「投下資本コスト包摂型ライフサイクル・コスティング」「投下資本コスト包摂型ライフサイクル・コスティング」...

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「投下資本コスト包摂型 ライフサイクル・コスティング」 の提唱 ――「デュアル・モード管理会計モデル」の実効性向上に関する一考察―― 1.はじめに 2.ライフサイクル・コスティング理論の生成と変容 2.1 アメリカにおけるライフサイクル・コスティング理論の生成と展開 2.2 イギリスにおけるライフサイクル・コスティング理論の発展 2.3 ドイツにおけるライフサイクル・コスティング理論の進化 3.ライフサイクル・コスティング理論の評価 3.1 ライフサイクル・コスティング理論の現代的意義 3.2 ライフサイクル・コスティング理論の限界性 4.トヨタにおけるライフサイクル・コスティング 4.1 原価企画から車種別損益管理へ 4.2 開発段階と量産段階の関係性 4.3 TPS とライフサイクル・コスティング 5.「投下資本コスト(TCCE)包摂型ライフサイクル・コスティング(LCC)」の概念 5.1 「投下資本コスト(TCCE)包摂型 ライフサイクル・コスティング(LCC)」の意義 5.2 「投下資本コスト(TCCE)包摂型 ライフサイクル・コスティング(LCC)」の基本要素 5.3「デュアル・モード管理会計モデル(DMAM)」の実効性向上への貢献性 6.おわりに 1.はじめに 社会・経済の成熟化とともに,近年,企業, とりわけ,製造業を取り巻く経営環境が,大き く変化している。 第1に,製品に要求される技術・品質などの 属性が高度化し,かつ,その変化の速度が高速 化している。第2に,価値観やライフスタイル とともに,顧客の製品に対するニーズの多様化 が加速化している。これらへの対応のため,企 業は,製品を戦略視点の主軸に置き,期間や組 織の壁を越えた競争,いわば従業員全員の知恵 と知識(knowledge)による総力戦を迫られて いる。 第3に,製品の陳腐化の加速化,すなわち, 製品ライフサイクルの短縮化が進行してい (1) 。企業では,製品戦略の立案と実行に際し, 技術・品質・商品コンセプトなどにくわえ,製 131 名城論叢 2011 年3月 自動車業界では,日本自動車販売協会連合会によれば,日本国内の新車市場(登録車)は,2001 年の 406 万 台から 2009 年の 292 万台へ,8年間で 114 万台減少した。その主因の1つに,新車発売後の需要減衰曲線の急傾 斜化がある,といわれる。

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Page 1: 「投下資本コスト包摂型ライフサイクル・コスティング」「投下資本コスト包摂型ライフサイクル・コスティング」 の提唱 ――「デュアル・モード管理会計モデル」の実効性向上に関する一考察――

「投下資本コスト包摂型 ライフサイクル・コスティング」の提唱

――「デュアル・モード管理会計モデル」の実効性向上に関する一考察――

今 井 範 行

目 次

1.はじめに

2.ライフサイクル・コスティング理論の生成と変容

2.1 アメリカにおけるライフサイクル・コスティング理論の生成と展開

2.2 イギリスにおけるライフサイクル・コスティング理論の発展

2.3 ドイツにおけるライフサイクル・コスティング理論の進化

3.ライフサイクル・コスティング理論の評価

3.1 ライフサイクル・コスティング理論の現代的意義

3.2 ライフサイクル・コスティング理論の限界性

4.トヨタにおけるライフサイクル・コスティング

4.1 原価企画から車種別損益管理へ

4.2 開発段階と量産段階の関係性

4.3 TPS とライフサイクル・コスティング

5.「投下資本コスト(TCCE)包摂型 ライフサイクル・コスティング(LCC)」の概念

5.1 「投下資本コスト(TCCE)包摂型 ライフサイクル・コスティング(LCC)」の意義

5.2 「投下資本コスト(TCCE)包摂型 ライフサイクル・コスティング(LCC)」の基本要素

5.3 「デュアル・モード管理会計モデル(DMAM)」の実効性向上への貢献性

6.おわりに

1.はじめに

社会・経済の成熟化とともに,近年,企業,

とりわけ,製造業を取り巻く経営環境が,大き

く変化している。

第1に,製品に要求される技術・品質などの

属性が高度化し,かつ,その変化の速度が高速

化している。第2に,価値観やライフスタイル

とともに,顧客の製品に対するニーズの多様化

が加速化している。これらへの対応のため,企

業は,製品を戦略視点の主軸に置き,期間や組

織の壁を越えた競争,いわば従業員全員の知恵

と知識(knowledge)による総力戦を迫られて

いる。

第3に,製品の陳腐化の加速化,すなわち,

製品ライフサイクルの短縮化が進行してい

る(1)。企業では,製品戦略の立案と実行に際し,

技術・品質・商品コンセプトなどにくわえ,製

131名城論叢 2011 年3月

⑴ 自動車業界では,㈳日本自動車販売協会連合会によれば,日本国内の新車市場(登録車)は,2001 年の 406 万

台から 2009年の 292万台へ,8年間で 114万台減少した。その主因の1つに,新車発売後の需要減衰曲線の急傾

斜化がある,といわれる。

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品ライフサイクル単位での迅速かつ的確な製品

採算管理の必要性が増大している。

第4に,経済のグローバル化の進展とともに,

企業の生産戦略における「適時・適地」思考(2)

が深化し,製品のサプライチェーン(supply

chain)がグローバルに拡大化している(3)。国境

の壁を越えた,企業内あるいは企業間の連携に

よる,製品ライフサイクルの全期間を通じたプ

ロジェクト・マネジメントの重要性が高まって

いる。

第5に,Porter[1985]のバリューチェーン

(Value Chain)(4)

の概念を援用し,製品とそれ

に付随するサービスを一体で提供する,新たな

ビジネスモデルが多数生起している(5)。製品バ

リューチェーンの拡張は,多期間にまたがる製

品採算管理を通じた製品戦略を企業に迫る。

第6に,近年の製品リコール問題の拡大傾

向(6)

をうけ,企業内あるいは企業間における,

開発・設計職能∼製造職能∼品質管理職能の間

での有機的連携関係の緻密化と,製品ライフサ

イクル全期間にわたる,リコール対策コストを

含む製品採算管理の必要性が高まっている。

第7に,新興国製造業の台頭により,先進国

製造業の競争力の再強化が不可欠になってい

る。とりわけ,TPS(トヨタ生産方式)に代表

される生産システムと整合し,その優位性の発

現を支援する経営システムないし管理会計フ

レームの構築が求められている。

このような近年の製造業を取り巻く経営環境

の変化は,会計期間単位ないし組織単位での「タ

テ割り」の統制を特徴の1つとする伝統的管理

会計理論に対して,超期間ないし製品・プロジェ

クトを基軸とした組織横断的な「ヨコ通し」の

視点にもとづく管理会計フレームの付加を要求

する。

この要請に応える管理会計理論の1つに,ラ

イフサイクル・コスティング(Life Cycle Cost-

ing:LCC)がある。本稿では,欧米における主

要なライフサイクル・コスティング理論の生成

と変容の軌跡を辿り,その主たる現代的意義と

限界性を評価し,さらに,トヨタ(7)

におけるラ

イフサイクル・コスティングの事例検証をおこ

なう。そのうえで,上述の 21世紀の製造業の

経営環境に適合し,かつ,ものづくりの競争力

の練磨に貢献する管理会計フレームとして,「投

下資本コスト(Time Cost of Capital Em-

ployed:TCCE)包摂型 ライフサイクル・コス

ティング(LCC)」を提唱する。

第 11 巻 第 4 号132

⑵ 顧客が求める製品を,最適なタイミングに最適な場所で生産し供給する,との戦略的思考。

⑶ たとえば,トヨタの豪現地法人であるTMCA(ToyotaMotor Corporation Australia Ltd.)では,豪現地工場で

生産する車両の約半数が中近東などへ輸出される。1996年にニュージーランド向けにコロナの輸出を開始して

以来,現在までに 87 万台以上の車両が 20以上の仕向地に輸出された。

⑷ 企業のすべての活動(価値連鎖)が最終的な価値にどのように貢献するのかを,体系的かつ総合的に検討する

ための概念と手法。

⑸ 事例としては,機器本体と付属品を合わせて提供する OA機器,電話機・回線・コンテンツを一体で提供する携

帯電話,車両・自動車保険・自動車ローン・修理保証・メンテナンスサービス・車載機器などをワンストップで提

供する自動車,など。

⑹ 最近の主な事例としては,松下電器の石油温風機,パロマ工業のガス給湯器,ソニーのノートパソコン,トヨタ

のプリウス,など。

⑺ 本稿における「トヨタ」はトヨタグループを意味し,必ずしも個別の企業を特定するものではない。

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2.ライフサイクル・コスティング理論

の生成と変容

本章では,欧米における主要なライフサイク

ル・コスティング理論の生成・発展・進化の史

的変容の軌跡を辿る。

2.1 アメリカにおけるライフサイクル・コス

ティング理論の生成と展開

2.1.1 アメリカ国防総省の調達テスト・プロ

グラム

ライフサイクル・コスティング(Life Cycle

Costing:LCC)の概念が,はじめて明確化され,

実践されたのは,1965 年のアメリカ国防総省に

よる調達テスト・プログラムである,といわれ

る(8)。

アメリカ国防総省から,ライフサイクル・コ

スティングの評価にもとづく競争契約を要請さ

れたアメリカ・ロジスティックス・マネジメン

ト協会(U. S. LogisticsManagement Institute)

