日本の外国人労働者の...

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日本の外国人労働者の 雇用に関する実証研究 2012210橋本 由紀

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Page 1: 日本の外国人労働者の 雇用に関する実証研究日本の外国人労働者研究の歴史② 1990年の入管法改正で,現在の外国人労働者政策の 枠組みが整備された

日本の外国人労働者の

雇用に関する実証研究

2012年2月10日

橋本 由紀

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全体の構成

第1章 序論

第2章 移民労働者研究レビュー

第3章 日系ブラジル人労働者の賃金と雇用

第4章 外国人労働者の雇用と企業経営

第5章 研修生受入企業の賃金と生産性

第6章 非正規労働者と外国人労働者の代替関係

第7章 結論

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第1章 序論

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日本の外国人労働者研究の歴史①

日本の外国人「労働者」研究は,1990年の入管法改正以降に集中している

在日韓国・朝鮮人「労働者」に関する研究も,1990年代以前はほとんどない

数的インパクトの小ささと,日本社会への同化の前提を背景に,彼らの就労実態の解明に対する社会的要請がなかった

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日本の外国人労働者研究の歴史②

1990年の入管法改正で,現在の外国人労働者政策の枠組みが整備された

日系人労働者と研修生も法改正後に急増し,労働市場での需要の反映と解釈される

集団としての規模,日本人労働者との異質性の認識,社会的関心の増大―という要件が揃い,外国人労働者を日本人労働者と区別した,比較・検討が要請される

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日本の外国人労働者研究の歴史③

外国人労働者の影響を捉えるには,自国民労働者との差異が「観察」(=データに反映)される必要がある

日本では,官庁統計の大半に,国籍等外国人労働者を識別する設問がないため,外国人労働者の差異を,データから捉えられない

事例調査やアンケート調査等の定性的研究が先行したが,定量分析を行う余地は残されていないのか?

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主 題

外国人労働者の雇用実態を定量分析によって明らかにし,1990年代以降の外国人労働者の労働市場の「構造」変化を捉える

「構造」は「問題とする経済変数の相互関係の数量的表現」として定義する(尾高 1984)

相互関係=外国人労働者と雇用企業との関係性

数量的表現=賃金,雇用,生産性など

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本研究の特徴

先行した定性的研究からヒントを得て,外国人労働者の雇用に関するデータセットを作成・分析し,制度や歴史に依拠した解釈を意識した

外国人労働者の雇用量や賃金水準の決定は,彼らを需要する企業がイニシアチブを有すると考え,労働需要サイド(=外国人雇用企業)の視点から分析する

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第2章 移民労働者研究のレビュー

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移民研究の傾向

fact-findingsを重視した実証研究が,理論研究に先行

モデルの仮定(移民と自国民の代替・補完の程度,高技能者

と低技能者の分断の程度等)次第で,効果の予測が変わるため,モデルを定式化せずに,誘導形の推定式から移民の効果を捉えることが主流 (Pishke and Velling 1997)

分析対象(国籍,年齢,教育,性別等)を拡張しても整合的な結果が得られるか? 異なる推定方法を用いても頑健な結果が得られるか?

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Ⅰ 自国民の賃金・雇用へのインパクト

移民の労働供給の増加は,自国民の雇用や賃金にどのような影響を及ぼすのか

(=移民と自国労働者の代替・補完の程度の測定)

影響を受ける範囲の大きさ,政策的関心から,移民研究の中心論点であり続けている

地域アプローチ,要素比率アプローチ

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Ⅰ 自国民の賃金・雇用へのインパクト

移民が自国民の賃金や雇用に及ぼす「トータル」の効果については,コンセンサスがない

低技能移民流入の影響は,自国民の技能(学歴)によって異なる

(=低技能自国民とは代替,高技能自国民とは補完)

新たな移民の流入は,先住の同技能の移民の雇用と賃金に強い負の影響がある

(=先住の低技能移民とは完全代替)

資本の調整は,移民の効果を減殺させる

(=資本とは代替)

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Ⅱ 移民労働者の「同化」の測定

「同化」の定義: (LaLonde and Topel 1997)

自国民との賃金差の経年的な解消(縮小)

