北陸地域アイソトープ研究会誌 第2号...

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北陸地域アイソトープ研究会誌 第2号 2000 2 本日は,「金沢大学アイソトープ総合センター 20 周年記念講演」の演者としてお招きいただきありが とうございます。私は,大阪大学医学部の遺伝学教 室の教授を務めておりますけれども,それと同時に 大阪大学医学部の RI センターの施設長も兼任して おります。よくご存じと思いますけれども,ラジオ アイソトープ(RI)は我々にとって遺伝子を解析する, あるいはタンパク質の機能を解析する上で必須のも のです。どうしてもそれを使わなければ研究はでき るものではありません。ただし,施設長という立場 からしますと,施設を皆様に使いやすいようにして もらうように維持していくのが,どれほど大変であ るかということを身にしみております。常にいろん な問題が出てきます。それをいかになくしてきちっ と使っていただけるか。それが施設長の役目です。 施設をそのように維持するためには,皆さんの協力 がなければできないわけです。施設で定められた規 則を守って安全に RI を使っていただきたいもので す。RI というのは,決して安全なものではありませ ん。間違えれば東海村の事故のようなことが起こり うるということを認識して使っていただきたいと思 います。まずは RI の施設長としての立場からお話 をさせていただきました。 それでは,これから「アポトーシス」という題で 我々の研究室でやってきた仕事を紹介させていただ きます。 (スライド1) 「アポトーシス」という題ですが,細胞はなぜ死ぬ のでしょうか。我々の身体の中では,たくさんの細 胞が次から次とできてきます。それらは用が終わり 次第死んでいかなければなりません。細胞がどうい うふうにして死んでいくのかということに関しては, 長い間なぞでした。もう 20 数年以上前に,イギリス の病理学者である Wyllie Kerr らのグループが死に つつある細胞を見ていて,細胞の死に方には二通り あるということに気付きました。その一つはネクロ ーシス,もう一つはアポトーシスです。ネクローシ スは,ある意味でやけどのような物理的,化学的な 要因で起こってくる細胞の死です。このときには細 胞がどんどん膨れ上がってきます。細胞の中の,特 にミトコンドリアがすごい勢いで膨れ上がってきま す。最終段階では細胞の膜が破れてしまって,細胞 からいろんなものが飛び出してくるという細胞の死 に方で,ある意味で非常にダーティな死に方です。 死のうとしている細胞の周りには健康な細胞がいま すが,そこに死んでいく細胞からいろんなものが飛 び出して,これら健康な細胞まで傷つけてしますよ うな細胞の死に方です。 一方,アポトーシスのときには,細胞が膨れるの ではなくて縮みあがってきます。特に核がすごい勢 いで凝縮し,断片化します。最終段階では,死のう としている細胞自身が細胞の中身を全部包み込んだ まま断片化していきます。そして断片化した細胞が スライド1

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北陸地域アイソトープ研究会誌 第2号 2000年

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本日は,「金沢大学アイソトープ総合センター 20

周年記念講演」の演者としてお招きいただきありがとうございます。私は,大阪大学医学部の遺伝学教室の教授を務めておりますけれども,それと同時に大阪大学医学部の RIセンターの施設長も兼任しております。よくご存じと思いますけれども,ラジオアイソトープ(RI)は我々にとって遺伝子を解析する,あるいはタンパク質の機能を解析する上で必須のものです。どうしてもそれを使わなければ研究はできるものではありません。ただし,施設長という立場からしますと,施設を皆様に使いやすいようにしてもらうように維持していくのが,どれほど大変であるかということを身にしみております。常にいろんな問題が出てきます。それをいかになくしてきちっと使っていただけるか。それが施設長の役目です。施設をそのように維持するためには,皆さんの協力がなければできないわけです。施設で定められた規則を守って安全に RIを使っていただきたいものです。RIというのは,決して安全なものではありません。間違えれば東海村の事故のようなことが起こりうるということを認識して使っていただきたいと思います。まずは RIの施設長としての立場からお話をさせていただきました。それでは,これから「アポトーシス」という題で我々の研究室でやってきた仕事を紹介させていただきます。

(スライド1)「アポトーシス」という題ですが,細胞はなぜ死ぬのでしょうか。我々の身体の中では,たくさんの細胞が次から次とできてきます。それらは用が終わり次第死んでいかなければなりません。細胞がどういうふうにして死んでいくのかということに関しては,長い間なぞでした。もう 20数年以上前に,イギリスの病理学者であるWyllieとKerrらのグループが死につつある細胞を見ていて,細胞の死に方には二通り

あるということに気付きました。その一つはネクローシス,もう一つはアポトーシスです。ネクローシスは,ある意味でやけどのような物理的,化学的な要因で起こってくる細胞の死です。このときには細胞がどんどん膨れ上がってきます。細胞の中の,特にミトコンドリアがすごい勢いで膨れ上がってきます。最終段階では細胞の膜が破れてしまって,細胞からいろんなものが飛び出してくるという細胞の死に方で,ある意味で非常にダーティな死に方です。死のうとしている細胞の周りには健康な細胞がいますが,そこに死んでいく細胞からいろんなものが飛び出して,これら健康な細胞まで傷つけてしますような細胞の死に方です。一方,アポトーシスのときには,細胞が膨れるのではなくて縮みあがってきます。特に核がすごい勢いで凝縮し,断片化します。最終段階では,死のうとしている細胞自身が細胞の中身を全部包み込んだまま断片化していきます。そして断片化した細胞が

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周りの貪食細胞,すなわち好中球あるいはマクロファージによって取り込まれて処理されていきます。この過程では,死のうとしている細胞から何も放出されません。非常にクリーンな細胞死です。我々の体の中には何万個という細胞が毎日毎日死んでいますが,これは恐らく全てがアポトーシスであって,クリーンな形で細胞が死んでいくと考えられます。それでは,アポトーシスはどういうふうにして起こるのでしょうか。何がトリガーし,細胞の中で何が起こっているのか,ということが問題になります。(スライド2)細胞の増殖・分化は,いろんなサイトカインあるいはホルモンによって調節されています。増殖因子(growth factor)が細胞の表面に存在するレセプターに結合してその細胞の増殖を起こします。あるいはdifferentiation factor,分化を起こす因子がレセプターに結合して,その細胞を赤血球あるいは白血球に分化させます。一方,細胞の生存は増殖因子,生存因子(survival factor)に依存しています。生存因子がないと細胞は死んでいきます。10年近く前になりますが,我々は,こういう消極的な細胞の死ばかりではなくて,積極的に細胞を殺す因子(death factor)が存在することを見い出しました。すなわち death factor

