富士通グループの環境に配慮した製品...fujitsu datacenter product modular data center...

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FUJITSU. 65, 2, p. 60-70 03, 201460 あらまし 富士通グループでは,気候変動・エネルギー問題および資源の有効活用といった様々 な社会課題の解決に貢献するため,製品の環境配慮を推進し,社会基盤(インフラ)から オフィス・家庭まで製品・サービスをグローバルに提供している。今回は,環境に貢献 する優れた製品として社外および社内の表彰制度において受賞した中から, UNIXサーバ: SPARC M10,コンテナ型データセンター:FUJITSU Datacenter Product Modular Data CenterATM (自動預金支払機):FACT-V X200,汎用型蓄電システム:FPSSフィスⅠ型,ルームエアコン:「ノクリア」 Xシリーズの五つの代表的な製品を取り上げる。 UNIXサーバは,「平成25年度地球温暖化防止活動環境大臣表彰」において,技術開発・製 品化部門で環境大臣表彰を受賞した。コンテナ型データセンターは,「グリーンITアワー 2013」において,審査員特別賞を受賞した。また,そのほかの製品は,富士通グループ の表彰制度である環境貢献賞を受賞した。 本稿では,これらの製品で開発・採用した新技術,および省エネ効果などの環境に配 慮した設計の概要を中心に紹介する。 Abstract The Fujitsu Group takes environmental awareness seriously, and as part of tackling environmental issues in society such as climate change, energy conservation and sustainable use of natural resources, it provides eco-friendly products and services globally, catering for needs at various levels from infrastructure to commercial and household. This paper features ve award-winning products that represent the Fujitsu Groups excellent eco-friendly products, namely SPARC M10 (UNIX server), FUJITSU Datacenter Product Modular Data Center (container datacenter), FACT-V X200 (ATM), FPSS Commercial Type I (universal power storage system), and Nocria X-series (air-conditioning). The UNIX server was awarded the Environment Ministers commendation in the Technology Development and Commercialization Category of the Minister of the Environments 2013 Commendation for Global Warming Prevention Activity. The container datacenter won a Board MembersRecommendation at Green IT Award 2013 Japan. Other products received various awards for environmental contribution through the Fujitsu Groups awards program. This article presents these products focusing on the new technologies that have been developed and deployed in them. It also outlines their energy efciency and other environmentally conscious design aspects. 恩田真子   松田岳久   加文字 克   福田 博   杉山慎治 御代政博 富士通グループの環境に配慮した製品 Eco-Friendly Products of Fujitsu Group

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FUJITSU. 65, 2, p. 60-70 (03, 2014)60

あ ら ま し

富士通グループでは,気候変動・エネルギー問題および資源の有効活用といった様々

な社会課題の解決に貢献するため,製品の環境配慮を推進し,社会基盤(インフラ)から

オフィス・家庭まで製品・サービスをグローバルに提供している。今回は,環境に貢献

する優れた製品として社外および社内の表彰制度において受賞した中から,UNIXサーバ:SPARC M10,コンテナ型データセンター:FUJITSU Datacenter Product Modular Data Center,ATM(自動預金支払機):FACT-V X200,汎用型蓄電システム:FPSSオフィスⅠ型,ルームエアコン:「ノクリア」Xシリーズの五つの代表的な製品を取り上げる。UNIXサーバは,「平成25年度地球温暖化防止活動環境大臣表彰」において,技術開発・製品化部門で環境大臣表彰を受賞した。コンテナ型データセンターは,「グリーンITアワード2013」において,審査員特別賞を受賞した。また,そのほかの製品は,富士通グループの表彰制度である環境貢献賞を受賞した。

本稿では,これらの製品で開発・採用した新技術,および省エネ効果などの環境に配

慮した設計の概要を中心に紹介する。

Abstract

The Fujitsu Group takes environmental awareness seriously, and as part of tackling environmental issues in society such as climate change, energy conservation and sustainable use of natural resources, it provides eco-friendly products and services globally, catering for needs at various levels from infrastructure to commercial and household. This paper features five award-winning products that represent the Fujitsu Group’s excellent eco-friendly products, namely SPARC M10 (UNIX server), FUJITSU Datacenter Product Modular Data Center (container datacenter), FACT-V X200 (ATM), FPSS Commercial Type I (universal power storage system), and Nocria X-series (air-conditioning). The UNIX server was awarded the Environment Minister’s commendation in the Technology Development and Commercialization Category of the Minister of the Environment’s 2013 Commendation for Global Warming Prevention Activity. The container datacenter won a Board Members’ Recommendation at Green IT Award 2013 Japan. Other products received various awards for environmental contribution through the Fujitsu Group’s awards program. This article presents these products focusing on the new technologies that have been developed and deployed in them. It also outlines their energy efficiency and other environmentally conscious design aspects.

