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21 サー 域における サー 『運 22

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平成 21年度サービス産業生産性向上支援調査事業

「中国地域における重層的なサービス産業 生産性向上『運動』展開事業」

報告書

平成22年3月

中国経済産業局

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目 次

Ⅰ.調査事業の実施方針等 1.事業の目的、趣旨 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 (1)目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 (2)事業の視点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 2.事業内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4

Ⅱ.「トライアルの重層化」に向けた取り組み

1.概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5 2.アンケート調査結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 (1)相談窓口・専門家派遣件数(平成 20 年度) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 (2)窓口相談・専門家派遣が多い業種 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 (3)窓口相談・専門家派遣が多いテーマ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 (4)生産性向上支援の対応 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9 (5)対応可能な手段 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10 (6)窓口相談件数 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11 (7)職員数 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12 (8)必要な人材 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13 (9)支援拡大における問題点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14 (10)人材確保・育成における問題点の解決方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15 (11)情報交換や連携を深める際の問題点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16 (12)実施または拡大したい支援策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17 (13)運動のメリット ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18 (14)運動への協力事項 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19 (15)運動への参加・協力 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19 (16)その他(自由記述欄) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20 3.支援事例のヒアリング調査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21 4.ハンズオン支援の実施 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31 5.モデル研修開催 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43 (1)開催内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43 (2)アンケート結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 46 6.まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 48

Ⅲ.「普及啓発の重層化」に向けた取り組み

1.概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 50 2.座談会 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 51 (1)ハイ・サービス日本 300 選を受賞した経営者の取り組み紹介 ・・・・・・・・・・・・・ 51 (2)サービス産業全体への生産性向上運動の拡大について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 53 3.ミニ・セミナー開催 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 54 (1)開催日程・スケジュール ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 54 (2)各セミナーの参加人数 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 54 (3)各講演の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 55 (4)アンケート結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 57 4.まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 59

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Ⅳ.「人材・つながりの重層化」に向けた取り組み

1.概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 60 2.運動への賛同が期待される業界団体へのヒアリング調査結果 ・・・・・・・・・・・・・・・ 61 (1)業界の課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 61 (2)会員の相談相手 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 62 (3)支援ネットワークとの連携等に関する意見 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 63 3.専門家養成研修開催 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 64 (1)開催内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 64 (2)アンケート結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 67 4.日本経営システム学会中国四国支部との連携 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 69 5.まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 70

Ⅴ.今後の課題と方向性

1.課題の整理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 71 2.今後の方向性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 72 (1)サービス産業生産性向上運動の3つの柱の推進と仕組みの強化 ・・・・・・・・・・・ 72 (2)中小企業の支援の拡充 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 73 (3)科学的・工学的手法の導入 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 74 ◎サービス産業の生産性向上に向けた支援の進め方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 75 1.基本的な考え方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 76 2.具体的な支援方法例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 81

資料編 ○株式会社油谷湾温泉ホテル楊貴館関連資料 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 90 ○服島運輸株式会社関連資料 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 97 ○第一タクシー株式会社関連資料 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 110 ○アクト中食株式会社関連資料 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 118 ○株式会社ププレひまわり関連資料 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 124 ○ビルメンテナンス業の生産性向上研修 『組織を活性化させる4つの理念と8つの視点』 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 130

○建設コンサルタント業の生産性向上研修 『TOC-CCPMと現場力の引き出し方』 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 139

『生産性向上の事例演習』 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 144 『何がPM/CMか、なぜPM/CMか』 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 146 ○座談会 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 151 ○ サービス産業生産性向上セミナー 『現場カイゼンで顧客満足度向上!』 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 165

『人時生産性の考え方』 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 170 『見える化で勝ち抜く』 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 176 『組織のダイナミズムをどう高めたか』 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 181 ○コーディネーター・プロジェクトマネージャー向け研修 (独)中小企業基盤整備機構 森 紀男氏 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 187

(独)中小企業基盤整備機構 泉 旦茂氏 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 191

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対談 ㈱油谷湾温泉ホテル楊貴館 代表取締役社長 岡藤 智加子氏 (独)中小企業基盤整備機構 泉 旦茂氏 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 196

(独)中小企業基盤整備機構 綿岡 英幸氏 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 201 対談 アクト中食㈱ 代表取締役専務 平岩 宏隆氏

(独)中小企業基盤整備機構 増岡 洋氏 (独)中小企業基盤整備機構 綿岡 英幸氏 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 205

(財)ひろぎん経済研究所 遠山 文雄氏 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 210

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Ⅰ.調査事業の実施方針等 1. 事業の目的、趣旨 (1)目的 中国地域は全国に先駆けて人口減少・高齢化が進んでおり、また、サービス部門の域

際収支が大幅なマイナスとなるなど、サービス産業のイノベーションによる新たなビジ

ネス創出及びサービス現場における生産性向上が重要な課題となっている。 このような中、中国経済産業局では平成 20 年度、サービス産業の生産性向上等に取り組むサービス業へのハンズオン支援をモデル実施するとともに、各産業支援機関の有

機的な連携による「プラットフォーム」形成について検討を実施した。 この結果、①サービス産業の生産性向上は未だ社会的認知が不十分であり、幅広い普

及啓発や「気付き」喚起に取り組むこと、②実際の支援事例や成功事例を輩出すること

で、支援する側・される側の双方にノウハウを蓄積していくこと、③サービス産業を支

援できる専門家を育成すること、及び専門家や支援機関同士の「顔の見える」つながり

と信頼関係を構築していくこと、がそれぞれ必要・重要であり対応を図るべき、との結

論を得た。 このことから、平成 21 年度においてサービス産業生産性向上の「運動」として以下の事業に取り組み、中国地域におけるサービス産業支援のノウハウ蓄積と基盤構築を図

る。

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(2)事業の視点 「(1)目的」で述べたサービス産業を支援する仕組み(以下「支援ネットワーク」)

を中国地域において構築するためには、下図にある「普及啓発」、「トライアル(モデル

事例づくり)」、「人材・つながり」の「3本柱」それぞれにおいて、ノウハウやエッセン

スを層を重ねるように蓄積していくとともに、さらにこれら「3本柱」を有機的に結び

つけることで質を高めていくスパイラルアップの好循環を創出することが求められる。 このうち普及啓発、トライアル、人材・つながりを有機的に結びつける手法としては

下図のようなものが考えられる。本年度の生産性向上「運動」をスパイラルアップな環

境構築の萌芽とするため、各種セミナーや研修等において、普及啓発、トライアル、人

材・つながりを下図のような形で結びつけるうえで聴講者や受講者等の協力が不可欠で

あることを説明し、本運動の普及啓発に協力して頂くように要請する。

トライアルの重層化

人材・つながりの重層化

普及啓発の重層化

複数の支援機関と専門家による  モデル事例づくりを通じた   人材育成・ノウハウの共有化

育成した人材の活用によるモデル事例づくりの加速

育成した人材を通じた支援対象企業等への情報発信

モデル事例の発表等を通じた、支援機関のマネージャーや専門家の情報交換の活性化と各種研修への参加者の拡大

モデル事例と その解決に用いた手法の発表

普及啓発による企業からの相談件数の拡大、支援機関やマネージャーのモデル事例づくりへの参加拡大

図表Ⅰ-1 中国地域におけるサービス産業生産性向上「運動」の展開

図表Ⅰ-2 サービス産業生産性向上「運動」の 3本柱の有機的な結びつき

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中国地域におけるサービス産業の支援ネットワークとしては下図のようなコンセプト

が考えられるが、参画を期待する多様な各機関においては生産性向上への取組意欲に違

いがみられるほか、サービス産業支援に対する認識が未だ不十分であるため、スパイラ

ルアップの仕組みをつくるには工夫が必要である。 そこで、支援ネットワークを形成する初期段階においては、地域力連携拠点を設置し

ている機関がコアとなり、他の機関に運動を拡大することが望ましい。スパイラルアッ

プの仕組みを構築する際には、地域力連携拠点を中心として相互にメリットを提供しな

がら Win-Win の関係を構築し、支援ネットワーク形成を推進するコアとして強固に連携

することが必要であり、本事業においてもその一部を検証する。

県・市産業振興財団

大学学会

自治体

運動を拡大

運動を拡大

運動を拡大

≪地域力連携拠点全国拠点≫

中小企業基盤整備機構

運営合議体

    ≪地域力連携拠点≫     商工会議所     商工会、同連合会     県・市産業振興財団     中小企業診断協会等

≪地域力連携拠点≫金融機関

幅広い専門家の提供

地域の協力を要する案件の紹介

広域案件の紹介

      サービス産業の   指導ノウハウの提供

指導案件の紹介

融資案件の紹介

全国的な  マッチング案件    の紹介

 地元でのマッチング  案件の    紹介

指導案件の    紹介

融資案件の紹介

支援ネットワークのコア(=地域力連携拠点)

業界団体

税理士

公認会計士

金融機関商工会議所商工会

地域力連携拠点以外の機関

運動を拡大

運動を拡大

運動を拡大

運動を拡大 運動を拡大

運動を拡

運動を拡大

運動を拡大

サービス産業(法人企業・個人企業)

支援 支援 支援

図表Ⅰ-3 サービス産業支援ネットワークのイメージ

図表Ⅰ-4 地域力連携拠点をコアとした「運動」の展開

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2. 事業内容 平成 21年度の事業内容の全体像をまとめると、下図の通りである。

図表Ⅰ-5 事業内容の全体像(案)

(1)

(2)

(1)

(2)

(3

(1

(2

(3

<「人材」「つながり」 の重層化>

中国地域におけるサービス産業支援ネットワーク体制の構築

工学的アプローチによる指導ノウハウの体系化による人材育成

地域におけるサービス産業生産性向上の取り組みの実態把握

サービス産業支援の専門家人材の育成

<普及啓発の重層化>

<トライアル(モデル 支援等)の重層化>

個別の分野・業界等と連携した実践研修の実施

「ミニ・セミナー」の開催

ハンズオン支援の実施

「300選クラブ」による「座談会」の実施および情報発信

平成22年12月 1月 2月 3月

平成21年10月 11月7月 8月 9月

ミニ・セミナー

ミニ・セミナー

ミニ・セミナー

医療・健康

流通

観光

運輸

その他サービス

モデル研修(3回)

ヒアリング

座談会

ひろぎん経済研究所の調査月報でのセミナー(ミニ・セミナーも含む)と300選クラブ座談会の議事録の掲載

研修受講者の募集

優良事例のミニセミナーでの発表

300選クラブ9社中国経済産業局長中国経済産業局幹部

各モデルとも専門家2名を、各3~4回派遣必要に応じて事業者マッチング、現場見学等を実施

モデル研修(3回)

講師:中小企業基盤整備機構   同機構の支援対象企業   中国地域の先進事例企業等対象:関連業界企業回数:2分野、各3回シリーズ人数:10~20人

セミナー

交流会 交流会 交流会

交流会

交流会

専門家養成研修(3回)

専門家養成研修(3回)

交流会

交流会

研修受講者の募集

交流会

研修受講者の募集

交流会

アンケートヒアリング

講師:300選クラブ企業   中国地方経営品質賞受賞企業   先進事例企業   支援機関   大学の研究者対象:関連業界企業   支援機関マネージャー   専門家 他人数:60人

講師:中小企業基盤整備機構   同機構の支援対象企業   中国地域の先進事例企業等対象:支援機関のマネージャー   専門家回数:2分野、各3回シリーズ人数:10~20人

講師:日本システム経営学会   上記学会以外の大学の研究者   先進事例企業対象:関連業界企業   支援機関のマネージャー   専門家人数:60人

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Ⅱ.「トライアルの重層化」に向けた取り組み 1.概要

本事業の3つの柱のうち「トライアルの重層化」とは、個別企業のハンズオン支援を通じたモ

デル事例の創出や、複数のモデル事例を分野別に積み上げて分析するケーススタディなど、モデ

ル事例に関する実証や考察を多面的に実施することである。 これにより、同業他社においても、自社の経営が旧態依然としていることに気づいたり、経営

改革の参考情報として活用したりするなど、トライアルで得られる情報やノウハウを水平展開す

ることが期待される。 「トライアルの重層化」のフェイズで創出されたモデル事例に関する情報とノウハウは、「普及

啓発の重層化」のフェイズにおいて実証事例としてセミナーで情報発信したり、「人材・つながり

の重層化」のフェイズにおいて人と人をつなぐ媒体として活用したり、人材育成の教材として利

用する。このように、「トライアルの重層化」は、3つの柱の中でも最も基礎的な要素を有してい

ることから、本報告書においても、最初に当該フェイズについて紹介する。

図表Ⅱ-1 トライアルの重層化

ここでは、「トライアルの重層化」として本年度事業の中で実施した以下の項目を説明する。 ○地域におけるサービス産業生産性向上への取り組みの実態把握 a)地域力連携拠点をはじめとする支援機関を対象とするアンケート調査 b)上記アンケート調査結果を踏まえた支援事例のヒアリング調査 ○ハンズオン支援の実施 c)専門家派遣によるハンズオン支援

(医療・健康、流通、観光、運輸、その他サービスなどの分野から対象企業を選定) ○モデル研修 d)個別の分野・業界等と連携した実践研修の実施

普及啓発の重層化 トライアルの重層化 人材・つながりの重層化

中国地域におけるサービス産業生産性向上「運動」の展開

各々のノウハウがフィードバックし合う「スパイラルアップ」な環境の構築

サービス・イノベーションセミナーの開催(「気付き」の喚起)

対象を絞ったセミナー等の開催(「課題」の発見)

個別ハンズオン支援のモデル実施

分野別のサービス生産性向上モデルのケーススタディー

サービス産業支援の専門家人材の育成

人と人との繋がり、機関と

機関との繋がりを構築する

「場」 づくり事業の実施

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2.アンケート調査結果

中国地域の各産業支援機関におけるサービス産業からの相談状況及び対応状

況を把握するため、以下のアンケート調査を実施した。

【アンケート調査の概要】

○調査対象:中国地域内の地域力連携拠点、商工会議所、商工会、

各県市の産業振興財団 343 カ所

○調査時期:09 年 8 月~9 月

○調査方法:郵送によるアンケート方式

○回収状況:有効回答数 126 カ所(有効回答率 36.7%)

(1)窓口相談・専門家派遣件数(平成 20 年度)

平成 20 年度における窓口相談・専門家派遣の全件数を尋ねたところ 118 カ

所の回答(注)があり、「100~499 件」と「1,000 件~」がともに 33.9%と最

も大きい割合を占めている。

そのうちサービス産業を対象とした件数を尋ねたところ 117 カ所の回答が

あり、「100~499 件」が 42.7%(50 カ所)と最も多い。 (注)商工会の本所と支所が件数を重複して回答したものが2件あったため、これを除外し

て集計。

図表Ⅱ-2 窓口相談・専門家派遣件数 (平成 20 年度)

図表Ⅱ-3 うちサービス産業の件数 (平成 20 年度)

1000件~

33.9%

(40カ所)

500~999件

17.8%(21カ所)

100~499件

33.9%

(40カ所)

1~99件

12.7%

(15カ所)

0件

1.7%

(2カ所)

回答数118カ所

1000件~

10.3%

(12カ所)

500~999件

14.5%

(17カ所)

100~499件

42.7%

(50カ所)

1~99件

29.1%

(34カ所)

0件

3.4%

(4カ所)

回答数117カ所

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(2)窓口相談・専門家派遣が多い業種

サービス産業のなかで、窓口相談・専門家派遣の件数が多い業種(上位3

つ)を尋ねたところ 121 カ所の回答があり、「小売」が 87.6%と最も多く、

次いで「宿泊・飲食」(75.2%)、「個人向けサービス」(46.3%)などの順と

なっている。

図表Ⅱ-4 窓口相談・専門家派遣が多い業種(複数回答)

87.6

75.2

46.3

23.1

16.5

10.7

9.1

6.6

4.1

0.8

0.8

0.8

0.8

5.8

0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0

小売

宿泊・飲食

個人向けサービス

事業向けサービス

卸売

通信・情報サービス・IT

運輸

専門サービス

医療・福祉・介護

金融・保険

不動産・物品賃貸

娯楽

教育・学習支援

その他 回答数121カ所

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(3)窓口相談・専門家派遣が多いテーマ

サービス産業のなかで、窓口相談・専門家派遣の件数が多いテーマ(3つ)

を尋ねたところ 122 カ所の回答があり、「資金繰り・資金調達」が 77.0%と

最も多く、次いで「税務・法律相談」(43.4%)、「販売促進」(32.8%)、「事

業計画の策定」(23.0%)の順に多い。

図表Ⅱ-5 窓口相談・専門家派遣が多いテーマ(複数回答)

77.0

43.4

32.8

23.0

19.7

18.9

18.0

8.2

6.6

5.7

5.7

5.7

4.9

4.1

4.1

3.3

2.5

1.6

1.6

0.8

0.8

0.8

0.8

0.0

0.0

0.0

0.0

0.0

0.0

0.0

0.0

0.0

4.1

0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0

資金繰り・資金調達

税務・法律相談

販売促進

事業計画の策定

販路開拓

人事・労務

財務内容の改善

ホームページ制作

新規創業

サービス内容見直し

ITの導入

設備・機械の導入

新商品開発

顧客満足の向上

事業承継

店舗改装

従業員教育

広報・宣伝

事業再生

作業効率の向上

在庫管理の向上

事業の多角化

業態転換

リスク管理

ISOなどの認証取得

知的財産

市場調査

品質管理の向上

省エネルギー

環境対策

仕入先の開拓

株式公開

その他回答数122カ所

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(4)生産性向上支援の対応

製造業の製造管理ノウハウを活用したサービス産業の生産性向上の手法と

して考えられる 11 種類の手法(下図参照)(注)によりサービス産業の窓口相

談・専門家派遣を実施した経験について尋ねたところ、「顧客ニーズに適合し

た新サービスの開発体制の構築」、「自動化設備やITの活用による効率化」等

の手法で「実施したことがある」と回答した割合が高い。

なお、「実施したいが対応できない」との回答は、専門人材や支援ノウハウ

に対する支援機関のニーズを端的に表していると考えられる。その内訳として

は、「かんばんシステム等の活用による在庫の最適化」(23.0%)、「効率的な新

サービス開発の管理体制の構築」(23.0%)などの回答が多くみられる。 (注)経済産業省「サービス産業のイノベーションと生産性に関する研究会」報告書に掲げ

られた「製造業における製造管理ノウハウ」の分類と事例をもとに作成。

図表Ⅱ-6 生産性向上支援の対応

6.9

9.4

7.0

3.5

23.7

8.5

19.1

9.7

5.2

14.7

9.1

37.9

35.0

36.5

28.3

28.0

37.7

34.0

31.9

37.4

35.3

9.1

12.1

11.1

18.3

23.0

18.6

17.9

21.7

23.0

15.7

13.8

4.5

43.1

44.5

38.2

45.2

29.7

35.9

25.2

35.4

41.7

36.2

77.3

0% 20% 40% 60% 80% 100%

作業ごとの所要時間分析を通じた効率化

従業員の導線分析を通じた効率化

需要予測に基づいた投入する人材・資材の最適化

かんばんシステム等の活用による在庫の最適化

自動化設備やITの活用による効率化

マニュアル策定等によるサービス品質の均一化

顧客ニーズに適合した新サービスの開発体制の構築

効率的な新サービス開発の管理体制の構築

従業員の多能工化による顧客ニーズへの柔軟な対応

サービス・顧客別等の管理会計分析を通じた効率化

その他

実施したことがある 実施したことはないが対応できる

実施したいが対応できない 実施したことがない(積極的には支援しない)

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(5)対応可能な手段

図Ⅰ-5の項目で「実施したことがある」又は「実施したことはないが対

応できる」と回答された方に、「窓口相談」、「課題発掘・計画策定の専門家派

遣」、「具体的な課題解決の専門家派遣」のうち対応可能な手段を尋ねた。その

結果をみると、「課題発掘・計画策定の専門家派遣」はおおむね7~8割が対

応可能としている一方で、「具体的な課題解決の専門家派遣」は5~6割、「窓

口相談」は3~4割にとどまっている。

図表Ⅱ-7 対応可能な手段

35.2

34.0

30.2

11.6

39.1

37.3

41.9

39.2

32.7

51.7

33.3

77.8

79.2

79.2

72.1

64.1

66.1

79.0

82.4

81.6

69.0

33.3

61.1

62.3

54.7

60.5

53.1

59.3

50.0

54.9

53.1

55.2

33.3

0.0 30.0 60.0 90.0

作業ごとの所要時間分析を通じた効率化

従業員の導線分析を通じた効率化

需要予測に基づいた投入する人材・資材の最適化

かんばんシステム等の活用による在庫の最適化

自動化設備やITの活用による効率化

マニュアル策定等によるサービス品質の均一化

顧客ニーズに適合した新サービスの開発体制の構築

効率的な新サービス開発の管理体制の構築

従業員の多能工化による顧客ニーズへの柔軟な対応

サービス・顧客別等の管理会計分析を通じた効率化

その他

窓口相談課題発掘・計画策定の専門家派遣具体的な課題解決の専門家派遣

(%)

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11

(6)窓口相談件数

図Ⅰ-5の項目で「実施した

ことがある」と回答(注)した

方に、平成 19 年度以降の案件

について、「窓口相談」の件数

を尋ねたところ 40 カ所の回答

があり、「1~9件」が 47.5%

(19 カ所)と最も多く、次いで

「0件」が 20.0%(8カ所)と

多い。

「課題発掘・計画策定の専門家派遣」の件数については 39 カ所から回答が

あり、「1~9件」(56.4%、22 カ所)、「0件」(33.3%、13 カ所)などの順と

なっている。また、「具体的な課題解決の専門家派遣」の件数については 38

カ所から回答があり、「0件」(44.7%、17 カ所)、「1~9件」(42.1%、16

カ所)などの順となっている。

ちなみに、専門家派遣において「0件」の割合が高い背景には、商工会議

所と商工会で専門家の登録を本所に集約し、支所では行っていないことが多い

ためと思われる。 (注)商工会の本所と支所が件数を重複して回答したものが2件あったため、これを除外し

て集計。

図表Ⅱ-8 窓口相談件数

図表Ⅱ-9 課題発掘・計画策定の 専門家派遣

図表Ⅱ-10 具体的な課題解決の 専門家派遣

100件~

15.0%(6カ所)

50~99件

5.0%(2カ所)

10~49件

12.5%

(5カ所)1~9件

47.5%(19カ所)

0件

20.0%

(8カ所)

回答数40カ所

50~99件

0.0%10~49件

7.7%(3カ所)

100件~

2.6%(1カ所)

1~9件

56.4%

(22カ所)

0件

33.3%

(13カ所)

回答数39カ所

50~99件

0.0%

100件~

5.3%(2カ所)

10~49件

7.9%(3カ所)

1~9件

42.1%

(16カ所)

0件

44.7%

(17カ所)

回答数38カ所

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12

(7)職員数

窓口相談・専門家派遣を担当している人員のうち、常駐職員(以下コーデ

ィネーター)の人数を尋ねたところ 108 カ所の回答(注)があり、「1~4人」

が 50.9%と約半数を占めた。このうちサービス産業の生産性向上を支援でき

る人数を尋ねたところ 94 カ所から回答があり、「1~4人」が 46.9%(44 カ

所)と最も多い。

登録している専門家の人数を尋ねたところ 87 カ所から回答があり、「0人」

が 42.6%(37 カ所)と最も多い。このうちサービス産業の生産性向上を支援

できる人数を尋ねたところ 83 カ所から回答があり、「0人」が 46.9%(39 カ

所)と最も多い。 (注)商工会の本所と支所が件数を重複して回答したものが2件あったため、これを除外し

て集計。

図表Ⅱ-11 常駐職員数 図表Ⅱ-12 サービス産業生産性向上支援が

可能な常駐職員数

図表Ⅱ-13 専門家数 図表Ⅱ-14 サービス産業生産性向上支援が 可能な専門家数

50人~

1.9%(2カ所)10~49人

12.0%

(13カ所)

5~9人

18.5%

(20カ所)

1~4人

50.9%

(55カ所)

0人

16.7%

(18カ所)

回答数108カ所

10~49人

2.1%

(2カ所)

50人~

2.1%

(2カ所)5~9人

10.6%

(10カ所)

1~4人

46.9%

(44カ所)

0人

38.3%

(36カ所)

回答数94カ所

100人~

25.3%

(22カ所)

50~99人

4.6%(4カ所)10~49人

19.5%

(17カ所)

1~9人

8.0%(7カ所)

0人

42.6%

(37カ所)

回答数87カ所

100人~

1.2%(1カ所)

50~99人

20.5%

(17カ所)

10~49人

13.3%

(11カ所)

1~9人

18.1%(15カ所)

0人

46.9%

(39カ所)

回答数83カ所

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13

(8)必要な人材

どのような人材がいればサービス産業の生産性向上を支援できるかについ

て尋ねたところ 116 カ所から回答があり、「自機関に登録している専門家」が

64.7%と最も多く、次いで「他機関に登録している専門家」(57.8%)が多い。

このように、他機関のコーディネーターや専門家の協力を必要とするとの

回答が多くみられたことから、支援機関や専門家の連携を強化する必要がある

と思われる。

図表Ⅱ-15 必要な人材(複数回答)

64.7

57.8

36.2

34.5

8.6

0.9

0.0 20.0 40.0 60.0 80.0

自機関に登録している専門家

他機関に登録している専門家

他機関のコーディネーター

自機関のコーディネーター

上記①~④以外の専門家

上記①~⑤の協力があっても支援できない 回答数116カ所

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14

(9)支援拡大における問題点

サービス産業の生産性向上の支援を拡大する際の問題点を尋ねたところ

120 カ所から回答があり、「ニーズのある企業を発掘する情報が少ない」が

36.7%と最も多く、次いで「支援ノウハウの情報が少ない」(34.2%)、「受入

体制が整っていない(マニュアル等が未整備)」(30.8%)などの順となって

いる。

このことから、情報とノウハウの不足が支援拡大における大きな問題点と

なっている様子がうかがわれる。

図表Ⅱ-16 支援拡大における問題点(複数回答)

36.7

34.2

30.8

26.7

23.3

23.3

14.2

13.3

11.7

11.7

9.2

6.7

4.2

3.3

0.0 10.0 20.0 30.0 40.0

ニーズのある企業を発掘する情報が少ない

支援ノウハウの情報が少ない

受入体制が整っていない

(マニュアル等が未整備)

支援対象企業の経営者の協力が得られない

コーディネーターの経験・ノウハウが足りない

モデル事例等の情報が少ない

専門家の経験・ノウハウが足りない

サービス産業の生産性向上を

支援する方針がない

専門家の人数が足りない

予算が足りない

コーディネーターの人数が足りない

支援機関同士の情報交換ルートが

未確立である

支援対象企業の従業員の協力が得られない

その他回答数120カ所

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15

(10)人材確保・育成における問題点の解決方法

人材の確保・育成に関する問題点を解決する方法として望ましいものを尋

ねたところ 101 カ所の回答があり、「コーディネーターや専門家のデータベー

スを構築する」が 39.6%と最も多く、次いで「モデル事例のセミナーを開催

する」(31.7%)、「支援機関が集まり支援ノウハウの情報交換を行う場を設け

る」(30.7%)の順に多い。

このように、人材確保・育成における問題点を解決する方法としては、人

材・情報・ノウハウを支援機関や専門家が共有し合うことに関する項目が、

上位を占めている。

図表Ⅱ-17 人材確保・育成における問題点の解決方法(複数回答)

39.6

31.7

30.7

28.7

24.8

22.8

19.8

13.9

11.9

9.9

3.0

0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0

コーディネーターや専門家の

データベースを構築する

モデル事例のセミナーを開催する

支援機関が集まり支援ノウハウの

情報交換を行なう場を設ける

支援機関の間で専門家を紹介しあう

定型的な手法を確立する

熟練したコーディネーターや専門家と自機関の

コーディネーター等が同一企業を支援する

モデル事例を深堀した研修を開催する

予算を増やしてコーディネーターや

専門家を増員する

企業と連携してOB人材をコーディネーターや

専門家としてスカウトする

サービス産業の生産性向上を

支援する資格認定制度を設ける

コーディネーターや専門家の

フェイスtoフェイスの交流の場を設ける

その他 回答数101カ所

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16

(11)情報交換や連携を深める際の問題点

支援機関同士の情報交換や連携を深める際の問題点を尋ねたところ 121 カ

所から回答があり、「情報交換の定型的な手法が確立されていない」が 45.5%

と最も多い。

次いで「顧客情報の守秘義務があるため十分な情報交換ができない」

(35.5%)が続いており、守秘義務に反しない方法で、支援機関や専門家に

役立つ情報を共有する手法を確立することが求められる。

図表Ⅱ-18 情報交換や連携を深める際の問題点(複数回答)

45.5

35.5

30.6

22.3

21.5

15.7

10.7

10.7

5.0

3.3

1.7

9.9

0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0

情報交換の定型的な手法が

確立されていない

顧客情報の守秘義務があるため

十分な情報交換ができない

業務が多忙で連携する時間を確保できない

面識がない支援機関とは連携しにくい

各支援機関の強みが分からないため

連携相手を選べない

支援機関によって専門家派遣等の

料金が異なる

主務官庁が異なる支援機関とは連携しにくい

他の支援機関と重複業務が多いため

連携するメリットがない

相性のよくない担当者がいる

支援機関とは連携しにくい

連携すると自機関の強みが

他機関に吸収されてしまう

その他

特に問題点はない 回答数121カ所

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17

(12)実施または拡大したい支援策

今後、新たに実施または拡大したいと思うサービス産業の生産性向上の支

援策を尋ねたところ、「顧客ニーズに適合した新サービスの開発体制の構築」

の「課題発掘・計画策定の専門家派遣」(67.2%)、「自動化設備やITの活用

による効率化」の「具体的な課題解決の専門家派遣」(64.2%)などの割合が

高い。

「今後新たに実施または拡大したい」との回答割合が 50%を超える場合は、

「現状維持または縮小」の割合を上回ることになる。そこで、50%を目安と

すると、「課題発掘・計画策定の専門家派遣」と「具体的な課題解決の専門家

派遣」では 50%を超える項目が多いのに対し、「窓口相談」では全ての項目

が 50%を下回っている。このことから、支援機関等においては、常駐職員が

窓口で相談に応じて課題を解決するよりも、専門家に案件を円滑に繋いで解

決する方法を指向している可能性が高いと思われる。

図表Ⅱ-19 実施または拡大したい支援策(複数回答)

39.3

21.7

22.2

11.5

28.3

29.2

32.8

35.6

20.9

33.3

60.0

50.0

47.8

62.2

46.2

47.2

58.3

67.2

62.2

62.8

49.0

60.0

57.1

56.5

48.9

61.5

64.2

45.8

44.8

48.9

53.5

45.1

60.0

0.0 20.0 40.0 60.0 80.0

作業ごとの所要時間分析を通じた効率化

従業員の導線分析を通じた効率化

需要予測に基づいた投入する人材・資材の最適化

かんばんシステム等の活用による在庫の最適化

自動化設備やITの活用による効率化

マニュアル策定等によるサービス品質の均一化

顧客ニーズに適合した新サービスの開発体制の構築

効率的な新サービス開発の管理体制の構築

従業員の多能工化による顧客ニーズへの柔軟な対応

サービス・顧客別等の管理会計分析を通じた効率化

その他

窓口相談課題発掘・計画策定の専門家派遣具体的な課題解決の専門家派遣

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18

(13)運動のメリット

支援機関にとって、サービス産業生産性向上運動のどのような取り組みが

メリットになるかを尋ねたところ 123 カ所から回答があり、「モデル事例のセ

ミナー」と「専門家のデータベース」が 43.1%と最も多く、次いで「モデル

事例のデータベース」(40.7%)等の順となっている。

このことから、モデル事例や専門家に関する情報提供やデータベースづく

りを通じて、支援機関等にメリットを供与することが、本運動を発展させる

ポイントの一つになると思われる。

図表Ⅱ-20 運動のメリット(複数回答)

43.1

43.1

40.7

38.2

38.2

26.0

19.5

13.8

11.4

4.1

1.6

0.8

1.6

0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0

モデル事例のセミナー

専門家のデータベース

モデル事例のデータベース

モデル事例の研修

熟練したコーディネーターや専門家と自機関

のコーディネーター等が同一企業を支援する

支援機関のコーディネーターの

データベース

メールマガジンによる情報提供

税理士・公認会計士・金融機関からの

案件紹介

交流会の開催

大学の先進技術のセミナー

大学の先進技術の研修

その他

メリットがない 回答数123カ所

Page 25: 「中国地域における重層的なサービス産業 生産性向 …...り組むサービス業へのハンズオン支援をモデル実施するとともに、各産業支援機関の有

19

70.8

68.3

33.3

31.7

22.5

18.3

11.7

11.7

5.8

5.8

5.8

0.8

2.5

0.0 20.0 40.0 60.0 80.0

会員企業・支援対象企業への

本運動に関する情報発信会員企業・支援対象企業への

セミナー・研修の参加案内

モデル事例の情報提供

会員企業・支援対象企業への

本運動への参加の斡旋

他支援機関との連携による同一企業の支援

自機関主催のセミナー・研修への

本運動の講師の受け入れ自機関に登録している専門家の

他支援機関への紹介

運営合議隊からの照会事項への回答

コーディネーターのノウハウの

他支援機関への提供

メールマガジンに掲載する情報の提供

モデル事例として支援してほしい企業の

運営合議隊への推薦

その他

協力できることがない 回答数120カ所

(14)運動への協力事項

この運動に関して協力しても良いと思う事項を尋ねたところ 120 カ所の回

答があり、「会員企業・支援対象企業への本運動に関する情報発信」(70.8%)、

「会員企業・支援対象企業へのセミナー・研修の参加案内」(68.3%)は約7

割と高い割合になった。このことから、会員企業への働きかけに関して、支

援機関から幅広い協力が得られる可能性が高いと思われる。

(15)運動への参加・協力

この運動に参加・協力しても

良いと思うか尋ねたところ、「参

加・協力したい」は 36.8%(46

カ所)となり、「どちらとも言え

ない」(51.2%、64 カ所)が約半

数を占めた。

図表Ⅱ-21 運動への協力事項(複数回答)

図表Ⅱ-22 運動への参加・協力

分からない

10.4%

(13ヶ所)

参加・協力

したくない

1.6%

(2ヶ所)

参加・協力

したい

36.8%

(46ヶ所)どちらとも

言えない

51.2%

(64ヶ所)

回答数125ヶ所

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20

(16)その他(自由記述欄)

図表Ⅱ-23 自由記述欄の回答

意見・アドバイス等

相談事業所の殆どが小規模企業者であり、支援ニーズの発掘が困難である

形だけ連携しても産業局的にはいいかもしれないが成果がでないと思う。協力はするが泥臭くても「これなら支援ができる」というような仕組みを作ったほうがいいと思う

過疎、高齢化が進み、意欲のある事業主がないに等しい状況です

専門家のデータベースを早急に構築下さい(専門家の得意分野、実績をピンポイントで紹介したもの)

サービスの満足度と生産性向上を結びつけて考えられないところがある。顧客満足と顧客負担をどうするかは業者サイドの考えなので、理解を得るのが難しいと考える。

当商工会での対象企業は、運輸業となります。昨年7月ごろの石油高、10月末の金融不安で業界の存続は地域の経済における動脈であり対策を要します

サービス産業の生産性向上により新たなビジネス創出ができるよう協力したいと思います

小規模事業所がほとんどを占めます。経営ノウハウが属人的で標準化が難しい業種と感じます。又、企業体力がないと投資余力が少ない場合が多い

重要性を感じている

お互いが競争相手である為、むずかしい点があると思える。できることから促進していくことは必要です

本事業の内容説明会の開催を希望する

企業支援の為に情報を共有できればよい

厳しい経営を強いられている大多数の企業に対する運動であるので企業の収支改善に直結する内容でなければ賛同を得にくいと思います

まず商工会内部職員での意識と資質の向上が先決

サービス産業が支援を求める課題の発掘が先決

サービス産業に携わる事業主等の生産性向上に対する意識は低い。まずは生産性という観点を認識してもらうことが大切だと思う

当機構に登録する専門家の中に製造業のノウハウを持った専門家は複数登録はしているものの実績がなく対応の可能性については判断しかねる。先ずは中小企業機構などが専門家を派遣するなど、体制充実されることを望みます

連合会、県、国等いろいろ支援施策があり、統一した施策が望まれる

Page 27: 「中国地域における重層的なサービス産業 生産性向 …...り組むサービス業へのハンズオン支援をモデル実施するとともに、各産業支援機関の有

21

3.支援事例のヒアリング調査

ここでは、前述のアンケート調査結果等を踏まえて、中国地域の支援機関が実際にサービス産

業を支援してきた具体的な事例をヒアリング調査し、優れた支援の手法や特徴的な傾向などを考

察する。 なお、ヒアリング対象先は以下の9社である。

図表Ⅱ-24 支援事例のヒアリング対象先

事例 支援機関 業 種 概 要

1 米子商工会議所

平田商工会議所

中小企業基盤整備機構中国支部

物流

(鳥取県)

物流業A社を複数の支援機関が連携

支援

2 中小企業診断協会広島県支部 物流

(広島県)

物流業B者でモチベーション向上の

支援を提供

3 島根県中小企業団体中央会 卸売

(島根県)

包装資材卸C社で営業の「見える化」

により生産性向上に成功

4 中国地域ニュービジネス協議会

中小企業基盤整備機構中国支部

小売

(広島県)

ドラッグストアD社の支援を

地域力連携拠点から運営合議体へ要

5 米子商工会議所

中小企業基盤整備機構中国支部

食品製造販売

(鳥取県)

和菓子製造販売E社に

ネットワークを活用して専門家を派

6 松江商工会議所 旅館・ホテル

(島根県)

地場の旅館・ホテルに各分野の専門家

を派遣、

ホームページの改善、サービスの質向

上等を実現

7 阿哲商工会 哲多支所 飲食店

(岡山県)

和風飲食店F社で

女将さんの接客ノウハウをマニュア

ル化

8 備中西商工会 矢掛支所 仕出、飲食店

(岡山県)

仕出業G社の飲食業進出時に

生産性向上の支援を実施

9 中小企業診断協会広島県支部 仮設機材レン

タル(広島県)

仮設機材レンタルH社の検収・整備体

制の強化

Page 28: 「中国地域における重層的なサービス産業 生産性向 …...り組むサービス業へのハンズオン支援をモデル実施するとともに、各産業支援機関の有

22

〔支援対象企業の概要〕 ○本事例の支援対象企業は、米子市内の地元大手物流業A社である。 ○A社は、輸配送業務、倉庫・保管業務、物流加工業務といった総合物流システムを構築している。また、山陰地域では自社物流網、中国・四国地域では4社による物流ネットワーク、全国では 52 社が加盟しているJTP(ジャパン・トランスポート・パートナーズシステム)を活用して、物流サービスを提供している。 ○同社の課題は、物流センターにおける搬入・仕分け・保管・ピッキング・搬出といった一連の作業を効率化し、それに対応できる人材を育成することである。 〔支援概要〕 ○本支援のきっかけは、A社から相談を受けた山陰地区の地方銀行が中国地域ニュービジネス協議会(地域力連携拠点)に支援を要請し、同協議会が中小企業基盤整備機構中国支部に専門家の派遣を依頼したことである。 ○中小企業基盤整備機構と専門家が同社を訪問して状況を聴取するなかで、倉庫内のレイアウトや従業員の作業動線を改善することとし、製造業出身の専門家を派遣した。加えてこの支援を行うなかで、仕分け業務などの人材育成において手間を省きながら十分な効果をあげるため、マニュアルを作成する必要があることが明らかとなった。そこで、平田商工会議所(島根県)の紹介により、動画を撮影して作業分析や動画マニュアル作成を行う専門家も参加することとなった。 ○さらに、物流効率が低い中山間地域における物流サービスの維持・向上に向けて、専門家がA社に共同配送を提案した。これを受けて、共同配送の地盤を固めるための情報交換の場づくりに向けた新しい動きが米子商工会議所の協力により進みつつある。

図表Ⅱ-25 3支援機関と専門家の連携

事例1 物流業A社を複数の支援機関が連携支援(鳥取県)

《A社の概要》

創 業:昭和 35 年

資本金:42 百万円

従業員:250 人

事 業:トラック運送業

物流配送センター

トランクルームなど

中小企業基盤整備機構中国地域ニュービジネス協議会

中国生産性本部中国経済産業局

専門家

専門家等の連携

地域力連携拠点、運営合議体の連携

≪運営合議体≫

支援

≪支援対象企業≫物流企業

専門家

≪地域力連携拠点≫平田商工会議所

≪地域力連携拠点≫米子商工会議所

支援

支援

支援

支援

Page 29: 「中国地域における重層的なサービス産業 生産性向 …...り組むサービス業へのハンズオン支援をモデル実施するとともに、各産業支援機関の有

23

〔支援対象企業の概要〕

○本事例の支援対象企業は、広島市内で複合型

物流サービスを展開するB社である。

○B社は、食品を卸売業者から小売店へ運んだ

後に店頭販売も行う、農事組合法人との契約

に基づく各種コラボレーションなど、物流と

周辺サービスを同時に提供している。また、

トラックの貸し出しや運転手の派遣を1時間

単位で行うサービスも好評を博している。こ

の他にも、農産物の朝市のFC事業なども実

施している。

○B社の課題は、(ⅰ)社内に散乱する有益な情報や意見を集約・整理し、会社の方向性を

明確にすること、(ⅱ)社員の能力開発も踏まえた賞与システムを確立すること、などで

あった。 〔支援概要〕

○本支援のきっかけは、B社の社長が日本政策金融公庫広島支店に相談をしたところ、同

支店の担当者が地域力連携拠点を実施している中小企業診断協会広島支部に支援を依頼

したことである。

○上記(ⅰ)の課題に対しては、バランス・スコア・カードの考え方を利用した質問票を作

成し、社員 27 人から回答を集めて、KJ法の考え方で課題を集約した。この結果、今後

取り組むべき重要成功要因として、人材と教育の視点から「目標設定の必要性」などが、

業務プロセスの視点から「職場内教育訓練で自己能力を開発すること」などが、お客様

の視点から「担当社員の固定化でお客様に安心を」などが提示された。このように、社

員の意見から重要成功要因を導き出したことにより、社員のモチベーションが徐々に高

まっている。

○上記(ⅱ)の課題については、目標管理制度と面接制度を併用した賞与評価システムを提

示した。このシステムでは、社員が自己目標を設定し、達成基準、実施方法などを上司

と相談して決定する。評価は、経営者、社員自身、お客様の3者による採点をまとめて

実施する。このような業績評価の『見える化』により、社員のモチベーション向上が期

待される。

事例2 物流業B社でモチベーション向上の支援を提供(広島県)

《B社の概要》

創 業:平成 9年

資本金:11 百万円

事 業:物流事業(1時間単位

での車両レンタル、ド

ライバー派遣など)

日本政策金融公庫広島支店

(社)中小企業診断協会広島県支部

物流業B社①相談②支援を要請

③専門家を派遣

図表Ⅱ-26 物流業B社の支援開始経緯

Page 30: 「中国地域における重層的なサービス産業 生産性向 …...り組むサービス業へのハンズオン支援をモデル実施するとともに、各産業支援機関の有

24

〔支援対象企業の概要〕 ○本事例の支援対象企業は、松江市内の包装資材

卸売業C社である。同社は、ダンボールを中心

とした包装資材を物流業者・菓子製造業者・農

業団体等に卸している。 ○当社では、景気低迷に伴い 1取引先当たりの取引額が減少しており、新規取引先の開拓と営業

活動の効率化が大きな課題であった。 〔支援概要〕 ○島根県中小企業団体中央会の地域力連携拠点は、同社のメインバンクからの相談を受け

て当社社長と面談を行い、営業活動の効率化に向けた支援を行うことを決定した。 ○当社の営業担当者は、計画的な営業活動ができておらず、またその活動状況について社

長が十分に把握できていなかった。よって、まずは営業活動の「見える化」を図ること

とした。 ○支援担当者は、訪問先・滞在時間・商談内容のほか営業事務・移動等にかかった時間等

を簡便に記入できる営業週報のシートを作成し、1週間分入力したデータをもとに営業担当の時間の使い方を分析した。 ○この分析結果を営業担当者と社

長とのコミュニケーションツー

ルとして活用してもらい、付加

価値を生む商談時間をいかに増

やすか(移動・営業事務の時間

をいかに減らすか)について具

体的な対応策を実行し、社内で

その情報を共有化していくこと

ができた。 ○また、取引先各社ごとの営業担

当者の滞在時間を集計し、取引

収益に応じた営業活動ができて

いるかを再確認した。その分析

結果とともに戦略的に取引先を

4区分(最重要先・現状維持先・

掘り起こし必要先・取引見直し

先)し、取引先のタイプに応じ

て効果的な営業活動が行えるよ

うにした。

《C社の概要》 創 業:昭和 52年 資本金:1千万円 従業員:8人 事 業:紙類・紙器・包装資材

の卸売

事例3 包装資材卸C社で営業データの活用による

営業活動の生産性向上に成功(島根県松江市)

図表Ⅱ-27 営業週報シートとその活用方法

図表Ⅱ-28 営業週報シートの分析結果イメージ

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25

〔支援対象企業の概要〕

○本事例の支援対象企業は、広島県福山市に本

社を置くドラッグストアD社である。同社は

兵庫県姫路市から広島県廿日市市までの広い

範囲にわたって 73 店舗を展開しており、医薬

品・化粧品を核として育児用品・日用消耗品・

食品・おしゃれグッズなど幅広い商品を取り

扱っているほか、調剤薬局やフェイシャルエ

ステなども運営している。

○同社の課題は、店舗数が急激に増加する一方で、在庫の効率化が計画していたほどには

進んでいないことや、次期幹部社員や店長としての実力を備えた中堅社員が不足しはじ

めていることなどである。

〔支援概要〕

○D社の支援のきっかけは、(社)中国地域ニュービジネス協議会(地域力連携拠点)が相

談業務を通じて支援ニーズがあることを知り、同協議会や中国経済産業局などで構成す

るサービス産業生産性向上運動の運営合議体に情報を提供したことである。この結果、

(独)中小企業基盤整備機構中国支部から、流通業界に詳しい専門家を派遣することとな

った。

○平成 21 年秋から専門家による支援がスタートし、在

庫管理や棚割りなどに関する問題点の洗い出しを終

えるとともに、今後の会社全体および重点商品群の

在庫回転数の目標値を新たに設定するなど、経営改

善に向けた動きが着実に進展している。

○これらの取り組みは、次期幹部候補社員により構成

されたプロジェクトチームで検討・実施しており、

人材育成にもつながっている。

《D社の概要》

創 業:昭和 59 年

資本金:46 百万円

従業員:1,200 人

事 業:ドラッグストア

事例4 ドラッグストアD社の支援を地域力連携拠点から運営合議体へ要請(広島県)

ドラッグストアD社

サービス産業生産性向上運動運営合議体

(社)中国地域ニュービジネス協議会(地域力連携拠点)

①支援ニーズを確認

②情報を提供

④専門家を派遣

(独)中小企業基盤

③協力を要請整備機構

図表Ⅱ-29 ドラッグストアD社の支援開始経緯

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〔支援対象企業の概要〕

○本事例の支援対象企業は、米子市内の和菓子製造販

売E社である。同社は、県内産の一等水稲米など素

材を厳選する一方で、梨、いちご、マロン、抹茶、

生クリームなどバラエイティ豊かな材料を用いて季

節性豊かな商品を展開しており、地元を中心として

徐々にファンを拡大している。

○同社の課題は、生産・販売両部門にわたる生産性向

上であった。

〔支援概要〕

○米子商工会議所(地域力連携拠点)は、同社からの相談を受けて現地訪問を行い、工場

における生産工程の標準化と顧客・商品ごとの採算管理の見える化等の支援を決定した。

○しかし、生産工程の標準化を支援できる専門家が見当たらなかったため、中国経済産業

局に専門家の紹介を依頼。同局は、(独)中小企業基盤整備機構中国支部に打診し、その

結果、自動車メーカーでの勤務経験がある専門家が見つかり、米子商工会議所からE社

に派遣することが出来た。

○ さらに、米子商工会議所の応援コーディネーターは、約 150 種類に達する原材料につい

て製品別の使用量と材料ロス率を調べ、製品ごとの販売単価、製造原価、粗利益額、営

業利益額を日次で管理できるエクセルのシステムを制作し、生産と経営の相関を見える

ようにした。現在、その使用方法などを、同社に指導している。

事例5 和菓子製造販売E社にネットワークを活用して専門家を派遣(鳥取県米子市)

《E社の概要》

創 業:昭和 38 年

事 業:和菓子・だんご・餅・

赤飯・土産品菓子の

製造販売

現地指導の実施で合意

和菓子E社

専門家

米子商工会議所 (地域力連携拠点)

中国経済産業局

(独)中小企業基盤 ①相談

②対応できる専門家の

紹介を依頼 ③現場改善の専門家の

紹介を依頼

④専門家と相談し ⑤専門家を紹介

⑥専門家

を派遣

整備機構

図表Ⅱ-30 和菓子製造販売E社の支援開始経緯

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〔支援対象企業の概要〕 ○本事例の支援対象企業は、松江市内の旅館・ホテルである。 ○景気が低迷するなか、観光地として知名度の高い松江市内でも、宿泊施設同士の競合が

激化している。多くの旅館・ホテルでは、客数の確保に向けた集客力の強化・他の宿泊

施設との違いを打ち出せるサービスの質の向上が大きな課題となっている。 〔支援概要〕 ○松江商工会議所の職員・経営指導員等は、会員である地元の旅館・ホテルの経営者からの

財務・経営改善、サービス等にかかる相談に日頃からこまめに対応している。同業界か

らは、特に集客力の強化・サービスの質向上に向けた相談案件が多い。 ○当商工会議所では、そのネットワークを活用して先方の希望する分野で評価の高い専門

家を派遣することで、経営改善を支援している。 ○あるホテルからは、集客力の向上策について相談があったため、ホームページ作成につ

いて評価の高い専門家を派遣し、予約システムの簡便化・アクセス数アップ(検索率の

向上)に向けたホームページの改善を実施した。利用者目線でつくられ予約もしやすい

ホームページは、集客力向上に資する非常に有効なツールとなっている。 ○ある旅館からは、財務及びサービスの質向上等に向けて総合的な経営改善を行いたいと

の希望があったため、東京の大手経営コンサルタントの専門家を紹介した。現場での原

価管理及びサービスに対する考え方から応対の作法まで細やかな指導を受け、大きな成

果をあげている。

事例6 地場の旅館・ホテルに各分野の専門家を派遣、

ホームページの改善、サービスの質向上等を実現(島根県松江市)

松江しんじ湖温泉の

ホテル・旅館群

松江商工会議所が窓口となっている経営アドバイザー支援事業

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〔支援対象企業の概要〕

○本事例の支援対象企業は、新見市内の和風飲食店F

社である。F社では、山間の自然に溶け込んだ閑静

な和風店舗で、薬膳の考えを取り入れつつ、旬の薬

草、山菜、有機無農薬の食材を使用し、季節に応じ

て美味しく食べやすく創作したオリジナル薬膳料理

を提供している。

○同社の課題は、ベテラン社員の退職による戦力低下を補完するための、業務の効率化・

標準化と人材育成であった。

〔支援概要〕

○和風飲食店F社を支援する数年前、F社の社長が代表取締役を兼務していた食品製造業

f社が、阿哲商工会に経営改革の支援を要請した。そこで、同商工会の経営指導員がf

社の社員7名を集めてKJ法を実施し、今後の方向性として、利益率の高い新製品開発

と既存製品の単価引き上げという結論を導き出した。これを受けて、新製品「白桃ピオ

ーネカレー」を発売したところ好評を博し、テレビの全国番組でも紹介された。

○ちなみに、この経営指導員は、KJ法の実施方法を中小企業大学校で習得した。

○これをきっかけとして、f社の社長から和風飲食店F社の支援要請も受け、業務の効率

化・標準化と人材育成を図るため、マニュアル作成の専門家を派遣した。

○この専門家は、F社でKJ法を行うなかで、女将さんが体得している接客ノウハウを明

文化してマニュアルを作成し、全社員で共有化する手法を採用した。

○女将さんから話を聴くなかで、お子様連れのお客様にはスプーンと小皿を言われる前に

お出しし、ご年配のお客様には「座椅子は如何ですか」とさり気なく尋ねるなど、お客

様の年齢構成などによって対応方法を使い分けていることなどが明らかとなり、このノ

ウハウをマニュアルにまとめた。また、このようなサービスの提供を効率的に行うため、

従業員の立ち位置から客席までの動線上に備品類を集約配置するなど、工程上の効率か

も見える化・標準化されている。

事例7 和風飲食店F社で女将さんの接客ノウハウをマニュアル化(岡山県新見市)

《F社の概要》 事 業:薬膳創作料理の 飲食店

仕出し

阿哲商工会哲多支所

中小企業大学校 食品製造業f社本支援の以前に中小企業大学校でKJ法を習得

②KJ法などに より支援を実施

①支援を要請

図表Ⅱ-31 食品製造 f社の支援開始経緯

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〔支援対象企業の概要〕 ○本事例の支援対象企業は、井原市内で仕出業を

経営しているG社である。 ○G社は、世界的な尺八奏者『横山勝也』氏の自

宅を購入して改装し、直営飲食店をオープンす

ることを決定した。この新店舗の運営は、G社

の社長の息子が行うこととなった。平成 19年には経営革新計画の承認を受けるなど、新店舗の

スタートに向けた準備を進めていた。 ○新店舗の課題は、従業員を新たに採用して教育する必要があったが、これまで飲食店経

営の経験がなかったG社では、その教育方法が分からないことなどであった。 〔支援概要〕 ○G社から新店舗の相談を受けた備中西商工会では、それまでに作成していた事業計画を

さらに詳細にする必要があると考え、事業コンセプトの見直しから着手した。その結果、

中高年層の女性を主要な対象としてゆったりと美星町の食材を楽しんでいただく店づく

りに取り組むこととした。また、5年後を視野に入れた収支計画、投資計画、借入返済計画などの作成も実施した。 ○さらに、オープン後の採算管理を行うため、2カ月程度データを収集し、簡易版の管理

会計システムを作成し、H社に提供した。このシステムでは、売上高、仕入高、人件費、

販売管理費、減価償却費などを月次で集計できる。この結果、採算を確保するための利

益率をオープン間もない時期に把握できた。 ○新規採用者を教育するため、接客や清掃などのマニュアルを作成することとなり、地域

力連携拠点事業の予算を活用し、広島県内のコンサルタントを招聘した。 ○このような支援が功を奏し、平成 20年のオープン以降、新店舗の業績は順調に推移している。

事例8 仕出業G社の飲食業進出時に生産性向上の支援を実施(岡山県)

《G社の概要》 創 業:昭和30年 従業員:8名 事 業:仕出、和風飲食店

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〔支援対象企業の概要〕

○本事例の支援対象企業は、広島県内で仮設機材

レンタル業を経営するH社である。同社は、数

年前、地元商工会議所の支援のもと、「コンピュ

ータによる受注・在庫・顧客管理システムの構

築」というテーマで、経営革新計画の承認を受

けていた。

○同社の課題は、レンタルが終了した機材の検収数量の正確な把握ができていないことと、

お客様の要望は無理をしてでも入庫や出荷をおこなおうとするあまり検収・整備工場の

作業が混乱しがちなことであった。

〔支援概要〕

○H社からの支援要請は、最初に

地域力連携拠点である地元商工

会議所が受け付け、地域力連携

拠点である中小企業診断協会広

島県支部と連携して支援を開始

した。なお、中小企業診断協会

では、建設関連のコンサルタン

トとしても活躍している応援コ

ーディネーターが担当した。

○本支援では、以下の3点を実施した。

①作業マニュアルの策定と実践

整備工場のマニュアルでは、(ⅰ)荷札を確認、(ⅱ)機材を整備用の機械に流す、(ⅲ)

