人々の「地元」に対する概念的・空間的認識の多様性人々の「地元」に対する概念的・空間的認識の多様性...

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人々の「地元」に対する概念的・空間的認識の多様性 誌名 誌名 農村計画学会誌 = Journal of Rural Planning Association ISSN ISSN 09129731 巻/号 巻/号 363 掲載ページ 掲載ページ p. 465-474 発行年月 発行年月 2017年12月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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人々の「地元」に対する概念的・空間的認識の多様性

誌名誌名 農村計画学会誌 = Journal of Rural Planning Association

ISSNISSN 09129731

巻/号巻/号 363

掲載ページ掲載ページ p. 465-474

発行年月発行年月 2017年12月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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►論文◄

人々の「地元」に対する概念的・空間的認識の多様性

ー地域のまちづくりへの活用に向けた定量的解析一

The Diversity of Conceptual and Spatial Perception of "Jimoto":

Quantitative Analysis for the Application to Regional Planning and Projects

関口達也*林直樹**杉野弘明***寺田悠希****

Tatsuya SEKIGUCHI*, Naoki HAYASHI**, Hiroaki SUGINO***, Yuuki TERADA****

(*中央大学 **金沢大学 ***東京大学 ****放送大学大学院)

(*Chuo University, **Kanazawa University, ***The University of Tokyo, ****The Open University of Japan)

I はじめに

1 研究の背景と目的

日常の中で「地元」という言薬に触れる機会は多い。

この「地元」に対して人々が抱く意識が「地元意識」で

あり「自分の出生地.居住地あるいは勢力範囲である

地域に対してもつ意識」という辞書的な意味を持つ)i I l 0

ただし,出生地や現住地等のいずれが「地元」となるの

か,また,「地元」はどの程度の空間的な広がりを持つ

のかは個人により異なると考えられるため,「地元」と

いう言葉から連想される場所や範囲は非常に多様かつ曖

昧である。

一方,地元意識とまちづくりの関係をみると,地元と

考える地域に愛着を有する人が多く 11, さらに地域に愛

着を持つ人は地域の協力的活動に積極的であること 21が

指摘されている。よって,地元意識を持つことは住民参

画の意欲・機会の増加につながりまちづくりを支えて

いると考えられる。実際に地方自治体や企業・ NPOに

よる「地元」をキーワードとするまちづくり事業注21 も

存在するが,各自の地元での事業に参加できている人々

は3割程度である 3)。もちろん事業に直接的に参加でき

ずとも,基金等を通して間接的に関わる方法も存在する4I 0

人々が「地元」に抱く認識の多様さ・曖昧さを考慮す

ると.それらの「地元」に関わる事業への人々の参加を

促すためには各自の「地元」として想起される場所・範囲

さらに「地元」のまちづくりへの関心を適切に把握する

必要がある。なぜなら, この言葉に対する人々の認識を

把握することは「地元」に関わる事業の達成可能性の予

測.その地域を「地元」としつつも他地域へ居住する人

への周知複数地域の事業連携の必要性の検討を可能に

する。さらに,事業の中でこの言葉を用いる際に主体間

での解釈の麒齢を避けることにも役立つからである。

以上を踏まえ本稿では.「地元」に対する人々の認識

に着目し,「地元」の認識の多様性を前提としたウェブ

アンケート Ji:l iの分析により「地元」の概念的・空間的

な認識の分析を行い.その特性を明らかにする。さらに

それらと人々が地元に望まない変化との関係性を把握す

ることで.各自の「地元」に対して抱く認識や想いを定

量的かつ体系的に整理することが研究の目的である。得

られた結果は,今後の「地元」を巡るまちづくりや地域

振興事業の立案の基礎資料として活用可能と考えられる。

以下,本章後半では既存研究と比較した本稿の位置づ

けを示し, II章で調査の概要を示す。 III~V章では人々

の「地元」に対する概念的認識・空間的認識に着目した

分析を行う。 VI章ではさらに各自の「地元」に望まない

変化について分析を行い,地元におけるまちづくりの関

心を視野に入れた分析を行う。そしてvn章で本稿を結ぶ。

2 既存研究と研究の位置づけ

人々の「地元」に対する認識に着目した研究は過去に

もみられる。浅野5! は環境問題に関わる公共事業計画に

推進・反対する各主体の「地元」の空間的な捉え方につ

いて,金井6) では原子力発電所の立地問題に対する地元

同意制と「地元」の範囲の定義について事例分析を行っ

ている。いずれも,特定の計画・事業の当事者が抱く「地

元」の空間的認識を扱っている。そこでは,各自の利害

関係に応じて「地元」の空間的範囲が拡大・縮小解釈さ

れることが指摘されている。ただしこれらは対象の個別

性が高く,結果の一般化は困難である。また,中学生が

日常的に考える「地元」の範囲を地図により分析し,空

間的認識の地域差を明らかにした研究7) もみられるが,

対象が限定的であるうえ概念的認識には着目していない。

一方,本稿では一般的なまちづくり事業等において「地

元」という言葉(文字)を見た時に人々が想像するであ

465

Page 3: 人々の「地元」に対する概念的・空間的認識の多様性人々の「地元」に対する概念的・空間的認識の多様性 誌名 農村計画学会誌 = Journal

ろう場所・範囲に着目し,全国的なアンケートの分析を

通して多様な個人属性に応じた地元意識の傾向を把握す

る。そのため,特定地域の既存の特定の事業に関する質

問を行わないことで,既存研究で指摘される具体的な利

害関係による認識の歪みを極力排除し,人々の「地元」

に対する第一義的な認識を対象にする。まちづくりのた

めの地元意識の調査は過去にも存在するがlI. 31, 本稿で

は単純集計に留まらず統計的分析までを行う。

II アンケート調査の概要

2015年 3月に全国の 18歳以上の男女を対象にウェブ

アンケートを実施し, 1.033件の回答を得た。調査にあ

たり,インターネット調査業者 (MyVoice) に登録さ

れた全国約 100万人のモニターから,性別,年齢 10歳

階級が均等になるようにした。調査では各自の地元に関

する質問の他に,個人属性(性別,年齢等)や主要なラ

イフイベントの履歴を聞いた(表 1)。

各自の「地元」(以下,地元)に関する質問では,「地

元だと思う場所が有する条件甘い」として, 1) 良い思

い出がある, 2)落ち着く, 3)快適である, 4)地域

の一員感(その場所の一員としての実感がある), 5)

