ごみ有料化後にリバウンドは起こるのか? -...

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環境経済・政策研究 Vo l . 4 NO.l ごみ有料化後にリバウンドは起こるのか? 碓井健寛 家庭ごみ有料化は,導入後に減量効果が失われるというリバウンドが開題だと指捕されているが,実捺には 明らかでない.本稿は家庭ごみ有料化の減量効果,および資源ごみの代替促進効果の長期での持続性を明ら かにするために,計量経済学のパネルデータ分析を用いて検証した.その際にデータ選択の恋意性を可能な 限り排除し,推定結果の頑健性を保証するために複数のモデルによって確認した.その結果,ごみ排出量の リバウンドはわずかながら存在するものの,長期の減量効果はほとんど失われないことが明らかになった. また,資源ごみの長期の分開促進効果は,有料化導入後の経過年数が経つにしたがって逆に強まることがわ かった. キーワード:ごみ有料化の長期効果,リバウンド,資源ごみ,分別促進,パネルデータ分析 1.はじめに 近年,各市町村で家庭ごみ 1)の有料化の導入が 進んでいる.家庭ごみの有料化は,ごみ処理経費 の財源調達の手段であるとともに,ごみ減量,分 別促進を目的とした自治体の政策である.ところ が有料化導入後に減量効果が薄れるという「減 量効果のリバウンド」が指摘されている.また, 有料化導入後のリバウンドの存在が当然である かのように述べている文献もある.たとえば f 料化で、減ってもまた増える J (服部・杉本, 2005 p.84) という記述や, I 効果は一時的J (日本経済 新聞, 2005) などである.しかしいずれも実証研 究に基づく証拠は示されていない. その一方で,有料化のリバウンドについて実証 的に分析した研究は無いわけではない.たとえ ば,天野ほか (1999) は,有料化を導入したいく つかの自治体の排出原単位を比較しながらリバ ウンドの有無について検証した先駆的な研究で ある.彼らは,いくつかの自治体で有料化導入前 の排出原単位を上回っているため,リバウンド効 果が見られると指摘している.しかし以下の点で 問題がある.まず少数のサンプルであること.次 に排出削減効果を,有料化を導入しなかった場合 の予測値と,有料化導入による実捺の排出量との と定義しているため,有料化前後での社会経済 的な状況変化による排出量の増減を含む可能性 があること.たとえば有料化導入後に 3 年経過 したときの 1 人当たりのごみ排出量の原因には, 有料化の減量効果とともに,所得の増加や世帯人 員数の変化などが含まれてしまう.したがって有 料化の長期減量効果を見るためには,社会経済的 な変数を制御することが不可欠である. このような分析対象にはパネルデータ分析が 有効である.パネルデータはクロスセクション 方向と時系列方向のデータの性質を併せ持つた め, 1) 経済主体鴎の異質性をコントロールでき る, 2) サンプル数が増えて自由度が増す, 3) 済主体罰有の性質からくる異質性を除去した後 の効果を見るうえでも有益である,という和点が ある(松浦・マッケンジー, 2005 ,第 7 ここで有料化の長期効果に関する先行研究を克 てみよう 2) Linderhof et a l. (200 1)は,オランダ のある自治体の個票データを用いて,動学的パネ ルデータ分析を行った.その結果,短期よりも長 期の価搭弾力性が大きくなった.その原因として

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環境経済・政策研究

Vol. 4, NO.l

ごみ有料化後にリバウンドは起こるのか?

碓井健寛

家庭ごみ有料化は,導入後に減量効果が失われるというリバウンドが開題だと指捕されているが,実捺には

明らかでない.本稿は家庭ごみ有料化の減量効果,および資源ごみの代替促進効果の長期での持続性を明ら

かにするために,計量経済学のパネルデータ分析を用いて検証した.その際にデータ選択の恋意性を可能な

限り排除し,推定結果の頑健性を保証するために複数のモデルによって確認した.その結果,ごみ排出量の

リバウンドはわずかながら存在するものの,長期の減量効果はほとんど失われないことが明らかになった.

また,資源ごみの長期の分開促進効果は,有料化導入後の経過年数が経つにしたがって逆に強まることがわ

かった.

キーワード:ごみ有料化の長期効果,リバウンド,資源ごみ,分別促進,パネルデータ分析

1.はじめに

近年,各市町村で家庭ごみ1)の有料化の導入が

進んでいる.家庭ごみの有料化は,ごみ処理経費

の財源調達の手段であるとともに,ごみ減量,分

別促進を目的とした自治体の政策である.ところ

が有料化導入後に減量効果が薄れるという「減

量効果のリバウンド」が指摘されている.また,

有料化導入後のリバウンドの存在が当然である

かのように述べている文献もある.たとえば f有

料化で、減ってもまた増えるJ(服部・杉本, 2005,

p.84)という記述や, I効果は一時的J(日本経済

新聞, 2005)などである.しかしいずれも実証研

究に基づく証拠は示されていない.

