東北地方における山がけ崩れ害の統計分析*1987年11月 53 710...
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403(山がけ崩れ害)
東北地方における山がけ崩れ害の統計分析*
水 野 量紳
要 旨
気象庁で行っている異常気象報告業務の資料(1971~1984年)を用いて,東北地方における山がけ崩れ害
を統計的に分析した.その結果は,次のとおりである.
①東北地方における山がけ崩れ害は,地域的には福島県,宮城県で被害が多く,月別には7~9月に最も
多くなる.また,山がけ崩れ害をもたらす総観気象的状況(低気圧,前線,台風その他)が同じであっても,
県によってその頻度が異なる.
②東北各県の山がけ廓れ箇所数嬬24時間降水量・1時間降水量の最大がそれぞれある臨界値を越えると
発生・急増する傾向があり.,.これを定式化した.各県の山がけ崩れ箇所数推定式の適中率は約60~80%であ
る.
1・緒言
近年の風水害の特徴は,防災白書(昭和61年版)によ
ると次の2点である(国土庁編,1986).
(1)治山治水事業の進展に伴い大河川の氾濫は少なく
なったものの,氾濫域の都市化により被害対象が増加し
たことジ河川流域内の開発の進展により流域の保水・遊
水機能が低下し,・洪水や土砂の流出が増大したこと等に
伴い,都市化の著しい河川において水害が頻発している
こと.
(2)山崩れ,がけ崩れ,土石流等による土砂災害によ
る死者・行方不明者の割合が極めて多くなってぎている
こと.
このような状況に対して,次のような対策が進められ
ている.
①気象観測の充実と予・.警報の発表,
②治水施設の計画的整備と総合的な治水対策の推進,
③土砂災害の防止
以上のうち②と③については,各種の事業が推進され
つつあるが,例えば急傾斜地崩壊危険箇所の整備は昭和
59年度末で約15%という整備水準に止まっている.ま
*Characteristics・fLandslide恥m亀geln庫e』 Tohoku District**Hakarh Mi加no,気象班究所.
一1987年6月17日受領一 一1987年8月11日受理一
た,その進ちょく率は危険箇所が非常に多いこともあっ
て毎年1~2%である.参考までに東北6県における市
町村別の急傾斜地崩壊危険箇所数分布を第1図に示す.
各市町村で相当数の危険箇所が存在し,今後とも各種事
業を積極的に推進し治水施設の整備や土砂災害の防止に
努める必要がある.
このような努力と並行して,降水に関する気象観測の
充実や予・警報の適確な発表のための予報技術の向上を
図ることも重要となっている.
本稿では,東北地方における山がけ崩れ害の統計的な
特徴を明らかにした.また,防災情報の中に具体的な山
がけ崩れ箇所数の予想を盛り込むべく,山がけ崩れ箇所
数推定式を提案した.これらの結果は,山がけ崩れ害に
対する防災意識の高揚および今後の防災対策に役立っ.
1987年11月 γ・
1 2.災害関連調査の意義
気象業務の重要な目的の一つは,災害の予防すなわち
防災にある(気象業務法第一条).
この目的を達するためにさまざまな法規,組織,体制
があるが,最も身近なものの一つは,注意報・警報の発
表である.気象庁の行う注意報・警報は単なる気象現象
の予報ではなく,災害との関連を考えた気象現象の予報
である(気象庁予報部,1962).したがって,気象現象
の予測精度の向上と同時に気象災害との関連を調べてお
くことが,的確な注意報・警報の発表にとって重要であ
47
704 東北地方における山がけ崩れ害の統計分析
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4慧。
第1図 市町村別急傾斜地崩壊危険箇所数分布.
『資料;青森県地域防災計画資料編(1984),秋田
県地域防災計画資料編(1984),岩手県地域防災
計画資料編(1984),宮城県地域防災計画資料編
(1984),山形県地域防災計画(1977),福島県地
域防災計画(1984).
る(第2図).
気象現象の予測は,レーダー,アメダス,気象衛星等
の気象観測網の整備と数値予報の著しい進歩によって.
的確になってきている.
一方,気象現象と気象災害との関係は,1)注意報・
警報基準の見直し作業,2)注意、報る警報の地域別発表,
3)大きな災害時に作成される災害時自然現象報告書等
の中で調査されてきている.
鞠
第2図 注意報・警報発表の流れと災害の予防.
