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東北メディカル・メガバンク計画 次期バイオバンク事業の在り方に関する合同検討委員会 報告書 令和元年5月10日 東北大学 東北メディカル・メガバンク機構 岩手医科大学 いわて東北メディカル・メガバンク機構

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東北メディカル・メガバンク計画

次期バイオバンク事業の在り方に関する合同検討委員会

報告書

令和元年5月10日

東北大学 東北メディカル・メガバンク機構

岩手医科大学 いわて東北メディカル・メガバンク機構

mito-akiko
テキスト ボックス
参考資料2

東北メディカル・メガバンク計画

次期バイオバンク事業の在り方に関する合同検討委員会

報告書

目次

はじめに‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 1

1.東北メディカル・メガバンク計画のこれまでの活動と成果‥‥‥‥‥‥‥ 2

(1)被災地の健康管理等への貢献‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 2

① 地域医療支援と次世代医療に向けた人材育成

② コホート調査

③ 健康調査結果の活用

(2)ゲノム医療研究の基盤構築‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 6

① ゲノム情報等を集約した研究基盤の構築

② バイオバンクのさらなる展開

③ 国内外のバイオバンク・ゲノムコホートとの連携に向けた方策

④ 全国のゲノム医療研究の支援

(3)個別化予防・ゲノム医療の先導モデルの構築‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥12

① 遺伝情報回付に向けた取組

② 疾患発症リスク予測手法の開発

(4)ゲノム医療実現のための環境整備等への貢献‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥13

① ゲノム医療実現に必要な人材の育成

② 広報・倫理、知的財産、復興支援

(5)他の事業や産業界との連携‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥16

① 外部資金による疾患研究等への取組

② 産業界との連携

2.大規模ゲノムコホート及び複合バイオバンクを取り巻く環境‥‥‥‥‥‥17

(1)国内外における政策、ゲノム医療等の動向と見通し‥‥‥‥‥‥‥‥‥17

① 政策動向

② 産業界の動向と見通し

(2)国内外の研究動向と見通し‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥18

① コホート及びバイオバンク

② ゲノム・オミックス解析

3.次期 TMM ゲノムコホート・バイオバンク事業が目指す方向性 ‥‥‥‥‥‥22

(1)個別化予防・ゲノム医療の実現‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥22

(2)ライフコースに沿った課題解決への貢献‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥23

(3)コホート・バイオバンク連携‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥23

(4)産業界との連携‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥23

(5)被災地域の医療支援と健康管理‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥23

4.次期 TMM ゲノムコホート・バイオバンク事業が取り組むべき事項 ‥‥‥‥23

(1)コホート調査‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥23

① 地域住民コホート

② 三世代コホート

③ MRI

(2)複合バイオバンク‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥34

① バイオバンク

② 試料・情報利活用(分譲・共同研究等)

③ 統合データベース

④ 計算機インフラ

(3)ゲノム・オミックス解析‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥43

(4)地域医療支援‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥48

(5)遺伝情報等の回付‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥49

(6)人材育成‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥51

(7)外部連携‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥52

① 国内の研究機関や産業界等との連携

② 海外との連携

(8)知財・倫理・広報‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥54

(参考資料)‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥55

・委員名簿‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥56

・5つの目標に対する取組‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥59

・5年間の工程表‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥63

はじめに

本報告書は、東北メディカル・メガバンク計画(TMM 計画)の第2段階(2017 年

度から 2020 年度)の終了を前に、TMM計画当初からの成果と今後の展望を総括し、

次期バイオバンク事業の計画に資するために設置された「次期バイオバンク事業の

在り方に関する合同検討委員会」において討議を重ねた結果をまとめたものであ

る。

TMM計画は、2011 年3月 11日に発災した東日本大震災による甚大な被害を受けた

東北地方において、国の復興プロジェクトとして、2011 年度第3次補正予算の成立

(2011 年 11 月)を受けて開始された。TMM 計画の実施機関は東北大学及び岩手医科

大学となり、東北大学は東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)を、岩手医科大

学はいわて東北メディカル・メガバンク機構(IMM)をそれぞれ新規部局として設置

し、実施している。TMM 計画は、文部科学省が直接プロジェクト管理を行う事業と

して開始されたが、2015 年4月の国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)

の発足とともに AMED がプロジェクト管理を行う事業となった。

TMM計画の開始にあたっては、文部科学省に設けられた東北メディカル・メガバ

ンク計画検討会のもと、「東北メディカル・メガバンク計画全体計画」が策定され

た。TMM 計画は、同全体計画に基づき、10 年間の計画とされ、2011年度から 2016

年度までの6年度間が第1段階、2017 年度から 2020年度までの 4年度間が第2段

階とされた。また、第2段階の開始を前に、AMEDに設けられた東北メディカル・メ

ガバンク計画推進会議(プログラムスーパーバイザー:榊佳之東京大学名誉教授)

のもと、2017 年4月に「東北メディカル・メガバンク計画全体計画改定版」が策定

され、それに基づいて計画を実施中である。

「次期バイオバンク事業の在り方に関する合同検討委員会」は、そのもとに設け

られた二つの小委員会とともに、2018 年 10 月以降、合計7回の討議を重ねた。我

が国の次世代医療や科学技術の発展のため、これまで8年度間にわたって推進され

てきた TMM計画が、第3段階に向って更に発展されるよう、本報告書が活用される

ことを期待する。

1

1.東北メディカル・メガバンク計画のこれまでの活動と成果

(1)被災地の健康管理等への貢献

① 地域医療支援と次世代医療に向けた人材育成

東日本大震災後の健康被害について、急性期のみならず長期にわたる調査が必

要であることから、被災地域を中心に大規模なコホート調査を実施した。2019 年

3月末までに、ToMMo では宮城県沿岸部を中心に延べ 133 人の医師が、IMM では

岩手県沿岸部を中心に延べ 25人の医師が被災地の地域医療支援に貢献してきた。

ToMMo では、上記の医師に高度な医療研修やゲノム医学研究に携わる機会を提

供し、人材育成に取り組んでおり、2019 年3月末までに 78 回の研究会を開催し

た。IMM では、上記の地域医療従事後の医師にゲノムコホート研究やその関連研

究に携わる機会を提供している。

② コホート調査

a.地域住民コホート調査

地域住民コホート調査については、第1段階において、地震や津波の影響を受

けている地域を中心に、ToMMo が宮城県域で5万人、IMM が岩手県域で3万人の

規模で実施することを目標とし、宮城で 5.2 万人、岩手で 3.2万人の合計 8.4万

人の成人のリクルートを達成した。

第2段階の追跡調査においては、目標としている追跡率 90%以上に対し、約1

年おきの郵送によるアンケート調査、電話調査及び住民基本台帳(住基)の閲覧

による生死・転居情報の確認を実施している。現在、ToMMo においては 97%が、

IMMにおいては 96%が追跡できており、長期追跡の基礎を維持している。

宮城県域では、郵送追跡調査をベースとした循環器疾患の発症登録及び地域が

ん登録を活用したがん登録データとの照合を開始した。また、対象者の大多数を

占める国民健康保険(国保)加入者については、特定健診会場で参加呼び掛けを

行った 28市町村全てから医療費・特定健康診査(特定健診)情報を対象者の同意

に基づき提供を受けている(約 3.1 万人分で合計 240万件のレセプト及び 4年分

の特定健診データ)。介護保険情報の取得についても、既に対象者の同意を得てお

り、データの収集を進める準備ができている。

岩手県域では、地域脳卒中登録事業及び心疾患発症登録事業と連携し、岩手県

内 25 病院でカルテ調査を実施した。また、国保加入者のレセプト情報について

は、2019 年3月末までに、特定健診参加協力型を実施している 18 市町村のうち

11 市町村から、約 1.3 万人分の合計 25 万件を収集した。国保加入者の特定健診

情報の収集は1町で実施した。

ベースライン調査から約4年後に実施中の2回目の詳細調査(詳細二次調

査)については、鋭意取組が進められ、高い目標に肉薄している。2019年3月

末までに、ToMMoは参加率 70%(3.5万人)の目標に向けて 20,387人の調査を完

了し、また、IMMは参加率 70-80%(2.4 万人)の目標に向けて 13,364人の調査

2

を完了した。

b.三世代コホート調査

三世代コホート調査については、第1段階において、ToMMo が宮城県域を対象

に7万人規模で実施することを目標とし、妊婦を中心に子世代、親世代、祖父母

世代の三世代約 7.3万人のリクルートを実施した。

第2段階の追跡調査においては、郵送法調査により、約 87%の追跡ができてお

り、長期追跡の基礎を維持できている。

2019年3月末時点で、妊婦健診情報は産科医療機関から約 2.3 万人分、母子健

康手帳情報は参加者から約 2.2 万人分、乳幼児健診情報は自治体から約 5,000人

分、学校健診情報は教育委員会・中学校から約 100 人分の収集が完了しており、

引き続き収集を進めている。また、小児慢性特定疾病登録情報は宮城県から、地

域がん登録情報は宮城県対がん協会から既に収集済である。現在、難病登録情報

は宮城県に、出生不明者の出生小票は厚生労働省に情報提供・閲覧について申請

中である。住所不明者については住基閲覧により追跡率を維持しており、県外に

転居した参加者についても、住基閲覧の手続を進めている。

詳細二次調査については、参加率 80%以上(5.1~5.7 万人)という非常に高い

目標に向けて鋭意取組が進められ、2019 年 3 月末までに 23,418 名の調査が完了

しており、目標を達成することが出来た。

c.両コホートを横断する調査

2014年7月から、ToMMo の行う健康調査に参加した者の中から希望者に対し、

MRI・認知心理検査及び詳細なメンタルヘルス検査から成る「脳と心の健康調

査」を実施している。2019年1月末までに、1万人分のデータ収集を終え、数値

目標を達成した。2019年度以降は、この 1 万人をベースラインとした脳機能画像の

追跡調査を実施し、健康から軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment)に至る認知機

能の低下要因を調査することを計画している。

d.調査における ICT 技術の活用

2017年度から、追跡調査への E-epidemiology技術の導入として、Webフォーム

による電子的収集の併用に取り組んでおり、2019年1月末までに三世代コホート

調査では約 3.2万人に紙と Webフォームどちらかでの回答を選択可能な状態で案

内を送付し、約 1.4 万人からの回答のうち約 2,500 人(17.7%)から Web フォー

ムを利用した回答を得ている。2019 年度には、Webフォームでの回答率を上昇さ

せるため、Web フォームを利用した案内を紙の案内に先行させる予定である。ま

た、地域住民コホート調査では延べ約 3,200 人が Webフォームを利用して回答し

た。

スマート健康ポータルについては、既存の PHR (personal health record)のア

3

プリケーション等を活用し、各コホートで収集したライフコースデータを参加者

が閲覧できる環境整備を検討している。具体的には、診療情報(みやぎ医療福祉

情報ネットワーク(MMWIN)、産科医療機関診療録データ)、公的データ(乳幼児健

診、学校健診、各種疾患登録等)、コホート調査データ(ゲノム・オミックス解析

情報、生理学的検査、血液・尿検査、調査票回答)をリンクし、ポータルサイト

で参加者自身の閲覧を可能にすべく検討中である。

こうした電子的な仕組みによってコホート調査の参加者からアクセスを得るこ

とで実現可能になることの一つとして、ダイナミックコンセントが挙げられてい

る。TMM 計画においては、試料・情報分譲にあたって分譲留保の制度を設けてい

ることで、ダイナミックコンセントの一形態である個別研究同意(granule

consent)に近いものを実現しているが、更に方式や在り方を検討していく。

医療情報を利活用した追跡調査については、宮城県域では、参加者の同意に基

づいた診療情報の提供について、東北大学病院に名寄せ及び診療情報抽出システ

ムを設置するとともに、提供された診療情報を構造化し、データベースに登録す

るシステムの準備を進めた。また、診療情報の病名、検査値、投薬情報を用いて、

正確に病名・病態を得るための、病態分類(phenotyping)技術の研究開発を行なっ

た。今後、県内基幹病院等の医療機関やみやぎ医療福祉情報ネットワーク(MMWIN)