移民(含・2,3世)の賃金水準を自国民と比較

移民の賃金水準は,移民後20-30年かけて徐々に上昇するが,自国民の水準には到達しない

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Ⅲ 移民のセレクション

誰が移民するのか? (=移民の「質」に関する議論)

送出国の残留者の平均属性(所得や学歴)と,移民者の平均属性を比較する

相対的な高技能者が移民する(positive selection)か低技能者が移民する(negative selection)かは,コンセンサスがない

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Ⅳ その他のトピック

価格(財市場)への影響

高技能移民とイノベーションの関係

社会保障サービスや財政への影響

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第3章 ブラジル人労働者の賃金と雇用の安定に関する考察

ーポルトガル語求人データによる分析ー

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要 約

日本のブラジル人を対象に発行されるポルトガル語新聞の求人広告からデータを作成

ブラジル人労働者の求人・賃金動向と経済指標との間で回帰分析

ブラジル人労働者への求人件数と求人賃金はともに,日本人労働者よりも,景気循環の影響を強く受ける

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仮 説

ブラジル人の労働供給行動 Bulow and Summers(1986):離職率の差が,安定的な内部労働市場

の仕事に就ける確率の差に直結するモデル

日本人労働者よりも離職率が高く,勤続期間も短いブラジル人労働者は,雇用が不安定な外部労働市場への割当確率が高い

企業の需要行動 非熟練労働者は,雇用調整が容易な労働力(=非正規労働者)で確保

したい

ブラジル人労働者は,日本語が不自由で,雇用管理は負担が大きく,アウトソースしたい

ブラジル人労働者は,非正規労働に集中し,日本の労働市場に不安定雇用層として位置付けられる

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データ

エスニック新聞の求人広告は,日系人の求職手段として広く活用されている (イシ 2002,梶田 1999)

日本のブラジル人を対象に発行されるポルトガル語新聞(Jornal International Press – Edicao em Portugues)の求人広告から賃金データを収集

毎月第1週の求人広告1件を1サンプル

時系列(四半期)でプール

1991年10月から2004年12月

サンプル総数は14,410

企業名,産業,就業場所,賃金など

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20

0

50

100

150

200

250

件 図1 求人広告掲載件数の推移(月次)

出所:IPデータ

92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04

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実証分析

被説明変数:ブラジル人労働者の求人件数,平均求人賃金

説明変数:景気循環を捉える17の経済指標

(先行系列,一致系列,遅行系列)

各指標ごとに推定

例)先行系列指標が,求人件数について有意に推定されれば,

ブラジル人への求人は,景気循環に先行すると判断

トレンド項なし,トレンド項あり,1階の階差

日本人の求人数(常用,パート),平均求人賃金とも比較

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0.4289 ** 0.6599 *** 0.0047 0.0266 * 0.0210 0.1069 -0.0071 0.0579 0.0006 0.0006 0.0010 6.53e-06

(2.65) (3.19) (0.33) (2.03) (0.43) (1.80) (-0.16) (1.05) (0.23) (0.16) (.037) (0.00)

2.3128 * 3.4654 ** -0.0259 0.0911 0.6383 * 0.8898 ** 0.3833 0.4873 0.0056 0.0133 0.0083 0.0147

(1.95) (2.34) (-0.26) (0.98) (1.92) (2.29) (1.21) (1.32) (0.28) (0.56) (0.45) (0.64)

-0.0815 *** -0.0780 *** -0.0016 -0.0012 -0.0106 * -0.0120 ** -0.0010 * -0.0112 ** 0.0006 * 0.0005 0.0002 0.0002

(-5.09) (-4.43) (-0.98) (-0.92) (-1.95) (-2.17) (-2.01) (-2.29) (1.82) (1.50) (0.58) (0.72)

0.0546 *** 0.0606 ** 0.0004 0.0009 0.0032 0.0064 0.0030 0.0069 -0.0005 * -0.0004 -0.0001 -0.0004

(3.41) (2.69) (0.29) (0.59) (0.63) (0.99) (0.64) (1.20) (-1.87) (-1.06) (-0.49) (-1.11)

