pb01 相補性を考慮に入れた心理学的タイプ測定尺...

41
相補性を考慮に入れた心理学的タイプ測定尺度の作成 ―信頼性,妥当性,機能的対極性の検討― ○佐藤淳一 (武庫川女子大学) キーワード:心理学的タイプ,相補性,尺度作成 問題 タイプ論とは心理学的タイプと呼ばれるパーソナリ ティの類型論のことである(Jung, 1921)。筆者(佐藤, 2005Sato, 2017)は心理学的タイプを測定する尺度 に心理学的タイプ測定尺度(Jung Psychological Type Scale; 以下, JPTS )を作成した。 JPTS はユング理論 の対極性の概念に基づいているため,たとえば外向と 内向は互いに両立しえないものとされている。一方, ユング理論の個性化の過程では対立物は弁証法的に乗 り越えられると考えられているため,タイプ間には対 極性がありながらも分化・発展していく。そのため, タイプ間の相補性を考慮に入れた測定法を開発する意 義がある(河合,1982)。 そこで本研究は,相補性を考慮に入れた心理学的タ イプ測定尺度(Jung Psychological Type Scale for Complementary; 以下,JPTS-C)を作成する。両義 性の測定法は,対極性を保持したまま回答を独立して 行う自己イメージの二面性(桑原,1991)の回答形式 を参考にした。今回は JPTS-C の内的整合性による信 頼性と,JPTS の同名の下位尺度との併存的妥当性に ついて報告する。その際,タイプ間の対極性の妥当性 として機能的対極性(Mordkoff, 1963)も検討する。 方法 質問紙 1) JPTS 「外向内向」 Extraversion-Introversion; 以下, E-I と略),「思考感情」(Thinking-Feeling; 以下,T-F と略),「感覚直観」(Sensation-Intuition; 以下,S-N と略),計 27 項目対からなる。回答形式は,項目対(a, b)について a にまったく当てはまる」から「b にまったく当ては まる」までの双極型の 7 件法。 2) JPTS-C 外向,内向,思考,感情,感覚,直観 9 項目ずつ,計 54 項目。回答形式は JPTS の文章対 を保持しつつも回答は独立して行う。「まったく当ては まる」から「まったく当てはまらない」までの単極型 7 件法。 調査協力者は大学生 250 名(男性 70 名,女性 180 名平均年齢 19.5 歳, SD=1.64)を対象とした。手続き 1 2 の順で,集団法により実施した。 結果と考察 JPTS-C の下位尺度の α 係数は S .60 とやや低かっ たが,他は.75-.81 の十分な値を示した。 JPTS-C JPTS の同名尺度との相関はおおむね中 程度から強い程度の正の関連が示され,対極する尺度 との間には中程度から強い程度の負の相関が示された。 Table JPTS JPTS-C の下位尺度間相関(N=250JPTS JPTS-C E-I T-F S-N E 0.75 ** 0.04 0.05 I -0.81 ** -0.13 * -0.06 T -0.01 0.38 ** 0.20 ** F -0.10 -0.53 ** -0.14 * S 0.00 0.06 0.47 ** N -0.03 -0.25 ** -0.70 ** * p<.01, ** p<.05, JPTS-C EI 間に強い負の相関(r =-.69p<.001), SN 間に弱い負の相関(r =-.35p<.001 )が認められた が,TF 間は無相関であった(r =-.04, n.s. )。つまり, EI 間や SN 間において機能的対極性が認められたが, TF 間においては認められなかった。 今回作成した JPTS-C は,内的整合性による信頼性, JPTS による併存的妥当性,EI 間および SN 間の機能 的対極性がおおむね確認された。今後の課題として, JPTS-C の構成概念妥当性の検討が必要である。 SATO Junichi PB01 68

Upload: others

Post on 13-Jun-2020

3 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

相補性を考慮に入れた心理学的タイプ測定尺度の作成

―信頼性,妥当性,機能的対極性の検討―

○佐藤淳一

(武庫川女子大学)

キーワード:心理学的タイプ,相補性,尺度作成

問題

タイプ論とは心理学的タイプと呼ばれるパーソナリ

ティの類型論のことである(Jung, 1921)。筆者(佐藤,

2005;Sato, 2017)は心理学的タイプを測定する尺度

に心理学的タイプ測定尺度(Jung Psychological Type

Scale; 以下,JPTS)を作成した。JPTSはユング理論

の対極性の概念に基づいているため,たとえば外向と

内向は互いに両立しえないものとされている。一方,

ユング理論の個性化の過程では対立物は弁証法的に乗

り越えられると考えられているため,タイプ間には対

極性がありながらも分化・発展していく。そのため,

タイプ間の相補性を考慮に入れた測定法を開発する意

義がある(河合,1982)。

そこで本研究は,相補性を考慮に入れた心理学的タ

イプ測定尺度(Jung Psychological Type Scale for

Complementary; 以下,JPTS-C)を作成する。両義

性の測定法は,対極性を保持したまま回答を独立して

行う自己イメージの二面性(桑原,1991)の回答形式

を参考にした。今回は JPTS-Cの内的整合性による信

頼性と,JPTS の同名の下位尺度との併存的妥当性に

ついて報告する。その際,タイプ間の対極性の妥当性

として機能的対極性(Mordkoff, 1963)も検討する。

方法

質問紙 1) JPTS 「外向−内向」

(Extraversion-Introversion; 以下,E-Iと略),「思考−

感情」(Thinking-Feeling; 以下,T-Fと略),「感覚−

直観」(Sensation-Intuition; 以下,S-Nと略),計27

項目対からなる。回答形式は,項目対(a, b)について

「aにまったく当てはまる」から「bにまったく当ては

まる」までの双極型の7件法。

2) JPTS-C 外向,内向,思考,感情,感覚,直観

の9項目ずつ,計54項目。回答形式はJPTSの文章対

を保持しつつも回答は独立して行う。「まったく当ては

まる」から「まったく当てはまらない」までの単極型

の7件法。

調査協力者は大学生 250 名(男性 70 名,女性 180

名平均年齢19.5歳,SD=1.64)を対象とした。手続き

は1,2 の順で,集団法により実施した。

結果と考察

JPTS-Cの下位尺度のα係数はSが.60とやや低かっ

たが,他は.75-.81の十分な値を示した。

JPTS-C と JPTS の同名尺度との相関はおおむね中

程度から強い程度の正の関連が示され,対極する尺度

との間には中程度から強い程度の負の相関が示された。

Table JPTSとJPTS-Cの下位尺度間相関(N=250)

JPTS

JPTS-C E-I T-F S-N

E 0.75 ** 0.04 0.05

I -0.81 ** -0.13 * -0.06

T -0.01 0.38 ** 0.20 **

F -0.10 -0.53 ** -0.14 *

S 0.00 0.06 0.47 **

N -0.03 -0.25 ** -0.70 **

*p<.01, **p<.05,

JPTS-CのEI間に強い負の相関(r=-.69,p<.001),

SN間に弱い負の相関(r=-.35,p<.001)が認められた

が,TF間は無相関であった(r=-.04, n.s.)。つまり,

EI 間や SN 間において機能的対極性が認められたが,

TF間においては認められなかった。

今回作成したJPTS-Cは,内的整合性による信頼性,

JPTSによる併存的妥当性,EI間およびSN間の機能

的対極性がおおむね確認された。今後の課題として,

JPTS-Cの構成概念妥当性の検討が必要である。

(SATO Junichi)

PB01

― 68 ―

改訂版友人関係における気遣い尺度の作成

―親友満足感、親密さを求めない友人満足感との関連―

○満野史子 1・今城周造 2

(1東京大学先端科学技術研究センター・2昭和女子大学)

キーワード:大学生・友人関係・気遣い・親友満足感・親密さを求めない友人満足感

問題

満野(2015)によれば、気遣いには向社会的気遣いと抑

制的気遣いの 2 因子がある。本研究では、抑制的気遣

いにはさらに 2 側面があり、友人関係や適応への影響

は異なると予測する。また親友関係と親密さを求めな

い友人関係では、満足感の内容も異なるであろう。本

研究では、改訂版気遣い尺度と 2 種類の友人満足感尺

度を作成し、これらの関連を検討する。

方法

被調査者 都内の大学生259名(男性134名、女性121

名、不明4名、平均年齢20.46歳、標準偏差1.34)。

調査時期 2016年 7月。

変数 (1)友人に対する気遣い尺度(満野,2015)の25項

目(7件法)に、21項目を追加した 46項目。(2)親友満足

感尺度の15項目(項目例「本音で話すことができる」,7

件法)。(3)親密さを求めない友人満足感尺度の 17項目

(項目例「割り切った付き合いができる」,7 件法)。(3)

ストレス反応尺度(尾関ら,1994)の 35項目4件法。

手続き 授業時間内に配布、集団実施後、回収した。

結果と考察

気遣い尺度の確認的因子分析を行った。その結果、I

向社会的気遣い(8 項目)と II 尊重気遣い(10 項目)、III

我慢気遣い(13項目)の3因子構造が確認された(Table 1)。

親友満足感尺度と親密さを求めない友人関係満足感

尺度は、それぞれα=.95, .91と高い内的一貫性が得られ

たため、1因子構造として合計得点を算出した。

気遣いが、2種類の友人満足感、ストレス反応に影響

するというモデルについて、多母集団同時分析(完全情

報最尤推定法)を用いて検証を行った(Figure 1)。向社会

的気遣いは、親友満足感に正の影響を与えていた(それ

ぞれ.41,.52)。男性において、尊重気遣いは親密さを求

めない友人満足感に、我慢気遣いはストレス反応に正

の影響を与えていた(.29, .30)。女性では、有意なパスは

I II III

18 友人が困っているようだったので、手を貸す .81

13 友人が困っているようだったので、助言をする .80

17 友人が悩んでいるようだったので、相談に乗る .80

11 友人が何かいつもと様子が違ったので、声をかける .78

3 友人が落ち込んでいるようだったので、励ます .78

1 友人が悩んでいるようだったので、話を聞く .74

14 友人が具合悪そうな時、介抱してあげる .72

15 友人がよく喋るときは、よくうなずいてあげる .68

25 友人に対して言いたいことがある時、友人が気分を害しそうならば言わないでおく .78

26 友人がたいしたことないことで自慢していても、感心してあげる .73

24 友人と話している時、友人を否定したくなっても言わないでおく .72

23 友人が同意を求めているようだったら、本心でなくても同意してあげる .72

30 友人の好みを理解できなくても、とりあえず「いいね」と言っておく .71

38 興味のない話題をふられても、興味のある振りをする .64

35 友人が傷つくであろう本当のことは言わないでおく .64

34 友人の失敗や不祥事を知っても、本人の前では知らない振りをする .63

21 友人が言われたくなさそうなことは、言わないでおく .62

12 友人の好きなものに興味がなくても、興味がなさそうな態度はとらないでおく .60

33 友人から理不尽なことを言われて気分を害しても、言い返さないでおく .83

32 自分が傷つくようなひどいことを友人から言われても、我慢する .80

36 友人から聞き捨てならないことを言われても、我慢して黙っている .79

43 友人から苦情を言われた時、こちらにも言い分があっても、我慢する .79

41 友人から不愉快な態度をとられても、我慢する .75

22 友人と意見が合わない時、何も言わないで我慢する .75

46自分とは異なる意見を友人から言われた時、自分にとって重要なことでも、反論はやめておく

.73

45 友人の愚痴を聞かされて、「友人の方が悪い」と思っても、指摘するのはやめておく .71

40 友人が好きなものを、自分は好きではなくても、無理に好きと言って話を合わせる .69

4 友人から約束を破られた時、腹は立つが、文句は言わないでおく .68

27 友人と言い争いになりそうならば、自分の意見を主張しないことにする .67

10 自分が好きなことを友人から否定された時、不愉快だが、言い返さないでおく .67

2 友人から思いやりのない言葉をかけられた時、言い返そうと思っても我慢する .64

因子間相関 I II III

I - .52 .27

II - .86

Table 1 改訂版友人関係における気遣い尺度の確認的因子分析結果(標準化推定値)

χ2=1135.99, df = 431, p < .001, CFI=.861, RMSEA=.080

みられなかった。男性において抑制的気遣いは、相手

を尊重し、親密さを求めない友人関係が促進される尊

重気遣いと、本音を我慢してしまい、ストレスが生じ

る我慢気遣いに区別されることが示された。

Figure 1. 採択されたモデルのパス係数

χ2=9.28, df = 10, ns , CFI=1.00, RMSEA=.00(上段が男性、下段が女性)

尊重気遣い

向社会的気遣い

我慢気遣い

親友満足感

ストレス反応

親密さを求めない

友人満足感

e1

e3

e2

.41***

.52***

R2=.17

R2=.27

R2=.19

R2=.05

R2=.09

R2=.00

.21*

.15

.29**

.12.30***

.01

.27***

.17

-.10***

-.15

-.14***

-.30**

.86***

.75***

.51***

.34***

.34***

.14

引用文献

満野史子 (2015). 大学生の友人関係における気遣いの研究-

向社会的・抑制的気遣いの規定因と影響- 風間書房

尾関友佳子・原口雅浩・津田彰 (1994). 大学生の心理的ス

トレス過程の共分散構造分析 健康心理学研究, 7, 20-36.

(MITSUNO Fumiko, IMAJO Shuzo)

PB02

― 69 ―

現代青年の友人関係尺度英語版作成の試み(2)

―成人年代との比較―

○岡田努

(金沢大学 人間社会研究域)

キーワード:現代青年・友人関係・年代比較

問題

岡田(2011)は現代の日本の青年が対人関係で相互に傷

つけ合うことを恐れ,対立を回避することで自尊感情を

維持するプロセスを見いだした。また岡田(2005)は現代

の日本の青年の友人関係に関して,自己閉鎖,軽躁的関

係,侵入回避,傷つけられることの回避の4つの下位尺

度からなる尺度を作成した。しかしこうした特徴が青年

期に特有のものであるかについて,他の年代との比較検

討は十分ではない。また日本以外,とくに欧米社会にお

いても認められる特徴であるかについても検証されてき

ていない。本研究はそうした点について探索的な検討を

行うものである。

方法

アメリカ合衆国のうちCalifornia ,Georgia, Michiganの

各州に在住者に対するインターネットによるモニター調

査を実施した。州ごとにU.S.Census Bureau, 2011- 2015 American Communiti Survey 5year estimatesによる

ランダムサンプリングデータに準拠して年代(18-24歳,

25-29歳,30-39歳)と性別についての割当を行った。極

端に長い乃至は短い回答時間の者,ストレートライン回

答の者を除外した結果,有効回答数は934名であった。 [調査時期]日本時間2017年3月2日18:00~7日14:00。 [属性項目]性別およびACSに準拠した年代区分を用いた。 [尺度項目]岡田(2005)が作成した現代青年の友人関係に

関する尺度項目(自己閉鎖,軽躁的関係,侵入回避,傷

つけられることの回避の下位尺度から成る)を英訳した。

英訳に際して一部項目の表現を変更した上で,ふだん同

性の友人とどのような付き合い方をし,どのような感じ

方をしているかを尋ねた。質問は,性別の質問でManま

たはWomanと回答した者に対してのみ提示された。評

定は Strongly Agree(1点)からStrongly Disagree (5点)の5段階および Don't Know(欠損値)であった。 なお本研究は他の課題も含めたプロジェクト研究の一

環であるが,他の変数については今回は報告しない。

結果と考察

青年年代と他の年代との比較のために,岡田(日心,

2017)による18-24歳データでの探索的因子分析の結果

(「円滑な関係指向」「距離を置いた関係指向」「否定的評

価の回避」の3因子)に基づいて全年代での確認的因子

分析を行った。その結果CFIは.766で十分とは言えなか

ったがRMSEAは.045で適合していた。次に,各因子の性

別×年代による群間の平均構造の差について多母集団同

時分析を行った。その結果,男性は年代差がなく,女性

は「距離を置いた関係指向」の全年代と,26-29歳の「円

滑な関係指向」で男性とは異なるとするモデルがAIC

=4542.679,BCC=4650.517で最も適合度が良好であった。

Table 1に見られるように,全体として観測値の平均は3

点よりAgree寄りで,特に「円滑な関係指向」で顕著で

あった。また平均構造では女性の方が友人と距離を置く

傾向が低い(正方向がDisagreeを示す)こと,年代間での

目立った差異は特に男性では見られないことが見出され

た。今後日本人との比較など検討を進める必要がある。

Table 1 各因子についての各群の平均構造(観測値)

円滑な関係指向(10 項目)

距離を置いた 関係指向(10 項目)

否定的評価回避

(5 項目) 1 male 18-24 n=160 0(2.09) 0(2.65) 0(2.54) 2 male 25-29 n=106 0(2.05) 0(2.57) 0(2.49) 3 male 30-39 n=191 0(1.98) 0(2.60) 0(2.49) 4 female 18-24 n=158 0(2.02) .372**(2.85) 0(2.61) 5 female 25-29 n=103 -.172*(1.99) .372**(2.94) 0(2.71) 6 female 30-39 n=202 0(2.04) .372**(3.09) 0(2.79)

*:p<.05,**:p<.01

付記

本研究は日本心理学会第81回大会において発表されたデータ

に他の年代のデータを加えて新たな分析を行ったものである。ま

た本研究は金沢大学先魁プロジェクト「グローバル時代における

若年世代の価値と規範に関する人間科学」(研究代表者:轟亮)及

び科学研究費基盤研究(B)「計量社会学的方法による若年層の価

値と規範に関する国際比較研究(一般 課題番号 16H03689)」(研究代表者:轟亮)の一部である。

(OKADA Tsutomu)

PB03

― 70 ―

日本語版 IAMI の作成および信頼性・妥当性の検討 ○森田泰介

(東京理科大学理学部第二部) キーワード:無意図的想起,自伝的記憶,信頼性,妥当性

目的

何らかの記憶を思い出そうとする意図がないにもか

かわらず記憶がふと頭に浮かぶという現象は無意図的

想起と呼ばれる(小谷津・鈴木・大村,1992)。Berntsen, Rubin, & Salgado(2015)は日常場面における自伝的記

憶の無意図的想起の経験頻度を,未来事象に関する無

意図的思考の経験頻度とともに測定することができる

尺 度 ( Involuntary Autobiographical Memory Inventory: IAMI)を開発している。この尺度は日常場

面における無意図的な過去の記憶の想起や未来事象の

思考の個人差を効率よく測定することができる点で日

誌法や実験室実験とは異なる有用性を備えたものであ

ることから,その日本語版が作成されることにより,

本邦の無意図的想起やそれに関わる研究が促進される

ことが期待できる。そこで,本研究では日本語版 IAMIの作成および信頼性・妥当性の検討を行う。

方法

調査対象者 成人 1107 名(男性 554 名,女性 553

名,年齢の平均45歳,標準偏差15歳)であった。 調査内容 (1)日本語版 IAMI:Berntsen et al.(2015)による原版項目を原著者の許可を得た後に日

本語に翻訳し,バックトランスレーションを実施して

日本語版 IAMI(20 項目)を作成した。各項目に示さ

れた無意図的な想起・思考経験がどの程度起こるのか

について"0: 全くない"から"4:1時間あたり1回かそ

れ以上"の 5 件法で回答するよう求めた。(2)日本語

版 DDFS:梶村・野村(2016)による日本語版 DDFS(Daydream Frequency Scale)12項目に5 件法で回答

するよう求めた。(3)シロクマ抑制質問票(White Bear Suppression Inventory: WBSI(Clark, 2005 丹野監訳2006)15項目に5件法で回答するよう求めた。 手続き 調査はインターネット調査会社を通じて実

施された。 結果

調査対象者のうち,回答に不備のなかった859名(男

性410名,女性449名,年齢の平均44歳,標準偏差15

歳)からのデータを以降の分析対象とした。

日本語版IAMIの因子構造を検討するため確認的因子

分析を行ったところ,過去記憶因子と未来思考因子の

2因子間に相関があると仮定するモデルの適合度が2

因子間に相関がないと仮定するモデルや1因子を仮定

するモデルよりも高いことが明らかとなった(χ2

=772.44, df=169, p<.01, CFI=.95, RMSEA=.07,

AIC=1094.45)。

日本語版IAMIの信頼性を検討するため,クロンバッ

クのα信頼性係数を算出したところ,過去記憶因子の

α係数は.94,未来思考因子のα係数は.95であった。

また,日本語版IAMIの妥当性を検討するため,IAMI

の得点と他の尺度の得点との相関係数を算出した。そ

の結果,DDFSの得点と過去記憶因子の得点,DDFSの得

点と未来思考因子の得点との間に有意な正の相関が認

められた(それぞれ,r=.69,r=.69)。また,WBSI

の得点と過去記憶因子の得点,WBSIの得点と未来思考

因子の得点との間にも有意な正の相関が認められた

(それぞれ,r=.50,r=.43)。

考察

日本語版IAMIの因子構造を検討した結果,過去記憶

因子と未来思考因子が抽出され,それらの間に相関が

あるとするモデルの適合度が最も高かったという結果

はBerntsenetal.(2015)と同様のものであり,日本語

版IAMI は原版 IAMI と同様の因子構造を有しているこ

とを示唆するものである。また,日本語版IAMIの信頼

性係数の値が高いものであったことから,日本語版

IAMIが高い内的整合性を有するものであることが示さ

れた。さらに,DDFS得点およびWBSI得点と,日本語版

IAMIの下位因子得点との間に有意な正の相関が見られ

たという結果は,Berntsenetal.(2015)と同様のもの

であり,日本語版IAMIの妥当性を示すものであるとい

えるだろう。

(MORITA Taisuke)

PB04

― 71 ―

対人的好奇心の 3 タイプの傾向

―対人好奇心尺度開発の経過報告(3)― ○西川 一二

(京都大学教育学研究科)