● 恩田真子   ● 松田岳久   ● 加文字 克   ● 福田 博   ● 杉山慎治● 御代政博

富士通グループの環境に配慮した製品

Eco-Friendly Products of Fujitsu Group

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富士通グループの環境に配慮した製品

ラスの鉄壁な信頼性,省電力/省スペースを満たした次世代サーバである(図-1)。● 環境負荷低減に貢献する技術

SPARC M10は,省電力/省資源設計により環境負荷低減を支援している。(1) サーバ自身の環境負荷低減サーバ内の電力消費比率の中でプロセッサの電力量は大きな比率を占めている。SPARC M10では,最先端半導体テクノロジーを採用したプロセッサを搭載し,高集積化・高性能・省電力化を実現している。富士通が開発した高性能プロセッサSPARC64 Xは,28 nmの半導体プロセス・テクノロジーを採用し,1プロセッサあたり16個のコアを搭載している。また,最新のプロセス技術により周辺LSIをチップ内に集約し,部品点数の削減による消費電力の削減,集積により小型化を図っている。しかし,最新テクノロジーの採用による高集積化と周辺LSIの集約による小型化は,プロセッサに熱を集中させることになる。サーバ装置を安定的に動作させるには,プロセッサを効率的に冷却し,温度を一定以下に保つ必要があるが,一般的なサーバで採用されている空気冷却技術では,ヒートシンクの大型化や冷却ファンの追加が必要となる。しかし,サーバ装置の小型化・高密度化は環境負荷低減には必須であり,従来の空気冷却からの技術革新が必要であった。高効率冷却技術には一部のスーパーコンピュータで採用されている液体冷却技術があるが,液体冷却ではデータセンターに冷却水を供給する設備が必要で,更に設備メンテナンスのため定期的にサーバを停止させる必要

ま え が き

サーバをはじめとするICT機器の高性能化,高集積化が進み,サーバラックあたりの重量の増加によってICT機器を効率良く設置することが近年難しくなり,高効率で初期投資を抑えたデータセンターの開発が求められている。自動預金支払機(ATM)のような産業用機器においても,利用者の待機時消費電力の削減などのニーズが増加している。また東日本大震災を契機に,より安定した電力供給が行える安全で長寿命な蓄電システムのニーズが増している。そして,家庭用エアコンにおいては,欧州など省エネ規則が法制化される中で,省エネ効果と快適さの両立が製造メーカーの急務となっている。本稿では,このような状況を踏まえ,環境に配慮した製品の新技術について詳述する。

UNIXサーバ

データセンターの運用コストにおいては,空調機器の消費電力が大きな割合を占めている。空調機器の消費電力削減に向けてはサーバなどハードウェアの消費電力量の削減,そしてスペースの効率化が大きな課題となっている。これらの課題解決を支援するUNIXサーバSPARC M10を開発した。● SPARC M10の特長

SPARC M10は,環境関連の規格に適合しつつ,ビッグデータ時代の高速リアルタイム処理,ビジネスの成長に合わせた柔軟な運用が可能な拡張性(最大64CPU/1024コア),更に,メインフレームク

ま え が き

UNIXサーバ

図-1 SPARC M10(ラインナップ)

SPARC M10-4SPARC M10-1 SPARC M10-4S

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富士通グループの環境に配慮した製品

している。また,省電力効果を支えている重要な技術の一つが「電源技術」である。電源ユニット内部でICT機器に使用される半導体や様々な部品の駆動に必要な電圧を作り出すときに発生する変換ロスをいかに小さく抑えるかが,電源ユニットの開発における大きな課題と言える。SPARC M10-1の電源ユニットは,変換効率92%(負荷率50%時)を実現し80PLUS(注)GOLD認定を取得,SPARC M10-4およびSPARC M10-4Sの電源ユニットは,変換効率94 %( 負 荷 率50 % 時 ) を 実 現 し80PLUS PLATINUM認定を取得している。環境負荷低減には消費電力削減だけでなく,環境に優しい素材を使用していることが重要である。富士通は,業界で初めてのICT機器のプラスチック筐体に適用可能な水性塗料を開発,従来の溶剤系塗料と比べて,新たに使用する石油の使用量を54%,揮発性有機化合物80%削減し省資源化に寄与している。SPARC M10では,本水性塗料を本体フロントパネルに適用することで地球環境保全に貢献している。(2) 運用時の環境負荷低減

