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Page 1: 手指殺菌・消毒剤の科学 近藤 静夫日本で手指の殺菌・消毒に繁用されているものは、以下のよう なものである。医薬品及び医薬部外品としての承認品目がある。

 日本で手指の殺菌・消毒に繁用されているものは、以下のよう

なものである。医薬品及び医薬部外品としての承認品目がある。

  手指専用として製剤化したものは、ラビング剤(速乾性擦式

剤)及びスクラブ剤に集約される。それぞれの原薬及び製剤に

ついて、「有効性」「安全性」「物理化学的特性」「特徴」などに

ついて、以下にまとめる。

手指殺菌・消毒剤の科学 インフェクション コントロール コーディネータ 近藤 静夫

手指殺菌・消毒剤の科学

 昨今の医療機関では、エビデンスの言語が定着したと言い切

っても間違いではないと思われる。元来、EBMとは、Scientific

Evidence Based Medicineとして、慣習医療によらない科学

的根拠を持つ医療・治療・施術などに向けたメディカルスタッフ

に対して出てきたものである。しかしながら、院内感染対策も医

療 の質に対して部外扱いできるべくもなく、コメディカルスタッフ

も一体したものとして要求されるものと考えるべきと思われる。

 また、CDCガイドラインにも、院内感染対策に求められることと

して、経済的で実践が可能なこと、研究レベルであることに加え

科学的根拠の必要を提唱している。

 したがって、EBMとは「科学を集めたもの」であって、創作しな

ければならないことや記録も含めた情報を管理するシステムを

構築することにつながるべきものと考える。

 近年、医療の質を問うものとして、病院機能評価が避けて通

れないテーマとなってきた。 病院機能評価と院内感染対策との

関わりは、病院全体の組織としてEBMが創作され、マネジメント

で機能を果たしているかをアカウンタビリティ(説明)できるかとい

うことであろうと考察する。

 そこで、本著では「手指殺菌・消毒剤の科学」をまとめることと

したが、EBMの創作の一助になれば幸いと願う。

《解説の項》 塩化ベンザルコニウムには原薬とその水溶液製剤がある。

 本質は第四級のアンモニウム塩で 陽イオン界面活性剤であり、

日本薬局方に収載されている医薬品である。

 原薬としての「塩化ベンザルコニウム」が収載され、製剤として

の「塩化ベンザルコニウム液」の水溶液が収載されている。それ

以外に、「濃塩化ベンザルコニウム液 50」という名称で、濃度が

50.0超~55.0%を規格とする水溶液が追加的に収載された。

 なぜ、このような複雑な組み合わせになってしまったのか知

る人はほとんどいないと思われるので、これを機会として知識

の一端として解説する。

 医薬品とは、疾病を治療し、健康維持させることが目的で投与

されるものであり、したがって適量が守られなければならない。この

ために投与量をコントロールしやすい製剤が必要になる。

 日本薬局方では製剤を収載した場合は、その原薬も収載しな

ければならないことが原則となっている。

 その理由は、製剤に使用する原料は厳しく試験されなければ

ならないためであり、試験項目を多くして不純物の混入限度も厳

しくされる。

 そのかわり、製造工程に問題がない限り、できあがった製剤は

1 塩化ベンザルコニウム

医薬部外品としての承認品目

セチル酸化ベンザルコニウム(本品は医薬部外品)

トリクロサン

クロルキシレノール

イソプロピルメチルフェノール

手指の殺菌・消毒に繁用される成分

医薬品としての承認品目

塩化ベンザルコニウム

グルコン酸クロルヘキシジン

ポビドンヨード

エタノール

Page 2: 手指殺菌・消毒剤の科学 近藤 静夫日本で手指の殺菌・消毒に繁用されているものは、以下のよう なものである。医薬品及び医薬部外品としての承認品目がある。

