和の文化を受けつぐ――和菓子をさぐる...文 化 を 受 け つ ぐ ― 和 菓 子...

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第55回 文芸教育研究大会 山口大会【実践研用レポート】 2020.12.19現在 説明文入門講座 和の文化を受けつぐ――和菓子をさぐる 中山 圭子 5年 東京書籍 福﨑健嗣 13 13 13 11 10 9 8 6 4 3 2 1 ( ( 未完 大阪文芸研枚方サークル ( ( ( ( ( ( ( ( ( (

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第55回 文芸教育研究大会 山口大会【実践研用レポート】 2020.12.19現在

説明文入門講座

和の文化を受けつぐ――和菓子をさぐる 中山 圭子

5年 東京書籍

四 三 二 一

福﨑健嗣

13 13 13 11 10 9 8 6 4 3 2 1

(

)授業の構想

(

)教授

=学習過程

未完

大阪文芸研枚方サークル

(

)認識の内容

(思想

(

)表現の内容

(主題

(

)認識の方法

(

)典型をめざす読み

【題名

【はじめ

(①段落

)】

【おわり

(⑯⑰段落

)】

【つづき

(三

)(⑫途中~⑯段落

)】

【つづき

(二

)(⑦~⑫段落途中

)】

【つづき

(一

)(②~⑥段落

)】

(一

)はじめに

(

)良い説明文とは

(

)文芸研のめざす説明文指導

(

)表現の方法

(説得の論法

(

)作品の構造

(

)筆者

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第五十五回文芸教育研究大会

山口大会

説明文入門講座

東京書籍五年「和の文化を受けつぐ―和菓子をさぐる」(中山圭子)

※レポートは、文芸学・文芸教育理論と教育的

認識論に基づいて作成しています。教科書教

材文等〈引用文〉は〈

〉に入れています。

また、文芸学理論の《用語》は、《

》で表

しています。一般的に使われている用語でも、

文芸理論の使い方と意味が異なる場合には、

》を使っています。

一.文芸研の説明文指導

(一)はじめに

文芸研が考える教育の目的は、「自己と自己

をとりまく世界をよりよく変革する、主体的な

人間を育てること」です。それと関連して、国

語教育の目的は、「対象(ことば・表現・人間・

ものごと)の本質・価値をことばで認識・表現

すること」です。説明文指導では、《認識の方法

(ものの見方・考え方)》を学ばせ、《認識の内

容(ものごとの本質)》をつかませ、筆者の《説

得の論法》を学ばせることをねらいとしていま

す。 説

明文の授業と言うと、漢字語句指導、段落

の内容をまとめるといった過程を通して書か

れている内容を読み取るという「読解指導」だ

けをすればよいというイメージはないでしょ

うか。

最近では、「単元を貫く言語活動」や「アク

ティブ・ラーニング」「主体的・対話的で深い

学び」と称した、調べ学習やリーフレット作り、

発表会などの、教材からかけ離れた「言語活動」

に終始してはいませんか。指導要領が改訂され

るたび、何か新しい主義や手法が提示されるた

びに学校現場は振り回されてきました。これで

は、本来の教育の意義を見失ってしまいます。

文芸研では、一貫して「教材で、認識と表現

の力を育てる授業」をめざしてきました。本分

科会では、文芸研の説明文指導についてともに

学んでいきましょう。

(二)良い説明文とは

そもそも、説明文とは、誰かが誰かに何かを

説明するために書かれた文章です。教科書の場

合、筆者(多くは専門家、研究者)が、読者(教

室の子どもたち)に対して、《表現の内容(主

題)》を説明するために書いた文章ということ

です。説明の中身(表現の内容)が、取るに足

らないものであったり、たどたどしい説明で書

かれていたのでは良い説明文とは言えません。

ですから、よい説明文とは、①書かれている

内容が真理・真実であり、読者に新たな知識・

認識を与えるような読む価値のある文章であり、

かつ、②文章表現が、正しく、分かりやすく、

しかも、読者の興味・関心を引きつける工夫が

ある文章のことと言えるでしょう。

(三)文芸研のめざす説明文指導

文芸研の説明文指導でも、まずは、教材に書

かれている内容を正しく捉え、読解力や新しい

知識を身につけることを目指します。しかし、

よい説明文は、一読して大体の内容は分かるよ

うに書かれています。《表現の内容(主題)》ま

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では、ほとんどの児童・生徒が比較的容易にた

どり着くのではないでしょうか。

文芸研では、そこからさらに進んで、《認識

の方法(ものの見方・考え方)》を学ばせ、《認

識の内容(ものごとの本質)》をつかませる指

導をめざします。

《認識の方法》は、教育の観点から、子ども

たちの発達段階に即して系統的に教えていく

ことが重要です。また、国語科のみならず、全

ての教科・領域において、関連づけて横断的に

指導することが可能です。この《認識の方法(も

のの見方・考え方)》を、文芸研では、《関連系

統指導案(西郷試案2の2)》として提案して

います。※別紙参照

さらに、文芸研の説明文指導では、《説得の

論法》(筆者の文章の巧さ)にも目を向けます。

良い説明文には、読者に興味・関心を抱かせ、

続きを読みたくさせるような《仕掛》がありま

す。また、相手がなるほどと納得して読み進め

るためには説得の論理と方法が必要なのです。

言葉の使い方や論理の展開の仕方など、筆者の

表現上の工夫を《説得の論法》とよびます。

つまり、文芸研の説明文指導は、読解指導に

終始せず、《認識の方法》を教え、そのことに

よって《認識の内容》をつかませ、《筆者の説

得の論法》も学ばせる、ということを三位一体

に学習させることにその特徴があります。説明

文指導で身につけた力は、作文指導にも生かさ

れます。

ニ.この作品をどう読むか

(一)筆者

中山圭子(なかやまけいこ)