定住希望(ずっと住み続けたい), 6) 高齢時に居住希

望(高齢になって住みたい), 7)誕生場所, 8)現住

場所 9)お墓がある(お墓参りで訪れる), 10)友人・

知人が多い(多くの友人・知人に会える), 11) 家族の

存在(家族の多くが住んでいる), 12) その他, 13) 地

元はない, 14) わからない,から複数回答を許容し選択

してもらった。また地元のある都道府県とその地域環

境(平地・山間の農村・漁村/都市部/郊外部),地元

の形状(特定の施設を基点に広がる/明確な基点はなく

行政界等で区切られる),範囲を聞いた。さらに「地元

に起こってほしくない変化」(以下,望まない変化)を

自由記述してもらった。

I11 地元の概念的認識

まず.地元が有する条件への回答結果に着目する。表

2をみると「良い思い出がある」.「落ち着く」.「誕生場

所」.「現住場所」は 3割以上の回答者が選択している。

この地元の概念的認識への回答に基づき回答者の類型

化を試みる。この際,概念的認識は複数の条件が組み合

わさり構成されることを考慮する。地元の有する条件の

うち,その他地元はない,わからないを除く 11条件

のいずれか 1つ以上にあてはまると答えた 912の回答に

数量化m類を適用したところ.地元の概念的認識を集

466 農村計画学会誌 Vol.36, No. 3, 2017年12月

約した 5軸の量的変数が得られた(累積寄与率 61.1%)。

その導出の過程で得られたカテゴリースコアは表 3の通

りである。次に回答者ごとに各軸の量的変数を算出し,

そのスコアについてクラスター分析(距離測度:ユーク

リッド平方距離,連結法: Ward法)を適用したところ,

地元の概念的認識に基づき回答者は 6類型に分類でき

た。各類型の意味づけを行うために,地元が有する各条

件への回答結果を類型ごとに集計しだ戸(表4)。

まず,類型 1・2・4では特定の 1項目のみが選択され

た。また類型 3は全員「お墓がある」を挙げており「一

貝感」を挙げた回答者も最も多く,さらに将来的な居住

意欲があること,「友人・知人が多い」,「家族の存在」

も比較的多く挙げられている。ここから,類型 3では家

系・人間関係等の過去から現在までに培われた多様な地

域との繋がりにより地元意識が形成されていると考えら

れる。一方,類型5は類型3とやや似た回答傾向であるが,

「家族の存在」が突出する点と「お墓がある」が選択さ

れない点で異なる。また,友人・知人の存在も比較的多

く,類型 5では地域そのものとの繋がりよりも,現状で

表 1 回答者の主な個人属性

Table I Major Attributions of Respondents

性別 男性 506/女性 527

年齢20代以下 201/ 30代 208/ 40代 212/ 50代 207/

60代以上 205

ライフ 大学・大学院進学 662(346, 316) /就職 852(417,

イベン 435) /転職 536(271, 265) /結婚 650(293, 357) /

トの 住居購入 484(242, 242) /車の購入 621(344, 277)

体験 /子供の誕生 554(249. 305) /定年退職 125(81. 44)

注: 1)項目の横の数字は該当者数(人)を表す。括弧内の数字は

(男性女性)の該当者数(人)を示している。

表2 地元が有する主な条件

Table 2 The Requirements for "Jimoto"

条件と該当者数(人)

良い思い出がある 370/落ち着く 408/快適である 176/一員感

192 /定住希望 250/高齢時に居住希望 64/誕生場所445/現

住場所 315/お墓がある 71/友人・知人が多い 213/家族の存

在 182/その他 16/地元はない 55/わからない 48

表3 数量化lII類のカテゴリースコア

Table 3 Category Scores of Quantification Theory Type III

軸 l 軸 2 軸 3 軸 4 軸 5

良い思い出がある 0.589 0.495 -0.695 0.761 1.233

落ち着く 0.278 0.641 -0.121 -0.101 -0.561

快適である 0.223 1.178 0.101 -0073 -0.880

一員感 -0.295 0.423 0.892 -0.390 -0.005

定住希望 -0.721 0.715 0370 0.131 -0.212

尚齢時に居住希望 -0.162 0.664 0.874 0.070 -0.422

誕生場所 0.255 -1.067 -0.703 0.368 -0.824

現住場所 -1.730 0.610 0.047 0.168 0.493

お墓がある 1.688 -1.564 3.254 1611 0.366

友人・知人が多い 0.335 -0.256 0.274 -0.681 0.265

家族の存在 0.642 -0.665 -0083 -2.082 0.716

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表4 地元の概念的認識に基づく回答者の類型化

Table 4 The Respondents Classified by Conceptual Recognition to "Jimoto" and Their Character

現住場所型 誕生場所型 地域縁由型 思い出型 親密者存在型 複合型

該当者数(人) 48 69 71 51 119 554 該当者 比率 該当者 比率 該当者 比率 該当者 比率 該当者 比率 該当者 比率

(人) (%) (人) (%) (人) (%) (人) (%) (人) (%) (人) (%)