キーワード:好奇心,対人的好奇心,属性に対する好奇心,

問題

これまで人への興味の傾向である対人的好奇心の個

人差について研究をしてきた(西川, 2014; Nishikawa et al., 2016)。前回の研究では,大学生を対象に対人的

好奇心にかんする20項目の因子構造を検討した。その

結果,感情(人の感情に対する好奇心)・秘密(人の秘

密に対する好奇心)・属性(人の属性に対する好奇心)

の 3 因子が示された。各因子負荷量の高い項目を 5 項

目ずつ選定し,下位 3 尺度各 5 項目からなる対人的好

奇心尺度を構成した。この下位 3 尺度と他の相関分析

を行った結果,感情尺度の高さは,他者への共感する

傾向や相手の立場になって考える傾向が高くなり,ま

た知的活動における探索傾向や社会的スキルと正に関

連することが示された。秘密尺度の高さは,他者の意

見や態度を影響されやすい傾向や他者の出来事に距離

を置いて自己中心的な考え方をする傾向が高くなり,

また日常生活における新奇性追求傾向や性的な欲求に

駆られる傾向と正の関連が示された。一方で属性尺度

は,感情尺度や秘密尺度の関連した尺度と,同様の関

連の傾向を示したが,属性尺度が一番高い関連を示し

た尺度は,外向性のみでほとんどなった。前回の研究

では,属性因子の特徴や傾向が明確ではなかった。

本研究では,前回の研究で選定した15項目の3因子

構造を確認するために再度調査を行う。また属性因子

および尺度の独自の特徴を示すため,本調査のフェー

ス項目に対人行動にかんする設問を導入し,属性尺度

の対人傾向を明らかにする。対人行動にかんする設問

は,大学入学後に知り合った大学生と連絡先を交換し

た数を問うた。本調査は大学入学 1 週後の大学 1 回生

を対象に行っている。属性因子は,対人的好奇心の中

でも,他者を会話する・交流するなど外向的な対人行

動の傾向が高い事が考えられるため,属性の高い学生

は,積極的に連絡先を交換することが考えられる。

方法

調査対象者、質問紙と分析 2016年4月に関西地方

の大学生1年生204名(男性64名,女性140名,平均

年齢18.92, SD=11.4)を対象に実施した。質問紙には対

人的好奇心に関する15項目(Nishikawa et al., 2016)と

連絡先を交換した(男性・女性)設問を使用した。15

項目の因子構造の確認では,探索的因子分析を行い,

連絡先の交換数との関連では相関分析を行った。 結果と考察

15項目の3因子構造が示されたが属性項目と想定し

た2項目が秘密因子に跨り,負荷量は秘密の方が高か

った。この2項目の対人対象は「周りの人々」「皆」と

不特定多数の対人対象であるため,意味合いが外向的

な交流より覗きや窃視など秘密行動になったと考えた。

2項目を修正し再調査を行う必要がある。連絡先交換数

の相関分析では同性同士で属性尺度のみ関連を示した。

属性には積極的な対人行動傾向がある事を意味する。

引用文献 Nishikawa, K., Yoshizu, J., & Yoshida, K (2016). Three

types of curiosity about people-information: The 31st International

Congress of Psychology Program, 199.(NISHIKAWA Kazuji)

1 2 3 mean SD h²感情(α=.88)

4声から人の感情を探る .827 .036 -.130 4.20 (.87) .635しぐさから、人の気持ちを探ろうとする .820 -.112 .048 3.05 (1.23) .657表情を見て、人の考えていることを詮索する .776 .108 -.009 3.98 (.89) .6711行動を観察して、人の気持ちを知ろうとする .675 .095 .079 3.36 (1.18) .571人をじっと見て、感情を把握しようとする .601 -.090 .117 3.76 (1.07) .39秘密(α =.84)8人の秘密を知りたい -.054 .936 -.079 4.01 (.91) .792人の日記の内容が気になる .033 .822 -.221 3.39 (1.21) .596人のプライベートな部分に興味がある .089 .754 -.040 3.83 (1.02) .6010うわさ好きである -.117 .630 .097 4.05 (.90) .4114異性との交際歴を知りたい -.204 .570 .388 3.57 (1.08) .55属性(α=.75)

3周りの人々がどんな仕事に就いているのか気になる .136 .588 .001 4.20 (.81) .429皆が何に興味を持っているのか気になる .151 .502 .218 4.29 (.82) .4913人がどんな特技を持っているのか知りたい .159 -.136 .743 4.12 (.91) .6012どこの出身地の人なのか聞いてみたい -.067 -.028 .739 3.60 (1.20) .4915人の好みを知りたい .086 .162 .436 3.52 (1.15) .32

因子

Table 1 対人的好奇心の3タイプの因子分析の結果(最尤法, Promax回転, N =378)

感情 秘密 属性

男性64人 男性連絡 .124 .234 .258*

女性連絡 .107 .035 .049女性140人 男性連絡 .049 .022 -.020

女性連絡 .076 .112 .260**

Table 2 対人的好奇心尺度と連絡交換の数の相関

*p <.05, **p <.01           注)連絡先10人以上は,10とした。

PB05

― 72 ―

教職志望学生における自律性支援―統制の有効性認知に関する研究

○岡田 涼

(香川大学教育学部)

キーワード:自律性支援―統制の有効性認知,教職志望学生,自己決定理論

問題

学習意欲の問題について,動機づけ研究の知見が蓄

積されてきた。そのなかで,児童・生徒の動機づけに

対する教師の自律性支援(Deci & Ryan, 1987)の重要性

が明らかにされている。自律性支援とは,学習者の視

点に立ち,学習者自身の選択や自発性を促そうとする

態度や信念であり,ある種の指導観を示すものである。

自律性支援の有効性は,教育心理学の実証研究で示

されてきた。一方,現職教員も自律性支援の有効性を

認知している。岡田(2017)は,「児童・生徒の自律性

を支えるような指導あるいは行動を統制するような指

導が,動機づけにとって効果的であるという認知」を

自律性支援―統制の有効性認知とし,現職教員の特徴

を検討している。項目や尺度の平均値をみると,全体

として教師は自律性支援的な指導が動機づけを高める

うえで有効であると捉えていた。ただし,その高さは

学校種や教職経験年数によって異なっていた。

本研究では,教職志望学生の自律性支援―統制の有

効性認知の特徴について,現職教員との比較,教師効

力感との関連から明らかにすることを目的とする。

方法

対象者 大学生110名(男性48名,女性62名)。

質問紙 ①自律性支援―統制の有効性認知:岡田

(2017)の自律性支援―統制の有効性認知尺度。各指導

行動がどれぐらい児童・生徒の動機づけを高めるのに

有効であると思うかを尋ねた。「1:効果的でない」~

「5:効果的である」の 5 件法。②教師効力感:教師効

力感尺度の日本語版(前原, 1994)を一部修正して用い

た。「1:そう思わない」~「5:そう思う」の 5件法。

結果

自律性支援―統制の有効性認知尺度の検討 各項目

について,現職教員の平均値(岡田, 2017)と比較した。

自律性支援について,「4.授業の内容や課題について,

なぜそれを学ぶのかを児童や生徒に説明する」

(d=−0.42),「10.授業中に,自分で決めたり,選んだ

りする機会を児童や生徒にもたせる」(d=−0.41)で教

職志望学生の方が有意に低かった。「7.自分で説明す

るよりも,児童や生徒に考えさせる」では教職志望学

生の方が有意に高かった(d=0.30)。統制については,

「8.授業中,「勉強しなければいけない」という雰囲気

を作る」(d=−0.84)では教職志望学生の方が有意に低

かった。「12.「今おしゃべりの時間ですか」のように,

質問のかたちで児童や生徒に指示をだす」(d=0.43),

「14.毎授業ごとに,やるべき宿題や課題を与える」

(d=0.31)では教職志望学生の方が有意に高かった。

教師効力感との関連 自律性支援―統制の有効性認

知に対して,教師効力感の 2 下位尺度を説明変数とす

る重回帰分析を行った。自律性支援の有効性認知に対

しては,教師の力量が有意な関連を示した(β=.32,

p<.01)。統制の有効性認知に対しては,個人的効力感

が有意な関連を示した(β=.37, p<.01)。

考察

教職志望学生は,自律性の有効性を認知しながらも,

現職教員とは異なる捉え方をしていた。学生の自律性

支援の有効性認知の特徴を把握したうえで,教員養成

を進める必要がある。

引用文献

Deci, E. L., & Ryan, R. M. (1987). The support of autonomy

and the control of behavior. Journal of Personality and

Social Psychology, 53, 1024-1037.

前原武子 (1994). 教師の効力感と教師モラール,教師

ストレス 琉球大学教育学部紀要, 44, 333-342.

岡田 涼 (2017). 教師の自律性支援―統制の有効性認

知に関する研究―学校種,教職経験年数,教師効力

感との関連から 香川大学教育実践総合研究

(OKADA Ryo)

PB06

― 73 ―

二分法的思考の認知的特徴の検討

○三枝 高大 1・石川遥至 1・阿部哲理 1・越川房子 2・小塩真司 2 (1早稲田大学大学院文学研究科)・(2早稲田大学文学学術院)

キーワード:二分法的思考,批判的思考態度,マインドフルネス,認知的完結欲求,没入傾向

問題

物事を 0/1,善/悪,白/黒のように二分法的に分類し

捉える思考は日常生活に遍く見られる(Dawkins, 1993,

2004)。分類することは,無秩序を規格化し,無秩序へ

の恐怖を緩和する適応的な働きとされる(eg., Agamben,

1998; Humphrey, 2002)。一方で,二分法による物事の捉

え方が,道徳・社会問題の不正確な把握と不適切な評

価・判断につながっていることが指摘されている(eg.,

Shermer, 2015; van Deemer, 2012)。しかし,これらの指

摘は論証による推測,理論的示唆にとどまる。本研究

では,二分法的思考と秩序への志向性,判断の適切さ,

分類の対象といった認知的特徴との関連,分類を志向

することの適応さを検討することで,二分法的思考の

認知的特徴の詳細を明らかにするとともに,先行研究

での理論的示唆に対する定量的知見を得る。 方法

調査対象者 大学生321名(女性197名),平均年齢19.3

(SD = 1.2)歳。 尺度 二分法的思考尺度(Oshio, 2009)。二分法の選好,

二分法的信念,損得思考の 3下位尺度。15項目,6件

法。認知的特徴に関する尺度として以下の 4 尺度を使

用した。批判的思考態度尺度 (平山・楠見, 2004)。論理

的思考への自覚,探究心,客観性,証拠の重視の 4 下

位尺度。33項目,5件法。6因子マインドフルネス尺度

(前川・越川, 2015) 31項目,5件法。認知的完結欲求尺

度(鈴木・桜井, 2003)。決断性,秩序に対する選好,予

測可能性に対する選好の 3下位尺度。20項目,6件法。

没入尺度 (坂本, 1997)。自己没入,外的没入の 2下位尺

度。19 項目,5 件法。なお,本研究は日本健康心理学

会第30回大会での著者の発表と一部同一のデータを使

用している。

結果と考察

二分法的思考各要素間の関連を統制するため,二分

法的思考各下位尺度を独立変数とし,認知的特徴に関

する各変数を従属変数とした重回帰分析を行った。そ

の結果,論理的思考への自覚,客観性を除くすべての

従属変数に有意な関連及び有意な決定係数が確認され

た(R2 s= .04 to .10; ps < .01)。結果をTable. 1 に示す。

二分法的思考と批判的思考態度,マインドフルネス,

認知的完結欲求,没入傾向との関連から,その認知的

特徴が明らかになった。批判的思考態度に対して,証

拠の重視に正の関連がある側面がある一方で,探究心

に負の関連がある側面があった。同時に論理的思考,

客観性には関連がないことから,二分法的思考は正確

な判断を志向するものではない可能性がある。マイン

ドフルネスと二分法の選好に正の関連があった。この

ことは,分類志向の無秩序への恐怖の緩和という適応

的働きをあらわしているのかもしれない。認知的完結

欲求に対しては,決断性や秩序,予測可能性の選好に

正の関連があり,無秩序な状況を好まない。しかし,

決断性と損得思考には負の関連があり,無秩序な状況

に対して常に分類するわけではないことが伺える。没

入傾向について,二分法的思考各下位側面と自己没入,

外的没入に概ね関連があった。損得思考は自己・外的

没入の両面と関わる。しかし,二分法の選好との関連

から,分類志向は主に自己ではなく,外の出来事に向

かうものと考えられる。そして,二分法的信念と外的

没入の負の関連から,対象の分類がなされていないと

捉えることが外への没入に関係することが示唆された。

(MIEDA Takahiro, ISHIKAWA Haruyuki, ABE Tetsuri, KOSHIKAWA Fusako, OSHIO Atsushi)

Table. 1 認知的特徴を従属変数とした重回帰分析の結果

��!4/ .04 .10 .08 -.09 .21 ** -.01 .23 ** .23 ** -.17 * .15 *��!%�� .02 -.20 ** .06 .12 .09 .03 .08 .05 .01 -.16 *���( -.05 -.08 -.03 .20 ** -.13 .22 ** -.18 * .08 .29 ** .17 *R2 .00 .04 ** .01 * .05 ** .04 ** .05 ** .05 ** .10 ** .05 ** .06 **

** p < .01, * p < .05. �5�#����

����31.$%

�(�'� �,�

-�4

0+

<7>9

;=:8

&�6

4/ ��� *� ��% �

�"

)�

PB07

― 74 ―

完全主義と選択的注意における定位・解放困難バイアスとの関連

―修正ドット・プローブ課題を用いて―

○坪田祐基

(愛知学泉大学)

キーワード:完全主義・選択的注意・修正ドット・プローブ課題

問題

完全主義者は成功や失敗に対して選択的注意バイア

スを有することが知られている (坪田・石井・野口,

2016; 坪田・石井, 2017)。しかし,これまでの研究で用

いられている課題は,注意における定位過程 (対象に

注意を向ける過程)と解放過程 (対象から注意をそらす

過程)を弁別して測定することができない。そのため,

完全主義者は成功や失敗に注意を向けやすい (定位バ

イアス)のか,そこから注意をそらすことができない

(解放困難バイアス)のかが判然としない。そこで,本研

究では,近年Rudaizky et al. (2014)によって提案された

修正ドット・プローブ課題を用い,成功・失敗関連語

に対する定位バイアスと解放困難バイアスを弁別して

測定し,完全主義との関連を検討する。

方法

実験参加者 大学生64名 (男性 25名,女性 39名)

質問紙 MSPS (桜井・大谷, 1997)の「DP (完全性欲

求)」・「高目標設定 (PS)」・「失敗懸念 (CM)」・「行

動疑念 (D)」

選択的注意 修正ドット・プローブ課題 (Figure 1)

を用いて測定した。この課題では,実験参加者は画面

に出てくる手がかり刺激 (赤色の線分の縦横)を記憶し,

その後に呈示される標的刺激と一致しているかどうか

を判断した。刺激語には,成功関連語 (e.g.,正解),失敗

関連語 (e.g., 不備),中性語 (e.g., 空気),無意味つづり

(e.g.,ヌヨ)の 4 種類が用いられ,有意味語 (成功・失敗

関連語,中性語)と無意味つづりが対呈示された。注視

枠と反対の位置に有意味語が呈示される定位条件と,

同じ位置に呈示される解放条件があった。計 192 試行

の反応時間が計測された。

結果

定位バイアス得点,ならびに解放困難バイアス得点

を算出し,質問紙で測定した完全主義パーソナリティ

との相関係数行列を全体・男性・女性それぞれについ

てTable 1に示した。

考察

全体のデータで関連が見られたが,弱いものであっ

たこと,男性でのみ関連が見られ,女性では関連が見

られなかったことは,坪田・石井 (2017)の結果と一致

していた。さらに,男性の完全主義者は,成功関連語

に対しては定位バイアス,失敗関連語に対しては解放

困難バイアスを示していたため,成功と失敗に対して,

異なるプロセスで選択的注意を行うことが示唆された。

(TSUBOTA Yuki)

定位 解放困難 定位 解放困難DP .02 -.13 .08 -.04

PS -.09 -.04 .03 .00

CM .05 -.04 .05 .10

D .29* -.03 .22 -.15

DP .07 -.12 .04 .08

PS -.13 .06 -.02 .35*

CM -.10 .04 .05 .30

D .41* .01 .26 -.01

DP .02 -.24 .08 -.13

PS -.06 -.14 .09 -.23

CM .19 -.17 .05 -.05

D .24 -.08 .20 -.21

* p < .05

全体

(N =64)

男性

(N =25)

女性

(N =39)

Table 1 定位・解放困難バイアスと完全主義との相関成功 失敗

PB08

― 75 ―

認知の柔軟性及び省察と自己複雑性との関連

○遠藤徳美 1・田中圭介 2・安保英勇 1

( 1東北大学大学院教育学研究科・2上越教育大学大学院学校教育研究科)

キーワード:自己複雑性, 省察, 認知の柔軟性, ネガティブ感情

問題

自己複雑性とは,自己知識の構造を意味する概念で,

自己を表す“側面の数”と,それらの“分化の程度”

の二つの要素から捉えられる。Linville(1987)は,

自分自身を様々な異なる側面から捉えることができ,

かつ各側面が分化されていれば,否定的な出来事に遭

遇し,特定の自己側面に関わる領域でストレスが発生

した際にも,そこで生じたストレスが他の自己側面に

まで影響を及ぼさないため,結果としてネガティブ感

情を和らげることができると主張する。つまり,多様

な自己側面を有することはストレスへの耐性につなが

るのである。本研究では健康的な自己複雑性を促す要

因を明らかにすることを目的とし,その要因として適

応的な変化に必要な思考や態度の柔軟性を指す“認知

の柔軟性”と自己に関心を向ける傾向を指す“省察”

に着目する。自己側面を柔軟に想起したり,自己理解

をしたりすることができれば,自己複雑性が適応的に

働くことが予測される。これらの関連が示されれば,

ネガティブ感情の予防的アプローチを検討するための

一助となるだろう。

方法

調査対象者 大学生,大学院生 108 名(男性 30 名,

女性69名,性別不明9名)。

調査時期 2016年7月上旬と9月上旬に実施した。調

査票は授業終了後に配布し,その場で回収した。

尺度 ①自己複雑性:特性語分類課題により回答者に

自分の側面を記入し,各側面に当てはまる特徴を特性

形容詞リスト(林・堀内,1997)の中から選ぶように

求めた。Rafaeli-Mor et al. (1999) を参考に,側面数と

未分化度を算出した。②認知の柔軟性尺度(CFI-J;徳

吉・岩崎,2012)CFI-Jは統制不能と省察の2因子か

ら構成される。③省察:RRQ日本語版尺度(高野・丹

野,2008)より省察(12 項目)。④ネガティブ感情:

日本語版 PANAS(川人他,2012)よりネガティブ情

動(10項目)。

結果

ネガティブ情動を従属変数とした 2 要因分散分析を

行い,自己複雑性(側面数,未分化度)と認知の柔軟

性及び省察との交互作用を検討した。その結果,統制

不能と側面数を独立変数とした場合に,統制不能×側

面数の交互作用(F (1, 87) = 4.0, p < .05)が有意であ

った。下位検定の結果,側面数が少ない場合にも多い

場合にも,統制不能高群は統制不能低群よりも有意に

ネガティブ感情の得点が高かった。統制不能が高い人

においては,側面数低群は側面数高群よりもネガティ

ブ感情の得点が高い傾向にあった。

考察

統制不能と側面数の交互作用から,健康的な自己像

を持つためには統制が必要であるが,統制が低い場合

にも,自己側面が多いと心理的健康が維持されること

が示唆された。以上の結果から,統制困難なストレッ

サー下において自己複雑性は有効に働く可能性が考え

られる。

主要引用文献

林 文俊・堀内 孝 (1997). 自己認知の複雑性に関す

る研究―Linville の指標をめぐって― 心理学研

究, 67, 452-457.

Linville, P.W. (1987). Self-complexity as cognitive

buffer against stress-related illness and

depression. Journal of Personality and Social

Psychology, 52, 663-676.

Rafaeli-Mor, E., Gotlib, I. H., & Revelle, W. (1999).

The meaning and measurement of

self-complexity Personality and Individual

Differences, 27, 341-356.