との連携を進めていく予定である。MMWIN との連携については、MMWINに対して、

TMM計画の進捗状況を報告し、連携していくことを確認したところであり、今後、

MMWIN の倫理審査委員会において TMM 計画への診療情報の提供について検討して

いくこととなっている。また、MMWIN との連携の一環として、コホート参加者の

MMWIN 加入勧奨に協力し、2019 年3月 31 日までに少なくとも 5,978 人のコホー

ト参加者が MMWIN に加入した。岩手県域では、岩手県久慈地域の医療情報ネット

ワークと連携し、2019 年3月末時点で参加者約 950 人の検査結果を提供した。ま

た、気仙地域の医療情報ネットワークとの連携について検討した。

ゲノムや健康関連データは、セキュリティの確保が必要である一方で、データ

シェアリングによるオールジャパンでの解析推進も必要である。この相反する要

求に対し、第2段階までに、データのセキュリティ区分を明確化するとともに、

セキュリティ区分に応じたアクセス制御を実装した。スーパーコンピュータ(ス

パコン)内において利便性の高い公開区画に個人特定性が極めて低いデータ(オ

ープンデータ)を配置するとともに、スパコン内のセキュアな区画に特定性が高

いデータを配置しつつデータの持ち出しを管理し、統計処理などにより特定性が

低くなった加工済データのみを持ち出し可能とする仕組みを構築した。また、個

人特定性が高いデータの解析を推進するために、全国に遠隔セキュリティエリア

を配置して利便性の確保も行い、機微性の高いデータのデータシェアリングイン

フラの構築を行った。

4

e.アドオン(追加)コホ-トの実施

革新的な計測技術の登場により、個人の健康状態を把握する手法については急

速な進歩が見られる。コホート調査にこういった新技術を導入することは、試料・

情報の質的な拡充という意味から大きな意義がある。このようにして、コホート

調査に新たな内容を追加していくことを「アドオン(追加)コホート」という。

本方式は、英国 UK Biobank やオランダの Lifelines において、既に試行的に取

り組まれており、ゲノムコホート運営の一つの方向性でもある。TMM 計画でもい

くつかの企業と連携したアドオンコホートを導入した。

NTT ドコモ社とは、妊娠中に発症する疾患の予防・早期発見方法の確立をめざ

して 2014年 11月よりアドオンコホートを開始、2015年2月からは、ToMMo の実

施する三世代コホート調査に参加された妊婦を対象に、「マタニティログ調査」の

名称で東北大学病院にて参加者を募集し、302 名の研究参加者を得た。本アドオ

ンコホートでは、生体物質(DNA、RNA、代謝物など)と、スマートフォンにより

収集された約 600 万点に及ぶ日々のライフログ(血圧、脈拍、体重、体温、活動

量、睡眠、食事など)を組合せた統合的なデータ解析を行い、高頻度かつ客観的

な精度のライフログデータと体内の状態変化を捉えることで、周産期疾患などの

発症予測に向けた解析が推進されている。

オムロン ヘルスケア社とは、2017年6月より尿中のナトリウム/カリウムバラ

ンスを自宅で測定できる尿ナトカリ計や活動量計・睡眠計を対象者に貸与するア

ドオンコホートを開始、2019年3月時点で 6,007名を越える対象者の協力を得て

いる。

ヤクルト本社とは、2017年6月より詳細な乳酸菌摂取に関する調査票のアドオ

ンコホートと 2018 年4月より疾病罹患・生理機能低下と腸内細菌叢との関連に

ついてのアドオンコホートを開始している。それぞれ 2019 年3月までに 26,519

名、1,286名を越える対象者の協力を得ている。

③ 健康調査結果の活用

TMMの調査に参加した成人約 12万人の参加者に結果を回付した。ベースライン

調査では、調査票に対する回答結果を基にした栄養・睡眠状態、メンタルヘルス、

喫煙・飲酒の影響、喘息疑い等や血液・生理学的検査の基準値毎の結果を参加者

に回付し、健康向上や受診勧奨に努めている。このうち、2019 年3月末までに詳

細二次調査も含め異常所見等が見受けられた 672 人[ToMMo654 人、IMM18 人]に対

して緊急回付を行い、医療機関の受診勧奨を行った。

地域住民コホート調査においては、ベースライン調査の結果、震災による被害

の大きかった者について、メンタルヘルスの課題が大きいことが明らかとなって

いる。あわせて、身体活動量や歩数の低下も観察されており、メタボリックシン

ドロームの有病率も高いため、生活習慣病に与える影響が懸念される。そのため、

糖尿病、高血圧及び動脈硬化の進展や骨密度の低下に影響が出ているかを詳細二

5

次調査で追跡しているが、中間報告の段階で骨密度の低下が早い可能性が示され

ており、今後、その他の危険因子についても被災程度の大きいもので変化がみら

れる懸念がある。これらの情報については対象者及び行政に展開しており、対策

について相談を受けている。また、TMM 計画としても、ハイリスク者に対する受

診勧奨とメンタルヘルスに対するフォローアップを継続している。

三世代コホート調査においては、ベースライン調査の結果、震災後の喫煙者や

うつ傾向の増加、震災後の妊娠に対する切迫早産の増加などが明らかになりつつ

ある。さらに、児及び同胞の追跡調査においては、希望者に医師によるアトピー

性皮膚炎の観察と結果回付も実施している。

脳と心の健康調査においては、MRI 撮像において、全ての参加者に対して、健

康管理に活用できるように、年齢平均と比較した脳体積に関する情報を回付して

いる。また、偶発所見を発見した際には、参加者に医療機関への受診を進める緊

急回付を実施しており、2019 年3月末までに 173 件の緊急回付を実施した。

(2)ゲノム医療研究の基盤構築

① ゲノム情報等を集約した研究基盤の構築

a.大規模ゲノム解析の意義

健康長寿社会を構築するためには、ゲノム情報に基づいた個別化予防・ゲノム

医療の実現が必須である。疾患と遺伝要因の関係を解明するためには、多くの日

本人ゲノム情報を利用した大規模な横断的、縦断的ゲノム関連解析が必要であり、

疾患ゲノム研究に加えて、遺伝要因と環境要因の相互作用を解明するゲノムコホ

ート研究を推進するための基盤を構築し、成果を公開・分譲することが重要であ

る。

この目的のため、本事業では、2つのコホートを基盤とする複合バイオバンク

を構築し、全国の研究者が共通で利用することが想定される解析(基盤解析)を

実施し、枯渇しない情報を分譲することで、日本全国で行われる解析研究を下支

えする。

8万人規模の地域住民コホートは、地域一般住民を対象とした集団であり、疾

患に罹患する前の生活習慣や環境要因を多く得られている。そのためケース・コ

ントロール研究にも活用可能な集団である。また、妊婦を中心とした7万人規模

の三世代コホートは、家系情報を利用できるため正確なハプロタイプ推定に有利

である。それぞれ対象疾患も異なり、前者は環境要因の効果が比較的大きな疾患

(例えば、循環器疾患等)を、後者は遺伝的な要因が比較的大きい疾患(例えば、

自閉スペクトラム症等)を主たる対象としている。これら2つのコホートは独立

なコホートではあるが、それぞれの利点を合わせることで高いシナジー効果を得

ることができる。

本事業では、地域住民コホートの参加者から血縁関係の無いサンプルを選定し

た上で全ゲノム解析を実施し、日本人全ゲノムリファレンスパネルを構築した。

6

このパネルは、本事業においても日本人の遺伝的多様性に至適化した SNP アレイ

(ジャポニカアレイ®)の開発などに活用している。また、三世代コホートのゲノ

ム解析からハプロタイプを正確に決めることにより、遺伝子型インピュテーショ

ンの精度を上げ、GWAS などの関連解析の有効性を高めることを実施している。全

ての参加者の全ゲノム解析を行うことは経済合理性に乏しいため、本事業では戦

略的な全ゲノム解析によるインピュテーション性能の向上と大規模なアレイ解

析を併用することで、第2段階終了までに 15 万人のゲノム情報の収集を進めて

いる。これらの遺伝情報は、他の学術機関が実施する研究や産業界の活動におい

ても正常対照(コントロール)として有用であり、また、国内外の前向きコホー

ト研究との連携による大規模解析の実現にも必須となる情報である。

b.ゲノム解析

本事業では、第1段階に引き続き、全国の研究者によるゲノム医療研究推進の

ための基盤情報を蓄積するため、ゲノム情報の取得とその解析を進めている。ま

た、同基盤情報について、参加者の個人情報保護に配慮した方法による速やかな

データシェアリングを実施し、国内外の研究者による情報の利活用を推進してい

る。

全ゲノム解析については、8,000 人の目標に対し、三世代コホート調査の参加

者を含めて 2019 年3月末までに約 5,000 人の解析を ToMMo において実施した。

また、これらの解析結果を用いて、X 染色体及びミトコンドリアの情報を含む、

約 3,500 人分の全ゲノムリファレンスパネルを構築し、公開している。また、

ToMMo において三世代コホート調査参加者のゲノム解析結果を活用し、150 ヘプ

タファミリー(母子とその両親及び父親とその両親の7人セット)、合計 1,050 人

規模の日本人の連鎖地図の構築を進めている。さらに、ToMMo では長鎖型シーク

エンサーの解析情報も活用することで、日本人のゲノム情報解析の基盤となる純

国産の日本人基準ゲノム配列(JRGA)を構築し、次世代シークエンス解析への適

用を開始した。

また、SNPアレイ解析については、ToMMo が参画する革新的イノベーション創出

プログラム(COI STREAM)との共同により開発したジャポニカアレイ ®の改良を

進めた。これらジャポニカアレイ ®を活用することで、2019 年3月末までに、全

コホート参加者 15 万人のうち、約 11万人のデータ取得を完了し、順次、インピ

ュテーション技術を活用した疑似全ゲノム復元を実施している。

c.オミックス解析等

個別化予防・ゲノム医療の実現には、個人の表現型の様々な違いを正確に定義

する必要がある。さらにゲノム情報に加えて、エピゲノム、トランスクリプトー

ム、メタボローム等のオミックス解析を外部資金も活用しつつ実施し、生体分子

情報に基づく表現型の違いを正確に定義することを目標としている。また、これ

7

らの解析結果をゲノム情報と統合することにより、日本人多層オミックス参照パ

ネルを構築し、個別化予防・ゲノム医療のプラットフォームとなる研究基盤とし

て広く内外の研究機関・企業に公開・提供することを目指している。

まず、メタボローム解析については、NMR 法と質量分析法を組み合わせて活用

することにより、7万検体の目標に対し約 1.8 万検体の代謝物情報を 2019 年3

月末までに取得した。また、メタボロームとゲノムの関連解析(MGWAS)により、

代謝環境に影響を与える遺伝子多型を同定した。一方、各種生活習慣が代謝に与

える影響についても解析し、飲酒や各種栄養素摂取量と関連する代謝物を同定し

た。また、海外の大規模メタボローム研究機関と協力して解析の標準化を進める

とともに、国際比較が容易な定量解析法による解析を進めている。

DNA メチル化解析については、2,000 例の目標に対し、2019 年3月末までに全

血、抹消血より単離した単球、CD4 陽性 T 細胞、CD8 陽性 T 細胞、B 細胞、好中

球、NK細胞、末梢血単核球(PBMC)の計約 400 例、DNA メチル化キャプチャ法に

よる PBMC の解析を約 900 例実施した。また、トランスクリプトーム解析につい

ては、2019年3月末までに、セルソーターを用いて抹消血より単離した単球、CD4

陽性 T 細胞、CD8陽性 T細胞、B細胞、好中球、NK 細胞、PBMC を約 1,100例、全

血 300 例の 1,400 例程度実施した。さらに、メタゲノム解析については、2019 年

3月末までに、歯垢と唾液各 1,200 例程度の細菌叢解析を行った。また、複数の

オミックス層を解析する多層オミックス解析としては、2019年3月末までにゲノ

ム、エピゲノム及びトランスクリプトームの3層解析を 300例、ゲノム及びメタ

ボロームの2層解析を 1.5 万例実施した。

以上の成果は、ゲノム情報と統合した多層オミックス参照データベースとして

構築し、順次一般に無料で公開している。これまでにゲノム、プロテオーム、メ

タボローム情報を統合した jMorpデータベースや、ゲノム・エピゲノム・トラン

スクリプトーム情報を統合した iMETHYL データベースを構築・公開し、いずれも

多くの研究者や企業に利用されている。

② バイオバンクのさらなる展開

a.試料・情報の充実、品質向上

第1段階に引き続き、コホート調査を通じた試料・情報の収集を進めており、

2019 年3月末までに、ToMMo 及び IMM において約 15 万人から約 354 万本の試料

と情報を収集した。また、企業との共同研究(株式会社 NTTドコモ、株式会社ヤ

クルト本社、オムロン ヘルスケア株式会社)や、他事業予算(COI STREAM、AMED

事業等)によって実施されるアドオンコホートの小規模試料収集についても、調

整や保管管理を実施した。

細胞試料については、数千人分の目標に対し、2019年3月末までに約 3,200人

分の不死化B細胞及び約 3,600 人分の増殖 T 細胞を ToMMo において作成した。

こうした収集された試料を用いて、複合バイオバンクとして、ゲノム・オミッ

8

クス解析を実施し、バイオバンクに収載した。

また、ISO9001(品質マネジメントシステム)の認証範囲拡大により、ISO9001

と ISO27001(情報マネジメントシステム)の認証下でバイオバンク関連3室(バ

イオバンク室、試料・情報分譲室、統合データベース室)の統合的・効率的・高

精度な品質管理に取り組んだ。さらに、2018 年8月に決定された ISO20387(バイ

オバンク)の認定取得に向けた検討を進めている。

b.試料・情報利用の活性化

2015年に試料・情報分譲業務を開始して以降、分譲や共同研究による試料・情

報の利用が試料・情報分譲審査委員会で審査され、研究者に提供されている。2019

年1月末時点において、約 3,500人分の全ゲノム情報(3.5KJPNv2)、約 3.2 万人

分のインピュテーション済アレイと付随情報が統合データベース dbTMM(dbTMM)

に格納され、分譲手続を経て利用可能となっており、2019年度中にはインピュテ

ーション済アレイ情報は約 6.3 万人に拡大予定である。

また、ゲノム・プロテオーム・メタボロームを統合した jMorp データベース

(ToMMo)や、ゲノム・エピゲノム・トランスクリプトームを統合した iMETHYL デ

ータベース(IMM)をそれぞれ公開し、無償で統計情報を提供している。

全国の研究者がスパコンにアクセスできるよう、2018 年度末までに 19 拠点の

遠隔セキュリティエリアを設置し、さらに3拠点の設置に向けて調整を進めてい

る。また、国内のデータベースであるバイオサイエンスデータベースセンター

(NBDC)との連携に向けた検討を進めている。さらに全国のゲノム医療推進を下

支えするために、ゲノムプラットフォーム連携センターを設置し、インピュテー

ションサービスも推進している。

結果として、症例対照研究に対する標準化された高品質の対象例の提供等によ

り、目標とされている 120-150 件に対し、2019 年3月末までに 151 件(分譲 22

件、共同研究 129 件)の TMM バイオバンク利活用による研究実績を実現した。

c.統合データベースの高度化による「インテリジェント・バイオバンク」の構

第2段階では、これまでに、dbTMMを高度化し、より高速に大量のゲノム・オミ

ックス情報、健康調査情報を検索し、層別化を可能とするアプリケーション及び

スパコンの機能強化を行った。実際、遠隔セキュリティエリア等を通じてアカデ

ミアや企業の利用が進み、特にトライアルユーザ制度により製薬企業等が利用し

ており、非常に高い評価を受けている。

また、家系情報をもった三世代コホートの dbTMM への収載を進めている。こう

して統合したゲノム・オミックス情報、検査値、病名等のカルテ転記情報等の健

康調査情報に基づいて正確な病名・病態を得るため、病態分類(phenotyping)の

研究開発を進め、妊娠高血圧症候群についてはアルゴリズムを開発した。

9

さらに、dbTMM と連携する構造化知識データベース kbTMM として、類似症例の

解析を可能とするため、それぞれの参加者の大規模なゲノム・オミックス情報や

健康調査情報から変数を選択し、クラスタリングする機能を開発した。また、

ClinVar 等の公的データベースの知見や TMM バイオバンクを利活用した論文の自

然言語処理支援等により得た知見の kbTMMへの取り込みと dbTMMとの連携につい

ても検討を進めている。これにより、インテリジェント・バイオバンクの構築を

進めている。

d.個別化予防・ゲノム医療を目指した連携

AMED事業による東北大学の「MENDEL Study」プロジェクト、慶應義塾大学のコ

ホート研究「鶴岡みらい健康調査」、婦人科悪性腫瘍研究機構(JGOG)との連携に

より、本来業務に支障が生じない範囲内での血液及び腫瘍組織試料の保存管理の

支援に取り組んだ。また、東北大学未来型医療創成センターと連携して、東北大

学病院のクリニカルバイオバンクが実施する試料調製、管理技術の確立に協力し

た。

③ 国内外のバイオバンク・ゲノムコホートとの連携に向けた方策

a.国内のバイオバンク・ゲノムコホートとの連携

約 3,500 人の全ゲノム解析、3万人以上のアレイ解析によって得られた日本人

全ゲノムの遺伝子多型情報を公開し、うちバイオバンク・ジャパン(BBJ)及び国

内住民コホートとの連携として、2013 年度コホート参加者1万人分の DNA と年

齢・性別・疾患既往歴情報を提供した。また 2019年3月末までに、22件の試料・

情報分譲と、129 件の共同研究に対する試料・情報提供を行った。これらの活動

は、日本人の体格に関連する遺伝的要因の同定や、循環器疾患や各種悪性腫瘍の

遺伝的要因の同定など、2019年3月末までに国内研究者による 140 件以上の論文

発表につながった。

国立がん研究センターを中心とした一般住民を対象としたゲノムコホート研究

の連携の在り方についての研究班にも参加し、体格についてのメタアナリシスを

活用することで連携についての課題を抽出した。

日本多施設共同コホート研究(J-MICC study)と連携し、複数の論文を発表す

るととともに TMM と J-MICC の包括的な共同研究に向けた連携体制の構築を進め

ている。

また、AMED 支援の下、BBJ やナショナルセンター・バイオバンクネットワーク

(NCBN)との連携によりメタボローム解析に必要な血清・血漿試料の品質を検討

し、血液試料の採取から冷凍保存までの温度管理の重要性を明らかにし、相互利

用の可能性について、AMEDからのウェブ公開情報として発表した。また、IMMは

同様にエピゲノムについて相互利用の可能性について検証した。日本 DOHaD学会

の分科会である疫学セミナーとの連携に基づいて、出生コホート研究連携ワーク

10

ショップ実行委員会へ参画し、ワークショップ開催やコホート連携促進のための

提言書を実行委員会でとりまとめ中である。また、国内の主要な出生コホート(浜

松医科大学子どものこころの発達研究センター、BOSHI 研究、北海道スタディ、

C-MACH コホート、成育母子コホート等)との共通のデータカタログの作成やその

公開を計画するなど連携を強化している。

b.国外のバイオバンク・ゲノムコホートとの連携

国外連携については、ヨーロッパ最大規模の家系情報付きバイオバンクである

オランダの Lifelines との相互訪問や研究セミナーを開催するとともに、2018年

から循環器疾患危険因子における配偶者間一致度に関する共同研究を開始した。

また、三世代コホートでは Lifelines の他英国 ALSPAC、オランダ Generation R

を訪問し、共同研究の準備を進めている。2019年2月には、AMED 国際事業部の使

節団としてオランダ Groningen 大学 Lifelines、英国 Bristol 大学 ALSPAC、UK

Biobank を訪問した。オランダ Erasmus 大学 Generation R とは学術協定書の更新

予定である。複数世代を対象とした出生コホートは海外でも注目を集めており、

台湾国家衛生研究院(NHRI)やカナダの Child Study に三世代コホートの概要と

運用方法について情報を提供し、今後も連携していくことを予定している。特に、

台湾の NHRI とは、定期的なシンポジウムの開催等を通して、台湾版 BirThree構

築のための支援を開始している。さらに、欧州の出生ゲノムコホートを中心とす

る国際コンソーシアムである LifeCycle Consortium や EGG への参画を調整中で

ある。

バイオバンクの国際学会である ISBER(International Society for Biological

and Environmental Repositories、国際生物・環境レポジトリ学会)年会、欧州の

BBMRI-ERICによる European Biobank Week (2017年は Global Biobank Week)に

毎回参加し、各国のバイオバンク関係者との交流を深めた。また、バイオバンク

の国際標準については、2018 年8月に発行された ISO20387(バイオバンク)の策

定及びその実施ガイドの検討にあたり、AMED 研究班を通じて協力を行った。現在

は、ISO20387 の認定取得に向けた検討を進めている。また、IBBL(ルクセンブル

グ統合バイオバンク研究所)-ISBERの技量試験プログラム(proficiency testing

program)に参加し、海外 58 バイオバンクとの試料品質の比較により、TMM 試料

の品質が国際的に遜色ないことを確認した。

さらに、ゲノム情報及び診療情報の国際的なデータシェアリングによるゲノム

医療の研究開発を促進しているGlobal Alliance for Genomics & Health (GA4GH)

