p-31 カビを操る内生細菌 菌類に内生する細菌が シリカを原...

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SATテクノロジー・ショーケース 2018 近年,菌類の細胞内部に生息する細菌の報告例が増加 しており,その機能について研究が進んでいる.特にアー バスキュラー菌根を形成する共生菌Gigaspora margarita (グロムス亜門,ケカビ門)に内生する Candidatus Glomeribacter gigsporarumBurkholderiaceae科,ベータプ ロテオバクテリア綱)は,宿主菌類の植物共生能の向上や 胞子(厚壁胞子)生産量の増加に寄与することが知られて いる(Salvioli et al ., 2016). 一方,土壌に普遍的に存在する腐生性の菌類である Mortierella属菌(クサレケカビ亜門,ケカビ門)は,近年, アーバスキュラー菌根を形成するグロムス亜門菌類と近縁 であることが示されている(Spatafora et al., 2016).この Mortierella属菌には,Ca. Glomeribacter gigsporarumと類 縁な細菌(BREBurkholderiaceae-related endobacteria)が 内生していることが知られている( Sato et al ., 2010; Ohshima et al., 2016).しかし,このBREが,宿主である Mortierella属菌に対してどのような影響を及ぼすのかはわ かっていない。そこで当研究グループでは,1)BREが宿 主菌類と植物との相互作用に与える影響および2)BRE宿主の胞子形成(特に有性胞子)に与える影響について 研究を進めている. 1.M o r t i e r e l l a B R E BREが内生し,植物(トマト)の生育に影響を与えていると 考えられるM. humilis S2株を選抜した.次に,この菌株か BREを除去し,宿主と植物との相互作用に変化が生じる かを観察した.その結果,BREを保有したM. humilis S2接種区は,対照区と同様にトマトが生育したが,BREを除 去したM. humilis S2BF株では、対象区と比較してトマトの 生育が抑制されていた(20個体中10個体が生育不良).こ のことより,M. humilis S2株に内生するBREが,宿主菌類と 植物との相互作用に影響を与えていることが示唆された. 今後は,同BREの人工培養菌株を確立し,宿主への再導 入を行なう.以上より,Mortierella属菌に内生する同BRE の宿主植物への影響を検証し,普遍的な土壌菌である Mortierella属菌を共生菌に変えることでの農業利用への 可能性を検討していく. 2.M o r t i e r e l l a B R E BREが内生し,単独で接合胞子(有性胞子)を形成する Mortierella sp. YTM39株を用いて,この菌株からBREを除 去することにより,接合胞子形成に変化が生じるかを観察 した.その結果,BRE非保有12菌株(除去株を含む)すべ てにおいて,接合胞子が形成されたのに対し,BRE保有 10菌株中9菌株において,接合胞子が形成されなかった. また,BRE保有株2菌株について,抗生物質(シプロフロキ サシン)を加えた培地を用いて,接合胞子形成を誘導した ところ,対象区(抗生物質未添加)では接合胞子形成が認 められなかったのに対し,抗生物質添加区( 10-50 µg mL -1 )では,接合胞子形成が確認された.これらのことから, 本菌株に内生するBREは,宿主の有性胞子の形成に影 響を与えると考えられる.今後,その分子機構について研 究を進めていく. 実験方法 1.BRE除去株の作出 2.植物接種試験 Narisawa, K. and Diene, O. Isolation and selection of fungal endophytes for the suppression of soilborne disease "Prospects and Applications for Plant-Associated Microbes. A Laboratory Manual, Part B: Fungi" BioBien Innovations, Finland 127-130, 2011. - 宿 - 代表発表者 問合せ先 3 0 0 - 0 3 9 3 3 - 2 1 - 1 ( 4 0 3 4 1 7 ) T E L 0 2 9 - 8 8 8 - 8 6 6 7 1)新たな生物共生系 2)菌類内生細菌 3Mortierella 属菌 高島勇介・成澤才彦 東京農工大学大学院 連合農学研究科 茨城大学農学部 P-31 33

