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Open Innovation CASE STUDIES Case Studies Open Innovation

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OpenInnovationCASE STUDIES

Case Studies

Open Innovation

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OpenInnovation

事例集

オープンイノベーション ケーススタディーズ

本冊子は日本企業のオープンイノベーションの事例をまとめたものです。

メディア「TECHBLITZ」が現地でのインタビュー、事例をもとに執筆しました。

グローバルでオープインイノベーションを推進する日本企業の参考になれば幸いです。

OpenInnovation

CONTENTS目 次

03 IHI Americas 4年で3件の事業化に成功、IHIのシリコンバレー事業開発力

05 Asahi Kasei America CVCは具体的な成果にこだわり、しぶとく継続せよ

07 NECネッツエスアイ Zoomをいち早く発掘し、日本市場で独占契約できた理由

日本企業インタビュー

Case Studies

1978年生まれ、東京育ち。父親が日本人で母親がアメリカ人の日米ハーフ。2001年6月にスタンフォード大学経済学部東アジア研究学部卒業(学士)、2003年6月にスタンフォード大学東アジア研究部修士課程修了、2010年8月にカリフォルニア大学バークレー校政治学部博士課程修了。情報産業や政治経済を研究。現在はスタンフォード大学アジア太平洋研究所研究員、「Stanford Silicon Valley - New Japan Project」のプロジェクトリーダーを務める。おもな著書に『シリコンバレー発 アルゴリズム革命の衝撃』(朝日新聞出版)、『バイカルチャーと日本人 英語力プラスαを探る』(中公新書ラクレ)、『インターナショナルスクールの世界(入門改訂版)』(アマゾンキンドル電子書籍)がある。https://www.kenjikushida.org/

Stanford Univerity APARC 櫛田健児氏

Silicon Valley - New Japan Summit モデレーター

09 コマツ コマツのトップが語る「シリコンバレーと向き合った5年間」

11 DENSO International America デンソーがシリコンバレーで取り組む、農業イノベーション

13 ヤンマー デザインシンキングでの事業の生み出し方

15 東京海上日動火災保険 シリコンバレーの「黒船」を取り込む新体制

17 OBAYASHI SVVL 建設スタートアップと協業を実現した「大林チャレンジ」

Silicon Valley - New Japan Summitイベントレポート Stanford Univerity APARC 櫛田健児氏モデレーター

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フェーズ12015年

シリコンバレーに進出VCへのLP出資。駐在員を1名配置

フェーズ22018年

「IHI Launch Pad」を開設日本のチームとスタートアップの共同開発・ビジネス開発において様々なサポートを提供

フェーズ32019年

「IHI Swing by」を開催事業部メンバーとスタートアップと共同でビジネスプランを考えるイベントを開催

I H I のシ リ コ ン バ レ ー で の ヒ ス ト リ ー

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ガレージ付きオフィスで、スタートアップと共同開発

―IHIグループ(以下、IHI)向けのシリコンバレー拠点「IHI Launch Pad」は2018年に開設したそうですね。いまの活動内容を教えてもらえますか。多屋:IHI やお客さまの課題を、オープンイノベーションの力を使って解決しようとしています。IHIの社内だけではできない部分をパートナーと一緒に共同開発やビジネス開発をしています。溝内:IHI Launch Padでは持ち込まれるプロジェクトの開発フェーズに合わせて様々なサポートを行っています。特徴はガレージエリアがあって、現地のスタートアップと日本のチームが場所を共有しなが

ら速いスピードで開発できる点です。開発フェーズが進むと、お客様に対してのデモもガレージでできるようになっています。―他にこのオフィスでイベントも開催しているそうですね。多屋:そうですね。事業開発の可能性を広げるために、新たに IHIとスタートアップとの連携イベント「IHI Swing by」も立ち上げました。今年7月、5社の宇宙関係のスタートアップをお呼びして、事業部メンバーとスタートアップが膝を突き合わせて、共同でビジネスプランを作るという趣旨です。 最後に当社の事業部経営陣にプレゼンをして、面白い事業プランにはその場で予算をつけました。実際、5社中3社に予算がつ

き、PoCが始まっています。

年に十数件のPoCを実施し、年1件の事業化を目指す

―いまスタートアップとの協業は年にどれくらい行っていますか?多屋:調査するスタートアップ社数は年間、3ケタに上ります。そのうちPoCまで進むのは十数社で、少しずつ増えているところです。 事業化に至る案件としては年間1件程度を目指しています。また、我々はハードウェアがメインなので、事業化までは3年ぐらいはかかると見ています。―そもそも、なぜシリコンバレーにオフィスを立ち上げたのでしょうか。

4年で3件の事業化に成功、IHIのシリコンバレー事業開発力

日本を代表する重工業メーカーIHIグループ。同社は2015年からシリコンバレーに駐在員を置き、4年間で倉庫ロボットなどIHIグループの様々なビジネスでスタートアップとの共同事業を生み出している。今回はIHI流のシリコンバレー事業開発力について、話を聞いた。

2009年にIHIへ入社し、技術開発本部にて、制御や電気電子関係の研究開発を実施。2019年よりIHI INC.(現IHI Americas Inc.)へ出向し、シリコンバレーでIHI Launch Padにてビジネス開発を担当。2006年京都大学大学院理学研究科修了(物理学・宇宙物理学専攻)。2012年より技術士(電気電子部門)。2013年より技術士(情報工学部門)。

溝内 健太郎IHI Americas

2005年にIHIへ入社し、以降、GXロケットや新型ロケットエンジンの開発や次世代宇宙システムの概念設計などに参画。2015年よりIHI INC.(現IHI Americas Inc.)へ出向。シリコンバレーに駐在し、主としてRobotics、Additive Manufacturing、AI、宇宙などの分野で、スタートアップ企業とIHIとの提携を中心とした新事業・新サービスの推進を担当。2005年ジョージア工科大学大学院修了(航空宇宙工学)。2013年より技術士(航空宇宙部門)。2013年、2014年と日本航空宇宙学会宇宙航行部門委員。

多屋 公平IHI Americas

Vice President

2000年にIHIに入社。火力/原子力発電プラント機器の輸出営業を主に担当。2019年よりIHI INC.(現IHI Americas Inc.)へ出向し、シリコンバレーでスタートアップのリサーチ・提携推進を担当。

中村 太一IHI Americas

Vice PresidentSenior Vice President

 私がシリコンバレーに来たのは2015年の春で、シリコンバレーにIHI Launch Padを作ったのは2018年です。2015年以前にもスタートアップとの協業に取り組んでいました。そうした協業案件がいくつか形になり、組織的にオープンイノベーションを進めてみようという話になりました。ファンドに出資する機会もあり、私が2015年に常駐する形でシリコンバレーにやって来たのです。

スタートアップにはマーケットや生産技術などを提供

―当初はシリコンバレーの人脈、スタートアップとの接点もなかったんですよね。どうやってスタートアップと組んでいったのですか。多屋:当初はスタートアップ側に、何ができるのか、何をしたいのかを伝えられずにいました。しかし現在は、IHIがスタートアップに対してマーケットの提供や生産技術面、製品化のサポートを行うから、一緒に協業しようという形が多いです。例えば産業機械ではアジアにこういったお客さまがいて、こういったペインポイントがあるということをスタートアップに伝えて、協業で一緒にソリューションを提供するなどですね。―IHIは自社内にも最先端技術を持っていると思いますが、スタートアップにはどういった技術を求めていますか。溝内:たとえばディープラーニングなどAI技術です。AI技術の一例として、私たちの社内でも以前から産業向け画像解析技術について研究開発を着実に進めていました。そこに、ディープラーニングという破壊的な技術がやって来たのです。破壊的な技術が来たからといって、画像解析のスペシャリストを一気に入れ替えるわけにもいきません。そういう時こそ、オープンイノベーションで、外部から技術を取り入れることでトレンドにキャッチアップできると思っています。中村:我々は技術の蓄積があったとしても、組織が大きい分、動くのに時間がかかります。エネルギー分野では、急速に再生可能エネルギーが拡大するなど、マーケットの変化が予想を超えたスピードで進みます。そのスピードについていくために、スタートアップと組むわけです。

