pb08ryu e rei -...

27

Upload: others

Post on 13-Feb-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

  • 『台灣日本語文學報 22 號』PDF版 PDF 版は、広く業績を共有するためにインターネットでの検索と個人の閲覧の便に供する目的で公開しています。インターネット、印刷物、その他いかなる形でも、許可なく転

    載・複製・印刷・刊行・公開することを禁止します。

    213

    動詞 sitagau, tomonau 之語法化

    劉怡伶

    東吳大學日本語文學系助理教授

    摘要

    本論文探究日語動詞 sitagau, tomonau 之語法化特徵。考察結果顯

    示兩語之統語變化,語意變化過程中,泛化(Generalization),類變

    (Decategorialization),層次(Layering),持續(Persistence)之四

    機制牽涉其中。而兩語語法化後之複合助詞 nisitagatte,

    nitomonatte 中亦可見古語及現代日語之語法特徵並存。相較兩語語

    法化歷程時可見,sitagau 原具之空間位置變化之意演變為表具時間

    幅度之事態間之變化,而 tomonau 原具有共處物理空間之意則演變為

    表共有時間之事態間變化之意。

    關鍵詞:語法化 動詞 複合助詞 空間表現 時間表現

  • 『台灣日本語文學報 22 號』PDF版 PDF 版は、広く業績を共有するためにインターネットでの検索と個人の閲覧の便に供する目的で公開しています。インターネット、印刷物、その他いかなる形でも、許可なく転

    載・複製・印刷・刊行・公開することを禁止します。

    214

    Grammaticalization of the Japanese Verbs: sitagau and tomonau

    Liu, Yi-Ling Associate Professor, Soochow University

    Absract

    The purpose of this paper is to clarify the feature of the

    grammaticalization of Japanese verbs sitagau and tomonau. The result of the research is as follows. First of all, principle Generalization, Decategorialization, Layering and Persistence works in the process of the grammaticalization of the two words. Moreover, the usage of ancient Japanese remains in the grammaticalized form of the two words. In addition, when sitagau changes into nisutagatte, the meaning of the space change becomes a meaning of the change between the continuance situations. On the other hand, the meaning of sharing the space changes into the meaning of sharing time when tomonau changes into nitomonatte.

    Keywords: grammaticalization, verb, complex postposition, spatial expression, temporal expression

  • 『台灣日本語文學報 22 號』PDF版 PDF 版は、広く業績を共有するためにインターネットでの検索と個人の閲覧の便に供する目的で公開しています。インターネット、印刷物、その他いかなる形でも、許可なく転

    載・複製・印刷・刊行・公開することを禁止します。

    215

    動詞「したがう」「ともなう」の文法化 劉怡伶

    東呉大学日本語文学系助理教授

    要旨

    本稿では動詞「したがう」「ともなう」の文法化の特徴を考察した。

    考察した結果、2語の統語変化、意味変化の過程において、一般化

    (Generalization)、脱範疇化(Decategorialization)、重層化(Layering)、持続(Persistence)の原理が働いていることが分かった。また、2語の文法化した形式「にしたがって」「にともなって」には新しい構

    造と古い構造が共存していることも明らかになった。更に、「したが

    う」が「にしたがって」へと変化するときは、元の動詞に含まれる、

    空間的位置の変化を表す意味が時間的距離をもつ事態変化の意味に

    変化するのに対して、「ともなう」が「にともなって」へと変化する

    ときは、元の動詞に含まれる、同じ物理空間にいるという空間概念

    の意味が、時間的に重なっているという時間概念の意味に変化する

    ことを述べた。

    キーワード:文法化 動詞 複合助詞 空間表現 時間表現

  • 『台灣日本語文學報 22 號』PDF版 PDF 版は、広く業績を共有するためにインターネットでの検索と個人の閲覧の便に供する目的で公開しています。インターネット、印刷物、その他いかなる形でも、許可なく転

    載・複製・印刷・刊行・公開することを禁止します。

    216

    動詞「したがう」「ともなう」の文法化* 劉怡伶

    東呉大学日本語文学系助理教授

    1.はじめに

    動詞「したがう」「ともなう」は下のように、異なる意味・用法

    をもっている。

    (1) 標識に{したがって/*ともなって}進む1。(『大辞林』)

    (2) 言うことと行動が{ともなわない/*したがわない}。

    (『大辞泉』)

    しかし2語は、文法化2を経て、直前の助詞「に」と一語化し、類

    似した意味・用法をもつ複合助詞3の機能を獲得している。

    (3) 中国の模倣品や海賊版の手口が悪質になる{にともない/

    にしたがって}、日本企業による中国での訴訟件数も増加傾

    向にある。 (毎日新聞 2005.1.27)

    本稿の目的は、「したがう」「ともなう」の文法化の特徴を明らか

    にすることである。

    *本稿は「日本語複合助詞の文法化について」(行政院国家科学委員会専題研究

    計画番号:NSC 96-2411-H-031-019-)の成果の一部である。 1 斜線の後ろは筆者による。以下同様。 2 文法化とは、内容語が機能語へと変化することで、本稿で扱う動詞の複合助詞への変化もその一つである。詳しくは、5節で述べる。 3 松木(1990)、Matsumoto(1998)、砂川(1987、2000)では、動詞に由来する複合

    助詞は次の特徴があると説明されている。(ⅰ)複合助詞と化した動詞は、主格

    (ガ格)がとれなくなる。(ⅱ)複合助詞と化した動詞は、形態的に融合し、間

    に副詞など他の要素を入れられなくなる。(ⅲ)複合助詞と化した動詞は、肯定、

    否定の対立や、ボイス、テンス、アスペクト、モダリティなどの文法的カテゴ

    リーを失う。本稿では、(ⅰ)~(ⅲ)の特徴をもつ形式を複合助詞と見なす。な

    お、「にしたがって」「にともなって」は、「にしたがい」「にしたがいまして」、

    「にともない」「にともないまして」の形でも用いられている。各形式は文体的

    特徴だけ異なると考えられるので、本稿では区別しないことにする。

  • 『台灣日本語文學報 22 號』PDF版 PDF 版は、広く業績を共有するためにインターネットでの検索と個人の閲覧の便に供する目的で公開しています。インターネット、印刷物、その他いかなる形でも、許可なく転

