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Yuya Doi, Yuki Murakami, Syunsuke Imoto
平成 30 年度
支持層を有しないH形鋼杭の打止め管理と
バイブロハンマーの有効打込み力について ―一般国道12号峰延道路のH形鋼杭の支持力測定―
札幌開発建設部 岩見沢道路事務所 ○土肥 侑弥
札幌開発建設部 岩見沢道路事務所 村上 雄樹
株式会社 砂子組 井元 俊介
仮橋施工でH鋼を打ち込む際,支持層がない場合の打ち込み管理については,一般に仮設構造
物工指針に基づき行われている.しかし利用に際しては明確ではない.今回引抜き試験による試
験結果から判明した支持力の確認方法についての報告とあわせて,バイブロハンマーの打ち込み
力の有効性に関しても打込み試験で確認を試みた.
キーワード:設計・施工,施工管理,仮設工,支持力 1. はじめに
本件は,一般国道 12 号峰延道路事業で交通混雑,
交通事故の低減を図り,道路交通の定時性,安全性
の向上を目的とした 6.3km の 4 車線拡幅事業の内,
JR 函館本線にかかる仮橋施工(図-1)を行うもので
あった.施工箇所の地質 5)は,杭先端部で N 値 15
程度の粘性土(図-2)となっており,道路橋示方書・
同解説Ⅳ下部構造編 4)で定める粘性土の支持層N値
20 程度以上となっていないことから,仮設杭の支
持層と判断できず,杭基礎施工便覧 2)による打ち止
め管理フロー(図-3)に該当しない事象となった.ま
た,移動式クレーンでバイブロハンマーを使用する
際のクレーン吊荷重の算出式が同じく,杭基礎施工
便覧 2)で定められているが,バイブロハンマー起振
力に作業係数α0.15 を乗じてバイブロハンマー打
込み力としている.この打込み時の作業係数α0.15
の適正に関しても明確にされていない.
1)クレーン吊荷重 F=Wcf+W+Wp+(P0/g×α)
Wcf:クレーンフック質量(tf)
W :杭質量(tf)
Wp :バイブロハンマーの本体質量(tf)
P0 :バイブロハンマーの起振力(tf)
g :重力加速度(9.8m/sec2)
α :作業係数(打込み時 0・15,引抜き時 0.25)
図-1 施工箇所
本件は仮橋完成後長期間に渡り供用する,重要な
仮設構造物であることを考慮し,仮設 H鋼杭を打ち
込むに際し,事前に支持層のない場合の打ち止め管
理フローを作成し,引抜き試験により仮設杭摩擦力
を測定して,支持力確認を行う事とし,その結果の
報告をする.併せて,バイブロハンマーの打込みに
ついて,あまり考慮されてないクレーンによる吊り
ながらの有効打ち込み力に関しても,打込み試験で
確認を試みた.
図-2 地質縦断図 5)
図-3 打ち止め管理フロー2)
Yuya Doi, Yuki Murakami, Syunsuke Imoto
2. 打止め管理方法
本件の,支持層が無い場合の打止め管理フロー
(図-4)作成にあたっては,設計の所定の根入れ長を
計画通り打込むことを前提条件とした.打込み開始
のバイブロハンマー規格は 60kw での施工であった
が,打込み長 3m 付近で打込み速度が 1,52mm/s と高
止まり傾向にあったことから,バイブロハンマー規
格を 90kw に変更した.設計値は,発生鉛直
力:41,0t5)を最低目標値,許容支持力:63,6t5)を望
ましい値と設定し,引抜き試験の結果から得られた
支持力と対比し判定を行うものとした.また,動的
支持力算定式は,仮設構造物工指針 1),杭基礎施工
便覧 2),バイブロハンマ設計施工指針 3)の各文献で
は,明確な定義が示されていないことから,本件で
は参考値とした.
図-4 支持層のない打止め管理フロー(施工前)
3. 計測方法
歪みゲージおよび加速度計の設置位置を図-5 に,
計測機取り付け状況を写真-1 に示す.測定方向は
軸方向とし,歪みゲージは仮設杭上端より 1.5m 下,
下端より 1.0m 上のフランジに対抗位置に各2点配
置し,延長ケーブル(ETFE4C シールド付)は歪みゲ
ージも含めてアルミテープで杭体に定着させ,打込
み時の地盤抵抗から保護した.杭頭には加速度計を
仮設杭 1.5m 下のウエブ上に 1点配置し,動的な杭
の軸力(歪み)をユニバーサルレコーダ(EDX-10A)に
よりサンプリング周波数 1000HZ で計測した.