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Page 1: P-31 カビを操る内生細菌 菌類に内生する細菌が シリカを原 …...いる(Salvioli et al., 2016). 一方,土壌に普遍的に存在する腐生性の菌類である

SATテクノロジー・ショーケース2018

■ はじめに テトラアルコキシシランは、シリコーンゴムの架橋剤や、

半導体デバイスの絶縁膜などの、含ケイ素材料の原料として広く用いられている。しかし、テトラアルコキシシランの工業的な合成プロセスは、シリカを還元して金属ケイ素を製造する過程を経由する、エネルギー多消費なものとなっているため、シリカからテトラアルコキシシランを直接合成する手法が求められている。 当研究室では、シリカとアルコールから塩基触媒の存

在下でテトラアルコキシシランを直接合成する研究を行っている。この反応では、副生成物として水が生成するため、この水を除去することで反応の平衡をより生成物側へ傾けることが重要であると考えられる。現在、モレキュラーシーブを脱水剤として用いており、反応容器から上がってくる、反応混合液の蒸気をモレキュラーシーブの容器で冷却・脱水し、再び反応容器に戻すといった、循環系の反応装置を用いている。よって、より反応混合液から水を蒸発させやすくすれば、目的物をより生成することが可能になると考えられる。 本研究では、反応の高効率化のために、添加溶媒の効

果を利用したテトラアルコキシシランの合成を行った。 反応溶液に、新たな溶媒(以下添加溶媒という。)を追加することで、水を本来より低い温度で蒸発させ、より穏和な条件で合成を行うことができると考えられる。 反応条件が穏和になれば合成のコストの削減になり、合成プロセスの省エネルギー化が期待できる。 ■ 研究内容 1.反応条件および共溶媒の検討 エタノールを用いたテトラエトキシシランの合成におけ

る添加溶媒の効果の実験を行った。最初にヘキサンを共溶媒として選択し、反応温度及び圧力を変化させながら、共溶媒の共沸効果が最もあらわれる、反応条件を決めた。次に、ヘキサン以外の様々な溶媒を用いて合成を行い、テトラエトキシシランの収率から、添加溶媒の効果の有無を確かめた。反応の高効率化に効果のある溶媒は、アルコールとの比率を変化させて実験を行うことで、さらに収率の向上を目指した。

2.反応中の気相及び液相の水分量 実際に添加溶媒の効果が、どのように反応に影響して

いるのかを検証する実験を行った。シリカや塩基触媒を加

えない条件で、アルコールと共溶媒のみで実験を行い、反応中の液相と気相それぞれの水分値及び組成を測定した。

3.溶媒組成とモレキュラーシーブの脱水能 共溶媒を加えることで、モレキュラーシーブの脱水能にどれほど影響があるのかを確かめる実験を行った。上記2.の項目で得られた結果も利用して、任意の溶媒組成で混合溶媒を用意し、そこにモレキュラーシーブを加え、一定時間後の水分値を測定した。

Figure. 反応概略図

■ 関連情報等 本研究は、NEDO「有機ケイ素機能性化学品製造プロセス技術開発」プロジェクトの支援の下で行われた。

資源 ・ エネルギー

シリカを原料とする テトラアルコキシシランの高効率合成

代表発表者 深谷 圭祐(ふかや けいすけ) 所 属 茨城大学大学院 理工学研究科

博士前期課程 理学専攻

国立研究開発法人産業技術総合研究所 触媒化学融合研究センター 触媒固定化設計チーム

問合せ先 〒305-8565 茨城県つくば市東 1-1-1 中央第 5 Email:[email protected]