東京藝術大学美術学部芸術学科卒業。卒業論

文のテーマに「和菓子の意匠」を選ぶ。現在、

株式会社虎屋の菓子資料室である虎屋文庫で、

資料収集や研究の仕事に従事。「事典

和菓子

の世界

増補改訂版」(岩波書店)、「和菓子も

のがたり」(朝日文庫)、「和菓子

夢のかたち」

(東京書籍)など著書多数。

※東京書籍教科書指導書より

(二)作品の構造

【題名】

題名には、これから書かれる文章の《観点》

を示し、読者に読みの構えを持たせるというは

たらきと、読者に興味・関心を抱かせ早く読み

たいという気持ちにさせる《仕掛》としてのは

たらきがあります。

〈和の文化〉とは何でしょう。和食、和服、

和楽器、和風〇〇など子どもたちも「和」のつ

く言葉を想起するのではないでしょうか。昔か

ら変化することなく粛々と守り続けてきた伝

統文化という印象があるかもしれません。また、

〈受けつぐ〉という複合動詞が使われています

が、「継ぐ」には、「親のあとを継ぐ」「志を継

ぐ」のように、家・跡目・血・志などが絶えな

いように後に続けるという意味があります。

〈受けつぐ〉は、「これまでの歴史や伝統をし

っかりと受け止め、それを後世に伝えていくと

いうような責任の重さ」も感じられる言葉です。

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では、だれが、なぜ、どのようにして「受けつ

ぐ」というのでしょう?沢山の疑問が湧いてき

ます。読者に疑問を抱かせ、文章への興味・関

心を高める《仕掛》のある題名です。

その後、―(ダッシュ)でつなげる形で〈和

菓子をさぐる〉とあります。和菓子は確かに和

の文化と言えそうです。子どもたちにとっても

身近な「和」のつくものの一つでしょう。だん

ごやまんじゅう、餡や餅、独特の色や形などが

思い出されるでしょうか。茶道や仏壇のお供え

物など和菓子と関連する文化に気づく子ども

もいるかも知れません。

〈さぐる〉とありますが、だれがどのように

さぐるのでしょう。類義語に、「探す」「調べる」

などがありますが、それらの語彙と《対比》し

て〈さぐる〉と言った場合どういう印象が強く

なるでしょう。何となく、隠れた秘密を追い求

め暴き出すようなドキドキ感が感じられるの

ではないでしょうか。授業では、まるで、和菓

子の謎を解き明かすミステリー小説を読むよ

うに、頭と心を動かしながら読み進められるの

ではないでしょうか。

また、題名には、文章全体の《観点》を示す

という大切な《機能》があります。あとを読ん

でいけば分かりますが、本文には、和菓子につ

いての説明が書かれています。題名できちんと

観点を示すことで、読者はそこに焦点化しなが

ら読むことができ、文章が理解しやすくなりま

す。逆に、書き手としては、題名と中身が首尾

一貫しているように意識して書くことが求め

られます。題名の工夫は、作文指導でも大切な

ことです。

ところで、「和菓子」は、なぜ―(ダッシュ)