5.3030 *** 6.9001 *** 0.2034 0.2168 1.7333 *** 1.8107 *** 1.1754 ** 1.1238 * 0.0305 0.0197 0.0209 0.0164

(2.77) (3.17) (1.24) (1.54) (3.34) (3.19) (2.30) (2.03) (0.93) (0.53) (0.68) (0.46)

-0.0700 *** -0.0661 ** -0.0037 * -0.0038 ** -0.0083 -0.0099 -0.0094 -0.0105 0.00004 -0.0004 -0.0003 -0.0005

(-2.79) (-2.24) (-1.74) (-2.22) (-1.11) (-1.22) (-1.36) (-1.46) (0.09) (-0.86) (-0.80) (-1.05)

0.0373 *** 0.0440 *** 0.0013 0.0010 0.0060 ** 0.0082 ** 0.0062 ** 0.0074 ** -0.0001 -0.0002 0.00005 0.00004

(4.14) (4.04) (1.52) (1.23) (2.13) (2.57) (2.39) (2.56) (-0.88) (-0.80) (0.30) (0.18)

0.1731 *** 0.1693 *** 0.0055 * 0.0056 ** 0.0264 *** 0.0344 *** 0.0192 * 0.0247 ** -0.0002 0.0002 0.00003 -4.32e-07

(5.94) (5.13) (1.81) (2.31) (2.59) (3.44) (1.97) (2.57) (-0.29) (0.26) (0.05) (-0.00)

0.1389 *** 0.1340 *** 0.0032 0.0030 0.0208 *** 0.0257 *** 0.0158 * 0.0196 ** -0.0005 -0.0003 -0.00005 -0.00007

(5.50) (4.95) (1.23) (1.44) (2.41) (3.10) (1.92) (2.51) (-0.92) (-0.53) (-0.10) (-0.13)

0.1622 *** 0.1770 *** 0.0057 * 0.0055 ** 0.0266 *** 0.0368 *** 0.0201 ** 0.0277 *** -0.0005 -0.0001 0.00001 -0.00003

(5.80) (5.41) (1.99) (2.20) (2.79) (3.69) (2.19) (2.90) (-0.78) (-0.12) (0.02) (-0.04)

0.0930 *** 0.0931 *** 0.0033 * 0.0024 0.0215 *** 0.0211 *** 0.0167 *** 0.0152 *** -0.0003 -0.0004 -0.0001 -0.0003

(5.57) (4.89) (1.94) (1.65) (4.15) (3.86) (3.27) (2.85) (-0.84) (-1.01) (-0.26) (-0.89)

0.0882 *** 0.0958 *** 0.0034 0.0055 *** 0.0260 *** 0.0314 *** 0.0149 ** 0.0217 *** 0.0005 0.0010 * 0.0006 0.0008

(3.49) (3.10) (1.49) (3.06) (2.75) (4.32) (2.07) (2.95) (1.14) (1.99) (1.52) (1.63)

4.6374 ** 6.4894 *** 0.3073 ** 0.2856 ** 1.7002 *** 1.6634 *** 1.0407 ** 0.8924 * 0.0371 0.0286 0.0273 0.0117

(2.71) (3.22) (2.16) (2.26) (3.76) (3.13) (2.27) (1.70) (1.28) (0.84) (1.00) (0.35)

15.948 *** 21.510 *** 1.4847 *** 0.8894 ** 3.5290 ** 4.9455 *** 2.3857 * 3.0104 * 0.0248 -0.0696 0.0128 -0.0668

(3.19) (3.38) (3.82) (2.20) (2.42) (2.85) (1.70) (1.80) (0.28) (-0.64) (0.16) (-0.68)

0.1667 *** 0.1628 *** 0.0042 0.0051 * 0.0370 *** 0.0403 *** 0.0287 ** 0.0340 *** -0.0003 -0.00001 0.0001 0.00004

(4.51) (3.74) (1.18) (1.73) (3.30) (4.27) (2.64) (3.18) (-0.45) (-0.01) (0.19) (0.06)

0.0776 0.1330 0.0196 * 0.0176 * 0.0905 ** 0.0843 * 0.0370 0.1318 0.0027 0.0019 0.0014 0.0007