その一方で,有料化のリバウンドについて実証

的に分析した研究は無いわけではない.たとえ

ば,天野ほか(1999)は,有料化を導入したいく

つかの自治体の排出原単位を比較しながらリバ

ウンドの有無について検証した先駆的な研究で

ある.彼らは,いくつかの自治体で有料化導入前

の排出原単位を上回っているため,リバウンド効

果が見られると指摘している.しかし以下の点で

問題がある.まず少数のサンプルであること.次

に排出削減効果を,有料化を導入しなかった場合

の予測値と,有料化導入による実捺の排出量との

と定義しているため,有料化前後での社会経済

的な状況変化による排出量の増減を含む可能性

があること.たとえば有料化導入後に 3年経過

したときの 1人当たりのごみ排出量の原因には,

有料化の減量効果とともに,所得の増加や世帯人

員数の変化などが含まれてしまう.したがって有

料化の長期減量効果を見るためには,社会経済的

な変数を制御することが不可欠である.

このような分析対象にはパネルデータ分析が

有効である.パネルデータはクロスセクション

方向と時系列方向のデータの性質を併せ持つた

め, 1)経済主体鴎の異質性をコントロールでき

る, 2)サンプル数が増えて自由度が増す, 3)経

済主体罰有の性質からくる異質性を除去した後

の効果を見るうえでも有益である,という和点が

ある(松浦・マッケンジー, 2005,第 7

ここで有料化の長期効果に関する先行研究を克

てみよう 2) Linderhof et al. (2001)は,オランダ

のある自治体の個票データを用いて,動学的パネ

ルデータ分析を行った.その結果,短期よりも長

期の価搭弾力性が大きくなった.その原因として

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1人当たり排出議;

有料化導入

による

i成髭:効果

13

思ホ効h

F

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た民家Jf

J

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d/↑し1小

y

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が予

f

f

/

一→時隠

図 1 1}バウンドの定義

長期になるほど有料化を通して環境意識が向上し

たため,と説明している.Yamakawa and Ueta

(2002)は日本の従量制存料化導入済み自治体の

みのクロスセクションデータを用いた.可燃ご

みに対する減量効果を推定するために,ダミー変

数により導入年度別に分解した結果,少なくとも

10年以上はごみ減量効果が継続することがわか

った. Dijkgraaf and Gradus (2009)はオランダ

のさまざまな自治体集計年次パネルデータを用

いて有料化の長期効果を推定した.全ごみ量,コ

ンポストできないごみ,資源ご、みの推定式につい

てそれぞれ有料化導入経過年のダミー変数の交

を導入した結果,少なくとも 7年以上は減

量効果が継続することがわかった.

先行研究の結果をまとめると,従量制有料化に

よる減量および分別促進効果は短期でも長期で

も存在することがわかる.また偲票データ,集計

データに関わらず,少なくとも有料化の減量効果

は長期にわたって持続することを保証している.

しかし Linderhofet al. (2001)のデータはもとも

と環境意識の高い有料化自治体での個票データに

よる分析であるため,有料化の儲格弾力性が過大

推計されている可能性は否めない3) また Dijk-

graaf and Gradus (2009)は有料化導入ダミーと,

導入年数ダミーが交差項となっているため,減量

効果の持続性の効果と,価格の大きさの効果を分

離できていないという欠点がある.

本研究も先行研究と同様に,パネルデータを使

用する.その上で家庭ごみ有料化の減量・代替促

進効果が長期で続くのかどうか,より具体的には

有料化のリバウンドが存在するのかどうかをパ

ネルデータ分析により検証することを目的とす

る.ここで,分析をはじめる前に,検証する対象

を明らかにしておこう.一般に使用されている有

料化のリバウンドという言葉は,使用者によって

定義も媛味であるように見受けられる.そこで,

本稿で明らかにする有料化におけるごみ減量の

「リバウンド」を図 1のように定義する,まず有

料化導入直後に減量効果が見られるが,有料化が

なかった場合の予想排出量と,有料化をした場合

の実擦の排出量の差が,時間の経過とともに縮ま

ることを「リバウンド効果jと定義した.その逆

に,時間の経過とともに予想、排出量と排出量の差

が拡大すれば「逆リバウンド効果」となる.この

留における 1)バウンドは,有料化の減量効果以外

の全ての要因(社会経済変数など)を一定とした上

で,長期の有料化による減量効果の推移を検討し

ていることにi主意しよう.

本稿の貢献は以下のように要約できる. 1)従

来の研究はデータ選択に偏りが生じていたのに

対し,本稿はデータ選択の怒意性を可能な隈り

排黙した, 2)推定結果の頑健性を保証するため

に複数のモデルを確かめた, 3)従来の研究には

無かった有料化の資源ごみ分別促進の長期価格

弾力性を推定できた.本稿の構成は以下の通り

である.次節では分析手法およびデータについて

解説した.第 3節では分析結果について述べた.

最後に第 4節で結論を述べた.

2.分析手法およびデータ

本節では推定式および使用したデータについて

説明する.本稿は非資源ごみの減量効果と資源ご

みの分知効果が長期でも持続するのかどうかを検

証する.本稿では可燃ごみ+不燃ごみ,あるいは

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14 環境経済・政策研究

混合ごみをはド資源ごみJと定義する.有料化を

導入している自治体であれば,非資源ごみは有料

化指定袋によって排出されるごみに該当する.ま

た無料で奴集される資源物を「資源ごみjと

する.使用するデータの詳細な定義は後述する.

ln Ws,itニ α十β11npit十β21npitXYit+,s3

α十(sl十s2Yit十β3Y;t)lnpit+γZit+αz

+入t十Uit.