    載・複製・印刷・刊行・公開することを禁止します。

    217

    2.先行研究の成果と問題点 本節では、先行研究の成果と問題点を示す。

    筆者の知る限りでは、動詞「したがう」「ともなう」の文法化の

    特徴を記述した先行研究がない。が、一部の日本語の動詞が文法化

    し、複合助詞の機能を獲得していることについては、多くの先行研

    究(松木(1990)、Matsumoto(1998)、砂川(1987、2000)など)で

    指摘され、動詞の文法化の研究、及び複合助詞の意味・用法の研究

    に大いに寄与している。砂川(2000)では、空間表現が時間表現へ

    と変化する例として「したがう」「ともなう」を挙げており、2語の

    文法化の記述に重要な示唆を与えている。以下、「したがう」「とも

    なう」に関する砂川(2000)の記述をまとめる4。

    ① 2語の統語変化について

    動詞「したがう」は「に」格、「ともなう」は「に」格と「を」

    格をとるが、複合助詞へと化した場合、前者は同様に「に」格をと

    るが、後者は「に」格しかとらなくなる。

    (4) 指示にしたがってください。

    (4)′年齢が高くなるにしたがって賃金も高くなるでしょう。

    (5) 夫{に/を}ともなって渡米している。

    (5)′高齢になる{に/*を}ともなって癌の発生率が高まる。

    ② 2語の意味変化について

    動詞「したがう」「ともなう」は、自己以外のものを自己の身辺

    に伴う<随伴>という意味を表しており、つまり同一空間における

    自己と他者の接近的な共存という空間関係を表していると言える。

    この自己と他者が、空間的な位置を有する物体から時間的に生起す

    る出来事へと変化したとき、二つの事態の相関的な成立を表す<相

    関進行5>という意味を表すようになる。

    4 但し、例は筆者による。 5 砂川(2000)では、「相関進行」について次のように述べている。即ち、一方

    の事態が他方の事態とが相関的にかかわりあって進行するという関係のありか

    たであるという。

  • 『台灣日本語文學報 22 號』PDF版 PDF 版は、広く業績を共有するためにインターネットでの検索と個人の閲覧の便に供する目的で公開しています。インターネット、印刷物、その他いかなる形でも、許可なく転

    載・複製・印刷・刊行・公開することを禁止します。

    218

    (6) 上昇するにしたがって気温が下がる。 (7) 気温の上昇にともなって生活用水の使用量も上昇した。

    砂川(2000)の記述から、2語は同様に「随伴」を表す空間表現から「相関進行」を表す時間表現へと変化するものであることが窺

    える。 しかし、複合助詞と化した2語は、時間関係の意味だけでなく、

    因果関係の意味を表すこともある。森田・松木(1989:112)では、

    「にしたがって」は、前件が原因・理由となって後件が生じること

    を示す用法があると述べている。塩入(1999)、田中(2001)では、

    「にともなって」は原因を表す用法があると指摘している。 (8) 人間の文化が進行し変化するにしたがい、これまでに作ら

    れた文字では、複雑な世の中の事柄を表現することが困難

    になって来ました。 (森田・松木(1989:112)の例)

    (9) 父親の転勤にともなって、一家の生活拠点は仙台からニュ

    ーヨークへと移ることになった。 (塩入(1999)の例(24a))

    従って、2語は、空間表現から時間表現へ、更に時間表現から因

    果表現へと変化すると言える。以下、砂川(2000)の記述を踏まえつつ、動詞「したがう」「ともなう」の文法化の特徴を記述する。本

    稿では、特に次の問題の解明を目指す。

    ① 動詞「したがう」「ともなう」はどのようなプロセスを経て

    複合助詞の機能を獲得しているか。 ② 複合助詞と化した「にしたがって」「にともなって」に元の

    動詞の意味が保持されているかどうか。また元の動詞の意味

    が保持されている場合、それは、時間概念、因果概念を表す

    用法にどのような制限を与えているか。 ①②の問題を解決するには、動詞「したがう」「ともなう」の特

    徴だけでなく、文法化した複合助詞の意味・用法を記述する必要も

    ある。元の動詞と文法化した形式の特徴との比較を通し、2語の統

    語変化、意味変化の特徴を明らかにすることができると思われる。 本稿の構成は次の通りである。1節では本稿の目的、2節では先

  • 『台灣日本語文學報 22 號』PDF版 PDF 版は、広く業績を共有するためにインターネットでの検索と個人の閲覧の便に供する目的で公開しています。インターネット、印刷物、その他いかなる形でも、許可なく転

    載・複製・印刷・刊行・公開することを禁止します。

    219

    行研究の成果と本稿の課題を述べた。3節では動詞「したがう」「と

    もなう」の意味・用法、4節では文法化した形式「にしたがって」

    「にともなって」の意味・用法を述べる。5節では、3、4節の考

    察結果に基づき、動詞「したがう」「ともなう」の文法化の特徴を記

    述する。最後の6節では、まとめと今後の課題を述べる。

    3.動詞「したがう」と「ともなう」

    3.1 「したがう」の意味・用法

    3.1.1 辞書の記述

    動詞「したがう」に関する辞書の記述は大同小異である。『大辞泉』

    『大辞林』の記述をまとめると、次のようになる6。

    ① 後ろについて行く。随行する。

    例 生徒たちは黙々と院長の後に従った。

    ② 他からの働きかけに順応する。ほかの力のままに動く。

    例 日本の習慣にしたがって屋内では靴を脱ぐ。

    ③ ならう。まねる。

    例 見本にしたがって作る。

    ④ ある業務を行う。従事する。

    例 {兵役/本務}にしたがう。

    ①~④のうち、①は、空間的随行を示し、砂川(2000)で指摘さ

    れた、空間概念にかかわる意味である。②~④は心理的随行、つま

    り心理的にある対象に逆らわないことを示す。①の「空間的随行」

    は基本義で、②~④の「心理的随行」は①から派生したものと言え

    る。従って、「したがう」の統語的、意味的特徴は次のように捉え

    ることができる。

    ① 「したがう」は「に」格をとる。 ② 「したがう」の基本義は<空間的随行>である。この基本義

    6 但し、『大辞泉』『大辞林』では、動詞「したがう」の項目に複合助詞「にしたがって」の記述も含まれている。本稿では2語を区別しているので、複合助詞

    の用法に関する記述を省略する。

  • 『台灣日本語文學報 22 號』PDF版 PDF 版は、広く業績を共有するためにインターネットでの検索と個人の閲覧の便に供する目的で公開しています。インターネット、印刷物、その他いかなる形でも、許可なく転