は,ライフサイクル・コストとしてのロジス

ティックス・コストを,①調達先選択関連コス

ト(サプライヤーと装備の資格付与関連コスト,

特許権とデータ権の取得関連コスト,入札業務

関連コストなど),および,②支援関連コスト(予

防的および事後的保全コスト,棚卸資産管理コ

スト,訓練コスト,検査・据付けコスト,チェッ

クアウト・コスト,輸送関連コスト,文書管理

コスト,運用コストなど),と捉えた(9)。

2.1.2 アメリカ国防総省の調達ガイドライン

1970 年代に入り,アメリカ国防総省は,取得

コストと所有コストの双方を考慮する軍需物資

の調達技法として,ライフサイクル・コスティ

ングの基本ガイドラインを正式に構築した。

ここでのライフサイクル・コストとは,①ラ

イン品目取得コスト(ハードウェア,データ,

サービスなど),②一時的発生コスト(当初のロ

ジスティックス・コスト),③定期的発生コスト

(運用・保全・マネジメント関連コスト)の総

和,と定義された(10)。

さらに,ライフサイクル・コスティングによ

る調達品目が,個別品目から国防システムへ拡

大された。システム調達におけるライフサイク

ル・コストとは,当該システムの全ライフサイ

クルにわたり,当該システムを取得および所有

するためのコスト総額であり,開発コスト,取

得コスト,運用コスト,支援コスト,廃棄コス

トなどが含まれる,とされた(11)。

2.1.3 アメリカ国防総省のデザイン・ツー・コ

スト,コンカレント・エンジニアリング,

CALS

1975 年以降,アメリカ国防総省は,新たな調

達(開発)技法として,デザイン・ツー・コス

ト(Design to Cost)を採用した。これは,調達

する製品・システムの開発・設計段階において,

最低のライフサイクル・コストで性能目標と調

達スケジュールが達成できるように,性能,コ

「投下資本コスト包摂型 ライフサイクル・コスティング」の提唱(今井)133

⑻ ライフサイクル(Life Cycle)の概念は,アメリカの発達心理学者 Erikson[1983]の提唱によるものである。

この概念が,アメリカ連邦政府の調達職能における伝統的なトータル・コスト思考と結合した結果,1960 年代の

ベトナム戦争当時に,原価計算システムの1つとして形成されたものが,ライフサイクル・コスティング(Life

Cycle Costing)である,と解釈される。なお,Dhillon[1989]は,「Life Cycle Costing を著書名に最初に使用し

たのは,1965 年のアメリカ・ロジスティックス・マネジメント協会報告書(Life Cycle Costing in Equipment

Procurement)である。」という。(Dhillon [1989] p. 1)

⑼ U. S. Logistics Management Institute [1965] pp. 10-12

⑽ U. S. Department of Defense [1970] p. 1-1, p. 1-3, p. 1-4

⑾ U. S. Department of Defense [1973] p. 1-1

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スト,スケジュール間のトレード・オフ関係を

継続的にコントロールするマネジメント技法で

ある(12)。

この技法におけるライフサイクル・コストと

しては,①繰り返し発生する製造コスト(材料

費,労務費),②繰り返しては発生しない製造コ

スト(製造設備関連コスト,品質エンジニアリ

ング・コストなど),③支援・設備コスト(文書

コスト,訓練設備コスト,据付けコスト,予備

部品コスト,輸送コスト),④加算コスト(開発

コスト,運用コスト,保全コスト,廃棄コスト),

が認識された(13)。

さらに,アメリカ国防総省は,調達における

ライフサイクル・コストの低減をはかるため,

1980 年代に入り,ライフサイクル・コスティン

グの新たな枠組みとして,コンカレント・エン

ジニアリング(Concurrent Engineering)と

CALS(Computer-Aided Logistics Support)(14)

を開発した。

とりわけ,コンカレント・エンジニアリング

は,「製品設計と,その製品の製造や支援活動な

どのプロセスの設計とを統合して,これらの設

計を並行的におこなう系統的なアプローチであ

る。このアプローチの目的は,開発者に製品コ

ンセプトから製品の廃棄に至るまでの全ライフ

サイクルに含まれるすべての要素を,開発の最

初から考えるようにさせることにある。」(15)

して,今日まで産業界を含め,開発技法の発展

に幅広く貢献している。

2.1.4 非営利組織におけるライフサイクル・

コスティング理論の展開

アメリカ国防総省において生成したライフサ

イクル・コスティング理論は,1970 年代のエネ

ルギー危機を契機として,他の行政機関ならび

に環境プロジェクトなどに展開された。

岡野[2003]によれば,「行政機関がトータル

原価としてのライフサイクル・コストの低減に

成功した要因は,その予算編成においてプロ

ジェクトへの支出の評価と経済性を判断し,そ

して順位をつけるという意味での意思決定方法

としてのライフサイクル・コスティングを開発

し,それを調達政策にも利用したからである。

このライフサイクル・コスティングは,トータ

ル・コスト・アセスメントの考えに連なるもの

である。」(16)

また,「潜在的コスト,企業外部コスト,社会

的コストなどを認識しないライフサイクル・コ

スティングの限界が指摘され,その克服を試み

る研究としてフルコスト会計とトータル・コス

ト・アセスメントは,環境保全プロジェクトへ

のライフサイクル・コスティングの適用に関す

第 11 巻 第 4 号134

⑿ この技法が生成した背景には,フォード社の社長を辞任し,1961 年に国防長官に就任した McNamaraの強固

な低コスト調達志向がある。しかしながら,McNamaraが,デザイン・ツー・コストとともに導入を推進した,

トータル・パッケージ調達方式(Total Package Procurement:開発の初期段階で,開発と製造のトータル・コス

トでの調達契約を結ぶ方式)では,結果的に低コスト調達の実現には貢献しなかった,といわれる。その理由は,

以下の2点にあると考えられる。①デザイン・ツー・コストは,既存のトレード・オフ関係を与件としたうえで,

その間における最適解を求める技法であり,TPS(トヨタ生産方式)の現地現物による改善にみられるような,ト

レード・オフ関係そのものを限界突破に導く創発的要素がない。②トータル・パッケージ調達方式には,開発の

初期段階で調達契約を締結した後のフォローとフィードバックのプロセスがないため,ライフサイクル・コスティ

ングとしての本来的な機能を果たし得ていない。

⒀ Michaels & Wood [1989] p. 8

⒁ 情報通信ネットワークによる生産・調達・運用支援の統合情報システム。

⒂ 鈴木・山品[1994]pp. 4-5

⒃ 岡野[2003]p. 6

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る研究成果である。」(17)

2.1.5 アメリカ企業におけるライフサイク

ル・コスティング理論の展開

1970 年代初頭以降,ライフサイクル・コス

ティング理論は,アメリカ企業のマネジメント

においても展開された。

Kaufman[1970]によれば,1970 年代初頭か

ら,アメリカ企業の調達政策において,ライフ

サイクル・コスティングがはじまった。この時

期のライフサイクル・コスト計算では,コスト

要素として,①当初取得コスト,②オペレーティ

ング・コスト(人件費,光熱費),③保全コスト

(予防保全人件費,事後保全人件費,部品費),

④分解修理コスト(人件費,部品費),⑤当初予

備部品コスト,を認識し,各要素別に重要なコ

スト・パラメーターを設定して,現在価値への

割引計算にもとづき,ライフサイクル・コスト

を計算する,という形式であった(18)。

さらに,1980 年代に入り,Hammer[1981]

は,ライフサイクル・マネジメント(Life Cycle

Management)の概念を提唱した。この概念は,

企業が量産する個別品目ないしシステムのライ

フサイクル・コストとして,その導入から衰退

までの全期間における,開発・設計・製造・運

用・保全・支援に関して発生が見込まれる,①

直接コスト,②間接コスト,③繰り返し発生す

るコスト,④繰り返しては発生しないコスト,

⑤その他関連コスト,の総額を計算し,そのラ

イフサイクル・コストと当該量産品目ないしシ

ステムから得られる収益の全体について,計画

ならびにコントロールをおこなうことを主眼と

するものである(19)。

この企業の自社量産製品を前提とした,

Hammer[1981]のライフサイクル・マネジメ

ント(Life Cycle Management)の概念の登場

を1つの契機として,1980 年代以降のアメリカ

では,企業におけるライフサイクル・コスティ

ングに関する多様な理論が展開された。以下で

は,それらの主要な理論をみることとする。

2.1.6 CAM-Iモデル

Berliner & Brimson[ 1988]によれば,

CAM-I(Consortium of Advanced Manage-

ment, International)においては,以下に要約

されるライフサイクル・マネジメント(Life

Cycle Management)のモデルが示された。

①製造段階だけではなく,製品ライフサイク

ル全体を俯瞰して,コストの最小化をはか

る。

②ライフサイクル・コストの最小化を実現す

るために,コスト発生要因が確定する製造

前の段階,すなわち,製造プロセスが決定

される製品開発・設計段階における活動の

コントロールに重点をおく。

③ライフサイクル・コスティングは,製品ラ

イフサイクル全体において発生するすべて

の活動のコストを累計する。これらのコス

トには,製品開発ならびにロジスティック

ス段階において発生する,繰り返しては発

生しないコスト,一時的発生コストだけで

はなく,繰り返し発生する製造コストも含

まれる。

④市場および競争相手の分析ならびに企業財

務モデルから導出された新製品の目標コス

トは,製品ライフサイクルを通じて,ライ

フサイクル・コスティングにより,その動

きが監視される。

「投下資本コスト包摂型 ライフサイクル・コスティング」の提唱(今井)135

⒄ Ibid., p. 84

⒅ Kaufman [1970] pp. 16-31

⒆ Hammer [1981] pp. 71-81

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2.1.7 Susman[1989]