ロボット+AIで倉庫の荷下ろし作業を自動化

―スタートアップとの具体的な協業事例を教えてもらえますか。

多屋:Kinema Systemsとは、ディープラーニングによる物体認識技術を活用し、荷卸し作業を自動で行うロボットを共同開発しました。もともと2016年夏にDNXから紹介されて会って話を聞くと、ウチの日本のお客さまのペインポイントに見事に合致していました。我々は倉庫と倉庫システムを販売しているので、自動化などの問題点をよく理解しており、Kinema Systemsの技術が活用できるとわかったのです。 それでPoCをやるとうまくいったので、すぐにそのお客さま向けの製品を共同開発しました。両社の役割分担としては、Kinema Systemsは画像認識のAIシステムを担い、IHIは全体システム開発を担い、AIとロボットの制御システムとのインテグレーションは共同で実施しました。

協業のタイムラインをしっかりと説明する

―スタートアップとの協業で失敗はありましたか。 失敗はあり過ぎますが、事業を進めるスピードが遅くてスタートアップに飽きられたというのは当初多かったですね。NDAを締結しようとしても、日本側で時間がかかって、スタートアップが離れてしまったり。やはり相手側にNDAをもらうと、法務

部が全てを読んで確認しなくてはならなくなり、修正もあるのでどうしても時間がかかります。ですから今はこちら側でNDAを作って、譲歩できるところは先に譲歩しておく。相手が修正してもそこさえ確認すればいいので時間短縮につながります。 協業進行のタイムラインを最初にしっかりと相手に伝えていなくて破談になるケースもありました。やはり始めに時間がかかることを説明しておくことが大事です。―IHI Launch Padは今後、どういった方向へ進んでいきますか?溝内:先ほどご紹介したイベント「IHI Swing by」にてPoCが3件決まりました。冬にも同じようなイベントを開く予定です。そうすると来年以降、PoCがあちこちで行われて、IHI Launch Padの本領が発揮されます。中村:今のメンバーも社内の異なる領域から集まってコラボレーションしています。この IHI Launch Padでもさまざまな領域のスタートアップ同士とコラボレーションをしていく、そんな場にしていきたいですね。

IHI Americas

※本記事は「TECHBLITZ」の掲載インタビューを再構成したものです。Webサイトでは記事全文を読むことができます。

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技術・事業スカウト = 買収

[ 買 収 企 業 ]

旭化成 C V C が 目 指 す も の

ゴール

CVCは具体的な成果にこだわり、しぶとく継続せよ

日系CVCとしてシリコンバレーで活動する旭化成。これまでに投資先から2社のスタートアップ買収に成功し、着実にフィナンシャルリターンを確保しつつ、投資予算規模を年々増やしている。CVCの立ち上げからリードしている森下隆氏に旭化成流のCVCのあり方を聞いた。

2008年、旭化成コーポレートベンチャーキャピタルのゼネラルマネジャーに就任。2016年までリチウムイオン電池の開発会社Envia Systems Inc.の取締役も務めていた。エネルギー、クリーン技術、半導体に関連するエンジニアリングで20年以上の経験があり、日米スタートアップとの戦略的提携を目的とした事業開発も行ってきた。東京工業大学で化学工学の修士号、博士号を取得。

森下 隆Asahi Kasei America

ゴールは技術・事業スカウト

―まず旭化成がCVCを立ち上げた具体的な経緯を聞かせてください。 CVC自体は日本で立ち上げて、2011年からアメリカへ移って活動しています。アメリカにおける事業化プロセスは3つのステージに分かれます。 1つ目は「探索ステージ」。政府の補助金などで大学や独立した研究所が技術の開発を行います。 2つ目は「開発ステージ」。探索ステージで技術が実証されたものが、このステージに移ります。ここでの主力はスタートアップでVCから資金を得て、技術の事業性検討、プロトタイプの製作、ビジネスモデルの検証を行います。ここでほとんどのス

タートアップが淘汰されていきます。 3つ目は「事業ステージ」。開発ステージで生き残ったスタートアップを大企業が買収して、グローバルにビジネスの展開を行います。アメリカではこの3つのステージがはっきり分業化されています。 この3つのステージをすべて行うのは自社開発と呼ばれ、日本企業に多く見られる方法です。一方、事業ステージからスタートする方法がM&Aです。 我々は2つ目の開発ステージからスタートするアプローチで、事業を作っていくというねらいを持って始めました。現在、旭化成は年間800億円程度の研究開発投資を行っていますが、その研究開発費の数%をこのような異なるアプローチで投資することを経営陣に提案しました。

―CVCとしてフォーカスしているビジネス領域はどういったところでしょうか。 テクノロジーは既存技術よりも新技術の方がリスクは高く、マーケットも既存市場より新しい成長市場の方がリスクは高くあります。我々が狙っているのはその新技術と、成長マーケットが重なる最も事業化の可能性が低いエリアで、大企業が自己資金で行うとリスクが高い領域です。  このエリアは我々のような外部のCVCが、小さく出資を行い、スタートアップの中に入ることで彼らが目指すマーケットの理解を深め、事業進捗を見ながら、タイミングを見て自社の事業部門と買収、提携を議論していくことがベストの選択です。  我々のゴールは技術スカウト、事業スカウトになります。それを実現するベストの

General Manager, Corporate Venture Capital

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方法は買収だと考えています。提携やライセンスといったやり方もありますが、明確なアウトプットとしてインパクトが大きいのは買収でしょう。ですからそこにかなりフォーカスした活動をしています。

CVCは新事業創出のためのインフラ。事業部門に利用してもらう

―旭化成コーポレートベンチャーキャピタルとして、これまでどういった活動をやってこられましたか。 会社としては具体的には、旭化成と親和性のあるスタートアップを発掘するための情報ネットワークをつくることをしています。VCには7社出資しており、彼らから情報を得ています。 ただし、親和性があるスタートアップにあまりこだわって、シナジー効果を考えすぎると、できることが限定されてしまうので、旭化成にとって価値があるスタートアップ領域を探していく形にしています。VCはサンフランシスコ2社、ボストン、バンクーバー、ロンドン、あと在米ですが中国に知見のあるところなど世界中の網羅するネットワークです。  CVCとは新しい事業をつくるためのインフラ、ツールだと考えています。ここには情報が集められるネットワークがあり、さらにスタートアップを発掘し、デューデリジェンス、投資を行ったあと、我々は最低でもオブザーバーの権利は持つようにしてモニタリングを行っています。それと企業買収、IPO、会社の精算、売却など投資業務にかかわる実務は一通りできる形になっています。

投資判断はマネジメントチームと投資家

―投資後、スタートアップと事業部の連携はどのようにとっていくのでしょうか。 投資した当初、技術的にも市場的にも難しかったスタートアップの事業が進んできます。重要なことは、そのタイミングでいかに事業部門を巻き込めるかです。事業部門とスタートアップには、言葉の問題や意思決定のスピードなど温度差が多分にあります。ですから事業部門に引き継いだあとも、我々がフォローアップを続けていきます。 事業部門にとって価値のあるマーケット情報を提供して、また事業が進んでいった際に、価値ある提携案を作って持っていきます。うまくいくかどうかは、現場が盛り上がってくれるか、責任者になれる方を見

つけられるかです。ここに来た人を事業部に異動させることが最もいいですね。―スタートアップの買収までのステップはどのように進んでいきますか? いきなり買収はやはり難しいですね。事業部門との共同開発などを設定して、その共同開発の中で技術の本質や事業の問題点を理解していきます。そうするとその事業に対しての判断材料が得られます。ですから投資後にPoCを行うプロセスがあると、買収判断はしやすいと考えます。 また共同開発でなくても、少額の出資などでワンクッションを置いて、マーケットやテクノロジーの理解を深めることが必要です。我々の投資は、機会探索、事業機会の提案に加えて、本当の意味でのデューデリジェンスをするための資金と位置付けています。 ただ、買収プロセスには難しい面もあります。我々の投資先半数以上は既存の事業から少し離れたところ(ホワイトスペース)で社内の知見が少ないエリアです。買収した2社は事業部門の事業の延長線上にありましたので事業部門による買収判断ができましたが、ホワイトスペースでは別の意思決定のメカニズムが必要であると思ってい

ます。例えば、デジタルヘルス、DDSなどは社内に研究、開発の素地はありますが事業としては行っていません。それを事業部門に判断を求めてもなかなか難しいでしょう。

小さく始めて具体的な成果にこだわる

―現在、またCVCブーム、シリコンバレーブームが日本企業にやってきていると思います。これからCVCに取り組む日系企業に、アドバイスをお願いします。 ひとつのポイントは、自社の経営陣にCVC活動が新事業創出のツールとして機能することを理解してもらえるかだと思います。本当は早いタイミングで買収が一番いいですが、ライセンス契約など何か小さなことでも、具体的な成果にこだわることが重要でしょう。スタートアップの情報を得て、その情報を日本側に伝えても、誰も受け取らないと思います。その仕組みは変えないといけないでしょう。 あとは活動をしぶとく継続することです。いったんやめてしまうとなかなか活動を再開することは難しくなります。