これは両辺対数モデルで,被説明変数 ln切sはS

タイプの 1人 1B当たりごみ排出量の対数であ

る.Wsはそれぞれ,1人 1邑当たり非資源ごご、み

収集量の対数(エ切口ω0口陀附c'叩J

り資j源原ごみ収集量の対.数(=ωT吋 cl品ωbleρe)である.右

辺の lnpは,非資源ごみに対する従量制有料化

の指定袋価格の対数である.Yは有料化導入後

の経過年数を示し,後述するように有料化導入

後の 1)バウンド効果の有無を推定するためにあ

る.Zは社会経済変数である.添え字の iはサン

プルの番号で,tは年度を示す.α は時開軸方向

には一定の,観察できない偲加効果である.入は

横断面方向に一定の持間効果である.sは被説明

変数が非資源ごみの場合は価格弾力性となり,資

源ごみの場合は交差価格弾力性となる.γ は社会

経済変数のパラメータである.誤差項の uは平

均 0,分散ポの正規分布であると仮定している.

前述した式の lnωsをlnpで偏微分すると ,sタ

イプのごみ収集需要の価格弾力性となる.つまり

δln ωs/δlnp=ε=sl十s2y+s3y2である.この価

格弾力性は有料化導入経過年数に依存すると想

定している.たとえばy=lを有料化導入年度と

しているので,導入開始年度の価搭弾力性とな

る.したがって y>lならば,有料化導入から y

年時での価格弾力性となる. 1)バウンドの有無

は, β1,およびs3の符号の正負によって決

まる.

次に社会経済変数の Zについて述べる.Zに

は多くの先行研究で使用されている説明変数を

線型モデルとして導入した. ln Popdは人口密度

の対数である. ln Incomeは1人当たり所得の対

数である4) しかし百本では自治体の所得をは

かる直接的な指標が存在しないため, 1人当た

り課税対象所得を所得の代理変数として用いる.

lnRαmilyは世帯人員数の対数である.世帯人員

数が増えると,たとえば新聞を一家で共有する

共同消費を通じて 1人当たりのごみの総量は減

少すると考えられる.Ageは自治体の平均年齢

を表している.Dfeoはその他のタイプの有料化

を導入の有無を示すダミー変数であり ,Dfemは

ごみの排出に関して多量の場合に有料としてい

る自治体(一定枚数の指定袋やタグは無償配布)

のダミー変数である.また,自治体での資源ご

み分別収集の有無に関するダミー変数 Drecを

入した.ただし(問c=Pαpeη Metalう Glassぅ PETう

Plastic, Other)である.時開効果をコントロール

するために年度ダミ一日αη を導入した.れαγt

は,t年度のデータであれば1,それ以外の年震

なら 0をとるダミー変数である.たとえば使い

捨てごみの増大傾向やライフスタイルの変化など

が年度ダミーによって説明できると考えられる.

被説明変数の排出量のデータには環境省

(1995-2002)の一般廃棄物処理事業実態調査を使

用した.非資源ごみ収集量,資源ごみ収集量を次

のように定義した.非資源ごみ収集量=混合ごみ

収集量+可燃ご、み収集量+不燃ごみ収集量.資源

ごみ収集量ェ各種資源ごみ収集量の合計十集団回

これらには事業系ごみと,事業所から排

出される資源ごみも含まれることに注意された

い.対象自治体は全市で,従量制有料化,非存料

化自治体をすべて含む.データ期間は 1995年か

ら2002年の 8年間である.この期間は市町村合

併がほぼ無いため脱落サンプルによるバイアス

を考慮する必要はない.そのうちから不備のあ

るデータを除くと, 665市のデータが残った.説

明変数の価槍データおよび導入年度のデータは

山谷(2006)のデータを用いた.彼は 2005年に有

料化の有無,有料化の形態,その価格,およびそ

の導入年疫について,全市に対して電話・アン

ケートを行った.その結果,回収率は 100%で

712の市および東京 23~のデータが収集されて

いる.従量制有料化の価格は 40~50 リットル指

定袋を基準としている.価楼の大きさは,導入か

ら現在に至るまでほとんど変化していないと考え

察て

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40

皮 25

数 20

。l…ω 鴻務!総決 e話線 I燃伝 i滋が急務?お総ハ

/JJJJ/J//AFq 指定袋傾i格(円/40-501)ットル袋)

図 2 従量制有料化価格の分布(2002年時点)

出所)山谷(2006)のデータを筆者が加工した.

nuQO

氏υ

A

anvQOno

qゐ

t

A

T

i

唱え

t

i

z

i

導入自治体数

従最古IJ有料化の導入年度

国 3 従量制有料化の導入年度の分布

出所) I.IJ谷(2006)のデータを筆者が加工した.

て良い.図 2は従量制有料化の指定袋価格のヒ

ストグラムである.メディアン,モード,乎均は

それぞれ, 37円, 37円, 42円であった(価格>5

円の自治体のみ)5) .国 3は従量制有料化の導入

年度の分布である.大半が 1990年代に有料化を

開始しているが,なかには 1970年代から開始し

ている市も多く見られる.その他の社会経済変数

には朝百新聞社(2008)における市町村データを

用いた.対数を取れる変数については対数変換し

た.データ作成の詳縮および使用した変数の記述

統計は表 1にまとめた.次節で推定結果を解説

する.