  2 グルコン酸クロルヘキシジン【1】化学名又は一般名

《科学的事項》

多くの試験項目を省いて省力化してもよいことになっている。 次に、「濃塩化ベンザルコニウム液50」が収載されなければならなくなった経緯であるが、原薬たる「塩化ベンザルコニウム」が薬 局方収 載されてはいるものの、実際には製造された実績はなく、原薬に相当させるものとして代替品が必要となった。 その結果、当該品がその役割を担うようになった。 したがって、「濃塩化ベンザルコニウム液 50」は、製剤の「塩化ベンザルコニウム液」に対する原薬扱いとして収載されたものである。 原薬を溶解しただけのものをガレニウス製剤という呼び方をしているが、これに該当するのが「塩化ベンザルコニウム液」であり、古くから5 0%の濃度のものと10%濃度の2 種類が市販されてきた。 最近では、製薬メーカーが 0.02~ 0.1%程度の滅菌済みの使用濃度のものを販売するようになっている。 複数濃度の「塩化ベンザルコニウム液」製剤が存在して複雑であるが、薬局方上の解釈は以下のようになる。 「塩化ベンザルコニウム液」が収載されている薬局方の個所を医薬品各条と呼ぶが、当該各条の含量規格を記載した部分には、濃度が固定しているということの記述はない。 [本品は定量するとき、換算した脱水物に対し、塩化ベンザルコニウム(C22H40ClN: 354.02として)95.0~105.0%を含む]とは記述されているが、固有濃度は明らかにされていない。 すなわち、製剤としては50%、10%、0.02~ 0.1%のいずれであっても薬局方製剤であることを意味し、市販されている個々の濃度のものは、使 用しやすいように調製された設計品といえる。

ベンザルコニウムクロリド、逆性石けん

【2】分子式(分子量)

[C6H5CH2N(CH3)2R]Cl  R : C8H17~C18H37(平均354.02)(主としてC12 H25及び C14H29からなる)

【3】物理化学的性質

(1)純品は白色~黄白色の無晶性粉末又はゼラチン状の小片で、   特異なにおいがある。水、エタノールに極めて溶けやすく、アセ  トンによく溶ける。

【4】毒性、皮膚粘膜刺激性

(1)急性経口毒性:LD50;ラット400mg/kg、マウス350mg/kg(2)皮膚粘膜刺激性:通常の洗剤(陰イオン界面活性剤)に比べて   局所刺激性が強いので、散布しないようにする。ミストに触れ   たり、吸引の恐れがある場合は、マスク、保護メガネを着用する。

【5】抗菌性と作用機作

(1)抗菌性:グラム陽性菌及びグラム陰性菌のほとんどの一般細   菌類に有効。酵母様の真菌に有効。芽胞菌及びウイルスには   効果がない。(2)作用機作:細胞膜を損傷、細菌の酵素タンパクを変性させる。

   1)手指の消毒;0.05~0.1%   2)器械・器具の消毒;0.1~0.2%   3)設備・環境の消毒;0.1~0.2%(2)注意事項:添付文書に用法の一部として記載されるが、効果  と有害性の関係から避けるべき用途(薬事上の記載義務と   実効果)。   1)浸漬消毒;手指消毒のベースン法は避ける(消毒液の微生    物汚染)。   2)噴霧・散布の禁止;ミスト吸引の有害性に比べて得られる    効果は小さい。

【7】安定性

(1)熱安定性:極めて安定でオートクレーブ処理(121℃)しても、   ほとんど分解しない。傷、粘膜、結膜嚢に使用する場合は、   使用濃度に希釈してから滅菌しなければならないが、熱分解   の心配はない。(2)光安定性:極めて安定で室内散光暴露では、ほとんど分解  しない。

【8】取扱い上の注意

(1)不適正素材:多孔質な素材、吸着性の合成ゴム、合成樹脂、   合成繊維には使用しない。(2)配合禁忌:石けんは効果を減弱させる。陰イオン界面活性剤、  ヨウ素、過酸化物には配合禁忌である。(3)誤用、誤飲の注意;誤飲事故が多く、死亡例も多いので保管   に注意する。