しかしながら,気象現象と災害との関係は,自然環境
や社会環境の変化によって変わってくるため,本稿のよ
うな統計的研究に加えて理論的・解析的研究によって調
査する必要がある.
5.資料
気象庁では.r各官署がそれぞれの立場において異常
気象と気象災害の状況を把握し,防災や産業・学術研究
等に気象業務の成果を役立てること」を目的として,異
常気象報告業務を行っている.
調査に用いた資料は,この異常気象報告業務の資料お
よびその統計資料である次のものである.
(1)気象庁観測技術資料第50号r気象災害の統計
(1971~1984〉」,気象庁(1986)
(2)仙台管区異常気象報告第41号~第84号,仙台管区
気象台(1971~1984)
(3)異常気象報告年別ファイル(1971~1984),気象
庁観測部管理課統計室
(4)東北地方の短時間強雨の研究,仙台管区気象台
(1986〉
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60
東1杷地方における’山がけ崩れll害の統計分析
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山がけ崩れ害
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50
JFMAMJJASOND JFMA JJASOND (e) 一., ,、 罫,、, (f) 第3図 東北各県における月別気象災害回数とその構成比率上段;月別気象災讐團数(個々の気象災害名についての合計),下段;構成比率(月別気象災害回数に対する個々の気象災害回数,%),資料;気象庁観測技術資料第50号「気象災害の統計(1971-1984)」,気象庁‘(1986).
(a)青森県 (b)秋田県 (む)’岩手県 (d)宮城県 (e)山形県 (f)福島県
1987年11月.
萄5魂-
鱒
、
上
706 東北地方における山がけ崩れ害の統計分析
牛山がけ崩れ害の気象災害全体における重要性
第3図は,東北各県における月別気象災害回数とその
構成比率を調べたものである.なお,第3図に示した気
象災害というのは,第1表に示した個々の気象災害名の
区分(総称)名である.
第3図より,東北6県とも山がけ崩れ害を含む雨害が
気象災害全体の中で最も大きな比率を占め約50%,7~
9月には約70%にも達することが分かる.このような雨
害の中でも山がけ崩れ害は,浸水害と並んで最も多く,
気象災害全体に対する比率で10~20%を占めている.ま
た,春~秋の暖候期以外に冬期にも現れており,重要で
ある.
なお,異常気象報告業務で用いられている山がけ崩れ
害とは,山崩れ害とがけ崩れ害を指しそれぞれ次のよう
に定義されている(気象庁,1974).
山崩れ害;ここでいう山崩れとは,大雨又は融雪が原
因となって山地の斜面の岩石や土じょうの一部が突発的
に崩れ落ちる現象を指し,それによって起こる災害を山
崩れ害と呼ぶ.
がけ崩れ害;ここでがけ崩れとは,斜面の崩落現象の
うち,崩落する物質の全部又は大部分が人工のたい積物
であるか,あるいは人工の切り取りの場所の崩壊を言
う.近年ひん発する宅地造成斜面の崩壊はその典型的な
例である.
』第1表 気…象災寮で覧.
区分
風
害
雨
害
雪
害
5。山がけ崩れ害の県別・月別・総観気象的状況別分
布の特徴
5.1.県別分布
第4図は,東北6県の山がけ崩れ箇所数(1971~1984)
を正方形の面積に比例させて表現したものである.
福島県,宮城県で最も多く600~750箇所程度,次いで
山形県,秋田県,岩手県,青森県となっている.
5.2.月別分布
第5図は,東北6県の山がけ崩れ箇所数(1971~1984)
の月別分布を示している.東北地方全体では山がけ崩れ
箇所数は,暖候期に多く7~9月に最も多くなる.各県
の月別分布を見ると山がけ崩れ箇所数は,日本海側の秋
田県・山形県では7~8月に最も多く,太平洋側の宮城
県・福島県では9月に特に多くなっている.これは,一
度に多数の山がけ崩れ箇所数をもたらした事例が日本海
側では7~8月に太平洋側では9月に発生したことによ
る.
