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学生リポーターの先輩訪問 1060 60 日本のトップバンク,株式会社三菱東京UFJ銀行 (以下三菱東京UFJ銀行)。 読者のなかには「東京工業大学の卒業生が銀行 で働く場があるの」と思う方がいるかも知れません。 実は銀行,証券,保険など金融の現場で理系の知 識をフルに活用して,多くの東工大出身者が活躍し ているのです。 学生分科会の3名は 「理系出身者が活躍できる 銀行の現場って?」との疑問を胸に,2017年1月18 日千代田区大手町グランキューブにある三菱東京 UFJ銀行で活躍中の先輩方を訪ねました。エントラン スで市場業務開発室町田暢之さんに出迎えていただ き,さっそく会議室で中島誠一さん(H2経)森本裕 さん(H19数)篠崎裕司さん(H25修技術経営) 上田慎一郎さん(H24物26修基礎物)加藤準平ん(H25物27修基礎物)ら5名の先輩方と座談会 です。 モノづくりの現場を見てきた私たちにとって金融の 現場は勝手が違っています。 中島さんに銀行の仕組 みと理系の知識が業務でどのように役に立っている かを話していただきました。 金融商品のリスクヘッジと確率微分方程式 中島さん:銀行ではお金そのものがデパートでいう陳 列された商品なのです。 皆さんは普段ATMを利用 されていますが,それは銀行業務のごく一部です。 私たちは工場建設・社会インフラ 整備・住宅購入などに必要なお 金を2~30年という長いスパンで 捉え,円だけでなく多様な通貨で グローバルに融通しあいます。ま た銀行はお客様のニーズに応じ て各種デリバティブ商品を提供し, お客様が抱える様々なリスクを引 き受け適切に管理します。ここに 私たち理系の知識・技術が必要 になってきます。例えば,為替レー トや原油価格などのパラメータが どのくらい動いたら,商品価値や リスク特性がどれだけ変わるのか を計算します。モデルは確率微分方程式で記述され, 何千,何万と存在する市場からの膨大なデータと, 数学やIT技術などのツールを駆使した解析やモデル 検証を通じて,正しくリスク管理が出来るか否かが鍵 になります。このような解析には理系の力が不可欠 で,市場業務やリスク管理業務に携わっている社員 の多くが理系出身です。 モデルの開発はどのくらいの期間かかりますか? 森本さん:基本になる方程式はBlack-Scholes理論 (以下BS理論)を使います。ただし,これだけでは 実際の市場に適合しないことが多々あります。そこで 市場に合わせた現実的な理論が必要です。私たち はBS理論を再構築し,数式を立て,プログラミング を行い,モデル検証や単体テストをすることで,それ ぞれの目的に適合したものにしていきます。これには 短くて1年,難しいものだと数年かかることもあります。 後列左より 森本さん,加藤さん,篠崎さん,上田さん,前列左より 清水B3,米倉B2,南B2,中島さん 左より 中島さん,上田さん,篠崎さん,森本さん,加藤さん 「世界に選ばれる,信頼のグローバル金融グループ」を目指す 株式会社三菱東京UFJ銀行

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Page 1: P60-61 学生の先輩訪問 5 - 蔵前工業会...学生リポーターの先輩訪問! 1060 61 ・学部卒の方はいますか?中島さん:特にモデル開発業務は専門性が高く,基

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 日本のトップバンク,株式会社三菱東京UFJ銀行(以下三菱東京UFJ銀行)。 読者のなかには「東京工業大学の卒業生が銀行で働く場があるの」と思う方がいるかも知れません。実は銀行,証券,保険など金融の現場で理系の知識をフルに活用して,多くの東工大出身者が活躍しているのです。 学生分科会の3名は 「理系出身者が活躍できる銀行の現場って?」との疑問を胸に,2017年1月18日千代田区大手町グランキューブにある三菱東京UFJ銀行で活躍中の先輩方を訪ねました。エントランスで市場業務開発室町田暢之さんに出迎えていただき,さっそく会議室で中島誠一さん(H2経)森本裕介さん(H19数)篠崎裕司さん(H25修技術経営)上田慎一郎さん(H24物26修基礎物)加藤準平さん(H25物27修基礎物)ら5名の先輩方と座談会です。 モノづくりの現場を見てきた私たちにとって金融の現場は勝手が違っています。中島さんに銀行の仕組みと理系の知識が業務でどのように役に立っているかを話していただきました。

  金融商品のリスクヘッジと確率微分方程式中島さん:銀行ではお金そのものがデパートでいう陳列された商品なのです。皆さんは普段ATMを利用されていますが,それは銀行業務のごく一部です。

私たちは工場建設・社会インフラ整備・住宅購入などに必要なお金を2~30年という長いスパンで捉え,円だけでなく多様な通貨でグローバルに融通しあいます。また銀行はお客様のニーズに応じて各種デリバティブ商品を提供し,お客様が抱える様々なリスクを引き受け適切に管理します。ここに私たち理系の知識・技術が必要になってきます。例えば,為替レートや原油価格などのパラメータがどのくらい動いたら,商品価値やリスク特性がどれだけ変わるのか