Porter[1980]の競争戦略論,ならびに,現代

マーケティング理論の興隆を背景に,Susman

[1989]は,製品ライフサイクル・マネジメン

ト(Product Life Cycle Management)の概念を

展開した(20)。

Susman[1989]は,製品ライフサイクルを,

①マーケティング視点の製品ライフサイクル

(戦略とマーケティングに基礎をおき,収益の

創出に焦点を当て,導入期・成長期・成熟期・

衰退あるいは復興期に区分される製品ライフサ

イクル),②生産視点の製品ライフサイクル(エ

ンジニアリングとプロジェクト・マネジメント

に基礎をおき,コスト低減に焦点を当て,製品

企画・開発・設計・調達・生産・ロジスティッ

クスに区分される製品ライフサイクル),とい

う2つの視点から捉えた。

そのうえで,Susman[1989]は,製品ライフ

サイクル・マネジメント(Product Life Cycle

Management)の目的は,製品のライフサイク

ル利益の最大化にあり,そのために企業は,製

品ライフサイクルを①マーケティング視点と②

生産視点の両面から捉え,製品ライフサイクル

の多様な段階を通じて,収益を生み出す活動(21)

とコストを引下げる活動(22)

に取り組まなけれ

ばならない,とした。

2.1.8 Shields & Young[1991]

Shields & Young[1991]は,Susman[1989]

の製品ライフサイクル・マネジメント(Pro-

duct Life Cycle Management)における視点を

拡張し,製品ライフサイクル・コスト・マネジ

メント(Product Life Cycle CostManagement)

の概念を提唱した(23)。

Shields & Young[1991]は,製品ライフサイ

クルを,Susman[1989]が指摘した,①マーケ

ティング(市場)視点の製品ライフサイクル,

②生産視点の製品ライフサイクル,の2つの視

点にくわえ,③顧客視点の製品ライフサイクル

(購買・使用・サポート・メンテナンス・廃棄

の段階を含む製品ライフサイクル),④社会視

点の製品ライフサイクル(廃棄コスト・外部コ

ストを含む製品ライフサイクル),の2つの視

点を付加し,4つの視点から捉えた。

そのうえで,Shields & Young[1991]は,①

マーケティング(市場)視点の製品ライフサイ

クル,ならびに,②生産視点の製品ライフサイ

クルにおいて企業に発生するすべてのコスト

に,③顧客視点の製品ライフサイクルにおいて

消費者に発生するコストをくわえた,製品の全

ライフ・コストが,製品ライフサイクル・コス

ト・マネジメント(Product Life Cycle Cost

Management)の対象であり,この全ライフ・

コストの継続的な低減が企業の競争優位の要諦

である,とした(24)。

2.1.9 Horngren & Harrison[1993]

Horngren & Harrison[1993]は,バリュー

チェーン(Value Chain)との関係の視点から,

製品ライフサイクル・コストを含む製品コスト

の全体を体系化した(25)。

Horngren & Harrison[1993]は,生産者のバ

リューチェーンとして,①上流職能(研究開発・

製品設計),②製造,③下流職能(マーケティン

第 11 巻 第 4 号136

⒇ Susman [1989] pp. 8-22

. 製品の改善(差別化,性能),顧客サービスの充実,製品ラインの拡張,製品の保証,製品の新用途・新顧客の

開発,製品価格の引下げ,製品の広告宣伝,など。

/ 製造のための開発・設計(少ない組立時間・訓練コスト・保証コスト),先進的な製造技術・プロセス(少ない

棚卸資産,高いフロア効率),累積生産量(経験曲線),キャパシティーの利用,など。

0 Shields & Young [1991] pp. 39-52

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「投下資本コスト包摂型 ライフサイクル・コスティング」の提唱(今井)137

図表1 Shields & Young[1991]における全ライフ・コストの低減方法

デザインと製造の技法

・デザイン・ツー・コスト(Design to Cost)

・VE(Value Engineering)

・VA(Value Analysis)

・部品の標準化

・部品点数の削減

・タグチメソッド(Taguchi Methods)

・デザインのためのTQC(Total Quality Control)

・製造と組立のためのデザイン(Design for Manufacture and Assembly)

・製造プロセスの標準化

デザインと製造の構造とプロセス

・クロス・ファンクショナル活動

・コンカレント・エンジニアリング(Concurrent Engineering)

・サイマルテニアス・エンジニアリング(Simultaneous Engineering)

・QCサークル活動

原材料の管理

・購買のためのTQC(Total Quality Control)

在庫の管理

・JIT(Just in Time)

先進製造技術

・FMS(Flexible Manufacturing System)

キャパシティの利用

・TPM(Total Productive Maintenance)

製造コストの管理

・規模の経済(Economies of Scale)

・範囲の経済(Economies of Scope)

ABC/ABM

持続的な改善

従業員の動機づけ

・原価企画(Target Costing)

・目標管理(Management By Objective)

・従業員のオーナーシップ

・従業員教育

・提案制度

顧客コストの管理

・保全性・信頼性・サービス性のためのデザイン

(出所)Shields & Young[1991]より筆者作成

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グ・デリバリー・顧客サービス)を,さらに生

産者に連なるプロセスの連鎖として,④消費

者・使用者(使用・廃棄・処分),⑤自然・環境・

社会(環境保全)を捉えた。

そのうえで,Horngren & Harrison[1993]

は,生産者のバリューチェーン(①∼③)にお

いて発生する総製品コスト(Full Product

Costs)が製品ライフサイクル・コストであり,

さらに広義の製品コストには,④消費者・使用

者が発生するコスト,⑤自然・環境・社会が負

担するコストが含まれる,とした。

Horngren & Harrison[1993]に代表される,

実務指導のための理念型としてのライフサイク

ル・コスティング理論においては,とりわけ,

製品ライフサイクルとコストとの関係から,コ

ストは製品ライフサイクルの下流で多くが発生

するが,同時に,コストは製品ライフサイクル

の上流の意思決定においてその多くが拘束され

第 11 巻 第 4 号138

1 Shields & Young [1991] は,製品ライフサイクル・コスト・マネジメント(Product Life Cycle Cost Manage-

ment)を遂行するうえでの原則として,以下の諸点を指摘する。①全ライフ・コストが発生し,管理される組織

関係に着目し,全ライフ・コストの低減に必要な活動が最大化するように,企業の構造とプロセスを組織化する

こと。②人間統合企業を創造し,水平的構造は製品を中心に組織化すること。③長期的な競争優位の創造と強化

に必要な,製品に基礎をおく意思決定と活動に,全従業員の注意を喚起すること。④製品ライフサイクルの源流

の資産と人間の技術に多くを投資し,製品ライフサイクルの下流のコストを引下げるとともに,製品品質の向上,

イノベーションの実現をはかること。⑤原価企画では,目標市場シェアと価格を計画し,目標価格から目標利益

を控除して許容目標コストを計算し,この目標コストをベースに製品の全ライフ・コスト目標を設定すること。

⑥従業員個人の業績評価は,全ライフ・コストを強調し,製品ライフサイクルの製品業績に結びつけること。⑦

従業員の抵抗を減らし,従業員教育を継続し,持続的な改善を促すこと。以上の Shields & Young[1991]の指摘

は,日本のものづくりの強さが注目されはじめた当時のアメリカの状況を反映し,製品・プロセスをベースとし

た横連携,中長期志向,改善,チームワーク,人間性尊重など,TPS(トヨタ生産方式)の鍵概念の多くを包摂し

ているが,一方で,全ライフ・コストの引下げ方法として,規模の経済による製造コストの引下げやABC/ABM

に言及するなど,視点が総花的で,かつ,矛盾も多い。

2 Horngren & Harrison [1993] p. 1007

図表2 Horngren & Harrison[1993]における製品コストの体系

(出所)Horngren & Harrison[1993]より筆者修正

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る,との点が強調された。

2.2 イギリスにおけるライフサイクル・コス

ティング理論の発展

イギリスでは,1970 年代に産業省により推進

された,テロテクノロジー(Terotechnology)

政策(26)