機械のカウンターから数量をメモ帳に記入、(ⅳ)メモ帳からOCRに記入、(ⅴ)荷札

とOCRを照合、という手順を定めた。これにより、OCRを通じてコンピュータで

管理されている機材、荷札、現物の数量が一致することになる。

②作業エリアの整備

工場内に入庫品・未検収品・未整備品・製品・出荷準備品が混在している状況を是

正し、各エリアでの作業効率を高めるロケーションの改善などを実施した。具体的には、

不良品足場板を売却したり、預かり品の什器などを倉庫へ移動したりした。

③工場全体のルールの策定

工場の運営ルールを定め、全従業員への周知徹底を行うとともに、取引先へも協力

要請文を配布することとした。新しいルールの中には、「工場長は、毎週金曜日に、翌

2週間分の入庫・検収・整備・出荷の各作業に配置する人員計画を策定する。作業の

繁閑状況に合わせて、柔軟に人員を配置する」ことなどが定められている。

《H社の概要》 創 業:昭和 50年代初頭 従業員:約 50人 事 業:仮設機材のレンタル

事例9 仮設機材レンタルH社の検収・整備体制の強化(広島県)

仮設機材レンタルH社

(社)中小企業診断協会広島県支部

(地域力連携拠点)

地元商工会議所(地域力連携拠点)

①支援を要請

②協力を要請

③連携してH社を支援

図表Ⅱ-32 仮設機材レンタルH社の支援開始経緯

Page 37: 「中国地域における重層的なサービス産業 生産性向 …...り組むサービス業へのハンズオン支援をモデル実施するとともに、各産業支援機関の有

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4.ハンズオン支援の実施

本事業では、専門家派遣によるハンズオン支援を5件程度実施するため、以下の8件から選定

作業を実施した。

図表Ⅱ-33 ハンズオン支援対象の候補 業種(所在地) 支援ニーズ 経緯

ホテル業A社 (山口県長門市)

○客室清掃をはじめとする諸業務の効率化。

○需要変動に応じた柔軟な人員配置の実現。

○中小企業基盤整備機構のセミナーで生産性向上に関心を抱くようになった。

○山口産業振興財団からの推薦により、本事業に申し込んだ。

物流業B社 (鳥取県米子市)

○保管・ピッキング・仕分け・配送の業務の効率化。

○B社から相談を受けた山陰の地方銀行が中国地域ニュービジネス協議会に支援を要請し、同協議会が中小企業基盤整備機構に専門家の派遣を依頼した。

タクシー業C社 (広島県広島市)

○数年前に導入したITシステムの活用(需要予測や顧客ニーズの分析など)。

○生産性向上に関心を抱いていたC社から、中国経済産業局及び中小企業基盤整備機構に経営上の相談があり、それをきっかけとして本事業に申し込んだ。

スーパーD社 (広島県広島市)

○業務用スーパーのFC加盟店に提供する商品力の強化

○バックヤードにおける業務の効率化

○知人からの紹介により、D社が中小企業基盤整備機構に経営上の相談をしたことがきっかけで、本事業に申し込んだ。

ドラッグストアE社 (広島県福山市)

○在庫削減の早期実現 ○MD(マーチャンダイジング:棚割等)の改善

○次期幹部候補社員と店長の育成

○中国地域ニュービジネス協議会が地域力連携拠点事業の相談業務を通じてE社の支援ニーズを知り、サービス産業生産性向上運動の運営合議体に連絡。

高齢者介護E社 (山口県岩国市)

○医療と介護が連携した業務のあり方の検討

○介護部門の職員の時間管理の見直し

○中国経済産業局主催のサービス・イノベーション・セミナーを聴講し、生産性向上に関心を抱く。 ○中国地域ニュービジネス協議会の推薦により、本事業に申し込んだ。

インテリア用品F社 (広島県広島市)

○独創的なインテリア用品の販路開拓支援

○地域力連携拠点である広島県の地方銀行から、サービス産業生産性向上運動の運営合議体に連絡があった。

学習塾G社 (鳥取県鳥取市)

○講師の生産性向上 ○個別指導を中心とした運営方法の確立

○生産性向上のニーズを有していたG社を、山陰地区の地方銀行が中小企業基盤整備機構に紹介し、本事業に申し込んだ。

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前ページの8社について検討した結果、下表の5社をハンズオン支援の対象とすることに決定

した。個別の支援の具体的な内容は、次ページ以降で紹介する。

平成 21 年中程から専門家による現地指導を始めたばかりであるにも関わらず、すでに成果が顕

在化しつつある。なお、このうち数社については、平成 22 年度から、中小企業基盤整備機構中国

支部の専門家派遣事業で継続して支援を行う予定である。

図表Ⅱ-34 ハンズオン支援対象企業

企業名 業種 専門家 主な分析・改善手法

㈱油谷湾温泉ホテル楊貴館

(山口県長門市)

ホテル (独)中小企業基盤整備機構中国

支部

アドバイザー 泉 旦茂 氏

KJ法

標準作業分析、作業時間分析

アンケート

(データマイニング)

(独)中小企業基盤整備機構中国

支部

アドバイザー 長村 俊則 氏

3S、5S

仕分け工程の改善

ピッキングリストの改善

レイアウト変更による改善

共同物流の検討

服島運輸㈱

(鳥取県米子市)

物流

㈱ナスカ

代表取締役 宇野 正章 氏

仕分け工程の

デジタル作業分析

第一タクシー㈱

(広島県広島市)

タクシー ㈱ファインサポート

代表取締役 児玉 学 氏

戦略マップ

(バランススコアカード)

配車需要予測

顧客データベース

従業員データベース

アクト中食㈱ 小売 (独)中小企業基盤整備機構中国

支部

チーフアドバイザー

綿岡 英幸 氏

経営戦略の策定

(チェーンストア理論)

アンケート

(データマイニング)

㈱ププレひまわり 小売 (独)中小企業基盤整備機構中国

支部

チーフアドバイザー

綿岡 英幸 氏

在庫システム

MD(マーチャンダイジング)システム

業務の棚卸し

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支援対象企業 株式会社油谷湾温泉ホテル楊貴館

創業:昭和48年 設立:平成16年所在地:山口県長門市油谷伊上資本金:6000万円 従業員数:45人客室数:39室 収容人数:190人料金:1泊 15,750~23,100円アクセス:長門・萩・下関の観光へも30分~1時間圏内にあり、

●企業概要

福岡・北九州から日帰りも可能特長:22時間ステイ、多彩な客室

オペレーションの効率化

●現状の課題

組織運営と人材育成

1.清掃・メーキングの効率化と品質向上

2.平日休日の差を鑑みたサービスの見直し

3.施設リニューアルのためのレイアウト検討

オペレ ションの効率化 組織運営と人材育成

1.地元人材の雇用とその人材育成

2.見える化による組織運営の定着

3.新サービスの展開

想定される支援内容 ⇒ 実態調査により内容を深めていく●オペレーションの効率化に向けて、製造業のノウハウを取り入れた現地指導

(作業動線の検討、ムダ取り、業務平準化のための作業計画、人材配置、人材育成などの改善)(施設、装備品などのレイアウト最適化)(各部門における業務の見える化と社員の目標管理)

●ワークフロー支援などの業務効率化を図るITの活用検討

地域の観光サービス業である温泉旅館を支援する意義は大きい

(資料)本ページは(独)中小企業基盤整備機構中国支部経営支援部が作成

●ワ クフロ 支援などの業務効率化を図るITの活用検討●山口産業振興財団からの推薦もあり、プロジェクト連携を図る

-33-

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ホテル業界では、宿泊や宴会などの需要変動が大きい一方で、お客様が少ない時間帯に人員を

少なくするとサービスの水準が低下してしまうため人件費の調整は容易ではない。しかし、ホテ

ルが経費を節減する上で、人件費を需要にあわせて調整することは、重要なテーマである。この

ように、需要に応じた人員の柔軟な調整が、ホテル業界において、大きな課題となっている。 このような課題に対応するため、(独)中小企業基盤整備機構の泉氏は、ホテル楊貴館の魅力や

真の課題を抽出するため、若手リーダー職員を集めてKJ法によるグループディスカッションを

開催した。この結果、自分達が強みと思っていることや課題と感じていたことなどを顕在化・共

有化することが出来、取組の方向性を明確にすることができた。 次いで、客室清掃と食器洗い作業について、ものづくりの現場改善の視点を用いて、現場の担

当者を追跡し、所要時間を 100分の 1秒単位で計測したり、作業導線を調べたりした。この結果をもとに、職場の担当者や責任者と一緒に、理想的な作業手順や効率的な動線を検討するなど、

従業員の主体性を引き出しながらものづくり現場の手法を活用した改善を実施した。

《支援のポイント》 標準時間・標準作業分析による業務の効率化

お客様が楊貴館スタッフと交流したい。

接客がいい。(2票)△

お客様にスタッフの笑顔が良かったと言われた。

お客様に接客が良かったと聞いた。

親戚が集まる行事を安心できる施設で行いたい。

冠婚葬祭を行いたい。

美味しく新鮮な料理が食べたい。

料理がおいしい。(3票)

料理内容がいい。   ◯△

料理が多い。(品数)◯△

中華が食べたい。   ◯

地物の食材(特に刺身)を期待している。◯

近海で獲れる魚が食べられる。 ◯

良質の温泉に入りたい。

風呂の泉質が良い。(2票)

温泉が良い。(2票)

温泉に入りたい。

海を見ながら露天風呂に入りたい。 ◯

油谷の景観を楽しみたい。

夕日がきれい。

海のそばで眺めが良い。

海も山もある。

きれいな景色を楽しみたい。

高級感があるお部屋に泊まりたい。

客室がきれい。(2票)   ◯

部屋が広い。

露天風呂付きのお風呂が素晴らしい。

お客様に「TVで観てすごく感じが良かったので、泊まってみたいと思った」と言われた。

大事な人と大事な時間を過ごしたい。

家族、恋人、友人とゆっくり過ごしたい。

エステ、岩盤浴がある。

岩盤浴がある。

エステがしたい。

きれいになりたい。

健康になりたい。△

きれいで健康になりたい。

新しい物が見たい。   △

わくわくしたい。

何か新しい物を探したい。

値段や評判の高い宿に泊まってみんなに自慢したい。

好奇心とステイタスを満足させたい。

癒されたい。

のんびりして癒されたい。

何もせずにのんびりしたい。(上げ膳、据え膳)

何をしても笑顔で許して欲しい。    ◎

元気になって明日からの活力を補充したい。

現実逃避がしたい。

非日常が欲しい。(2票)  △

ふだんできないこと(音楽鑑賞、読書)をしたい。

嫌なことを忘れたい。

時間(生活)を忘れたい。

「お客が魅力と感じる楊貴館はなに?」 2009年11月4日Bチーム

時間観測資料

観測者

作業者名 泉 旦茂

機械名称

0 0

村上さん, 川村みさとさん

台に置く

1.00

0.03

0.20

0.40

0.55

0.75

0.95

0.55

箱を置く

洗浄機ローラーより中皿5枚取り出し置く

同じく6枚取り出し重ねる

同じく5枚取り出し重ねる

同じく6枚取り出し重ねる

手待ち

0.03

0.20

0.40

1要 素 作 業(B)

0.75

0.95

1.00

箱を取り出し

5

6

7

8

中皿(黄)10枚洗浄(油汚れ)

中皿(白)12枚洗浄(汚れ小)

食器置き場に運ぶ

№ 1

湯呑み28個洗浄

食器の箱引き込み

1

2

3

4

備    考

食器搬入

洗浄機SW. On 待ち0.80

1.00

1

2

要 素 作 業(A)

3.40

4.00

4.30

0.80

1.00

2.40

2.50

4.30

2.40

2.50

3.40

4.00

3

4

5

6

7

職 場 名

部 品 名

8

食器洗い作業(配膳室横)パントリー

機 械 №

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支援対象企業 服島運輸株式会社

創 業:昭和48年 社長は昭和60年当社入社。平成20年10月、実父(会長)の後を継ぎ就任。所在地:鳥取県米子市和田町600資本金:4,200万円 従業員数:240人保有車両:160台、クレーン社も保有特 長:長距離貨物運送中心。大型倉庫を保有し、仕分け業務まで行う当地中堅企業。

●企業概要

仕分け業務の効率化

●現状の課題

組織運営と人材育成

1.仕分け業務の効率化、見える化導入と推進

2.事務作業のムダ取りと分析手法の確立

3.宅配事業への展開を鑑みた実車率・積載率・稼働率の向上と営業戦略を構築

仕分け業務 効率化 組織運営と人材育成

1.新たな運行管理システムによる経営戦略構築

2.新サービスの展開を支える社内整備と人材育

3.IT活用のための専門人材の育成と実施

想定される支援内容 ⇒ 実態調査により内容を深めていく●オペレーションの効率化に向けて、製造業のノウハウを取り入れた現地指導

(作業動線の検討、ムダ取り、業務平準化のための作業計画、人材配置、人材育成などの改善)(施設、装備品などのレイアウト最適化)(各部門における業務の見える化と社員の目標管理)

●業務効率化を図るITの活用検討とIT人材の育成●中小機構と協定関係にある地域金融機関からの推薦

地域から都市部への配送を担う地元中堅運送業を支援する意義は大きい

(資料)本ページは(独)中小企業基盤整備機構中国支部経営支援部が作成

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物流業の配送センターでは、たくさんの人と貨物が頻繁に行き交うため、気がつかないうちに

無駄な設備・在庫・スペースが発生し、従業員の動きにも無駄が多くなる傾向がある。また、従

業員の入れ替わりが頻繁にある職場では、習熟度の向上が難しくなったり、新人教育に多大な時

間と労力を費やしてしまう。このように、物流業界では、配送センターの無駄をなくし、作業を

効率化することが、共通の課題となっている。 (独)中小企業基盤整備機構の長村氏は、ものづくりの現場改善の視点を用いて、5S(整理、

整頓、清掃、清潔、躾)から着手し、仕分け作業の見直し、配送センターのレイアウトの見直し

など、広範にわたる支援を実施した。 仕分け作業の見直しには、㈱ナスカの宇野氏も参加し、動画システムによる作業分析を実施し

た。その結果、動作の 48%が無駄であることが判明し、6名体制から4名体制への変更をテストし、良好な結果を得た。

《支援のポイント》 5S、倉庫レイアウト改善、動画システムによる作業分析

6人体制?

改善前 改善後

4人体制

人員が多過ぎて、1パレットの周囲で手待ちになる。(4人~5人)

改善前 改善後

適正人員で、手待ちの無い正確な作業が進む。(2人)

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支援対象企業 第一タクシー株式会社

創 業:昭和43年所在地:広島市安佐南区相田2-5-18資本金:1,000万円 従業員数:260人保有車両:125台、タクシー、観光バス、路線バス、他特殊車両も保有

●企業概要

特 長: 電話予約による配車が9割を超える地域に密着したタクシー・バスの運行をする中堅企業。

●現状の課題と支援の進め方

サービスの高度化と新事業開発の可能性検討

地域旅客運送業の顧客データを活用したサービスレベルの向上と新事業創出支援

●現状の課題と支援の進め方

方向性と課題を明確にする

サービスの高度化を支える社内整備

実践に向けた支援

1.お客様との「 ONEtoONE 」マーケティングを目指した顧客データの活用状況確認

2.既存の顧客データを有効活用した新事業開発の可能性検討

方向性と課題を明確にする

1.顧客データベースの構築と戦略的活用による新事業構築

2.サービス管理目標の設定と成果(評価・業績)の見える化とその活用を図る部門リーダーの育成

実践に向けた支援

(資料)本ページは(独)中小企業基盤整備機構中国支部経営支援部が作成

3.サービスの高度化を目指した品質管理課題の整理

3.乗員・車両のサービス品質高度に

むけた管理体制の整備

12月 経済産業局調査事業 2月 要望に応じた支援制度の活用

-37-

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- 38 -

第一タクシー㈱は、2年前にリアルタイムでエリア別の空車状況などを把握できる配車・デジ

タル無線システムなどを導入しているが、これらで蓄積されたデータが有効に活用されていない

ため、そのポテンシャルを最大限に活用し、実車率の引き上げとサービス品質の向上を図ること

が課題となっていた。 これに対し、(独)中小企業基盤整備機構の児玉氏は、同社のシステムで乗務員が車両から顧客

情報を入力できる点などに注目し、顧客ランクのデータベースを構築することを提案した。さら

に、乗務員の勤務評価のデータベースも構築したうえで、評価の高い従業員に優良なお客様を対

応させることで、顧客満足と従業員満足を結びつける独創的なITの活用方法を提案した。 さらに、同システムのデータを分析することにより需要の予測手法を確立し、実車率をアップ

させることも提案した。このような一連の取り組みにより、「実車率のアップ」、「サービスレベル

の向上」、「マーケティングの強化」を図り、生産性向上につなげていく計画の具体的実施を検討

している。

《支援のポイント》ITの有効活用・データ分析による顧客満足と従業員満足の向上

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支援対象企業 アクト中食株式会社

創業:明治44年 設立:昭和53年所在地:本社/広島市西区草津港 業務用食品スーパーFC本部/広島市南区宇品西資本金:7000万円 従業員数:372人支店:松山、西条、東中国物流センター事業所:本社、FC本部、FC東京本部、米穀事業部、フードビジネスソリューション営業品目:業務用食品 冷凍食品 ドライフーズ 米穀 酒類

店舗 プ 等 店舗

●企業概要

FC店舗数(プロマート等):76店舗

●アクト中食グループの概要

業食事業部 米穀事業部 ストア事業部

食材企業グループ

食品スーパーグループ

㈱F.B.Sモバイルによる飲食店向け販促情報の提供

ジェイフーズネット㈱商品開発・製造

㈱アクトロジスティクス配送ネットワーク情報の統合管理

㈱中国トーヨー無洗米の精米・販売東洋精米機製作所合弁

アグリプロデュース㈱生産農家との契約提携

●現状の課題

地域密着業務用卸

顧客数4000件

米卸

全国から調達量販店・飲食店

への販売

チェーン本部運営・業務用食品スーパー・PROMART

2形態展開FC・直営76店舗

ソフトバンク合弁

マザース㈱広告プランニング

㈱ユーアイシステムズシステム開発

コーディネート

㈱ハマタニカット野菜、惣菜キット

有限責任事業組合神の瀬工房環境保全型農業法人 100%出資 共同出資

1.バックヤードにおける

生産性の向上

オペレーションの効率化 情報活用展開

1.FC店に貢献できる商材情報の活用展開

2.FC店とのリレーション運営の仕組み構築

チェーンにおける組織運営と人材育成

1.本部機能の一層の充実・強化

2.FC店との新ビジネス形態

確立と関係強化

3. FC店舗の意識改革と

そ 教育 構築運営の仕組み構築

想定される支援内容 ⇒ 実態調査により内容を深めていく●オペレーションの効率化に向けて 製造業のノウハウを取り入れた現地指導

地域発の先進的食材卸売サービス業の支援

その教育システム構築

(資料)本ページは(独)中小企業基盤整備機構中国支部経営支援部が作成

●オペレーションの効率化に向けて、製造業のノウハウを取り入れた現地指導(作業動線見直し、ムダ取り、作業効率化のための作業計画、施設、装備品などのレイアウト最適化)

●FC店との情報共有を促進するIT活用検討(FC店への教育・連携の仕組み作りとシステム化)

●FCチェーンにおける組織運営と人材育成のための本部機能強化、FC店活性化策の検討

-39-

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小売業界では、大型専門店やショッピングセンターの進出など競合が一段と激化しており、自

社の優位性を活かしたビジネスモデルの構築が、各社共通の課題となっている。 大手チェーンは、「チェーンストア理論」に立脚して経営を展開している。具体的には、下図の

①と②のスケールメリット、③の機能分担、④IT導入により効率化を推進している。しかし、

近年では、「少量のお買い得商品仕入れが弱い」など、チェーンストア理論の弱点も指摘されるよ

うになっている。 そこで、同社は、(独)中小企業基盤整備機構の綿岡氏の支援により、チェーンストア理論の弱

点に焦点を当てた新たな戦略づくりを進めている。その戦略では、FC店や飲食店にコンサルテ

ィングできる社員の能力を活かした「商品開発力やこだわり商品発掘」、業務用スーパーならでは

の「効率的な生産のため生産性改善提案」にさらに磨きをかけ、独自のビジネスモデルの構築を

目指す。

《支援のポイント》 チェーンストア理論に対抗したキメ細かい経営展開

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支援対象企業 株式会社ププレひまわり

設 立:昭和59年所在地:広島県福山市西新涯町資本金:4614万円 従業員数:1200人店舗数:73店舗(平成22年2月時点)特 長:兵庫、岡山、倉敷、広島地区でドミナント(地域集中出店)戦略を実施

●企業概要

特 長 兵庫、岡山、倉敷、広島地区でドミナント(地域集中出店)戦略を実施

●現状の課題

1.在庫削減の早期実現

2.MD(棚割等)の改革

3.ローコストオペレーション手法の確立

オペレーションの効率化 人材育成

1.次期幹部候補社員の育成

2.店長および店長候補社員の育成

地域密着型で成長著しいドラッグストアを支援する意義は大きい

想定される支援内容 ⇒ 実態調査により内容を深めていく●オペレーションの効率化に向けて現地指導を実施

(本社と店舗の在庫の実態把握および削減策提案、MDの実態把握および改善策提案、ローコストオペレーションに向けた手法の提案)

●人材育成(次期幹部候補社員に本プロジェクトで中心的な役割を担わせる)●地域力連携拠点を設置している中国地域ニュービジネス協議会からの推薦

(資料)本ページは(独)中小企業基盤整備機構中国支部経営支援部が作成

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ドラッグストア業界では、近年、店舗網を急拡大してきた有力チェーンがみられており、在庫

管理やマーチャンダイジング(棚割等)の改善や人材育成は業界共通の課題となっている。 このような課題に対し、ププレひまわりでは、新たな在庫自動発注システムの導入を起点とし

た経営改革を、(独)中小企業基盤整備機構の綿岡氏とともに推進。これにより、医薬品、日曜雑

貨品、化粧品など多岐にわたる商品を、各店舗の特性にも対応しながら自動発注するとともに、

在庫も削減できる体制が整うこととなる。 同社では、新しい在庫自動発注システムとあわせてマーチャンダイジング(棚割等)の手法も

強化し、両者を統合する新しい情報システムの構築を通じて、ローコストオペレーションや社内

の情報共有・方針伝達改革にまで展開する計画を検討している。

《支援のポイント》 柔軟な在庫自動発注システム

各店舗の特性にも対応できる品・群別のキメ細かい在庫自動発注システムの開発

モデル店での導入実験

全店舗への展開

在庫自動発注システムの導入イメージ

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5.モデル研修開催

中国地域におけるサービス産業生産性向上運動の3つの「柱」のうち「トライアルの重

層化」を図るため、本事業では生産性向上等に関心を持つ産業分野・業界等と連携して実

践的研修(以下モデル研修)を行った。研修後には聴講者を対象とするアンケート調査を

実施し、本研修の評価や成果を確認した。開催したモデル研修の内容は以下の通りである。

(1)開催内容

①ビルメンテナンス業の生産性向上研修

労働集約型のサービス産業の生産性向上において不可欠なESの向上事例について、業

種・業態を超えた他業種の成功事例から社員のモチベーションアップの手法の取得を目的

とした。

■対 象:ビルメンテナンス会社の経営者、経営幹部、部門管理者など

■日 時:平成 22 年 2 月 20 日(土)13:00~17:00

■場 所:広島ビルメンテナンス協会(広島市中区千田町3-6-8)

■参加人数:41 名

図表Ⅱ-35 スケジュール

時刻 講師 テーマ

13:05 株式会社MATコンサルティ

ング

代表取締役社長 望月広愛氏

『組織を活性化させる 4 つの理念と 8 つの視点

(1)』~永続的に卓越した業績を上げるために~

14:30 株式会社MATコンサルティ

ング

代表取締役社長 望月広愛氏

『組織を活性化させる 4 つの理念と 8 つの視点

(2)』

16:00 株式会社J・ARTレストラン

システムズ

営業部長 今津美砂江氏

『㈱J・ARTレストランシステムズの現場で

の取り組み』

17:00 終了

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■講義の概要

顧客満足の前提は従業員第一であり、このために必要な企業風土作りへの取り組み

イタリアンレストラン・ロッソえびすやを運営する㈱J・ARTレストランシステ

ムズで経営を立て直し、2005 年度には日本経営品質賞中小規模部門を受賞した経験

にもとづいた経営品質についての講演である。人口減少から今後の成長が厳しい日本

にあって、これからは近江商人のいう「三方良し」だけではなく、4本目の柱である

「独自能力」が必要である。この「独自能力」には技術、技能、風土と3つあるが最

も大切なのは風土である。良い企業風土で価値観を共有したやる気のある社員が多く

なれ生産性は上がり、業績は上向く。業績を向上させるには顧客満足が重要だが、顧

客を満足させるのは従業員のやる気である。したがって従業員第一主義が最も重要で

ある。

カードを用いた従業員のモチベーションアップの実際の紹介と質疑応答

㈱J・ARTレストランシステムズでは従業員を採用する際、8つの約束を会社と

取り交わす。会社からも従業員に対して約束をし、相互の信頼関係を築くのに役立

っていると同時にこうした理念を共有することでやる気のある社員が集まり、前向

きな組織にしていった。大切なのはこうした理念を共有することで社員のやる気を

引き出し、それによって顧客満足を図るということである。他にも業員が顧客に褒

められたよい行動や、従業員同士で助かった行動などよいことをカードに書き込ん

で皆に紹介する取り組み行っており、この取り組みも従業員のやる気の向上に大き

く貢献している。

『組織を活性化させる4つの理念と8つの視点』

『㈱J・ARTレストランシステムズの現場での取り組み』

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②建設コンサルタント業の生産性向上研修

知識集約型産業である建設コンサルタント業では、案件ごとに業務内容が異なっている

ため生産性向上は難しいという固定観念があるが、実際に同業での先進事例を学ぶことに

よって実は製造業の工程管理の適用等により改善の余地が十分にあることを理解し取り組

みを促すことを目的とした。

■対 象:建設コンサルタント会社の経営者、経営幹部、部門管理者など

■日 時:平成 22 年 2 月 22 日(月)13:00~17:00

■場 所:ひろしまハイビル21(広島市中区銀山町3-1)

■参加人数:21 名

図表Ⅱ-36 スケジュール

時刻 講師 テーマ

13:05 株式会社五星

取締役副社長 神原孝行氏

『TOC-CCPM と現場力の引き出し方』

14:00 株式会社五星

取締役副社長 神原孝行氏

『生産性向上の事例演習』

15:30 京都大学工学研究科

准教授 古阪秀三氏

『何が PM/CM か、なぜ PM/CM か』

17:00 終了

■講義の概要

建設コンサルタント会社で大幅な工期短縮を実現した作業工程の「見える化」に

ついて実際の社内での取り組みをもとに紹介

CCPM(クリティカル・チェーン・プロジェクト・マネジメント)の背景にある

TOC(Theory of Constraints:制約条件の理論)」とは、企業活動の制約条件に着

目し、そこを集中的に強化・改善することにより、大きな成果を上げようとするマネ

ジメント手法である。CCPMの取り組みでは、プロジェクトの中の各工程のバッフ

ァ(安全余裕)を切り取りプロジェクトの最後に持ってくる。プロジェクトは進捗率

ではなく残日数で管理していく。こうすることで各工程でバッファを使い果たすこと

を防ぎ、生産性の向上を図るというものである。プロジェクトの中では社員相互の助

け合いがあり、コミュニケーションが円滑になる効果もある。

『TOC-CCPM と現場力の引き出し方』

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受講者に複数の作業を異なった方法で実際に行わせ、かかった時間にどのくらい

差があったか実感することにより何が効率的な作業方法なのかを考えさせる演習

複数の業務を平行して行うマルチタスクは効率的に見えて実は非効率であること

を、聴講者が“マルチタスク体感ゲーム”を実際に作業をしながら体感していった。

聴講者が 20 個の作業からなる3つの異なったプロジェクトを同時並行して作業した

ケースと1つのプロジェクトを終えたら次のプロジェクトに取り組んで1つ1つの

プロジェクトを終えながら個別に作業していくケースをそれぞれ作業時間を計って

比較した。結果は同時並行して作業したケースは個別に作業してケースと比べて概ね

1.5 倍の時間が掛かった。人間の脳は本当の意味でのマルチタスクはできず、複数の

対象の間を行ったり来たりしているに過ぎない。業務の改善にもこうした視点が必要

である。

今後の公共工事の方向性を見据えた上で建設コンサルタント業界として取り組む

べきPM・CMについての紹介

建築の場合、大きくは企画・設計・施工の3つに分かれる。昭和 30 年~40 年はど

の段階でも全体の流れを把握していて一貫してプロジェクトを管理する者がいたが、

現在は分業体制が確立されていて、一貫したプロジェクトのマネジメントが出来にく

くなっている。そのため、PM(プロジェクトマネジメント)、CM(コンストラク

ションマネジメント)といった手法が必要になっている。建設コンサルタントが主に

かかわる土木の世界でも今後、公共工事がの変化やそれに伴った競争の激化が予想さ

れ、こうしたPM、CMの手法は重要になってくる可能性がある。

(2)アンケート結果(2日間の合計)

研修後に行ったアンケートでは、研修の感想、今後の研修の参加について、今後の関連

情報の送付可否について尋ねたところ、以下のような結果となった。

図表Ⅱ-37 研修の講演の感想(2日間、計6講義の合計)

項目 回答数 構成比

非常によい 60 52.6

良い 46 40.4

普通 4 3.5

物足りない 4 3.5

非常に物足りない 0 0

全体 114 100

無回答 12 件

『生産性向上の事例演習』

『何が PM/CM か、なぜ PM/CM か』

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図表Ⅱ-38 今後の研修の参加について

項目 回答数 構成比

参加したい 33 94.3

参加しない 0 0

どちらとも言いえない 2 5.7

全体 35 100

無回答 7件

図表Ⅱ-39 今後の関連情報の送付可否

項目 回答数 構成比

はい 25 83.3

いいえ 5 16.7

全体 30 100

無回答 12 件

(自由記述欄の意見)

・ 人が基本のサービス業として共通する考え方、理念があり参考になった。

・ お客様第一ではなく、従業員の幸せ、満足→WINWIN の関係へつながる点は強く理解でき

た。

・ 組織を活性化させるためのヒントを得た。

・ 今回のような研修の開催をどんどんお願いいたします。参加したいです。

・ 全体的にわかりやすい内容だったので聞きやすく理解しやすいものでした。

講義の感想については「非常によい」及び「よい」とした聴講者の割合が9割を越えて

おり、高い評価を得ることができた。研修の開催にあたっては、(社)広島ビルメンテナン

ス協会、(社)建設コンサルタンツ協会 中国支部と連携を取り、協会員の希望する講師や

テーマを話し合いながら研修の内容を策定したことが良い結果につながったと思われる。

今後の研修についても9割超の受講者が参加したいとしており、サービス産業のイノベ

ーション・生産性の向上に対する関心の高さが窺える。

また今後の関連情報の提供についても8割以上の聴講者が希望しており、今回のような

実践研修が有効なものであることが確認できた。

中国地域の生産性向上運動を浸透させるにあたり、個社へのハンズオン支援だけでなく

業界・協会単位でのこうした普及啓発・意識醸成は必要かつ有効であるものと思われる。

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6.まとめ

「トライアルの重層化」の「現状」と「課題・方向性」をまとめると、次の通りである。

図表Ⅱ-40 トライアルの重層化の「現状」と「課題・方向性」 現状 課題・方向性

○「作業ごとの所要時間分析を通じた効率化」など 11 項目について対応できるか尋ねたところ、「窓口相談」を実施できるとの回答が3~4割にとどまった。

〔窓口相談の強化〕 ○平易な案件は窓口で対応し、専門家派遣が必要な案件は専門家へ円滑に取り次げるように、窓口担当者の対応力を高める必要がある。

○サービス産業の支援に必要な人材を尋ねたところ、自機関や他機関に登録している「専門家」との回答が上位を占めた。

〔専門家の発掘〕 ○専門家に関する情報を、支援機関が望む内容や方法で提供する仕組みを構築する必要がある。

○支援拡大における問題点を尋ねたところ、「ニーズのある企業を発掘する情報が少ない」、「支援ノウハウの情報が少ない」との回答が多かった。

〔ニーズがある企業の発掘〕 ○ニーズのある企業を発掘するルートを開拓・拡大することが必要である。その対応策の一つとして、税理士、公認会計士、金融機関との連携が考えられる。 〔モデル事例の情報発信〕 ○支援ノウハウの情報として、モデル事例に関する情報を、支援機関が望む形式で出来る限り詳細に発信する必要がある。

○情報交換や連携を深める際の問題点を尋ねたところ、「情報交換の定型的な手法が確立されていない」、「顧客情報の守秘義務があるため十分な情報交換ができない」との回答が最も多かった。

〔情報交換の仕組みづくり〕 ○支援情報に関する情報を、定期的あるいは定型的に交換できる方法を「仕組み」として定着させる必要がある。 〔情報交換の仕組みづくり〕 ○情報漏洩にならない情報交換の手法を確立する必要がある。

支援機関への アンケート調査

○小規模企業や零細企業が多かったり、経営者の高齢化が進んだりしているため、生産性向上になじまないとの意見(アンケートの自由記述欄)が複数みられた。

〔小規模・零細企業の支援〕 ○中小企業、特に小規模・零細企業においても活用しやすい事例や手法を普及していく必要がある。 〔高齢な経営者の支援〕 ○今後、本格的な高齢化社会を迎えるため、高年齢層の経営者への普及方法についても検討が必要である。

○アンケート調査や電話ヒアリングなどで支援事例を見つけようとしたが、あまり多く見られなかった。

〔サービス産業生産性向上の認知度拡大〕 ○支援機関によるサービス産業の生産性向上の支援は、まだ実績や取り組みが少ない。生産性向上の重要性、本運動自体の認知度などを高める必要がある。

○支援を要望している企業の情報が、金融機関から支援機関へ提供された事例が9件のうち3件みられた。

〔ニーズがある企業の発掘〕 ○金融機関は支援対象企業を発掘する上で重要な情報提供者であり、今後、緊密な連携体制を構築する必要がある。

○KJ法、動画撮影による作業分析、営業週報シート、生産工程の標準化、管理会計、接客マニュアルなど、多様な分析手法が採り入れられていた。

〔多様な支援手法のとりまとめ〕 ○どのような分析手法があり、それがどのような手順で進められ、どのような成果をもたらすかを整理し、支援機関に情報を提供する必要がある。

支援事例の ヒアリング調査

○支援機関のマネージャーやコーディネーター自身が、KJ法や管理会計による支援を実施していた。

〔支援機関マネージャーのスキルアップ〕 ○支援機関のマネージャーやコーディネーターが、KJ法、バランス・スコア・カード、管理会計などを習得する場を設けることが望ましい。

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図Ⅱ-41 トライアルの重層化の「現状」と「課題・方向性」 現状 課題・方向性

○経営者と従業員が率直に意見交換を行う場が、従業員が期待するほどには設けられていなかった。

〔モチベーション向上〕 ○自社の課題や方向性について、経営者と従業員が意見交換する場を設けると、経営改革に向けた従業員の参画意欲が高まる。モチベーション向上の具体的手法を、企業に情報提供する必要がある。

○現場での作業量を数量で把握していない(例:厨房で1日に何枚の皿を洗い、1枚の皿洗いに何秒かかっているか)。

〔ものづくり手法の応用〕 ○作業を数量化して把握するという考え方を、サービス業に理解していただく必要がある。

○3Sや5Sの本来の意味が理解されていない(単なる整理整頓と勘違いしている可能性もある)。

〔付加価値業務・非付加価値業務〕 ○先ず、何が付加価値であり、何が無駄であるかの定義そのものを、企業に理解していただく必要がある。 〔3S、5S〕 ○従業員が整理整頓を行うことが、設備や業務内容の点検につながることや、ルールを遵守する社風の確立に発展することを認識していただく必要がある。

○お客様のニーズ情報を持っていても、分析や活用ができていない。

〔ITの活用〕 ○自社のITシステムやアンケート等、顧客ニーズを聞き取る仕組みを再確認し、それを最大限に活用するための支援が望まれる。

ハンズオン支援

○(中小企業基盤整備機構以外の専門家で)サービス産業の生産性向上を支援できる専門家をほとんど確認できていない。

〔専門家の発掘〕 ○各地域の産業振興財団や商工会議所・商工会などの専門家で、サービス産業を支援できる人材を確認かつ育成し、中国地域全体で支援ネットワークが機能する体制をつくる必要がある。

○ビルメンテナンス業界では、従業員のモチベーション向上が最大の課題となっている。これは、他のサービス産業にも通じることであると思われる。

〔モチベーション向上〕 ○社内的なモチベーション向上の手法(経営者と従業員の意見交換、人事・業績評価、経営情報の従業員への開示など)をとりまとめる必要がある。この手法は、支援機関のマネージャーなどが支援・実施できる可能性がある。 〔モチベーション向上〕 ○社外とのつながりの中でのモチベーション向上の手法(お客様に従業員が褒めていただける仕組みづくり、社会貢献活動への参加など)の専門家を発掘する。

○建設コンサルタント業のように、各担当者へ工程管理が任されがちな業種では、業務の負荷と余力の有無が各個人および全社として正確に把握できていないことがある。

〔会社全体の業務量平準化の専門家〕 ○作業の標準化とプロセスの視える化を図り、会社としての作業最適を明らかにし、余裕のある従業員が別の従業員を応援する仕組みづくりが支援できる専門家を発掘する必要がある。

モデル研修

○法制度の改正により、生産性向上の進め方が大きな影響を受けることがあるにも関わらず、企業がその情報を知らないことがある。

〔法制度改正の影響〕 ○業界団体と行政が一体となって、法制度の改正とそれに伴う影響などの情報を、企業に発信する。

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Ⅲ.「普及啓発の重層化」に向けた取り組み 1.概要

本事業の3つの柱のうち「普及啓発の重層化」とは、聴講者を広く募集するサービス・イノベ

ーションセミナーや、聴講者の対象を特定の分野や業種に絞り込んだセミナーなど、テーマ、講

師、聴講者の組み合わせを多様な形で実施することである。

これにより、サービス産業の生産性向上運動の認知度を高めたり、先進的な取り組みの報告を

通じて生産性向上に興味を持っていただくという“広く浅い”タイプの普及啓発から、特定の業

種で高い効果を発揮する改善ツールの発表などにより、自社の問題点やその改善策についての木

月を促すといった“狭く深い”タイプの普及啓発まで、目的に応じた形で開催することが考えら

れる。

これまで述べてきた「トライアルの重層化」のフェイズで創出されたモデル事例に関する情報

とノウハウは、「普及啓発の重層化」のフェイズを通り抜けることにより、特定企業だけの所有物

ではなくなり、サービス産業全体での共有物へと昇華する。

このように、「普及啓発の重層化」は、3つの柱の中でも極めて重要性が高いものであると考え

られる。

図表Ⅲ-1 普及啓発の重層化

ここでは、「普及啓発の重層化」として中国地域で先進的な取り組みを展開している企業や、全

国的に著名な研究者や経営陣を招聘し、以下のような座談会やセミナーを開催した模様を次ペー

ジ以降で紹介する。

○座談会

(ハイサービス 300 選に選ばれた中国地域の4社と中国経済産業局の長尾局長、中山

課長による意見交換)

○セミナー

(平成 21 年 10 月:広島会場、同 11 月:松江会場、平成 22 年 1 月:広島会場で開催)

普及啓発の重層化 トライアルの重層化 人材・つながりの重層化

中国地域におけるサービス産業生産性向上「運動」の展開

各々のノウハウがフィードバックし合う「スパイラルアップ」な環境の構築

サービス・イノベーション

セミナーの開催(「気付き」

の喚起)

対象を絞ったセミナー等

の開催(「課題」の発見) 個別ハンズオン支援

のモデル実施

分野別のサービス生産

性向上モデルのケース

スタディー

サービス産業支援の専門家人材の育成

人と人との繋がり、機関と

機関との繋がりを構築する

「場」づくり事業の実施

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2.座談会

ここでは、サービス産業生産性向上運動の一環として、ハイ・サービス日本 300 選(注)の受賞

企業・団体の経営者をお招きし、平成21年10月15日に開催された座談会の概要をご紹介します。

(注)サービス産業生産性協議会ではイノベーションや生産性向上に関する先進的な取り組みを行っている企業・団体を表彰し

ており、中国地域からも平成 21 年 10 月までに 11 件の企業・団体が受賞している。

(注)向かって右側から、武田社長様、井手下院長様、長尾局長様、小野会長様、山中社長様、中山課長様。

(1)ハイ・サービス日本 300 選を受賞した経営者の取り組み紹介

長尾局長

本日はお忙しいなか、座談会にご参集いただき、誠にありがとうございます。本日は、サービ

ス産業の生産性向上において活躍されている皆様から、ご知見やご見識を披露していただき、

中国地域のサービス産業全体を良い方向へ導くためのご協力をお願いしたいと思います。皆様

の現場でどのような取り組みをしておられるのかをご紹介いただき、その素晴らしさを実感し

たうえで、いろいろと意見交換をさせていただきたいと思います。

中山課長 『効率化と顧客満足度は二律背反する』

一般的に、「効率化を進めようとすると顧客満足が下がる」、「効率化と顧客満足は二律背反す

る」という指摘があります。皆様のところではいかがでしょうか?

井手下院長 『生産性向上と人財育成は表裏一体』

私のクリニックではお客様への応対のやり方に相当な注意を払っていますが、それでも「今

よりもっと応対を良くしなければならない」と思っています。生産性向上と人財育成は表裏一

体です。生産性向上に取り組めば、人財も育ってきます。 私どもは、院内の「視

える化」に取り組んでおります。社員と気持ちを一つにするためには、将来が視える必要があります。その意味で、「経営理念・ビジョンなどの視える化」、「経営計画(方針)の視える化」などを進めてきた結果、今では経営状況の数値を全ての社員が知っています。「ルールの視える化」を実行するためには、業務の進め方やそれをチェックするやり方など、全ての項目についてチェックすることが大切です。そして、チェックしたかどうかをチェックする体制も必要です。 また、どの人がどの業務をどこまで出来るのかが分かるよう、技能習得状況を星取表にしています。生産性を向上することは、人財を育成することと同じなのです。

【経営者】 医療法人社団いでした内科・神経内科クリニック 理事長 井手下 久登 氏 株式会社アビリティ・インタービジネス・ソリューションズ 代表取締役社長 武田 昌勝 氏 サマンサジャパン株式会社 代表取締役会長兼CEO 小野 英輔 氏 株式会社ティ・エス・エス・プロダクション 代表取締役社長 山中 敏治 氏 【コーディネーター】 中国経済産業局 局長 長尾 正彦 氏 【司会】 中国経済産業局 産業部 流通・サービス産業課 課長 中山 光治 氏

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武田社長 『マルチワーカーの育成が会社の付加価値』

当社では、翻訳を中心として、多様な言語サービスを展開しています。そのため、多様な言

語を扱える社員を擁しており、このような社員を当社では「マルチワーカー」と称しています。

マルチワーカーになると社員自身に付加価値がつき、さらに会社にも付加価値がついて、生産

性も向上します。

また、ITを活用した作業の効率化も進めています。具体的には、当社の翻訳システムに、

ある単語や文章の適切な翻訳のやり方を記した辞書を、業界ごと、お客様ごとにつくっていま

す。同じ単語でも、お客様や業界によって、翻訳のやり方が微妙に異なりますので、この辞書

を丹念にメンテナンスしています。

社員が派遣期間を終えて当社に戻ってきますと、派遣先で身に付けたノウハウによって、新

しい社員を育ててくれます。この循環を維持することが、当社の人材育成にとって重要です。

生産性を高めなければ、採算を確保できません。その対応策として、当社では社員の能力ア

ップなどに取り組んでいます。

小野会長 『モノづくりの発想で生産性を向上』

当社は清掃業務にとどまらず、たくさんの柱となる事業を育ててきました。ある時、「5Sの

徹底実践」によってデミング賞を受賞された企業の経営者の話を聞きました。5Sとは「整理、

整頓、清潔、清掃、しつけ」のことで、最初の 4Sは清掃業務と同じことです。つまり、清掃

を通じて繁栄した企業があったのです。そこで、私は発想を転換し、当社の事業を単なる掃除

ではなく、「繁栄手助け業」であると考えるようになったのです。

床の清掃で水を使わないドライ工法を採用したのは、当社が業界で最初でした。これにより、

ワックスを塗った直後でも、その上を歩くことができるようになりました。また、ワックスを

磨く機械には、従来は長い電気コードが付いていましたが、これでは人が歩く妨げになります。

そこで、コードレスの装置も開発しました。このような取り組みの結果、早朝や夜間ではなく

日中の作業が可能となり、50~60 歳代の人だけでなく、30 歳前後の女性が働ける職場になりま

した。

社員教育は、「人づくり」を中心に行っています。「親孝行」から始めて、自分がどのような

生き方をすればよいかを自分で考えるように、繰り返し指導を行います。社員やスタッフの人

間的レベルの向上が、生産性向上をはじめ全ての原点になると考えています。

山中社長 『外国人が日本を紹介する動画のWebサイトを構築』

当社では動画の Web サイト「ジャパン・イ

ン・モーション」を立ち上げました。このサ

イトは、広島に住んでいる外国人が自分達の

行きたい場所を旅して、彼らの感性で Web の

動画に仕上げているもので、日本へ観光に訪

れる数多くの外国人に見ていただいています。

この番組は、地上波の番組を担当したことが

ある日本人ディレクターが、外国人レポータ

ーなど数名とともに旅行し、パソコンを持ち

歩きながら動画を編集していますので、低コ

ストで番組を制作できます。

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メディア業界の仕事は経験や感性が重要であるため、アナログのままですが、今では効率化

せざるを得なくなりました。このため、人と機材の管理のIT化を進めるなど、「視える化」に

取り組んでいます。

新規ビジネスという点では、ジャパン・イン・モーションを海外の CATV で放送し、好評を

得ています。これは、コンテンツの 2次利用、つまり一度利用したコンテンツを別の媒体で再

び利用して採算性を高めるという取り組みです。

(2)サービス産業全体への生産性向上運動の拡大について

中山課長

サービス産業全体で生産性向上に取り組むうえで、何が問題であり、それを解決するために

どのようにすればよいかについて、ご意見を頂戴したいと思います。

井手下院長 『「視える化」する』

私どもは、全てを「視える化」しようと取り組んでいます。社員と情報を共有して、社員が

当クリニックのことを全て理解できるようにしています。また、私は、社員が書いている書類

に全て目を通して、返事を書いています。経営トップがしっかりと社員を見て指導することが

重要です。

武田社長 『支援する専門家』

以前、社内組織をフラット化したいと思っていた時、その進め方を指導してくれる専門家が

見つかりませんでした。求めているアドバイスを明確に提供してくれる専門家を見つけやすい

仕組みが出来ると、非常に利用しやすくなると思います。

小野会長 『社内での人材育成』

当社では、お客様にアンケートをお願いして、当社のサービスについて「大満足」、「満足」、

「普通」、「やや不満」、「不満」の5段階の評価をいただいています。回答が「普通」以下だっ

たお客様については、社員が訪問してその理由を聞き、パート社員と一緒に解決策を考えてい

ます。小さな変化の積み重ねが 10 年後の会社を大きく変化させます。しかし、これを確実に

進めていくには、「人づくり」の教育が必須です。

山中社長 『新しいビジネスモデル』

地方の放送局が独自に作成したコンテンツは、Web で放送してもなかなか見てもらえません。

この壁を何とかして突破することが必要です。その方向性の一つとして、当社ではジャパン・

イン・モーションに掲載した動画を、海外の CATV 用に再編集して 2次利用するという新たなビ

ジネスモデルを開拓しています。

長尾局長

皆様のご意見を伺っていますと、情報の共有による「視える化」、付加価値の高い新しいビジ

ネスモデルの創出、専門家や社員などの人材育成といったキーワードがありました。これらの

キーワードは、「サービス産業生産性向上運動」の 3本柱にも深く関わっているように思います。

3本柱とは、情報を発信して共有する「普及啓発」、生産性向上のモデル事例を生み出していく

「トライアル」、専門家人材を育成してフェイス to フェイスの交流を図る「人材・つながり」

の 3つです。この運動を展開するなかで、本日皆様から伺ったご意見についてもお応えできる

ように取り組んでいきたいと思います。本日は、貴重なお話をご披露いただき、本当にありが

とうございました。

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3.ミニ・セミナー開催

中国地域におけるサービス産業生産性向上運動の3つの「柱」のうち「普及啓発の重層

化」を図るため、本事業ではミニ・セミナーを計3回(山陽側2回、山陰側1回)開催し

た。内容は、全国および中国地域における先進事例を紹介することで「身近な企業もサー

ビス生産性向上に取り組んでいる」ことを実感させ、聴講者に自社の「課題の発見・認識」

を促し、自社及び各支援機関においても生産性向上を実施する動機付けを図るものとした。

また、セミナー後には聴講者を対象とするアンケート調査を実施し、本セミナーの評価や

成果を確認した。開催したセミナーの内容は以下の通りである。

(1)開催日程・スケジュール

図表Ⅲ-2 開催日程・スケジュール

(2)各セミナーの参加人数

第一回・・・・・109 名

第二回・・・・・ 64 名

第三回・・・・・141 名

平成 21 年 10 月 15 日(木)

山陽側 ひろぎんハイビル 21(広島市中区銀山町3-1)

14:45~15:35 15:45~16:35

回 独立行政法人産業技術総合研究所

次長 内藤耕氏

『現場カイゼンで顧客満足度向上!』

株式会社一の湯

代表取締役 小川晴也氏

『人時生産性の考え方』

平成 21 年 11 月 4 日(火)

山陰側 島根県民会館(島根県松江市殿町 158)

14:35~15:35 15:45~16:45

回 独立行政法人産業技術総合研究所

次長 内藤耕氏

『現場カイゼンで顧客満足度向上!』

サンイン技術コンサルタント株式会社

代表取締役社長 大野木昭夫氏

『見える化で勝ち抜く』

平成 22 年1月 14 日(木)

山陽側 ひろぎんハイビル 21(広島市中区銀山町3-1)

15:05~17:00

回 福井県民生活協同組合

理事長 藤川武夫氏

『組織のダイナミズムをどう高めたか』

(中国生産性本部との連携により開催)

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(3)各講演の概要

①第一回 サービス産業生産性向上セミナー

サービス産業の生産性向上運動を進めていくにあたり、キックオフとなる最初のセミナ

ーであることから、生産性向上を広く認知してもらえる導入的な内容とした。

業種に関わらず生産性を向上させることは可能で、同時に顧客満足を上げるこ

とが出来る。

サービス産業の生産性向上に取り組む際、顧客満足を追求すると効率性が落ち、

効率性を追及すると顧客満足が低下するという二律背反の問題が想定されがちだ

が、これを解決した優れた取り組みを行っている企業の事例紹介があった。バック

オフィスを効率化した分、接客時間を長く取るようにして、この中から顧客ニーズ

を取り込み、次の作業に生かしたり、固定客につなげることを重視している旅館や、

親会社のメーカー的な発想で厨房のレイアウトを変更することにより、対応できる

客数をそれまでの3倍にも増やすことに成功した海鮮レストランの事例である。こ

れからのサービスは顧客満足だけを追及するのではなく、品質と効率の両方を追求

して顧客満足を高める仕組みを作っていくことが大事であるとしている。

人時生産性、ROIに注目した取組が必要である。

赤字を計上するようになった頃に家業である老舗温泉旅館一の湯を継いだ。経営環境は

徐々に厳しくなっており経営改善に取り組むものの、様々な経営改善手法を試したが経

営は良くならなかった。そうした時に人時生産性の考え方に出会う。人時生産性(=粗

利益高÷総労働時間)とは1時間あたりいくらの粗利益を稼ぐかという指標であり、適

正利益を確保するための人件費の支払い能力を示すものである。当時の一の湯の人時生

産性は 1,700 円で自給 1,000 円と経費等を支払うと、到底利益のでる体質ではなかった。

こうしたことから人時生産性を経営改善の指標とし、これを 5,000 円にする明確な目標

を掲げ、従業員の早帰りから取組を始め、徐々に、付加価値を落とすことなく無駄なサ

ービスを見直していくことで、現在は恒常的に人時生産性を 5,000 円で維持し、さらな

る利益率の向上に取り組んでいる。

『人時生産性の考え方』

『現場カイゼンで顧客満足度向上!』

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②第二回 サービス産業生産性向上セミナー

サービス産業の生産性向上運動を進めていくにあたり、山陰側での最初のセミナーであ

ることから、第一回と同様、生産性向上を広く認知してもらえる、導入的な内容とした。

③第三回 サービス産業生産性向上特別セミナー

山陽側での二回目のセミナーであることから、生産性向上の幅広い認知とともにより深

い理解を促すことからとり身近な内容とし、中国生産性本部との連携により開催した。

顧客ニーズは画一的なマーケティングでは得られず、一人一人個別に捉え

ることが必要である。

2000 年から3年連続で大幅減収になり存続の危機を感じた。年代、世代、ライフス

テージ別の顧客分析を行っていたが、なぜ売れなくなったのか要因がわからなかった。

ある時、組合員から「注文書に買うものは書いてあるが買いたいものは書いていない」

という意見があった。それまでの分析をやめて組合員個別に何を望んでいるのか聞き

取り調査を行った。こうした取り組みを徹底し、お客様の声に対応していくことで利

用が上がってきた。しかし、こうしたことは現場の職員はずっと以前から感じていた

ことで、現場と本部のコミュニケーションと仕組みが欠けていたことにも気づかされ

る。生協のシステムでは一人一人の利用状況がわかるため、一人一人見るようにして

いくと事業の認識が変わり、顕在ニーズと潜在ニーズを開拓することに取り組んでい

る。

建設コンサルタント会社で取り組んだトヨタ式改善手法での「見える化」と

CCPMの適用による工程の「見える化」

設計から測量、調査といった流れ作業で行われる建設コンサルタントの業務は、

作業工程に連鎖があり人の能力が品質に影響し個人の能力プラスチーム力が必要に

なる。このような業務の流れと仕組みは製造業においてお手本とされるトヨタ式の改

善手法に類似点があることに着目し、非効率な自社の業務を改善すべく平成 16 年か

ら実際に改善の専門家(地元自動車メーカーOB)の派遣を受けた。その後さらなる

改善として平成 19 年以降は、プロジェクト完成のためのひとつひとつの作業につい

て日数を検討しながら並べて工程管理をすることで一人一人の作業を視える化する

中で全体と個々の仕事量を管理するCCPMを導入している。組織が変わらなければ

人は変わらないとして現在は会社組織も部門制からプロジェクト制に移行し、コミュ

ニケーション作りのためにコーチングの仕組みも取り入れている。

『見える化で勝ち抜く』

『組織のダイナミズムをどう高めたか』

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(4)アンケート結果(3日間の合計)

