあるだけ、何も悪いことなんてしていません。

(BCCWJ)

図(4)

また、対象物と参照物が接触する場合は、「上(うえ)」は「上方表面」となる。イメー

ジ・スキーマで表すと図(5)のようになる。太線は接触することを表す。

(37) 机の上にファイルや書類がたくさん散らかっている。

(BCCWJ)

図(5)

後に、「位置」の意味についてみよう。

(38) ラムプの感じやすい焰は、少女の静かな眉や長い睫の影を、頬の上にゆらめか

せてゐる。

(宮島(1972:252)用例)

Lm

Tr

Lm

Tr

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宮島(1972:252)によれば、(38)の「上(うえ)」は「より表面的な方向、ふつう人の目に

触れやすい方向」である。(38)の「上(うえ)」は「上方」の「上(うえ)」とは違い、参照

物の上方にあるという方向性が失われ、二つのものが重なることを表す。重なった関係

性は認知的に常に「上下」ととられ、宮島(1972:252)の指摘した「人の目に触れやすい

方向」を加え、「位置」の「上(うえ)」は「外側の表面と接触する」ことを表すと考えら

れる。「位置」の「上(うえ)」という関係性は、以下の図(6)のように表される。

図(6)

以上、宮島(1972)と森田(1989)を踏まえ、「上(うえ)」における空間概念を表す「上方」

と「位置」の意味を考察したが、その考察は、以下のようにまとめられる。

まず、対象物と参照物が接触するかどうかによって、「上方」の意味はさらに「上方

空間」と「上方表面」の二つに分けられる。「位置」の意味に関しては、プロトタイプ

的な意味と違い、方向性を表すのではなく、外側の表面と接触することを表すのである。

これは、「上方表面」の意味から拡張されたと考えられる。

ここで、「上方空間」を表す「上(うえ)」を「上(うえ) 1」、「上方表面」を表す「上(う

え) 2」を「上(うえ)」、「位置」を表す「上(うえ)」を「上(うえ) 3」と表示しよう。さらに、

Lm Tr

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中国語と同じように、「上(うえ) 1」、「上(うえ) 2」、「上(うえ) 3」をそれぞれ UPWARD、

ON、WITHと概念化し、具体的な空間位置を表す「上(うえ)」における意味派生ネット

ワークも、以下のように表示される。

(39)

UPWARD → ON

WITH

3.5. 本章の総括

本章では、まず、中国語の方位詞と日本語の空間名詞の使用における動機付けについ

て検討した。結論として、中国語の方位詞の使用は裸名詞を場所化・個体化することに

動機付けられている。一方、日本語の空間名詞の使用は、アフォーダンスにより動機付

けられている。そして、中国語の方位詞<上(shang)>と日本語の空間名詞「上(うえ)」を

とりあげ、それぞれの意味拡張について考察をした。

結論として、中国語と日本語の共通点は、具体的空間位置を表す際、中国語の方位詞

<上(shang)>と日本語の空間名詞「上(うえ)」は意味面において、「上方」から「接触」へ

と拡張した派生の方向が<上(shang)>にも、「上(うえ)」にも見られる点である。

一方、相違点として、統語面においては、中国語の方位詞<上(shang)>、特に<上(shang)3>

は独立形態素から束縛形態素となり、また、結合した名詞を個体化する機能、指示化す

る機能を持ち、より文法化が進んでいると考えられる。

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第四章 日本語の「−あがる/−あげる」と中国語の<−上(shang)>の比較

4.1. 問題の所在

日本語と中国語において、上昇を表す複合動詞はそれぞれ「−あがる/−あげる」と

<−上(shang)>が挙げられる。両者の基本義は「上方移動」を表すが、「−あがる/−あげ

る」と<−上(shang)>が複合動詞の後項として機能する場合、その意味拡張現象には相違

点がみられる。

日本語においては、「完成アスペクト:炊き上がる/書き上げる」のように、「上」UP

という概念が、「良い結果状態」即ち UP=GOODという意味に拡張する。一方、中国語

では、UP=GOOD の他、「付着・接触:贴上邮票(切手を貼る)」、また「開始アスペク

ト:吵上(けんかし始める)」のように、動作の結果としての存在・付着といった ON概

念に関わる意味拡張をおこす。

本章では、日本語の複合動詞後項「−あがる/−あげる」と中国語の方向補語<−上

(shang)>との比較対照を通し、両者が複合動詞後項として機能する際、上(UP)概念がど

のように意味拡張するのかを明らかにすることを目的とする。

4.2. 日本語の複合動詞「−あがる/−あげる」

4.2.1. 先行研究

複合動詞後項「−あがる/−あげる」に関する研究は、まず姫野(1999)の記述研究が挙

げられる。姫野(1999)は複合動詞後項「−あがる/−あげる」の意味は「あがる」と「あ

げる」の基本的な意味の「上の方向へ」および「移動」という要素が抽象化し派生して

いくものであると指摘した上で、「あがる」「あげる」が後項動詞として持っている役割

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を分類した。以下の表(7)及び表(8)は姫野(1999)の分類をまとめたものである。