3.分析結果

3.1 非資源ごみの減量効果の分析

パネルデータ分析における Fixedeffect model

(以下, FEと略す)で6) 長期の減量効果を推定

した.推定には STATA10を用いた.推定結果

を表 2に示した. (1)から (5)までの 5つのモデ

ルを推定することにより,除外された変数が価格

の短期・長期の効果に対してどのような影響を及

ぼすかをチェックした.

分続結果の概略を述べると,有料化価格に関連

する係数は,プーリング OLS(モデル 1)と, FE

(モデル 2~5) との間で大きく異なっていること

がわかる.つまり観察できない館別効果が長期の

価格弾力性に大きく影響を及ぼしていると言え

る.モデル(1)から}II買に有料化価格に関する係数

の変化を中心に見ていこう.

モデル(1)=価格,価格と年数の交差項,価格

と年数の 2乗の交差項:1人 1B当たり非資源ご

み収集量を,従量制有料化{耐各の対数,価諮の対

数とその導入経過年数の交差項,および,価格の

対数と経過年数の 2乗の交差項に対して回帰し

た.有料化の価格と年数の 2乗の交差項は負で

ある.有料化導入年数と弾力性の関係が逆 U

型となっていることがわかる.

モデル(2)ェモデル(1)の変数十Fixedeffect :

モデル (1)に対して自治体国有のダミー変数(固

定効果)を加えたのがモデル (2)である.FEにお

ける自治体国有ダミーの係数が全て等しいとい

う帰無仮説で Ftestを実施したところ,帰無仮

説が棄却され, FEのモデル(2)が望ましいモデ

ルであると言える7) 従量制有料化価格と経過年

数の 2乗の積の係数は,負から正に変わってい

る.その結果,長期の減量効果はモデル(1)と反

対で, U字型になっている.有料化錨格の経過

年数,およびその 2乗の変数に観察できない

変数との間の相関に起因するバイアスを取り除

くことで,係数の符号が変化したことがわかる.

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表 1 記述統計

変数名 平均 標 準偏差最小値最大値 定義 サンプル数

W non-recyclable 831 202 56 2ぅ062 1人 1日当たり可燃/不燃ごみ収集量a) 8年間×全市

736 177 270 1.430 8年間×有料化導入市

w陀 cyclable 127 67 O 857 1人 l日当たり 8年間×全市

114 61 O 345 8年間×有料化導入市

p 14.5 18.9 6 114 従量制有料化指定袋領格(丹/401)ットル程度の袋)b) 8年間×全市

42.0 19.4 10 114 81]三際×有料化導入市

ν 1.6 5.6 O 34 従量制有利化の導入経過年数(導入初年度 =l)bJ 8年間×全市

10.6 10.3 1 34 8年間×有料化導入市

Dfeo 0.004 0.063 O l その地の有料化ダミーa) 8年間×全市

Dfem 0.02 0.13 O 1 多量のみ有料化ダミ _a) 8年間×全市

Dpα.peγ 0.65 0.48 O l 紙類分間収集のダミー変数a) 8年関×全市

0.60 0.49 O 8年間×有料化導入市

DMetal 0.83 0.38 O 缶や金属分別収集のダミー変数a) 8年間×全市

0.81 0.40 O 8年間×有料化導入市

D Glαss 0.82 0.38 O ガラス類分間収集のダミー変数a) 8年間×全市

0.75 0.44 O 8年間×有料化導入市

DpET 0.49 0.50 O ベットボトル分出収集のダミ 8年間×全市

0.53 0.50 O 8年間×有料化導入市

DPlastic 0.17 0.38 O l プラスチックの分別収集のダミー変数a) 8年間×全市

0.21 0.40 O 8年時×有料化導入市

DOther 0.42 0.49 O 1 その他の資源ごみ分別収集のダミー変数a) 8年間×全市

0.32 0.47 O 8年間×有料化導入Tfi

Popd 1う704 2う314 19 13ぅ782 人口密度(自治体人口/自治体面積)C) 8年間×全市

Income 137 30 O 279 課税対象所得(万円)cl 8年間×全市

Fαηuly 2.9 0.3 1.7 4.1 世帯人員数(自治体人口/自治体世帯数)C) 8年間×全市

Age 39.5 2.5 31.7 50.3 (写(年歯剛直iX年齢階級自治zの体叩人口人口

)C) 8年間×全市

出所) a)環境省(1995-2002) b)山谷(2006) c)朝日新開社(2008).