(ENDO Narumi・TANAKA Keisuke・AMBO Hideo)

PB09

― 76 ―

CT 検査とその放射線への態度に関する性差と年齢差

○富髙智成 1・山本晃輔 2・猪股健太郎 3・石垣陸太 1

(1京都医療科学大学・2大阪産業大学・3関西学院大学) キーワード:リスク認知・医療・放射線・性差・年齢差

問題

放射線に対して胎児や子供が大人よりも感受性が高

いことが知られている。そのため,CT検査などの放射

線を用いる検査において,比較的若年の女性が医療被

ばくに対する不安を訴えるケースが多いとされてきた。

また,一般的なリスクに関しては,若年者よりも高齢

者の方が,男性よりも女性の方がリスクを大きく評価

する傾向がある(Flynn et al., 1994; 中谷内 2012)。このよ

うにリスクの感じ方は性別や年齢より異なることが言

及されており,医療関係者はそれに応じた対応が必要

である。そこで本研究では,CT検査に対するリスク認

知が性別や年齢でどのように異なるかを検討した。

方法

被調査者 関西の私大生 496 名と検診受診者 497 名

であった。調査時期 大学生は2013年5月,受診者は

2014年5~7月に実施した。質問紙 松井(2003)の項目

の一部を書き換えた 18 項目と富髙ら(2013)で作成され

た 31 項目,計 49 項目の CT 検査に対する態度を調査

するものであった。これらに“1.そう思わない”~“5.そ

う思う”の5段階での回答を求めた。この質問紙は富髙

ら(2016)において,CT 検査に対する「不安」,「情報提

供の要望」,「無知」,「肯定的意見」の 4 つの下位尺度

で構成されることが示されている。分析 回答に不備

のない 819 名(平均年齢:34.63 歳,SD=18.38;CT 検

査経験回数の平均:1.53回,SD=2.62)を性別(男性・

女性)と年齢(40歳以下・41歳以上)に応じ4群に分

け(性別:男性・40歳以下251名,女性40歳以下238

名,男性41歳以上279名,女性41歳以上51名)比較

した(有効回答率 85.30%)。比較は各因子得点に対し

て2要因分散分析を用いて行われた。

結果

各群の因子得点の平均値はTable 1の通りである.分

析の結果,不安因子では年齢と性別において主効果が

みられた(F(1,815)=7.03, p<.01; F(1,815)=8.69, p<.005)。要

望因子では年齢×性別の交互作用と性別の主効果がみ

られた(F(1,815)=11.63, p<.001; F(1,815)=8.47, p<.005)。無

知因子では年齢と性別において主効果がみられた

(F(1,815)=73.92, p<.001; F(1,815)=11.79, p<.001)。 肯定因

子では年齢と性別において主効果がみられた

(F(1,815)=92.15, p<.001; F(1,815)=4.58, p<.05)。要望因子

の交互作用に関して単純主効果の検定を行ったところ

(Figure 1),男性では 40歳以下よりも 41歳以上の方が

低く,41歳以上において女性よりも男性の方が低かっ

た(F(1,815)=10.32, p<.005; F(1,815)=19.97, p<.001)。

考察

41歳以上の男性は検査情報の提供の要望が相対的に

少ないことが示された。年配の男性と医療放射線に関

するリスクコミュニケーションをとるのであれば,説

明を手短に収めるなどの工夫が必要と考えられる。

(TOMITAKA Tomonari, YAMAMOTO Kohsuke,

INOMATA Kentaro, ISHIGAKI Rikuta)

40歳以下 41歳以上 40歳以下 41歳以上

不安因子 .08 (1.01) -.25 (.86) .19 (.85) .10 (.77)要望因子 .13 (.94) -.23 (.90) .09 (.88) .27 (.82)無知因子 .25 (.80) -.52 (.98) .37 (.67) -.13 (.77)肯定因子 -.21 (.82) .44 (.79) -.36 (.71) .30 (.61)

男性 女性

Table 1 各群の因子得点の平均値 ( )内はSD

-0.3

-0.2

-0.1

0

0.1

0.2

0.3

男性 女性

40歳以下

41歳以上

****

***

Figure 1 要望因子の因子得点の平均値における交互作用

PB10

― 77 ―

先延ばしに対する介入の検討

―認知機能の測定を元にした介入の事例― ○吉田恵理

(聖心女子大学文学部心理学科)

キーワード:先延ばし,能動的先延ばし,エフォートフル・コントロール,プランニング

問題

先延ばしは抑うつ傾向や不安と関連が多く検討され

ている一方で,近年ではChu & Choi(2005)の提唱した,

課題の達成を促進する「能動的先延ばし(active procrastination)」など先延ばしの持つ適応的な側面を

強調している立場の研究もなされている。吉田(2016)では能動的先延ばしに先行する認知プロセスとしてエ

フォートフル・コントロール(以下EC)が重要な役割を

果たしていることが示唆された。

また,先延ばしが一般的に悪癖とされる理由として,

し忘れ等の認知的なエラーや個人の能力の低さと結び

つけられていることが考えられる。展望的記憶と先延

ばし傾向の関連の検討では,先延ばしの背景には展望

的記憶の失敗が関連している場合と,展望的記憶の高

さと課題に対する不安や失敗を恐れる傾向が強い場合

の両方が関連していることが示された(吉田,2016)。つまり,先延ばしに関連する問題へのアプローチとし

ては,し忘れやだらしなさと先延ばし行動を結びつけ

て先延ばし行動の単純な頻度の低減を促すだけでなく,

個人の持つ認知機能やパーソナリティ特性を元に介入

方法を変えることの必要性が明らかになった。

以上の知見をもとに,先延ばし行動や意欲低下を主

訴として医療機関に来談したクライエントに対して介

入を行った。

方法

対象者と方法 大学生1名(24歳,男性)を対象とした。

初回面接時,梅田・小谷津(1994)を参考に,面接開始

時にあらかじめ対象者に退室時に返すように言って番

号札を渡し,自発的に想起して要求に従うかどうかを

観察した。

また,山形・高橋・繁舛・大野・木島(2005)が作成

した EC 尺度日本語版への回答を求めた。予診時およ

び,およそ 2 か月後にうつのスクリーニングである

CES-Dテストを施行した。 結果

EC 得点は吉田(2014)で検討した際の高群に該当し

た。また,番号札を自発的に返却したことや,物忘れ

は多くない,むしろ嫌なことまでずっと覚えている等

の本人の訴えから判断し,展望的記憶の失敗により先

延ばし行動が行われているわけではないことが示され

た。実験および EC の高さより,面接の目的や治療目

標を従来の先延ばし行動の抑制および早めに取り組む

習慣づけから,今できていることを焦点に内省を促す,

先延ばしした時の状況をポジティブに意味づけし直す

等否定的な自己認知を緩和させるアプローチへ変更し

た。4回面接を行ったところ,主観的な自責感や不安,

抑うつ感は緩和されたことが報告された。また,書類

の作成やテスト勉強等の課題の着手に対する不安感や

億劫感もやや低減したという報告が得られた。予診時

に48/60点であったCES-Dの得点は25/60点まで減少

した。

考察

研究で得られた知見を元に,実際の臨床場面で先延

ばしに対する介入方法を検討し,認知療法的アプロー

チによる介入を行った結果,一般的に先延ばしの低減

を目的に使われる方略である ToDo リスト作成等より

も効果的に先延ばし行動を抑制するとともに,先延ば

しに伴う不安や抑うつの低減につながることが示唆さ

れた。今後はクライエントに対して能動的先延ばしに

ついての情報提供を行い,自己許容を進め先延ばしを

適応的に使用する方略を示唆することが好ましいと考

えられる。

引用文献

吉田恵理(2016).自己制御能力が先延ばし行動に及ぼ

す影響聖心女子大学大学院論集,38(2),33-51. (YOSHIDA Eri)

PB11

― 78 ―

議論の中で人はどのような変化を見せるのか

―模擬裁判員裁判・評議のテキスト分析から―

○若林宏輔

(立命館大学)

キーワード: パーソナリティの一貫性、人称、対話的自己、議論

問題

パーソナリティ特性論に対し、Michel(1968)は、人間の行

動(またそこから推察される特性)には通状況的な一貫性は

なく、人間は状況に応じて行動をする「状況論」の立場から

批判を行った。同批判は、1)パーソナリティ特性自体の有

無、また2)パーソナリティの経時的・通状況的一貫性の議

論を生み出した。この状況論の流れを組む研究としては「ナ

ラティブによるパーソナリティ理解」がある。とくにライフ

ストーリー(LS)研究は、個人が語ることによって形成する

個人んパーソナリティの「変化」を記述するアプローチとさ

れる。これはパーソナリティがその人自身による生活史の構

成の仕方によって定義され得るという考えに基づく

(McAdams, 1993)。

ここに渡邉・佐藤(1993)のパーソナリティの人称的視点

の考えを導入すれば、LS研究は基本的に一人称的視点の「私

の個性」の語りを扱うものである。この意味で LS 研究はあ

くまで研究の対象として、個人に特定の経験を「語らせる」。

これは面接という研究者視点の「問い」に端を発し、対象者

の「回答」という形式のコミュニケーションの中で基本的に

は生み出されている。

対話的自己理論(Hermansら,2014)は、語りを通した複

数視点(I positions)の存在を示し、同視点が他者との対話の

中で、相手の考えや視点が自己に編み込まれ、新たな視点・

自己が導出される変容のプロセスの存在を指摘している。よ

って自然な自己/パーソナリティの変化を捉えるためには、

1)調査者が関心を寄せるトピックについて対象者に尋ねる

のではない自然な対話状況において、2)他者と特定のトピ

ックについて相互作用する場面を観察し、対象への意見や価

値観の変化を捉えることが望ましい。よって本報告は、自然

状況の発話として裁判員裁判評議場面を分析し、他者との相

互作用の中での個人の変容を捉えることを目的とした。

方法

対象者 某地方裁判所で行われた模擬判員裁判に参加した6

名の市民であった(男性3名、女性3名)。

手続き 市民6名に加え裁判官3名が評議に参加した。評議

の前に通常の刑事裁判手続きが行われ、対象者は同裁判に参

加したのち、同事件を議論して有罪無罪と量刑を判断した。

事件概要 強姦致傷事件であった。

分析方法 各市民6人の発話を抽出し内容の変遷を特定した。

各発言の主語や参照の対象を分析し、その構成を調べた。

結果と考察

裁判員1番は「暴行の程度」を評議前半と後半で自らの視

点を「被害者」から「被告人」へと変えながら語った(表1)。

��� 5� *9 :|�~��

EEJ �) =��|�~oxA�%|�~ox&s|�lSiaN.�O 1

EGI �) '��TtkN��)�!��_�lS[kN%}Bq^�d|�ZhO 4�.

EGK �) �iYlZO

EHD �) `gj_ua{O

ELI �) x_N���('� ����� ����j-UfySu_dnN�oV9/

ShnOxgj�2m�@N"��!~ghSd�e�TWNc�jxNc�i

<wdoe�TWljWO

4�.

FDH �) eW|NcojYmN+%#�*���vdSmN�X�ix��a~jST�

�oxjmN\�]i%gdoe�TWNkTl�e�TWO

$���4

FDJ �) ^�dW|Nc]i%gdj8ghuanO

FDL �)

�^�doi6ghz�j�gdvdSm#Shua{nO

$��C4

HLH �) eW|N������&�� ���"$�� ���0�/� O 4 �

HLJ �) nUO���,� �ia{nOeW|Nc]ia{O 4 �

IDK �) eW|ghO

IED �) eW|N��(Uh~ojST'Xa~�ia{OeW|Nxgj�m�m+;

a~jST]jxiYdpbe_N�^�o��7m+;a~]jxN1i

8ghd[kNS��l>�0XRgdomNc���?_lZh��6gh_

ughS~�[eW|N��(Uh~ojST'Xk]WmR~�`ylSW

lN1o�mO.� ���������-���OSgrSSgrSeg

dop�W~[kO

1

3�M4 �oP"2o,�Q��~5��)o*8

裁判の評議という文化的に限定された場において、市民は

それぞれが「各当事者」の視点、「性差」の視点、「検察官」「弁

護士」の視点を主体として発話内に取り込み、自らの意見を

再構成した。本報告はこの微小なパーソナリティ変化と、そ

の蓄積による経時的変化の可能性について議論する。

引用文献

Hermans H. J. M. & Gieser, T (2014). Handbook of Dialogical Self

Theory :Cambridge University Press

Mischel, W. (1968). Personality and assessment. New York: Wiley.

McAdams, D. P.(1993). The stories we live by : Personal myths and

the making of the self. London: The Guilford Press.

渡邊芳之・佐藤達哉(1993).パーソナリティの一貫性をめぐ

る「視点」と「時間」の問題.心理学評論,36,226―243.

(WAKABAYASHI Kosuke)

PB12

― 79 ―

睡眠の不調と Big Five Personality Traits の関連についての予備的研究

―高校生,大学生,高齢者の不眠と悪夢症状の比較 ―

○松田 英子 1・岡田 斉 2

(1東洋大学社会学部・2文教大学人間科学部)

キーワード:Big Five,不眠,悪夢,発達差

問題

人格と睡眠の不調に関する研究では,神経症傾向と入眠困難,

短時間睡眠,夢や悪夢の想起頻度との関連が指摘されてきた。

Big Five を用いた研究は,ドイツ人大学生を対象に夢想起頻度

と開放性の相関を見出したSchredl et al.(2003)や日本人大学生

の夢想起頻度を情動別に Big Five とストレスから検証した鈴

木・松田(2012)など僅かである。一方,睡眠構造は加齢の影

響により,思春期以降ノンレム睡眠段階 3,4が減り,80歳以降

レム睡眠が減るなど睡眠時間は短縮するが,不眠症状は青年期

や中高年が高い。また,夢想起頻度は成人期初期から男女とも

加齢に伴い減少し(Funkhouser, et al., 1999),高齢期になると

夢の中の情動的要素が減る(Waterman,1991)のが一般的である。

本研究は日本人の高校生,大学生,高齢者を対象に,睡眠の不

調を比較し,Big Fiveとの関連性を検討することを目的とする。

方法

1)調査協力者と調査時期 関東の公立高校生179名(男50名,女

129名;平均年齢16.55±.61歳),関東の私立大学生426名(男

性112人,女性311人,不明3人;平均年齢=18.97±1.91歳),

北海道,東北,関東,近畿地方在住の健康心理教育の講義の受

講者で60歳以上の高齢者339名(男156名,女169名,不明14名;

平均年齢73.09±6.74歳),合計944名に自発的な質問紙調査協

力の承諾を得た。調査は2016年9月から2017年3月に実施した。

2)測度および手続き 調査目的と内容,回答は無記名式で任意

参加であり,いつでも辞退できることを説明した。質問紙の構

成は以下の通りである。①フェイスシート:性別,年齢,睡眠

薬服用の有無。②睡眠の不調 DSM-5(ICD-10)に基づき得点

化。i)307.42(F51.01)不眠障害:アテネ不眠尺度(Soldatoes et

al., 2000)8項目,ii) 307.47(F51.5)悪夢障害 3項目,iii)309.81

(F43.10)PTSD性の悪夢 3項目,iv)夢・悪夢想起頻度 2項目。

③TIPI-J(小塩ら,2012):i)外向性,ii)協調性,iii)勤勉性,

iv)神経主傾向,v)開放性の 5因子,10項目。

結果

1)性差 協調性,勤勉性,開放性,夢想起頻度は男性で高く,

神経症傾向,悪夢想起頻度は女性で高かった。2)Big Fiveと睡

眠の不調 神経症傾向が高く,外向性,協調性,勤勉性が低い

ほど,不眠得点が高かった。開放性が高いほど,夢想起頻度と 1

週間の夢想起頻度が高かった。神経症傾向が高く,外向性が低

いほど悪夢障害得点が高かった。神経症傾向が高いほど PTSD性

の悪夢得点が高かった。3)発達差 高校生,大学生,高齢者の

各得点を比較した結果,高校生は外向性,神経症傾向,開放性

と,不眠得点,夢想起頻度,悪夢想起頻度,悪夢障害得点,PTSD

性の悪夢得点が高かった。大学生は神経症傾向と,不眠得点,

夢想起頻度,悪夢想起頻度,PTSD 性の悪夢得点が高かった。高

齢者は,外向性,協調性,勤勉性,開放性の得点が高かった。

考察

不眠症状と夢想起頻度,悪夢症状(ストレス性と PTSD性)の

得点は,高齢者で低く,快眠を示した。不眠症状には神経症傾

向の高さ,外向性の低さ,協調性の低さ,勤勉性の低さが関係

し、夢想起頻度には神経症傾向の高さと開放性の高さ,悪夢想

起頻度には神経症傾向の高さが関連していた。今回の調査協力

者の特徴には,成人期以降,年齢が上昇するとともに勤勉性と

協調性は上昇し,神経症傾向が低下するという点で,発達的変

化に関する知見(Soto, et al., 2011)との一致が見られた。

睡眠の不調の発達的変化には,生理学的な睡眠構造の変化のみ

ならず,人格特性の変化が寄与している可能性が示唆された。

引用文献

Funkhouser, A.T., Hirsbrunner, H.P., Cornu, C., & Bahrg, M. (1999). Dreams and dreaming

among the elderly: an overview. Aging & Mental Health. 3(1), Pp.10-20.

Giambra, L.M., Jung, R.E., & Grodsky, A. (1996) Age Changes in Dream Recall in Adulthood.

Dreaming.6(1), Pp17-31.

小塩真司・阿部晋吾・カトローニ・ピノ(2011). 日本語版Ten Item Personality Inventory (TIPI-J)

作成の試み パーソナリティ研究 ,21(1), 40-52.

Schredll, M., Ciric, D., Gotz, S., et al.(2003) Dream Recall Frequency, Attitude Dreams and

Openness to Experience.Dreaming 13 (3), 145-153.

Soto, C. J., John, O. P., Gosling, S. D., & Potter, J. (2011). Age differences in personality traits from

10 to 65: Big Five domains and facets in a large cross-sectional sample. Journal of Personality

and Social Psychology, 100, 330-348.

鈴木千恵・松田英子(2012) 夢想起の個人差に関する研究―夢想起の頻度にストレスとビックファイ

ブパーソナリティ特性が及ぼす影響― ストレス科学研究,27,71-79

Waterman, D. (1991). Aging and memory for dreams. Perceptual and Motor skills, 73, 355-365.

(MATSUDA Eiko, OKADA Hitoshi)

PB13

― 80 ―

利益・コストの予期が大学生における援助要請スタイルに及ぼす影響

永井 智

(立正大学心理学部)

キーワード:援助要請、援助要請スタイル、利益・コスト

問題

援助要請には、単なる量の多少ではなく、その質に

注目する視点が存在する (e.g., Butler, 1998)。しかし

ながら、臨床心理学における援助要請研究において、

こうした援助要請の質の個人差に影響を及ぼす要因に

ついてはほとんど検討されていない。

そこで本研究では、援助要請の基本的な影響因

(Rothi, & Leavey, 2006)である、性別、ソーシャルサポ

ート、悩みおよび、抑うつに加え、援助要請における

重要な心理的要因である利益・コストの予期 (高木,

1997)が援助要請スタイルに及ぼす影響を検討する。

方法

被調査者 大学生656名 (M=247、F=409)。

質問紙の内容 ①援助要請スタイル 援助要請スタ

イル尺度 (永井, 2013; 12項目7件法)。②ソーシャル

サポート 大学生用ソーシャルサポート尺度 (嶋,

1992; 12項目5件法)。③悩み 木村・水野 (2003)に

よる悩みの項目を用いた (6 項目 5 件法)。④抑うつ

CES-D (Radloff, 1977)の邦訳版 (島・鹿野・北村・浅

井, 1985; 20項目4件法)。⑤利益・コストの予期 援

助要請における利益・コスト尺度 (永井, 2012; 28項目

5件法)。

結果と考察

各援助要請スタイルを従属変数とした階層的重回帰

分析を実施した。Step1 ではまず、援助要請の主要な

影響印である性別、ソーシャルサポート、悩み、抑う

つを投入し、Step2 で利益・コストの各変数を投入し

た。その結果、いずれも援助要請回避の利益・コスト

が影響を与えており、援助要請過剰型と援助要請回避

型では援助要請実行の利益である「ポジティブな結果」

が影響を与えていた。一方援助要請自立型には「ポジ

ティブな結果」の影響は見られず、R2自体も非常に低

いものであった。そのため、援助要請自立型は、単に

援助要請実行の結果予期によってもたらされるもので

はなく、例えば自律性などその他の要因によって規定

される可能性が考えられ、こうした点については今後

検討すべきであると考えられる。

(SATORU Nagai)

性別 (男=0, 女=1) ‐.050 ‐.097 * .034 ‐.008 ‐.029 .019

ソーシャルサポート .140 *** .043 .377 *** .179 *** ‐.357 *** ‐.158 ***

悩み .089 * .044 .146 *** .116 ** ‐.068 ‐.052

抑うつ ‐.182 *** ‐.218 *** .087 * .042 .141 *** .150 ***

ポジティブな結果 .073 .297 *** ‐.214 ***

関係の深化 .053 ‐.009 .007

否定的応答 ‐.056 ‐.022 .082

秘密漏洩 ‐.039 .082 * .024

相手への迷惑 .104 * ‐.010 .059

自助努力による充実感 .120 ** ‐.164 *** .113 **

問題の維持 .157 *** .310 *** ‐.290 ***

R2 .061 .135 .185 .393 .177 .346

Step1 Step2 Step1 Step2 Step1 Step2

援助要請過剰型 援助要請回避型

Table1 各援助要請スタイルに対する階層的重回帰分析の結果

援助要請自立型

PB14

― 81 ―

児童期の夕食環境が青年期の親子関係と対人的疎外感に及ぼす影響

松端 伶奈¹ , 大久保 智生² , 寺坂 明子³

(¹香川大学大学院 ²香川大学 ³大阪教育大学)

キーワード:共食,親子関係,対人的疎外感

問題と目的

共食とは,食行為の共有によって人間関係を少しず

つ深めること(池上・岩崎・原山・藤原,2008)であ

り,家庭での共食環境は,家族の一員である子どもに

心理的影響を及ぼすと考えられる。従来,共食は回数

に焦点を当て検討されてきた(内閣府,2016)。一方で,

現代社会において,共食の回数を増やすことは非常に

困難であると指摘されており(後藤・矢澤・大澤,2009;

外山,2017),家族のそろう時間を増やすという点で現

実的ではない。したがって,共食の回数を増やすので

はなく,毎回の共食における食事中の雰囲気や食卓の

質に焦点を当てる必要がある。

これまで,家庭での食卓の質や食事中の雰囲気が親

子関係に影響を及ぼすことは明らかにされている(平

井・岡本,2005)。また,食事中の雰囲気が孤立傾向に

影響を及ぼすことも明らかにされている(加曽利,

2005)。これらを踏まえ,本研究では,親子関係と対人

的疎外感に焦点を当て,食卓の質や食事中の雰囲気の

影響について検討する。

そこで,大学生を対象として,想起された児童期の

食事環境が青年期の親子関係と対人的疎外感に及ぼす

影響について検討することを目的とする。

方法

調査対象者 大学生529名(男性254名,女性275名)

を調査対象者とした。

調査内容 ①児童期の夕食環境:予備調査と先行研究

(伊東,2007; 堀・桂田,2013; 後藤・矢澤・大澤,2009;

冨田・中北・饗庭・大谷,2005)を参考に,22項目を

作成した。回答は 5 件法。②父子関係及び母子関係:

酒井・菅原・眞榮城・菅原・北村(2002)の親子間の

信頼感に関する尺度を採用した。回答は 4 件法。③対

人的疎外感:杉浦(2000)の対人的疎外感尺度を採用

した。回答は 5件法。

結果と考察

児童期の夕食環境の検討 児童期の夕食環境 22 項目

に対して,最尤法プロマックス回転による因子分析を

行った。その結果,3因子 17項目が抽出された。第 1

因子は「食卓における相互交流」,第 2因子は「共食及

び衛生的環境の確保」,第 3因子は「食事中の嫌悪体験」

とした。

児童期の夕食環境の各下位尺度得点を従属変数,性

別を独立変数としたt検定を行った。その結果,「食卓

における相互交流」得点において,女性の方が男性よ

りも有意に高かった(t=6.374,df=490.36,p<.001)。

したがって,家庭での共食における好ましい交流体験

は女性の方が多かった。

児童期の夕食環境と親子関係及び対人的疎外感の関連

の性別ごとの検討 児童期の夕食環境の各下位尺度得

点を説明変数,父・母への信頼感得点,対人的疎外感得

点を目的変数とし,性別ごとに重回帰分析を行った

(Table1)。その結果,女性のみ,食卓の質が親子関係

と対人的疎外感に影響を及ぼすことが明らかになった。

( MATSUNOHANA Reina, OKUBO Tomoo,

TERASAKA Akiko)

0.38 *** 0.39 *** -0.12 0.24 *** 0.40 *** -0.16 *

-0.03 0.06 -0.22 0.27 *** 0.13 * -0.14 *

-0.18 ** -0.14 * 0.33 *** -0.16 ** -0.15 ** 0.15 *

0.18 *** 0.20 *** 0.13 *** 0.23 *** 0.25 *** 0.09 ***

女性(β )

父への信頼感 母への信頼感 対人的疎外感

共食及び衛生的環境の確保

食事中の嫌悪体験

R2

男性(β )

父への信頼感 母への信頼感 対人的疎外感

食卓における相互交流

Table3 児童期の夕食環境が親子関係と対人的疎外感に及ぼす影響

PB15

― 82 ―

ダイエット実践における自覚的な認知と行動の一致,不一致の影響

-気質,過食,痩身願望との関連から-

○矢澤美香子 1・鈴木公啓 2

(武蔵野大学1・東京未来大学2)

キーワード:ダイエット,若年女性,気質,痩身願望,過食

問題

ダイエットの成功には,持続的かつ健康的な食行動

の実践が求められ,失敗は過食やリバウンド,心身の

不健康を招くことにもつながり得るが,それらに関与

する心理的要因があることも指摘されている。例えば,

“減量や体重維持のために自分はダイエットしている”

という自覚的な認知と実際の行動の一致,不一致は減

量効果(Rideout & Barr,2009)や過食(Yazawa &

Suzuki, 2016)との関連性が示唆されている。また,

気質(Gray, 1993)の行動活性系の高さ(Davis, et al.,

2007)や行動抑制系の高さ(Voigt et al., 2009)は不

適切な食行動との関連があることが指摘されている。

そこで本研究では,若年女性のダイエット実践におけ

る自覚的認知と行動の一致,不一致に着目し,気質,

過食,痩身願望との関連性について検討する。そして,

個人差を考慮した効果的なダイエットへの心理学的ア

プローチに繋がる知見を得ることを目的とする。

方法

対象者 オンラインリサーチ会社の登録モニターであ

る20歳から34歳までの女性318名(平均年齢=27.25

歳,SD=4.34, 平均BMI値=20.84, SD=4.45)。

指標 ①ダイエット実践における自覚的認知(現在ダ

イエットをしているか)を問う単項目,② BIS/BAS 尺

度日本語版(高橋・山形・木島・繁桝・大野・安藤,

2007),③ the Checklist for Healthy Diet Strategies

(C-HDS;矢澤・鈴木, 2016)④痩身願望尺度(馬場・

菅原,2000),⑤邦訳版 Eating Disorder Inventory

(EDI; 永田ら, 1994) の過食下位尺度,⑥身長,体重。

結果

現在ダイエットをしているかの設問に対する回答で

は,「はい」(自覚的認知あり: Y群)が190名で「いい

え」(自覚的認知なし:N 群)が 128 名であった。こ

のダイエットの自覚的認知の有無 (Y/N)と C-HDS 得

点における平均値の高低を要因とし,BIS/BAS 尺度,

痩身願望尺度,過食尺度の得点について二要因の分散

分析を行った。その結果,BIS/BAS尺度のBIS得点に

ついては,C-HDS得点の主効果が有意傾向(F (1, 314)

= 3.49, p < .10)であり,C-HDS得点低群の方が高群

よりもBIS得点が高い傾向にあった。また,ダイエッ

トの自覚的認知の有無については,BASの下位尺度で

ある駆動(F (1, 314) = 3.44, p < .10)の得点で主効果

が有意傾向,刺激探求の得点では,主効果が有意(F (1,

314) = 4.27, p < .05)であり,Y群の方がN群よりも

これらの得点が高い様相が見られた。駆動については,

C-HDS 得点の主効果が有意(F (1, 314) = 3.97,

p < .05)であり,高群の方が低群よりも駆動の得点が

高い傾向にあった。また,痩身願望尺度(F (1, 314)

= 4.57, p < .05)と過食下位尺度(F (1, 314) = 4.00,

p < .05)の得点においては,交互作用が有意であった。

下位検定の結果,C-HDS得点の高群では,Y群の方が

N 群よりも痩身願望,過食の得点が高く,瘦身願望に

ついては C-HDS 得点の低群でも同様の結果が見られ

た(いずれもp < .001)。また,Y群では,C-HDS得

点の高群の方が低群よりも痩身願望の得点が高いこと

が判明した(p < .001)。

考察

本研究の結果から,ダイエットの自覚的認知の有無

には行動活性系が関与し,ダイエット行動の実践につ

いては行動抑制系が関与する可能性が示された。また,

健康的なダイエット行動であっても,ダイエットの自

覚的な認知があることにより,痩身願望の強さや過食

と関連する可能性があるといえる。よって,健康的な

ダイエットの維持や促進に向けてはダイエットの自覚

的認知と行動の一致,不一致や気質に基づく個人差を

考慮したアプローチが有用であると考えられる。

(YAZAWA Mikako, SUZUKI Tomohiro)

PB16

― 83 ―

恋愛関係内で生じる弱い束縛行動と強い束縛行動を測定する尺度

○片岡 祥 1・園田 直子 2

(1西南学院大学,2久留米大学)

キーワード:弱い束縛行動,強い束縛行動,関係維持行動,被束縛感

問題と目的

恋愛関係内で生じる束縛の強度に着目し,弱い束縛

行動と強い束縛行動を測定する尺度の開発を試みる。

方法

調査対象者と調査方法 過去から現在にかけて恋愛

経験がある16歳から29歳の男女403人(男性195人,

女性208人;平均年齢22.28歳,SD=3.801)を対象と

した。調査はウェブ調査会社(クロス・マーケティン

グ)に依頼し,データを収集した。

質問紙

暫定版束縛行動尺度 14編の実態調査と 12編の

研究論文と大学生 79 名の束縛についての自由記述に

より項目を収集し,最終的に82項目を選定した。

項目には「もしもあなたが恋人からその行動をうけ

た場合,どの程度束縛されていると感じると思うかを

想像して」10件法で回答してもらった。

結果と考察

項目反応理論を用いて項目の選定を行った。項目の

困難度に着目し,上限が高い項目から10項目,下限が

低い項目から10項目を選定した(Table1)。高い困難

度にある項目は多くの人が束縛と感じない,日常的な

関係維持行動の範疇にあるものと考えることができる。

そこで,困難度が高い項目を「弱い束縛行動」と命名

した。低い困難度にある項目は,誰もが容易に束縛さ

れていると感じる行動であると解釈できる。そこで,

困難度が低い項目を「強い束縛行動」と命名した。

その後,探索的因子分析を行いそれぞれの因子に想

定された項目が集約されるかを確認した(Table2)。

確証的因子分析を行ったところ,適合度指標は十分な

値を示した。2つの因子の得点を比較したところ,「弱

い束縛行動」(M=6.051, SD=1.829)より「強い束縛

行動」(M=7.376, SD=1.823)の被束縛感得点が高か

った(t(402)=18.952, p<.001, d=.726)。以上より、

異なる強度を測定可能な束縛行動尺度が開発された。

(KATAOKA Sho, SONODA Naoko)

付記 本研究は科研費(15K21556)の助成を受けた。

Table1 強度が異なる2つの束縛行動の項目選定

Table2 束縛行動尺度の探索的因子分析

PB17

― 84 ―

許容できない事象に対する共感の構造

―ロジャーズの共感理論からみた「死にたい」に対する共感の困難さ―

○川本静香 1・中妻拓也 2・サトウタツヤ 2

(1立命館大学立命館グローバル・イノベーション研究機構・2立命館大学総合心理学部)

キーワード:共感,ロジャーズ,理論的考察

問題

心理療法において専門家が共感を行うには、訓練が

必要であることが指摘されている(近田,2015)。特に心理療法で扱う事象には、反社会的思想や行動、倫理

観にもとる言動など許容できない事象も存在するため、

より共感の訓練が重要であるとされる。一方で、近年

ではこれまで専門家が担ってきた許容できない事象に

対する共感を、一般の地域住民にも求めるようになっ

てきた。その一例として自殺予防対策における地域で

のゲートキーパー養成が挙げられる。そこでは、民生

委員などの地域住民が同じ地域の住民の「死にたい」

という声に対して共感的に傾聴し、適切な専門機関に

つなぐ役割が期待されている。ゲートキーパー養成で

は、対人援助の専門家でない者でも、「死にたい」とい

う声に対して共感的に傾聴できるよう訓練(研修)がなされるが、そうした研修を受けてもなお、「死にたい」

という、一般には許容できない事象に対する共感に負

担感を感じる民生委員は少なくない。では、このよう

な非専門職が負担に感じる、許容できない事象に対す

る共感の構造とはどのようなものであるのだろうか。

本研究では、民生委員を対象としたゲートキーパー研

修の内容を民生委員が身につけるべき共感の内容を投

影しているものと位置づけ、その研修内容に対して

Rogers の共感理論からその構造を明らかにすることを試みる。

方法

地域におけるゲートキーパー養成研修のために開発

されたゲートキーパー養成研修用テキスト第3版(内閣府,2013)における「ゲートキーパーとしての心得」「メンタルヘルス・ファーストエイドとは」「ロールプレイ

シナリオ民生委員編(解説・良い対応・悪い対応)」の3つの資料に対して、Rogersの原著や理論についての文献を参照しながら理論的考察を試みた。

結果と考察

Rogers(1957)が「セラピーの本質的なもの」とした共感の定義は、いくつかの変遷を経て、現在では「「共

感の状態 state of empathy」よりむしろ「プロセスprocess」」(Rogers, 1975)と定義されている。このプロセスは①他者の世界に⼊り込むこと、②他者の内部に流れる感じられた意味に対して敏感であること、③⼀時的に他者の⼈⽣を、評価をせずに⽣きること、④他者の世界をどう感じたかを相⼿に伝えること、⑤常に⾃分の感じの正しさについて他者と検討すること、⑥体験過程に含まれる意味を焦点化し、より豊富な体験

をすること、である。この共感のプロセスを踏まえて

民生委員が行う共感の構造を検討すると、研修ではプ

ロセス②、③、④、⑤に相当する行為を推奨しており、

Rogers(1975)の示す共感の要素が多分に含まれていると考えられる。つまり、非専門家が許容できない事象

に対して共感するための構造はRogers(1975)の定義に依拠したものであると推察されるが、それゆえに非専

門家である民生委員の負担感も少なくないと推察され

る。それは、Rogers(1975)で重要視されるのは、他者の価値観や思想はあくまでも他者のものであり、他者

の体験や価値観に対して変容やすり合わせを行わない

ものとして扱うにも関わらず、許容できない経験の共

有と確認を何度も行う必要が生じるためである。また、

ある苦境を克服した者は現在同様の苦境にある人物に

共感しづらい(Ruttan, McDonnell & Nordgren, 2015)という共感ギャップも指摘されていることを踏まえれ

ば、「死にたい」という元々許容し難い事象は、それ

自体の許容しづらさと共感ギャップによって非専門家

の「経験の共有」(Rogers, 1975))を二重の意味で困難なものにしていると考えられる。

(KAWAMOTO Shizuka, NAKATSUMA Takuya SATO Tatsuya)

PB18

― 85 ―

女子大学生における“コミュニケーション力”イメージ

―“コミュニケーション力”に対する態度との関連― ○渡部麻美

(東洋英和女学院大学人間科学部) キーワード:コミュニケーション力,態度,社会的スキル

問題 “コミュニケーション力”は,教育や就職の場面で重要な能力であるという認識が社会全体で共有されて

いるが(平井,2009),その定義は明確ではない。一方,“コミュニケーション力”という言葉が過剰に普及することに対して否定的な態度を持つ人もいる(渡部,2015)。本研究では,個人が抱く“コミュニケーション力”イメージと“コミュニケーション力”に対する態度および社会的スキルとの関連を検討する。 方法 調査対象者は私立女子大学の学生174名(平均年齢19.6歳,SD=0.8)であった。REAS(リアルタイム評価支援システム)を介して調査を実施した。調査には次の項目が含まれていた。(1)“コミュニケーション力”への接触経験:「ある」と「ない」のいずれかで回答を求

めた。(2)“コミュニケーション力”イメージ:調査対象者が“コミュニケーション力”をどのような能力であると考えているかについて,自由記述で回答を求めた。

(3)“コミュニケーション力”に対する態度尺度(渡部, 2015):不確定性,流動性,絶対性,測定可能性の4つの下位尺度で構成された,5項目,6件法の尺度であった。(4)社会的スキル尺度(KiSS-18;菊池,1988):18項目,5件法であった。 結果 “コミュニケーション力”への接触経験があると回答した回答者の“コミュニケーション力”イメージに関する自由記述回答(171件)を,心理学を専攻する学生と筆者がKJ法によって分類した。その結果,9つのカテゴリーが得られ,さらに意味の近接したカテゴリー

を統合したところ,相互理解・意思疎通力,会話・対

話力,良好な関係構築力,社交性,社会適応力,その

他の 6カテゴリーに集約された。度数の少なかった社会適応力とその他を除く4カテゴリーと,“コミュニケーション力”に対する態度の下位尺度と社会的スキルの得点をそれぞれ高低の 2値に変換した変数を用いて数量化Ⅲ類を行った(Figure1)。

考察 “コミュニケーション力”を良好な関係構築という特定の場面を超えた能力だとみなす人は,“コミュニケーション力”に不信感を抱きながらも絶対的な影響力を認めるというアンビバレントな態度をもつ傾向が

あった。一方,会話の能力のような特定の行為の能力

だと捉える人ではそのような傾向は低い。また,社会

的スキルの低さは,“コミュニケーション力”を個々の状況における具体的な行動のための能力ではなく,特性

的なものだとみなす傾向や,数値等では測りきれない

ものだとする態度と関連することが推測される。 引用文献 平井智尚 (2009). 「コミュニケーション能力」を批判する

ことの困難さ 慶應義塾大学大学院社会学研究科紀要,67,113-129. /

菊池章夫 (1988). 思いやりを科学する 川島書店 / 渡部麻美 (2016).

大学生の“コミュニケーション力”に対する態度の探索的検討 人文・

社会科学論集,33,75-92.※本研究は2014年度東洋英和女学院大学研究

助成を受けて実施された。分析にあたって,東洋英和女学院大学(当時)

の石田百合恵さん,市川理紗さん,井上明日香さん,大畑友季さん,

髙橋万葉香さんにご協力いただきました。 (WATANABE Asami)

Figure 1 "コミュニケーション力"イメージ,"コミュニケーション力"に対する態度,社会的スキルの数量化Ⅲ類

_

_

_

__

_

_ _

_

_

-2.5

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

2

2.5

-2.5 -2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2 2.5

2

1

PB19

― 86 ―

浮気場面への予測された行動の類型化の試み

―嫉妬深さ・認知的評価を考慮した検討―

○神野 雄 (神戸大学大学院 人間発達環境学研究科)

キーワード:恋愛,嫉妬,対処行動

問題・目的

神野(印刷中)は Guerrero(2014)の CRJS モデルや

Rusbult(1987)の EVLN モデルを統合して捉え,浮気さ

れた場合に個人がどのような対処行動を取りうるかに

ついて,「攻撃志向」「対話志向」「沈黙志向」「別れ志

向」「ライバル志向」からなる架空の浮気場面への予測

行動尺度 Anticipated Behavior Scale for Imaginary

Infidelity(以降 ABSII)を構成し,信頼性と妥当性を確認

した。しかし恋人の浮気場面に対しては単一の行動が

選択されるわけではなく,実際にはどんな類型で反応

が選択されうるかについて検討が求められるだろう。

また,それらの行動の選択の要因には個人の嫉妬深さ

や,浮気場面の認知的評価の仕方が考えられる。そこ

で本研究では ABSII の各下位尺度得点を用いてクラス

ター分析を行い,得られた類型について嫉妬尺度や認

知的評価の得点も含め探索的に検討を行うこととした。

方法

1) 調査手続き 調査協力者に対して質問紙を集団的

に実施した。 2) 調査協力者 現在恋人がいると回答

した18~23歳の大学生205名(男性67名,

女性 138名,平均年齢19.58歳,SD=1.13)。

3) 測定尺度 (1)ABSII:「対話志向」「別れ

志向」「攻撃志向」「沈黙志向」「ライバル

志向」の 5 下位尺度計 22 項目 5 件法で構

成された尺度。調査協力者には現在の恋人

を思い浮かべてもらい,架空の浮気場面

(恋人と第三者とのデートを目撃し

てしまった)でどの程度その行動を

取ると思うか,回答を求めた。(2)

多次元恋愛関係嫉妬尺度(神野,

2016):「猜疑的認知」「排他的感情」

「警戒行動」の3下位尺度計15項目。

(3)認知的評価尺度(加藤,2001):「対

処効力感」「脅威」「重要性」の 3下位尺度9項目。

結果・考察

ABSII の各下位尺度得点を投入した K-means 法によ

るクラスター分析の結果,「沈黙群」「対話群」「混乱群」

「能動群」「別れ群」が抽出された(Table1)。またクラス

ターごとの嫉妬得点や認知的評価の平均得点を算出し,

多重比較した結果(Table2)から,攻撃や別れへの志向性

を伴う群として混乱群と別れ群のような対比的な群が

示された。混乱群は「沈黙志向」や「ライバル志向」

も有し,状況を対処可能で脅威でないとするため,関

係の行く末を決めかねている群と考えられる。一方で

より強く攻撃と別れを企図する別れ群ではその状況を

対処不能で脅威と感じていることが示唆された。さら

に沈黙群は他の反応行動を取らず,浮気場面を重要視

しないため,関係に執着しない群もしくはそもそもデ

ート場面を葛藤と見なさない群と解釈できる。対話群

と能動群は互いに類似が見受けられるが,本データで

は両者の「ライバル志向」の特徴的な差異を解釈しき

れず,今後検討の必要があるだろう。 (KANNO Yu)

別れ - 0.53 - 0.66 0.69 - 0.37 1.29攻撃 - 0.74 - 0.16 0.55 - 0.24 0.89対話 - 0.61 0.86 - 0.30 0.63 - 0.83沈黙 1.00 - 0.73 0.70 - 0.34 - 0.91

ライバル - 0.56 - 0.80 0.63 1.10 - 0.58

Table1 クラスター分析における最終クラスタ中心

1.沈黙群 2.対話群 3.混乱群 4.能動群 5.別れ群

(N=44) (N=43) (N=43) (N=45) (N=30)

1.沈黙群 2.対話群 3.混乱群 4.能動群 5.別れ群 多重比較

猜疑的認知 2.58 3.00 3.64 3.20 3.28 3.51 ** 1<3

排他的感情 3.70 4.73 4.47 5.12 4.73 8.07 *** 1<3,5,2,4

警戒行動 2.62 3.17 3.35 3.60 3.51 3.64 ** 1<5,4

対処効力感 2.74 2.82 2.88 2.42 2.40 3.35 * 5<3

脅威 3.48 4.20 3.79 4.08 4.37 8.17 *** 1<4,2,5,3<5

重要性 3.24 4.15 3.67 4.31 4.22 12.25 *** 1<2,1,3<5,4

F値

Table2 各クラスタにおける諸変数の平均値と多重比較

PB20

― 87 ―

発達障害を抱えた母親の音楽習慣と心理的ストレスおよび障害受容と

の関係

○伊藤智

(くらしき作陽大学)

キーワード:母親の音楽習慣、母親の心理的ストレス、発達障害を抱えた子ども、母親の障害の受容

問題

近年、教育現場において発達障害を抱えている子ど

もたちが増えつつある。こうした発達障害は、児童時

における言葉の問題、社会性の問題や行動への問題に

発展することが考えられ、子どものその後の成長にも

大きく影響すると推察される。また教育現場では、各

地において「特別支援教育」を行なっている。最近で

は、「音楽療法」という分野が普及してきており、母親

が音楽習慣との関わりを持つことで、子どもと母親の

親子関係をよりよい段階へ導くことが可能である。

目的

子どもの成長過程に障害があることで、周りの偏見

やストレス、養育不安を抱える保護者が、子どもへの

愛着をうまく示すことができず子どもの自信を育めな

いことが考えられる。その中で、母親が愛着をうまく

示すことができれば、子どもが自信を持ち社会の中で

障害を乗り越えて自分の人生を切り開いて行けると思

われる。

本研究では、発達障害を抱える子どもの母親に尺度

を使用したアンケート調査を実施し、音楽習慣が母親

のストレスを軽減し、障害の受容に対してどう関係す

るのかを明らかにすることを目的にした。

方法

実施施設:A市の自立支援施設の母親60名

調査時期:2016年8月~9月

調査方法:この施設に属している発達障害を抱えて

る母親を対象として、田中が作成した「母親のストレ

ス」尺度、伊藤が作成した「音楽習慣尺度」お

よび倉重・川間が作成した「障害児・者を持つ母親の

障害受容尺度」を使用した。

結果

障害を抱える子どもの母親の「音楽習慣」の得点の

平均値を算出し、平均値より高い得点群と低い得点群

とに分けて比較した結果、有意差は認められなかった

ものの、音楽習慣の得点が高い人ほど母親のストレス

得点は低く、障害の受容得点は高かった。

考察

調査に協力いただいた対象者は、ほぼ 40 代から 50

代の母親で、障害の受容が始まってから10年以上は経

過しており、障害はほぼ受容されていると考えられ、

そうした精神的余裕が音楽習慣を若干高めたと思われ

る。藤澤と野中は、「初期の危機」の段階では、対象児

の行動に関する具体的対処法の難しさによる二次的問

題の発生や家族から責められる経験が「適応また受容」

段階では、診断確定によりようやく受容へと踏みだせ

た経験が語られ、親の障害の受容過程で、母親の周り

の環境を整える必要性を明らかにしている。そして、

周りからの気持ちを受容した励ましの言葉や協力的な

言葉、親身になった対応などがあることで、前向きな

考え方へと移行しやすいと述べている。

引用文献

伊藤智:音楽習慣尺度の信頼性・妥当性の検討.