に機関として加入するとともに、その Plenary Meeting に毎回参加し、技術開発

を行う Work Stream で活動するなど国際的な対話を進めており、仙台で関係者を

招いたワークショップも開催している。

11

④ 全国のゲノム医療研究の支援

2018年3月に公開・分譲区画の大幅な拡充、データ及び解析機能の共有の強化、

AI による解析等に適した GPGPU ノードの強化を内容とするスーパーコンピュー

タの更新を行った。また、スーパーコンピュータを外部研究者にも利用可能とし、

これまでに AMEDの9課題に利用された。さらに、2017 年4月にジャポニカアレ

イを活用したインピュテーション(全ゲノム復元)サービスを開始し、2019 年3

月末までに7件を実施するとともに1件に対応中である。

一方、更新されたスーパーコンピュータ上で、高度化した dbTMMにより、約 3,500

人の全ゲノム解析、約 3.2万人のアレイ解析による全ゲノム情報、オミックス情

報、健康調査情報を全国のゲノム医療研究の研究者に提供した。遠隔セキュリテ

ィエリアを通じてアカデミアや企業の利用が進んでおり、遠隔セキュリティエリ

アは、トライアルユーザ制度により製薬企業等にも利用されている。

また、全ゲノムシークエンスデータに基づき構築した日本人ゲノムリファレン

スパネルは、健常人リファレンスとして未診断疾患イニシアチブ(IRUD)等で活

用されている。独自に開発したシークエンスに関するノウハウの一部は、専門誌

を通じて公表している。さらに、オミックス解析に関しては、AMED の GRIFIN 事

業や他の共同研究等により様々な研究機関のメタボローム解析の支援を実施す

るとともに、ToMMoのコホート検体の解析結果を参照データとして提供している。

また、オミックス解析の手法を論文として公開するとともに、AMED の支援を受け

て試料の品質管理プロトコルを作成し公開した。

(3)個別化予防・ゲノム医療の先導モデルの構築

① 遺伝情報回付に向けた取組

第2段階においては、第1段階で準備を進めてきた表現型のある単一遺伝性疾

患である家族性高コレステロール血症(FH)を対象とした遺伝情報回付パイロッ

ト事業を実施し、215 名の最終参加者に対して ClinVar, HGMDにおける既知の病

的バリアント及び病的意義不明(VUS)の有無を調べて回付した。また、バリアン

トの陽性であった 23 名の参加者には病院受診を勧奨するとともに、陰性者を含

む全員に対する質問紙調査等を実施した。

併せて、本事業における個人への遺伝情報回付の基盤を得るためのパイロット

研究として、他の単一遺伝性疾患に関する遺伝情報回付、及び遺伝情報回付を直

接行わない研究を計画した。表現型発現のない単一遺伝性疾患として、遺伝情報

等回付検討委員会での議論を踏まえ、PGx(Pharmacogenetics(ゲノム薬理学))に

対する遺伝情報回付パイロット研究を実施することとし、その研究計画書を作成

した。さらに、遺伝情報回付を直接行わない研究として、地域のステークホルダ

ー(医療職)の意識及び必要な支援等の調査、多因子疾患発症リスクを知った際

の理解の調査、回付後の行動に関する調査等を計画した。2019年度からの2年間

で実施する予定である。

12

また、個別化予防・ゲノム医療の実現に向けて、遺伝的リスク予測手法を用い

た遺伝情報回付に向けた基盤整備と医療への橋渡し、難病研究者との連携、及び

候補バリアントの高齢保因者における発症の有無の検証、及びクリニカルフェロ

ー、臨床遺伝専門医、認定遺伝カウンセラーを中心とした遺伝情報回付システム

の構築についても検討している。

② 疾患発症リスク予測手法の開発

健康調査で得られた試料(血液、尿、DNA 等)とその解析情報、参加者の生活環

境情報、追跡調査による疾患罹患情報等を統合することで、高血圧、アトピー性

皮膚炎、脳梗塞など、被災地においても増加・深刻化が懸念されている多くの国

民が罹患する一般的な病気に関する疾患リスク予測手法の開発に取り組んでい

る。

詳細二次調査で収集された前向きの生活習慣及び食習慣情報について、ToMMo

で開発された人工知能・機械学習法の枠組みに統合し、遺伝子・環境相互作用成

分を取り込むことを可能にした。これは、他のポリジーン関係の競合手法では、

未だ明確な実装がなされていないものである。また、従来の線形手法では実現で

きなかった非線形でのリスク予測も可能にした。そのうち、STMGP 法をうつ傾向

スコアと GWAS データへ適用し、HSIC-LASSO 法をうつ傾向スコアとメタボロミク

スデータに適用して、従来法よりも高い予測精度を達成した。

併せて、AMED成育疾患克服等総合研究事業(BIRTHDAY)との連携により、三世代

コホートに属するトリオ検体の妊婦ゲノム、胎児ゲノム、父親由来ゲノム、母親

由来ゲノム、生活環境情報、及びそれらの相互作用からなる複雑な寄与のモデル

を用いて、妊娠高血圧症のリスク予測式構築に取り組んでいる。同様に、低出生

体重児や妊娠糖尿病についても既に生活習慣等一部の候補因子による解析を進

め、リスク予測式の構築を行っている。

また、polygenic model(ポリジェニック・モデル) を利用した、独自の iPGM

法を開発し、他の国内コホート・バイオバンクとの連携により脳梗塞発症リスク

予測モデルの構築と前向きコホート調査による精度検証を実施している。加えて、

TMM のゲノム、オミックス及びコホート調査情報を用いて、ゲノムワイド関連解

析(GWAS)に基づく遺伝子環境相互作用解析により塩分摂取量が血圧により強く

影響する群、及び循環器疾患を中心として疾患と関連する血液エピゲノムマーカ

ーが同定されている。

(4)ゲノム医療実現のための環境整備等への貢献

① ゲノム医療実現に必要な人材の育成

ゲノム医療体制の構築に必要となるゲノム・メディカルリサーチコーディネー

ター(GMRC)、データマネージャー、バイオインフォマティシャン、ゲノム医療情

報技術者・研究者、認定遺伝カウンセラー等を育成するとともに、キャリアパス

13

の形成を図っている。

a.GMRC 及びデータマネージャー

詳細二次調査における参加者のリクルートや検査業務に従事する GMRCを約 150

人(うち半数は認定5年以上の経験者)、また、コホート情報を管理する医療情報

データマネージャー(DM)3人、及びメディカルクラークと同程度の技能を有する

DM(TMM 医療情報コーディネーター)1人を育成した。

b.バイオインフォマティクス人材育成

2013年度から東北大学大学院医学系研究科、情報科学研究科との協力によりス

ーパーコンピュータを用いた実習を含めた専門授業科目を設置するとともに、機

構における OJT(On the job training)による育成を行っている。これまでに、国

内大学の教員や民間企業の研究員として 10 人以上を輩出した。また、第2段階

以降、外部講師を招聘したゲノム・オミックス連携推進セミナーを計 17 回開催

し、延べ 500 人近くが参加している。日本製薬工業協会における遠隔セキュリテ

ィルーム設置やユーザミーティング等を通じて産業界とも積極的な連携を図っ

ている。また、データ関連人材育成プログラム「医療・創薬データサイエンスコ

ンソーシアム」に参画し、ToMMoにおける訪問研修を開催し、企業人材受講生 11

人が参加した。

c.ゲノム医療情報技術者・研究者の育成

2019年3月末までに7回のゲノム医療情報学研究会を開催し、延べ 200 人以上

が参加した。また、国内外を含めて 40人程度の研究者との人材交流を実施した。

2019年3月末現在、ゲノム医療情報技術者1人及び、同研究者3人が在籍し、TMM

計画のデータを用いた OJT による育成を実施している。

IMM では、ゲノム系研究者の日本遺伝子診療学会認定ジェネティックエキスパ

ートの資格取得を目指し、講習の受講を開始した。

d.遺伝カウンセリング体制の整備に向けた人材の育成

遺伝情報回付研究を通じて単一遺伝子疾患、また今後、対象となる多因子疾患

の遺伝カウンセリングに対応するために必要な人材像の明確化に取組んでいる。

2019年3月末現在、機構には、臨床遺伝専門医6人、及び認定遺伝カウンセラー

1人が在籍している。

また、ToMMo では東北大学大学院医学系研究科と協力し、2019 年3月末までに

10人が遺伝カウンセリングコース(修士課程)を修了し、2019年4月現在3人が

在籍している。IMM では岩手医科大学臨床遺伝学科と協力し、2019 年3月末まで

に3人が遺伝カウンセリングコース(修士課程)を修了し、2019年4月現在2人

が在籍している。

14

e.TMM ゲノム医療スペシャリスト

臨床遺伝専門医相当の知識を持った医師の養成に向けて、ToMMo クリニカル・

フェロー(TCF)に対するカンファレンスやスーパーコンピュータハンズオンレク

チャー等の教育や、TMM 計画の大規模データを用いた OJT での育成を実施してい

る。うち、数名が多因子疾患の発症リスク予測研究に精力的に取り組み、その成

果により論文執筆に至る医師も出ている。

② 広報・倫理、知的財産、復興支援

a.広報戦略

コホート参加者とそれを含む地域住民(自治体)に対して、コホート調査の進

捗・成果、参加者への協力要請内容の周知活動は重視して取り組むとともに、ア

カデミア、企業等に対しては、バイオバンク試料・情報の分譲や共同研究に向け

た広報、研究成果の広報等に取り組んできた。具体的には、ToMMo 及び IMM にお

いて、日英の本体サイト、各コホートのサイト、ゲノム医科学に関するブログサ

イトの計7種のサイトを運用し、年平均 10 万を越える訪問者を得ている。印刷

物は、年間数回の頻度で進捗を記したニュースレターを各 5,000部以上発行して

きているとともに、試料・情報分譲を紹介した印刷物の発行・頒布なども行って

いる。東京でのシンポジウムの開催や記者説明会の開催など、地元以外での活動

にも力を入れてきた。

b.倫理面の取組

TMM 計画の第2段階の進捗中に個人情報保護法の改正に伴うゲノム指針の改定

が行われた。TMM 計画で取得しているインフォームド・コンセントから、ToMMo 及

び IMM で解析が行われる分には特に影響を受けないが、分譲先で解析によって個

人情報が発生するケースや、データベース登録を行う場合などで留意が必要な事

態があることが検討の結果わかっている。より利活用を受けやすい仕組みの構築

に向けて多方面と連携しながら検討している。

c.知的財産戦略

第2段階は、ゲノム医療を実現すべく疾患原因解明のための研究基盤の活用が

本格的にスタートし、共同研究等も更に進展することから、本事業独自の知的財

産のみならず、共同研究の成果としての知的財産も多く生まれてくることが期待

されている。2019年3月末現在までに、生活情報等のビックデータ解析成果等の

計 29件の発明を完成させている。

d.自然災害からの復興に対する支援

本事業が、東日本大震災からの復興のために国全体からの支援を受けて実施し

ている事業であることを踏まえ、本事業で得られた大規模災害に対する医学的な

15

経験と成果を他の自然災害からの健康復興にも活用できるように学術論文や

種々のデータベースとしてアーカイブ化し、共有することを検討している。

(5)他の事業や産業界との連携

① 外部資金による疾患研究等への取組

ゲノム医療実現推進プラットフォーム事業等の外部資金を活用することで、本

事業で蓄積された試料・情報や本事業の成果を、他のコホートやバイオバンクの

試料・情報と連携させる疾患研究等に取り組んでいる。

a.多くの国民が罹患する一般的な疾患についての研究

ゲノム医療実現推進プラットフォーム事業先端ゲノム研究開発(GRIFIN)課題に

よる外部資金を活用し、我が国の多因子疾患研究の発展に資する研究基盤を提供

するために、ゲノム・オミックス解析に加えて、慢性閉塞性肺疾患(COPD)をモデ

ルとした有用性検証に取り組んでいる。ゲノム及びメタボローム解析データの一

部は、制限公開データとしてデータシェアリングを開始した。

さらに、臨床と基礎研究の連携強化による精神・神経疾患の克服(融合脳)事

業によりうつ病、また BIRTHDAY 事業により妊娠高血圧症候群の発症要因解明に

取組むとともに、その他数多くの外部資金事業の実施者と連携して多因子疾患研

究に参画している。

b.ゲノム医療への実利用が近い疾患・領域についての研究

複合バイオバンクの試料・情報や解析技術を活用し、IRUD、臨床ゲノム情報統

合データベース整備事業等に参画する国内の疾患研究者と連携し、希少疾患、未

診断疾患、感染症等についての共同研究を行っている。また、ToMMo が参画部局

の一つである東北大学未来型医療創成センター(INGEM)と連携し、がんのクリニ

カルシークエンスに取り組んでいる。

c.ゲノム・オミックス情報、医療情報等高度な統合情報解析技術の研究

情報科学、数理統計、遺伝統計学等の最先端解析技術の開発に取り組むととも

に、これらの領域の全国の研究者と連携し、本事業内外で蓄積されるゲノム・オ

ミックス情報、及び医療情報の高度な解釈を進めている。

d.新たな領域に関する研究

バイオバンク検体の解析を通じて蓄積されたプロテオーム・メタボローム解析

能力を活かし、スポーツ選手等のアンチドーピング技術の開発・向上に貢献して

いる。その他、プライバシー保護検索、暗号化データベース検索、量子暗号通信

等の技術を取り入れ、ゲノム情報や医療情報を安全に運用できる仕組みについて

も鋭意取り組んでいる。

16

② 産業界との連携

地域支援センターにおいて詳細な検査が実施される強みに着目して、複数の企

業がアドオンコホート調査に参加している。具体的には、NTT ドコモ社によるス

マートフォンのアプリケーションを用いた健康管理、オムロン ヘルスケア社に

よる尿ナトカリ計等のウェアラブルデバイス、及びヤクルト本社による腸内細菌

叢の評価が、一部の地域支援センターでの健康調査に盛り込まれ、企業の研究や

開発された機器の検証の場として活用されている。

2.大規模ゲノムコホート及び複合バイオバンクを取り巻く環境

(1)国内外における政策、ゲノム医療等の動向と見通し

① 政策動向

a.国内外の全体的動向

特に欧米諸国において、個人のゲノム・オミックス情報、臨床情報、環境要

因等から人々を層別化し、各層に最適な予防や治療を行うこと目指した個別化

予防・ゲノム医療の政策を推進する動きが、2015年頃から顕著となり、世界の

潮流となってきている。疾患としては、まずはがんへの適用が先行している

が、多因子疾患も視野に入れて取組が進められている。具体的には、英国にお

ける Genomics England と UK Biobankの事例や、米国における All of USプロ

ジェクトなどが挙げられる。

日本においては、2013 年に策定された「健康・医療戦略」において、個別化

予防の推進が盛り込まれ、東北メディカル・メガバンク計画は、被災地の健康

管理に加えて、個別化予防実現のための基盤の役割を担うこととされた。ま

た、2015年の「ゲノム医療実現推進協議会中間とりまとめ」においては、多因

子疾患を含む様々な疾患のゲノム医療の実現を進めることとし、まずは、が

ん、希少・未診断疾患等に取り組むことが盛り込まれた。

なお、現行の「健康・医療戦略」及び AMED の中長期目標は 2019 年度までを

対象としており、今後、新たな戦略や目標が策定されることとなっている。

b.我が国における各疾患領域における動向

希少・未診断疾患については、2015 年に AMEDが「未診断疾患イニシアチブ

(IRUD)」を立ち上げ、全国規模での診断体制構築、未診断疾患の原因遺伝子の

同定や疾患概念の確立、データベースの構築等が進められている。

がんについては、2018 年に厚生労働省が「がんゲノム医療中核拠点病院」等

を指定し、がんゲノム医療の提供体制が構築されるなど、臨床実装に向けた取

組が進展しつつある。

認知症については、2017 年に厚生労働省が関係省庁と共同で作成し、公表し

た「認知症施策推進総合戦略」(新オレンジプラン)において、研究開発及びそ

17

の成果の普及の推進を柱の一つに挙げており、大規模遺伝子解析も目的とした

高品質・高効率なコホートを全国に展開するための研究等の推進及び認知症の

病態解明等に取り組むこととされている。

循環器疾患については、循環器病対策の総合的かつ計画的な推進を定めた循

環器病対策推進基本法が議員立法として提出され、2018 年 12月、両院において

全会一致で採択された。

成育分野においては、妊娠期から小児期、思春期を経て次世代を育成する成

人期まで、医療・教育・福祉・保健との連携を含めた切れ目のない施策の統合

的な実施を定めた成育医療等基本法が議員立法として提出され、2018 年 12 月、

両院において全会一致で可決された。厚生労働省は、健康寿命延伸に向けた重

点取組分野として成育を挙げ、すべての子どもの適切な生活習慣形成のための

介入手法の確立やリスクのある事例の早期把握・個別性に合わせた適切な介入

手法の確立を方向性として掲げている。

② 産業界の動向と見通し

日本経済団体連合会(経団連)が 2018年に発表した報告書「Society 5.0 時代

のヘルスケア」では、ヘルスケアの姿として、①未病ケア・予防、②個別化、③

個人の主体的な関与の3点を挙げ、生活の質と社会の質の両方の向上に向けて、

ライフコースデータ等の収集・連携・活用などに取り組むことが必要であると述

べられている。また、東北メディカル・メガバンク計画の継続の必要性も述べら

れている。

また、日本製薬工業協会(製薬協)では、2019 年に発表した「製薬協 政策提

言 2019」の冒頭で「1 予防・先制医療の実現」を掲げ、その最初の項目を「①前

向きコホート研究の推進」とした上で、「東北メディカル・メガバンクの前向き

ゲノムコホート研究データの基盤整備・拡充」を極めて重要な取り組みとして言

及している。

(2)国内外の研究動向と見通し

① コホート及びバイオバンク

a.地域住民コホート

地域住民コホートは、家系情報の有無に関わらずに形成されたコホートで、前

向きコホートデザインを採用する。地域住民コホートには数十万から百万人単位

の参加者が必要であるとされ、国外では英国、中国、スウェーデンなどにおいて

50万人規模からなる UK Biobank、China Kadoorie Biobank、LifeGene コホート

などが構築されている。米国は All of Usと称した 100万人規模のコホート構築

を開始した。

国内における地域住民型コホートの例としては、「多目的コホート研究

(JPHC)」で 14万人規模、「日本多施設共同コホート研究(J-MICC)で 10 万人規

18

模のコホートががんを主な対象疾患として形成されている。また、「ながはま0

次予防コホート」では1万人規模で生活習慣病等を、「久山町研究」では数千人

規模で脳卒中や心血管疾患等を、「鶴岡みらい健康調査」では1万人規模で動脈

硬化等を主な対象疾患としている。

これら国内の各コホートにおいてゲノム情報の取得も始まっており、「ながは

ま0次予防コホート」、「久山町研究」、「鶴岡みらい健康調査」ではメタボローム

情報の取得も行われている。また、「ながはま0次予防コホート」や「久山町研

究」では高齢者の MRI 情報の取得も行われている。

このような国内外の動向の中で、東北メディカル・メガバンク計画地域住民コ

ホートは、8万人規模で地域住民コホートを形成し、全員の生活習慣・各種検査

情報・ゲノム情報、数万人規模のメタボローム情報、1万人規模の MRI情報を取

得できることが見込まれており、さらにセンター型健康調査の繰り返し測定を数

万人規模で実施できているという観点及び外部への試料・情報の分譲も可能とい

う点で国内におけるコホートとしては個別化予防・ゲノム医療の基盤としての強

みを有している。

b.三世代コホート

世界中で家系情報付コホート形成の必要性が指摘されている。子どもやその両

親を対象としたコホート形成の取組が注目されており、オランダの三世代コホー

ト「Lifelines」においては約 16 万人規模のコホートを拡大し、妊婦と新生児各

1,500人の参加を目標とした「Lifelines NEXT」を 2016 年に開始した。また、出

生コホートとしては、例えば、英国の出生コホートである「ALSPAC」は母子 1.4

万組を含む 4.5万人の参加を得ており、 第三世代の拡大に取り組んでいる。

一方で、家族をリクルートすることの難しさから、米国は 10万人の子どもの

参加を計画した「National Children’s Study」を 2014 年に、英国は8万人の

子どもの参加を計画した「Life Study」を 2015年に、それぞれ中止した。

このような中で、母子2万組を含み、三世代にわたる 7.3 万人のリクルートに

成功した TMM 計画三世代コホート(BirThree)は、この領域において世界をリード

する取組となっている。同コホートで採用されている出生三世代コホートデザイ

ンは世界初のもので、国内においてはもちろん、国外においても現在のところ他

に同様のコホートは存在せず、個別化予防・ゲノム医療の実現にむけてその利活

用が期待されている。出生コホートである点を活かし母胎内における環境要因が

把握可能で、三世代コホートである点からはゲノム情報の適切な選択等が可能と

なる可能性がある。対面型詳細調査等を継続することで、生まれてきた子どもが

成長するのに伴い、その年齢で出現する疾病を次々とターゲットにした解析が可

能となる。

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c.バイオバンク

欧米においては、個別化予防・ゲノム医療の政策と密接に関連して、一般住民

の試料・情報を収集する大規模なバイオバンクを構築し、ゲノム情報を基盤とす

るライフコースにわたるオミックス情報や診療情報を収集する取組が進展してい

る(例:米 All of Us、 英 UK biobank など)。さらに近年はモバイル機器を利活

用したヘルスデータの収集を米国 100万人コホートである All of Usのプロジェ

クトが進めており、今後のコホート研究の新しい手法として期待される。また、

国民皆保険制度の北欧をはじめとした国々でバイオバンク法が制定され、診療情

報のバイオバンクへの集約と利活用が進んでいる。これに伴い、大学や病院単位

の多数のバイオバンクの試料情報や提供者の健康関連情報を国や地域で集約しグ

ローバルな研究に提供する動きが、ゲノム・オミックス解析情報の大規模データ

ベース構築とともに活発化している(BBMRI- ERIC (EU)、FinnGen Project(フ

ィンランド))。ISO の制定や試料品質の標準化も、このような流れの中で試料品

質による解析バイアスを最小化する必要性から生じた活動である。

一方、メタボロミクスやプロテオミクス等の手法では、試料品質、施設・設

備・プロトコルによる解析結果の変動が大きいため、大規模な施設に集約して統

一プロトコルで解析を実施する取り組みが行われている(EXPERT CENTER BBMRI-

ERIC (EU))。また、同様に、それらに標準的品質の試料を提供する目的で、試料

処理や管理を集約化する動きがある(NIHR National Biosample Centre (UK)、

RUCDR Infinite Biologics(米国))

これらの取組は、基盤的な経費のほとんどが公的資金で賄われており自己収益

の占める割合は少ない(2014 年の UK biobank のデータ使用料収入は 17万ポン

ド)が、欧米では製薬企業等の産業界からの新規参画と資金提供が加速してお

り、それにより大規模解析が進んでいる。産業界にとっても、複数の企業連携に

よる非競合的な資金提供により、一定の品質の高い解析情報が大規模に取得でき

るだけでなく、インフォームド・コンセント等の理由で私企業への試料提供が困

難な試料からも、企業利用が可能な解析情報が得られる利点がある。

d.IT基盤

国内外の状況として、基本的にクラウド環境でのデータ共有へと大きくシフト

している点は共通しているが、米国と欧州では少し状況が異なっている。米国で

は、商用のクラウドサービスを展開する企業が多くあるためか、常用のクラウド

サービス上でのデータ共有の仕組み作りが急ピッチで進んでいる。一方、欧州で

は自国の商用のクラウドサービスが存在しないことが大きな理由だと思われる

が、研究機関にある計算機インフラをつなぐ形でのクラウド構築が進んでいる。

日本でも自国の商用クラウドサービスを持たないため、欧州のモデルに従い、い

くつかの研究機関に計算機インフラを構築し、それらを連携する形での基盤形成

が急務であると考えられる。

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欧米いずれのモデルを取るとしても、誰がデータへのアクセス権を有するかを

決定づける認証の仕組みを整備することは不可欠である。これに対して米国で

は、NIH がグラント提供と連動する形で認証システム(eRA Commons)を提供して

いる。一方、欧州では多国籍研究機関である ELIXERが中心となって認証システ

ムの規格(ELIXER AAI)を提案し、実装が行われており、参加する機関が急速に

増えている状況である。日本でも欧州のモデルに習ってクラウド構築を進めるの

であれば、ELIXER AAI に準じる形で認証局を構築し、データシェアリングの加速

が急務であると考えられる。

欧米をまたぐ形で大きな動きになっているのが GA4GHであり、ゲノム情報や診

療情報の共有の仕組みが多角的に検討され、システムとしての実装も進んでい

る。この中でも、特に、従来のデータシェアリングの考え方を再考させる動きと

して、解析プログラムをシェアし、解析結果を共有する(”bring the

algorithm to the data”)ことで、機微性の高いデータは各データ提供者に委

ねつつ大規模な統合解析をデータが分散していることを意識せずに実施できる仕

組みが模索されている。解析プログラムがシェアされ、大規模なデータベースに

ある決められた手続き(API)でデータにアクセスして解析し、解析結果を利用

者に返却するというものである。また、認証システムについても開発が進んでい

る。こうした動きは注意深く見守る必要があると考えられる。このようなアプロ

ーチでも認証が重要な鍵を握っており、どのようなプログラムがどのデータにア

クセスして良いのかというアクセスコントロールが重要となってくると考えられ

る。

② ゲノム・オミックス解析

世界的にもバイオバンク・コホートを活用したゲノム・オミックス解析は重要

になりつつあり、規模も大きくなりつつある。歴史的には、参加者を募りやすい

疾患コホートが先行していたが、環境要因を考慮に入れた解析を可能にし、発症

メカニズムも含めた解析やより高精度なリスク評価のためには一般住民集団を対

象とした前向きコホートデザインによるコホートから形成されるバイオバンクの

重要性が認識され、UKバイオバンクを始めとする前向きコホートに伴うバイオバ

ンクが形成されている。それらでは、遺伝的素因の民族差、低頻度遺伝子多型に

よる疾患発症の問題から、個々の前向きコホート・バイオバンクの大規模化とと

もに、国際連携による情報の共有と解析の高度化が進んでおり、我が国でもそれ

らと同等の解析が可能なレベルの情報の整備が求められている。また、解析にお

ける家系情報の重要性から、古くはアイスランドでの deCODE社の研究を始めと

して、最近ではオランダの Lifelines コホートが三世代にわたる家系員から形成

され、さらにコホート参加者のうち次世代を出産した際にその児を新たにコホー

ト参加者とする Lifelines NEXTを出生コホートとして開始するなど、家系情報

付きコホートの形成が進んでいる。

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これまでゲノム解析を中心に進められていた解析であるが、ここ数年のうちに