が標的細胞の表面に存在するレセプターに結合して,数時間の間にその細胞を殺してしまいます。

(スライド3)我々が扱っている death factorは,Fasリガンドです。これはある種のエフェクター(effector)の細胞,例えば活性化されたリンパ球やナチュラルキラーと呼ばれる細胞の表面に発現しているタンパク質であり,三量体として存在することが知られています。一方,これに対してレセプターは Fasと呼ばれるタンパク質で,標的細胞,すなわち死ぬべき細胞の表面上に発現しているタンパク質です。Fasリガンドがその受容体 Fasに結合すると,標的細胞自身が元々持っている自殺のプログラム,すなわちアポトーシスのプログラムがスイッチオンされて,その細胞は数時間の間に死んでいきます。(スライド4)その例を示します。スライドはマウスの肝臓細胞の電顕像です。大きな核が存在し,かつ多くのミトコンドリアが存在します。この細胞に,in vitro(試験管の中)で Fasリガンドを加えて数時間インキュベーションしますと,核がすごい勢いで凝縮し断片化してきます。しかも細胞自身が断片化しており,先程スライド1でお見せした形態と同じような形をとって細胞が死んでいきます。1個のポリペプタイド,1個の因子が細胞を殺す能力を持っている訳です。(スライド5)もう一つアポトーシスの指標として,染色体DNA

が分解されていくことが知られています。染色体DNAは,ヒストンのまわりにまいた形,クロマチンとして存在します。アポトーシス時にはエンドヌクレアーゼが活性化されて,DNAがヌクレオソーム間のスペーサーの間のところで分解されると考えられます。その結果,この DNAを電気泳動で解析しますと,クロマチンの 180ベースを単位としたモノマ

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ー,ダイマー,トライマーの形になってきます。すなわち,細胞の司令塔である DNAを破壊するような機構がアポトーシスでは起こっていて,細胞を不可逆的に殺してしまう訳です。(スライド6)このようなことが Fasリガンドでも起こるかどうか調べました。スライドは,組換え体(recombinant)のFasリガンドを,Fasを発現しているTリンパ球に添加し,1時間,2時間,3時間反応させた後で,その標的細胞のDNAを調べたものです。そうしますと,2時間,3時間経ちますと,標的細胞の染色体DNAのほとんどがズタズタに断片化していることが分かりました。すなわち Fasリガンドは何らかの形で DNAに作用して,その標的細胞の DNAを壊してしまいます。それでは,Fasリガンドによって細胞が死滅するときどういうことが起こっているのでしょうか。細胞が増殖や分化するときには,様々なキナーゼが働いてタンパク質がリン酸化(phospholylation)される,あるいは cAMP,ホスファチジルノシトールなど,いろんな成分がセカンドメッセンジャーとして働くことが知られています。細胞が死ぬときは何が起こるのでしょうか。3時間の間に染色体DNA

が分解され,しかも細胞の形態や構造が変わってき

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ますから,非常に強い信号が伝わっていなければなりません。それは何なのだというのが我々の問題でした。

(スライド7)我々は動物細胞を使って Fasからの細胞死のシグナル伝達を調べていましたが,同じ頃アメリカのグループ,MITのホロビッツのグループは線虫 C. ele-

gansを使ってアポトーシスの研究をしていました。成体の C. elegansは 1,030個の細胞からなっています。そして 1,030個の細胞からなる大人のC. elegans

ができてくるまでに,131個の細胞が必ず決まった場所で決まった時期に死んでいきます。この過程の変異体を同定することによって,ced-9,ced-4,ced-3という遺伝子が単離されました。セル・デス・アブノーマル(cell death abnormal)の9番目,4番目,3番目の遺伝子です。細胞死が遺伝子産物によって制御されていることが明らかになった訳です。これらの遺伝子の構造を調べると,Ced-9は哺乳動物でがん遺伝子産物として知られていた Bcl-2とよく似たタンパク質でした。また Ced-3は,システインプロテアーゼとして知られていたカスパーゼ(caspase)とよく似たタンパク質でした。線虫では Ced-9はアポトーシスをブロックする遺伝子産物,Ced-3はアポトーシスを引き起こすタンパク質です。そのように考えてみると,動物細胞でも Bcl-2というがん遺伝子産物は,アポトーシスによる細胞死をブロックするタンパク質ではなかろうか。カスパーゼは,アポトーシスを引き起こして細胞死をもたらすタンパク質ではないかと考えられました。実際,Fasを使って細胞が死ぬ過程を調べると,Bcl-2は顕著にアポ

トーシスをブロックすることが分かりました。結局アポトーシスは線虫も哺乳動物も同様の機構,分子を用いていると結論されました。(スライド8)それではカスパーゼは,どのように作用するのでしょうか。線虫では,ced-3という1個の遺伝子しか見い出されていません。ところが,哺乳動物ではカスパーゼファミリーとして,十数個存在します。それぞれのカスパーゼを組換え体のタンパク質として大腸菌で産生させ,それぞれがどういう性質をもったプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)か調べられました。その結果,カスパーゼ-1は YVAD(チロシン,バリン,アラニン,アスパラギン酸のテトラペプチド)を認識して,アスパラギン酸の後で切断するプロテアーゼであり,カスパーゼ-3はDEVD(アスパラギン酸,グルタミン酸,バリン,アスパラギン酸のテトラペプチド)を認識して,アスパラギン酸の後で切る酵素であることが分かりました。そうなると,この様なプロテアーゼが何故こんなにたくさん必要なのだろうか。アポトーシスを起こすときに,全部のプロテアーゼが活性化されなければならないのだろうか,1個だけで十分なのか,という疑問が生じます。それを調べるために我々は,カスパーゼ-1がYVADを認識し,カスパーゼ-3がDEVDを認識する,という性質を使って調べました。(スライド9)