モデル(3)ニモデル(2)の変数十{患の有料化ダ

ミー変数十人口密度十1人当たり所得十世帯人員

数十平均年齢:モデル (2)の変数に,他の有料化

ダミー変数,人口密度, 1人当たり所得,世帯人

員数,平均年齢の変数を加えたのがモデル(3)で

ある.社会経済変数の符号は予想通りで,所得が

増えると非資源ごみは増えた.これは所得増加が

消費を増大させ,その結果非資源ごみ収集量を増

加させたと考えられる.世帯人員数が増えると非

資源ごみは減った.世帯で新聞を共有するなどの

効果によって 1人当たりの非資源ごみを減少さ

せたと考えられる.また人口密度が増えると非資

源ごみは増えることがわかった.これは人口密度

が住宅の広さの代理変数として考えられ,資源ご

みをストックする場所が少ないため非資源ごみと

して増大したと考えられる.平均年齢,他の有料

化ダミー変数は有意で、なかった.また従量制有料

化の変数の符号・大きさはモデル (2)とほぼ同様

である.

モデル(4)=モデル(3)の変数十各種資源ごみ分

崩収集ダミー変数:モデル (4)はモデル (3)の変

数に,資源ごみ分加収集の有無に関するダミー変

数が加わっている.資源ごみ分別収集による代替

効果で,非資源ごみは減少すると予想されるが,

本モデルではプラスチックの資源ごみ分加,およ

びその他資源の分別の係数がマイナスで有意に

なっている.有料化のインセンティブが無い状態

で,住民がプラスチックを自発的に分別している

効果である.また有料化の変数の符号・大きさは

モデル(3)とほとんど変化がない.所得,世帯決人

員数,人口密度などの社会経済変数もモデル (3)

と変わらない.

モデル(5)=モデル(4)の変数十年度ダミー:最

後に,モデル(4)に年度ダミーを入れたのがモデ

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表2

推定

結果

.非

資源

ごみ

収集

Dependent Variable

(1) OLS

(2)FE

(3)FE

ln切

削川

、(:r

coeff

coeff

s.e

coeff

lnp

-0.069

0.009

-0.063

0.009

-0.065

0.009

yxlnp

0.000059

0.000025

水*

0.000049

0.000027

水0.000025

0.000027

y2 X

ln p

-0.000003

0.000001

0.000003

0.000001

0.000003

0.000001

DJco

0.033

0.071

DJc

",

-0.007

0.034

Dpap

D,.,[

山u

D(マ

DpET

Dj>lasuc

DOthιγ

ln P

opd

0.135

0.068

ln Inco

円l.e

0.146

0.051

lnF.αmily

-0.778

0.248

Age

-0.005

0.009

γeα

1'.95(benchmark)

Year.96

Yea1'.97

Ye α

1'98

Yeα

1'.99

Ye α

1'00

Yea1'Ol

Yea1'02

Adjusted R

2

0.046

0.051

0.076

F test

F(664,4646)

口46.5

F(664,4629)=

38.4

Hausman test

χ2(3)

口70.7

χ2(7)=

47.9

LM

test

X2(1)

口13,300.]

X2(1)=

12,382.9

AIC

219.9

-10,587.5

-10,699.5

i主1

)有

志;

水準

水,pく0.1

;キ*,

p<0.05;

料キ

,p<0.01

2)

Yeα

1'.95(benchmark)とは,

{也の年度の係数が

95

if~を恭添とした係数となっていることを示している.

3)

モデル(1)はプーリング

OLS,

モデ

ル(2)から

(5)は

FE(Fixed

effect model)である

(4)FE

coeff

-0.064

0.009

0.000022

0.000027

0.000003

0.000001

0.033

0.063

-0.011

0.034

-0.007

0.008

-0.012

0.011

--0.013

0.012

。 007

0.006

-0.029

0.006

-0.008

0.005

0.134

0.070

0.135

0.051

-0.817

0.261

一0.001

0.009

0.092

F(664,4623)=

37.9

χ2(13)=

586.3

χ2(1)=

12,122.1

-10,779.9

(5)FE

coeff

-0.063

0.008

0.000006

0.000025

0.000003

0.000001

0.042

0.062

-0.011

0.030

-0.007

0.008

-0.014

0.011

-0.015

0.012

-0.011

0.007

-0.032

0.007

-0.007

0.005

0.002

0.043

0.292

0.106

-0.153

0.208

-0.054

0.013

0.033

0.006

0.049

0.012

0.093

0.017

0.133

0.022

0.167

0.027

0.204

0.032

0.223

0.038

0.113

F(664,4616)

口38.9

χ2(20)

ここ

118.1

χ2(1)=

12,126.5

10,895.2

ト4 --1

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18

氏。巧

iρ0

ハυハU

悩格弾力性

一 (1)

ーーーー (2)

--(3)

(4)

一一一 (5)0.07

-0.0725

図4 有料化の長期減量効果:非資源ごみ収集量

注)モデル (1):価総,価格と年数の交差項,価格と年数の 2乗の交差項,

モデル(2):モデル(1)の変数十 Fixedeffect,モデル(3):モデル(2)の変

数十他の有料化ダミー変数今人口密度+1人当たり所得 +ilt帝人員数十平

均年齢,モデル(4):モデル (3)の変数+各種資源ごみ分別収集ダミー変数,

モデル(5):モデル(4)の変数+年度ダミー

ル(5)である.年度ダミーは全て有意で,年が経

つに従って係数が大きくなっている.使い捨ての

傾向が強まっているためか,全国の平均的な傾向

として非資源ごみの収集量が増大していることが

わかる.有料化の 3つの係数はモデル (4)とほぼ

同じで, U字型になっている.年度ダミーを

入することで,全国平均的にごみが毎年増加して

いるという傾向を捉えることができた.その一方

で、世帯人員数と人口密度の係数が有意でなくなっ

ている.これは世帯人員数が全国で均一なベース

で減少傾向であり,そして人口密度が増加傾向で

あったため,年度ダミーにそれらの効果が吸収さ

れたと考えられる.