でつないで副題になっているのでしょうか。筆

者は、子どもたちにとって身近な「和菓子」を

「さぐる」ことを題材として、「和の文化を受

けつぐ」ことを説明したいのでしょう。授業で

は、《たしかめよみ》を経たのち、もう一度題

名に戻って考えたいと思います。

このように、題名は、文章全体の《観点》を

示すと同時に、題名の《仕組(構造・関係)》

が、読者の興味・関心も引き出す《仕掛(機能)》

となっているのです。

【はじめ(①段落)】

〈わたしたちの生活の中には、古くから受け

つがれてきた日本の伝統的な文化がたくさん

あります。〉という冒頭文です。これは、題名

の〈和の文化を受けつぐ〉を言い換えた内容で

す。〈伝統的な文化〉と言われて何を思い出す

でしょうか。能や狂言などの芸能や、お正月・

桃の節句・七五三などの年中行事を思い出す子

どもたちもいるでしょう。題名で「和菓子」の

イメージを持って読み始めているので、和食や

和食器などを想起する子もいるかも知れませ

ん。最後の⑰段落で、〈筆やろうそく、焼き物

やしっ器、和紙、織物など〉について言及があ

るので、それらについても簡単に触れながら読

んでいきます。文章全体としては、書き出しと

結びが首尾照応する構成となっています。

「次に書かれているのは、和菓子のことかな」

というのは予想できそうです。実際に「ようか

ん・もなか・せんべい」という三つの和菓子が

例示されています。和菓子〈もその一つ〉と言

っていますから、書き出しの一文と重ねて響き

合わせながら読んでいきます。和菓子のことに

ついて語りながら、和菓子以外の日本文化につ

いても意識させるうまい書き方になっていま

す。 筆

者は、〈ケーキやクッキーなど〉の洋菓子

と《対比》しながら、「ようかん・もなか・せ

んべい」の三つを例示しています。味も見た目

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も全く違う三種です。一口に「和菓子」と言っ

ても種類が豊富であることに気づかされます。

文章の下には、「まんじゅう・ようかん・もな

か・せんべい」の四つの和菓子の写真が添えら

れています。和菓子がどんなものか視覚的に分

かると同時においしそうな写真から和菓子に

ついての興味・関心も高まります。ところで、

文章にはなかった「まんじゅう」の写真もあり

ます。写真と文章とを《対比》して読むことで、

和菓子は、本文に書かれた「ようかん・もなか・

せんべい」だけではなく、他にも種類があるこ

とに気づかされます。「団子やどら焼きもあっ

たな、他には何があるかな」と想像しながら和

菓子に対する興味がさらに高まる《仕掛》にな

っています。文章以外の写真や絵図、グラフな

どの資料の提示の仕方も《説得の論法》の一つ

です。

①段落では、「和菓子が日本の伝統文化の一

つであること、和菓子の定義、和菓子が歴史の

中で、様々な文化と関わりながら発展し、現代

に受けつがれてきたこと」が提示されています。

文章全体の《観点》を提示している部分です。

読者としては、どのような歴史の中で、どのよ

うな文化とどう関わりながら、現代にどう受け

つがれてきたのか、という疑問が湧きます。

つまり、題名から「はじめ」にかけての文章

は、文章全体の《観点》を示しながら、読者に

興味・関心を抱かせる《仕掛》となっているの

です。

【つづき(一)(②~⑥段落)】

②段落では、〈和菓子は、どのようにしてそ

の形を確立していったのでしょうか。〉と問い

かけています。そう問いかけられれば、読者と

しては、その答えを自然と考えてしまいます。

「問いかけ」は、《説得の論法》の一つです。

読者は、「次に書かれているのは、その答えだ

ろう」と予想しながら読んでいくことになりま

す。すると、〈まず、和菓子の歴史を見てみま

しょう。〉となります。これは、①段落で示し

た疑問の順序と照応しています。まずは、和菓

子の歴史について、「さぐっていこう」という

心構えで読み進めます。

日本の菓子の起源から、つまり、時代の古い

方から《順序》よく探っていきます。

③段落で、菓子はもともと木の実や果物のこ

とを意味していたと言われて読者は驚きます。

子どもたちが持っている菓子のイメージとは

かけ離れています。しかし、「果実」や「種子」

という字と「菓子」という字を並べてみると確

かに共通性があるようにも感じられます。太古

の人々は、「菓子」をどのような目的でどのよ

うに食べていたのでしょうか。当時の人々の

《条件》を考えることで想像が膨らみます。ま

だ食糧生産の技術が未発達な時代ですから、食

べることに余裕はなかったかもしれませんが、

それでも、人々は嗜好品を求めたのではないで

しょうか。「食」に楽しみを、という点では、

現代の菓子と相通ずるものがあります。また、

当然のことながらコンビニもありませんから、

長旅には保存のきく携行食も重要だったかも

しれません。そうした古代の人々のくらしも想

像しながら読んでいきます。

主食ではなく、嗜好品であったことと、保存

食であったことが語られますが、それぞれの文