    載・複製・印刷・刊行・公開することを禁止します。

    220

    から<心理的随行>の意味が派生する。

    3.1.2 <同一場面性>

    本節では、動詞「したがう」は補文をとる場合、補文標識「の」

    しか許容しないこと、また「したがう」は出来事の間の<同一場面

    性>を表す意味特徴をもっていることを見る。

    辞書では記述されていないが、動詞「したがう」は補文をとる場

    合、補文標識「こと」は許容されず、「の」だけ許容される7。

    (10) 自分は先刻の空想が俺を呼ぶ{の/*こと}にしたがって

    このまま此処を歩み去ることも出来ない。

    (梶井其次郎「檸檬」『新潮文庫 100 冊』)

    (11) 契約するのは 43 投票所に設置する投票機計 154 台と集計機1台で、音声で投票方法が説明される{の/*こと}にした

    がい、液晶画面に触れて投票するタッチパネル方式。

    (毎日新聞 2002.4.9)

    橋本(1990)では、補文標識「の」専用の主文は次のように特徴

    付けられている。即ち、主文の表す出来事と補文の表す出来事との

    間に、同時性、同一場面性といった意味的な<緊密性>がある、と

    いうことである8。例えば、(12)では「ピアノを弾くこと」と「聞く

    こと」は同じ場面で起きる出来事である。

    (12) 太郎は花子がピアノを弾く{の/*こと}を聞いた。

    (橋本(1990)の例(5))

    (10)(11)をもう一度見ると、補文の表す出来事と動詞「したがう」

    の表す出来事の間に、同一場面性といった意味的な緊密性がある。

    例えば、例(10)では、事態「先刻の空想が俺を呼ぶ」が時間的に先

    行しているが、同一の場面において二つの事態が連続して起こった

    7 動詞「したがう」は、直前に「こと」「の」の両方とも現れ得る場合もある。しかし下に示すように、この場合の直前の「こと」「の」は「言葉」に書き換え

    ることができることから、補文標識ではないことが分かる。 (ⅰ) 先生の言う{の/こと/言葉}にしたがって書いただけです。 8 同様の指摘は、久野(1973)、野田(1995)などにある。

  • 『台灣日本語文學報 22 號』PDF版 PDF 版は、広く業績を共有するためにインターネットでの検索と個人の閲覧の便に供する目的で公開しています。インターネット、印刷物、その他いかなる形でも、許可なく転

    載・複製・印刷・刊行・公開することを禁止します。

    221

    ことを表していると思われる。従って、「したがう」は出来事の間の

    同一場面性を表す意味特徴をもっていると言える。

    3.2 「ともなう」の意味・用法

    3.2.1 辞書の記述 「ともなう」に関する『大辞泉』『大辞林』の記述をまとめると、

    次のようになる9。

    ① 引き連れて行く、またつき従って行く。

    例 秘書{を/に}ともなって行く。

    ② 非物理的空間においてある物事に付随して別の物事が起こ

    る。ある物事が同時に別の物事を併せ持つ。

    例 危険がともなう冬山。

    ①②から分かるように、「ともなう」は「に」格または「を」格を

    とる。注意すべきは、①の記述に問題があることである。①の記述

    から、「ともなう」には空間的随行の意味があるように思われるが、

    下に示すように、「ともなう」は、「したがう」と異なり、動的事態

    を修飾する「ゆっくりと」と共起しない。「ともなう」は動的事態を

    含意する移動の意味を持っていないと言える。

    (13) 私は、彼女の歩調に合わせて、ゆっくりと{したがった/

    *ともなった}。

    ①の例をもう一度見ると、この場合の「ともなう」は同じ物理空

    間にいることを表しており、砂川(2000)で指摘された、空間概念

    にかかわる用法であると言える。また、②は、非物理的空間におい

    て一方の物事がもう一方の物事と一緒に生起・存在することを表し、

    ①から派生した抽象化した概念と言える。従って、「ともなう」の

    統語的、意味的特徴は次のように捉えることができる。

    ① 「ともなう」は「に」格、または「を」格をとる。 ② 「ともなう」の基本義は<同じ物理空間にいること>である。

    9 『大辞泉』では、動詞「ともなう」の項目に複合助詞「にともなって」の記述も含まれている。本稿では両者を区別しているので、ここで複合助詞の記述を

    省く。

  • 『台灣日本語文學報 22 號』PDF版 PDF 版は、広く業績を共有するためにインターネットでの検索と個人の閲覧の便に供する目的で公開しています。インターネット、印刷物、その他いかなる形でも、許可なく転

    載・複製・印刷・刊行・公開することを禁止します。

    222

    またこの基本義から<非物理的空間において一方の物事が

    もう一方の物事と一緒に生起・存在すること>の意味が派生

    する。

    3.2.2 <同一場面性><まとまった事柄>

    本節では、「ともなう」は補文をとる場合、補文標識「の」「こと」

    の両方を許容すること、また「ともなう」は<同一場面性>及び<

    まとまった事柄>を表す意味特徴を持っていることを見る。

    先行研究では指摘されていないが、動詞「ともなう」は補文をと

    る場合、補文標識「の」「こと」の両方とも許容する。

    (14) ゴルフ場やリゾートマンション、あるいはリゾートホテル

    の開発は、広大な森林を伐採することをともないます。

    (国会会議録 1992.4.16)

    (15) このプロセスは CE 探索と呼ばれ、そして FE 管理者が利用可能な CE の能力を学ぶのをともなうかもしれません。

    www5d.biglobe.ne.jp/~stssk/rfc/rfc3654j.html

    野田(1995)では、「の」「こと」両用文は、「の」だけ許容する

    文と、「こと」だけ許容する文の中間的なものであると指摘し、「の」

    だけを許容する文は、現場の中の動きとして捉えることのできる述

    語の場合(つまり、前述した<同一場面性>を表す場合)、「こと」

    だけを許容する文は、補文の表す事態を全体で一つのまとまった事

    態として捉えることのできる述語の場合であると説明している。

    (14)(15)をもう一度見ると、補文と主文の表す事態は抽象化され

    た、まとまった概念としても、同時に起こるものとしても捉えるこ

    とができる。従って、「ともなう」は、<同一場面性>と<まとまっ

    た事態>を表す意味特徴を併せ持っていると言える。

    4.文法化した形式の意味・用法

    4.1 複合助詞「にしたがって」

    4.1.1 統語的特徴

    本節では、複合助詞「にしたがって」の統語的特徴を見る。

  • 『台灣日本語文學報 22 號』PDF版 PDF 版は、広く業績を共有するためにインターネットでの検索と個人の閲覧の便に供する目的で公開しています。インターネット、印刷物、その他いかなる形でも、許可なく転