SPARC M10は,装置自体の環境負荷低減だけでなく,お客様の運用を通して環境負荷低減に貢献するための仕組みを実装している。機器の運用状況,稼働状況,負荷率などを見える化できれば,その結果を基に消費電力を抑える対策を打つことができる。SPARC M10では,システム監視機構(XSCF:eXtended System Control Facility)を標準搭載しており,運用時のシステムの動作状態,消費電力,吸気温度,排気量などの情報をいつでも把握できる。更に,本体装置の吸気温度,CPUの温度を監視し,温度異常を検出すると同時にメッセージを表示する。これにより,温度上昇によるシステム不安定を未然に防止することも可能である。データセンター運用においては,電力使用制限など使用する電力量に注意を払わなければならない場合がある。SPARC M10では,Power Capping機能により使用する消費電力に上限を設定することで,任意の時点でサーバが使用可能な電力を減

(注) 80PLUSプログラム(Ecos Plug Load Solutions)が推進する電気機器の省電力化プログラム。

があり,ビジネス分野のサーバには不向きである。そこで,液体冷却技術を更に進化させ,従来の水冷方式の良い点(=高効率)と空冷方式の良い点(=データセンターに専用設備不要,メンテナンスフリー)を併せ持つ新冷却技術「ハイブリッド冷却技術 Liquid Loop Cooling」を開発した(図-2)。

Liquid Loop Coolingユニットはプロセッサから熱を奪うクーリングプレート,熱を空気に放出するラジエータ,冷媒を循環させるポンプを連結した水冷ユニットから構成されている。各パーツの最適化を行い,全体をコンパクトにまとめることで,従来の空気冷却では実現できなかったサーバ装置の小型化とファン電力の削減を可能とした。それだけではなく,本ユニットにはポンプ/ラジエータが内蔵されているため,従来の液体冷却では別途必要であった冷水を循環させる設備が不要である。また,新規開発の長寿命ポンプの採用や,添加剤による冷媒の劣化抑止など長期稼働でも安定的に動作するために多くの技術を盛り込み,メンテナンスフリーを実現した。

SPARC M10では,バックプレーンをなくして冷却風の通気性を向上するとともに,冷却ファンの回転速度をプロセッサ温度に応じて制御するなど効率的な冷却を実現し,更なるファン電力を低減

図-2 ハイブリッド冷却技術 Liquid Loop Cooling

従来の冷却方法

従来の液体冷却従来の空気冷却

ヒートシンク

プロセッサ サーバ 外部冷却装置

Liquid Loop Cooling

配管(送熱部)

送風

クーリングプレート(受熱部)

ポンプ

ラジエータ(放熱部)

Liquid Loop Coolingユニット

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富士通グループの環境に配慮した製品

また,最新プロセッサSPARC64 Xの搭載により,大幅に性能向上したSPARC M10と仮想化機能を組み合わせることで,柔軟かつ大規模なサーバ統合も可能となり,コンピュータルーム全体で,例えば,空調設備にかかる電力削減にもつながり,効果は更に広がると期待できる。このように,SPARC M10は設計・開発~使用までのICT製品のライフサイクルにおいて環境負荷低減に取り組んでいる。

コンテナ型データセンター

サーバの計算能力向上による消費電力の増加や実装の高密度化によるサーバラックあたりの重量の増加に伴って,ICT機器を既存のビル内に効率良く収容することが困難になりつつある。そのために高い冷房能力と耐荷重能力と給電能力を持つ新型ビルのニーズが増えている。しかし,ビルを建築する際の初期投資は数十億から数百億円規模と高額であり,初期投資を抑えて段階的にサービスを発展させたいユーザーには課題となっている。更に,国際的なグリーン対応の要請と昨今の電力事情の問題からサイト運用のための電気エネルギー消費を抑えなければならないという課題がある。これらの課題を解決するために製品化したのがコンテナ型データセンター FUJITSU Datacenter Product Modular Data Center(図-5)である。

コンテナ型データセンター

らす制御を行うことができる。また,未使用なハードウェアや動作率の低い

ハードウェアの消費電力を下げるPower Saving機能により,稼働状況に応じた省電力を実現する機能を備えている。より省電力を求める場合は,省電力モード(Elastic Mode),逆に省電力より性能パフォーマンスを求める場合は,性能優先モード(Performance Mode)と,省電力のレベルを選択することができる。お客様の運用に合わせて,例えば,閑散期で処理量が少ないときには省電力モード,繁忙期は性能優先モードを設定することで業務量に応じた電力使用が可能である。● 省エネ効果・環境親和性