Asahi Kasei America

※本記事は「TECHBLITZ」の掲載インタビューを再構成したものです。Webサイトでは記事全文を読むことができます。

[ 買 収 企 業 ]

2012年 6月買収 2018年 1月買収

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Zoomをいち早く発掘し、日本市場で独占契約できた理由

NECネッツエスアイは、ICTシステムに関する企画・コンサルティング、設計、構築、保守・運用、監視サービスまで一貫して提供しているコミュニケーションシステムインテグレーター(SIer)だ。2012年からシリコンバレーでの新商材発掘活動を始め、現在ではシリコンバレーの注目スタートアップと組み、新事業創出を実現させている。今回は牛原祥太氏に話を聞いた。

2007年にNECネッツエスアイ株式会社(旧:NECネッツエスアイ・エンジニアリング)にネットワークエンジニアとして入社し、テレコムキャリア向けのネットワーク設計・構築に携わる。2015年11月より、シリコンバレーに駐在し、オープンイノベーションを活用した新規事業開発のため、最新テック系ベンチャー企業への投資、パートナリングを推進している。

牛原 祥太NECネッツエスアイ

モテモテだったZoom。ふつうにアプローチしても会えなかった

―さまざまなビデオ会議システムがある中で、なぜZoomに着目したのでしょうか。 SIerとして様々なビデオ会議システムに関わってきたからこそ、Zoomの良さはすぐにわかりました。シンプルで操作が簡単ですし、通信パフォーマンスの良さが特に素晴らしい。スマホなど様々なデバイスでも使えるなど、今までにないビデオ会議システムだと感じました。加えて、著名VCのセコイア・キャピタルからの資金調達に成功しており、社内でもすぐに「これだ!」という反応でしたね。―当時、Zoomには多くの日本企業がア

プローチをかけていたものの、なかなか会うことすらできずにいたと聞いています。どのように御社はアプローチしたのですか。 当時、すでにZoomはかなり「モテモテ」な企業でした。ふつうにアプローチしても会うことはできませんでした。 我々がZoomのCEOであるEricさんにアクセスできたのは、スタートアップのCEOネットワークを頼ったからです。当社のパートナーにAltia Systems(以下Altia)という180度のパノラマ映像を高画質で撮影できるUSBカメラを開発したスタートアップがあって、そこがZoomとパートナーだったんです。そこで、AltiaのCEOにZoomのEricさんを紹介してほしいとお願いしました。 Ericさんとお会いした時は、「私たちは何

者なのか」というところからお話ししました。グローバルで考えると、NECのブランドは広く浸透しているわけではありませんし、そのグループ会社となるとさらに、「何をしている会社で、どんなお客さんをもっているの?」という感じなので、最初に自社についてしっかり説明しました。Ericさんはとても誠実な方で、Zoomのパートナーになるにあたり、私たちのことをフェアに見てくださったと思います。 当社は、2017年から働き方改革に取り組む中で、既存のビデオ会議システム以上の商材を探していたところでした。Ericさんに自分たちがZoomと何をやりたいのかを説明する際に、日本国内の働き方改革についてもご説明したんです。 Ericさんは非常にスマートな方で、一を

Business Development Manager

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聞いて十を知るという感じで、すぐに日本の状況や我々のやりたいことを理解してくださり、話が進みました。実際、契約まで直接お会いしたのは3回くらいです。Ericさんと初めてお会いしたのが2017年の春頃で、夏にはトレーニングを行い、9月から販売を開始しました。―日本市場での販売独占契約を締結したんですよね。  Ericさんにお会いできたので、「せっかくのチャンスに言わなければ損だ」という気持ちから独占契約を提案しました。すると、驚いたことにすんなりOKをいただくことができたんです。現在は独占契約ではありませんが、当時私たちもかなりコミットし、日本での販売目標に関しても強気な数値を提示したことも効いたのかもしれません。 また今回当社との話がスムーズに進んだのは、Head of InternationalのAbeさんの存在も大きかったかもしれません。彼は日本に長く住んでいた経験があり、日本文化を知っている方です。スタートアップと関係を構築する上で、言葉の問題ではなく文化を知っている人が相手側にいることがすごく大事だと思います。

短期間で400社以上に導入した日本展開戦略

―販売契約締結後、どれくらい日本市場で導入されたのでしょうか。 国内だと400社以上の企業または団体に導入いただいています。大きいところでは、日本航空 (JAL)様に社内コミュニケーションツールとしてご導入いただきました。―日本市場での販売にあたり、どのような戦略を取られましたか。日本向けのローカライズはどれくらい必要だったのでしょう。 当社と契約を締結する以前から日本語版は作られていました。ですから、当社がローカライズを行う必要はありませんでした。 Zoomはとても優れたサービスなのですが、最初は日本での認知度はとても低かったので、まず使ってもらうことが大事だと考えました。そのためには、まずは自分たちが使用する必要があったので、全社員にZoomのライセンスを付与しました。すると、特に営業部隊が社内だけでなく、社外のお客様ともZoomを使用するようになり、そのままZoomのトライアルへ進むケースが多くなりました。 また当社では、オフィスをライブオフィスとしてお客様に見学して頂けるようになっています。年に数千人の見学者があり、会議室やオープンな環境でのZoomの実際の利用シーンを見て頂くことで、お客様

自身で利用シーンを想像してもらえるようになりました。 実際のパフォーマンスを体験して頂く際には、例えば、最初は対面で会議を始め、途中からプレゼンターが別室に移動しビデオ会議システムを介して話を続け、次にアメリカにいる私や、タイにいる当社の駐在と繋ぎ、パソコンとスマホの両方でパフォーマンスを確認してもらう、というようなプロモーションも行っています。

スタートアップの時間は貴重。「会ってもらえるだけでもありがたい」

―最後に、Zoomを含めスタートアップと対話する際に気をつけていることなど、アドバイスがあればお願いします。 初めて会う時は自分が誰で、何をしたいかをはっきりと伝えるようにしています。スタートアップと会う時は、その企業が持っているテクノロジーで当社だったらこんなことができるんじゃないか、という仮説を提示すること。これは、絶対に心がけていることですね。 それと、大人数で押しかけないこと。話がまとまり始めたら、当社の執行役や社長にも会ってもらいますが、最初の商談にはだいたい僕が一人で伺うことが多いです。

 短期間で決断することも大事です。相手から聞かれることも多いので、「何ヶ月以内に決める」と最初に伝えるようにしています。ZoomやSavioke(デリバリーサービスロボット「Relay」の開発会社)もだいたい4ヶ月くらいで決断しました。シリコンバレーでは日本の大企業イコールかなりスロー、というイメージがあるので、当社もそれをやってしまうと日本企業の悪いイメージを持たれてしまいます。そのため、やる時もやらない時もスピーディーに決断するようにしています。 スピーディーな決断ができているのは、当社の経営陣とシリコンバレー駐在が直接つながっているからです。そして、経営陣もシリコンバレーのスタートアップとの付き合い方や、彼らの技術や商品・サービスの活用に関して理解しているからだと思います。 スタートアップの一時間はかなり貴重だということを念頭においています。「会っていただけるだけでありがたい」という感覚を常に持ちながら会うようにしていますね。

NECネッツエスアイ

※本記事は「TECHBLITZ」の掲載インタビューを再構成したものです。Webサイトでは記事全文を読むことができます。

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牛原氏が語ると

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スタートアップポイント

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対話する際の

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コマツのトップが語る、「シリコンバレーと向き合った5年間」

建設現場全体をICTでつなぐ「スマートコンストラクション」が広く知られるコマツ。建設IoTプラットフォーム「LANDLOG」など、シリコンバレーでの人脈・技術をフルに活用し、躍進を続けている。なぜコマツは、グローバルな協業開発を次々と成功させられるのか。

1954年生まれ。東京都出身。東大工学部卒。1977年コマツへ入社。1982年から2年間、米スタンフォード大大学院に留学。その後、英国コマツ駐在を経て、粟津工場管理部長、真岡工場長、コマツアメリカ社長、生産本部長などを歴任。2009年に取締役、2013年代表取締役社長兼CEO就任。スマートコンストラクションの市場導入や米国ジョイ・グローバル社の買収などを実施。「イノベーションによる成長戦略」、「既存事業の成長戦略」、「土台強化のための構造改革」の3つの経営戦略に注力するとともに、コマツの強みであるIoTなどを活用し成長を加速させた。2019年4月より代表取締役会長就任。 また、同年5月より一般社団法人日本経済団体連合会 副会長就任。

