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INTERNATIONAL AFFAIRS http://www.jiia.or.jp/ ONLINE ISSN: 1881-0500 PRINT ISSN: 0452-3377 公益財団法人� 焦点 習近平 新時代 の行方� ◎巻頭エッセイ◎19回党大会は何を物語るか? 天児 慧1 「習近平新時代中国特色社会主義思想」の検証 趙 宏偉6 習近平時代における中国共産党の党員リクルート政策 鈴木 隆15労働者の疎外と労農同盟喪失の組織実態 中国型社会統制システムの進化と影響 金野 純29 法とアーキテクチャによる支配を中心に 「一帯一路」の現段階と日本 江原 規由40国際問題月表20185 1 日- 31 53 7 8 月� 2018 7 8 合併号No.673 電子版�

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INTERNATIONAL AFFAIRS

http://www.jiia.or.jp/

ONLINE ISSN: 1881-0500 PRINT ISSN: 0452-3377

公益財団法人�

焦点:習近平「新時代」の行方�◎巻頭エッセイ◎�

第19回党大会は何を物語るか? 天児 慧─ 1�

「習近平新時代中国特色社会主義思想」の検証 趙 宏偉─ 6�

習近平時代における中国共産党の党員リクルート政策 鈴木 隆─15�

労働者の疎外と労農同盟喪失の組織実態

中国型社会統制システムの進化と影響 金野 純─ 29�

法とアーキテクチャによる支配を中心に

「一帯一路」の現段階と日本 江原 規由─ 40�

●国際問題月表� 2018年5月1日-31日─ 53

7・8月�2018年7・8月[合併号] No.673 電子版�

第19回中国共産党全国代表大会(党大会)が、2017年10月18日に開催され24日に

閉幕し、習近平の第2期政権のスタートとなった。習近平が行なった「政治報告」は

3時間半に及ぶ長大なもので、その壮大な内容とあわせ、彼の強いリーダーシップと

長期政権への意欲を十分に示したものとなった。しかも中央にとどまらず、地方の人

事でも習近平支持一色に染まったものとなった。さらには、この大会では、習近平の

名前を冠した「思想」が盛り込まれ、毛沢東、 小平と肩を並べる「偉大な指導者」

としての習近平がアピールされたのである。この大会を振り返ってみるなら、以下の

3点が大きな特徴となっている。第1は、習への権力、権威の集中が大きく進展した

こと、第2は、習の長期政権への強い意志が示されたこと、第3には、これから習が

進めようとする事業は毛沢東、 小平とは異なった新たな課題への挑戦であること、

が際立った特徴としてみられるのである。

習近平への権力集中と権威化

前回の第18回党大会以後、反腐敗闘争が本格化したが、それに伴って習近平の対

抗馬になりそうな人々が次々と失脚した。江沢民系で公安部門、石油部門を握ってい

た周永康、軍の2人の副主席、徐才厚、郭伯雄らが追い落とされ、他方で共産主義青

年団(共青団)系指導者、令計画の失脚、さらにポスト習近平の有力候補の1人、李

源朝国家副主席も第19回党大会で引退を余儀なくされた。国務院総理の李克強もた

びたび重要な政策決定を行なう会議から排除されていた。さらに2017年7月にはポス

ト習の最有力候補の1人で若手の重慶市党書記・孫政才も辞任させられた。このよう

に中央レベルでの反腐敗闘争の結果をみれば、習近平のライバル、ポスト習の有力候

補者がことごとく政権周辺から排除されていったのである。

対抗馬排除に続き、制度的な習への権力の集中が進んだ。江沢民時代以降、党総書

記は国家主席、中央軍事委員会主席の主要三権に就き、そのほかの分野で実質的な政

策立案、決定の機関とも考えられていた党中央の領導小組―例えば外交分野では党

中央外事領導小組、経済財政分野では党中央財経領導小組など―のトップ(組長)

の幾つかを党総書記以外の指導者が担当するのが通例であった。胡錦濤時代では例え

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 1

◎ 巻頭エッセイ◎

Amako Satoshi

ば、経済財政問題は温家宝、思想・宣伝問題は李長春、治安問題は周永康がそれぞれ

の領導小組の組長になり分業体制が敷かれた。しかし第18回党大会以降、各領導小

組組長のポストはことごとく習近平自身が独占していった。そのうえ、特に重要な安

全保障や改革深化、メディア・サイバーセキュリティーの3つの分野で新たな政策決

定機関を新設し、これらのトップもすべて習自身が就任した。

権力の集中にあわせて、習近平の「権威化」も進められた。さまざまな大胆な戦略

設定、主導的な政策実践はやがて最高指導者としての習近平の権威化を促すことにな

った。2012年の末に習は「中国の夢」の実現を、「2つの百年」(共産党創立百年=2021

年と、中華人民共和国建国の百年=2049年)の成功裏に迎えることを提唱した。2013年

6月には訪米し、米国指導者に「21世紀の創造的な新型大国関係」樹立を呼び掛けた。

同年9月には「一帯一路構想」の提案・推進を掲げ、その具体化のために初めての中

国イニシアティブの国際銀行である「アジア・インフラ投資銀行」(AIIB)も設立し

た。

こうした「偉大な指導者」習近平のイメージづくりに合わせて、2016年1月に習に

近い地方の幹部らが率先して、習自身を「党の核心」と呼ぶようになり、その声は党

内に浸透していった。そして同年10月の中国共産党第18期中央委員会第6回全体会議

(中共6中全会)でついに「習近平は党の核心」という正式決定がなされた。「党の核

心」の表現は毛沢東、 小平、江沢民に次いで4人目で、この肩書がつくことは、こ

れまでのケースから類推して重要事項の最終決定に極めて大きな権限をもつことが承

認されたと判断してよい。

習の権威を高める運動はこれにとどまらない。2017年に入り、習近平に近い人々か

らさらに「習近平思想」という言葉が登場するようになった。そして秋の第19回党

大会では「党規約」に「習近平『新時代の中国の特色ある社会主義』思想」という習

個人の名前を付けた表現を盛り込むことに成功したのである。

長期政権を目指す戦略と指導体制づくり

では党大会での「政治報告」の内容や「人事」からどのような特徴が読み取れるの

だろうか。筆者が最も注目した点は、長期目標の設定の仕方と、彼自身が長期政権を

目指す強い意志を表明したことである。「2つの百年」の目標はすでに触れたが、今回

の報告では、その間の2035年に中間目標を設定した。経済はすでに量から質を目指す

段階に入っており、国有企業の戦略的再編、環境改善、ハイテク、金融の役割を重視

した資本市場の健全な発展を目指し、2035年までには「美しい中国」を実現し、中華

文化の国際的影響力を高めると主張した。2035年からの第2段階では世界一流の軍隊

を建設し、トップレベルの総合国力をもつ近代化した社会主義強国を実現すると言明

した。

◎巻頭エッセイ◎第19回党大会は何を物語るか?