    載・複製・印刷・刊行・公開することを禁止します。

    223

    まず、国立国語研究所(2001)、田中(2001)で記述されたように、

    「にしたがって」は、名詞(句)、動詞のル形に後接する。

    (16) 世界は、太陽と月の動きにしたがって刻々とその運命の状

    況を変えていく。 (毎日新聞 2002.8.30)

    (17) 子どもが成長するにしたがって、無意識のうちに求めるこ

    とが増えている。 (毎日新聞 2001.9.8)

    また、菅長(2006)の指摘のように、この語の直前に「の」が現れることがある。注目したいのは「こと」が現れないことである。

    (18) トライはその重要性が高まる{の/*こと}にしたがい、得

    点が増えてきた。 (毎日新聞 2002.7.18)

    先行研究では記述されていないが、「にしたがって」は、更に、直

    前の動詞句の主格の「が」格が「の」に変わることがあるという統

    語的特徴をもっている。

    (19) 初めは恋愛から入って、生活と歳月{の/が}移るにした

    がって、人生の苦渋にもまれ、鍛えられて、もっと大きな、

    自由な、地味なしんみの、愛に深まっていく。

    (倉田百三「愛の問題」『青空文庫』)

    (20) 船{の/が}進むにしたがって、雲のように見えていたも

    のが、だんだんはっきりと島の形になって、あらわれてき

    ました。 (楠山正雄「桃太郎」『青空文庫』)

    「にしたがって」の統語的特徴は次のようにまとめることができる。

    ① 名詞(句)、動詞のル形に後接する。

    ② 直前に「の」が現れるが、「こと」が現れることがない。

    ③ 前の動詞句の主格の「が」が「の」に変わることがある。

    4.1.2 意味的特徴

    4.1.2.1 漸進的な事態間の関連

    塩入(1999)、田中(2001)、佐野(2005)などでは、「にしたがっ

  • 『台灣日本語文學報 22 號』PDF版 PDF 版は、広く業績を共有するためにインターネットでの検索と個人の閲覧の便に供する目的で公開しています。インターネット、印刷物、その他いかなる形でも、許可なく転

    載・複製・印刷・刊行・公開することを禁止します。

    224

    て」は漸進的な事態間の関連を表すと説明している10。

    (21)(22)と(23)は同様に、前件に関連して後件が発生しているこ

    とを表している。しかし、(21)(22)では「にしたがって」を用いる

    ことができるのに対し、(23)では用いることはできない。

    (21) 政党活動が緩慢になるにしたがって支持政党なしは増え

    る傾向にある。 (毎日新聞 1996.12.18)

    (22) 「再建」が増えるのにしたがい、新たな問題が浮上した。

    (毎日新聞 2005.8.30)

    (23) 東洋での中等教育は、西洋的近代学制の導入{にともなっ

    て/*にしたがって}出現したのである。

    (佐藤尚子、大林正『近世から現代までの教育制度を比較分析』)

    (23)と異なり、(21)(22)では前件と後件は漸進的な事態を表して

    いる。上の比較から、先行研究の記述の通り、「にしたがって」は漸

    進的な事態間の関連を表すことが分かる。

    4.1.2.2 因果関係の意味の派生

    本節では、「にしたがって」の前件と後件に因果関係の意味が読

    み取れる場合、それは語用論的な推論によることを見る。

    前述のように、森田・松木(1989:112)、田中(2001)では、「に

    したがって」は因果関係の意味を表す場合があると述べられている。

    確かに(24)では、前件と後件に因果関係の意味が読み取れる。

    (24) スーチーさんの支持者が増えるにしたがい、軍政は集会

    を禁止するなど規制を強めた。 (毎日新聞 2002.5.8)

    しかし、(24)の前件と後件の因果関係の意味は、語用論的な推

    論11によるものである。下に示すように、(24)の後ろに「しかし、

    軍政が規制を強めたのは…」などの文脈を付け加えれば、因果関

    10 「漸進的な事態」は田中(2001)の用語である。本稿では、田中(2001)に従って、時間・空間の移動により次第に変容を見せていく事態を「漸進的な事

    態」と呼ぶ。 11 文脈や言語外の知識を背景として導き出される推論のことである(山梨(1996))。

  • 『台灣日本語文學報 22 號』PDF版 PDF 版は、広く業績を共有するためにインターネットでの検索と個人の閲覧の便に供する目的で公開しています。インターネット、印刷物、その他いかなる形でも、許可なく転

    載・複製・印刷・刊行・公開することを禁止します。

    225

    係の意味がなくなる12。

    (24)′スーチーさんの支持者が増えるにしたがい、軍政は集会

    を禁止するなど規制を強めた。しかし、軍政が規制を強

    めたのは、スーチーさんの支持者が増えたためではなく、

    スーチーさんの支持者と偽って政府を乗っ取ることを計

    画している人がいるという情報を政府がつかんだからで

    ある。

    以上の考察から、「にしたがって」の前件と後件の因果関係の意

    味は内在的意味ではなく、語用論的な推論によることが分かる。

    4.2 複合助詞「にともなって」

    4.2.1 統語的特徴

    本節では、「にともなって」の統語的特徴を見る。田中(2001)、

    佐野(2005)、菅長(2006)などの記述のように、「にともなって」

    は名詞(句)、動詞(句)に後接する。また、直前が動詞(句)の

    場合、その述語にル形・タ形というテンスの対立がある。

    (25) 社会性が強大になるにともなって人間の個性が顕著になっ

    て来る。

    (宮本百合子「深く静に各自の路を見出せ」『青空文庫』)

    (26) 日経平均が軟調となったことにともなって 118 円半ばに

    下落したが、(略)。 (朝日新聞 2007.8.7)

    また、田中(2001)、佐野(2005)、菅長(2006)ではこの語の

    直前に「の」「こと」が現れることがあると指摘されている。

    (27) 日銀が昨年3月に量的金融緩和政策を解除した{こと/の}

    にともない、金融機関が日銀に預けている日銀当座預金の

    減少が続いている。 (日本経済新聞 2007.8.1)

    先行研究では記述されていないが、「にともなって」は更に、「に

    したがって」と同様に、直前の動詞句の主格の「が」格が「の」

    12 語用論的な推論による意味を文脈により取り消すことが可能であることについては、Grice(1975)、山梨(1996)などを参照。

  • 『台灣日本語文學報 22 號』PDF版 PDF 版は、広く業績を共有するためにインターネットでの検索と個人の閲覧の便に供する目的で公開しています。インターネット、印刷物、その他いかなる形でも、許可なく転