末が〈食べていたのでしょう。〉〈考えられてい

ます。〉となっており、推量的な言い方をして

います。自分が直接見たり実験したりしたので

はない事柄については、断定を避けるというの

は、文章を書く上で大切なことであり、文章の

確からしさ、信頼性を高めます。

〈こうした日本古来の食べ物に、外国から来

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た食べ物がえいきょうをあたえることで、和菓

子の歴史に変化が生まれます。〉と言われると、

読者としては、どのような食べ物が来て、どの

ように影響を与え、どのように変化したのかが

気になります。読者に興味・関心を抱かせ、次

を読みたくさせる《仕掛》のある書き方です。

「問いかけ」はありませんが、読者としては、

疑問を持ってつづきをさぐっていきます。

〈えいきょうをあたえたものの一つ目は、飛

鳥から平安時代に、中国から送られた使者が伝

えた唐菓子〉でした。唐菓子は「からくだもの」

とも読み、唐果物と書くこともあります。当時

は、神仏に供える特別な加工品であったようで

す。〈二つ目は、鎌倉から室町時代に、中国に

勉強に行った僧が伝えた天心〉です。天心(て

んしん)は今でも中華料理の軽食の総称として

親しまれており、饅頭や団子、プリンなど、「お

やつ」のイメージの強いものが多くあります。

留学僧や使節団が伝えた「異国の文化」です

から、当時の「菓子」は庶民の手には届かない

舶来モノとして高価なものだったのでしょう。

神仏に供える特別なものであったというのも

頷けます。菓子が人々の口には入らなくても、

神仏を拝むことはできます。貴重な菓子は、

人々の願いや祈りと共にささげられたことで

しょう。〈三つ目は、戦国時代から安土桃山時

代〉に、〈ポルトガルやスペインから〉伝わっ

た〈南蛮菓子〉です。ポルトガル語で砂糖菓子

を指すアルフェロアやコンフェイトがなまっ

てできた有平糖や金平糖、中世ヨーロッパのカ

スティーリャ王国が由来とされるカステラな

どが代表的です。金平糖は、宣教師から織田信

長に献上されたのが、日本伝来の最初とも言わ

れています。この時代の菓子は、宣教師の布教

活動とともに広がっていったことと、砂糖を使

った甘さが特徴です。南蛮渡来の甘い菓子は、

新しい時代の気配や異国情緒とともに甘美な

味わいとして魅力的にとらえられたのではな

いでしょうか。この時代の南蛮菓子の広がりは、

実は、「茶の湯文化」の発展とも関係していま

す。その後、江戸時代の鎖国と相まって、南蛮

菓子は、日本で独自の進化を遂げ、和菓子とし

ての地位を確立していきます。

一つ目は、・・・二つ目は、・・・三つ目は、

とナンバリングする形で、時代と国と具体物が

整理されています。一つひとつに対して詳細な

説明はありませんが、そうすることで、かえっ

て、菓子の変遷がよく分かります。《観点》を

絞って必要なことだけを書くというのも分か

りやすい文章を書く上で大切なことです。

文章では、情報を絞って簡潔に書かれていま

すが、その時代の人々のくらしや時代背景を

《条件》的にとらえ、和菓子の変化発展と《関

連》づけてさぐっていくことで、和菓子に込め

られた人々の願いや思いを《類比》的にとらえ

ていくことが可能です。

子どもたちに、「和菓子」に対してのイメー

ジを尋ねると、「昔ながら」「変わらぬ味」など、

「昔から変わらず伝統を守ってきたもの」とい

う印象の答えがかえってきました。変化とは縁

遠い存在として感じていた和菓子が、実はこれ

ほどまでに変化を繰り返してきたというだけ

で大きな驚きです。和菓子の起源から安土桃山

時代まで来ましたが、江戸時代や近代にはどん

な変化が待っているのでしょう。

そこでページをめくると、上段に江戸時代、

明治以降の歴史が文章で書かれ、下段に歴史を

示した図表が書かれています。この図表の提示

の仕方は視覚的に分かりやすく、文章と響き合

わせて和菓子の歴史をよく理解できます。五年

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生の読者は、まだ歴史を習っていないので、「〇

〇時代」と言われても感覚的には分かりにくい

部分があります。しかし、年表にして視覚化す

ることで、伝わった時期やその長さが感覚的に

よく理解できます(説得の論法)。

江戸時代は、鎖国の時代です。それ以前の時

代と違って外国からの影響が限定的になった

ことで、かえって、和菓子が日本独自の発展を

遂げることになります。また、菓子や製法だけ

でなく、「おやつ」を食べる文化が広まったの

もこの頃です。南蛮貿易によって多く輸入され

るようになった砂糖ですが、江戸時代にはまだ

まだ高級品で庶民の手元にはなかなか届かな

かったようです。それが明治時代になって近代

的な製糖技術が伝わり一般化していきます。

〈西洋からやってきた「洋菓子」と区別する

ものとして、日本固有の菓子を「和菓子」とよ

ぶように〉なったとあります。和菓子と言うと、

はるか昔から受けつがれてきたものという印

象がありますが、「和菓子」という言葉(概念)