を起点として,建物などの有形固定資

産の選択の意思決定に際して,そのライフサイ

クルにおいて発生するトータル・コストを計算

するための技法として,ライフサイクル・コス

ティング理論が研究され,実践された。

イギリス産業省のテロテクノロジー委員会

(Department of Industry ’ s Committee for

Terotechnology)[1977]によれば,「建物など

の有形固定資産を所有・利用する期間における

コストを的確に計算し,その選択の意思決定を

する際に,エンジニアリング(コスト見積り),

会計学(資本的支出と収益的支出),数学(割引

キャッシュフロー計算),統計学(確率)などの

諸学問を統合的に利用することが,ライフサイ

クル・コスティングである。そして,有形固定

資産のライフサイクル・マネジメントの目的は,

有形固定資産を所有・利用するためのライフサ

イクル・コストを最適化することにあり,また,

ライフサイクル・コストは有形固定資産のライ

フサイクルにおけるコストの総額である。」(27)

2.3 ドイツにおけるライフサイクル・コスティ

ング理論の進化

岡野[2003]によれば,「ライフサイクル・コ

スティングの基本的な事実は,システムのトー

タル・コストの主要部分がライフサイクルの初

期段階において決定され,その目的は,システ

ムのトータル・コストを引き下げることにある

と主張する 1970 年代のアメリカ・イギリス文

献を通じて,ドイツへライフサイクル・コスティ

ング(Life Cycle Costing)は伝播された。」(28)

その後,ドイツでは,主として 1990 年代以降

に,企業の製品を対象とした,生産者ないし供

給者のライフサイクル・コスティング理論の研

究がはじまっている。

その1つの流れは,前述の Hammer[1981]

のライフサイクル・マネジメント(Life Cycle

Management),あるいは,Susman[1989]の製

品ライフサイクル・マネジメント(Product

Life Cycle Management)と同様に,製品のラ

イフサイクル・コストにくわえ,当該製品から

得られる収益も含めた,ライフサイクル利益管

理を志向するものである(29)。

いま1つの流れは,前述の CAM-Iモデル,

あるいは,Shields & Young[1991]の製品ライ

フサイクル・コスト・マネジメント(Product

Life Cycle Cost Management)と同様に,日本

における原価企画の理論と実践もふまえ,製品

ライフサイクル上の製品開発段階に主眼をおい

「投下資本コスト包摂型 ライフサイクル・コスティング」の提唱(今井)139

3 1970 年代のイギリスでは,保全コストの低減による製鉄所や化学プラントなどの経済性向上が,産業政策にお

ける重要課題の1つであったことから,保全不要の設備設計を志向する産業技術のテロテクノロジー

(Terotechnology)が,産業省の政策として推進された。日本では,イギリスから伝播されたテロテクノロジー

の思考に,すでに日本の産業界に定着していたDeming の TQC(Total Quality Control)の思考が結合し,TPM

(Total Productive Maintenance:全員参加の生産保全)の概念が生起した,と考えられる。その意味では,日本

企業の生産技術領域において広くおこなわれている TPM は,設備利用者によるテロテクノロジーの実践技法で

ある,ともいえる。

4 Department of Industry’s Committee for Terotechnology [1977] p. 4

5 岡野[2003]p. 212

6 Back-Hock,Reichmann & Frohling,Siegwart & Senti,Riezler, など。

Page 10: 「投下資本コスト包摂型ライフサイクル・コスティング」「投下資本コスト包摂型ライフサイクル・コスティング」 の提唱 ――「デュアル・モード管理会計モデル」の実効性向上に関する一考察――

た,製品戦略に関する意思決定支援を志向する

ものである(30)。なかでも,Schmidt[2000]のラ

イフサイクル目標原価計算(Life Cycle Target

Costing)の概念は,原価企画(Target Costing)

とライフサイクル・コスティング(Life Cycle

Costing)の両概念の一体化を志向するものと

して,注目される(31)。

3.ライフサイクル・コスティング理論

の評価

以上,欧米における主要なライフサイクル・

コスティング理論の生成と変容の軌跡を辿っ

た。次に,本章では,これらのライフサイクル・

コスティング理論,とりわけ,企業における自

社製品を前提とした,生産者視点ないし供給者

視点のライフサイクル・コスティング理論に関

して,その主たる現代的意義と限界性について

評価する。

3.1 ライフサイクル・コスティング理論の現

代的意義

アメリカ管理会計理論は 1920 年代に生成し

たが,それ以降,1970 年代までのアメリカ経営

理論・管理会計理論は一貫して,どちらかとい

えば,会計期間単位ないし組織単位での「タテ

割り」の統制に傾斜し,ものづくりとは疎遠に

なる傾向があった(32)。このことが1つの要因と

なり,アメリカでは,製造業の国際競争力の低

下と衰退,企業の経営品質の停滞と劣化,なら

びに,管理会計理論と現実の実務の乖離問題に

繋がった,との見方をすべて否定することは難

第 11 巻 第 4 号140

図表3 Schmidt[2000]のライフサイクル目標原価計算(Life Cycle Target Costing)

7 Ruckle & Klein,Schmidt, など。

8 Schmidt [2000] pp. 76-77

9 河田[2003]の以下の指摘を参照。

「「ピリオド」とは,「本来切れ目のない時間軸を会計年度という人為的概念で切り取った一定期間」をいう。伝

統的な管理会計は,社内の部門別,責任センター別の限定された期間内のスコアを競わせて,これを報酬と結び

つけてインセンティブとするピリオド志向のフレームである。「期間限定・社内競わせ型」のピリオド志向の管理

会計は,人の思考空間を限定する結果,知覚と想像力を減衰させるおそれが強い。」(河田[2003]p. 170)

(出所)Schmidt[2000]より筆者修正

Page 11: 「投下資本コスト包摂型ライフサイクル・コスティング」「投下資本コスト包摂型ライフサイクル・コスティング」 の提唱 ――「デュアル・モード管理会計モデル」の実効性向上に関する一考察――

しい。

これに対し,近年,製造業を取り巻く経営環

境は,前述の通り,急激かつ大きな変化を遂げ

つつある。

たとえば,國村[2007]は,「近年,工業製品

に要求される属性が高速化,微細化,小型化,

薄型化,軽量化し,これら製品の陳腐化のスピー

ドが加速し,製商品の生鮮食品化が進んでい

る」(33)

と指摘する。このような状況に対し,企

業は,中長期的かつ大局的な視野にたった,新

技術ならびに新商品コンセプトの開発を,迅速

にかつ組織横断的に進めるとともに,多額の開

発コスト・投資コストの管理,原価管理,価格

政策などを,製品・プロジェクト単位で柔軟か

つ的確におこなわなければならない。「会計期

間単位」や「組織単位」だけにこだわっている

余裕は,ここにはない。

また,グローバル競争の激化は,好むと好ま

ざるとにかかわらず,企業の経営戦略に,国境

の壁,組織の壁,分野の壁を越えた思考を要求

する。事業,とりわけ,生産と販売のグローバ

ル化の進展は,発生するコストの費目軸・地域

軸・時間軸における拡張をもたらし,それらの

製品・プロジェクト単位での管理の必要性が高

まる傾向にある。この点においても,「会計期

間単位」や「組織単位」での管理のみに拘泥す

ることは,困難であるといわざるを得ない。

さらに,製品バリューチェーンの拡張や製品

リコール問題の拡大により,企業には,複数の

会計期間にまたがり,広範な収益やコストを包

摂した,製品・プロジェクト単位での戦略的な

製品採算管理が求められる傾向にある。たとえ

ば,李[2009]は,キャノンの事例について,

次のように指摘する。

「キャノンは,(中略)プリンタ市場での低価

格競争時代の 90 年代に,その競争に勝ち抜く

ために,交換カートリッジの様式を変えること

によって,本体価格を下げつつも,ランニング

コストを上昇させることで利益を獲得した。つ

まり,本体と消耗品の利益プロフィールを戦略

的に操作したのである。このように製品の利用

段階において収益の機会がある以上,メーカー

は製品本体の使用段階まで考慮する,つまりラ

イフサイクル志向のもとで利益管理を行う必要

がある。」(34)

以上のように,近年の製造業を取り巻く経営

環境の変化は,会計期間単位ないし組織単位で

の「タテ割り」の統制を特徴の1つとする伝統

的管理会計理論に対して,「ヨコ通し」の視点に

もとづく管理会計フレームの付加を要求する。

すなわち,ここにおいて求められる視点は,以

下の3点である。

①製品・プロジェクト基軸の視点

②超期間の視点(伝統的な会計期間単位での

「タテ割り」に対する,時間軸上の「ヨコ

通し」の視点)

③組織横断の視点(伝統的な組織単位での「タ

テ割り」に対する,プロセスによる「ヨコ

通し」の視点)

これら3つの視点の同時実現を可能にする管

理会計理論の1つが,ライフサイクル・コスティ

ング(LCC)理論であることは,前章における

考察からも明らかである。したがって,この点

において,ライフサイクル・コスティング理論

の主たる現代的意義が認められる,といえる。

3.2 ライフサイクル・コスティング理論の限

界性

前述の通り,ライフサイクル・コスティング

理論は,1960 年代のアメリカで萌芽し,1970 年

「投下資本コスト包摂型 ライフサイクル・コスティング」の提唱(今井)141

: 國村[2007]p. 111

; 李[2009]pp. 125-126

Page 12: 「投下資本コスト包摂型ライフサイクル・コスティング」「投下資本コスト包摂型ライフサイクル・コスティング」 の提唱 ――「デュアル・モード管理会計モデル」の実効性向上に関する一考察――