(0.53) (0.74) (1.69) (1.74) (2.31) (1.87) (0.97) (0.75) (1.15) (0.73) (0.66) (0.27)

-1.5034 *** -1.4834 ** -0.0369 -0.0461 -0.3410 ** -0.3388 ** -0.1970 -0.1863 0.0024 -0.0042 -0.0022 -0.0024

(-3.07) (-2.72) (-0.85) (-1.33) (-2.40) (-2.31) (-1.43) (-1.34) (0.28) (-0.47) (-0.27) (-0.28)

遅行系列

常用雇用指数(製造業) +

完全失業率(逆サイクル) -

出所・注:表4に同じ

有効求人倍率(除学卒) +

大口電気使用量(対数) +

中業企業売上高(製造業) +

一致系列

生産指数(鉱工業) +

生産財出荷指数(鉱工業) +

稼働率指数(製造業) +

所定外労働時間指数(製造業) +

投資財出荷指数(除輸送機器)

新規求人数(対数) +

製品在庫指数(最終財需要)(逆サイクル) -

中小企業景況判断来期見通し +

先行系列

投資環境指数(製造業) +

実質機械受注(対数) +

鉱工業生産財在庫指数(逆サイクル) -

耐久消費財出荷指数

求人平均賃金(パートタイム)(対数)

全期間 1997-2004 全期間 1997-2004 全期間 1997-2004 全期間 1997-2004 全期間 全期間 1997-2004

表6 回帰分析結果(1階の階差)

符号条件

ブラジル人求人件数(対数)

ブラジル人求人平均賃金(対数)

新規求人数・一般常用(対数)

新規求人数・常用的パートタイム(対数)

求人平均賃金(常用雇用)(対数)

1997-2004

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推定結果

雇用(求人件数)

ブラジル人は,先行・一致系列指標との間で強く有意

日本人は,一致・遅行系列指標との間で有意

外国人への求人調整は,日本人への求人調整に先行する

求人賃金

ブラジル人は,1990年代後半以降の一致系列指標で有意

ただし,求人件数ほど景気変動の影響を受けない

日本人求人賃金は,雇用形態によらず,景気との連動性が弱い

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結 論

ブラジル人労働者の雇用(求人)と賃金は,日本人労働者よりも鋭敏に景気に反応する

(=ブラジル人労働者の雇用は相対的に不安定)

ブラジル人労働者の雇用の不安定性の主因は,彼らの雇用が著しく非正規雇用に偏っていることに求める

ブラジル人自身の労働供給行動(短期的手取り給与最大化)

彼らを生産変動対応の労働力とみなす企業の労働需要行動

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第4章 外国人労働者の雇用と 企業経営

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要 約

どのような特徴をもつ企業が外国人労働者雇用を志向するのか?

サンプル企業を「(外国人)雇用企業」「雇用意識企業」「雇用なし企業」に分類し,企業属性を比較

「雇用意識企業」と「雇用なし企業」の差は,雇用の期待や結果の効果を含まない,雇用の規定要因と考える

若年労働者の定着が進まない企業,熟練技能者確保の見通しが立たない企業で,外国人雇用を意識する確率が高まる

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問題設定

日本の外国人労働者は,就業者全体の1.45%(約92.5万人,2006年)

外国人労働者の影響は,地域全体ではなく,雇用企業やそこで働く従業員に偏在する可能性が高い

地域単位の分析では,影響を十分に捉えられない

企業を分析単位として,経営や日本人労働者への影響を明らかにする研究の重要性

海外でも,移民労働者が企業パフォーマンスに与える影響は未解明の点が多い

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仮説と方向性

仮説

すでに外国人労働者を雇用している企業と,雇用していない企業との区分,比較によっては,外国人労働者雇用の規定要因は特定されない

サンプル企業を「(外国人)雇用企業」「雇用意識企業」「雇用なし企業」に分類し,企業属性を比較

「雇用意識企業」と「雇用なし企業」の差は,雇用の期待や結果の効果を含まない「雇用の規定要因」と解釈

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データ

「グローバル経済下の中小企業経営に関する調査

(製造業)」の個票データ (1997年,連合総研)