オミックス情報を追加する動きが急速に増えている。例えば、Lifelines DEEP で

は、ゲノムに加えてメチル化解析、トランスクリプトーム解析、メタボローム解

析、細菌叢解析の5層オミックス解析が進められている。

多くのバイオバンクで、複数のオミックス解析が実施されつつあるが、近年特

に大規模にゲノムコホートと連携して進められている解析がメタボローム解析で

ある。UKバイオバンクでの 50万人規模を筆頭にフィンランドバイオバンク、エ

ストニアバイオバンクなど、多くのバイオバンクで数万人規模の解析が実施さ

れ、メタボローム解析はゲノムコホートの標準解析の一つとなりつつある。

安価となった短鎖リードシークエンス技術を活用し、英国 (UK Biobank、

Genomics England)、米国 (Million Veteran Program)、エストニア、中国など

において、10 万人規模の全ゲノム解析が進行中である。

一方、短鎖リードでは解析困難なゲノム構造多型を網羅することを目的に、長

鎖リードシークエンス技術を活用したゲノム解析も、米国 (HudsonAlpha

Inst)、アイスランド(deCODE genetics)、中国(Novogene)などにおいて計画が立

案され、一部開始されている。

3.次期 TMM ゲノムコホート・バイオバンク事業が目指す方向性

ゲノム医療を支えるゲノム医科学の発展はめざましいものがあり、ゲノムワイ

ド相関解析による多因子疾患の感受性遺伝子同定、並びに次世代シークエンサー

によるパーソナルゲノムの時代が到来しようとしている。しかし、これらのゲノ

ム情報を活用しゲノム医療を現実にするためには、遺伝子―環境―病気の3つの

因果関係を明らかにしていかなければならない。それに対応するため、現在世界

各国で巨大バイオバンクが構築されている。第一期 TMM計画における成果や近年

のゲノムコホート及びバイオバンクに関する環境を踏まえ、次期 TMMゲノムコホ

ート・バイオバンク事業においては、ゲノム・オミックス情報を活用した日本の

個別化予防・ゲノム医療の基盤となる公的なゲノムコホート・複合バイオバンク

として、データシェアリングを通じて、基礎から臨床までの関連研究を支援・牽

引することが重要である。具体的には、以下のような方向性を目指すべきであ

る。複合バイオバンクを構築して、新たな「ゲノム医療」の基盤を開発するとと

もに、医療情報の ICT 化を推進し、さらにその成果を還元することで最先端治

療・予防医療の推進に努める。本事業を通じて、東北地方を国内のみならず世界

の医学研究における重要な医学リソース提供拠点とする。これにより、本事業が

復興の重要なメモリアルとなることを期待する。

(1)個別化予防・ゲノム医療の実現

全ての日本人に個別化予防・ゲノム医療の恩恵をもたらすことを目指し、疾

患の遺伝・環境リスク予測および提供者への結果回付に関する知見を蓄積する。

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(2)ライフコースに沿った課題解決への貢献

少子高齢化社会の進展に対応して、出生前から高齢者までの各世代の継続

的・縦断的な試料・情報を収集・利用し、認知症などの各世代に特有の健康課

題の解決に貢献する。

(3)コホート・バイオバンク連携

国内外のコホート・バイオバンク等との連携により、日本の個別化予防・ゲノ

ム医療に資する研究基盤の強化と人材育成に取り組み、研究成果の創出とゲノ

ム医療・個別化予防の実現につなげる。

(4)産業界との連携

産業界が利用可能な試料・情報・研究基盤の提供を通して、産業界との連携

を強化し、健康・医療産業の発展を目指す。

(5)被災地域の医療支援と健康管理

東日本大震災被災地の自治体との緊密な連携により、地域医療の支援と地域

の健康管理に取り組む。

4.次期 TMM ゲノムコホート・バイオバンク事業が取り組むべき事項

3.で述べられた方向性を実現するため、次期 TMM ゲノムコホート・バイオバ

ンク事業においては、コホート調査、ゲノム・オミックス解析、複合バイオバン

ク、地域医療支援、遺伝情報回付及び人材育成その他について、以下のように目

標を設定し、それに対する取組を行うべきである。

なお、これらの取組には相応の予算措置が必要であり、得られる予算規模に応

じて実施する事業の詳細や規模も変動するものである。

(1)コホート調査

① 地域住民コホート

a.5年後の目標

対面型詳細調査の継続によって最先端のデバイスや生活習慣の評価を取り

入れつつ、ゲノムに応じた生活習慣変容・薬剤選択等を通じて、国民の認知

機能・身体機能を維持し、高齢化社会における健康長寿を実現するための研

究に貢献するために、以下の取組を行うことを 5年後の目標とする。

(a)疾患発症リスク予測のためのデータの収集と分譲

糖尿病・高脂血症などの生活習慣病について、遺伝要因(Polygenetic

Risk Scoreを含む)・環境要因(環境曝露・生活習慣)・中間表現型(メタ

ボローム情報等)を用いた疾患発症リスク予測モデル式を確立するための

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データを収集し分譲する。そのためにアドオン調査・認知機能調査などの

基盤ともなる対面型詳細調査を継続し、詳細な検査データ・環境要因・生

活習慣・血液情報の継続的な測定を行う。疾患発症リスク予測モデル式を

確立することによって、この式を活用した個別化予防に資する介入研究に

資するデータが得られることが期待される。またアウトカムの捕捉のため

には公的情報(死亡、異動、特定健診、医療費、がん、介護保険等)に関

する情報収集が必要となる。現状では本人の同意を得ているものの、手続

きが複雑で人的、時間的、経費的コストがかかっている。管轄省庁等に働

きかけ、各種公的情報のリンケージをはじめとする情報収集の効率化を図

ることにより、データ分譲に向けたプロセスのスピードアップを図る。こ

れらのプロセスを整理することで情報収集の効率化に向けたマニュアルの

作成や管轄省庁との協定書策定まで波及することが期待される。

(b)最先端デバイスを活用したアドオン調査に対する基盤の提供

対面型詳細調査を継続することでアドオンコホートの基盤となり、大多

数の参加者に最先端のデバイスを積極的に導入するなど、生活習慣・環境

要因のより正確な評価を目指す。これらの情報は上述の遺伝要因

(Polygenetic Risk Score を含む)・環境要因(環境曝露・生活習慣)・中

間表現型(メタボローム情報等)等を用いた疾患発症リスク予測モデル式

の確立にも活用される。なお、それぞれのフェーズ(ベースライン調査、

詳細二次調査など)の対面型詳細調査が新たなコホート集団として十分な

データを提供できるよう、サンプルサイズの維持も図る。また、アドオン

コホートにおいては、既に収集済みの情報(例えば高齢者・高血圧など)

を参加規準に活用するような仕組みについても検討を行う。

(c)遺伝・環境交互作用によって変化する指標の蓄積と分譲

未来型の創薬やドラッグリポジショニングに貢献するため、遺伝・環境

交互作用によって変化するメタボローム等の指標を詳細に蓄積し、分譲す

る。そのために経時的な採血検査を継続する。さらにはこれらの代謝物質

をターゲットにした創薬研究への波及も期待される。

(d)認知症に関するデータの収集と分譲

対面型詳細調査で捕捉される軽度認知機能障害(MCI)発症者と認知機能

維持者に関して、発症前のデータを比較解析して MCI の予防因子を明らか

にすることのできるデータの収集・分譲を進める。また、認知機能障害発症

者のリスク予測を行うことのできるデータの収集・分譲を進める。併せて、

今後の高齢化社会を見据え、フレイル(老年症候群)・サルコペニア(骨格

筋量低下・身体機能低下)を含む要介護リスクの評価も行う。これらの情報

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については整理のうえ分譲する。開発した疾患発症リスク予測式を用いて、

MCIハイリスク者に対する新たな介入研究の立案がなされる。

(e)疾患発症リスク予測の加速のためのコホート連携

TMM計画として他コホートとの連携を含め高血圧・糖尿病・高脂血症・

循環器疾患の疾患発症予測式リスク予測モデル式を遺伝要因(Polygenetic

Risk Scoreを含む)・環境要因(環境曝露・生活習慣)・中間表現型(メタ

ボローム情報等)を含める形で報告する。それらの成果を全国のコホート

と相互検証を行い、リスク予測式の精度を高め、社会への実装を目指す。

また、発症率の低い疾患についてコホート間で疾患をプールすることでリ

スク予測を早期に可能にする。そのためにも各コホートの特徴を生かすこ

とに加え、相互に共有可能な部分について共有を進めることで日本全体の

個別化予防に貢献することを可能にする。

(f)PHRの活用

調査参加者が、自身の継時的な健康調査結果を閲覧できる PHR 活用する

時代を目指す。このとき、調査参加者が保有する他の健康情報、医療情報

を PHR に取り込んで集約することも検討する。PHR の構築には産業界の協

力も得つつインフラ整備を進める。具体的に個別化予防を実現するために

は、国民の生活習慣の改善などのヘルスリテラシーの向上が重要であり、

PHRの活用を通じて、将来的な行動変容への取り組みへつなげ、国民一人

ひとりの健康的自立及び生産性保持を目指す。

(g)被災地住民等への成果の還元

上記のような知見を被災地の住民をはじめとした国民の健康に裨益す

る。また、提供いただいた試料・情報により進展している研究開発の進捗

や成果をフィードバックし、より積極的な研究参画を促す。

b.目標に向けた今後5年間の取組

上記の目標を達成するため、今後5年間に以下の取組を実施する。

(a)詳細調査の継続

アドオン調査・認知機能調査などの基盤ともなる対面型詳細調査を継

続し、詳細な検査データ・環境要因(環境曝露・生活習慣)・中間表現型

(メタボローム情報等)の継続的な測定を行う。その上で、糖尿病、高

脂血症、循環器疾患などの生活習慣病について、遺伝要因(Polygenic

Risk Scoreを含む)・環境要因(環境曝露・生活習慣)・中間表現型(メ

タボローム情報等)を用いた疾患発症リスク予測式等を作成する。対面

型詳細調査は精緻かつ最新の環境要因測定が可能であり、産学連携によ

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るアドオンコホートの拠点となるため、継続的に実施することが重要で

ある。詳細二次調査では宮城・岩手の両県で 4.2 万人以上の対象者の参

加が見込まれている。これら参加意欲の高い集団のうち何らかの事情に

より追跡不能が出ることも想定し、約8割を対象とした対面型詳細調査

を実施する。脱落者については、生活習慣病・MCI 発症のリスク予測精度

を確保するために、途中で対象者を補充することにより、約 4.2万人の

サンプルサイズを維持するダイナミックコホートを形成する。対象者選

定の際、家系を考慮することで効率的・効果的にリスク予測ができる。

(b)認知機能・身体機能の評価及びフォロー体制の構築

地域住民コホートでは、宮城・岩手の両県で今後 8,000人程度の認知症

発症が見込まれることから、フォローを行うことにより、認知機能低下に

ついての遺伝要因・環境要因を用いた予測式の開発が可能になる。このた

め、対面型詳細調査により認知機能の評価を行うとともに、来所できない

方への認知機能のフォローを行える体制を構築する。また、今後の高齢化

社会を見据え、フレイル(老年症候群)・サルコペニア(骨格筋量低下・

身体機能低下)に関する調査項目についても評価する。その上で、MCI(軽

度認知機能障害)や要介護発生についての疾患発症リスク予測式を開発す

る。その際、MRI調査による脳画像・認知機能の詳細データを認知症の疾

患発症リスク予測式に活用し、その予測精度の向上に寄与する。

(c)全国のコホート研究との連携

全国のコホート研究との研究面での連携を進めるとともに、調査方法・

検体管理方法などのノウハウの共有が可能になるよう情報交換を進める。

それにより、データの質を維持したうえで連携・統合の可能性が高まり、

大きなサンプルサイズを用いた生活習慣病・MCIの疾患発症リスク予測が

可能になる。これらのデータを全国の研究者で共有し、効率的に解析を実

施できる基盤を構築する。

(d)公的情報の利活用

公的情報(死亡、異動、特定健診、医療費、がん、介護保険等)に関す

る情報収集を行い、それらの情報のリンケージを行う。また、疾患追跡に

ついて、ToMMoでは県内基幹病院等の医療機関やみやぎ医療福祉情報ネッ

トワーク(MMWIN)との連携により、IMMでは地域脳卒中登録事業、心疾患発

症登録事業等との連携により、医療情報を収集する。

被災地での健康影響に関する結果が得られた時点で、自治体・医師会・

歯科医師会を通じて結果を広く周知する。今後さらに被災地を含めた国民

への情報提供体制を強化し、また生活習慣病・MCI の疾患発症リスク予測

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についても調査対象者のみならず国民に広く周知する。調査参加者に対し

ては、健康調査結果の回付も含めて、参加者が自身の健康情報の PHRの閲

覧を可能とするインフラ整備の検討を進める。

c.10年後の目標

上記の5年間の取組を基礎として更なる取組を行うことにより、10 年後

には以下の内容を実現することを目指す。

(a)最先端のデバイスや生活習慣評価に関するデータの収集と分譲

対面型詳細調査に組み込むアドオンコホートの実施等により、最先端の

デバイスや生活習慣評価(例えば長期間の尿中ナトリウム・カリウム比)

を組み込んだ高血圧・糖尿病・高脂血症の発症リスク予測式の開発が可能

となるデータを収集分譲し、社会実装に貢献する。

(b)経時変化に関する情報の収集と分譲

上記に加えて、悪性新生物・脳血管疾患・虚血性心疾患について遺伝要

因・生活習慣・メタボローム情報・危険因子の経時変化を用いた疾患発症

リスク予測モデル式を確立するための情報収集を行い分譲する。

(c)未来型創薬・ドラッグリポジショニングへの貢献

本計画等が明らかとした環境遺伝交互作用・メタボローム情報を基盤と

して、未来型創薬・ドラッグリポジショニングの成果創出に貢献する。

(d)MCIに関するデータの分譲と予防法の提言への貢献

遺伝要因・生活習慣・メタボローム情報を用いた MCI発症リスク予測式

を確立するためのデータを分譲する。MCI 発症リスク予測式を確立したこ

とで、それを活用し MCI ハイリスク者を別に集める新たな介入研究の実

施、予防法の提言に貢献する。

(e)PHRの利活用

ウェアラブルデバイス等で得られた環境要因、遺伝要因、メタボローム情

報等の中間表現型を活用した疾患発症予測モデル式を PHR に実装すること

を目指す。また、参加者自身による PHR の閲覧を通して、調査参加者自身の

ヘルスリテラシーの向上に貢献する。

② 三世代コホート

a.5年後の目標

少子高齢社会の到来によって種々の課題に直面しているわが国において、

次世代を産み育てるうえで極めて重要な子どもとその家族の健康向上を目指

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すため、三世代コホート参加者の継続的な追跡により家系員一人ひとりのラ

イフコースにわたる精緻な試料・情報収集を行う。遺伝・環境相互作用を考

慮した疾患発症リスク予測式等の構築によって個別化予防・ゲノム医療を実

現し、国民一人ひとりの健康的自立及び生産性保持に貢献するため、以下の

取組を行うことを5年後の目標とする。

(a)研究者が必要とする研究基盤の構築と個別化予防・ゲノム医療の実現

児・同胞の追跡調査により、学童期を中心として出現する疾患に関する

必要かつ十分な試料・情報を収集し、研究者が必要とする研究基盤を構築

して、わが国研究者コミュニティと少なくとも 10件の分譲あるいは共同研

究が開始されることを目標とする。このことでわが国のライフステージに

関する研究が飛躍的に進展することが見込まれる。

また、これらの試料・情報を研究者コミュニティに分譲すること等を通

して、乳幼児期から学童期までの重点疾患(アトピー性皮膚炎、自閉スペク

トラム症、小児高血圧等)に関する疾患発症リスク予測式を構築し、個別化

予防・ゲノム医療の実現を目指す。

さらに、第2段階までに構築した周産期・新生児期の重点疾患(妊娠高血

圧症候群、妊娠糖尿病、低出生体重、産後うつ等)に関する試料・情報の分

譲等を加速させ、疾患発症リスク予測式に基づくアプリケーションの開発

と社会実装を加速させる。これら疾患発症リスクの予測に関し、高い精度

の予測が可能となり、個別化予防・ゲノム医療の実用化が実現する。

一方、父母や祖父母の追跡調査により、気管支喘息などの児にみられた

疾患を父母や祖父母が発症しているか否かを追跡し、必要かつ十分な試料・

情報を収集して研究者が必要とする研究基盤を構築する。このことによっ

て三世代を利活用した研究が加速される。

また、若年発症の疾患に罹患していないかなど、他のコホートから比較

的知見を得ることの少ない若年から壮年成人に関する疾患情報を収集して

研究基盤を構築する。若年発症の精神疾患、がん、循環器疾患等に関して貴

重な試料・情報が得られ、わが国の同分野における研究が飛躍的に進展す

る。

(b)国内出生コホート連携基盤の構築・確立

国内出生コホート全体のゲノムコホート化及び多世代(Multi-

generation)化を推進することにより、頻度の低い疾患への対応を可能と

するとともに、そこから得られた試料・情報のより広い利活用を加速さ

せ、国内出生コホート関係者及び研究者コミュニティによって上記で構築

した疾患発症リスク予測式のバリデーションを出生コホート間で相互に行

うことにより、信頼性の高い個別化予防・ゲノム医療を実現する。その結

果として、わが国全体の観点からも各コホートの運営が効率化され、相乗

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効果によって比較的稀少な疾患への対応も可能となる。

(c)海外出生ゲノムコホート連携基盤への参画

海外コホートとの連携を個別のコホート及びコンソーシアム等の形態に

よって加速し、海外コホートの先進性を取り入れることで、世界初の出生

三世代コホートのノウハウを人類が共有して病魔と対峙するとともに、わ

が国においてもゲノム情報を用いた個人ベースの統合解析である

Individual Participant Data(IPD)解析等が始まるなどの効果を見込め

る。

(d)被災地住民等への成果の還元

上記のような知見を活用することにより、被災地の住民をはじめとした

国民の健康に裨益する。三世代コホートによって胎児期及び小児期の震災

への曝露が、児およびその後の青年期から中高年期に亘って精神身体の発

達と健康に与える影響に関する知見の創出を行い、震災大国日本における

災害対策の基礎情報を提供する。

(e)参加者による調査結果および PHR の閲覧の実現

調査参加者あるいは医療保健サービス提供主体が、自身の調査結果及び

各方面から収集された PHR の閲覧を可能とする。このことで調査参加者に

よる自身の健康向上、ヘルスリテラシーの向上、コホート調査でのデータ

利活用、行政や医療機関によるシームレスな医療保健サービスの提供を可

能とすることができる。

b.目標に向けた今後5年間の取組

上記の目標を達成するため、今後5年間に以下の取組を実施する。

(a)対面型詳細調査の継続

1) 正確な診断・病態分類と詳細な疾患関連情報の収集、2) メタボロー

ムを含むオミックス解析のための採血・採尿、3) ウェアラブルデバイス

による曝露とアウトカム情報の取得が必要であるため、最も優先順位の高

い調査は対面型詳細調査である。国家的なレジストリのある国のコホート

では郵送法とレジストリ情報の組み合わせを追跡の主体としているが、他

のコホートでは対面型詳細調査を主体としている。

最も優先すべきは、胎児期からの環境要因と臍帯血が採取されている児

であり、転居等も考慮し参加者の半数以上の対面型詳細調査の実施を目標

とする。その次に優先すべきは、その児を中心とするトリオ・クアドロの

構成員である父母における精緻な表現型の収集であり、児と同様半数以上

の対面型詳細調査の実施を目指す。

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(b)既存資料とのリンケージの推進

追跡調査において次に優先順位の高い調査は既存情報とのリンケージで

ある。乳幼児健診情報、学校健診情報、各種疾患登録情報等とのリンケー

ジについて ICTを活用するなどして、わが国における疫学研究をより推進

させるため各省庁や自治体の理解を得るよう努力して、TMM が情報の収集

に際しての課題解決を行い、活動の中心となることで、行政データ利活用

をよりスムーズに行えるような枠組みを構築する。医療機関診療録情報の

取得における県内基幹病院等の医療機関や MMWINとのリンケージを加速さ

せる。国などによる整備が進んでおり、多くの情報を集積する健康ポータ

ルの構築にも協力し、そこに TMMが収集した情報を入れ込んで、実用的か

つ健康向上に実際に役立つインフラとする。

(c)E-epidemiology 化の推進

調査票調査は優先順位が低いわけではないが、調査頻度や項目、実施方

法について検討することは可能である。胎児期からの環境要因が収集され

ている児用の調査票に父母・同胞・祖父母等に対する調査項目も集約する

等、頻度と量のスリム化について検討し、E-epidemiology 化による低コス

ト化を実現する。

(d)疾患発症リスク予測式の精度の向上

分譲等による研究者コミュニティとの協働及び企業との連携を通して、

遺伝子組換え地図の作成、新生突然変異の出現率の算出、臍帯血のメチル

化情報による胎内環境のシステマティックな把握などを行い、リスク予測

式の精度を向上させ、アプリケーション作成を実現して個別化予防・ゲノ

ム医療の実現を推進する。

(e)三世代コホート家族構成員の欠員補充

学童期に出現する疾患は相対的に低頻度のものである。そこでトリオで

現在一部欠けている家族構成員、すなわち父親を追加リクルートする。そ

の他の家族構成員やリクルート完了後に生まれてきている児の新たなリク

ルートによるクアドロ・ヘプタファミリーに関する家系情報付き試料・情

報の充実についても、外部資金の獲得等を通して実施を検討する。世界と

の熾烈な競争においては、家系付コホートにおいても一定の規模(10万人

規模)が必要で、三世代コホートの家族構成員の欠員補充により世界と伍

することのできるわが国の貴重な研究基盤を構築可能である。三世代コホ

ートである Lifelines(参加者 16 万人超)や ALSPAC(参加者数万人規

模)においても、参加者が次世代を産んだ際にはその児をリクルートする

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Lifelines NEXTや COCO90sをすでに開始している。