セミナー後に行ったアンケートでは、セミナーの感想、サービスの生産性向上やイノベ

ーションへの現在の取り組み、今後の関連情報の送付の可否、アンケートを知ったきっか

けについて尋ねたところ、以下のような結果となった。

図表Ⅲ-3 セミナーの感想

項目 回答数 構成比

よかった 206 73.8

普通 63 22.6

期待はずれ 10 3.6

全体 279 100

無回答 12 件

図表Ⅲ-4 現在の生産性向上への取り組み

項目 回答数 構成比

取り組んでいる 78 49.4

具体案を検討中 49 31.0

取り組んでいない 31 19.6

全体 158

無回答 27 件

図表Ⅲ-5 関連情報を送付してもよいか

項目 回答数 構成比

はい 128 86.5

いいえ 20 13.5

全体 148 100

無回答 37 件

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図表Ⅲ-6 セミナーを知ったきっかけ

複数回答

講演の感想については「よかった」とした聴講者の割合が7割を越えており、聴講者が

概ねセミナーの内容について満足したことがわかる。

生産性向上・イノベーションに取り組んでいるとの回答は約5割であり、また約3割が

取り組みを検討中であることを考えると、サービス産業の生産性向上に対する潜在的なニ

ーズは多くあり、今後とも普及・啓発が必要であると思われる。

今後、生産性向上に関するセミナー等の関連情報を案内してもよいとした回答が8割を

超えた。 今回のセミナーは総じて聴講者から高評価を得ており、サービス産業の生産性向上を図

っていく上で有効であり、今後も必要であると思われる。

項目 回答数 構成比

中国地域ニュービジネス協議会 9 5.0

中小企業基盤整備機構 10 5.6

中国生産性本部 47 26.1

商工会議所・商工会・商工会連合会 14 7.8

中国経済産業局 33 18.3

ひろぎん経済研究所・山陰経済経営研究所 27 15.0

新聞社 1 0.6

知人 7 3.9

業界団体 20 11.1

その他 21 11.7

合計 189

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4.まとめ

これまでに紹介してきた「普及・啓発の重層化」について、「先進企業の取り組み」と「本

運動の課題・方向性」をまとめると、以下の通りである。

図表Ⅲ-7 普及・啓発の重層化の「先進企業の取り組み」と「課題・方向性」 先進企業の取り組み 本運動の課題・方向性

○座談会に参加した企業では、経営理念を共有化するための取り組みを実施している。

〔経営理念の共有化〕 ○経営理念の共有化とはどのような状態を表し、それを実現する具体的手法にどのようなものがあるかをとりまとめる。支援機関のマネージャーなどが、この支援を実施できるか検討する。

○いでした内科・神経内科クリニックでは、5S、毎日の従業員別タイムテーブル、標準作業書、技能習得状況表を定着させている。

〔会社全体の業務量平準化の専門家〕 ○中国地域には、左欄の仕組みや管理帳票のつくり方を支援できる専門家がほとんど見当たらないので、これから発掘する必要がある。

座談会

○アビリティ・インタービジネス・ソリューションズでは、多言語を話せる従業員を育成し、会社ごとの翻訳辞書を整備するなど、独自の優位性を構築している。

○サマンサ・ジャパンでは、製造業的な発想により、床のワックス磨きを効率化するなど、独自の優位性を構築している。

○ティ・エス・エス・プロダクションでは、Web動画コンテンツの安価な制作ノウハウとその2次利用など、独自の優位性を構築している。

〔独自の優位性〕 ○先進企業の独自の優位性に関する情報を収集する。セミナーなどでこの情報を発信し、同業者に経営改革の必要性に気づいていただく。

○産業技術総合研究所サービス工学研究センターの内藤次長は、旅館、ホテル、回転寿司、海鮮レストランなど、幅広い業種での生産性向上にかかる取組について調査し、業種を超えて共通する考え方や経営手法を紹介した。

〔サービス産業生産性向上の認知度拡大〕 ○幅広い業界の聴講者に、サービス産業の生産性向上への関心を持っていただくことができた。このようなセミナーは、本運動をサービス産業全体に押し広げていく上で、極めて効果的である。

○一の湯では、人時生産性を最も重要な指標として、経営改革を推進してきた。

〔人時生産性〕 ○サービス業の原価のほとんどは人件費であり、今後の支援においては、人時生産性を目標とする指標の一つに加えることが望ましい。

○サンイン技術コンサルタントでは、作業の負荷と余力の視える化に取り組み、余裕のある従業員が余裕のない従業員を応援する体制を構築している。また、各従業員が自己申告した所要日数から全体としてのバッファを組んでいる。

〔会社全体の業務量平準化〕 ○知識集約型サービス業では、考える作業が多いため、無駄な作業を客観的にとらえにくい。この基準を明らかにするとともに、作業の標準化とプロセスの視える化の重要性を広く普及啓発することが望まれる。

ミニ・セミナー

○福井県民生活協同組合では、1300名のお客様と面談したり、購入履歴を詳細に分析することで、お客様ひとりひとりのニーズを的確に把握している。

〔顧客ニーズの分析手法〕 ○お客様のニーズの収集方法や分析手法を確認し、適切な手法を指導する支援が望まれる。

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トライアルの重層化 人材・つながりの重層化

中国地域におけるサービス産業生産性向上「運動」の展開

各々のノウハウがフィードバックし合う「スパイラルアップ」な環境の構築

対象を絞ったセミナー等

の開催(「課題」の発見)

Ⅳ.「人材・つながりの重層化」に向けた取り組み 1.概要

本事業の3つの柱のうち「人材・つながりの重層化」とは、サービス産業の支援を企画・運営

する支援機関のマネージャーやコーディネーター、サービス産業の現場を訪問して支援する専門

家などを育成したり、このような人たちのフェイス toフェイスでの交流や、支援機関同士による情報交換などのつながりの場を設定するなど、サービス産業の支援に関する情報やノウハウが円

滑に行き来する基盤をつくりあげることである。 これにより、モデル事例づくりの過程で生み出された情報やノウハウが、マネージャーや専門

家の間を生きた形で流れるようになる。すなわち、ある県の支援機関のマネージャーが、他地域

の専門家に支援を要請したり、一つの企業の支援に複数の機関のマネージャーが参加することで

ノウハウを共有化するといったことが、頻繁に行われるようになる。 現時点では、サービス産業の生産性向上の重要性が徐々に認知されつつあるものの、実際に企

業を支援できる人材は限られている。今後、企業のニーズにあわせて、適切な支援ができる専門

家を派遣できるようになるためには、人材の育成とフェイス toフェイスのつながりを拡大することが不可欠であり、その意味において「人材・つながりの重層化」のフェイズは、今後のサービ

ス産業生産性向上運動が広がるスピードを大きく左右する重要な要素であると考えられる。 図表Ⅳ-1 人材・つながりの重層化

ここでは、「人材・つながりの重層化」として、本年度実施した以下の事項について、次ページ

以降で紹介する。 ○業界団体へのヒアリング調査 (業界団体 9カ所を訪問し、現状の聴取や本運動への協力要請を実施) ○専門家養成研修 (中小企業大学校広島校で平成 22年 2月 8日と同 12日に開催) ○交流会および名刺交換会 (研修とセミナーの終了後に交流会および名刺交換会といった交流の場を設定)

普及啓発の重層化

サービス・イノベーション

セミナーの開催(「気付き」

の喚起)

個別ハンズオン支援

のモデル実施

分野別のサービス生産

性向上モデルのケース

スタディー

サービス産業支援の

専門家人材の育成

人と人との繋がり、機関と

機関との繋がりを構築する

「場」づくり事業の実施

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2.運動への賛同が期待される業界団体へのヒアリング調査結果

ここでは、生産性向上運動への理解と賛同が期待される業界団体へのヒアリング調査内

容を、本報告書掲載の了解を得られた7先(ヒアリングは9先実施)について紹介する。

(1) 業界の課題

業界の課題について尋ねたところ、競合の激化、市場の成熟、新しい市場の開拓などを、

多岐にわたる回答がみられた。競合が激化し、市場が成熟している業界においては、生産

性向上に取り組むことは有益であると思われる。

図表Ⅳ-2 業界の課題

団体名 概 要

(協)広島総合卸センター 商工センター内の卸売団地は「流通業務市街地の整備に関する法律」における「流通業務地区」及び「流通業務団地」の指定を受けている。このため、卸売業から他の業種へ進出できない。

(社)広島県タクシー協会 規制緩和によって競争が激化したため、業界全体が疲弊しており、従業員の所得も大幅に減少している。規制を強化して需給バランスをとることを考えないとサービス低下や事故につながりかねない状況になっている。自由化の本家であるアメリカでは州によっては台数や料金の規制をかけている。 デフレの環境下、タクシー自体の需要が減少しているので個別の企業では運転代行、買物代行など付加価値をつけたサービス提供を行っているところもあるが、目立った成果は出ていない。

広島県倉庫協会 業界としては堅実な経営志向が強く、倉庫に限らず物流全般を視野に入れるなど周辺やその他の分野を開拓していかないと発展していかない。

島根県測量設計業協会 以前は、全国大手と地場企業の技術格差がみられたが、最近は地場企業もかなり追いついてきた。

宮島旅館組合 旅館業は朝早く夜遅い業界だが、島内に従業員が宿泊できる施設がなくコンビニエンスストアが無いなどもあり、若い従業員の確保が難しい。

島根県建設業協会 -

中国税理士会 -

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(2) 会員の相談相手 会員企業が課題を抱えた時に相談する相手について尋ねたところ、課題解決に役立ちそ

うな研修を企画・開催している事例はみられたが、業界団体自身が相談を受けて対応して

いる事例はほとんどなかった。

図表Ⅳ-3 会員の相談相手

団体名 概 要

(協)広島総合卸センター 組合員の相談に対しては事務局で企業相談室を設けてはいるが、実態的には難しい面があるので、広島市の支援センターを紹介し、ここからアドバイザーを派遣いただくなどして対応している。

(社)広島県タクシー協会 協会に対しては法律相談は多いが、サービス生産性の向上といった相談はないし、基本的には個々の企業で税理士やコンサルタントに相談している。

広島県倉庫協会 個別の相談といったことはないが、協会としては研修事業に力を入れている。中小企業大学校に依頼してオーダーメイドの研修をしており、会員企業の要望に応じた講師を派遣してもらったりし、こうした取り組みは6年前から続けている。他にも中国地方倉庫協会連合会としての物流フォーラムの中で異業種から講師を招いて講演をいただくなどしている。

島根県測量設計業協会 会員企業が課題を抱えたときに最初に相談する相手は、個々の企業によって違う。 当協会には税理士もおり、去年は地元の金融機関の人や米子市の税理士を呼んで、最近の状況を会員企業に話していただいた。

宮島旅館組合 生産性向上など経営に直接関わることに関しては、事業規模の違いがあり今までは対応したことがない。現在は年に4回開催する研修が組合の主な活動で、救命救急や安全安心確保のためのもの、保健所の指導による衛生面に関するもの、廿日市市とタイアップしての英語研修などがある。

島根県建設業協会 -

中国税理士会 -

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(3) 支援ネットワークとの連携等に関する意見

支援ネットワークとの連携について尋ねたところ、ほとんどの業界団体が、当該団体の

設立趣旨や会員企業のメリットに適合するテーマであれば、会員への情報発信などで協力

できる可能性があると回答した。

図表Ⅳ-4 支援ネットワークとの連携等に関する意見

団体名 概 要

(協)広島総合卸センター 製造業の視点でサービス産業の生産性向上に取り組むのは理解できるし、おもしろい。 現在でも中小企業大学校のセミナーには組合の紹介で参加する企業は多い。厳しい制約条件がある中、現段階では卸売業の本来機能をもっと高めていくことに問題意識を持っているので、こうした支援も踏まえた切り口での提案があり参考になるものであればPRをしていくことはできる。

(社)広島県タクシー協会 これまで業界を対象としたセミナーを開催したことはない。既にかなりの部分で合理化を行っており、もう生産性向上の余地は少ないとの認識がある。こうした部分で何か有用なセミナーや研修などの提案があれば、PRしていきたいと思う。

広島県倉庫協会 中小企業大学校での研修で「ロケーション管理ABC」や、物流で著名な先生の講義はすでに行っており、来年度も「5S」や「目で見る管理」など生産性向上につながる研修を予定している。協会員は零細企業も多く、たくさんの時間は割けないので、的確で役立つセミナー等の提案があれば協力するし、一般のセミナーや情報提供等には協力する。

島根県測量設計業協会 今回のセミナーについては関心がある。また、このような事業は、評価できる。 政権交代で、今後の受注動向が見えにくくなったので、生産性向上に取り組む必要性も高まってきた。 当協会に関連する研修を開催する場合には、協力できるか否かを総務委員会に諮ってもよい。

宮島旅館組合 事業規模の違いがあるため、一律なセミナーというわけにはいかないが、内容によっては検討したい。どのような形で協力できるか組合としても考えてみたいと思う。

島根県建設業協会 建設業者の業務の中には設計業務もあるが、それは一部分であり、サービス産業の生産性向上に関して協力できる場面は限られていると思う。

中国税理士会 会員の税理士に役立つ内容であれば、税理士会から情報を発信することについては、十分に検討の余地がある。 これまで、中国経済産業局との情報・意見交換の場はあまり多くなかったが、これをきっかけとして交流の場を設けていただきたい。

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3.専門家養成研修開催

サービス産業の支援においては、製造業の支援に比べて改善取組を支援できる専門家が

不足している状況にある。また加えて、サービス産業からの相談が支援機関に寄せられた

際、その背景にある真の課題は何かを見極め、その課題解決に向けた適切な専門家を選定

して派遣・支援する、コーディネーターやプロジェクトマネージャーの機能が非常に重要

となる。

こことから、サービス産業生産性向上運動の3つの「柱」のうち「人材・つながりの重

層化」を図るため、サービス産業分野において指導ができる人材を育成するための研修(以

下「専門家養成研修」)を実施した。

研修終了後には聴講者を対象とするアンケート調査を実施し、本研修の評価や成果を確

認した。開催した専門家養成研修の内容は以下のとおりである。

(1)開催内容

本研修は早期にサービス産業分野での指導・対応ができる専門家を育成することを目的

としていることから、現在、実際にハンズオン支援に携わっている専門家による取組事例

を詳細に紹介する内容とした。

■対象:地域力連携拠点をはじめとする支援機関のコーディネーター及びプロジェクトマ

ネージャー

■場所:中小企業大学校広島校(広島市西区草津新町1-21-5)

図表Ⅳ-5 第1日:平成 22 年 2 月 8 日(月)の日程(参加人数:31 名)

時刻 講師 内容 13:30 講義1

(独)中小企業基盤整備機構 統括プロジェクトマネージャー 森 紀男 氏

サービス業を支援する際のプロジェクトマネジメントの手法やノウハウを、同氏の豊富な経験から実践に役立つ形で解説する。

14:30 講義2

(独)中小企業基盤整備機構 アドバイザー 泉 旦茂 氏

自動車メーカーの「カイゼン」ノウハウによる生産性向上の手法を、観光ホテルの支援事例をもとに紹介する。

15:45 講義3

㈱油谷湾温泉ホテル楊貴館 代表取締役社長 岡藤 智加子 氏

「ホテル楊貴館」岡藤社長とアドバイザー泉氏のディスカッションを通じて、サービス業の支援現場を紹介する。

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■ 講義の概要

複合的になってきている企業ニーズに対応するための支援機関同士の連携

中小企業基盤整備機構でこれまで取り組んできた支援では、ものづくり系の支援が6割

強を占めていたが、サービス産業向けの支援も行っており、成功事例も多い。地域の企業

は地域の機関が一番良く知っていることから、現在は地域の機関と連携して支援していく

ことに力を入れている。加えて企業のニーズは一つということはなく、複合的になってき

ていることもあり、そういったことからも専門家や機関との連携は重要になってきており、

コーディネーターにはフットワークとネットワークが必要とされる。経営者も気づいてい

ない本当の経営課題を探り、広域的な視点で派遣する専門家を選ぶ必要がある。

本事業で行っているハンズオン支援の支援先と専門家の対談

対談者は本事業で現在ハンズオン支援を行っている(独)中小企業基盤整備機構ア

ドバイザーの泉 旦茂氏と支援先の油谷湾温泉ホテル楊貴館社長 岡藤 智加子氏

である。先代社長のご主人が亡くなって経営を引き継ぎ、苦労をしたことから恒常的

に利益の出る経営体質にした上で次世代に引き継ぎたいとの思いがあり、経営改善の

支援を仰いだ。泉氏が行った、経営の問題を従業員から聴き取るKJ法の取り組みや

従業員が自発的に始めたミーティングなど、支援開始から間がない中、効果が表れて

いることに外部支援の必要性を社長は感じている。

製造現場の改善手法を用いたサービス産業の生産向上への取り組み

マツダ勤務時代に取引先の現場改善指導を行ってきた手法をもとに現在でも数多く

の企業の支援を行っている。作業を数値でとらえることが少ない傾向にあるサービス

産業でも製造業の改善手法が適用可能であり、KJ法(従業員に問題点をカードに書

いてもらい、分類、集計して問題点を探る)や作業観測等の改善手法の紹介があった。

サービス業では建物や料理といったものに従業員の気持ちが加わったときに付加価値

が生まれることを明らかにし、経営者から管理者、スタッフへ理念や方針の共有が必

要であるとしている。

講義2

講義3

講義1

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図表Ⅳ-6 第2日:平成 22 年 2 月 12 日(金)(参加人数 20 名)

時刻 講師 内容 13:30 講義1

(独)中小企業基盤整備機構 チーフアドバイザー 綿岡 英幸 氏

アクト中食㈱をはじめとして同氏がこれまでに支援してきた事例などをもとに、サービス業・特に流通業の支援手法を解説する。

14:30 講義2

アクト中食株式会社 代表取締役専務 平岩 宏隆 氏

「アクト中食」平岩専務とチーフアドバイザー綿岡氏のディスカッションを通じて、サービス業の支援現場を紹介する。

16:00 講義3

(財)ひろぎん経済研究所

重回帰分析などの解析手法について、理論的な話ではなく「簡便に活用できる有効ツール」として、エクセルの操作方法などに焦点をあてて分かりやすく説明する。

■ 講義の概要

小売業の生産性向上のための問題点把握体対応策

小売業の店舗経営上の問題点と対応策については6つのステップ(商圏調査・商

品企画・販売促進企画・店舗運営企画・店舗人材教育・店舗管理教育・評価)があ

り、この流れを把握すると問題点を理解できるようになる。21 世紀はサプライチェ

ーンの時代で、製造、卸、小売の流れの効率化を図り高品質、低価格を提供できる

企業が生き残る。特に流通の工程を視える化してコストをミニマムにし、強い流通

チャネルを構築することが重要になってくる。

本事業で行っているハンズオン支援の支援先と専門家の対談

対談者は本事業で現在ハンズオン支援を行っている(独)中小企業基盤整備機構チ

ーフアドバイザーの綿岡 英幸氏と支援先のアクト中食㈱ 専務 平岩 宏隆氏で

ある。アクト中食㈱は広島近隣県で飲食店に対するルートセールスを行っている「業

食事業部」、発祥が米屋であることから関連の「米穀事業部」、フランチャイズで展開

している業務用食品スーパーの「ストア事業部」の3つの業務を柱としている。製造

小売卸まで全ての機能を網羅したいとの明確な方向性を持ち、積極的な展開を進めて

いる。

講義1

講義2

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(2)アンケート結果(2日間の合計)

研修後に行ったアンケートでは、研修の感想、今後の研修の参加について、今後の関連

情報の送付可否について尋ねたところ、以下のような結果となった。

図表Ⅳ-7 研修の感想(2日間、計6講義の合計)

項目 回答数 構成比

非常によい 31 64.6

良い 10 20.8

普通 7 14.6

物足りない 0 0

非常に物足りない 0 0

全体 48 100

無回答 1件

図表Ⅳ-8 今後の研修の参加

項目 回答数 構成比

参加したい 13 100

参加しない 0 0

どちらとも言いえない 0 0

全体 13 100

無回答 1件

図表Ⅳ-9 今後の関連情報の送付可否

項目 回答数 構成比

はい 11 91.7

いいえ 1 8.3

全体 12 100

無回答 1件

経営判断にも役立つ回帰分析手法の紹介

回帰分析というと複雑な数学を用いて理解しがたいものに感じることろ、この講義

ではCVSチェーンの新規出店の例を使った単純回帰分析や、複数の要因を考慮した

重回帰分析による推計、百貨店での顧客の購買履歴から以降の購買可能性の予測する

判別分析の手法などわかりやすく説明を行った。

講義3

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(自由記述欄の回答)

・ 具体的な手法の説明があり、よかった。

・ 現在取り組んでいる再生支援の事例にぴたりと当てはまる話で大変参考になった。

・ 対談方式の研修の企画がよかった。企業の悩みを外部人材が改善で支援する意味が分か

った。

・ 支援というと、とかく売上高向上に傾きがちだが、今回の研修は参考になった。

・ 製造業の現場での数値化された改善方法がサービス業にどう使えるか理解できた。

講義の感想については「よかった」とした聴講者の割合が8割を越えており、ほとんど

の聴講者が満足したものとなった。

今後の研修の参加についてもほぼ全ての受講者が「参加したい」としており、サービス

産業のイノベーション・生産性の向上に対する関心の高さが窺える。

また今後の関連情報の提供についても9割以上の聴講者が希望しており、今回の取り組

みは引き続き専門家を育成するにあたって有用であるものと思われる。

まとめ

今回の研修はアンケート調査の結果、総じて好評価となったが、その要因としては、聴講

者の職務がコーディネーターやプロジェクトマネージャーであり、今回の講義は本事業の

ハンズオン支援を行っている(独)中小企業基盤整備機構の専門家が実際に現在取り組んで

いる企業の事例に基づいて行ったことから、身近に感じられ、より実践的であったことが

よかったと思われる。特に、専門家と会社の代表者がハンズオン支援のポイントを掘り起

こしながら対談形式で行った講義については評価が高く、実際の現場でどのように取り組

んだらよいかという知識や情報が、支援にあたる現場においてまだまだ不足していること

が窺われた。

サービス産業の生産性向上を図っていく上で、サービス産業を支援できる専門家人材を

養成し、効果的な普及や支援を行っていくためには、今回のような専門家養成研修は今後

も必要であり重要であると思われる。

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4.日本経営システム学会中国四国支部との連携

日本経営システム学会は、絶えず未来思考的な姿勢で企業経営の諸問題をとらえ、「経営

を工学、情報、社会科学の横断的視点からデザインする」というキャッチフレーズを公式

に表明し、グローバルな視野を持って経営システム分野の研究を進め、現実的で有効な思

考と手法の開発に貢献すべく結成された研究者集団である。 全国組織の事務局は東京都内に置かれているが、当地域では「中国四国支部」が平成 19年に設置されており、支部長には県立広島大学の上野信行教授が就任している。 同学会の研究者のなかには、サービス産業の生産性向上に関連する研究テーマを持って

いる人も多いことから、中国経済産業局では同学会の立ち上げ時から連携しており、創立

後の第1回講演会では、ハイ・サービス日本 300 選を受賞したいでした内科・神経内科クリニック・井手下院長と中国経済産業局・中山参事官が、サービス産業における生産性向

上の取組について講演を行った。 本年度においても、同支部では、「サービス産業の生産性向上に向けて」を統一テーマと

して研究講演会を進めており、このことから講師および報告内容について連携を図った。 ○第1回講演会 ・日時:平成 21年 9月 14日(月) ・題目:「サービス工学:サービス生産性向上の科学的工学的手法」 ・講師:(独)産業技術総合研究所サービス工学研究センター 次長 内藤 耕 氏 ・内容:これまで経験と勘に頼ってきたサービス産業の生産性向上に、科学的工

学的手法の導入が有効であることを先進事例から解説した。 ○第4回講演会 ・日時:平成 22年 2月 24日(水) ・題目:「中国地域におけるサービス産業フィールドサーベイ事例報告」 ・講師:(独)中小企業基盤整備機構中国支部 チーフアドバイザー 桑原 良弘 氏 ・内容:平成 21年度の「トライアルの重層化」で実施している5つのハンズオン

事例と中国地域サービス産業生産性向上「運動」の取組を紹介し、サー

ビス産業支援の現状とサービス工学との連携の重要性について解説した。

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5.まとめ

これまでに紹介してきた「人材・つながりの重層化」について、「現状」と「課題・方向

性」をまとめると、以下の通りである。

図表Ⅳ-10 人材・つながりの重層化の「現状」と「課題・方向性」 現状 課題・方向性

○ほとんどの業界団体から、「会員企業のニーズに適合する内容であれば、セミナーや研修などの情報を発信できると思う」という趣旨の回答があった。

〔業界団体との連携の仕組みづくり〕 ○業界団体との連携を「仕組み」として定着させ、連携する業界団体を増やすことが必要である。

業界団体への ヒアリング調査

○ヒアリングした業界の多くは、すでに生産性向上の取り組みを、業界団体あるいは個社のレベルで実施していた。

〔ニーズに適合した研修〕 ○セミナーや研修を開催する前に、各業界団体がこれまでどのような取り組みを実施してきたかを確認した上で、そのニーズに適したテーマと講師を選定する必要がある。

○中小企業基盤整備機構の森氏から、現場改善と管理会計などを組み合わせた「複合支援」、同機構と支援対象企業の地元支援機関が連携した「広域支援」が十分に実施されていないとの報告があった。

〔複合支援〕 ○現場改善と管理会計の導入により、作業の標準化と財務の適正化を組み合わせた「複合支援」を推進する必要がある。 〔広域支援〕 ○中小企業基盤整備機構と、支援対象企業の地元支援機関が連携する「広域支援」により、ノウハウの共有化を促進する必要がある。

○専門家の泉氏が、油谷湾温泉ホテル楊貴館における清掃作業などの所要時間や導線を「見える化」したことなどを報告し、同ホテルの岡藤社長がそれを高く評価した。

〔モデル事例の業種・業態の拡大〕 ○ホテルのようにお客様と接する場面の多い業種でも、ものづくりの改善手法が応用できることが実証された。このような改善手法をさらに見つけ出し、取組を拡大していくことが必要である。

専門家養成研修

○専門家の綿岡氏が、小売業では従業員の「良さを見える化」することにより、モチベーション向上や人材育成をすることの重要性を説明し、アクト中食の平岩専務が長期的な視野で人材育成をしていることなどを紹介された。

〔モチベーション向上〕 ○お客様と接する従業員を育成する際には、「良さの見える化」が重要であることを、本運動の基本的な考え方として採用する必要がある。

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Ⅴ.今後の課題と方向性

1.課題の整理

これまで、「Ⅱ.トライアルの重層化」、「Ⅲ.普及・啓発の重層化」、「Ⅳ.人材・つなが

りの重層化」の“まとめ”の部分で、それぞれの事業で浮かび上がってきた課題を整理し

てきた。 それらの課題に付した見出しを、内容が似通ったものにグループ分けすると、以下の項

目にまとめることができる。 ○トライアル ○普及・啓発 ○人材・つながり ○中小企業の支援 ○科学的・工学的手法

図表Ⅴ-1 課題の整理

課題に付した見出し グループ 複合支援(現場改善と財務改善) 多様な支援手法のとりまとめ モデル事例の業種・業態の拡大 ものづくり手法の応用

トライアル

ニーズがある企業の発掘 (金融機関等との連携) 普及啓発すべき内容 サービス産業生産性向上の認知度拡大 理念の共有化 モチベーション向上 付加価値業務・非付加価値業務 3S、5S 人時生産性 独自の優位性 法制度改正の影響

普及・啓発

専門家の発掘 会社全体の業務量の平準化 支援機関マネージャーのスキルアップ ニーズに適合した研修 広域支援(複数の支援機関の連携) 情報交換の仕組みづくり 業界団体との連携の仕組みづくり

人材・つながり

小規模・零細企業の支援 高齢な経営者の支援 窓口相談の強化

中小企業の支援

ITの活用 顧客ニーズの分析手法 科学的・工学的手法

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2.今後の方向性

前ページで整理した表から、サービス産業生産性向上運動における今後の方向性として、

以下の(1)~(3)が考えられる。 (1)サービス産業生産性向上運動の3つの柱の推進と仕組みの強化

サービス産業生産性向上運動の3つの柱(トライアルの重層化、普及・啓発の重層化、

人材・つながりの重層化)をさらに発展させるなかで、運営合議体を中心とした事業を

仕組みとして定着させることが必要である。 このうちトライアルの重層化については、以下の方向性が考えられる。 ○業種・業態の拡大:これまでに実証してきた医療・健康、物流、観光、流通以

外の業種・業態にも支援対象を拡大し、ものづくりや科学

的・工学的な手法を応用できる領域をさらに広げていく。 ○複合支援 :現場改善だけではなく、財務面の改善を並行して実施する

「複合支援」が望まれる。財務面の改善では、管理会計の

導入が効果的であり、個々の業務の目標とすべき原価(標

準原価)と実績を比較して、改善を積み上げていく。 普及・啓発の重層化については、以下の方向性が考えられる。 ○ニーズがある企業の発掘:本年度の事業は、金融機関や税理士は日頃から取引

している企業の課題を把握しているため、情報発信だけで

なく支援機関の活用の推奨もしてくれるのではないかとい

う仮設のもとでスタートした。その結果、金融機関が媒介

して支援を受け始めた事例が複数みられたこと、専門家養

成研修に税理士の積極的な参加がみられたことから、金融

機関や税理士との連携をさらに進めることが望まれる。 ○ニーズに適合したセミナー:セミナーのテーマとしては、「付加価値業務・非付

加価値業務」、「3S、5S」など多様であり、何れも生産

性向上にとって非常に重要かつ有効なキーワードである。

生産性向上についての関心や取組の度合いは業界によって

様々であり、大勢の聴講者が見込まれる業界団体などがあ

れば、事前に関心を持っているテーマなどを確認し、ニー

ズに適合した普及・啓発を実施することが必要である。 人材・つながりの重層化については、以下の方向性が考えられる。 ○専門家の発掘 :サービス業の現地指導により課題を解決するためには、専

門家の協力が必須であるが、製造業支援の専門家に比して

人材の不足感は否めない。中小企業基盤整備機構以外の支

援機関に登録している専門家を発掘し、その情報を支援機

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関同士で共有化することが、本運動を加速させることにつ

ながる。 ○支援機関マネージャーのスキルアップ:支援機関のマネージャーの中には、自

らKJ法を実施したり、管理会計ソフトを制作して企業に

提供したりする人がみられた。そこで、KJ法や管理会計

など、マネージャーが自ら実施できるスキルの習得を支援

すれば、サービス産業の支援の機運が盛り上がると思われ

る。 ○広域支援 :複数の支援機関が連携し、マネージメントのノウハウを共

有化することを、中小企業基盤整備機構が提案している。

この手法を行うことにより、中国地域全体に迅速かつ高い

レベルで本運動を普及させることが可能になる。 サービス産業生産性向上運動の仕組みについては、「トライアル」、「普及・啓発」、「人

材・つながり」の3つの柱を本年度はプロジェクト・チーム的に運営したが、来年度以

降は、徐々に仕組みとして定着するように方向付けをしていくことが望まれる。 (2)中小企業の支援の拡充

中小企業の支援を拡充することが、わが国サービス産業全体の競争力向上に不可欠で

ある。その際、以下の事項を克服する必要がある。 ○中小企業は生産性向上の余地が少ないという先入観:中小企業は、大企業と比

べて部門や人員が少ないため、業務の輻輳やコミュニケー

ション不足が起こりにくく、生産性向上の余地が少ないと

思われがちである。このような先入観を払拭するためにも、

中小企業をモデルとした生産性向上の手法を構築する必要

がある。 特に、本年度のアンケート調査では、中山間地の商工会か

ら、「中小企業が多いため、生産性向上の対象になる企業が

少ない」という回答がみられた。このことからも、中小企

業が生産性向上により利益を生み出す仕組づくりを支援す

るモデル事例を創出し、広く普及する必要がある。 ○取り組みやすい支援手法の提示・普及:中小企業においては、生産性向上とい

う言葉から高額なITシステムの導入や高いコンサルティ

ング料などの多額のコストが発生したり、大規模なプロジ

ェクトになるという先入観から、生産性向上の取組を躊躇

する経営者も存在する。しかしながら、生産性向上の取組

には複数の手法があり、例えば、標準作業・標準時間分析

や5Sの徹底など、ものづくりのノウハウを用いた手法は

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低コストで取り組むことが可能である。 上述のような先入観を払拭するためにも、あらゆる手法に

よる生産性向上の取組事例を広く公表するとともに、わか

りやすいマニュアル等を整備するなど中小企業にとっても

取り組みやすい支援手法の提示と普及が必要である。 (3)科学的・工学的手法の導入

本年度のハンズオン支援においては、ものづくりの手法による支援は複数実施できた

が、科学的・工学的手法による支援はほとんどみられなかった。その導入が期待される

分野としては、以下の事項などが考えられる。これらを効率的に実施する上でITでシ

ステムを構築することが望ましい。 ○市場分析:顧客ニーズの把握を統計学的なデータマイニングの手法などを用いて、

的確に分析・把握する。 ○需要予測:精度の高い需要の予測手法を構築し、人員、原材料、在庫の適正配置

につなげる。 ○在庫管理:本事業のアンケート調査で、在庫管理に関する課題解決の支援を要望

する回答が多くみられた。適正な在庫水準を維持するための手法を開

発することが望まれる。

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サービス産業の生産性向上に向けた支援の進め方支援の進め方

平成22年3月

中国経済産業局

<はじめに>

○ ビ 産業 企業から支援相談を受 た場合 資金繰り対策○ サービス産業の企業から支援相談を受けた場合、資金繰り対策

や経営計画の作成・立て直し以外に、どのような支援を実施しておられるでしょうか?おられるでしょうか?

○ 特に従業員の「経験」や「勘」への依存が大きいサービス産業の現場を、どのように変えていけばよいのでしょうか? その場合、

どのような知見を持つ専門家を選定・派遣し、どのような手法を用いて支援するのが適切でしょうか?

○ 今 サ ビス産業の支援現場に 製造業の「カイゼン」ノウハウや○ 今、サービス産業の支援現場に、製造業の「カイゼン」ノウハウや科学的・工学的手法を採り入れる試みが注目されています。

○ 本紙では、これまでに実証したハンズオン支援事例をもとに、支○ 本紙では、 れまでに実証した ンズオン支援事例をもとに、支

援計画の策定段階から、派遣する専門家の選定、具体的な支援手法まで、支援スキーム全体をマネジメントされる方々にご留意いただきたい 連のポイントをまとめていますいただきたい一連のポイントをまとめています。

○ サービス産業の支援方法の一つとして、このような視点・手法が

有効であることをご理解いただき 今後の支援に是非 ご活用く有効であることをご理解いただき、今後の支援に是非、ご活用ください。

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1.基本的な考え方

支援スキームをコーディネートする際のポイント支援スキ ムをコ ディネ トする際のポイント

○企業から支援相談を受けた場合、例として以下のような対応手順※1が考えられるが プロジェクトマネージャーやコーディネーターが適切な支援スキームを策定しが、プロジェクトマネージャーやコーディネーターが適切な支援スキームを策定し、コーディネートを実現するためには、以下の3点に着目することが重要※2である。

① 真の課題の発掘② 管理会計などを含めた複合支援③ 支援対象企業の地元支援機関との連携支援

真の課題の発掘 複合支援

連携支援※1 中小企業庁「地域力連携拠点事業の手引き」より作成

※2 (独)中小企業基盤整備機構中国支部 森 紀男プロジェクトマネージャー の提唱

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専門家による「問題解決の10のステップ」(1)専門家による「問題解決の10のステップ」(1)

○専門家による支援の流れとして、(独)中小企業基盤整備機構中国支部のアドバイザー(自動車メーカーOB)※1が考案した「問題解決の10のステップ」を紹介するイザ (自動車メ カ OB)※1が考案した「問題解決の10のステップ」を紹介する。

○同氏は、下表の①~⑩に沿って現場改善を実施している。 この「10のステップ」は汎用性が高く、多くの業種や専門家の指導において活用できると思われる。

○同氏は製造現場で培ってきたカイゼン手法を医療業や観光業の支援に適用し、も

項目 概要

のづくりノウハウがサービス産業にも有効に応用できることを実証している。

①問題意識 「これは大変だ」「このままにしておけない」「なんとかしなければ」という思いの共有化

②問題提起 「何が問題なのか」「なすべき課題は何か」というぐあいに解決すべき対象を明確にする

③現状把握 「目で観、耳で聴き、肌で感じるために、足で歩き、身体を動かす」という行動。問題に関する情報収集や事実の観察確認行為認行為。

④問題の本質の追及 集めた事実に基づいて「問題のヘソは何か」を追及し、明確にする。

※1 資料:(独)中小企業基盤整備機構中国支部アドバイザー 泉 旦茂 氏

専門家による「問題解決の10のステップ」(2)専門家による「問題解決の10のステップ」(2)

項目 概要項目 概要

⑤目標・方針の決定 「このような考え方や行動の指針で、このレベルに到達しよう」ということを決め示す。

⑥問題解決の 「この問題解決に関わるあらゆる方面に どんな働きかけを⑥問題解決の構想計画の立案

「この問題解決に関わるあらゆる方面に、どんな働きかけをし、どんな効果が期待できるか」を考え、構想を練る。

⑦実施計画の立案 「5W1Hで具体的な計画」をたてる。

⑧試行・実施 トライする。とにかく「やってみる」こと。

⑨実施結果のフォロー確認・検討修

実施結果は必ず確認され、必要な検討修正を行い、初期の目標を達成するように導く。

正・標準化 結果が良ければ良い水準を保つように、また、水平展開できるように標準化する。

⑩人間性の感得 「問題解決を成し遂げたという感激」を働いた仲間と一緒に喜び合う喜び合う。

※1 資料:(独)中小企業基盤整備機構中国支部アドバイザー 泉 旦茂 氏

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ものづくりの手法を応用しやすい領域ものづくりの手法を応用しやすい領域

○ものづくりの手法を応用しやすい領域は、「共有化しやすいノウハウ」と「定型的な業務形態」の両方に該当する下図の「(A)基礎的効率化領域」であり 近年 サー業務形態」の両方に該当する下図の「(A)基礎的効率化領域」であり、近年、サービス産業においてこの領域で生産性向上の取り組みが広がりつつある。

○今後、更に競争力を高めるためには、「経験」など個人ノウハウの依存度が高い「(B)発見的効率化領域」でも、生産性向上を進める必要がある。

○また、「(C)独自価値創出領域」では、ものづくりの手法を、熟練者が独自の付加価値を創出しやすい環境を整えるために活用することが効果的である。

非定

例 ホテル業に定型的

(C)独自価値創出領域

ものづくりの手法により熟練者が

独自の付加価値を創出しやすい環境を整える

お客様と

多い

例:ホテル業における接客ノウハウの伝承など

例:倉庫業における作業動線の改善など

務の形態

(A)基礎的効率化領域

ムダ取りや標準化など

(B)発見的効率化領域

工夫すれば

との対面頻度

例 飲食業 おける

共有化しやすい 個人依存度が高いノウハウの性質

定型的

ムダ取りや標準化などものづくりの手法を

応用しやすい

ムダ取りや標準化などものづくりの手法を

応用できる

少ない

例:飲食業における熟練者ノウハウのマニュアル化など

ノウハウの性質

お客様に与える満足感 感動を与えるミスをしない

(A)基礎的効率化領域(A)基礎的効率化領域

○「(A)基礎的効率化領域」は、「定型的」かつ「共有化しやすい」作業が多く含まれており ものづくりの手法を応用しやすく また効果が期待できるており、ものづくりの手法を応用しやすく、また効果が期待できる。

○この場合、「ムダの排除」では、「モノの5S」だけでなく、サービス産業では「情報の5S」にも取り組むことが有効である。例えば、サーバーに保存している顧客情報をCS向上のツールとして戦略的に活用できるよう再整理するなどが考えられる。

○また、「サービスの標準化」では、製造業的な標準化が応用しやすいバックオフィスを改善することで、お客様と接するフロントエンドの業務環境を均質化することにも寄与し、結果としてお客様へより高いサービスを提供することが可能となる。

モノの5S

≪ムダの排除≫ お客様

信頼モノの5S

情報の5S 安心(少ないミス)

様へご提供

信頼

≪サービスの標準化≫

バックオフィスの標準化

フロントエンドの業務環境の均質化

快適(スピーディ)

供できるものフロントエンドの業務環境の均質化 の

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(B)発見的効率化領域(B)発見的効率化領域

○「(B)発見的効率化領域」は、一見しただけでは「定型的」に見えず、標準化できるとは思えない作業が含まれているるとは思えない作業が含まれている。

○そのためここでは、標準化に取りかかる前の準備作業が重要である。例えば、ある旅館で熟練社員の応対方法をマニュアル化する場合、先ず、その人から話を聴き取る中で「高齢者同伴、幼児同伴などお客様のグループ構成によって応対方法がパターン化されている」ノウハウに気付き、その視点から熟練社員のノウハウを整理することが必要であり、その後に、はじめてマニュアルをとりまとめることができる。

職場の熟練者が体に染み込ませているノウハウを一つずつ解きほぐす

+解きほぐしたノウハウを体系化し、マニュアルにまとめる

お客様

毎回異なった内容にみえる文書や計算を良く似たものごとにグルーピングする

+各グループごとにプログラムを組み、コンピュータで自動処理する

様へご提供で

感心(予想を超えた

サ ビス)ごとにグル ピングする 自動処理する

気まぐれに見えるお客様の購買動向の中に、規則的な傾向を見つける

+統計学的な手法を用い、需要の予測や購入確率の高いお客様の抽出を行う

できるもの

サービス)

規則的な傾向を見つける 高いお客様の抽出を行う

(C)独自価値創出領域(C)独自価値創出領域

○「(C)独自価値創出領域」は、熟練社員がお客様に提供できる卓越したサービスが含まれるため ものづくり的な標準化を当てはめることは難しいが含まれるため、ものづくり的な標準化を当てはめることは難しい。

○しかし、その他の社員が業務の効率化を進めることにより、熟練社員が付加価値業務に専念できる体制をつくることができる。

○熟練社員は、その恩返しの意味も込めて、人材育成を積極的に推進し、第2・第3の熟練者を早期に生みだすように努める必要がある。

○このような社内循環の仕組みは、トヨタ自動車㈱が「ものづくりは人づくり」という思想のもとに採用している教育訓練システム「TWI(Training Within Industry)」

にも通じている(注)にも通じている。(注)戦後、アメリカから輸入された企業内での現場監督者訓練方式の一つ。①動機付けをする、②周到な準

備をする、③やって見せてやらせてみる、④フォローアップする、の4段階で構成される。

その他の社員が全員で業務の効率化を進めてその他の社員が全員で業務の効率化を進めて熟練社員が付加価値業務に専念できる体制をつくる

お客様へ

その他の社員 熟練社員

へご提供できる

感動(オンリーワンの

サービス)

熟練社員は人材育成を積極的に推進する

るもの

-79-

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お客様から評価される経営のフレームワークお客様から評価される経営のフレ ムワ ク

○サービス産業生産性向上運動の運営合議体メンバーである中国生産性本部では、お客様が常に「価値が高い」と感じる製品やサービスを生み出すために 自社のお客様が常に「価値が高い」と感じる製品やサービスを生み出すために、自社の経営や組織の課題に気づき、それを革新して経営の質を高める「経営品質向上活動」の普及・拡大に取り組んでいる。

○同活動のフレームワークは下図の通りであり、サービス産業の生産性向上も、こ○同活動の ワ クは下図の通りであり、サ 産業の 産性向 も、こに示された8項目を念頭に置くことで、バランスの取れた展開が期待される。

資料:日本生産性本部の日本経営品質賞アセスメント基準書より望月広愛氏作成

経営品質向上活動の8項目と生産性向上経営品質向上活動の8項目と生産性向上

○サービス産業の現場における生産性向上の活動では、経営品質向上活動のうち「6 プロセス」の改善が中心になることが多い「6.プロセス」の改善が中心になることが多い。

○プロセスの改善は、下図のように他の7項目と関連しており、経営全体の強化につながる。コーディネーターは、生産性向上の取り組みを、単なるプロセスの改善だけにとどめず、会社全体の改革につなげるように事業を推進する必要がある。

戦略のレベルアップ

お客様目線での検討経営理念の共有化

プ 善 お客様目線で

改善の積み重ねがイノベーションや新たな戦略につながる

プロセスの改善

活動成果の確認企業倫理の浸透

プロセス改善の中で目的意識が明確になる

ルールを順守する中で倫理意識が根付く

目標と実績を比較し次の改善に活かす

お客様目線で付加価値を考える

活動成果の確認

情報の共有化 人材の育成

企業倫理の浸透プロセスの改善などに関する情報を共有化することで人材を育成できる

情報 有 材 育成

-80-

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2.具体的な支援方法例

具体的な5つの支援方法の概要具体的な5つの支援方法の概要

○ここからは、具体的な支援方法例として、KJ法、5S、標準作業・標準時間分析、工数管理 管理会計 の5種類の概要を紹介する工数管理、管理会計、の5種類の概要を紹介する。

○これら5種類は、下図のように関連している。すなわち、KJ法により課題抽出と取り組み意欲の向上を図り、5Sによりムダを排除する。このように基礎的な環境を整えた上で、標準作業・標準時間分析により個々の作業の標準化を行い、工数管理により会社・部門全体の作業量の平準化・最適化を実施する。さらに、管理会計の導入により、財務面の標準化・効率化を推進する。

(課題抽出、取組意欲の向上)

【 基礎環境の整理 】

KJ法

(ムダの排除)

5S

標準作業・標準時間分析

(個々の業務の標準化)

【 作業の平準化・標準化 】(会社・部門全体の最適化)

工数管理

(財務面 標準化 効率化)

【 財務面の標準化・効率化 】(財務面の標準化・効率化)

管理会計

-81-

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KJ法とはKJ法とは

○KJ法とは、文化人類学者の川喜田二郎氏が考案した幅広いデータをまとめる手法である法である。

○サービス産業の支援では、少人数のグループで自社の強みや弱みなどについて意見交換を行い、経営上の課題を探り当てる場面などに活用できる。

(資料)(独)中小企業基盤整備機構中国支部アドバイザー 泉 旦茂 氏

KJ法の進め方KJ法の進め方

○KJ法では、5名前後のグループをつくり、以下の手順で意見をまとめあげていく。○所要時間は2時間程度○所要時間は2時間程度。

①カード作り日常の身近な事実(現象)に対して「理屈に合わない」とか「自分にとって不都合だ」と感じた点(一つの事象)の積み重ねが漠然とした問題意識となっている。今頭に思い浮かぶ問題を過去に遭遇した事実とつなげながら 問題点をカードに書いて出す。今頭に思い浮かぶ問題を過去に遭遇した事実とつなげながら、問題点をカ ドに書いて出す。

②島作りそれぞれメンバーが書いたカードを読み上げ、模造紙に貼り、その趣旨(意味合い)が共通していればそのカードのそばに貼り付け、さらに親カードをどれにするかを決める。

③表札作り各島の親カードや共通する意味合いを端的に言い表す言葉を見つけ出し、「表札」(タイトル)を付ける。

④関連付け相互の島の間にどちらが原因でどちらが結果かの関係(因果関係)を矢印で表す。(この段階を「連関図法」と言う。)を 連関図法」と言う。)

⑤問題のヘソ探し矢印がたくさん出ている島が「真因」に近い要因である。しかし、さらに「ナゼナゼ」追及をしないと 「核心」にはたどり着けないの普通である。いと、「核心」にはたどり着けないの普通である。

(資料)(独)中小企業基盤整備機構中国支部アドバイザー 泉 旦茂 氏

-82-

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コーディネーターの視点(KJ法)ポイント

コ ディネ タ の視点(KJ法)

○コーディネーター自身が習得して実施する。コーディネーター自身がKJ法を習得することが望ましい。これにより、支援対象企業の強み・弱みや課題などをコーディネーターが探り当て、その結果を踏まえて、今まで以上に企業のニーズに即した専門家を選定することが可能となる。

○“真の原因”を見極めることは容易ではない。KJ法で「④関連付け」まで実施して、各島を矢印でつなぎあわせても、どの島が“真因”に近いものかを一目で理解することは容易ではない。また、「⑤問題のヘソ出し」まで実施しても、“真の原因”を見極めるためには、さらなる情報収集や検討が必要である。このため、経験豊富な専門家やコーディネーターに同行し、企業の現場での実践を経験する必要がある経験する必要がある。

○社内の風通しを良くして若手の参画意欲を高める。若手の各グループのリーダーを集めてKJ法を行い、自社の問題点を挙げてもらうと、今まで上司に話せなかった意見を率直に言うことができるため、社内の風通しが良くなり、生産性向上や経営改革への参画意欲を高めることができる。ただし、経営者には、若手社員から“耳が痛い”意見が出る可能性があることを、事前に説明しておく必要がある事前に説明しておく必要がある。

5Sとは5Sとは

○5Sとは、整理(Seiri)、整頓(Seiton)、清掃(Seisou)、清潔(Seiketsu)、躾(Shituke)の頭文字をとったもので 働きやすい仕事環境づくりの基盤となるtuke)の頭文字をとったもので、働きやすい仕事環境づくりの基盤となる。

○5Sは、整理⇒整頓⇒清掃⇒清潔⇒躾の順に実施する。つまり、最初に「整理」を実施して要らないものを捨て、次に「整頓」を行って要るものを使いやすいように置くという手順で進めていく。

○「躾」のレベルに達すると、「決められたことを、いつも正しく守る習慣をつける」という職場秩序や企業倫理の定着につながる。

整理(Seiri)

要るものと要らないものをハッキリわけて、要らないものを捨てること

整頓(Seiton)

要るものを使いやすいようにきちんと置き 誰でもわかるように明示すること要るものを使いやすいようにきちんと置き、誰でもわかるように明示すること

清掃(Seisou)

常に掃除をして、きれいにすること

清潔(Seiketu)清潔(Seiketu)

整理・整頓・清掃の3Sを維持すること

躾  (Shitsuke)

決められたことを、いつも正しく守る習慣をつけること

(資料)(独)中小企業基盤整備機構中国支部アドバイザー 広島大学非常勤講師 長村 俊則 氏

-83-

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整理(Seiri)の進め方整理(Seiri)の進め方

○要るものと要らないものを分ける手法として「赤札作戦」がある。

○(独)中小企業基盤整備機構のアドバイザー※ は 物流部門における「赤札作戦」の○(独)中小企業基盤整備機構のアドバイザー※1は、物流部門における「赤札作戦」の進め方として、以下の方法を推奨している。

【赤札作戦手順】

①赤札作戦プロジェクトの発足①赤札作戦 ジ クトの発足メンバー;事務部門、現場部門期間 ;2カ月

②赤札の対象決定在庫;原材料、購入品、部品、製品(商品)、返品、副資材在庫;原材料、購入品、部品、製品(商品)、返品、副資材設備;設備、運搬具、備品

③赤札基準の決定要るものと要らないものを分ける基準の決定例えば 在庫で、先一週間で使わないものは、赤札例えば 在庫で、先 週間で使わないものは、赤札

④赤札の作成誰が見ても 一目でわかる『A4くらいの赤い紙』在庫部品等に張るときは、品名、数量、理由等を記入

⑤赤札の添付職場の直接の担当者でない人が貼るのが望ましい

⑥赤札の対処方法の決定

※1 (資料)(独)中小企業基盤整備機構中国支部アドバイザー 広島大学非常勤講師 長村 俊則 氏

⑥赤札の対処方法の決定赤札設備は 日常生産活動以外の場所に移動するか、凍結表示

コーディネーターの視点(5S)ポイント

コ ディネ タ の視点(5S)

○コーディネーターは支援対象企業における5Sの必要性を判断する。デ ネ タ は 支援対象企業の店舗 倉庫 工場などを視察した際 5Sが必コーディネーターは、支援対象企業の店舗・倉庫・工場などを視察した際、5Sが必

要な状況であるか否かを判断できる能力が必要である。具体的な5Sの活動は、高度な知識と経験が求められるため、専門家に依頼する必要がある。要がある。

○5Sは会社全体の変革につながる。5Sを徹底すると、一つ一つの物の置き方の意味を考えながら社員が作業するようになるほか 5Sのル ル遵守を習慣化することにより企業倫理が定着するなど 会になるほか、5Sのルール遵守を習慣化することにより企業倫理が定着するなど、会社の仕組みや風土の変革にもつながる。コーディネーターは、このような5Sの効果を上手く活用して、支援計画を立案することが望まれる。望まれる。

○経営者に主体的な参画を要請する。5Sは、2カ月間以上にわたる大掛かりなプロジェクトであり、現場からはその作業負担に対する抵抗が生じる恐れもある負担に対する抵抗が生じる恐れもある。このため、5Sの実施に際しては、経営者に主体的な参画を要請し、そのリーダーシップのもとで推進することが不可欠であり、成否を左右する鍵となる。

-84-

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標準作業・標準時間分析標準作業 標準時間分析

○標準作業とは、仕事を効率的にかつ確実に処理するための手順や作業方法などの決めごとであり その作業にかかる時間を標準時間と呼ぶ決めごとであり、その作業にかかる時間を標準時間と呼ぶ。

○標準作業を決めることにより、誰でも同じ品質の仕事をすることができる。また、標準時間を決めることにより、組織全体で計画的に仕事を進めることができる。

標準作業・標準時間分析の進め方標準作業 標準時間分析の進め方

○標準作業・標準時間分析の進め方は以下の通りである。○現場での作業内容と所要時間の測定は 同時に実施される○現場での作業内容と所要時間の測定は、同時に実施される。○作業内容と所要時間の測定は1日で完了するが、その後、改善策を検討して作業

内容と所要時間を測定する試行を繰り返すため、全体では数カ月かかる。

①分析対象作業の選定 標準作業・標準時間分析により、生産性向上を図る作業を決める。

②作業・時間測定現場で、作業全体を構成している細かい要素(以下「要素作業」)がどのような順序で実施されているかを記録しながら、各要素作業の所要時間も測定する。

現場 責任者や担当者と 付加価値を生ん る要素作業 それに付随する要素③標準作業・標準時間の設定

現場の責任者や担当者と、付加価値を生んでいる要素作業、それに付随する要素作業、ムダな作業を分類し、理想的な要素作業の順序と所要時間を設定する。

④上記③で設定した要素作業の順序に沿って実際に仕事を行い 不具合の有無の確

④作業改善上記③で設定した要素作業の順序に沿って実際に仕事を行い、不具合の有無の確認や、所要時間の短縮度合いを確認する。

⑤標準作業・標準時間の確定 上記④の試行を繰り返し、標準作業と標準時間を確定する。  標準作業書などの作成 その成果をまとめて、標準作業書などを作成。

-85-

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コーディネーターの視点(標準作業・標準時間分析)ポイント

コ ディネ タ の視点(標準作業 標準時間分析)

○コーディネーターは標準作業・標準時間分析を要する部門を判断する。デ ネ タ は 支援対象企業のどの部門において 標準作業 標準時間分析コーディネーターは、支援対象企業のどの部門において、標準作業・標準時間分析

が必要であるかを判断する能力が求められる。具体的な分析活動は、高度な知識と経験が求められるため、専門家に依頼する必要がある。要がある。

○社員にムダな作業や時間を見つける習慣を染み込ませる。標準作業・標準時間分析を通じて、現場担当者が付加価値を生まないムダな動作を理解し 現場改善に習慣として取り組むことが期待されるを理解し、現場改善に習慣として取り組むことが期待される。コーディネーターは、このような効果を上手く活用して、支援計画を立案することが望まれる。