回収数642社,回収率15.9%

全国の製造業企業を網羅(=外国人集住地域以外も調査対象)

外国人雇用の実態把握を目的とした調査ではないため,外国人雇用企業が調査に非協力というセレクション・バイアスはない

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外国人雇用(意識)企業の特定

調査には,外国人雇用の有無を直接聞く設問はないが,「現在と今後の人材確保方針」への問から,現在の外国人労働者雇用の有無と将来の雇用予定を判定できる

「雇用企業」40社,「雇用意識企業」47社,

「雇用なし企業」555社

企業属性に関する基本統計量(資本金,従業員数,非正規従業員比率,女性従業員比率)は,各タイプ間で差がない

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推定式

Additive random utility model (ARUM)

企業iの選択肢jの効用は,

企業iが,最も効用の高い選択肢1(例えば,外国人労働者の雇用)

を選ぶとき,

31

ijijijijij VU 'x

31 21

31213121

31312121

3121

),(

],Pr[

],Pr[]1Pr[

V V

ddf

VV

UUUUy

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モデルの選択と識別

推定には,多項プロビット・モデルを選択

多項ロジット・モデルでは,IIA(無関係な選択肢からの独立性)の仮定を満たさない可能性が高い

Nested Logit Modelの場合も,入れ子構造が先験的に明らかでない

「雇用意識企業」の推定結果が,「雇用企業」とも「雇用なし企業」とも異なるとき,「雇用意識企業」は,他の2タイプの企業と分けて分析することが望ましい

「雇用企業」は,雇用結果の効果等を含む。よって,「雇用意識企業」について,有意に推定された項目を,外国人労働者雇用の規定要因と考える

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推定結果

表3(p76),表5(p78)

「雇用意識企業」と「雇用企業」の間では,有意に推定された項目が大きく異なる (レファレンスは「雇用なし企業」)

「雇用意識企業」は,「雇用企業」とも「雇用なし企業」とも特徴が異なるグループである

33

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推定結果

意識企業で有意に推定された項目

経営上の問題点

人件費の高さ,海外との競争の激化

技能形成

若い人が定着しない

雇用

新規・中途採用の抑制

短期雇用者の活用

雇用の流動化を肯定

同有意に推定されなかった項目

技能形成

熟練技能者の割合,年齢階層

若い人が入社しない

賃金

男性高卒初任給,

パートタイマー初任時給

34

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結果の解釈

海外との厳しい競争下で,人件費の高さに悩む企業は,外国人労働者の雇用で賃金コストを削減し,競争力を保持したい

熟練労働者の確保等の観点から,日本人従業員の人件費の抑制は難しいため,単純労働は(留保)賃金の低い外国人に置き換えたい

「雇用意識企業」では,中長期的に,コアとなる正規従業員の保蔵のために,外国人労働者や短期雇用者の活用による,柔軟性の高い人材戦略を志向

(=雇用の非正規化,流動化の萌芽)

35

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第5章 外国人技能実習生受入企業の

賃金と生産性に関する一考察

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要 約

外国人研修生・技能実習生(以下,実習生)の活動を広報する出版物から受入企業を特定し,ハローワーク求人データベースと工業統計調査(個票)をマッチング

全般的に,賃金競争力や労働生産性が低い企業を中心に実習生を受入れる

地域・産業平均以上の賃金や労働生産性をもつ企業も,機械・金属製品製造業や建設業企業を中心にサンプル中3-4割存在し,制度を利用する企業は多様

37

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外国人研修・技能実習制度

途上国の労働者に,技能習得の機会を提供することで,技能移転を

図り,経済発展を担う人材を育成する

製造業,農業・漁業,建設業の現場で,OJTによる実習

2007年時点で約20万人

企業単独型:1割,大企業中心

団体監理型:9割,中小企業中心

地域・産業の最低賃金が賃金の相場(=実質的な低賃金労働者)

受入理由で最も多いのは「現場労働者の不足」(JIL 1997)

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労働需要モデル

どのような企業が実習生を受入れるのか?