自体は、意外にも新しいものだと分かって驚か

されます。考えてみれば、日本(和)の範囲内

だけを問題としている場合には、わざわざ「和」

とつける必要はありません。和菓子に限らず、

「和」とつくものは全て、「(欧米などの)外国

と違って」という《対比》の意味合いを含んで

います。

【つづき(二)(⑦~⑫段落途中)】

⑦段落が「つづき(二)」の《観点》になっ

ています。②段落〈まず〉を受けて、〈次に、

和菓子とほかの文化との関わり〉に目を向けま

す。「はじめ」のところの、〈和菓子は、その歴

史の中で、さまざまな文化とかかわりながら発

展し、現代に受けつがれてきました。〉とも照

応しています。〈見てみましょう〉という「文

末表現」も読者を意識した書きぶりです。〈ほ

かの文化〉とは一体どのような文化をさすので

しょうか。〈ほかの文化との関わり〉という観

点で、和菓子をさぐっていきます。

⑧段落は、〈和菓子とほかの文化との関わり〉

について、抽象的、一般的に説明しています。

具体的には、どのような年中行事が思いつくで

しょうか。もしかしたら、クリスマスやバレン

タインなど、洋菓子と結びついた行事しか思い

つかないかもしれません。

そこで、⑨段落は、〈例えば、〉という形で具

体例を挙げています。これなら、⑧段落だけで

は分かりにくかった読者にもよく分かります。

諸説ありますが、〈ひしもち〉は、中国の行事

に由来し、子孫繁栄や長寿を願ったものとされ

ています。また、地域によっても異なりますが、

多くは、三色の餅の積み重ねで、その順序にも

意味があり、桃または梅の花(赤)、雪(白)、

新芽(緑)を表していると言われています。つ

まり春の風情を和菓子で見立てているのです。

柏餅の柏の葉は、新芽が芽吹くまで古い葉は落

ちないことから、子孫繁栄を表すそうです。こ

うやって、具体例を読むと、「そう言えば、ひ

な壇にひしもちが飾ってあるのを見たことが

あるぞ。きれいな色だったな。変わった形を不

思議に思ったことがあったなあ。」と自分の生

活体験を思い出す子も出てくるのではないで

しょうか。

ここで、教室の子どもたちにもう一度「ほか

の文化と関連する和菓子」がないか問うてみた

いと思います。〈例えば〉を受けて、七五三の

千歳あめ、月見団子や花びら餅、おはぎなどを

想起する子も出てくるかもしれません。そこに

は、人々の思いや願いが込められていることに

気づいたり、季節の変化や風物を見立てたもの

があることに気づくこともできそうです。

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⑧段落の一般的なまとめだけで終わらず、⑨

段落で具体例を持ってくることで、読者である

子どもたちの想像力を刺激することができま

す。人々がそうした思いを大切にしてきたから

こそ、和菓子も発展してくることができました。

人々の日々の生活の中にある思いや願いと和

菓子とを《相関》的にとらえることで、和菓子

の変化発展をより深く理解できます。

⑩段落は、〈また、〉という接続語で前の段落

を受けて、和菓子とほかの文化との関わりの事

例の二つ目として、茶道との関連について抽象

的な表現で説明しています。そして、その後の

⑪段落には具体的な説明が続きます。つまり、

⑧⑨段落と、⑩⑪段落は、並列に構成された段

落構造になっているわけです。⑧⑨段落と同じ

ようなものの見方・考え方で、⑩⑪段落を読め

ば、先の例と同じように自分たちの生活と関連

させながら具体的なイメージを思い浮かべる

ことができるのではないでしょうか。

「茶道」と言われると、狭い茶室で静かに茶

を点てて、苦いお茶とお菓子を頂くイメージが

浮かびます。確かに、お茶菓子は茶道につきも

のですが、それにしても茶道に季節の変化なん

てあるのでしょうか。〈茶会で使われる和菓子〉

にも、〈季節をたくみに表現したものが求めら

れて〉きたとありますが、季節を巧みに表現す

るとは一体どういうことでしょうか。もっと詳

しくさぐっていきたくなる《仕掛》のある書き

方です。

⑪段落では、〈例えば、秋であれば〉と、秋

の季節についての具体例を示しています。〈色

あざやかな紅葉やくりなど〉をかたどった和菓

子は何となく見たことがあります。「ああ、そ

う言えば季節をかたどった和菓子があった」と

いう気がします。言葉だけでは、ピンとこない

子どもたちも写真と合わせて読めばよく分か

ります。写真で例示されているのは、右側が朝

顔、左側が栗・銀杏・紅葉です。ここでも、①

段落の和菓子の写真と同様、文章と写真に「ず

れ」があります。まずは、文章に書かれている

〈紅葉〉と〈栗〉に目が行きます。色合いや形

など確かに〈季節をたくみに表現〉していてそ

の見事さに驚かされます。それから本文には書

かれていない〈銀杏〉や〈朝顔〉に目が移りま

す。「なるほど、他にも季節感のある意匠を凝

らした和菓子があるのだな」と分かります。さ

らに、ここに挙げられた以外の和菓子にも興味

が湧いてきます。

ところで、なぜ、「夏」のイメージのある〈朝

顔〉が一枚目にあるのでしょう。和菓子の〈朝

顔〉は、大体六月中旬から八月下旬ごろまで売

られています。夏の代表的な和菓子として楽し

まれているのは事実ですが、八月下旬ともなる

と、旧暦の上では、すっかり秋になります。実

は、俳句の世界では、「朝顔」は秋の〈季語〉

なのです。また、「野分」や「ふき寄せ」は、

視覚的には示されていません。読者としては、

「野分」や「ふき寄せ」がどんな姿かたちをし

ているのか気になります。このように、文章と

写真とを響き合わせて読んでいくことにより、

ここで例示された以外の和菓子についての興

味や、茶道の世界、俳句や他の年中行事にも興

味が広がっていきます。こうした構成の上手さ

も《説得の論法》と言えます。

それにしても、「野分」や「ふき寄せ」に秋

の風情を感じる日本文化の繊細さや感性には

驚かされます。そしてそうした風情、「わびさ

び」を和菓子に込めて表現できたからこそ、茶

道という日本独自の文化も発展してくること

ができたのであり、茶道の発展がまた和菓子の

文化を洗練されたものへと押し上げてきたの

です。茶道と和菓子文化の発展には《相関関係》

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があります。

《着眼点》は、〈見た目の印象〉と〈言葉の

ひびき〉です。写真を見たり、一つひとつの名

前を声に出して読むうち、「一体、どうやって

作ったんだろう」という声も上がりそうです。

⑫段落は、〈このように、〉という接続語でつ

ないでここまでの内容をまとめています。ここ

に書かれた文はとてもシンプルですが、ここま

で頭と心を動かしながら読んできた読者は、実

感を持ってよく理解できます。

〈では、〉と話題を転換して、〈その和菓子の

文化は、どのような人に支えられ、受けつがれ

てきたのでしょうか〉という、つづき(三)の

《観点》を提示しています。これは、「はじめ」

に書かれていたことと照応していますし、和菓

子の美しい造形にふれた読者からも自然に出

てくる問いでもあります。いよいよ、三つ目の

観点、「和菓子の文化を人々がどう受けついで

きたのか」についてさぐっていきます。

【つづき(三)(⑫途中~⑯段落)】

〈和菓子の文化〉を受けついできた人々とし

て〈まず〉思いつくのは実際に和菓子を作る和

菓子職人です。⑬段落では、和菓子職人につい

て、ここまで説明してきた、歴史と文化との関

わりをふまえながら、述べています。「包む」「焼