(f)父母、祖父母の追跡調査の推進

父母、祖父母の追跡調査に関しては、三世代コホート参加者に関する県

内基幹病院等の医療機関並びに MMWINを経由した情報や家族への聞き取り

等による家系内での疾患発症情報の充実に加えて、地域住民コホート調査

における生活習慣病・MCI発症のリスク予測精度の確保に貢献する。

(g)国内出生コホートとの連携の推進

既存の国内出生コホートとの連携を推進する。TMM が連携のコアの一つ

であることを自覚し、経費の支援を前提に事務局の設置や国内コホートの

情報収集と共通項目の洗い出し、既存データの統合実務と今後の各コホー

ト調査における追跡調査の精度管理と効率化、さらに相乗効果の創出を行

う。

(h)海外出生コホートとの連携の推進

海外コホート連携に関しては、第2段階までに築き上げてきた相互の信

頼関係を基に個別のコホートと連携を深めるとともに、コンソーシアムへ

の参画を積極的に行う。

(i)疫学の人材育成

各種教育機関との連携を通して疫学の人材育成を行う。さらにクロスア

ポイントメント制度の活用等により TMM の中で人材を育成し、わが国の研

究者コミュニティに還元する。

(j)PHRの閲覧を可能とするインフラ整備の検討

調査参加者に対しては、調査結果の回付も含めて、参加者が自身の PHR

の閲覧を可能とするインフラ整備の検討を進める。

c.10年後の目標

上記の5年間の取組を基礎として更なる取組を行うことにより、10 年後

には以下を実現することを目指す。

(a)思春期の疾患に関する研究基盤の構築と提供

思春期を中心として出現する疾患、特に統合失調症やうつ病などの精神

疾患と高血圧、高脂血症、耐糖能異常、肥満などの循環器疾患危険因子を

重点疾患とし、これに関する必要かつ十分な試料・情報を収集して、研究

者が必要とする研究基盤を構築しながら、研究者コミュニティに提供す

る。

31

(b)周産期から学童期の疾患に関するリスク予測の精度の向上

妊婦、新生児、乳幼児期から学童期までの重点疾患(アトピー性皮膚

炎、自閉スペクトラム症、小児高血圧等)に関して実現されている個別化

予防・ゲノム医療について、研究者コミュニティとの協働によりリスク予

測の精度をさらに向上させる。

(c)中高年期の重点疾患に関する研究基盤の構築

継続的に収集・蓄積された一人ひとりのライフコースデータに基づき、

中高年期の重点疾患(がん、循環器疾患、うつ、認知症等)の発症に対し

て、遺伝要因や青壮年期までの生活習慣等の環境要因が与える影響を評価

できる研究基盤を構築し、創薬を含めたより効果的な個別化予防・ゲノム

医療を提案する。若年成人においても、中長期的に追跡することで、が

ん、循環器疾患、糖尿病など国民の関心の高い疾患を研究対象とすること

が可能である。

(d)国内外の出生ゲノムコホート連携基盤の構築・確立

国内外の出生ゲノムコホート連携基盤を構築・確立し、周産期から学童

期までの重点疾患に関する全人類的な疾患発症リスク予測式の構築を先導

する。

(e)調査対象者におけるヘルスリテラシーの向上

調査対象者自身による PHR 閲覧を通して、調査対象者のヘルスリテラシ

ーが向上する。

③ MRI

a.5年後の目標

成人期から高齢期にかけて、認知症の前段階である MCI(Mild Cognitive

impairments)へと至る発症プロセスを解明することにより、認知症予防研究

に貢献していくために以下の取組を行う。

(a)MRI画像撮像等をベースラインとした追跡研究

これまで収集しデータベース化を進めている 1万人規模の MRI画像、認

知機能検査、心理検査をベースラインとした新規の追跡調査研究により、

横断的なデータに加えて、加齢変化を捉えるための縦断的なデータ収集を

進める。

(b)データベースの構築の推進とデータ分譲

1万人規模の追跡調査を含む、多世代から収集された脳画像、認知機

32

能、心理検査の縦断的データベースは世界的にも類が少なく、認知症をは

じめとした脳神経、脳血管関連の多因子疾患のリスク解明や発症プロセス

研究に有益なため、そのデータベースを構築し、データの分譲の促進に取

り組む。

(c)認知機能低下の個別化予防研究に向けたリスク層別化と統合解析

構築されるデータベースを軸として、ゲノム情報・生活習慣情報をあわ

せて、MCIおよび認知症の対象者をリスクごとに層別化し、統合解析する

ことで、認知機能低下の個別化予防研究の基盤を形成する。

b.目標に向けた今後5年の取り組み

上記の目標を達成するため、今後5年間に以下の取組を実施する。

(a)追跡調査

個人内での加齢変化を鋭敏に検出するためには横断データだけでは不十

分であり、追跡調査により、縦断データの収集を推進する。これまでの

MRI情報、認知機能検査情報、心理検査情報に加えて、加齢に伴う機能低

下であるフレイル(老年症候群)・サルコペニア(骨格筋量低下・身体機

能低下)に関するデータ収集を追加する。提供者への調査結果回付を継続

する。

(b)データベース構築

ベースラインデータと追跡データを対としたデータベースの構築を推進

し、ベースラインデータの分譲を行い、追跡データに関してはクリーニン

グを行う。

(c)解析研究

認知機能の低下を遺伝情報(Polygenic Risk Score の活用)、生活習慣

情報(食生活、運動、睡眠等)、脳画像情報から説明できるモデルを構築

するような、統合解析研究のための情報収集を実施する。さらには参加者

の年齢、男女別、遺伝子情報等により、クラスタ化した統合解析を可能す

ることで、個別化予防に資する基盤的知見の創出に貢献する。そのために

全国の脳科学研究施設との共同研究を推進する。

c.10年後の目標

上記の5年間の取り組みを基礎としてさらなる取り組みを行うことによ

り、10 年後には以下を実現することを目指す。

(a)認知症予防知見の集積

TMMの研究成果を基とした共同研究による介入研究の成果により、世代

33

ごとにどのような生活を送ることが各人の認知症予防になるのかについて

の知見をまとめる。

(b)認知症の個別化予防の確立への貢献

認知症予防知見の研究成果を広めるとともに、成人期に MRI、認知機

能、心理検査で構成された健診への組み込みを提案していくことで、認知

症の個別化予防の確立に貢献する。

(2)複合バイオバンク

① バイオバンク

a.5年後の目標

TMM計画が実施するコホート調査の試料・情報の受入や保存を継続し、保

有する国内最大級の保管試料を提供する。バイオバンク管理システムについ

て、より標準化された効率的な管理運営を実現して試料・情報の利活用の促

進につなげるとともに、これをバイオバンク・コホート連携にも活用し、国

内の生体試料・情報利活用の促進に貢献する。TMM 計画コホート参加者の疾

患発症状況をより詳細に把握することにより、発症前後の試料・情報の統合

解析を可能とし、疾患発症の遺伝・環境リスクの正確な把握に貢献する。

(a)試料・情報の信頼性向上

試料・情報の保管・提供等の管理体制の集約と効率化により、ISO 等の

国際基準を満たす標準化を達成し、試料・情報品質の信頼性を高める。製

薬企業等が求める厳しい品質条件を満たすことができれば、産業界を含め

たグローバルな研究に貢献する試料・情報の提供が加速し、その結果、日

本人の民族的特性も加味された形で、疾患の遺伝・環境リスクに関する知

見が集積し、創薬研究にも貢献することが期待される。

(b)細胞試料の利用可能性

既知/未知の解析技術に対応可能な細胞試料の提供を進める。これによ

り、TMM 計画参加者由来の細胞試料が、神経等の採取困難組織の研究や、

がん免疫療法などの最先端研究、新規解析技術を使った免疫/アレルギー

疾患研究において利用され、また、疾患原因とされる遺伝子変異の機能的

意義の解析などの創薬へ向けた研究にも貢献できる。

(c)バイオバンク間の試料分散保存

バイオバンク相互の長期保存試料の分散保存を実現し、災害被害軽減の

ミラーサイトとしての役割を分担する。これにより、災害が多発する我が

国においても、長期に安定的なバイオバンク運営が実現する。

34

(d)疾患発症例の試料・情報

TMM 計画コホート調査参加者の疾患発症例について、TMM計画に関連す

る疾患バイオバンクとの連携を進め、県内基幹病院等の医療機関や MMWIN

等を介した医療情報と合わせて、疾患発症前後の試料と情報の利用が可能

となる体制の構築を目指す。これにより、発症前後の試料・情報の統合的

解析が可能となり、疾患バイオマーカー、遺伝子変異の浸透率、遺伝的要

因と生活習慣/環境因子との相互作用による疾患発症リスクの同定、その

リスクに応じた疾患予防法などの研究が進む。それらの結果は TMM 計画の

対象地域住民の健康管理にも利用される。

(e)コホート・バイオバンク連携への協力

二次利用可能な試料・情報の保管管理について、AMED を中心とするバ

イオバンク・コホート連携に協力し、TMM 計画に関連が深い疾患バイオバ

ンクや、国内主要前向きコホートとの協力を進める。これにより、国内の

生体試料品質の信頼性が向上し、複数の施設由来の液性試料を一括する大

規模解析が実現し、バイオマーカー等の研究の加速につながることが期待

される。

b.目標に向けた今後5年間の取組

上記の目標を達成するため、今後5年間に以下の取組を実施する。

(a)試料・情報の信頼性向上

TMM計画の試料・情報管理を継続しながら、ISO等のバイオバンクに関

する国際基準に適合した標準化された管理体制を構築する。

(b)細胞試料の利用可能性

外部資金の利用や共同研究を通して、TMM 計画の細胞試料が、iPS細胞

作成や、免疫学的解析などの最先端/新規の技術に対応できることを論文

等により明らかにし、情報発信する。

(c)バイオバンク間の試料分散保存

現在進行中の連携の経験をもとに、バイオバンク相互のミラーサイト保

管の体制構築を進める。

(d)疾患発症例の試料・情報

東北大学病院併設のバイオバンクと共同して、同バイオバンクの国際基

準等の取得に協力するとともに、TMM 計画コホート対象地域における疾患

試料(腫瘍組織等)保管業務に関する検討を行う。また、TMM計画コホー

ト調査の対象地域におけるバイオバンク構築についてはそのサポートを行

35

う。それらのバイオバンク保管試料の中から、TMM 計画コホート参加者に

由来する試料の情報を抽出するシステムを構築し、県内基幹病院等の医療

機関や MMWIN 等を介した医療情報の利用と合わせて、コホート参加者の疾

患発症前後の試料・情報の利用が可能となる体制の構築を進める。

(e)コホート・バイオバンク連携への協力

AMEDの取り組みに協力し、国内主要コホートや、TMM 計画に関連するバ

イオバンクとの間で、各々が保有する管理ノウハウ等を共有し、試料・情

報品質の標準化に貢献するとともに、国内の試料・情報を使った大規模解

析への対応を進める。

c.10年後の目標

上記の5年間の取組を基礎として更なる取組を行うことにより、10 年後

には以下を実現することを目指す。

(a)高品質試料・情報の提供

標準化された高品質の試料・情報を国内外に提供し、疾患リスク予測を

含む医学研究の発展と産業振興に貢献する。

(b)バイオバンクネットワークへの貢献

我が国のバイオバンクネットワークの中核的ハブの1つとして、国内機

関との連携を深め、標準化された一元的なバイオバンク管理体制の実現に

貢献する。

② 試料・情報利活用(分譲・共同研究等)