    載・複製・印刷・刊行・公開することを禁止します。

    226

    に変わることがある。

    (28) 梗塞部では時間{の/が}経つにともない、脳では軟化

    壊死、ほかの臓器では凝固壊死が起こり、次第に器質化

    されてくる。

    blogs.yahoo.co.jp/gh_ra16_mini/folder/625518.html

    (29) 第四項は、電話加入者の数{の/が}増加するにともな

    って電話売買業者の取引の数も増加するものと予想され

    ますが、(略)。 (国会会議録 1960.3.15)

    従って、「にともなって」は次の統語的特徴をもっていると言える。

    ① 名詞(句)、動詞のル形・タ形に後接する。

    ② 直前に「の」「こと」が現れることがある。

    ③ 直前の動詞句の主格「が」が「の」に変わることがある。

    4.2.2 意味的特徴

    4.2.2.1 <同時随伴>

    本節では、「にともなって」は事態間の同時随伴の関連を示すこと

    を見る。ここでの同時随伴とは、二つの事態の発生時(またはその

    発生が確実となった時点)が重なっているということである。

    統一的な説明に至っていないが、「にともなって」に関しては、

    田中(2001)、佐野(2005)では次の二つの特徴があると指摘してい

    る。一つは、「にともなって」の前件と後件は、「にしたがって」と

    異なり、漸進的な事態の変化を表す場合と瞬間的な変化を表す場合

    があることである。(30)の前件と後件は漸進的な変化、(31)の前件

    と後件は瞬間的な変化を表している。

    (30) 予防外交は、安全保障概念の変化にともなって、注目され

    るようになった。

    (東アジア研究会『新しいアジアが見えてくる』)

    (31) 親の死去にともなって多大な遺産を相続した。

    もう一つは、下に示すように、「にともなって」は、後件の事態

    は前件の事態より時間的に先行している場合もあることである。

    (32) 「夢の超特急」新幹線の初代、0系車両が9月 18 日で引退

  • 『台灣日本語文學報 22 號』PDF版 PDF 版は、広く業績を共有するためにインターネットでの検索と個人の閲覧の便に供する目的で公開しています。インターネット、印刷物、その他いかなる形でも、許可なく転

    載・複製・印刷・刊行・公開することを禁止します。

    227

    するのにともない、JR 東海は 31 日、臨時に0系ひかり号

    を走らせた。 (毎日新聞 1999.8.1)

    本稿では「にともなって」の意味的特徴を次のように捉えること

    ができると考える。(30)~(32)をもう一度見ると、(30)(31)では、

    前件の事態と後件の事態が時間的に重なっていることを表してい

    る。また、(32)では、前件の事態はまだ発生していないが、その事

    態の発生が確実となった時点においてどのような関連のある後件が

    同時に起こったかを表している。従って、「にともなって」は二つの

    事態の同時随伴の関連を表していると言える。

    4.2.2.2 因果関係の意味の派生

    本節では、前件と後件が瞬間的な変化を表す場合、「にともなって」

    の表す因果関係の意味は内在的意味であることを示す。

    下に示すように、「にともなって」の例では、因果関係の意味が

    読み取れる場合がある。

    (33) 77 年、学習指導要領の改定にともなって授業時間を削減し、

    代わりに「ゆとりの時間」ができました。

    (朝日新聞 2007.7.13)

    (34) 親の死去にともなって多大な遺産を相続した。

    (35) ネットの普及にともなってネット電話の利用者数も急増し

    ている。

    しかし、「にしたがって」と異なり、「にともなって」の場合の因

    果関係の意味は取り消すことができないことがある。

    (33)′*77 年、学習指導要領の改定にともなって授業時間を削減

    し、代わりに「ゆとりの時間」ができました。しかし、授

    業時間を削減したのは、学習指導要領を改定したためでは

    なく、学校側が生徒たちの親と相談して決めたのです。

    (34)′*親の死去にともなって多大な遺産を相続した。しかし、

    多大の遺産を相続したのは、親が亡くなったためではなく、

    同時に金持ちの伯父が亡くなったからである。

  • 『台灣日本語文學報 22 號』PDF版 PDF 版は、広く業績を共有するためにインターネットでの検索と個人の閲覧の便に供する目的で公開しています。インターネット、印刷物、その他いかなる形でも、許可なく転

    載・複製・印刷・刊行・公開することを禁止します。

    228

    (35)′ネットの普及にともなってネット電話の利用者数も急増し

    ている。しかし、利用者数急増の本当の原因は、ネットが

    普及しているためではなく、接続料金が値下がりしている

    からである。

    (35)との比較から、(33)(34)の「にともなって」の表す因果関係

    の意味は文脈によるのではなく、内在的意味であることが分かる。

    (33)では、「学習指導要領の改定」という瞬間的な変化がきっかけと

    なって後件が発生したことを表している。(34)では、「親が亡くなっ

    た」という事態の発生は、「多大な遺産を相続した」という瞬間的な

    変化を引き起こしたことを表している。従って、前件と後件が瞬間

    的な変化を表す場合、「にともなって」の表す因果関係の意味は内在

    的意味であると考えられる。

    5.動詞「したがう」「ともなう」の文法化

    5.1 文法化の原理

    本節では、文法化の現象に関与する原理を説明しておく。文法化

    を特徴づける原理は下のようなものがある(Hopper and Traugott

    (2003))。

    ① 一般化(Generalization)

    一般化には、意味の一般化と文法機能の一般化がある。前者は語

    彙項目が文法化するにつれて、その意味の分布が広がり、多義にな

    ることで、後者は、文法化が進むにつれて、語の選択制限を失いよ

    り広い文脈で使われるようになることである。

    ② 脱範疇化(Decategorialization)

    内容語がその形態的、統語的特徴を失い、逆に機能語の働きを獲

    得するようになることである。

    ③ 重層化(Layering)

    新しい形式と構造が現れたとき、古い形式と構造は無くなるので

    はなく、共存することである。

    ④ 持続(Persistence)

  • 『台灣日本語文學報 22 號』PDF版 PDF 版は、広く業績を共有するためにインターネットでの検索と個人の閲覧の便に供する目的で公開しています。インターネット、印刷物、その他いかなる形でも、許可なく転

    載・複製・印刷・刊行・公開することを禁止します。

    229

    内容語が機能語へと文法化する際、その語の元の意味が保持され、

    それが文法的分布に制約を与えることである。

    なお、上の四つの原理のほかに、分岐化(Divergence)、更新(Renewal)、専門化(Specialization)、使用使用頻度(Frequency)などがある。これらの原理は次節で説明する「したがう」「ともなう」