く」「流す」などの動作(技術)を非常に端的

に分かりやすく表現しています。

和菓子職人が、和菓子作りの技術を受けつい

できたことは容易に理解できますが、〈技術を

みがくだけでなく、季節ごとの自然の変化を感

じ取ったり、ほかの日本文化に親しんだりする

ことで、和菓子作りに必要な感性を養います。〉

とはどういうことでしょうか。この部分を納得

して読むためには、⑧から⑪段落の読みが重要

になります。子どもたちが和菓子を通して、

人々の願いや季節の風情を十分に感じること

ができていれば、それを作った和菓子職人が

人々の願いや思いを大切にしていることや季

節の微妙な変化を感じ取る鋭い感性が必要な

ことも十分に納得がいくことでしょう。こうし

た段落相互の関係を学ぶことも大切なことで

す。 ⑭

段落では、〈また、・・・さらに、〉と畳み

かける形で、和菓子そのものを作る職人から、

和菓子作りに必要な道具や材料の担い手に目

を移します。写真の効果も巧みです。「木型」

を使って、和菓子を作る和菓子職人の手元、そ

して「木型」を作る道具職人の手元へと読者の

視線が自然に流れていきます。「三角べら」や

「和ばさみ」「木型」などの道具は日常生活で

はあまり馴染みがありません。いかにも日本の

伝統工芸という感じがします。

和菓子を作るためには、道具の他に材料が必

要です。〈さらに〉と続けて、あずきや寒天、

くず粉などの材料についても説明していきま

すが、ここでも〈手作業〉が注目されます。文

字通り、これらの人々の手によって和菓子は受

けつがれてきたことが《類比》されています。

しかし、ここまでくると、読者の日常からは

少し離れた印象があるのではないでしょうか。

「これらの人がもしいなくなったら?」「後継

者がいなかったとしたら?」と《仮定》して考

えてみるのも考えを深める上で有効です。「自

分がその後継者候補に名乗りを上げよう」とい

う子どもも出てくるかもしれません。しかし、

まだまだ多くの子どもたちにとっては遠い存

在です。

そこで、⑮段落では、和菓子を味わい楽しむ

一般の多くの人に目を向けます。〈食べる人が

いなければ、和菓子はいずれなくなってしまう

のではないでしょうか。〉と問われれば、「確か

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に」と頷かざるを得ません。このことで、読者

自身も和菓子文化を支える大事な担い手とし

て巻き込まれることになります。確かに、どん

なに素晴らしい和菓子を作ってもそれを食べ

る人、楽しむ人がいなければなくなってしまい

ます。しかも、〈味わい楽しむ〉だけでいいと

なれば俄然やる気が出ます。読者は、当事者と

して文章にぐっと引きつけられます。

ただし、〈味わい楽しむ〉とは、ただ食べれ

ばいいという訳ではありません。ここまで読ん

できたように、和菓子を通して季節の風情やわ

びさびを感じたり、和菓子に願いや思いをこめ

たりしながら「和の文化」を継承していく必要

があるのです。〈わたしたちが季節の和菓子を

味わったり、年中行事に合わせて作ったり〉と

はそういう意味を含んでいるのです。

和菓子を楽しむ人や機会が増えれば、それだ

け和菓子の文化も盛んになります。和菓子づく

りに関わる人々と、わたしたち消費者とを《相

関的》にとらえた時、ただ食べるだけと思って

いた「わたしたち」の役割が、文化の担い手と

して大きな意味を持ってきます。

【おわり(⑯⑰段落)】

⑯段落は、〈このように、〉とこれまでの文章

をまとめています。多少、大仰な表現のように

も感じられますが、ここまでの文章を実感をと

もなって読んできた読者にとっては、納得のい

く文章になっているのではないでしょうか。逆

に言うと、それだけ大それた世界を和菓子を通

して見ることができるというわけです。

ここで、和菓子からそれ以外の身の回りの

〈受けつがれてきた和の文化〉に目を移します。

「文化」と言われると、格式ばったものや改ま

ったものを思い浮かべるかもしれませんが、私

たちが日常生活で和菓子を楽しむのと同様に、

〈わたしたちの毎日の生活の中に〉こそ、私た

ちが受けついできた文化があるのです。ここで

例示された〈筆やろうそく、焼き物やしっ器、

和紙、織物〉などは、少し気を付けてみれば、

どれも私たちの日常生活と関わりのあるもの

です。

文章全体を通して、読者は、和菓子について、

歴史や文化との関わり、それをどう受けついで

きたかをさぐってきました。そうすることで得

た文化のとらえ方や考え方を使って、その他の

文化についてもさぐることができるというわ

けです。子どもたちも、日本の文化の担い手と

して、主体的に考えていきたいと思うのではな

いでしょうか。

〈わたしたちもまた、日本の文化を受けつい

でいくことができるのです。〉という文でしめ

くくられています。これは、題名が「和の文化

を受けつぐ―和菓子をさぐる」となっているこ

ととも首尾照応しています。説明文は観点を絞

って書かれていますから、〈日本の文化〉とな

っていますが、ここで学んだとらえ方や考え方

は、当然、他の文化をさぐる(認識する)際に

も生かされるはずです。

ここで、「和の文化を受けつぐ」の意味をも

う一度とらえ直したいと思います。題名を読ん

だ時、伝統工芸の職人や限られた特別な人が、

昔から変化することなく連綿と続いてきた伝

統文化を、粛々と受け継いでいくという印象が

少なからずあったと思います。

ところが、和菓子は、その長い歴史の中で

様々に変化発展してきました。そして、和菓子

職人や道具、材料などの作り手とともに、変化

発展を支えてきたのは、世間一般の人々でした。

つまり、文化とは、私たちの生活とかけ離れた

所に存在するのではなく、日々の生活に密接に

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結びついた所でこそ発展していくということ

が言えます。人々の思いや願い、季節の変化や

風情を感じる感性、そういったものの積み重ね

の上に文化は成立しているのです。

そうとらえた時、わたしたち一人ひとりの姿

が、文化を担う主体者として立ち上がって来る

のではないでしょうか。

わたしたちは、何をこそ「受け継いで」いく

べきなのでしょう。これまでの時代がそうであ

ったように、和菓子は変化発展を続けています。

ミントやチョコレート、オリーブオイルなどの

「洋」の材料を使って作られたものや、洋食や

ワインとともに和菓子を取り合わせたり、和菓

子づくりの手法が洋菓子作りに応用されたり

もしています。

「ネオ和菓子」とも呼ばれる現代の和菓子で

すが、姿形が変わっても、私たちが和菓子を楽

しむ心、美を感じる心は太古の昔から共通した

ものと言えるのではないでしょうか。《条件》

が違えば、食べる和菓子も食べ方も変化します。

しかし、和菓子を食べる場面には、当然私たち

のくらしがあります。どんなくらしの上に和菓

子を味わう場面があるのか、そこにどんな思い

を込めるのかと、考えてみることも和菓子の文

化を受けつぐことの一つです。私たちの今の生

活の中で感じた季節の変化、今を生きる私たち

の思いを反映させながら和菓子を変化させて

いくことも、「受け継ぐ」ことなのではないで

しょうか。そこに新しいものを取り入れる遊び

心や好奇心もまた受け継ぐべき文化と言える

かも知れません。

三.この教材でどんな力を育てるか

(一)表現の方法(説得の論法)

・《仕掛》のある文章表現(「問い」と「観点」)