第15 回日本音楽療法学会学術大会要旨集169,2015

田中正博:障害児を育てる母親のストレスと家族機

能.特殊教育学研究34(3):23-32,1996

倉重由美、川間健之介:障害児・者を持つ母親の障

 害受容尺度. 山口大学教育学部編 研究論叢.第3部,

 芸術・体育・教育・心理 45:297-316,1996

田中正博:障害児を育てる母親のストレスと家族機

能.特殊教育学研究34(3):23-32,1996

藤澤亜弥、野中弘敏:障害児を持つ親の障害受容過程

 及びそれに伴う困難.山梨学院短期大学専攻科保育

 専攻研究紀要31:126-144,2012

               (ITO Satoshi)

PB21

― 88 ―

就学前の自閉症的行動特性と就学後の情緒・行動の問題との関連

○齊藤彩 1, 2・Andrew Stickley 1・原口英之 1・高橋秀俊 1・石飛信 1・神尾陽子 1, 2

(1国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 児童・思春期精神保健研究部)

(2お茶の水女子大学)

キーワード:自閉症的行動特性, SRS,SDQ

問 題

自閉スペクトラム症(ASD)の子どもは,さまざま

な精神医学的症状を併存する頻度が高い(Simonoff et

al., 2008)。近年,一般人口集団内におけるASD特性

の連続的分布が示唆されており(Constantino &

Charman, 2016),診断閾下の自閉症的行動特性(ASD

特性)の高さを示す子どもの精神医学的併存症のリス

クの高さも報告されている(Lundström et al., 2011)。

ASD 特性と後の情緒・行動の問題との関連について,

7~8歳(Skuse et al., 2009),7~12歳(Hallett et al.,

2010),1~3歳(Möricke et al., 2010)を対象とした

先行研究は行われている一方,就学前のASD特性と就

学後の情緒・行動の問題との関連については検討され

ていない。本研究は,5歳時のASD特性と7歳時の情

緒・行動の問題との縦断的関連について検討を行った。

方 法

調査対象者と手続き 協力の同意が得られた東京多摩

地域の幼稚園・保育園の 5 歳児クラスの 2953 家庭に

2012年3月(Time 1)に質問紙を配布し,1406家庭

から有効回答が得られた。461 家庭よりその後の縦断

研究への協力の同意が得られ,2013年9月にTime 2

の調査を実施し,302 家庭から有効回答が得られた。

このうち,本研究に使用する尺度について欠損値のな

かった189家庭(男児107名)を分析の対象とした。

測定尺度 ①自閉症的行動特性(Time 1):the Social

Responsiveness Scale (SRS; Constantino & Gruber,

2005)65項目,②情緒・行動の問題(Time 1, 2):the

Strength and Difficulties Questionnaire (SDQ;

Goodman, 1997)25 項目。情緒の問題,行為の問題,

多動性・不注意,友人関係の問題,向社会性の 5 領域

について検討した。①, ②共に保護者が回答した。

結 果

相関分析 5歳時のASD特性は,5歳時および7歳時

の情緒の問題,行為の問題, 多動性・不注意,友人関係

の問題に正の相関,向社会性に負の相関を示した。

階層的重回帰分析 SES,母親の抑うつ,5 歳時の情

緒・行動の問題の影響を考慮してもなお,5歳時のASD

特性が 7 歳時の情緒・行動の問題と関連するかについ

て検討を行った。その結果,SDQ の全領域について,

7歳時の情緒・行動の問題の最も強い予測要因は,5歳

時の情緒・行動の問題であった。一方,7 歳時の情緒

の問題と友人関係の問題は,5歳時のASD特性からの

弱いながらも有意な予測が見られた(Table 1)。7歳時

の行為の問題,多動性・不注意,向社会性については,

5歳時のASD特性からの有意な予測は見られなかった。

考 察

就学後の情緒の問題および友人関係の問題のリスク

がより高い子どもを早期に特定し,適切にフォローア

ップや支援を行っていくために,就学前の子どもの全

般的な精神的健康に加え,ASD特性を評価することが

有用である可能性が示唆された。

(SAITO Aya, STICKLEY Andrew, HARAGUCHI

Hideyuki, TAKAHASHI Hidetoshi, ISHITOBI

Makoto, KAMIO Yoko)

B SE B β ΔR 2 B SE B β ΔR 2

step1 性別 .07 .23 .02 .07* -.01 .21 -.00 .06

世帯収入 -.06 .09 -.04 -.07 .08 -.05

父親の教育歴 -.06 .06 -.06 .06 .06 .07

母親の教育歴 -.03 .08 -.03 -.13 .07 -.12

母親の抑うつ .09 .16 .03 .15 .19 .06

step2

step3 自閉症的行動特性 .02 .01 .23**

.04** .03 .01 .29

**.04

**

R 2

情緒の問題

*p < .05, **p < .01

5歳時の情緒の問題/

友人関係の問題.49 .07 .47

**.31

** .44 .09 .39**

友人関係の問題

.42 .43

.33**

Table 1 7歳時の情緒の問題/友人関係の問題についての階層的重回帰分析

PB22

― 89 ―

恥意識が大学生の先延ばしに及ぼす影響

― 仲間との不一致に起因する恥意識は、先延ばしを促進するのか ―

○中村 真

(江戸川大学 社会学部)

キーワード:恥意識、先延ばし、大学生

問題

中里・松井(2007)によると、恥意識は、自らの理想

と現実の行動が一致しないことに起因して生じる「自分

恥」、自分の行動が社会規範や常識と一致しないときに生

じる「他人恥」、身近な仲間と自分とのあいだで考えや行

動にズレが生じたときに感じる「仲間恥」で構成される。

自分恥と他人恥は、青少年の非行的態度や社会的逸脱

行為を抑制し、向社会的行動を促進する働きがあり、仲

間恥は、社会的逸脱行為を促進し、向社会的行動を抑制

する効果がある(中村, 2011 他)。また、自分恥は就学意

欲を促し、仲間恥は抑制する傾向がある(中村, 2014)。

このように、恥意識が青少年の意識や態度に与える影

響は、恥の種類によって異なり、肯定・否定の両面に及

ぶ。その主たる原因は、3つの恥意識が異なる心性を包

含しており、自分恥が自らの理想や目標への志向を、他

人恥が社会規範の遵守を、仲間恥が身近な友人への同調

を促すからであると考えられる。そして、青少年の仲間

恥が彼らを望ましくない社会的態度に向かわせる背景に

は、大人社会が作り出した常識や規範への反発心が共有

されていること(中村, 2010)、相手と深くかかわり合う

ことや切磋琢磨しながら互いを高め合うような友人関係

を避ける傾向があること(中村, 2013他)が挙げられる。

本研究では、恥意識に伴うこれらの心性が、青年の先

延ばし傾向においても促進・抑制の両面にわたって影響

を及ぼすものと考え、その影響のあり方を大学生を対象

とする質問紙調査を行って検討する。

方法

被調査者 首都圏の4年制大学に通う大学生340名

調査時期 2017年5月 手続き 講義中に集合調査を実施

質問項目 (1)恥意識:中村(2013)の恥意識尺度 27 項

目を用いて、それぞれの恥ずかしさの程度を6件法で尋

ねた。下位尺度は、「自分恥」(「自分が正しいと思ったことがで

きなかったとき」など 9項目、α=.86)、「他人恥」(「静かな図

書館の中で自分の携帯電話の着信音が鳴ってしまったとき」など 10

項目、α=.85)、「仲間恥」(「親しい仲間の意見と自分の考えが一

致しなかったとき」など8項目、α=.87)である。

(2)先延ばし:藤田(2005)の課題先延ばし行動傾向尺度

(13項目)および林(2007)のGeneral Procrastination

Scale日本語版(13項目)をいずれも 5件法で尋ねた。

結果・考察

先延ばしに関する 26 項目について因子分析(重み付け

のない最小二乗法、プロマックス回転)を行い、3因子を抽出した。

第 1因子は、「やらなければならない課題はすぐに取りかかる(逆転

項目)」など 4 項目で負荷量が高く「早期着手の回避(α

=.85)」とした。また、第2因子を「約束事への遅延(α

=.75)」(「約束やミーティングの時間によく遅れる」など3項目)、

第 3因子を「滞り・未消化(α=.64)」(「そう大変ではない仕

事でさえ終えるまでに何日もかかってしまう」など4項目)とした。

次に、先延ばしの各因子を基準変数とし、恥意識を説

明変数とする重回帰分析を行った(表 1~表 3)。これら

の結果は、自分恥が「早期着手の回避」に対して負の影

響を与えることを、また、他人恥が「約束事の遅延」に

対して負の影響を、仲間恥が正の影響を与えることを示

している。さらに、「滞り・未消化」に対しては自分恥が

負の影響を、仲間恥が正の影響を与えることを示した。

したがって、自らの理想と現実の行動が一致しないと

きに生じる自分恥は、課題の早期着手と進捗を促し、先

延ばし全般を抑制する傾向があると言える。また、社会

規範との不一致に起因する他人恥は、自分恥に比べて限

定的ではあるが、課題の遅延を抑制し期限の遵守を促す

という点で先延ばしを抑制する傾向があると思われる。

一方、身近な友人との不一致に起因する仲間恥は、課

題の早期着手には影響しないものの、課題の進捗を滞ら

せ遅延へと至らしめる傾向があるという点において先延

ばしを促進する可能性があると考えられる。

自分恥 他人恥 仲間恥

早期着手の回避 -.198**

-.115+ .013 340 8.505

*** .074

表1 先延ばし傾向における「早期着手の回避因子」の重回帰分析

N R 2

※ 強制投入法               +p <.10, **p <.01, ***p<.001 数値は標準化係数

恥意識F

自分恥 他人恥 仲間恥

約束事への遅延 -.115+

-.137*

.134* 340 4.950

** .044

※ 強制投入法 +p <.10, * p <.05, **p <.01 数値は標準化係数

表2 先延ばし傾向における「約束事への遅延因子」の重回帰分析

N R 2恥意識

F

自分恥 他人恥 仲間恥

滞り・未消化 -.277*** .011 .215

*** 340 10.513*** .090

※ 強制投入法                    ***p <.001 数値は標準化係数

表3 先延ばし傾向における「滞り・未消化因子」の重回帰分析

N R 2恥意識

F

(NAKAMURA Shin)

PB23

― 90 ―

大学生の文化的自己観と自尊感情の関係の性差

○岩佐 康弘

(京都教育大学大学院教育学研究科)

キーワード:文化的自己観,自尊感情,大学生,性差,教員養成大学

問題 ある文化において歴史的に共有されている自

己についての前提である文化的自己観 (Markus &

Kitayama, 1991) は個人に内面化されることで,「相互独

立性」(個の認識・主張など)あるいは「相互協調性」

(他者との親和・順応など)という認知的表象が形成

される(高田,2011)。先行研究より,この「相互協調

性」「相互独立性」の認識による「自尊感情」の差異が

示唆されてきたが「自尊感情」の詳細な区分に基づい

た研究がなされていない。そのため,本研究では,「自

尊感情」を伊藤・小玉・川崎 (2013) の自尊源の区分に

基づき,「本来感」(自尊源が内的で自分らしくある感

覚),「優越感」(自尊源が外的),「全般的自尊感情」(自

己についての全般的肯定的感情の総体)から捉えて検

討する。また,どの程度文化的自己観を自分の行動原

理として取り入れていくかには個人差が想定されてい

るが,「性差」に着目して検討する。なお,本研究は教

員養成大学の学生を対象とした。

方法 手続き 関西圏内の教員養成大学の学生 420

名(男性 175名,女性 245名)に自記式の質問紙調査

を実施 調査時期 2017年 1月 使用尺度 相互独立

性・相互協調性尺度 (Uchida & Kitayama, 2004) ,全般

的自尊感情尺度(山本・松井・山成,1982),本来感尺

度(伊藤・小玉,2005),優越感尺度(笹川,2015)。

Figure 1 教員養成大学の学生の性差による文化的自己観と自尊感情の関係

結果と考察

性別による各尺度得点の差異 各尺度得点について

性差を比較したところ,「相互独立性」「本来感」「全般

的自尊感情」の尺度得点において,女性より男性の方

が有意に高かった。つまり,男性の方が女性に比べて

自身の意見・考えを通すことを意識していて,また,

自分らしさや自身に対して全般的な肯定的感情を抱い

ていることが示唆さているといえる。

文化的自己観と自尊感情の関係の性差 性別によっ

て群を分けて,多母集団同時分析を実施した (Figure 1)。

その結果,男女共に「相互独立性」から「本来感」を

媒介して「全般的自尊感情」へのパス係数が他と比べ

て高かった。これより,男女共に,自身の意見・考え

を通そうとすることは,自分らしさにつながり全般的

な肯定的感情に寄与することが示唆された。

性差に着目すると,女性においてのみに「相互協調

性」から「全般的自尊感情」へは「優越感」を媒介し

て正のパス係数がみられた。つまり,女性は他者と協

調しつつ,他者より優れているという感覚が自身の肯

定的な感情につながることが示唆された。また,「相互

独立性」から「全般的自尊感情」へのパス係数は,男

性は負の値だが女性は正の値であった。これより,女

性は自身の意見・考えを通そうとすることが自身への

肯定的感情に直接影響を与える点も示唆された。ただ

し,女性の「相互独立性」の尺度得点は男性より低い

ため,女性は自身の肯定的感情に直接寄与する言動を

男性に比べて控えていることも考えられ,このような

言動の背景を検討する余地がある。なお,「全般的自尊

感情」の決定係数は女性の方が高かったことより,「相

互独立性」「相互協調性」から「全般的自尊感情」への

影響は男性より女性の方が高いということが示唆され

たといえる。

(IWASA Yasuhiro)

PB24

― 91 ―

大学生の Sense of Coherence と自己観との関連

―相互独立的-協調的自己観と恩恵享受的自己観を取り上げて―

○磯和 壮太朗・三宮 真智子

(大阪大学大学院人間科学研究科)

キーワード:Sense of Coherence,相互独立的自己観,相互協調的自己観,恩恵享受的自己観,自尊感情

問題

首尾一貫感覚(Sense of Coherence:SOC)とは,

自分の内外で起こることは把握可能であり(把握可能

感),起こることに対処することは可能であり(処理可

能感),さらに,起こることは心身を投入する価値があ

る(有意味感)という確信から成る,ストレス対処・

健康保持能力である。(Antonovsky, 1987, 山崎・吉井

監訳, 2001)。 SOC に関する研究は多くあるものの,その概念の理

解や特徴の把握を目的とした研究はあまり多くなく,

そのなかでもアジア圏における研究は少ない。教育的

意義を主張する場合,SOC がもつ概念的特徴,特に高

SOC 者・低 SOC 者がどのような人間像であるかの実

態を把握することは重要であると考えられる。

本研究では,相互独立的-相互協調的自己観と恩恵

享受的自己観(中間,2013)との関連を検討する。こ

れによって,どのような自己観を持っていることが

SOC と関連しているのかを把握し,介入研究への示唆

を得ることを目的とする。

方法

被調査者 中部・関西圏の4 年制大学生199 名 (第30回健康心理学会大会発表論文と同一の被調査者) 分析対象者 調査に同意し,欠損値がなかった 183

名(男性:95名,女性:88名,平均19.58 歳,SD=1.24) 調査時期 2017 年1 月中旬〜2 月初頭 調査内容(本稿で報告しないものは省略)

1. 人生の志向性に関する質問票(Antonovsky, 1987 山崎・吉井監訳, 2001)のうち,短縮版として使用

を推奨されている13項目(SOC-13) 2. 相互独立的-相互協調的自己観尺度(高田,2000) 3. 自尊感情尺度(桜井,1998) 4. 恩恵享受的自己観尺度(中間,2013) 倫理審査 所属機関の研究倫理審査を経た。

結果

各尺度のα係数を算出したところ,概ねα=.70以上

であり,信頼性が確認されたが,SOCの下位因子につい

ては,3因子とも信頼性が低かった。(有意味感:α=.57,

把握可能感:α=.61,処理可能感:α=.55)。

各変数間の関係を検討するため,相関分析を行った

(Table1)。その結果,相互独立的自己観はSOCと正の

相関を示し,相互協調的自己観は SOC の把握可能感・

処理可能感と負の相関を示した。また,自尊感情と恩

恵享受的自己観は両方とも SOC と正の相関を示したも

のの,恩恵享受的自己観は主に有意味感と関連を示し,

把握可能感・処理可能感とは相関を示さなかった。

考察

相互協調的自己観は把握可能感・処理可能感を低め

るが,有意味感とは関係がない可能性がある。また,

恩恵享受的自己観は有意味感にのみ正の相関を示して

いることから,本邦においては,有意味感は自己にの

み依拠しているのでなく,自分は恵まれているという

感覚にも依拠している可能性が示唆された。

主な引用文献

Antonovsky, A., 山崎喜比古, & 吉井清子. (2001). 健康の謎を解く─ ストレス対処と健康保持のメカニ

ズム 有信堂高文社

(ISOWA Soutarou, SANNOMIYA Machiko)

PB25

― 92 ―

防衛的悲観主義は大学新入生の他者配慮的な行動を増加させるか

―潜在成長モデルを用いた検討―

○清水 陽香 1,2・中島 健一郎 1

(1広島大学大学院教育学研究科,2日本学術振興会特別研究員DC1)

キーワード:認知的方略,対人行動,潜在成長モデル

問題

近年,防衛的悲観主義 (Defensive Pessimism; DP) を

始めとする認知的方略の,対人的文脈における機能が

明らかにされつつある。Shimizu, Nakashima & Morinaga

(2016) では,DP傾向と他の個人特性 (e.g., 自尊心,特

性シャイネス,社会的スキル) が大学新入生の友人関

係の変化に及ぼす影響を検討した。その結果,DP傾向

は大学入学後 3 か月間の対人行動,特に他者への配慮

的な行動と正の関連があることが示された。しかし,

Shimizu et al. (2016) は3か月間の行動の頻度を測定し

たのみであり,個人特性が特定の時点での行動を規定

するのか,行動の増加/減少という変化のパターンを規

定するのかは定かでない。そこで本研究では,縦断デ

ータの切片と傾きを推定することで時系列変化の個人

差を検討できる潜在成長モデルを用い,個人特性と大

学新入生の対人行動についてより精緻に検討する。

方法

参加者 女子短期大学 1年生 108名が調査に参加し

た。平均年齢 (T4) は 18.98歳 (SD = 1.89) であった。

尺度 (1) 認知的方略:J-DPQ (Hosogoshi & Kodama,

2005; 11項目 7件法) を用いた。この尺度には自身の過

去のパフォーマンスの高さを尋ねる判別項目が含まれ

ている。 (2) 個人特性:自尊感情尺度 (山本・松井・

山成,1982; 6項目5件法),特性シャイネス尺度 (相川,

1991; 10項目5件法),社会的スキル尺度 (菊池,1988; 11

項目 5件法) (3)対人行動:行動尺度 (清水・中島・森永,

2016; 22項目 6件法) (4)フェイス項目:年齢,学生番号

手続き 4時点の縦断調査を行った。T1を 2016年4

月に実施し,以降3か月ごとにT2からT4を実施した。

なお,T2以降は (3) (4) にのみ回答を求めた。

結果

T4の行動尺度について,探索的因子分析 (最小二乗

法,promax 回転) を実施した。その結果,相手に好意

的な態度を示す好意的かかわり,積極的に働きかける

外向的かかわり,周囲の反応に配慮する他者配慮,相

手を尊重し自分の意見を抑える自己抑制の 4 因子が抽

出された。T1 から T3 でも同様の構造で一定の信頼性

が確認されたため (.55 < αs < .79),この因子構造に基づ

き各時点での尺度得点を作成した。

次に,J-DPQ 得点,判別項目得点,これらの交互作

用項,他の個人特性を説明変数,そして各時点の行動

得点を目的変数とする,潜在成長モデルを用いた共分

散構造分析を実施した。適合度が基準を満たしたのは

好意的かかわり (CFI = .91,RMSEA = .09) および自己

抑制 (CFI = .95,RMSEA = .06) であった。好意的かか

わりでは,切片に対して判別項目が正の影響 (b = 0.192,

p = .01),シャイネスが負の影響を示した (b = -0.16,p

= .05)。自己抑制では,切片に対して判別項目 (b = 0.11,

p = .04),社会的スキルが正の影響 (b = 0.46,p = .004),

交互作用項が負の影響 (b = -0.16,p = .001) を示した。

そこで,T1の自己抑制について,Step 1に J-DPQ得点

および判別項目得点,Step 2に交互作用を投入した階層

的重回帰分析を行った。Step 2の説明率の増加が有意で

あり (ΔR2 = .09,p < .001),交互作用が負の影響を示し

た (β = -.30,p < .001)。単純傾斜の検定の結果,J-DPQ

得点低群において判別項目の単純主効果が有意であり

(β = .36,p < .001),判別項目低群において J-DPQの単

純主効果が有意であった (β = .42,p < .001)。J-DPQ得

点と判別項目得点がどちらも低い場合 (非現実的楽観

主義に相当) に,T1の自己抑制得点が最も低かった。

考察

認知的方略をはじめとする個人特性は,行動の初期

値を規定するものの,行動の増減には影響を及ぼさな

いことが明らかになった。今後は区間線形や二次のモ

デルを用いてより詳細な検討を行う必要がある。

(SHIMIZU Haruka, NAKASHIMA Ken’ichiro)