良い思い出がある

゜0.0

゜0.0 36 50.7 51 100.0 38 31.9 245 44.2

落ち着く

゜0.0

゜0.0 36 50.7

゜0.0 33 27.7 339 61.2

快適である

゜0.0

゜0.0 14 19.7

゜0.0 1 0.8 161 29.1

一員感

゜0.0

゜0.0 21 29.6

゜0.0 12 10.1 159 28.7

定住希望

゜0.0

゜0.0 17 23.9

゜0.0 10 8.4 223 40.3

高齢時に居住希望

゜0.0

゜0.0 12 16.9

゜0.0 1 0.8 51 9.2

誕生場所

゜0.0 69 100.0 50 70.4

゜0.0 65 54.6 261 47.1

現住場所 48 100.0

゜0.0 18 25.4

゜0.0 34 28.6 215 38.8

お墓がある

゜0.0

゜0.0 71 100.0

゜0.0

゜0.0

゜0.0

友人・知人が多い

゜0.0

゜0.0 30 42.3

゜0.0 50 42.0 133 24.0

家族の存在

゜0.0

゜0.0 24 33.8

゜0.0 103 86.6 55 9.9

親密な人の存在が地元意識の形成の核となると考えられ

る。類型 6は特定項目への偏りはみられず, 11項目中 6

項目以上を同時選択した回答者が 14.1%と類型 3に次い

で高かった。以上を踏まえ,類型 1を現住場所型,類型

2を誕生場所型,類型3を地域縁由型,類型4を思い出型,

類型 5を親密者存在型,類型 6を複合型, として扱う。

次に, この地元の概念的認識に基づく回答者の類型と

個人属性との関係をみる。図1は年齢別,図 2は地元の

地域環境別にみた,各類型に属する回答者数の分布であ

る。いずれも検定により有意差 (1%)がみられた。現

住場所型は年齢層が上がるにつれて増加し,地元の地域

環境を都市部・郊外部と答える人が多い。この類型では,

地元への居住を 18歳以降に開始し現在まで継続してい

る回答者が31.3%と全体の 9.6%と比べて高く,当該期

間中に住宅を購入した割合も 20.8%と他の類型より高い

(複合型 16.2%,他の類型は 10.1%未満)。ここから,現

住場所型の人々の地元意識は,住宅の購入の様な移住の

過程で新たに醸成される可能性がある。また地域縁由型

は50代以上の回答者,特に 60代以上で有意に多い一方

で,地域縁由型と類似の回答傾向にある親密者存在型は

40代以下に多い。さらに前者の類型は地元の地域環境

が農村・漁村である場合が多く,後者は郊外部に多いこ

とから,これらの類型は該当者の主要な属性が異なると

いえる。既存研究でも農村・漁村は高齢者が多く居住し,

都市部に比べて墓に対する先祖代々の繋がりを重要視す

ることが示されている注6)。また,都市郊外部は一般的

に他の地域環境よりも地域の歴史が浅く,農村・漁村と

比べると若年層が多いため,地域共同体としての意識の

薄さも指摘されている 凡 これらより地元意識は各自

の生活様式や所属 コミユニティ等の地域特性に大きく影

響を受けて形成されるものだといえよう。

I ': - -·····~······-···························· 一......................、-、

.. ヽ

' 60代~: (n=187) ,

i ' so代; (n=186)

! 40代

'(n=187) ,

, 30代

'(n=182) ,

, -20代

; (n=170)

. 咲 2帽糾 6咲 8咲 1磁

,■現住場所型 ■覆生場所型 ■地域縁由型 ■思い出型 親ヽ密者存在型 塁複合型- -- ー・

注 :1)図の+/ーはでの調整済み残差が 2.0以上 /-2.0以下

郊外郎(na353)

響市郎(n=370)

一一一]ぃ¥'?'.,1

.ヽ.

.ヽ・

9

.ヽ..ヽ.ヽ

.、•...

••••

I

di

1

'

ー一一一

図1 概念的認識による回答者の類型と年齢

Fig. I The Types of Respondents and Age

農村・這村, (n=169)

0% 20% 4叩 印" 80% 1巫 '

■現住場所型 ■誕生場所型 ■地壌縁由型 ■思い出型 ヽ親密者存在型:・複合型

注: 1)図の+/ーはでの調整済み残差が2.0以上 /-2.0以下

図2 概念的認識による回答者の類型と地域環境

Fig. 2 The Types of Respondents and Regional Environment

wi 地元への居住とライフイベント

前章では各自が地元に抱く概念的認識から回答者を類

型化し,個人属性との間の関係を分析することで,回答

者と各自の地元との関係の多様さを示したb それによれ

人々の「地元」に対する概念的・空間的認識の多様性 467

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ば,地域外に向けて地元意識が発信されたり,地域外の

人々から地域に地元意識を向けられるために現住地と

地元は必ずしも一致しないことが示唆されている。各地

域での地元に関わる事業を成功に導くためには,この乖

離の存在やその要因を適切に把握し,地域に向けられる

地元意識の維持や醸成につなげることが重要である。本

研究の調査では地元と現住地の一致を前提とせず,地元

と認識する場所に住み始めた時期と,そこを離れた時期

についても質問をしている。そこで以下では,居住地と

地元の一致・不一致やその要因に着目する。まず,以下

では1II章で類型化の対象となりかつ地元のある都道府

表 5 男女の地元居住とライフイベント発生時期の一致

Table 5 Concordance Rate of the Year of Respondents'Life Events

and Their Start or End of Living in "Jimoto" by Gender

(単位:%)

地几居住開始の 地冗居住終了の年齢と一致 年齢と一致

男性 女性 性差 男性 女性 性差

大学・大学院進学 0.9 0.3 173 16.1

就職 1.7 0.9 12.9 6.0 ...

転職 2.2 2.3 4.1 6.4

結婚 1.7 5.0 .. 6.8 20.2 ●●●

住居の購入 2.9 9.5 ... 3.3 45

車の購入 2.0 3.2 3.8 5.1

子どもの誕生 1.2 1.0 16 4.3'

定年退職 1.2 0.0 3.7 0.0

注: 1)各セルの分母は性別ごとのライフイベントの体験者数注: 2) ... : 1%有意,..: 5%有意.・: 10%有意(検定)

表 6 回答者の類型ごとの地元と居住地の不一致割合

Table 6 Discordance Rate of"Jimoto" and Current Residence

現住 誕生

~ 8.3 (-) 46.4 (+)

地域思い出

親密者

悶I41.2 14閏) 125::)

(単位:%)

' 全体

(参考)

29.5

注: 1)表の+/-はx'検定での調整済み残差が2.0以上 /-2.0以下

県が把握可能な 908人を分析対象とする。これらの人々

の現在の居住都道府県と地元のある都道府県から地元と

居住地の不一致割合;n,は29.5%であった。この不一致

の要因の一つにはライフイベントに伴う移住が想定され

る。個々のイベントは経験に性別差がみられる可能性も

あるため. まず性別ごとに地元での居住を開始・終了し

た年と各ライフイベントを経験した年が一致する回答者

の割合を集計した(表 5)。男女ともに進学で.男性で

は就職女性では結婚と同時期に地元での居住を終えた

人が多かった。これらは内閣府9!においても若年層の地

方間移動の理由として挙げられている。その一方で.住

宅の購入のみ地元への居住の開始年との一致割合の方が

高く. これは結婚と同様に女性に多く見られた。

次に地元の概念的認識に着目する。類型ごとの地元と

居住地の不一致割合(表 6) は誕生場所型.親密場所型

が有意に高い一方で現住場所型は極端に低い。また.

類型ごとのライフイベントの経験時期(表 7) に有意差

が見られたのは進学や就職定年退職による地元への居

住終了と住居の購入による地元への居住開始であった。

該当者数が極端に少ない定年退職を除きまず進学と就

職に残差分析を適用すると.進学での居住終了は親密者

存在型,就職での居住終了は誕生場所型で有意に多かっ

た。これらの類型は地元と居住地の不一致割合も高く.