図-5 仮設杭歪みゲージ,加速度計配置図
写真-1 計測機取り付け状況
次に,引抜試験の計測装置概要を図-6 に示す.地
盤反力確保のため,敷鉄板と 30cm の砂利基礎置換
えを行い,100t油圧ジャッキ2台(連動式)により,
杭に引抜き荷重を加えた.引抜き荷重は設計支持力
となる 41.0t5),63.6t5)付近で荷重持続を行い,仮
設杭の荷重および杭軸力(歪み)を計測した.この時
の杭軸力は,打込み時に設置した歪みゲージを利用
し,ユニバーサルレコーダ(EDX-10A)によりサンプ
リング速度 1HZ で計測した.
図-6 引抜き試験計測装置概要図
加速度計:U
:L
加速度計
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4. 引抜き試験
(1)試験結果
1)写真-2 に,引抜き試験加圧,計測状況を示す.
2)図-7 より,引抜き荷重 43t 持続時間 5 分およ
び,66t 持続時間 3分時に上下の歪み値に変化
が見受けられた.
2)レベル計測より(写真-3),引抜き荷重 66t 時の
引抜き量は 3mmm であった.(除荷後 1.5mm まで
減少)
写真-2 引抜き試験加圧状況
図-7 歪み値からの軸力(打込み長 13.3m 時)
写真-3 レベル計測による引抜き量の確認
(2)周面摩擦力の算定
図-8 に示す,66t 時引抜き試験の結果から求めら
れる周面摩擦力を算定し,図-9 にその結果を示す.
1)根入れ 12.3m(13.3-1.0)区間の周面摩擦力
杭頭部軸力 66t-杭先端部軸力 14t=52t
2)杭先端 1.0m 区間の周面摩擦力(想定)
杭先端部軸力 14t-杭下端部軸力 0t=14t
3)m2 当り周面摩擦力
(52t+14t)/杭周長 1.4m/根入れ長 13.3m=3.5t/m2
図-8 引抜き荷重 66t 時の周面摩擦力
図-9 引抜き荷重 66t 時の周面摩擦力の結果
(3)引抜き試験の結果報告
1)引抜き荷重持続時間の歪値の変化は,加圧中に
発生した,地盤沈下(-50mm 程度)のためと考え
られる.除荷後は-5mm 程度まで地盤が戻った
ため,地耐力に問題はない.
2)引抜き荷重 66t 時の仮設杭の引抜き量が
3mm(除荷後 1,5mm まで減少)と,経験的に十分
小さい値であり,鉛直方向の変位はほぼなく,
設計許容支持力 63.6t5)以上の支持力が担保さ
れていることが確認できた.
3)また,杭の周面摩擦においても,設計許容支持
力:63.6t5) (2.6t/m2)に対し,算定周面摩擦
力:66.0t(3.5t/m2)が確認できた.
-10
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 9000
軸力(tf)
時間(s)L平均 U平均
0~43t 43t持続 43~66t 66t持続 除荷
43t
8t
66t
14t
<望ましい値>許容支持力:63.6t
<最低目標値>発生鉛直力:41.0t
地盤沈下
66t時の引抜き量3mm
地盤沈下
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
50
55
60
65
70
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14
軸力(tf)
深さ(m)
根入れ区間の周面摩擦力(歪み値)
先端歪みゲージ:L先端部軸力:14t
杭下端での摩擦力はゼロ
杭頭歪みゲージ:U杭頭部軸力:66t
想定される杭先端部の周面摩擦力(歪み値)
杭の周長U:0.35×4=1.4m
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4)本来はこれに先端支持力も加わるため,本件に
おける施工箇所の仮設杭として十分な支持力
が確保されていることが判明した.このことか
ら,設計時に設定された,所定根入れ長を短く
できる可能性も考えられる.
(4)今後の打ち止め管理方法
支持層のない場合の仮設杭の打止め管理方法は,
図-10 に示すフローのような,着工前の試験杭で,
適度な打込み長毎に引抜き試験を実施し,設計許
容値以上の支持力が確保できた時点で打止めとす
る,施工時における性能設計を行う事で,施工性
の効率化を図ることも可能と考えられる.