SPARC M10は,富士通の同等クラスの従来機種と比較して,消費電力・スペースを削減している(図-3)。

SPARC M10では,「ハードウェアパーティショニ ン グ 」「Oracle Solarisゾ ー ン 」「Oracle VM Server for SPARC」という仮想化技術を標準で提供している。お客様の業務特性に合わせた仮想化技術が選択可能である。仮想化による集約・統合は,メンテナンス業務の軽減など運用管理業務の効率化だけでなく,ハードウェア資産の物理的な台数削減により,設置スペースや消費電力の削減が期待できる(図-4)。

図-4 同等性能によるサーバ集約の例 図-5 Modular Data Center

図-3 従来機種(富士通同等クラス)との比較

SPARC Enterprise M5000 SPARC M10-4

スペース: 60%削減消費電力: 15%削減

スペース:10U総電力量:最大3270 W

スペース:4U総電力量:最大2765 W

SPARC Enterprise M3000SPARC64 Ⅶ

SPARC M10-1SPARC64 X (2.8 GHz)

スペース: 90%削減消費電力: 68%削減

スペース:10U総電力量:最大2536 W

スペース:1U総電力量:最大763 W

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富士通グループの環境に配慮した製品

たサーバ運用が可能となる。1U/2Wayサーバを搭載した場合の実施例を図-7に示す。合計消費電力の上限制御を行うことで,サーバの搭載率を40%以上改善することができた。また,コンテナ内部に構築するサーバシステムを仮想化すれば,ユーザー利用数の減る夜間などの特定時間帯だけ,低稼働の物理サーバを停止させることも可能である。あるいは,逆に電力需給の逼

ひっ

迫する昼間の時間帯で上限値を通常よりも低目に設定すれば,電力利用の平準化を容易に実現できる(ピークシフト)。従来は,一般的なデータセンターにおいては,万が一の場合の安全を見込んで,ファシリティの最大能力(冷却能力,電力供給能力)よりも十分に低い領域で,ICT機器を稼働させることが普通であった。その結果,サーバの台数を間引いて配置したり能力の低いサーバを導入したりして,本来のファシリティ能力を十分に生かすことができなかった。上記のピークカットやピークシフトの機能を利用すれば,通常の運転においても,ファシリティ能力を限界に近付けて利用し,異常時(設備機器の故障,電力事情の悪化時)にICT機器を停止させずにサービスを継続させることも可能となる。● 高効率な空調システム

Modular Data Centerでは,図-8に示す間接外

● 特長Modular Data Centerは,データセンターに必要な,空調設備,受電設備,ラックなどの物理インフラと,データセンター運用に必要なソフトウェアをパッケージング化したコンテナ型データセンターである。建築基準法上,工作物として扱われるコンテナ型データセンターの設置性,コンパクト性,加えて高い省エネ能力が特長である。間接外気冷却方式を採用することで,省エネを追求しながら,ICT機器に優しい動作環境を作り出すことができる。また,内部に搭載するICT機器類とファシリティの連携制御によって更なる省エネ,効率化の機能を提供している。● 運用管理ソフトウェアファシリティとICT機器の動作を連携,統合して管理・制御し,管理者の運用負荷の削減とデータセンターの省エネ運転を支援する機能をソフトウェアで実現している。運用管理の主な機能は下記のとおりである。

・ ファシリティ機器,ICT機器の構成情報およびステータス管理

・ 消費電力/温度などを測定したデータのレポート出力

・ ポリシー設定による自動制御このうち,ポリシー設定による自動制御について具体的な制御例を示す。ラック単位,あるいはラック内の任意の複数サーバをグループという単位に定義し,これに対して,合計消費電力の上限制御(ピークカット)を行う(図-6)。消費電力の上限値,サーバの稼働優先順位,省電力動作モードのトリガ条件をユーザーがポリシーとして事前に設定すると,その条件に合致する状態が起こった場合に稼働優先順位が低いサーバから先に省電力動作モードに移行させ,全体の消費電力を上限値以下に維持する。従来は,ICT機器の高密度実装を行う場合,ラック全体の最大消費電力が電力供給能力を上回ることがないように,搭載するICT機器の数や機種をあらかじめ制限していた。本ソフトを適用すると,実際の消費電力推移に応じてソフトウェアで制限可能なため,ICT機器をより高密度に実装することが可能となる。また,ポリシーはサーバ単位でも設定が可能であり,重要度の低いサーバのみ消費電力を落とすといっ

図-6 制御例 パワーキャッピング

サーバサーバしきい値超え検出

運用管理ソフトウェア

ポリシー設定:ラック電力>しきい値のとき指定サーバの消費電力制限

ラック消費電力

↓電力供給能力

時間

↓しきい値

ラック

指定サーバに電力制限命令(パワーキャッピング)

電力供給能力を超えないように制御

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富士通グループの環境に配慮した製品

資源の節約と環境破壊の防止に貢献している。以上述べたModular Data Centerは,グリーンITアワード2013において審査員特別賞を受賞した。(2)