弾力性の式にそれぞれのモデルのグの推定債

を与えて理論値を描いたのが函 4である.縦軸

は価格弾力性,横軸は有料化導入からの経過年

数を示している.モデル(1)の曲線は逆 U字型だ

が,モデル(2)から (5)はU字型で,それぞれの

牙外犬もほぼ同じである.歯より FEとOLSで結

果が大きく異なっていることがわかる.しかしモ

デル (2)以降は,変数が加わったとしても有料化

価格の係数はほとんど変化しないため,頑健性の

高い推定結果であると言える.

長期の有料化の減量効果はなぜ U字型のカー

ブになるのだろうか.これは以下の 2つの複合

的な効果ではないかと考えられる. a)排出者の

資源ごみ分別技術やリテ守ユース(ごみにならない

ような買い物)の技術が向上し,非資源ごみが長

期で減量するという効果. b)排出者が袋を節約

するために過剰に袋に詰め込むため,非資源ごみ

が長期で増大するという効果. b)を少しくわし

く説明してみよう.まず従量制有料化は袋の容積

で料金が決まっているため,袋に入る訣り料金は

同じである. したがって袋にたくさん詰め込む方

が,袋購入費用を節約できるということである.

これは Fullertonand Kinnaman (1996)でも

制有料化の問題点として指摘されている.ほかに

も不法投棄によって料金負担を回避するという

適正、も考えられるが,有料化導入前後で不法投棄

が劇的に増大することはほとんど無い (UJ川ほか,

2002) .また指定袋価格に対する'讃れによって負

担感が軽減し,ごみ増大に繋がる可能性も考えら

れるが,たとえば他の公共料金の電気やガスで,

価桔の慣れによって長期において需要が増大する

という研究結果は見られない.よって,減量・分

別技術の向上による減量効果と過剰圧縮による増

大効果の強弱によって長期儲格弾力性が決まると

いう可龍性が強い.ところが先行研究の Linder-

hof et al. (2001)や Dijkgraafand Gradus (2009)

の,重さで測った有料化について減量効果が高ま

るという推定結果とは異なっている.彼らは,長

期の有料化によって住民の環境意識を向上させる

と推論しているが,注意すべきなのは,従量制有

料化と重量制有料化の制度の違いである.先述し

たように,袋の容積で料金が定められている場合

と,その都度重さを量って課金する場合では,住

民の減量化への適応方法が異なってくる可能性

が高い.重さで測る有料化の場合には過剰圧縮す

るメリットが無いため,長期では a)の分別技術

向上によって減量効果が増大する逆リバウンド効

果となる,と推論できる8) しかし,本稿の誰定

結果では,長期の価格弾力性の変化は非常に小さ

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-お移訟が丸、ATq

ごみ有;jfiトイヒf麦に 1)ノくウンドはi起こるのか?

い.導入後 30年間でせいぜい 5%程変の変化で

ある.リバウンドは確かに存在するが,従来考え

られてきた 2~3 年で減量効果が失われるという

ほどのものではないことは明らかである.

3.2 資源ごみの分別促進効果の分析

非資源ごみの分析と同様に, 1人当たり資源ご

み収集量を被説明変数とした分析についても説

明しよう.推定結果を表 3に示す.非資源ごみ

と同様に資源ごみについても (1)から (5)までの 5

つのモデルを推定することにより,交差価格弾力

性の推定結果の安定性を確認した.非資源ごみと

同様に,有料化価格に関する変数のパラメータ

は,プーリング OLSのモデル(1)とそれ以外の

FEモデルとの間で大きく異なっている.

モデル(1)=舗格,価格と年数の交差項,価格

と年数の 2乗の交差項:説明変数は従量制有料

化価格の対数,価格の対数とその導入経過年数

の交差項,および¥価格の対数と経過年数の 2

乗の交差項である.モデル(1)はプーリング OLS

である.有料化価格の係数はすべて負を示して

いるが,いずれも係数も有意ではなかった.特に

lnpの係数は,想定する符号と逆であった.

モデル(2)ニモデル(1)の変数十Fixedeffect ・

モデル (1)に対して自治体固有のダミー変数を加

えたものがモデル(2)である.有料化の 3つの係

数が負から正に変わっており,長期になるほど資

源分別の促進が強まっている.非資源ごみの推定

と同様に, FEを導入することでモデルの当ては

まりが改善した.F testの結果は非資源ごみの

推定結果と全て同じで,モデル(2)以降はプーリ

ング OLSよりも FEが望ましいモデルとなる.