表 7 「−あがる」複合動詞(姫野(1999:36)を筆者が要約)

意味特徴 自動詞か他動詞か 例文

上昇 自+あがる=自

他+あがる=自

①ふもとから頂点へ駆けあがる。

②空中を飛びあがる。

完了・完成 自+あがる=自

他+あがる=自

①料理ができあがる。

②ご飯が炊きあがる。

強調 自+あがる=自 観客が震えあがる。

増長 他+あがる=自 相手がつけあがる

尊敬 他+あがる=自 飲料物を召しあがる

(姫野(1999:36)を筆者が要約)

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表 8 「−あげる」複合動詞(姫野(1999:36)を筆者が要約)

意味特徴 自動詞か他動詞か 例文

上昇 自+あげる=他

他+あげる=他

①地上から月に向かってロケットを打

ち上げる。

②1 階から 2 階まで荷物を運びあげる。

下位者から上位

者に、上位者か

ら下位者に対す

る社会行為

他+あげる=他

①社長に用件を申しあげる。

②農民から米を買い上げる。

体内の上昇 自+あげる=自

他+あげる=他

①感情が突きあげる。

②子供がしゃくりあげる。

完了・完成 他+あげる=他 パンを焼きあげる。

強調 他+あげる=他 賊を縛りあげる。

増長 他+あがる=他 相手がつけあがる。

その他 他+あげる=他 本を読みあげる。

軍隊を引きあげる。

人生を歌いあげる

于(2009)は複合動詞「−あげる」の V1が V2の意味を選択する条件について考察を行

った。于(2009)を要約すると、以下のようになる。

1)V1は、対象移動動詞の場合、対象を上の方向へ移動させる意味や完了の意味を

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選択する。

2)V1は、対象変化動詞の場合、完了の意味を選択する。

3)V1は、動作主・行為動詞の場合、4種類がある。

a.「作る」類の動詞は完了の意味を選択する。

b.「読む」類の動詞は「声をあげる」という意味や心理的な上の方向へ

の移動の意味、完了の意味を選択する。

c.「申す」類の動詞は心理的な上の方向への移動の意味をを選択する。

d.「笑う」類の動詞は「声をあげる」という意味を選択する。

4)V1は動作主移動動詞の場合、2種類がある。

a. 動作主移動他動詞は対象移動または動作主自身の移動(心理的移動を

含む)という意味を選択する。

b. 動作主移動自動詞は完了の意味を選択する。

王(2014)は、日野(2001)で提示した文法化の基準に従い、日本語の複合動詞「−あげる」

と中国語の<−上(shang)>に関し、文法的・表現的機能から両者における文法化の相違点

について考察した。王(2014:246)によれば、「−あげる」に関して、文法化と意味派生に

おいて、「−あげる」は空間的上昇に深くつながっており、拡張義も「空間的移動」から

派生している。

本節では、以上挙げた先行研究を踏まえ、「−あがる/−あげる」における「完了・完

成」の意味に注目し、前項動詞との意味関係及び複合動詞の意味構造を分析し、「−あが

る/−あげる」の「完了・完成」の拡張義における意味変化の特徴を考察していきたい。

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4.2.2. 完了・完成を表す「−あがる/−あげる」の意味構造

先行研究で見たように「−あがる/−あげる」には、物理的位置変化を表す他に、(40)

のような完了・完成のアスペクトを表す意味が備わっている。

(40) a. 焼きあがる、炒りあがる、炊きあがる、うであがる、ゆであがる

b. 晴れ上がる、干あがる、涸れあがる、澄みあがる

c. 焼きあげる、炒りあげる、炊きあげる、うであげる、ゆで上げる

d. 調べあげる、数えあげる、並べあげる、勤めあげる

姫野(1999)によれば、「−あがる」の完了・完成の意味をさらに、(40a)のような「人間

の作業活動の完了」と(40b)のような「自然現象の完了」に分けており、「−あげる」の完

了・完成の意味をさらに(40c)のような「完成品を伴う作業活動の完了」と(40d)のような

「作業活動の完了」に分けている。「−あがる」の(40a)「人間の作業活動の完了」グルー

プと「−あげる」の(40)「完成品を伴う作業活動の完了」グループにおいて、前項動詞は

いずれも産出を表す動詞と関わっている。

姫野(1999)は、産出グループの「−あがる/−あげる」が結合する前項動詞の共通点に

ついて、以下のように述べている。

1) 人が技術や労働力を使って作業する動作動詞であること。

2) 格助詞「を」がとる目的の名詞は 2~3の対象が考えられること。

(姫野(1999:41, 50))

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2)の「を」がとる目的の名詞に関しては、宮島(1972:612)によれば、「材料と生産物」