気温異常害
1気象災害名
強 風 害
塩 風 害
乾 風 害
た つ 巻 害
そ の 他
洪 水 害
浸 水 害
た ん 水 害
山がけ崩れ害土 石 流 害
地すべり害強 『雨 害・
長 雨 害
干 害
そ り 他
積 雪 害
雪 圧 害
雪 崩 害
着 雪 害
そ の 他
凍 結 害
凍 上 害
植物凍結害冷 害
暖 冬 害
酷 暑 害
そ の 他
区分
湿度・
日照異常害
大気現象異常害
水
象
害
その他
気象災害名
異常乾燥害そ の 他
落 雷 害
ひょう(あられ)害
凍 霜 害
陸上視程不良害
大気汚染害そ の 他
沿岸波浪害海上波浪害浸水害(海水)
塩 水 害
海 氷 害
船体着氷害海上視程不良害
赤 潮 害
水温異常害副 振 動 害
山 岳 遭 難
以上どれにも該当せず
50
気象庁(1974):異常気象
報告業務・気象災害調査
指針による.
5.3.総観気象的状況別分布
第6図は,山がけ崩れ害をもたらした総観気象的状況
の回数を調ぺたものである.
山がけ崩れ害をもたらした総観気象的状況を大別する
と,①低気圧,②前線,③台風その他である.
しかし,県別に見るとその影響の度合が異なってい
る.すなわち,第7図に示されるように総観気象的状況
が同じ場合であっても,県によって山がけ崩れ害の頻度
に違いが見られる.
主な総観気象的状況について,整理して次に示す.
日本海低気圧;福島県を除く東北各県で山がけ崩れ害
回数が多い.
。南岸低気圧・ニッ玉低気圧;東北地方太平洋側の福島
、天気”34.11』
東北地方における山がけ崩れ害の統計分析 707
LANDSLlDES(1971。1984)
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478ii. 603
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iiiii麟…麟講iiii…
753
第4図 東北6県の山がけ崩れ箇所数.・
山がけ崩れ箇所数;1971~1984年の山がけ
崩れ箇所数の合計,資料;第3図に同じ.
・宮城・岩手県で山がけ崩れ害の回数が多い.
停滞前線・前線帯;東北各県とも山がけ崩れ害の回数
が多い.
台風;東北各県とも山がけ崩れ害の回数が少なからず
あり,特に太平洋側の福島・宮城・岩手県で回数が多
い.
雷雨;青森県を除く東北各県で山がけ崩れ害回数があ
り,特に福島・山形県で回数が多い.
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100
200
100
200
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0
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J
LANbS[』lbES(1971-1984)
FMAMJJASOND第5図 山がけ崩れ箇所数の月別分布(1971~1984).
東北地方全体(下段)の山がけ崩れ箇所数;東北6
県の合計,資料;第3図に同じ.
6.降水量と山がけ崩れ箇所数との関係
第8図は,東北各県1975~1984年の山がけ崩れ箇所数
を1時間降水量(R1)一24時間降水量(・R24)の平面上で
見たものである.なおここでR1とR24の値は,東北
各県の異常気象報告におけるr異常気象値」欄の値を用
いており,それぞれ山がけ崩れ害をもたらした気象現象
をよく表現する期間と地域についての最大値が選ばれて
いると見倣している,また,.R24について24時間降水量
の最大(期間・地域についての) のデータが得られない
場合には,日降水量,総降水量の最大の順で代用した.、
1987年11月
なお,山がけ崩れ箇所数は県全体での数であって,必
ずしもR1,R24が観測された地域における数ではない,
しかしながら,水野(1985),仙台管区気象台予報課
(1978)などによると,山がけ崩れの発生は降水量の増
加とともに急増する傾向があることから,山がけ崩れ箇
所数の大部分は1~1,R24が観測された地域周辺で発生
していると考えられる.
第8図より各県と一もR1,・R24がそれぞれある降水量
を越えると山がけ崩れが発生しており,降水量が多いほ
ど山がけ崩れ箇所数が多く.なる傾向がある.また,破線
51
708 東北地方に’おける山がけ崩れ警の統計分析
LANDSLlDε 1}ISASTεR…(雪g7璽一1984)20 A(糊1
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風雨移移 流流
第6図 総観気謙的状況別出がけ崩れ害回数 (1971~1984)、
東北地方全体(下段)の総観気象一的状況別山がけ崩
れ害回数;東北6県の合計,資料;異常気象報告年.別フアイル(卑♀71~1984).
で示した大雨注意報基準,大雨警報基準とはよく対応し
ている.すなわち,注意報基準前後の降水量から山がけ
崩れが発生しており,警報基準前後の降水量から多数の
山がけ崩れ箇所数のものが発生している.