PB26

― 93 ―

女子大学生用キャリア発達尺度の妥当性の検証(2)

―男子大学生との比較から―

○木川智美

(昭和女子大学大学院)

キーワード:女子大学生キャリア発達尺度,尺度作成,妥当性

問題と目的

一般に男性よりも人生において選択・決断すべきラ

イフイベントが多い女性のキャリア発達において,特

に大きな節目となる女子大学生の時期のキャリア発達

の程度を把握し,適切な教育的介入を行うことは意義

があると考えられる。このような観点から木川(2016)では,「女子大学生用キャリア発達尺度」を開発した。

しかし,妥当性の検証は,理論的観点からの内容的な

側面に留まっており課題がある。そこで本研究では,

本尺度の妥当性を因子構造の性差から検証することを

目的とした。

方法

調査対象者 関東圏内の3つの大学に通う大学生

(男性73名,女性419名)。 実施時期 2014年12月〜2015年2月。 調査内容 木川(2016)による女子大学生用キャリア発達尺度(6件法22項目)を講義時間内の集団形式で実施した。

倫理的配慮 調査時の所属機関において審査を受け

た。

結果

女子大学生用キャリア発達尺度について男性の調査

対象者の回答を用い,尺度作成時と同様に主因子法・

プロマックス回転による因子分析を行った。探索的因

子分析を用いる理由は,因子構造に着目するためであ

る。よって,因子数も固定せずに分析を行った(Table 1)。その結果,女子大学生用キャリア発達尺度よりも5項目少なく,かつ因子構造の異なる3因子解が得ら

れた。

考察

本研究の結果からは,女子大学生用キャリア発達尺

度の因子構造が性別によって影響を受けることが明ら

かになった。このことは本尺度が男性とは異なるキャ

リア発達を測定しているといえ,その内容的妥当性を

支える知見となり得るだろう。また,今後,確証的因

子分析を用い適合度を算出することも必要であろう。

さらに,本研究の結果からは,本尺度は,数項目を除

外し,異なる因子構造であることに留意すれば,男子

大学生のキャリア発達の程度を測定する尺度として適

用できる可能性も示唆される。

Table 1 男子大学生による女子大学生用キャリア発達尺度の因子分析結果(主因子法・プロマックス回転)

:��� :��� :���

:����?�zed

PRN?�s�n��reh[��A`Z| ONWU MONOP ONOU

PQN 0t?�s��ico�5_flw{i ONVW ONOQ MONPW

PON�_�L`GahoaY?�q{r<]mB4ey\of| ONUS ONPR MONPO

QTN��ns�IJtY?�rokm/*;io'\ ONUP MONOV ONOW

PXNv�{s�r#�d}q[Y?�?Hs&`Z| ONTW ONOV MONOW

PVN 0r^[mwY?�zed�� reh[o'\ ONTQ MONOX ONQW

OSN7(Y�(s��roz�}gY?�s�aqco�x{h[ ONTO MONPR ONQU

:���� 0A

OQN?�s 0s�������s����`�b MONOT ONXQ ONOS

OPN��n�$f|\jrY?�s<]`�vkmah ONPP ONVS MONPV

QUN�t 0scovn<]z}q[ ONOQ MONVQ ONOS

ORNp�qF1�o|ua_YDum[| ONOW ONTV ONOU

PTNRO3rq|vns����9mm[| MONPS ONTT ONPQ

PPN+}s>2`Z| ONPX ONSR ONQR

:����)��K

PUN�sC�=b\jrY[~[~@�`6[mb| MONPQ MONOT ONXO

QVN">eh%Y����scorw-,eh[ ONOQ ONOP ONUX

PSN!.f|�`[| ONPQ ONOU ONSV

QSN 0ps>2r"bua_Y��s�r8Eem[| MONOQ ONQX ONSS

PNOO ONTQ ONST

PNOO ONRR

PNOO

引用文献

木川智美(2016). 女子大学生における親への愛着が キャリア発達におよぼす影響 パーソナリティ研

究,25(1),89-92. 附記

本研究は木川(2016)において行われた調査に基づくものである。

(KIKAWA Satomi)

PB27

― 94 ―

子どものデジタルゲーム利用に対する保護者の意識、介入行動 (2)

―親のゲームレーティング制度に対する意識―

○堀内 由樹子 1・寺本 水羽 1・松尾 由美 2・田島 祥 3・坂元 章 1

(1お茶の水女子大学・2関東短期大学・3東海大学)

キーワード:デジタルゲーム,保護者,web調査, レーティング制度, 性差

問題

テレビゲームは青少年に人気のあるメディアである

と同時に、社会的に望ましくない内容も含む場合があ

ることから、その悪影響が懸念されてきた。そうした

状況を受けてゲームソフトをその描写内容によって審

査し、利用推奨年齢や不適切な描写が含まれているこ

とを示すマークを付与する、レーティング制度が日本

でも開始された。本研究では、こうしたレーティング

制度に対して、日本の保護者がどのような認識を持っ

ているのか、その認識が子どもの利用状況や親の性別

でどのように異なるのか検討することとした。

方法

調査対象・調査時期・手続 スクリーニング調査に

より、web 調査会社の回答モニターの中から同居して

いる一番上の子どもが 3歳以上から高校 3年生までの

男女の保護者1000名を抽出し、調査対象とした。なお、

保護者の性別、子どもの学齢および性別に偏りがない

ようにデータ収集するため、均等に割り付けた。調査

は平成29年2月に実施した。

質問項目 子どものゲーム利用については、最近 1

年間の子どものデジタルゲーム利用(「あり」、「なし」)

を尋ねた。また、レーティング制度に対する意識につ

いては、レーティング制度は、有用である、使ってみ

たいなどの「肯定的意識」の7項目(α=.903)と、表現

の自由を阻害する、基準が厳しすぎるなどの「否定的

意識」5項目(α=.805)から構成されており、5件法(「1:

まったくそう思わない」~「5:とてもそう思う」)で

尋ねた。「肯定的意識」、「否定的意識」それぞれの評定

値の平均点を算出し、分析に使用した。

結果と考察

保護者の性別と子どものゲーム利用の2×2の2要因

の分散分析を実施した。「否定的意識」については、交

互作用、主効果ともに有意ではなかった。一方、「肯定

的意識」については、親の性別、子どものゲーム利用

の主効果が有意であった(F(1,996)=23.54, p<.001,

η2=.02; F(1,996)=49.93, p<.001, η2=.05)。母親の方が

父親よりもレーティング制度に対して肯定的な意識を

持っていた。また、子どもがゲームを利用している保

護者の方がレーティング制度により肯定的な意識を持

っていた。今後はこうした父親と母親の意識の違いが

子どもへの介入行動やゲーム接触の効果にどのように

影響していくのか検討する必要があるだろう。

Fig.1. 肯定的意識

Fig.2. 否定的意識

謝辞 アイオワ州立大学のDouglas Gentile教授には本研究の計画

立案にあたりご協力を頂きました。ここに感謝の意を表します。本研究はJSPS科研費 JP 16H03727の助成を受けたものです。

(HORIUCHI Yukiko, TERAMOTO Mizuha, MAT

SUO Yumi, TAJIMA Sachi, SAKAMOTO Akira)

PB28

― 95 ―

表1 保護者の性別と子どもの性別ごとの平均値

子どもの性別ごとの平均値制限的介入(時間制限) 13.18 (12.33) 14.35 (11.98) 14.20 (12.32) 13.35 (12.01)

制限的介入(内容制限) 6.40 (10.44) 8.19 (11.80) 6.81 (10.81) 7.76 (11.51)

制限的介入(交流制限) 10.33 (11.21) 12.92 (11.11) 11.27 (10.96) 11.98 (11.48)

積極的介入(語りかけ) 13.73 (5.85) 14.21 (6.63) 14.51 (6.39) 13.45 (6.07)

積極的介入(問いかけ) 13.25 (5.71) 13.87 (6.43) 14.03 (6.22) 13.11 (5.92)

共利用 5.95 (2.76) 5.20 (2.36) 5.87 (2.82) 5.29 (2.32)

モニタリング 5.99 (2.90) 5.87 (2.98) 6.05 (3.06) 5.82 (2.82)

注)括弧内は標準偏差

保護者の性別(N =700) 子どもの性別(N =700)

男性(n =349) 女性(n =351) 男子(n =345) 女子(n =355)

子どものデジタルゲーム利用に対する保護者の意識、介入行動(3)

―養育的介入行動における保護者と子どもの男女差―

○寺本水羽 1・堀内由樹子 1・松尾由美 2・田島祥 3・坂元章 1

(1お茶の水女子大学・2関東短期大学・3東海大学)

キーワード:デジタルゲーム,メディア利用への保護者の介入行動,Web 調査

問題

子どものゲーム利用に関する保護者の介入方法には、しつけ

の一環として行われる養育的介入と、フィルタリング設定など

を用いる技術的介入がある。本研究では、子どもがデジタルゲ

ームを利用している家庭において、保護者がどのような養育的

介入行動を行っているのかについての実態把握を目的とする。

方法

調査対象と調査時期:2017 年 2月に実施したWeb 調査会社

のスクリーニング調査において、同居している子どものうち年

齢が一番上の子ども(以下、子ども)が 3 歳以上高校 3 年生以

下の男女1700名を抽出した。そのうち子どもが最近1年間にテ

レビゲーム・パソコンゲーム・スマホなど携帯端末でのゲーム

で遊んだと回答した保護者 700 名に、家庭での子どものデジタ

ルゲーム利用においての介入行動についてたずねた。回答者の

性別および子どもの性別と学年に偏りが出ないように均等に割

り付けた。

調査項目

制限的介入:①「宿題、勉強などやるべきことが終わってか

らでないと、デジタルゲームで遊んではいけない」等の時間制

限に関する5項目、「現実世界に近いリアルな描写の暴力シーン

のあるデジタルゲームでは遊ばせない」等の内容制限に関する4

項目、「インターネットに接続して他のユーザーと遊んだり、交

流したりするゲームはやらせない」等の交流制限に関する 4 項

目についてたずね、このようなルール・方針が「ある」と回答

した場合を 1、「なかった/あったかわからない」と回答した場

合を 0 とコード化した。②続いて方針があると選択した回答者

に対してこのルール・方針をどの程度厳しく守らせたかを「1.

ぜんぜん厳しく守らせなかった」~「4.かなり厳しく守らせた」

の 4 件法でたずねた。③最後に①と②を掛け合わせた数値を時

間制限・内容制限・交流制限の項目ごとに合計したものをそれ

ぞれ分析に使用した。

積極的介入(語りかけ):「デジタルゲームで起こる出来事は、

現実とは違うことを、お子さんに、話してきた」や「デジタル

ゲームの暴力行為の真似をしないようにとお子さんに、話して

きた」等の8項目を「1.まったくなかった」~「4.よくあった」

の4件法でたずねた(以下同様)。

積極的介入(問いかけ):「デジタルゲームの暴力行為につい

てどのように思うか」や「デジタルゲームで楽しく遊ぶために

どうしたらよいか」を尋ね子どもに考えさせた等の 8 項目につ

いて4件法でたずねた。

共利用:子どもと一緒に闘いシーンのあるデジタルゲームで

遊んだりその画面を見たりする等、子どもと一緒にデジタルゲ

ームを利用・視聴することに関わる4項目を4件法でたずねた。

モニタリング:ソーシャルネットワークやオンラインコミュ

ニティでのプロフィールをチェックしたりゲームの履歴をチェ

ックしたりする等の4項目について4件法でたずねた。

結果

子どもの性別と保護者の性別を独立変数、各介入項目の合計

算出得点を従属変数とする分散分析を行ったところ、いずれの

変数においても交互作用はみられなかった。制限的介入のうち

内容制限(F(1, 696)=4.50, p<.05)および交流制限(F(1, 696)=9.35,

p<.01) においては保護者の性別の主効果がみられ、共利用にお

いては子どもの性別(F(1, 696)=8.95, p<.01)と保護者の性別(F(1,

696)=14.98, p<.001)の主効果がみられた。積極的介入では、語

りかけ(F(1, 696)=5.10, p<.05)および問いかけ(F(1, 696)=4.09,

p<.05)の両方で子どもの性別の主効果がみられた。制限的介入の

時間制限およびモニタリングは、主効果においても有意な結果

はみられなかった。

考察

時間制限をのぞいた制限的介入においては母親が、共利用に

おいては父親がより介入を行っており、家庭内で保護者の性別

によって異なる介入が行われていることが示唆された。また、

子どもの性別では、積極的介入と共利用において男子に対する

介入行動がより多く行われていることがうかがえた。今後は、

こうした介入行動における性差についてより詳細に把握するた

めに、子どもを学校段階ごとに分けた検討などを進めていく必

要があると考えられる。

謝辞 この研究は、JSPS科研費 JP 16H03727助成を受けて行われたも

のです。研究立案にあたりご協力いただいたアイオワ州立大学のDouglas

Gentile教授に感謝の意を表します。

(TERAMOTO Mizuha, HORIUCHI Yukiko, TAJIMA Sachi,

MATSUO Yumi, SAKAMOTO Akira)

PB29

― 96 ―

子どものデジタルゲーム利用に対する保護者の意識、介入行動(4)

―各学校段階における養育的介入行動と問題行動との関連―

○松尾由美 1・堀内由樹子 2・寺本水羽 2・田島祥 3・坂元章 2

(1関東短期大学・2お茶の水女子大学・3東海大学)

キーワード:デジタルゲーム、デジタルゲーム利用への保護者の介入行動、Web 調査

問題

松尾ら(2017)では、子どものデジタルゲーム利用に対する保

護者の介入行動が子の学校段階によって異なることが示された。

本研究では、学校段階による保護者の介入行動の違いが子ども

の問題行動に関連があるかどうかを検討することを目的とする。

方法

調査対象者 寺本ら(2017)と同様の対象者を分析対象とした。

調査項目 回答者(保護者)の性別、子どもの性別・学年、ゲー

ム利用状況等に加え、以下の項目を尋ねた。

(1)問題行動尺度:金山ら(2006)の幼児用問題行動尺度に、幼

児から高校生の問題行動に該当するよう修正を加えた 13 項目

(外在化問題行動 8項目、内在化問題行動 5項目)を、「1:全く見

られなかった」~「5:非常によく見られた」の 5件法で尋ねた。そ

れぞれの下位尺度ごとに平均値を算出した。

(2)子どものデジタルゲーム利用への養育的介入行動:制限

的介入に関わる「時間制限(5項目)」、「内容制限(4項目)」、「交流

制限(4 項目)」について、このようなルール・方針は「あった」「な

かった」「わからない」の 3件法で尋ねた。「あった」場合を 1、「な

かった」「わからない」を 0 とし、各介入行動種別に平均値を算出

した。さらに、「積極的介入・語りかけ(8項目)」「積極的介入・問い

かけ(8項目)」、「共利用(4項目)」「モニタリング(4項目)」について、

「まったくなかった」~「よくあった」の 4 件法で尋ね、各介入行動

の種別に平均値を算出した。項目の詳細は寺本ら(2017)参照。

結果とまとめ

子どもの学年を幼児、小学生低学年(1~3年)、高学年(4~6年)、

中学生、高校生の 5 群の学校段階に分けた。学校段階と保護者

の性別はダミー変数化した。学校段階による保護者の介入行動

の違いと、子どもの問題行動との関連を検討するために、第一ス

テップに保護者の性別(男性を1とするダミー変数)、第二ステッ

プにダミー変数化した学校段階と、中心化した介入行動、第三ス

テップに両変数の交互作用項を説明変数に投入し、各問題行動

得点を目的変数とする階層的重回帰分析を行った。

内在化問題行動との関連

内在化問題行動得点を目的変数とする分析では、交流制限と

モニタリングにおいて第三ステップでの交互作用項投入による

R2変化量が有意であり交互作用効果が見られた。

モニタリングと交流制限における交互作用効果について、学

校段階によって、介入行動と問題行動との関連が異なるかどうか

を検討するため、学校段階別に、保護者の性別(男性を1とする

ダミー変数)、介入行動を説明変数、問題行動を目的変数とする

重回帰分析を行った (表 1 参照)。その結果、交流制限では、小

学生低学年のみで、介入行動と内在化問題行動得点との間に有

意な正の関連が見られた。一方、モニタリングでは、幼児、小学

生低学年・高学年、中学生において、介入行動と内在化問題行

動得点との正の関連が有意であり、学校段階があがるにつれて、

介入行動と問題行動得点との関連が小さくなっている傾向が見

られた。

その他の介入行動では、時間制限以外で第二ステップでの

R2変化量が有意であり、介入行動と内在化問題行動との関連が

見られた。すなわち、内容制限(Β=.19, p<.01, R2=.03)、語りかけ

(Β=.39, p<.001, R2=.08)、問いかけ(Β=.36, p<.001, R2=.07)、共利

用(Β=.43, p<.001, R2=.09)は、学校段階によらず、内在化問題行

動との関連が示された。

外在化問題行動との関連

外在化問題行動を目的変数とする分析では、いずれの介入

行動においても第三ステップでの交互作用項投入による有意な

R2の変化が見られず、第二ステップでの R2変化量のみが有意

であった。さらに、第二ステップにおいて、内容制限・交流制限

以外の介入行動と外在化問題行動との間に有意な正の関連が

見られた。すなわち、時間制限(Β=.20, p<.01, R2=.06)、語りかけ

(Β=.43, p<.001, R2=.11)、問いかけ(Β=.38, p<.001, R2=.10)、共利

用(Β=.42, p<.001, R2=.10)、モニタリング(Β=.34, p<.001, R2=.09)

は、学校段階によらず、外在化問題行動との関連が示された。

まとめ

学校段階による関連の違いは一部の介入行動でしか見られず、多くの介入行動では学校段階によらず問題行動との間に正の関連が見られた。今後縦断調査等を行い、介入行動と問題行動の因果関係を明らかにすることが求められる。 引用文献

金山元春・中台佐喜子・磯部美良・岡村寿代・佐藤正二・佐藤容子 (2006). 幼児の問題行動の

個人差を測定するための保育者評定尺度の開発 パーソナリティ研究,14,235-237.

寺本水羽・堀内由樹子・松尾由美・田島祥・坂元章(2017). 子どものデジタルゲーム利用に対す

る保護者の意識、介入行動(3) 介入行動における保護者と子どもの男女差 日本パーソナリティ心

理学会第26回大会発表予定

松尾由美・堀内由樹子・田島祥・寺本水羽・坂元章(2017). 子どものデジタルゲーム利用に対す

る保護者の意識、介入行動(6) 学校段階別の介入行動 日本心理学会第81回大会発表予定

謝辞 アイオワ州立大学のDouglas Gentile教授には本研究の調査実施にあたりご協力を頂きました。

ここに感謝の意を表します。本研究は JSPS科研費 JP 16H03727の助成を受けたものです。

(MATSUO Yumi, HORIUCIH Yukiko, TAJIMA Sachi, TERAMOTO Mizuha, & SAKAMOTO Akira)

表1 各学校段階における介入行動と問題行動の関連

注)表中の数値は非標準化偏回帰係数を示す。†p<.10,*p<.05, **p<.01, ***p<.001

R2

R2

R2

R2

R2

交流制限 .15 .18 .01 .22 † .34 * .05 .14 -.20 .02 .20 † -.17 .02 .15 .20 .01

モニタリング .04 .71 *** .14 .13 .56 *** .13 .15 .36 ** .07 .19 † .29 * .05 .14 .15 .01

介入 保護者性別 介入 保護者性別 介入

幼児 小学生低学年 小学生高学年 中学生 高校生保護者性別 介入 保護者性別 介入 保護者性別

PB30

― 97 ―

子どものデジタルゲーム利用に対する保護者の意識、介入行動(5)

―各学校段階における技術的介入行動と問題行動との関連―

○田島 祥 1・堀内由樹子 2・寺本水羽 2・松尾由美 3・坂元 章 2

(1東海大学・2お茶の水女子大学・3関東短期大学)

キーワード:デジタルゲーム,保護者,介入行動,問題行動,Web 調査

問題

本研究では,松尾ら(2017)に続き,デジタルゲー

ム利用に対する介入行動の一種である技術的介入に着

目し,学校段階や問題行動との関連を検討する。

方法

調査対象と調査時期 2017年2月にWeb調査でスク

リーニング調査を行い,同居の子どものうち年齢が一

番上の子ども(以下,子ども)が 3歳以上高校 3年生

以下の男女1,700名を抽出し,本調査を依頼した。保護

者の性別や子どもの学年及び性別に偏りがないよう均

等に割り付けた。本稿では,家庭で携帯ゲーム機やス

マホなどの携帯機器を所有していると回答した 1,468

名(男性720名,女性748名)の結果を報告する。

調査項目 子どもの学年(年少相当~高校 3 年)に

加え,以下を尋ねた。(1)技術的介入行動:その子ど

もが使う携帯ゲーム機や携帯機器について,①スパム/

ジャンクメールやウィルス対策,②サイトのブロック

やフィルタリング,③サイトの閲覧履歴の追跡・確認,

④ネット利用時間の制限に関する設定やソフトウェア

を利用しているかを「わからない」「利用・設定してい

ない」「一部の機器で利用・設定している」「すべての

機器で利用・設定している」から 1 つ選択させた。後

者 2つを合わせ,不明・未使用・使用の 3カテゴリー

で集計した。(2)問題行動尺度:松尾ら(2017)と同

様に外在化問題行動と内在化問題行動を得点化した。

結果と考察

学校段階と介入行動 子どもの学年を,幼児(年少

~年長相当),小学生低学年(1~3年),小学生高学年

(4~6年),中学生,高校生に分け(以下,学校段階),

介入行動を比較した。いずれも未使用がもっとも多く,

χ2検定の結果,人数の偏りが有意だった(表1)。残差

分析の結果,他の学校段階に比べて幼児は未使用が多

かった。保護者と機器を共有しているためではないか

と考えられる。小学生では他に比べて時間制限に関す

る設定が多く,高学年ではフィルタリングの設定も多

かった。中学生ではフィルタリングとウィルス等への

対策が多かった。高校生では他に比べて不明が多く,

保護者があまり把握していない様子がうかがえた。

問題行動との関連 各介入行動について,不明・未

使用を0,使用を1とカテゴリー化した上で合計し,得

点を中心化した。学年も同様に中心化し,交互作用項

を作成した。両変数と問題行動との関連を検討するた

めに,Step1 で保護者の性別を,Step2 で介入行動と学

年を,Step3で交互作用項を投入した階層的重回帰分析

を行った。外在化・内在化問題行動共に,Step3 での

R2変化量は有意ではなく,交互作用はみられなかった。

Step2での結果を表 2に示す。いずれの問題行動におい

ても,学年によらず技術的介入行動と問題行動には正

の関連があることや,介入行動によらず,学年と問題

行動には負の関連があることが示された。今後は,縦

断調査等により,因果関係を含めた詳細な検討を行っ

ていくことが望まれる。

表2. 学校段階,介入行動と問題行動の関連 外在化問題行動 (Step2; R2=.05)