○経営者に主体的な参画を要請する。標準作業や標準時間を設定すると、現場担当者にとっては仕事の密度が高まる(一定時間内の負担が増える)ため、抵抗が生じる恐れもある。このため 経営者に主体的な参画を要請し そのリ ダ シップのもとで推進するこのため、経営者に主体的な参画を要請し、そのリーダーシップのもとで推進することが不可欠であり、成否を左右する鍵となる。

工数管理工数管理

○ここでは、「工数管理」という言葉を、個々の作業を標準化した上で、それらを会社・部門全体で調整することにより 作業量を平準化するという意味で用いる部門全体で調整することにより、作業量を平準化するという意味で用いる。

○工数管理では、以下の文書を整備する必要がある。①全ての作業についてその構成要素を列挙した「業務構成表」②それらの構成要素の流れを示した「業務フロー図」③個々の作業のマニュアルに当たる「業務標準書」④社員のスキルの取得状況と今後の計画を示した「人材マップ」⑤業務の進捗に応じて業務量を調整する「標準化スケジュール管理表」(下図)

-86-

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工数管理の進め方工数管理の進め方

○工数管理の進め方は以下の通りである。○先ず業務構成表 業務フロー図 業務標準書 人材マップを作成し それらに基づ○先ず業務構成表、業務フロー図、業務標準書、人材マップを作成し、それらに基づ

いて社員の業務量を調整する標準スケジュール管理表をまとめる。さらに、当初計画と実績を比較して、業務が遅れた原因を分析し、今後の改善活動に活かす。

○一連の作業が完了するまでに1年程度を要する。

①業務構成表等の作成全ての業務について構成要素を列挙した上で、業務構成表、業務フロー図、業務標準を作成する。

②人材マップの作成上記の各業務で必要とされるスキルをまとめて人材マップを作成し、各社員の習得状況と今後の習得目標を記入する。

③標準スケジュール管理表  の作成

各プロジェクトについて、標準となる所要日数(目標とする所要日数)をもとにスケジュール表を作成する。

④計画と実績の対比各プロジェクトの進捗状況について、当初計画と実績を比較し、業務が遅延した原因を明らかにして、今後の改善活動に活かす。

コーディネーターの視点(工数管理)ポイント

コ ディネ タ の視点(工数管理)

○複数の業務が輻輳している会社に適している。

数管理では 余裕のある人が業務遅延に陥 ている人を応援する体制づくり工数管理では、余裕のある人が業務遅延に陥っている人を応援する体制づくりを目指している。このため、複数の業務が輻輳している会社で、部門間、係間、担当者間で仕事量を平準化する場合に効果がある。

○専門家が不足している。現時点では、工数管理を支援できる専門家がほとんどみられない。

個々の業務の標準作業・標準時間分析が完了すれば、その次には、会社・部門全体での作業時間を短縮する動きが予想される その意味でも 工数管理の専門全体での作業時間を短縮する動きが予想される。その意味でも、工数管理の専門家の発掘を進める必要がある。

○経営者に主体的な参画を要請する。○経営者 主体的な参画を要請する。

工数管理に際しては、業務標準書などをとりまとめる担当者を配置するほか、情報システム投資を要する場合もあり、会社全体に大きな負荷がかかる。

このため、経営者に主体的な参画を要請し、そのリーダーシップのもとで推進することが不可欠であるることが不可欠である。

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管理会計管理会計

○管理会計とは、社内の業績評価や経営状態などを把握し、その結果を改善活動に活用する目的で作成する会計である 税務申告など外部に報告するための財務会活用する目的で作成する会計である。税務申告など外部に報告するための財務会計とは異なる。

○管理会計の一種である原価管理会計では、商品・サービス別の目標とする1単位当たりの原価(原価標準)を設定した後、実際に要した金額との差異を分析すること

材料名 標準消費量 標準単価 金額

標準原価カード メニューA

により、改善活動を推進していく。

損益計算書材料名 標準消費量 標準単価 金額

野菜魚介肉米計

担当者名 標準作業時間 標準賃率 金額調理師ウ

直接材料費

直接労務費

(単位:千円)

売上高 ○○○

標準変動売上高 ○○○

標準貢献利益 ○○ウェイター計

費目 標準作業時間 標準配賦率 金額水道光熱費減価償却費地代・家賃宣伝広告費計

直接労務費

間接費

標準貢献利益 ○○

変動原価差異

原材料の価格差異 ○

原材料の数量差異 ○

人件費の賃率差異 ○計メニューA1人前の標準原価 人件費の作業時間差異 ○

その他 ○ ○○

固定費 ○○

固定原価差額 ○

営業利益 ○○

原価管理会計の進め方原価管理会計の進め方

○原価管理会計の進め方は以下の通りである。○先ず統計学的な手法などにより目標とする「原価標準」を算出し これに毎月の販○先ず統計学的な手法などにより目標とする「原価標準」を算出し、これに毎月の販

売実績量を掛け合わせて「標準原価」を算出する。○次に、毎月の実際の原価である「実際原価」を調べ、「標準原価」と「実際原価」の差

異を分析して、その違いの原因を明らかにし、改善活動に活用する。

①原価標準の設定商品・サービス別の目標とする1単位当たりの原価(原価標準)を設定する。サービス産業の原価標準は、仕入原価(在庫により金額を調整)、原材料費、直接労務費、間接費で構成される。

②標準原価の算出上記①の「原価標準」と毎月の販売実績量を掛け合わせた金額である「標準原価」を算出する。

③実際原価の算出実際に要した仕入原価、原材料費、直接労務費、間接費を調べて、毎月の「実際原価」を算出する。

④原価差異の分析標準原価と実際原価の差異を、原材料の価格と数量、人件費の賃率と作業時間などに細分化して検討し、その原因を明らかにする。

⑤改善活動への活用 原価差異の原因に対する改善活動を展開する。

‐88-

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コーディネーターの視点(管理会計)ポイント

コ ディネ タ の視点(管理会計)

○現場の改善と財務の改善が必要。

企業を支援する際には 現場の改善だけでは不十分であり 財務面に いても留企業を支援する際には、現場の改善だけでは不十分であり、財務面についても留意しながら改善指導を行う必要がある。財務面については、社内の実態を把握しやすい管理会計の支援が有効である。

○多面的な分析が効果的。

管理会計を整備する際は、部門別の集計だけではなく、商品・サービスの単品別の集計、顧客別の集計、店舗別の集計などを実施しなければ、有益な情報を得られる可能性が低くなるれる可能性が低くなる。

○実際原価の把握だけでも一定の効果が期待できる。

標準原価の計算には、統計学的な手法を用いるなど専門的な知識を要するため、標準原価の計算には、統計学的な手法を用いるなど専門的な知識を要するため、専門家による支援が必要である。

しかし、現時点では、毎月の実際原価を商品・サービス別に把握している企業が少ないと思われることから、その把握だけでも一定の効果が期待できる。この支援については デ ネ タ 自身が実施することが望まれる(実際に支援しているついては、コーディネーター自身が実施することが望まれる(実際に支援している事例が複数みられる。

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資 料 編

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株式会社油谷湾温泉ホテル楊貴館観光分野 貴

会社概要会社概要

所在地 山口県長門市油谷伊上

☝会社の特徴

所在地:山口県長門市油谷伊上創 業:昭和48年資本金:60百万円従業員:110人(うちパート64人)

☆油谷湾の絶景を一望☆和・洋・中3人の料理人長がつくる極上料理☆オリジナルデザインの良質な客室

課題 支援方法 成果・展望

《需要変動への対応》客室稼働率の変動に人員配置が対応できていない

《支援する専門家》中小企業基盤整備機構

泉旦茂氏

《作業時間・動線の見直し》食器洗いと客室清掃の標準時間を設定するための基礎デ タを収集できた 今後 現場の担当者自動車 出身人員配置が対応できていない

(過不足を生じる人員配置)

《業務の効率化》接客、客室清掃、食器洗い、

泉旦茂氏

《支援方法》【KJ法による課題の抽出】

約10名の若手リーダーと

の基礎データを収集できた。今後、現場の担当者や責任者と、理想的な時間・動線を検討。時間観測資料

観測者

作業者名 泉 旦茂

機械名称

0 0

村上さん, 川村みさとさん

0.03箱を置く

№ 1要 素 作 業(B)№ 1

1

備    考

食器搬入 1

要 素 作 業(A)

0.80

職 場 名

部 品 名

食器洗い作業(配膳室横)パントリー

機 械 №

自動車メーカー出身

部署

職場 ~

部 品 名

部品番号

〔作業内容〕

標準作業票

食器箱

シンク

A

B

自動洗浄機

食器

台車

12

3

5

6

7

1

2

34

56

8

7

生け花入れ替えなどの業務が効率的でない

《情報の共有化》関連する部署間の情報伝達

KJ法で課題を抽出

【標準作業・作業時間分析】食器洗いと客室清掃業務

《若手リーダーのモチベーション・アップ》

台に置く

1.00

0.20

0.40

0.55

0.75

0.95

0.55

洗浄機ローラーより中皿5枚取り出し置く

同じく6枚取り出し重ねる

同じく5枚取り出し重ねる

同じく6枚取り出し重ねる

手待ち

0.03

0.20

0.40

0.75

0.95

1.00

箱を取り出し

5

6

7

8

中皿(黄)10枚洗浄(油汚れ)

中皿(白)12枚洗浄(汚れ小)

食器置き場に運ぶ

湯呑み28個洗浄

食器の箱引き込み

2

3

4

洗浄機SW. On 待ち0.80

1.00

2

3.40

4.00

4.30

1.00

2.40

2.50

4.30

2.40

2.50

3.40

4.00

3

4

5

6

7

8

KJ法品質 安全 標準手持ち 実作業時間

4.30分

ラインタクト

A:4.3分

B:1.0分

食器棚

食器

台車

食器棚(仮置き用)

A

4

8

0

これが邪魔

今は不要?

関連する部署間の情報伝達が効率的でない

《ニーズの把握》お客様のニーズを数量的に把握できていない

食器洗いと客室清掃業務などについて、作業時間と動線を計測・分析。

【お客様アンケ ト調査】

KJ法で同社の強みや課題を検討するなかで、経営改革の意欲が高まり、毎週検討会を自主的に開催。また他部署との情報共有で相互理解が深まった。

《お客様のニ ズの把握》

標準作業分析

把握できていない 【お客様アンケート調査】来館客のニーズを調査。

《お客様のニーズの把握》お客様の「事前期待」と「事後満足」を決める要因などを把握。データマイニング

観光分野

-90-

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平成21年度サービス産業生産性向上支援調査事業

株式会社油谷湾温泉ホテル楊貴館株式会社油谷湾温泉ホテル楊貴館支援報告

平成22年3月

泉 旦茂

1.ホテル楊貴館の宿泊状況

グラフ月別来客数の推移(指数)

月別来客数の推移

1.80

1.40

1.60

1.80

1.00

1.20

数(宿

泊数

来客人員

延べ宿泊日数

0.40

0.60

0.80

来客

数 延べ宿泊日数

0.00

0.20

月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月1月

2月

3月

4月

5月

6月

7月

8月

9月

10月

11月

12月

1月

2月

3月

4月

5月

6月

7月

8月

-91-

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お客の延べ宿泊日数と従業員の労働時間の相関(指数)

お客宿泊日数と労働時間の相関

0.95

0.85

0.90

y = 0.1962x + 0.70950.75

0.80

労働

時間

0 65

0.70

0.60

0.65

0.30 0.40 0.50 0.60 0.70 0.80 0.90 1.00

延べ宿泊日数延べ宿泊日数

2.KJ法(親和図法)<問題形成のステップ> → KJ法(親和図法)による問題形成(1) 「カード作り」(事実に基づく問題点の列挙)( )

問題だと思う依拠は日常の身近な中のある事実(現象)に対して「理屈に合わない」とか「自分にとって不都合だ」と感じた点(一つの事象)の積み重ねが漠然とした問題意識となっているはずである。今頭に浮かぶ問題を過去に遭遇した事実とつなげながら 問題点をカ ドに書いて出すを過去に遭遇した事実とつなげながら、問題点をカードに書いて出す。

(2) 「島作り」(グルーピング)

それぞれメンバーが書いたカードを読み上げ、模造紙に貼り、その趣旨(意味合い)が共通していればそのカ ドのそばに貼り付け さらに親(意味合い)が共通していればそのカードのそばに貼り付け、さらに親カードをどれにするか決める。

(3) 「表札作り」

各島の親カ ドや共通する意味合いをズバ と言い表す言葉を見つけ出各島の親カードや共通する意味合いをズバッと言い表す言葉を見つけ出し「表札」(タイトル)を付ける。

(4) 「関連付け」

相互の島の間にどちらが原因でどちらが結果かの関係(因果関係)を矢相互の島の間にどちらが原因でどちらが結果かの関係(因果関係)を矢印で表わす。(この段階を「連関図法」と言う。)

(5) 「問題のヘソ探し」(真因追究。いわゆる核心に迫る。)

矢印がたくさん出ている島が「真因」に近い要因である しかし さらに「ナ矢印がたくさん出ている島が「真因」に近い要因である。しかし、さらに「ナゼナゼ」追及をやらないと「核心」にはたどり着けないのが普通である。

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「お客が魅力と感じる楊貴館はなに?」 2009年11月4日Bチ ーム

お客様が楊貴館スタッフと交流したい。

接客がいい (2票)

美味しく新鮮な料理が食べたい。

料理がおいしい。(3票)

良質の温泉に入りたい。

温泉が良い。(2票)

油谷の景観を楽しみたい。

夕日がきれい。

高級感があるお部屋に泊まりたい。

客室がきれい。(2票)◯ 接客がいい。(2票)

お客様にスタッフの笑顔が良かったと言われた。

(3票)

料理内容がいい。   ◯△

料理が多い。(品数)◯△

風呂の泉質が良い。(2票)

温泉に入りたい。

海を見ながら露天風

海のそばで眺めが良い。

海も山もある。

  ◯

部屋が広い。

露天風呂付きのお風呂が素晴らしい。

お客様に接客が良かったと聞いた。

中華が食べたい。   ◯

地物の食材(特に刺身)を期待している。◯

海を見ながら露天風呂に入りたい。 ◯きれいな景色を楽し

みたい。 お客様に「TVで観てすごく感じが良かったので、泊まってみたいと思った」と言われた。きれいで健康にな

冠婚葬祭を行い

近海で獲れる魚が食べられる。 ◯

た。大事な人と大事な時間を過ごしたい。

家族、恋人、友人とゆっくり過ごしたい。

エステ、岩盤浴がある。

岩盤浴がある。

りたい。

好奇心とステイタスを満足させたい。

癒されたい

親戚が集まる行事を安心できる施設で行いたい。

たい。エステがしたい。

きれいになりたい。

健康になりたい。△

新しい物が見たい。   △

わくわくしたい。

癒されたい。

のんびりして癒されたい。

何もせずにのんびりしたい (上げ膳 据え

現実逃避がしたい。

非日常が欲しい。(2票)  △

何か新しい物を探したい。

値段や評判の高い宿に泊まってみんなに自慢したい。

たい。(上げ膳、据え膳)

何をしても笑顔で許して欲しい。    ◎

ふだんできないこと(音楽鑑賞、読書)をしたい。

嫌なことを忘れたい。

元気になって明日からの活力を補充したい。

時間(生活)を忘れたい。

3‐1. 作業分析:ワークサンプリングの事例

「楊貴館」ワークサンプリング調査記録 (2009年11月27日)(1) パントリー:朝食準備、後片付け作業(観察時間帯帯;(1) パントリ :朝食準備、後片付け作業(観察時間帯帯;

8:00~9:30)• 2F食堂にて7:30~9:00まで。スタッフは7:00から準備。

当日は左の部屋 人分 右の部屋 人分相当を準備 団• 当日は左の部屋22人分,右の部屋48人分相当を準備。団体客2組と家族、グループ客が宿泊。

• 配膳;接客係5人 案内;フロント1名で対応。ピークの8時ごろは配膳;接客係5人、案内;フロント1名で対応。ヒ クの8時ごろは忙しそう。食後の食器は暫時食堂前の配膳室兼食器洗い場に搬送され、洗浄後片づけ、メンバー2~3名?も応援。1人当りご飯 味噌汁含め14品 食器だけで980個を短時間人当りご飯、味噌汁含め14品。食器だけで980個を短時間に扱う。蓋付きの食器や蒸篭ものなどを数えれば1,200個くらいにはなろう。洗浄 拭き取り 食器棚 格納ま 個当り約 分(• 洗浄、拭き取り、食器棚に格納まで1個当り約0.20分(12秒)かかるとすれば240分かかる。流れ作業のように4人で作業したとして60分はかかることになる。実際はもっとか作業したとして 分はかかる とになる。実際はも とかかっているようだ。

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3‐2. 作業分析:時間観測資料時間観測資料

工 程 名 観測者

作業者名 泉 旦茂

職 場 名

部 品 名

客室’和室311号室 清掃作業(

川崎さん 平岡さん

時間観測資料

工 程 名 観測者

作業者名 泉 旦茂

職 場 名

部 品 名

客室’和室311号室 清掃作業

川崎さん 平岡さん作業者名 泉 旦茂

機械名称

部 品 名

機 械 №

0.30

0.40

備    考

上布団シーツ外し、たたむ;1枚

  3枚0.30

1

2

要 素 作 業№ 1

1

2

要 素 作 業

1.50

0.80

1.50

押入れ片付け左

押入れ片付け右

1

川崎さん,平岡さん 作業者名 泉 旦茂

機械名称

17.30 17.30

機 械 №

部 品 名

1№ 要 素 作 業 A 1 備    考

1応接台を取りに行き座敷に設置 1.70

1大設題を取りに行き座敷に設置(Aさんと共同) 1.70

№ 要 素 作 業 B

0.502

和式トイレの便器掃除、スリッパ揃え

19.00

0.002

押入れの中(前側)の掃除

19.00

川崎さん,平岡さん

3

4

5

6

7

1.25

1.50

2.00

3.40

1

1

1

0

0.70  5枚

シーツ集め

枕シーツ外し(5個)

敷き布団シーツ外し&たたむ

下マットたたむ

5

6

7

3

4

7.60

0.7

4.6

10.00

10.40

湯呑み片付け、洗い場に

2.30

3.00

座椅子片付け

室内に戻り

ポットを洗い場に移動、湯を空にする

座布団押入れに16枚収納

2.4

0.4

3 壁、ドアの拭きとり2.40

22.20 21.40

0.40

2.70

19.50

1.504 雑巾すすぎ

3 和室(A)の掃除

5 洋式トイレの便器掃除0.60

21.80

4 テーブル周りの掃除

24.00 22.40

1.00

23.705

和室(B西側)の掃除(電気掃除機) 0.30

23.40

2.706 床雑巾がけ

26.707 消臭剤噴霧

6 コード抜き掃除完了

7 掃除機を外に片付け

8

9

10 Aさんからバトンタッチ

11

7

4.90

0.25

0.25

3.65

3.90枕を押入れに収め

敷き布団押入れに収め

下マット立て掛けて押入れに収め

4.30

下マットたたむ

浴衣片づけ

7

8

9

10

11

12.10

12.60

0.4

0.6

1.2

不使用ガウンを押入れから取り出し室外へ

下駄箱のハタキ清掃

洗面所冷蔵庫のハタキ清掃

を空にする

部屋に戻り置く11.20

11.50

0.8

0.3

0.6

0.5

0.9

0.20

8室内に戻りテーブル拭き掃除

26.90 23.60

0.207 消臭剤噴霧7 掃除機を外に片付け

0.608 洗面所掃除(2か所)

4.00

27.509 ティッシュでカップ拭き

1.409

床の間電気スタンド、電話器を拭き機能チェック

29.00

1.5010

鏡等を拭きとり、洗面所掃除完了

25.00

29.00

1.5011 玄関の床を拭き掃除

1.00

Aさんからバトンタッチ10テーブル上のホテルガイドブック、その他の拭き掃除

11その他テーブル上の小物の拭き掃除

16

13

14

0.45

2.7

2.215 15

15.00

15.50

16.50

13.50

14.50

126.10

6.85

7.30

12.20

室外で分別袋に浴衣入れ

分別袋にシーツ入れ

10.00洗面所のゴミ取り出し

シーツを浴衣にくるんで室外に移動

16

12

13

14

下駄箱の清掃、ハタキ掛け さんに渡す

0.75

カーテンを開けバンド掛け

こたつ布団はねあげ

こたつテーブル拭き

こたつ布団はたき

床の間ABのハタキ清掃

0.5

1.0

0.5

1.0

30.50 30.00

0.5012

中袋戸棚、冷蔵庫の上拭きとり

12 カーテン閉め

洗面所の新カップをビニール袋詰め(5個) 2.00

30.5013 出廊下の硝子戸拭き

0.40

1431.40

31.00

0.50

34.60

カーテン閉め0.20

14ティッシュ箱を取りに行き戻り置く

31.60

32.50

2.10

13

15 襖の把手と枠を拭きとり0.90

15

西側の硝子戸閉め32.50 35.00

消臭剤噴霧0.40

16 ポット 小机拭きとり 16

17

19

17.30

16

14.00

14.50

0.5

2.8

18電気掃除機でトイレ床掃除

13.00

0.8

20

19

20

17

16

バケツで水汲みトイレの拭き掃除

電気掃除機で玄関周りの掃除

1

キ掛け→Bさんに渡す

(玄関に戻りAさんと共同作業)

カ テンを開けバンド掛け

18

17.30

0.8

38.40

西側の硝子戸閉め

33.50

1.00

36.00

16 ポット、小机拭きとり1.00

16

35.00 36.50

1.90

38.40

17北側の硝子戸閉めカーテン閉め 0.50

17 床の間の金庫拭きとり1.50

玄関の外へ出て掃除道具片付け、作業完了

35.3319 布団を降ろし揃えて完了 19

18 こたつの中の拭き掃除0.33

18

37.20

1.87

20玄関の外に出て掃除道具を片付け、作業完了 1.20

20

改善着眼

改善着眼

パントリー:食器洗い作業ン リ 食器洗 作業

時間観測資料

観測者

作業者名 泉 旦茂

食器洗い作業(配膳室横)パントリー職 場 名

部 品 名 村上さん 川村みさとさん作業者名 泉 旦茂

機械名称

0 0

部 品 名

8

9

10

機 械 №

3

4

5

6

7

2.40

2.50

3.40

4.00

3.40

4.00

4.30

備    考

食器搬入

洗浄機SW. On 待ち0.80

1.00

1

2

要 素 作 業(A)

0.80

1.00

№ 1

湯呑み28個洗浄

食器の箱引き込み

1

2

3

4

2.40

2.50

中皿(黄)10枚洗浄(油汚れ)

中皿(白)12枚洗浄(汚れ小)

食器置き場に運ぶ

5

6

7

8

9

10

1.00

箱を取り出し4.30

0.03

0.20

0.40

1要 素 作 業(B)

0.55

箱を置く

洗浄機ローラーより中皿5枚取り出し置く

同じく6枚取り出し重ねる

同じく5枚取り出し重ねる

同じく6枚取り出し重ねる

手待ち0.75

0.95

1.00

村上さん, 川村みさとさん

台に置く

0.03

0.20

0.40

0.55

0.75

0.95

時間観測資料

観測者職 場 名 食器洗い作業(配膳室横)パントリー

13

改善着眼

20

15

18

11

12

14

19

20

17

13

14

15

16

18

11

12

17

19

16

作業者名 泉 旦茂

機械名称

村上さん, 川村みさとさん

№ 1要 素 作 業(B)№ 1 備 考要 素 作 業(A)

部 品 名

機 械 №

0 0

0.03

0.20

箱を置く

洗浄機ローラーより中皿5枚取り出し置く

0.03

1要 素 作 業(B)№ 1

1

2

備    考

食器搬入

洗浄機SW. On 待ち0.80

1

2

要 素 作 業(A)

0.80

1.00

0.40

0.55

0 75

0.55

同じく6枚取り出し重ねる

同じく5枚取り出し重ねる

同じく6枚取り出し重ねる

0.20

0.40

5中皿(黄)10枚洗浄(油汚れ)

湯呑み28個洗浄

食器の箱引き込み

3

4

1.00

3 40

2.40

2.50

2.40

2.50

3

4

5

台に置く

1.00

0.75

0.95手待ち

0.75

0.95

1.00

箱を取り出し

6

7

8

(油汚れ)

中皿(白)12枚洗浄(汚れ小)

食器置き場に運ぶ

3.40

4.00

4.30

4.30

3.40

4.00

6

7

8 台に置く8 8

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4‐1. 標準作業:「食器洗いの標準作業票」標準作業 食器洗 標準作業票」

部署

職場

部 品 名

部品番号

〔作業内容〕

標準作業票 職場 ~部品番号標準作業票

食食器

3

567

食器箱

シンク

B

自動洗浄機台車

12

3

5

6

7

1

2

34

8

食器棚(仮置き 用)

A

4

食器棚(仮置き 用)

これが邪魔

今は不要?

品質 安全 標準手持ち 実作業時間

4.30分

ラインタクト

A:4.3分B:1.0分

食器棚

食器

台車

8

0

4‐2. 標準作業:客室清掃の標準作業票

部署

職場 ~標準作業票部 品 名

部品番号

〔作業内容〕

板の間

布団1 布団2浴室

1

A

洗面所

2

4

5

6

7

8 12

15

5

6

16

冷蔵庫

7

11B布団3 布団4 布団5

洋式

トイ

レこたつ3

8 12

17

18

34

6

8

1314

15庫B

床の間

(金庫)床の間

(電話器,電気スタンド) 和式

トイ

押入れ(布団,座椅子,脇息)

9 11 17

12

412

下10

10

ラインタクト

実作業時間品質 安全 標準手持ち

13

14 1619 9

下駄箱

17

18.0分 17.30分

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(参考)お客様アンケート調査結果お客様アンケート調査により、重要度が大きいにも関わらず満足度が小さい項目(右下の領域)として、「ダイレクトメール」、「旅行雑誌」への記事・広告の掲載、「旅行代理店」での商品販売などがみられた。このことから、情報発信のあり方を見直すことが望まれる。

100食事

清潔さ 客室の広さ

チェックインの時刻

知名度

接客態度客室のデザイン

80

ホームページ

大浴場

景観

宿泊プラン

館内の装飾

アメニティ

バスルーム

(満足度

禁煙・喫煙

ペット ダイレクトメール

満足度

が「大きい」の

60 旅行雑誌周辺の観光施設

交通の利便性

高齢者・身体障害者

旅行代理店

ステ

の構成比)

40

-0.2 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8

エステ

重要度(総合的な満足度と23項目の満足度の相関係数)

(参考)お客様アンケート調査結果

今後、ホテル楊貴館に宿泊されたいお客様が重視される項目は「ペット」と一緒での利用、「エステ・岩盤浴」などであった。一方、知り合いにお勧めされたいお客様が重視される項目は、「チェックインの時刻」、「館内の装飾」などであり、両者に大きな違いがみられた。

70

80

アメニティ

60

70

ホームページチェックインの時刻

旅行雑誌知名度

接客態度 宿泊プラン

今後おすすめ

50食事清潔さ客室の広さ

知名度

大浴場客室のデザイン

館内の装飾

周辺の観光施設

バスルーム

高齢者・身体障害者

旅行代理店ダイレクトメール

めしたい度合い

(偏差値)

30

40

大浴場客

景観 交通の利便性

高齢者 身体障害者

ペット

エステとの相関係数

20

30

20 30 40 50 60 70 80

禁煙・喫煙

20 30 40 50 60 70 80

今後宿泊したい度合いとの相関係数(偏差値)

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服島運輸株式会社物流分野 島 輸

会社概要会社概要

所在地:鳥取県米子市和田町

☝会社の特徴

所在地:鳥取県米子市和田町創 業:昭和48年資本金:42百万円従業員:240人

☆全国に配送できるネットワーク☆海陸一貫総合物流サービス☆共同配送システム

課題 支援方法 成果・展望

《現場作業の効率化》○保管

食品を扱う部門もあるが

《支援する専門家》中小企業基盤整備機構長村俊則氏

《5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)の徹底》5Sを、ゾーン別に責任者を決めて徹底することを提案自動車 出身食品を扱う部門もあるが

倉庫のホコリが多い○ピッキング

ピッキングリストが作業者にとって見にくい

長村俊則氏平田商工会議所(推薦)宇野正章氏

米子商工会議所(共同配送への協力)

徹底することを提案《ピッキングリストの見直し》

ゾーン別ピッキングリストの導入を提案《デジタル作業分析システム》

動画の分析で、仕分けの動作の48%が

自動車メーカー出身

縫製メーカー経営

○仕分け手待ち状態が多い

○配送中山間地の荷物が少なく輸送効率が低い

《支援方法》【ものづくりの改善手法】

5S、標準作業分析、レイアウト改善など ものづくり的な改

無駄であることが判明⇒6人体制から4人体制へのテストを実施

改善前 6人 改善後 4人

輸送効率が低い ト改善など、ものづくり的な改善手法により支援。

《デジタル作業分析》

作業を動画で撮影し 無駄の

《中山間地の共同配送》中山間地の輸送効率を高めるため 共同配送

5S、レイアウト改善

作業を動画で撮影し、無駄の排除や作業時間の計測を実施。

中山間地の輸送効率を高めるため、共同配送に参加する可能性がある企業の交流の場を、米子商工会議所と協力して設置する予定。標準作業分析

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平成21年度サービス産業生産性向上支援調査事業

服島運輸株式会社支援報告①服島運輸株式会社支援報告①

平成22年2月

長村 俊則

1.概要1.概要 米子市和田町600番地

資本金 4200万円 資本金  4200万円 売上  2360万円   当期利益 △8万円(平成20年6月期)売 万円 当期利益 万円(平成 年 月期) 従業員  240名

保有車両 160台 クレ ン社も保有 保有車両 160台、クレーン社も保有 事業内容事業 容

共同配送業務(フクちゃん共配便)般貨物輸送業務一般貨物輸送業務

倉庫・保管・仕分け業務(DC型、TC型機能を保有する倉庫)

-98-

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2.支援体制米子商 会議所 平田商 会 中小機構によるトライ グ 支援** 米子商工会議所、平田商工会、中小機構によるトライアングル支援 **

中小機構   【中小機構の役割】 経営の効率化

①現場の効率化

中小機構  増岡・長村 ①現場の効率化

  配送、仕分、ピック作業②倉庫内のレイアウト見直し(効率化)

増岡 長村

②倉庫内のレイアウト見直し(効率化)③ 5S,VMの推進④ 物流品質の向上 などの支援

服島運輸様

④ 物流品質の向上 などの支援⑤ 波動管理システム(人・車両の変動費化) 【ナスカの役割】米子商工会議所 平田商工会 【ナスカの役割】時間観測改善前と改善後

  由木   坂本・ナスカ

  仕分け作業仕分け標準作業マニュアルの作成

中国経済産業局     ひろぎん経済研究所

【米子商工会議所の役割】 【平田商工会の役割】【米子商工会議所の役割】 【平田商工会の役割】中山間地区の効率的な配送システム構築の   ナスカシステムの支援

地域支援 地域支援   仲間作り 卸・小売・物流・メーカーの現状問題点などの発掘

少子高齢化 消費の落ち込みなどで消費の減少少子高齢化、消費の落ち込みなどで消費の減少

   中山間地区への配送便数の減少   大手スーパーは地域の卸を通過して配送    ⇒全体の二割が外から入っているのが現状である。   宅配サービスの山間地区 困難

宅 物流⇒ BtoC  宅配物流新聞販売店、牛乳販売店、お酒販売店の経営基盤の強化地域の物流業者

-99-

地域の物流業者

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3.支援内容 3-1.現場改善の基本である物流5Sの効果、考え方と見える化による管理事例

5Sの効果は 1.多品種化対応ができる

2 在庫の削減 2.在庫の削減 3.コストの削減 4.品質保証 5.設備の可動率の向上 6.納期の短縮 7.安全な職場作り 8.意欲(モラル)の向上  などである。

5Sの中で、まずは整理・整頓をするが、 定置化のためには白線などの線引きが命となる又 しつけは

社内の挨拶 お客様への挨拶 決められた服装の着用 区画線の徹底 三定(定位 定品 定 社内の挨拶、お客様への挨拶、決められた服装の着用、区画線の徹底、三定(定位、定品、定量)

ビジョンの看える化に始まり、QCDEMに関する具体的な看える化事例を説明。 服島運輸さんは、看える化に関しては、配車の看える化などがんばっておられる

ビジョンの看える化に始まり、QCDEMに関する具体的な看える化事例を説明。 服島運輸さんは、看える化に関しては、配車の看える化などがんばっておられる

 3-2. 倉庫の3S推進(整理・整頓・清掃) 食品を扱う倉庫らしくホコリ、ごみの少ない倉庫に!!

⇒ きれいな倉庫は 品質のよい商品をお客様に届ける   ⇒ きれいな倉庫は、品質のよい商品をお客様に届ける

① フロァーのホコリ、汚れ対策    ⇒ 当面は毛布による清掃の徹底    ⇒ 清掃当番の設定による清掃の徹底② ピッキング時 仕分け時のホコリ排除作業(モップによる)② ピッキング時、仕分け時のホコリ排除作業(モップによる)③ モップの分別保管(使用前と使用後)により、適切なモップの使用④ シフトの引継ぎはきれいな職場にして引き継ぐ。

本質的には保管ゾーン 仕分けゾーン トラック荷役ゾーンの分別により 保管ゾ ン、仕分けゾ ン、トラック荷役ゾ ンの分別により

 清潔で、フロアーの光る倉庫に!!

ゾーン毎に責任者を決め、自ら整理・整頓・清掃する仕組み

-100-

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3-3 分別の徹底による環境にやさしい倉庫に  3 3.分別の徹底による環境にやさしい倉庫に燃えるごみ燃えないごみ燃えないごみリサイクル用紙

分 定 促進ストレッチ・フィルムの分別定置化とリサイクルの促進

収集効率化と定置化を考えて、効率的な分別を

  3-4.DC商品のA社向け仕分け工程の改善(午後作業)  現状の仕分け作業は、ナスカシステムの時間観測によると、

付加価値 な 作業とムダな待ちや移動が多  付加価値のない作業とムダな待ちや移動が多い。

① 仕分けラインの定員化と作業の標準化   ⇒  2-1-2 の5人体制で仕分け作業   ⇒ 余剰人員はパレット整理、ストレッチフィルムのリサイクル作業を行う   ⇒ 仕分けステーションは 2ステーション又は3ステーションで行う   ⇒ ピック作業待ちが起き無い様に、ピック作業開始を先行さす。

② ナスカシステムで、モデル作業のビデオ化による”教育資料の作成”   更に、ハードコピーでの標準手順書を作成する(作業ポイント中心に)

③ 積みつけ作業ポイントの指導と徹底の実施③ 積みつけ作業ポイントの指導と徹底の実施。   ⇒荷作りなどのチェックポイント集を作成し、指導する

・段差をなくす・高さを一定にする

段と 段は直角方向に・一段と二段は直角方向に・パレットからはみ出さない・品番は外向きに

   ⇒ライントップの作業者が指揮をとる④ 現行のローラーはパレットの上に載せておられるため、     ・棚出し品がローラーから離れて、移動のムダが発生。

・パレットが飛び出て、移動の邪魔になっている など⇒ ローラーを短くして、足を作る

-101-

   ⇒ ロ ラ を短くして、足を作る

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  3-5. TC商品の味物仕分け工程の改善(夜間作業)① フォークリフトが水すましの連隊のように走り回っている ⇒ カウンターの傷は当然発生① フォ クリフトが水すましの連隊のように走り回っている ⇒ カウンタ の傷は当然発生   ⇒ 庫内スピードの設定と徹底  10Km か 8Km/H② る ベ 発行 仕分 が 人作業 行われ る は ベ 方法 ある② POTによるラベル発行・仕分けが一人作業で行われているのは、ベストの方法である。

⇒ 場所によっては、別の作業方法もあり、作業手順の標準化が必要。        ⇒ 場所によっては、別の作業方法もあり、作業手順の標準化が必要。   ⇒ 場所によっては オーダーピックと種まき方式とどちらが良いかを商品群ごとに検討が必要

バ ス指定のペ トボトルの運用再開が必要(芸北 瀬野川では運用されている)  ⇒ バース指定のペットボトルの運用再開が必要(芸北、瀬野川では運用されている)③ パレットは商品と同じ扱いをすること。③  レットは商品と同じ扱いをすること。

  3-6.書籍の仕分け、積み込み作業の改善仕分け場と積み込みステーションの距離が長すぎて フォークの連隊運搬が発生仕分け場と積み込みステーションの距離が長すぎて、フォークの連隊運搬が発生。   (仕分け済み台車と空台車の移動)仕分けがラインによる 次仕分け ライン外での二次仕分けと仕分け工程が発生仕分けがラインによる一次仕分け、ライン外での二次仕分けと仕分け工程が発生。

当面の対応(冬場が過ぎると)当面の対応(冬場が過ぎると)   ⇒ 積み込みステーションを屋外に持っていく。

・移動距離の短縮・積み込みステーション照度の確保積 込 テ シ 照度 確保

屋外に”バースNO"表示を行い、積み込み準備場所の看える化

-102-

屋外に バ スNO 表示を行い、積み込み準備場所の看える化

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  3-7.物流品質の向上荷主B社の品質評価(21年10月~12月)は

配送事故件数 ○件配送事故件数 ○件商品事故件数 ○件 (事故ケースは○ケース)

商品破損件数 ○件   商品破損件数  ○件   納品精度はテレコ納品、店舗違いが主要因

 ⇒ 積みつけ方法の徹底 ⇒ 個人別発生件数管理の見える化の運用(現在表示してあるが、運用不十分)

⇒ バ スNOの明示化後 仕分け先の徹底 ⇒ バースNOの明示化後、仕分け先の徹底 ⇒ 仕分け後チェックの漏れの防止

破損限度見本の徹底と破損写真どりによる原因の徹底究明の仕組みづくり

更に

破損写真どりによる原因の徹底究明の仕組みづくり

更に ⇒  A社仕分けラインでの社内発見ミスもミス対象と捕らえて、社内管理の徹底を

  3-8.ピッキングリストの改善納品トラ クごと ピ クル トごとにアウトプ トされ 作業者ごとに ピ 配布をしておられる納品トラックごと、ピックルートごとにアウトプットされ、作業者ごとにコピー配布をしておられる

コピー費用の削減ピッキング対象商品の見易さ改善ピッキング対象商品の見易さ改善

ゾーン別ピッキングリスト (システム変更か、ロケーション設定変更か)(システム変更か、 ケ ション設定変更か)

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  3-9.A社向の保管場所とB社向けの仕分け場などのレイアウト変更による改善

ペットフードや飼食用品を製造販売を行う”X社”が”A社”と合併し、鳥取市に製造拠点を集約することになった。

五月連休移動を前提にレイアウト検討 ・ 仕分け方法と場所の検討

物量増への対処先 (二階が 隣の倉庫か)・ 物量増への対処先 (二階が、隣の倉庫か) ・ 積み込みステーションの定置化 ・ 商品移動方法など の検討を行う

但し

外屋の新設、レイアウト変更に関しては、当面凍結する。     物流品質向上と作業の効率化の実施をする

荷主様の動向をモニターし、3PL業者としてのサポートを検討

  3-10.共同物流(宅配サービス含む)検討

宅配サービスを共同で行う方式に関して、  服島運輸さん独自で、以前検討を進められていたが、うまくいかなかった。

今後そこで、今後は 中山間地区の高齢者福祉の観点と地域活性化の観点から、考え直すことにする。まず 服島運輸さんの財務体質の強化する面からも、”経営革新”の計画を作る中で

どのように共同物流を構築していくかを見直していく どのように共同物流を構築していくかを見直していく。 提案1;中国経済産業局、中小機構、米子商工会議所、服島運輸で今後の進め方の      ベクトル合わせする

提案2 服島運輸さんが高齢者福祉 地域活性化支援での経営革新の提出 提案2;服島運輸さんが高齢者福祉、地域活性化支援での経営革新の提出  提案3;地域実態、小売、卸、メーカー、輸送業者のニーズ、問題点の調査を行う。       調査分析の中で、新しいビジネスモデルを構築していく。

【追加】 米子商工会議所の但馬課長 由木さんも協力をしていただくことになった    【追加】 米子商工会議所の但馬課長、由木さんも協力をしていただくことになった。

-104-

以上

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平成21年度サービス産業生産性向上支援調査事業

服島運輸株式会社支援報告②服島運輸株式会社支援報告②

平成22年2月

宇野 正章

■ 目的

現場の効率化を目的に現場の効率化を目的に

1) 配送作業

2) 仕分け作業

3) ピッキング作業

の 種類の作業の中から「仕分け作業 の問題点に着手するの3種類の作業の中から「仕分け作業」の問題点に着手する。

コスト低減・生産性向上・品質管理徹底等の課題について 個々コスト低減 生産性向上 品質管理徹底等の課題について、個々

個人の技能・作業性・不具合・役割分担の情報共有のための動画

によるIT活用法を用いて支援を行なう。

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■ 支援の内容

今回は、「仕分け作業」に絞り込んで動画観測を実施する。

1) 作業の時間観測

2) 改善前・改善後の作業の記録

デジタルカメラを活用して、上記2点の内容について現場で撮影を行なう。

「仕分け作業」は、日々の配送量が異なり作業者の動きにもバラツキが

発生するので、1回の撮影時間は1時間程度とする。

量産型のプロセス生産ラインと異なり、ST(標準時間)・CT(サイクルタイ

ム)の観測よりも、手待ちの状況・習熟度の差異から発生するムダといっ

た内容に焦点を絞って観測を進める。

■ 改善前・改善後 ① 【適正人員の課題】

改善前 改善後

人員が多過ぎて 1パレ トの周囲 適正人員で 手待ちの無い正確な人員が多過ぎて、1パレットの周囲で手待ちになる。(4人~5人)

適正人員で、手待ちの無い正確な作業が進む。(2人)

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■ 改善前・改善後 ② 【役割分担の課題】

改善前 改善後

照合作業とモ プ掃除(2人 3人) 照合作業とモ プ掃除(2人)照合作業とモップ掃除(2人~3人)役割分担が不明確である。

照合作業とモップ掃除(2人)役割分担が明確になる。

■ 改善前・改善後 ③ 【積上げ作業での習熟度の課題】

改善前 改善後

パレ ト積上げの方法で問題が発生パレット積上げの方法で問題が発生する。(熟練者が現場で指導中)

熟練者は正確で作業性が良い。

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■ 改善前・改善後 ④ 【整理整頓の課題】

改善前 改善後

ラップの置き場が不明確である。 ラップの置き場が明確となる。

■ 改善前・改善後 ⑤ 【6人⇒4人体制の試行中】

改善前 改善後

6人体制? 4人体制

-108-

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■ 動画システムの使用目的と流れ

動画を活用して、現状把握を進める事で人員配置及び諸動作の問題点

も同時に確認を行う事ができる。

更に 連の作業動画を複数の現場経験者及び作業者とともに確認す更に、一連の作業動画を複数の現場経験者及び作業者とともに確認す

ることで、問題点を「見える化」させて「気付き」を持って、改善対策案を導

き出す事を目的とする。き出す事を目的とする。

現場改善の課題は、作業者に改善目的と改善内容を正確に理解させる

コーチングの手順にある。作業手順書を作成して配布するだけでは問題

解決にならない場合がある。このコーチングをサポートする目的に動画

システムが活用されるシステムが活用される。

作業内容を「見える化」して、作業者自身に「気付き」を持たせることで、

作業者自身が理解しやすいコーチングを進めることが可能になる。作業者自身が理解しやすいコ チングを進めることが可能になる。

改善前・改善後の動画記録を残すことで、最終的に改善内容も「見える化」

できる。

動画記録は、「本気で取り組む」現場改善のための支援ツールになる。

■ 結果 服島運輸の今後の流れ

1) 作業者の習熟度の向上(研修生等も含む)

2) 動画を活用した標準作業マニュアルの作成(安全・品質等も含む)

上記 2点を当面の課題として動画記録を実施する上記、2点を当面の課題として動画記録を実施する。

前提条件になるのは、現場改善担当者を決定して、改善ルールを明確に前提条件になるのは、現場改善担当者を決定して、改善ル ルを明確に

することである。この担当者が行程表を作成して、改善内容と期間を具体

化させて「本気で取り組む」体制づくりが基本になる。

改善動画を通して現場から様々な意見を導き出すことで、「会話のある」

現場になり情報を共有化することから 服島運輸としてより 層効果的な現場になり情報を共有化することから、服島運輸としてより一層効果的な

取組みが可能になる。

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第一タクシー株式会社運輸分野

会社概要会社概要

所在地 広島県広島市安佐南区相田

☝会社の特徴

☆他社 な 真心 も たサ ビ所在地:広島県広島市安佐南区相田創 業:昭和43年資本金:10百万円従業員:260人

☆他社にない真心のこもったサービス☆電話予約による配車が多い(地域密着)☆広島市安佐南区の老舗としての信頼感

課題 支援方法 成果・展望

《需要変動への対応》リアルタイム別、エリア別に空車状況を把握しているが

《支援する専門家》中小企業基盤整備機構児玉学氏

《戦略の明確化》バランス・スコア・カ ドで 「地域

4.ビジョンと戦略目標

地域ダントツ№1タクシー会社地域ダントツ№1タクシー会社ビジョン

空車状況を把握しているが、需要を予測することができず、実車率の改善余地がある。

《サービスレベルの向上》

児玉学氏

《支援方法》【戦略の明確化】バランス・スコア・カードに

カードで、「地域ダントツNo.1タクシー会社」というビジョンを達成するポイント

地域ダントツ№1タクシ 会社

CSF1

実車率のアップ サービスレベルの向上 マーケティングの強化CSF(重要成功要因)

ビジョン

CSF2 CSF3

予測と水揚げとの比較検証評価指標と実績・

レピュテーションとの比較検証マーケティング活動と

売上・利益との関連検証財務の視点

顧客個別ニーズの収集・把握顧客分析・区分に基づく

サービス体制の強化・充実

ワンツーワンマーケティングの強化、CRMに基づく新たなシーズ検索

顧客の視点

ITコーディネーター

お客様を15分以上お待たせして、キャンセルされることがある。乗務員のサービスレベルの明確な基準がない

より、ビジョンと戦略目標を検討。

【既存ITシステムの活用】

(重要成功要因)や改善策を明示。

《需要予測手法の確立》走行データなどをもとに 需要を予測する手法に

需要予測に基づく配車トライアル

取りこぼし、取り逃がしの根絶顧客・乗務員マッチング配車

販促活動の型決めと反応実績との検証による継続的マーケティング

業務プロセスの視点

乗務員サービススキルアップ研修・指導の実施

乗務員サービスレベル・スキル標準化の型決め

ブランド再構築に向けた差別化戦略実行(マーク・キャラクターなど)

人材と変革の視点

バランススコアカード

明確な基準がない。

《お客様のニーズの把握》個々のお客様の満足度を高める仕組みがない。

【既存ITシステムの活用】同社のITシステムのポテンシャルを活かすため、データベース構築を提案。

走行デ タなどをもとに、需要を予測する手法について提案を行った。

《顧客と従業員のデータベースの整備・活用》既存情報システムを活用し、お客様のニーズと従業員のサ ビスレベルのデ タベ スを

データベース構築

従業員のサービスレベルのデータベースを整備し、お客様ごとにあった従業員が対応できる仕組み。

‐110‐

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平成21年度サービス産業生産性向上支援調査事業

第 タクシ 株式会社支援報告第一タクシー株式会社支援報告

平成22年3月

児玉 学

1.現状(1)多くの顧客デ タを確保(1)多くの顧客データを確保○○○件保有⇒○○○件/月コールあり

(2)2年前新システム導入

① デ①A社製の「配車・デジタル無線システム(GPS,CTI機能含む)」+B社製の「ドライブレコーダ&車内モニタ(Sカメラ)システム」⇒順調に稼働中

②システム開発目的②システム開発目的「効率的な配車」「リアルタイム状況把握」「顧客別データ管理」⇒前者2つの目的は達しつつある

(3)他社との圧倒的なサ ビスレベルの違い(3)他社との圧倒的なサービスレベルの違い①3つの約束(「乗車案内・ドアサービス」「自己紹介・安全宣言」「お忘れ物の確認」)に基づく返金保証制度

②近い距離で不愉快な思いをされた場合の「2倍返金保証」制度②近い距離で不愉快な思いをされた場合の「2倍返金保証」制度

結果=ここ、10年で規模3倍化

P D先行 C Aの遅れが顕在化

しかし

-111-

P・D先行;C・Aの遅れが顕在化

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2.改善の方向

戦略目標

(1)圧倒的なサービスレベルの高度化

(2)新規ビジネス・複合ビジネスの開発・展開

戦略目標を実現するための成

①実車率のアップ

②サービスレベルの向上

③マーケティングの強化

重要成功要因(=CSF)

結果

①実車率のアップ

「生産性向上」

結果としての

「生産性向上」

本事業における改善の気づきポイントCSF 支援前 支援内での気づきポイント 改善策

①リアルタイム・エリア別空車状況の把握による効率的移動指示 適正配置を行っている

①⇒現在のデータ活用は、あくまで過去の実績と配車係の経験値・勘に頼っている部分がまだ多い 予測値に

①⇒需要予測を実現すデ(1)実車率

のアップ

指示、適正配置を行っているが、未だ実車率の改善余地が大きい

②待機時間の有効活用策、改善の余地あり

頼っている部分がまだ多い。予測値にまで高めていけたら、もっと実車率が上げられる。

②⇒付加業務、復合業務の開発には顧客の声を聞くのが一番

るデータの活用

②⇒顧客アンケートの方法や項目の見直し

善の余地あり 顧客の声を聞くのが一番。

(2)サ ビ

①受付電話「話し中」による取り逃がしあり

②コール後待機時間(15分)の

①⇒通販会社等で採用している話し中の「○○秒お待ちください」コールの導入等。

①⇒通販会社等の仕組み取り込み

(2)サービスレベルの向上

② ル後待機時間( 分)の

長さに起因するキャンセルの発生あり

③サービスレベルの全社要求水準が「基本レベル」に留まっ

②⇒科学的予測に基づく現在以上に効率的な配車((1)①と同)。

③⇒乗務員別サービスレベル・スキル標準化の型決めし 人事・処遇制度と

②⇒(1)①と同

③⇒従業員DBの構築、

新・人事評価、待遇制度の導入水準が「基本レベル」に留まっ

ている標準化の型決めし、人事 処遇制度と連動すると良い。

の導入

①同業他社との混同によるブ

①⇒社名以外のシンボルマーク・キャラクター等の開発・導入による明確な差別化の実現

①⇒社内及びグローバルコンペ等を通じた新ブランドシンボ 構築(導

(3)マーケティングの強化

①同業他社との混同によるブランド棄損

②顧客区分による満足度向上策が未整備

③チラシ配布等販促策の実行

差別化の実現。

②⇒顧客の区分ルールを現在より詳細に定め、ワンツーワンの対応を行う仕組みを作る。

ランドシンボル構築(導入プロセスもPR)

②⇒顧客詳細DBの構築

③チラシ配布等販促策の実行が成り行き管理

③⇒計画的なエリア別チラシ・DM配布の実施と、その効果測定の型決め(P-D-C-Aサイクルの実現)。

③⇒P-D-C-Aサイクル

に基づく効果的な販促実現

-112-

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地域ダ タクシ 会社

3.戦略マップ 赤枠内はCSF(重要成功要因)

地域ダントツ№1タクシー会社

収益性向上

財務の視点

生産性向上実車率・稼働率アップ

顧客の視点 リピーター増加

実車率 稼働率 ッ

全社レピュテーションの向上

顧客数増大

業務プ セ 視点

顧客満足度向上

全社サービスレベルのアップ 顧客からの潜在ニーズ

新ビジネスの展開

業務プロセスの視点(現場)

全社サ ビスレ ルのアップ

新ビジネスシーズ発掘

キャッチ

人材と変革の視点(本部)

従業員サービススキル向上

新ビジネス開発

(本部)販促・マーケティングの変革評価制度・教育制度の変革

4.ビジョンと戦略目標

地域ダントツ№1タクシー会社ビジョン

CSF1

CSF

CSF2 CSF3

実車率のアップ サービスレベルの向上 マーケティングの強化CSF(重要成功要因)

予測と水揚げとの比較検証評価指標と実績・

レピュテーションとの比較検証マーケティング活動と

売上・利益との関連検証財務の視点

ワンツ ワンマ ケティングの顧客個別ニーズの収集・把握

顧客分析・区分に基づくサービス体制の強化・充実

ワンツーワンマーケティングの強化、CRMに基づく新たなシーズ検索

顧客の視点

需要予測に基づく 取りこぼし 取り逃がしの根絶販促活動の型決めと反応実績

業務プロセス 需要予測に基づく配車トライアル

取りこぼし、取り逃がしの根絶顧客・乗務員マッチング配車

との検証による継続的マーケティング

業務プロセスの視点

乗務員サービススキルアップ研修 指導の実施

乗務員サービスレベル・スキル標準化の型決め

ブランド再構築に向けた差別化戦略実行

人材と変革の視点 研修・指導の実施 標準化の型決め

差別化戦略実行(マーク・キャラクターなど)

の視点

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5.情報システムの有効活用(1)現状システムの活用フロー

①顧客からのコ ル⇒CTIによる顧客認識①顧客からのコール⇒CTIによる顧客認識

②GPSに基づく配車指示⇒ナビ誘導

③乗車時;顧客データの送信に基づく接客サービス

④降車時;走行データの蓄積④降車時;走行デ タ 蓄積

⑤エリア別空車状況把握に基づく配置換え指示

⑥車内モニタ による事故減 クレ ム減⑥車内モニターによる事故減、クレーム減

③と④の間の「乗車接客時」に、より有為な顧客データを集積するチャンスがある!タを集積するチャンスがある!