読者に興味・関心を抱かせ、続きを読みたく

させる工夫を《仕掛》といいます。「問いを出

す」というのは、代表的な《仕掛》です。本教

材では、②段落〈和菓子は、どのようにしてそ

の形を確立していったのでしょうか。〉と⑫段

落、〈では、その和菓子の文化は、どのような

人に支えられ、受けつがれてきたのでしょう

か。〉という、二つの大きな問いを読者に投げ

かけています。こう問われては、読者としては、

その答えを考えざるを得ません。そして、その

答えを求めて、つづきを読むことになります。

つまり、問いを出すということは、《仕掛》で

もあり、そこから先に書かれていることを読む

際の《観点》を示すことでもあるのです。

・現在形の文末表現

通常は、日常の反復動作や真理・法則などを

現在形で表し、過去の出来事は過去形で表しま

す。この文章では、順を追って和菓子の歴史的

経緯を説明する際にも現在形が多用されてい

ます。このことで、和菓子の変化発展を、ただ

過去の事実としてとらえるだけでなく、現在と

つながっている、関わりのある出来事として感

じられます。また、和菓子に限らず、筆や漆器

など他の「和の文化」についても、《類比》し

てみることで「文化を受けつぐ」共通のプロセ

スが見えてくるのではないでしょうか。

〈のです。〉という強調の文末表現や、〈確立

していったのでしょうか。〉〈ないでしょうか。〉

などの問いかけ、〈見てみましょう。〉のような

誘いかける表現も効果的に使われています。

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・つなぎ言葉

〈まず〉〈次に〉〈また〉〈このように〉など

のつなぎ言葉が効果的に使われていることで

文章の流れがとても分かりやすくなっていま

す。また、⑧段落と⑨段落、⑩段落と⑪段落の

ように、抽象化した段落と具体例がセットにな

っていることで分かりやすくより説得力のあ

る文章となっています。

・説明の順序

和菓子の歴史について、和菓子の起源から時

系列で説明しています。当たり前のようではあ

りますが、順序よく説明していくことは、文章

を分かりやすくする上で大切なことです。また、

〈一つ目は、・・・二つ目は・・・〉と列挙し

ていくのも、文章を分かりやすくするのに効果

的です。

和菓子文化の担い手として、和菓子職人、道

具や材料を作る人、味わい楽しむ多くの人々、

の《順序》で説明しています。簡単に思いつく

和菓子職人から説明することで分かりやすく

読み進めることができます。そして、和菓子と

《関連》する他の仕事の担い手へと読者の視野

を広げていきます。しかし、ここまでだと、読

者にとっては、自分の日常とかけ離れた話題に

なってしまいます。そこで、読者を含めた一般

の多くの人たちについて言及することで読者

の興味・関心を引き寄せることができます。同

時に、「自分も文化の担い手なんだ」という主

体的・積極的な気持ちも湧き上がってきます。

・写真・図表の効果

説明文は、文章だけで構成されているわけで

はありません。文章を補ったり、読者に、視覚

的・感覚的理解を促すためにも写真や図表は効

果的です。また、本教材では、本文に書かれて

いる内容と写真との微妙なズレも効果的に使

われています。そうすることで、読者に疑問を

持たせたり、そこに書かれている事柄以外に興

味・関心を広げさせたりする効果を生んでいま

す。

(二)認識の方法

・順序

和菓子の発展の歴史について、古い方から順

に説明されています。時系列にそって、説明す

ると分かりやすいというのは、低学年でつけて

おくべき認識の方法です。「つづき(三)」のと

ころで、対読者意識を持ちながら、和菓子職人、

道具や材料を作る人、多くの人々の順で説明し

ていることの意味や効果についても考えたい

と思います。

・構造・関係・機能

題名には、題名の構造、ことば同士の関係が

あり、そこから生まれる機能があります。仕組

(構造・関係)は仕掛(機能)と表裏一体とな

っているのです。段落相互の関係や説明の順序

についてもきちんと機能があるのです。また、

図表や写真の効果も文章と関連させながらと

らえていく必要があります。ただ単に、文章の

構成を表にまとめるだけの活動に終わらず、一

つ一つの段落を響き合わせ、重ね合わせて読み

進めたり、構造・関係・機能を意識して文章の

巧さを実感しながらとらえていきたいと思い

ます。

・条件

人やものごとの姿、意味や価値は固定的、画

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一的に決まっているわけではありません。状況

や他のものとの関係によってもののあり方は

かわってあらわれます。条件的なものの見方・

考え方を身につけることによって人間やもの

ごとをより深く理解することができます。条件

的なものの見方・考え方にも色々ありますが、

「時・所・人(もの)による条件」というもの

の見方・考え方をおさえることが大切です。「ほ

かならぬ〇〇だからこそ」というふうに考える

と分かりやすいです。

例えば、「和菓子」の歴史を探る際、和菓子

はその時代の条件によって様々に変化発展し

てきました。太古の昔の「菓子」は季節という

条件によって種類や量も大きく変化したはず

です。江戸時代には、鎖国という条件があった

からこそ、日本固有の和菓子が発展したと言え

ます。

また、南蛮貿易をささえた長崎という場所だ

からこそカステラが受けつがれてきたという

こともあるでしょう。

勿論、和菓子を受けついでいくのは、人です。

和菓子職人は、それぞれの感性や経験で趣向を

凝らした和菓子を作り伝えてきたでしょうし、

わたしたちもまたそれぞれのやり方で和菓子

を味わい楽しんできました。

様々な条件により、変化発展してきた和菓子

ですが、そこに人々が思いや願いをこめてきた、

美を感じてきたという本質は変わりません。物

事を一面的にとらえず、条件的にとらえながら

も、類比されていることをおさえていくことで、

ものごとの本質をより深く理解することがで

きるのです。

・選択

高学年ともなると、情報を正しく伝えるだけ