a.5年後の目標

TMM計画で収集した試料・情報については、TMM計画内で利用するのみでは

なく、広く国内の研究者コミュニティでも利活用を促進することを目的に、

2014年より試料・情報分譲を開始し、現在(2019 年3月末)に至るまで4

年間で延べ 22件の分譲が契約まで至っている。また、他の AMED 等の研究開

発事業等からの要請に従った TMM計画と親和性が高い共同研究についても、

2013年より現在(2019 年3月末)に至るまで6年間で 129件が契約まで至

っている。事業の進展に伴い、利活用の内容が高度化してきているので今後

は件数のみではなく利活用内容の更なる充実に注力する。例えば、2.3万人

のデータセットの利活用が始まり分譲1件当たりの情報量が約 20 倍以上に

なっている。このような事情のため、5年後の試料・情報利活用(分譲、共

同研究等)の目標としては、分譲、共同研究等の試料・情報分譲審査委員会

で審議・報告された件数として、合わせて 120件以上を目指す。

試料・情報の利活用が促進されることによる波及効果としては、下記を

36

想定している。

(a)国内のバイオバンク・コホート間連携

試料・情報の利活用が促進されることで、国内のバイオバンク・コホー

ト間の連携へとつなげることができる。これにより、わが国においてこれ

まで貴重な試料・情報を蓄積してきたバイオバンクの利用が加速されるこ

とが期待される。

(b)試料・情報利活用のワンストップサービス

試料・情報の分譲等の利活用のノウハウの蓄積が進む。これを国内バイ

オバンクと共有し、AMED ゲノム研究プラットフォーム利活用システム事業

等を通じて、試料・情報利活用のワンストップサービスの実現に役立て

る。

(c)大規模な臨床研究・開発

バイオバンク連携が強化されることにより、より大規模な臨床研究・開

発が国内でも可能になる。

b. 目標に向けた今後5年の取り組み

上記の目標を達成するため、今後5年間に以下の取り組みを実施する。

(a)ISO等の国際基準を踏まえた試料・情報の利活用

ISO等の国際基準に関する会合に積極的に参加し、国際基準での試料・

情報の取り扱いの簡便化・迅速化を踏まえた試料・情報の利活用を進める

ための方策を収集する。

(b)利活用手順の簡便化・迅速化を実現

現在進行中の AMED ゲノム研究プラットフォーム利活用システム事業等

の取組を通じ、試料・情報の利活用について他のコホート・バイオバンク

や国内主要前向きコホートとの連携を深化し、利活用手続きの簡便化・迅

速化を実現する。

(c)問い合わせのデータベースシステム管理

TMM計画への分譲・共同研究等の問い合わせについてはデータベースシ

ステムによる管理を導入し個別案件の進捗状況のリアルタイム把握を可能

にする。

(d)個別案件へのフレキシブルな対応

上記管理システムをフル稼働することにより個別案件へのフレキシブル

な対応を可能にする。

37

c. 10年後の目標

上記の5年間の取り組みを基礎として、さらなる取り組みを行うことによ

り、10 年後には以下を実現することを目指す。

(a)研究者コミュニティへ貢献

我が国のバイオバンクネットワークの中核的ハブの機能の1つとして、

さらに簡便で迅速な試料・情報利活用を実現し研究者コミュニティに貢献

する。

(b)ゲノム医療研究開発の加速

試料・情報利活用基盤の抜本的活性化により国内におけるゲノム医療研

究開発をさらに加速する。

③ 統合データベース

a.5年後の目標

複合バイオバンクにおけるデータバンクとして、一人ひとりのゲノム情

報、健康調査情報等の統合データベースを発展させ、ライフコースにわたる

リアルワールドデータ(RWD)の包括的なデータベース基盤を提供するととも

に、国内のバイオバンクネットワークを構築するため、以下の取組を行う。

(a)ライフコース統合データベースの構築と認証によるデータシェアリン

グの加速

これまでに構築してきたベースライン調査のゲノム情報、健康調査情報

の統合データベース dbTMM を基盤として、ライフコースにわたる診療情

報、オミックス情報、環境曝露情報等の RWD を集積する統合データベース

dbTMM2 を構築し、包括的な認証基盤に基づくアクセス制御により多因子疾

患等のゲノム医療研究開発へのデータシェアリングを加速させる。これに

より、ベースライン調査における健常人バイオバンクとしての役割と追跡

調査による疾患バイオバンクとしての役割を果たす。さらに、統合データ

ベースの技術を基軸として、ゲノム研究プラットフォーム利活用システム

の研究開発事業等を通じて、国内のデータベース・バイオバンクと連携

し、ゲノム情報や表現型情報等に関するデータシェアリングを推進し、オ

ールジャパンで大規模な統合解析を実現するための開かれた基盤構築を目

指す。国外のデータベース・バイオバンクとの連携についてもデータ共有

の枠組みを模索する。このとき、基盤構築に係る人材の交流を進めること

で、人材のネットワーク形成も推進する。

(b)構造化知識データベースの構築

dbTMM2 に集積された大規模なゲノム情報およびライフコースにわたる

38

RWDに基づくクラスタリング、機械学習により、ゲノム医療研究開発に資

する構造化知識データベース kbTMM2を構築する。これにより、多因子疾

患等のゲノム医療研究開発へのナレッジシェアリングが円滑に実施され

る。

(c)バイオバンクネットワークの構築と運用

AMEDゲノム研究プラットフォーム利活用システム事業等を通じて、3大

バイオバンク及び診療機関併設型バイオバンクの保有試料・情報の横断検

索システムと、試料・情報の利活用を一括してコーディネートする機能を

有するバイオバンクネットワークを構築し、運用を開始する。これにより

バイオバンクの利活用が一層促進される。

(d)クリニカルシークエンスや高次の診療情報の利活用

診療機関併設型バイオバンク(クリニカルバイオバンク)や疾患レジス

トリとの緊密な連携により、クリニカルシークエンスや高次の診療情報の

利活用の様態を検討し、未来型医療創成のための基盤形成を図る。

b.目標に向けた今後5年間の取組

上記の目標を達成するため、今後5年間に以下の取組を実施する。

(a)ライフコース RWDの統合データベース dbTMM2(dbTMM2)の開発

ベースライン調査のゲノム情報、健康調査情報に加えて、ライフコース

にわたる RWD の診療情報、中間表現型のオミックス情報、環境曝露情報等

を収載する dbTMM2 を開発し、運用する。環境曝露情報や健康情報につい

ては、スマートフォンなどの既に普及しているデバイスや最先端のデバイ

ス、PHR を利用した新しい収集に対応する。

(b)高次の RWDの診療情報の利活用

RWDの診療情報の利活用を促進するため、県内基幹病院等の医療機関や

MMWINと連携して、病院連携システムを強化し、SS-MIX2 の拡張ストレー

ジ等を通じて、より高次の診療情報を利活用し病態分類するシステムを開

発し、運用する。また、病型分類にあたっては、各学会の診断ガイドライ

ン等によるルールベース、機械学習ベースの病型分類(フェノタイピン

グ )のアルゴリズムを開発する。このとき、診療情報のみならず、ゲノ

ム・オミックス情報を用いて、最新の病態分類(フェノタイピング)技術

により病態分類やクラスタ分類を行う。また、時系列の診療情報とアウト

カムに基づく病態分類を行う。この他、リンケージ情報の利活用の強化に

取り組む。

39

(c)包括的な認証基盤によるデータアクセス制御

GA4GHの取組を参考にしつつ、データのアクセス制御のための包括的な

認証基盤と、これに基づくアクセス制御が可能な dbTMM2 を開発し、運用

する。バイオリソースクラウドの計算機リソース上での、ユーザ認証に基

づくデータアクセスによりデータシェアリングが加速する。

(d)ライフコースデータに基づく機械学習による構造化知識データベース

(kbTMM2)の構築

ライフコースデータに基づくクラスタリング、機械学習の機能を開発

し、既存の文献知識やデータベースとあわせて、ゲノム医療研究開発に資

する kbTMM2 を構築する。

(e)バイオバンクネットワークの構築と試料・情報の利活用の一括コーデ

ィネート

AMEDゲノム研究プラットフォーム利活用システム事業等を通じて、バイ

オバンクネットワークの保有試料・情報を横断検索するシステムを開発・

運用し、バイオバンクネットワークを構築する。また、バイオバンク横断

検索システムと連携して、試料・情報の分譲申請を一括してコーディネー

トする試料・情報分譲受付システムを開発し、運用する。将来的に、構築

したバイオバンクネットワークを広げて、わが国のバイオバンク連携の拡

大やコホート連携へ寄与する。

(f)追跡調査における疾患バイオバンクの形成

追跡調査において、診療機関併設型バイオバンク(クリニカルバイオバ

ンク)や疾患レジストリとの緊密な連携により、医療機関を受診した患者

の高次の診療情報や疾患サンプル、その解析情報及び疾患レジストリの患

者登録情報を収集し、利活用する基盤の形成を図る。

c.10年後の目標

上記の5年間の取組を基礎として更なる取組を行うことにより、10 年後

には以下を実現することを目指す。

(a)Learning Health System の構築

ライフコースにわたる統合データベースと、データから得られた知識を

集積する構造化知識データベースをリンケージした、Learning Health

System を構築し、D2K (Data to Knowledge)を加速して、他事業の知識デ

ータベースとの統合的な知識の利活用のスキームを構築する。

40

(b)バイオバンクネットワークの高度化

バイオリソースクラウドを基盤として、バイオバンクネットワークを高

度化する。

④ 計算機インフラ

a.5年後の目標

複合バイオバンクにおけるデータバンクの基盤となる計算機インフラを持

続可能な形で維持することはきわめて重要なことである。TMM計画では、こ

の基盤としてスーパーコンピュータシステムを構築し運用している。これま

で、Phase0, Phase1, Phase2 とシステムの設計と構築及び運用とシステム

更新を続けてきた。これらスーパーコンピュータシステムを核として、徐々

にデータ解析のためのインフラから機微性の高いデータの共有のためのイン

フラとして発展してきたが、次期計画での目標である多因子疾患でもリスク

回付に向けた取り組みを強化するためには、機微性の高いビッグデータに対

応できる共有モデルを確立し、実装・運用する必要がある。そこでインフラ

整備としては 5年を目処に以下の取組を行う。

(a)バイオリソースクラウド構築

欧米での事例を見ると、データ共有のインフラとしてオンプレミス(自

主運用型)の計算機からクラウドへの移行は避けては通れない。その一方

で、各国の事情に応じて、具体的な対応は分かれている。米国では、国内

に強い商用のクラウドベンダーが存在するため、それを活用した基盤形成

が進んでいる。一方、欧州では自国のクラウドベンダーとして適切なもの

がないため、研究機関が独自の計算機を持ち、それらをつなぐ形でクラウ

ドが形成されている。日本の状況は欧州の状況と似ており、同様の取り組

みが有効であると考えられる。具体的には、国内の複数(3カ所以上が望

ましい)の研究機関をまたぐ形でクラウド環境(以下、バイオリソースク

ラウドと呼ぶ)を連携先と共同で開発し、全国の研究者に提供することを

目指す。バイオリソースクラウドでは、ゲノムや健康調査情報など機微性

の高いデータの共有をする必要があるため、通常のクラウド環境とは異な

る要件が多く存在する。そこで、次期計画の初期においてはインフラとし

て必要な要件の整理と実証実験も行いながら、システムの整備を進める必

要がある。この際、誰が・どのデータにアクセスして良いのかどうかを定

義することが肝要であるが、このためには「誰が」を決める認証システム

を合わせて開発していくことが必要である。

(b)国際連携推進

一つのバイオバンクでできることは限られており、次期計画の目的達成

には、バイオバンク間の連携が必須である。バイオリソースクラウドが日

41

本のゲノム医療推進の情報基盤となるためには、規格を標準化し、日本国

内での機微性の高いデータのシェアリングの基盤としての発展を目指すだ

けでなく、GA4GHのような世界の流れとも連携を進めることも重要であ

る。特に、認証システムや情報利活用の仕組みは、国際的な標準の動向も

見ながら、先導的に設計・開発を進める必要がある。

b.目標に向けた今後5年間の取組

上記の目標を達成するため、今後5年間に以下の取組を実施する。

(a)バイオリソースクラウド構築

必要な要素の一つである認証に関しては、欧州の Elixir などの取組も

参考に、複数の日本国内の生命科学系スパコンと具体的な連携を行い、要

件定義と開発を進め、バイオリソースクラウドの構築を行う。最初は2つ

の研究機関をつなぐ形で、課題の洗い出しや必要な要素技術の開発を行い

ながら、3カ所目への展開を進める。この際、解析の基盤だけ独立するの

ではなく、バイオバンク・統合データベースとも認証基盤や仕様を共通化

させ、試料利活用から情報とそれを管理するデータベースまで、複数のバ

イオバンクで一貫した利活用ができるシステムを構築する基盤となること

が重要ある。また、これらの基盤を支える人材の育成と人材の交流を行う

ことで、人材のネットワーク化も推進する。これにより、複数のバイオバ

ンクに渡ってデータの利活用のハードルを下げることで、次期計画の目的

達成を下支えすることが重要である。

(b)国際連携推進

データ共有は、機微性の高いゲノムデータが大規模になってきたことで

様相を変えている。以前は、データをコピーしてお互いに持ち合うことが

共有であったが、データサイズが大きくなると、コピーが容易でないため

コストがかさむ。また、機微性の高いデータをコピーすることで、データ

漏洩のリスクも高まる。そこで、GA4GH を始めとして、多くの研究機関に

おいて「データをコピーすることなくアルゴリズムの共有によるデータ共

有」を模索しており、有望な方向性だと考えられている。まだ規格など定

まっていない部分も多いが、世界の流れを十分に踏まえた形で、バイオリ

ソースクラウドの開発を先導的に行うことで、日本国内のバイオバンク連

携はもとより、将来的には世界でのバイオバンク連携にも活用できる基盤

となることを目指す。

c.10年後の目標

上記の5年間の取組を基礎として更なる取組を行うことにより、10 年後

には以下を実現することを目指す。

42

(a)バイオリソースクラウド構築

5年後にはバイオリソースクラウドのプロトタイプの実装を終えるとと

もに、複数の研究機関での実運用を通じて、さらなる課題の洗い出しを行

うことで、ゲノム医療推進のためのバイオリソースクラウドを確立する。

さらに、先進的なアドオンコホートを柔軟に実施できる情報基盤となると

ともに、医療情報が画像データなども含めて多種多様になることにも柔軟

に対応し、日本全体のバイオバンクのインフラ連携の基盤となる。

(b)国際連携推進

基本的に国内のバイオバンクネットワークのための基盤として設計・運

用を進めていくが、国際的なバイオバンク連携も視野にいれた開発を連携

しながら進めていく。その結果は常に国際的にもフィードバックを行い、

ワールドワイドなバイオバンク連携にも資する。そのためには、バイオバ

ンククラウドで開発したシステムは広く公開し、積極的に世界標準の一翼

を担うことも目指す。

(3)ゲノム・オミックス解析

a.5年後の目標

個別化予防・ゲノム医療の実現のためには、ゲノム多型が健康に与える影

響を詳細に解析する必要があり、そのための基盤となる精密なゲノム情報を

収集・解析する必要がある。また加齢や生活習慣等が健康に与える影響を詳

細に明らかにすることもリスク予測には重要であり、そのためには各個人の

表現型の経時変化を分子レベルで明らかにできるオミックス解析が重要とな

る。このため TMM 計画ではこれまでに5千人以上の全ゲノム解読を行い日本

人全ゲノム参照パネルを構築するとともに、その情報を活用したジャポニカ

アレイを開発してコホート参加者 11万人以上のゲノム情報を取得してき

た。また1万人以上のメタボローム解析を実施するなど各種オミックス解析

を進め、その成果を元に日本人多層オミックス参照パネルを構築し、広く一

般に公開することで全国の個別化予防・ゲノム医療研究のための基盤を提供

してきた。

次期計画ではこれら TMM計画のゲノム・オミックス解析基盤をさらに深化

させることで、ゲノム・オミックス情報に基づいたリスク評価を個々の参加

者に返却可能な精度で実施するために必要な一般住民コントロールデータを

確立し、個別化予防・ゲノム医療の実現のための基盤として広く内外の研究

者に提供することをめざす。

そのために、コホートで収集している試料・情報、及びバイオバンクで構

築した細胞試料を効率的に活用し、これまで実施してきた各解析を大規模化

させると同時に、技術の発展等に伴い新たに取得可能となったデータを補完

43

した、包括性の高い情報基盤を構築・提供する。また、国内外のバイオバン

クとゲノム・オミックス情報や表現型情報等に関するデータ共有の仕組みを

模索し、オールジャパンで大規模な統合解析を実現し多因子疾患のリスク推

定を先駆けて実現することを目指す。具体的には以下のような取り組みを行

う。

(a)全ゲノム解析

マイクロサテライトやリピート配列挿入などの構造多型が、多くの疾患

に関与しており、それらが GWASで効果的に同定されつつある。このよう

な構造多型を対象とした日本人のゲノム解析の基盤を作成するため、短鎖

シークエンス解析が完了している対象者を中心に 8 千人規模の長鎖シーク

エンス解析を実施する。これにより、マイナーアレル頻度(MAF)が 0.1%

程度までカバーできる「追跡可能な日本人一般集団を対象とした構造多型

リファレンスパネル」を構築し公開する。これにより、一般住民コントロ

ールデータが強化されるとともに、一塩基多型(SNV)だけでは評価でき

ないリスク評価が可能となる。

(b)アレイ解析

これまでに取得されたコホート参加者 15 万人以上のアレイ情報を活か

しつつ、TMM計画の追加リクルート検体、並びに外部機関との連携による疾

患検体のジャポニカアレイ解析を行い、疾患発症リスク予測の精度向上に

貢献する。また産業界等とも連携しながら、リスク予測の結果回付に向け

た遺伝要因の解析のための「健診用ジャポニカアレイ」の開発を行う。さら

に検証実験を経て、予防のための行動変容や早期治療に資するリスクスコ

アの回付が可能なアレイを開発し順次改良を重ねながら社会実装する。

(c)メタボローム解析

血液中の代謝プロファイルは各個人に対する遺伝・環境要因の影響を最

もよく反映する指標であり、加齢や生活習慣等の影響をはかる上でも重要

なマーカーとなる。このため TMM計画ではこれまでに 1万人以上のコホー

ト参加者の血漿メタボローム解析を実施し、リファレンスパネルとして公

開してきた。次期計画ではメタボローム解析をさらに大規模に実施し、遺

伝要因・環境要因の包括的なリスク評価に貢献する。具体的にはまずベー

スライン調査 15万人のメタボローム測定を完了させ、コホート参加者を

分子レベルで層別化するとともに、追跡調査参加者の試料の解析を大規模

化することで個人の健康の経時変化を詳細に解析し、リファレンスパネル

として全国の研究者に提供する。さらにこれらメタボローム情報を

MGWAS(Metabolome Genome Wide Association Study)解析を含めた各種関

連解析情報を実施し統合することで、遺伝要因・環境要因の包括的なリス

44

ク予測モデルの完成に貢献する。

(d)トランスクリプトーム解析

未診断疾患等のゲノム解析では、発現 Quantitative trait locus

(QTL)、スプライシング QTL の機能解釈が課題の一つとなっている。この

ため大規模な遺伝子発現解析を実施し、トランスクリプトームのリファレ

ンスパネルとして、変異の機能評価、及び解釈の難しい変異の意義付けを

促進させる。この情報は希少疾患やがんのゲノム医療の研究開発の推進に

非常に大きく貢献することが予想される。またこの結果を生物学的に影響

のある変異の絞り込みに活用することで、リスク評価精度の向上を目指

す。

(e)DNAメチル化解析

DNAメチル化解析については、東北メディカル・メガバンク機構が構築

した出生三世代コホートが世界最大の三世代家系員の参加者を有してお

り、妊娠中の生活習慣が児の疾患発症に影響を与える DOHaD仮説の証明の

ために必須であることから世界的に着目されている。そこで、臍帯血を含

む 2千例の解析を実施し、エピゲノムリファレンスとして全国の研究者に

提供するとともに、ゲノムだけでは説明が出来ない親子間での環境要因の

継承を検証する。また得られた解析結果のリスク予測への組み込みを検討

する。

(f)その他のゲノム・オミックス解析

ゲノム・オミックス解析技術は日々進歩しており、新たな解析法により

従来得られなかった新しい情報や詳細な情報を得られる可能性がある。こ

のため次期計画では、アプタマー等に代表される最新の分析技術について

も常に注意深く検討を行うことで、リスク予測の継続的な精度向上に努め

る。また最新の成果を適宜取り入れることでバンクとしての機能の向上に

努める。

b.目標に向けた今後 5 年の取り組み

上記の目標を達成するため、今後5年間に以下の取組を実施する。

(a)全ゲノム解析

コスト、スループットの点で最適と判断される長鎖リード技術を選択

し、解析ノウハウ・情報解析技術を他研究施設とも共有・連携しながら8

千人規模の解析を実現させて、構造多型リファレンスパネルを構築し公開

する。また、追跡調査で出てきた表現型の短鎖リード解析も行い、ゲノム

によるリスク予測の精度向上のための基盤強化を進める。

45

(b)アレイ解析

第2段階までに取得する 15万人以上のアレイデータに加えて、追加リ

クルート検体、及び外部機関と連携した疾患検体のジャポニカアレイデー

タを取得、遺伝子型インピュテーションによる疑似全ゲノム解読を実施

し、疾患発症リスク予測の精度向上に貢献する。またリスクスコアの回付

に向けて、産業界とも連携して日本人のリスク評価に最適な一連の搭載バ

リアントを選定し、「健診用ジャポニカアレイ」を設計、開発する。さら

に開発したアレイの精度検証を実施し、社会実装に向けた要件を検討し課

題を解決することによりこれを実現する。

(c)メタボローム解析

メタボローム解析では、これまでの解析で十分に実績のある高スループ

ットで定量性に優れた核磁気共鳴(NMR)法を用いてコホート参加者 15万

人の解析を完了させコホート参加者を分子レベルで層別化するとともに、

解析対象代謝物を拡張した質量分析(MS)法による標的定量解析を実施

し、疾患に関わる様々な代謝物を精度よく定量する。また追跡調査参加者

の試料の解析も本格的に実施し、加齢や生活習慣の変化に伴う代謝プロフ

ァイルの変化の個人差を明らかにする。以上の結果をもとに疾患関連マー

カーの同定・検証を進めつつ、他コホートでの検証も行いながらリスク予

測モデルの精度向上に貢献する。また解析結果を順次公開し、オールジャ

パンで疾患関連マーカーを見いだす基盤を構築する。

(d)トランスクリプトーム解析

健常人のトランスクリプトームリファパネルとして活用されるデータを

取得するため、利用可能な細胞試料(全血、不死化 B細胞、増殖 T 細胞、

分画した細胞系列)から、発現 QTL 解析、スプライシング QTL 解析など目

的に応じて最適な試料を選択していく。また、各種疾患研究プロジェクト

との連携において、試料・手法を選択できるオンデマンドな解析体制を構

築していく。技術的な点としては、非典型スプライシングの検出を視野

に、長鎖リードによる RNA 解析も検討する。さらに 3' mRNA-Seq などの遺

伝子単位での発現量に限った廉価な手法を検討することで、コホートスケ

ールの大規模なトランスクリプトーム解析を実現する。これら解析によっ

て得られた遺伝子発現制御に対する機能アノテーション情報は、順次、ゲ

ノム情報と合わせた形で公開していく。

また以上の結果を活用してゲノムだけでなく遺伝子発現情報と疾患発症

の大規模関連解析を実現し、他コホートとも連携しながらコホート内罹患

者の情報から絶対リスクや進行度との関連解析の実現を目指す。

46