(2)現状ある機能の活用( )現状ある機能の活用

現状のシステム入力 ※入力画面は秘匿とした。

【ランクについて】

客 を 決

【備考欄について】

ヒアリングやアンケ トで得た顧客独顧客別ランクをルール決めして入力可能だが現在はチケットのある無ししか分類管理していない

ヒアリングやアンケートで得た顧客独自の要求・ニーズを定められた分類で入力可能だが現在はバラバラの管理となっている理となっている

活用

オ ダ メイド接客

活用

オーダーメイド接客の実現

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6.2つのデータベースの整備と融合化

①顧客データベース(他社に無い、独自のヒアリングやアンケ トに基づく個別顧客デ タ)の構築( Cやアンケートに基づく個別顧客データ)の構築(=CRMシステム)

++

②従業員のやる気の源となる評価指標「=乗務員ランキング に基づく従業員デ タベ スの構築(ERMキング」に基づく従業員データベースの構築(ERMシステム)

融合

「顧客」と「従業員」のベストマッチング配車「顧客」と「従業員」のベストマッチング配車

=顧客満足度向上+顧客評価の高い従業員のモチ顧客満足度向 顧客評価の高 従業員の チベーションアップ(⇔待遇アップ)

ランク分け(案)

データベース(評価指標) ランク

A 第 タクシ のチケット契約者

1.顧客データベース(乗車回数)

A…第一タクシーのチケット契約者

B…乗車回数年間30回以上

C…乗車回数年間12回以上(乗車回数)

乗車回数年間 回以

D…乗車回数年間2回以上6回以下

E…乗車回数年間1回以下

乗務員デ タベ

プラチナクラス…在籍5年以上 第一タクシーサービス

検定(以下「S検」)上級合格、無事故無違反5年以上

ゴールドクラス 在籍3年以上 S検中級合格 無事2.乗務員データベース(キャリア+サービス検定+事故違反履歴)

ゴールドクラス…在籍3年以上 S検中級合格、無事

故無違反3年以上

シルバークラス…在籍1年以上 S検初級合格、無事

故無違反 年以上故無違反1年以上

ブロンズクラス…新人から1年

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7.IT経営の実現に向けたCSF(重要成功要因)別の「経営改革企画」と「IT戦略企画」

経営改革企画

付加業務・複合業務の開発

オーダーメイドサービスの実

ワンツーワンマーケティング革企画

現 の実現

ソリューション

顧客ヒアリング・アンケート・会話

顧客DBと乗務員DBのマッチング

CRMに基づく独自マーケティング活動ン ケ ト 会話 マッチング ケティング活動

③② ビ① ③マーケティングの強化

②サービスレベルの向上

①実車率のアップ

CSF

IT戦略企画

需要予測に基づく配車

ERM人事管理システムの構築

CRMシステムの構築企画 づく配車 システムの構築 の構築

ソリューショ 既存データ活用 人事データのDB化 顧客データの詳細DB化ソリュ ション 分析・シミュレーション

8.経営改革実施計画書(例)

地域ダントツ№1タクシー会社ビジョン 地域ダントツ№1タクシ 会社ビジョン

①実車率のアップ、②サービスレベルの向上、③マーケティングの強化CSF

3年後売上○億①3年後実車率○%

3年目④3年目③3年目②3年目①2年目④2年目③2年目②2年目①1年目④1年目③1年目②1年目①実施項目

KGI3年後売上○億

利益率○%(○億)KPI

①3年後実車率○%②3年後従業員満足度○%③3年後顧客満足度○%

3年目④3年目③3年目②3年目①2年目④2年目③2年目②2年目①1年目④1年目③1年目②1年目①実施項目

営業本部

実施組織・担当 初年度予算・投資額/回収計画営業本部営業課

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9 今後の改善活動に対する注意点9.今後の改善活動に対する注意点

真に役立つ「CRM」用の顧客デ タベ スを築くに• 真に役立つ「CRM」用の顧客データベースを築くには、現場・本部一体となったきめ細かなメンテナンスが欠かせないが欠かせない。

• 新サービスの開発には、現場の声が欠かせない。そ現場 ベ を上げるには 乗務員 やる気と能の現場のレベルを上げるには、乗務員のやる気と能

力の向上が欠かせない。真に役立つ「ERM」システムを構築するには やはり現場 本部 体とな たきムを構築するには、やはり現場・本部一体となったきめ細かなメンテナンスが欠かせない。

• 二つの「きめ細かなメンテナンス」を実現するためには、ITの有効かつ効果的な利活用が欠かせない。

10.内部活動と外部支援の復合による効果的な改善(案)モニタリング&コントロール

モニタリング(指標を常態的に監理する)

デ タ収集 評価データ収集(あらかじめ定められた指標データ)

評価(指標と実データとの差異分析)

評価と指標の差異が許容範囲を超えていた場合

コントロール(指標の向上を図る)

問題の分析(問題の根因を抽出)

解決策立案 解決策実施

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アクト中食株式会社流通分野 食

会社概要会社概要

所在地 広島県広島市南区宇品西

☝会社の特徴

所在地:広島県広島市南区宇品西創 業:明治44年資本金:70百万円従業員:372人

☆業務用食品の専門スーパー☆お買い得価格☆飲食店向けのコンサルタント集団を指向

課題 支援方法 成果・展望

《本部機能の強化》業務用スーパーFC加盟店の経営安定化を支援

《支援する専門家》中小企業基盤整備機構綿岡英幸氏

《経営戦略の明確化》「商品開発力やこだわり商品発掘」、「低 ストの物流提案売業出身の経営安定化を支援

市場一番商品の提供と数多くのFC加盟店への展開

《事業モデルの革新》

綿岡英幸氏

《支援方法》【経営戦略の策定】大手小売業の依拠する

「低コストの物流提案」、「効率的な生産のための生産性改善提案」を活かした経営展開。

《商品力強化の指標の明確化》商品力のバロメーターとしてふさわしい指標を

小売業出身

新業態開発・連携と数多くのFC加盟店への展開

《アクトグループの連携強化》農商工連携・地域資源の

チェーンストア理論の弱点を分析し、経営戦略を提案。

【お客様アンケート調査】

専門家が提案し、当該指標の改善に取り組み。《お客様の分析を実施した》お客様のアンケート調査により、強み・弱み、今後の課題を把握。

チェーンストア理論

農商工連携 地域資源の活用展開強化

【お客様アンケ ト調査】来店客にアンケートを実施し、ニーズを統計学的に分析。

お客様のセグメンテーション(AID分析)

 

○○人(構成比○○%) ○○人(構成比○○%)

総額○○円(構成比○○%) 総額○○円(構成比○○%)

平均○○円/人 職業A以外 平均○○円/人 年齢C才以上

職業B人数=257人 ○○人(構成比○○%)

総額○○円 総額○○円(構成比○○%)

職業A○○人(構成比○○%)

総額○○円(構成比○○%)

全回答者 平均○○円/人データマイニング

総額○○円(構成比○○%)

平均○○円/人

平均○○円/人 年齢C歳未満○○人(構成比○○%)

○○人(構成比○○%)

総額○○円(構成比○○%)

平均○○円/人 職業B以外 平均○○円/人

総額○○円(構成比○○%) 総額○○円(構成比○○%)

‐118‐

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平成21年度サービス産業生産性向上支援調査事業

アクト中食株式会社支援報告アクト中食株式会社支援報告

平成22年3月

綿岡 英幸

アクト中食経営支援効果について

■支援効果

アクト中食経営支援効果について

■支援効果

①今後の経営戦略が明確になった。(別紙 アクト中食の経営戦略)

②アクト中食の重点機能である、「商品力強化」についての評価項目として、商品アイテムの店別展開率を評価表をもとに検討~対策していくことに気づいていただき、定常的な対策を打っていただいている。

※商品アイテムの店別展開率が商品力のバロメーター

③会社全体やFC先の問題点が整理でき、今後推進すべき内容が整理できた。(別紙 FC先のMD・店舗運営上の問題点と対応)

④(独)中小企業基盤整備機構の専門家派遣を推進して、サービス業のモデルとなるように改善することとなった。

-119-

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アクト中食のSWOT分析

■強み①商品内容としてはセレクターとしてのバイヤー機能である。

工場等をヒヤリングし、単品の生産効率向上等の改善を実施している。「商品調達力がある」

②物流コストの効率化や提案内容に強みがある。③他業者との連携をしている。④携帯会員のアンケート。⑤たい焼き屋の直営とFC展開ができる力がある。

■弱み①○○○○○○○②○○○○○○○③○○○○○○○④○○○○○○○⑤○○○○○○○⑥○○○○○○○

■機会①商品調達~供給モデル(店舗直送・原価低減)の拡大が可能

脅威■脅威法律的な経営の課題

①業務用表示の方向性②FC法の改正③改 ネ ギ 法 改③改正エネルギー法の改正④業務卸の前年以上の伸び

アクト中食の経営戦略

FC先の経営の安定化支援

(店舗診断力 財務診断力 改善支援)

商品開発力や

こだわり商品発掘

(店舗診断力・財務診断力~改善支援)

市場一番商品の提供と数多くのFC先への展開

効率的な生産のため

○○○○

○○○○

市場 番商品の提供と数多くのFC先への展開

新業態開発 連携の提供と数多くの 先 の展開

○○○○○○○○○○

効率的な生産のため

生産性改善提案新業態開発・連携の提供と数多くのFC先への展開

○○○○○ 小売 消費者

○○○○○○○

○○○○○ 小売 消費者

○○○○○ ○○○○○

-120-

○○○○○○

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アクト中食経営方針と改善テーマについて

■経営方針

FC事業方針:

「オーナーとの経営理念・スローガン共有の大切さ」

「商品供給以外のFCメリットの追求」

人材育成方針:人材育成方針:

「コンサルタント集団として加盟店を支援していきたい」

■改善テ■改善テーマ

① 本部機能の強化

(FC先の経営の安定化支援のために)

(市場一番商品の提供と数多くのFC先への展開)

② 事業モデルの革新

(新業態開発 連携の提供と数多くのFC先への展開)(新業態開発・連携の提供と数多くのFC先への展開)

③ アクトグループの連携強化

○○○○・○○○○の活用展開強化

FC 先のMD・店舗運営上の問題点と対応

ステップ 問題点 対応

商圏調査 (秘匿)アンケートでの評価活動実施

商品企画(製品・サービス)

(秘匿)・食品製造現場や農業・魚 業・畜産業の現場訪問

・コンサルタントの支援

販売促進企画 ・コンサルタントの支援販売促進企画 (秘匿)コンサルタントの支援

・共同組織での販売促進勉強会での支援

店舗運営企画(オペ シ )

(秘匿)・コンサルタントの支援

・共同組織での店舗運営勉強会(オペレーション)

(秘匿) 共同組織での店舗運営勉強会での支援

店舗人材教育

店舗管理教育(秘匿)

・社長の気配りでの解決

・人事制度の導入

・教育体制の整備

評価(秘匿)

・部門別損益管理

・アンケ―ト評価

・コンサルタントの評価

自社店舗の宇品店(モデル店)での改革実施

-121-

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アクト中食改善テーマの推進ステップについて

ステップ1:業務用スーパー宇品店(自社店舗)のお客様評価の実施

業務食品のFCパッケージの評価業務食品のFCパッケ ジの評価

他の会社との連携

消費者の視点・品揃えの評価

ステップ2:ビジネスモデルの構築

ステップ3:ビジネスモデルに対応した加盟店の財務改善ノウハウ構築

ステップ4:ビジネスモデルに対応した加盟店の商品調達改善ノウハウ構築

ステップ5:ビジネスモデルに対応した加盟店の情報システム改善ノウハウ構築

受発注(EDI)やシステム構築の活用・分析受発注(EDI)やシステム構築の活用 分析

推進ステップ1について

ステップ1:ステップ1:

1.業務用スーパー宇品店(自社店舗)のお客様評価の実施 ※アンケート分析

2.業務食品のFCパッケージの評価

●商品内容●商品内容

「主力アイテムの市場一番商品としての認知が大切であるため、アイテムの配下率(店別展開率)を評価表をもとに検討」

<評価内容>

配下率 = 店舗別総アイテム数/○アイテム×店舗

欠品率 = 欠品件数/発注件数 ※トラブルの削減

付加価値― FCサービスレベル向上・TEL事業の拡大売上・POP件数

●商談内容

「○○○に負けないアイテム商談」

<問題点と対応><問題点と対応>

①困難な仕入先交渉作戦立案・・・・・バイアーの人材育成方針

競合店での市場調査~対策内容明確化

商談件数・既存商品の改善額・新商品の粗利益額・改良商品の粗利益額

②ネット事業(受発注)初交渉作戦立案-バイアーの人材育成方針

● 店舗の業務改革について担当を決めて改善を実施

(接客・接遇・ローコストオペレーション等 )

-122-

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(参考)お客様アンケート調査

お客様アンケート調査をもとに、近隣競合店も含めた6店舗について因子分析を実施することにより、お客様が認識されているポジショニングマップを作成した。これにより、競合店との位置関係を再確認することができた。

因子2 因子1当店 0.0099 -0.2908 A店0 4

0.5衛生感

フレスタ 0.0570 0.4002ゆめタウン 0.5575 0.2248ジャスコ 0.4424 0.2174ディオ -0.2493 -0.4926たかもり -1.1826 -0.1058

C店

B店

A店

0 1

0.2

0.3

0.4

D店

0 2

-0.1

0.0

0.1

F店

E店

0 5

-0.4

-0.3

-0.2

E店

F店

-0.6

-0.5

-1.5 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5割安感

食材 売場環境

(参考)お客様アンケート調査(参考)お客様アンケ ト調査

お客様アンケート調査をもとに、月間購入額を様々な変数でAID分析(注)を行った結果、業務用スーパー宇品店の客層が職業と年齢によって区分されることを確認した。

(注)月間購入額を 様々な変数により2 のグル プ分けを行い 最も明確にグル プ分けができ(注)月間購入額を、様々な変数により2つのグループ分けを行い、最も明確にグループ分けができる変数を抽出する手法。

職業B人数=257人 ○○人(構成比○○%)

職業A○○人(構成比○○%)

総額○○円(構成比○○%)

全回答者 平均○○円/人

 

○○人(構成比○○%)

平均○○円/人 職業B以外 平均○○円/人

○○人(構成比○○%) ○○人(構成比○○%)

総額○○円(構成比○○%) 総額○○円(構成比○○%)

平均○○円/人 職業A以外 平均○○円/人 年齢C才以上

人数 257人 ○○人(構成比○○%)

総額○○円 総額○○円(構成比○○%)

総額○○円(構成比○○%)

平均○○円/人

平均○○円/人 年齢C歳未満○○人(構成比○○%)

○○人(構成比○○%)

総額○○円(構成比○○%)

-123-

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株式会社ププレひまわり流通分野

会社概要会社概要

所在地 広島県福山市西新涯町

☝会社の特徴

☆中国地域有数 店舗網所在地:広島県福山市西新涯町設 立:昭和59年資本金:46百万円従業員:1200人

☆中国地域有数の店舗網☆お客様にあったお薬の調合

(お一人お一人の薬歴を管理)☆若く明るく元気な社風

《在庫削減の早期実現》

需要の予測が難しく、在庫削減が計画通りには進まない

《経営改革の全体像と改善プロセスの提案》・店舗の発注業務と本部のMD(棚割等)を、双方のコミュニケーションを緊密化するなかで

課題 支援方法 成果・展望

《支援する専門家》中小企業基盤整備機構綿岡英幸氏 小売業出身減が計画通りには進まない。

《MD(棚割等)の改革》

店舗ごとにレイアウトや売れ筋商品がことなるため、棚割が

双方のコミュニケーションを緊密化するなかで改善すれば、その結果として在庫とMDの課題を解決できるという道筋を提案。

・このプロジェクトを次期幹部候補社員に任せる。

綿岡英幸氏

《支援方法》【総合的な改善プロセス】以下の事項を総合的に実施する改善プ セ

結果として、在庫・欠品の改善

小売業出身

難しく手間もかかる。

《ローコストオペレーション》

在庫削減と棚割を効率化しなければ、ローコストオペレー

実施する改善プロセスの提案。ⅰ)在庫管理の現状把握

と対応策の検討

土壌としての

MD改革(棚割等)

店舗発注(作業効率化)

本社 店舗

情報システム在庫システムなければ、ロ コストオ レ

ションを進められない。

《次期幹部候補社員および店長の不足》

急速に店舗を拡大したため

・本社と店舗の在庫の実態、その管理方法の確認を完了。各店舗の特性に対応した品・群別の在庫自動発注システムを提案

ⅱ)MDの現状把握と対応策の検討

ⅲ)ローコストオペレーション

土壌としての

コミュニーケーション(情報共有・方針伝達)改革

MDシステム

急速に店舗を拡大したため、社内の人材育成が追いついていない。

の在庫自動発注システムを提案。・MDおよびローコストオペレーションについては、平成22年度以降に継続して支援する予定。

の方策の検討業務の棚卸し

‐124‐

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平成21年度サービス産業生産性向上支援調査事業

株式会社ププレひまわり支援報告株式会社ププレひまわり支援報告

平成22年3月

綿岡 英幸

(株)ププレひまわりの企業経営課題

①在庫削減を早期に実現したい

経 営 課 題

①在庫削減を早期に実現したい。

②MD(棚割等)の改革を実現したい。

③ローコストオペレーションを実現したい③ロ コストオペレ ションを実現したい

改 善 の 方 向 性

■改善ステップ

ステップ1.本社在庫・店舗在庫や在庫管理内容確認

ステップ2.本社在庫・店舗在庫や在庫管理改善の重点内容の確認

ステップ3.本社在庫・店舗在庫や在庫管理改善の重点内容の確認と改善

ステップ4.MD(マーチャンダイジング)の改善

ステップ5. ローコストオペレーションの改善

-125-

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(株)ププレひまわりの改革全体像

結果として、在庫・欠品の改善

本社 店舗

MD改革(棚割等)

店舗発注(作業効率化)(棚割等) (作業効率化)

情報システム

土壌としての

コミュニーケーション(情報共有・方針伝達)改革

情報システム

コミュニ ケ ション(情報共有 方針伝達)改革

(株)ププレひまわりの現状と経営課題について①経営課題について①

ステップ1.本社在庫・店舗在庫や在庫管理内容確認

①本社在庫・店舗在庫棚卸し方法や在庫金額と現物の照合

棚卸方法 :原価での棚卸の実施 ※多くの小売業が実施している売価還元法は適用しない

棚卸内容 :棚卸会社による商品スキャンと原価データーベースの照合

ロスの算定:あるべき原価在庫と実際原価在庫の照合

現在のロス率は、○%発生している。原因としては、万引きが多いと考えられる

②本社在庫・店舗在庫の移動処理や返品内容確認

本社在庫・店舗在庫移動処理方法:原価ベースでの伝票処理実施

返品方法 :原価ベースでの伝票処理実施

本社在庫・店舗在庫移動や返品でのロスは少ない本社在庫 店舗在庫移動や返品での は少な

-126-

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(株)ププレひまわりの現状と経営課題について①経営課題について①

③店舗からの発注リードタイムの確認と在庫の関係明確

カテゴリー 曜 日

A品群 -曜発注 -曜発注

B品群 -曜発注 -曜発注

C品群 -曜発注 -曜発注

・発注後の納品は原則3日後。ただし、20ケースを超える紙商材は中2日納品

・発注ロットは1個以上発注で、EOS発注

④定置管理体制と不良品在庫処理の確認

店舗での定置管理状況:ひまわり宇品店で確認した。店舗での定置管理状況:ひまわり宇品店で確認した。

不良品在庫処理 :店舗での不良品在庫は、「使用期限での処理」

「キズや日焼けでの処理」があり、処分内容は以下のとおりである。

①返品-% ②交換-% ③値引き-% ④廃棄-%①返品 % ②交換 % ③値引き % ④廃棄 %

(株)ププレひまわりの現状と経営課題について①経営課題について①

⑤配送ロットと配送形態の確認

各 メ ー カ ー

福山TC(広島・福山地区配送)

岡山TC(岡山地区配送)

店 店店 店店店

TCセンター:自社物件で運営は---が運営しているため、大変効率的なピッキング~配送体制である

店舗納品 :店舗納品は毎日7時~14時に納品されており、4トン~10トントラックでの配送である。

送 容 注 個 注 送 も 個納 あ 載配送内容 :発注ロットは1個発注のため、配送ロットも1個納品であり、混載している。

-127-

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(株)ププレひまわりの現状と経営課題について①

⑤発注実態に (宇品店 確認)⑤発注実態について(宇品店での確認)■全社での品切れ目標と実績

1店舗当たり欠品数― ○○SKU(広島・福山) ○○SKU(広島・福山以外)

改善目標 ○○SKU ( 2月実績 ○○SKU)改善目標― ○○SKU (12月実績 ○○SKU)

■宇品店生産性

目標:○○万円/月 実績:○○万円/月目標:○○万円/月 実績:○○万円/月

■発注担当の状況

・薬品○名(4年目) ・医療・シルバー○名(4年目) ・健康食品・オーラル○名(1年目)

・ベビー・ホームケア○名(2年目)・ホームケアー・紙○名(5年目) ・ビューテイケア ○名(4年目)

・メンズ・シーズン・洗顔○名(2年目)

・スキンケアー・セルフ化粧品○名(5年目) ・制度化粧品○名(2年目)・食品○名(5年目)

※アイテム数※アイテム数

-SKU数のため、発注は分担して実施している。

■発注内容

発注機器―過去の売れ数把握が可能機器 1台発注機器 過去の売れ数把握が可能機器 1台

過去の売れ数把握が不可能機器 1台

※各発注担当が時間担当による使用であり、売れ数がわかる機器は使用できないことがある

(株)ププレひまわりの現状と店舗課題について①

■店舗全体の問題点(秘匿)

① ○○○○○

② ○○○○○

③ ○○○○○③ ○○○○○

④ ○○○○○

⑤ ○○○○○

⑥ ○○○○○⑥

■発注担当の問題点(秘匿)

① ○○○○○

② ○○○○○

■店長の問題点(秘匿)

① ○○○○○① ○○○○○

② ○○○○○

③ ○○○○○

-128-

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(株)ププレひまわりの経営課題改善②

ステップ2.本社在庫・店舗在庫や在庫管理改善の重点内容の確認

■在庫削減目標の明確化

「全体在庫回転数 ○回/年」

ターゲット品群―医薬品○回/年・化粧品○回/年

■推進プロジェクト組織と担当の明確化

リーダー:○○○○

メンバー:○○○○

次世代経営プロジェクト

リーダー:○○○○

メンバー:○○○○

経営会議

○○○○

※月1回3~4時間開催

「このプロジェクトに参加して討論していく」

メンバ :○○○○

「意志決定機関で詳細説明と決定」

バイアーや店舗現場検討とデーター検証※月1回開催

(株)ププレひまわりの経営課題改善③④⑤経営課題改善③④⑤

ステップ3.本社在庫・店舗在庫や在庫管理改善の重点内容の確認と改善容 確認 改善

ステップ4.MDの改善

①商品別棚割り効率の評価方法確認

②商品別棚割り効率改善のための目標の明確化

③推進プロジェクト組織と担当の明確化

④基本アイテム・必須アイテム・選択アイテムの明確化

⑤モデル店での棚割実施と改善効果の検証

⑥全店展開の実施

ステップ5. ローコストオペレーションの改善①業務棚卸の実施による 付加価値作業と非付加価値作業の明確化①業務棚卸の実施による、付加価値作業と非付加価値作業の明確化

②付加価値作業増加目標と非付加価値作業削減内容の明確化

③本社業務と店舗運営業務の改革による付加価値作業増加目標の達成

-129-

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ビルメンテナンス業の生産性向上研修

株式会社MATコンサルティング 代表取締役社長 望月 広愛 氏

『組織を活性化させる 4つの理念と 8つの視点』

日時:平成 22 年 2 月 20 日(土) 13:00~17:00

場所:広島ビルメンテナンス協会(広島市中区千田町3-6-8)

1.はじめに

今日は知識を伝達する研修ではなく考える研

修にしたいと思っていますので、リラックスし

て聞いていただければと思います。

本日ご来場された会社のみなさんは、誰もが

活き活きとしてところで働きたいと思います。

しかし、皆が活き活きと仕事ができるようにす

るには精神論ではなく、そうした仕組みを作ら

なければ永続きません。そのため4本の柱が必

要となります。

椅子を考えてみてください。通常足は4本あります。強さ、高さなど足のバランスが悪け

れば倒れてしまいます。4つの柱を均等に立てておかないと、あるいは、どれか1本だけが

欠けてもだめです。このようなガタガタしない仕組みを作っていくのには設計図のような8

つの視点があります。経営そのものにも質があり、質を高めていくにはこの8つの視点(引

き出し)がわかりやすい設計図となります。

経営の仕組みづくりを高めていくことには終わりがありません。途中であきらめずに続け

ないとすぐにだめになってしまいます。今回の話はレストランの事例ですが、是非ご自身の

会社にも当てはめながら考えてください。

私はJ・ARTレストランシステムズの社長を会社設立後すぐの時期に引き受けました。

はっきり言えば最悪の状況の時に引き受けたので、ある程度の年数ですぐにそれなりの成

果は出ましたが、30 年、50 年、100 年と先のことを考えたときには、さらなるきちんとし

た仕組みがないと無理だと感じていますが、同時にずっと変わらない基本を大切にしてい

かなければならないと考えています。

例えば野球を考えるとわかりやすいと思います。強い選手、強いチーム作りのためには

何をするでしょう。一流のプロであっても、毎日の走り込みや素振り、ノックなどの基本

を大事にすると思います。では経営の基本はどうでしょう。するととたんにわからなくな

ってしまうのでする。そこで今日はこのことについてご説明しようと思います。

Page 138: 「中国地域における重層的なサービス産業 生産性向 …...り組むサービス業へのハンズオン支援をモデル実施するとともに、各産業支援機関の有

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2.永続的に卓越した業績を生み出す経営の仕組みづくりのためには

まず「従業員重視」「顧客本位」「社会との調和」「独自能力」の4つの理念のバランスが

基本であり大事です。かつて私は「顧客第一主義」を唱えてきましたが、これが間違いだ

と気づくまで何年もかかりました。もちろん顧客も大切ですが、従業員も大切です。両方

ともいい状態でなければならないのに、顧客第一主義ばかりを唱えていました。その間私

の会社は赤字続きでした。近江は日本生命、伊藤忠商事などの発祥の地です。昔から商売

の世界で有名な近江商人たちは、売り手良し、買い手良し、世間良し、の「三方良し」と

250 年も前から言い続けてきました。永く商売が続いている組織はこの3つがバランスよく

成り立っています。これまではこの3つでも十分すぎるほどよかったものが、環境の変化

もあり今は4つ目の柱である「独自能力」がより重要になってきています。その理由をご

説明します。

わが国の人口は現在は1億3千万人です、140 年前には 3,300 万人しかおらず、このたっ

た 140 年の間になんと1億人も増えたことになります。このような人口増加は、日本民族

にとってこれから数千年の間、二度と経験できないことでしょう。こうした人口が増えて

需要が増加している中でも倒産した企業はたくさんあります。すなわち「三方良し」が崩

れていたのです。実は人口は 2006 年にピークを迎えています。私がいたレストラン業界か

らするとこれは大変なことです。それをわかりやすくご説明します。

我が国の現在の1学年のあたりの人口は平均 150 万人になります。しかし 60 歳~62 歳の

団塊の世代の方は 260~280 万人生まれました。その子供たちの団塊ジュニアは 205~210

万人程度います。しかし、その子供たちである 10 歳以下の人たちは 105 万人~115 万人し

かいません。今、最もお金を持っているのは団塊世代ですが、平均寿命から考えるとあと

20 年でこの巨大なマーケットが消失することになります。50 年後には人口は8千万人にな

るといわれており、国内マーケットはもう成長することは考えられません。だから、これ

からは今以上のスケールメリットを国内のみで得られることはなくなります。

つまり、レストランだけでなく他の多くの業種でも、今よりも遙かに厳しい修羅場とも

言える市場環境になります。だからこそ、人と同じことをやっていてもだめなわけで、「独

自能力」が必要になってくるのです。

3.コアコンピタンス(独自能力)→生き残るための差別化の3要素

コアコンピタンスは3つあります。<技術面>ひとつは、レストランであれば独自の味

であったり手作りへのこだわりであったりなど商品で差をつけることです。しかし今どき

は、どの業界でも商品はすぐに真似されます。

二つ目は職人の技をアルバイトに展開したりマニュアルを整備したりといった<技能面

(スキル)>での差別化です。

商品は他社にすぐに真似されたりしますが、優秀な社員の場合は、他社に引き抜かれ

たりしてしまうといった点が見過ごせません。

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- 132 -

三つめは<風土>です。 これはわかっていても簡単には真似されません。経営品質

を高める時に我々が取り組んだのは、実ははじめの2つではなくこの風土です。

いくらきれいな花が咲いていても、土がだめなら腐っていきます。働いていて楽しい

風土にしないといい人ほどやめていきます。不思議なもので悪い風土には悪い人がどんど

ん残ります。自主性、つまり社員たちが自分で考えて行動し今までやったことのないこと

にトライするといったことのできる風土を作っていくと、いい人が残ってお客様からの評

判も上がってきました。

会社も子どもと同じです。すべて親の言うとおりにさせていては、まともな人間に成

長はしません。また親の言うとおりにしていても、子供は面白くありません。親に逆らっ

て失敗した場合など、自分自身で考えてやったことは責任を感じて何とかしようと考えま

す。こうして考えるから次にいいものが出てくるのです。会社も同じで社員が社長の反対

を押し切ってでもやろうとすることは失敗しても次にはいいものができます。社長の言う

とおりやって失敗したときには、社員たちは失敗を社長のせいにして、全然反省しません。

だから、やはり社員にまかせないとだめなんだと私は何度も思うような経験をしました。

手は離しても目は離さないようにして社員にいろいろなことをまかせたら社長の仕事

はなくなりました。社員はいいアイデアを持っているし、任せれば喜んでトライしますか

ら。

そもそも経営品質の考え方は氷山を考えると

わかりやすいと思います。私たちの会社が受賞

した日本経営品質賞では、審査基準のうち、売

上が上がり、利益が出たという結果の部分は

1000 点中、たったの 100 点程度の重みでしかあ

りません。なぜかというとそれは今までの結果

に過ぎないし、仕組み作りと違って将来を保証

してくれるものではないからです。ということ

は氷山と同じで、利益が出てくるためにはその

下の9割の部分の仕組み作りにこそ重要なこと

があるのだということです。

長く繁栄している会社ほどこのような目に見えない部分がたくさんあるということなの

です。それが、このあとお話しする7つのタンスの引き出しです。

まず、「1. リーダーシップ」について説明しましょう。よく率先垂範と言いますが、よく

考えないと逆効果になります。例えば社長が率先してごみを拾っていると、社員たちは社長

が拾ってくれると思い誰も拾わなくなったりします。逆に拾えと怒ってばかりいると、怒ら

ないと拾わない人間たちになってしまいます。ケースバイケースですが自分で何も考えない

人はいちいち言われないとやりません。そんな会社では生き残れません。

そこで大事になってくるのが価値観の共有です。どこの会社でも業務改善のPDCAはよ

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- 133 -

くやりますが、そもそもやる気のない集団では企画・設計・生産・販売といったプロセスの

改善などうまくいくわけがありません。いくらいい機械等を用意してもやる気のない人は使

いこなそうとしません。ではやる気を引き出すためにどうするかというと、男女関係と同じ

で、夢や価値観を一緒にするしかありません。これこそがリーダーシップです。

「2.企業倫理(コンプライアンス)や社会貢献」も重要です。正しいことを正しくやるとい

ったことは普通気持ちのいいことです。コンプライアンスは会社のためにやるのではありま

せん。社員自身が正しいことを正しくやって気持ちよく働くためにやるのです。社会貢献に

ついてですが、当社でもこの意識がないときには社員たちは自分のことしか考えませんでし

た。社会に貢献する(周囲の人に思いやりを持つ)という気持ちが出てくると、実際の仕事の

生産性を上げるのに強い効果を発揮します。たとえば、となりの人のことを思いやれない社

員の多い会社が楽しいわけがありませんし、例外なく生産性も低いはずです。

「3顧客の理解と対応」は、相手を知るということです。お客様は自分に関心がない、自

分の言ったことにきちんと対応してくれない人を好きにはなりません。社員はお客様から怒

られるのではなく、ほめられるとやる気が出ます。そのためにはお客様を知ることです。お

客様に喜んでいただいてほめてもらえれば、やる気が出て生産性は上がります。売り方、業

務知識だけを教えても生産性は上がりません。働いている人の気持ちが高まらないと生産性

は絶対に上がりません。その気持ちは、お客様からの感謝がなければは高まらないのです。

「4.戦略」についてですが、お金や時間やエネルギーを割いてお客様にたくさんありがと

うといってもらえれば、社員の気持ちが高まります。だから品質もあがり、生産性も上がり、

会社が儲かるということです。そのようにヒト、モノ、カネが使われているかどうかが重要

だということです。

「7.情報マネジメント」ですが、これは簡単に言うと「言った言わないをなくす」という

ことです。隠し事があるような会社で社員のやる気は高まりません。「6.プロセスの生産性」

が上がって利益がでてくるようになるには今まで述べてきたような仕組を組み合わせて、「5.

人のやる気を高めるための仕組」を作るということです。これらの仕組み作りはオセロでた

とえれば4隅をとりに行くといったことです。角は絶対にひっくり返されませんし、取った

人の勝ちです。1~7 の経営の基本というのはオセロの4隅と同じであり、これは価値観・

理念の共有なしには無理なことです。

4.J・ARTレストランシステムズでの経営

そもそも何故、静岡出身の私が岐阜・愛知でレストラン業務に携わったかをお話します。

大学卒業後、1989 年に楽器のヤマハに入社しました。訪問販売を担当することになり、毎

夜、朝が来ないことを祈って寝るような毎日でした。しかしこの経験は販売店にお世話に

なったり、海外の市場開拓部隊に配属になったりした際には本当に役立ちました。こうし

て 20 代を過ごしましたが、母が病気になったため、実家のある東京で仕事を探さざるをえ

なくなり、法人営業の強化をしていた三和銀行グループのシンクタンクに転職しました。

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ここでCSに関するコンサルティングをしていましたが、なかなかクライアントの風土改

革で成果が出なかったときに経営品質の8つのタンスに出会いました。この体系は日本と

の貿易摩擦が激しかったレーガン大統領の時代に、官民学一体となって、徹底的に日本を

たたくために調査研究した「メイドインアメリカ」という国家戦略プロジェクトで体系化

されたものです。その研究でわかったことは、長く続く会社には共通の特徴があり、これ

が8つの引き出しになりました。たとえば理念や家訓がないと永続きません。しかしこれ

だけでなくその理念を徹底する仕組みがないといけません。

そんなある時(株)吉田オリジナル(現在の IBIZA)の社長に呼ばれ、経営品質について聞

かれました。そろそろ息子さんに継がせることを考えていることから聞いてみたいとのこ

とでした。この会社はバブル崩壊後も経常利益が 20% と好業績で、30 年間にわたり、一度

も売上も利益もマイナスになったことのない会社でした。

売れすぎたことが仇になり、指示待ち人間が増えてしまったので心配だとの社長の認識

がありました。こうした思いを伺って、社員たちと対話し、強み弱みを洗い出していきま

した。すると社長の弱い部分も見えてきて、うまくよいところは残して事業継承すること

ができました。

J・ARTレストランシステムズに入ったのも同じような悩みを持っていた当社のオー

ナーに呼ばれたためです。「自分で経営をやったこともないのに偉そうに言うな」という指

摘から売り言葉に買い言葉で 1999 年2月に引き受けたことが発端です。

私たちの会社は、グループの中で好調な業績で推移し、上場していった焼肉チェーン本

体とは切り離されたくず会社でした。言葉は悪いですが、焼肉チェーンの株式公開に向け

て、問題のある従業員たちを異動させ、その人たちが吹きだまりのように集められた会社

でした。

業績も当時4億円の売上で5千万円の赤字でした。それまでの経営陣からきつくおこら

れてばかりいた従業員たちに対し、私は黒字にするためにはどんどん意見を言ってほしい

という方針を採りました。そうしたところ、なんと1年後には 14 億円にまで売上が伸び、

一気に営業利益が黒字化しました。

こうしたことから有名なユニクロ柳井氏、楽天三木谷氏、コムスン折口氏などの経営者

たちと並んで私も雑誌に取り上げられたりもしました。それに投資ファンドが目をつけて

きて、なんと3億もの資金を資本金に入れてくることになりました。ところが資金だけで

なく、人まで乗り込んできて、私たちが大切に考えていた経営品質向上活動に文句をつけ

始めました。今でも忘れませんが、3年以内に上場し投下資金を数倍にしたら株は売り、

あとのことは考えていないと公言していました。

こうしたなか、この年の4月 25 日、株主総会の前日に私は突然解任させられました。そ

の後、投資家でもあった後任社長が7ヶ月の間に4店を出店し、売り上げは 14 億円から 9

億円に減り 4 億円の赤字になりました。なんと膨大な借金だけ残して、すぐに4店とも閉

店するといったありさまでした。

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やむなく、12 月8日に社長に戻ることになりましたが、借入が 15 億円にまで膨らんでい

ました。

そのため、まず、オーナーにお願いして倒産しないよう最低限の資金を確保し、意を決

して、経営理念でもある8つの約束事、「1.約束事を守ります。2.嘘をつきません。3.

愚痴、陰口をいいません。4.トライする前に出来ないといいません。5.失敗を人のせ

いにしません。6.積極的に発言し、果敢に行動します。7.他人の意見を聴きます。8.

人として恥ずかしいと思うことはしません」の徹底から取り組むことにしました。

8つの約束事は毎朝朝礼で読み、全員で毎日一つずつスピーチをすることからはじめま

した。これを根気よく続けるうちに、辞めてほしい社員がどんどん自分から辞め始めまし

た(一人も解雇していません)。やがて人員を募集する際にこの8つの約束事を求人雑誌な

どに載せておくと、これがいいということでよい人が集まるようになりました。

そうなってくると社内の雰囲気ががらりと変わってきます。それまではキッチンとホー

ルの間でののしりあいをしていたのが助け合いをするようになり、13人でまわしていた

ランチタイムが、8人でできるようになりました。こうしてだんだんと社内の連携がうま

く回り始めていましたが、何かまだ足りないと感じていました。そこで、ある日突然、私

自身が社員に対して、理念の通り行動してよろしいと約束する誓約書を書いて渡してはど

うかと考え、実行し始めました。つまり、会社自体が社員に嘘をつかないという仕組を作

ってから収支が黒字になっていきました。

このような中、研修の後などで行った社員のアンケートに次のようなことがたくさん書

いてありました。○利他主義にあふれる会社にしたい、○みんながありがとうを追求する

組織にしたい、と。そこで、これらをそのまま経営理念にしました。これは今まであった 8

つの約束事は守らないといけないことのように感じられるものであったのに対して、従業

員がこういう会社になりたいといったものです。自分たちがなりたいというものだからど

んどん浸透していきます。

次に青カードのお話をします。私たちは3枚のカードを設けていました。まず、赤カー

ドですが、不満があればこれに書いてもらうようにしました。ただし愚痴は書かない、社

長以外の批判はしないルールとしました。白カードには提案を書くようにし、社内ではす

べて一字一句隠さずオープンにしました。そうすると社員が赤白だけでなく良いことの書

ける青カードを作りましょうと言い出しました。これは社外の人も誰でもHPでも見るこ

とができます。こうすると自然に助け合いが生まれるようになりました。今までわかって

いるのに出来なかったことができるようになりました。だから、13人でまわしていたラ

ンチが8人でまわせるようになり、生産性が上がっていったのです。

(実際の青カードの紹介)

このように8つの約束事や理念の共有によって、ようやく生産性が上がりはじめました。

何より良かったのは以前のようにやめる人間がいなくなったことです。以前は従業員の募

集に毎月 50 万円かかっていました。利益率から考えると 50 万円の利益をだそうと思った

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ら1千万円の売上が必要なほどです。

そうして、社会貢献も進み始めました、これは本当に社員のやる気がでます。たとえば

接客五大用語は毎日の朝礼では、手話でもやっています。本当に手話が必要な場面は多く

はないですが、それでも、実際にそうした場面にでくわすと、見たこともないほど社員や

アルバイトさんの動きが見違えるように早くなります。結局みな、お金のためだけに働い

ているのではありません。ありがとうといわれたいから働いているのです。だから社会貢

献というのは驚くほど重要なのです。

私はお客様と従業員の満足の両立についてはずっと悩んできました。前述したとおり、

私がお客様第一主義といっていたとき業績は赤字でした。しかし、多くの青カードに触れ

ていくうちに社員第一で良いと思いはじめました。なぜなら、社員の満足度が上がるのは

お客様からありがとうといわれたときなのだとはっきりとわかったからです。そこで、堂々

とお客様より社員が大切と言い始めました。社員募集の広告にも「お客様より従業員」と

平気で掲げるようにしました。利益を目指すほど、利益のでる仕組づくり、すなわちお客

様に喜んでもらうために、社員のやる気を引き出すことこそが大事だと気づいたのです。

お客様を大切にしなければ感謝の声はいただけません、お客様を大切にしたいからこそ

社員を第一と考えているときちんと説明して納得していただけなかったお客様は一人もい

ませんでした。

価値観の共有を優先したからこそ、他社と比べて顧客満足度は常に上回るようになり、

その結果社員が感謝に囲まれ、満足度が上がり、さらにその結果、私の退任まで7年連続

経常増益となりました。

5.さいごに

当社の仕組みはお客様満足度調査や従業員満

足度調査、それを分析する仕組み、店同士でチ

ェックしあう仕組み等様々あって、実際に取り

組んでいるものは一日で説明しきれないほどた

くさんありますが、そうしたものは個々の会社

に合わせて作ればいいものなので、今日は、具

体的にはご紹介はせず、あえて考え方を中心に

ご説明いたしました。それではここからはJ・

ARTレストランの今津部長にも入ってもらっ

て話を進めようと思いますが、まずどうしたら

よくない社員がやめていくかといったようなと

ころから話していただきましょうか。

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(今津氏)

まず会社に入る時に8つの約束をしてもらいます。店長から説明しますが、素行の良く

ない人にとっては、ここでこの会社に入るとまずいなと直感的に思います。そうすると次

の日にはもうこなくなります。そうなると悪い人をずるずると引きずって余分な人件費を

支払う必要もなくなります。入ってくる人、残る人は積極的に会社の価値観と仕組みに溶

け込んで一緒にやっていこうとする人が多いです。そういう人たちは情報カードもすぐに

理解してくれて常に一生懸命取り組んでくれます。

(望月氏)

私の感覚ですが、こういう手順を踏むようにして入ってきた社員が3割をこすように

なってから会社の風土が、がらっと変わったように思います。経営理念は取引先にも説明

して一緒に徹底に取り組んでいるところです。取引先に価値観の共有をやっていない頃に

はある店の取引先で配達を毎日1時間おくれてくるところがありました。待っている間の 4

人の1時間分の人件費 4,000 円を取り返すには 10 万円程度の売り上げが必要になってきま

す。1,000 円のランチ 100 人分です。たまらず、先方の責任者の方に来ていただいたときに

この8つの約束事を説明しました。なんとその方も共感していただいて、次の日からは部

下の配達の遅刻がなくなりました。現場でいくら文句をいっても変わらなかったのに、相

手の会社の上司の方の考え方を変えることが大事です。

根本の考え方を変えていかないと現場の対応も変わっていかないのだと思います。

(質問)

介護の業界での話しですが、そこでは従業員のかたはボランティア精神に富んでまさ

にお客さまのためにがんばるということはできているが、度を越していて通常の勤務時間

をオーバーしてしまうとか、あるいは介護だけをすることに満足してマネジメントができ

る人材が育たないといった悩みを持っておられるといったことがあるが、何かよい対処法

はあるでしょうか。

(望月氏)

これといったおすすめできる方法はありません。大切なことはみなで考えることだと

思います。先ほども申しましたが、方法自体はいくらでもあります。ただ、その方法をそ

のまま持ってきてもうまくいく保証はありません。人の会社のやり方はヒントにはなるか

もしれませんが、自分の会社のやり方にはなりません。自分たちの会社をどのような会社

にしたいかを話し合うことこそ大切だと思います。そこからいろいろな具体策が見えてく

るのだと思います。対話をするという仕組みを作らないと組織はけっして変わらないと思

います。私たちはいろいろな仕組みに対話の要素を入れ込むことはしてきました。これが

一番重要なポイントになるとは思います。自分で考えることが大事だと皆言いますが、考

えることは大変です。ですから考えるまえに、考えるような意識付けをずっとやっていか

なくてはならないということです。朝礼などは意識付けの場です。自分で考えたことは人

にいいたくなります。そして言ったことは行動する確率が飛躍的に高まります。

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(質問)

先程、風土を作るという話がありましたが、自主性、創造性を育てるのには辛抱しな

いといけないものですが、そういった点の苦労なりのお話はありますでしょうか。

(望月氏)

私が運が良かったといえるのは2点あって、ひとつは私が素人だったことです。現場

にまかせるしかありませんでしたから。もうひとつはこの会社に入る前に自分で店を出し

て失敗した経験のある料理人が多かったことです。経営理念や社会貢献、従業員のやる気

などまったく考えたことはなく、ただ美味しい料理を出せばうまくいくと思っていたとの

事でした。私と話をしてなぜ自分が失敗したか、経営にも質があるということを理解した

ので意外と抵抗がありませんでした。ただ浸透するのには時間がかかりました。ただあま

り苦労は感じませんでした。

(ロッソえびすや 2005 年度日本経営品質賞受賞紹介DVD視聴)

ご清聴ありがとうございます。

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建設コンサルタント業の生産性向上研修

株式会社五星 取締役副社長 神原 孝行 氏

『TOC-CCPMと現場力の引き出し方』

日時:平成 22年 2月 22日(月) 13:00~14:30 場所:ひろしまハイビル 21(広島市中区銀山町3-1) 1.はじめに

株式会社五星の神原と申します。宜しくお願い

します。

当社のお客際は、95%以上が国及び地方公共

団体です。当社の業務は、建設コンサルタントで

すが、最近とりわけ力を入れているのが地理空間

情報関連の業務です。公共の業務は、7~8割が

地理に関するものといわれており、これらをデー

タベース化し様々な業務に有効利活用していこう

というものです。

2007年5月に成立した地理空間情報活用推進基本法では、地理空間情報を広く捉え、多面

的な利活用を推進するための共通基盤を構築するという方向性を明らかにしていることと、衛星

測位が二本の柱となっています。GPS等を補完し精度の高い衛星測位を実現する準天頂衛星の

打ち上げと、その利活用のベースとなる精度の高い地図をつくり、それを全国でシームレスにつ

なごうという取り組みが始まっています。

このような背景を受けて、今後は、民間分野も視野にいれ、地図を全国に流通させるような新

規ビジネスにも挑戦していきたいと考えています。

2.TOC(制約条件の理論)とは

それでは本日のテーマでありますTOCについてお話をします。

TOCは「制約条件の理論」とも呼ばれ、イスラエルの物理学者エリヤフ・ゴールドラット博

士によって開発された理論です。TOCでは、組織には、1つまたは少数の制約条件があり、こ

れを活用、改善することにより、劇的な変化を起こすことができるとしています。

TOCの代表的なソリューションには、DBR、SCM、CCPM、TOC思考プロセスなど

があります。このうち、当社が取り組んでいますDBRとCCPMを簡単にご紹介します。

DBRは、受注生産型製造業の生産マネジメントに適用する手法で、納期遵守率向上、在庫削

減、リードタイム短縮などを目指しています。DBRは、継続的改善の5ステップといわれる5

つのプロセスで構成されます。1番目に、制約となる条件を見つけ、2番目に制約条件を徹底活

用し、3番目に制約条件以外を制約条件に従わせ、4番目に制約条件を強化し、5番目に惰性に

気をつけながら1番へ戻るというプロセスです。

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この際注意が必要な点は、制約条件が必ずしも自社の弱い部分とは限らないことです。優秀な

社員が制約条件になることも頻繁にみられます。

CCPMとは、製品(商品)・研究開発部門の開発マネジメント、建設・エンジニアリングの工

程管理、システム開発のプロジェクトマネジメントなどに適用する手法で、先手管理による納期

遵守率向上とリードタイム短縮を目指しています。

通常、製造業の場合は、1日の生産個数は○○個というように実績に基づき、かなり正確な生

産計画を立てることができます。ところが、建設コンサルタント業などのプロジェクト型業務で

は、各タスク(作業)の完了日数は、統計的な変動要素が大きく、右側に裾野の長いβ分布にな

るといわれています。そこで、タスクの完了日数を計画するとき、責任感の強い社員は、後続タ

スクに遅れを出さないように、かなりの余裕を見込んだ期限を設けることになります。これを「安

全余裕」、または「バッファ」といいます。しかし、期限を設けると、与えられた予算と時間はあ

るだけ使う「パーキンソンの法則」や、期限のギリギリになるまで本気で仕事を始めない「一夜

漬け学生症候群」などの人間の心理特性により、遅れは伝播しても進みは伝播しましせん。

そこで、CCPMでは、作業のバッファは各タスクで持つのではなく、プロジェクト全体で集

約し、納期の前に持ってきます。これをプロジェクトバッファと呼びます。こうして、β分布す

る作業工程を集約し、各タスクでは期限を決めずにチャレンジする日数だけを定め、自分の工程

が終わるとリレー方式で速やかに次の工程に渡すようにします。後続工程には、遅れのみならず、

進みも伝播させるようにすると、全体工程の完了日数の確率は、中心極限定理によって正規分布

に変わります。この結果、分布の裾野の幅が短くなり、工期全体を短縮できる可能性が高まりま

す。また、各タスクのチャレンジ日数に対する遅れは、プロジェクトバッファの消費により監視

し、予定以上にプロジェクトバッファが消費された場合には、速やかに対策を講じることにより、

納期遵守の確率はさらに高まります。

3.「経営改革Begin2005」

続きまして、当社で手がけている「経営改革Begin2005」の概要をご紹介します。

この経営改革は4つのプログラムから成り立っています。1つ目はマーケットに関するもの、

2つめは組織に関するもの、3つ目はマネジメントシステムに関するもの、4つ目は経営資源整

備に関するものです。

当社にとって最大のお客様は地方公共団体です。バブル崩壊直後の平成8年~9年頃のピーク

に比べると、従来型の業務は予算的に3割から4割位になっているところもあります。このよう

な厳しい状況の中で、受注競争も激化の傾向を辿っており、予定価格の数分の1という低価格落

札も稀ではありません。

このような厳しい状況の中で、相変わらずの長時間労働や厳しい経営状況が続いてきたわけで

すが、ある時、20年前頃の社内の書類を見ていますと、「業務改革」、「標準化」など今行ってい

ることとまったく同じフレーズがたくさん目に入ってきました。つまり、今も20年前も同じこ

とに取り組んで、答えが見つからない状態が続いているということです。

しかし、それだけ問題があっても何とか経営が成り立っているということは、問題を解決すれ

ばまだまだ成長の可能性があるということで、「問題山積=可能性の宝庫」と見方を変え、「経営

改革Begin2005」をスタートさせました。

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1番目のプログラムはマーケットフレームの整備です。かつて市場が堅調だった頃は、マーケ

ットシェアを把握していれば、翌年の売上高を

予測できましたが、今では難しくなっています。

そこで、一昨年から、ソリューションごとのマ

ーケティング、お客様ごとのマーケティングに

取り組んでいます。そこまで細かくみていかな

ければ、市場や自社の業績を予測することが難

しくなっています。かつては、受注の規模によ

ってどの市場に幾らの投資を行うかを決めてい

ましたが、最近では、各市場の成長性を見極め

て投資額を調整することも行っています。

2番目は、組織フレーム整備プログラムです。例えば、コンピュータの世界では、メインフレ

ームの時代からクライアントサーバを経てWEBへと進化してきました。人間の組織も同じよう

に考えても良いかもしれません。つまり、メインフレームのようなピラミッド型組織から、WE

Bのようなマルチプロジェクト型組織へと移行するという考え方です。

当社では、全ての業務をプロジェクトと捉え、固定の組織をつくらず、組織長はプロジェクト

リーダとし、職位とは独立した責任と権限を持たせることとしました。これをマルチで編成し、

様々な人が様々なプロジェクトで相互にリーダとなりメンバーとなって与えられた役割を果た

します。当然ながら若い人がプロジェクトリーダとなり、その指示のもとでベテランが働くこと

もあります。

3番目は、マネジメント強化プログラムです。ここでは、マネジメントを可視化することに取

り組んでいます。具体的には、経営戦略の可視化、プロジェクト工程管理の可視化、タスクプロ

セスの可視化です。また、QMS、EMS、ISMSという3つのマネジメントシステムを統合

した統合マネジメントシステムも構築しました。この中で、プロジェクト工程管理の可視化が、

本日のお話の主題であるTOC-CCPMの導入です。

4番目は経営資源整備プログラムです。経営資源とは、「人的資源」、「物品・設備資源」、「財

務資源」及び「情報資源」ですが、資料の図は人的資源を育成するための人事評価の例です。当

社の人事評価では、複数の上司や同僚がその人を評価し、評価結果を個人にフィードバックする

仕組みを採用しています。

4.TOC-CCPMの導入

さて次は、経営改革の中で進めてきましたTOC-CCPMの導入についてご紹介致します。

どの業界でも、納期遅れが慢性化している企業はあるでしょう。計画表もつくって進捗管理も

しっかり行っているはずなのに何故か業務が遅れてしまいがちです。何故でしょうか?