    の文法化のプロセスに見られなかったので、説明を省略する。

    5.2 動詞から複合助詞へ

    5.2.1 「したがう」「ともなう」の文法化のプロセス

    本節では「したがう」「ともなう」の文法化のプロセスを見る。

    3、4節では、動詞「したがう」「ともなう」と複合助詞「にし

    たがって」「にともなって」の意味・用法を考察した。「したがう」

    「ともなう」の文法化のプロセスを、元の動詞とそれの形式化した

    複合助詞を両極とする連続体として捉えると、その統語変化、意味

    変化をそれぞれ表1と表2の示すように考えることができる。

    <表1「したがう」の文法化の特徴>

    第一段階

    「補語(名詞+に格)」+「動詞」

    例 葉っぱは水にしたがって流れていく。

    第二段階

    「名詞(句)」+「複合助詞」+「述語」

    例 言葉は時代の変化[にしたがって]変化する。

    例 客が増えるのにしたがい、新たな問題が浮上した。

    第三段階

    「動詞(句)」+「複合助詞」+「述語」

    例 年齢が変化するにしたがって、自分自身も変わらねば

    ならない。

    <表2 「ともなう」の文法化の特徴>

    第一段階

    「補語(名詞+に格・を格)」+「動詞」。

    例 [秘書{を/に}]ともなって行く。

    第二段階

    「名詞(句)」+「複合助詞」+「述語」

    例 親の死去にともなって多大な遺産を相続した。

    例 市場が拡大したことにともなって、求人ニーズが高

  • 『台灣日本語文學報 22 號』PDF版 PDF 版は、広く業績を共有するためにインターネットでの検索と個人の閲覧の便に供する目的で公開しています。インターネット、印刷物、その他いかなる形でも、許可なく転

    載・複製・印刷・刊行・公開することを禁止します。

    230

    まっている。

    第三段階

    「動詞(句)」+「複合助詞」+「述語」

    例 利用者が増えるにともなって予約が取りにくくな

    る。

    まず、第一段階は、動詞の用法である。この段階では、「したが

    う」は<移動>または<物理的、心理的にある対象に逆らわないこ

    と>を表す。「ともなう」は<同じ物理空間にいること>または<

    一方の物事がもう一方の物事と一緒に生起・存在すること>を表す。 第二段階では、2語は複合助詞へと化している。中止形をとった

    「したがう」「ともなう」は、直前の「に」格と一語化し、元の動

    詞の肯定、否定の対立や、ボイス、テンス、アスペクトなど、一部

    の文法的カテゴリーを失っている。従って、脱範疇化

    (Decategorialization)が起きたと言える。

    また第二段階では、動詞のもつ意味の一部を失うが、「したがう」

    のもつ<ある対象に逆らわない>という意味が<漸進的な事態間の

    関連>という意味へと変化し、「ともなう」のもつ「ある物事と一

    緒に生起・存在する」という意味が<事態間の同時随伴の関連>と

    いう意味へと変化する。従って、「にしたがって」「にともなって」

    に元の動詞の意味が保持(Persistence)されていると言える。

    最後に、第三段階は、第二段階と同様に、複合助詞の用法である

    が、この段階では文法化した形式の直前の構文要素が、類推により、

    名詞句から動詞句へと拡張する。従って、「にしたがって」「にとも

    なって」が用いられる文脈が一般化(Generalization)したと言え

    る 13。更に、表1と表2から分かるように、三つの段階の形式と構

    13 ある言語現象を支える原理は一つ以上存在する可能性があると筆者が考えている。「にしたがって」「にともなって」の直前に名詞(句)のほか、動詞(句)

    も現れることに関しては、本節の説明のように、類推により一般化の原理が働

    いていると考えられるが、次節で見るように、それは、古典日本語における述

    語の連体形による名詞化の形式が現在に残っているものでもある。前者の説明

    は、語源的知識のない大半の現代日本語の母語話者が動詞「したがう」「ともな

  • 『台灣日本語文學報 22 號』PDF版 PDF 版は、広く業績を共有するためにインターネットでの検索と個人の閲覧の便に供する目的で公開しています。インターネット、印刷物、その他いかなる形でも、許可なく転

    載・複製・印刷・刊行・公開することを禁止します。

    231

    造は現代日本語に共存している。従って、重層化(Layering)が生

    じていると言える。 以上、「したがう」「ともなう」の文法化のプロセスを見た。2語

    の統語変化、意味変化の過程において、一般化、脱範疇化、重層化、

    持続の原理が働いていることが分かった。

    5.2.2 文法化した形式の統語的特徴と重層化

    本節では、新しい構造と古い構造の共存が「にしたがって」「に

    ともなって」の統語的特徴に反映していることを示す。

    前述のように、「にしたがって」「にともなって」の直前にそれぞ

    れ「動詞のル形」「動詞のル形+の」、「動詞のル形(タ形)」「動詞の

    ル形(タ形)+の/こと」が現れることがある。 (36) 「再建」が{増えるの/増える}にしたがい、新たな問題

    が浮上した。 (例(22)を再掲)

    (37) 利用者が{増える/増えるの}にともなって予約が取りに

    くくなる。

    金水(1995)、堀江(1997)によれば、古典日本語では、述語の

    連体形による名詞化が、主要な名詞化の手段であったが、近代日本

    語になると補文標識「の」をつけ、名詞句を構成する言い方が行わ

    れるようになった。

    (38) このほどの宮仕へは[堪ふる]にしたがひて仕うまつりぬ。

    (青木(2005)の例(9c))

    従って、「にしたがって」「にともなって」の前に「動詞のル形」

    が現れることは、堀江(1997)の指摘のように、古典日本語におけ

    る述語の連体形による名詞化の名残と言える14。この用法と平行し

    う」の文法化をどのように把握しているかという問題の理解に役立つ。一方、

    後者の説明を用いて、広範囲に現代に残存している、古典日本語における述語

    の連体形による名詞化を統一的に捉えることができると考えられる。 14 堀江(1997)では、現代日本語では、古典日本語の名残である述語の連体形による名詞化が、特に「に」格を含む次の形式にかなり広範囲に残存している

    ことを指摘している。

    (ⅰ) [車を買う]に際して、親に借金を申し込んだ。(堀江(1997)の例(34))

  • 『台灣日本語文學報 22 號』PDF版 PDF 版は、広く業績を共有するためにインターネットでの検索と個人の閲覧の便に供する目的で公開しています。インターネット、印刷物、その他いかなる形でも、許可なく転