Fasを発現している細胞に Fasリガンドを加えますと,その細胞は4時間の間にほとんど死滅します。ここに YVAD-choを添加するとアポトーシスが抑制されます。YVAD-choは,カスパーゼ-1が認識するテトラペプタイドの後にアルデヒデをつけたものです。このペプチドは,カスパーゼ-1の活性部位に結合してその活性を抑えます。同様に,DEVD-choはカスパーゼ-3の活性部位を認識してその活性を抑えます。そうしますと,Y V A D - c h o を加えても,DEVD-choを加えても,どちらも Fasによるアポトーシスを抑えてしまいました。以上のことから,少なくとも2種類のカスパーゼが活性化されなければアポトーシスは進行しないと結論されました。そし

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ていろいろ調べた結果,この2種類のカスパーゼはどうやら順番に連鎖的に活性化されることがわかってきました。(スライド 10)アポトーシスのシグナル伝達機構の解析は,私たちをはじめアメリカ,イスラエル,ドイツなど,いろんなグループで行われました。スライドはその結果をまとめたものです。まず,Fasリガンドがレセプターに結合します。Fasリガンドは三量体であり,結合することにより,レセプターの三量体化を引き起こします。一方,レセプターの細胞の内側にデスドメイン(death domain),すなわち細胞を殺すための領域が存在し,これが三量体化されると FADD/MORT1

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と呼ばれるアダプタを介してカスパーゼ-8が Fasのレセプターのところにリクルートされます。リクルートされることによって,このプロテアーゼが活性化されます。このプロテアーゼは本来,チモーゲン(不活性型の酵素前駆体)として増殖している細胞中に存在します。ところが,これが Fasのレセプターにリクルートされることによって,自己触媒反応的(autocatalytic)にプロセシングが起こり,活性のあるプロテアーゼになってしまいます。いったんこのカ

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スパーゼ-8が活性のあるタンパク質になると,これが次々と下流のプロテアーゼを活性化していきます。血液の溶血反応のときには,補体のシステムを使ったプロテアーゼが次々にカスケードになって活性化されていくということが知られています。それと同じようにアポトーシスを引き起こしているときには,細胞の中でカスパーゼというプロテアーゼが順次活性化されていきます。この活性化されたプロテアーゼが,いろんな細胞内基質を破壊して細胞を死に至らしめるのだと思います。我々のもう一つの疑問は,「それではアポトーシスの際の,DNAの分解はどうして起こるのか。タンパク質の分解酵素が決して DNAを壊すはずがない。ここをつないでいるものは何なのだろう」ということです。それを明らかにするためには,どうしてもこの系を生化学的に調べる必要があり,アポトーシスの系を試験管の中で再現することを試みました。

(スライド 11)我々が行ったのは簡単なことです。まず,Fasを発現している細胞を Fasリガンドで処理します。そこから S-100分画を調製し,それを増殖している細胞から調製した核とインキュベーションします。もしアポトーシスのときに,何らかの因子が活性化されればそれは S-100分画に蓄積してくるはずです。この因子が試験管の中で核に作用して,核のDNAを壊してくれないだろうかという単純なアイデアです。(スライド 12)まさに予想した通りのことが起こりました。増殖している細胞から抽出液を調製し,それを核に加えても何事も起こりません。核の DNAはインタクトなままです。ところが,細胞を Fasで活性化して 30

分,60分,90分経った後で,その抽出液を調製してそれを核に加えますと,その核の DNAがすごい

勢いで壊れてきました。アポトーシスを起こしている細胞の細胞質中には,核に移行して DNAを壊す因子が存在することになります。それでは,これは何なのだろうか。これこそがアポトーシス時にDNAの断片化を起こしているものの実態に違いないということで,その精製にとりかかりました。

5.1 CADと ICADの精製(スライド 13)核に作用してDNA断片化を引き起こす因子をアポトーシスを起こしている細胞から精製をしようとしたのですが,非常に不安定でかつ非常に量が少なく簡単ではありませんでした。そこで方法を変えてみました。アポトーシスのときには,カスパーゼが活性化されるということを先程お話しました。一方,それと同時にDNAを壊すタンパク質が細胞質に蓄積してきます。DNAを壊すタンパク質はカスパーゼの下流にあるのではなかろうか。カスパーゼの基質がDNAを壊すのではなかろうか,ということが考えられます。それを確かめるために増殖している(アポトーシスを起こしていない)細胞から S-100を調製し,それを試験管の中でカスパーゼを使って処理し,核に加えてみました。そうすると,増殖している細胞の抽出液自身は核に作用しても何らDNAの断片化を起こさないのですが,そこにカスパーゼ-3を加えるとDNAの断片化が起こり始めました。ついで「核の代わりにプラスミドDNAを基質としたらどうなるか」ということを調べてみました。そうすると,ここでも増殖している細胞からの抽出液自身ではDNA

を分解しないけれども,カスパーゼを加えるとDNA

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が分解されました。結局,増殖している細胞の中には,カスパーゼによって活性化されるDNA分解酵素(DNase)が存在すると結論し,それを CAD(Caspase

Activated DNase)と名付けて,このタンパク質の精製を始めた訳です。(スライド 14)この精製の過程を示します。数百リットルの規模でマウスリンパ腫の細胞を培養しました。そこから抽出液を調製し,その抽出液をDEAE-セファロースの上で展開しました。カスパーゼ-3を加えることによって DNaseの活性の示す分画が見つかりました。一方,一人の大学院生が,増殖している細胞中には,このCADのDNaseの活性を抑制する因子が存在することを見い出しました。それを ICAD(inhibitor of

CAD)と名付けてアッセイしてみますと,実際,CAD

の分画とは違ったところに分画されているのが分かりました。すなわち,増殖している健康な細胞の中には,カスパーゼによって活性化されるDNaseとそのインヒビターが別個に存在することになります。そこでこの両者とも精製し,その精製したタンパク質を使ってアミノ酸の配列を決め,遺伝子を単離しました。

5.2 CADと ICADの構造並びに in vitroにおける機能(スライド 15)まず,CADですが,CADは 344個のアミノ酸から

なっており,14個のシステインが存在します。このシステインはすべてがフリーのチオールであり,SS

結合(ジスルフィド結合)は作っていません。一方,このタンパク質は核へ移行してDNAを壊さなければなりません。それに相応して C末端側のところに,アルギニン,リジンに富んだ核移行シグナル(Nuclear localization signal)が存在します。このcDNAがDNaseをコードするかどうかを確かめるために,このタンパク質を in vitro翻訳系を用いて合成しました。35Sで標識したタンパク質を調べると 40