【6】効能・効果及び用法・用量

(1)主たるものだけを以下に記載し、詳細は添付文書に譲る。

《解説の項》 グルコン酸クロルヘキシジンは水溶液として存在する。本質はビグアナイド系化合物であり、クロルヘキシジンをグルコン酸塩にしたもので、「20%水溶液」製剤及び「5%水溶液」製剤の医薬品がある。 2 0%液は日本薬局方収載の医薬品であるが、クロルヘキシジンのグルコン酸塩としては原薬が存在しないので、製剤が収載されながら原薬が収載されていない薬局方医薬品としては、少ない例外のひとつである。 クロルヘキシジンとしては粉末の原薬が存在するが、水に溶けやすくするためにグルコン酸塩としたが、乾燥物として取り出せないのが原薬を得られないことの原因である。 原薬が存在しないので、20%液が製剤としての収載でありながら原薬と同等の厳しい規格試験が設けられている。 確認試験や純度試験の項目が多く設定されており、規格も厳格である。 純度試験の項目のうち、分解物のp-クロルアニリンの混入量を制限する規格が特に厳しいものであるが、グルコン酸塩を合成した初期から微量含まれており、長期保存するほど増加していく。 本剤は多くの製薬メーカーが製造販売しているが、製品の品質比較をする場合の指標成分になると考えられる。 5%液は日本薬局方外の医薬品で、界面活性剤と色素(赤色)が添加されている。20%液とほとんど同様の「用法・用量」並びに「効能・効果」であるが、添加物の影響で「結膜嚢の洗浄」だけが

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(1)純品はない。クロルヘキシジンは粉末状の結晶で水に溶けな   いが、グルコノデルタラクトンの水溶液へ添加することによって   グルコン酸塩となり、水に溶けるようになる。   グルコン酸の塩にしたものが水に最も溶けやすく、殺菌力が   発揮できるようになる。結晶として取り出し難いので原薬が   存在しない。   20%液は無色~微黄色の粘性の液で、臭いはなく、苦い   味がある。氷酢酸、水と混和し、エタノールとアセトンと混和す   るが溶媒量を増加すると白濁する。   5%液は赤色澄明の粘性の液である。(2)市販品:消毒剤として20%及び5%の原液製剤及び使用濃度   に希釈した製剤が販売されている。(3)使用濃度製品:近年、0.02~0.1%程度の使用濃度液が上市   されるようになり、希釈して院内製剤で自家調製する手間が省   けるようになった。市販品は滅菌製剤である。

手指殺菌・消毒剤の科学

【1】化学名又は一般名

《科学的事項》

クロルヘキシジン グルコネート

【1】化学名又は一般名

《科学的事項》

ポビドンヨード

 3 ポビドンヨード

《解説の項》 ポビドンヨードは高分子のポリビニルピロリドン(PVP)の架橋構造に取り込まれたヨードホール(包接化合物)で、本質はヨウ素である。 ヨウ素結晶が水に不溶性である欠点を補うために包接化合物にして水溶性とした。 ポリビニルピロリドン中に10%含まれ、粉末であるが原薬中のヨウ素濃度は10%にとどまる。 スクラブ剤、ラビング剤に製剤化される以外に、水溶液製剤、含嗽剤及びクリーム剤にも製剤化されて幅広い範囲に使用される。

5%液では削除されているので注意を要する部分である。

【2】分子式(分子量)

C22H 30C l2N 10・2C 6H 12O 7(897.77)

【3】物理化学的性質

(1)急性経口毒性:LD50;ラット2,000mg/kg、   マウス1,260m g/kg(2)皮膚粘膜刺激性:過敏症のヒトでは、アナフィラキシーショック   の副作用がみられることがある。   再評価により、高濃度での粘膜への適用は、「用法・用量」   「効能・効果」から削 除された。

【4】毒性、皮膚粘膜刺激性

(1)抗菌性:グラム陽性菌及びグラム陰性菌のほとんどの一般細   菌類に有効。酵母様の真菌に有効。芽胞菌及びウイルスに   は効果は不十分。( 2)作用機作:細胞周辺に有効成分が吸着され、細菌の酵素阻   害や細胞質膜を変質、あるいは損傷させる。

【5】抗菌性と作用機作

(1)主たるものだけを以下に記載し、詳細は添付文書に譲る。   1)手指、創傷部位の消毒;0.02%   2)器械・器具の消毒;0.01~0.05%   3)設備・環境の消毒;0.1%(2)注意事項:添付文書に用法の一部として記載されるが、効果   と有害性の関係から避けるべき用途(薬事上の記載義務と   実効果)。   1)浸漬消毒;手指消毒のベースン法は避ける(消毒液の微生    物汚染)。   2)噴霧・散布;ミスト吸引の有害性に比べて得られる効果    は小さい。