それぞれ進学や就職に伴う移住により地元での居住を終

了しやすいと言える。今回.進学も就職も経験した人の

うち就職を先に経験した人は殆どいないことから.進学

時には精神的にも独立しきれていない若さで地元を離れ

ることが多いと考えられる。そのため.さらに成長した

後に就職で地元を離れる場合よりもかえって地元の家

族や友人の存在が強く意識されることで親密者存在型に

あたる認識が形成されている可能性がある。一方.住宅

表 7 概念的認識による回答者類型ごとの地元居住とライフイベントの発生時期の一致

Table 7 Concordance Rate of the Year of Respondents'Life Events and Their Start or End of Living in "Jimoto" by the Types of Respondents

(単位:%)

地冗居住開始の年齢と一致 地冗居住終了の年齢と一致現住 誕生 地域

思い出親密者

複合 類型差現住 誕生 地域

思い出親密者

複合 類型差場所 場所 縁由 存在 場所 場所 縁由 存在

大学・3.2(31) 0.0(46) 0.0(41) 0.0(35) 0.0(83) 0.8(367) 12.9(31) 26.1 (46) 22.0(41) 20.0(35) 30.1 (83)

12.8 **

大学院進学 (367)

就職 23(43) 0.0(55) 3.3(61) 0.0(38) 0.0

1.7(482) 2.3(43) 18.2(55) 16.4(61) 7.9(38) 11.0

8.5(482) .. (100) (100)

転職 3.6(28) 3.0(33) 2.2(45) 0.0(23) 2.0(49) 2.5(317) 3.6(28) 9.1 (33) 8.9(45) 0.0(23) 8.2(49) 4.4(317)

結婚 3.3(30) 0.0(39) 2.0(51) 0.0(31) 2.7(73) 4.8(372) 3.3(30) 15.4(39) 23.5(51) 12.9(31) 9.6(73) 14.5

(372)

住居の購入 20.8(24) 0.0(23) 5.6(36) 0.0(20) 8.7(46) 6.5(292) t 4.2(24) 0.0(23) 0.0(36) 0.0(20) 8.7(46) 4.5(292) 車の購入 7.7(26) 0.0(33) 3.8(53) 0.0(26) 0.0(72) 2.8(361) 3.8(26) 0.0(33) 5.7(53) 11.5(26) 4.2(72) 4.2(361) 子どもの誕生 3.7(27) 0.0(34) 0.0(45) 0.0(27) 1.7(58) 1.2(321) 0.0(27) 5.9(34) 0.0(45) 3.7(27) 6.9(58) 1.2(321) 定年退職 0.0(9) 00(7) 0.0(14) 0.0(4) 0.0(6) 1.3(78) 0.0(9) 0.0(7) 0.0(14) 25.0(4) 16.7(6) 1.3(78) t

注: 1)表の括弧内の数字は,各類型におけるライフイベントの経験者数注: 2) ●●● : 1%有意...: 5%有意,•: 10%有意(検定). ttt:1%有意, t t : 5%有意, t : 10%有意 (Fisherの直接確率検定)

468 農村計画学会誌 Vol.36, No. 3, 2017年12月

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の購入と地元への居住開始時期については現住場所型で

群を抜いて一致割合が高い。 Benjamini& Hochberg法

を用いた多重比較注8) の結果では他の類型との有意差は

みられなかったため今後の検討の余地は残されるが,こ

れまでの結果や現住場所型の女性の割合は 68.8%と他の

類型よりも有意に多い等を踏まえると,特に女性では結

婚等に伴い住居を購入したりして移住をすることで新た

な居住地に対する地元意識が醸成されるといえる。これ

は,地元と居住地の不一致割合を低める要因となりうる

もので現住場所型の地元意識においては,これらの人々

の存在が多分に関係していると考えられる。

近年,地方自治体等の事業内で「地元」という言葉が

用いられる場合,その地方自治体の管轄域内の領域を示

すことが大半である。しかし,本章の結果から人々の地

元意識はライフイベントを通じても様々に分岐していく

ことが示唆されている。例えば女性が結婚を経て多く移

住してくる様な地域では,その地域に対して地元意識を

持つ人は増加しやすい反面,誕生場所型や親密者存在型

に該当する人々の流入・流出が多く起こりやすい地域で

は,住民の地元意識は必ずしもその地域内に向かないこ

と,逆に地域外からも地元意識を向けられることが想定

される。その様な場合,「地元」が指し占めす対象につ

いて適切に定義した上で用いることが重要であろう 。

V 地元の空間的認識

前章では,都道府県単位での個々人の地元の所在に着

目したが,本章ではより詳細な空間スケールにおいて,

各自の地元の空間的な捉え方や広がり方に焦点を当てる。

まず,地元の空間的な捉え方に着目する。質問で「あ

る特定の基点を持つ」(基点型)と「市区町村などの境界

線で区切られる」(境界型)のいずれであるかを聞いた

ところ.基点型が624人 (60.4%).境界型が249人 (24.1

%).「わからない」が 151人 (14.6%)であった。表 8に

は基点型の人々が地元意識の基点とする施設を,表9に

は境界型の人々の地元の境界となる地域単位を集計した。

基点型の約 8割は各自の家(自宅)を基点としており,

小学校や鉄道駅にもそれぞれ5%前後の回答がみられ,

これらは地元意識の形成の核となりやすい施設といえ

る。自宅は大半の人々の生活拠点であり.滞在時間も長

いため地元の基点として認識されることは自然である。

小学校は大半の人々が幼少時期に多くの時間を過ごす場

所であることが要因であろう。また,鉄道駅を挙げた人

の93.9%は東京名古屋大阪仙台等の大都市を含む

都道府県かそこに隣接する都道府県が地元であった。こ

れらの地域は鉄道の交通分担率が比較的高く, 日常の移

動で利用する鉄道駅を地元の基点として認識が形成され

ていると考えられる。また図 3には基点型の人々の地元

の範囲として,大半の人が挙げた自宅を基点に任意の交

通手段で要する時間を表してもらった結果を集計した。

手段によらず 15~ 30分以内という回答が多く,隣接す

る時間圏を含めれば大半の回答者の地元の空間的範囲が

含まれる。これは,若菜ら 10)による生活圏域のうち l

次生活圏域(小学校区)で最も外出頻度が高いという結

果とも整合する。また,境界型に該当する人々では,市

区町村とその周辺市区町村までの範囲を地元と認識する

人が約 65%を占める。一方,市区町村よりも狭い範囲

を地元と認識する人は 2割程度であり,都道府県より広

範囲を地元とする人は殆どいない。その理由の考察のた

め, 10以上の回答があった選択肢に着目し,地元の地

域環境別に集計をした(表 10)。市区町村を地元の範囲

とする割合は地域環境によらず 50~ 60%程度と高い。

これは地方自治体が地元をめぐる行政サービス・事業

を行う際や,それがメディア等で取り上げられる際に,

いずれも市区町村を単位として地元が表現される例が多

表8 地元意識の基点となりうる施設

Table 8 Facilities as the Center of "Jimoto"

(単位: 人)

571「‘□I~:x·1:; 院|職t『『fl1~ 胃表9 地元を区切る境界線となる地域単位

Table 9 Regional Units as the Boundary of"Jimoto"

同『[『|了I:~: I :,: I :;:F 注 :1)同名地区は,調査においては「住所の「O丁目」」を含む

番号以外の部分が同じ地域」と質問している。

:80(人) r—·—.... 一·—ー·—…-·······........' , ---—徒歩 十 自 転車

~ —_;1~r~~~ 三機I60

. ヽ!20 .. ・・・・・・・・・・・・/….. —.... , .. , ••.••••••.•.•.•..• •.• …..... ―......... ●・

io ~-; 三三ざ-------,,らいい心尺。又べぷ'\.').~、い゜、い入詞

. ....... . .. .......