大橋 徹二コマツ

協業までわずか5か月。圧倒的なスピード感

大橋:コマツの事業戦略は「ダントツ商品・ダントツサービス・ダントツソリューション」です。建設機械というハードだけでなくソリューションにも力を入れており、世の中の変化に合わせた素早い対応と価値提供を目指しています。 2014年にはCTO室を創設し、商品開発体制を整えました。CTO室の大事なミッションのひとつが、「将来ビジョンの映像化」です。10年、20年、30年先の夢・将来像を映像にし、社員への浸透を図っています。また、業界の未来を見据えた取り組みを行う企業を「リードカスタマー」と位置付け、積極的に意見交換をしています。こ

のことは、将来ビジョンをつくる際にも非常に役立っています。 さらに、「インターナショナル・アドバイザリー・ボード(IAB)」を設置。最先端技術に詳しいシリコンバレーなど海外のアドバイザーを招聘し、当社のトップ層と一堂に会して今後の技術戦略について議論する場を設けています。 CTO室の創設以降は、「ニーズとシーズを結び付ける」という試みを続けてきました。その成功例のひとつが「現場地形の見える化」です。実は建設現場では、きちんとした測量を行わないまま工事をスタートすることが常でした。ですが、このままでは工事を発注する側にとっても受注する側にとってもマイナスでしかない。「正確な測量で正確な施工計画を」を目的に、プロジェ

クトがスタートしました。ドローンで現場を撮影するまでは簡単ですが、写真には木、車、建物なども写っています。ベアグランド(むきだしの地形)を正確に測量するには、そうしたノイズをすべて取り除くところから始めなくてはなりません。 それを可能とするSkycatchと出会ってからは、驚くべきスピードで事が進みました。CTOがシリコンバレーへ向かい、2014年10月に初会合、翌月には契約。2015年1月にビジネスモデルを発表し、翌月から「スマートコンストラクション(建設現場のプロセス全体をICTでつなぎ、生産性向上をめざす)」がスタート。この間わずか5か月です。

代表取締役会長

※本記事は「Silicon Valley - New Japan Summit 2019 Tokyo」のトークセッションの内容をもとに構成しました。(モデレーター:Stanford University APARC 櫛田健児氏)

9

将来像・リードカスタマー・イノベーションパートナーが不可欠

 シリコンバレーには、一度「仲間」と認めた相手には、次々と人や企業を紹介するというオープンさと懐の深さがあります。「次はエッジコンピューティングが必要だ」となると、NVIDIAを紹介され、協業することに。その後もSwift Navigation、NTTドコモ、SAP、OPTiMなどとのコラボレーションにより、生産現場におけるあらゆるモノ(土・材料・機械など)をつなぐ建設IoTプラットフォーム「LANDLOG(ランドログ)」が完成しました。 イノベーションとは「新しい価値を創造すること」だと我々は考えます。イノベーション成功のカギは「各所と連携した素早い対応」にあり、そのためには「具体的な将来像」「リードカスタマー」「イノベーションパートナー」が不可欠です。 私たちは将来ビジョンをリードカスタマーとともにつくり、イノベーションパートナーとの協業により開発を進めています。大事なのは、いいパートナーと出会えたらすぐにPoCをすること。損得は抜きにして、「すぐに」です。意思決定はステアリングコミッティで行い、いち早く社会実装する。パートナーとの関係はWin-Winが大前提です。「自分たちだけ儲けよう」という考えでは、誰も協力してくれません。櫛田:シリコンバレーにおいては「まず仲間をつくること」が大事です。コマツの動きは、多くの日本企業がお手本にするべきでしょう。そもそもSkycatchとは、なぜあれほど早く事が進んだのですか?大橋:「とりあえず、やってみるか」という調子でした。スマートコンストラクションをフルで進めようとすると、建設機械が売れなくなり、コマツは潰れてしまいます。しかし、現段階で我々がやらなかったとしても、将来は必ずほかの企業が手をつけるはず。「であれば、自分たちの手で」という思いで始めた事業であり、「失うものがなかった」というのが本音です。櫛田:「リードカスタマーとの意見交換を大事にしている」というお話でしたが、顧客だけでなく「顧客の顧客」といったところまでのペインポイントを理解するような議論が行われているのでしょうか?大橋:リードカスタマーとは、経営陣を交えたお付き合いをしています。また、当社では「ブランドマネジメント」として、お客様企業から常に選ばれ続けるための活動を行っています。私たちのようなB2B事業は、我々の製品・サービスを使って顧客に利益が生まれてこそ成り立ちます。「コマツならば」という信頼感をもってもらうことが大

事だと思っています。

オープンさがスピードを加速させる

櫛田:ぜひ多くの企業の模範にしてほしいのが「将来ビジョン」です。Webサイトでも一部ご覧いただけますが、実に明確なビジョンをCGで表現されています。私もいくつもの企業におすすめしており、みなさん「うちも作ります!」となるのですが、後日映像を見せてもらうと、幸せそうな家族の映像の後に会社のスローガンでシメ、といったように具体性がないものがほとんどです。具体的な将来ビジョンはどう描いているのでしょうか?大橋:リードカスタマーへのヒアリング内容と、これまでの知識・見解などを投影しながら、カタチにしています。そして、定期的に映像を見返し、将来像と現状とをリマインドし洗練させる。そうすることで、今までのプロセスが正しかったか、今後の進むべき方向性などが見えてきます。

危機感を持つべき。待っているだけではディスラプションされる

櫛田:複数事業を展開する企業は、既存の

部分を大事にする一方で、新たな価値の作り方についても模索していかなくてはなりませんね。では、経営者層の方々に対してメッセージはありますか?大橋:「危機感を大事に」でしょうか。「待っているだけではディスラプションされる」という現在のビジネス環境を、どれだけ認識できているかが肝心です。複数の経営軸がある企業はまだいいでしょうが、我々は 建設・鉱山機械1本しかない。そこが壊れてしまったら会社がなくなってしまうわけですから、真剣度が違います。櫛田:最後に、シリコンバレーの活用や新たな価値の作り方など、大橋会長ならではの視座で教えてください。大橋:シリコンバレーには、非常にクリエイティブで、イノベーティブで、新しいことへの意欲に溢れた人たちが集まっています。さらに、イーロン・マスクしかり、彼らのモチベーションはお金儲けではなく「社会問題の解決」です。日本企業が彼らとともに「社会的課題をどう解決していくか」という視点で議論を深めていければ、もっと近い距離感でコラボレーションできるのではないでしょうか。さらに、短期間で協業の成功事例を作れれば、その後も長く付き合えると思います。

コマツ

※本記事は「TECHBLITZ」の掲載インタビューを再構成したものです。Webサイトでは記事全文を読むことができます。

イノベーション 成功のカギ

具体的な将来像コマツでは明確なビジョンを映像化している

イノベーションパートナー良いパートナーと出会えたら「すぐに」PoCをする

{ }分解すると…

リードカスタマー対話をすることで、コマツの将来ビジョンや事業に具体的に反映させる

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ポジティブマインドで互いの長所と短所を説明する

技術も大事だが、「誰がやっているか」にも目を向ける

スタートアップの時間を無駄にしない。フィードバックなどはしっかり準備する

スタートアップと日本企業の「ギャップ」の埋め方

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デンソーがシリコンバレーで取り組む、農業イノベーション

自動車部品サプライヤーとして知られるデンソー。同社がシリコンバレーで取り組むのは、自動車分野だけではない。今回はDENSO International Americaの鈴木万治氏に、新領域での取り組み、スタートアップとの協業のポイントなどについて聞いた。

1986年、日本電装株式会社(現株式会社デンソー)に入社。宇宙機器開発、R&D、CAE、モデルベース開発、EMC、故障診断など、ほぼ4年毎に異分野の全社プロジェクトを担当。R&Dからアフターマーケットまでの全ての開発のライフサイクル、またメカ・エレ・ソフトの各分野の実践経験、スキルと人脈を持つ。2004年にCMUとINSEADでビジネスの基礎を学ぶ。2017年からSilicon Valley Innovation CenterのVice President, Innovationに就任。2018年からは、シリコンバレーと中国の両睨みのため、䟄孔₼⦌㔤忓㦘棟⏻⚇ቑ⒪㠿㘷扪ℚ₩捷㋊兞䚕も兼任。