【6】効能・効果及び用法・用量

(1)熱安定性:熱安定性は優れない。オートクレーブ処理(121℃)   による分解は避けられない。   傷、粘膜、結膜嚢に使用する場合は、使用濃度に希釈して   から滅菌しなければならないが、1回だけのオートクレーブ処   理であれば分解物生成は僅かですみ、品質不適にまでは至   らない。手直し滅菌として2 回以上 繰り返し滅菌することは、   避けなければならない。(2)光安定性:光安定性は優れないので、直射日光は必ず避け、   室内散光もできるだけ避けるようにして、使用期限以内に使い   切るようにする。(3)分解生成物:熱分解及び光分解で生成する分解物は同じ   p-クロルアニリンで、有害性物質なので注意を要する。

【7】安定性

(1)保存の注意:密栓して保存し、非遮光性の容器に移し替えな   いようにする。(2)希釈の注意:常水(水道水及び井戸水)で 希釈する場合、   常水中の硫酸イオン(>40ppm)を主とするイオン類が含ま   れる場 合は白色 沈 殿を生じる。( 3)配合禁忌:石けんは効果を減弱させる。 陰イオン界面活性剤、   次亜塩素酸ナトリウムは配合禁忌である。

【8】取扱い上の注意

【2】分子式

(C6 H9 ONI 2)n

【3】物理化学的性質

(1)純品は黒褐色の粉末で、水に極めて溶けやすい。(2)市販品:水溶液消毒剤として10%液、スクラブ剤として7.5%   液、含嗽剤として7%液があり、その他にクリーム剤がある。

【4】毒性、皮膚粘膜刺激性

(1)急性経口毒性:LD50;ラット雄8,000mg/kg、  マウス雄8,500mg/kg (2)皮膚粘膜刺激性:ヨウ素過敏症のヒトへの投与を避ける。

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【3】物理化学的性質

   比重;0.789/20℃(3)市販品:手指専用消毒剤として、医薬品、医薬部外品、食品   添加物などがある。   1)無水エタノール;99(vol)%以上のもの(原薬としての扱い)   2)局方エタノール;約95 (vol)%のもの   3)消毒用エタノール;約80(vol)%のもの(76.9~81.4(vol)%)

(1)純品は無色澄明で、揮発性及び可燃性の液である。  特有の香りと焼けつくような味がある。麻酔性がある。  水に任意の割合で混和する。(2)示性値:融点;-114 .1℃、沸点;78 .5℃、引火点;12 .8℃、

(1)急性経口毒性:LD50;ラット13,700mg/kg、   ウサギ9,400mg/kg( 2)皮膚粘膜刺激性:皮膚刺激は少ないが、粘膜は刺激を受け、   深い傷には強い痛みを感じる。

【4】毒性、皮膚粘膜刺激性

【5】抗菌性と作用機作

(1)抗菌性:グラム陽性菌及びグラム陰性菌のほとんどの一般細   菌類に有効。酵母様の真菌に有効。一部の芽胞菌及びウイ   ルスには効果がある。(2)作用機作:ハロゲンとしての細胞毒として働く。

【6】効能・効果及び用法・用量

(1)濃度及び用途:主たるものだけを以下に記載し、詳細は添付   文書に譲る。   1)10% 液剤;原液を塗布する。   2)7.5%スクラブ剤;そのまま手に採り、水で泡立て水洗する。   3)ラビング剤;手に擦り込みながら乾かす。(2)注意事項:ヨウ素過敏症に注意する。

【7】安定性

(1)熱安定性:熱に不安定で、分解してヨウ素ガスを発生する。   オートクレーブ処理してはならない。(2)光安定性:極めて不安定で、分解してヨウ素ガスを発生する。

【8】取扱い上の注意

(1)不適正素材:ヨウ素を吸着する素材には使用しない。(2)配合禁忌:石けんは効果を減弱させる。

【5】抗菌性と作用機作

【6】効能・効果及び用法・用量

詳細は添付文書に譲る。

 4 エタノール

(1)抗菌性:グラム陽性菌及びグラム陰性菌のほとんどの一般細   菌類に有効。酵母様真菌に有効、糸状真菌の一部に効果が   あるか又は    であれば多くに有効。芽胞菌に対しては   バチルス属には効果は期待できないが、クロストリジウム属に   は効果が期待できる場合が多い。ウイルスにはアデノやインフ   ルエンザなどの一般的な親油性及び親水性のウイルス及びH   IVに効果がある。肝炎ウイルスのHBV、HCVには、限られた研   究データ数から効果の結論付けが難しかったが、近年、多くの   データが整ってきたことから、「効果あり」と見直し判定される期   待がもてる。(2)殺菌強度:抗菌スペクトルの広い消毒剤で、無水のものよりも   約80(vol)%濃度の消毒用エタノールの殺菌力が最も強い   とされる。(3)作用機作:菌体タンパク質の凝固変性、溶菌、代謝阻害により   数秒の短時間で殺菌効果を示す。