図3 移動手段・時間による地元の範囲(自宅)

Fig. 3 Spatial Range of"Jimoto" by Transportation Way and Time

人々の「地元」に対する概念的・空間的認識の多様性 469

Page 7: 人々の「地元」に対する概念的・空間的認識の多様性人々の「地元」に対する概念的・空間的認識の多様性 誌名 農村計画学会誌 = Journal

いことの影響と考えられる。一方で地域環境ごとの差

もみられる。例えば都市部では同名地区までを挙げる人

が多いが農村部では少ない。また,都市部は他地域より

も市区町村より広い範囲を地元として認識する人が少な

い。これらは地域の構造の違いに起因すると考えられる。

一般的に都市部は,農村・漁村や郊外部よりも鉄道の利

用率が高く,駅間隔も狭い。さらに各鉄道駅の周辺の土

地利用も比較的多様性に富むために地区を細分化して認

識されやすく,広範囲を地元と捉える人が少ないと考え

られる。

以上から,地元の空間的認識は大きく二つに分けられ

ること,また,いずれの場合も地元の範囲と各自の日常

生活との間には深い関わりがあることが示された。一方

で地元の空間的範囲が複数の行政界にわたり広がりう

る場合も存在することも明らかになった。特に後者に関

しては,複数の市区町村が連携可能なまちづくり事業を

行う場合に,既存の行政界にとらわれずに「地元」の範

囲を設定することの有効性を示唆している。例えば,連

表 10 地域環境と地元の空間的認識(境界型)

Table IO Relationship between Regional Environment and Spatial

Range of"Jimoto"

(単位 :人)

同名 小学 市区 周辺市有効

地区 校区 町村 区町村回答数

(人)

鹿村・漁村 4.7 (-) 186 48.8 279 43 都市部 23.9 (+) 11.4 52.3 12.5 (-) 88

郊外部 11.1 7.8 60.0 21.1 90

注: 1)表の+/ーはx'検定での調整済み残差が2.0以上 /-2.0以下

坦した 2つの市区町村が互いの行政界に跨り存在する施

設や自然物(河川・緑地など)に対して「地元」をキー

ワードとしたまちづくり事業を計画する場合,両自治体

が協働して事業の実施主体となり ,互いの行政界までを

含んだより広い範囲を「地元」として事業参加者への呼

びかけを行うことで,各々が単独で事業を行うよりも多

くの参加者や基金を獲得できる様な可能性が考えられる。

VI 地元に望まない変化

前章までは人々の地元への認識の多様性について分析

を行った。まちづくり事業は一般的に,地域の有する問

題の解決・防止や地域の強みを伸ばすために行われる。

地域内での直接的な事業参加や地域外から間接的に地元

のまちづくりを支援する方法により事業を成功させるた

めには,事業として扱われるテーマとその地域に地元意

識を抱く人々の事業への関心が合致することが必要であ

る。ただし,個人のまちづくりに対する意向や関心もま

た多様である。両者が合致すれば人々は事業実現に協力

的になる一方で,そうでない場合には人々は事業に対し

て非協力的となることも想定される。

そこで本章では,「地元に望まない変化年)」として回

答された事柄を人々の地元におけるまちづくりに対する

意向を含むものとして捉え,その回答傾向や地元に対す

る概念的認識や空間的認識との関係性を分析する。

まず,地元に望まない変化の自由記述の内容を分類す

る。「特にない」という趣旨のものや,明らかに質問に

"'

9,0

0、0

····•1·,1• ●■ー一-~--~··1··11~·—,—• --~ ―・1,・・7・---■-----1・ 6. ・ci .d. c4 ・¥...._百一古―'c'7.da,d9'do • 一正―』

図4 地元に望まない変化の記述内容のクラス ター分析結果

Fig. 4 The Result of Cluster Analysis on the Words in Undesired Changes of"Jimoto"

470 農村計画学会誌 Vol.36, No. 3, 2017年12月

Page 8: 人々の「地元」に対する概念的・空間的認識の多様性人々の「地元」に対する概念的・空間的認識の多様性 誌名 農村計画学会誌 = Journal

対する答えになっていないものを除く 743回答を対象

とし, KHCoder ver2.00注 10) により分析した。自由記述

の表記揺れを修正したのち各単語の出現回数を計測し,

9回(上位 50位)以上出現した単語に対してクラスタ

一分析を行った(距離測度: Jaccard係数連結法:

Ward法)。その結果,図 4に示した Cl~Cl4の 14ク

ラスター町]が得られた。表 11には, Cl~Cl4の各類

型にみられる頻出単語や自由記述の特徴に基づき各クラ

スターの命名を行った結果を示しているが,複数のク

ラスター間で類似する意味の単語が含まれていたため,

以下ではそれらの区別について言及をしておく。 C7の

[新規施設の立地]は C2の【大型建物の建設】と同様

に地域に建物が立地することを望まないものであるが,

C2が建物の大きさを中心に言及するのに対して, C7は

商業・迷惑施設等の用途にも言及をしている点で異なる。

表 11 各クラスターの名称と特徴

Table 11 The Name and Character of Each Cluster

番号クラスター

クラスターを構成する頻出単語の特徴名称

Cl 治安悪化 「治安一悪化」で構成される。

C2 大型建物の 「ビル」や「高層ーマンション」.「建設」で建設 構成される。

C3 人口減少 「人ロ一減少」で構成される。

C4 自然災害・ 「自然一災害」や「環境ー破壊」,「悪い」で環境破壊 構成される。

家や住民の「家」や「住む一人」で構成される。自由記

cs 消失

述では自身の家の消失や住民の減少による地域の住民構成の変化への言及がやや多い。

C6 従来の街並

「昔」や「街並みー変わる」で構成される。みの変化

C7 新規施設の

「施設ー出来る」で構成される。立地

cs 娯観の変化 「景観ー変化」で構成される。

C9 殺人事件 「事件ー殺人」で構成される。

ClO 裳災被害 「原発ー事故」や「地裳ー津波」で構成される。

Cll 開発による

「都市ー進む」や「規模ー開発」で構成される。都市化

Cl2 多国籍化と 「外国一増加」や「犯罪ー増える」で構成さ犯罪増加 れる。

街の変化と「街」と「緑ー多い」で構成される。「緑」「多

Cl3 緑の減少

い」を含む自由記述では.緑が多い地域での緑の減少を望まない回答が多い。

高齢化・過 構成単語数が 12と最多。「高齢」や「過疎」

Cl4 疎化による の出現が多く.「学校」や「店」等の地域施地域変貌 設が失われることを望まない回答が多い。

また.ClOの【震災被害】は C4の【自然災害・環境破壊】

とは天災が原因となりうる点で類似しているが地震と

いう特定の災害が引き起こす被害の内容がキーワードと

なっている点で.想定される変化の具体性はより高いと

いえる。さらに, Cllの【開発による都市化]も地域で

行われる都市開発である点が C2や C7と類似している

がその焦点は建物に絞られておらず.より面的な範囲

における抽象度の高い変化への言及である。 Cl2の[多

国籍化と犯罪増加】は Clの【治安悪化】と類似するが.