ここで,’第8図に見られる降水量と山がけ崩れ箇所数
との関係から引き出せる情報を考える.従来,犬雨によ
◎て災害が起こるおそれがある場合にその旨を注意して
行う大雨注意報のための基準設定や,伺様に重大な災害
が起こるおそれがある場合にその旨を警告して行う大雨
警報の基準設定に,第8図の関係が用いられてきた.つ
まり,第8図から大雨注意報基準と大雨警報基準という
二つ・の情報を引き出している’.,
駿
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第7図 総観気象的状況による各県山がけ崩れ 智國数分布(197ひ一1984).
資料;第6図に同じ.
しかしながら,第8図紀含まれる情報はもっと多く,
次のように」~1,職から山がけ崩れ箇所数L(R1,.R24
で特徴づけられる降雨によって県全体で発生する山がけ
周れ箇所数)’を推定する計算式を作成することができ
る.すなわち,R1,’丑24がそれぞれのある臨界値(それ
ぞれ.R10,R240とする)を越えると山がけ崩れが発生
し,丑1,R24がそれぞれさらに大きくなると1山がけ崩れ
箇所数が急増すると、いう第8図に見られる性質を次式の
ように表現する.
L=a(R24-R24。)b』(R1・一璃も〉b2 (1)
ここで,
∠;R24,R1で特徴づけられる降雨によって県全体で
発生する山がけ崩れ箇所数,
』転124時間降水量の最大(期間・地域についての),
(血m),
塒;1時間降水量の最大(期間・地域についての),
(㎜),
R240;一24時間降水量の山ガけ崩れ害無効降永量て第8
図のR24の最小値一¢(自然対数の底)),(mm),
、天気夢34.11.
東北地方における山がけ崩れ害の統計分析 709
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(e)10 100R24mm(f)10 50 100R24 mm
第8図 東北各県における降水量と山がけ崩れ箇所数との関係(1975~1984).
.R24;24時間降水量の最大,.R1;1時間降水量の最大,A;大雨注意報領域,’W;大雨警報領域,
由がけ崩れ箇所数;響森県の図中の円の説明を参照,資料;1975へ4984年,r束北地方の短時闘強雨の研究」(仙台管区気象台,1986).なお,24時…闘降水量の最大㊧データが得ら、れないとき紅は,日降水量,’総降水量の最大の順で代用した.
(a)青森県 (b)秋田県 (c)岩手県 (d)宮城県 (e)山形県 (f)福島県
1987年11月 53
710 東北地方における山がけ崩れ害の統計分析
・Rlo;1時間降水量の山がけ崩れ害無効降水量(第8
図のR1の最小値一8(自然対数の底)),(㎜),
α,ゐ1,62;定数,
ただし,R24≧R240,R1≧R10である.
なお,(1)式の関係を県単位で考えているため,:R240,
RIoにはそれぞれ県全体の最小値が選ばれている.した
がって,県内の地域によってはR240,R10を越える降水
があっても山がけ崩れ害が発生しないこともあり得る.
また,同程度の降水があっても,地形・地質条件によっ
て.R24。,.R1。が異なるため山がけ崩れ箇所数は違ってく
る.
以上のように山がけ崩れ箇所数L,24時間降水量の最
大R24,1時間降水量の最大R、の間に(1)式の関係が
成り立つことを仮定して,東北各県について(1)式の
定数R240,R1。,α,ゐ1,ゐ2を計算した.計算に用いた
データは,第8図と同じである.R24。,.R1。については
第8図におけるR24,R1それぞれの最小値から8(自
然対数の底)㎜減じた値とし,α,ゐ、,δ2については
最小自乗法によって求めた.(1)式の東北各県における
定数を第2表に示し,山がけ崩れ箇所数の推定値Loと
観測値Loとの関係を第9図に示す.ここで,観測値Lo
が乱/3~3L‘にあれば適中とすると,各県の適中率は
約60~80%となる.適中域を.L6/3~3L‘とした理由は,
山がけ崩れ箇所数が.R24,R1以外の変数(例えば地形
・地質的要因)によっても変動するためである.
第2表で県によって定数α,ゐ1,62および適中率が異
なっている.これは,県によって山がけ崩れとなる急傾
斜地危険箇所の分布密度が違うこと,降水を特徴づける
R24,R1の相互に相関関係があるためデータによって回
帰係数α,61,62が変動するという統計計算上の理由が
あげられる.しかしながら,R1。,R240の値については,
降水量観測の空間代表性(約17㎞平方に1地点の観
測密度)を考えると各県ほぼ同程度であり,(1)式の妥
当性を示すものと言える.