企業は,支払い可能な賃金総額を予算制約とし,生産性を高く評価するグループの労働者から順に採用し,利潤最大化を目指す (Weiss 1980)

新卒労働者や派遣労働者など,どのタイプの労働者を評価,需要するかは,経営状態や労働者に求めるスキルにより企業ごとに異なる

実習生の生産性や効率性を高く評価する企業が,彼らの受入れに踏み切る

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仮説の前提

理論上,外部労働者の賃金が上昇(下降)する場合,企業の利潤率は必ず減尐(増加)するが,内部労働者の賃金変化の方向は確定しない (Ishikawa 1981)

外部労働者として,実習生を導入する企業で,日本人労働者の賃金(内部労働者の賃金)が高まるか否かは,理論上明らかでない

(提示)賃金と生産性の比例関係を仮定

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仮 説

仮説①

企業は,定型的業務を担う外部労働市場労働者として実習生を受入れる一方,日本人内部労働者には積極的に人材育成を行い,効率的な分業によって高生産性を達成する

仮説②

企業は,定型的業務を担う人材として実習生を受け入れながらも,日本人内部労働者に十分な人材育成を行えず,生産性が低い水準にとどまる

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データ

JITCO(実習生受入事業支援組織)が発行する出版物から実習生受入企業を特定(約800社)

ハローワークの求人情報とマッチング(551社)し,求人賃金等を得る

企業の産業,実習生の国籍,受入形態(企業単独型or団体監理型)はJITCOが公表する全体の傾向と整合

資本金,総従業員数は全体の平均よりも大きい

(←零細企業のサンプルが,マッチング段階で多く脱落)

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仮説検定

実習生受入企業と地域・産業の平均求人賃金との間に有意な差はあるか?

H0: 両者に差がない H1: otherwise

地域・産業の平均賃金の導出

-「職業安定業務統計」の集計データは,要経験の求人も多く含まれるため,未経験求人に限定した実習生企業サンプルとの比較に適さない

-19歳以下の一般労働者の所定内給与(賃金センサス)を産業の求人下限平均として代理させる (←労働経済白書より,両者はほぼ一致)

-企業規模100-999人,勤続0年,生産労働者,学歴計,19歳以下

-上記の公表は全国データのみのため,県別高卒初任給格差を全国データに反映させて,都道府県別求人賃金データを擬似的に作成

43

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検定結果

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受入企業 11.92 11.78 11.87 12.01 12.00 12.14

平均 (0.008) (0.013) (0.025) (0.009) (0.014) (0.026)

地域・産業 11.98 11.81 11.95 12.04 12.03 12.08

平均 (0.005) (0.005) (0.009) (0.003) (0.004) (0.007)

差 -0.06 *** -0.03 ** -0.08 *** -0.03 *** -0.03 *** 0.06 *

(t値) (-7.00) (-2.22) (-8.61) (-7.10) (-4.23) (1.93)

受入企業 12.00 11.89 11.86 12.04 12.05

平均 (0.017) (0.038) (0.061) (0.020) (0.034)

地域・産業 12.01 11.83 11.95 12.05 12.03

平均 (0.011) (0.012) (0.017) (0.008) (0.012)

差 -0.01 0.06 -0.09 -0.01 0.02

(t値) (-0.17) (1.38) (-1.43) (-0.41) (0.62)

食料品 機械・金属

表5-2 賃金の差に関する検定結果 (団体監理型: Welchの検定)

その他製造業 建設業(n=448) (n=81) (n=76) (n=190) (n=66) (n=35)

全体 繊維・衣服

 注: 賃金は対数平均値,()内は標準誤差

表5-3 賃金の差に関する検定結果 (企業単独型: Welchの検定)

全体 繊維・衣服 食料品 機械・金属 その他製造業 建設業

-

 注: 賃金は対数平均値,()内は標準誤差。建設業は企業単独型が1社のみのため除外。

(n=8) (n=1)

-

-

(n=62) (n=10) (n=5) (n=38)