鈴木 万治DENSO International America

デンソーは「電気自動車」と「QRコード」を生んだ会社

鈴木:シリコンバレーではよく、「デンソーって何の会社?」と聞かれます。そんな時に、デンソーのことを知ってもらうために私が紹介するのが、「電気自動車」と「QRコード」です。当社では1950年、イーロン・マスクよりかなり早く電気自動車を作っています。しかも、約50台ですが正式に販売されました。 また、日本でもご存じない方が多いのですが、QRコードは1994年にデンソーが開発したものです。仕様をオープン化して誰もが自由に使えるようにしており、今では、みなさんも含め世界中で広く活用されています。当社に、このようなイノベーショ

ンの歴史があることを知っておどろかれる方も少なくありません。 現在は自動運転など複数の分野に注力しており、その1つが「ファクトリーオートメーションとアグテック(農業+テクノロジー)」です。「地球や未来の世界をより良くしたい」との思いからスタートさせたもので、大企業やスタートアップなど多くの協力体制のもと進めています。 とはいえ、いわゆる大企業である当社にとって、スタートアップとの協業は、簡単ではありません。ゆっくり回っている大きなギアと、クルクル高速で回る小さなギアをかみ合わせようとしても物理的に無理なように、大企業とスタートアップが足並みを揃えるのは難しいものです。ただ、スタートアップの人たちと話しているのは「難し

いけど、もしできたら世界を変えられるよね」ということ。そこを目指しています。 スタートアップはいいアイデアをたくさんもっていますが、「ひらめき」の段階であることが多いとも言えます。すばらしいものも多いですが不完全で、スケールが容易ではありません。さらに、製造体制もなく、いろいろな意味でリソースも限られています。半面、私たちには、製造体制、技術、製品、人員など、スタートアップにはない潤沢なリソースをもっています。ですから、「スタートアップに足りない部分を当社が埋めていく」というスタンスで進めています。 当社にはCVCチームもあるので、互いに協力して進めています。資金力だけではVCのみなさんにはかないませんので、先

VP, Innovation

(モデレーター:Stanford University APARC 櫛田健児氏)※本記事は「Silicon Valley - New Japan Summit 2019 Tokyo」のトークセッションの内容をもとに構成しました。

に申し上げたように、当社のリソースを活用することとセットで強みを発揮することを考えています。また、文化・考え方・法規・暗黙知など、お互いに理解し合わなければならない壁もたくさんあります。そうした部分にも細かく配慮しながら、実際に事業を推進する事業部とのエンゲージメントまで結びつけることが大切です。

「時間・完成度・打合せ」の感覚がまるで違う

 スタートアップとの協業における、感覚の違いについて触れたいと思います。赴任して間もない頃に私が気づかずに失敗したことが3つあります。 1つ目は、「時間感覚の違い」。たとえば、私たち企業は「今後3年のロードマップを出してください」などと当たり前のように言いますが、スタートアップ側は「自分たちは3カ月先を目指して走ることが精いっぱい。3年先が見えたら、スタートアップはやっていない」となります。 2つ目は「完成度の感覚の違い」。スタートアップ側は、PoCが成功すると「次はスケールですね!」となりますが、当社としては「PoC→MVP→試作→量産」という段階が必須です。ただし、それをストレートに伝えてしまっては、関係が壊れかねません。 3つ目は、「打ち合わせに臨む感覚の違い」。ここはぜひともお伝えしたい部分です。私たちとしては「10社と会って1社とディール・クローズできれば」と考えがちですが、スタートアップ側は1時間の打ち合わせを1日仕事の感覚で臨んできます。フィードバックの内容一つひとつも大事にします。それを怠ると「大事な時間をムダにされた」という感情が相手に芽生え、後に「やっぱりもう少し話を聞きたい」と申し出ても、2度と会ってはもらえません。 こうした失敗が起こってしまう理由は、日本企業の多くが環境が全く違うスタートアップの状況を理解しようとせず、旧態依然とした仕事の進め方・考え方から抜け出さないからでしょう。

シリコンバレーで精一杯もがいてわかったこと

櫛田:最後の失敗例でお話されていた「時間」「完成度」の差は、どうやって埋めていきましたか?鈴木:多くの方々が苦労している点だと思います。ただ、議論していても始まらないので、とにかく前に進めるしかないですね。 先ほどお話ししたように、スタートアッ

プのリソースは「ひらめき」です。ですから、仕様書を求めても夢のようなものが上がってきて、本社にそのまま渡したりすると激怒されるわけですが(笑)。本社には「スタートアップはひらめきこそが魅力」と、スタートアップには「日本企業とはこういうところ」と互いの長所や短所を説明しながら、両者の攻防の間をほふく前進しているよう なイメージです。忍耐は必要ですが、それ以上にポジティブが大切。そこはどんな仕事でも同じですよね。あきらめず信念を持って続けていけば、わりと前に進めると思います。 あとこの2年間シリコンバレーで、精一杯もがいて分かったことは、シリコンバレーのエコシステム。ステークホルダーがどんな人たちで、彼らがどう動いているかなどの仕組みです。私たちは、ともすると技術だけに目が行きがちですが、シリコンバレーでは「誰がやっているか」かが大事。そういう仕組みを理解することで、もつれていた紐が少しずつほぐれていきました。

今ない市場の皮算用は、ほとんど意味がない

櫛田:仕事を進めるうえで、どんなことを

大切にしていますか? 一番大事なことは、スタートアップともよく話すのですが、どれだけワクワクするか。「これができたらすごい!」というモチベーションです。たとえばFacebookやGoogleができたときに、今のような市場はなかったわけです。今はない市場の皮算用は、ほとんど意味はありませんよね。日系企業の人たちと話をして気になるのは、そこですね。まず事業規模の数字ありきで、ワクワク感がない。シリコンバレーでは「どれだけワクワクするか」が大事。人がワクワクするものが、新しい市場を創り、事業として育っていくのだと思います。櫛田:規模ではなく何をやっているか、ですね。多くの場合、スタートアップから見る大企業は不利な側面だらけですが、どんなふうにデンソーのアドバンテージをアピールしていますか?鈴木:私は、最初に、スタートアップのペインポイントを分析しますね。そこをカバーできる価値を私たちが提供できれば、一緒に組める。シリコンバレーは一期一会的なところがあり、1回「ダメだ」と思われたら次はありません。そんな感じで、二度目はない真剣勝負の場ではありますが、わりとそれを楽しみながらやっていますね。

DENSO International America

※本記事は「TECHBLITZ」の掲載インタビューを再構成したものです。Webサイトでは記事全文を読むことができます。

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デザインシンキングの活用法

テーマは広い範囲で設定

途中経過を大事にあくまでも企業としての目的は忘れずに道から外れそうになったら是正することも大事

楽しんでやることも大事「楽しんでやらないと面白くない」

実用化が目的ではあるが、基本は自由な考え方でテーマを設定してもらう

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デザインシンキングでの事業の生み出し方

ディーゼルエンジンの開発・製造をコアに事業を展開するヤンマーは、2018年社長室コネクティッドビジネス室を立ち上げた。創業107年を迎えるヤンマーの新規事業の展開、スタンフォード大学d.schoolと連携して生み出したものについて小山氏に語ってもらった。

1981年 山梨大学工学部電気工学科(学士)卒業後、パナソニックで海外市場での技術商品開発から事業化への取り組み、海外アカデミアとの連携によるオープンイノベーションを推進。企業アライアンスによるCELinux Forumの創設、マーケティンググループチェア。2015年からヤンマーにて オープンイノベーション、新規事業創出を担当。現在、デザイン思考を活用した産学連携プログラムを元に新規事業 (ビーチリゾートでの新たなワクワク体験を提供する遊具)を創造し、事業化を目前に控える。新規事業の創出を通して企業カルチャー、社員のマインドセットの改革を目指している。

小山 博幸ヤンマー

技術大好き、テクノロジーアウトの会社

小山:当社は創業1912年で、今年で107周年になります。2018年3月期の売上が7661億円、経常利益107億円。右肩上がりで成長をしています。大阪に本社を置き、グローバルカンパニー化を図っています。ヨーロッパをはじめ世界に研究開発所を3拠点、地域統括会社を4拠点、190カ国にヤンマーの製品を供給しています。 現在、当社は「4つの社会を提供する」ことを会社方針として進めています。1つ目が「安心して仕事・生活ができる社会」。2つ目が「食の恵みを安心して享受できる社会」。3つ目が「省エネルギーな暮らしを実現する社会」です。この3つは今まで既存