ではなく、より効果的な、説得力のある表現方

法を《選択》できる力が大切になってきます。

どういった《観点》で、どんな表現を《選択》

するかという認識の方法は意識していく必要

があるのではないでしょうか。

この教材は、「和の文化を受けつぐ」主体者

としての意識を読者に芽生えさせるのがねら

いです。和菓子ではなく、筆やろうそくでも良

かったはずですが、筆者はあえて、和菓子を《選

択》しています。題名のつけ方や、写真の効果、

そして、本文と響き合わせてどんな和菓子の写

真を《選択》すればいいか、など筆者のねらい

に《関連》して沢山の《選択》をしていること

がわかります。

・関連

この教材では、和菓子と他の文化とを《関連》

づけて説明しています。人々は、暮らしの中で、

子どもの成長や家族の健康など、願いや思いを

和菓子と関連づけたり、和菓子を季節の風景や

植物に見立てたりして、四季折々の風情を楽し

んできました。

このように、本来は直接関係がなかったり明

確な因果関係のないようなもの同士を結び付

けて考えたりすることで、豊かなイメージや意

味を生み出すものの見方・考え方を《関連》と

いいます。

・相関

《関連》が直接関係のないもの同士を意味と

イメージの上で結びつけるのに対し、一方が変

わればもう一方もつれ合って変わるような関

係を《相関》と言います。

例えば、茶道は日本の伝統的文化の一つです

が、茶道の発展と和菓子の発展とは密接不可分

です。

⑮段落で説明されているように、いくら腕の

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いい和菓子職人がいても多くの人々が年中行

事や季節の変化を楽しまなくなってしまって

は、いずれ和菓子はなくなってしまうかもしれ

ません。逆に、和菓子を楽しむ人が増えること

で和菓子の文化も変化発展することができる

のです。このことは、和菓子に限ったことでは

なく、身の回りの様々な物事との関わりにも共

通することです。

文化とは、人々の思いや願いとかけ離れたと

ころに存在するものではありません。人々の

日々の生活やくらしの中で育まれていくもの

なのです。文化の担い手として、「作る人」に

のみ目が行きがちですが、「使う人」の存在も

重要なのです。文化は、「作る人」と「使う人」

の《相関関係》において受けつがれていくのだ

ということに気づかせたいと思います。

また、《認識の方法(もの見方・考え方)》は

それぞれが、個別に並列的にあるわけではあり

ません。子どもたちは、より初歩的・基礎的な

認識の方法をふまえて行きつ戻りつしながら、

発展的に高度な《認識の方法》が使えるように

なっていきます。

例えば、つづき(三)の説明の《順序》を変

えたり、一般の多くの人々について説明しなか

ったと《仮定》するとどうなるか考えたりする

ことで、より効果的な文章構成を《選択》でき

るようになるわけです。クラスの子どもたちの

実態に応じて発達段階を意識しながら、ものの

見方・考え方を丁寧に積み上げていくことが大

切です。

※その他、《認識の方法(ものの見方・考え方)》

は、大会冊子「関連系統指導案」を参照してく

ださい。

(三)表現の内容(主題)

日本の伝統的な文化の一つである和菓子は、

太古の昔から様々な外国の文化の影響を受け

ながら変化発展してきた。また、人々は、和菓

子に様々な思いや願いをこめたり、四季折々の

風情を織り込んだりして味わってきた。

和菓子の文化は、和菓子職人や和菓子作りの

道具や材料を作る人は勿論のこと、和菓子を味

わい楽しむ多くの人の手によって受けつがれ

てきた。

和菓子に限らず、和の文化は、わたしたちの

生活の中で受けつがれてきた。その歴史や他の

文化との関わり、それを支える人々について考

えることで、わたしたちもまた日本の文化を受

けついでいくことができる。

(四)認識の内容(思想)

文化とは、人々の願いやくらしと密接に関わ

りながら、「作る人」と「使う人」の相関関係

の中で変化発展してきた。それを未来へと「受

けついで」いく主体者は、わたしたち一人ひと

りなのである。

(五)典型をめざす読み

「伝統的な文化」と言うと、古めかしく格式

ばっていて、日々の生活とかけ離れたものとい

う印象を受けがちですが、実は、文化は、様々

な影響を受けながら変化発展してきたもので

あり、しかも、人々の日々の生活の中でこそ育

まれるものなのです。

「文化を受けつぐ」とは、形式を頑なに守り

続けることではありません。むしろ、様々な関

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わり合いの中で、変化発展していくところに文

化の本質があります。大切なのは、その土地に

生きる人々が気候風土を愛してきた心や、より

よく生きたいと願う人々の思いや願いを受け

つぐことです。そこに生きてきた人々の日々の

くらしの蓄積が文化であるならば、今を生きる

私たちもまた文化の担い手であるのです。

子どもたちにも、自分自身が文化の担い手で

あるということに気づかせ、先人の思いや願い

をしっかりと受け止め、また次代へと伝えてい

く主体者として、自己と自己をとりまく世界と

をよりよいものへと変革する主体者として、自

分自身の生活を意味づけていきたいと思いま

す。

「文化を受けつぐ」というと、大それたこと

のように思いますが、日々の生活を大切にする

こと、ふとした瞬間に感じる美を大切にするこ

と言い換えてもいいかもしれません。

目まぐるしく変化する現代社会において、大

人も子どもも、せわしなく慌ただしく日常生活

を送っています。ともすると殺伐とした空気の

中忙しさに心をなくしてしまいがちです。そん

な時に、ふと季節の変化を感じて立ち止まった

り、料理の盛り付けの美しさや見立ての面白さ

を感じたり、些細な日常の習慣の由来に興味を

持って調べてみたり。そうした少しの心のゆと

りを大切にすることも文化を大切にすること

なのではないでしょうか。そして、自分の感じ

た文化に創意工夫を加え、自分なりの形で表現

し伝えていけるよう育ってほしいと思います。