図-10 支持層のない仮設杭の打止め管理フロー
5.打込み試験
(1)打込み試験結果
打込みは,電動バイブロハンマー90kw で行い,
打込み長 13.0m 時の計測データ(図-11)より以下
の結果を得た.
1)1打撃当りの加速度計,上下歪みゲージの波
形にずれが見受けられた.
2)打込み速度は 1.83mm/s(打込み長 13.3m,打込
み時間 118 分)であった.表-1 に 1m 毎打込み
長の打込み速度を示す.
3)動的支持力 3) (参考値)の算出
Ru=10.2・Pw/αV+M
Pw:モーター出力(KN):1.3×E/I×100
E:打ち止め時の電圧 200V
I:打ち止め時の最大電流値 400A
V:最終打込み速度 0.233cm/s
α:速度ロス係数 0.02
M:機械能力係数 0.40
動的支持力 Ru=2621KN=267t となった。
4)バイブロハンマーの打込み力,杭頭および,杭
先端部との軸力に大きな差が見受けられた.
(バイブロハンマー打込み力 55t⇔杭頭 20t⇔杭
先端部 6t)
図-11 バイブロハンマー打込み力と
上下歪み計の軸力波形
表-1 打込み長 m 毎の打込み速度
(2)打込み試験の結果報告
1)1打撃当りの波形のずれは,打込み時の状態が,
杭上端はフリー,杭下端は土中部で固定されて
いるため,杭のねじれによる位相のずれと思わ
れる.
2)杭打ち込み速度は,打ち止め時の目安
10mm/s2)> 1.83mm/s と大きく下回っている.ま
た,表-1 より,砂質層を除く粘性土層で打込
み速度が低くなっていることから,杭の摩擦力
が非常に高いことが推測される.
3)動的支持力(参考値)は、設計許容支持力:
63.6t5)より約 4倍の支持力を確認できた。
-80
-60
-40
-20
0
20
40
60
80
-80
-60
-40
-20
0
20
40
60
80
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
起振力(tf)軸力(tf)
時間(s)
L
U
Fω
【電動バイブロ90kw 13.0m打込み時】
55tの打込力(加速度×杭・バイブロ重量)
杭頭にかかる軸力 20t杭先端にかかる軸力 6t
波形のずれ確認
杭貫
入時
の応
力
0.03mm/s
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4)バイブロハンマー打込み力は,図-12(a)に示す
通り,打込み力=杭頭軸力となるべきだが,計
測値となる(b)(C)では,バイブロハンマー打込
み力が,杭頭軸力で大きく減少していることが
確認できた.これは仮設杭の杭芯,打込み角度
がずれないよう,吊り気味に,徐々に打ち下げ
ながら打込みを行っているためと推測される.
5)この時のバイブロハンマー打込み時の吊荷重
は本試験では確認していない.
図-12 バイブロハンマーの打込み力と
軸力の概念図
写真-4 仮設杭打込み状況
6)図-12(b)(C)より,杭頭部から杭先端部間の軸
力の減少は周面摩擦力によるものであるが,吊
りながらの打ち込みのため,打込み時の周面摩
擦力であるかは不明である.
7)図-11 による,打込み力および杭頭・先端部の
軸力は,0.1 秒に満たない極めて短い時間での
振幅となるため,図-13 より上下に働く力の差
を平均値化した結果,バイブロハンマー打込み
力 6t,杭頭・杭先端部の軸力は 1.1t となり,
杭先端部にはほぼ,打込み力は届いていないこ
とが確認できた.
図-13 バイブロハンマーの打込み力と
軸力の平均値
8)打込み力における軸力の割合を伝達関数とし
て整理(図-14)すると,打込み力に対して杭頭
部では 40%,杭先端部では 10%程度しか軸力が
伝達していないことが確認できた.
図-14 打込み力に対する上下軸力の伝達関数
(3)バイブロハンマーの有効打込み力
試験値より,バイブロハンマー打込み力 55t が,
杭頭部軸力 20t まで大きくロスしていることが確
認できた.1.はじめにで述べた,移動式クレーン吊
荷重の算出式 2)より求めたバイブロハンマー90kw
時の吊荷重(作業係数 0.15)は 21.1t(表-2)となり,
試験値の杭頭軸荷重 20t とほぼ同じ力となった。
また、試験値杭頭軸力 20t における作業係数 K
を逆算すると,k=F-(Wcf+Wp+W)/(P0/g)=0.14(試験
値)となった.