の事業でだいたいカバーできます。 そして4つ目、「ワクワクできる心豊かな体験に満ちた社会」というものがあります。しかし、「これって出したけどそもそもこれに値する事業がないよね、それなら作ろう」ということになり、私がヤンマーに入社してから「オープンイノベーションセンター」を設けました。 1年ほど、オープンイノベーションセンターを運営していく中で「事業を新たに作ろう」という話がまとまり新規事業を展開するに至りました。そこで、今回お話しするスタンフォード大学とのオープンイノベーションという形で、デザインシンキングの理論を本格的に取り入れることになったわけです。 ヤンマー107年の歴史の中で研究所から

生まれてきた新規商品っていうのは実際1つしかない。そういう会社なんです。そこで産声を上げたのが、社長室コネクテッドビジネス室です。要は社内ベンチャーですね。ゼロイチからゼロヒャクまでやれ、みたいな組織になっています。

デザインシンキングから生まれたプロジェクト

 コネクテッドビジネス室で目指すものは、コネクテッド(繋がる)と、IoT、AIを駆使したイノベーションを用いて、最終顧客とつながること。そこから新しい事業の柱を作ることを目的にしています。 今、コネクテッドビジネスで、いくつもの事業開発プロジェクトに取り組んでいま

社長室 コネクティッドビジネス室 シニアスペシャリスト

※本記事は「Silicon Valley - New Japan Summit 2019 Tokyo」のトークセッションの内容をもとに構成しました。(モデレーター:Stanford University APARC 櫛田健児氏)

す。まず「誰でも自由にワクワクできるマリンアクティビティ」ということで本格的におもちゃ事業に取り組んでいます。 次に既存事業とのシナジーを生むプラットフォーム事業です。トルコで既にスタートしている建築機械のシェアリングシステム「MakinaGetir」をこの春から導入しました。 他には、「ヤンマープレミアムマルシェ」があります。これはたぶん日本で一番おいしくて、安心できる素材をつかったものが食べられるカフェテリアを運営しています。 これら新規事業の取り組みは「デザインシンキング」を使って生み出してきました。重視したのはオープンイノベーションを行っていく時に「一番抵抗なくできるもの」であること。そこで一番マッチしたのがスタンフォードのデザインシンキングプログラムだったんです。 普通の産学連携だと、テーマを決めて、後は自由にやってください、と投げっぱなしのことが多いと思います。しかし、スタンフォードのデザインシンキングプログラムでは、テーマを提示することで、スタンフォード大学ともう1校のペア大学の学生チームが、徹底したユーザー観察から何度もプロトタイプ作りレビューを重ねてコンセプトを作り上げてくれます。

デザインシンキングが社員の意識を、会社を変えていく

櫛田:デザインシンキングをやっているスタンフォード大学のd.schoolは有名ですね。実際に多くの人がd.schoolに関心を持っていますし、d.schoolと組んでいる企業もたくさんあります。ですが、実際にモノを実用できるところまで進めている例ってほとんどないんです。ヤンマーさんは実用化まで持って行った数少ない例ですよね。実際、デザインシンキングをどのようなコンセプトで進めていくのが大切か、このあたりを聞かせてください。小山:まずデザインシンキングっていうのは、顧客の潜在的なニーズ、困りごとを解決できるとても有効な手段だと考えています。デザインシンキングの醍醐味というのは企業ではユーザーとディスカッションしたり、触れ合ったりすることで見つけることのできない、アイデアなり解決法を引っ張ってくるものだと思います。 また、デザインシンキングの考え方はテクノロジーアウトのマネジメントシンキングのそれとは全く異なります。だから、頭の切り替えをして、違う思考法を養うのにも非常に良いんですね。

楽しんでやることも大事

櫛田:大企業にはなかなか根付かないデザインシンキングの手法ですが、そもそもデ ザインシンキングをやっている人たちに足りないのは、実用化に持って行くためのパートナーだと考えています。デザインシンキングを本当に事業ベースに持ち込もうと思った時、経験があるとは限らないですよね。テーマの設定はどのようなところから考えつくのですか?小山:最初は広い範囲でテーマの設定をしています。学生さんにこのエリアの中で自由に遊んでいただきます。もちろん、テーマから逸脱しそうな時は是正することもありますが、基本的には自由な考え方でテーマを捉えてもらう。そうすることで、本当の有効活用が見えてくると思うんですね。ただ、我々は事業ですので活用する目的がいったいいくら利益を出すのかという部分にフォーカスをして、事業ベースに持って行く、というのが必要になります。  またあらゆる工程において、私たちは「楽しんでやらないと面白くない」と思っています。もっと言えば社員のマインドセットを変えたい、と思っているんですね。当社の社員は、テクノロジー大好きだからテクノロジーを使って仕事をしている、ということに終始

してしまう傾向があるんです。野球で例えるなら一塁ベースに正座している状態です。けれどそうではなくて、アウトになってもいいからリードしろと。デザインシンキングはそういう機会を与えるきっかけになると思います。 「自分たちが会社を変えていく」と意識を変えるきっかけに

 デザインシンキングは、ものすごく使えるツールだと思います。実際のプログラムでは、スタンフォードと別の大学とで、それぞれ3~4人を2グループ作って、8人程度のチームで活動するんです。企業側の理想的な取り組みスタイルは、自社の若手で3~4人のチームを組み、大学で開催するのと同じタイミングで同じようなことをやらせることです。そして、時々大学に乱入して「ぼくらもこんなこと考えているんだよ」と提案をチラ見せしていく。参加する学生は優秀なエンジニアで、当然、全部英語でのやり取りです。そういった刺激を受けることで「自分たちが会社を変えていく」と意識を変えるきっかけになると考えています。

ヤンマー

※本記事は「TECHBLITZ」の掲載インタビューを再構成したものです。Webサイトでは記事全文を読むことができます。

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東 京 海 上 日 動 火 災 保 険 の活 動 ヒストリー

フェーズ42019年4月

日本にてデジタルイノベーション共創部立ち上げ

フェーズ12016年11月

シリコンバレーに駐在員を配置自社イベントを開催スタートアップとの協業を検討

フェーズ22017年4月

スタートアップへの出資・提携・買収へ人員を1名→3名増やす

フェーズ32018年4月

名称を「デジタル戦略室へ」人員を3名→6名に。専門人材を増強

新しい「プラットフォーム型ビジネスモデル」を生み出す

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シリコンバレーの「黒船」を取り込む新体制

自動運転、ドローンなどの新しいスタートアップの波は、保険ビジネスをも侵食しつつある。いち早くその波に乗り、自らを変えていった欧米保険企業に対し、東京海上グループはどのような手を打ったか。2016年に単身でシリコンバレーに乗り込み、Metromileなどとの提携も手がけた楠谷氏に聞いた。

1994年入社。法人営業に携わった後、グループ全体のデジタル環境の変化に対応するための長期事業計画策定に従事する。2016年、東京海上グループ初となるシリコンバレーにおけるイノベーション拠点を立ち上げた。デジタル技術を活用した新しい保険サービスの開発や、スタートアップ、プラットフォーマーとの戦略的アライアンス構築などに取り組む。2019年4月から新しくデジタルイノベーション共創部の立ち上げのため帰国。

楠谷 勝東京海上日動火災保険

欧米グローバル保険会社がいち早く対応する中、出遅れていた

櫛田:東京海上グループさんがシリコンバレーに進出した理由を聞かせてください。楠谷:2014年頃から欧米のグローバル保険会社はいち早くインシュアテックの台頭に気付いていました。欧米の保険会社の対応は非常に早く、かつ大胆なものでした。デジタル対応とスタートアップ活用を経営課題の最優先事項とし、コーポレートベンチャーキャピタルの設立、スタートアップの育成・支援などさまざまな対策をとっています。 さて、そこで私たちはどうするのか。様子見をするか、対抗策をとるか等々、色々な選択肢が検討されました。しかし、「他社

がやるからうちも」とか「コンサルが言うから」ではなく、我が社のことは「自分で考えて判断したい」という結論になったのです。そのために“黒船”の造船所であるシリコンバレーを知って、「真の姿」「真の実力」に触れなければならないと。相手を知ることが自らの戦略を立てることにつながるからです。こうして2016年11月、シリコンバレー拠点を設立しました。 設立当初は私一人だけのスタートでした。右も左も分からない状況だったので、まず「シリコンバレーの歩き方」を知ることから始めましたね。ベンチャー企業やVCとの接触を繰り返したり、出資できるところを探したり。 ですが、どうしても“外様”の状態を抜け出せませんでした。苦労して考えた末、一