代にイギリスやドイツなどに伝播され,当初は

主として行政機関などの特殊領域で実践され

た。

その後,1980 年代以降に,企業における管理

会計理論の1つとして,多様なライフサイク

ル・コスティング理論が展開されるとともに,

企業経営の実務のなかに導入されてきた。

企業におけるライフサイクル・コスティング

の普及状況について,たとえば,尾畑[2000]

によれば,1990 年代のドイツでは以下の通りで

ある(35)。

①知名度は,全業種平均で 76%,最も高い業

種である自動車で 100%,最も低い業種で

ある食品で 50%(回答総数 89社)。

②採用率は,全業種平均で 27%,最も高い業

種である自動車で 80%,食品・エネルギー・

銀行・保険の各業種では0%(回答総数 89

社)。

また,日本においては,原価管理方法として

ライフサイクル・コスティングを実施している

企業の割合は,西澤[1995]によれば6%(回

答総数 126社)(36),日本大学商学部会計学研究

所[1996]によれば1%(回答総数 833 社)(37),

という状況にある。

企業の経営理論ないし管理会計理論として

の,ライフサイクル・コスティング理論研究の

歴史は,いまだに浅い。但し,この点を考慮し

ても,企業におけるライフサイクル・コスティ

ングの普及は加速化しているとはいい難く,そ

こには,ライフサイクル・コスティング理論の

生成・発展の経緯との関係から,以下の3点の

主たる限界性が見受けられる。

①利益管理フレームとしての未成熟性

ライフサイクル・コスティング理論が,政

府や非営利組織の調達領域から生成・発展

したことを背景に,企業におけるライフサ

イクル・コスティング理論においても,ど

ちらかといえば,ライフサイクル・コスト・

マネジメントの側面に主眼がおかれ(たと

えば,前述の Shields & Young[1991],

Horngren & Harrison[1993]など),ライ

フサイクル利益管理のフレームとしては,

いまだ未成熟である。

②製品ライフサイクル全体を包摂する管理会

計フレームとしての未成熟性

①と同様の背景から,製品開発段階の活動

コントロールによるライフサイクル・コス

トの引下げに焦点が傾斜され(たとえば,

前述のCAM-Iモデル,Schmidt[2000]な

ど),製品ライフサイクル全体を包摂する

管理会計フレームとしては,いまだ未成熟

である。

③ものづくりの現場の競争力への貢献性に対

する不明確さ

新興国製造業の台頭など,先進国製造業の

競争力の再強化が不可欠となっているな

か,製品・プロジェクトを基軸としたライ

フサイクル・コスティング理論が,いかに

して,ものづくりの現場の競争力の練磨に

貢献できるのか,必ずしも明確になってい

ない。

4.トヨタにおけるライフサイクル・コ

スティング

以上,前章では,企業におけるライフサイク

ル・コスティング理論について,その主たる現

代的意義と限界性について評価した。次に,本

第 11 巻 第 4 号142

< 尾畑[2000]pp. 186-198

= 西澤[1995]p. 28

> 日本大学商学部会計学研究所[1996]p. 158

Page 13: 「投下資本コスト包摂型ライフサイクル・コスティング」「投下資本コスト包摂型ライフサイクル・コスティング」 の提唱 ――「デュアル・モード管理会計モデル」の実効性向上に関する一考察――

章では,日本企業における代表事例として,ト

ヨタにおけるライフサイクル・コスティングの

事例検証をおこなう(38)。

4.1 原価企画から車種別損益管理へ

アメリカ経営理論・管理会計理論が「タテ割

り」型の統制に傾斜し,ものづくりとは疎遠に

なる傾向があったのに対し,ものづくりを是と

するトヨタでは,伝統的に「ヨコ通し」の視点

が経営や組織の全体で醸成され,定着している。

その起源の1つは,1950 年の経営危機を契機

とする,TPS(トヨタ生産方式)である。JIT

(Just in Time)のプロセスにより,「淀みのな

いモノの流れ」を志向するTPS には,本来的に,

「会計期間や組織という単位で区切る」という

思考そのものがない。

いま1つの起源は,1965 年のデミング賞(実

施賞)の受賞と,会社代表標語「よい品よい考」

に象徴される,TQC(Total Quality Control)で

ある。Deming による TQC は,単なる品質管

理手法の有効性を超えて,品質管理とは会社全

体で取り組むべき重要なマネジメントの1つで

あり,経営者がその指導をし,またその責任を

負わなければならない,との思考にもとづき,

モノの品質を超えて経営品質の視点に迫る問い

かけであった。トヨタでは,デミング賞の受賞

と連繋して,組織図上の「タテ割り」の職能組

織間を「ヨコ通し」に通貫する「機能」の2本

柱として,「品質機能」と「原価機能」を定義し,

製品の品質確保と原価低減を全社的な協力のも

とで推進するための「機能別管理」体制を構築

した(39)。

このような起源から生成したトヨタの「ヨコ

通し」の視点は,前章でライフサイクル・コス

ティング理論の主たる現代的意義として指摘し

た,①製品・プロジェクト基軸の視点,②超期

間の視点,③組織横断の視点,のすべてについ

てすでに包摂するものであり,その前提のもと

で,トヨタにおけるライフサイクル・コスティ

ングとしての原価企画(40)

が生成・発展した。

トヨタにおける原価企画は,1966年発表の初

代カローラの設計・試作段階における,車両担

当主査を中心とした関連メンバーによる,イン

フォーマルな原価引下げ活動に端を発する。こ

の活動を組織化するため,1967年には「原価企

画実施規則」が制定され,原価企画の推進手順

と担当部門が明確化されるとともに,VE

(Value Engineering)技法(41)

が採用され,開

発・設計段階において原価低減活動が組織的に

実施されるようになった。さらに,1969年には

「外注部品原価企画委員会」や「外注ボディ原

価企画委員会」が発足され,内製品にくわえて

外注部品や外注ボディについても,設計段階で

トヨタグループ全体の総合力や専門知識を活用

「投下資本コスト包摂型 ライフサイクル・コスティング」の提唱(今井)143

? 1980 年代初頭に,企業における自社製品を前提とした,生産者視点ないし供給者視点のライフサイクル・コス

ティング理論が登場して以降,一般に産業界では,管理会計理論としてのライフサイクル・コスティング理論に

関心がもたれはじめ,企業経営の実務への導入が徐々に試みられてきた。装置産業の1つとして,多額の製品開

発コスト・投資コストを要し,製品ライフサイクルが比較的長い,自動車産業における事例は,ライフサイクル・

コスティングの典型事例の1つである,との解釈が可能である。

@ 青木[1981]p. 68

A 原価企画という用語は,トヨタにおける原価管理の3本柱(すなわち,原価維持,原価改善,原価企画)として,

1963 年に位置づけられたのがはじまりである。(田中[1995]p. 12)

B 製品やサービスの「価値」を,それが果たすべき「機能」とそのためにかける「コスト」との関係で把握し,シ

ステム化された手順によって「価値」の向上をはかる技法。1947年,アメリカ GE社のMilesによって開発され,

1960 年頃,日本に導入された。

Page 14: 「投下資本コスト包摂型ライフサイクル・コスティング」「投下資本コスト包摂型ライフサイクル・コスティング」 の提唱 ――「デュアル・モード管理会計モデル」の実効性向上に関する一考察――

した原価企画が展開されるようになった(42)。

その後,1985 年のプラザ合意を起点として,

日本経済は未曾有の円高不況に突入したが,こ

の時期から,トヨタにおける原価企画は,車種

別損益管理へと変容することとなった。すなわ

ち,企画対象車に目標原価を設定して,新車の

原価低減をはかることに重点をおく活動から,

企画対象車だけでなく,その車種クループ全体

を対象とし,車種グループごとに目標利益を設

定して,これを達成するように,目標そのもの

の考え方を変えていったのである(43)。たとえ

ば,加登[1993]が指摘するように,ダイハツ

工業では,「1985 年からは,車両ごとに利益目

標を立てた後に,目標コストを導出する現在の

方式が定着している。目標コストを利益目標値

から導出する方式の定着は,原価企画の性質を

それ以前のものから大きく変革するものであっ

た。原価企画は,原価低減プログラムから,総

合的な利益管理活動へと一段の飛躍を遂げたの

である。」(44)

この原価企画の車種別損益管理への変容は,

前章でライフサイクル・コスティング理論の主

たる限界性として指摘した,①利益管理フレー

ムとしての未成熟性,に対する一定の解決であ

る,との解釈が可能である。

4.2 開発段階と量産段階の関係性

トヨタでは伝統的に,全社的な期間利益管理

については,現場からは隔離された形で,経営

トップが経営責任の側面から,自らの手の内だ

けでみる性格のものにとどめられてきた(45)。

したがって,この段階では,上述のライフサ

イクル・コスティングとしての原価企画ないし

車種別損益管理と,全社的な期間利益管理の間

には,明示的な関係性はなかった。すなわち,

開発段階と量産段階が,管理会計的には没機能

の関係にあった,といえる。

しかしながら,金融・資本市場からの株主価

値重視の経営への圧力が強まるなか,トヨタに

おいても,1990 年代央以降,全社的な期間利益

管理のための利益計画システムを構築し,金

融・資本市場に対するアカウンタビリティ(説

明力)の向上をはかるとともに,経営(本社)