内在化問題行動 (Step2; R2=.02)

保護者の性別(女性ダミー) -.64*** -.60*** 介入行動(中心化) -.31*** -.21*** 学年(中心化) -.26*** -.05***

注)表中の数値は非標準化偏回帰係数を示す。*p<.05, **p<.01, ***p<.001

引用文献 松尾由美・堀内由樹子・寺本水羽・田島祥・坂元章(2017)子

どものデジタルゲーム利用に対する保護者の意識、介入行動(4)-各学校

段階における養育的介入行動と問題行動との関連-, 日本パーソナリティ

心理学会第 26 回大会発表予定. 謝辞 調査実施にあたりご協力いただい

たアイオワ州立大学のD. Gentile教授に感謝の意を表します。本研究はJSPS

科研費JP16H03727の助成を受けて実施されました。

(TAJIMA Sachi, HORIUCHI Yukiko, TERAMOTO Mizuha, MATSUO Yumi & SAKAMOTO Akira)

表1. 学校段階ごとの子どものデジタルゲーム利用に関わる技術的介入行動の実施者数及びχ2検定の結果

幼児(n=264) 低学年(n=287) 高学年(n=300) 中学生(n=311) 高校生(n=306) χ2 df Cramer's V

① 不明 42 (-2.12)* 48 (-1.86) 57 (-0.82)** 73 (-1.36)* 84 ( 3.27)**

41.97*** 8 .12 未使用 180 (-4.81)** 170 (-1.67) 165 (-0.06) 145 (-3.28)** 145 (-2.94)** 使用 42 (-3.57)** 69 (-0.18) 78 (-0.70) 93 (-2.52)* 77 ( 0.32) *

② 不明 38 (-2.02)** 43 (-1.85)* 51 (-0.90)* 63 (-0.74)** 81 ( 3.86)**

58.21*** 8 .14 未使用 187 (-5.65)** 167 (-1.14)* 152 (-1.76)** 146 (-3.29)** 158 (-1.40) * 使用 39 (-4.60)** 77 (-0.35)* 97 (-2.79)** 102 (-3.07)** 67 (-1.85) *

③ 不明 40 (-2.89)** 52 (-1.68) 60 (-0.85) 80 (-1.89)** 88 ( 3.31)**

34.75*** 8 .11 未使用 196 (-3.94)** 186 (-0.44) 186 (-0.68)* 180 (-2.40)** 187 (-1.06) * 使用 28 (-1.99)** 49 (-1.37) 54 (-1.92)* 51 (-1.07) * 31 (-2.44)*

④ 不明 38 (-2.33)* 43 (-2.18)* 55 (-0.60) 71 (-1.64) * 80 ( 3.27)**

38.83*** 8 .12 未使用 198 (-3.72)** 189 (-0.29) 181 (-1.95)* 195 (-1.01) * 193 (-0.85) * 使用 28 (-2.35)* 55 (-2.01)* 64 (-3.24)** 45 (-0.47) * 33 (-2.48)*

注)①~④は調査項目(1)の内容に対応している。また( )内の数値は調整済み残差を示す。*p<.05, **p<.01, ***p<.001

PB31

― 98 ―

ゆるしとゆるせなさの特性と個人特性の検討

〇岡部 楓子 1・菅原 大地 1,2・杉江 征 3

(1筑波大学大学院人間総合科学研究科,2 日本学術振興会,3 筑波大学人間系)

キーワード:ゆるし,ゆるせなさ,精神的健康

問題と目的

心理学における一貫したゆるしの定義はないが,ゆる

しは感情を害させたものに対する憎しみ,憤りなどの感

情,認知,行動,動機づけの向社会的変化である,とい

う点については多くの研究者が同意している(Enright &

Coyle,1998)。またWorthington & Wade(1999)によってゆ

るせなさは「加害者への回避動機や報復動機に付随する

恨みや苦しみ,憎しみを含む冷淡な感情」と定義されて

いる。ゆるしとゆるせなさは必ずしも対極の概念ではな

いとされ,これらを2次元でとらえると,ゆるしとゆる

せなさがともに高い人はゆるしとゆるせなさの評価の間

で判断が揺れ動き,高い葛藤状態にあるのではないかと

推察される。こうした群は感情制御に何らかの問題があ

るのではないかと考えられ,その結果,精神的健康に何

らかの悪影響があるのではないかと推察される。

ゆるしにはさまざまな個人特性との関連が示されてい

る。怒りや共感性はゆるしとの間には関連を示すことが

報告されているが,ゆるせなさを扱った研究でこれらの

変数との関連を示した研究はない。

本研究では,他者を「ゆるす傾向」と「ゆるさない傾

向」をそれぞれ「ゆるし特性」「ゆるせなさ特性」と

し,個人特性がどのように関係しているのかを検討する

ことを目的とする。分析では,ゆるし・ゆるせなさ特性

が精神的健康に及ぼす直接的な影響と,それらに個人特

性がどのように関わるかを検討するために,ゆるし・ゆ

るせなさ特性から精神的健康へのパス,それらを個人特

性が媒介するモデルを想定した。

方法

回答者 関東圏の大学・愛知県の大学に在籍する大学生

238名(男性68名,女性170名,平均年齢20.50歳)。

手続き 集合調査形式,個別配布個別回収形式で実施し

た。調査時期は2016年10月~11月であった。

質問紙 ①許し尺度(加藤・谷口,2009)②The

Japanese Transgression-Related Interpersonal Motivations

(TRIM)Inventory(Ohtsubo, Yamaura, & Yagi, 2015)③ゆるせ

なさを測定する項目(Madelynn, Rachel, & Susan, 2016)④怒

り喚起・持続尺度(渡辺・小玉,2001)⑤情動的共感性

尺度(加藤・高木,1980)⑥感情制御困難性尺度(山

田・杉江,2013)⑦人生に対する満足度尺度(角野,

1992)⑧K6日本版(古川・大野・宇田・中根,2003)

結果

ゆるしとゆるせなさ特性が個人特性に及ぼす影響

ゆるしとゆるせなさ特性が個人特性・精神的健康に及

ぼす影響を検討するために共分散構造分析によるパス解

析を行ったところ,Figure 1 のモデルが得られた。適合

度を改善するため共感性は分析の過程で削除している。

モデルの適合度は CFI=1.000,GFI=0.997,AGFI=0.986,

RMSEA=0.000であった。すべてのパスが有意であり,実

線は正のパスを,破線は負のパスを表し,矢印の傍らに標

準化係数を付した(誤差変数は省略)。

Figure 1 ゆるしとゆるせなさ特性が個人特性に及ぼす影響

考察

感情制御困難性を媒介してゆるし・ゆるせなさ特性か

ら精神的健康への影響はみられなかった。結果から「ゆ

るし特性」と「ゆるせなさ特性」では精神的健康に影響

する過程が異なっており,このことから2つは単なる対

極の概念ではなく異なる性質を有していると考えられ

る。ゆるしとゆるせなさの併存性については今後さらな

る検討が必要だと考えられる。

(OKABE Fuko,SUGAWARA Daichi,SUGIE Masashi)

PB32

― 99 ―

親の期待に対する行動に影響を与える要因

―感情と行動動機に注目して―

○春日秀朗

(立命館大学文学部)

キーワード:期待,行動,感情,動機,自尊感情

問題

期待がもたらす影響として,親の期待に沿うことを

優先しすぎたり,自己を抑制してしまうことにより,

目標の喪失や精神的健康を損なってしまうことが挙げ

られる。そのため,期待に対しての主体的な行動が重

要であると考えられる(池田,2009)が,行動だけを

見て,それが主体的に行われたものであるか否かを判

断することは難しい。本研究では期待に対する感情と,

行動を選択する際に重視した動機の影響を検討し,行

動の背後にどのような要因があるのか,またどのよう

な影響を与えるのか検討することを目的とした。

方法

対象者 大学生 327 名(男性 112 名,女性 215 名,

うち,エストニアの大学生105名(男性23名,女性82

名))を対象とした。

質問項目 親からの期待に対して抱いた感情,選択

した行動,行動選択の際に重視した動機(春日,2015)を尋ねた。

結果と考察

感情の抱き方について,クラスター分析による分類

を行った結果,自律欲求・励み感情高群,励み感情高

群,不満感情・自律欲求高群,不満感情高群の 4 群と

なった。それぞれの群において,行動を目的変数とし

た重回帰分析を行った結果(表 1),「調整行動」には「自

律欲求」とともに「孝行心」が正の影響を与えていた。

親との調整という行動は,主体的であるとともに,利

他的な動機からも影響を受けていることが示された。

「表面的迎合」に対しては,「義務」「権威」からの正の

影響が見られ,圧力を感じていたことがしあされる一

方で「自律欲求」からも正の影響が見られた。「励み感

情」が高い場合,「表面的迎合」には圧力に対するその

場しのぎだけではなく,自身の選択として主体的に選

択しているのではないかと考えられる。 励み感情が高

い群と不満感情が高い群では影響の方向が反転してい

るように,期待に対してどのような感情を抱けている

のかにより,感情自身や行動の質が異なることが示唆

された。

引用文献

池田 幸恭 (2009). 大学生における親の期待に対する

反応様式とアイデンティティの感覚との関係. 青

年心理学研究, 21, 1-16.

自律・励み .20 *** -.27 *** .36 *** .19 **

励み .31 *** .09 *

不満・自律 -.48 *** .21 ***

不満 -.26 *** .06 ***

自律・励み .36 *** .25 *** .27 *** .34 ***

励み .28 *** .59 *** .42 ***

不満・自律 .53 *** .29 *** .50 ***

不満 .40 *** -.32 *** .35 ***

自律・励み .30 *** .27 *** .20 ***

励み .36 *** .41 *** .29 ***

不満・自律 .51 *** -.30 *** .35 ***

不満 .59 *** -.18 *** -.18 *** .43 ***

β(動機)

表1 行動と自尊感情に影響を与える要因

不満感情 励み感情 権威 義務 孝行心自律欲求

調整行動

表面的迎合

反発

ΔR2行動 群β(感情)

(Hideaki Kasuga)

PB33

― 100 ―

キャンプ体験で生じる曖昧な感情表現の特徴について

―ZICEの分析で用いられる感情カテゴリの再検討(2)― ○森慧太朗・後藤龍太・五十嵐麻希・山下温子・山元隆子・吉田香奈・渡邉智絵・平野直己

(岩見沢キャンプ心理学研究会) キーワード:キャンプ体験・曖昧な感情表現・ZICE

問題

筆者らはキャンプ参加者のダイナミックな体験を

場・テーマ・感情の 3 つの観点から捉える Zawa Interview for Camp Experience(以下、ZICE)を用

いて研究を行ってきた(後藤ら,2007 など)。これま

で、ZICEで聴取された感情にあたる語りは、キャンプ

に関連する論文から感情に関する記述を抽出し、作成

した感情カテゴリ(山元ら, 2010)を用いて分析されて

きた。しかし、感情にあたる語りをコーディングする

上で、感情カテゴリの表現が聴取された語りと十分に

一致せず、分類がしにくいという問題が生じた。そこ

で、森ら(2016)は、あるキャンプの参加者 20 名を

対象に ZICE を実施し、聴取された感情にあたる語り

を、KJ法によって分類した。その結果、語りに基づい

た12の感情カテゴリが作成され、カテゴリに分類され

ないものは「その他」としてまとめた。「その他」は何

らかの感情が含まれていることが推測されたが、明確

に感情が表現されていないなどの意見があった。 本研究では、新たに作成した感情カテゴリの適用可

能性についてこれまでの ZICE データを用いて検討す

る。特に「その他」の感情表現に焦点づけて考察する。 方法

【調査】2010 年〜2015 年の間に開催された 7 つのキ

ャンプの参加者176名(小学生〜高校生130名、ボラ

ンティア・スタッフ46名)にZICEを実施した。 【分析の手順】①ZICEで聴取した語りから感情にあた

る部分を抽出した。②抽出された語りについて、森ら

(2016)の作成した感情カテゴリを用いて分類し、当て

はまらないものは、分析者7名で討議し分類を行った。 結果

データから聴取された感情にあたる語りは2575個

であり、明確な感情表現として新たに追加した「恥ず

かしい」を含めた13カテゴリと「その他」に分類され

た(表1)。「その他」はさらに4つの下位カテゴリに

分類され、「〜かな」145個、「多義的」177個、「〜で

はない」86個、「その他」245個であった。「〜かな」

は語尾に『かな』をつけることで、確認や疑問、戸惑

い、推測、思いやりといった意図を加えた表現であっ

た。「多義的」は「すごい」など受け取る側によって複

数の感情が想起される表現や、「別に」など感情を抑え

た表現、「どきどき」などオノマトペの表現であった。

「〜ではない」は「楽しくない」などその場で実際に

体験していた感情について言及せず、ある感情を否定

した表現であった。分類しきれなかった「その他」は

「簡単」といった感想に近い内容の表現であった。 考察

今回、新たに分類した感情カテゴリは、森ら(2016)で作成した12カテゴリと一致し、「恥ずかしい」を追

加することができた。そして、「その他」の内容を検討

することで、キャンプ体験によって生じる曖昧な感情

表現の特徴を明らかにすることができた。曖昧な感情

表現は、「楽しい」など一般的に感情と呼ばれるものと

は異なり、様々な表現方法を用いて、一言では明確に

表現しきれないような感情を込めたものである。キャ

ンプにおける感情体験は、プログラムの性質やそこで

経験される対人関係の性質によって複雑なものとなる

ことが予想される。そのため、聴取する者が曖昧な感

情表現に注目し、明確化させる質問を行うことで、参

加者の感情体験をより細やかに捉えられるであろう。 表 1.抽出された感情にあたる語りの分類結果

(MORI Keitaro,GOTO Ryota,IGARASHI Maki,YAMASHITA Atsuko,YAMAMOTO Takako,YOSHIDA Kana,WATANABE Chie,HIRANO Naoki)

PB34

― 101 ―

アレキシサイミア傾向が表情の情動認知に及ぼす影響

○福井義一 1・松尾和弥 2

(1甲南大学・2甲南大学大学院人文科学研究科)

キーワード:アレキシサイミア,表情の情動認知,呈示時間

問題

心身症の背景要因であるアレキシサイミア(Alex)傾

向を持つ者は,自分の体感や感情を認識するのが困難で

あるだけではなく,他者の情動を理解することも苦手で

あり,特に表情から正確に他者の情動を読み取ることに

問題があるという(例,小松, 2005; Parker et al., 1993,

2005)。

ところで,Alex傾向の高い者は,表情画像の呈示時間

を 1000msと短くすると,つまり表情をじっくりと見る

ことが不可能な状態では,表情の情動認知がより不正確

になることが分かっている(Parker et al., 2005)。この

結果は,Alexによる表情の情動認知の不正確さを検討す

る際に,呈示時間が重要な要因の一つであることを意味

していると考えられる。しかしながら,従来の研究では,

呈示時間が 1000ms 以上に設定されていることが多く,

それより短い呈示時間で検討を行っている研究は,筆者

らの知る限り存在しない。

そこで,本研究では,表情刺激の呈示時間を500msと

した上で,Alex傾向が表情の情動認知に及ぼす影響を検

討した。

方法

協力者:平均年齢:21.83歳(SD = 2.40)の大学生・大

学院生104人(男性:59人,女性:45人)であった。

尺度構成:Alex 傾向を測定するために,後藤他(1999)

による Galex を用いてた。4 つの下位尺度を因子分析に

より,「体感・感情の認識表現困難(Alex 1)」と「空想・

内省困難(Alex 2)」に集約した。

表情の情動認知課題:島(2014)の表情認知課題用刺激セ

ットより5つの表情(喜び,恐怖,悲しみ,怒り,ニュー

トラル表情)を使用した。500msの注視点に続いて,表情

が 500ms でランダムに呈示された後,4 つの情動語(喜

び,恐怖,悲しみ,怒り)のうち一つに対して,当該情動

の表出強度を5件法で評定させた。Parker et al.(1993)を

参考に,表情ごとに情動認知の正確さ得点(以降,正確さ

得点=(表情と一致した情動 / 表情と一致しない情動の

総計)100)を算出した。なお,ニュートラル表情は,一

致する情動が存在しないため,表情と一致しない情動に

対する評定の総計のみを用いた。なお,表情の情動認知の

データは福井ら(2015),松尾ら(2015a, b, c, d, 2016),

Matsuo et al.(2016),大浦ら(2016)と同一であった。

結果

各表情の情動認知の正確さ得点を従属変数,性別と年

齢を統制変数,Alex 1,Alex 2とその交互作用項を独立

変数とした重回帰分析を行った。その結果,Alex 1は,

ニュートラル表情に対する評定を除く全ての表情認知の

正確さ得点に有意な負の影響を及ぼしていた(β =-.187

~-.266)。さらに,恐怖表情の正確さ得点に対してのみ,

交互作用が有意であり,単純傾斜の検定の結果,Alex 1に

よる負の影響は,Alex 2が高い場合にのみ強く表れ,Alex

2が低い場合には消失することが分かった(Figure 1)。

考察

本研究から,表情の呈示時間が非常に短くなると,Alex

1 は表情の情動認知の正確さを低下させるが,Alex 2 は

間接的な影響しか持たないことが分かった。自己を客観

的に捉えるスキルが他者理解に援用されることが知られ

ている(守口, 2014)が,Alex 1が高い者はそのスキルが

低いのであろう。また,恐怖表情に対して,Alex 2の調

整効果が得られたが,空想や内省は生存上最も重要な恐

怖表情に対してのみ,Alex 1による自己理解のスキル不

足を補う役割を一部なりとも果たしているのかもしれな

い。 (FUKUI Yoshikazu, MATSUO Kazuya)

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

-1SD +1SDAlex 1

Figure 1 単純傾斜の検定の結果

Alex 2 -1SD

Alex 2 +1SD

恐怖表情の正確さ得点

β =-.009, n.s.