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 2

指導部人事をみると、党中央政治局常務委員会では、注目されていた王岐山の留任

は見送られたが、2018年3月の全国人民代表大会(全人代)では国家副主席への就任

が決まり、対米関係、経済で指導的役割を任されたと考えられる。ポスト習近平候補

と言われた若手の指導者もトップ7人から排除された。習は、政権の運営、各政策決

定で自分の考えをスムースに政策に反映させやすい指導者を抜 し配置することがで

きた。

2035年という節目の設定のもう1つの含意は、習近平は何らかのかたちでそこまで

は指導権を握ろうとしているのではないかということである。2035年に習は82歳で

ある。 小平が天安門事件で民主化運動鎮圧の指揮をとったのが84歳、1992年に「南

巡講話」という最後のメッセージを発したのが87歳の時であった。今春の全人代で

は国家主席の任期制が廃止された。習近平は間違いなく長期政権を狙っていると読み

取ることができる。

これらによって、まさに「習近平時代の到来」を思わせる大会となった。

政治報告からみえる目標と課題

では、習近平が描く中国の将来像はどのようなものか。「政治報告」では数々のバ

ラ色の目標が提唱されている。例えば、①すべての子供に良質な教育を、②2020年

に農村の貧困脱却を実現、③全生涯をカバーするヘルスケアシステムを確立、④生態

文明(エコ文明)改革の加速を挙げ、そして最後に「まずまずの生活ができる社会を

全面的に達成し、中華民族の偉大な復興という中国の夢を実現し、人民の美しく素晴

らしい生活を実現するために引き続き奮闘しよう!」という表現で「報告」を結んで

いた。

これらは大変結構な目標である。しかし、それらすべてを同時的に追求できるほど

現実は甘くない。これらの目標を整理すると、以下の3点に絞られる。

第1は国内の経済社会に関するもので、従来の成長戦略に伴う環境破壊など深刻な

弊害、不均衡・不平等社会が生み出されており、それらの改善、社会福祉の充実、グ

リーン社会の建設などを経済発展と同時に目指すことを重要課題とした。第2は、中

国の国際的影響力を高めることを狙った対外発展戦略である。ここでは「一帯一路」

建設が最重要課題で、中国以西地域の鉄道、高速道路、空港、港湾など流通インフラ

構築を進めている。この建設を通して、ユーラシア大陸、アフリカに至る広大な地域

で経済を発展させ、人々を豊かにした共同体空間の創設が目指されている。中国はそ

のためにAIIBなどの国際金融機関を設立した。しかし、もし「一帯一路」建設が十

分な成果を上げることができなかったら、国際的に中国は威信を大きく失い、その地

位も低下することになり、国内の経済社会建設問題にも負の影響をもたらすだろう。

第3に、21世紀なかごろに軍事大国を完成させ、米国と肩を並べるハードパワーをも

◎巻頭エッセイ◎第19回党大会は何を物語るか?

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 3

つことである。これによって米国イニシアティブの国際秩序は大きく揺らぐことにな

るだろう。

以上の3つの目標は極めて野心的である。習自身は同時並行的に進めようとしてい

るが、どれも同じトーンで取り組めるほど簡単なものではない。冷静沈着で戦略にた

けている指導者ならば、この3つにやはり優先順位をつけるだろう。そのなかで、第

1の国内の経済社会の建設、すなわち深刻な矛盾の解消と人々の社会生活の充実を第

1に優先する決断があれば、習近平は良い意味で歴史に名を残す指導者になるかもし

れない。しかし、国際的ステイタスや軍事力増強を優先していくとしたら、彼の行方

には大きな落とし穴が待ち受けているかもしれないのである。

毛沢東、 小平を超える指導者を目指す習近平の野心

今日の中国の変容をみる場合、一般的に、 小平が進めた改革開放が毛沢東時代を

転換させる大きな節目となり、その後は基本的には改革開放の流れが引き続いて進め

られてきたと理解されてきた。しかし第19回党大会で第2期政権を任された習近平総

書記は「政治報告」のなかで、今の時代が「新しい時代」だということを強調した。

まず目を引いたのは、毛沢東の戦略を「站起来」(立ち上がろう=建国)、 小平の戦

略を「富起来」(豊かになろう=富国)に対して、自らの時代を「強起来」(強くなろ

う=強国)と規定し、前二者との違いを鮮明にしたことである。さらに毛沢東思想、

小平理論に並ぶ自らのオリジナルな考え方として、「習近平『新時代の中国の特色あ

る社会主義』思想」という表現を「党規約」に書き込んだ。ここでは、毛沢東時代は

無論、 小平時代に対しても、現在はそれとは異なる「新時代」だということを示し

たかったのであろう。

極めて貧しかったにもかかわらず米ソを向こうに回して「大国外交」を展開した毛

沢東時代はともかく、習近平時代は 小平時代と何がどう違うのか。第1に、 小平

時代は「先富起来」(条件のあるところから豊かになろう)という「格差是認」政策を

とり、経済は急成長したが格差拡大、環境汚染、腐敗蔓延など負の現象も深刻化し

た。これに対して、習近平は「共同富裕」、グリーン社会、腐敗撲滅で「美しい中国」

の建設を呼びかけている。

第2に、 小平は、経済成長優先のために国際紛争・摩擦を極力避け、平和的環境

重視の姿勢で「韜光養晦」政策を堅持した。これに対して、習近平は、加速度的に軍

事力を増強し、主権に絡む問題には積極的に主張し行動し、かつ国際問題に積極的に

影響力を行使する「大国外交」を展開した。

第3に、 小平時代の近代化政策の目指すところは、基本的には従来西欧社会が歩

んできた工業化とそれに伴う経済・政治・社会の変化であり、大枠では西欧モデルを

追求していたと言える。これに対して習近平時代は西欧型発展の道を最終の目標とせ

◎巻頭エッセイ◎第19回党大会は何を物語るか?

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 4

ず、中国独自の発展モデルを提示しているようにみえる。

その全体像はまだ鮮明なものではないが、経済に関しては、国家にとって重要な大

型基幹企業の国有制は堅持しつつ、それ以外は積極的に市場メカニズムに委ねる一方

で、政治は儒教の賢人統治、すなわち人治を統治のベースに、統治システムとしては

民衆の声にも耳を傾ける近代的な制度を取り込むが、被統治者が指導者を選び、政策

決定に参加する西欧型の民主主義は否定するといったものである。習近平の意図を拡

大してみれば、西欧中心に生み出され世界の公共財として普遍化されてきた人権、市

民権、権力観といった価値観や、議会制、三権分立、選挙といった制度・メカニズム

に対する歴史的な挑戦と言えるかもしれないのであるが、その答えが出るのはまだか

なり先の話となるだろう。

◎巻頭エッセイ◎第19回党大会は何を物語るか?