キロダルトンのところにタンパク質が見られます。ところが,このタンパク質にはほとんどDNase活性が存在しません。一体これはどういうことなのだろうということになりました。これは本当に我々が求めていたDNaseなのだろうかと心配になりました。そこで「もしDNaseが活性あるものとして合成されれば,核移行シグナルを使ってすぐ核に移行し,細胞を殺してしまわないだろうか」と考えました。そういうことを避けるために,細胞に何か工夫があ

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るはずです。もしかしたらCADの阻害タンパク質である ICADが CADの合成に必要ではないだろうか,ということが考えられました。そこで in vitroでのタンパク質合成系に組換え体の ICADを加えてみました。そうしますと同じ量だけのCADができてきますが,この標品をカスパーゼで処理すると大変強いDNase活性が見えてきました。すなわち,「CADというタンパク質は,それ自身ではDNase活性のあるタンパク質としては合成されない。ICADというパートナーが必ず横にいなければならない。その ICADがシャペロンとして作用してCADの正常な折りたたみを助けている。その後 ICADは CADと結合したままで,DNase活性がすぐさま発現されるのを防いでいる」と結論しました。(スライド 16)それでは,ICADはどのような分子でしょうか。

ICADの cDNAをクローニングすると2種類単離されました。Long(L)と Short(S)のフォーム,選択的スプライシング(alternative splicing)によってできてくる二つのフォームです。それぞれがDEPD,DAVDというカスパーゼ-3によって認識,切断される部位を二ヶ所持っています。これが実際にインヒビターとして作用しているかどうか検討するため,ICADの組み換え体を作製し,CADに加えてみますと,DNase

活性が完全に抑えられてしまいました。まさにインヒビターです。それではこれがカスパーゼによって分解されたらどうなるのかというわけで,ICADをカスパーゼで前もって処理した後に CADに加えますと,阻害活性は全くありません。一方DEPD,DAVD

のアスパラギン酸をグルタミン酸に置換した変異体では,ICADとしての活性,CADの活性を阻害する活性はあるのですが,この活性がカスパーゼによって不活化されることはありませんでした。(スライド 17)このスライドでは以上の結果をまとめました。

CADのメッセンジャーからCADタンパク質が合成されるときには,ICADがそばにいなければなりません。ICADが CADの折りたたみ(フォールディング)を助けているのです。その後,CADは ICADが結合したままでアポトーシスの刺激によりカスパーゼが活性化されるのを待っています。カスパーゼが活性化されると ICADは壊れ,CADが自由になります。自由になったCADが,自らの核移行シグナルを使って核へ移行し,核のDNAを壊し,最終的に細胞を殺してしまうというわけです。(スライド 18)先程カスパーゼは 10種類以上あると申しました。

そのどれかが特異的に ICADを切断してDNA断片化

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を起こしているのでしょうか。どれでも構わないのでしょうか。我々は8種類のカスパーゼを組換え体として調製して,ICADを切断するかどうかを調べました。その結果,カスパーゼ 3とカスパーゼ 7がICADを切断することを見い出しました。10種類以上あるカスパーゼの中でも,ICADを切断するのは3番と7番と考えられます。ところで活性型カスパーゼ 3は,細胞質中にあり,カスパーゼ7はミトコンドリア中にあります。ICADが活性化されるのは細胞質だということを考えますので,ICADを切断して核のDNAの断片化を起こすのはカスパーゼ 3だけであろうと思われます。

5.3 DNA断片化を誘発する毒性(genotoxic)因子(スライド 19)私たちはCAD,ICADの系をFasで活性化したアポトーシスから見い出しました。しかし,アポトーシスは,death factorによるものばかりではなくて,抗がん剤あるいは UV照射などによって起こることが知られています。そのときにも CAD,ICADの系が働いているでしょうか。ヒトのリンパ芽球細胞をUV

照射しますと,細胞はDNAの断片化を起こして死んでいきます。抗がん剤であるエトポシド(etoposide)で処理しても同じように死んでいきます。このときICADをウエスタン法で調べますと,30分まではintactな分子がありますが,その後完全に分解されてしまいます。ちょうどDNAの断片化が起こるのと一致して ICADが分解されています。(スライド 20)以上の結果は UV照射や抗がん剤によるアポトーシスの際も CADの系が働いていることを示唆します。これを確認するために,カスパーゼによって分解されることのない ICAD(カスパーゼレジスタントの ICAD)を発現する細胞株を作製しました。この細胞株では,内因性(endogenous)の ICADの Lフォーム,Sフォームばかりでなくて,変異体のものが発現しています。この細胞を UVで照射あるいはエトポシドで処理すると,内因性のタンパク質は壊されますが,変異体の方はインタクトのままで,この状

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態では DNA断片化はまったく起こっていません。UV照射あるいはエトポシドで誘導されるDNA断片化も CADというDNaseによって行われているのだ,と結論されます。(スライド 21)それでは,このような DNAの断片化にはアポト

ーシスにどのような役割があるのでしょうか。DNA

の断片化が細胞を殺すのに必要なのだろうか疑問になりました。そこでカスパーゼレジスタントのICADを発現する細胞を使って,スタウロスポリン(staurosporine)でアポトーシスを誘導したときに,細胞が死ぬかどうか調べました。スライドにも示したようにこの細胞は野生型の細胞と同じ効率でAnnexin Vが陽性になりました。これはまさに細胞

が死んでいったということを意味します。DNAの断片化というのは細胞を殺すのには必要はないと結論されます。(スライド 22)以上の結果をまとめてみます。アポトーシスの刺激によって最終的にはカスパーゼと呼ばれるプロテアーゼが活性化されます。その一つのターゲットはICADです。これが分解されることにより DNaseが働くわけです。もちろんこの系が働けば細胞は死んでいきます。実際に組換え体の CAD(活性のあるタンパク質)を細胞にマイクロインジェクションすると,細胞は瞬時に死んでしまいます。この系がもっとも効率よく細胞を殺す系であることは間違いありません。しかし,これが働かなかったとしても,カスパーゼは細胞の他のいろんなタンパク質を分解します。例えばカスパーゼはラミン,アクチンを分解することも示されています。アクチンが分解され,細胞の骨格が壊れると細胞は死んでいくと考えられますし,ラミンが分解されて核膜が崩壊しても,やはり細胞は死滅すると考えられます。一旦カスパーゼが活性化されれば,いろんな方法で細胞を殺すことができます。それでは他に細胞を殺す系があるならなぜこの系(DNaseの系)があるのだろうか。この系の in vivoにおける役割を調べる必要があります。