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高生産性企業の割合と特徴

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企業数「求人賃金>産業・地域平均」の企業数

割合

繊維・衣服関係 98 39 39.8%

食料品製造業 83 10 12.0%

機械・金属関係 235 78 33.2%

その他製造業 80 29 36.3%

建設関係 40 23 57.5%

計 536 179 33.4%

表5-4 求人賃金が産業・地域平均を超える実習生等活用企業の割合

高生産性企業(=日本人労働者に高い求人賃金を提示する企業)は,企業規模が大きく,女性従業員比率の低い企業

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頑健性チェック

特定した実習生受入企業と工業統計調査個票をマッチング(640社)

労働生産性を導出

付加価値額/(就業者数*労働時間)

(求人賃金ではなく)労働生産性の観点でみても,団体監理型での実習生受入企業の生産性は全体的に低い

個々の企業では,産業平均よりも労働生産性が高い場合も尐なくな

い (団体監理型の44%,企業単独型の63%)

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結 論

製造業分野全般で,実習生受入企業の求人賃金は,地域・産業の平均賃金よりも有意に低い

労働生産性でも同様の傾向

賃金水準,労働生産性の観点からみて,競争力のない企業を中心に制度が利用されている

建設業や,企業単独型での受入企業を中心に,高い生産性を達成している企業もサンプル中3-4割存在

制度を利用する企業の多様性

47

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第6章 非正規労働者と外国人労働者の

代替関係の検証

ー外国人研修生受入特区の効果分析ー

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要 約

構造改革特区の1つである「外国人研修生特区」に着目し,特区への認定が事業所に及ぼした影響を評価

特に,非正規労働者と外国人労働者の代替関係の有無をパネルデータを用いて検証

認定事業所は,特区認定後に非正規従業員比率が減尐

外国人研修生と日本人非正規従業員は代替関係

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外国人研修生受入れ特区

実状にそぐわない規制を特例措置として緩和し,地域・国

の活性化を目指す「構造改革特区制度」の一事業

2003年2月発足

常勤職員が50人未満の特区内の認定事業所は,従来

の倍の6人まで外国人研修生の受入が可能

全国で5か所(2011年3月現在)

50

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特区枠利用事業所 特区枠非利用事業所

特区枠を利用しない

特区枠を利用する

補図 特区措置利用までの流れ 

※特区枠の利用は申請不要

特区認定事業所 非認定事業所

特区認定 (自治体)

特例措置の適用を申請

する

特例措置の適用を申請

しない

申請者:

 特区内事業所

被申請者:

 自治体

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「愛媛県東予地域外国人研修生

受入特区」(愛媛県特区)

全国初の研修生特区(2003年11月認定)

愛媛県今治市,新居浜市,西条市

発足時,衣服繊維,造船,金属機械産業の60事業所が

特定事業所として認定

同特区での違反事例の続発により,「研修生特区」の全

国展開は保留

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分析のアウトライン

「特区の効果」を「特区認定後に認定事業所の経営指標

に観察された変化」と定義

比較対象群に,「特区地域内の特区措置のない事業所」

or「研修生受入状況や産業構造が類似した特区措置の

ない他地域事業所」を設定

従業員数の推移や非正規従業員比率の変化を,特区認

定事業所と比較し,特区認定後の変化を捉える

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データ

「工業統計調査」(個票)の1999年から2007年のデータを名寄せしてパネルデータを作成

特区申請計画書から認定事業所と認定時期(年)を特定,マッチング

閉鎖事業所や非回答事業所が脱落サンプルとなるため,データはunbalanced data

認定事業所が,特区認定を受けていた年に特区ダミーを割り振る (申請主体は自治体のため,事業所にとって所在地域の特区認定は外生)

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データ

研修生4人以上,技能実習生7人以上を受入れる事業所が,特区枠利用事業所として特定される

特区認定: 56事業所

特区枠利用: 20事業所(35.7%)

特区認定から特区枠の利用まで,約2年のラグ

愛媛県特区内: 1815事業所(繊維658,機械560,食料品200)

繊維製造業:1896事業所(特区地域658,岐阜市685,倉敷市566)

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非正規従業員比率の推移(特区内)

56

0

0.05

0.1

0.15

0.2

0.25

0.3

0.35

0.4

0.45

図4 非正規従業員比率の推移(特区内)

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

特区認定事業所では,特区認定後(2004-2005年)に非正規従業員比率が減尐

⇒研修生(外国人労働者)と日本非正規労働者は代替関係?