in vit ro

【7】安定性

(1)温度安定性:化学的には問題がないが、エタノールは揮発し   て蒸散しやすいので、必ず密栓して高温の場所を避けて保   管する。  蒸発してエタノール濃度が減じれば、殺菌力は低下する。(2)光安定性:光安定性が強いとはいえないが、直射日光を避け   て保管すれば問題はない。

【8】取扱い上の注意

(1)使用及び保存の注意:火気厳禁、常温で引火性がある。   使用後は密栓して、遮光、冷暗所(15℃以下)保存する。(2)保管上の注意:過塩素酸塩、過酸化ナトリウム、過酸化水素、   クロム酸、硝酸などと同じ場所に保管してはならない。(3)消防法上の規制:第四類危険物に該当するので、保管数量の   制限を受ける。    少量危険物保管施設でない建物には、80 Lを超えて持ち   込んではならない。病院の場合は、ほとんど少量危険物保管   施設ではないので、この場合、甲種防火扉で区画された各   病棟階ごとの規制になる。病室入口の手摺にラビング剤(消   毒用エタノール濃度の速乾性手指擦式剤)を設置する場合は、   合計で 80 Lが限度になる。   さらに、同じ階にエーテル、アセトン、イソプロパノールなどの有

【2】分子式(分子量)

C 2H 5OH (46.07)

【1】化学名又は一般名

《科学的事項》

エチルアルコール、酒精

《解説の項》 アルコール系で、工業的にはデンプン、糖類、セルロースなどを糖化・発酵して作る。 日本薬局方収載の医薬品で、「無水エタノール」、「エタノール」及び「消毒用エタノール」の3つがあり、イソプロパノールが第 部であるのに対し、第 部に収載されている。 薬局方では液剤の濃度は、重量/重量(w/w)であらわすことが原則になっており、このときの表示は、(%)だけを示すことになっている。 エタノールとイソプロパノールの濃度表示は例外扱いされ、容量/容量(v/v)で示すことになっていて、この場合は、(vol)%で表 示しなければならない。 消毒用エタノールの濃度を表現するとき、医療機関では「70%」と呼ぶことが多いが、これは重量パーセントとした表現であり、

(vol)%では「80%」と呼ぶことのほうが正しい。 実際に70(vo l)%と間違ってしまえば、殺菌強度は低下することになるので、注意が必要である。

Page 5: 手指殺菌・消毒剤の科学 近藤 静夫日本で手指の殺菌・消毒に繁用されているものは、以下のよう なものである。医薬品及び医薬部外品としての承認品目がある。

手指殺菌・消毒剤の科学

表1 ラビング剤及びスクラブ剤として設計された市販品の組み合わせ

殺菌成分

主たる成分のみを記載するが、市販される製剤のほとんどを占めている

医薬品と医薬部外品がある医薬品と医薬部外品がある

剤形

有 効 成 分

医薬品収載 医薬品未収載備 考

溶 

ラビング剤 ○ ○ ○ ー ー ー ー ○

○ ○ ○ ○ ○○ ○ ースクラブ剤

塩化ベンザルコニウム

グルコン酸クロルヘキシジン

ポビドンヨード

セチルリン酸化ベンザルコニウム

トリクロサン

クロルキシレノール

イソプロピルメチルフェノール

消毒用エタノール

消毒・殺菌剤が各種開発されてきた。 現在、アルコール性のラビング剤、泡立て洗浄するスクラブ剤のほか、アルコールゲルなどが設計された製剤として市販されている。

 5 セチルリン酸化ベンザルコニウム

《解説の項》 セチルリン酸化ベンザルコニウムの本質は陽イオン界面活性剤である。塩化ベンザルコニウム類似の誘導体で、陰イオンの塩素に置き換え、セチルリン酸の塩とした。殺菌力は 塩化ベンザルコニウムと同等で、皮膚に対する刺激性は弱くなっている。 塩素に置き換えたセチルリン酸が刺激を低減させたと推測される。製剤には、スクラブ剤に設計した医薬部外品がある。衛生的及び日常手洗い用のスクラブ剤として設計された。