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 5

あまこ・さとし 早稲田大学名誉教授

はじめに

2017年10月の中国共産党(以下、「中共」)第19回全国代表大会(党大会、以下、「19大」)では、

習近平による報告(2017年10月18日、以下、「習報告」)(1)と加筆・修正された「党規約・総綱

(前文)」に、「習近平新時代中国特色社会主義思想(習近平による新時代の中国の特色ある社会

主義思想)(2)」(以下、「習近平思想」)という固有名詞が記され、マルクス・レーニン主義、毛

沢東思想、 小平理論、「3つの代表」思想(江沢民)、科学的発展観(胡錦濤)に並んで、党

の行動指針とされた。中共史上、最高指導者の名を冠した「行動指針」は毛沢東思想、 小

平理論に次ぐものであるが、「思想」ではなくそのサブレベルの「理論」と控えめにした「

小平理論」の上をいって、毛沢東思想に並ぶ「習近平思想」の「創立」となっている。

では、習近平思想の中身・性格・狙いは何だろうか(3)。習近平の時代を思想ことイデオロ

ギーという視角から、何がみえてくるだろうか。

1 習近平思想の構成

(1)「新主要矛盾」

「習報告」は、「中国の特色ある社会主義は新時代に入った」とし、「中国社会の主な矛盾

は、人民の日増しに増大するよりよい生活への需要と不均衡・不十分な発展の間の矛盾に変

化した」(以下、注がついていない引用は「習報告」より。訳文は趙宏偉による)(4)と指摘した。

この「新主要矛盾」こそ、習近平思想の核をなし、そして「思想」としての質を保証するコ

ンセプトである。

中共はマルクス主義系の「社会発展論」という固定観念、固有の思考様式をもち、原始社

会、奴隷社会、封建社会、資本主義社会、共産主義社会、そして共産主義社会の初級段階と

しての社会主義社会というサブ段階もあるといった、社会発展の段階をもって万国の歴史と

現状の時代区分を行なう。中国の場合になると、中共はかつてソ連のロジックを用いて、社

会主義国は、すでに階級をなくしたためにその主要矛盾も、もはや階級闘争ではなく、「人民

の経済と文化の迅速な発展に対する必要と、当面の経済と文化が人民の必要を満たせない状

況の間の矛盾である」とした(5)。ほぼ1960年代から1976年まで、毛沢東は前記のソ連ロジッ

クを否定して階級闘争こそ中国社会の主要矛盾だと捉えたが、後の 小平時代には、ソ連ロ

ジックが復活し、進んで社会主義段階まで初級と高級に分けられて、中国がその初級段階に

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 6

Zhao Hongwei

あり、そこで「発展は第一要務だ」と規定された。

この流れを踏まえて19大で、習は現状を依然として社会主義初級段階と位置づけつつ、初

級段階ではあるものの中国はその「新時代」、すなわち「新主要矛盾」という性格の時代に入

ったという説を打ち立てた。新主要矛盾の新時代説なら、マルクス主義系の社会発展論を踏

まえていると言え、クオリティーが高いとされる「思想の創立」として位置づけることがで

きるようになり、それで「習近平思想」の誕生が主張できるようになるわけである。

(2)「新時代」

新時代は、前述のかつての「主要矛盾」が言う「人民の経済と文化の迅速な発展に対する

必要と、当面の経済と文化が人民の必要を満たせない状況」という矛盾から、「人民の日増し

に増大するよりよい生活への需要と不均衡・不十分な発展」という「新主要矛盾」に変化し

た時代を指す。新時代において、「人民のよりよい生活への需要は、日増しに広範囲に広が

り、物質と文化の生活へのより高い要求のみではなく、民主、法治、公平、正義、安全、環

境等への要求も日増しに増加し」、「人間の全面的発展、社会の全面的進歩をよりよく推進し

ていくものである」(習報告)。

習報告は、「今、世界は未曽有の局面の大転換に直面し、そして中国の特色ある社会主義

は新時代に入った」としている(6)。このような「新時代は中華人民共和国の発展史上、中華

民族の発展史上、重大な意義をもち、世界社会主義発展史上、人類社会発展史上にも重大な

意義を有する」。なぜならば、新時代は「中華民族が立ち上がること、裕福になることから強

くなっていくという偉大な躍進を迎え、中華民族の偉大な復興が明るい見通しをもって迎え

られるようになっていることを意味している」。習報告は中華人民共和国史を毛沢東の立

国、 小平の富国に時代区分し、これからの強国の実現を自らが背負う新時代の使命として

いる。そしてこの社会主義強国の実現は、「科学的社会主義が21世紀の中国で強大な生命

力・活力をもって甦り、世界で中国特色ある社会主義の偉大な旗を高らかに揚げていること

を意味し、中国特色ある社会主義の道、理論、制度、文化の絶え間ない発展、発展途上国の

近代化への道の開拓は、世界中の発展の加速と自国の独立性の両立を望む国と民族にまった

く新しい選択、人類が直面する問題の解決に中国の知恵と中国の方案によって貢献すること

を意味するものである」。この新時代はまさしく「中華民族の偉大な復興という中国夢の実現

の時代であり、わが国は世界舞台の中央に登りつき、世界人類にさらなる貢献を提供し続け

る時代である」(習報告)。

習報告が描いた世界の「未曽有の局面の大転換」は、「東風圧倒西風」(東方は西方を圧倒す

る)、「社会主義戦勝資本主義」(社会主義は資本主義に戦勝する)といった古き毛沢東語録を用

いて言い表わせば、わかりやすいだろう。前者は資本主義500年史、後者は社会主義200年史

における「未曽有の局面の大転換」を指していると思われる。そしてそこで、このような偉

大な新時代を導く習近平思想は、世界人類レベルまでの偉大な思想に位置づけられるという

ことである。

(3) 習近平思想と基本方略

習報告は「習近平思想と基本方略」の章を設け、いわく第1任期の5年のうち「新時代に

「習近平新時代中国特色社会主義思想」の検証

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 7

どのような中国特色ある社会主義を堅持・発展させ、いかに中国特色ある社会主義を堅持・

発展させるか」といった「重大な時代の課題に」直面して、わが党は「……共産党の執政法

則、社会主義建設の法則、人類社会発展の法則への認識を深化させ、……極めて困難な理論

の探索を進めて重大な理論創造の成果を勝ち取り、『新時代中国特色社会主義思想』を形成し

た」。

そしてそれは以下の内容を含む。新時代の「総目標、総任務、全体配置、戦略的配置、お

よび発展方向・方式・ダイナミックス・戦略的ロードマップ・外部条件・政治保証等の基本

問題であり、また経済、政治、法治、科学技術、文化、教育、民生、民族、宗教、社会、生

態文明、国家安全、国防と軍隊、一国二制度と祖国統一、統一戦線、外交、共産党の建設等

各方面に対して新たな実践に基づいて理論の分析と政策の指導を行なうものである」。

いわゆる「総目標」は「中国特色ある社会主義を堅持・発展させ」、「総任務は社会主義現

代化と中華民族の偉大な復興」を2035年までに基本的に実現し、2049年の建国百年に全面的

に実現するという2つの段階をもって、「富強、民主、文明、和諧(調和)、美しい社会主義現

代化強国を打ち立てる」ことである。「全体配置」は「五位一体」と言い、「経済建設、政治

建設、文化建設、社会建設、生態文明建設を統括して推進する」ことである。「戦略的配置」

は「4つの全面」と言い、「小康(ややゆとりのある)社会の全面的実現、改革の全面的深化、

全面的な法に基づく治国、全面的な党建設の厳格化という戦略的配置の調和的推進をはかる」

ことである(党規約)。

続いて、14項からなる基本方略を示した。第1に一切の仕事に対する党の領導の堅持、第

2に人民を中心に据えることを堅持、第3に改革の全面的深化の堅持、第4に新しい発展理念

の堅持、第5に人民が主人公を堅持、第6に全面的な法に基づく治国の堅持、第7に社会主義

の核心的な価値体系を堅持、第8に発展のなかで民生の保障と改善の堅持、第9に人と自然の

調和と共生の堅持、第10に国家の総体的安全観の堅持、第11に党の軍隊に対する絶対的領導

の堅持、第12に一国二制度と祖国統一の推進の堅持、第13に人類運命共同体の構築の推進を

堅持、第14に全面的な党建設の厳格化の堅持、である。

2 習近平思想の性格

習近平思想は発展途上にあるものであり、いまのところ、その中身は思想というより政策

体系である。本来、「思想」という言葉は「哲学」を指す(『広辞苑』)。共産主義の系譜のな

かで、マルクス、レーニンはもちろん、毛沢東思想も「矛盾論」「実践論」「中国革命と中国

共産党」等といった思想レベルでの研究があっての「思想」なのである。

習近平の場合は、前述のとおり、1956年の第8回党大会から継承してきた中国における主

要矛盾説が言う「人民の経済と文化の迅速な発展に対する必要と、当面の経済と文化が人民

の必要を満たせない状況」という矛盾から、「人民の日増しに増大するよりよい生活への需要

と不均衡・不十分な発展」という「新主要矛盾」に転換させ、それを思想レベルでの「創立」

としているが、前者の論理はすでに後者を包摂しているとも言えよう。「人民の経済と文化の

迅速な発展に対する必要」という論旨は、当然「日増しに増大するよりよい生活への需要」

「習近平新時代中国特色社会主義思想」の検証

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 8

を包摂するものであろう。それに主要矛盾説は、毛思想の「矛盾論」の中心論点である。

前述した習報告第3章の「習近平思想と基本方略」の内容をみても、新時代の「総目標、

総任務、全体配置、戦略的配置、および発展方向・方式・ダイナミックス・戦略的ロードマ

ップ・外部条件・政治保証……」も、それに「五位一体」、「4つの全面」、14項からなる基本

方略も、思想ではなく政策である。

確かに、中国モデル、中国の道、中国の成功と錯誤、中国の台頭および持続可能性……は、