(e)DNAメチル化解析

国内外で報告されるエピゲノム解析のための新規手法を積極的に取り入

れるとともに、ゲノム・エピゲノム相互作用解析、トランスクリプトーム

情報も利用した eQTM(expression quantitative trait methylation)解

析、TAD(topologically associating domain)情報と RI(reference

interval)を利用した効率的エピゲノム解析などにより、エピゲノム情報

を利用した疾患発症リスク予測モデルの開発に貢献する。

(f)その他のゲノム・オミックス解析

アプタマーや抗体 PCR など最新の技術を随時検討し活用することで、血

中タンパク質のプロテオーム解析等新たな解析の可能性を検討する。また

多層オミックスの統合解析を進めることで各種遺伝環境要因が人の表現型

に与える影響を明らかにすると共に、リスク予測モデルの精度向上に貢献

する。最終的にリスク予測の精度向上を他コホートとも連携することで検

証することを目指す。

c.10年後の目標

上記の5年間の取組を基礎としてさらなる取組を行うことにより、10年

後には以下を実現することを目指す。

(a)ゲノム解析

SNPや構造多型に対して、包括的な機能アノテーション情報を整備して

いく。またリスク予測の精度向上に合わせて健診用ジャポニカアレイを改

良し、ジャポニカアレイ解析と遺伝子型インピュテーション技術を組み合

わせたリスク予測結果の回付を実現する。

(b)メタボローム解析

メタボローム解析では収集される追跡調査参加者のサンプルの解析を継

続して実施し、加齢変化や各種疾患マーカーを詳細に明らかにするととも

に、環境要因が表現型に与える影響を明らかにし、提供していく。また引

き続き他コホートとも連携することで上記の成果を検証する。

(c)トランスクリプトーム解析

トランスクリプトーム解析についても解析技術の発展を見極めながら、

非コード RNA 等の量的変化や RNAの修飾状態等も解析対象として、より包

括的なトランスクリプトームデータの取得を目指す。また ChIP シークエ

ンス等のレギュロームデータを融合した先進的な RNA解析を実装し、ゲノ

ム情報の発現に関与する遺伝・環境要因の包括的な理解を目指す。並行し

47

て追跡査参加者のサンプルの解析を継続して実施し、疾患関連マーカーの

探索に資するデータを提供する。

(d)DNAメチル化解析

三世代コホート参加児の長期間追跡情報と臍帯血の大規模解析により、

若年期に発症する疾患と母体内環境の関連解析が実施できるデータセット

を提供し、ライフコース研究に資する。またコホート内発症者の発症前後

試料を用いた比較解析により、疾患発症リスク予測モデルの精度向上を図

る。

(e)その他のゲノム・オミックス解析

以上のゲノム・オミックス解析にとどまらず、技術開発の進展に伴い利

用可能になる先進的なゲノム・オミックス解析に関しても積極的に評価を

行い、リスク予測モデルの精度向上に資するものに関しては、コホートス

ケールでの実施が行えるように方法の開発を進めることで、不断の精度向

上を目指す。

(f)ゲノム・オミックス解析情報を活用したリスク評価

現在世界的にオミックス情報を基にした個々人のリスク評価は実現して

いない。これは環境情報や相互作用情報の不足、情報学的手法の未整備が

主因と考えられている。そこで上記のデータを活用してリスク予測の精度

向上を実現し、医療現場や健診現場でのリスク回付・遺伝情報回付に資す

るエビデンス提供を行う。これにより真に個別化された医療・予防の一端

が実現する。

(4)地域医療支援

a.5年後の目標

東日本大震災後の医療体制の支援を主目的に行ってきた地域医療支援事業

の枠組みを活かし、最先端研究で創出された個別化予防・ゲノム医療に向け

た成果をいち早く地域医療の現場に還元できる基盤構築を目指すため、以下

の取組を行う。

(a)自治体とのさらなる連携体制構築

宮城県においては、自治体との更なる連携により、2024 年より開始する

第8次宮城県地域医療計画策定への協力を進め、沿岸部を中心とした医療

過疎地域等への医師派遣を継続する。また、地域医療情報の共有のため、

派遣医師や自治体との連絡会議を実施する。岩手県においても自治体との

更なる連携により各自治体の健康づくり施策、沿岸部を中心とした医療過

疎地域等への支援を継続する。また、地域医療情報の共有のため、派遣医

48

師や自治体との連絡会議を実施する。

(b)コホート研究の精度向上への参画と個別化医療の実現

臨床分野の専門医の立場からコホートにおけるアウトカムの病態分類精

度向上に貢献する。また、家族性高脂血症、単一遺伝性疾患、PGx、成育

関連疾患等における個別化予防・ゲノム医療の臨床応用への基盤開発を支

援する。

b.目標に向けた今後5年間の取組

上記の目標を達成するため、今後5年間に以下の取組を実施する。

(a)自治体とのさらなる連携体制構築

自治体の第7次医療計画の具体化に積極的に参画するとともに、次期医

療計画の策定段階にコミットする。

(b)コホート研究の精度向上への参画と個別化医療の実現

TCFの所属する診療科とのより緊密な共同研究の拡大を目指す。

c.10年後の目標

上記の5年間の取組を基礎として更なる取組を行うことにより、10 年後

には以下を実現することを目指す。

(a)自治体とのさらなる連携体制構築

直近5年間の派遣実績を再検討し、その時点での地域の状況変化に柔軟

に対応した医師派遣基盤を維持する。

(b)コホート研究の精度向上への参画と個別化医療の実現

コホートのアウトカムの診断精度向上および再検証を進め、成果を自治

体に還元する基盤を構築する。家族性高脂血症、単一遺伝性疾患、PGx、

成育関連疾患等の多因子疾患に対するリスクスコア回付を通して、個別化

予防・ゲノム医療の臨床応用を実施する。

(5)遺伝情報等の回付

a.5年後の目標

個別化予防実現のための先導モデルとして取り組んできた遺伝情報回付パ

イロット研究の範囲・規模を拡大するとともに、遺伝要因・環境要因及びそ

の交互作用をもとにした疾患リスク予測を回付することを試行し、広く一般

住民が遺伝情報を健康向上・疾患予防に役立てることのできる社会に向け

た、基盤構築に貢献するため、以下の取組を行う。

(a)遺伝情報回付パイロット研究とステークホルダー(医療関係者)への

49

意識調査の完遂

2016年から開始しているパイロット研究(治療対応できる単一遺伝性疾

患の遺伝情報:家族性高コレステロール血症、PGx 遺伝情報、遺伝性腫瘍

の個人への回付、遺伝情報を利用した個別化医療・予防に関わるステーク

ホルダー(医療関係者)への意識調査)の完遂と解析・評価を行う。

(b)単一遺伝性疾患(腫瘍等)と PGx に関する遺伝情報の返却と医療への

橋渡し

引き続き、その時点の我が国の医療状況にかなう、治療対応可能な単一

遺伝性疾患(腫瘍等)の遺伝情報と PGx に関する遺伝情報の個人への返却

と医療への橋渡しを継続、大規模化する。

(c)多因子疾患のリスクスコアの回付に関するフィージビリティ研究

生活習慣病(糖尿病・高脂血症・循環器疾患など)の多因子疾患のリスク

スコア ((Polygenic Risk Score を含む)の回付に関するフィージビリテ

ィ研究を行う。

b.目標に向けた今後5年間の取組

上記の目標を達成するため、今後5年間に以下の取組を実施する。

(a)パイロット研究の継続とエビデンスの生成

パイロット研究(治療対応できる単一遺伝性疾患の遺伝情報の個人への

回付、医療関係者への意識調査)を継続・完結させ、データ集計・解析と

論文化を行い、エビデンスを生成する。

(b)単一遺伝性疾患、PGx、多因子疾患の遺伝情報返却のシステム設計

我が国のゲノム医療の動向を把握しながら,我が国のゲノム医療のステ

ークホルダーとの連携を図り,単一遺伝性疾患、PGx、多因子疾患の遺伝

情報の、個人への返却のためのシステム設計を行う。治療対応可能な単一

遺伝性疾患(腫瘍等)の遺伝情報と PGx に関する遺伝情報の個人への返却

と医療への橋渡しを行う。

(c)多因子疾患のリスクスコアの検討と、フィージビリティ研究の遂行と

解析、論文化

多因子疾患の遺伝要因に関する研究のシステマティックレビューを行っ

た上で、リスクスコア(Polygenic Risk Score を含む)の検討を行い、リ

スクスコア返却のフィージビリティ研究を遂行し、データ収集・解析と論

文化を行う

50

c.10年後の目標

上記の5年間の取組を基礎として更なる取組を行うことにより、10 年後

には以下を実現することを目指す。

(a)大規模に多因子疾患のリスク結果回付を社会実装するための基盤形成

前述の単一遺伝性疾患の回付のノウハウと、コホート調査、およびゲノ

ム・オミックス解析から生成される多因子疾患のリスク予測の開発を受

け、その時点での我が国の医療の状況も鑑み、大規模な多因子疾患のリス

クの結果回付を社会実装するための基盤を作る。

(b)遺伝情報をオンデマンドで医療機関へ提供する仕組みの構築

格納されている個人の遺伝情報をオンデマンドで、EHR(電子カルテ)

上で医療機関へ提供する仕組みの構築を検討する。

(6)人材育成

a.5年後の目標

TMM計画実施に係る人材育成に加え、我が国の個別化予防・ゲノム医療の

実現に貢献する人材を全国に輩出できる教育・育成体制を整備するため、以

下の取組を行う。

(a)OJTによる人材育成を通じた事業実施の体制整備

GMRC、データマネージャー、バイオバンク管理者、バイオインフォマテ

ィクス人材等の OJT等による育成を行う。

(b)大学院等における専門人材の養成

コホート調査の設計・実施、バイオバンクの管理・運営に携わる研究者

のキャリア形成のシステム構築を検討することに加え、それらの人材の養

成と、ゲノム・オミックス・表現型を含む情報解析等、分野融合的な研究

に対応できる人材を育成することが可能な大学院を整備し、専門人材の教

育を開始する。

b.目標に向けた今後5年間の取組

上記の目標を達成するため、今後5年間に以下の取組を実施する。

(a)OJTによる育成及び大学院との連携を通じた事業実施の体制整備

GMRC、データマネージャー、メディカルインフォマティクス人材等は、

両機構における OJTを中心とした育成を実施していく。認定遺伝カウンセ

ラーやバイオインフォマティクス人材についても、これまでと同様に大学

院における教育と連携した育成を実施する。

51

(b)大学院における新規研究科の設立

我が国におけるゲノム医療研究やその実装を牽引する人材養成につい

て、TMM 計画の実施により培われたノウハウを活かして、包括的かつ体系

的な教育が可能な大学院の体制整備を目指す。このため、欧州の大学院バ

イオバンク専攻課程等における教育体制等を参考にし、生命科学に加え、

試料・情報の管理技術、品質管理、倫理・法令等に精通した専門人材の輩

出に向けて、既存の研究科と連携し、包括的な知識・技術の習得が可能な

分野融合的な教育・育成を実施する。これにより修士・博士課程を合わせ

て年間5名程度のコホート調査、バイオバンク管理、ゲノム・医療情報解

析等に精通した専門人材が育成され、研究や社会実装の現場で活躍する人

材としてのキャリアパス形成が進むことが期待される。

また、コホート調査の運営ならびにバイオバンクの管理・運営に従事す

る研究者に対する評価体制を検討し、バイオバンクの管理・運営等、個別化

予防・ゲノム医療の実現に従事する専門職の育成や、その確立のための国

家資格化等への取り組みを行う。これらの取り組みにより、優秀な人材が

継続的に雇用され、コホート調査の継続的な実施やバイオバンクの恒常的

な運営が可能となることが期待される。

c.10年後の目標

上記の5年間の取組を基礎として更なる取組を行うことにより、10 年後

には以下を実現することを目指す。

(a)大学院教育を通じた恒常的な専門人材の育成

OJTによる育成のみならず、大学院における包括的な教育を通じて、ゲ

ノム医療研究、及びその社会実装に必要な専門人材を恒常的に育成し、全

国に輩出する。

(7)外部連携

① 国内の研究機関や産業界等との連携

a.国内のコホートとの連携

大規模化による発症率の少ない疾患のリスク予測を早期に可能とするこ

と、及び相互に結果を検証することを通じて、国民に対してより正確な成果

還元を行うため、全国のコホート研究と連携を進めるとともに、調査方法・

検体管理など共有化が可能になるよう情報交換を進める。

また、国内の既存の国内出生コホート等との連携を推進する。TMM 計画が

連携のコアの一つとして、経費の支援を前提に事務局の設置や国内コホート

の情報収集と共通項目の洗い出し、既存データの統合実務と今後の各コホー

ト調査における追跡調査の精度管理と効率化、さらに相乗効果の創出に取り

組む。

52

さらに、国内の研究コミュニティの発展のため、クロスアポイントメント

制度の活用、東北大学大学院医学系研究科等との連携により疫学の人材育成

を行う。

b.国内のバイオバンクとの連携

災害が多発する我が国においても長期に安定的にバイオバンクを運営する

ため、これまでの連携の経験をもとに、バイオバンク相互の長期保存試料の

分散保存を実現するためのミラーサイトの体制構築を進める。

また、我が国のバイオバンクネットワークの中核的ハブの1つとして、国

内機関との連携を深め、希望に応じて、本計画が保有するノウハウを提供す

るなどにより、標準化された一元的なバイオバンク管理体制の実現に貢献す

る。特に、本計画参加者の疾患発症例について罹患前後の試料・情報を利用

できるようにするため、二次利用可能な試料・情報の保管管理について、本

計画に関連する疾患バイオバンクや国内主要前向きコホートとの連携などに

より、複数の施設から均質な形で提供できる体制の構築に向けて取り組む。

さらに、試料・情報提供の利便性を向上させるため、AMED によるバイオ

バンク連携の取組に協力するとともに、TMM 計画の倫理委員会についても外

部機関課題の審査が行える体制を整備し、研究者への試料・情報提供を一括

して行える体制の構築を目指す。

c.産業界との連携

対面型詳細調査を継続することでアドオンコホートの基盤となり、産業界

の求める検査情報を加えることが可能になる。大多数の参加者に最先端のデ

バイスを積極的に導入するなど、生活習慣・環境要因のより正確な評価を目

指す。これらの情報は遺伝要因(Polygenetic Risk Score を含む)・環境要

因・生活習慣・メタボローム情報等を用いた疾患発症リスク予測式にも活用

される。これらの成果は産業界にも活用してもらうことで、創薬等社会実装

につなげる。

② 海外との連携

a.海外のコホートとの連携

海外コホート連携に関しては、第2段階までに築き上げてきた相互の信頼

関係を基に個別のコホートと連携を深めるとともに、コンソーシアムへの参

画を積極的に行う。

b.計算機インフラに関する海外との連携

複合バイオバンクの計算機インフラが日本のゲノム医療推進の基盤となる

ために、GA4GHなどの世界の流れとも連携を進め、データをコピーすること

53

なくアルゴリズムの共有によるデータ共有を実装する。

(8)知財・倫理・広報

3.で述べた次期バイオバンクの目指すべき方向性をもとに、本節の(1)~

(7)にある各種の活動を、知財・倫理・広報の側面から支援を行っていく。

●達成すべき目標とそれに向けた取組

知的財産面においては、特に①疾患・遺伝環境リスク予測について得られるこ

とが予測される成果を状況に応じて知的財産として成立させるような体制を整え

ること、②国内外のコホート・バイオバンク連携が円滑に遅滞なく進むように知

的財産面・契約面での整備を行うこと、③TMM 計画で得られた成果がより広く産

業界での利活用を進められるようにすること、を目標として各事業に取り組んで

いく。

倫理面においては、①個別化予防・ゲノム医療の実現に向けて、遺伝・環境リ

スク予測を個人に回付することにおける倫理的法的社会的(ELSI)課題の抽出を

行い、研究の進捗に備えること、②すべてのライフコースにおけるデータ取得等

を実現する上での ELSI 課題の抽出を行うこと、③国内外のコホート・バイオバン

ク連携の推進に向けて ELSI 面でのハーモナイゼーションの支援を行うこと、を目

標とし各事業に取り組んでいく。

広報面においては、①個別化予防・ゲノム医療の実現に向けて、事業を進める

宮城県・岩手県を中心とした一般住民等とのコミュニケーションを促進するこ

と、②さまざまなライフコースデータを収集していくために関係するステークホ

ルダーとの調整・交渉等を行うこと、③国内外のコホート・バイオバンクとの連

携を進めるための渉外・広報活動を推進すること、④産業界との連携促進を進

め、バイオバンクの利活用促進を行うこと、⑤コホート調査をもとにした地域住

民の健康に関係する成果の地域への還元を促進すること、を目標とし、各事業に

取り組んでいく。

知財・倫理・広報いずれの面においても、TMM計画の多様な取組が我が国の状

況を先導するものとなることから、特に新規の試みを開始するにあたっては、さ

まざまなステークホルダーが存在する社会との対話を重視していく。また個別化

予防・ゲノム医療をめぐる対話の場の構築にも注力していく。

54

( 参 考 資 料 )

55

次期バイオバンク事業の在り方に関する合同検討委員会

◎榊 佳之 学校法人静岡雙葉学園理事長

武林 亨 慶應義塾大学医学部・大学院健康マネジメント研究科教授

中釜 斉 国立研究開発法人国立がん研究センター理事長

木川 隆則 国立研究開発法人理化学研究所生命機能科学研究センターチームリーダ

境田 正樹 国立大学法人東京大学理事・弁護士

高木 利久 国立大学法人東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻教授

髙橋 達也 宮城県保健福祉部次長(技術担当)

堤 正好 株式会社エスアールエル

徳永 勝士 国立大学法人東京大学大学院医学系研究科教授

野原 勝 岩手県保健福祉部副部長、技監

増井 徹 慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センター教授

宮田 満 株式会社宮田総研代表取締役、株式会社日経 BP社医療局アドバイザー

山本 雅之 国立大学法人東北大学東北メディカル・メガバンク機構機構長

青木 孝文 国立大学法人東北大学理事・副学長(企画戦略総括担当)

八重樫 伸生 国立大学法人東北大学副学長(病院経営担当)・病院長

佐々木 真理 岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構機構長

小笠原 邦昭 岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構副機構長・病院長

敬称略

◎は委員長

56

複合バイオバンク・基盤解析小委員会

〇中釜 斉 国立研究開発法人国立がん研究センター理事長

木川 隆則 国立研究開発法人理化学研究所生命機能科学研究センターチームリーダ

小崎 健次郎 慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センター長・教授

高木 利久 国立大学法人東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻教授

徳永 勝士 国立大学法人東京大学大学院医学系研究科教授

中村 春木 大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立遺伝学研究所特任教

夏目 徹 国立研究開発法人産業技術総合研究所創薬分子プロファイリング研究

センター長

花川 隆 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター脳病態統合イメージ

ングセンター先進脳画像研究部長

増井 徹 慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センター教授

宮田 満 株式会社宮田総研代表取締役、株式会社日経 BP社医療局アドバイザー

宮本 恵宏 国立研究開発法人国立循環器病研究センター病院予防健診部長、予防医

学・疫学情報部長、バイオバンク副バンク長

村上 善則 国立大学法人東京大学医科学研究所長

横田 博 日本製薬工業協会研究開発委員会副委員長

木下 賢吾 国立大学法人東北大学東北メディカル・メガバンク機構副機構長・教授

布施 昇男 国立大学法人東北大学東北メディカル・メガバンク機構教授

荻島 創一 国立大学法人東北大学東北メディカル・メガバンク機構教授

清水 厚志 岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構特命教授

佐藤 衛 岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構准教授

敬称略

〇は小委員会委員長

57

コホート調査小委員会

〇武林 亨 慶應義塾大学医学部・大学院健康マネジメント研究科教授

井上 真奈美 国立研究開発法人国立がん研究センター社会と健康研究センター予防研

究部長

大矢 幸弘 国立研究開発法人国立成育医療研究センターアレルギーセンター長

髙橋 達也 宮城県保健福祉部次長(技術担当)

田原 康玄 国立大学法人京都大学大学院医学研究科附属ゲノム医学センター准教授

玉腰 暁子 国立大学法人北海道大学大学院医学研究院・医学院社会医学分野公衆衛

生学教室教授

新飯田 俊平 国立研究開発法人国立長寿医療研究センターメディカルゲノムセンター

二宮 利治 国立大学法人九州大学大学院医学研究院衛生・公衆衛生学分野教授

野原 勝 岩手県保健福祉部副部長、技監

羽田 明 国立大学法人千葉大学大学院医学研究院公衆衛生学講座教授

三浦 克之 国立大学法人滋賀医科大学社会医学講座公衆衛生学部門教授

目時 弘仁 東北医科薬科大学医学部医学科衛生学・公衆衛生学教室教授

若井 建志 国立大学法人名古屋大学大学院医学系研究科予防医学教授

呉 繁夫 国立大学法人東北大学東北メディカル・メガバンク機構副機構長・教授

栗山 進一 国立大学法人東北大学東北メディカル・メガバンク機構教授

寳澤 篤 国立大学法人東北大学東北メディカル・メガバンク機構教授

長神 風二 国立大学法人東北大学東北メディカル・メガバンク機構特任教授

坂田 清美 岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構副機構長・教授

丹野 高三 岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構准教授

敬称略

〇は小委員会委員長

58

(1)

個別化予防・ゲノム医療の実現

全ての日本人に個別化予防・ゲノム医療の恩恵をもたらすことを目指し、疾患の遺伝・環境リスク予測及び提供

者への結果回付に関する知見を蓄積する。

〇疾患発症リスク予測に必要なデータ収集による

研究基盤の構築(対面型詳細調査の継続、公的

情報の利活用、診療情報を活用した追跡、調査

票調査と

E-ep

idem

iolo

gy化の推進)

〇世界と伍することのできる規模の研究基盤の構

築(ダイナミックコホート化及び家系員の補充

)〇疾患発症リスク予測の加速のための国内外のコ

ホート研究との連携

〇参加者への調査結果の回付及び

PHR

*の閲覧の

実現(インフラの検討・整備)

〇日本人マルチオミックスリファレン

スパネル構築(構造多型解析、メタ

ボローム解析、トランスクリプトー

ム解析)

〇80

00人構造多型解析、

15万人メタ

ボローム解析、トランスクリプトー

ム解析とメチル化解析の大規模化

(マルチオミックスリスク予測、健診

用ジャポニカアレイ開発、分子レベ

ルでの層別化)

*PH

R: P

erso

nal H

ealth

Rec

ord

コホート調査

基盤解析

複合バイオバンク

人材育成

〇分野融合的な人材育成(分野融合的な研究に対応する大学院の設立、専門人材の教育開始)

〇利活用に繋がる試料・情報の準備(品質の信頼性、疾患発症例を含めた時系列に沿った試料・情報、新たな解析法に対応する試料)

〇試料・情報利活用ワンストップサービス(利活用手順の簡便化及び迅速化)

〇ライフコース

RW

Dのデータ統合・共有・高度な利活用(高次の診療情報等の統合・知識データベースの構築と包括的認証基盤によるアク

セス制御の実現)