または「素材と作品」の関係にある名詞の類である。また、陳(2007)によれば、産出動

詞における意味上の特徴は、(41a)から観察できるように、これらの動詞は「材料から

終的な完成品を表す名詞を内項の対象としてとることができ、またこういう材料と完成

品の関係はおおよそ(41b)のように言い換えられるので、産出動詞が材料から完成品へ

の表す使役変化動詞の側面を持っていることがわかる(陳(2007:94)を参照)。

(41) a. 米を炊く/ご飯を炊く

紙を折る/ツルを折る

毛糸を編む/セーターを編む

木を彫る/くまを彫る

b. 米をご飯に炊く

紙をツルに折る

毛糸をセーターに編む

木をくまに彫る

これらの産出の意味を表す動詞は、「あがる」「あげる」と結合し、複合動詞になると、

産出の意味だけが残り、材料を表す名詞を内項としてとることができず、結果を示す名

詞しかとらない。

(42) a. 米を炊く/ご飯を炊く → ご飯が炊きあがる/ご飯を炊き上げる

*米が炊きあがる/米を炊き上げる

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b. 木を彫る/くまを彫る → くまが彫りあがる/くまを彫りあげる

*木が彫りあがる/木をほりあげる

影山(2000)では、産出動詞の意味構造を以下のように形式化している。

(43) [x ACT ON w] CAUSE [w BECOME[y BE AT−z]]

陳(2007)は影山(2000)を踏まえた上で、産出動詞における共通の作成意味を抽出し、

「MADE」という定項を設けている。また、「−あがる/−あげる」と結合し、複合動詞

になると、もはや完成品を表す動詞しか内項をとることができないので、「−あがる/−

あげる」複合動詞内の作成動詞は、材料への働きかけが捨象され、完成品の産出のみに

注目する。したがって、「複合動詞における産出動詞は、以下のように形式化できる。

(44) x CAUSE[w BECOME [y BE AT−MADE]]

(陳(2007:96))

以上、産出を表す「−あがる/−あげる」複合動詞における前項動詞の意味特徴及び

LCS構造について考察をした。次に、複合動詞全体の LCSを考察することを通し、産

出を表す「−あがる/−あげる」の意味特徴を明らかにする。

第二章で見たように、語彙的複合動詞は V1と V2の意味関係によって、並列、様態・

付帯状況、手段、因果関係、補文関係の 5種類に分けられる。「−あがる/−あげる」複

合動詞において、V2の「−あがる」と「−あげる」は本動詞から外れた意味、或いは周

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辺的な意味を表し、V1に完了のアスペクトを付加する。この場合の「~あがる」「あげ

る」複合動詞の LCSは以下のように形式化できる。結果状態は DONEによって表示さ

れる。

(45) a. 「−あがる」:[ BECOME [y BE AT−MADE]] BE AT−z ]

DONE

b. 「−あげる」:x CAUSE [ BECOME [y BE AT−MADE]] BE AT−z]

DONE

4.3. 中国語の方向補語<−上(shang)>

4.3.1. 先行研究

劉(1998)は、中国語補語動詞<−上(shang)>の意味用法について次のように分類してい

る。

1) 趨向意味。高いとことへ移動する。或いは、前に向かって移動する。

2) 結果意味。ⅰ接触、付着。ⅱ希望どおりに目標を実現する。ⅲ成功的に完成する。

3) 状態意味。静態から、動態へ移る。

4) 特殊意味。ⅰ一定のレベルに到達する。ⅱ付帯動作を表す。

5) 熟語用法。

笵(1995)は<−上(shang)>の統語的特徴と意味的特徴の両方を考察し、<V上(shang)>を

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動趨式(劉(1998)の趨向意味に相当する)、準動趨式(劉(1998)の接触意味に相当する)、

動結式(ある結果に到達する)、動態式(劉(1998)の状態意味に相当する)の 4種類に分

類している。

また、類型論の研究において、Talmy(1985, 2000b)は、諸言語における移動表現に関し

て、経路、様態、原因などの情報がどのように言語化されることによって、世界の言語

を大きく二つの種類に分けている。移動の経路(motion)は主動詞で表し、移動の様態

(manner)は付随要素で表す傾向のある言語を動詞枠付け言語(verb−framed language)と呼

び、経路は動詞の付随要素で表し、様態は主動詞で表す傾向のある言語を付随要素枠付

け言語(satellite−framed language)と呼ぶ。

(46) a. He ran up the hill.

b. 他跑上小山。

c. 彼は丘を駆け上がった。

英語と中国語は、それぞれupと<−上(shang)>のような動詞の付随要素で移動の経路を

表すため、付随要素枠付け言語であるとされる。日本語は「上がった」のように移動の

経路を主動詞で表すため、動詞枠付け言語に分類される。

中国語の移動表現の も大きな特徴は、方向補語があるということである。方向補語

というのは、動詞の後につき、動作・行為の方向を表すものであるが、いずれも移動動

詞から文法化されてきたものである。このような<動詞+方向補語>の複合動詞構造が

中国語には大量に存在している。

方向補語は、杉村(2000:151)、戴(2007)でも指摘されているように、結果補語と同じく

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48

<行為+結果>型の表現であり、実質は変わらないという。

4.3.2. <−上(shang)>複合動詞の分類

本節では劉(1998)の分類を踏まえ、Talmy(1985, 2000b)の移動動詞の語彙化の類型理論

を用いて、主に「趨向意味」「結果意味」「状態意味」における<−上(shang)>について分

析を行う。劉(1998)における趨向意味と結果意味の分類は、以下の表(9)のようにまとめ

られる。

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表 9 <−上(shang)>の意味用法の分類(劉(1983:81−116)を筆者が要約)