いま世界的に注目されている研究課題でもあり、思想や哲学のレベル、社会科学や人文科学

のレベルでの思想の創造や科学の創造が求められている。たとえば、資本主義と社会主義、

市場経済と国有企業、自由主義と国家主義、自由・民主・反腐敗と独裁、これら水と油のよ

うなものを、中共があえて1つにして実験、推進を繰り返し、かつ基本的に成功してきた。

そして、習報告のなかには、確かに下記のような民主の必要性についての言葉があった。

人民は豊かになり、「民主、法治、公平、正義、安全、環境等への要求も日増しに増加してい

る」。習はこれら普遍的価値観を認め、またそれに応えると公言している。

また、対外開放について、報告は「内国民待遇」、「ネガティブリスト」、「自由港」といっ

た今まで口にしたことのない高度な自由主義の概念を並べ、地方の活性化についても「地方

省・市・県政府への権限移譲」を明確に打ち出している。報告は世界でもトップレベルの開

放度を目指す姿勢を示している。

ちなみに、目下の米中貿易・技術戦争について、国際世論から米中「両国の対峙は、自由

主義対国家主義の様相であり」、「米中の覇権争い」であり、「中国は例外だ。世界第2位の経

済大国になりながら一党独裁の共産党の号令で国有、民間を問わずに企業が目標実現へ一斉

に動く新・開発独裁だ……、それでも海外の自動車・ IT(情報技術)大手は中国に群がる」

と熱く論じられている(7)。

研究課題は山積し、中国でも世界でも、その第一線で奮戦し続けている中共、習近平によ

る本格的な理論、思想の営みに期待したい。

3 習近平思想の政治的意味

(1) 権威の装置としての「思想」

中共はイデオロギー政党として、思想を権力への権威付けの装置とし、習近平による個人

名を冠した習思想の創立は、習の権力に権威を付与するためである。政治学一般は権力の正

当性を重んじる。しかし政治プロセスのなかで、正当性を有する権力をもっていても、権力

の行使がままならない場合が多々ある。そこで権力者には権威が必要になってくる。権威

(authority)は自発的に同意・服従を促すような能力や関係のことと一般的に認識される。そ

のような権威は権力の正当性をひとつの条件とするが、カリスマ性、政治能力もその必要条

件になる。

党規約は習近平思想の「指導の下で、中国共産党は全国各民族人民を領導し、偉大な闘争、

偉大な工程、偉大な事業、偉大な夢を総攬する」と規定し、新時代としてこの4つの偉大な

ことを行なうものだとしている。さらにこの4つの偉大なことのなかで、「偉大な工程は決定

「習近平新時代中国特色社会主義思想」の検証

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 9

的な役割を有するものであり」、それは「党の建設という新しい偉大な工程であり」、「全党は

習近平同志を核心とする党中央の権威と集中統一の領導を固く支持し、全党の団結と統一お

よび行動一致を保証しなければならない」と規定している。中共は 小平時代から胡錦濤時

代まで「党中央の集団領導」を党是としてきたが、習報告からはその文言が消えた。

習近平は2035年までの社会主義強国の基本的な実現という発展目標を新たに設定し、それ

は 小平による建国百周年の2049年での「基本的な実現」という設定を2035年に前倒しに

し、そして2049年に「全面的な実現」と目標を引き上げた。そして習は時期と目標を具体的

に明らかにすることで、第2の任期以降も権力をもち続け、2035年までの第1段階を自らや

り遂げる意志を示した。ちなみに2035年を跨る任期は2037年までである。

2035年に習は82歳、当期の任期満了の2037年に84歳になる。 小平は毛沢東独裁と文化

大革命の教訓を汲み取って集団指導制と任期制を敷き、江沢民と胡錦濤は、2期10年までの

任期を守って制度化に努めていた。ところが、その間に中共は新たな教訓を得ることになっ

た。それは好青年、好中年、好老年の胡錦濤を後継者に選んだが、人の好い人物では強い権

威をもつナンバーワンにはならず、カリスマ性に欠け、当時の政治局常務委員9人による「9

人大統領制だ」(8)と中国国内の研究者から分析され、民衆から揶揄されるほど統制はとれず

に、それを一因として10年間のうちに全党全国が腐敗しきってしまったという痛恨があっ

た。中共と中国メディアは、習が党と国家を亡党亡国の危機から救ったと宣伝しているが、

一理あるものと言える。強いリーダー待望論は、米ロ欧日等でもみられるが、中国ではさら

に強く現われているわけである。そこで中共は「習近平思想」まで「創立」して、イデオロ

ギーによる権威付けの役割を最大限に用い、そして統治の安定のために習に任期制破りの長

期政権まで付与した。

共産党政権を維持していくために、権力交代の制度化のみではなく、権力全般、すなわち

権威性、正当性、カリスマ性、政治能力を含めて再構築することが必要であり、それは今回

の習思想のひとつの内容と意味であろう。19大は権力全般の再構築という問題意識を共有し、

再構築の1.0モデルを完成したと言えるが、政策論以上の、どういう思想ないし論理があった

かは示されず、習思想は確かに発展途上にあるとも言えよう。

(2) 権威の論理への模索― 小平から習近平

小平の世代は、社会主義が中国と世界で広く支持されていた時代に革命家、建国者と

して、そしてその後の1970年代後半から改革者として絶大な政治的権威を有し、カリスマ

として君臨していた。しかし共産党政権を維持していくうえで、後継者たちに権威、いわ

ば正当性、カリスマ性、せめて求心力をどのように付与すればいいかは難問だった。

1980年代、社会主義の世界的な退潮に際して中国でもいわゆる「三信危機」、つまり共産

主義を信仰せず、共産党を信任せず、社会主義に自信をもたずといった中共の正当性にとっ

ての危機が進行した(9)。 小平は1992年に江沢民に跡を譲ったとき、「党の核心」という権

威付けを与えるかたちで党内の権力における正当性と求心力をもたせようとした。同時に

小平は江沢民の後継者をも指名し、49歳の胡錦濤を破格にも政治局常務委員に抜 した。胡

錦濤は中共が育てた名門大学卒の好青年、好幹部といったタイプであり、知力と人格をもっ

「習近平新時代中国特色社会主義思想」の検証

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 10

て正当性と求心力を獲得するという論理での選抜だった。

中共は権威の論理をもうひとつもち、革命烈士と革命家の子女から後継者を育てて選抜す

るものであり、その論理は人々からは「血統論」とも批判される。これらの子女たちは中国

で「太子党」と俗に呼ばれる。 小平らは「太子党」なら党天下を守り抜く使命感があるだ

ろうという論理を有する。1992年当時、2名の子女は30代ですでに地方政府で10年ほど経験

を積んだ。劉少奇元国家主席の息子の劉源河南省副省長、習仲勲元副首相の息子の習近平福

州市党書記である。そのほかに、薄一波元副首相の息子の薄熙来大連市副市長がいるが、

1982年には地方基層政府に腰を据えた劉と習と違って、薄は1984年に大連市金県の党副書記

に赴任したのであり、最初から見込まれた後継者候補ではなかったのは明らかである。

1980年代初め、 小平指導部は第1世代の党・国家レベルの指導者に限って子女の1人を

中央の部レベル、地方の省レベルの副長に任命する申し合わせをした。文化大革命中に迫害

を受けた指導者とその子女たちへの償いでもあり、後継者育成の計画でもあった。「太子党」

のなかでの「大兄貴」とされる党長老の陳雲の息子陳元が平党員から北京市西城区党副書記

に任命されたことは、その典型的なケースだった。ところが、文化大革命後の1980年代に、

中共党内でも毛沢東による終身制および妻の江青や甥の毛遠新の権勢のような特権に対する

拒絶感情がとりわけ強く、陳元は後に北京市党常務委員に昇進したが、1987年の市党代表大

会で党代表たちの投票で落選した。1980年代の後半のこのような政治状況のなか、多くの

「太子党」は政界進出を諦め、任命制の機構である中央省庁、軍、国有企業に移っていき、陳

元も中央銀行である中国人民銀行の副頭取に移った。そんななかで、劉と習が北京等ではな

く権力の末端である県政府に腰を下ろして勤め続けていたことは、例外的な処遇であった。

劉と習は当時、中共中央とその中央組織部によって「第三隊列」と呼ばれる(10)後継者候補と

して見込まれていると推測される。

ところが、習はその後、前述した中共党内での拒絶感情によって、党大会で「候補中央委

員」に落選したり、最低の得票数で末位に滑り込んだりして、後継者どころか出世にも後れ

をとっていた。それでも、習は政界を諦めず、地方で黙々と勤めていた。習が党総書記と国

家主席になった2013年に、筆者はたまたまその理由を1つみつけた。劉源の回顧による

と、 小平の「劉源は政府だけではなく、軍での経験も積んだほうがいい」という意向によ

り軍事委員会副主席だった楊尚昆の命令で、1992年に劉は武装警察水力発電指揮部政治委員

(軍団長階級)に任命され、政界を離れた(11)。後、約20年後の習近平による反腐敗運動は、劉

源が軍隊で突破口を切り開いて習政権を支えた。

1992年に、 小平は江沢民、胡錦濤に継ぐ三代目の後継者を習一人に絞り、劉を軍隊から

習を支える役回りに配置したということであろう。つまり一般的に思われていた江沢民、胡

錦濤までではなく、習近平も 小平が決めた後継者である。もちろん、 小平は1997年に死

に、胡錦濤の着任まであと5年間、習近平まであと15年間もあり、 の望みが実現できるか

どうかは、後の政局によるところが大きくなる。

習近平は地方で30年ほど勤め、評価につながるようなパフォーマンスもみせてこなかっ

た。薄熙来の競争的なパフォーマンスづくりと比べて大違いだった。目立たずにしてきた習

「習近平新時代中国特色社会主義思想」の検証

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 11

の我慢強さ、粘り強さ、その精神力の陰には、中共長老たち、なかでも「太子党」によるバ