Cl2では犯罪の増加とその変化の原因との関係にまで言

及されている点で. Clより具体的な変化を示している。

次に.表 12に地元の概念的認識に基づく回答者の類

型ごとに, 14種類の変化が挙げられた割合を集計した。

現住場所型では Cl2の【多国籍化と犯罪増加】が Clの

【治安悪化】よりも多く挙げられている。また.C4の【自

然災害・環境破壊】や C5の【家や住民の消失】も多い。

これらの変化は. 自身の生命や自身が地元で所属するコ

ミュニティの存続に関するリスクであり. 自身が地元に

居住する上で発生する直接的な危険を望まない傾向があ

るといえる。親密者存在型にも類似した傾向があるが.

Cl2の【多国籍化と犯罪増加】を挙げる回答は少なかっ

た。これば親密者存在型の人々と地元との繋がりは自

身の居住ではなくそこに居住する家族・知人によるもの

であるため. C4の【自然災害・環境破壊】や C5の【家

や住民の消失】という変化によりそれらが消失するリス

クを望んでいない。一方で自身と地元との繋がりが維

持される限り,新たな性質の住民の流入のような変化は

ある程度許容されるものと考えられる。また.地域縁由

型では Cl4の【高齢化・過疎化による地域変貌】を挙

げる割合が全類型で最多である。これは.過疎化・高齢

化により地域の機能が失われ存続が難しくなる中.地元

との繋がりである友人・知人との縁を持つ場所が消失し

たり,先祖代々の墓地管理の困難につながる変化を望ま

ないためと考えられる。

一方.思い出型では特徴的な変化を挙げる声は少なか

った。さらに.他の類型では多く挙げられた C4の【自

然災害・環境破壊】や ClOの[震災被害】. Cl4の【高

表 12 概念的認識に基づく回答者の類型と望まない変化の関係

Table 12 Relationship between Conceptual Recognition and Undesired Changes of"Jimoto"

(単位:%)

Cl C2 C3 C4 C5 C6 C7 C8 C9 ClO Cll Cl2 Cl3 Cl4 有効回答数(人)

現住場所型 4.2 6.3 4.2 18.8 8.3 0.0 0.0 0.0 8.3 14.6 2.1 18.8 8.3 20.8 48

誕生場所型 1.4 1.4 2.9 15.9 2.9 4.3 2.9 0.0 10.1 10.1 4.3 4.3 0.0 11.6 69

地域縁由型 0.0 5.6 4.2 14.1 4.2 4.2 2.8 1.4 11.3 11.3 5.6 8.5 2.8 29.6 71

思い出型 3.9 0.0 0.0 5.9 3.9 2.0 3.9 3.9 5.9 5.9 3.9 9.8 0.0 3.9 51

親密者存在型 2.5 4.2 3.4 18.5 8.4 7.6 5.0 3.4 5.9 9.2 8.4 5.9 5.0 21.8 119

複合型 5.4 78 2.9 15.3 4.5 5.8 2.5 3.2 8.3 8.1 7.2 9.7 5.4 14.8 554

人々の「地元」に対する概念的・空間的認識の多様性 471

Page 9: 人々の「地元」に対する概念的・空間的認識の多様性人々の「地元」に対する概念的・空間的認識の多様性 誌名 農村計画学会誌 = Journal

表 13 地元の空間的認識と望まない変化の関係

Table 13 Relationship between Spatial Recognition and Undesired Changes of"Jimoto"

(単位:%)

Cl C2 C3 C4 C5 C6 C7 C8 C9 ClO Cll I Cl2 I Cl3 I Cl4 I有効回答数(人)

基点型 I 5.3 8.0 3.7 19.3 5.9 6.8 4.3 3.7 10.5 11.7 s.2 I 11.5 I 5.3 I 23.o I 488

境界型 I 6.5 8.1 4.3 18.8 7.5 5.9 2.7 2.7 10.8 11.8 s.6 I 13.4 I 6.5 I 194 I 186

表 14 地元の空間的認識と望まない変化の関係

Table 14 Relationship between Spatial Range and Undesired Changes of"Jimoto"

Cl CZ C3 C4 C5 C6 市区町村の一部 67 4.4 2.2 8.9 8.9 4.4

市区町村まで 5.0 9.0 6.0 21.0 7.0 8.0 市区町村より広域 10.5 10.5 2.6 28.9 7.9 2.6

齢化・過疎化による地域変貌】といった, 自身や地域の

存続に関わる変化を挙げる声も少ない。これは,思い出

型の人々は地元との繋がりが過去の思い出という地元の

現状と乖離したものであることや,現住地が地元でない

場合も多いために地域の深刻な変化に対する危惧が少

ないものと考えられる。また,誕生場所型では.いずれ

の変化も一定数は挙がるものの特定の変化への偏りはみ

られない。これは,地元との繋がりである誕生場所とし

て各自が想定する具体的な地域や,その地域と自分自身

との関係性が多様であるためと考えられる。

以上より,回答者自身やその家族知人,お墓等の具体

的な事物により地元とつながる人々は特定の変化を望ま

ない傾向がみられ,その繋がりを形成する事物の違いに

より望まない変化の内容はやや異なることが示された。

分析の最後に.地元に対する空間的認識と地域に望ま

ない変化の関係性を把握する。まず.基点型と境界型の

2種類の空間的認識の間で,地元に望まない変化の回答

傾向に違いがみられるかを調べた(表 13)。

空間的認識の違いによる望まない変化への回答傾向に

大きな差はない。ただし.地元に対する空間的認識にお

いては地元の範囲が市区町村の行政界を超えて広がる

人も一定数存在している。もし,そのような人々が特定

の変化を望まないのであれば,行政界の枠にとどまらな

い「地元」の設定が有効となる。そこで,境界型として

地元を認識する人々の空間的な認識の範囲を「市区町村

の一部」,「市区町村まで」,「市区町村より広域」の 3種

類に分け.望まない変化の分類とのクロス集計を行っ

た(表 14)。地元の空間的な範囲により挙げられる割合

が異なるのは C4の【自然災害・環境悪化】. ClOの【霰

災災害】. C7の【新規施設の立地】であった。前者の二

つは問題発生の空間スケールが大きく,シームレスな変

化である。また,商業施設や迷惑施設は一般的に市区町

村の縁辺部に立地することも多く,その立地の影響は隣

接する市区町村に波及することも指摘されている 6). 11) 0

472 農村計画学会誌 Vol.36, No. 3, 2017年12月

C7

0.0

2.0

7.9

(単位:%)

cs C9 ClO Cll Cl2 Cl3 Cl4 有効回答数(人)