つの転機がありました。それは、自社が主催者となりイベントを開催したことです。これを機会にシリコンバレーで当社の認知度も上がり、ようやくエコシステムの中に入れたという実感を持てるようになりました。 イベントは「自動運転」と「保険」というテーマでイベントを展開しました。企業はトヨタやルノーなど自動車メーカーをはじめ、自動運転や自動車関連のスタートアップ、そして投資を考えている保険会社やVCなどに声をかけて参加いただきました。 日本人の内輪ウケのイベントになってしまうと欧米企業側がしらけてしまうので、なるべく日本人だらけのイベントにならないように気を付けました。1年目でツテも少ない状態だったので、出資しているVC

東京海上日動火災保険 デジタルイノベーション共創部長 兼東京海上ホールディングス 事業戦略部 部長

※本記事は「Silicon Valley - New Japan Summit 2019 Tokyo」のトークセッションの内容をもとに構成しました。(モデレーター:Stanford University APARC 櫛田健児氏)

の協力が大きかったですね。イベントの仕事はVCと半々くらいに分担したのですが、スピーカーや内容のクオリティを決めたのはかなりの部分はVCのサポートによるものでした。参加者集めは苦労しましたが、会場を欧米カラー一色に染めなければ満足する結果には至らなかったでしょう。

欧米企業を徹底ベンチマーク。組織体制を変える

 イベント開催後、チームを1人から3人体制へ増やし、シリコンバレーのプレイヤーたちを本格的に出資・提携・買収するステージに入りました。しかし、すぐに人手不足に陥ってしまったため、2018年にはチームを一気に2倍の6人に増やしました。こうして自動車、ヘルスケア、クレームなど各領域においてインシュアテックベンチャーとの接触、出資、提携などの議論ができる体制に整えていったのです。 効果的な出資・提携を進めるために、シリコンバレーチームの組織体制にも工夫をこらしています。先に述べましたが2018年にチームを一気に6名体制へと増やし、専門性人材を増強しました。そして名称を「デジタル戦略室」とし、本社の投資チームとは別に室内に投資チームを置いたのです。これによって本社を通さずにワンストップで投資の判断、結論が出せるようになりました。

コア事業の革新に「黒船」とのアライアンスが必須

櫛田:インシュアテックベンチャーへ出資・提携をするにあたって、大切にしたことは何でしたか?楠谷:私たちの使命は、新規事業や関連事業を起こすことではありません。インシュアテックベンチャーを取り込んで会社本来の「コア業務に革新を起こす」こと。小さい事業から革新を起こすより、ドメイン事業から革新を起こす方が同じ労力をかけても返ってくるリターンが大きいからです。 我々のスタンスをあらわす好事例として、Metromileとの投資・包括提携があります。提携の目的はMetromileがもつスマートフォンや人工知能等の技術を活用することです。提携によって事故が発生した場合、幾日もかかっていた保険金の支払いを最短で即日発行、しかもスマホだけで完結できるようになりました。インシュアテックのソリューションが、コア事業のスピードアップ、作業効率化をもたらした成果です。まさに黒船が黒船として当社に革新をもたらしたわけです。

櫛田:日本企業の悪い慣例として、同じ部署で3年働いたら異動。事業の継承がされないまま中途半端に終わってしまうというケースがありますよね。楠谷さんの場合も4年目に日本に戻っていますが、今後どうなっていくのでしょうか。楠谷:これまでやってきて、当社が既存事業の効率化や伝統的な販売チャネルのデジタル化には抵抗が少なく、非常に得意とする部分もあるということは分かりました。 しかし、一方で伝統的ではない新規のビジネスモデルを生むことは非常に苦手ということも分かったのです。例えばアマゾンのような新規販売チャネルとのビジネスモデル構築とか、外部企業とのアライアンスビジネスの創出といったチャレンジに抵抗が非常に強い。実際に問題が起きているわけでもないのに、「起きるかもしれない」というネガティブ発想だけで、なかなか上手くいきませんでした。 そこで私は今年4月に「デジタルイノベーション共創部」を立ち上げるため、日本に戻ってきたのです。ここは新しいビジネスモデルの“シーズ”をあらゆる部門から拾い出し、集約する場所です。そして同時に新しい“タレント”を発掘して集約する場所でもあります。

 “シーズ”と“タレント”を結合して伝統的ビジネスモデルとは異なる、新しい「プラットフォーム型ビジネスモデル」を生み出していくのが「デジタルイノベーション共創部」の使命です。そのためには自前主義にこだわるのではなく、アライアンスが欠かせません。ある意味「禁じ手なし」で臨んでいく覚悟です。櫛田:楠谷さんは3年の成果を活かしてより高いレベルの仕事をするために本社に戻ったわけですね。最後に楠谷さんからシリコンバレー活用を考える方にメッセージをお願いします。楠谷:先人の経験や知恵から学ぶことが大事だと思っています。私自身、シリコンバレーに先んじて進出した日本の先輩企業から色々な苦労、失敗、ジレンマなどを包み隠さず教えてもらいました。イノベーションが上手くいかなかった理由など、失敗例ほどとても役に立っています。華やかな成功事例より、生々しい失敗事例の方が会社や経営層に「こちらに行ってはいけない」というガードレールのような力を発揮するのです。

東京海上日動火災保険

※本記事は「TECHBLITZ」の掲載インタビューを再構成したものです。Webサイトでは記事全文を読むことができます。

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建設スタートアップと協業を実現した「大林チャレンジ」

建設業界にも、いまやスタートアップによる業界変革の波が訪れている。そんな変革の波を取り込むべく、大林組はシリコンバレーで新たにラボを立ち上げ、スタートアップとの協業をいち早く進めている。今回は「大林チャレンジ」など独自の仕組みを発案し実行している佐藤寛人氏に話を聞いた。

慶応義塾大学環境情報学部(SFC)卒業後、1994年に大林組に入社。IT戦略企画室にて社内業務フロー改革、社内ベンチャー制度で新会社の立ち上げ・事業化などを経験。米国MBA留学を経て、2011年3月より北米統括事務所(サンフランシスコ)に赴任し、北米事業の再構築、米国企業の買収などを行う。2016年12月にシリコンバレーのテクノロジーを建設業に取り込むための拠点として、Silicon Valley Ventures & Laboratoryを提案。2017年3月に組織化。10月にサンカルロスに拠点を置き活動を本格化。現在、米国子会社と一体となってシリコンバレーにおけるConstruction Techのコミュニティ形成を図る。

佐藤 寛人OBAYASHI SVVL

約40年、シリコンバレーは 近くて遠い存在だった

佐藤:2017年10月にSilicon Valley Ventures & Laboratory(SVVL)というR&D拠点を開設し、現在そのラボで活動しています。 大林組はサンフランシスコにオフィスを構えて約40年の歴史があります。 私がサンフランシスコに赴任したのは2011年でしたが、当時、大林組にとってシリコンバレーは近いようで遠い存在でした。もっとシリコンバレーの最新技術を活用した取り組みを進めたかったのですが、そのための文化・組織・経験・人材・ノウハウ、全てが“ない”状況でした。今日お話しする「大林組がシリコンバレーに近づき、

その最新技術を取り込むチャレンジ」とは、大林組の“ない”を“ある”に変えるチャレンジだったのです。

20年間、ほとんど生産効率が上がっていない建設業界

 スタートアップからすると、建設業はそれほど魅力的なマーケットには見えないのではという不安がありました。 各業界がFintech、Edtech、など「〇〇テック」という言葉を流行らせながら、デジタル化の潮流に合わせてテクノロジーを進化させていました。そんな中、「コンストラクションテック」なんて言葉は、2016年になってもシリコンバレーではまったく聞かれなかった。

 最新技術を適用できなかった原因はいくつかありますが、主な原因は建設現場の課題を自分たちだけで抱えて悩んできたからだと思います。建設現場の「仮囲い」の中は、我々にとっては日常ですが、スタートアップからしてみたら非日常。仮囲いの向こうでどんな作業をしているのかなんて考えたこともない、想像もつかない。 コンストラクションテックを形成するためには、まずは建設現場の仮囲いを外して、恥ずべき事実“Shameful Facts”をシリコンバレーのスタートアップと共有し、一緒に課題を解決していくための方法が必要だと考えました。 課題を一つひとつ丁寧に説明して、「あなたの得意な○○テクノロジーを適用して、一緒にこの建設業の課題を解決しようよ、

COO / CFO

※本記事は「Silicon Valley - New Japan Summit」のトークセッションの内容をもとに構成しました。スピーカーの役職は講演当時のものです。(モデレーター:Stanford University APARC 櫛田健児氏)