「−上」の担う意味 「−上」複合動詞

①趨向(

方向)

意味

(1)動作によって、主

体や対象が下方か

ら上方へ移動する。

(a) N(agent)+V(manner)−上+N(location)

他 跑 上 小山。

(b) N(agent)+把+N(theme) +V(manner)−上+N(location)

他 把 货物 搬 上 车。

(c) N(agent)+V(manner)−上+N(theme) (比喩的用法)

他 交上 一份报告。

(2)動作によって、主

体や対象がある目

標へ移動する。

(a) N(agent)+V(manner)−上+N(location)

他 追 上了 火车。

(b) N(agent)+V(manner)−上+N(theme)

他 端 上 一盘菜。

②結果意味

(1) 接触、付着。 (a) N(agent)+V(manner, +contact)−上+N(theme)

他 穿 上了 衣服。

(b) N(theme)+V(manner, +contact)−上

门 锁 上了。

(2)希望どおりに目

標を実現する。

N(agent)+V−上+N(theme)

他 吃 上了 饺子。

他 买 上了 房子。

他 考 上了 大学。

他 当 上了 班长。

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50

③状態意味

新しい状態に入る。

N(agent)+V−上

他们 议论 上了。

劉(1998)は、②結果意味のグループにおいて、さらに「接触」と「実現」に分けてい

る。 以下、このグループにおける前項動詞と後項動詞の意味特徴について簡単に触れ

る。

まず、「接触」のグループにおいては、前項動詞は移動の様態(manner)表すが、さらに

接触(contact)の意味も持ち、また、その も中核的要素(core schema)は接触と考えられ、

接触というのは二つのモノが積み重ねの関係で、この重なた関係は認知的に「上下」と

とられ(王(2009:101))、この場合、後項としての<−上(shang)>の「接触、付着」の意味

が活性化されると思われる。

次に、「実現」のグループに関しては、前項動詞動詞はほとんど単純動作動詞である。

この場合の<−上(shang)>は実質的な意味ほとんど残っておらず、「完了」というアスペク

トを表すようになる。さらに、複合動詞全体は「やっど……できた」という潜在する意

味が生じる。Lakoff&Johnson(1980:15−17)では、空間隠喩(orientationl metaphor)の角度か

ら英語の UP・DOWNのメタファー的意味に関して記述している。Lakoff&Johnsonによ

れば、「GOOD IS UP」つまり、「上」の概念が「よい」という結果状態に結びついてい

る。この「GOOD IS UP」の概念が「実現」の意味上にも反映している。

劉(1998)は「接触」と「実現」を同じ「結果意味」に分類しているが、「接触」は所詮

一種の位置変化とは思われる。したがって、前項動詞に位置変化を表すかどうか、また

後項動詞の<−上(shang)>には、実質的な意味が残っているどうかによって、別のグルー

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プに分けられると考えられる。

本節では、後項動詞の<−上(shang)>の意味用法を、劉(1998)の分類に基づいて、以下

の表(10)のように大きく「位置関係」と「時間関係」の 2種類に分ける。

表 10

動詞+上(shang)

位置関係 方向 自動詞+上 非能格+上 跑上,走上

非対格+上 涌上,飘上

他動詞+上 搬上,抬上

接触 自動詞+上 遇上,碰上

他動詞+上 关上,闭上

時間関係 結果 吃上,考上,买上

開始 忙上,议论上,哆嗦上

4.3.3. <−上(shang)>複合動詞における V1と V2の意味関係

<−上(shang)>の語形成(LCS 合成)を分析するために、<−上(shang)>複合動詞におけ

る V1 と V2 の意味関係を知る必要がある。以下では、「位置関係」「時間関係」の順に

<−上(shang)>における V1と V2の意味関係を考察していく。

4.3.3.1 「方向」を表す<−上(shang)>

表(8)の分類で見たように、「方向」を表す<−上(shang)>はさらに自動詞と他動詞に分

けられる。まず、自動詞の<−上(shang)>からみよう。自動詞の<−上(shang)>はさらに、

「非能格自動詞+上」と「非対格自動詞+上」の 2つに分けられる。

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(47) 自動詞の<−上(shang)>

a. 非能格自動詞+上:動作主の意志による位置変化

学生走上街头(学生たちが街頭に繰り出した),他跑上山丘(彼は丘を駆け上が

った),小孩跳上桌子(子供がテーブルの上に上がった),他们登上山顶(彼らは

山頂に上がった),将军骑上马(将軍が馬に乗った),人们挤上前(人たちがまえ

へ押しかけた),…

b.非対格自動詞+上:自然発生による位置変化

泪水涌上眼眶(涙が目に湧き上がった),白雾飘上屋顶(雲が屋上へ浮かんでき

た),月亮升上天空(月が空へ上がった),悲伤袭上心头(悲しみが心の中へ上げ

てきた),…

まず、「非能格自動詞+上」から見よう。これらの動詞は(48)のように分析できる。

(48) 移動様態 + 方向性

跑(駆ける)+ 上(上がる)