なお,Lo/3~3L‘での適中率が約60~80%で有用か
否かについては,次節で議論する.
第2表 山がけ崩れ箇所数推定式の定数と的中率
県 名
青森県
秋田県
岩手県
宮城県
山形県
福島県
4
0.83
0.84
0.34
0.49
0.35
0.64
乃1
0.48
0.67
0.43
-0.03
0.40
0.75
み2
一〇.09
-0.31
0.36
0.86
0.16
-0.22
R240
㎜5943
39
34
23
49
.Rlo
mm869587
適中率
83
74
79
62
57
71
%
7.討論
ここでは,気象庁が発表する注意報・警報等の防災情
報に,本稿で提案した山がけ崩れ箇所数推定式から得ら
れる情報を盛り込むことの妥当性を検討する.
第2図に示したように気象庁が発表する注意報・警報
は,防災機関・一般住民等にr普通と違う気象状態であ
54
*山がけ崩れ箇所数推定式・適中率は本文参照,資料
は「東北地方の短時間強雨の研究」(仙台管区気象
台,1986)による.
ること」に注意を向けてもらい,それぞれに防災活動を
起してもらうことを通じて災害の軽減を図っている.す
なわち,注意報・警報等の防災情報は防災活動をスター
トさせる重要なものである.このためには防災情報は,
①具体的で,かつ②正確であることが要望される.
①の具体性については,山がけ崩れ箇所数推定式は従
来定性的であった山がけ崩れ害を定量的に表現するもの
であり,防災上有効な情報を提供する.さらに山がけ崩
れ害についての防災情報として量的予想¢)ほかに,時間
的予想,地域的予想が必要である.これらについては,
短時間強雨域で短時間強雨のピーク時から数時間内に大
部分のがけ崩れが発生することが報告されている(水
野,1985;青木,1978ほか).したがって,近い将来降水
短時間予報が実用化されれば,もっと具体性のある山が
け崩れについての防災情報を提供することができる.
②の正確性については,適中率約60~80%では不備と
されるかもしれない.しかしながら,この適中率は次の
方法によって向上する見通しがある.すなわち,この適
中率の限界は,山がけ崩れ箇所数が(1)式のようにR24
と.R1によって説明できるとし,その他の要因による変
動はL6/3~3乱の範囲内に収まるとしたことによる.
したがって,県内の地形的条件・地質的条件の地域によ
る差が大きな所では,変動の幅(1/3~3倍)を大きく
したり推定式を地域ごとに作成することによって,適中
率を向上させることができる.例えば,水野(1987)に
よる浸水家屋数推定式では1/5~5倍という適中域がと
られている.
以上のような適中率向上の方法があり,必要に応じて
適中域,適中率を設定できる.
なお,降水量,山がけ崩れ箇所数ともにr異常気象報
、天気”34.11.
東北地方における山がけ崩れ害の統計分析 711
(a)
LO100
50
2
10
5
2
AOMORl
o
職
構iiiii鐵
2 5 10 20LC (b)
LO100
50
2
10
5“
2
AKr『A
o
o……………嚢…麟…
蓑灘iii・
i萎蓼…:3
0
…………麟
難
1 2 5・1020LC
LO100
50
20
10
5
,2
lWATE
(c)1……12
O
iiiii難iiii
iiiii嚢………i…
5 10 20LC (d)
LOlOO
50
20
10
5
2
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O
O
・羅
ii鑛i嚢……………
’o
5 10 20LC
LOlOO
50
2
10
5
2
YAMAGATA。o
oo
鑛iil灘……萎
(e)1:…12 110 20LC
LO100
50
2
10
5
2
1(f)
FUKUSHIMA
O
o
o
O
0
……萎灘……………謹欝.
…iiii鑛
1 2 5 0 20LC
第9図 山がけ崩れ箇所数の推定値L6と観測値Loとの関係.
図中の2本の直線(Lo=Lo/3,Lo=・3Lo)の間の領域はL‘の的中域であり,数値(%)
は,的中率である.資料;第8図に同じ.