    載・複製・印刷・刊行・公開することを禁止します。

    232

    て、補文標識の付加による名詞句が「にしたがって」「にともなって」

    の前に現れることもあるので、新しい構造と古い構造が現代日本語

    に共存していると言える。 4.1.1、4.2.1 で見たように、「にしたがって」「にともなって」の

    直前の動詞句の主格の「が」格が「の」に変わることがある。 (39) 船{の/が}進むにしたがって、雲のように見えていたも

    のが、だんだんはっきりと島の形になって、あらわれてき

    ました。 (例(20)を再掲)

    (40) 第四項は、電話加入者の数{の/が}増加するにともな

    って電話売買業者の取引の数も増加するものと予想され

    ますが、(略)。 (例(29)を再掲)

    「が/の」の交替は、日本語の名詞修飾節に観察される(益岡、

    田窪(1992:202))。前述のように、「にしたがって」「にともなって」

    の直前に現れる補文標識のノやコトを除いた「動詞のル形(または

    タ形)」は、現代に残っている、古典日本語における述語の連体形に

    よる名詞化の形式である。従って、(39)(40)で「が/の」の交替が

    起こるのは、「にしたがって」「にともなって」の前の名詞句が次の

    構造を有しているためであると考えられる(なお、「φ」は補文標識

    がゼロの場合を示す)。

    (41) 「名詞修飾節」+「φ」+複合助詞

    以上の考察から、重層化の原理で「にしたがって」「にともなって」

    の統語的特徴を統一的に捉えることができると言える。

    5.2.3 空間表現から時間表現へ

    砂川(2000)では、「したがう」「ともなう」の文法化は空間表現

    から時間表現への変化と説明しているが、本節では、この視点を踏

    まえて、更に、異なる意味特徴をもつ2語が、時間表現へと変化す

    るときに、どのような相違が生じるかを見る。

    前述のように、「にしたがって」は漸進的な事態間の関連、「にと

    もなって」は二つの事態の同時随伴の関連を表す。2語の意味・用

    法の特徴は、元の動詞の意味の相違から来ると考えることができる。

  • 『台灣日本語文學報 22 號』PDF版 PDF 版は、広く業績を共有するためにインターネットでの検索と個人の閲覧の便に供する目的で公開しています。インターネット、印刷物、その他いかなる形でも、許可なく転

    載・複製・印刷・刊行・公開することを禁止します。

    233

    砂川(2000)の説明のように、動詞「したがう」「ともなう」は

    ともに、空間概念を表す表現である。しかし、「したがう」は<空間

    的随行>の意味をもっているのに対し、「ともなう」はそのような意

    味をもっていない。<空間的随行>は、空間的位置の変化を表す意

    味が含まれている。従って、「したがう」には空間的位置の変化を表

    す意味が含まれるが、「ともなう」にはそのような意味が含まれてい

    ないと言える。

    「したがう」が「にしたがって」へと変化するときは、元の動詞

    に含まれる、空間的位置の変化を表す意味が時間的位置の変化をも

    つ事態変化の意味に変化する。従って、「にしたがって」は、時間幅

    をもつ漸進的な事態間の関連を表す表現になると考えられる。一方、

    「ともなう」が「にともなって」へと変化するときは、元の動詞に

    含まれる、同じ物理空間にいるという空間概念の意味が、時間的に

    重なっているという時間概念の意味に変化する。従って、「にともな

    って」は二つの事態の同時随伴の関連を表す表現になると考えられ

    る。

    砂川(2000)では、<随伴15>という概念で、空間表現から時間

    表現への変化する16「したがう」「ともなう」の共通点を捉えている

    が、本稿では、更に、2語の表す空間概念の意味が異なるので、そ

    れが時間表現へと変化するときに、異なる時間概念の意味を表すよ

    うになったことが明らかになった。

    5.2.4 時間表現から因果表現へ

    本節では、「にしたがって」と「にともなって」との比較を通して、

    時間の意味から因果の意味が読み取れる仕組みを見る。

    前述のように、「にしたがって」が用いられるとき、読み取れる因

    果関係の意味は語用論的な推論による。一方、「にともなって」が用

    いられるとき、前件と後件が瞬間的な変化を表す場合、読み取れる

    15 砂川(2000)でいう<随伴>については本稿の2節を参照。 16 砂川(2000)では、この変化には、メタファーによる空間から時間への意味の転写が起こっていると述べられている。

  • 『台灣日本語文學報 22 號』PDF版 PDF 版は、広く業績を共有するためにインターネットでの検索と個人の閲覧の便に供する目的で公開しています。インターネット、印刷物、その他いかなる形でも、許可なく転

    載・複製・印刷・刊行・公開することを禁止します。

    234

    因果関係の意味は内在的意味である。

    2語の前件と後件から因果関係の意味が読み取れる仕組みは次

    のように考えることができる。前述のように、「にしたがって」「に

    ともなって」は、前件の事態に関連してどのような事態が生じるか

    を表す。この前件と後件の事態の関連は、聞き手(または読み手)

    の中の因果関係の論理に合致する場合、因果関係の意味が読み取れ

    ると考えられる。

    注意すべきは次のことである。「におうじて」は「にしたがって」

    「にともなって」と同様に、事態の変化が関連して起こることを表

    すのであるが、下に示すように、この場合には、「におうじて」は因

    果関係の意味が読み取れない。

    (42) 利率は、半年ごとに実勢金利に応じて変動する。

    Traugott and Köning(1991)では、事態間の時間的重複(overlap)

    は因果解釈への契機となると述べられている。(42)をもう一度見

    ると、この例では、「半年ごとに」を用いていることから、「実勢

    金利」が変化がする際、「利率」は必ずしも変動しないことが分か

    る。従って、この場合に因果関係の意味が読み取れないのは、二

    つの事態の変化が時間的に重なっていないためであると考えられ

    る。一方、<事態間の同時随伴の関連>を表す「にともなって」

    は勿論、<漸進的な事態間の関連>を表す「にしたがって」は、

    時間的に先行している前件と、後件の事態とが時間的に重なって

    いると考えられる。従って、2語のもつ、時間的重複という意味

    特徴が因果解釈を容易にすると言える。

    更に、下の比較から分かるように、(43)のような、時間的に重な

    っている事態の間に読み取れる因果関係の意味は取り消すことがで

    きるが、(44)のような、発生時間が全く同じ事態の間に読み取れる

    因果関係の意味は取り消すことができない。ここから、事態の発生

    時(または事態が発生することが確実となった時点)が全く同じ場

    合、因果関係の意味が慣習化し、内在的意味になることが窺える。

    (43) ネットの普及にともなってネット電話の利用者数も急増

  • 『台灣日本語文學報 22 號』PDF版 PDF 版は、広く業績を共有するためにインターネットでの検索と個人の閲覧の便に供する目的で公開しています。インターネット、印刷物、その他いかなる形でも、許可なく転