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一緒に宝物をあてにいかないか」と我々の抱える課題を一緒に解決をすることに魅力を感じてもらうことから始めました。これが「コンストラクションテック・コミュニティ」の形成への第一歩だったと思います。 そこで次にスタートアップのCEOがこう言うと想像しました。「なるほど、建設業界の課題解決には魅力を感じてきた。そこにマーケットはたしかにあるように思う。では、なぜ大林組と組むのか。そこにどんなメリットがあるのか」。その疑問に答えるために、3つの回答を用意していました。 1つ目は、「人材と予算」です。大林組は、建設プロセスに関わる全ての部門を一つの会社に備えており、建設にまつわる全ての技術を一気通貫で社内で利用できること。技術研究所があるということは、スタートアップのトップエンジニアと互角に対話できる研究者が社内にいるということ、そして研究開発の予算と施設を持っているということです。「大林組はその技術開発予算をシリコンバレー(あなた)に割り当てる用意がある」と口説きました。 2つ目は、「製品の開発環境、販売市場」です。大林組はサンフランシスコにグループ会社を3社持ち、シリコンバレーに建設現場を数多く持っています。よってスタートアップと共同開発した試作品を実際の現場で試行してデータを収集し、試作品の改善に繋げるための場と機会を、ここシリコンバレーで提供することができる。つまりスタートアップからして見れば、製品は米国仕様に製作することができます。 3つ目は、「米国での豊富な建設ビジネス経験」です。米国で建設ビジネスを継続して約40年続けており、現在、大林組グループは米国から見た海外建設会社として売上高第5位を誇っています。つまり米国の建設業を知っており、その市場から逃げることもしない。 これら3つの特徴を備えている建設会社は世界で大林組だけだと。だから迷わずに私達と一緒に建設業を変えるデジタルテクノロジーを開発しよう、と誘っています。

副社長にアイデアをプレゼンし、ラボを設立

 2016年末にチャンスが巡ってきまして、出張でシリコンバレーを訪れた副社長にプレゼンをする機会に恵まれました。スタートアップと協業するための組織・拠点をシリコンバレーに立ち上げるという計画を説明したのです。意外なことに、副社長は「私も同じことを考えていた。すぐにやろう」と賛同してくれ、その計画を承認してくれました。

 その3ヵ月に組織が発足し、その半年後の 2 0 1 7 年 1 0 月、V e n t u r e s & Laboratoryというオフィス兼ラボを開くことができました。そしてベンチャーキャピタルの方たちに向けて「大林組はシリコンバレーでコンストラクションテック・コミュニティを形成し、そのリーダーとなる」という意向を発信しました。この決意を具現化したものとして「大林チャレンジ」の開催を発表しました。 この「大林チャレンジ」はいわゆる技術コンペティションですが、それまでにコンストラクションテック専門の技術コンペティションはなかったと思います。事前に建設業界の課題を公表し、それを解決する技術をもったスタートアップや研究機関にプレゼンテーションをしてもらいます。 初年度は13チームのスタートアップに来ていただきました。そのうち半分近くの6チームに予算をつけることができ、協業をスタートすることになりました。

1週間の出張のあいだに案件を決めてしまう

櫛田:大林組さんではシリコンバレー出張者の1週間の予定をあらかじめおさえて、1週間の出張中にスタートアップとの面談、東京本社への提案も終えてしまうそうですね。佐藤:私は出張者には1週間シリコンバ

レーに滞在してもらうプランが有効だと考えています。その週はほぼ毎日夕刻に本社とテレビ会議でつなぎ、その出張者が上司に報告・相談します。 例えば、出張者が月曜日に到着してスタートアップに会って、夕刻には東京の上司とのテレビ会議で報告する。そして火曜日にはグループ会社のWebcorに行って、実際の現場でどう適用できるか、市場調査や技術検証をしてみる。水曜、木曜に再度スタートアップを訪問し、膝を突き合わせて議論。その結果を上司に相談し、木曜日のテレビ会議でそのスタートアップとの協業のGo or No-Goを決めてしまう。 出張者が土曜日に飛行機に乗って帰る時にはおおよその結論は出ていて、彼らの頭はスッキリしているという状態です。特にNo-Goの結論はできるだけ早く相手に伝えなければならないと思っています。

大事なのは真摯・誠実であること

櫛田:最後にシリコンバレーで事業開発をする方にメッセージをお願いします。佐藤:この時代のシリコンバレーにいるからには、何かを成し遂げたいと思っていますが、そのためにはシリコンバレーのコミュニティで人や案件に対して真摯であること、誠実であることが大事だと思っています。

OBAYASHI SVVL

※本記事は「TECHBLITZ」の掲載インタビューを再構成したものです。Webサイトでは記事全文を読むことができます。

恥ずべき事実 "Shameful Facts" をスタートアップと共有する

技術コンペティション「大林チャレンジ」を開催

なぜ自社と組むかしっかり回答を用意する

出張者の一週間のスケジュールを押さえ一週間の中でスタートアップの面談本社への提案を終える

シリコンバレー活用法大林組流

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スタンフォード大学 US-Asia Technology Management Centerと共同開催。日米企業の連携事例から刺激と知見を得ることができるトークセッション、スタートアップと直接商談できるBiz-Devブースを用意しています。

TECHBLITZが主催するオープンイノベーションサミット。世界各地で活動する日本企業の海外連携事例を紹介します。

イベント 世界のスタートアップと日本企業をつなぐイベントを各地で開催

11月16日(月)・17日(火)Silicon Valley – New Japan Summitシリコンバレー開催 東京開催

メディア「TECHBLITZ」は、世界のスタートアップエコシステムと日本をつなぐメディアです。最新の世界のスタートアップ情報や、各地のエコシステムの動向、日本企業のオープンイノベーション活動を現地取材し、発信しています。またメディアネットワークを活かし、世界のスタートアップと日本企業が直接出会えるサミット、スタートアップと日本企業のコラボレーション支援も行っています。

https://techblitz.com/

❶ 現地メディアがスタートアップのCEOに直接取材❷ 日本展開を狙う、有力スタートアップのみをセレクト❸ 日本語でわかりやすく配信

メディア 3つの特徴

シリコンバレーの日本企業が陥る、10のワーストプラクティス

グローバル企業のコマツに学ぶ 「オープンイノベーションの進め方」

世界に爆速で広まるビジネスチャット「Slack」の正体

運営企業 : Ishin Group  メディア・イベントについてお気軽にお問い合わせください。 [email protected]

世 界 の スタ ー トア ッ プエコシステム と日 本 を つ な ぐ メデ ィ ア

11月16日(月)・17日(火)

Coming Soon

Coming Soon

Startup Summary Report スタートアップ サマリレポート

シリコンバレー・アメリカ全域、イスラエル、東南アジアから御社の探索テーマに即したスタートアップの情報(10社30スライド)を毎月日本語でお届けします。

1

Fundraising List 資金調達リスト

シリコンバレー、イスラエル、東南アジアからスタートアップの最新資金調達情報をリスト化してお届けします。資金調達のトレンドが掴めます。

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Startup’s Needs List 案件速報リスト

スタートアップ側の協業ニーズを弊社からのマッチング推薦案件(案件速報)として毎月ご紹介致します。

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Trend Book トレンドブック

AI、IoT、自動車、シリコンバレー、東南アジアなど注目領域別、エリア別のスタートアップトレンドやオープンイノベーション情報を提供致します。

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サマリレポートやリストから気になるスタートアップへのマッチングをお手伝いします。シリコンバレー発の日系メディアである

「TECHBLITZ」が仲介することで、アプローチの効率化はもちろん、面談獲得率向上に寄与します。

Matching マッチング5

海外スタートアップ・オープンイノベーションサポート日本企業各社様のスタートアップ探索とマッチングを定額制のパッケージにてサポート

現在3ヵ月の短期から導入できるトライアルプランを実施中です。無料サンプルもご用意しておりますので、右記URL または 二次元バーコードからお気軽にお問い合わせください。

お問い合わせフォームhttps://go.techblitz.com/contactform/

情報収集&マッチングサポート

公募型オープンイノベーションプログラム

S u b s c r i p t i o n s e r v i c e produced by

共創パートナー探索やイノベーションのシーズをPULL型で発掘する「公募プログラム」を開催します。オープンイノベーションに特化したWEBプラットフォームを活用し、テーマ設定から、パートナーやアイデアの募集、選考、協業までをお手伝いします。

公募プログラムの流れ

テーマ設定 パートナー・アイデア募集 選考 協業