 1 ラビング剤 殺菌・消毒剤を手指・手掌、皮膚への「用法・用量」、「効能・効果」に従った濃度に消毒用エタノールでうすめた速乾 式 擦式 製剤である。エタノールによる手荒れ予防にエモリエント(保湿剤)が添 加されている。薬事法上、消毒用エタノールは速乾性をもたらす溶剤としての扱いを受け、殺菌・消毒剤と消毒用エタノールの配合薬としては承認されていない。配合薬とは、殺菌・消毒剤と消毒用エタノールを混ぜた場合、それぞれの「効能・効果」がプラスされるだけでなく、それ以上にプラスαの性能が追加されたときに称されるという規制があるためで、実際にはエタノールの強い効果を期待している向きが多いと思われる。

 2 スクラブ剤 殺菌・消毒剤と洗浄能力をもつ界面活性剤を混ぜ合わせた製剤で、泡立て洗浄効果と殺菌効果を同時に得られるように設計された。スクラブとはゴシゴシ洗うという意を示し、界面活性剤には殺菌・消毒剤の殺菌能力を低下させない成分が選ばれている。看護・介護などの医療行為で通常手洗いするための殺菌・消毒剤入りスクラブ剤と術時の「手洗い+殺菌・消毒剤」として設計されたスクラブ 剤があるので、区別して使用したほうがよい。通常手洗いの目的は、一過性の手の付着菌だけを目的とした接触感染を予防するもので、術時の「手洗い+殺菌・消毒剤」は一過性の手の付着菌だけでなく、できる限り常在菌も除いて術後創感染のリスクを減らすことにある。通常手洗いの抗菌剤入りスクラブ手技を衛生(学)的手洗いと呼んで普通の手洗いシンクを使うが、術時の

「手洗い+殺菌・消毒剤」のスクラブ手技は術場にある手を触れる必要のない特殊な手洗い設備が必要である。

 3 ラビング剤及びスクラブ剤に用いられる  殺菌・消毒剤

 現在、日本で 市販されているラビング剤及びスクラブ剤に用いられる殺菌・消毒剤を 表1に示す。

【2】分子式(分子量)

【3】物理化学的性質

(1)白色~黄白色の混濁したゼリー様の液である。 (2)pH;6.0~7.0( 20倍希釈 ) 比重;1.004~1.074

【1】化学名又は一般名

《科学的事項》

セチルリン酸化ベンザルコニウム

[C 6H 5C H 2N(C H 3)2R][C 1 6H 3 4O 4P ] R : C 8H 1 7~ C 1 8H 3 7

(主としてC1 2H2 5及び C1 4H2 9からなる)

   機溶媒や大豆油、オリーブ油などの油類が保管されていれ   ば、それらの数量分を差し引いてラビング量を減らさなければ   ならない。   対処策としては、別敷地に少量危険物保管倉庫を設けて保   管するか、各病棟ごとに分散させて保管する。

【4】毒性、皮膚粘膜刺激性

(1)急性経口毒性:LD50;マウス1,410mg/kg(2)皮膚粘膜刺激性:塩化ベンザルコニウムとの比較試験で皮内   感作は1/10~1/30で、接触感作は1/10程度であった。

【5】抗菌性と作用機作

(1)抗菌性:グラム陽性菌及びグラム陰性菌のほとんどの一般細   菌類に有効。酵母様の真菌に有効。芽胞菌及びウイルスには   効果がない。(2)作用機作:細胞膜を損傷、細菌の酵素タンパクを変性させる。

【6】製剤

医薬部外品の薬用石けん(液剤)がある。

【7】効能・効果及び用法・用量

製剤の濃度及び用途:1%、手指専用のスクラブ剤として用いる。

- 製剤に関する事項-

【8】取扱い上の注意

(1)熱安定性:塩化ベンザルコニウムと同等に安定である(2)光安定性:塩化ベンザルコニウムと同等に安定である

 院内感染対策上、特に接触感染予防には手指・手掌のハイジーンが最重要とされてきた。このため、日米欧を問わず、専用の手指

手指の殺菌・消毒に繁用される製剤