ックアップがあったのではないか、と推測される。前記の陳元のほか、「太子党」のなかで

「大兄貴」と呼ばれるのは、葉剣英元帥の次男、葉選寧である。葉選寧は文化大革命中、唯一

政権内で生き残っていた軍長老である父葉剣英によく使われて、打倒された指導者たちとそ

の子女たちに内密に接触し、慰め、情報伝達に努め、とりわけ毛の死去前後に 小平らの安

全確保と復権工作に奔走していた。そのなかで、葉選寧は長老と子女たちからの信頼が集ま

っていた。葉選寧、陳元、劉源たちは血統論の論理に従って習を支える力になっていたと思

われる。ちなみに、客家ハッカ

人の都と呼ばれる広東省梅県の出身の葉家は、世界の客家人のカリ

スマ的存在である。

習近平による権威の論理の模索は、薄熙来の「重慶モデル」をめぐる論争にはじめてみら

れた。

今日の「中国モデル」という言葉は、一言で言い表わせば、市場経済を基盤としながら自

律性が強い国家権力をもって、経済と社会に対して民主主義体制の代替として効率的なガバ

ナンス(中国の政治用語では「社会管理」)を施すというものである。昨今の国際社会では、新

自由主義の放任は経済の危機、格差の拡大を招き、その後の公正公平主義は、多党競争を民

に媚びるポピュリズムの競い合いに変形させていき、結果的に自律性の弱い国家と安定性に

欠ける社会をもたらしてきた。当の中国も迷いが深く、前述の「三信危機」に直面している

中国社会で、どうすれば「党国」に対する民の信任を取り戻すことができ、統治の正当性が

保てるかは難問である。

そこで良くも悪しくもガバナンスの「試点」(実験)として、2008年末に重慶市党書記に就

任した薄熙来は、率先して「重慶モデル」を走り出させた。やがて、ライバルの汪洋広東省

党書記も煽られて「広東モデル」と呼ばれるものを打ち出して、モデルについての百家争鳴

が巻き起こった。薄は人口3500万の大重慶市でカリスマ性の強いトップを演じながら、主に

「分配」、「打黒」(政官財匪複合体の一掃キャンペーン)、「唱紅」(毛沢東時代の革命歌を歌わせる

政治キャンペーン)を命令方式で驀進させた。

「分配」について、2010年、薄と汪の間で有名な論争が起こった。薄はパイを大きくして

からではなく、パイをつくると同時に分配を重んじると唱え、それに対して汪は、常識的に

はパイを大きくしてはじめて分配を良くすることができると反論してきたが、汪の言う「常

識」論は明らかに不人気であり、薄の重慶での取り組みは庶民から絶大な人気を勝ち取った。

当時、分配重視を自負していた温家宝首相も真っ先に重慶視察に駆け付けた。

「打黒」は、重慶で深刻化している政官財匪複合体を一掃するものだった。万単位の逮捕

者を数え、死刑にされた官僚の筆頭は元公安局長・現役司法局長の文強だった。官僚叩きで

人気を得ることも世界共通の手法である。古来、苛政の下では民が生きづらいという意味の

熟語「民不聊生」が中国にはあるが、薄氏治下の重慶では「官不聊生」が流行語となった。

薄は民から拍手喝采を受けた。

「唱紅」については、薄の言い方では「唱紅歌、読経典、講故事、伝箴言」というもので

あり、かつてのきれい事の革命理想と伝統的な儒学の価値観を庶民に植え付けようとしたも

「習近平新時代中国特色社会主義思想」の検証

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 12

のだが、「唱紅」だけがメディアに喧伝されて争点化された。重慶の庶民たちは「唱紅」を強

く支持し、革命理想の宣伝を政官財に対する戒めだとみていたようである。

薄熙来政治は、ワンフレーズ政治の類であり、小泉純一郎、バラク・オバマ、安倍晋三が

もてあそんできたものである。その根底にあるのは、「愚民」という意識であろう。民は愚か

でカリスマのワンフレーズに惹かれるが、説明を詳しくすればするほどかえって民心は離れ、

治まらなくなるものである。

民を治める「社会管理」の方法で頭を痛めていた中共首脳たちは、薄熙来モデルの大成功

に驚愕し、9人の政治局常務委員のうち、胡錦濤、李克強を除いて7人が重慶を訪れて褒めた

たえた。習は2010年12月に重慶視察に訪れ、真っ先に「打黒」の成果を見学したたえた。

薄熙来失脚のプロセスからも、重慶モデルへの批判を党が禁止したことがみてとれる。

2012年3月14日午前、温家宝首相が記者会見の場を利用して「倒薄」の狼煙を上げた(12)。温

は記者会見の司会を担当していた李り

肇星せい

前外相、全人代スポークスマンから、再三時間オー

バーを伝えられても、会見を続け、ロイターの記者から重慶副市長の王立軍が米国総領事館

へ駆け込んだ事件について聞かれ、それに応えて薄熙来批判を打ち上げてから、席を立った。

つまり「温家宝の狼煙」は党首脳部の既定方針ではなかった。温は指導部員のなかで薄熙来

批判の第1号だった。

会見で温氏は常套句である「胡錦濤総書記」や「党中央」という言葉をまったく使わず、

終始「私」という一人称で自己顕示をし続けた。また会見のなかで「私の独立した人格が

人々に理解されないことに苦痛を感じざるをえない」と、愚痴にしか聞こえない発言をし、

一個人としての政治改革の信念や、任期最後の年ゆえの怖いものなしの決意を打ち上げた。

「私の独立した人格」云々の表現は、共産党の掟を破るような自己誇示である。共産党の政治

文化では、共産党員は「党性」、言わば「党の人格」を重んじ、党から「独立した人格」を決

して主張してはならない。

温が会見のなかで示した薄熙来批判の論理も、中共中央の既定見解に反するものだった。

温は重慶モデルを意識して文化大革命の再来がありうると強調したが、「文化大革命」はここ

30年間中共指導者たちがタブー視する用語である。さらに、温はその場で、あえて中共中央

が毛沢東の功罪を総括した1981年の「若干の歴史問題に関する決議」が1978年の改革開放決

議よりも「重要だ」、と毛沢東批判ともとれる発言をした。こうした温の主張は、中共の定説

に逆らうものでもある。翌3月15日に中共は薄の打倒を決めたが、挙げられた犯罪事実はた

だ1つ、妻が企業家から400万米ドル相当のフランスにある一軒家をもらったという汚職の罪

だった。温家宝は自ら数回語ってきた「文化大革命の再来の危険性」をこの日を境に2度と

言わなくなった。中央から発言は禁じられたのだろう。習にとっては、イデオロギー、カリ

スマによる大衆動員、さらに命令方式による大衆動員が必要であり、それは権威の論理の1

つである。

おわりに

習報告で示されている習近平思想は、思想というより、政策論であり、政策体系である。

「習近平新時代中国特色社会主義思想」の検証

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 13

ちょう

それはそれで、儒学が礼儀作法の語りにすぎないとも言われることと同様、それでも思想だ

と主張し、実学こそ中国の特色ある思想だと捉えるならそれも一説であろう。

習近平思想は発展途上にあると捉えたい。このごろ、旧来の米国例外論に対して、中国例

外論、米中両国例外論の論調も出てきた。急速に超大国に成長してきた中国は確かに異色な

ケースである。その分、思想レベルでの研究・説明が重大な課題であると言えよう。

なお、習近平思想、いや社会主義中国における最高指導者名を冠した思想は、最高指導者

の権力に権威を付与する装置でもある。そこでその権威の装置としての思想ないし論理は、

また最高指導者の後継者選抜にまでインパクトするものである。

ちなみに、 小平のただ1人の男の孫である 卓隷は、習近平が国家主席に着任した2013

年に、28歳(1985年生まれ)で 小平がかつて革命根拠地をつくった広西省平果県の副県長

に任命された。 卓隷は米国生まれ、北京大学とデューク大学を卒業した法学修士である。

推測される習近平の退任の2037年に、 卓隷は62歳になり、習の後継者候補になるかと思

われた。ところが、 卓隷は2016年にすでに副県長を退任し、翌年にコントラクトブリッジ

北京協会理事兼プロ選手として現われた。祖父 小平はブリッジが大好きであり、自分も大

好きだと言う。では、習近平は今後、どんな思想ないし論理を形成させ、それをもって中共

最高指導者の後継人をどのように育てて選抜していくだろうか。そして、その実践のなかで

新たな首脳部交代の制度化をはかっていくだろうか。

( 1)「中国共産党第19回全国代表大会における習近平報告」『中国年鑑2018』、一般社団法人中国研究

所、2018年、403―424ページ。

( 2)『人民網日本語版』の翻訳文、2017年10月24日。

( 3) 習近平思想を解説した著作として、矢吹晋『中国の夢―電脳社会主義の可能性』、花伝社、2018

年。

( 4)『中国網日本語版』(2017年10月23日)の翻訳文は、「人民の日増しに増大するすばらしい生活へ

の需要」。

( 5)『中共第8回党大会政治報告』、1956年。

( 6) 王文「如何理解“前所未有之大変局”」『参考消息』、新華社、2018年5月17日(訳は筆者による)。

( 7)「新・開発独裁 米と覇権争い」『日本経済新聞』2018年5月20日。

( 8) 胡鞍鋼「 煌十年,中国成功之道在 里」『人民日 ・海外版』2012年7月3日。

( 9) 胡耀邦「形 、理想、 律和作 ―在1985年中央党校学 典礼上的 告」、胡耀邦史料信

息网。

(10) 中国語では「第三梯隊」(第三隊列)。当時、現役中の 小平指導部を「第一梯隊」とし、次世代

の後継者メンバーを「第二梯隊」と呼び、さらにその次の後継者候補メンバーという「第三梯隊」

を育てると 小平は指示した。

(11) 劉源「憶楊尚昆」『中国共産党新聞網』2009年4月8日〈http://dangshi.people.com.cn/BIG5/144956/9094

621.html〉。

(12)「温家宝の記者会見」『人民日報』2012年3月15日。

「習近平新時代中国特色社会主義思想」の検証

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 14

ちょう・こうい 法政大学教授[email protected]