0.0 ll.l 4.4 13.3 15.6 11.1 22.2 45

4.0 12.0 13.0 6.0 14.0 6.0 20.0 100

2.6 7.9 23.7 10.5 10.5 2.6 21.1 38

これらはいずれも一つの市区町村に留まらず, 自治体単

位で連携を行う重要性も高い広域的な問題である。これ

らの地域に対する変化を防ぐ事業にあたる際,市区町村

より広い範囲を以て「地元」と表現をすることの有効性

を示唆していると言えよう。

VII 研究のまとめと今後の課題

本稿では, 日常的に多用されるもののこれまで明確な

定義付けがなされにくかった「地元」という言葉に着目

し,人々の地元に対する概念的・空間的な認識を定量的

な観点から整理するとともに,その意識や多様性が形成

される要因の一端についても明らかにした。以下に結果

をまとめる。

まず,地元の概念的認識に基づき回答者は複数の類型

に分類でき,全体の約 40%にあたる 5類型で明確な意

味づけができ,各類型に属する人々の属性には一定の傾

向がみられた。また,人々の空間的認識の仕方は地元の

基点の有無により大きく二分され,いずれの場合もその

空間的な範囲は,各自の日常生活の中で規定されること

が示唆されていた。

さらに地元をキーワードとしたまちづくりへの活用

を想定して,これらの地元の認識と各自が地元に望まな

い変化との関係性を分析したところ,まず,地元と各自

のつながりが具体性の高い事物により形成されている場

合,特定の変化を望まないことが明らかになった。各自

と地元との繋がりを形成する事物の違いにより回答傾向

はやや異なるものの,いずれの場合もその繋がりとな

る物が失われる変化を危惧する点は共通していた。

以下では, これらの結果のまちづくりへの活用可能性

についてより具体的に考察する。まず,人々はライフィ

ベントを通して多様な地元意識を形成することが示され

た。誕生場所型や親密者存在型の様に進学や就職で地元

を離れる過程が従前の居住地に対する地元意識の形成に

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繋がりうること,女性では結婚や住居の購入に伴い新し

い居住地にも地元意識が向けられやすいということが明

らかになった。よって各地域に対して人々が有する地

元意識の維持・醸成を図るためには,就職や結婚等の特

徴的なライフイベントにより地域から離れたり流入した

りする人々の特性を把握した上での対応が重要となる。

また地元意識はそのような人々の移住等により地域

内のみならず地域外からも向けられる様になったり,時

には行政界を跨いで広がる場合もある。これは地元をキ

ーワードとしたまちづくり事業に対して,地域外から間

接的に参画できる仕組みや,複数の自治体が連携して広

域的な範囲を「地元」と設定することの有効性を示唆す

るものであるといえる。

また,その様な事業を行う上では特に地元意識の概

念的認識に関する類型ごとに関心が持たれやすい・持た

れにくい事業内容が存在することを考慮し,地域に地元

意識を向けている人々の概念的認識の傾向等に着目し

て,地域内外からいかなる地元意識を向けられるのかを

把握し,それに応じた事業内容・実施方法を設定してい

くことが重要である。本稿の結果に基づく例を挙げると,

現住場所型に属する人が多く居住するとされる地域では

住民の安心• 安全や地域コミュニティの改善を目的とす

るまちづくり事業に関心が持たれやすいと考えられ,そ

こでは地域住民が直接的に事業に参加し関われることが

効果的であろう。逆に,転出者が多く,地域縁由型や親

密者存在型に属する人々により地域外から多く地元意識

を向けられているとされた地域に対しては彼らと地元

を繋ぐ事物・人々を守ることに繋がる事業に関心が持た

れやすいと言える。そこでは,地域外も向けられる地元

意識の存在を考慮し,地域外からでも基金などを通して

間接的に事業に関わることが可能な仕組みも設定してお

くことが有効と考えられる。本稿では地元の概念的認識

に関する類型と,各類型に属する人々の属性との関係性

までを分析しているため,現住民や転出入をした住民の

属性等から,地域内外のそれぞれから向けられる地元意

識を推定することは一定程度可能である。以上を踏まえ

れば本稿で得られた知見は地元をキーワードとしたま

ちづくりに対する活用可能性を十分に有しているといえる。

研究の今後の課題として,人々の認識の時系列的な変

化を考慮することや,分析の解像度をより詳細化するこ

とが挙げられる。分析の観点を時系列的に拡張すること

により,居住地の変化に伴う地元意識を抱く地域の変遷

等, より精緻な議論ができる。また,特定の地域・地域

環境に着目して詳細な調査を実施することは,対象地の

特性や文化・風俗等との関係性等を踏まえた地元意識

の形成に関するより詳細な議論を可能にする。さらに,

より詳細かつ多様な空間的認識に関する回答が得られれ

ば地域の施設・自然地形などとの位置関係から,地元

意識の形成に関わる客観的要素との関係性をより詳しく

論じることができよう。

注 1)世界大百科事典第 2版による。

注 2)例えば和歌山県の「わかやま地元力応援基金」は.地域

発展に寄与する活動を行う人々に対する助成制度である。

その助成のための基金には和歌山県外の人々からも寄付が

可能である。この事例では明示的に「地元」という言葉を

使用している。

注3) ウェブを通した個人回答方式での調査の実施は.全国的

に大量の回答を得られる点で統計的な分析に適していると

考えた。また.まちづくり事業において「地元」という言

葉を日にするのは紙面・ウェブ上が主であると考えられ.