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5.4 in vivoにおけるCADと ICADの役割5.4.1 ICAD変異マウスの作製(スライド 23)このことを調べるために,カスパーゼレジスタントな ICADを発現しているマウスを樹立しました。この変異体を flagでタグ(抗 FLAG抗体で認識される人工的なアミノ配列を付加すること)した後でヒトの延長因子(elongation factor,タンパク合成の際,ペプチド鎖の伸長に関わる因子)のプロモーターの下流につなぎます。このヒトの延長因子のプロモーターは,様々な組織で cDNAを発現させることのできる非常に強いプロモーターであることが知られています。このようなキメラの遺伝子を構築し,これをマウスに戻しました。野生型の胸腺をウェスタンブロット法で調べますと,ICADの Lフォームと Sフォームが内因性のタンパク質としてみられます。一方,トランスジェニックマウスの様々な組織で,これら内因性の ICADに加えて変異体 ICADの発現がみられます。ちょうど flagでタグしてある分だけ,分子量としては大きくなっています。次いでこのマウスから細胞を調製してアポトーシスを誘導しました。(スライド 24)胸腺では ICADが顕著に発現しています。また胸

腺細胞は様々な刺激によってよくアポトーシスを起こして死んでいく細胞です。そこでまず野生型のマウスとトランスジェニックマウスの両者から胸腺細胞を調製し,それをガンマ線で照射しました。すると,野生型のマウスでは細胞は Annexin V陽性となって死滅していくのが示され,また TUNEL陽性になって DNAの断片化が起きていることもわかります。一方,トランスジェニックマウスから調製した胸腺細胞では Annexin V陽性になって細胞は死んでいきますが,一切 TUNELは陽性になりません。同様に,デキサメサゾンで処理すると野生型の胸腺はDNAの断片化を起こして細胞は死んでいきますが,トランスジェニックマウスではDNAの断片化は起きません。抗 Fas(anti-Fas)抗体でも同様です。結局 ex

vivoで胸腺細胞を調べると,これまで細胞株(cell

line)で得られた結果と同様であり,ICAD,CADの系がアポトーシスにおけるDNA断片化に必須であることを示しています。すなわち細胞自身によるDNA

の断片化は ICAD,CADの系が働いているのです。それでは in vivoではどうでしょうか。(スライド 25)胸腺ではポジティブセレクション,ネガティブセレクションと呼ばれる選択が起こり多くの細胞がア

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スライド 25 スライド 26

ポトーシスを起こします。そこで胸腺をTUNEL染色し,DNAの断片化を起こしているかどうか調べました。そうするとトランスジェニックマウスでは野生型とほとんど同じ数だけのTUNEL陽性の細胞が見つかりました。ex vivoで胸腺細胞にいろんな刺激を与えてもDNAの断片化は一切起きません。それにも関わらず in vivoでは胸腺細胞は TUNEL陽性となり,DNA断片化が起こっています。これは一体何なのだろうか。我々が今までやってきたことは完全にナンセンスなのか,ということになりました。

5.4.2 アポトーシスにおける貪食細胞の役割(スライド 26)そこで,TUNEL陽性になっている in vivoの細胞はどういう細胞であるか調べますと,TUNEL陽性細胞はいつも貪食細胞であるマクロファージの中に入っていることがわかりました。それを確かめるために TUNEL陽性の細胞を緑色,マクロファージをその特異的抗原である F4/80で赤色に染めてみました。そうしますと野生型あるいはトランスジェニックマウスでは,赤いマクロファージの中に緑が入って,

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黄色のポチポチが見えるという状態があちこちで見られます。すなわち TUNELが陽性になっているのは,すべての場合がマクロファージの中に存在すると結論しました。それではここに外から刺激,ストレスを加えたらどうなるでしょうか。マウスをガンマ線で照射しました(スライド下段の図)。その4時間後に胸腺をTUNEL染色で調べますと,野生型ではマクロファージの中に TUNEL陽性のものがありますが,それに加えて数多くの胸腺細胞がマクロファージの外側でTUNEL陽性になっています。一方,トランスジェニックマウスでは TUNEL陽性の細胞はあくまでもマクロファージの中に存在し,外側の胸腺細胞は死んではいるけれども TUNEL陽性にはなっていません。これはどういうことを意味するのでしょうか。我々は,発生過程などで細胞が死んでいくとき,すなわちわずかな量の細胞が死んでいく場合には,周りのマクロファージ,好中球がすぐさまこの細胞を認識して食べてしまいます。一方,ガンマ線照射や虚血のような状態で非常にたくさんの細胞がアポトーシスに陥ったときには,マクロファージはもう面倒をみきれません。細胞自身が自らの系を使って死んでいかなければなりません。トランスジェニックマウスでは,自らの系を使って DNAを分解することができなくなっていると考えています。(スライド 27)このスライドは,TUNEL陽性の細胞がマクロファージの中に貪食されていることを示す電顕像です。中央にマクロファージの核がありますが,それ以外にアポトーシスを起こしている胸腺細胞の核が四つも五つも飲み込まれているという像を見ることができます。以上 in vitroでは自ら死んでいく細胞死しか見ることはできませんでした。しかし,in vivoで

起こっているのは,細胞は自ら死んでいくばかりでなく,死んでいく細胞をすぐさま貪食細胞が認識してそれを積極的に殺します。その場合にもDNAの断片化を引き起こすことができるのだということになります。(スライド 28)スライドは,それを確かめるための実験系を示しています。マウスから胸腺細胞を単離し,それをデキサメサゾンで処理してアポトーシスを引き起こします。アポトーシスを起こしている胸腺細胞をマクロファージに加えると貪食されます。貪食が起こってきたら,胸腺細胞の DNAが壊れていくかどうか,アポトーシスに典型的なラダーを与えて壊れていくかどうかを調べます。そのときに,マクロファージの DNAと胸腺細胞の DNAと区別しなければならないので,胸腺細胞側の DNAは前もってプロモジオキウリジンによってラベルしておきます。ラベルしたマウスから胸腺細胞をとってきて,それをマクロファージに貧食させて調べました。(スライド 29)まず野生型から胸腺細胞を取ってきてデキサメサゾンで処理しますと,貪食されていないものも,貪