跳(跳ねる)+ 上(上がる)

走(歩く) + 上(上がる)

また、これらの動詞は(49)のように、前項動詞を抜いて、< −上(shang)>だけで言い換

えることができる。

(49) 学生(走)上街头(学生たちが街頭に繰り出した),他(跑)上山丘(彼は丘を駆

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け上がった),小孩(跳)上桌子(子供がテーブルの上に上がった),他们(登)

上山顶(彼らは山頂に上がった),将军(骑)上马(将軍が馬に乗った),人们(挤)

上前(人たちがまえへ押しかけた)

(48)(49)から観察されるように、非能格自動詞グループにおける自動詞の<−上(shang)>

は、前項動詞が様態(manner)を表し、後項の<−上(shang)>がその移動に伴い「下方から上

方へ」あるいは「目標へ近づく」移動すること表す。前項動詞は<−上(shang)>という移

動動作の様態を表すだけで、実質的な項関係は後項の<−上(shang)>が司っていることが

わかる。これらの動詞は様態複合動詞に属すると考えられる。

次に、「非対格自動詞+上」のグループを見よう。このグループの動詞が表すのは、

自然発生によって、位置が変化することである。非対格自動詞である前項動詞が移動の

様態を表し、後項は動作の主体が下方から上方へ移動し、その結果、主体の位置が全体

的に変化することを表す。「非対格自動詞+上」のグループは「非能格自動詞+上」の

グループと違って、(50)に示すように、前項動詞を省略して、<−上(shang)>のみに言い換

えることができない。

(50) 泪水*(涌)上眼眶(涙が目に湧き上がった),白雾*(飘)上屋顶(雲が屋上へ浮

かんできた),月亮*(升)上天空(月が空へ上がった),悲伤*(袭)上心头(悲し

みが心の中へ上げてきた)

(50)で、「非対格自動詞+上」の動詞は本動詞<−上(shang)>に言い換えることができない

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のは、これらの主語が非意志的なもので、非能格自動詞である本動詞の<−上(shang)>と

合わないためである。このグループは「非能格自動詞+上」と同じように様態複合動詞

に属すると考えられる。

後に、「他動詞+上」のグループを見よう。このグループにおいては、前項動詞が

対象物を移動させることを表す使役位置変化動詞である。(51)のようなものがある。

(51) 他動詞+上:

他把货物搬上火车(彼は荷物を汽車に運んだ),服务员给他递上热毛巾(店員さん

が彼にお手拭きを渡した),他把粮食扛上楼(彼は食糧を上階へ上げた),他背上

背包出去了(彼はリュックを背負って出て行った),我们这里架上了木梯(私たち

はここには梯子を立てた),…

これらの動詞において、前項動詞は使役位置変化他動詞であり、後項の<−上(shang)>

は移動した後の結果位置を表す。

4.3.3.2. 「接触」を表す<−上(shang)>

続いて、「接触」のグループの意味関係を見てみよう。表(8)で見たように、「接触」は

さらに自動詞と他動詞に分けられる。まず、自動詞のグループからみよう。

(52) 自動詞の<−上(shang)>:

我在北京遇上了李老师(私は北京で李先生と合った),这种倒霉事让我碰上了(こ

んな不幸なことは私に遭遇させた),跟上队伍(隊列について行く)…

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このグループは全部非能格自動詞である。前項動詞は「会う、出会う」などの意味を

表す。前項動詞によって、主体があるヒトやモノに接触する状態を表す。原因複合動詞

に属すると考えられる。

次に他動詞の他動詞のグループに関して、(53)のようなものがある。

(53) 他動詞の<−上(shang)>

关上门(ドアを閉める),闭上眼睛(目をつぶる),贴上邮票(切手を貼る),书

上写上标题(本に表題を書く),穿上工作服(作業服を身に付ける),戴上项链(ネ

ックレスをつける)…

このグループにおいては、前項動詞は使役他動詞で、前項動詞の動作によって対象物

があるものに付着・密着するようになること表す。原因複合動詞に属すると考えられる。

以上、「接触」を表す<−上(shang)>複合動詞は、4.3.2 でも触れたように、前項動詞は

接触の意味を持ち、また、その も中核的要素は接触とは考えられ、接触というのは二

つのモノが積み重ねの関係は認知的に「上下」と捉え、この場合後項としての<−上

(shang)>の「接触、付着」の意味が活性化されると思われる。つまり、「V1の結果、V2」

という原因複合動詞のパラフレーズに当たり、原因複合動詞に属すと考えられる。

4.3.3.3. 「時間関係」を表す<−上(shang)>

後に「時間関係」の<−上(shang)>複合動詞を考えよう。「時間関係」を表す<−上

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(shang)>はさらに「結果」と「開始」の二つに分けられる。