先ほども申しましたが、そこには、人間の心理特性が大きく影響しています。CCPMでは、

プロジェクトの各タスクには、①安全余裕が含まれている:突発的な問題を予測して、各タスク

に余裕を見込む(責任感の裏返し)、しかし、一旦安全余裕を見込んでしまうと、②パーキンソン

の法則:与えられた予算と時間はあるだけ使う、③学生症候群:期限のギリギリになるまで本気

で仕事を始めない(一夜漬け)、④早期完了の未報告:早期に仕事を完成させても報告されないの

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で、次工程は早まらない、⑤マルチタスク:複数の作業に同時に取りかかる、等の人間の心理特

性が潜んでいることを認識し、遅れのみならず進みも伝わる工程管理を目指すところにあります。 方法論的には、各タスクでは50%の確率で完了できるチャレンジ工期を定め、タスク毎の余裕(バッファ)を納期の前に集約し、プロジェクト全体で、クリティカルチェーン上の全工程の

50%の余裕を「プロジェクトバッファ」として定めます。クリティカルチェーンとは、リソースの競合に配慮した最も長いタスクの連携ルートのことです。運用に際しては、タスクの詳細な

管理は行わず、マルチタスク(掛け持ち作業)を極力発生させないよう留意しながらプロジェク

トバッファの消費状態に着目し、バッファが予定以上に消費されている場合には、プロジェクト

内、プロジェクト間で相互に支援しあうマネジメント手法です。 タスクの進捗管理については、進捗率で行っているところが多いと思いますが、CCPMでは、

残日数で管理しています。つまり、タスクが完了するまでにあと何日かかるかということです。

仕事の完成度は、率ではなく残日数で管理することにより、予定に対する遅れを具体的に把握す

ることができます。

プロジェクト全体の進捗状況は傾向グラフで管理しています。これは横軸にクリティカルチェ

ーン上の全日数と残日数の割合による進捗率を取り、縦軸にプロジェクトバッファの消費状況を

とります。プロジェクトの残日数とプロジェクトバッファの消費状況の関係により、青色から黄

色そして赤色へと信号色により納期遵守の状況を表します。プロジェクトバッファの消費が赤い

ゾーンに入ってしまうと、その仕事はかなり遅れて危険な状態にあることになります。赤いゾー

ンに入った業務は、直ちに対策を講じます。また、青のゾーンにあってもグラフの傾きが急にな

っている場合は要注意です。このグラフを見れば、その業務の状況を人目で把握できます。

また、このような傾向グラフをすべてのプロジェクトについて一覧できる画面もつくっていま

す。当社の経営者は、この画面を常に確認して、現在の仕事の進捗状況を的確に把握し、速やか

な対策を講じるようにしています。

当社がCCPMを社内で本格的に試行したのは、2006年の8月のことです。対象としたの

は、3年間の長丁場の固定資産の評価業務で、期間的に約半ばに差し掛かったところでしたが、

実行予算は既に使い果たし、それでも先の全く見えない状況でした。

CCPMを実施するに際し、プロジェクトのメンバーでしっかりとミーティングを行い、目的、

成果物、成功基準を確認し合い、そこに至る全ての作業を納期から逆方向に拾い出しを行ないま

した。そうしますと、ある社員がそのときに実施していた作業は、お客様からデータをいただい

た後でないと意味がないことがわかったり、すでに着手していたいくつかの作業が、重複作業で

あることもわかってきました。こうして、無駄な作業を洗い出して、本当に必要な作業だけを効

率的に実施するように計画をたて直しました。

そうして立てた計画に基づき、毎週作業の残日数を確認しながら、プロジェクトバッファの消

費状況に応じて、チーム間で相互に支援しあう体制をとりました。結果、問題プロジェクトだっ

たこの業務は、62日も工期を短縮することに成功しました。

私は、この体験から、全社の全ての業務にCCPMを導入すれば、一年後には、納期を大幅に

短縮でき、全ての経営課題は解決すると考えました。

しかし、実際に全社に展開してみますと、成果のあがるプロジェクトとそうでないプロジェク

トがみえてきました。CCPMの考え方に忠実にチームで実施しているところでは成果があがり

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ましたが、逆に、チーム化できていないところでは成果が見えませんでした。

CCPMを巡っては、見方が様々でした。推奨派の人は、CCPMに助けられたとか、チーム

としての意識が芽生えたと感じました。しかし、反対に、工程計画表づくりに多くの時間をとら

れただけで、効率化につながらなかったと感じていた人もいました。当社の経営者は、CCPM

の推奨派では確実に成果をあげており、また、消極派が感じている問題点は、CCPM自体の問

題点ではなく、マネジメントのやり方の問題であると考えました。

こうした経営者の見方のもと、それまではグループ任せであったCCPMの適用について、2

008年8月から全業務に適用することを義務化しました。CCPMに関わる基本方針は、納期

遵守を経営の最優先事項とするということです。これに伴い、社内ルールであるQMS(ISO

9001)を改定し、CCPMによるプロジェクトマネジメントを品質計画と位置づけました。

業務の責任者であるプロジェクトリーダと、納期遵守の観点から複数のプロジェクトのタスク

の優先順位を決めるプロジェクトマネージャを配置し、さらに全社の視点でグループを横断する

リソース(主に人材)の配置や外注を承認するリソースマネージャを設置しました。また、実行

予算管理においては、個別原価に縛られることなく、全社でのスループット(売上-変動費)の

向上を目指すことにしました。

現状は、グループ単位の朝会で日次のタスクの残日数を把握し、作業の優先順位を決め、極力

マルチタスクが発生しないよう留意して作業を進め、週次では、プロジェクトバッファの消費状

況を計算し、経営も含めた速やかな対策を講じるようにしました。プロジェクトバッファの消費

状況が青色のときは無駄にバッファを消費しないように作業を進める。黄色になると、赤になっ

たときの対策を考える。赤になるとグループ全体で対策を講じてバッファを回復させる。グルー

プで回復できないときはリソースマネージャに報告して全社で対策を講じる。それでも回復でき

ないときは、毎週火曜日の午前8時から開催している週次マネジメントレビューで社長に報告し、

最終対策を検討する。このようなサイクルで納期遵守のマネジメントを続けています。

5.さいごに

経営改革の成果と今後に向けてということですが、まず反省すべき点としては、改革の施策を

全社一斉に展開することの弊害です。初めての試みというのは、必ずと言ってよいほど失敗して

しまいます。まずは、限られた部門でテスト的に実施したうえで、全社に展開すべきです。次に

効果ですが、定量的な効果としては、2008年度の受注高を、2006年度比で42%増やす

ことができました。売上高も30%増加しました。工期の遵守率も、お客様の都合で延期になっ

たものを除きますと、94%に達しており、従来からは20ポイント以上改善しています。

定性的な効果としては、コミュニケーションの輪が広がって、相互の助け合いがあたりまえに

なってきました。そして、社内に少しずつ笑顔が戻ってきたことです。

今後は、受注計画と生産計画の連携、生産マネジメントの高度化、生産形態の分析と組織機能

の見直し、時短への取組みなどを総合的に進めていこうと考えています。

私達が、CCPMで目指していることは、信頼をベースにしたコミュニケーションの輪がひろ

がり、個人からチームへと職場が変わり、これがお客様を巻き込んだ流れとなることです。そし

て、当社がビジョンとしているところの、微笑みを湛える地域の人々や、微笑み湛える社員が、

今以上に増えてくることを期待しています。

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建設コンサルタント業の生産性向上研修

株式会社五星 豊浦 淳一郎 氏

『生産性向上の事例演習』

日時:平成 22 年 2 月 22 日(月) 14:40~16:20

場所:ひろしまハイビル 21(広島市中区銀山町 3-1)

この時間は『生産性向上の事例演習』として

持参した“マルチタスク体感ゲーム”のレジュ

メにもとづいて生産性について体感する講義を

行います。

これからやっていただく作業の条件としてま

ず、次のような3つの仕事が同時に入ってきた

とします。一つ目は1,2,3・・・・19,20、

二つ目はA,B,C・・・・S,T、三つ目は

△,○,◇・・・・△,○というように 20 文字

を書く3つのプロジェクトです。

まず、記入欄に何秒で出来るか1~10 までを書いてみてください。

(作業)

ほとんどの人が 10 秒以内、平均したら一文字 0.5 秒かかっています。しかし余裕を見て

ここでは一文字1秒でできるとしましょう。

では次にプロジェクトを計画していきますが、最初にやっていただく方法はリーダーか

ら3プロジェクトを平行に進めて3プロジェクトともなるべく早く仕上げるように指示が

あるものです。下のマスを使って1を記入したら次はAを記入しその次は△というように

ひとコマずつ右下へずれるように記入してください。3段目まで記入したら今度は2,B,

○という順序で記入を続けていきます。前に時計を表示していますので、終わったらご自

分のかかった時間を確認してください。それでは作業をしてください。

(作業)

いかがだったでしょうか。単純に計算したら一つのプロジェクトが余裕を見ても 20 秒し

かかからないので、全部で 60 秒以内には終わるはずですが、全員の方が 60 秒以内には終

わりませんでした。平均すれば 1分半くらいでしょうか。

では次にやっていただく方法はまず1,2,3・・・19,20 と連続して記入し、一つ目

のプロジェクトが終わったらA,B,C・・・・S,T、続いて△,○,◇・・・・△,

○というように一つずつプロジェクトを順番に仕上げていくように指示がされています。

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終わったらまた時間を確認してください。それでは作業をしてください。

(作業)

いかがだったでしょうか。今度は全員 60 秒以

内に終えられています。早い方は 30 秒強で終え

られています。

それでは質問ですが、どちらのルールが良か

ったでしょうか。どちらの結果が良かったでし

ょうか。後で行った作業の方が約2倍も早い結

果となりました。なぜ良い結果が出たと思われ

ますか。間違いやきれいさなどどちらの品質が

良かったでしょうか。ストレスはどうだったで

しょうか。

人間の脳は本当の意味でのマルチタスクなど出来ません。同時に二つの事柄に注意を向

けることは不可能です。ただ、2つの対象の間を行ったり来たりしているだけです。そし

て、結局はどちらにもきちんとした注意を向けていないという事になってしまいます。納

期を守るため、念のために早めに投入していませんでしょうか。全社的な視点で、いつ仕

事を投入すべきか、それがわかればプロジェクト管理はうまくいくのではないでしょうか。

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建設コンサルタント業の生産性向上研修

京都大学工学研究科 准教授 古阪秀三氏

『何が PM/CM か、なぜ PM/CM か』

日時:平成 22 年 2 月 22 日(月) 15:30~17:00

場所:ひろしまハイビル 21(広島市中区銀山町3-1)

1.はじめに

先程の神原副社長のお話にもありましたT

OCにしてもVEにしてもいろいろな考え方が

出てきて、続けている会社、途中でやめた会社

といろいろありますが、どの会社でもうまくい

くというものではなく、いずれにしてもこれら

は中心になって強力に推進する人がいないとう

まくいきません。

建設コンサルタントというときには二つの意

味合いがあります。一つは固有名詞としての意

味合いで、建設コンサルタント協会の建設コンサルタントがそうです。もう一つは普通名

詞としての建設コンサルタントで一般にさまざまなプロジェクトを支援するあるいはその

プロジェクトの中である役割を果たすという意味で用います。あるプロジェクトの発注者

支援のために活躍するということもあるでしょうし、設計や建設活動に外部から第三者的

に応援するとういう立場をとる場合もあるでしょうし、施工者の応援をするといったこと

もあるでしょうし、また大きな視点としてはプロジェクト全体をうまくマネジメントする

ためのコンサルタントということもあります。

2.PM、CM

TOCやTQC、VEなど、どの手法を採るかは企業の性格によります。建設コンサル

タントの業務を考えた時に、ライバルがたくさんいます。ライバルがたくさんいると収益

性が上がらないので、隙間を狙っていくことになります。生産性が上がるということには

ならないでしょうが、会社としての利益は明らかに上がってきます。そういう意味で土木

の世界では少しずつPM(プロジェクトマネジメント)、CM(コンストラクションマネジ

メント)といったものが出てきています。今はほとんどの資料がHPで公開されており、

国や地公体の動きがわかるので、戦略を考えていく上で重要になっています。

今、環境は激変しようとしています。たとえば、設計施工の話をしますと、一括発注方

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式というのをご存知でしょうか。これはコンサルタントの方にとっては大問題です。建築

では原則、公共工事では設計施工はしません。建築の場合、設計という行為は建築士法が

あって独立して法律で守られています。それに対して建設コンサルタントでは法律はあり

ません。ということは国として設計施工一括発注方式をやるとなると、建築の場合は設計

者と施工を分けた形でそれぞれは一括で発注します。土木工事の場合、建設コンサルタン

トの方が設計したものは発注者が買い取って、その設計責任等は基本的には発注者の中に

含めて発注して施工者との二者関係になります。そうすると全ての問題についてコンサル

タントは何の問題も問われないということになります。設計施工になるということは施工

者側に発注が行われるということになります。こうした設計施工一括発注方式になると国

がどこまで責任をとるのかは非常に大きな問題になると思われます。これは日程に上って

いるくらい、本格的に立ち上がる予定のものです。

CMビジネスというのは今から 25 年位前に出てきました。今から 15 年くらい前に本格

的に仕事が出てくるようになって、国、地公体、民間を問わず、CMをどう活用するかを

考えるようになりました。建築学会ではその前から研究をしていましたが、2000 年に国が

勉強を始めて 2002 年に公共の建築工事限定でCM発注方式のガイドラインが出ました。い

ろいろな混乱が生じる恐れがあったため、2001 年に私はCM協会を立ち上げて資格を出し

ています。これは公共工事の中でもある程度尊重されています。こうした動きは土木の中

でもあり、インフラストラクチャーマネジメント協会の立ち上げの話もありました。土木

のこの動きは、現在建設コンサルタント協会の中に入ったものと思います。

建築の世界のお話を少ししますと建築主がいて設計者がいて施工者がいます。建築主と

設計者は設計契約を結びます。施工者と建築主は工事契約を結びます。設計者の中には構

造技術者や設備技術者などがいてこれも契約を結びます。施工者は下請けと工事契約を結

びます。つまりプロジェクトの組織は全て契約で規定されています。大事なことはこれら

の契約を理解していないとプロジェクトのマネジメントはできないということです。民間

の場合には設計契約は委任契約もしくは準委任契約といわれます。請負と委任の違いがわ

からないとだめで、マネジメントとは技術的なことだけではなくて、こういうことが必要

になってきます。建築士法では設計は業務独占権があります。施工は建設業の許可をとっ

たものがします。このような状況の下で、ではCMはどういったことができるのかという

と、こうした独占権や建設業許可の問題等があるため理解することが難しい状況にありま

す。土木の世界でも発注者支援のCM業務は範囲の理解が難しいです。

法律、約款の中で何ができるのか、そして責任を明確にしていくことを考えることが、

今後民営化が進む中で建設コンサルタント業界にとっても大事になってきます。

姉歯事件を例にするとあの事件のあと、建築基準法が非常に厳しくなりました。構造技

術者の責任がさらに重くなりました。あまりに厳格に適用するため工事が前に進まなくな

っています。こういった例があるように、制度が変わるときには厳しい方向に行ってしま

うことはありうることですので、これについてはよく考えていただきたいと思います。土

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木では、設計がゼネコンへの一括発注という名の下に外部化されていきますから大きな問

題が起こる可能性があります。日常的にこうした先行きに対して考えることは非常に重要

なことだと思います。

委任契約、請負契約についてもう少しお話を

していきますと、請負契約というのはある仕事

をすることを約束して、その仕事が完成した時

に報酬をもらいます。委任契約はある仕事をす

ることを約束し、その仕事をすることに対して

報酬をもらいます。一言だけ違って、完成した

ときかどうかというところです。たとえばタク

シーは請負契約です。何らかの理由で目的地ま

でたどりつけなければ、途中までの料金も払う

必要はありません。歯医者で入れ歯の矯正は請負で、噛み合わせがきっちりするまでは治

療をします。ところが内科では腹痛が治らなくても治療費を払います。委任契約ですから。

病気が治ることを保障はしていません。建設工事は当然請負契約になります。それに対し

て設計行為は二つの解釈があります。完成設計図書が出来上がればそれに対して報酬を受

け取るので、弁護士や裁判官など一般的に法曹界の多くの人は設計も請負だと考えます。

よりよいものを作ることができるという観点から設計に完成はないとして、建築家の人や

建築に詳しい弁護士などは委任として考えます。実際に設計行為の訴訟になったときはど

ちらの立場で主張した方が裁判に勝てるかを弁護士は考えます。

品確法についてですが、公共工事と住宅の品確法の違いについてご存知でしょうか。同

じような名前ですが、全然内容は違います。公共工事の品確法は、工事を価格競争のみで

とって品質に問題がある工事が顕在化してきたために総合評価方式にしましたが、現実に

はまだ問題がある部分もあります。住宅の品確法の方は、瑕疵、手抜き等での被害が多く、

それを防ぐために瑕疵担保責任を 10 年にして、合意があれば 20 年にすることもできるが、

特約によっても短くすることはできないという法律です。また耐震性などの住宅の性能に

ついて性能表示制度も組み込まれています。ですから公共工事の品確法とはぜんぜん違い

ます。こういったことを理解していないとマネジメント業務のサービスは提供できません。

監理技術者制度は建設業法に規定されていて土木にも建築にもあります。土木工事の場合

には3千万円以上の工事の時、現場に監理技術者を配さないといけません。建築は 45 百万

円以上です。そして、建築業法上の現場に配置しないといけない監理技術者になる者は資

格が必要で、土木の場合には一級土木施工監理技士、建築の場合には一級建築施工管理技

士になります。土木では増大する大型土木工事の施工管理を行う技術者の養成確保が目的

で、建築の場合には下請けが多く、これらによる施工管理の適正化の目的から設けられま

した。では実際に現場で品質を確保するのは何で出来るのか。土木での設計施工一括発注

方式になると建設コンサルタントの役割がどうなるか重要になってきます。建築の世界で

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も同様の事情があります。発注者側から様々な業務をどんどん外部化しています。建築は

すでに設計は外部に出ていますし、そのほかでも外部化が進んでいるのであまり抵抗感な

くやってしまいますが、土木工事の場合にも民営化が始まろうとしています。中国の例を

だすと、中国は市場経済化が進みましたが、なにが変わってきたかというと国家による治

外法権がなくなってくるということです。どんどん市場開放していくと国家から権限が外

に出て行きます。建設の世界でいうと工事が設計図書の通りにできているかをチェックす

る技術者制度をまず作りました。その次に作ったのが建築士の制度です。建造師という日

本の施工管理技士に近い制度はつい最近です。このように民営化していくということは制

度を作っていくということです。土木工事についても外部化していくことは考えられます。

その時にきちんとした制度設計をするのを最終的には国が考えますが、みなさんの立場か

らいってもどういう形が望ましいのか、品質を確保するためのプロジェクトのやり方とし

てどういう制度が必要なのかを考える必要があります。そういう意味では施工者という立

場も大事ですがそれと発注者の間をつないだり設計者と発注者をつなぐ、ここに能力を発

揮する、いろいろな支援をできる主体というのは必要になってきます。ここが私が今日最

終的に話をしたい部分です。

これは建築の世界の話ですが、大きくは企画・設計・施工の3つに分かれます。建築工

事では企画は発注者が行います。設計は民間の建築士が行います。そして施工するという

流れです。昭和 30~40 年代は技術の幅もあまり広くありませんでした。そのため、一貫し

てプロジェクトを見ていくという観点から言うとわりと昔は全体を見れる発注者がいまし

た。設計者も施工のことが相当よくわかっている。施工者も設計のことについてもだいた

いのことはわかる。特にこの3者をつなぐルールがはっきりしてなくても、相互の信頼の

もとで品質が確保できていました。有名な建築家の方の当時の図面を見ても、今の建築士

に求められている図面よりはるかに少ないことがよくあります。しかし、いかに現場にい

てそれぞれの立場の人とよく話し、わかっていたかということは如実に残っています。そ

れに対して今の時代はいろいろな分業体制が出来てきます。たとえば企画は発注者がやる

だけではなくて外部委託することも多くなっています。設計に関しても意匠、構造、設備

それぞれに下請けに出すということが多くなっています。施工も当然重層的に行われてい

ます。このようにそれぞれの役割がかなり分業化されています。そういう中で一貫したプ

ロジェクトのマネジメントというのが出来にくくなっています。さらに派遣社員等が入る

ことによって情報の共有化がされにくいといった問題もあります。今までは終身雇用制の

もと現場でみっちり鍛えるといったことがあったのが、派遣社員を使うことによって出来

なくなっているといった問題があります。大学でマネジメント教育をやっているところも

限られます。こうしたことが重なって一貫した思想がなくなってきています。もしこうい

う状態が続くのであれば、第三者的に一貫した目を持ってみるということがますます重要

になってきます。分業化等によって技術やものづくりの思想の伝承がなくなってきつつあ

るのかもしれません。これをとどめるには過去に戻るというのも一つの方法ですが、マネ

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ジメント系の人間、第三者的な目で一貫して見るということが非常に重要な状況になって

きています。

3.さいごに

そういう意味で今日の建設コンサルタントという仕事をされている方たちのふるまい、

どういうマーケットに持っていくかということは非常に戦略的に考えるとおもしろい世界

になってくると思います。生産性の向上といった時にはあまりデザインといったものが意

識されていないですが、デザインを追及していくと生産性の面では効率が落ちることはあ

りますが、それは必ずしも悪ではありません。そうするとその辺の調整も考えないといけ

ません。そういう意味では建築の世界でも議論はあります。土木の場合は責任が外部化さ

れてきています。これから土木の世界の技術者制度とかもおそらく整えられるのではない

でしょうか。民営化が進んできた場合に、できるだけ品質を確保するためのマネジメント

に関心を持って活動していただければと思います。

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◆サービス産業の生産性向上は景気回復と内需振興に寄与する 長 尾:本日はお忙しいなか、座談会にご参

集いただき、誠に有難うございます。 本日は、サービス産業の生産性向

上において活躍されている皆様か

ら、ご知見やご見識を披露していた

だき、中国地域のサービス産業全体

を良い方向へ導くためのご協力を

お願いしたいと思います。 そのためには、先ず、現場の動き

を知ることが大切です。

皆様の現場でどのような取り組みをしておられるのかをご紹介いただき、その素

晴らしさを実感したうえで、いろいろと意見交換をさせていただきたいと思います。

現在、内需振興が景気回復のキーワードの一つになっています。本日のテーマで

あるサービス産業は、まさに内需振興の切り札ともいうべき産業です。その意味で

も、中国地域のサービス産業の生産性向上が、景気回復の新機軸となるよう、中国

経済産業局も取り組んでいきたいと考えています。

生産性向上の秘訣! 先進企業はここまでやっている!

座 談 会

☆「ハイ・サービス日本 300 選」に選ばれた中国地域の 4 社の方々にお集まりいただき、

サービス産業の生産性向上について討議いただく「座談会」を開催しました。

☆業界の常識を覆すような各社の秘訣を紹介していただくとともに、今後、サービス産業

全体に生産性向上の取り組みを拡げていくための課題や方策についても意見交換してい

ただきました。 【経営者】医療法人社団いでした内科・神経内科クリニック

理事長 井手下 久登 氏 株式会社アビリティ・インタービジネス・ソリューションズ 代表取締役社長 武田 昌勝 氏 サマンサジャパン株式会社 代表取締役会長&CEO 小野 英輔 氏 株式会社ティ・エス・エス・プロダクション 代表取締役社長 山中 敏治 氏 【コーディネーター】 中国経済産業局 局長 長尾 正彦 【司会】 中国経済産業局 産業部 流通・サービス産業課 課長 中山 光治

≪サービス産業の生産性向上に向けて≫

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◆生産性向上は人財育成と表裏一体 中 山:一般的に、「効率化を進めようとす

ると顧客満足が下がる」、「効率化と

顧客満足は二律背反する」という指

摘がありますが、皆様のところでは

いかがでしょうか? 井手下:医療業界は、他の業界に比べますと、

厳しさがやや足りないように感じ

ています。 「医師や看護師の態度がよくない」というご指摘を耳にすることもございます。

私のクリニックではお客様への応対のやり方に相当な注意を配っていますが、それ

でも「今よりもっと応対を良くしなければならない」と思っています。お客様への

応対を良くするという気持ちを持って取り組まなければ、直せるものも直せないと

いう状況に陥ってしまいます。まだまだ意識が足りないと反省しています。

私は、開業する前に広島市内の総合

病院に勤務していましたので、大きな

病院がどのような応対をしているのか、

どのような従業員教育をしているのか

を知っています。そのような観点もふ

まえながら、現在、私のクリニックで

何を行っているかについて、お話しま

す。

私は、生産性向上は人財育成とリン

クしていると考えています。

生産性向上と人財育成は表裏一体です。生産性向上に取り組めば、人財も育って

きます。私は、生産性向上に最初に取り組んだときに、トヨタ自動車OBのコンサ

ルタントであるカルマンの若松社長に相談しました。そのきっかけは、若松社長の

書かれた本を読んだことだったのですが、その本のタイトルは、「トヨタ式人財育成」

でした。トヨタ式生産方式ではなく、人財育成の本だったのです。それを読んで感

銘を受け、若松社長のご指導を受けてきました。

◆院内の全てを「視える化」 井手下:私どもは、院内の「視える化」に取り組んでおります。

社員と気持ちを一つにして取り組むためには、将来が視える必要があります。そ

の意味で、「経営理念・ビジョンなどの視える化」、「経営計画(方針)の視える化」

などに取り組んでいます。私どものクリニックでは、経営状況の数値を、全ての社

≪ハイ・サービス日本 300選を受賞した経営者の取り組み≫

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員が知っています。そのように、「経営内容の視える化」も行っています。「業務の

視える化」ということで、5Sにも取り組んでいます。

クリニックの「経営計画書」は、私と社員が一緒に作ります。この計画と実績の

間に違いが生じてきた時には、その原因を一緒に検討します。その積み重ねのおか

げで、最近はあまり違いが生じなくなりました。事業を行う際は、計画が必ず必要

です。単に「頑張りましょう」では、生産性は向上しません。

このほかにも、現在客の維持と新規客の開拓に取り組んだり、日次・週次・月次・

年度ベースで決算を行っています。日次決算といいますのは、毎日、17 時 15 分か

らその日の客数を報告してもらうことです。この決算内容は、全ての職員が知って

います。

「ルールの視える化」では、業務内容の進め方やチェックのやり方など、全ての

項目についてチェックをすることが大切です。そして、チェックしたかどうかをチ

ェックする体制も必要です。

また、一人一人がいろいろなやり方で作業をしていたのでは、生産性は上がりま

せん。全ての作業を標準化することも必要です。

今日出勤してきたら何をすべきかが分かるタイムテーブルも作成しています。

また、どの人がどの業務をどこまで出来るのかが分かるよう、技能習得状況を星

取表にしています。

当クリニックでは、伝達事項は口頭だけではなく、情報システムを使って記録と

して残すようにしています。これらの情報は、私がOKするまで削除してはいけな

いことにしています。このような情報は、1カ月間で 3,000~4,000 件入力されてい

ます。

当クリニックでは、午前 7時から幹部会議を行い、7時 15 分から早朝改善会議を

開催しています。そのなかで、期限内に完了できていない業務の有無などを確認し、

その対策を検討しています。

◆生産性向上には人間力(=人間性+実務遂行能力)が必要 井手下:生産性を高めるためには、人間力が必要です。人間力を構成するのは、人間性と実

務遂行能力で、この 2つが車の両輪です。人間力を高めるため、当クリニックでは

論語の勉強も行っています。

人間力を高めるための「21 徳目」は、職員が毎日 15 分程度かけて書いています。

私も、この「21 徳目」を記入しています。

このように、生産性を向上することは、人財を育成することと同じなのです。

◆マルチワーカーの育成が会社の付加価値 中 山:非常に詳しくお話をしていただきまして、誠に有難うございました。アビリティ・

インタービジネス・ソリューションズの武田社長の会社では、どのような形で生産

性向上に取り組まれていますか。 武 田:当社の主な事業は翻訳です。翻訳を中心として、多様な言語サービスも展開してい

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ます。 当社の日本人スタッフは、日本語、英語、欧州の言語などを使えます。中国人の

スタッフもいて、中国語、日本語、英語などを使えます。欧米人の社員は、英語、

日本語、欧州の言語などを使えます。 このように、多様な言語を扱える社員を擁しています。 このような社員を当社では「マル

チワーカー」と称しており、当社の

特徴の一つになっています。マルチ

ワーカーになると社員自身に付加

価値が付き、その結果会社にも付加

価値がついてきます。そして、その

結果として生産性も向上します。 当社はマルチワーカーを育成し

ていますので、複数の能力を要する

業務でも、一人のスタッフで対応で

きます。 つまり、製造業で言うところのセル生産方式を実施しているのです。当社のスタ

ッフは、顧客とコミュニケーションするなかで相手のニーズを聞き出していますし、

自分がやるべきことも把握しています。 ◆お客様ごとに翻訳システムの辞書を丹念に作成 武 田:翻訳の業務には時間がかかります。特に、良い翻訳をしようとすると多くの時間が

かかってしまいます。そこで、当社ではITを活用して作業の効率化を進めていま

す。具体的には、当社の翻訳システムに、ある単語や文章の適切な翻訳のやり方を

記した辞書を、業界ごと、お客様ごとにつくっています。同じ単語でも、お客様や

業界によって、翻訳のやり方が微妙に異なるのです。この辞書を丹念にメンテナン

スすることによって、質の高い翻訳を短時間に行うことができるのです。また、過

去の類似の文章は、手作業で翻訳しなくても済むような機能も、翻訳システムに内

蔵してあります。

仕事をお受けしたときの翻訳に要する時間は、15 分単位で事前に計画を組んでい

ます。そして、その時間内に翻訳できたかどうかを確認することで、利益が出たか

どうかを判断しています。

◆社内の人材育成と派遣先での人材育成をリンクさせる 武 田:当社では、組織をフラットにしています。階層を少なくし、社員が自己管理するよ

うに促しています。会社のルールで縛らず、自分で考えて行動するようにしていま

す。今後、自分がどういう資格を取得し、どういうスキルを身につけるか、何にチ

ャレンジして自分の幅を広げるのか、ということも自分で考えています。何時まで

にどのような資格を取得するかについては「チャレンジシート」を作成しており、

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半期ごとにその結果を集約しています。試験に合格した人には、受験費用を補助し

ています。当社では、付加価値をいかに高めていくかを重視しており、そのために

も多様なスキルを持っている人材を育成していきたいと思っています。

当社では、社員を社員自身と上司が評価しています。さらに、お客様にも評価し

てもらいます。その評価は、給料に若干ではありますが反映させています。

当社のスタッフが地元の自動車メーカーに派遣された場合、そのスタッフはその

会社で自動車業界に関するノウハウを身につけます。また、IT業界に派遣された

社員は、IT業界のノウハウを習得します。このようなスタッフが派遣期間を終え

て当社に戻ってきますと、派遣先で身につけたノウハウによって、新しい社員を育

ててくれます。この循環を維持することが、当社の人材育成にとって重要です。

翻訳の対価には「1 文字当たりいくら」という相場がありますが、その金額は下

がっています。だからこそ、生産性を高めなければ、採算を確保できません。その

対応策として、当社では社員の能力アップなどに取り組んでいます。

◆生産性向上の先進企業はイノベーションでも先進モデル 長 尾:井手下先生のクリニックでのお取り組みは、大変参考になり、非常に素晴らしいと

思います。生産性向上にここまで徹底して取り組むことは、大変な努力が必要だと

思います。 井手下:私達の取り組みは、アビリティ・インタービジネス・ソリューションズさんのお取

り組みに共通するところが多いと思いました。評価の方法や多能工化の取り組みな

どは、当クリニックでも行っています。やはり、生産性向上と人財育成は、かなり

リンクしていると思います。 長 尾:社員のみなさんに「視える化」すると、納得してもらいやすいのではないでしょう

か。武田社長にもご紹介いただきましたが、私もかつて翻訳業の方とお付き合いが

あって、「お客様の業務に関する知識を持っていないと良い翻訳ができない」という

話をよく聞きました。その意味では、お客様毎に翻訳の辞書を作られ、質の高いサ

ービスを非常に効率的に提供されているというお話に、大変感銘を受けました。こ

れも、カイゼンの素晴らしい事例の一つだと思います。 武 田:辞書をつくる際は、メンテナンスの作業が大変な負担になります。もし間違った翻

訳を辞書に載せてしまうと、その後、ずっと間違った翻訳を続ける恐れもあります。

その意味で、正確な辞書づくりは、当社にとって貴重な財産なのです。 ◆「繁栄手助け業」への業態転換 長 尾:井手下先生と武田社長の取り組みは、効率を高めているだけではなく、イノベーテ

ィブな色彩が濃いと思いました。このような新しいビジネスや市場の創出という観

点も踏まえながら、引き続き、皆様の現場でのお取り組みをお話しいただければと

思います。サマンサジャパンさんではいかがでしょうか?

小 野:当社は単なる清掃業務にとどまらず、たくさんの柱となる事業を育ててきました。

お客様の業界も非常に幅広くバラエティに富んでいます。当社では、生産性向上と

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付加価値向上の両方に取り組んできました。価格競争力を高めながら、ブランド化

も進めて参りました。

そうしたなかで、当社の事業を「業務請負業」であり「繁栄手助け業」であると

考えるようになりました。

40 年前、私は父からあまり業績のよ

くない会社を引き継ぎました。当時の

清掃業務は、社員が誇りを持って働け

る職場ではありませんでした。社員の

平均年齢は 59.9 歳で、同業他社も同

じ状況でした。生産性も良いはずがあ

りません。

私は、「社員が自信を持って働ける会

社、誇りを持って働ける会社にしたい」

と考えていました。

その頃、当社で新しい業態の開発に挑戦した事業が「サマンサクラブ」でした。

当時、「5Sの徹底実践」によってデミング賞を受賞されたある企業経営者の話を聞

きました。5Sとは「整理、整頓、清潔、清掃、しつけ」のことですから、最初の 4

Sは清掃業務と同じことです。つまり、清掃を通じて繁栄した企業があったのです。

そこで、私は発想を転換し、当社の事業を単なる掃除ではなく、「繁栄手助け業」で

あると考えるようになったのです。グレーの作業服をやめて、見栄えの良い制服に

変えて、社員が人前に飛び出せるようにしました。社員が表に出るために、5 番目

の「S」のしつけも徹底しました。

◆モノづくりの発想で生産性を向上 小 野:次に、生産性向上についてお話します。

生産性を高めるために、如何に汚れなくするか、如何にコストをかけないかとい

うことを考えました。その結果、モノづくりの発想を取り入れ、「汚れをきれいにす

る」ことから「きれいさを 95%レベルに保つ」ことにしました。

そのために、あるメーカーと組んで樹脂ワックスも開発しました。それまでは水

性のワックスでしたので、塗った直後はその上を歩くことができませんでした。し

かし、水を使わない「ドライ工法」を開発したことにより、塗った直後でも、その

上を歩くことができるようになりました。ドライ工法を採用したのは、当社が業界

で最初でした。また、ワックスを磨く機械には、従来は長い電気コードが付いてい

ました。しかし、これでは人が歩く妨げになります。そこで、コードレスの装置も

開発しました。

床の汚れは、あたかも「けもの道」のような形でついていきます。つまり、人が

頻繁に歩く部分だけがたくさん汚れ、それ以外のところはあまり汚れないのです。

当時、スリーエム社が樹脂ワックスを使用したドライ工法に適したパッドを販売し

ていましたので、それを使ってワックスの表面を削って磨きました。光沢のなくな

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った部分を中心にワックスを削って、その上からワックスを薄く塗ることにしまし

た。

このような取り組みの結果、早朝や夜間ではなく日中の作業が可能となり、30 歳

前後のミセスが働ける職場になりました。この年代の女性は、勤務できる時間帯が

限られていますので、たくさんの人を募集して、その人たちが働ける時間帯をパッ

チワークのように繋ぎ合わせることで、好きな時間帯だけ勤務できる体制を創りあ

げました。そして、このシステムを「サマンサクラブ」と名づけました。

このように年齢層の若いスタッフを採用し、新しい作業環境を構築した結果、業

績は目を見張るほど改善しました。これを見て社員が驚き、私の指示を受け入れて

くれるようになりました。因みに、当社では業績の変化を的確にとらえるために、

毎月、直近 12 カ月分の数値の合計をプロットして推移を見る「年計グラフ」をつく

っています。このグラフを見れば、サマンサクラブ導入による業績向上を容易に確

認できます。

これまで新しい洗浄機と自動ワックス塗布乾燥機「ワクサー」の開発を続けてき

ましたが、最近、完成の目処がつきました。この開発には約 10 年かかりました。こ

れらの機械で行う作業は水の使用量が極めて少なく、ほぼ完全なドライ工法と言っ

てよいでしょう。また、ワクサーも改良を加えて従来よりもかなり小型になりまし

た。これを本格導入すると、従来の約 7割のコストで清掃が可能になります。業界

は大きな変革期を迎えるでしょう。

◆高付加価値化の原点は経営理念の共有 小 野:次に、高付加価値化についてお話します。

私達は「商品」にいろいろな「付加価値」を付け加えたものを「売り物」と呼ん

でいます。技術、商品にどれほどの付加価値をつけることができるかという問題は、

最終的には「人づくり」に行き着くと思います。当社では、社員教育を「親孝行」

からはじめて、自分がどのような生き方をすればよいかを考えさせるように、繰り

返し指導を行っています。私は、経営計画書に記してある経営理念を徹底すること

に、一生懸命取組んでいます。全ての事業所を私自身が訪問し、そこで経営計画書

のなかにある経営理念を説いています。パート社員が一人しかいない事業所でも、

必ず訪問して説明しています。その結果、社員の仕事ぶりが非常に良くなり、お客

様からサービスの質を認めていただき、当社に名指しでお仕事を発注していただけ

るようになりました。当社の価格が他社より高い場合でも、お仕事をいただけるの

です。社員、スタッフの人間的レベルの向上が全ての原点になると考えています。

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◆外国人が日本を紹介する動画のWebサイトを構築 中 山:有難うございました。ティ・エス・エス・プロダクションさんでは、如何でしょう

か?

山 中:メディア業界は、生き残りをかけて構造改革に取組むべき時代に差し掛かっていま

す。業界では、コンテンツの 2次利用、つまり一度利用したコンテンツを別の媒体

で再び利用する形で採算性を高める、という取り組みも広がっています。

メディア業界では、コンテンツの質の向上が優先されがちで、コスト意識が低い

という風潮があり、他の業界とはかなり異なった独特の世界を形成しています。し

かし、質ばかりを追求していてはいけないということが、3 年前頃からかなり明確

に見えてきました。いかにして生産性を高めて現状を打破するかが、重要な課題に

なっています。

その対応策の一つとして、当社では動画のWebサイトである「ジャパン・イン・

モーション」を立ち上げました。

ジャパン・イン・モーションの特

徴は、広島に住んでいる外国人が、

自分達の行きたい場所を旅して、彼

らの感性でWebの動画に仕上げ

ている点です。この番組では、日本

人のスタッフは地上波の番組を担

当したことがあるディレクターだ

けで、レポーターやライターなどは

外国人がつとめており、彼らの国の

考え方で番組を創りあげています。

ディレクターはパソコンを持ち歩き、旅行中にパソコンで画像を編集して本社に

発信します。これも、低コストで番組を制作できるポイントの一つです。

この番組の東日本縦断企画では、2 人の英国人が知床半島から富士山まで旅をし

ました。この外国人レポーターが日本各地を紹介するのですが、文化ギャップを感

じさせる内容になりました。例えば、北海道ではいくら丼が名物ですが、英国では

いくらを食べませんので、これを食べることは大変なチャレンジでした。

当社がこれまでに蓄積してきたコンテンツを 2次活用することで、コストを抑え

ながら、充実した映像をWeb上で流しています。外国人レポーターが話している

言葉は英語、韓国語、中国語です。日本語は使っていませんから、日本人の間での

知名度はあまり高くありません。

◆独自制作のコンテンツを販売するビジネスモデルを開発 山 中:ジャパン・イン・モーションをなぜ手がけるようになったかについてお話します。6

年半前に私が社長に就任したとき、「今後、売上が毎年数%減るかもしれない」と感

じました。それをカバーするため、新しい収益源として、テレビ局以外からの受注

を開拓することにしました。つまり、当社独自で制作したコンテンツを売って歩く

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という販売型のビジネスモデルです。

当社の特徴の一つとして、社員の半数がテレビ局のなかで勤務していることが挙

げられます。つまり、親会社であるテレビ局から番組制作などの業務を、幅広く任

せていただいているということです。その一方で、当社独自のコンテンツを制作し

ている社員も半分います。

当社独自のコンテンツを販売するという方針のもと、4~5年前に「広島株式会社」

という番組を自分達の費用で制作し、テレビ局に売り込みました。これが、独立行

政法人工業所有権情報・研修館の目にとまり、「知恵の輪ニッポン」というWeb上

の番組を受注することになりました。この番組は、特許の内容を動画で分かりやす

く説明したり、特許技術を開発する際の苦労話を紹介したりするものです。これが、

地上波で培ってきた技術やノウハウを、Webに展開するきっかけとなり、やがて

ジャパン・イン・モーションへとつながったのです。

当時、「Webで日本を紹介するサイトはあるが、それらは全て静止画であり、動

画はない」ということに気付き、動画を使ったサイトを立ち上げようということに

なりました。それ以来、これまで、日本の観光情報の発信を 3年半ほど続けていま

す。

◆人と機材の管理をITで効率化 山 中:業務の効率化という点についてお話しますと、設備はデジタル化が進んでいますが、

それを使うスタッフの仕事はアナログのままです。つまり、経験や感性が重要な仕

事なのです。そのため、これまでは「効率化は難しい」と思っていました。しかし、

今では効率化せざるを得ない状況になりました。効率化するためには、人と機材の

管理が重要です。このため、管理のIT化を進めるなど、いわゆる「視える化」に

取り組んでいます。ここ数年間は、ようやく社員の意識の中にも、コスト意識が芽

生えてきたようです。

高付加価値化についてお話しますと、コンテンツの 2次利用に取り組んだり、番

組制作者が営業マンを兼務するなどによりお客様のニーズに的確に対応することを

進めています。

新規ビジネスという点では、ジャパン・イン・モーションを海外に発信していま

す。これは、まさにコンテンツの 2次利用になります。具体的には、この番組を再

編集して、海外のCATVで放送し、好評を得ています。海外から、当社と提携を

結びたいという申込みもありました。

◆不満を感じているお客様の意見を確認 長 尾:サマンサジャパンさんは、サービス

業ながら随所にモノづくりの発想

を取り込み、新商品や新技術を創り

あげておられます。小野会長は工学

部のご出身ですので、アイデアが非

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常に奇抜ですね。

小 野:効率化したり付加価値を高めたりし

ようと思っても、モノづくりの発想

がなければ実現できません。

異業種での取り組みが案外参考になることが多いのも、そのためでしょう。私は、

効率化と高付加価値化は同時に進めるべきだと思っています。

当社にとって、お客様は 2種類あります。一つは、当社が直接契約しているお客

様で、もう一つは当社が清掃などを請け負っている施設を利用されるお客様です。

ご利用くださるお客様に、ご契約先のお客様の大ファンになっていただくことが重

要です。これを実現するために、付加価値を高めながら効率化を進めることを行わ

なければなりません。

当社は、病院から 15 種類の業務を受

託できます。そして、その一つ一つの

業務を、高付加価値な方法で実施して

います。

受注事業である清掃業務は、単価も

仕事の数量も、お客様に決定権があり

ます。お客様から要請があれば、こち

らの意見は何一つ通りません。私は、

経営理念を実現するために「価格か数

量のどちらかだけでも、当社の意見を

通したい」と考えていました。

そこで当社では、価格面で当社の意見が反映させられるだけの高い付加価値をつ

けるために、パート社員の教育にも力を注ぎました。その結果、お客様が現場で働

くパート社員の後ろ姿をご覧になり、そのお客様から当社にご指名をいただくよう

になりました。今では、そのご指名を受けて、当社の営業マンが動いています。つ

まり、パート社員の頑張りが最初にあって、その後ろに営業マンが続いているので

す。

◆経営者が社員一人一人と几帳面に向き合う 長 尾:ティ・エス・エス・プロダクションさんでは、仕事の中味がアナログ的なものであ

るにもかかわらず、最近ではIT化により効率化を図られているとのことですが、

どのような点を特に工夫していますか。

山 中:番組づくりで質を追求すると、きりがありません。「コスト意識を持ちなさい」と社

員に指示する時は、現場とどのような形で向き合うかが大切になります。私も、30

年間、現場で映像づくりに励んできました。その経験があるからこそ、社員の気持

ちが良く分かりますし、社員も私の指示を受け入れてくれるのだと思います。冷た

く指示するとモチベーションが下がります。社員と几帳面に向き合うことが大切で

す。

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◆全てを「視える化」することが出来ていない 中 山:皆様から現場でのお取

り組みについてご紹

介いただきましたが、

ここからは業界全体

の視点でお伺いした

いと思います。 サービス産業全体

で生産性向上に取り

組むうえで、何が問題

であり、それを解決す

るためにどのように

すればよいかについ

て、ご意見を頂戴した

いと思います。 井手下先生は、どのようにお考えでしょうか?

井手下:私どもは、全てを「視える化」しようと取り組んでいます。社員と情報を共有して、

社員が当クリニックのことを全て理解できるようにしています。 「視える化」を進める際には、「視せる」ことも大切です。計画を数字でたててい

きます。その際、あいまいな表現は避け、「みんなで頑張りましょう」などの表現は

避けることが必要です。 作業を標準化したり、ルール化した

りして、それをもとにカイゼン活動を

積み上げていきます。 私は社員が書いている書類に全て

目を通して、返事を書いています。企

業のトップが社員一人一人をつぶさ

に見て指導していくことが大切です。

特に、中小企業では、経営トップがし

っかりと社員を見て指導することが

重要です。

≪サービス産業全体への生産性向上運動の拡大について≫

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◆サービスは「おまけ」という先入観がある 武 田:サービス業は、「おまけ」とか「無料」という先入観が多いことも、この業界の課題

の一つでしょう。そこで、当社では「サービスはビジネスだ」という意識を強く社

員が持つようにしています。そのような意識改革を、行政がしっかりとPRしても

らえると有り難いと思います。製造業は景気の波が大きく、業界全体が低迷すると、

大きな社会問題になることもあります。しかし、サービス産業は製造業よりは景気

の波が小さいという特徴がありますので、サービス産業が成長すれば景気も安定し

やすくなるでしょう。日本の経済全体も活気づくのではないでしょうか。 ◆生産性向上を支援できる専門家が少ない 武 田:当社でも、生産性向上をはじめとして経営の見直しをいろいろと進めていますが、

専門家に相談しようとしても、本当に当社が求める答えを提供してくれる人が非常

に少ないのが実態です。 以前、社内組織をフラット化したいと思っていた時、その進め方を指導してくれ

る専門家が見つかりませんでした。 また、社員の評価方法について検

討していた時には、職種毎の評価方

法と職種間の評価方法をどのよう

に整合させるかという問題につい

ても、明確な答えを出してくれる専

門家が見つかりませんでした。 こちらが求めているアドバイス

を明確に提供してくれる専門家を

見つけやすい仕組みが出来ると、非

常に利用しやすくなると思います。 ◆社内での人材育成に長い年月がかかる 小 野:当社では、経営計画書を策定する際に、経営理念を明確にすることを重視していま

す。この取り組みは 30 年間以上続けています。経営計画書が出来上がると、私は全

社を 40 カ所以上に分けてパート社員の一人ひとりまでも集め、経営上の全て数値を

全従業員に見てもらいながら、経営理念について話をして回ります。何のために経

営をしているのか、その目的を実現するために会社全体をどの方向へ舵取りしてい

くのかということを、社員一人ひとりに理解してもらっています。私は、新入社員

を採用する際にも、全ての新入社員の家庭を訪問し、ご家族も含めて私の考え方を

理解していただいています。経営理念を理解してもらうことは、経営の核になるも

のを共有することです。これを文字に置き換えたものが経営計画書なのです。

当社では、経営計画書の目標を達成するために、お客様にアンケートをお願いし

ています。そこでは、当社のサービスについて「大満足」、「満足」、「普通」、「やや

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不満」、「不満」という選択肢を選んでいただきます。その回答が「普通」以下だっ

たお客様については、社員が訪問して満足してもらえなかった理由を聞いています。

そこで浮かび上がった課題に対して、サマンサジャパン流のQC活動、当社ではS

QCと呼んでいるのですが、このSQCを通じてパート社員と一緒に解決策を考え

ています。そして、その解決策の内容とそれが本当に実行されているかどうかを、

本社がチェックしています。毎年の小さな変化が 10 年後に会社を大きく変化させま

す。

しかし問題は、一緒になって解決策を考えてくれる社員を育成することに、相当

な時間がかかることです。気の長い話になりますが、そのために当社では「親孝行」

の大切さを社員に話すことから始めています。自分の存在の原点である親に対する

感謝の気持ちを持てないと、全ての行動が単なる打算になってしまいます。

このような取り組みを積み重ねることで、サービスは「おまけ」とか「無料」で

はなく「付加価値」になるのです。そして、その付加価値をたくさん生み出してい

くことが、ブランドにつながるのです。「売り物」の働きを高め続けることです。

当社では普通の人が親孝行から学びはじめて、人生どう生きるべきかを学び、徐々

に優秀な人材になっていくような社員教育の進め方をしています。

◆“壁”を超えるためには新しいビジネスモデルへの挑戦が不可欠 山 中:メディア業界では、放送外収入を拡大するため、一度放送したコンテンツをWeb

などで 2次利用する動きが本格化しつつあります。しかし、地方の放送局が独自に

作成したコンテンツは、Webで放送してもなかなか見てもらえません。このよう

に地方局のコンテンツの 2次利用には大きな壁がありますが、この壁を何とかして

突破することが必要です。

その方向性の一つとして、当社では

ジャパン・イン・モーションで放送し

た動画を、海外のCATVで 2次利用

してもらう新たなビジネスモデルを開

拓しています。

通常の 2 次利用は、テレビで放送し

たコンテンツをWebやCATVで 2

次利用する形態ですが、当社ではWe

bで放送したものをCATVで 2次利

用する形態に取り組んでいます。

今後、Webの動画が進化するなかで、当社のビジネスモデルは拡大するのでは

ないかと期待しています。

このような方向性のもとで、地方の番組制作会社でありながら、海外の市場開拓

を目指していきたいと思っています。

◆サービス産業生産性向上運動とその3つの柱

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長 尾:貴重なご意見をいただき、有り難うございました。サービス産業の生産性向上を進

めるにあたり、大いに参考になりました。

中国経済産業局では、「サービス産業生産性向上運動」を今年度から本格的に展開

していきます。この「運動」に沿って、先ずはサービス産業全体で生産性向上に取

り組んでいこうとする「きっかけ」を作っていきたいと考えています。本日皆様か

らいただいたご意見を踏まえ、この座談会の機運を中国地域全体に浸透させていき

たいと思います。

この運動が中国地域のサービス産

業の成長につながり、ひいては内需

拡大に寄与するように取り組んで

いきたいと考えています。

皆様のご意見を伺っていますと、

情報の共有による「視える化」、付

加価値の高い新しいビジネスモデ

ルの創出、専門家人材の育成などと

いったキーワードがありました。

これらのキーワードは、「サービス産業生産性向上運動」の 3本柱にも深く関わっ

ているように思います。3本柱とは、情報を発信して共有する「普及啓発」、生産性

向上のモデル事例を生み出していく「トライアル」、専門家人材を育成してフェイス

to フェイスの交流を図る「人材・つながり」の 3つです。この運動を展開するなか

で、本日皆様から伺ったご意見についてもお応えできるように取り組んでいきたい

と思います。先ずは、この運動のためのネットワークづくりを早急に進めたいと考

えています。

この座談会だけでなく、今後も、皆様から「こんな考え方もあるよ」というご意

見をいただきながら、一緒になって運動を推進したいと思います。

本日は、大変参考になる貴重なお話をご披露いただき、本当に有難うございまし

た。今後も、ご理解・ご協力のほど、宜しくお願いいたします。

中 山:有難うございました。本日は、サービス産業の生産性向上において中国地域を代表

する皆様にお集まりいただき、大変熱心な意見交換をしていただくことができまし

た。当局では、皆様と一緒に、中国地域のサービス産業の生産性向上について取り

組んでいきたいと思います。皆様は、私どもや中国地域の方々にとって、素晴らし

い先生のような存在だと思いますので、これからも宜しくお願いいたします。

本日は、有難うございました。

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サービス産業生産性向上セミナー

独立行政法人産業技術総合研究所 次長 内藤耕氏

『現場カイゼンで顧客満足度向上!』

日時:平成 21 年 10 月 15 日(木) 14:45~15:35

場所:ひろしまハイビル 21 (広島市中区銀山町 3-1)

1.はじめに

産業技術総合研究所の内藤と申します。本日は宜しくお願いします。本日は、「サービス産業

の生産性向上とは何なのか?」というあたりから、お話を進めていきたいと思います。 さて、皆様の机の上に、生産性本部のパンフ

レットが置いてあります。そこには、日本生産

性本部が生産性向上運動を展開していることが

紹介されており、生産性向上の成果が労使の間

で公正に分配されるべきであることが示されて

います。つまり、生産性を向上すると、会社の

経営基盤が強化されるだけでなく、従業員満足

も向上するわけです。さらに言えば、従業員満

足の向上は顧客満足にもつながっていきます。

このような話を今日これからしていきます。 ここに本日のタイトルが映し出されていますが、「現場カイゼン」、「顧客満足度向上」、「経験と

勘」、「科学的・工学的手法」など、方向性が違うような言葉が羅列されています。本日のお話を

聞いていただくなかで、最終的にこれらの言葉が一つの方向を指し示していることをご理解いた

だけるようになるものと考えています。 政府が策定した経済成長戦略のなかで、今後は製造業の競争力を強化するだけではなく、GD

Pの約7割を占めるようになったサービス産業の競争力も高めていくことが必要であるとの方向

性が示されました。自動車産業は、本来は製造業ですが、その販売や修理はサービスです。エレ

ベーターも、その装置をつくることは製造業ですが、メンテナンスはサービスです。このように、

製造業とサービス業が密接に絡み合っていますので、両方の生産性を高めていくことが、これか

らの持続的な成長を実現するうえで非常に重要です。 2.サービス業の研究における問題意識と考え方

サービス産業の生産性を式で表現すると、分母に「効率の向上」、分子に「付加価値の向上・新

規ビジネスの創出」がくることを経済産業省の報告書は提案しています。製造業では、分子が固

定されていますので、分母について取り組めば良いことになります。しかし、サービス産業では、

分子を追及すると分母に手をかけなければなりません。一方、分母を追求すると、分子にあたる

顧客満足度が低下してしまいます。このように、分母と分子が二律背反にあるとこれまで多くの

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サービス産業で働く人々によって信じられてきました。 この二律背反というテーマについては、私は、サービス産業の研究に携わるようになった当初

から強い関心を持っていましたが、じっくりと考える時間が実は当時ありませんでした。私自身

は、一人の客としてスーパーマーケット等でのサービスを利用しています。しかし、そのような

企業の舞台裏で何が行われているのか、実は全く知りませんでした。そういった日頃からの興味

もありましたし、何よりも、現場へ行くことが大好きでしたので、サービス産業の生産性向上に

ついて研究をするようになってからは、先ずは現場に足を運ぶようにしました。 しかし、最初のうちは、「サービス産業の生産性向上とは何か?」という問題に対して、明確な

答えを持っていませんでした。それ以前に、先ず、何処へ話しを聞きに行けば、サービス産業の

生産性向上というテーマについて、しっかりとした考えを持つことができるのかすら、わかりま

せんでした。そこで、先ずは「継続的に良いサービスを提供することが、将来的には高い生産性

を実現することにつながるだろう」と考えて、とりあえず評判の良い企業を訪問することにしま

した。評判の良い企業の現場を見て、私自身の仮説と適合しているかどうかを確かめることにし

たのです。最初の頃に訪問した企業としては、旅館の加賀屋などがありました。そして、旅館な

ら泊まってみる、レストランなら食べてみる、そういったところから始めました。このように、

経験と分析を繰り返してみました。 3.和倉温泉加賀屋

加賀屋は、プロが選ぶ旅館で 29 年間にわたって第1位の座を守っています。サービス産業生産性協議会のハイ・サービス日本 300選にも選出されました。ホテルや旅館では、お風呂や料理など重視すべきサービスはたくさんありますが、加賀屋では「おもてなし」を提供することを重

視しています。仲居たちがお客様をおもてなしするには、お客様を理解することが必要です。し

かし、同じ旅行でも、会社の仕事で宿泊する場合と家族で宿泊する場合では、そのニーズは違う

はずです。 そこで、加賀屋では、お客様にフロントで鍵を渡す場面から、お客様のニーズや情報を集める

作業が始まります。加賀屋では、おもてなしはそもそも宿泊客に提供するサービスであるだけで

なく、実はお客様の情報を集めるためのツールでもあるのです。このことから、加賀屋では、接

客時間をいかに長く確保するかというところを重視しています。お客様に対して価値を提供する

うえで、接客時間が重要だということです。接客時間を確保するほど、顧客満足度が高まるだけ

でなく、そのニーズの理解を通じてお客様に的確なサービスを提供できるようになります。 その結果、料理を部屋に機械で運ぶための自動搬送システムを導入するといった手法が導入さ

れたのです。また、子どもを養っている仲居が仕事に集中できるように、旅館に子どもを預かる

施設もつくりました。このようなことは、テレビでもよく放送されていますので、多くの人も既

にご存知と思います。 加賀屋が作り上げた素晴らしい仕組みはこれだけではありません。 例えば、お客様の子どもが卵アレルギーだったことに、仲居が気付いた場面を想像して下さい。

その仲居は、今お出ししたばかりの茶碗蒸しに卵が入っているので、これを下げて、別の料理を

お出ししたいと考えるでしょう。 ところが、その仲居がまだ入社したばかりの若い人だったら、どうなるでしょう。仲居は、別

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の料理をつくってもらうため、調理場に電話で連絡します。しかし、調理場の従業員が、入社し