〇国内のバイオバンク・コホート間連携(バイオバンクネットワークの構築による保有試料・情報の横断検索と利用の一括コーディネート、

試料・情報の品質に関するノウハウ共有等による標準化、試料・情報の利活用に関する連携の深化)

**PG

x: P

harm

acog

enom

ics

リスク予測と遺伝情報の回付

〇多因子疾患のリスクスコアの回付に

関するフィージビリティ研究

〇一般住民コント

ロールデータの強

化、コホート間連

携も含めたゲノ

ム・オミックスに

基づくリスク予測

〇遺伝情報回付パイ

ロット研究とステーク

ホルダーへの意識調査

の実施

〇単一遺伝子性疾患

(腫瘍等)と

PGx*

*の遺伝情報の返却と医

療への橋渡し

59

(2)

ライフコースに沿った課題解決への貢献

少子高齢化社会の進展に対応して、出生前から高齢者までの各世代の継続的・縦断的な試料・情報を収集・

利用し、認知症などの各世代に特有の健康課題の解決に貢献する。

出生から学童期

共通基盤

*MCI

: M

ild C

ogni

tive

Impa

irmen

t

成人から老年期

若壮年期

〇児に関するデータの収集(学童期を中心

として出現する疾患に関する試料・情報

収集、全国の研究者のための研究基盤構

築)

〇児に関するデータの利活用(第二段階ま

でに構築した周産期・新生児期の重点疾

患に関する試料・情報の分譲等加速、疾

患発症リスク予測式等に基づくアプリ

ケーション等の開発と社会実装)

〇疾患発症例を含む参加者の試料・情報の取集・管理【再掲】

〇ライフコース

RW

Dのデータ統合・共有・高度な利活用(高次の診療情報等の統合・知識データベースの構築と包括的認証基盤による

アクセス制御の実現)【再掲】

〇クリニカルシーケンスや高次の診療情報の利活用(クリニカルバイオバンク、基幹病院等との連携)

〇ライフコースに渡るデータ蓄積と共有のためのバイオリソースクラウドの構築(共通認証基盤の構築による複数のバイオバンクで一貫

した試料情報の利活用推進)

〇父母、祖父母の追跡調査の継

続(児にみられた疾患につい

ての試料・情報の収集、全国

の研究者のための研究基盤構

築、若壮年期に発症する疾患

罹患情報の収集・研究基盤の

構築)

〇認知症に関するデータの収集と分譲(対面

型詳細調査の継続、アウトカムの捕捉(診

療情報など)、公的情報の利活用、認知機

能・身体機能の評価及びフォロー体制の構

築、父母、祖父母の追跡調査の推進)

〇M

RI1万人脳画像データの追跡調査と縦断

的なデータベース構築

〇認知症の前段階である

MCI

*に至る発症プ

ロセスの解明に向けた統合解析(認知症リ

スクによる層別化、

MRI脳画像データと生

活習慣、オミックス、ゲノム情報と

MCI発

症についての統合解析)

60

(3)

コホート・バイオバンク連携

国内外のコホート・バイオバンク等との連携により、日本の個別化予防・ゲノム医療に資する研究基盤の強化

と人材育成に取り組み、研究成果の創出とゲノム医療・個別化予防の実現につなげる。

コホート連携

バイオバンク連携

共通

〇疾患発症リスク予測の加速のためのコホート連携(全国のコホート研究との連携、疫学の人材育成)

〇国内出生コホート等との連携推進(事務局の設置、国内コホートの情報収集と共通項目確認、既存データの統合実務、追跡調査の精

度管理と効率化、相乗効果の創出)

〇海外との連携推進(相互の信頼関係を基に個別のコホートと連携深化、積極的なコンソーシアム参画)

〇バイオバンク相互のミラーサイト保管による長期保存試料の分散保存体制構築

〇コホート対象地域の疾患バイオバンクとの連携による参加者の疾患発症例に関する試料・情報の収集【再掲】

〇クリニカルバイオバンク、基幹病院等との連携によるクリニカルシーケンスや高次の診療情報の利活用【再掲】

〇試料・情報の国内のバイオバンク・コホート間連携(バイオバンクネットワークの構築による保有試料・情報の横断検索と利用

の一括コーディネート、試料・情報の品質に関するノウハウ共有等による標準化、試料・情報の利活用に関する連携の深化)【再掲】

〇試料・情報の利活用ワンストップサービス(利活用手順の簡便化・迅速化)【再掲】

〇データ共有のインフラとしてのバイオリソースクラウドの構築(共通認証基盤の構築による複数のバイオバンクで一貫した試料情報の

利活用推進)

〇O

JTによる人材育成を通じた事業実施の体制整備(

GMRC、データマネージャー、バイオバンク管理者、バイオインフォマティクス人

材等の

OJT等による育成)

〇大学院等における専門人材の養成(コホート調査、バイオバンクの管理・運営に携わる研究者のキャリア形成を含む人材養成、分野融

合的な研究に対応可能な人材育成のための大学院設立による専門人材の教育開始)

61

(4)

産業界との連携

産業界が利用可能な試料・情報・研究基盤の提供を通して、産業界の連携を強化し、健康・医療産業の発展

を目指す。

〇最先端デバイスを活用したアドオン調査に対する基盤の提供(対面型詳細調査の継続【再掲】)

〇未来型創薬・ドラッグリポジショニングへの貢献(対面型詳細調査の継続【再掲】、疾患発症リスク予測式の精度の向上)

〇疾患発症リスク予測式の構築(分譲等による研究者コミュニティとの連携、企業等との連携、アプリケーション作成)

〇国際基準に適した品質の試料・情報の整備【再掲】

〇細胞試料の利活用の活性化(様々な解析技術に対応可能な細胞試料の提供)【再掲】

〇試料・情報利活用ワンストップサービス(利活用手順の簡便化及び迅速化)【再掲】

〇ライフコース

RW

Dのデータ統合・共有・高度な利活用(高次の診療情報等の統合・知識データベースの構築と包括的認証基盤によるア

クセス制御の実現)【再掲】

〇国内のバイオバンク・コホート間連携(バイオバンクネットワークの構築による保有試料・情報の横断検索と利用の一括コーディネート、

試料・情報の品質に関するノウハウ共有等による標準化、試料・情報の利活用に関する連携の深化)

〇先進的なアドオンコホートの基盤としてのバイオリソースクラウドの構築(共通認証基盤の構築による複数のバイオバンクで一貫した試

料情報の利活用推進)【再掲】

(5)

被災地域の医療支援と健康管理

東日本大震災被災地の自治体との緊密な連携により、地域医療の支援と地域の健康管理に取り組む。

〇地域医療人材支援に関する自治体との更なる連携体制構築

〇被災地住民等への成果の還元(成果の情報提供体制の強化、参加者への調査結果の回付及び

PHRの

閲覧の実現(インフラの検討・整備)

【再掲】)

〇胎児期及び小児期の震災への曝露が児の精神発達に与える影響に関する知見の創出(三世代コホートによって震災大国日本における災害

対策の基礎情報を提供)

62

5年間の工程表(コホート調査(1))

2021年

度20

22年度

2023年

度20

24年

度2025年

診療

情報

を活用

した

疾患

追跡

(基幹病院

調査

、疾

患発

症調査

、MMWIN*2等

調査

票調

査(

郵送調査、Web調査

対面型詳

細調査

(詳

細三次調査:動脈硬化、呼

吸機

能、

骨密度

等の詳細

検査

の経

時的変化の評価

)経

時的採

血によ

るメタボローム等オミック

ス情報

の付

与ア

ドオン

コホー

トの追加による、生活習

慣・環境

要因

の精

緻かつ

最新の評

価高

齢化社

会に対応するた

めの

認知

機能検査や身体

機能

評価

の追加

死亡

、転

出等の減少分の補充による詳細

二次調査

参加

者(

約5万

人)の規

模の

維持

公的

情報

等の追

跡(医療費、介護保険、健康診

査、

住民

票、各

種公的疾

患登

録等

の情報

ゲノ

ムコ

ホート

間連

携(調査方法・検

体管理

など

の情

報共有

、研究面で

の連携

(1/5)

個 別 化 予 防 ・ ゲ ノ ム 医 療 や 被 災 地 の 健 康 管 理 へ の 貢 献

詳細

二次

調査情

報の

整理

・分

譲詳細三次

調査の

情報

・各種追

跡情報

の追

◎個

別化予防

・ゲ

ノム医療や被

災地の健康

管理等へ

の貢

献と

して、

✓対

面型詳細

調査

の継続により、検査、血液、生活習

慣等の

経時的

な変化を

評価

し、

遺伝要

因(PRS*1を

含む)、環境要因、生活習慣、メタ

ボロ

ーム情

報等を

用いた疾患発症リスク予測モデル

式等構築

に貢献

する。

✓対

面型詳細

調査

による認知機能情報や介護保険情

報による認知症情報等を

活用

し、

MCI(軽

度認知機

能障害)についての疾患発症リス

ク予測

モデ

ル式を

構築す

る。その際、予測精度の向上のた

めに

、MRI調査による脳

画像

・認

知機能

のデータ

を活用する。

✓対

面型詳細

調査

の基盤を生かし、アドオンコホー

トに

よる

産業界

との連携

を進

め、

大多数の

参加者

に最

先端のデバイスを積極的に導入す

るな

ど、生

活習慣・

環境要

因の

より正確な評価を目

指す

。✓

全国

のゲノ

ムコ

ホート研究との連携を進め、プロ

トコ

ール

の共有化、人材

交流

を進

める。

地 域 住 民 コ ホ ー ト

1万人規模のMRI画像、認知機能検査、心理検査をベースラインとした追跡調査を含む

データベースの構築

認知症リスク(ゲノム・生活習慣情

報等)毎の層別化や統合解析による認知機能低下の個別化予防研究

アプリケーションの開発

社会実装

試料

・情

報分譲

の加

速疾

患発

症リ

スク予測式の開発への貢献

遺伝・

環境

要因を含む糖尿病・高脂血症等

の疾患発症

リスク

予測式

構築

対象者へ

の健康

調査

結果

回付

(PHR*3として

のデ

ータ

提供推

進、被災

地住

民へ

の裨益)

ポー

タルサ

イトで

の結果回

付実

現可

能性の検討・インフラの整備

MRI

*1 PRS:

Pol

ygen

ic Risk

Score, *

2 MMWIN: 宮

城医療情報ネットワーク, *3

PHR: Personal

Health R

ecord

63

5年間の工程表(コホート調査(2))

2021年

度2022年

度2023年

度2024年

度2025年

◎個

別化予防

・ゲ

ノム医療や被災地の

健康管

理等への

貢献と

して、

✓少

子高齢社

会の

到来によって種々の課題に直面して

いる我

が国に

おいて、

次世

代を

産み育てる上で

極めて重要な子どもとその家族の健康

向上

を目指

す。

✓三

世代コホ

ート

参加者の継続的な追跡により家系員

一人ひ

とりの

ライフコ

ース

にわ

たる精

緻な試料

・情報収集を行う。

✓遺

伝・環境

交互

作用を考慮した疾患発症リスク予測

モデル

式等の構築によ

り、

ゲノ

ム医療

・個別化

予防を実現し、国民一人ひとりの健康

的自

立及び

生産性

保持に貢献する。

三 世 代 コ ホ ー ト

対象者へ

の健康

調査

結果

回付

(PHRと

しての

デー

タ提

供推進、

被災地住民への

裨益)

公的情報

等の追

ゲノムコ

ホート

間連

携(国内外の出生

又は家

系付

ゲノ

ムコホ

ートとの

連携

・コ

ンソー

シアムへの参加)

(2/5)

ポー

タルサ

イトで

の結果回付

実現

可能性の検討・インフラの整備

国内

外から

の成果

創出

国内

連携基

盤の構築・海外コンソーシアムへの参

第二

段階

対面型

調査

情報

の整

理・

分譲

第三段階

対面型

調査

の情報と

各種追

跡情

報の

追加

試料

・情

報分譲

の加

速疾

患発

症リ

スク予

測式の開発への貢献

周産期

・新

生児期

の重点疾患に関する疾患発

症リス

ク予

測式

構築

アプリケーションの開発

社会実装

調査

票調

査(

郵送

)調査票

調査(

Web調

査)

家系

員の欠

員補充

(欠けている家系

員や次子

を中

心と

した参

加者の補

充)

学校健診

・小児

慢性特

定疾病

・公的

疾患登

録等

第三

段階

対面型

調査

正確な

診断

と詳細な疾患関連情報の収集、

オミック

ス解

析の

ための

採血・採

尿、

ウェ

アラブ

ルデバイスによる評価

小児(

学習

障害、

ADHD、

小児肥満、小児高

血圧など

学童

期に

出現す

る疾患を

中心

に評

価)約

2万人

成人

(児に

みられた疾患の父母・祖父母の

発症を追

跡。

若年

発症疾

患への罹

患等

を収

集)約

3万人

診療情報

を活用

した

疾患

追跡

(基幹病

院調査

、疾

患発

症調査

、MMWINな

ど)

個 別 化 予 防 ・ ゲ ノ ム 医 療 や 被 災 地 の 健 康 管 理 へ の 貢 献

母子

健康

手帳

・乳

幼児

健診

64

5年間の工程表(複合バイオバンク)

◎デ

ータシ

ェアリ

ングを通じた医学研究の支援・牽

引に

向け

,試

料品

質や

管理システムの

信頼性向上と、疾

患発症

の遺

伝・

環境リ

スク研究

に資

する

試料・

情報の充

実を図る。

一人

一人の

ゲノ

ム情

報、健康調査情報等の統合デー

タベー

スを

発展さ

せ、ラ

イフ

コー

スにわ

たるリア

ルワールドデータ

(RWD)の包

括的な

デー

タベー

ス基盤を

提供し、国内のバイオバンクネ

ット

ワー

クを構

築する。

構築

された

バイオ

バンクネットワークを用いてバイ

オバ

ンク

連携を

促進し、

研究

者コ

ミュニ

ティによ

る試料・情報の利

活用を加速させ

る。

計算

機イン

フラと

して、複数の研究機関をまたぐク

ラウ

ド環

境「バ

イオリソ

ース

クラ

ウド」

を開発し

、機

微性の高い

データの共有と試料

活用

推進の

インフ

ラとして必要な要件の整理と実証

実験

も行

いなが

ら、シス

テム

の整

備を行

う。

(3/5)

試料・情

報品

質の

信頼

性向

上(国

際的

基準の

達成

等)

高次の

RWD の診

療情報の利

活用

RWDの診療

情報

の利

活用

包括

的な

認証基

盤に

よるデー

タアク

セス

制御

バイオバンクネットワークの構築と試料・情報の利活用の一括コーディネート

細胞試料

の利用

可能

性の拡大

バイオバンク・コホート連携による試料・情報利活用の利便性向上

コホート

参加者疾患

発症例の試料・情報収集の促進

東北大学病院バ

イオ

バンク

から

試料・情報

を収集する体制の構築

当計画

試料の分散保存

試料の分散保存等による外

部試

料の

受入

ライフ

コー

スRWD の

統合

・知

識デ

ータ

ベースに

よるデ

ータ

統合・共

有・

高度な

利活

dbTMM運用

dbTMM2運用

スパ

コンPhase2運

バイ

オリ

ソー

スク

ラウ

ド構

スパ

コン

Phase3運

2021年

度2022年

度2023年

度2024年

度2025年

バ イ オ バ ン ク 、 分 譲 、 統 合 デ ー タ ベ ー ス 、 I T イ ン フ ラ

デ ー タ シ ェ ア リ ン グ を 通 じ た 医 学 研 究 の 支 援 ・ 牽 引

65

多 因 子 疾 患 の リ ス ク 回 付 の た め の

予 測 モ デ ル の 実 現 に 貢 献

5年間の工程表(基盤解析)

2021年

度2022年度

2023年

度2024年

度2025年度

オミッ

クス

解析の最

新技

術の

検討・導

◎ゲ

ノム・オ

ミッ

クス解析による一般住民リファレン

スパネ

ルの構

築・提供

する

ため

に、

✓全

ゲノ

ム解析

では、

8千人規模の長鎖シークエン

ス解

析を

完了し

「構造多型

リファ

レンス

パネル」

を構築する。

✓ア

レイ

解析で

は、リス

ク予測結果の回付に向け

た健診用

ジャポ

ニカアレ

イの

開発

を行い

、社会実装

する。

✓メ

タボ

ローム

解析では

、ベースライン調査15万

人と

追跡

調査参

加者の解

析を

実施し

、遺

伝・環境

要因

の包括的なリ

スク予測モ

デル式の実

現に

貢献す

る。

✓ト

ラン

スクリ

プトーム

解析を実施し、リファレン

スパネ

ルを構

築すること

で、リ

スク評

価精度の

向上

を目指す。

✓DNAメチ

ル化解

析では、2千例の解析を実施し、リ

ファレ

ンスパ

ネルを構

築するとと

もに

、リスク予

測への組み込みを検討する。

✓ア

プタ

マーに

代表され

る最新の分析技術等を常

に注意深

く検討

し、リスク

予測の

継続的

な精度向上

に努める。

(4/5)

健診

用ジャポニカアレイ検証

健診用ジャポニカアレイ設計

健診用ジャポニカアレイ社会実装

追跡

調査検

体の多層オ

ミック

ス解析

リスク予測への

組み込み

トランスクリプトー

ムリ

ファ

レンスパ

ネル

の構

DNAメチル化解

析の大

規模

ベースラインサンプルの

メタ

ボローム

解析

解析

試料

検討

ゲ ノ ム 解 析 オ ミ ッ ク ス 解 析

構造

多型リ

ファレン

スパ

ネルの構築

予測

精度向

長鎖シークエンス解析検討

66

コホート調査・バイオバンクの管理・運営等の従事者への

評価体制の検討と構築

5年間の工程表(遺伝情報回付、地域医療支援、人材育成、その他)

2021

年度

2022

年度

2023

年度

2024

年度

2025

年度

✓個

別化

予防実

現のため

の先導モデルとして取り

組ん

でき

た遺伝

情報回付

パイ

ロッ

ト研究の

範囲・

規模を拡大する

とともに、遺

伝要

因・

環境要

因及び

その交互作用をもとにした疾患リ

スク

予測

の回付

を試行す

る。

✓東

日本

大震災

後の医療体制の支援を主目的に行

って

きた

地域医

療支援事

業の

枠組み

を活

かし、最

先端研究で創出さ

れた個別化予防・

ゲノ

ム医

療に向

けた成果をいち早く地域医療の現

場に

還元できる基盤構築

を目

指す

。✓

本計画

実施に

係る人材育成にとどまらず、我が

国の

ゲノ

ム医療

研究やそ

の実

装を

牽引す

る人材を

全国に輩出する

ための教育・育成

体制

の整備を

目指す。

(5/5)

遺伝性腫瘍、

PGx*等の遺伝情報回付

パイロット研究

パイロット研究の評価と医療への橋渡しや

大規模化に向けた調査・研究・試行

多因子疾患のリスクスコアの回付に関するフィージビリティ研究

個別

化予防・ゲノム医療の実現に向けた知財・倫理・社会的課題の整理・解決、

国内外のコホート・バイオバンク連携の推進

自治体との更なる連携による地域医療支援の継続

TCFによるコホートのアウトカム精度向上への貢献、個別化予防・ゲノム医療の基

盤開発支援

個別

化予防

・ゲノム医療に関わ

る専

門人材

のOJT等による育成

ゲ ノ ム 医 療 研 究 や

そ の 実 装 を 牽 引 す

る 人 材 教 育 が 可 能

な 大 学 院 の 設 立

ア カ デ ミ ア と

行 政 と の 強 固

な 連 携 体 制 構

多 因 子 疾 患 の 遺 伝 情

報 を 個 人 へ 返 却 す る

シ ス テ ム の 設 計

遺 伝 情 報 回 付

ELSI ・

連 携

地 域 医 療

支 援

個別

化予防

・ゲノム医療に関わる

専門

人材の

大学院教育の開講準備

個別化予防・ゲノム医療に関わる専門人材の

OJT等による育成とノウハウ蓄積

人 材 育 成

*PGx

: Pharmacogenetics

67