4.3.3.3.1. 「結果」を表す<−上(shang)>

まず、「結果」のグループからみよう。このグループにおいては、前項動詞は活動動

詞であることが特徴である。意味的には、前項動詞の表す動作の終了後の好ましい結果、

或いは目的の達成を表す。これは日本語複合動詞「−あがる/−あげる」の「動作の完結」

「結果物の産出」の意味用法に似ているが、以下の(54)が示すように、中国語では、動

作の完結後の「好ましい結果」という意味の度合いがさらに強くなり、より結果性を重

視している。

(54) 他考上大学了。

(彼は大学の入学試験に合格した。)

「他考上大学了」というのは、「彼は大学の入学試験に参加し、試験を受け、やっと

合格した」という過程であるが、「試験を受ける」という過程は「合格した」の前提条

件となる。単に「他考大学了」なら、「合格した」という意味を表さない。つまり、単

なる前項動詞の完成では必ずしも目的を達成するとは限らない。<−上(shang)>は完結性

を表すほかに、目標に到達し、目標は上に存在する認知を反映する。

結果を表す<−上(shang)>複合動詞の意味関係は、以下の(55)のように、補文関係をな

していると考えられる。

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(55) a. 考上大学(大学に合格する) → [考大学(受験する)]達成

b. 买上房子(家を手に入れる) → [买房子(家を買う)]達成

4.3.3.3.2 「開始」を表す<−上(shang)>

「開始」を表す<−上(shang)>は、動作の開始の段階を表し、動作の開始の前から動作

の開始への時間軸における変化に着目していると言える。つまり、静態から動態への変

化を表す。例として(56)を挙げよう。

(56) a. 会议还没开始大家就议论上了。

(会議開始前に皆はすでに討論し始めた。)

b. 近又忙上了。

( 近また忙しくなった。)

(望月・申(2016:10))

このグループは、新たな事態の発生、動作が起こるイメージを「上」として認知され

る。前項動詞に「開始」のアスペクトの意味を添加すると考えられる。「結果」のグル

ープと同じように補文関係をなしていると思われる。

以上の観察から、<−上(shang)>における V1 と V2 の意味関係は、以下表(9)のように

まとめられる。

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表 11 <−上(shang)>における V1と V2の意味関係

方向を表す<−上(shang)>

「非能格自動詞+上」 様態

「非対格自動詞+上」 様態

「他動詞+上」 原因

接触を表す<−上(shang)> 原因

時間関係を表す<−上(shang)> 補文関係

4.3.4. <−上(shang)>複合動詞の意味構造

本節では、<−上(shang)>複合動詞における LCS合成を分析する。<−上(shang)>の LCS

合成を論じるために、まず、本動詞<−上(shang)>の LCSを知る必要がある。本動詞の<−

上(shang)>は移動を表すとき、方向性のほかに、移動後の位置も示している(于(2006:24)

を参照)。着点をとることができるので、(57)のような項構造と LCS を持つと考えられ

る。

(57) <−上(shang)>:(Ag〈Goal〉)

上台阶(階段を上る)、上飞机(飛行機に乗る)

上: [x ACT]CAUSE[BECOME [y BE AT−z]]

x=y

4.3.4.1. 方向を表す<−上(shang)>における LCS合成

4.3.4.1.1. 「自動詞+上」における LCS合成

まず、「非能格自動詞+上」のグループから分析する。4.3.3で見たように、「非能格自

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動詞+上」のグループは様態複合動詞に属するので、以下(#)のように分析できる。

(58) 他跑上小山。

(彼は丘を駆け上がった。)

LCS2: [x ACT] CAUSE [BECOME [y BE AT−z]]

WHILE LCS1: [x ACT]

項構造: x「他(彼)」 x=y「他(彼)」 z−UPWARD「小山(丘)」

(58)では、「動作主 xが意図的に、足の動きを継続的に行う」という事象 LCS1と「動

作主 xが意図的に、y(ここでは動作主 xと同一指標を与えられているので同じ人間を

指す)が上方へ移動し、zという場に達する」という事象 LCS2が合成され、LCS1が付

帯状況・様態を表す WHILEによって LCS2の「限定修飾句」として機能していること

を表示している。

また、ここで、LCS2 における「上方へ移動し」という方向性を UPWARD に抽象化

すると想定される。

次に「非対格自動詞+上」のグループについて分析する。「非対格自動詞+上」のグ

ループも様態複合動詞であるので、以下のような LCSをなしていると考えられる。

(59) 泪水涌上眼眶

(涙が目に湧き上がる)

LCS2: [BECOME [y BE AT−z]]

WHILE LCS1: [BECOME [y BE AT−z]]