    載・複製・印刷・刊行・公開することを禁止します。

    235

    している。しかし、利用者数急増の本当の原因は、ネット

    が普及しているためではなく、接続料金が値下がりしてい

    るからである。 (例(35)を再掲)

    (44) *親の死去にともなって多大な遺産を相続した。しかし、遺

    産を相続したのは、親の死去のためではない。

    (例(34)を再掲)

    6.まとめ

    以上、動詞「したがう」「ともなう」の文法化の特徴を考察した。

    本稿の3、4節では、動詞「したがう」「ともなう」、複合助詞「に

    したがって」「にともなって」の統語的、意味的特徴を考察した。新

    たに明らかになったことを下に示す。

    ① 動詞「したがう」「ともなう」について

    「したがう」は<移動>の意味をもっているが、「ともなう」は

    もっていない。2語は補文をとる場合、前者は補文標識「の」だけ、

    後者は「の」「こと」の両方とも許容する。

    ② 複合助詞「にしたがって」「にともなって」について

    「にしたがって」と異なり、「にともなって」は<事態間の同時随

    伴の関連>を表す。また、「にしたがって」が用いられる場合、読み

    取れる因果関係の意味が語用論的な推論によるのに対し、「にともな

    って」の場合は、前件と後件が瞬間的な変化を表すとき、因果関係

    の意味が慣用化し、内在的意味になる。

    また5節では3、4節の考察結果に基づき、「したがう」「ともな

    う」の文法化の特徴を考察したが、新たに分かったことを下に示す。

    ③ 文法化の特徴について

    「したがう」「ともなう」の統語変化、意味変化の過程において、

    一般化、脱範疇化、重層化、持続の原理が働いている。また、2語

    の文法化した複合助詞には新しい形式、構造と古い形式、構造が共

    存している。更に、2語は異なる意味・用法を持っているので、空

    間表現から時間表現へ、更に時間表現から因果表現へと変化する際、

  • 『台灣日本語文學報 22 號』PDF版 PDF 版は、広く業績を共有するためにインターネットでの検索と個人の閲覧の便に供する目的で公開しています。インターネット、印刷物、その他いかなる形でも、許可なく転

    載・複製・印刷・刊行・公開することを禁止します。

    236

    相違を呈していることも明らかになった。

    最後に残された課題を述べる。まず、動詞「ともなう」は文法化

    する際、なぜ「を」格ではなく「に」格と一語化するかについては

    まだ不明である。「に」格は2語の文法化の過程において、どのよう

    な役割を果たしているかを説明する必要がある。また、接続詞「し

    たがって」も動詞「したがう」に由来するが、本稿ではこの点を考

    察しなかった。これらの問題については今後の課題にしたい。

    参考文献

    青木博史(2005)「複文における名詞節の歴史」『日本語の研究』1-

    3、pp.47-60

    秋元実治(2004)「文法化」『コーパスに基づく言語研究―文法化を

    中心に』ひつじ書房、pp.1-38

    金水敏(1995)「日本語史からみた助詞」『言語』24-11、大修館書店、

    pp.78-85

    久野暲(1973)『日本文法研究』大修館書店

    国立国語研究所(2001)『現代語複合辞用例集』国立国語研究所

    佐野裕子(2005)「複合辞ニツレテ・ニトモナッテをめぐって」『日

    本語・日本文化研究』15、大阪外国語大学、pp.145-155

    菅長理恵(2006)「用法と語性―「~にしたがって・につれて」を中

    心に」『留学生日本語教育センター論集』32、東京外国語大学、

    pp.47-61

    砂川有里子(1987)「複合助詞について」『日本語教育』62、pp.42-55

    ―――――(2000)「空間から時間へのメタファー―日本語の動詞と

    名詞の文法化―」『空間表現と文法』くろしお出版、pp.105-142

    塩入すみ(1999)「「変化の連動」を表す副詞節の分析―トトモニ・

    ニツレ・ニトモナイ・ニシタガイ―」『東呉日語教育学報』22、

    東呉大学、pp.72-89

    田中寛(2001)「漸進性をあらわす後置詞―“-につれて”などをめ

  • 『台灣日本語文學報 22 號』PDF版 PDF 版は、広く業績を共有するためにインターネットでの検索と個人の閲覧の便に供する目的で公開しています。インターネット、印刷物、その他いかなる形でも、許可なく転

    載・複製・印刷・刊行・公開することを禁止します。

    237

    ぐって」『大東文化大学紀要』39、大東文化、pp.97-122

    野田春美(1995)「ノとコト―埋め込み節をつくる代表的な形式―」

    『日本語類義表現の文法(下)』くろしお出版、pp.419-428

    橋本修(1990)「補文標識「の」「こと」の分布に関わる意味規則」

    『国語学』163、pp.101-112

    堀江薫(1997)「構文から見た日本語らしさ」『日本語学』16-7、

    pp.14-22

    益岡隆志(1992)『基礎日本語文法―改訂版―』くろしお出版

    松木正恵(1990)「複合辞の認定基準・尺度設定の試み」『早稲田大

    学日本語研究センター紀要』2、早稲田大学日本語研究センタ

    ー、pp.27-52

    森田良行・松木正恵(1989)『日本語表現文型:用例中心・複合辞の

    意味と用法』アルク

    山梨正明(1992)『推論と照応』くろしお出版

    Grice, H. P. (1975) Logic and conversation, in Cole, P and J. Morgan

    (eds.) Syntax and Semantics, 3: Speech Acts, pp.41-58. Academic

    Press.

    Hopper, Paul and Elizabeth Closs Traugott (1993) Grammaticalization.

    Cambridge. UK: Cambridge University Press.(日野資成訳(2003)

    『文法化』九州大学出版会)

    Matsumoto, Y. (1998) Semantic Change in the Grammaticalization of

    Verbs into Postpositions in Japanese. In T. Ohori.(eds), Studies in

    Japanese Grammaticalization. pp.25-60, Kurosio

    Traugott, Elizabeth Closs and Ekkehard Köning (1991) The

    Semantics-Pragmatics of Grammaticalization Revisited, Elizabeth

    Closs Traugott and Bernd Heine (eds.), Approaches to

    Grammaticalization Volume I, pp.189-218, John Benjamins.