β =-.471, p <.001

PB35

― 102 ―

企業における「新型うつ」事例に対するイメージの実態把握

―従来型うつ病事例との比較に基づいて―

○樫原 潤 1, 2・亀山晶子 1・山川 樹 1・村中昌紀 1・坂本真士 1

(1 日本大学文理学部 2 日本学術振興会)

キーワード:うつ病,新型うつ,社会的認知,会社員

問 題

近年の日本では,従来型のうつ病とは異なる特徴

(例えば,対人過敏傾向,自己優先志向) をもつ抑うつ

症候群,いわゆる「新型うつ」の存在が指摘されてお

り,特に一般企業において問題視されるに至っている

(坂本・村中・山川, 2014)。本研究では,従来型うつ病

と新型うつの事例を描いた文章 (ビネット) を会社員

に提示して印象評定を求める調査を実施した。新型う

つ事例に対するイメージの実態や特徴を,従来型うつ

病事例との比較に基づいて把握することを目的とした。

方 法

調査概要 調査は 2017年 2月に実施した。調査会社の

アンケートモニターに登録する会社員のうち,「25–29

歳であり,かつ役職がない (非管理職)」「40–49歳であ

り,かつ課長クラス以上である (管理職)」という各条

件に合致する者を対象として回答募集を行った。有効

回答を行った非管理職208名 (男性 85名,女性123名;

平均 27.16 歳) と管理職 245 名 (男性 118 名,女性 127

名; 平均 45.47歳) のデータを分析対象とした。

ビネット Sakamoto, Yamakawa, & Muranaka (2016) が

開発した,従来型うつ病と新型うつのビネットに微修

正を施し,回答者ごとにランダムな順序で提示した。

質問項目 各ビネットの人物に関して,①実在可能性

(1: 滅多にいない― 7: 非常によくいる),②「職場の対

人関係」「仕事」「私生活全般」に関する機能障害の程

度 (1: 問題ない― 7: うまくいっていない) を7件法で

評定するように求めた。さらに,サポートの意図の有

無 (ビネットの人物が周りにいた場合,誰かに相談や

援助を求めるよう勧めるか否か) を,「はい」「いいえ」

の 2択で回答するように求めた。

結果と考察

まず,分散分析を実施した結果,実在可能性と機能

障害の程度に関する全ての評定値に関して,有意なビ

ネットの主効果が確認された (Table 1)。具体的には,

従来型うつ病事例と比べ,新型うつ事例は,①実在可

能性が低く評定されるものの,その効果量は小さい

(F(1, 451) = 3.86, p = .050, η2 = .01),②職場の対人関係や

仕事の面では,機能障害の程度が高いと評定される

(Fs > 80.58, ps < .001, η2s > .15) ことなどが示された。

次に,サポートの意図の有無に関する比較を行った。

従来型うつ病事例へのサポートの意図を示した回答者

は,非管理職・管理職を通じて 87.2%に上ったが, 新

型うつ事例へのサポートの意図を示した回答者は

65.3%にとどまった。McNemar 検定の結果,サポート

の意図の有無に対するビネットの種類の効果が有意で

あったことが示された (χ2(1) = 84.99, p < .001)。

上記の一連の結果を踏まえ,新型うつ事例に対して

は,「従来型うつ病事例以上に職場で困っている様子だ

が,サポートしたくはない」という,いわば「厄介者」

的なイメージが抱かれている可能性があると考察した。

(KASHIHARA Jun, KAMEYAMA Akiko, YAMAKAWA

Itsuki, MURANAKA, Masaki, & SAKAMOTO Shinji)

M (SD ) M (SD ) M (SD ) M (SD )

実在可能性 4.91 (1.25) 4.81 (1.38) 5.07 (1.18) 4.93 (1.43) 3.86* 1.77 0.08

機能障害: 職場の対人関係 4.33 (1.48) 5.64 (1.18) 4.41 (1.51) 5.58 (1.31) 232.74*** 0.01 0.85

機能障害: 仕事 4.98 (1.36) 5.56 (1.21) 4.93 (1.45) 5.67 (1.23) 80.58*** 0.10 1.14

機能障害: 私生活全般 5.03 (1.32) 4.05 (1.46) 4.94 (1.45) 4.44 (1.54) 67.30*** 2.17 7.11

**

* p < .05, ** p < .01, *** p <.001

Table 1 従来型うつ病と新型うつのビネットに関する役職ごとの印象評定と,分散分析による平均値比較の結果

非管理職 管理職 ANOVA F

従来型 新型 従来型 新型ビネット 役職

役職 ×

ビネット

PB36

― 103 ―

中学生の解離傾向と問題行動の関連

○森彩乃

(お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科)

キーワード:中学生 , 解離傾向 , 問題行動

【問題】

解離体験は非病理群の子どもたちにもみられるもので

あり,病理群との連続体として捉えることが可能である

(Armstrong, Putnam, Carlson, Libero, & Smith, 1997)。しか

し,日本では一般人口中の子どもを対象とした量的研究

や,高い解離傾向を持つ子どもがどのような特徴をもつ

のかといった研究は未だ少ない。

解離性障害の診断がついている場合,抑うつのような

情動の障害や素行の障害が併存していることがある

(American Psychiatric Association, 2013 髙橋・大野監訳

2014)。一般中学生であっても,解離傾向の高さと情緒や

行動といった問題が併存している可能性があり,解離傾

向の理解とその後の支援をより適切なものにしてくため

には実態を捉える必要があると考えた。本研究では中学

生の解離傾向と問題行動に焦点を当て,各変数の関連に

ついて検討した。

【方法】

手続き 首都圏の私立中学校に自記式の質問紙調査を依

頼した。調査は2016年9~10月に実施した。対象は中学

1年生~3年生の生徒480名 (男子262名,女子218名)

であった。なお,本研究は所属大学において倫理審査を

受け,承認されたものである。

使用尺度 ① 解離傾向:The Adolescent Dissociative

Experiences Scale (A-DES; Armstrong et al., 1997) の日本

語版 (田辺, 2004) 30項目について,田辺の許可を得て

英語版同様0‐10の回答方式で使用した。

②問題行動: Strength and Difficult Questionnaire (SDQ,

“子どもの強さと困難さアンケート”)日本語版

(Goodman,1997,Sugawara,Sakai,Sugiura, Matsumoto,

2006)を用いて,「情緒の問題」「行為の問題」「多動/不注

意の問題」「仲間関係の問題」「向社会性の高さ」の5要

因について,各5項目3件法で測定した。

【結果と考察】

A-DESの平均点は1.89 (SD = 1.50) であった。学年

と性別を統制して A-DESと SDQの間の偏相関係数を算

出したところ,解離傾向は問題行動と有意な正の相関を

示した(Table 1)。このことから,解離傾向の高い子ども

は,情緒,行為,多動/不注意,仲間関係の問題と重複す

ることによって,問題が一層深刻化していることが予想

された。今後,因果関係を含めた検討を行うことで,問

題が重複するプロセスを明らかにすることが望まれる。

【引用文献(尺度)】

Armstrong, J. G., Putnam, F. W., Carlson, E. B., Libero, D. Z., & Smith,

S. R. (1997). Development and validation of a measure of adolescent

dissociation: The Adolescent Dissociative Experiences Scale. The

Journal of nervous and mental disease, 185, 491-497.

Goodman, R. (1997). The Strengths and Difficulties Questionnaire: a

research note. Journal of child psychology and psychiatry, 38(5),

581-586.

Sugawara, M., Sakai, A., Sugiura, T., Matsumoto, S., & Mink, I. T.

(2006). SDQ: The Strengths and Difficulties Questionnaire.

http://www.sdqinfo.com/

田辺肇 (2004). DES──尺度による病理的解離性の把握── 臨床

精神医学, 33(増刊号), 293-307.

※本研究はお茶の水女子大学大学院生研究補助金による助成を受けたものである。

(MORI Ayano)

1 2 3 4 5

1. 解離傾向

2. 情緒の問題 .42***

3. 行為の問題 .39***

.23***

4. 多動/不注意の問題 .31***

.35***

.42***

5. 仲間関係の問題 .26***

.24***

.21***

.16**

6. 向社会性の高さ .01 p

.03 p

-.08 p

-.17**

-.21***

Table 1 性別と学年で統制した変数間の関連

*p < .05,

**p < .01,

***p < .001

PB37

― 104 ―

対人恐怖症傾向者における他者意識の検討

―山下格の確信型対人恐怖について―

○吉田知弘

(筑波大学大学院人間総合科学研究科)

キーワード:確信型対人恐怖, 身体的欠点, 関係妄想性, 他者意識

問題

対人恐怖症とは, 「対人場面において過剰に自意識が

高まることによって, 身体的な兆候や心理的な動揺が

喚起され, その場からの逃避が誘発される症状」である

(相澤, 2009)。また, 対人恐怖症には自分の視線や体臭

などの身体的欠点が周囲にいる他者を不快にし, その

ことは他者の何気ない行動から直感的に感じ取られる

関係妄想性を伴った類型も存在する(朝倉・小山, 2009)。

この類型を山下格は確信型対人恐怖(以下, 確信型)と

呼んだ(山下, 2009)。

一方, 吉田(2015)は当事者側から確信型の病態に

ついてアドボケイトを行った。その内容とは, 当事者は

他者が存在する状況で自分の身体的欠点の表出を気に

することによって,その他者を意識する。すると, 他者

は気まずさを感じ, 対処行動として何気ない行動を生

起させる。つまり, 他者の何気ない行動は当事者の意識

によって誘発されている可能性がある(吉田, 2015)。

しかし, 吉田(2015)は質的研究であり, 信頼性が低

い. そこで, 本研究では, 自分の身体的欠点を気にし

ている者は周囲に存在する他者に意識を向けているか

を量的方法によって検討した。

方法

調査対象者 関東の私立大学に通う大学生 591 名

(男性 182 名, 女性 408 名, 性別不明 1 名), 年齢

(M=19.67, SD=0.94)

調査時期 2016年11月から12月

使用した尺度 Taijin Kyofusho Scale; TKS

(Kleinknecht, Dinnel, & Kleinknecht, 1997)7件法

31項目, 空間共有他者意識尺度(筆者が作成)5件法4

項目

手続き 大学の講義前後に質問紙を配布した。予め,

倫理事項を説明し, 回答をもって同意したものとした。

結果

空間共有他者意識尺度の 4 項目について探索的因子

分析(主因子法・プロマックス回転)を行った。固有

値の推移は2.14, 0.76, 0.56, 0.52であり1因子構造

が妥当と考えられた。そのため, 因子を 1 に固定し因

子分析(主因子法・バリマックス回転)を再度行った

(表1)。累積寄与率は38.57%, 信頼性係数はα=.71 で

あった。

2.電車の座席に座っている時に, 向かいに座っている人の存在が気になる .70

3.駅の構内を歩いている時に, となりを歩いている人と歩幅が合うと感じる .63

4.道を歩いている時に, 前から歩いて来る人と目が合うと感じる .58

1.近くの席に知らない人が座ると, その人の存在が気にかかる .55

累積寄与率(%) 38.57

表1 空間共有他者意識尺度の因子分析結果

続いて, TKS の合計得点の平均値によって対象者を

高低群に分けたのち,空間共有他者意識尺度の得点に

差があるかをt検定によって検討した。結果は,空間共

有他者意識尺度 (t=7.51, df=534.86, p<.01)について

高群(M=10.53, SD=3.51)が低群(M=8.42, SD=3.02)

より有意に高い得点を示した。

考察

本研究において, TKS の得点を山下格の確信型の特

性を反映したものと定義した。TKSは「自分の体臭が他

人に不快な思いをさせるのではないかと心配だ」など

自分の身体的欠点を他者にどう思われているか心配す

る内容である。また, 空間共有他者意識尺度の項目は

日常生活場面において, 周囲に存在する他者に意識を

向けることを測定している。本研究の結果から, 確信

型の特性が高い者は低い者と比べ, 周囲にいる他者に

対して意識を向けていることが示唆された。

引用文献

吉田知弘(2015). 確信型対人恐怖の当事者研究 目白大学人間学部

心理カウンセリング学科平成26年度卒業論文(未公刊).

(YOSHIDA Chihiro)

PB38

― 105 ―

お金に対する信念の背景となるパーソナリティ

―HEXACO, Big Five, Dark Triadとの関連から―

○渡辺 伸子 1・小塩 真司 2

(1東北公益文科大学・2早稲田大学文学学術院)

キーワード:お金に対する信念,HEXACO, Big Five, Dark Triad

問題

お金に対する態度(Yamauchi & Templer, 1982)は,

お金に関連する思考・感情・行動の個人差である。中

でも,お金に関連する思考は「お金に対する信念」と

呼ばれ,大学生用の尺度(渡辺,2014a)が作成され

ている。これまでのところ,お金に対する信念がどの

ような要因に規定されるのかは検討されていない。

そこで,本研究では,お金に対する信念を規定する

要因としてパーソナリティに着目する。なかでも,一

般的なパーソナリティとして,Big FiveとHEXACO

を取り上げる。また,お金は使い方によっては他者に

影響を与える性質を持つため,他者に影響を与える対

人関係上の特性であるDark Triadも取り上げる。

方法

調査協力者 大学生273名。

調査時期 2016年5月から7月にかけて実施した。

調査内容 ①大学生用お金に対する信念尺度(渡辺,

2014a):「ネガティブな影響源」,「ポジティブな影響

源」,「労働の対価」,「獲得困難性」,「重要性」の 5下

位尺度,全 30 項目。②日本語版 HEXACO-PI-R

( Wakabayashi, 2014 ):「 Honesty-Humility 」,

「Emotionality」,「Extraversion」,「Agreeableness」,

「Conscientiousness」,「Openness to Experience」の

6下位尺度,全60項目。③TIPI-J(小塩・阿部・カト

ローニ,2012):「外向性」,「協調性」,「勤勉性」,「神

経症傾向」,「開放性」の 5 下位尺度,全 10 項目。④

DTDD-J(田村・小塩・田中・増井,ジョナソン,2015):

「マキャベリアニズム」,「サイコパシー傾向」,「自己愛

傾向」の3下位尺度,全12項目。

結果

各下位尺度の相関係数を求めた。「ネガティブな影響

源」は,「Honesty-Humility」と弱い負の相関を,

「Emotionality」と弱い正の相関を,DTDD-J の全下

位尺度と弱い正の相関を示した。「ポジティブな影響

源」は「Honesty-Humility」と中程度の負の相関を,

「Agreeableness」と弱い負の相関を,「外向性」と弱い

正の相関を,DTDD-Jの全下位尺度と弱い正の相関を

示した。「労働の対価」は,「Emotionality」および「神

経症傾向」と弱い正の相関を示した。「獲得困難性」は,

「Honesty-Humility」および「Emotionality」と弱い

正の相関を,「Extraversion」および「Openness to

Experience」と弱い負の相関を示した。また,「外向性」

および「開放性」と弱い負の相関を,「神経症傾向」と

弱い正の相関を,「マキャベリアニズム」と弱い負の相

関を示した。「重要性」は,「Honesty-Humility」,

「Agreeableness」,「Openness to Experience」と弱い

負の相関を,「Emotionality」,「神経症傾向」,「ナルシ

シズム」と弱い正の相関を示した。

考察

「ネガティブな影響源」と「ポジティブな影響源」

がDark Triadと正の関連を示したことから,2下位尺

度は自分がお金に影響されて行動や感情を変化させる

と信じるだけではなく,他者もそうであると推測する

基盤となる考えであることが示唆された。

また,「労働の対価」,「獲得困難性」,「重要性」は「神

経症傾向」および「Emotionality」と一貫して正の関

連を示した。これら 3下位尺度は,家計の心配と結び

つきやすい内容であることから,このような関連が示

されたものと考えられる。

引用文献

小塩真司・阿部晋吾・カトローニ ピノ(2012). パーソ

ナリティ研究, 21, 40-52.

Wakabayashi, A. (2014). Japanese Psychological

Research, 56, 211-223.

(WATANABE Nobuko, OSHIO Atsushi)

PB39

― 106 ―

大学生における抑うつ程度と肯定的自動思考の関係についての再検討

―6か月間の抑うつ程度の維持・変化に着目して―

白石 智子

(宇都宮大学地域デザイン科学部)

キーワード:肯定的自動思考,抑うつ,大学生,縦断研究

問題

「ポジティブな状況下で不随意的に生起する親和的思

考」とされる肯定的自動思考は,否定的自動思考の対極

に位置するものではなく,独自の影響を抑うつに与える

ことが知られている。白石他(2007)は,日本独自の肯

定的自動思考測定尺度(PAL)を開発し,「Ⅰ.肯定的感

情表現」,「Ⅱ.自己および将来に対する自信」,「Ⅲ.肯

定的自己評価」,「Ⅳ.被受容感」,「Ⅴ.肯定的気分の維

持願望」,の5因子を見出した。著者はこれまで,主に抑

うつ予防の観点から肯定的自動思考の機能を検討すべく,

抑うつのレベルは問わず一般大学生全体を対象として,

横断・縦断研究を重ねてきた。しかしながら,対象者が

臨床群でないことから,査定された抑うつの程度が,各

調査時期要因に左右された一時的なものである可能性が

ある。そこで,本研究では,6か月の間をあけて行われた

調査データを用い,抑うつの程度が高い/中程度/低い

状態で維持されていた者,変化があった者に分けて,肯

定的自動思考との関係を再検討することを目的とする。

方法

調査協力者 関東および関西に居住する大学生を対象

として,6 か月にわたり,査定間隔を変えて計 4 回の調

査を実施した(白石, 2014)。本研究では,2012年7月上

旬に実施した初回調査およびその 6 か月後に行われた 4

回目の調査に回答した 78名(男性 21名,女性 57名,

初回調査時の平均年齢 19.45 歳,SD=1.52)のデータの

みを分析対象とした。

査定尺度 抑うつ指標として自己記入式抑うつ尺度日

本版(SDS ; 福田・小林, 1973),肯定的自動思考生起傾

向の指標としてPALを使用した。SDSは全20項目の合

計得点を,PALは下位尺度別の合計得点を分析に用いた。

結果と考察

SDS得点ついて,阿部他(1999)の新基準にて抑うつ

症状ありとされる 48 点以上を「抑うつ傾向あり」,従来

の基準で非抑うつとされる 40 点未満を「非抑うつ」,そ

の中間にあたる 40~47点を「中間層」として整理した。

その上で,初回も 6 か月後も「抑うつ傾向あり」に相当

した者を「抑うつ傾向維持群」(n=13),抑うつの程度が

上方のレベルへ変化した者を「得点増加群」(n=14),抑

うつの程度が下方のレベルへ変化した者を「得点低下群」

(n=13),両時点において「中間層」のレベルを維持した

者を「中間維持群」(n=22),両時点において「非抑うつ」

を維持した者を「非抑うつ維持群」(n=16)として,5群

を設定した。SDS得点の変化率を従属変数,群を独立変

数とした分散分析の結果,「得点増加群」と「得点低下群」

はそれぞれ他の群よりも有意に高い変化率を示し,3つの

維持群には有意差がないことが示された。PAL得点の変

化率に関しては,すべての下位尺度において有意な群の

主効果はなかった。このことは,時点要因の影響を受け

にくいPALの特徴に合致している。

初回および 6 か月後の横断データを用い,それぞれ各

査定尺度得点を従属変数,群を独立変数とした分散分析

を行った結果,両時点ともにSDS得点および PALの第

Ⅰ~Ⅳ下位尺度得点について,主効果が有意であった。

SDS 得点に関し,「抑うつ傾向維持群」は両時点におい

て他群より有意に得点が高く,「非抑うつ維持群」は,初

回調査における「得点増加群」との間に有意差がなかっ

たことを除き,他群より有意に得点が低かった。PALの

各下位尺度得点に関し,有意差のあった組み合わせには,

ほぼすべて「抑うつ傾向維持群」が関わっており,その

すべてで低い肯定的自動思考生起傾向を示した。特に

「Ⅳ・被受容感」について,「抑うつ傾向維持群」は両時

点において他群すべてと有意差を示し,他の 4 群間に有

意な差はなかった。すなわち,肯定的自動思考(特に被

受容感)の生起傾向の低さが抑うつの高さと関係するの

は,抑うつ傾向が維持されている者に顕著であることが

示唆されたといえる。なお,主効果が示されなかったPAL

の「Ⅴ.肯定的気分の維持願望」については,臨床群と

健常学生群の間でも有意差が示されておらず(白石他,

2007),抑うつとの直接的な関係が薄い要素と考えられる。

方法上の限界はあるものの,一般を対象とした肯定的

自動思考に関する研究では,抑うつ傾向が維持されてい

るかどうかで分けて分析を行い,特に「被受容感」に着

目した検討を進める必要性が示されたといえよう。

※本研究は,科学研究費補助金(若手研究(B)課題番号:

22730533)の助成を得て実施された。

(SHIRAISHI Satoko)

PB40

― 107 ―

時制の異なる曖昧さ耐性が抑うつに与える影響の比較

友野隆成

(宮城学院女子大学学芸学部)

キーワード:曖昧さ耐性,時間軸,素因ストレスモデル,抑うつ

問題

Grenier, Barette, & Ladouceur(2005)は,曖昧さ耐性

を将来に関するものと現在に関するものとに分けて概

念化している。しかし,この概念化には過去に関する曖

昧さ耐性が設定されていない。そこで本研究では,曖昧

さ耐性に過去・現在・将来の3つの時制を設定し,それ

ぞれが抑うつに与える影響について,素因ストレスモデ

ルを用いて比較検討することを目的とする。

方法

調査協力者および調査時期

調査協力者は,(株)クロス・マーケティングのリサーチ

専門データベースに登録されたモニターのうち,2 回の

調査ともに有効回答をした,4 年制大学および大学院,

あるいは短期大学に通う学生計 200名(男性 100名,女

性 100名)であった。平均年齢は 21.15歳,SD=1.38歳

であった。調査時期は,2017 年 1月下旬および 2月下

旬であった。

測度

曖昧さ耐性 過去に関する曖昧さ耐性尺度(友野, 印

刷中)9項目および,新版曖昧さ耐性尺度(Tomono, 2014;

友野, 2013) 24項目を用いた。本研究では「過去に関す

る曖昧さ耐性」「現在に関する曖昧さ耐性」「将来に関す

る曖昧さ耐性」の3つの時制ごとに,それぞれ合計得点

を算出して用いた。

抑 う つ Center for Epidemiologic Studies

Depression Scale(CES-D)日本語版(島・鹿野・北村・浅

井, 1985)20項目を用いた。本研究では,全項目の合計得

点を算出して用いた。

ストレッサー 大学生用日常生活ストレッサー尺度

(嶋, 1992) 32項目を用いた。本研究では,全項目の合計

得点を算出して用いた。

結果

階層的重回帰分析 曖昧さ耐性とストレッサーの交

互作用が時点2の抑うつを予測するかどうか検討するた

めに,階層的重回帰分析を行った。(1)時点 1の抑うつ(共

変量),(2)曖昧さ耐性とストレッサー(主効果),(3)両者の

交互作用項,の順に回帰方程式に投入した。その結果,

「過去に関する曖昧さ耐性」のみ,ストレッサーとの交互

作用が有意であった(⊿R2=.015, p<.05)。その結果から得

られた単回帰直線を,Figure 1. に示す。単純傾斜検定の

結果,過去に関する曖昧さ耐性が低い場合(b=.21, β=50,

t=6.71, p<.001)および高い場合(b=.11, β=28, t=3.39,

p<.001)の両方とも,有意な単純傾斜が認められた。

Figure 1. 過去に関する曖昧さ耐性とストレッサーの交互作用

考察

階層的重回帰分析の結果から,過去に関する曖昧さに

耐えられない者に比べて耐えられる者の方が,相対的に

ストレッサー経験時の抑うつの増大が抑えられること

が示された。一方,現在および将来に関する曖昧さ耐性

は,どちらもストレッサーとの交互作用が抑うつの増大

には寄与していなかった。これらのことから,ほかの時

制の曖昧さと比較して,過去に関する曖昧さに耐えられ

ることが抑うつの緩和に有効である可能性が示唆され

る。以上を踏まえると,過去の時制を設定した曖昧さ耐

性の測定には,一定程度の意義があるように思われる。 付記:本研究は2016年度宮城学院女子大学特別研究助成「特別研究費」の助成を受けた。

(TOMONO Takanari)

-8

-6

-4

-2

0

2

4

6

抑うつ得点の変化量

M-1SD M+1SD

ストレッサー

過去に関する曖昧さ耐性 M+1SD過去に関する曖昧さ耐性 M-1SD

PB41

― 108 ―