と現場を利益計画システムにより接合すること

とした経緯がある(46)。

その結果,上述のライフサイクル・コスティ

ングとしての原価企画ないし車種別損益管理

と,全社的な期間利益管理のための利益計画シ

ステムが,接合されることとなった。但し,こ

の段階での接合とは,原価企画ないし車種別損

益管理は開発段階を中心とした活動とし,量産

段階はあくまで,全社的な期間利益管理のため

の利益計画システムを中心に管理する,という

形式であった。

すなわち,ライフサイクル・コスティングの

視点からみた場合,前章でライフサイクル・コ

スティング理論の主たる限界性として指摘し

た,②製品ライフサイクル全体を包摂する管理

会計フレームとしての未成熟性,に対しては,

充分な解決がはかられた,とはいい難い。

4.3 TPS とライフサイクル・コスティング

トヨタの競争力の要諦の1つが,TPS(トヨ

タ生産方式)であることは,周知の通りである。

第 11 巻 第 4 号144

C 田中[1995]pp. 12-13

D Ibid., pp. 12-13

E 加登[1993]p. 71

F 今井[2010]p. 77

G Ibid., p. 78

Page 15: 「投下資本コスト包摂型ライフサイクル・コスティング」「投下資本コスト包摂型ライフサイクル・コスティング」 の提唱 ――「デュアル・モード管理会計モデル」の実効性向上に関する一考察――

その意味から,トヨタの生産現場ではつねに,

TPS にもとづいた,ものづくりの競争力の不断

の練磨をはかってきた。

TPS により運営されるサプライチェーン・プ

ロセス(supply chain process)における KPI

(key performance indicators)は,①リードタ

イム(lead time),②納期順守率,③在庫,の3

つである(47)。とりわけ,①リードタイムはその

最重要指標であり,現場のプロセスにおいて,

TPS の浸透度を測定するうえで不可欠な KPI

である,といえる。

前述の通り,新興国製造業の台頭により,先

進国製造業の競争力の再強化が不可欠になって

いる。とりわけ,TPS に代表される生産システ

ムと整合し,その優位性の発現(上記①∼③の

KPIの改善)を支援する経営システムないし管

理会計フレームの構築が求められている。

しかしながら,トヨタを含め,これまでにみ

たライフサイクル・コスティング理論は,その

要請に必ずしも明確に応え得ていない。すなわ

ち,前章でライフサイクル・コスティング理論

の主たる限界性として指摘した,③ものづくり

の現場の競争力への貢献性に対する不明確さ,

に対しては,充分な解決がはかられた,とはい

い難い。

5.「投下資本コスト(TCCE)包摂型 ラ

イフサイクル・コスティング(LCC)」

の概念

ここまで,欧米における主要なライフサイク

ル・コスティング理論,とりわけ,企業におけ

る自社製品を前提とした,生産者視点ないし供

給者視点のライフサイクル・コスティング理論

について,その生成・発展・進化の史的変容の

軌跡を辿り,その主たる現代的意義と限界性を

評価し,さらに,日本企業における代表事例と

して,トヨタにおけるライフサイクル・コスティ

ングの事例検証をおこなった。以上をふまえ,

本章では,前述の 21世紀の製造業の経営環境

に適合し,かつ,ものづくりの競争力の練磨に

貢献する管理会計フレームとして,「投下資本

コスト(TCCE)包摂型 ライフサイクル・コス

ティング(LCC)」の概念を提唱する。

5.1 「投下資本コスト(TCCE)包摂型 ライフ

サイクル・コスティング(LCC)」の意義

前述の通り,1970 年代までの伝統的なアメリ

カ経営理論・管理会計理論は,一貫してどちら

かといえば,会計期間単位ないし組織単位での

「タテ割り」の統制に傾斜し,ものづくりとは

疎遠になる傾向があった。

一方,近年の製造業を取り巻く経営環境は,

製品要求属性の高度化と変化の高速化,顧客

ニーズ多様化の加速化,製品ライフサイクルの

短縮化,製品サプライチェーンのグローバルな

拡大化,製品バリューチェーンの拡張,製品リ

コール問題の拡大傾向,さらには,新興国製造

業の台頭による先進国製造業の競争力再強化の

必要性など,急激かつ大きな変化を遂げつつあ

る。

このような変化は,会計期間単位ないし組織

単位での「タテ割り」の統制を特徴の1つとす

る伝統的経営理論・管理会計理論に対して,超

期間ないし製品・プロジェクトを基軸とした組

織横断的な「ヨコ通し」の視点にもとづく経営

システムないし管理会計フレームの付加を要求

する。

そのような要請に応える企業の管理会計理論

の1つとして,1980 年代以降,多様なライフサ

イクル・コスティング(LCC)理論が展開され,

企業経営の実務への導入がはかられてきた。

「投下資本コスト包摂型 ライフサイクル・コスティング」の提唱(今井)145

H 今井[2004]p. 59を参照。

Page 16: 「投下資本コスト包摂型ライフサイクル・コスティング」「投下資本コスト包摂型ライフサイクル・コスティング」 の提唱 ――「デュアル・モード管理会計モデル」の実効性向上に関する一考察――

ここで,すでに,現代的意義と限界性の評価

により指摘した通り,今後のライフサイクル・

コスティング理論に求められる視点(「ヨコ通

し」の視点)とは,以下の6点である。

①製品・プロジェクト基軸の視点

②超期間の視点

③組織横断の視点

④ライフサイクル利益管理の視点

⑤製品ライフサイクル全体包摂の視点

⑥ものづくり現場競争力への貢献性の視点

これに対し,ものづくりを是とするトヨタで

は,TPS(トヨタ生産方式)と TQC(Total

Quality Control)を起源として,伝統的に「ヨ

コ通し」の視点が経営や組織の全体で醸成・定

着し,その前提のもとで,ライフサイクル・コ

スティングとしての原価企画ないし車種別損益

管理が生成・発展した。その意味では,トヨタ

は,ライフサイクル・コスティングの先駆的企

業の1つである,といえよう。

しかしながら,そのトヨタにおいてもなお,

上述の今後のライフサイクル・コスティング理

論に求められる6つの視点について,それらす

べてを充足し得ているわけではない。すなわ

ち,ライフサイクル・コスティングとしての原

価企画ないし車種別損益管理は,開発段階を中

心とした活動とされ,また,TPS に代表される

生産システムと整合し,その優位性の発現を支

援する管理会計フレームにもなり得ていない。

したがって,6つの視点のうち,⑤製品ライフ

サイクル全体包摂の視点,ならびに,⑥ものづ

くり現場競争力への貢献性の視点,については,

トヨタにおいてもいまなお,一定の限界性を有

した形となっている。

本稿では,上述の6つの視点の同時実現を可

能にする管理会計フレームとして,「投下資本

コスト(TCCE)包摂型 ライフサイクル・コス

ティング(LCC)」の概念を提唱する。その鍵は,

上述の⑤と⑥の2つの視点の実現にある,とい

える。以下では,この2点に焦点を当てる。

5.2 「投下資本コスト(TCCE)包摂型 ライフ

サイクル・コスティング(LCC)」の基本

要素

5.2.1 製品ライフサイクル全体包摂の視点

一般に,企業の経営組織体を,1つの有機的

な社会システムとして認識するならば,企業の

経営システムないし管理会計フレームの設計

は,経営組織体としての環境適応が全体最適の

もとで実現可能な,全体論的アプローチ

(holistic approach)(48)

にもとづかなければな

らない。本稿では,このような企業の組織観と

アプローチに立脚する。

このような組織観の根底をなす論理の1つ

に,Polanyi[1967]の「層の論理」(49)

がある。

河田[2003]は,この論理を製造業における経

営管理情報のレベルに援用し,「全社」「事業部」

「製品」「顧客オーダー」「生産ロット」「1個」

という6階層からなる,「管理情報の階層」モデ

ル(50)

を提示した。

本稿が提唱する「投下資本コスト(TCCE)

包摂型 ライフサイクル・コスティング(LCC)」

は,この「製品」階層を基軸として,超期間の

視点ならびに組織横断の視点に則り,前述の

Susman[1989]が指摘する,①マーケティング

第 11 巻 第 4 号146

I 全体論(holism)とは,「ある系は部分の総和であり,部分が系全体の振る舞いを決定する」とする要素還元主

義(reductionism)に対し,「ある系は部分の総和以上のものであり,系全体が部分の振る舞いを決定する」とす

る考え方。前世紀後半以降,全体論的な思考法は,分野や領域を越えて広まる傾向にある。

J Polanyi[1967]は,「世の中の至る所に幾重にもなった階層が無数に存在する」とし,この階層構造間における

相互作用と暗黙知の存在を指摘した。

K 河田[2003]pp. 171-172

Page 17: 「投下資本コスト包摂型ライフサイクル・コスティング」「投下資本コスト包摂型ライフサイクル・コスティング」 の提唱 ――「デュアル・モード管理会計モデル」の実効性向上に関する一考察――