たての仲居の意見を、そのまま受け入れてくれるとは限りません。調理場では、次々に新しい料

理をつくっている最中で、その動きをとめることは容易ではありません。 しかし、調理場に連絡した人が、旅館の女将だ

ったら、話は別です。女将の意見は即座に受け入

れられ、茶碗蒸しに代わる料理がすぐに出てくる

ことは容易に想像できます。 これをお客様の立場からみてみると、大きな問

題です。つまり、同じお金を払っているのに、お

願いした人が若い仲居である場合と、女将である

場合とで、旅館が提供するサービスの品質が違う

ことになるためです。 こうした品質のムラをなくすため、加賀屋では、

現場の担当者が収集した様々な情報をフロント

にとりあえず集約し、そこから関係する部署等へ

指示を出しています。 つまり、仲居からの個人的なお願いとしてではなく、フロントからの組織的な業務として指示

をしているのです。これなら、若い仲居の意見も通りますし、サービス品質の平準化できます。 5.生産性向上の方法

生産性向上の方法は様々で、こうすれば良いという決まった答えはまだ見つかっていません。

例えば、情報共有のやり方を工夫するとか、ニーズ分析を行うとか、いろいろです。会社の規模

によっても、取り組み方は違ってきます。多店舗展開していればIT化が適しています。私は常々、

「一店舗なら記憶力を高めましょう。二店舗ならメモ用紙と鉛筆を用意しましょう。十店舗なら

パソコンを使ってみましょう。50店舗になってはじめてIT化を検討しましょう」とお話しています。つまり、生産性向上イコールIT化ではありません。整理整頓を徹底するだけでも生産性

が上がった企業もたくさんあります。 生産性向上の代表的な方法を幾つかご紹介します。先ず、情報共有についてお話します。阿寒

グランドホテルでは、館内に設置したカメラシステムと携帯電話で作業現場の状況や従業員が抱

えている問題点を把握しています。このようにして集めた情報を、コントロールルームという部

署で集約し、旅館全体で共有化しています。 情報共有化に続いて、ニーズ・作業分析についてお話します。あるアパレルショップでは、接

客を通じてお客様のニーズを把握しています。来店客には可能であれば前回購入した商品の感想

を聞き、常に一人ひとりのお客様に合った商品を提案できるようにしてます。こうして、固定客

を増やしているのです。 このように社内の何かを変えて生産性向上に取り組むのですが、その場合、どの指標の改善に

取り組むのかを決める必要があります。そして、それを評価していくことが必要です。通常の経

営者は、改善すべき指標として、売上高や利益をあげます。しかし、ある回転寿司チェーンでは

廃棄率に注目しています。加賀屋はそれが接客時間です。あるスーパーでは、社員の改善提案件

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数を重視しています。一般のスーパーで働くパート社員は、地元の主婦が多いからです。通常の

お客様は不満に思っていることをなかなか話してくれません。しかし、パート社員には、本音を

聞くことができます。だからこそ、パート社員の改善提案を実行すれば、顧客満足が高まるので

す。 経営者が社員と経営理念を共有化することも大切です。私がこれまで訪問してきたすごいサー

ビス企業の経営者は、まず経営理念の説明から話を始めます。2 時間の面談をする場合は、そのうち多くの時間は理念のお話です。理念が明確であれば、従業員は自分達が何をすべきかが分か

るのです。そして、どのような人をお客様と考えればよいかも分かってきます。 6.株式会社スーパーホテル

スーパーホテルは、工業地帯のホテルとして出張ビジネスマンを顧客ターゲットに位置づけて

います。客層を明確化し、それによって自分達が提供すべきサービスも絞り込み、特化している

のです。このホテルでは、お客様に提供する価値として、「ぐっすり眠れる」ことを掲げています。

例えば、部屋のベッドは、低反発素材を使うなど、素材や品質にこだわっています。一方、眠り

に影響しないベッドの脚をなくし、ベッドの購入価格を下げています。脚のないベッドは床に直

置きになっていますので、ベッドの下を掃除する手間が省けていますし、ベッドの下にはじゅう

たんも敷いていませんので、じゅうたんの購入価格も下げることができます。さらに、脚がない

ため、ベッドが低くなり、ベッドに横たわったときに天井が高く感じ、顧客満足も高まります。 また、スーパーホテルでは温泉大浴場を設置し始めています。出張ビジネスマンにとって、温泉

大浴場がありますと、満足度が高まります。しかも、部屋のフロには入りませんので、ホテル全

体としてのお湯の使用量が少なくなります。部屋のフロの掃除も楽になります。部屋の掃除にか

かるコストを一室当たり下げることができれば、年間で一体いくらのコスト削減になるでしょう

か。このように、大浴場を設置することで、顧客満足とランニングコストの両方を改善すること

に成功しています。 7.市場料理賀露幸

プロセスの変革も、生産性向上にとって有効です。 鳥取市に賀露幸という海鮮レストランがあります。親会社は地元のメーカーです。開店当初、

最も来店客数が多い五月の連休には 300人程度しか対応できなかっただけでなく、店外には長い行列ができてしまいました。そこで、同社は、親会社のメーカー的な発想のもとで、従業員の導

線などをしっかりと分析したうえで、厨房のレイアウトを変更しました。このように厨房の調理

効率を高めた結果、二年後の五月の連休の来店客数を 1,000人以上まで増やすことに成功しました。それまでは、対応できる客数の上限が厨房の非効率によって頭打ちになっいましたので、そ

こを改善したのです。このように、ほとんどお金をかけないで、このレストランは生産性の向上

を実現したのです。つまり、親会社が持っていた製造業のノウハウを活用した点が注目されます。 8.品質とは

ここで、科学的・工学的な生産性向上の効果についてまとめておきましょう。 その効果としては、サービス品質のムラを解消し、顧客の満足やロイヤリティが向上します。

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また、サービス提供のムリが減り、従業員満足が向上します。現場作業のムダを無くし、効率的

な事業運営が実現できます。現場作業の見える化で、事業の多店舗展開や高付加価値化が実現し

ます。顧客のニーズを理解し、新ビジネス創出が可能になります。市場環境の変化に柔軟に対応

でき、経営基盤が強化されます。 ここで大切なことは、品質と効率の両方を追求して、顧客満足を高める仕組みをつくっていく

ことです。顧客満足だけ追求する会社は多いのですが、効率化も同時に追求しなければなりませ

ん。サービス精神が旺盛なサービス企業が多いので、あれもこれも取り組もうとしますが、現場

がついていけません。品質と効率の両方を実現できる仕組みが無ければ、安定収益を達成できま

せん。このような仕組みをしっかりとつくりあげ、従業員満足の向上を通じて、顧客満足も高め

ていくことが、サービス産業の生産性向上では必要なのです。 以上で私のお話を終わらせていただきます。ご静聴有難うございました。

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サービス産業生産性向上セミナー

株式会社一の湯 代表取締役社長 小川晴也氏

『人時生産性の考え方』

日時:平成 21 年 10 月 15 日(木) 14:30~17:05

場所:ひろしまハイビル 21 (広島市中区銀山町 3-1)

1.はじめに

一の湯の小川でございます。

当社は、経済産業省のハイ・サービス日本 300

選の 100 数番目に選ばれました。

旅館は創業から 379 年目で、私で 15 代目にな

ります。

一の湯は湯宿で街道沿いではないのですが、

江戸時代に湯治から湯宿のスタイルに変わって

いった旅館です。色々歴史があります。例えば

そのころ湯治は1つ温泉に7日泊まってこれを

一めぐり、箱根には7つ温泉があり、そのうち

の3つをめぐる三めぐり湯治が標準でありまし

た。 ところがある時から一夜湯治が箱根で始まりました。湯治は7日間ですが宿場は一夜です。そ

の真似をして、湯治でありながら、一夜湯治を初めました。そのため、小田原の宿場が、「客をと

られる」と文句を言ってきたそうです。かなり大きな騒ぎになったようです。 当時の小田原は大久保さんでしたが、大久保さんではうまくいかなかったので、江戸幕府まで

行って裁定をもらったそうです。こうして、箱根の一夜湯治を許してもらったという出来事が、

箱根の一夜湯治の始まりです。 2.生産性向上に取り組んだきっかけ

ここからは、人時生産性(=粗利益÷のべ労働時間(従業員数×労働時間))を上げるに行き着

くまでの話をしたいと思います。

私は、大学卒業後、会社勤めをしておりました。

昭和 53 年に家業へ戻ってまいりました。昭和 48 年にオイルショックがあり、昭和 50 年頃から

景気が良くなり、どの旅館も大きな投資を始めている頃家業へ戻ってまいりました。どこの旅館

も増築、新築の投資をしていた時期で、一の湯も2軒ありました。

先代の時、全額借入れの投資をしてフランス料理を出す洋室ばかりのホテルを1棟建てました。

本館は良かったのですが2棟目が重荷になり、3 年で 1 億円位の赤字になりました。その後、私

が経営を引継ぎました。

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当時の旅館業界といいますと、経営者は経営状況を良くしたいと考えていましたが、現場の士

気はなかなか上がらないという状況でした。このため、お客様に気の利いたサービスはできませ

んでした。 それでも景気の良い時代だったので、お客さまが来てくださいました。のんびりしていても良

かった時代でもありましたが、やがて時代が変わり、経営改善を始めないといけなくなりました。 当時、当社は3年連続で赤字に陥っていましたので、何とか厳しい状況を脱却しなければと思

っていましたが、何をどうすれば良いのかまったく分かりませんでした。業界内の他の会社が実

施している改善策はほぼ全て試みましたし、多くの経営コンサルタントにもお会いして経営指導

を受けました。委託経営に近いこともしてみました。経営コンサルタントは見て分かる範囲は教

えて下さるのですが、本当に抱えている問題は教えてくださらなかったので、経営は良くなりま

せんでした。 ある時、旅館経営をしている友達が、全く領域の違うスーパーマーケットを指導している先生

の所へ行くというので同行し、話を聞きました。

当時、私はその先生の名前も知らなかったのですが、日本リティリングセンターペガサスクラ

ブの渥美俊一先生でした。お会いしてみると、倉本長治先生がはじめられた毎年 2000 人規模の商

業界ゼミナール(実は商業界ゼミナールの昭和 33 年の第 1回目が、一の湯で開催されていたので

す。)の創世記の時代から箱根や弊一の湯のことはよくご存じの先生でした。

先生の所へ赤字の決算書を3期分持って行きましたところ、「こんな経営が悪いところからコン

サルタント料を貰えない。コーヒー代だけ払ってくれれば良いから、そこで黙って私の話を聞い

ていろ」と言われ、コーヒー代だけで 30 分指導を受けました。

話しを聞いていますと、「貴方の財産は全部で幾らですか」と聞かれましたが、即答できません

でしたので、しばらく時間をかけて調べて、後日先生にご連絡しました。すると、当時定期預金

の金利が8%でしたので、「会社と家の財産を全て売り、定期預金に預けたほうが良い」と言われ

ました。当時、私の会社の利益は赤字で、定期預金で得られる利息の方がはるかに大きいので、

なまじ働くより預ける方が社会貢献になると言われました。

その話を最初に伺った時は本当にショックで、先生の仰っている意味が分かりませんでした。

しかし、何度も先生の仰っていることを考えているうちに、先生が ROI(=利益÷投資額×100)

の考え方を教えて下さっていることに気が付きました。

その時、私は初めて目が覚めました。

私は ROI という言葉も知らなかったのですが、先生に何%にすれば良いのか聞きましたところ、

「20%は必要だ」とのことでした。それまでは漠然とありとあらゆるものが目、耳に入ってきて

何から手をつけてよいか分かりませんでした。

また、「従業員本人とその家族の一生を面倒見て、財産形成するくらいでないと、経営者の資格

はない」と言われました。現在、年金や健保の問題がクローズアップされていますが、国に頼っ

ていては駄目で、それを自分の会社で賄うくらいでなければいけません。そういう考え方もある

のだと、私は心を入れ替えました。それからは、ROI を 20%にしようと、目標がはっきり決まり

ました。

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3.ROIと人時生産性

ROI を高める方法としては、一般的には、売上高を拡大することが思い浮かびます。売上高を

拡大するためには、店舗数を増やすことなどが必要で、その設備資金もかかります。

しかし、当時は、借入金がかなり多かったため、増資も投資もできませんでした。人材育成も

時間がかかるので直ぐにできません。まず初めは0円で出来ることから始めないといけない状態

でした。

そこで、日々のマネジメントから手をつけていきました。

最初に、マネジメントの重要なポイントである人時生産性を計算してみることにしました。当

時、すかいらーくの人時生産性が 3,500 円という噂を聞きましたので、一の湯でも人時生産性を

計算してみようという事になりました。

まず1カ月を 10 日ずつに区切り、分母の全従業員の総労働時間を計算しました。人時生産性の

計算では、分子は粗利益高(=売上高-仕入高)に当たります。売上はレジで打ち出しすればす

ぐに分かりました。一方、仕入高を出すことが難しいのです。納品書がないものもありましたし、

納品書があっても、数量だけで単価がないものもありました。品名も、業界用語で書いてありま

すと理解出来ません。例えば、八百屋の納品書に書いてある「ラレシ」。これは赤カブなどのラデ

ィッシュのことです。仕入れが月締めなので日々どれだけ仕入れているか、10 日間の仕入れがど

れだけなのか分からなかったのです。

ちなみに粗利益率を出すと旅館だったら粗利益率は 82%、小売業は 25%、ディスカウントショ

ップは 16%です。

当社の人時生産性を計算した結果、1,700 円くらいでした。少ないと思いましたが、どれだけ

少ないか実感が湧きませんでした。当時、当社のパートの時給は 1,000 円でした。交通費や、昼

食代などもかかりますので、それらも含めると 1,500 円になります。1,700 円を稼いでも 200 円

しか残りません。10%強しか残っていません。残りは経費等で支払いますので、黒字になるはず

がありません。

しかし、すかいらーくのように 3,500 円の人時生産性が出せれば、人件費として 1,000 円を支

払っても、2,500 円ほど残ります。これならば、十分に利益が確保できるのです。その時はじめ

て、スカイラークの 3,500 円という人時生産性が理想的な数であることに気がつきました。料理

のおいしさやサービスなどでは、すかいらーくに決して負けていないという自信がありましたの

で、益々悔しかったです。

余談なのですが、1カ月を 10 日ごとに区切ると、日曜日が 2回入るものと 1回しか入らないも

のがみられるため、数値がバラつきます。人間の行動パターンは曜日で決まっております。人は

計画を立てる時、「○月○日に何をするか」というより、むしろ「月曜日に何をするか」と決める

ものです。そこで、人時生産性の集計も、7日単位で行うことにしました。

毎週月曜日の朝に、週間コントロール会議を始めることにし、人時生産性の改善に取り組みま

した。人時生産性の分子を大きくするか、分母を小さくするかという2つの方法があるのですが、

分子の粗利益を大きくするために売上高を増やそうとすると、売り場を広げなければなりません。

人時生産性を 1,700 円から 3,500 円に高めようとすると、単純計算すれば、店の広さを 2 倍以上

に拡張しなければなりません。それには5~6億円の投資が必要です。

そこで分母を半分にすることにしました。従業員を減らせば分母が小さくなります。従業員を

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解雇するのは、現場の上司には難しいことです。そこで、労働時間を短縮し、その成果として、

「来週までに 1,100 時間を 1,095 時間にする」というような目標を、週間コントロール会議で立

てて、継続することにしました。最初はマニュアル、稼動計画表があるわけでもないので、とに

かく各部門のリーダーが「夕方早く帰りなさい」と言っておりました。最初のうちは、その程度

の取り組みでも、かなりの成果が出ました。

勤務時間を記録するレコーダーは、ユニフォ

ームに着替えた後に打刻するといった工夫を積

み重ねたほか、社員同士で自発的に相互にチェ

ックすることにも取り組みますと、勤務時間の

短縮が徐々に進んでいきました。

次週は少しでも早く帰ろうという統一目標が

できてきました。

その取り組み状況を確認するうえで、人時生

産性の数値は、良い道具として機能しました。

毎週、全員で人時生産性の数値がどのように変

化したかを確認するのです。

人は、数値が良い方へ変化することが好きなので、労働時間を短縮しようとする努力が次第に

根付いていきました。ただ、数値だけを良くするのではなく、そこに全員が納得できる理屈も必

要です。

人時生産性に似た指標として、労働分配率というものがあります。この指標は、労務費を粗利

益額で割った値です。労務費の内訳には、賞与、給与、残業代、保険料、弁当代、交通費、求人

広告費、訓練費などが含まれています。健全な経営を行うためには、この労働分配率を 37%以下

に抑えることが理想的です。37%ならば、その会社は黒字になるでしょう。

会社全体としての人時生産性は、5,000 円あれば十分です。この場合は、1人あたり1年間 2,000

時間働きますから、1 人当たりの粗利益額が 1,000 万円/年間になるからです。当時、全国の給

与所得者の平均年収は 500 万円でした。一方、一の湯の平均年収は、神奈川県の「下の中」に相

当する 260 万円でした。「中の下」が年収 300 万円でしたので、目標とする給与モデルを年収 300

万円としました。人時生産性を 5,000 円/時間にして、平均年収も 300 万円にするというという

2つの共通目標を作りました。その2つを従業員に説明し、理解してもらいました。

4.具体的な取り組み

ある程度生産性が向上してくると、早く帰るだけでは生産性を上げることが限界に達してきま

したので、仕事のやり方を変えることになりました。どの作業をなくすかについて、具体的に考

えました。結果的には、「無駄なことはしない、無理なことはさせない」ということなのですが、

今働いている人は自分たちがやっている仕事が正しいと思っているので、「自分の仕事に無駄はな

い」と信じています。 まず初めは準備や片付け等を徹底的に削りました。お客様から見えない場所で合理的に行動す

るのは簡単です。それ以上削る所がなくなったらお客様がいる時のサービスを削っていきました。

商品として命取りになる可能性があるので、お客様がいる所で削るのは最後にしました。

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従来あったサービスをこちら側の都合で削ると、作業時間、原価は減りますが、他のサービス

を付けないとクレームになります。削ぎ落とすだけではなく、何か価値を付けないといけません。

その価値をどのように提供するかが一工夫だと思います。 例えば、お茶、お菓子を仲居係がお出して、いらっしゃいませと言う作業を辞めようと思いま

した。これは絶対に昔、旅館ではやっていたサービスです。「お茶は煎茶、玄米茶、番茶等3~4

種類用意し、ご自由にご利用くださいと書いたら大丈夫ではないか」と言う従業員がいましたの

で、実際に試したところ、苦情はありませんでした。 お付き菓子も、「塩こぶや甘いお菓子を3~4種類出した方が、サービスの価値が上がる」とい

う従業員がいました。これも成功しました。手を抜いた分の作業は準備段階の掃除係がすれば良

いので着物を着た仲居係は必要ありません。手を抜いた代わりに、お客様に選択の自由を提供し

ました。時間を短縮するために出てきたこの知恵は、結果的に良い知恵となりました。 もう一つは、冷蔵庫内の飲料などの販売を辞めました。それまでは仲居係が毎朝客室の冷蔵庫

をチェックしておりました。一の湯以外の大部分の旅館は、費用が高かったのですが、自動的に

販売数を把握できるシステム冷蔵庫にしました。システム冷蔵庫の飲み物は、通常値段が高いた

め、あまり売れません。このため、これらの飲み物の多くは、賞味期限が切れてしまいます。ま

た、システム冷蔵庫の中にある飲み物の賞味期限の確認に、かなりの手間がかかるという問題も

ありました。こんなことを見聞きしていましたので、当社では冷蔵庫をなくしました。当時、高

級な旅館ではミニバーを充実させて収益を稼ぎ出すという考えが、業界で浸透しておりましたが、

このような室内サービスは弊一の湯の場合は閉鎖しても問題は全く無かったのです。 5.さいごに

その頃は、私は、効率化したい会社が、それぞれ効率化していけば良いという考えでした。し

かし、最近では、効率化は業種を超えて皆でやらなければならないと思うようになりました。日

本の製造業が今日のように効率化を進めて発展してきたことを考えますと、サービス産業も業界

全体で効率化を図った方が良いと思っております。効率化をすると、思ってもみなかったことが

発見できます。社長自ら掃除をするなど、実際やってみると分かることが多いのです。

現在は、人時生産性だけで良いのかという段階に達してきております。現在、会社レベルでは

5,000 円/時間がキープできるようになってきましたので、次に、品質が問題になってきました。

総労働時間をキープしながらいかに利益を出そうという時期に来ています。それには工夫が必要

です。

工夫を生み出すには、工夫を生み出す担い手が必要です。実践経験(60%)、理論(30%)、モ

チベーション(10%)というバランスの取れたやる気がある担い手です。労働時間をキープして

品質を良くする知恵を出す担い手です。

そういう人間や知恵を、社外ではなく社内で見つけたいと思っています。その仕事は、新卒で

採用しても、50 歳になって初めて出来るようになります。このように考えて参りますと、「30 年

人材育成計画」を立てなければいけなくなります。実際、1985 年、私が最初のショックを受けた

時から 25 年経っております。

経営にまつわることを 3つに分けなさいと聞いたことがあります。

一つ目は、社長が決定する事です。資本と人材のことは、30 年とか 60 年といった長い期間に

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わたって、あまり変えないで続けるのです。

二つ目は、経営戦略です。時流に沿って変えて、利益を出していかなければいけないのです。

例えば自転車からモーターバイクへ、自動車から新幹線へと変わってきたように、流行廃りはあ

るものです。旅館も少し前は4~5人用の部屋でしたが、今は5人用の部屋に2人しか入ってお

りません。昭和 60 年代に建てた旅館はこの問題に直面しております。経営は時流によってスタイ

ルを変えていかないといけません。

最後に戦術です。儲かる手段、つまりコストカットのみを担当します。これは技術が必要なこ

とです。これを担当する人を3つに分けて経営しなさいという話でした。まだ実現できておりま

せん。実現するためにまだまだ現役でやっていきたいと思っております。

これからもよろしくお願いします。

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サービス生産性向上セミナー

サンイン技術コンサルタント株式会社 代表取締役社長 大野木 昭夫 氏

『見える化で勝ち抜く』

日時:平成21年11月4日(火) 15:45~16:45

場所:島根県民会館 (松江市殿町158)

1.わが社の経営理念

わが社の企業理念ですが、

一、私たちの人間力・技術力が、会社のブランドです。

私たちの成長が、会社を発展させます。

一、私たちは、お客様の立場に立って行動します。お客

様の満足が、私たちの満足です。

一、私たちは、積極的に自意識と能力の向上に努めます。

私たちの熱意が、会社を動かします。

の3つを掲げています。

もうひとつ、会社のあるべき姿として、“一燈照隅”を

考えています。東洋思想家の安岡 正篤氏の一日一言とい

う本にでてくる言葉で、非常にいい言葉であることから、

掲げています。一人一人がその場所で輝けるような会社

作りを目指しています。

2.業務の課題

それでは、まずはこれまでの業務の課題ということをお話しようと思います。業務の特徴からお話

しますと、我々の業務は、時系列で見ると、計画→測量→調査→設計という流れで行っていきます。

そして、ひとつひとつの業務を技術者が分担して行っていることが大きな特徴です。もうひとつは、

技術者が行うので技術力が全てであるという点が業務の大きな特徴になっています。こうした中、平

成 16 年に私が社長に就任した時に一番感じたことは、非常に組織が硬直化しているということでし

た。技術者というのは自分の技術が最高だと自己満足しており、人のことや周囲に目が向いていませ

んでした。

作業手順のなかで課題をみていくと、まず部門間では前後の工程を把握していないため設計段階で

測量、調査の手戻りが発生しており、さらに部門の中では技術者に依存していて社内工期が標準化さ

れていないため、担当者まかせで途中経過が見えていませんでした。自己責任であるため、SOSが

出て初めて対応するといったような次第でした。

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3.専門家派遣による業務の見える化・標準化

こうした中で、平成16年4月にセミナーを受講後、7月からは中国地域ニュービジネス協議会に相

談して、専門家の派遣を受けました。そして平成19年7月にはCCPMの導入を決定、平成20年10

月からは全組織をプロジェクト制に移行しております。

なぜ、トヨタ生産方式を導入したかといいますと、作業工程に連鎖があること、人の能力が非常に

品質に影響すること、個人の能力プラスチーム力といったものにカイゼンという手法は非常に有効で

あるというお話があり、これはまさしく設計から測量、調査といった流れ作業である我々の業務に類

似点があったことからです。トヨタ式の「作業の標準化」は現状システムの数値化・実行予算書の作

成に、「プロセスの見える化」は業務進捗報告書のシステム作成に、「作業の見える化」は「負荷・余

力見える化表」の作成に、「一気通貫」は部門制からプロジェクト制への改造にといった対応をしてい

ます。

トヨタ式カイゼンのキーワードをご説明しますと、「作業の標準化」とは、各仕事のやり方、時間な

どを標準仕様書としてまとめることによりカイゼンのスタート基準にすることです。「プロセスの見え

る化」とは、仕事がどこまで進んでいるのかを見えるようにすることです。「作業の見える化」とは、

誰が何の仕事をしているのかを見えるようにすることです。「一気通貫」とは、自分の担当だけの部分

最適にならないように組織の壁を取り払うということです。

では、第一回目の専門家派遣についてですが、平成 16 年の7月から 12 月に来ていただきました。

このときには現状把握を行っています。「部門別の利益率の把握」ということで完成業務を分析して目

標利益率の設定をしました。「外注委託業務の利益率の把握」ということで、外注委託の有無で利益率

に大きな差があることが判明しました。「社内標準歩掛りの設定」ということで、実績をまとめて目標

標準歩掛りを設定しました。「業務の標準化」ということで、業務ごとの標準フロー図を作成しました。

「業務進捗状況の把握」ということで、現在の業務進捗報告書のシステムを見直しました。この半年

間に現状業務の再点検をすることでわかったことは、価値を生み出す作業は33%、手戻りなどの非

価値の作業が11%、手待ちなどの中間作業が56%であるということです。そのなかから、なぜ手

待ちや手戻りが発生するのかを洗い出しております。

次は平成17年の2月から8月に来ていただいております。これは、1回目の現状把握の結果から、

具体的な業務改善を以下の4つについて取り組んでおります。「社内標準歩掛りを使った実行予算書

の作成」として運用マニュアルを作成して、予算書作成の徹底を図りました。「進捗管理システム」

として、進行過程における問題点の把握と対策ができるシステムに改善しました。「負荷と余力の見

える化」として、業務の忙しさ加減を見えるシステムを作成しました。これは、作りはしましたが実

際には運用できるシステムではありませんでした。「業務体制の見直し検討」として、部門別管理か

らプロジェクト制への移行を検討しました。これは昨年、平成20年の10月に組織改革を行い、最初

からすると約5年かかって組織改革を完了しています。

次のページのものが「実行予算書」ですが、受注金額、実行予算額、予定粗利益、外注費などの標

準的なものを作って、行っていこうということにしています。

次に月に一度の進捗管理ということで、「業務進捗管理表」を作りました。今までになかったもので、

付け加えたものは一番下にある問題点ですが、工程上の問題点、技術上の問題点、予算上の問題点を

記載して月に一度回覧するようにしています。

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次が、「負荷と余暇の見える化表」です。必要

時間を算定、集計し、作業内容を記入し、山を越

えた部分は他に移せば標準化できるというもの

です。すべての部門に作成しましたが、なかなか

うまく動きませんでした。

次の図が部門制からプロジェクト制へ組織改

革とういうものですが、ひとつの業務をプロジェ

クトとしてとらえ、プロジェクトごとにリーダー

を作り、そのリーダーが業務分担を行っていくと

いうシステムに変えました。組織が変わらないと

人は変わらない、ということで、平成20年10月にこういう組織にしています。ですから部門という

のは現在はわが社にはありません。プロジェクトごとのリーダーやマネージャーが行っていくという

形に改めております。

平成16年から17年の業務カイゼンの指導後、平成19年まで社内でそれを実践していく中で、以

下のような課題が顕著になりました。実行予算と業務進捗管理によって原価内容は把握できましたが、

全体工程に対して、進捗状況の把握、工程短縮、ムダの排除ができていない。負荷と余暇の見える化

表は作成に手間がかかり、リアルタイムに変わっていく工程についていけておらず苦労しました。利

益減少の最大要因は「手戻り」であることが判明しました。そして、「手戻り」の原因は部門間のコ

ミュニケーション不足が原因でした。これらをなんとかしないと、これ以上の段階へは進まないとい

うことが平成 19 年の段階でわかりました。これらは、システムの中に組み込むことをしないとなか

なか変わらないということで、CCPMを取り入れることにしています。

私たちの仕事は一日に3つも4つもの仕事をしますが、これが一番非効率で、先が見えていたら、

このような非効率なことはしないということを発見しました。それから、担当者というのは報告する

ときには必ず余裕を見ます。この余裕の部分をいかにして見える化するかがポイントではないかと思

いました。もうひとつは工期があればあるだけ使うので、非常に非効率になってしまいます。これら

のことを何とかしようとCCPMを導入しております。これは、後から説明しますが、ゴールをイメ

ージしてみんなで工程表を作るシステムづくり、正味の作業時間、個人の負荷が見えるシステムづく

り、問題がリアルタイムで誰にでも見えるシステムづくりです。

ОDSCとバックワードスケジューリングの二つを使ってまずは作って、次にバッファを見ながら

進捗管理をする、そしてもうひとつは誰でも見えるというシステムを入れていこうということで、C

CPMを入れています。

まず、ODSCの作成ですが、目的、成果物、成功基準について、皆で会議をして決めます。目的

というのは、プロジェクトが達成しようとする目的を明確にするということです。成果物というのは、

プロジェクト遂行によって具体的な成果は何かを明確にする、成功基準は、うまくいったときの基準

を明確にする、これを皆で決めるというのがCCPMの一番最初の作業です。

それができると次にはバックワード手法ということで、ひとつひとつの作業を拾い出して担当者と

日数を検討して、まずは完成から開始のほうへバックしていくということで並べていきます。並べ終

わったら、今度は開始から見ていって必要な作業が漏れていないか、ということを確認しながら行っ

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ていき、本当に必要な作業が順序良く並んでいるかどうかを確認します。これを行った後に工程表に

移していきますが、これが一番重要な作業です。先程申しましたように、バッファの管理を説明しよ

うと思いますが、作業を分解するなかで、余裕をとっている日数を後ろに集めます。前半の正味の日

数は縮めることはできませんから、そのままになります。では工期短縮はどこでやるかというと、多

めに取ってあるバッファの中をどうするかということになってきます。実際にどう縮めるかはいろい

ろなやり方がありますが、当社の場合は半分にしています。つまり、正味の日数と、バッファの50%

を目標に工期短縮にチャレンジするようにしています。

このようにしていくと、まずプロジェクトごとにいつ何をするかが一覧表で出てきます。そして、

一人一人の社員がその日にどのくらいの仕事を抱えているかということも出てきます。そうすると、

ある人の仕事量が多くなっているのがわかりますから、その仕事を余裕のある人に振りわけていこう

ということが出てきます。このリソース情報を見ながら、週に1回集まって協力体制を作って見える

化をすることによって、協力しようという意欲を引き出しています。これを社内LANで、誰でも見

えるようにしています。全部見ていくのは大変なので、工程が順調なところは緑で表示し、危険なと

ころは赤で表示をするようにしています。つまり、バッファがあるときには緑で表示され、余裕がな

くなってきたら、黄色になっていき、いよいよ危ないとなってくると、赤になってきます。この赤い

部分をみて、担当者、マネージャー、部長が対応するようにしています。

4.人材について

それと同時に、大事なのはシステムだけではなく、それを使う人材をどう育てていくかということ

だと思っています。そのためにコーチングの手法を取り入れて、全社で取り組んでいます。コーチン

グとは、目標達成のために、メンバーが智恵を出しあって、一人一人が成長するというコミュニケー

ション作りの手法です。週に1回、CCPMの更新で集まるときに、メンバーは自分の考えを整理し

て伝えること、リーダーはメンバーに対して、どのように提案していくかといったことを意識して行

っています。

もうひとつはABC活動を行っています。Aというのは当たり前のAです。Bはびっくりするくら

いのBです。Cはちゃんとするということです。まずは当たり前のことができないとだめではないか、

当たり前のこととは、たとえば身だしなみとか身の回りの環境づくりといった社会人として当たり前

の行動ということです。これにはまず、個人の目標があります。個人目標が集まって、グループの目

標になります。そしてグループの目標が集まって会社の目標になります。すぐには合わさりませんが、

これをすることによって、徐々に社員のベクトルを合わせていくように考えています。業務別に5~

10人のグループをつくって目標を設定させて、シンプルな目標を徹底してやることをしています。

皆が同じ目標をもつことによって、明るい職場になることも目標にしています。

5.さいごに

以上が大まかな現状です。今後の課題については、一番大事なことは顧客満足だと思います。社員

の満足がなければ、顧客満足もないと思いますので、社員満足を高めることによって、顧客満足を高

めていこうと思います。もうひとつは効率アップです。効率アップというのは、やはり、ITを活用

することです。わが社はCCPMというシステムを活用していますが、こうしたことを通じて顧客満

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足と効率アップを求めていくことが大事なのではないかと考えています。ITを活用することによっ

て情報を共有することもできます。そうすることによって、一気通貫、部門の壁をとりはらって、誰

でも見えるようになると思っております。この5年間やってきた成果の1つ目は見える化によって業

務を管理するという面が大きく変わったこと、2つ目は技術者が協力しようという気持ちが芽生えて

きたこと、3つ目は政権交代など、取り巻く環境が急変しており、すばやく対応するために流動的な

組織になってきていること、この3つが一番大きな成果だと思っています。

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サービス産業生産性向上セミナー

福井県民生活協同組合 理事長 藤川 武夫 氏

『組織のダイナミズムをどう高めたか』

日時:平成 22 年 1 月 14 日(木) 15:05~16:50

場所:ひろしまハイビル 21 (広島市中区銀山町 3-1)

1.はじめに

本日はサービス産業生産性向上特別セミナーに

お招きいただきましてありがとうございます。皆

さんに少しでも恩返しができるようにしたいと思

っていますので最後までよろしくお願いします。

まず、生協の三つの特徴を理解いただきたいと

思います。一つ目は、組合員制です。二つ目は、

出資金制です。組合員から1口 1,000 円出資いた

だいています。最後に県域制限があるということ

です。県を越えて事業を行ってはいけません。

2.組織プロフィール

福井県民生協のプロフィールを紹介します。

1971 年に福井労済生協物資部として事業を開始し、1978 年に福井県民生活協同組合として再ス

タートしました。始まりが労済生協物資部というのは全国の生協の中でも珍しいです。2005 年に

は第7次中期5ヵ年計画が始まりました。中期計画は5年で立てています。2007 年には日本経営

品質賞を受賞しました。次の 30 年に向けて当生協の新しい姿にチャレンジをしようと賞に挑戦し

たところ、思いがけず受賞し、大きな可能性をいただいたと感謝しています。2008 年に創立 30

周年を迎えました。

福井県民生協は県下全域で事業を行っています。県民加入率は 45.4%で、県民に多く支持をい

ただいていると思っています。この数字は全国で6番目の数字です。事業高は中の小の規模です。

出資金は 72 億 1 千万円で、これを資本金に直すと、福井県で第3位の企業規模になり、自己資本

比率は全国で 1位です。

福井県民生協の特徴は、女性が多いことです。現場の女性比率が圧倒的に高いです。近年、店

舗事業、高齢者介護事業、子育て支援事業に力を入れており、女性比率が益々高くなっています。

組合員構成は、年齢で見ると 50 歳代が一番多く、次に 40 歳代、30 歳代が続きます。10 年前ま

では、30歳代が少なかったです。このままの状態だと将来の事業が成り立たなくなると気がつき、

30 歳代の女性へ声をかけるようになりました。

事業は「食の事業」、「助け合いの事業」、「福祉事業」の三つに分けられます。福祉事業のなか

の子育て支援事業は全国で先駆けて 2005 年から始まりました。当時の猪口少子化・男女共同参画

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担当大臣が視察に来られました。「2008 年日経優秀製品・サービス賞優秀賞 日経MJ賞」を受

賞し、ハーツきっずに上川大臣が来られ、十数名の子供と親と一緒に車座になって 100 分間ミー

ティングをして交流、意見交換をしていただきました。

他の生協と違う点は、同じ事業でも、重ねて利用してもらい、お役立ち度を高めていることで

す。例えばステップアップ還元を導入しています。年間利用額を 20 万円未満、20 万円以上、30

万円以上、40 万円以上、50 万円以上と5段階に分けて年度末に組合員に還元しています。例えば

50 万円以上の組合員へは 1.35%分お金が戻ってきます。利用額の多い 50 万円以上利用の組合員

は 106.7%伸びています。餃子問題、リーマンショックなどの逆風があったなか、30 万円以上利

用の組合員が増え続けています。

30 歳代の皆さんに支持される無店舗事業をどうしたら良いか、1300 人の組合員一人一人と直接

面談してアンケートをとりました。11 年連続無店舗の加入率が高いのは 30 歳代の方に多く入っ

ていただいているからです。また、個人宅配手数料は 1 回 100 円で全国生協のなかで一番安いで

す。来年度には無料にしていきたいと思っています。

3.経営品質向上プログラムの取り組みの契機

創立以来 18 年間、無店舗だけで順調に展開しておりました。

福井県は山の幸、海の幸が豊富にあります。しかし、無店舗では新鮮なこれらの幸が食べられ

ないといういう意見があり、組合員や職員の要望で店舗を出店しました。

1990 年代後半、経営が揺らぐ時代がありました。当時は、3K(小売、金融、建設)が厳しい

状況でした。全国の生協の中で経営危機や不祥事が起こり、組合員の間で不安が広がりました。

この状況を打開するための経営力とは何かを勉強しました。

1999年のある日、福井県経営品質協議会が発足したというたった5㎝の新聞記事に心ひかれて、

切抜きしました。それを当時の管理部長へ渡し、大変良いことだから勉強してくれ、協議会と連

絡をとってくれ、と要請しました。そんなことがあったその日の夕方、帰りがけに部長の机の横

を通ると、新聞記事がゴミ箱に捨てられていました。これは組織の当時の状況を象徴していまし

た。経営を知っている部長がそういうレベルでとてもショックを受けたのを覚えています。

22年間にわたる比較的順調な発展から一転し、2000~2002年は3年連続大幅減収になりました。

福井県民生協はなくなってしまうのではないかと悩みました。組合員が安心し、長期的信頼関係

の基盤となる経営力をつけないといけないということ、そして自分のマネジメント力(数値至上

主義)や組織風土体制(トップダウン)の限界を感じました。

2000 年 9 月、75 歳の先代理事長から「理事長の席をあなたに譲る」と言われました。先代の理

事長は福井県のどこへでも顔のきくとても立派な方でした。当時私は 49 歳、あと 3 ヶ月で 50 歳

になろうというほど若く、福井で育ったわけでもありませんし、生協でしか働いたことはありま

せんでした。年齢差、経験差が大きく、知名度もありませんでした。そのため、当時の私はどこ

で存在感を出すかを考えていました。

2001 年に理事長に就任する時、2つことに取り組みました。一つ目は、役員構成を入れ替えま

した。二つ目は、役員評価制度を変えました。

役員評価制度を変えたのは、全国の生協のなかでも早い方でした。パートから役員まで一つの

評価シートで評価する仕組みを作り、全員に公表するようにしました。こうして信頼を作りまし

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た。

東京から経営品質の大先達に理事(非常勤)に就任いただき、年間 5 回の常勤役員の学習会を

1年間実施しました。1年後に学習会が終わった時、JQAの講師の理事から助言をもらいまし

た。顧客満足視点からの経営には組織風土の改革が不可欠で、これは 10 年かかるうえ、失敗する

と職場が大混乱し、業績の更なる悪化も懸念されます。一度改革を始めて中途半端に投げ出すの

であれば、初めからやらない方がましです。改革するかしないか1ヶ月以内に決めてくださいと、

その方から言われました。研修に参加した部長から、とても1人では手に負えないし、大変な事

なので辞めておいた方が良いのではないかという報告を受けました。しかし、やらなければ今の

風土は変わらない、失敗したら自分が辞めれば良いと思い、改革することに決めました。

4.取り組み概要

福井県民生協は3年連続減収になりましたが、当初はその要因が分りませんでした。

ある理事会で組合員非常勤理事が、組合員、利用者としての立場から、注文書に買うものは書

いてあるけど、買いたいものは書いていないという意見を言われました。この時のショックは大

きかったです。当時想定以上の競争、競合店ができていました。自分達が出来ることは限られて

いて、減収は外部要因だと幹部は言いました。

年代、世代、ライフステージ別の分析をしても中途半端な結果です。そんな時、エリア委員会

でエリア代表の組合員から「私も利用が減っている」と言われました。エリア代表は代表になる

くらいなので、むしろ一般の人より利用が多いはずなのに、減っていたのです。

そこで、何が減ったのか、固有名詞(商品名)を言ってもらい、全部書き出す作業を、50 名分

行いました。定点観測を行ったわけです。これにより、組合員が何を望んでいるか、望んでいな

いかがよく分りました。そして、組合員と直接的なコミュニケーションをとりました。商品を企

画したが利用されなかった、利用しても駄目だった、という様なコミュニケーションをとりまし

た。

組合員を世代、ライフステージなどで分けるだけでは一般的なことしか分りません。なぜなら、

1人ひとりの組合員は状況が違うのでサービス提供、対応の仕方が違うからです。このような取

り組みを通じ、私たちがいかに組合員を知らなかったかということが分りました。

この結果、確実に利用が上がっていきました。

組合員の利用がどのように変わったのか、それはなぜか、といったことをシステムに落とし込

んでいきました。この取り組みをすると、組合員の利用が絶対と言って良いほど上がります。し

かし、「そんな事は3~4年前から分っていた」と現場職員が会議で言いました。第一線職員の感

じていることが漏れていたのです。それまで現場と本部のコミュニケーションがとれていなかっ

たことに、私は気付きませんでした。現場の職員に組合員の言葉を聴いてもらうことが現場を活

気付けるうえで良いことだったのです。

生協は、食の安全を命として経営してきました。組合員は生協に安全を求めている、生協は安

全を提供していると自負していました。例えばアトピー食品などを最も扱っていると自負してい

ましたが、あまり利用はありませんでした。

なぜ利用しないのか組合員と話して聴いてみました。組合員の答えは、「買いたいが、知りたい

商品内容について店員が答えられない」ということでした。店員に尋ねても、「少々お待ちくださ

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い」と言い、その店員が本部に聞いても本部の人も答えられませんでした。

アトピーの症状は1人ひとり違います。組合員の1人ひとりの息子さん、娘さんに対して求め

ているものにほとんど対応できていないことが分りました。安全、安心の考え方がいかにもろい

ものだったのか考えさせられました。

買う物だけではなく、買いたい物がある注文書を作りました。結果、当時は 30 歳代、20 歳代

の組合員が少なかったのがこの 10 年で 10 倍の割合になりまし。30 代が多い現状が良いのではな

く、新しいニーズを今のニーズから発展していくことが大事です。

今までは、無店舗事業の話でした。次に店舗事業の話をします。店舗事業の3号店、ハーツつ

るがを、30歳代の人が買いたいものがある店をコンセプトに出店しました。開店するにあたって、

組合員の要望を聴き、殆ど実現させた店舗です。

開店した時は、来店者数 1800 人を目標にしま

したが、1200 人しか来てもらえませんでした。

開店後、組合員の1人から、要望が全然守られ

ていないと怒られました。店舗の職員は全て応

えたつもりでしたが、畜産部門の売場が要望通

りでなかったのです。

敦賀は、福井県の南方に位置します。福井市

は北方です。敦賀は関西風の文化があり、食文

化もそうです。肉と言えば牛肉です。ですから、

組合員は、肉のうち 8 割を牛肉にして欲しいと

いう要望を出していました。

しかし、幹部職員の最終会議でその要望が却下され、畜産売場の肉は牛 1/3、豚 1/3、鳥 1/3、

と書き換えられ、組合員の声が聴き入られなかったのです。その時、組織体質を変えるのは至難

の業だと分りました。現場の無店舗事業配送担当パート職員から、来店者 1200 人は無店舗のヘ

ビーユーザーだという意見が飛び込んできました。店舗利用が多くて無店舗利用は少ない、店舗

利用が少なくて無店舗利用が多いではありません。店舗、無店舗どちらとも利用が多く、出資金

も多かったのです。ではなぜ買ってもらえないのか、聴きに行きました。チラシを多くしたり、

安売りを多くしたり・・・色々やりました。しかしどれも上手くいきませんでした。組合員の目

線に立って事業をみると、事業同士は繋がっていると分りました。

「店ができると無店舗利用者が減る」と、無店舗事業の担当者は店舗出店に積極的ではありま

せんでした。無店舗の責任者と店舗の責任者は仲が良くありませんでした。しかし、店舗と無店

舗が手を繋いで組合員のご要望に応えると大きな成果が出ます。これが大きな評価となりました。

年度内にはハーツつるがの来店客数は達成しませんでしたが、翌年は達成するなと年度末に感じ

ました。店舗事業と無店舗事業が力を合わせてクロスファンクショナルに物事を考え、対応して

いきました。今ではハーツつるがは全6店中No.1店です。来店客も1日に 2200 人来ます。

2004 年は、5重苦の1年でした。4月にシステムダウンし、それが直った7月頃、平成福井大

豪雨になりました。9月には台風 23 号が来て、県内の産直生産者は壊滅的な状況になりました。

農作物が大被害を受けました。

そんな時、ハーツの農産売場がNHKニュースで放送されました。大根1本 500 円、白菜1個

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1000 円が陳列されている棚と、後ろにハーツと書いてある映像が長く映りました。他の店は大根

1/2本で250円、白菜も1/4個で250円を販売しているのに、正直に1000円で売っていました。

11 月 22 日と 12 月 2 日に1号店と2号店の競合店が連続出店しました。3ヶ月前から1号店と

2号店の競合対策を徹底的に行い、どのようにすれば来て頂けるか対策を練り、そして実施しま

した。

本部が現場の声を覆すシステムはもうありませんでした。現場の意見に反対している人がわか

るシステムも作りました。結果は、1、2号店共に来店客は 110%伸びました。売上も増え、今

までが如何に努力が足りなかったかが分りました。

組合員とコミュニケーションをとり、そういうプロセスを取った結果、素晴らしい業績が実現

でき、おかげで幹部の目が特に変わったなと思いました。

5.取り組み活動についての認識

組合員の認識の仕方が大きく変わりました。

組合員一般という「かたまり」で見るのではなく、組合員1人ひとりで見ます。生協は組合員

が出資金をいくら出しているか見れます。

しかし、大手スーパーは、このように見ることができません。大手スーパーにはポイントカー

ドがありますが、お客さまがカードを持っている確率はそんなに高くありません。

生協はシステムを見ると、組合員が何を買ったか、どのサービスを利用したかが 100%分りま

す。どんな要望、苦情があったか1つひとつの声が1つの画面で出てきます。1人ひとり見ると、

事業の認識が変わっていきました。

餃子事件は生協への食の安全に対する期待を裏切りました。コールセンターは毎日電話が鳴り

っぱなしです。それが 20 日以上続き、徹夜で対応しました。クレームばかりでした。現場第1線

職員やコールセンターの担当者は悔しいと言いました。なぜ私達に餃子の情報を教えてくれなか

ったのか、組合員の方が良く知っています、と言われました。そこで6月1日から職員向けに、

商品の欠品情報や、お買い得情報、食品事故が起こった時に携帯配信メールをスタートしました。

10 月1日からは組合員向けにもメール配信を始めましたが、1万人弱の組合員にしか登録しても

らえませんでした。組合員全員に、登録してくださいと3回お願いしましたが、なかなか登録し

てもらえませんでした。

そこで、何かおかしいと感じました。組合員が感じている安全と安心という概念は全く違うと

感じました。安全という考え方は万人に共通ですが、安心という考え方は1人ひとり違います。

安心と思える安全の仕組みを作ることが大切なのです。

1人ひとりの考える安心を担保する安全システムを構築していきたいと思っています。

6.今後の方向性

生協の発展の原動力は、組合員価値の核心である“食の安全・安心”です。今日の、科学技術

の進歩のより新たな質の高い価値の創造と提供が求められます。そこで組合員1人ひとりが求め

る安心を担保する安全のシステムとしてのトータルフードチェーンの構築をしていきます。今日

の到達点は組合員 12 万5千万人、県民加入率 45.4%です。それを考えると、人口減少、少子高

齢化のなかで今後の量的拡大には少し限界があります。そこで1人ひとりの組合員との信頼関係

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をどのようにつくるのか?が問題になります。これから組合員1人ひとりの暮らしと心の中への

浸透していきたいと考えています。

マーケット、組合員のスタンダードが変わりつつあります。少子高齢化が進んでおり、福井県

では、高齢者比率 35%の市があります。この変わってきているスタンダードに対してどのように

応えていくか、現在の事業構成では対応できません。新しく新規事業を展開していかなければな

りません。将来の組合員構成の変化を想定すると高齢者比率の相対的に高い存在の組合構成は減

少し、事業構造そのものの急激なシフトが予想されます。特に食の事業の大幅な縮小化と新たな

サービス化、福祉、介護、子育てニーズの対人社会サービスへの需要は逆に大幅に増大すること

が見込まれます。組合員構成比変化への対応と、新しい組合員のニーズ開拓と新事業モデルの開

発が必要です。

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コーディネーター・プロジェクトマネージャー向け研修

(独)中小企業基盤整備機構 統括プロジェクトマネージャー 森 紀男 氏 講義録

日時:平成 22 年 2 月 8日(月) 13:30~14:30

場所:中小企業大学校広島校 (広島県広島市西区草津新町 1-21-5)

1.はじめに

中国5県を回っているので、今日は顔なじみ

の方もいらっしゃいます。中小機構では専門家

の継続派遣とОB人材の派遣を行っており、専

門家は年間 40 社くらいに派遣しています。こう

した中、今まで百数十社に派遣をしており、も

のづくり系もサービス系も特に違いはないと思

っています。今日はいままで取り組んできた事

例を中心にお話しようと思っています。

私は地元自動車メーカー出身で中国地域ニュービジネス協議会にも専務理事として在籍し

ておりました。中小機構に来てから約10年になりますが、ずっと中国地域を回っています。

今日はいままでどんなことをやってきたかを中心にお話しようと思います。

「コーディネート業務の進め方と実際」というレジュメをお配りしています。応援コー

ディネーターの方はよく見ているはずですが、念のためにお配りしています。合わせてお

配りしている「ハンズオン事例集」もいままでの事例、取り組みを簡単に載せています。

これで一応、中小機構のやっていることが大体つかめるはずです。

2.サービス産業への支援取組

今まで取り組んできた中では6割強とものづくり系が多かったです。今年度は中国経済

産業局からの依頼があり、サービス産業支援のモデル事例作りをしています。では今まで

サービス系でどういったことをやってきたかというと、まずS社があります。「ものづくり

支援セミナー」を受講された当社社長からこういう内容であれば自社に適用できるのでは

ないかとのお申し出があり、業務改善に取り組むことになりました。この会社はまさにも

のづくり系の支援が適用できる会社で、「みえる化」や「価値作業」をそのまま適用するこ

とができました。佐々木チーフアドバイザーに入っていただき、支援終了時には見事に粗

利益が7~8ポイント向上しました。福山でレストランチェーン店経営をしているF社に

ついては管理会計をもとに支援を行いました。当初、厳しい経営状態にありましたが、支

援を始めてから丸2年になる現在ではデフレや内食化へのシフトなど環境変化の厳しい中、

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減収ながら増益を達成しています。展開店舗の店長や料理長なども経営を数字で理解でき

るようになっており、一人一人に環境対応力が身についてどんな状況でもやっていけると

社長も満足しています。建築会社の関連で海鮮レストランを展開しているB社ではレスト

ラン系の専門コンサルタントを東京から3人招聘し、手厚く支援しました。年商も親会社

と遜色ない経営状況になっています。こういった例のようにサービス産業に関しても今ま

でに取り組みを行ってきています。

サービス系の支援をするときに「経営改善」という切り口と「イノベーション」という

切り口があります。経営改善をしていく中で、企業の強み・弱みが明らかになり、その先

にイノベーションがあるのではないかと思っています。

製造ではモノを作っていますが、サービスは目に見えません。しかし、お客様に喜んで

もらわないと利益につながらないという点ではどちらも同じです。5Sなどがまず第一で、

ここからいろいろと見えてくることがあり、改善はそこから自ずと見えてくることになり

ます。大事なのはどちらも「価値作業」、「価値時間」の考え方です。1時間、人が動いた

とき「価値作業」は何%なのかということです。価値とはお客様がお金を支払ってくれる

もので、ただ単に人が動いただけでモノが動かないと価値は生みません。例えばレイアウ

トの変更などですが、工夫を重ねて価値作業の時間を増やすといったことは製造もサービ

スもまったく同じです。本当に価値を生む作業とは何なのかを追求していくことが大事な

のです。

3.支援の連携

今、ほとんどの支援で他機関との連携を行っ

ています。中小機構は全国に支部があるのでそ

のネットワークも使います。こうした連携によ

って普遍性のあるモデル事例を作り、広がりを

持たせていきたいと考えています。また、現在

の支援は複合的なものになってきています。企

業を支援する際にはいろいろなテーマがあり、

トータルでの経営支援が必要になっています。

いまはものづくりと財務といったように二人以

上の専門家が入るようになっており、またここまでやらないといけないとも思っています。

実際に鳥取、島根、山口の産業振興財団や地域力連携拠点と連携をとっています。地域の

企業は地域の機関が一番よく知っているので、まずは連携を最優先で行いたいと思ってい

ます。米子商工会議所との連携では、ある老舗お菓子メーカーは、いいものを作ってお客

様からの評価も高いのに、現場の環境も悪く原価率が高いなどの問題がありました。そこ

で、中小機構の事業としてではなく地域力連携拠点の事業として当機構のアドバイザーを

紹介しました。このようにまずは地域の支援機関を最優先にと考えています。ものづくり

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の面では当地域にはマツダ、三菱重工などがあって産業の集積地であるため、その出身者

が多くいます。こういった人は非常に役立つことが多いと思います。先程も言いましたよ

うに支援する時にはテーマが一つということはありません。複合的になってきており、連

携機関も多くなる場合があります。

4.コーディネーター

コーディネーターとかプロジェクトマネージャーの基本的な要件はフットワークとネッ

トワークだと思います。行ったことがない先でも自分から出かけていくフットワークがな

いといけません。そして状況を掴むのです。私も月に3千キロは走り、1日に4~5件は

回っています。この中から支援対象が出てくるのです。当然、機関にも訪問しています。

ネットワークは必須です。個人のネットワークがあるのがいいのですが、ない場合でも機

関や財団に出入りしてネットワークを作るようにすると良いです。どういう支援をすれば

よいかを見通すことが必要で、心がけてやっていただきたいです。支援企業の発掘では国

からの各種補助金をもらっても有効に活用できていないケースがありますので、そういっ

た先の支援を考えていくことも必要ではないでしょうか。社長に経営課題を問うと売上が

伸びないとか販路開拓といったことが第一に挙がりがちです。次が資金繰りや補助金の話

です。真の経営課題は社長自身も気付いていない場合があるので、話をする中で探ってい

かなければなりません。質問力が必要になってきます。こちらからいろいろとなげかけて、

どんどん話を拡げて行きましょう。岡山のある企業では最初の依頼は新商品の開発支援の

サポートでした。しかし社長と話を重ねていくうちに、現在では株式公開の支援をしてい

ます。こういった事例もあります。

会計には財務会計と管理会計の二つの概念があります。財務会計は税務会計とも言えま

すが、利害関係者に開示するものです。これに対して管理会計は内部で経営戦略などのた

めに経営者、従業員が共有して経営計画を立てたりするためのものです。ほとんどの企業

では管理会計をやっていません。これは大問題です。今の時代は状況変化が激しいので管

理会計は絶対に必要になってきます。現在の支援案件の中には半数近くに管理会計の専門

化が複合的にかかわっています。

専門家やアドバイザーを派遣するときには資格を有しているから大丈夫とは必ずしも思

っていません。大企業ではまた違うのかもしれませんが、ただの理屈ではだめで志が高く、

中小企業目線があって実務経験をしっかりと積んでいる人でないといけません。派遣にあ

たって大事なのは、本当の経営課題を探ること、専門家と社長との相性を考えることです。

相性は7割以上大事なのではないかとも思います。専門家選びでは企業にとって最善の支

援をするために地域の専門家だけでなく広域的にみてもらいたいです。

また派遣をしたらそこで終わりではありません。支援をしている現場にも行きます。行

けばまた新たなことも見えてきます。課題が芋づる式にでてくることもあります。派遣し

ている専門家の専門外のテーマが見つかる場合があります。また支援の出口のイメージを

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しっかり持って臨んでもらいたい。そうすることで、どのようなプロセスをたどればいい

かもわかってきます。

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コーディネーター・プロジェクトマネージャー向け研修

(独)中小企業基盤整備機構 アドバイザー 泉 旦茂 氏 講義録

日時:平成 22 年 2 月 8日(月) 14:30~15:30

場所:中小企業大学校 (広島県広島市西区草津新町 1-21-5)

1.はじめに

私は製造現場が長く、マツダ勤務時代には地場

の取引先48社の現場の改善指導をしてきました。

専門はIEになります。今は韓国、タイなど海

外自動車部品メーカーの工場の経営指導もして

います。サービス産業の支援では山口の医院の

支援もしていますが、今日お話しする楊貴館は

支援に入って半年くらいですので、結果がこう

なりましたという成果の話ではなく、アプロー

チの部分の話になります。

今日お伝えしたいことは

1.問題解決のステップ 2.よく使うQC七つ道具 3.問題の核心に迫るKJ法 4.