■キーワード: (1)シリカ (2)テトラアルコキシシラン (3)モレキュラーシーブ

■共同研究者: 深谷 訓久 所属:国立研究開発法人産業技術総合研究所 触媒化学融合研究センター 触媒固定化設計チーム

茨城大学大学院 理工学研究科

SiO2 + 4 ROH

10 mol% KOHMS3A, Ar

Additional solvent, 6 h+ 2 H2O

30 mmol

SiORRO

RO OR

■ はじめに 近年,菌類の細胞内部に生息する細菌の報告例が増加しており,その機能について研究が進んでいる.特にアーバスキュラー菌根を形成する共生菌Gigaspora margarita(グロムス亜門,ケカビ門)に内生するCandidatus Glomeribacter gigsporarum(Burkholderiaceae科,ベータプロテオバクテリア綱)は,宿主菌類の植物共生能の向上や胞子(厚壁胞子)生産量の増加に寄与することが知られている(Salvioli et al., 2016). 一方,土壌に普遍的に存在する腐生性の菌類である

Mortierella属菌(クサレケカビ亜門,ケカビ門)は,近年,アーバスキュラー菌根を形成するグロムス亜門菌類と近縁であることが示されている(Spatafora et al., 2016).このMortierella属菌には,Ca. Glomeribacter gigsporarumと類縁な細菌(BRE:Burkholderiaceae-related endobacteria)が内生していることが知られている(Sato et al., 2010; Ohshima et al., 2016).しかし,このBREが,宿主であるMortierella属菌に対してどのような影響を及ぼすのかはわかっていない。そこで当研究グループでは,1)BREが宿主菌類と植物との相互作用に与える影響および2)BREが宿主の胞子形成(特に有性胞子)に与える影響について研究を進めている.

■ 活動内容 1.Mortierella属菌と植物の相互作用にBREが与える影響 BREが内生し,植物(トマト)の生育に影響を与えていると考えられるM. humilis S2株を選抜した.次に,この菌株からBREを除去し,宿主と植物との相互作用に変化が生じるかを観察した.その結果,BREを保有したM. humilis S2株接種区は,対照区と同様にトマトが生育したが,BREを除去したM. humilis S2BF株では、対象区と比較してトマトの生育が抑制されていた(20個体中10個体が生育不良).このことより,M. humilis S2株に内生するBREが,宿主菌類と植物との相互作用に影響を与えていることが示唆された.今後は,同BREの人工培養菌株を確立し,宿主への再導入を行なう.以上より,Mortierella属菌に内生する同BREの宿主植物への影響を検証し,普遍的な土壌菌であるMortierella属菌を共生菌に変えることでの農業利用への可能性を検討していく. 2.Mortierella属菌の胞子形成にBREが与える影響 BREが内生し,単独で接合胞子(有性胞子)を形成する

Mortierella sp. YTM39株を用いて,この菌株からBREを除去することにより,接合胞子形成に変化が生じるかを観察した.その結果,BRE非保有12菌株(除去株を含む)すべてにおいて,接合胞子が形成されたのに対し,BRE保有10菌株中9菌株において,接合胞子が形成されなかった.また,BRE保有株2菌株について,抗生物質(シプロフロキサシン)を加えた培地を用いて,接合胞子形成を誘導したところ,対象区(抗生物質未添加)では接合胞子形成が認められなかったのに対し,抗生物質添加区(10-50 µg mL-1)では,接合胞子形成が確認された.これらのことから,本菌株に内生するBREは,宿主の有性胞子の形成に影響を与えると考えられる.今後,その分子機構について研究を進めていく.

■ 関連情報等(特許関係、施設) 実験方法

1.BRE除去株の作出

2.植物接種試験 Narisawa, K. and Diene, O. Isolation and selection of fungal endophytes for the suppression of soilborne disease "Prospects and Applications for Plant-Associated Microbes. A Laboratory Manual, Part B: Fungi" BioBien Innovations, Finland 127-130, 2011.

農林水産

カビを操る内生細菌-菌類に内生する細菌が 宿主をコントロールする?-

代表発表者 松下 紗季(まつした さき) 所 属 茨城大学農学部

問合せ先 〒300-0393

茨城県稲敷郡阿見町中央 3-21-1

実験研究棟4階 微生物生態学研究室(403・417) TEL:029-888-8667

■キーワード: (1)新たな生物共生系 (2)菌類内生細菌 (3)Mortierella 属菌 ■共同研究者: 高島勇介・成澤才彦 東京農工大学大学院 連合農学研究科 茨城大学農学部

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