モデル(3)ニモデル(2)の変数十{患の宥料ftダ

ミー変数十人口密度+1入当たり所得十世:曹人員

数+平均年齢:モデ、ル (2)と比べて有料化価格の

係数が小さくなっているが,長期の係数はほとん

ど同じであった.所得が増えると資源ごみは増え

た.所得は消費の代理変数であると同時に,時間

の機会費用の代理変数でもある.係数が正である

ということは消費の増大によって資源ごみを増

大させる効果が,時間の機会費用の上昇によって

資源ごみ分別を減少させる負の効果を上田ったと

19

考えられる.また世帯人員数が増えると資源ごみ

は減少している.これは世帝人員数の増加によっ

て非資源ごみが減少する効果と同じで,資源ごみ

も減少したためと考えられる.手均年齢が

高まると資源ごみを増大させているが,高齢者の

貢献によって分別が進んだという効果なのかもし

れない.その他の有料化ダミー変数,多量のみ有

料化ダミー変数の係数はいずれも正で存意であっ

た.人口密度の係数は有意ではなかった.

モデル(4)ェモデル(3)の変数十各種資源ごみ分

別i民集ダミー変数:依然として有料化の変数の符

-大きさはモデル(3)とほとんど変わらない.

資源ごみ収集量は,分別収集が新たにはじまる

と,資源ごみ総量として増大すると予想される

が,推定の結果,紙,缶,ピン,プラスチック,

その他収集ダミーの係数が正で有意になってい

る.ベットボトルの収集が資源ごみ増量に対し

て有意でないのは,この後のモデルでも同じであ

る.他の社会経済変数の係数の符号もモデル(3)

と変わらない.

モデル(5)こそデル(4)の変数十年慶ダミー:モ

デル (4)に年度ダミーを入れたのがモデル (5)で

あるが,年凌ダミーの係数はいずれも有意ではな

い.非資源ごみ収集量のモデル (5)では,年度ダ

ミーから非資源ごみ収集量の増加傾向が観察さ

れたにもかかわらず,本モデルで、は年度ダミーか

ら資源ごみ収集量の全国的な増加傾向は観察でき

なかった.非資源ごみの分析では年震ダミーによ

ってごみの増加傾向が観察できたが,それが資源

ごみとして収集量に関係していない.したがって

増加傾向なのは使い捨てごみである可能性が考え

られる.ここで所得と世帯人員数の係数が有意で

はなくなった.年度ダミーを入れたことによって

効果がちょうど相殺されたためだと考えられる.有

料化の 3つの係数はモデル (4)とほぼ同じである.

以上の 5つのモデルで,有料化の長期効果を

描いたのが図 5である.非資源ごみ収集量と同

様に縦軸は錨格弾力性,横車告は有料化導入からの

経過年数を示している.モデル(1)の有料化係数

はいずれも有意ではなかったので,図から除外し

ている.モデル(2)は単調増加型で,切片の値や

曲線の形状が他と大きく異なっている.社会経済

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CN

表3

推定

結果

資源

ごみ

収集

Depend巴nt

Variable

(l)OLS

(2)FE

(3)FE

(4)FE

(5)FE

ln切

γc(

coeff

coeff

coeff

coeff.

coeff

lnp

-0.002

0.026

0.214

0.031

0.166

0.030

0.152

0.029

0.151

0.028

yxlnp

-0.000092

0.000078

0.000183

0.000100

ネ-0.000277

0.000084

-0.000255

0.000089

-0.000264

0.000089

νxlnp

-0.000001

0.000002

0.000027

0.000005

0.000018

0.000005

0.000012

0.000005

ネ*

0.000011

0.000005

水吟

Dj,

"o

0.368

0.163

*紘

0.329

0.137

ホ0.336

0.139

Df川

0.166

0.050

0.180

0.068

0.184

0.069

DI'叩

U0.127

0.041

0.120

0.041

DMd.al

0.129

0.061

不0.132

0.061

DCIω

0.279

0.061

0.269

0.061

Dp

B1'

0.034

0.024

0.035

0.031

Dpl(山

r0.061

0.024

0.069

0.026

Dou川

0.039

0.016

0.049

0.019

ln P

opd

0.023

0.277

-0.192

0.318

-0.279

0.368

ln Incorn.e

0.760

0.248

0.558

0.242

0.916

0.659

lnP ,α

mily

-2.459

1.012

本-1.421

0.861

-0.801

1.078

Age

0.244

0.038

0.179

0.034

0.156

0.062

ネ*

Yeαr95(benchmark)

Yeαr96

0.023

0.030

Yeαr97

0.038

0.059

Yeαγ98

0.019

0.089

Yeαr99

0.039

0.113

Yeαγ

00

0.139

0.143

Yeαr01

0.151

0.169

Yeαr02

0.128

0.202

Adjusted R

2

0.010

0.068

0.314

0.377

0.381

F test

F(664,4

582)=

12.7

F(664,4

565)ニニ

15.3

F(664,4

559)=

12.5

F(664,4

552)=

11.4

Hausman test

χ2(3)エニ

296.9

704.2

323.6

χ2(20)=

116.1

LM

test

χ2(1)=

5,402.1

4,131.6

4

ヲ957.4

χ2(1)=

5,248.6

AIC

11,449.8

5,968.0

4,365.2

3,871.8

3,854.4

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21

0.245

0.235

0.225

0.215

F

O

W

O

K

O

nU

ハョ。。

2

1

1

nU

ハU

ハυ

高叫久

nMF]トζ

題。落合九州予

Jjf

自由問問 (2)