ァンケート調究形式は対面的なヒアリングよりもそれと近

い状況のもとで.「地元」という言葉に対する回答者の反応・

認識を問うことが出来ると考えた。

注 4)概念的な地元意識には本稿で主に扱った好意的・肯定

的なもの以外の側面が存在することも予想される。しかし,

「地元」という表現を明示してその好き嫌いをたずねた既

存研究7"'によれば「地元」が「好き」と答える回答は「嫌

い」とよりも圧倒的に多いため.主たる選択肢を好意的・

肯定的な項目とした。具体的には.冒頭の「地元」の辞書

的な定義を解釈した選択肢 (II章中での番号 7) -11)),

さらにそれらに対する人々の主観的な評価のうち. まち

づくりとも関係が深いと考えられる項目 (II章中での番

号1)-6)) を採用した。

また.本研究のアンケート調杏では.地元の概念的認識

への回答で「その他」を選択したのは 16件と少なく,そ

の自由記述も殆どが既存の選択肢と類似の内容であったこ

とから,本稿の結果は一定の妥当性を有すると判断した。

注 5) クラスター分析では回答結果を量的変数に集約して扱っ

たが元の評価項Hでは単独でも該当割合が 100%になる

項目もあり.類型の意味づけを明確にするためにも.元の

評価項Hで解釈をした。

注6)農村では墓に求める項目のうち「先祖代々の墓が良い」

の重要度が都市部より高いこと 13や.東京都市圏では新

しく墓地を購入し墓石を建てる割合が高いこと 141が示さ

れている。

注 7)居住地と地元のある場所はいずれも都道府県単位での回

答であり,市区町村単位では一致しない可能性があるなど.

地元と居住地の厳密な一致の把握は難しい。 5章より地元

の範囲を都道府県単位とする回答は少ないが,このデータ

上の制約の中.少なくとも居住地と地元が異なる都道府県

である回答では両者は不一致と判断できることから.都道

府県単位での不一致割合に着Hした。

注8) ここでは統計解析ソフトウェアである RVer. 3.2.0で多

重比較を行うことが可能なパッケージ「fmsb」を利用し.

有意水準を 10%までとした。

注 9) ここでは.既存のまちづくり事業の枠に捉われず.普段

人々の「地元」に対する概念的・空間的認識の多様性 473

Page 11: 人々の「地元」に対する概念的・空間的認識の多様性人々の「地元」に対する概念的・空間的認識の多様性 誌名 農村計画学会誌 = Journal

意識されにくい潜在的な地域の要素(例えば行事や住民の

繋がり等の地域資源)にも着目してもらうため「地域の変

化」について質問した。

また地元意識の喪失の防止がより重要と考えた。地域

での望ましい.望まない変化のいずれも回答者の地元意識

の醸成.劣化の両方の要因となりうるが.地域に存在して

きた事物との関わりが深い地元意識は.それら事物に対し

て望ましくない変化が起こる場合の方がより地元意識の喪

失が発生しやすいと考え.「望まない」変化を聞いた。

注 10)KH Coderはフリーソフトではあるが.学術研究に多く

用いられている。開発者の著書 15) によれば2013年 9月時

点で既に約 500件の研究事例があり.その信頼性は高いと

判断して用いた。

注 11)KH Coderにより導出される併合水準の値が大きく変化

する直前の分類数を候補としそのうちで解釈可能性を両

立しているものを採用した。

引用文献

1) キリン食生活文化研究所:調査レポート Vol.56地元,

〈http://www.kirin.eo.jp/ csv /food-life/think/research/

report/56.html〉, 2016年 4月19日, 2017年 3月13日.

2) 鈴木春菜• 藤井聡 (2008): 地域愛着が地域への協力行動

に及ぽす影響に関する研究.土木計画学研究・論文集, 25(2),

357-362.

3) NTTアド:地元意識の把握に関する調査〈https://www.

ntt-ad.co.jp/research_publication/research_development/

report/ 150914/index.h tml〉, 2015年9月148,2017年2月

14 B.

4)杉本士郎 (2014): まちづくりにおける新たな資金調達手

法「クラウドファンデイング」.ながさき経済, 296, 12-25.

5)浅野敏久 (1999): 地域環境問題における「地元」ー中海

干拓事業を事例として一.環境社会学研究. 5, 166-182.

6) 金井利之 (2012): 原子力発電所と地元自治体同意制.生

活経済政策. 188. 15-19.

7)武藤慎司・伊藤俊介 (2009): 既成集落とニュータウン地

区に住む中学生の「地元」意識の比較研究.人間・環境学会

誌. 12 (2), 52.

8)角野幸博 (2000):『郊外の 20懺紀ーテーマを追い求めた

住宅地』.学芸出版社.京都.

9)内閣府 (20ll):『地域の経済 2011一衷災からの復興.地

域の再生一』. 日経印刷.東京.

10)若菜千穂・広田純一 (2005): 農山村の生活圏域に着目し

た生活交通サービス再構築のあり方.農村計画学会誌. 24,

97-102

11) 平井健ニ・川上光彦• 本館孝文 (2011):地方中心都市圏

における大規模商業施設の立地と広域調整ガイドラインの

実態と課題.土木学会論文集 D3(土木計画学). 67 (5).

1_299-306.

12) 林ちなっ• 田島夏与 (2013): 戻りたくなる「地元」とは

?立教大学経済学部の学生を対象とした居住意識調査から

グローバル都市研究. 6. 41-til.

13) 笹泰之• 田中直人 (2011): 都市と農村における墓地に関

する研究日本都市計画学会第 9回関西支部研究発表会講

演概要集. 9. 9-12.

14)一般社団法人全国優良石材店の会: 2014年度版お墓

購人者アンケート調壺.〈http://www.info-ginza.com/

zenyuseki/2014chousa/20 l 4chousa.pdf〉. 2014年7月, 2016

年 11月 12tl.

15) 樋口耕—·(2014) : 『社会調杏のための計景テキスト分析一

内容分析の継承と発展を目指して』.ナカニシャ出版.京都.

Summary: This study aims to analyze the conceptual and spatial recognition to "Jimoto" of people by using an online survey data. The result

showed that both recognitions of"Jimoto" were classified into several groups and each group had own feature. The result also showed these "Jimo-

to" consciousness were formed through the life events and daily lives of people. We also analyzed the relationship of these recognitions and unde-

sired change to their "Jimoto". The results indicated that people didn't desire specific change if the connections between them and their "Jimoto"

were formed by concrete objects or intimate people

These "Jimoto" consciousness sometimes comes from outside of each region and spreads over administrative boundaries. This suggests the ne-

cessity of the systems that enable people to participate regional development projects from the outside or cooperation of several local governments

キーワード (Keywords): 地元意識 (Jimotoconsciousness), 多変量解析 (Multivariateanalysis), 類型化 (Classification), テキス

ト分析 (Textanalysis). ウェプアンケート (Onlinesurvey)

474 農村計画学会誌 Vol.36, No. 3, 2017年12月

(2017年5月17日 原稿受理)

(2017年 9月10日 採用決定)