はじめに

2012年11月、中国共産党総書記に就任した習近平は、早くも2013年1月には、従来の党員

リクルート政策を見直し、「16字の総合要求」(控制総量、優化結構、提高質量、発揮作用)と

呼ばれる、新たな活動方針を提起した。以後今日まで、全国の党組織は、この政策スローガ

ンに基づいて、入党工作を実行している。公式発表によれば、2016年12月末時点で、共産党

の党員数は約8944万7000人に達する(1)。これは、同年10月時点の日本の総人口の約7割に当

たる。2017年の人口の国別ランキングでは、世界第15位のベトナムに次ぐ規模であり、ドイ

ツやイラン、タイなどの人口よりも多い。

本稿の目的は、この世界最大の政党である中国共産党を対象に、党員リクルートの分析を

通じ、政党組織論の視点から、習近平時代における共産党の連続と変容、および、中国社会

に占める共産党の政治的立ち位置を考察することにある。そこではまた、分析のひとつの焦

点として、2001年に江沢民が提起した「3つの代表」論で正当化され、胡錦濤時代に本格運

用が始まった新興の社会経済エリート(中国語で「新的社会階層」、以下「新社会階層」)への入

党工作も、議論の俎上に載せる。これにより、2012年に公刊した拙著のなかで扱ったいくつ

かの論点について、その後の継続調査を行ない、さらなる議論の発展を試みる(2)。

習近平時代の入党工作を論じた研究は、極めて少なく、孫應帥や佐倉晴葵の仕事が代表的

なものである(3)。しかし、これらはいずれも2014年に発表された業績であり、2013年にスタ

ートしたばかりの新たな党員リクルート政策について、全体像が明らかにされたとは言い難

い。これに対し本稿では、より長期的・系統的視点から、統計資料の収集と分析を行ない、

習近平時代の党員リクルートの状況について、総合的な理解を得ることを目指す。

議論の流れは、次のとおりである。第1節では、習近平政権が成立して以来の、新たな党

員リクルート政策の展開過程と、それへの党中央の意図を確認する。第2―3節では、江沢

民・胡錦濤時代との比較を念頭に置きながら、習近平時代の党勢発展について、多面的な分

析を試みる。最後に、それらの議論を手がかりとして、習近平時代における中国共産党の組

織的性格と政治運営について、若干の評価と展望を行なう。

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 15

Suzuki Takashi

1 新たな党員リクルート政策の導入とその狙い

(1)「16字要求」の提出

習近平指導部による既存の入党工作の見直しと新たな活動方針の提起は、2012年11月の中

国共産党第18回全国代表大会(党大会)を経て、習政権が発足して間もない時期になされた。

このことは、党員リクルートに対する習近平の問題意識の高さを示している。

入党工作の改善の必要は、元々、18回党大会の政治報告のなかで、胡錦濤前総書記によっ

て指摘されていた(4)。これを受けて習近平は、早くも2013年1月の中央政治局会議で議題に

取り上げ、新たな党員リクルートのあり方を審議した。その主な論点は、3つである。

第1は、市場経済化の深化と党員数の絶えざる増加に伴い、「党自身が党を厳格に管理する

という任務」が、日々困難さを増しているという問題認識である(5)。入党工作の不備による

一部党員の政治信念の動揺、規律観念の希薄化、政治腐敗などは、早急な是正が必要と言う。

第2に、これらの問題解決のため、新政権の入党工作の指針として、「総量を抑え、構成を

最適化し、質を高め、役割を発揮する(控制総量、優化結構、提高質量、発揮作用)という総

合要求」を提示した。冒頭で述べたとおり、このスローガンは、「16字の総合要求」(以下

「16字要求」)として知られる。

第3に、「青年層の労働者・農民・知識人への党員リクルート」を重視すべきことが謳われ

た。この時の政治局会議と前後して、2012年12月に開かれた組織部門の会議でも、中央組織

部長の趙楽際(当時)は、「16字要求」に基づき、労働者・農民・知識人の吸収に努めるよう

指示した(6)。この三大集団重視の立場は、本稿執筆時点(2018年5月8日現在)でも変わって

いない。

(2)「新意見」と「新細則」の制定

前項の政治局会議の翌月、2013年2月に、党中央弁公庁は、「新たな情勢下において、党員

リクルートと党員管理の活動を強化することに関する意見」(以下「新意見」)を発出した。同

文書は、すぐ後でみる「中国共産党発展党員工作細則」(以下「新細則」)と共に、習近平時代

の党員リクルート政策の根幹を成している。

「新意見」の中身に関し、最大の注目点は、入党工作の「総量規制」を実行し、2013年か

ら2022年までの10年間、すなわち、習近平総書記の2期目の任期が満了するその年まで、毎

年の党員総数の増加率を+1.5%前後に抑えることが明記された(7)。同時に、各地の党委員会

に対し、数量ノルマを含む実施計画の策定、履行状況の検査と報告を義務づけた。

その後、2014年5月には、党中央組織部(以下、中組部)が、入党の具体的手続きを定めた

上記の「新細則」を発表した。これは、1990年に頒布された「中国共産党発展党員工作細則

(試行)」を、実に24年ぶりに改定したものである。

習近平時代の新たな党員リクルートの制度的定着は、2015年10月、中組部による「発展党

員工作座談会」の開催で、ひとつの締め括りを迎えた。総括演説のなかで、同部の高級幹部

は、「16字要求」を貫徹し、全国的に「総量規制を常態化させ、党員数の速すぎる増加の勢

いを有効に抑制」すべきことを強調した(8)。

習近平時代における中国共産党の党員リクルート政策―労働者の疎外と労農同盟喪失の組織実態

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 16

(3) 質の重視と量の抑制、労働者・農民・知識人の位置づけ

以上のように、指導部が入党の量的制限に踏み切った背景には、党内秩序の紊乱と、その

帰結としての政権喪失に対する習近平の強い危機意識があった。習は、従来の党員リクルー

トの問題点を、政党集団の質を犠牲にした量の過大な追求として理解し、新規加入者の数を

制限する一方、申請者の政治的資質を的確に見極めることを要求した(9)。

また、既述のとおり、習近平や趙楽際は、入党工作において、青年層の労働者・農民・知

識人を優先すべきことを強調した。こうした言葉の裏側には、入党者の量的制限を通じて具

体化されるはずの、理想的な党員集団の内部構成と政治的資質の少なからぬ部分が、マルク

ス主義の階級政党としての本質的属性、すなわち、労農同盟の組織実態によって担われるべ

きとする、共産党人にとっては極めて素朴な認識がみてとれる。

だが、「総量規制」の名の下に、入党者数の伸びが厳しく制限されたり、大幅に減らされ

たりすれば、統治の現場では、限られた入党者の定員を、どのグループにどれだけ配分し、

どの程度削減するのかという、よりシビアで現実的な判断を迫られることになる。

2 「16字要求」に基づく党員リクルートの実態

中国政治研究における資料的制約の大きさは、党勢発展の基本的動向さえ、例外ではない。

入手可能な統計資料が限られているうえ、中身の散漫さも、研究者泣かせである。

残念ながら、本文中の図表も、そうした不備疎漏を免れていない。なかでも最大の難点は、

党員数の公式統計における分類項目の変更である。党員の職業別内訳のうち、2012年まであ

った「企業事業単位管理人員、専業技術人員」の項目が、2013年に急になくなり、(a)「企業

専業技術人員」、(b)「企業管理人員」、(c)「事業単位・民弁非企業単位管理人員、同専業技術

人員」の名称が登場した。さらに2014年以降は、これらに代わって、(d)「企業事業単位・民

弁非企業単位専業技術人員」と、(e)「企業事業単位・民弁非企業単位管理人員」が用いられ

ている。

この変更理由、各項目に含まれる具体的な職種や人数の算定方法の異同などは、一切不明