これは,外気温に応じて最適な冷却動作モードを選択する空調機とシステムの運用状況に応じてICT機器の消費電力を制御するソフトウェアとの組合せで,従来のデータセンターと比較して,消費電力を40%削減可能なことが評価されたものである。今回の受賞で富士通が製品化してきた開発技術が社会的に評価されたと考えている。今後も,ICT機

気冷却方式とエアーコンプレッサのハイブリット空調機を採用した。通常運転では外気温だけを利用してコンテナ内を冷却する。また,夏場の昼間など外気が高温となる場合の冷却にのみエアーコンプレッサを使用して強制冷却を行う。これらの冷却モードの切替えは自動で行う。必要なインフラは電源のみで冷水や市水は不要である。また,本空調システムはコンテナ内サーバ室に外気を直接取り込まないため,塵

じんあい

埃などのサーバへの影響を抑え,場所を選ばず設置可能である。● 省エネ効果・環境親和性

Modular Data Centerは,データセンターの運用効率を示すPUE(Power Usage Effectiveness)において国内設置時1.1台の能力を発揮する。PUEとは,データセンター全体の消費電力に対するICT機器の消費電力の比率であり,値が1に近いほどICT機器に対する電力使用効率が良い。参考文献(1)によると,2010年度の国内データセンターの平均PUEは約1.74であった。Modular Data Centerはこのような従来のデータセンターと比較して消費電力を約40%削減する能力を有する。また,富士通では使用済みになった本製品やICT機器をリサイクル処理する廃棄サービスを提供し,

給電能力の上限

ピークカット(パワーキャッピング)処理

ピーク値基準の搭載設計の場合

電力

ピークカット機能を前提に搭載設計した場合

時間

【従来】ラックあたりの搭載台数 34台

搭載可能台数が49台にUP

1U/2Wayサーバでの効果例サーバ例:FUJITSU Server PRIMERGY RX200 S7(1U) CPU Intel Xeon E5-2650 @ 2.00 GHz ×2 メモリ 32 Gバイト(4 Gバイト LV-RDIMM ×8) 800 W電源×1 最大消費電力 359 W

40%以上改善

図-7 電力制御による搭載率の向上

図-8 ハイブリット空調機

冷気

暖気

外気

間接外気冷凍機 (常用)

ハイブリット空調機 コンテナ

圧縮式冷凍機(外気高温時併用)

ブライン

冷媒

熱交換器 熱交換器

熱交換器 熱交換器

Hot

Cold サーバ

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器,ファシリティに関する新しい技術を実装していくことで,更なる省エネルギー運用とコスト削減が可能なデータセンターソリューションの提供を目指していく。

ATM(自動預金支払機)

金融機関では,窓口業務の自動化を進めるため,ATMの導入を進めてきた。特に,1990年代は処理性能の向上がキーワードであり,「支払い取引であれば,10秒で完了する」をうたい文句にするほどであった。その後,ATMは,単純な取引を行うことで窓口業務を補完するだけの端末から,より複雑な取引業務を行うサービスポイントとして位置付けられ,金融機関において,なくてはならない端末へと進化した。● ATMの省エネへの取組み

1994年に発売したFACT-Aは,高速処理を実現したATMである。同時に,ATMの取扱い業務に応じてその時点で無用なユニットの電源を切断する機能や,ユニットの起動を高速化するなど,省エネにも配慮した画期的な内部インターフェースを持つATMであった。その後1999年に発売したFACT-Vシリーズでもこのインターフェースを引き継いできた。

FACT-V X200(図-9)では,産業用機器こそ省エネを実現することでその効果が発揮できると考え,抜本的な省エネに取り組んだ。● 内部コンポーネントの省エネ技術特に重視したのは,ATM稼働時間のほとんどを占める「利用者待機時」の省エネである。真っ先に取り組んだのは,装置の電源ユニットの効率化である。昨今の電源は,非常に効率良く設計されているが,通常,技術者は,最大負荷での効率アップを狙う。ATMは内部に大きなメカユニットを内蔵しており,取引時には大きな電力を消費する。しかし,それは数秒の間である。ATM稼働中の多くの時間は利用者を待つ時間で占められており,そのときの消費電力は小さくなる。FACT-V X200では,低負荷時の効率アップを狙える新しい電源ユニットを採用した。一方,取引時に最も多くの電力を消費するのは紙幣ユニットである。紙幣の駆動力を生み出す機構の負荷削減やモータの見直しを行うことで,動

ATM(自動預金支払機)