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項構造: y「泪(涙)」 z−UPWARD「眼眶(目)」

(59)では、「yが非意図的に、継続的に中から激しく動く」という事象 LCS1と「yが

非意図的に上昇し、zという場に達する」という事象 LCS2が合成される。「非能格自動

詞+上」のグループと同じように、LCS1が付帯状況・様態を表すWHILEによって LCS2

の「限定修飾句」として機能していることを表示している。LCS2における「上昇する」

という方向性も UPWARDに抽象化すると想定される。

4.3.4.1.2.「他動詞+上」における LCS合成

「他動詞+上」のグループは原因複合動詞であるので、以下のような LCS をなして

いると考えられる。

(60) 他把货物搬上车。

(彼は荷物を車に運んだ。)

LCS1: [x ACT ON y]

CAUSE LCS2: [BECOME [y BE ON−z]]

項構造: x「他(彼)」 y「货物(荷物)」 z「车(車)」

まず、CAUSEという関数について説明しておく。「因果関係」を表す意味関係は、由

本(2005:108)では、(61)のように形式化される。

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(61) 因果関係 V1+V2 → LCS2 FROM LCS1 (t1≧t2)

申(2009:62)では、中国語の複合動詞においては、「時間順原則」が働き、LCS2を先に

おく(61)は必ずしも適切ではない可能性があると述べ、「LCS1 CAUSE LCS2」という

LCS を提唱した。ここでは、申(2009:62)に従い、「LCS1 CAUSE LCS2」という LCS

を採用する。

(61)では、「動作主 xが意図的に、yに働きかけ、位置を変化させる」という事象 LCS1

と「yが移動し、zという場に達する」という事象 LCS2が合成され、LCS1が原因を表

す CAUSEによって LCS2の原因として機能していることを表示している。

また、ここで、zという場は必ずしも上方にあるところを表すのではなく、平面の概

念を持つところを表すのは普通である。望月(2016:14)では、「平面にものが存在するよ

うになる」という事象を、ON概念により表示している。ここでは、望月(2016:14)を参

考にし、LCS2における「yが移動し、zという場に達する」という事象を「BECOME [y

BE ON−z]」と表示する。

4.3.4.2. 接触を表す<−上(shang)>における LCS合成

続いて、「接触」を表す<−上(shang)>について考えよう。4.3.2 で見たように、接触の

グループは原因複合動詞に属するので、以下の(62) と(63)のように分析できる。

(62) 自動詞

他遇上了李老师

(彼は李先生にあった)

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LCS1: [x ACT]

CAUSE LCS2: BECOME [y BE WITH − z ]

項構造: x「他(彼)」 y=x「他(彼)」 z「李先生」

(63) 他動詞

他关上了门。

(彼はドアを閉めた。)

LCS1: [x ACT ON y]

CAUSE LCS2: BECOME [y BE WITH − z ]

項構造: x「他(彼)」 y「门(ドア)」

(62)の自動詞の場合では、「動作主 xが意図的に移動する」という事象 LCS1と「y(こ

こでは動作主 xと同一指標を与えられているので同じ人間を指す)が zに接触するとい

う」事象 LCS2 が合成され、LCS1 が LCS2 の上位事象となる。(63)の他動詞の場合は、

自動詞と同じような構造になっているが、違うのは、zという着点項が具現されていな

い。ここでは、「接触」という結果性は、WITHとして抽象化される。

4.3.4.3 時間関係を表す<−上(shang)>における LCS合成

後に、時間関係を表す<−上(shang)>について考えよう。

まず、「結果」を表す<−上(shang)>から見よう。前節でも触れたが、「結果」を表す<−

上(shang)>は、目標は上に存在すること意識し、目標の達成や好ましい結果を求めるこ

とを表す。したがって、ここでは、アスペクトを表す<−上(shang)>の LCSを(64)のよ

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63

うに設定する。(64)における「GOOD RESULT」は「好ましい結果」を意味する。

(64) 結果を表す<−上(shang)>

[BECOME [[LCS1] BE AT−z]]

GOOD RESULT

「他考上大学了(彼は大学の入学試験に合格した)」を例として、分析してみると、(65)

のようになる。

(65) 他考上大学了

(彼は大学の入学試験に合格した)

LCS2: [BECOME [[LCS1 x ACT ON y] BE AT−z]]

GOOD RESULT

(65)の LCS合成を読み解くと、「考上」とは、LCS1「動作主 xが意志をもって大学の

入学試験を受ける」という事象と LCS2「成功する」という事象が合成され、合成され

た後は、LCS1が LCS2に埋め込まれた補文構造となる。(65)では、LCS1が他動詞なの

で、「考上」などは項構造上、全体的に他動詞として振る舞うように見える。

次に、「開始」を表す<−上(shang)>を見よう。「開始」を表す<−上(shang)>は新たな事

態の発生を表す。ここでは、「開始」を表す<−上(shang)>の LCS を(66)のように設定

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64

する。

(66) 開始を表す<−上(shang)>

[BECOME [[LCS1] BE AT−z]]