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推 定

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𝑦𝑖𝑐𝑡 = 𝛽𝑇𝐾𝑖𝑐 ,𝑡−2 + 𝛾𝑋𝑖𝑐𝑡 + 𝛼𝑖 + 𝜂𝑡 + 𝜀𝑖𝑐𝑡

yict : 非正規従業員比率

TKic, t-2 : 特区ダミー

Xict : コントロール変数

(製造品出荷総額(対数),現金給与比率,女性従業員比率)

αi : 事業所固定効果, ηt : 年効果, εict : 撹乱項

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頑健性チェック

① 年ダミー追加 期間中の構造変化や景気循環の影響をコントロール

② 特区ダミーと年ダミーの交差項を追加 特区認定事業所と非認定事業所が辿ったトレンドが異なる可能性

③ 特区開始前(2001年)の非正規比率をコントロール もともと労働需要をどの程度非正規従業員で賄っていたかを考慮

特区ダミーの推定値の大きさや有意性はほとんど変わらず

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推定結果 (他県繊維産業との比較)

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結 論

認定事業所では,特区認定後に非正規従業員比率が減

尐していた

認定事業所では,日本人非正規従業員が外国人研修生

に代替された可能性が高い

各国の先行研究で実証された移民労働者と自国低技能

労働者の代替関係が,日本でも確かめられた

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第7章 結 論

ー日本の労働市場と外国人労働者ー

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Ⅰ 雇用の流動化・不安定化

外国人労働者の求人は,1990年代後半,求人件数の抑制と募集賃金の低下が同時に発生 (第3章)

企業は,同時期に,外国人労働者の雇用を,直接雇用から間接雇用に徐々に切替え (第3章)

外国人雇用(意識)企業は,1990年代後半,雇用流動化を肯定していた (第4章)

外国人労働者を雇用する企業が抱える課題は,雇用のない企業よりも早期に認知され,顕在化することが多い(第3章,第4章)

日本の労働市場全体では,2000年代に非正規化が急速に進展した

(2004年労働者派遣法改正,「リーマン・ショック」後の「派遣切り」)

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Ⅰ 雇用の流動化・不安定化

「雇用の流動化・不安定化」(=非正規化)を日本の労働市場の構造変化と考えると,外国人労働者雇用企業は,労働市場の変化を先んじて反映したマージナルな存在

外国人労働者も日本人非正規労働者の雇用も,不況期には同様に雇用調整の対象となる

日本の労働市場では,日本人か否かという国籍ではなく,雇用形態(直接雇用か間接雇用か)の間に分断の境界が引かれた

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Ⅱ 外国人雇用企業の多様性

結 果

ブラジル人労働者への求人賃金は分散が大きい(第3章)

地域・産業の相場以上の生産性を達成している実習生受入企業もサンプル中3-4割存在 (第5章)

含 意

外国人労働者を雇用する企業は多様である

単純労働に従事する外国人が,低生産性企業の延命策として需要されるという従来的な見解は,必ずしも支持されない

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Ⅲ 雇用の代替・補完

先行研究

欧米の移民受入国では,最大の論点だが,結果のコンセンサスはない(第2章)

大竹・大日(1993)は,日本人低学歴労働者と外国人労働者の間に代替関係

中村ほか(2009)は,全学歴層の日本人労働者と外国人労働者の間に補完関係

結 果

外国人研修生特区認定企業のデータを用いて,外国人研修生と日本人非正規従業員の雇用の関係を分析し,両者の雇用に,約4-6%の代替関係を発見(第6章)

地域や企業等の分析単位の相異が,先行研究の結果との相異を生んでいる可能性

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今後の展望と課題

「リーマン・ショック」の影響を外国人労働者雇用の観点から評価

非正規労働者に雇用調整のインパクトが集中した程度

外国人労働者の大量解雇が,失業率を下支えした効果

信頼性の高いデータの確保と分析の精緻化

結果の推測過程での恣意性の排除

他国の結果との比較

外国人労働者政策の方向性

日本の労働市場の特性を踏まえた,外国人労働者受入れ政策の形成と議論への関わり

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