である。ただし、一部の資料と実際の分析結果からみて、確度の高い理解の仕方は、従前の

「企業事業単位管理人員、専業技術人員」のカテゴリーに一括して計上していた人々を、2013

年からは、所属先(企業・事業単位、民弁非企業単位)と職位(専業技術人員、管理人員)に応

じ、細分化して記録するようになったというものである(10)。

それゆえ、以下の図表では、通時的比較を可能にするため、2013年は(a)(b)(c)を、2014

年以降は(d)(e)を、それぞれ合算し、12年以前と合わせて、「企業事業単位・民弁非企業単

位の管理人員と専業技術人員」の名称で統一的に記載している。

(1) 入党者の総量規制の状況

第1表には、2008年から2016年までの全国の入党動向を示した。これによれば、党員リクル

ートの総量規制がスタートした2013年以降、入党者数は大幅に減少した。2013年の全国の入

党者は約240万8000人で、これは2004―13年までの10年間で、入党者数が前年のそれを初め

て下回った画期的な出来事とされる。2014年の場合、新規入党の総数は前年比-14.6%、職

習近平時代における中国共産党の党員リクルート政策―労働者の疎外と労農同盟喪失の組織実態

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 17

業別では、一桁台の減少にとどまった「党政機関工作人員」と「その他の職業人員」を除き、

他はみな1―2割近く減った。2009年の各項目の前年比と比べれば、違いは一目瞭然である。

筆者の直接の見聞のうち、党中央直属のシンクタンク研究者によれば、所属組織全体では、

これまで毎年5名程度の新規加入が認められていたが、近年では2名に減らされ、入党は狭き

門になったと言う(11)。

その後、時間の経過に伴い、減少幅は徐々に小さくなっているが、最終的に2013―16年ま

での入党者数の年平均成長率(CAGR: Compound Annual Growth Rate)は、-7.4%であった。

このように、少なくとも量的側面に注目すれば、党員リクルートにおいては、2013年を転換

点として、それ以前とは明確に区別できる〈習近平時代〉が、確かに存在する。

第2表に示したとおり、入党者の減少により、在籍党員数の伸びも抑制された。2008年か

ら2016年までの党員総数の年平均成長率について、2013―16年は+1.1%で、2008―12年

の+2.9%に比べて半分以下となった。前節でみたように、党中央は、「新意見」のなかで、

2013―22年までの各年の党員総数の純増幅を、+1.5%前後に抑えるよう指示していた。2013

―16年の実績は、この目標を達成した。

職業別でも、+2.1%の横ばいであった「離職・退職人員」以外、現役就業者のすべてで、

伸び率は低下した。特に「学生」は、2008―12年は、年平均で1割近くの増加であったが、

2013年からは、逆に1割以上の減少に転じた。

第1図は、「新意見」の内容に基づき、2012年末時点の党員総数を基点として、2013―22

習近平時代における中国共産党の党員リクルート政策―労働者の疎外と労農同盟喪失の組織実態

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 18

第 1 表 全国における新規入党者の職業構成(2008―16年)

 *2013年は、「企業専業技術人員」「企業管理人員」「事業単位・民弁非企業単位管理人員、同専業技術人員」の3つを、2014年以降は、「企業事業単位・民弁非企業単位専業技術人員」と「企業事業単位・民弁非企業単位管理人員」の2つを、それぞれ合算した数字。

2008年 2009年 2013年

新規入党者の総数(前年比)

労働者(前年比)

農牧漁民(前年比)

党政機関工作人員(前年比)

企業事業単位・民弁非企業単位の管理人員と専業技術人員*

(前年比)�

学生(前年比)

その他の職業人員(前年比)

297.1(+5.8%)

280.7 205.7(-14.6%)

240.8 191.1(-2.7%)

-7.4%-4.7%

20.2(-3.3%)

20.9 14.5(-17.1%)

17.5 13.3(-2.2%)

-5.5%

60.1(+7.5%)

55.9 35.2(-17.4%)

42.6 34.1(-2.0%)

-6.0%

12.9(+4.9%)

12.3 10.6(-6.2%)

11.3 10.8(+0.9%)

-1.6%

58.5�

(+0.7%)

58.1 45.3�

(-10.7%)

50.7 41.4�

(-3.7%)

-4.1%

118.5(+11.1%)

106.7 76.7(-18.9%)

94.6 68.9(-4.0%)

-5.3%

27.0(+0.7%)

26.8 23.3(-3.7%)

24.2 22.6(-0.4%)

196.5(-4.5%)

13.6(-6.2%)

34.8(-1.1%)

10.7(+0.9%)

43.0�

(-5.1%)

71.8(-6.4%)

22.7(-2.6%)

-2.1%

-8.7%

-7.2%

-1.5%

-6.5%

-10.0%

-2.3%

2016年年平均成長率

(2008-12年)�

年平均成長率

(2013-16年)�

(単位:万人)

2015年2014年

(注)

 以下の資料を総合的に利用して、筆者作成。鈴木隆『中国共産党の支配と権力』、慶應義塾大学出版会、2012年、184ページ、表3-1の当該年度の中国語資料。盛若蔚「2013年中国共産党党内統計公報顕示 発展党員調控効果明顕」『人民日報』2014年7月1日。同「従厳治党,党員総量増速再放緩」『人民日報』2015年6月30日。同「中国共産党党員結構持続優化 基層党組織功能不断強化」『人民日報』2017年7月1日。中共中央組織部「2015年中国共産党党内統計公報」『人民日報』2016年7月1日。同「2016年中国共産党党内統計公報」『人民日報』2017年7月3日。

(出所)

年まで、毎年+1.5%で純増した場合(青の棒グラフ)の在籍党員の人数の伸びを試算したも

のである。これによれば、2022年の党員数は約9879万3000人で、状況によっては、党創立百

周年の2021年前後に、1億人の大台に達する可能性もある。

他方、2016年までの実績を基に、2017年から2022年までの期間を3つの成長パターン(+

1.1%、+1.3%、+1.5%)で描いたのが、第2図である。現在の趨勢に大きな変化がないとすれ

ば、2022年の党員数は、9500―9700万人台で止まる見込みである。

一部資料によれば、2013年2月に「新意見」を通知した際、中組部は、上記の+1.5%前後

の要求とは別に、2022年末までの党員総数を9600万人程度に抑えることも求めたと言う(12)。

これが正しいとすれば、同部が真に期待している毎年の純増幅は、+1.2%程度と計算できる

(第1図)。事実、2012―16年の年平均成長率は+1.2%で、おおむねこの見通しで推移してい

る。よって、2022年時点の党員総数は、約9600万人前後の可能性が高い。

(2) 党員リクルートの優先対象

新規入党の削減に伴い、全国の入党工作の現場では、当地の安定と発展に資する有為な人

材を獲得すべく、以前にも増して、志願者の慎重な選別に努めるようになったと思われる。

では共産党は、どのような職業の人々を、優先的にリクルートしているのか。以下ではこの

問題を、実数と削減幅の2つの観点から検討する。

①実数に基づく優先対象

第3図には、前掲の第1表に基づき、2008―16年までの入党者の職業別内訳の百分比の推

移を示した(2010―12年の関連数値は未発表)。具体的な職種が不明な「その他の職業人員」

習近平時代における中国共産党の党員リクルート政策―労働者の疎外と労農同盟喪失の組織実態

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 19

第 2 表 全国における党勢発展と在籍党員の職業構成(2008―16年)