作時の消費電力削減にも取り組んだ。更に装置の冷却ファンでは,装置の内部温度に応じて回転数を変化する制御を行う。低温時には回転数を小さくすることで消費電力を削減することができた。このような取組みにより,待機時消費電力194 W,最大消費電力650 Wと,従来機に比べて約40%もの消費電力削減を達成した。● スーパーエコモード先にも述べたが,ATMの稼働時間の多くは,利用者を待っている時間である。FACT-V X200では,一定時間取引がないと装置内部のメカユニットの電源を切断することで消費電力を削減するスーパーエコモードを用意した。このモードでは装置の消費電力を65 Wまで削減することが可能である。このモードを積極的に使っていただくためには,利用者を待たせないようにスーパーエコモードからの復帰時間を短くすることが条件となる。FACT-V X200では,メカユニット内部の制御CPUの起動処理内容の簡素化や無駄なメカリセット動作の削減を実施し,起動時間を最短となるように設計した。通常状態へは9秒以内で復帰し,ATMが提供する全ての取引が可能な状態となる。● 環境素材の採用・リサイクル

FACT-V X200は,再生プラスチックや植物性プラスチックの採用を行うなど,環境性能にこだわっ

図-9 FACT-V X200

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富士通グループの環境に配慮した製品

た製品作りをしてきた。筐体にはクロムフリー鋼板を採用し,塗装に関しては紛体塗装を使用することで,VOC(揮発性有機化合物)の削減および塗料の回収,再利用などを可能としている。また装置の設計面では,顧客操作部のカバー部品を分割して取り外し可能としている。これは,製品出荷後にオプション部品の取付けなどで改造の要求が多い部分で,改造実施時に廃却する部品数を減らすことが可能である。

FACT-Vシリーズは,これまでも様々な環境対応部材を使用してきた。FACT-V X200では省電力などの新たな技術を採用することで富士通スーパーグリーン製品と認定された。

ATMを利用されるお客様や運用される皆様の利便性を満足した上で,より一層環境にも配慮した製品開発を進めていく。

汎用型蓄電システム

東日本大震災を契機とした電力供給事情の変化から,家庭・オフィス・工場などそれぞれで「電気を創る,蓄える,賢く使う」時代が到来している。これを受けて,防災用途でも蓄電池のニーズが高まっており,定置用蓄電池システム市場で大きな成長が見込まれる。加えて,2010年頃よりスマートグリッドの構築や再生可能エネルギーの普及に伴い,安定した電力の最適な利用に向けた社会的インフラとして,蓄電池が普及の兆しを示し始めた。以上のようなビジネス環境の変化に対応すべく,

FDK株式会社(以下,FDK)では,電子・電池部品の保有技術のシナジーから生まれた蓄電システムを新開発事業の柱として新しいビジネスドメインに加え,安全で長寿命なニッケル水素電池を活用した汎用型蓄電システムFPSS(FDK Power Storage System)オフィスⅠ型(図-10)を新規開発した。本蓄電システムは系統電力と使用機器の間につなぎ,蓄電池本体のコンセントに接続することで,停電時に自動で電力を供給する。また,日常の電力使用のピークシフトにも使えるため,CO2の削減や電気料金の削減に貢献ができる。● 開発方針開発方針は,ユーザーメリットを第一に,以下

汎用型蓄電システム

利用シーンを想定し,万が一の停電時には「非常用電源」として活用でき,通常時には電力ピークカットに活用できる蓄電池システムを目指した。製品はオフィス環境でお客様のニーズに応じて設置できるように,クリーンで静寂,可搬型,机下収納可能な高さなど,ユーザーの利便性を重視した設計とした。蓄電容量は2.5 kWh,1.6 kWhの2機種とした。(1) 通常時・ 商用電力や太陽光発電による電力を蓄電し,屋外発電機の補助として電源を確保する。

・ 太陽光発電による電力や夜間電力の蓄電を活用した昼間の電力費用圧縮,計画停電時間帯の室内照明・携帯電話・PC・テレビ・冷蔵庫など,生活に必要な最小限の電源を確保する。

(2) 非常時・ 自動的に切り替え,必要最低限の業務を継続できる電源を確保する。

・ 重要システムの無停電電源装置(UPS)に電力を供給し,構成装置の停止を延長する既存設備用UPSの拡張電源を確保する。

● 市場動向国内定置型蓄電システムの市場規模は2011年度蓄電容量換算で23 MWhの実績であった。2012年度は前年比158%,その後も毎年120%を超える高い率で市場成長し,2020年度には885 MWh(2011年度比約40倍)に拡大する見込みである(図-11)。(3),(4)本製品のターゲット市場は開発方針から,UPSや発電機の安定稼働までのつなぎである3 kWh以下の「蓄電池・非常電源」セグメントとした。