作業観測と作業分析 5.標準作業 そして 6.製造屋から観たサービス業の付加価

値 です。

2.サービス業で活用した製造業の改善手法

(1) 問題解決の 10 のステップ

まず、問題解決の 10 のステップですが、私はどの企業でも基本的に次の流れで行ってい

ます。

① 問題意識 最初に従業員がどんな問題意識を持っているかを調べます。一人一人の思い

を問題認識という形で共有化させてあげます。

② 問題提起 何が問題なのか、なすべき課題は何かという具合に解決すべき対象を明確に

します。

③ 現状把握 問題に関する情報収集や事実の観察、確認を行います。

④ 問題の本質の追求 集めた事実に基づいて問題のヘソは何かを追求し、明確にします。

例えば、製造現場の責任者からは問題点がいくつも挙がってきますが、その中でヘソを

どう見出すか、プロジェクトを組みメンバー自身が追及していくことがポイントです。

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製造業ではこういった作業のために、就業時間中に人が集めることができますが、サー

ビス業ではなかなか大変です。病院では休診日に行くようにしていますが、ホテルは休

業日が無く、メンバーが集まることができる時間帯を見出すことに苦心しています。

⑤ 目標・方針の決定 このような考え方や指針で、このレベルに到達しようということを

決め、示します。

⑥ 問題解決の構想計画の立案 この問題解決に関わるあらゆる方面にどんな働きかけを

し、どんな効果が期待できるかを考え、構想を練ります。

⑦ 実施計画の立案 5W1Hで具体的な計画を立てます。この辺までがP・D・C・Aの

Plan の部分になります。

⑧ 試行・実施 トライします。どこにでも抵抗勢力はいますが、すぐに元にもどすことは

できるのだからとりあえずやってみましょうよ、といってやってみるようにしています。

⑨ 実施結果のフォロー確認・検討修正・標準化 実施結果は必ず確認され、必要な検討修

正を行い、初期の目標を達成するように導きます。結果が良ければ良い水準を保つよう

に、また水平展開できるように標準化します。

⑩ 人間性の感特 問題解決を成し遂げたという感激を、働いた仲間と一緒に喜びあう。メ

ンバーの中にはキーマンがいるので、そういう人は表舞台に引っ張りだしてあげます。

私はPLANがいかに大切かと思います。現場の人は早く Do をしたがりますが、じっく

り聞いて、現状を把握してプランをしないと失敗します。

(2) QC7つ道具

現場ではよくQC7つ道具を使います。よく使うのは特殊要因図、散布図、パレート図、

グラフ、層別です。今は新QC7つ道具も使っており、連関図法、KJ法、マトリックス

をよく使います。今日お示しするのは、楊貴館の「月別来店客数の推移」と「お客の延べ

宿泊日数と従業員の労働時間の相関(指数)」です。夏秋に来客が多い繁忙期には人手が足

らず、来客が少ない冬から初春は人手が余り、人繰りが難しいようです。

3.問題の核心に迫るKJ法(親和図法)

KJ法の紹介ですが、これはソニーの川喜多次郎さんが開発された手法と聞いています。

① カード作り をします。一人5~10 枚書いてもらいます。

② 島作り をします。一人ずつに書いてもらったカードを読んでもらい、模造紙に貼り、

同じ性質の問題点を集めていきます。

③ 表札作り 各島で共通する意味合いを表わす言葉を「表札」タイトルとします。

④ 関連付け 相互の島の間にどちらが原因でどちらが結果かの関係を、矢印で表わしてい

きます。

⑤ 問題のヘソ探し 矢印がたくさん出ている島が「真因」に近い要因です。ここからさら

に追求し「核心」へと迫っていきます。楊貴館の問題点のまとめを、若い人だけを集め

て行った結果、お客のクレームが伝わっていないなどのスタッフの報連相、教育システ

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ム、特定部門の発言力が強いなどが見えてきました。中には文章にしにくい強烈なもの

もありましたが、これらの結果は社長や常務にも受け入れていただきました。楊貴館の

魅力や売りについても尋ねたところ、くつろぎ・癒し、温泉、食事と云った一般的な項

目から、好奇心とステータスを満足させたい、客がスタッフと交流したいのでは、大事

な人と大事な時間を過ごしたい、現実逃避したい、といった来客の接点で感じた内面的

なことに迫るものもありました。

4.作業観測と作業分析、

次はワークサンプリングですが、観測者は走り回って、複眼的に複数の作業をサンプリ

ング観察するやり方です。11 月 27 日は、朝8時から 11 時過ぎの時間帯に各スタッフがい

つどんな作業をやっているかを調査しています。その結果、楊貴館では、朝食の後片付け、

食器洗い、部屋の清掃、ベッドメイキング、フロントでの宿泊客の見送り、予約受付け、

生け花の手入れ、厨房での調理など、同時に多様な作業が進行していることが窺えます。

また、食器洗いや部屋の清掃作業では時間観測を行っています。この時間観測は 1/100

分単位で観測しています。

ここで言えることは、サービス業では現場の作業を数字で考える習慣が少ないというこ

とです。

パントリーで皿を何個洗うか、作業時間がどれくらいかかっているかなどそういったと

ころまでは考えてはおられないように思います。製造屋は時間に対して敏感です。部品1

個製作するのに 1/100 分単位で作業時間を計測して標準時間を決め、作業を編成していま

す。

5.標準作業

食器洗い作業と部屋の清掃作業に関しては、時間観測資料を基に作業の見える化をしま

した。

それが標準作業票です。食器洗い作業では一つの工程を二人で対応していましたが、一

人は 4.3 分かかり、もう一人は 1.0 分で終わっておりバランスが悪く非効率です。部屋の

清掃ですが、これも二人で対応していましたが、こちらは作業時間が二人ほぼ同じで、そ

ういった意味では無駄がありませんでした。しかし、途中の動線を見ると行ったり来たり

しており、時には同じ場所で重なっており、輻輳しています。これを一方通行でぐるりと

回って作業が完結するような手順にすれば、スムースに早く作業ができそうで、まだまだ

改善の余地は十分にありました。

6.製造屋から観たサービス業の付加価値

(1) サービスの定義

サービスネットワークを開発した諏訪 良武さんの著書ではサービスの定義を「人・構造

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物・仕組みが発揮する機能でユーザーの事前期待に適合するものがサービス」と言ってい

ます。事前期待に沿ったときに顧客の満足が得られるということでは、製造業もサービス

業も共通で、ある意味では製造業もサービス業と言えます。以下、諏訪良武さんの著書を

引用させて頂くと

(2)ユーザーの事前期待とは

① 事前期待の内容 サービスメニュー、サービスの品質が事前期待の対象です。

② 事前期待の持ち方 共通的な事前期待、個別的な事前期待、状況で変化する事前期待潜

在的な事前期待 があります。

③ ユーザーの属性 も大切です。

④ ユーザーのサービスへの関わり と云った領域もあります。

(3) 事前期待の持ち方(旅館の場合)

① 共通的な事前期待 車で言えば「走る・曲がる・止まる」

といった機能は当たり前の品質です。サービスに

おいてもそこが損なわれると二度とお客は来な

いという部分です。こういうことは標準化してや

っていかないといけません。ネガティブな投書な

どはここが問題なのだと思います。この領域は従

業員全員が標準を知って正しく行うことです。

製造業は作った製品を検査する工程があり確かめ

ることができますが、サービスはその日に品質を

確かめることができないので、マネジメントが難

しいのです。先程のKJ法でもこの部分の指摘が

あり、標準化とか教育の重要性について皆が共有

化できたと思います。

② 個別的な事前期待 個々のお客の好みに合わせて提供できるレベルになるとかなり高

水準になります。例えばお客によって「固めのそば殻枕」と「綿枕」の使い分けをする

などです。この領域ではデータベースを作り、共有化し対応することが肝心です。

③ 状況で変化する事前期待 このお客さんは普段はワインを好まれるが、今日の天候なら

ビールをお勧めするのが良いのではないかといった、状況に応じて判断をすることです。

④ 潜在的な事前期待 お客様の家庭的な悩みを聞いてあげられるといったようなことを

指しますが、上記③の状況で変化する事前期待とともに、知恵や経験の蓄積が必要でベ

テランの領域のものです。

(4) サービスの品質と事前期待

共通的な事前期待や個別的な事前期待に対応するサービス品質とは、正確性、好印象、

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安心感、迅速性といったもので、状況で変化する事前期待に対応するサービス品質はこれ

らに共感性や柔軟性が加わったものです。無意味な行為や迷惑行為、余計なお世話といっ

たものにならないようにしなければなりません。

(5)サービス業の付加価値

製造業では生産性の物差しに「付加価値生産性」といったものがありますが、「旅館やホ

テルにおける付加価値」を考えた時、立地条件による風景や建物、料理の提供という「も

のによる提供」があります。しかし、これらの“もの”は付加価値ではないと思います。(も

ちろん料理を作ることには付加価値が付きますが・・・)サービス業においてはとりわけ人に

よるサービスが大事ですが、それらの“もの”にスタッフの気持ちが加わった時に「付加

価値が付いた」と云えると思います。

経営者の理念・方針を管理者に転写し、それを管理者が指針・指導としてスタッフへ転

写し、スタッフはそれを行動・態度としてお客に転写していく、この部分が付加価値では

ないかと思います。

こういった「スタッフの行動や態度にこそ付加価値があるのだ」という考えで、これか

らの業務改善に取り組んでいこうと考えています。

以 上

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コーディネーター・プロジェクトマネージャー向け研修

油谷湾温泉ホテル楊貴館 代表取締役社長 岡藤 智加子

(独)中小企業基盤整備機構 アドバイザー 泉 旦茂 氏

対談録

日時:平成 22 年 2 月 8日(月) 15:45~17:00

場所:中小企業大学校 (広島県広島市西区草津新町 1-21-5)

<泉アドバイザー>

それではさっそく社長からごあいさつとホテ

ルの特徴などをお願いします。

<岡藤社長>

当ホテルは萩と下関の中間、角島大橋と青海

島の中間にある一軒宿です。本業は建設業です

が、ホテル業は40年くらい前からやっています。

3年前に前社長の主人が亡くなりその後社長に

なりましたが、当ホテルはインターネット、口

コミでのお客が多く、一度失敗すると評判等が

落ちて売上にも直接響くホテルなので、全員が一定のレベル以上の接客レベルを持たない

といけません。それで旅館全体をもう一度見直しをしようと思っています。また作業効率

を上げて給料を上げてあげたいし、設備産業なので今後の投資についても考えて行きたい

と思っています。

<泉アドバイザー>

楊貴館の特徴をいっしょにお越しいただいている柴田さんからお願いします。

<柴田氏>

楊貴館の特徴は油谷湾の景観の美しさで、特に夕日がきれいです。「夕景の宿」というこ

とで評判をいただいています。温泉はアルカリ性で美肌効果があり、湯冷めしにくい泉質

です。また岩盤浴やエステもあり、家族でも利用いただけます。お客様の声で多いのはお

料理とお部屋についてです。料理は和洋中があり、それぞれにチーフがいます。地元の人

にも私たちのホテルというふうに身近に思っていただいており、冠婚葬祭の時にはよく利

用していただいています。部屋は 39 部屋あります。一部屋ずつ内装を変えており、メゾネ

ットタイプで中団体が宿泊できるタイプのお部屋もあります。5年前に内装がデザイナー

ズマンションのようなアニバーサリーフロアをオープンしました。サービススタッフの質

向上を目指して泉先生から若手中心に指導を受けているところです。

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<泉アドバイザー>

私は9月から楊貴館さんに中小機構から派遣されていますが、社長さんは専門家派遣の

こういった仕組みをどういうきっかけで知ったのか、いきさつをお話ください。

<岡藤社長>

最初は政策銀行(旧金融公庫)の研修がきっかけでした。佐々木先生の見える化の話を

聞いて、サービス窓口で何度か相談をするうちに森プロジェクトマネージャーから声をか

けていただきました。

<泉アドバイザー>

社長の考えている地域性についてお聞かせください。

<岡藤社長>

合併で長門市油谷になる前は油谷町の楊貴館でした。油谷にとって楊貴館は雇用の場と

しても必要なホテルだと思っています。楊貴館では派遣社員は使っておらず、従業員の8

~9割は 30 分圏内で通勤できる地元の人間です。この場所に住みたいということで楊貴館

に就職している人たちです。そうしたことから本来、ホテル業に向いている人というのは

居ないのかも知れません。

<泉アドバイザー>

もともとどういういきさつでホテルを始められたのか、先代の社長のお話もお聞かせい

ただけますか。

<岡藤社長>

最初はホテルを作る予定ではありませんでした。40 年前、初代(三代前の社長)がここ

に温泉が出るということから入浴施設を作る予定だったのが、周囲の方のお話もあり宿泊

施設も合わせて作ることになりました。

<泉アドバイザー>

楊貴館にはまだ明文化した理念はありませんが、こういった地域貢献への強い思いが理

念と言えるのではないでしょうか。

社長になって3年が経ちますが、現在の悩み等をお聞かせください。

<岡藤社長>

地の利は悪く、逆にそれを強みにしていければとも思いますが、似たようなホテルがな

くお手本がありません。ホテルは 24 時間 365 日休むことがないし、楊貴館では 22 時間ス

テイもやっています。長時間の客が多くて困るというわけではないですが、それでもシフ

トなどを考えると、22 時間ステイをしていると作業効率が落ちる部分はあります。土日と

平日の繁閑の差も激しいです。

<泉アドバイザー>

複雑な作業編成になってしまいますね。

<岡藤社長>

調理場は徒弟制度がありますが、お客様の変化もあるし、今は変わり目ではないかと思

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っています。以前は昼間の団体の食事が多かっ

たのですが、だんだんと宿泊が多くなってきて

います。普通の旅館と違って朝昼食、昼夕食と

一人のお客様に一人のスタッフがつくことはで

きません。案内係と夕食係と朝食係がみな違っ

たりするので、報連相がうまくいっていない場

面が多々あると思います。

<泉アドバイザー>

楊貴館はホテル業とも旅館業ともいえない難しさがありますね。 ところで来客等のデ

ータを持っておられますが、これはいつごろからでしょうか。

<岡藤社長>

10 年くらい前にシステムを導入して、今使っているものは3~4年前に入れたものです。

<泉アドバイザー>

データがあっても今まではあまり活用していないようでしたが、今はITに強い人も採

用されていますね。

<岡藤社長>

2年前に採用しました。もともと旅館業に勤務していた者でITにも強い人材です。

<泉アドバイザー>

9月に中小機構の支援を受け入れたことについてはどのように感じられましたか。

<岡藤社長>

こうした支援をしていただくのに誰を中心に誰を対象にするかといったことを考えまし

たが、常務とも相談して現場を動かしている人間をということにしました。こういった考

える過程をいただけたことがありがたかったと思います。

<泉アドバイザー>

今回KJ法を用いて自由な意見が出ましたがどのように感じられましたか。

<岡藤社長>

予想通りの話がありましたが、意外な話もありました。今までこうして欲しいと言われ

ていたのに対応してあげていないこともあがっており、急いで対応してあげないといけな

いと思いました。

<泉アドバイザー>

私は今まで、いろいろな改善や改革をやろうとして駆け出すが、後が続かない事例を多

く見聴きしています。私たちがお手伝いする意義はここにあるかと思います。もともとあ

る力を顕在化させるのが我々の仕事ですので、ぜひ一緒にやっていきましょう。

今回、標準作業表をトライしてもらいましたがどういったご感想でしょうか。

<岡藤社長>

何かしら思いはあってもいいわけをして実践に結び付かず、今まで変わってこなかった

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ので、改善の切り口として、見える化や数値化をするというのは良いのではないかと思い

ました。

<斉藤常務>

現場の社員のレベルでこんな苦労をしているので改善したいという意見は良く聞くこと

はありますが、いざやろうとすると、いつも出来ない理由を並べて前に進めません。たと

えば風呂の脱衣所の蛇口が壊れたため使用不可の表示をしたことがありますが、この表示

を何日もしています。水道を止めないと直せないので、そのままにしているとのことでし

た。どうしたら水道を止められるかというところまで考えが及ばないのです。そこで私の

判断で支障の少ない夜中1~2時に水道を止めて修理をしましたが、このようにもう一歩

踏み込んで、改善を実践していきたいというのが支援を受け入れた最大の理由です。

<泉アドバイザー>

楊貴館のスタッフの問題点の一つは報連相が乏しいことです。若い人も最近は気付いて

いるようで、自発的にミーティングをしていますが、その話を紹介してください。

<柴田氏>

私はもともと親会社の土木事業の経理を担当していました。改善業務の窓口として9月

から正式にホテルに配属されました。それまでも、うすうすこのホテルの課題には気付い

ていました。1回目のKJ法以降、毎週木曜日の 15 時から1時間ミーティングをするよう

になりました。最初は泉先生の指導についての勉強会をしていましたが、最近は連絡事項

とクレームへの検討会をしておりコミュニケーションの大事な場になってきています。

<泉アドバイザー>

製造業だと上司からの指示で行われることですが、ここでは若い人が自発的に行ってい

るのは大変良いことです。なるべくメンバーが自発的に計画すると良いと思います。

社長として現時点での課題をどのようにお考えでしょうか。

<岡藤社長>

現場が一生懸命考えてくれているので早く対応してあげることが大切だと思っています。

そうしないとあきらめて意見を言わなくなり、モチベーションが下がってきます。

<泉アドバイザー>

今のご意見はどの会社でもヘソになることで、重要な課題だと思います。

今後、我々にどんなことを期待されますか。

<岡藤社長>

まずは外部から見て課題解決の優先順位をアドバイスしていただきたい。いつまでにこ

の課題をといったスケジュールを立てていただきたい。現場の人間は泉先生を信頼してい

るので助言をしてもらいたい。

<泉アドバイザー>

従業員からオーナーへは意見はなかなか言いにくいので、そのパイプ役は果たそうと思

います。具体的な目標があればお願いします。

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<岡藤社長>

私共を使ってくださるお客様がどういった方なのかしっかりと分析していきたいです。

<泉アドバイザー>

私はその領域の専門家ではありませんが、情報を集めて分析して目標を立てることは大

事なことだと思います。こちらはエージェントを使わず、インターネットの口コミが多い

と聞きましたが。

<岡藤社長>

もともとあまり営利目的で始めていないといった経緯もあって、あまり宣伝はしておら

ず、お客様の声をもとに少しずつ方向を見出していっていました。十数年前から「じゃら

ん」や「楽天」などネットエージェントを使うようにはなりましたが、特定のエージェン

トさんとの契約はしておりません。来ていただいたお客様に満足していただいて、また来

ていただく、または口コミで広めていただくことを考えて営業してきました。

<泉アドバイザー>

最後に、今後コーディネーター、専門家を受け入れるにあたってユーザーサイドとして

受入窓口に対する要望があればお話し下さい。

<岡藤社長>

主人が亡くなって後を継いだといったこともあって後継の問題を強く感じていました。

儲けを維持できる企業になって、まっとうにがんばれば維持できる仕組みづくりをした上

で引き渡したいと考えたので支援をお願いしました。強い会社にするのが一番の目的でし

た。泉先生のように自分たちに合った、自分たちを生かしてくださる人を紹介してくれる

ことを支援機関には期待したいです。また、地元の企業は地元の機関が一番知っているの

で、地元の機関にも支援をお願いしたいです。

<泉アドバイザー>

今言われたような悩みは中小企業の社長さんはみなさん持っておられます。おっしゃられ

るように地域のことは地域の機関が一番わかっておられると思います。本日の経済産業局

や中小機構からのお話の中でもあったように支援の方法はいろいろあるので、是非、積極

的に活用されることをお願いしたいと思います。

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コーディネーター・プロジェクトマネージャー向け研修

(独)中小企業基盤整備機構 チーフアドバイザー 綿岡 英幸 氏

講義録

日時:平成 22 年 2 月 12 日(金)13:30~

場所:中小企業大学校広島校(広島市西区草津新町 1-21-5)

1.はじめに

皆さんこんにちは。綿岡と申します。よろし

くお願いします。(独)中小企業基盤整備機構の

チーフアドバイザーとして、小売業の販路改革

等の支援をしています。本日は、アクト中食株

式会社さんへ支援に入っている内容を含め話

したいと思います。

製造業と流通業の違いの話をします。流通業

は、売上高に占める人件費率が 15%以下で特

に小売業は 10%程度と低いです。(製造業は 20

~30%)今日ここで出てくる小売業は食品小売

業に絞って話をします。

去年 12 月のリーマンショック以降、小売業は大変な状況になっています。食品小売業の

売上昨年比は新店を合わせると 97.4%、既存店では 95%です。大手の小売進出が多く、地

域中心の小売店は少なくなっています。

2.小売業のチェーンストア理論

小売業のチェーンストア理論の説明をします。チェーンストア経営の特徴は、効率重視

の考え方を追求する点です。一つ目は、ドミナント出店とも呼ばれている、特定地域に集

中的に出店し、利益を追求します。二つ目は、バイイングパワー(資材や商品)の発揮に

よって有利な価格での仕入れを実現します。三つ目は、本部と店舗の機能を分担させ業務

の効率化をはかります。四つ目は、データを活用して競争優位の確立にむけてのシステム

開発をします。しかし、チェーンストア経営は、顧客ニーズの対応ができず、顧客満足を

得られないのと同時に従業員のやる気をなくす原因との指摘も高まりました。本部集中経

営にとらわれることなく、現場の判断にまかせた地域特性に対応した店づくりも必要とさ

れ、本部集中の度合いは弱まり、本部は店舗の後方支援といった役割を深めています。

チェーンストア理論からみる大手小売業の弱点は、資料4ページに載っています。大手

小売業は、本店集中仕入になっており、効率化を徹底する上では強みですが、弱点もあり

ます。その一つ目は、店舗側がなぜそれを仕入れたのか、何を仕入れたのかが分からない

事で、販売訴求が弱くなることです。二つ目は、従業員がサラリーマン化する事です。転

勤が1年に1回又は半年に1回あり、店長が変わりますし、1店舗新設すると、玉突きで

人が変わっていきます。人が変わると顧客密着度が低くなります。これはチェーンストア

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の宿命です。三つ目は、チェーンストアの本社権限が強すぎる事です。本社が仕入れると、

店舗が仕入意図や仕入れ内容に対して意見を言います。本社は、各店からの意見に対応す

ることは困難であり、その意見を潰してしまいます。その典型的な例がダイエーです。「本

社の指示どおりになさい」と言うと、現場は意見が通らないため、モチべーションが低下

して現場が弱くなっていったのです。以上の様なチェーンストアの弱点は構造的に起こり

ます。これらの弱点を頭の中に入れて話を聞いてください。

21 世紀はサプライチェーンの時代です。製造、卸し、小売の流れの効率化をどうすれば

良いかが大きな部分です。今までは、「食品メーカー・農家」→「卸売業」→「小売」→「消

費者」という直列のサプライチェーンでした。これからは高品質、低価格を作った企業、

例えばユニクロやニトリなどが生き残ります。そうするには「食品メーカー」→(農家・

中小メーカーとの連携)「小売」→「消費者」、間を省くというサプライチェーンになりま

す。そうなると卸売業は中抜きになり、不要となります。そこで、卸売業の生き残る方法

は、オリジナル商品を作る事と、小売も始めるようにすることです。そうすると、消費者

の手に届く時には高品質、低価格が実現できます。このサプライチェーンが 21 世紀にはも

っと進みます。

ネット販売を始めるところもありますが、ネットだけでは成り立ちません。物販とネッ

ト両方で成り立っていきます。中小卸売業の経営革新の例を紹介します。一例目は、商品

知識に自信のある企業は、こだわり商材を開発して小売・ネット通販事業に進出します。

あるお茶卸業の社長は、お茶の知識は豊富ですが、卸しだけでは駄目だと思ったのでスイ

ーツへ進出しました。TV番組で紹介された途端に爆発的に売れました。これは物販とイ

ンターネット両方で成功した例です。二例目は、こだわり商材を開発し、シリーズ化して

売り場に提供します。スーパーはコーナーで商品を展開している所は、仕入先を切れませ

ん。単品だけの仕入先は切られやすいということがあります。ある菓子卸業は、100 円均一

のコーナーで棚1つを貰い、商品をシリーズ化して売り、成功しました。三例目は、独自

の仕入ルートに自信のある企業は、小売・ネット通販事業に進出します。こだわりのある

物や海外の珍しい食品などを売っています。四例目は、物流機能に自信のある企業は、他

社のできない配送ルートを開拓してルート化し、多くの商材を売り場に提供します。配送

ルートは大事です。そこで、効率化して相手の役に立つようなルートを作ります。付加価

値を付けると生産性は改善されます。

3.小売業の店舗経営上の問題店と対応策

さて、今日の本題、小売業の話をします。小売業の店舗経営上の問題店と対応策につい

ては6個のステップ(商圏調査、商品企画、販売促進企画、店舗運営企画、店舗人材教育・

店舗管理教育、評価)があります。この流れを棚卸しすると、大体何が無駄か分かります。

「商圏調査」では、お客様の分析が弱い点が問題点です。3年かけて再生した会社は、

まずアンケートから実施しました。お客様のお宅へ伺って話を聞きました。社員教育も含

めて、社員に聞きに行かせました。

「商品企画」では、小売業も卸売業も仕入れがポイントです。(商品開発能力が低いので

す。)原因は、社員が新鮮な魚市場等にあまり行った事がなく、現場実態を把握していない

からです。そのための対策としては、大手が仕入れる事ができないような地元の漁師の所

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へ行き、新鮮な魚を直接仕入れました。夜9時から 11 時頃に漁師から社員に直接電話があ

り、情報を貰ってから買うか買わないかを決めます。○○漁港の~さんの商品として売っ

ています。大手は、量が少ないので、その漁師と取引できません。直接仕入れると、その

漁師が店のお客様にもなってくれます。

第 2の問題点として、他社のサービス内容

成功事例を収集する仕組みやロイヤル・カス

タマーが逃げないような組織的販売促進や

顧客管理体制ができていません。そのための

対策としては、福岡県の成功した他社調査を

実施しました。例えば、福岡県飯塚市に6,

7店舗出店しているスーパーがあります。そ

の社長は、競争が厳しいため早期にロイヤ

ル・カスタマーを作ろうと考えました。

幸い、飯塚は地元農家が多いので農家を組織化しお客様にできないかと考えました。そ

こで、農家の人から商品を直接仕入れるようになりました。農家にとっては利幅が高く、

現金収入になります。そして、スーパーにとってはお客様にもなります。今では個人の農

家が 500 人と取引しています。隣に大手チェーン店が出店してもこのスーパーは全く業績

が悪化しませんでした。このようなビジネスモデルを持っている高知県のあるスーパーも

地域密着型スーパーで有名です。このビジネスモデルは 10 年前に始まり、5年前に完成形

になりました。

第 3 の問題点として、販売促進の評価が曖昧なため、多くの販売促進費(売上高の3~

4%)がかかっています。そのため、多くの小売業は、販売促進コストを削減して集客を

はかるために、曜日定例企画(98 円均一等)に力を入れています。具体的には、チラシサ

イズを小さくしてコスト削減をしています。同じ企画やチラシを継続して、消費者に企画

内容と曜日を頭の中に刷り込むことが大切です。

「店舗運営企画」では、店舗の工夫や良い事例を水平展開ができていない会社が多いで

す。悪いところを指摘するのではなく、良さの視える化をしないといけません。視える化

することによってモチベーションを上げ、生産性向上をはかります。製造業は悪さやミス

を探しますが、小売業は良さを見つけます。そうすると生産性が上がります。

「店舗人材教育・店舗管理教育」では、社員や従業員のやりがい・待遇面の不満解消が

組織的にできていません。従業員のやる気が変わると、食品スーパーでは売上げが5%上

がり、アパレルでは 20%上がります。それほど違いがあります。そこで、現場指導では良

い事を褒める事が大事です。逆に本社指導では、悪い事8割、良い事2割で話しかけます。

人材教育では、自己完結型の仕事をさせるとモチベーションが向上します。現場のヒア

リングを徹底的にし、不満を社長へ伝えます。部門長の利益管理表を日々徹底的にやりま

した。無駄な在庫がなくなります。若手の不満をヒアリングしながら育成をしっかりやり

ました。

「利益評価」では、部門別の利益管理を徹底的にしました。売上げより利益重視の意識

が定着し、在庫回転が良くなり、売上前年比 103%が3年くらい続いています。

また、新店をどこへ出すかが明暗を分けます。失敗する会社はこの失敗が沢山あります。

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具体的には、出店判断は新店の評価表や経営者の勘で点数をつけて判断します。投資回収

計画年数は5~7年、早くて3年で回収計画をしています。新店オープン後、当初の売上

げの計画との誤差を比較して改善を実施します。

4.アクト中食の支援内容

(秘匿)

5.最後に

これからは流通内容の無駄を視える化し、手直しし、コストをミニマムにすると、本当

に良い商品、新しい業態が出来ます。それを仕組みにして最強の流通チャネルを作ります。

豆腐やバターなど何でも良いのでこれをミニマムコストにしていきます。そのためのコン

サルタントを育てていきます。それを続けて徹底していくと新しいビジネスモデルが出来

ます。また、「良い商品の提供」をしていくには、ある指標に基づいて 80 店舗全店に良い

商品を導入~拡販したかどうかの指標を検討していきます。

ご清聴ありがとうございました。

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コーディネーター・プロジェクトマネージャー向け研修

アクト中食株式会社 代表取締役専務 平岩 宏隆 氏

独立行政法人中小企業基盤整備機構 プロジェクトマネージャー 増岡 洋 氏

独立行政法人中小企業基盤整備機構 チーフアドバイザー 綿岡 英幸 氏

対談録

日時:平成 22 年 2 月 12 日(金)14:30~15:45

場所:中小企業大学校広島校(広島市西区草津新町 1-21-5)

<増岡プロジェクトマネージャー>

平岩専務には具体的な取り組みの中身についてお話いただきます。①食品小売業の経営

について②FC事業について③戦略、ビジネスモデルについて。以上3つについて主に聞

いていきたいと思います。

<平岩専務>

アクト中食㈱の平岩です。本日は、中小企業を支援する方にとってヒントとなる事、日

頃の悩みや出来ていない事を伝えたいと思っています。よろしくお願いします。

<増岡プロジェクトマネージャー>

現在、アクト中食さんはじめ、福山のドラッグストアや米子の運送業者、タクシーとバ

ス運行業者、長門市のホテルの支援をしています。この事業の支援制度は3月に終了する

のですが、引き続き中小企業基盤機構の専門家派遣事業のなかで支援を1~2年間継続さ

せていただく予定になっています。それではまず初めに、事業内容について聞きたいと思

います。

<平岩専務>

パンフレットをご覧下さい。これは 2003

年に私が作りました。2ページ以降に載っ

ているように3本の事業柱があります。

1本目の「業食事業部【卸・商社】」で

は、広島県を中心とし、その他岡山県や山

口県、松山などで、飲食店に対するルート

セールスをしています。冷凍とドライの2

層のトラックを使いセールスしています。

2本目は「米穀事業部【製造】」です。

米屋が発祥の会社です。1911 年が創業ですので来年で 100 周年になります。実はこの事

業の売上げは○○億円足らずですが、もともとは米屋でしたので、ここがルーツと言えま

す。3本目の「ストア事業部【小売】」では、小売店のプロマートやプロマートをフランチ

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ャイズで出店した業務用食品スーパー(GSS)を展開しています。

ここで、会社の紹介をさせていただきます。草津に本社を置いています。1911 年に創業

していますので、100 年の歴史があります。現在売上高○○億円、パート○○名を含む従業

員数は○○名です。経営理念は、「全社員の幸福」、「お得意様の繁栄」、「仕入先様の発展」

です。三方よしの経営を通して、企業の永遠の存続を図り、もって地域社会に貢献する事

を企業目的とします。この経営理念は父の代に作られました。2005 年に代替わりし、兄が

社長、私が専務になりました。基本的に新しい事好きで新しい事をするのに抵抗はありま

せんが、変えて良い事・悪い事があると思いますが、この経営理念は変えずに守るべきこ

とではないかと思い、これを続けています。2002 年3月 12 日に業務用食品スーパーをオー

プンしてこの売上げをベースにして卸の方もパワーアップしました。

次に事業の沿革です。1911 年に高陽町で平岩商店を創業しました。この頃は一般のお客

様へ米を販売しておりました。1950 年に法人になりました。1975 年に精米工場を持ちまし

た。1985 年に正式に業務用卸専門部門を作りました。2002 年に業務用食品スーパー1号店

をオープンしました。2006 年に宮崎の成果を扱う会社を作りました。子会社を作りました。

100 年の歴史を振り返ります。創業した米屋では一般のお客様に米を売っていました。高

陽から胡町へ出てきて、業務店へ販売するようになりました。その頃は、戦争が終わり、

1950 年頃、飲食店が街中に多くできた時代でした。飲食店へ米と一緒に砂糖や醤油、油な

どを卸していたので、業務用食品の商社の機能を付けました。その機能を高めこれを小売

でやりたいと言い出したのだろうと思います。ちょうどバブルの弾ける前でした。バブル

後、飲食店のマーケットが難しくなりました。飲食店は今後もずっと景気が良くはいかな

いだろう、取引先の倒産もあるだろうから何とかしないといけませんでした。日本人の食

生活も変化し、業務用食品が一般消費者にも受け入れられるのではないか?ということと、

より多くの人に売りたいという思いで小売店にチャレンジしました。次に、世の中のあり

とあらゆる事例を参考にしながら、小売をFCでやってみました。FC店を現在 55 社抱え

ていますが、支援する本部はどうあるべきかを考えていくと、店舗が儲からないといけな

いので、モチベーションをいかにアップさせるか、商品知識をつけるかをコンサルタント

しています。全事業にコンサル機能が必要だと感じています。そして今までは、各事業部

が別々の人、場所でやっていたのですが、「食関連企業へのお役立ち企業」という事で各事

業部が繋がってきました。

現在、飲食店の○○件のお客様がいます。○○ルートで1日○○件配達しています。こ

こに人件費がかかります。大手の会社はできないことだと思っています。それが参入障壁

だと思っています。しかし、トラックで回ってお客様との接点が大事です。油や醤油など

の皿の脇役から肉、魚、野菜など皿の真ん中に座る商品へと配達する商品が変化していっ

ています。こうして売上げを増やしてきました。取り扱いアイテムが多いほど効率的です。

スイーツを始めようかと考えています。自社を活性化させるものとしてどんどん接してい

こうと考えています。

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(秘匿)

このような考えで、お客様のお役立ち業として接点が強まり、新しいビジネスが生まれ

るのではないかと考えています。まだ、目的に向かって戦略的に効率的に出来ていないな

と感じながらやっています。以上が事業内容と歴史です。

<増岡プロジェクトマネージャー>

地方で業務用スーパーのFCを展開するのは難しいと思います。何が転機になって売上

げが上がったのか、専務の経歴を合わせてお話ください。

<平岩専務>

(秘匿)

<増岡プロジェクトマネージャー>

製造業と小売業分かった人がそれぞれ欲しいと言いますが、専務の立場として分かり易

く説明してください。

<平岩専務>

商品力強化が大きな課題です。過去は、商品のボリュームを大きくして安くするとか、

仲間企業の紹介をしてもらったら安くするなどの取り組みをしていました。今は、いかに

製造ラインから合理化するかという事が大事だと思います。食品の製造ラインを見て意見

を言える人がいたらいいなと思います。

<増岡プロジェクトマネージャー>

ものづくりから分かった事はどのようなメリットがありますか。

<綿岡チーフアドバイザー>

アクト中食さんは、高品質低価格を実現されるために、製造~卸~小売まで全ての機能

を網羅したいという経営戦略が明確です。例えば、住宅製造業の場合、製造段階でのロス

コストが発生しているのですが、それを大手住宅メーカーが中小住宅製造業に対して、定

期的に製造指導して、ロスコストを最小化して、お互い共存していくビジネスモデルが出

来ています。お互い共存するためのソフトな部分の強化をしたら社会的にも意義があるこ

とだと思います。

<増岡プロジェクトマネージャー>

アクト中食さんのお客様のなかで一般消費者と飲食業の割合はどうですか。また、他の

一般消費者向けスーパーとの差別化はどうしていますか。

<平岩専務>

一般消費者が○○%で飲食店が○○%です。FCの加盟店が増えると、○○の商品が欲

しいなど要望が増えてきます。昔はそれを一つ一つお客様の不満足をいかに減らすかと対

応していたことがありました。これを続けると中小規模のスーパーは生き残れません。突

き抜けた商品構成、独自性のあるスーパーを作っていかないといけません。業務用スーパ

ーという名前を付けているほどですので、そこでの商品開発をしていかないといけないと

思います。

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<増岡プロジェクトマネージャー>

外部の人材を積極的に採用されているようです。前の会社のやり方が抜けないなどある

と思いますが、どのようにアクト中食色に染めるのですか。

<平岩専務>

まず、新しい事をしようとした時、そのために社内で人材を育てるのは不可能なので、

できる人に入社してもらえるようにお願いします。その道については先生と思って接しま

す。会社内でその力が発揮できるように援助します。すぐ成果を出すとは思ってはいませ

ん。組織に溶け込んで力を発揮するのは2~3年かかると思っています。

<増岡プロジェクトマネージャー>

本人が成果を出せるように寛容な姿勢で迎えて育てているのは立派です。難しいことだ

と思います。

<綿岡チーフアドバイザー>

たまたま私の元同僚もアクト中食へ入社しています。新しい人に自由にやって貰って「待

つ」というのは、大きくなる秘訣です。緩やかな管理状態ですから、自由に仕事ができま

す。アクト中食は、会議では賑やかなくらい意見が出ます。とても元気が良いです。正直、

アクト中食のビジネスは固まってないので、外部の人だからこそ自由にやり易いのだと思

います。良い取り組みをしておられます。

<増岡プロジェクトマネージャー>

宇品のスーパーの近隣に大手スーパーが沢山出店しています。対策はありますか。経営

者として何をしたら良いと思いますか。

<平岩専務>

(秘匿)

<綿岡チーフアドバイザー>

大手が出来ないこと、大手の逆をやると上手くいきます。大手では、仕入れは本社、売

るのは店舗と別になっています。そのため、大手ではできない、「店舗担当者が自分で現物

を見て買い、その良さを訴求して販売すること」ができます。

(秘匿)

<増岡プロジェクトマネージャー>

食品スーパー経営者の資質には何が必要でしょうか。

<平岩専務>

スーパーは本店より現場に重きがあります。チェーンスーパーの社長は本当の現場を見

ていない場合が多いのではないかと思います。どこまで現場の事がわかるかが重要だと思

います。今は、宇品地区は値段だけでは商売できない状況です。すぐに接客レベルを上げ

るのは難しいです。だからと言ってノルマを増やしても駄目です。なぜここで働くのかと

考える事、考え方を理解させ、目的と行動の意味をしっかり教えます。

<綿岡チーフアドバイザー>

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流通業は時代の流れに合わせて変えていくことが大事です。次の4項目が経営者に重要

な事です。①新しい事を始めようとする事が重要な話です。②人のモチベーションが重要

です。例えば、女性が多いことが製造業と違います。女性を笑わせたり、褒めたりする事

です。③行動力、すぐ行動するスピード感が重要です。環境に合わせるためのスピードと

忘れないためにメモ書きをして、行動することが大切です ④粗利が小さいため、本社コ

ストに厳しくないといけません。そのためには、本社建物を立派にしないことです。

<増岡プロジェクトマネージャー>

1.FCで 80 店舗ありますが、これからまだ拡大しますか。

2.これから出店するのはどのあたりを狙っていますか。

<平岩専務>

(秘匿)

<増岡プロジェクトマネージャー>

スーパーを見る時のポイント、何を見たら特色が分かりますか。

<平岩専務>

店の立地を見ます。どんな競合店があるか。どんな商品価格がついているか。バックヤ

ードが綺麗か汚いか、例えば伝票がファイルされているかを見ます。経営者の考えや社員

に対する思いをヒアリングします。

<綿岡チーフアドバイザー>

経営者と話をすると大体分かります。1.従業員満足に対する意識がどれだけあるか、

行動スピードがどれほどあるか2.伸びている会社は、アクト中食さんのように風土は自

由な雰囲気で話せていることと、トップダウンとボトムアップをバランス良くしているこ

とです 3.販売の仕組みは(ビジネスモデル)を差別化するためには、大手が実施して

いる仕入~販売方法の逆をしたらよい4.結果で怒らないことが大事です。プロセスを向

上をすると、結果売上げが上がります。

<増岡プロジェクトマネージャー>

今日は熱心に話していただきありがとう

ございました。平岩専務の積極性、行動力が

大きいと思います。アクト中食さんは、全国

色々な場所で展開されているので、今日研修

に来たコーディネーターの方は、販路開拓の

新しいきっかけになればいいなと思ってい

ます。以上で終わりたいと思います。どうも

ありがとうございました。

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コーディネーター・プロジェクトマネージャー向け研修

財団法人ひろぎん経済研究所 主任研究員 遠山 文雄

講義録

日時:平成 22 年 2 月 12 日(金)16:00~17:00

場所:中小企業大学校(広島県広島市西区草津新町 1-21-5)

1.単純回帰分析

本日は、難しい数学的な説明は省略し、パソコンの操作方法と、分析結果の読み取り方

をご説明します。分析結果の読み取り方については、広島大学大学院社会科学研究科の宜

名眞勇教授が推奨されている手法をご紹介します。決定係数ばかりに注目する読み取り方

には留意が必要です。

特に、「分析ツール」というソフトウェアをインストールしていない場合でも実施できる

回帰分析のやり方をご紹介します。

まず、単純回帰分析についてご説明します。

あるデータを左下図のように散布図にプロットすると、右肩上がりの方向に分布してい

るように見えることがあります。この時、x軸のデータとy軸のデータの間には、右下図

のように、右肩上がりの直線の関係があることが予想されます。このような場合に、直線

の式を求める手法を、単純回帰分析と呼びます。

例として、CVSチェーン(仮想)をとりあげてお話します。資料の表のような 20 店舗

を有するCVSチェーンがあり、半径 500mの商圏人口が 3,500 人の場所への出店を検討し

ているというケースを想定します。この場合、新規店舗では、どのくらいの売上高(日商)

が見込まれるでしょうか?

これを計算するためには、商圏人口と売上高の散布図をつくり、そこに単純回帰分析の

直線を描き、商圏人口 3,500 人に対応する直線上の点Aについて、売上高を計算すれば良

いのです。

単純回帰分析により直線の式(回帰方程式)を求めると、y = 0.2799x + 151.87 となり

ます。単純回帰分析をする(つまり回帰方程式を求める)ということは、0.2799 とか 151.87

といった値を計算することです。0.2799 とか 151.87 といった値は、パラメータと呼ばれて

います。この例では、パラメータは2つあります。

回帰方程式の x は商圏人口、y は売上高を表しています。つまり、この式は、「商圏人口

が 1人増えると、売上高が 0.2799 千円(=280 円)増える」ということを表しています。

商圏人口 3,500 人の場所に出店した場合の売上高は、回帰方程式の x に 3,500 人を代入す

ることにより、1,132 千円(=0.2799×3,500+151.87)と計算されます。

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単純回帰分析の式は、次のような一次方程式で表されます。

y = a0 + a1x

a0は「切片」を表す定数

a1は「傾き」を表す定数

xはyに影響を与える「原因」となる変数

yはxによって引き起こされる「結果」を表す変数

xとyの間には「因果関係」が成立しなければなりません。つまり、xが原因となって、

yという結果が引き起こされるということです。この時、x を「説明変数」、y を「被説明

変数」と呼びます。

このケースでは、変数xの商圏人口が原因となり、変数yの売上高という結果が生じる

という因果関係の仮説が描かれています。つまり、「商圏人口が多い店舗ほど売上高が大き

い」、あるいは「商圏人口が少ない店舗ほど売上高が小さい」ということです。

それでは、単純回帰分析のパソコン操作方法についてご説明します(説明の議事録は省

略)。

計算結果は、以下のⅰ~ⅲ手順で評価します。つまり、ⅰが最も優先されるべきチェッ

ク項目であり、次いで、ⅱ、ⅲの順にチェックしていきます。この評価の手順は、広島大

学大学院社会科学研究科の宜名眞勇教授が推奨されているものです。

ⅰ.パラメータの符号(プラスあるいはマイナス)が

因果関係の仮説に適合しているか

ⅱ.パラメータの「t値」の絶対値が

「パラメータが 0である確率が 5%のt値」を上回っているか

ⅲ.決定係数が十分な大きさとなっているか

ここでは、パラメータの符号の見方を、「傾き」(つまりxの係数)について説明します。

事例のCVSチェーンについて回帰分析を行った結果、「傾き」の符合がプラスになった場

合を想定します。この場合は、結論として「商圏人口が多い店舗ほど、売上高も多い」と

いう結論が得られたことになります。この結論は、分析を行う前の仮説が正しかったこと

を意味していますので、この計算結果を採用します。

反対に、「傾き」の符号がマイナスになった場合を想定します。この場合は、結論として

「商圏人口が多い店舗ほど、売上高が少ない」という結論が得られたことになります。こ

の結論は、分析を行う前の仮説と矛盾していますので、この計算結果は採用しません。

次に、パラメータのt値の見方を、「傾き」(つまりxの係数)について説明します。

このCVSチェーンが立地する地域には、ライバル店も含めるとCVSが 100 カ所あると

仮定します。これまでの回帰分析の計算では、自社店舗の 20 カ所のデータから、回帰直

線の「傾き」などを計算してきました。しかし、ライバル店も含めた 100 カ所のデータ

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から「傾き」を計算できれば、新規出店前の売上高の予測の精度をさらに高めることが

出来ます。

このように、分析の対象となる全体の集団を「母集団」(この事例では 100 カ所)、この母

集団から抽出された集団を「標本」(この事例では 20 カ所)と呼びます。

回帰直線の「傾き」が0であるかないかは、非常に重要です。「傾き」が0の場合とは、

下図のような状態です。この場合、商圏人口が多くても少なくても、売上高は 1,500 千円

で一定の値をとっています。つまり、商圏人口は売上高に影響を与えていないので、因果

関係が存在しないことになります。

20 カ所の標本のデータから「傾き」を計算すると、ピタリと0になることは極めて稀で、

0に近い計算結果が得られた場合でも、0.002 とか、-0.0005 などのように、0とは若干異

なることが多いでしょう。

20 カ所の標本データの「傾き」が0でない場合でも、母集団(100 カ所分)の「傾き」

が0であるかどうかを推計しておく必要があります。母集団の「傾き」が0ならば、標本

の「傾き」もおおむね0であると考えられるからです。

母集団の「傾き」が0であるかどうかを判断する指標がt値です。

続いて決定係数についてご説明します。決定係数とは、回帰分析により求めた方程式の

あてはまりの良さ(=精度)を表す指標です。あてはまりが最も良い時、決定係数は1と

なります。この場合には、左下図のように、全てのデータが求めた方程式の上に並んでい

ます。あてはまりが最も良くない時、決定係数は0となります。この場合、右下図のよう

に、データのほとんどが方程式の上に並んでいません。また、方程式の傾きは0(=方程

式が水平)になっており、xがどのような値をとっても、yの値は全く変化しません(つ

まり全く関連性がありません)。

2.重回帰分析

1つの被説明変数(y)で表される結果を、1つの説明変数(x)によって説明する方

法が「回帰分析」でした。

これに対して、1つの被説明変数(y)で表される結果を、2つ以上の説明変数(x1、x2、

x3…)によって説明する方法を「重回帰分析」と呼びます。

重回帰分析の式は、次のような形になります。

説明変数が2つの場合: y = a0 + a1x1 + a2x2

説明変数が3つの場合: y = a0 + a1x1 + a2x2 + a3x3

説明変数が n個の場合: y = a0 + a1x1 + a2x2 + a3x3

+ … +anxn

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重回帰分析においても、x1、x2、x3…とyの間に因果関係が成立し、x1、x2、x3…が原因となってyという結果が生じていることになります。

前述のCVSチェーンについて、商圏(半径 500m)内に立地している「競合店舗数」の

データを入手できたとします。このCVSチェーンが、商圏人口 3,500 人、競合店舗数 8

カ店の場所へ出店した場合、どのくらいの売上高(日商)が見込まれるでしょうか?

先ほどの例では、「商圏人口」という1つの説明変数によって単純回帰分析を行い、売上

高を 1,132 千円と推計しました。今回は、「商圏人口」と「競合店舗数」という2つの説明

変数がありますので、重回帰分析により、精度の高い推計を行うことが期待されます。

重回帰分析を行った結果は、以下のようになります。

y = 284.4235 + 0.264063x1 + ▲22.5636x2

この式のx1に 3,500 人、x2に 8 カ店を代入すると、売上高は 1,028 千円と推計されま

す。

284.4235 + 0.264063 × 3,500+ ▲22.5636 × 8 = 1,028

このように、重回帰分析を利用すると、複数の要因による影響を反映した推計を行うこ

とができます。

続いて、自由度修正済み決定係数についてご説明します。

決定係数は、回帰分析により求めた方程式のあてはまりの良さ(=精度)を表す指標で

すが、「説明変数を増やせば増やすほど、決定係数が高くなる」という問題点を抱えていま

す。あまり意味のないものであっても、とにかく説明変数を増やしさえすれば、決定係数

が高くなってしまいます。

例えば、CVS20 カ所のデータに、下表のように「RANDOM」という意味のない説

明変数を加えて重回帰分析を行うと、決定係数は 0.865143 となります。「RANDOM」

を加える前の決定係数は 0.863809 ですので、僅かですが決定係数が高くなっています。

この問題点に対応した指標が、自由度修正済み決定係数です。

自由度修正済み決定係数についてお話する前に、自由度について簡単にご説明します。

例えば、100 カ店の中から3カ店を選び出すことを考えます。3カ店は自由に選ぶことが

出来ますが、平均の売上高を 100 万円するという条件が付けられているとします。

選択する人は、最初に売上高 90 万円の店を選び、次に売上高 110 万円の店を選んだとし

ます。この場合、3カ店目には、必ず売上高 100 万円の店を選ばなくてはなりません。つ

まり、選択者が自由に選べるのは、3カ店のうち2カ店だけです。

4カ店を選ぶ場合では、売上高の平均が 100 万円という条件が決められていると、選択

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者が自由に選べるのは3カ店だけです。

このように、自由度とは、あらかじめ設定されている条件の分を差し引いて、選択者が

自由に選べる標本の数のようなものだと考えて下さい。上図の事例では、最初のものが自

由度2、次のものが自由度3ということになります。

先ほど、決定係数には、あまり意味のないものであっても、説明変数を増やせば増やす

ほど、決定係数が高くなるという問題点についてご説明しました。この問題点を解決する

ため、自由度に応じて決定係数を調整したものが自由度調整済み決定係数です。

つまり、説明変数を増やすと自由度が小さくなりますので、その分、決定係数を小さく

します。このように自由度にあわせて決定係数を小さくしますので、あまり意味のない説

明変数を加えると、自由度調整済み決定係数は小さくなってしまいます。

反対に、十分に意味のある説明変数を加えれば、自由度にあわせて決定係数を小さくする

調整を行っても、自由度調整済み決定係数は大きくなります。

3.判別分析

前ページの表を散布図にしたものが、左下図です。この図では、「購入経験あり」のグル

ープと「購入経験なし」のグループに分かれているように見えますが、どのように分けれ

ばよいかがもう一つはっきりしません。

そこで、右下図のように、2つのグループに分ける直線を引く方法が考えられます。

判別分析は、2つのグループを最も上手にグループ分けできる直線を計算する統計手法で

す。

この直線を「分割直線」、直線の式(ax+by+z=0)を線形判別関数と呼びます。

この直線を表す式は、以下のようになります。

0.910x + y -73.927 = 0

xは年齢、yは年間購入額

この式に、20 人の年齢と年間購入額を代入して計算すると、下表の通りとなります。計

算結果がプラスの人は、分割直線の上側、すなわち「購入経験あり」のグループであると

判定されます。計算結果がマイナスの人は、分割直線の下側、すなわち「購入経験なし」

のグループであると判定されます。

購入経験があるのに「購入経験なし」と誤って判定された人は1人、購入経験がないの

に「購入経験あり」と誤って判定された人も1人です。この事例では、20 人のうち 18 人が

正しく判定され、2人が誤って判定されています。このように、正しく判定する割合を「判

別的中率」と呼びます。この事例では、判別的中率は 90%です。

判別的中率の目安としては、80%以上であることが望ましいと考えられています。

判別分析の使い方についてお話します。

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この百貨店では、最近1年間で新しくポイントカード会員になられたお客様のなかには、

この1年間で絵画の購入経験がない場合でも、これから絵画を購入する可能性が十分にあ

ると考えました。そこで、このように新たに会員になられたお客様のなかから、この百貨

店での年間購入額が大きい人をリストアップしたところ、左下表のようになりました。

この 10 人について、一人ずつ年齢と年間購入額を下式に代入して計算すると、右下表の

ようになりました。この計算結果がプラスのお客様は、「購入経験あり」のグループに分類

されることから、購入可能性が高いと考えられます。一方、計算結果がマイナスのお客様

は、「購入経験なし」のグループに分類されることから、購入可能性が低いと考えられます。

0.910x + y -73.927 = 0

xは年齢、yは年間購入額

このように、判別分析は、購入するか否か分からないお客様の中から、購入可能性が高

いお客様を抽出する場合などに有効です。

以上で本日のお話を終了いたします。ありがとうございました。

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平成21年度サービス産業生産性向上支援調査事業

「中国地域における重層的なサービス産業生産性向上『運動』展開事業」報告書

平成22年3月 中国経済産業局 産業部 流通・サービス産業課 〒730-8531 広島県広島市中区上八丁堀6-30 電話(082)224-5655

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紙にリサイクル可