一一--(3)

(4)

一一一 (5)

0.175

0.165 ー

。、155 一二二二ムムムムー-♂

0.145 10 15 20 25 30

塁手入経過年数

圏 5 有料化の長期代替促進効果:資源ごみ収集量

1主1)モデル(1):飯格,価格と年数の交差項,価格と年数の 2乗の交差項,

モデル(2):モデル (1)の変数+Fixed effect,モデル (3):モデル (2)の変

数+他の有料化ダミー変数十人口密度+1人当たり所得+t!t帝人員数+王子

均年齢,モデル(4):モデル(3)の変数十各種資源ごみ分別収集ダミー変数,

モデル(5):モデル (4)の変数十年度ダミー

2)モデル(1)の係数はいずれも有意でなかったため描いていない.

変数を追加したモデルの(3),(4),および(5)は

曲線がよりなだらかになり,短期と長期の差はほ

とんど無い.モデル (5)では価格弾力性の大きさ

は導入後 30年間で土2%程度しか変動していな

い.モデル(3),(4),および(5)でも,長期にな

るほど弾力性が大きくなり,分別促進効果が高ま

っているが,その理由として,ごみ排出者の分別

技術が時間の経過によって向上したためと考え

られる.モデル (2)から (5)の推定結果を総合す

ると,資源ごみの分別促進効果は,有料化導入後

の経過年数が長期になるほど強まることがわかっ

た.

4. おわりに

本稿は非資源ごみ収集量,資源ごみの排出量に

ついて,有料化導入から経過年数を明示的に導入

することで,長期の減量・分別促進効果を明らか

にできた.その結果,ごみ排出量のリバウンドは

わずかながら存在するものの,長期の減量効果は

ほとんど失われないことが明らかになった.資源

ごみの長期の分別促進効果は,逆に強くなること

がわかった.本稿の推定結果を考慮すると, 1)バ

ウンドが存在すると言われてきた現象は,全国的

なごみ質の変化や社会経済状況の変化を考恵しな

かったためかもしれない.

これまでワバウンドの対策をとることが不可欠

であると主張されてきたが,今後は見査す必要が

あるのかもしれない.もちろん本稿に課題がない

わけではない.まず従量制有料化の程度について

従量制有料化と,重さで測る有料化では住民に対

する減量へのインセンティブが異なる.長期にお

いて両者の違いを明らかにすることは今後の課題

である. 2点目に,有料化変数の内生性の問題の

改善である.有料化変数と観察不可能な僧別効果

との相関は考慮しているが,有料化導入自治体が

ごみ量の多寡に応じて導入か未導入かを決定して

いる可能性がある.また居辺自治体の動向によっ

て有料化導入の有無を決定している空間的自己相

関の問題もある.これらは本研究で扱わなかった

内生性の課題である.最後に,本稿では長期の価

格弾力性がどのような形状であるかを明らかにし

たが,なぜそうなるのかを明らかにしたわけでは

ない.重量制および従量制有料化のデータと比較

しながら長期に対する減量インセンテイブの違い

を明らかにする必要がある.以上の課題を取り組

むことにより,さらに進んだ、エピデンスが得られ

るであろう.

*東洋大学・経済学部・山谷修作教授による有料化の

調査結果を使用した.本研究は旭硝子財団平成 21

年度人文・社会科学系の助成金,科研費・若手研究

(B) No. 21730206,および循環型社会形成推進科

研費 No.K2109による研究成果の一部である.記

して感謝する.

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22 環境経済・政策研究

j主

1) 本稿では家庭系一般廃棄物のことを「ごみ」

と呼んでいる.また事業系を含む一般廃棄物全体の

ことも「ごみ」と呼んでいるが,特に混乱を生じない

眠り i玄別しせず使用する.

2) 有料化に関する文献レピューとして, Porter

(2002) ,笹尾(2006),および Ferrara(2008)などが

ある.

3) 彼らは,データを採取した自治体の性質とし

て「最も環境への関心の強い政党が第一党となってい

る」と述べている.

4) 消費者物価指数によって所得と有料化価格を

1995年の物価水準に調整した.

5) Usui(2008)と同様に非有料化自治体の価格を

5円としている.有料化していなかったとしても袋を

購入し排出していると考えられるからである.

6) モデル選択には, F test, LM test, Haus-

man testの検定統計量により,それぞれプーリン

グOLS,FE, RE (Random e旺'ectmodel)の選択を

行った.その結果, FEが望ましいモデルに選ばれ

た.モデル選択の手順は例えば Hsiao(2002)が詳し

い.推定したモデルは不均一分散の修正を仔った.

7) モデル(3)以降も Fixedeffectの無いプーリン

グOLSモデルと, FEモデルのうち,どちらが望ま

しいモデルかを確認するために F testを実施したと

ころ,プーリング OLSよりも FEが望ましいモデル

であると確認できたので,以後は FEモデルのみを

表に示した.

8) ただし本稿の過剰圧縮と減量・分別技術の向

上のミックスであるという仮説をサポートするために

は,さらに Dijkgraafand Gradus (2009)のオランダ

の重量制有料化のパネルデータに,本稿と閉じ変数と

分析手法を適用することが求められる.この点は今後

の課題である.

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