図-10 FPSS オフィスⅠ型

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富士通グループの環境に配慮した製品

図-11 業務用蓄電システム市場予測(国内)

● 製品の特長以上の開発方針,市場動向を踏まえ,製品の特長が環境への配慮と改善の方向性が一致するように,またユーザーの利便性も向上するように取り組んだ。以下に製品の特長を示す。(1) 環境負荷が少なく,高安全なニッケル水素電池を採用

・ 多電池系に対して環境負荷物質(鉛電池では鉛・硫酸,ニカド電池ではカドミウム)の使用量が少量。

・ 電解液が水溶液性で,引火時の極めて低い燃焼性。製品の破壊など,万が一のことが発生しても発火・発煙しない特性を有し,リチウムイオン電池などに比べて安全面で定評。

・ ニッケル水素電池は製品の回収・リサイクルモデルが確立しているため,廃棄量を大幅に削減でき,かつ金属製品材料としての再利用が可能。

・ 使用しているニッケル水素電池は第三者安全認証規格(UL2054認証)を取得。

・ 長期間使用しても電池の容量低下が極めて小さく,-10℃環境でも動作するため,低温の地域や場所にも設置可能。

(2) システムとして省スペース・軽量化を実現・ ニッケル水素電池を高密度実装し,蓄電容量2.5 kWhクラスでは業界最小レベルの体積(111 L)を実現(FDK調査)。・ 筐体の軽量化を図り,初期開発モデルに比べて大幅な軽量化(95 kgから79 kg)を実現。

(3) 拡張性・ 一般の商用電源に加え,太陽光発電のパワーコン

ディショナー自立運転出力からの蓄電。様々な電気製品に電力を供給可能。

・ 管理ソフトにより,状態管理およびLAN回線を用いた遠隔監視が最大30台まで可能。

(4) ユーザー利便性に配慮・ オフィス環境に調和したクリーム色の配色など,洗練されたデザイン。

・ LCD操作パネルを斜め前面に配置し,操作性・視認性を大幅に向上。停電時LCD輝度を高め,存在位置を明確化。

・ 部品故障検出にメール通報以外にブザー音で通知する機能を搭載。

・ タイマー機能を搭載し,料金の安い夜間電力で充電し,昼間の日常電源として,オフィスのランニングコスト削減や使用ピーク時間の電力消費抑制(ピークシフト,ピークカット向けスケジュール運転)を実現。

・ 電力供給時に排ガスを伴わないため,屋内環境で使用可能。

・ 出力コンセントを4個(前面2,後面2)有し,用途に応じたレイアウトが可能。

・ 富士通サーバなどで実績のある免震台足機構を標準装備し,キャスター付のため,必要なときに必要な場所へ設置が可能。

・ FDK独自の寿命予測技術搭載により電池を寿命直前まで使用可能。別途,保守サービスに加入いただくことで電池寿命の1年前にお客様へ通知可能。

(5) 環境性・経済性(5)

・ ピークシフトで使用した場合,CO2削減(1.4 t/10年台)

0

10 000

20 000

30 000

40 000

50 000

60 000

70 000

FY11 FY12 FY13 FY14 FY15 FY16 FY17 FY18 FY19 FY20

単位:台(

2.5 

kWh換算)

業務用販売台数(2.5 kWh換算)

出典:シード・プランニング

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富士通グループの環境に配慮した製品

と電力量料金削減(=69 000円/10年台)が可能。・ ピークカットで使用した場合,利用電力平準化と電気基本料金削減(100 800円/10年台)が可能。開発に当たっては,FDKが従来から保有する電子事業と電池事業を融合するとともに,筺体設計,ファームウェア開発,管理ソフト開発,保守サービスなどは富士通グループ内各社のリソースを有効活用することで製品の垂直立上げを行うとともに,製品付加価値の増大と他社追随を許さない製品群の育成を実現した。本製品の開発取組みは2013年富士通グループの環境奨励賞を受賞した。現在,富士通スーパーグリーン製品として申請するよう準備を進めている。FDKでは,今回培った開発の取組みを踏まえ,ニッケル水素電池の安全性と特長を生かし,環境に配慮した蓄電システムの製品開発を継続して進めていく。

ルームエアコン「ノクリア」Xシリーズ

株式会社富士通ゼネラルは,二つの気流をコントロールする独自技術により,節電しながら今までにない自然な風のような心地良さを実現するルームエアコン「ノクリア」Xシリーズを開発した(図-12)。

● エアコンの要素と役割エアコンにおける快適性を左右する要素には,

「温度」「湿度」「気流」の三つの要素があり,本機種の最大の特徴は気流制御へのこだわりにある。そして,エアコンの気流には大きく「冷気および暖気を吹き出して部屋の温度を調整すること」と「部屋の中の対流を制御すること」の二つの役割がある。● DUAL BLASTER(デュアルブラスター)従来のエアコンは二つの役割をセンターの吹出し口一つで兼用し風を送り出していたが,本機