視点の製品ライフサイクル(導入期・成長期・

成熟期・衰退あるいは復興期に区分),ならびに,

②生産視点の製品ライフサイクル(製品企画・

開発・設計・調達・生産・ロジスティックスに

区分)の全段階を通じて,製品のライフサイク

ル利益管理をおこない,かつ,その最大化を目

指すことを目的とする。

ここで重要なのは,製品のライフサイクル利

益管理とその最大化のための活動を,(トヨタ

の事例にみられるような)開発段階を中心とし

た活動にとどめず,量産段階を含む製品ライフ

サイクル全体を包摂した,全社的かつダイナ

ミックな活動として展開することである。

その理由は,前述の近年の製造業を取り巻く

経営環境の変化にくわえ,そもそも製品戦略の

立案と実行は,現世代の製品ライフサイクルだ

けを視野におき完結する活動では限界があり,

むしろ,現世代の製品ライフサイクルを通じて

得られるさまざまな知見(knowledge)を,次

世代の製品ライフサイクルに反映し,フィード

フォワード・コントロール(feed-forward con-

trol)をおこなうことによって,はじめて実効

性が確保されるからである(51)。前述の今後のラ

イフサイクル・コスティング理論に求められる

6つの視点のうち,⑤製品ライフサイクル全体

包摂の視点,の意義はこの点にある,といえる。

5.2.2 ものづくり現場競争力への貢献性の視

いま1つ,近年の製造業を取り巻く経営環境

の変化から,今後のライフサイクル・コスティ

ング理論に求められる重要な視点は,前述の⑥

ものづくり現場競争力への貢献性の視点,であ

る。とりわけ,TPS(トヨタ生産方式)に代表

される生産システムと整合し,その優位性の発

現を支援する管理会計フレームの構築が求めら

れている。すなわち,図表4の「管理情報の階

層」モデルにおいて,「製品」階層を基軸とする

ライフサイクル・コスティングが,ものづくり

現場である「生産ロット」以下の階層をどのよ

うに支援し得るか,との視点である。

このような,いわゆる管理会計の「階層的深

耕」の1つに,Johnson & Broms[2000]のオー

ダーライン収益性分析(Order-line Profitabil-

ity Analysis)がある。これは,目的の識別に応

じて間接費をオーダーラインに跡づけし,顧客

が企業に対し発注するすべての注文のなかに含

まれる口別単位の情報から,収益性情報を作成

する技法である(52)。TPS(トヨタ生産方式)が,

受注した項目に関する仕事の流れを可視化する

のと同様に,受注した項目の利益の流れを可視

「投下資本コスト包摂型 ライフサイクル・コスティング」の提唱(今井)147

L たとえば,次世代の製品企画における新技術の投入や新商品コンセプトの開発は,現世代の製品ライフサイク

ルにおける顧客の技術ならびに商品コンセプトの評価を反映して,はじめて実効性が確保される。このような製

品ライフサイクルの世代間における知見(knowledge)のフィードフォワード・コントロール(feed-forward

control)は,技術や商品コンセプト以外にも,たとえば,品質管理・部品調達・製造方法・製造設備・ロジスティッ

クス・需給管理・マーケティング・顧客サービス・価格政策・原価企画・採算管理など,その適用領域は枚挙にい

とまがない。

M Johnson & Broms [2000] (邦訳[2002]pp. 203-243)

図表4 河田[2003]の「管理情報の階層」モデル

レベル 階層

1 全 社

2 事業部

3 製 品

4 顧客オーダー

5 生産ロット

6 1個

(出所)河田[2003]

Page 18: 「投下資本コスト包摂型ライフサイクル・コスティング」「投下資本コスト包摂型ライフサイクル・コスティング」 の提唱 ――「デュアル・モード管理会計モデル」の実効性向上に関する一考察――

化する点において,この技法の意義が認められ

る。しかしながら,「深耕」が「顧客オーダー」

階層までであるため,TPS の浸透度を直接的に

測定し,また支援することもできない。この点

において,一定の限界性があるといわざるを得

ない。

この限界性の克服を可能にする概念の1つ

が,國村[2008]の投下資本コスト(Time Cost

of Capital Employed:TCCE)である。

國村[2008]は,プロジェクト等の経済計算

において,材料費や人件費といった製造コスト

に,製造・流通過程で循環する運転資本等の使

用料としての,時間要素を組み込んだ投下資本

コスト(TCCE)(53)

をくわえた,経済コストを

用いることにより,合理的な意思決定ができる,

と指摘する(54)。

一般に,投下資本コストそのものは,新しい

概念ではない。たとえば,ファイナンス領域で

の Ohlson モデルにおける株主資本コストや,

EVA(Economic Value Added)(55)

における

WACC(Weighted Average Cost of Capital)な

どが,その代表例である。但し,いずれも,期

間損益計算を前提とし,時間概念が未分化な,

マクロ・アプローチの投下資本コストであるた

め(56),リードタイムをベースにした現場管理に

結びつけることは難しい(57)。

それに対し,國村[2008]の投下資本コスト

(TCCE)は,時間軸が組み込まれ,ボトムアッ

プの積上げ方式で測定する,ミクロ・アプロー

チの投下資本コストであるため,TPS の浸透に

よるリードタイム(lead time)の削減効果を,

直接的に投下資本コストの削減という形で測定

することが可能である(58)。この点に,國村

[2008]の投下資本コスト(TCCE)の特質が

ある。

本稿では,上述の製品ライフサイクルの全段

階を通じた,製品のライフサイクル利益管理と

してのライフサイクル・コスティング(LCC)

に,國村[2008]の投下資本コスト(TCCE)を

包摂した,「投下資本コスト(TCCE)包摂型

ライフサイクル・コスティング(LCC)」の概念

を提唱する。

この概念では,生産システムのデータベース

を「生産ロット」階層(単位)まで落としこん

で把握し,そのデータから投下資本コスト

(TCCE)をボトムアップの積上げ方式で測定

し(59),製品のライフサイクル・コストに加算す

ることにより,合理的な製品のライフサイクル

第 11 巻 第 4 号148

N 投下資本コスト(TCCE)=∑i∑j投下資本ij×拘束期間ij×資本コスト。工程別(i)原価要素別(j)に把握された

拘束資本量(投下資本×拘束期間)の合計に資本コスト(率)を乗じて,投下資本コスト(TCCE)を算出する。

(國村[2008]p. 47)

O 國村[2008]p. 45

P EVAは Stern Stewart & Co. の商標である。

Q 國村[2008]p. 45,p. 50

R EVA やその類似指標を導入した日本の企業には,松下電器,松下電工,ソニー,シャープ,東芝,旭化成,

HOYAなどがあるが,これらの大半の企業においては,主として事業リストラの判断材料として,同指標が活用

された。

S 國村[2008]p. 45,p. 50

T 國村[2008]によれば,「継続生産を前提とする総合原価計算では,期間単位で投下資本コストが測られる。た

とえば「1日当り原価」,といった単位である。この「原価」に拘束時間であるリードタイムが乗じられ,「1日あ

たり拘束資本量」が計算される。これに資本コストと会計期間が乗じられ会計期間当りの投下資本コストが計測

され,リードタイムが投下資本コストに直結する。リードタイムの削減効果が時間という管理可能な単位で投下

資本コストを用いて計測されるのである。」(國村[2008]p. 52)

Page 19: 「投下資本コスト包摂型ライフサイクル・コスティング」「投下資本コスト包摂型ライフサイクル・コスティング」 の提唱 ――「デュアル・モード管理会計モデル」の実効性向上に関する一考察――

利益管理に繋げる(60)。

また,投下資本コスト(TCCE)の適用領域

は,製品ライフサイクル上の生産段階に限定さ

れない。たとえば,自動車という製品のライフ

サイクルを考えた場合,調達段階における

SCA(Supply Chain Activity)(61)

による最適部

品調達チェーンづくり,ロジスティックス段階

におけるグローバル・サプライチェーン・マネ

ジメント(global supply chain management)

によるオーダー・デリバリー改善,マーケティ

ング段階におけるディーラー長期在庫対策な

ど,生産段階と同様に,リードタイムの削減効

果を投下資本コスト(TCCE)の削減という形

で測定できる領域は,製品ライフサイクル上に

多数存在する。

かくして,「投下資本コスト(TCCE)包摂型

ライフサイクル・コスティング(LCC)」は,「製

品」階層を基軸とするライフサイクル・コスティ

ング(LCC)でありながら,投下資本コスト

(TCCE)を包摂し「生産ロット」階層まで「深

耕」をはかることによって,前述の今後のライ

フサイクル・コスティング理論に求められる6

つの視点のうち,⑥ものづくり現場競争力への

貢献性の視点,を充足するものである,といえ

る。

5.3 「デュアル・モード管理会計モデル

(DMAM)」の実効性向上への貢献性

管理会計理論は,1920 年代のアメリカで生成

し,その後も前世紀を通じて,主としてアメリ

カで確立され,発展してきた。しかしながら,

前世紀末に至り,アメリカ製造業の国際競争力

の低下と衰退から,アメリカでは管理会計理論

と現実の実務の乖離問題が浮上した。一方,日

本のものづくりの強さが注目され,日本の経営

システムや管理会計システムに対する関心が,

世界的に高まる傾向にある。TPS(トヨタ生産

方式)に関する近年の研究の興隆は,その象徴

である。

今井[2010]では,これをスキーマ(schema:

認識枠)の概念を軸に捉え,管理会計スキーマ

と経営品質の関係性に焦点を当て,アメリカ的

管理会計スキーマとその対極に位置するトヨタ

的管理会計スキーマの形成過程を辿り,両者の

要諦の対比をおこなった(62)。

そこから浮びあがった結論は,20世紀の管理

会計スキーマは,本社主導の「タテ型モード」

のスキーマか,現場主導の「ヨコ型モード」の

スキーマか,いずれかのスキーマに偏る点にお

いて一定の限界性があった,ということである。

すなわち,アメリカ管理会計理論においては,

一貫して,本社主導の「タテ型モード」の思考

枠が中核的に保持され,現場主導の「ヨコ型モー

ド」のスキーマにまで,視点の拡張が充分には

及ばなかったのである(63)。

このような認識のもとに,今井[2010]では,

21世紀の経営環境に適合し,企業の経営品質に

貢献する,新たな管理会計スキーマの概念モデ

ルとして,「デュアル・モード管理会計モデル

(Dual-mode Management Accounting Mod-

「投下資本コスト包摂型 ライフサイクル・コスティング」の提唱(今井)149

U 投下資本コスト(TCCE)は機会原価であり,意思決定や管理会計には使えるが,財務会計に使うことはできな

い。(國村[2008]p. 45)

V 自動車の部品調達におけるサプライチェーンの可視化と効率化を意味する業界用語。1997年2月1日,アイシ

ン精機刈谷第一工場中央ラインから発生した火災により,プロポーショニング・バルブの供給が完全に停止し,

その影響で,トヨタの全工場ならびに同部品の供給先であった三菱自動車工業の主力工場の操業が完全に停止し

たことを契機に,SCA(Supply Chain Activity)の概念と活動が生起した。

W 今井[2010]pp. 62-80

X Ibid., p. 81

Page 20: 「投下資本コスト包摂型ライフサイクル・コスティング」「投下資本コスト包摂型ライフサイクル・コスティング」 の提唱 ――「デュアル・モード管理会計モデル」の実効性向上に関する一考察――

el:DMAM)」を提唱した(64)。

ここに,「タテ型モード・スキーマ」と「ヨコ

型モード・スキーマ」は,「本社主導で組織体を

統制する」「現場が自律的・創発的に協働する」

との経営組織体の中核的機能としては,一般に

はいずれも,企業の経営品質の保持に不可欠な

構成要素(Management Quality Factor:MQF)

である(65)。但し,基本的性格に差異があるため,

経営システムにおいて,両スキーマが相互補完

性をもって有機的に並存するためには,システ

ム設計上の工夫として,場所特性に適応した両

スキーマの「接合要素」の構築が不可欠である

ことを指摘した(66)。

本稿が提唱する「投下資本コスト(TCCE)

包摂型 ライフサイクル・コスティング(LCC)」

は,①「本社主導のタテ型モードの期間利益計

画システム」と②「現場主導のヨコ型モードの

超期間的プロセス」の双方を繋ぐ「接合要素」

の1形態である。すなわち,①本社期間利益計

画に対しては,全社利益の期間軸(タテ軸)と

製品ライフサイクル軸(ヨコ軸)のマトリック

ス関係によって,また,②現場プロセスに対し

ては,視点(スキーマ)の共通性と投下資本コ

スト(TCCE)を媒介としたプロセスの練磨に

よって,「タテ型モード」と「ヨコ型モード」の

「接合要素」として機能することにより,「投下

資本コスト(TCCE)包摂型 ライフサイクル・

コスティング(LCC)」は,「デュアル・モード管

理会計モデル(DMAM)」の実効性向上に貢献

する概念である。

6.おわりに

Anthonyにより伝統的管理会計理論が成立

した 1960 年代初頭のアメリカにおいて,Berle

とともに「経営者支配論」を展開した Means

[1962]は,企業の経営者には,「権力を得よう

とする衝動,威信を得ようとする衝動,仕事を

うまくやり遂げる衝動,公共の福祉に対する関

心,個人的利潤を得ようとする衝動」という5

つの動機があることを指摘し(67),アメリカ企業

において「所有と経営の分離」が進行するなか,

第 11 巻 第 4 号150

Y Ibid., pp. 81-83

Z Ibid., p. 80

[ Ibid., p. 83

\ Means [1962] (邦訳[1962]pp. 263-264)

図表5 今井[2010]の「デュアル・モード管理会計モデル(DMAM)」

(出所)今井[2010]

Page 21: 「投下資本コスト包摂型ライフサイクル・コスティング」「投下資本コスト包摂型ライフサイクル・コスティング」 の提唱 ――「デュアル・モード管理会計モデル」の実効性向上に関する一考察――

経営者によるコーポレート・コントロールの将

来についての警句を表明した。

以来,アメリカ企業では,長期にわたり,成

功者への賞賛,強いリーダーへの評価,個人主

義,業績連動型のインセンティブ,組織のトッ

プダウン・コントロール志向といった文化的諸

要素が醸成され,経営におけるいわゆる「会計

ヘゲモニー」(会計による経営の支配)の側面が

強調されるに至った。

このような背景から生成した「タテ割り」型

の思考には,「会計期間という単位で区切る」「組

織という要素に還元する」「目標や標準の必達

へ人を統制する」といった人為的側面がともな

う。一方,「タテ割り」型の対極に位置する「ヨ

コ通し」型の思考には,「モノ(製品)を軸に考

える」「プロセスに沿って連携する」「人の自律

性・創発性で限界突破する」といった本質的側

面がそなわっている。

現代の企業経営においては,これら両者の思

考や側面は,ともに不可欠である。但し,とり

わけ,ものづくり経営においては,両者がバラ

ンスをもって有機的に並存しなければならな

い。その理由は,周知の通り,前世紀のアメリ

カ製造業の軌跡が示す通りである。

本稿では,以上のような認識を管理会計の視

点から捉え,「タテ割り」の期間利益計画と「ヨ

コ通し」の現場プロセスを「接合する要素」と

して,また,21世紀の製造業の経営環境に適合

し,ものづくりの競争力の練磨に貢献する管理

会計フレームとして,「投下資本コスト(TCCE)

包摂型 ライフサイクル・コスティング(LCC)」

を提唱した。

「投下資本コスト(TCCE)包摂型 ライフサ

イクル・コスティング(LCC)」を実践するうえ

での主たる課題は,投下資本コスト(TCCE)

をボトムアップの積上げ方式で測定するために

必要なデータを捕捉・収集するための情報シス

テムの構築である(68)。この点に関しては,今後

の ICT 技術の進化を見据えながらの実践的研

究が,課題として残っている。

21世紀の製造業のグローバル競争は,好むと

好まざるとにかかわらず,国境の壁,組織の壁,

分野の壁を越えて激化するであろう。それに対

応して,企業の競争戦略も,経営戦略や事業戦

「投下資本コスト包摂型 ライフサイクル・コスティング」の提唱(今井)151

図表6 「投下資本コスト(TCCE)包摂型 ライフサイクル・コスティング(LCC)」の位置づけ

(出所)筆者作成

Page 22: 「投下資本コスト包摂型ライフサイクル・コスティング」「投下資本コスト包摂型ライフサイクル・コスティング」 の提唱 ――「デュアル・モード管理会計モデル」の実効性向上に関する一考察――

略のレベルから製造業本来の製品戦略へと主軸

がシフトし,製品・プロジェクトを基軸とした

管理会計の重要性が,今後高まるものと思われ

る。

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t たとえばトヨタでは,最新の ICT技術を駆使し,生産・物流・販売からアフターサービスまでを一貫して管理

する,新自動車流通システム「SLIM(Sales Logistics Integrated Management)」を開発し,2009年6月より,中

国の広汽トヨタ自動車有限公司において,本格運用を開始した。SLIM は,生産・物流・販売・納車・アフター

サービスまでの各プロセスに存在する全車両が,現在どのプロセスにあるかを,広汽トヨタに設置された専用大

型モニター上で,1台1台正確に把握するシステムである。具体的には,プロセスごとに基準となるリードタイ

ムが定められており,各プロセスに一定期間以上滞留した車両は画面上に明示され,広汽トヨタの専任スタッフ

により逐次フォローされる。その意味では,SLIMは,自動車メーカーの生産・物流過程と販売会社の在庫・販売

状況のすべての情報をシームレスに結び,リアルタイムかつ一元的に可視化し,JIT(Just in Time)の概念の適用

をはかる点において,いわば 21世紀の「新かんばん方式」ともいうべきシステムである。(トヨタ自動車㈱[2009]

を参照。)

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