(a)青森県 (b)秋田県 (c)岩手県 (d)宮城県 (e)山形県 (f)福島県
1987年11月 55
712 東北地方における山がけ崩れ害の統計分析
告」の資料を用いているため,山がけ崩れと降水量との
空間的対応,時間的対応は明確ではない.しかしなが
ら,山がけ崩れと降水量との対応性についての事例解析
的研究(例えぱll水野,1985)では,山がけ崩れの発生は
降水量の増繍≧と郵に急増する傾向があり,山がけ崩れ
箇所数の大部分は』R1,1輸の最大地域の周辺で発生し
ていると考えられる、すなわち,山がけ崩れと降水量と
の量的な対応性が明らかであれば,空間的にも時間的に
も山がけ崩れは降水量と対応して発生する.例えば,
R・≧30mmで山がけ崩れ箇所数が急増するという量的
対応性があれば,空間的にはR1≧30mmの地域で,時
間的にはR1≧30mmの時刻付近で山がけ崩れが発生す
ると言える.もっと詳しい時間・空間的対応性が防災上
必要とされるかもしれないが,これらを明らかにする資
料は一部を除いてほとんど入手困難である.以上のこと
から,現時点で利用可能なデータから有効な情報を引き
出すことができれば,これを用いるべきであると考え
る.
したがって,山がけ崩れ箇所数推定式のもつ具体的な
情報提供に役立つという側面を重視して,防災情報にこ
れを盛り込むことは社会的に有用であると考えられる.
8.まとめ
これまで国,各都道府県は協力して山がけ崩れ,土石
流等の土砂災害を防止する努力を続けているが,その施
策はまだまだ十分なものとは言えない.このような状況
の中で気象観測の充実と予警報の適確な発表に対する要
望がますます求められている.
気象庁の行う注意報・警報は,単に気象現象の予報で
はなく,災害との関連を考えた気象予報である(気象庁
予報部,1962).したがって,予報精度の向上の努力に
加えて,気象現象と災害との因果関係を明らかにする調
査が重要である.
本稿では,気象庁で行っている異常気象報告業務の資
料(1971~1984年)を用いて,東北地方の山がけ崩れ害
の統計分析を行った.その結果,次のことを明らかにし
た.
①東北地方における山がけ崩れ害は,県別・月別・総
観気象的状況別によって特徴的な分布をもって発現す
る..一
②24時間降水量,1時間降水量の最大から山がけ崩れ
箇所数を推定する計算式を求めた.これは,防災情報と
して有用な的中率をもつ.
以上の調査結果は,よりきめの細かい防災情報の発表
の中で活用されるものと考えられる.
闘辞 本研究は,仙台管区気象台及び管内各地方気象台が昭
和58~60年度に実施した地方共同研究r東北地方の短時
間強雨の研究」で収集された山がけ崩れ害被害データを
用いて行ったものである.研究を進めるに際して,仙台
管区気象台プロジェクトチームの御協力を得た.また,
本稿作成にあたって,気象研究所物理気象研究部の松尾
敬世第一研究室長および気象庁予報部予報課の新関竸三
子報官,牧原康隆予報官,桜井邦雄防災気象官,吉永泰
祐i防災係長,北畠尚子技官に問題点を指摘していただい
た.厚く感謝する.
文 献
青木佑久,1978:著しい洪水災害をもたらした降雨
の特徴.国立防災科学技術センター研究報告. 20, 1-16.
今門宗夫,1980:九州における集中豪雨と災害に関
する研究(第4報)一一集中豪雨による斜面崩壊 の解析一.気象庁研究時報.52,79-88.
気‘象庁予報部,1962:注意報・警報基準作成方針に
ついて.予報課技術資料,2,1-27.
気象庁,1974:異常気象報告業務・気象災害調査指
針.211p.
気象庁,1986:気象災害の統計(1971-1984).気象
庁観測技術資料,50,151P.
国土庁編,1986:防災白書(昭和61年版).大蔵省
印刷局,363P.
水野 量,1985:台風8218号による東北地方の山が
け崩れと降水特性との対応性.天気,32,573- 580.
水野 量,1987:東北地方における浸水害の統計分 析.気…象庁研究時報,39,121-131,印刷予定.
仙台管区気i象台予報課,1978:宮城県の大雨注警報
基準.東北技術だより,91,55-73.
仙台管区気象台,1986;東北地方の短時間強雨の研 ,究,91-105.
56 、天気潔34.,11.