START

(66)の LCSを利用して、例えば「吵上(けんかし始める)」は以下のように分析できる

(67) 一回到家,他的父母又吵上了。

(家に着くと彼の父と母はまたけんかし始めた。)

LCS2: [BECOME [[LCS1 x ACT] BE AT−z]]

START

(67)の LCS 合成は、、LCS1「親が喧嘩する」という事象が LCS2「始める」に埋め込

まれることにより合成される。

4.3.5. <−上(shang)>における意味拡張

以上、本章の分析では、<−上(shang)>複合動詞に 7種類の LCS合成を提示した。ここ

で、影山(2013:11)で提案されている語彙的複合動詞動詞の再編成に従い、以上の分析を

まとめると、表(11)のようになる。

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65

表 11

<−

上(shang)>

意味特徴 前項動詞の

自他 意味関係

<−上 (shang)>

の意味変化

「方向」を

表す

自動詞 様態

主題関係

複合動詞

UPWARD

他動詞 原因 ON

「接触」を

表す

自動詞 原因 WITH

他動詞 原因 WITH

「結果」を

表す 他動詞

補文

関係 アスペクト複

合動詞

GOOD

RESULT

「開始」を

表す 自動詞

補文

関係 START

表(11)でみられるように、影山(2013:11)の新分類に従うと、位置関係における「方向」

と「接触」の 2 つのグループは、主題関係複合動詞となり、時間関係における「結果」

と「開始」の 2つのグループはアスペクト複合動詞となる。影山(2013:3−46)では、主に

アスペクト複合動詞の性質について論じ、外国語との対照においてもアスペクト複合動

詞はかなり稀な存在で、日本語固有の特徴ではないかと述べている。本章で触れたよう

に、中国語においても、結果補語以外に、<−上(shang)>のような移動複合動詞において、

V2は語彙的意味が希薄化し、アスペクトを表すようになる現象が見られる。

また、この節では、<−上(shang)>の LCS合成を分析することを通し、<−上(shang)>に

おける文法化のプロセスもみえてくる。<−上(shang)>の意味ネットワークは、(68)のよ

うになしている考えられる。

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(68) UPWARD → GOOD RESULT

WITH ← ON → START

4.4. 本章の総括

本章は上昇を表す日本語複合動詞「−あがる/−あげる」と中国語複合動詞<−上

(shang)>をとりあげ、考察を行った。両者の基本義は「上方移動」を表すが、「−あがる

/−あげる」と<−上(shang)>が複合動詞の後項として機能する場合、その意味拡張には相

違点がみられる。「−あがる/−あげる」に関して、本章ではと産出動詞とアスペクト辞

として機能する「−あがる/−あげる」の組み合わせを考察した。結論として、「−あがる

/−あげる」は動作そのものの終了を表しており、産物が出てくることに重点を置き、

「空間的上昇」との関わりが深いのである。一方、中国語の<−上(shang)>に関しては、

時間関係の意味において、さらに「結果」と「開始」の 2 つに分けられる。「結果」の

意味は原義の UPWARDと結びついており、即ち GOOD IS UPのメタファーにより拡張

されてきたと考えられる。「開始」の意味は、接触の ON から拡張されたと考えられ、

ある出来事が認知面に登場し、持続することを表すようになったと思われる。

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第五章 結論

本論文では、場所表現と移動表現を軸に、日本語と中国語における上(UP)概念につい

て考察した。本論文で論考した両言語の空間認知における特徴を考えると、中国語が日

本語に比べ、より有界的な表現が必要であることを示唆するようである。

中国語における「有界性」の卓越性の第一の根拠として、沈(1995)、池上(1981,2007)

によると、中国語と日本語の名詞は、「非有界的」への志向性を持つと考えられるが、

場所表現において、中国語の裸名詞は場所を表す際、方位詞の使用はほぼ義務的である。

一方、日本語の空間名詞の使用は、アフォーダンスによって動機付けられており、つね

に省略が可能である。中国語における有界性の卓越は、名詞を方位詞や数量詞等により、

場所化や個体化することを必要とする。

第二に、中国語の<−上(shang)>複合動詞における<−上(shang)>の意味拡張の分析では、

拡張義において、中国語の<−上(shang)>は日本語の「−あがる/−あげる」と同じように

メタファーを通して抽象的概念である GOOD RESULT というアスペクト的な用法を生

み出す他、平面的な概念 ONを用い、開始のアスペクトを表す用法もある。しかし、日

本語においては、開始のアスペクトはこの平面的な ON 概念を表す形式は用いられず、

「−出す」「−始める」というアスペクト複合動詞となる。ON 概念の卓越は、中国語で

は、空間を bounded(有界化)する傾向の強さを反映しているのではないかと考えられ

る。

有界性・無界性といった、人間の認知に関わる対立はそれぞれどのように日本語と

中国語に反映されているのか。今回の研究を新たな出発点として、これらの問題を続

けて研究していきたい。

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