したがって,バイブロハンマーの打込みは,バイ
ブロハンマーの強制振動力(起振力・振幅・加速度)
をチャック装置を介して杭に伝え,杭周辺の周面摩
擦および先端抵抗力を低減させ,バイブロハンマー
と杭体の自重で打込みを行っている可能性が高く,
バイブロハンマーの打込み力は,ロスした力≒作業
係数 0.15 であると推定される.
-1
-0.5
0
0.5
1
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
軸力(tf)
時間(s)
L:杭先端部
U:杭頭部
【電動バイブロ90kw 13.0m打込み時】
-80
-60
-40
-20
0
20
40
60
80
-80
-60
-40
-20
0
20
40
60
80
0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3 0.35 0.4 0.45 0.5
軸力(tf)
時間(s)
L
U
Fω
【電動バイブロ90kw13.0m打込み時】
上方向に働く軸力:平均18.5t
下方向に働く軸力(平均)19.6t
杭の軸力:19.6-18.5=1.1t: 5.9- 4.8 =1.1t
上方向に働く軸力(平均)4.8t
下方向に働く軸力(平均)5.9t
上方向に働く打込み力:平均48.1t
バイブロの打込み力
54.1-48.1=6.0t
下方向に働く打込み力:平均54.1t
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また、試験値の杭頭軸荷重 20t より、バイブロハ
ンマー60kw の場合の軸力と作業係数を比例により
推定すると、F=20t×60kw/90kw=13.3t,作業係数k
=F-(Wcf+Wp+W)/(P0/g)=0.11(推定値)となり、
電動バイブロハンマー60kw では打込み効率が悪い
ことが想定できる.
表-2 クレーン吊荷重の算出(作業係数:0.15)
(4)今後の仮設杭打込み方法
バイブロハンマーの打込み力が大きくロスし,打
込み力が効率的に機能していないことが確認でき
た.効率的な仮設杭の打込みは,地質,クレーンオ
ペレータの熟練度によって大きく左右されるもの
と思われるが,着工前の試験杭により,バイブロハ
ンマーの打込み力を有効的に仮設杭に伝えるため,
クレーン吊荷重をロードセル等の計測機によりモ
ニタリングし,図-11(a)に示す,バイブロハンマー
打込み力=杭頭軸力となるポイントを制御しなが
ら打込むことを課題とし,仮設杭打ち込みの施工効
率化を図ることが望ましいと思われる.
6.まとめ
本件のような,支持層がなく,杭の打ち止め管理
方法が明確ではない場合の事象において、設計根入
れ長 13.3m を打ち込んだ仮設杭の引抜き試験によ
り,設計許容支持力以上の支持力を確認する事が出
来た.また,バイブロハンマーの有効打ち込み力に
関しても,杭基礎施工便覧に定められている作業係
数分の打込み力がロスしている可能性についても
確認できた.
以上より、支持層のない場合の仮設杭の打ち止め
管理方法は、①適度な打込み長毎の引抜き試験によ
る支持力の確認を行う,②打込み試験による効率的
な打込み力の確認を行う,の2点を行うため,着工
前の試験杭による計測実施が極めて重要であると
考える.
参考文献
1) 仮設構造物工指針:H11,日本道路協会
2) 杭基礎施工便覧:H27,日本道路協会
3)バイブロハンマ設計施工便覧:H27,バイブロ
ハンマ工法技術研究所
4)道路橋示方書・同解説Ⅳ下部構造編:日本道路
協会
5)峰延道路実施設計外一連業務:H27,札幌開発建
設部
60Kw 90Kw
Wcf クレーンフック質量(tf)
Wp :杭H350 L=19.5mの質量(tf)
W バイブロハンマーの本体質量(tf) 4.8 6.9
P0 バイブロハンマーの起振力(tf) 477 730
g 重力加速度(9.8m/sec2)
k 作業係数(打込み時:0.15,引抜き時0.25)
15 .1 t f 21 .1 t f
名称電動バイブロ
0.39
2.60
0.15
吊荷重F=Wcf+W+Wp+(P0/g×α)
9.80