を計算します。モデルは確率微分方程式で記述され,何千,何万と存在する市場からの膨大なデータと,数学やIT技術などのツールを駆使した解析やモデル検証を通じて,正しくリスク管理が出来るか否かが鍵になります。このような解析には理系の力が不可欠で,市場業務やリスク管理業務に携わっている社員の多くが理系出身です。

・モデルの開発はどのくらいの期間かかりますか?森本さん:基本になる方程式はBlack-Scholes理論(以下BS理論)を使います。ただし,これだけでは実際の市場に適合しないことが多々あります。そこで市場に合わせた現実的な理論が必要です。私たちはBS理論を再構築し,数式を立て,プログラミングを行い,モデル検証や単体テストをすることで,それぞれの目的に適合したものにしていきます。これには短くて1年,難しいものだと数年かかることもあります。

後列左より 森本さん,加藤さん,篠崎さん,上田さん,前列左より 清水B3,米倉B2,南B2,中島さん

左より 中島さん,上田さん,篠崎さん,森本さん,加藤さん

「世界に選ばれる,信頼のグローバル金融グループ」を目指す株式会社三菱東京UFJ銀行

Page 2: P60-61 学生の先輩訪問 5 - 蔵前工業会...学生リポーターの先輩訪問! 1060 61 ・学部卒の方はいますか?中島さん:特にモデル開発業務は専門性が高く,基

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・学部卒の方はいますか?中島さん:特にモデル開発業務は専門性が高く,基本的に院卒の力が必要になってきますが,学部卒もいます。専門的な仕事をするには,入行後も専門知識の習得が必須です。また当行全体の業務でいえば,お客様の多くは固有技術の専門家です。例えば半導体関連の投資計画では,理系出身者であれば,勉強すれば相手の技術のこと,市場の将来やお客様の取り組み姿勢などを的確に理解することができるでしょう。お客様とのコミュニケーションで理系出身であることが思いもよらず役立つことがあります。

・ 先輩の皆さんが三菱東京UFJ銀行に入行しようとしたきっかけは?上田さん:私は頭脳を使う仕事をしたいと思い,そこで金融分野を選択しました。自分のやりたい事と当行が求めている事がよくマッチしていると感じました。森本さん:大学で専攻した数学は非常に興味深い半面,数学者への道は狭き門で,孤独な戦いでもありました。就職活動をする中で,三菱東京UFJ銀行のクオンツ業務を知り,好きな理論数学が活かせる,社会に貢献できるという理想の環境がそこにありました。

・学生時代の経験で今に活きていることは?加藤さん:対象が何であれ,一生懸命取り組んだ実績はあとで役立ちます。研究で行き詰まった時にアイディアを絞りだした経験は,社会人になっても役に立っています。篠崎さん:学生の時は研究に没頭しました。その時の経験が仕事で壁にぶつかった時の心の支えになっ

ています。

・ 仕事の上でプレッシャーを感じるときはありますか?上田さん:債券の取引を行う上で瞬時に売買判断を求められる時があります。すぐに手を打たなければならない時,大きな 責 任 とプレッ

シャーを感じることがあります。篠崎さん:新しい金融規制に対応する仕組みを導入する際,莫大な労力が必要になります。その際プレッシャーを感じます。加藤さん:リスクが大きい取引で管理面からお客様を担当する顧客部門と対立する場面があります。お客様のニーズや立場を考えると,進めなければならない案件もあり,そんな時,プレッシャーを感じることがあります。

上田さん:初めから先を見越して止めてしまうことなく,視野を広げてチャレンジしてください。篠崎さん:私も皆さんと同じ現役の東工大生(博士課程在学中)として,仕事をしながら研究に励んでいます。将来を考えると不安になることもあるかもしれませんが,一つのことに集中して打ち込めるのは学生のうちだけです。加藤さん:学生だからこそ自由に実行できる事があります。将来,その経験が必ず役に立ちます。森本さん:私は学生時代,自分の専攻と社会の関連が見えず,将来に不安がありました。社会にでて,その専攻が自分の武器になりました。理系の専門性はどんな分野にいても活かせる道があります。様々な世界に目を向けてください。中島さん:AIが人間の仕事を取って換わると言われていますが,人はこれをツールとして,より創造的な仕事をすればいい。新しい世界を共に創りだしてゆきましょう。

  訪問を終えて 今まで私たちの訪問先は製造現場や研究所でした。現場といっても全く異なる三菱東京UFJ銀行のそれでした。銀行はATMを利用するなど身近な存在ですが,その向こう側には数学や物理など理系知識がフルに活用され,大きく社会に貢献している真実に触れることができました。参加した学生(清水,米倉,南)3人には非常に充実した2時間でした。 (南 和樹 地球惑星科学科B2 記)

写真提供:三菱東京UFJ銀行

先輩から東工大生へのメッセージ