スライド 27

スライド 28

スライド 29

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食されたものもDNAの断片化が起こっています。当然,自分自身の自殺する系が働いてDNAの断片化が見えてきます。一方,CADの系が作用しないトランスジェニックマウスからの胸腺細胞は,貪食されていない細胞ではDNAの断片化は起こりません。しかし貪食された細胞ではDNAがアポトーシスのパターンを示して断片化していきます。やはり,貪食細胞,マクロファージが胸腺細胞に作用してそのDNAを壊し得るのです。そうなれば,貪食細胞中のDNaseがこれを担っているに違いありません。貪食細胞でこの作用をしうるDNaseは,ライソソームのDNaseです。ライソソームの酵素は酸性化によって活性化されます。その酸性化を止めてやれば活性化されないはずです。実際,この酸性化を抑えるクロロキン(chloroquine)を培養液に加えますと,DNAの断片化は起こらなくなりました。マクロファージのDNase

(ライソソームのDNase)がアポトーシスを起こしている胸腺細胞のDNAを壊し得ると結論されました。(スライド 30)以上のことから,我々が現在考えているモデルをスライドで示します。アポトーシスの刺激がくるとカスパーゼのカスケードが動き出します。このカスケードによって細胞を殺すことも可能です。ところが,このカスパーゼのある種のものは IL-1をはじめ

とする炎症性のサイトカインを活性化・分泌するであろう。これが貪食細胞を死のうとしている細胞に呼び寄せると考えられます。要するに葬儀屋を呼び寄せる役割を持っています。一方,アポトーシスを起こしている細胞は,細胞の表面に自分を食べてくれというシグナル(「Eat me signal」)を提示します。このシグナルを認識したマクロファージが細胞を貧食し,その中のDNA(自分自身でDNAを壊せなかったとしても)を分解してしまうと考えられます。それでは,この「Eat me signal」とは何なのだろうか。最近,ホスファチジルセリンではないかという話も示されていますが,まだ確認されていません。貪食細胞は増殖している細胞,生きている細胞を決して貧食することはありません。死のうとしている(アポトーシスを起こしている)細胞のみを貧食します。この違いが何なのかをこれから調べていかなければなりません。

6.1 アポトーシスの生理学的役割(スライド 31)ここまで「我々の身体の中に death factorが存在し,それがレセプターに結合して細胞の中でカスパーゼというプロテアーゼ,DNaseを活性して細胞を殺すのだ」という話をしました。それではなぜ我々の身体

スライド 30

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の中にそのような機構が必要なのでしょうか。アポトーシスは,いろんなところで起っています。胚形成(embryogensis)のとき,たくさんの神経細胞が形成されますが,その半数以上が生まれるやいなや死んでしまいます。おたまじゃくしのしっぽが退縮していくのもアポトーシスです。内分泌依存性組織萎縮(endocrine-dependent tissue atrophy)もそうです。あるいは新陳代謝,すなわち正常細胞が代謝回転するときに老化した細胞はアポトーシスを起こして死んでいきます。また,Tリンパ球,Bリンパ球ができてくるときには,自己反応性のものも数多くできてきます。それらは末梢に出ていく前に死ななければなりません。一方,細胞毒性(cytotoxic)T細胞,NK細胞が標的細胞を殺すときにもアポトーシスによって引き起こされます。それでは,この過程のどこにFas

リガンド,あるいはFasが絡んでいるのでしょう。

6.2 Fas/Fasリガンド変異体(lpr,gld)マウス(スライド 32)もう7,8年前になりますけども,我々は Fasリガンドや Fasに変異を持つマウスを見つけることができました。それは lpr(lymphoproliferation)及びgld(generalized lymphoproliferative disease)という名前でアメリカのジャクソン研究所で同定されたマウスです。これらは,自然発生的(spontaneous)に起った,常染色体(autosomal)上の,劣性(recessive)

の変異です。lprは 19番,gldは1番目の染色体上の遺伝子変異であることが示され,違う遺伝子の変異体です。ところが,両者とも同様の症状を示します。すなわち脾臓やリンパ節で大量の非悪性のCD4-,CD8-の T細胞を蓄積し,また血液中の自己に対する抗体(抗 DNA抗体やリュウマチ因子)が増加し,いわゆる SLE(全身エリテマトーデス)の症状を示して 5カ月ぐらいで死んでしまいます。我々はlprが Fasの突然変異,gldは Fasのリガンドの変異体であることを見い出しました。(スライド 33)

gldは Fasリガンドの機能損失(loss of function)の突然変異です。この分子の細胞外領域,Fasに結合する部分で1個のアミノ酸が置換されることによって,このリガンドがレセプターに結合しなくなっています。lprには二種の変異が知られています。一つの変異では Fasがほとんど発現していません。もう一つの変異は東大の医科研で見つかったものですが,デスドメイン(death domain)と言われる Fasタンパクの細胞を殺すのに必須の細胞質領域で,アミノ酸の点突然変異が起こっており,そのために細胞を殺すことができなくなっています。結局,Fasリガンド,Fasのどちら側の機能がなくなってもリンパ節腫脹,巨脾腫,自己免疫疾患が起こってマウスは病気になります。

6.3 Fasのノックアウトマウス(スライド 34)我々はこのことを確認するため,Fasのノックアウトマウスを樹立しました。ノックアウトマウス(14週齢)は,野生型に比べて,リンパ節が 100倍から 200

倍大きく腫れ上がっており(スライド左図),脾臓も10倍も 20倍も大きく腫れ上がっています(スライド右図)。

スライド 31

スライド 32 スライド 33

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スライド 34 スライド 35

(スライド 35)また,末梢血液のリンパ球の数も正常の 20倍,

30倍に増えており,スライドのようにリンパ球が様々な臓器(肺,肝臓)に浸潤しています。これらの症状から,この細胞はがん細胞と考えられますが,これらは決してがん細胞ではありません。活性化された Tリンパ球が死ぬことができないために蓄積しているのです。(スライド 36)以上の結果から,FasとFasリガンドはTリンパ球