ルームエアコン「ノクリア」Xシリーズ

種では室内機の左右両側にサイドファン「DUAL BLASTER(デュアルブラスター)」(図-13)を搭載し,センターからは冷暖房の風,両サイドからは室温の風を送り出すことで二つの役割をそれぞれ独立した気流に持たせようという新発想から開発した。具体的には,冷房の場合,日本では強い冷気が直接体に当たるのを好まず,風速0.2~ 0.4 m/sの微風が快適とされている。この条件なら設定温度を低くしなくても体感温度を下げられることにより,省エネ効果も期待できる。しかし,センターからの気流だけでは,部屋全体に微風を行き渡らせるのは難しく,そうした流速が得られる領域は部屋の中でも限られてしまう。そこで,本機種では,センターから冷気を水平方向に吹き出すとともに,サイドファン側面から吸気した室温の空気を,冷気よりも大きな風速でやや斜め下向き(標準45度)に吹き出すことで,室内のより広い範囲に微風が生じるようにした。冷風を直接体に向けず自然な風で空気を循環させるため,控えめの設定温度でもそよ風を浴びるような心地良い涼感が得られ,エアコン冷房が苦手な人にも快適である。一方,暖房の場合は,逆にセンターからの暖気を下に向けて吹き出し,サイド気流が暖気の上昇を抑え込むように暖気のやや上方に向かって送風する。これにより,暖気が上がるのを防ぎ,温風を部屋の隅々まで広げることで,足元を暖める「頭寒足熱」の快適暖房を実現した。また,熱交換率を従来より約20%高めた高効率熱交換器の採用などにより,高い省エネ性とトッ

図-12 ルームエアコン 「ノクリア」 Xシリーズ図-13 「DUAL BLASTER(デュアルブラスター)」

イメージ

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富士通グループの環境に配慮した製品

プクラスの暖房能力を両立するとともに,室内機とリモコンに内蔵された温度センサーが自動で冷やし過ぎや暖め過ぎを抑制する「ひとりでにeco」などの多彩な節電機能も備えている。本機種の開発により,控えめな運転で節電しながら快適さを得たいというニーズに応えるとともに,エネルギー消費量(使用時のエネルギー消費CO2排出量)の削減に努めていく。

む  す  び

本稿では,富士通グループの環境に配慮した製品の代表的な事例を紹介した。これからもお客様および社会の要望に応えるべく,環境に配慮した製品を引き続き提供していく所存である。最後に,グリーンITアワード2013審査員特別賞は富士電機株式会社様と富士通研究所および富士通が共同で受賞したものです。製品開発に当たり多大なるご協力をいただいた富士電機株式会社様

む  す  び

に厚く御礼申し上げます。

参 考 文 献

(1) 日本データセンター協会:データセンターにおける節電対策マニュアル改訂版(Ver.1.3).2012年6月21日.

(2) 富士通:「グリーンITアワード2013」においてコンテナ型データセンター「Modular Data Center」が審査員特別賞を受賞.2013年9月18日.

http://pr.fujitsu.com/jp/news/2013/09/18.html(3) シード・プランニング:定置用蓄電池/蓄電システム市場動向調査 ―スマートコミュニティに向けた蓄電池普及への各社の戦略―.2012年1月27日.

(4) シード・プランニング:定置用蓄電池/蓄電システムの市場動向調査結果.2012年2月9日.

http://www.seedplanning.co.jp/press/2012/2012020901.html

(5) 東京電力・オール電化プラン料金体系.2013年6月30日現在.

恩田真子(おんだ しんこ)

エンタプライズサーバ事業本部事業企画統括部 所属現在,UNIXサーバの拡販に従事。

松田岳久(まつだ たけひさ)

IAサーバ事業本部データセンタープロダクト事業部 所属現在,コンテナ型データセンターの開発に従事。

加文字 克(かもんじ まさる)

富士通フロンテック(株)金融システム事業本部金融システム事業部 所属現在,国内ATMの開発に従事。

福田 博(ふくだ ひろし)

FDK(株) システム電池事業部 所属現在,システム電池の製品開発に従事。

杉山慎治(すぎやま しんじ)

(株)富士通ゼネラル空調機開発本部国内RAC開発事業部 所属現在,国内向けルームエアコンの設計開発に従事。

御代政博(みよ まさひろ)

環境本部グリーンビジネスイノベーション統括部 所属現在,製品のエコデザイン対応の推進に従事。

著 者 紹 介