が死滅するときに関与しているのは間違いありません。活性化された Tリンパ球はウイルスに感染した細胞,あるいはがん細胞を殺す仕事をする細胞です。しかし,その仕事を終えたら速やかに生体から取り除かなければなりません。この過程は「Activation-

induced suicide of T-cell」と呼ばれていますが,私たちはこの過程に Fasと Fasリガンドが関与していると考えています。スライドに示すように,抗原提示細胞(antigen presenting cell)は,T細胞レセプターを介して Tリンパ球を活性化します。この活性化により Fasと Fasリガンドが発現され,細胞はお互いに

殺し合って免疫反応を終焉させると考えられます。

6.4 Fasの変異体(lpr)を用いたトランスジェニックマウス - Fas/Fasリガンドと疾患との関係-

(スライド 37)lprマウスは,リンパ節腫脹,巨脾症を起こします。この原因は,Fasが Tリンパ球の細胞死,「Peripheral

clonal deletion」「Activation-induced cell death」に関与しているからです。一方,このマウスは糸球体腎炎を引き起こします。これは血清中に免疫グロブリンが大量に存在するからです。これは何が原因なのでしょうか。活性化された Tリンパ球が大量に存在することによってBリンパ球が活性されているのか,あるいは B細胞自身もこの系を用いてアポトーシスによって死んでいくのかを調べました。(スライド 38)すなわち,Tリンパ球でのみ発現させるようなプロモーターの下流に Fas遺伝子を導入したキメラ遺伝子を作製し,それを lprのマウスに導入し,トランスジェニックマウスを作りました。このマウスはTリンパ球でのみ Fasを発現するはずです。

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スライド 36

スライド 37

(スライド 39)このスライドはそれを確かめたものです。野生型の Tリンパ球は Fasを発現していますが,lprでは発現していません。しかし,作製したトランスジェニックマウスではFasを発現しています。B細胞は,休止状態では Fasを発現していませんが,活性化しますと発現します。一方,lpr,トランスジェニックのどちらの場合もB細胞では Fasを発現していません。それではこのトランスジェニックマウスで病気はどうなっているのでしょうか。(スライド 40)

17週齢の lprマウスではリンパ節が腫れあがって

スライド 38

スライド 39

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スライド 40 スライド 41

スライド 42

しています。この結果から「lprマウスで見られる糸球体腎炎や自己免疫疾患は,Tリンパ球の病気ではなくて Bリンパ球の病気であり,Bリンパ球で Fas

が発現されていないことによって,活性化された B

リンパ球は死ねない」と結論しました。

いますが,トランスジェニックマウスでその腫瘍ほとんどなくなっていました。すなわち,lprマウスでリンパ節が腫れあがるのは,Tリンパ球で Fasが発現していないということによるのであり,このマウスの T細胞で Fas遺伝子を発現させれば病気は起こりません。(スライド 41)それでは Bリンパ球の病気はどうでしょうか。血清中の dsDNAに対する抗体,ssDNAに対する抗体を調べますと,野生型に比べて lprが6倍も7倍もあります。この抗体価はトランスジェニックマウスでもほとんど変わりません。(スライド 42)糸球体腎炎は,免疫グロブリンが糸球体に沈着することによると考えられています。そこで,免疫グロブリンが糸球体に蓄積しているかどうか調べました。野生型のマウスではほとんど沈着していません。一方,lprマウスでは,大量の免疫グロブリンの沈着が見られます。トランスジェニックでもやはり沈着

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スライド 43

(スライド 43)以上まとめますと,正常な状態では T細胞が活性化されると,これらの細胞は Fasと Fasリガンドを用いてお互いに殺し合って死んでいきます。一方,Bリンパ球は活性化されると Fasを発現します。しかしこの細胞は Fasリガンドを発現することはなく,Tリンパ球から提供される Fasリガンドによって殺されています。すなわち Tリンパ球が Bリンパ球を殺します。lprマウスでは,Fasは T,Bリンパ球両者とも発現していないので,活性化された Tリンパ球がどんどん蓄積されます。また活性化されたBリンパ球も蓄積し,抗体を産生します。トランスジェニックマウスでは,Fasを Tリンパ球で発現させることによって Tリンパ球の方は死滅しますが,Bリンパ球は死ぬことはできません。そのために,抗体が蓄積し糸球体腎炎などの病気が起こります。

6.5 Fas/Fasリガンドとヒト疾患との関係(スライド 44)以上の結果から,Fasリガンドは活性化された T

リンパ球,活性化された Bリンパ球を殺す役割を持っていると結論しました。これらの細胞が Fasを発現しないため死ねなくなると,蓄積する訳です。我々は,このような現象をマウスで見い出しました。

その後アメリカ,フランス,イタリア,日本の数々のグループでこのような病気はマウスだけではなく,患者さんでも見つけることができると報告しています。これは,これまで Smith-Canale syndrome

(autoimmune lymphoproliferative syndrome)と呼ばれている患者さんで,大きなリンパ節・脾臓を持つ,つまり lprのマウスに似た症状をもって生まれてくる赤ちゃんです。その患者さんの Fasの遺伝子を調べると突然変異が見つかりました。ところでこのように蓄積される細胞は,がん細胞ではないと申しました。しかし,このような細胞が

スライド 44

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長く生きている間に別の遺伝子に突然変異が起こりがん遺伝子(oncogene)の活性化あるいはがん抑制遺伝子(tumor suppressor gene)の不活化が起れば,がん化するとも考えられます。すなわち Fasは,ある意味でがん抑制遺伝子として働く可能性があると考えられます。実際 1997年,ヒトの多発性骨髄腫(multiple myeloma)あるいは非ホジキンリンパ腫(Non-Hodgkin's lymphoma)の患者さんの 15%から20%において Fasに突然変異が起こっていることが報告されました。すなわち Fasに突然変異が起こったために,死ぬことができないリンパ球細胞にさらに何らかの遺伝子の突然変異(どういう遺伝子に突然変異が起こったかわかりませんが)が起こり,これらの細胞ががん化したとと考えられます。

6.6 Fas/Fasリガンド発現調節によるアポトーシス誘導と疾患

(スライド 45)それでは,Fasリガンドの役割は活性化された T

リンパ球,Bリンパ球を殺すためだけなのでしょうか。Fasリガンドは活性化された Tリンパ球に発現しています。活性化された Tリンパ球の大きな役割の一つは,ウイルスに感染した細胞,がん化した細胞を殺すことです。この殺すときに Fasリガンドが

スライド 46

スライド 45

スライド 47

作用していることが考えられます。細胞毒性 T細胞のエフェクターとしては,これまでパーフォリン(perforin),グランザイム(granzymes),TNF,リンフォトキシン(lymphptoxin)などが考えられました。パーフォリンはターゲットの細胞に穴を開けて,プロテアーゼであるグランザイムがその穴から細胞へ入り殺すと考えられています。TNFとリンフォトキシンは,Fasリガンドと同じ仲間であり,細胞を殺す作用があります。(スライド 46)私たちは,スイス・フランスのグループと共同で,

Fasリガンドが実際に細胞毒性Tリンパ球のエフェクター分子(effector molecule),すなわち主なエフェクター分子2個のうちの1個であることを証明しました。標的細胞が,T細胞からのシグナルによって(T

細胞のレセプターを介して)活性化されると,T細胞でFasリガンドが発現されます。そしてこのFasリガンドが標的細胞の Fasに結合し,標的細胞を殺します。一方,T細胞のレセプターからのシグナルはパーフォリン,グランザイムを放出させ,それらが細胞を殺すルートも存在します。ところで,細胞障害性 T細胞(CTL)を介した様々な病気が知られています。それでは,このような病気は Fasリガンドが暴走したことによって起こる可能性はないでしょうか。(スライド 47)このことを確認するため,まず Fasリガンドあるいはアゴニストとして作用するような抗 Fas抗体をマウスに注射しました。スライドに示すように,Fas

リガンドを注射すると,数時間の間にすべてのマウスが死んでしまいました。Fasリガンドは,細胞を

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スライド 48 スライド 49

殺す作用を持っていますが,同時に動物の個体をも殺す作用を持つ死の因子(death factor)であることが示された訳です。それでは,なぜ,マウスは死んでしまったのでしょうか。(スライド 48)マウスを解剖してみますと,肝臓がほとんど形を成していません。いわゆる出血性のネクローシスを起こして正常な肝細胞がほとんどなくなっていました。(スライド 49)一方,マウスの血液を生化学的に調べますと,

GOT,GPTのレベルが正常の 200倍,1000倍にまで上昇していました。これはいわゆる劇症肝炎(flumi-

nant hepatitis)の症状です。Fasリガンドはマウスに注射すると劇症肝炎を引き起こし,数時間の間に殺してしまうのです。(スライド 50)以上の結果から,「ウイルスに感染した細胞が存在すると,この細胞が Tリンパ球を活性化させる。T

リンパ球が活性化されることによって,Fasリガンドが発現され,ウイルスに感染した細胞を殺している」と結論されます。実際,Tリンパ球は免疫学的監視(immunosurveillance)細胞として,ウイルスに感染した細胞を探し出し,それを殺しているのです。しか

スライド 50

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スライド 51

スライド 52

し,この系が暴走すると肝炎(劇症肝炎や急性肝炎)などの組織破壊を引き起こし,個体を死へと導くと考えられます。(スライド 51)このことを確かめるために,すなわち肝炎の発症に Fasリガンドが関与しているかどうか調べる目的で,マウスのモデルを使いました。このマウスは,HBV,ヒトの B型ウイルスの包膜(envelope)の遺伝子を肝臓に特異的に発現しているマウスです。このマウスに,包膜のタンパク質を認識する CTLのクローンを注射しますと,劇症肝炎が誘導され,三日間以内にマウスは死んでしまいます。もし,この CTL

が Fasリガンドを使って肝臓を殺しているならば,Fasリガンドを中和する分子,この場合は可溶性のFasあるいは Fasリガンドの中和抗体を一緒に注射すれば肝炎が起こらないと考えられます。(スライド 52)このスライドはその結果を示しています。マウスに CTLとコントロールの免疫グロブリンを注射しますと,血清中のGOT,GPTレベルが上昇し,マウスは肝炎を起こして死んでしまいました。一方,Fas

リガンドを中和する分子を一緒に注射すると,肝炎はほとんど発生してきません。(スライド 53)この肝炎の発症が,アポトーシスによることを確かめるため,肝臓の細胞を TUNEL法で調べました。コントロールの肝臓ではほとんど TUNEL陽性細胞がありません。一方,CTLを注射しますと,数多くの細胞で TUNEL陽性になり,アポトーシスを起こしていることがわかります。一方,そこに Fasリガンドを中和する分子を注射すればアポトーシスは起

スライド 53

こってきません。私たちは,肝炎を引き起こす最初のトリガーは Fasリガンドだと思っています。その後,好中球,あるいはマクロファージがアポトーシスを起こした細胞に集まり,TNF,インターフェロンγ,等種々のサイトカインの関与によって,肝炎はさらに悪くなっていくと考えています。

6.7 death factorの生理学的,病理学的役割(スライド 54)以上,今日のお話をまとめますと,私たちの身体の中には増殖・分化因子ばかりではなくて death factor

と呼ばれるべき因子が存在します。この因子は受容体に結合すると,プロテアーゼ,DNaseが活性化され,細胞を殺しています。death factorの役割として

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スライド 54

は,生理的なものと病理的なものの二種考えられます。生理的役割は,免疫反応のダウンレギュレーションであり,自己反応性(autoreactive)のリンパ球を殺すことです。また,Fasリガンドは CTLのエフェクターとしてウイルスに感染した細胞やがん細胞を殺します。一方,death factorが働かなくなると,リンパ球増殖症(lymphoproliferation),がん,自己免疫

疾患を起こし,逆に death factorが過剰になると,いろんな組織を壊して肝炎や膵炎(insulitis)を起こすと思われます。

今日お話した仕事は,1987年に大阪バイオサイエンス研究所に赴任してから始めた仕事で,かれこれ10年ほどになります。今日お話した仕事の大部分は現在金沢大学の教授である須田君(がん研究所教授),浅野君(医学部附属動物実験施設教授)をはじめとしてたくさんの人たちとの共同研究によるものです。3年ほど前に大阪大学医学部へ移りました。DNase

の話は大阪大学での仕事で,やはり数多くのスタッフ,大学院生と行った仕事です。ご清聴ありがとうございました。

(平成 12年5月9日開催の金沢大学アイソトープ総合センター開設 20周年記念講演会の講演録)