 *2013年は、「企業専業技術人員」「企業管理人員」「事業単位・民弁非企業単位管理人員、同専業技術人員」の3つを、2014年以降は、「企業事業単位・民弁非企業単位専業技術人員」と「企業事業単位・民弁非企業単位管理人員」の2つを、それぞれ合算した数字。

2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年

党員総数 7593.1 7799.5 8026.9 8260.2 8512.7 8668.6 8779.3 8875.8 8944.7 +2.9% +1.1%

労働者 733.6 693.7 698.9 704.7 725.0 734.3 734.2 724.4 709.2 -0.3% -1.2%

農牧漁民 2361.2 2402.0 2442.7 2483.4 2534.8 2570.3 2593.7 2602.5 2596.0 +1.8% +0.3%

620.8 659.6 681.2 699.9 715.7 730.3 739.7 748.5 756.2 +3.6% +1.2%

1687.6 1772.5 1841.3 1925.0 2019.6 2096.8 2154.8 2205.9 2255.1 +4.6% +2.5%

学生 201.4 226.9 253.9 277.8 290.5 260.4 224.7 203.4 187.0 +9.6% -10.4%

1428.2 1452.5 1485.2 1518.2 1553.8 1589.1 1621.6 1658.1 1692.7 +2.1% +2.1%

560.1 592.3 623.6 651.3 673.3 687.4 710.5 733.0 748.5 +4.7% +2.9%

年平均成長率

(2008-12年)

年平均成長率

(2013-16年)

(単位:万人)

(注)

 以下の資料を総合的に利用して、筆者作成。鈴木、前掲『中国共産党の支配と権力』、184ページ、表3-1の当該年度の中国語資料。「全国党員総数8260.2万名 党的基層組織総数402.7万個」『党建研究』2012年第7期、16ページ。盛若蔚「我們党充満生機活力」『人民日報』2013年7月1日。2013年以降は、第1表に同じ。

(出所)

党政機関工作人員

企業事業単位・民弁非企業単位の管理人員と専業技術人員*�

離職・退職人員

その他の職業人員

を除くと、当該期間の入党者の多い順は、第1位「学生」→ 第2位「企業事業単位・民弁非

企業単位の管理人員と専業技術人員」(2009年だけ農牧漁民と順位が逆転)→ 第3位「農牧漁

民」→ 第4位「労働者」→ 第5位「党政機関工作人員」であった。ごく単純な理解として、

この順番が、新規入党の実数の多寡に基づく優先対象のランキングを表わしている。

また、胡錦濤と習近平の両執政期(2008―09年、2013―16年)について、各職業の百分比

の平均値を求めた後に(13)、「労働者」と「農牧漁民」の合計比率と、「党政機関工作人員」お

よび「企業事業単位・民弁非企業単位の管理人員と専業技術人員」のそれを比べてみると、

2013年を境に、後者が前者を上回る状況が生まれている。言うなればこれは、党員リクルー

トの量的戦線において、伝統的な労農同盟が、「党政機関工作人員」と「企業事業単位・民弁

非企業単位の管理人員と専業技術人員」の連合軍に、敗北したことを意味する。

この点をさらに、第4図の在籍党員全体の職業構成の変化と重ね合わせると、「16字要求」

に基づく党勢発展の全体的なトレンドは、次のように約言できる。すなわち、胡錦濤期(2008

―12年)には、党員集団に占める「労働者」と「農牧漁民」は、ほぼ毎年その割合を減らし、

習近平時代における中国共産党の党員リクルート政策―労働者の疎外と労農同盟喪失の組織実態

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 20

10,000

9,800

9,600

9,400

9,200

9,000

8,800

8,600

8,400

8,200

8,000

7,800

 筆者作成。(出所)

2013 (年)

第 1 図 2012年を基準とする「新意見」の党勢発展の計画(2013―22年)(万人)

14 15 16 17 18 19 20 21 22

■ +1.2%純増の場合■ +1.5%純増の場合�

10,000

9,800

9,600

9,400

9,200

9,000

8,800

8,600

 筆者作成。(出所)

2017 18 19 20 21 22 (年)

第 2 図 2016年を基準とする党員数予測(2017―22年)(万人)

■ +1.1%の成長パターン■ +1.3%の成長パターン■ +1.5%の成長パターン�

「企業事業単位・民弁非企業単位の管理人員と専業技術人員」が、一貫して増え続けてきた。

加えて既述のとおり、習近平期(2013―16年)には、新規加入の比率でも、「労働者」と

「農牧漁民」の連合グループは、「党政機関工作人員」と「企業事業単位・民弁非企業単位の

管理人員と専業技術人員」のそれよりも、少なくなった。それゆえ、2016年時点ではまだ、

全国の党籍保有者のなかで、前者の合計人数が後者を上回っているが、現在の状況が今後も

続けば、双方が逆転する日が必ずやってくる。

2013年と2016年の該当人数(第2表の網掛け数字)で単純計算してみると、在籍党員全体の

習近平時代における中国共産党の党員リクルート政策―労働者の疎外と労農同盟喪失の組織実態

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 21

7.4 19.9

6.8

7.3 17.7 4.7

20.2 4.3

4.4 20.7 38.0 9.5

9.1

10.0

37.3

39.3

39.919.7

21.1

22.05.217.17.0

21.95.417.76.9

21.75.717.87.0

11.3

11.6

11.836.1

36.5

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

2008年�

2009年�

2013年�

2014年�

2015年�

2016年�

 筆者作成。(出所)

第 3 図 全国における新規入党者の職業別内訳の百分比(2008―16年)

■ 労働者 ■ 農牧漁民 ■ 党政機関工作人員�■ 企業事業単位・民弁非企業単位の管理人員と専業技術人員�■ 学生 ■ その他の職業人員�

(%)

2008年�

2009年�

2010年�

2011年�

2012年�

2013年�

2014年�

2015年�

2016年�

第 4 図 全国における在籍党員の職業別内訳の百分比(2008―16年)

9.7

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100(%)

 筆者作成。(出所)

■ 労働者 ■ 農牧漁民 ■ 党政機関工作人員�■ 企業事業単位・民弁非企業単位の管理人員と専業技術人員�■ 学生 ■ 離職・退職人員 ■ その他の職業人員�

8.9 30.8

30.4 8.5

8.5 22.7

22.9

23.3

2.9

3.2

3.4

3.4 18.3 7.9

7.918.4

18.5 7.8

7.618.6

8.7

8.5 30.1

29.8

29.7

29.5

29.3 8.4

8.4

8.4

8.4

8.5

23.7

24.2

24.5

24.9 2.3 18.7

18.52.6

3.0 18.3 7.9

8.1

8.5

8.5

8.4

8.2

7.9 29.0 8.5 25.2 2.1 18.9 8.4

8.3

31.1 8.2 22.2 18.8 7.42.7

なかで、早ければ2021年にも、「党政機関工作人員」と「企業事業単位・民弁非企業単位の

管理人員と専業技術人員」の就労者の合計が、「労働者」と「農牧漁民」のグループを上回る

見込みである(第5図)。すなわち、党創立百周年の記念すべき年に、中国共産党は、組織実

態としての労農同盟の性質を失う可能性がある。

②削減幅からみる優先対象

第1表のうち、2013―16年の年平均成長率について、主な職業集団を、削減幅(=減少率)

の小さい順に並べると、第1位「党政機関工作人員」→ 第2位「企業事業単位・民弁非企業

単位の管理人員と専業技術人員」→ 第3位「農牧漁民」→ 第4位「労働者」→ 第5位「学

生」となる(前項と同じく、「その他の職業人員」を除外)。

このように、職業集団ごとの入党者の減り方は一律ではない。一般論として、この削減幅

が小さいほど、当該職業人への共産党側の組織内包摂の意欲が高く、削減幅が大きければ、

意欲が低いことを示す。それは、限られた入党定員の配分をめぐり、政治的代表性と社会経

済的有用性の点で、どの職業集団を重んじるべきか、あるいは、どの集団を軽視し、部分的

に切り捨ててもよいかという、個々の党委員会による比較考量の結果でもある。

本稿ではこれを、量の抑制を通じた質の向上という政策要点の、可視化された実践的意味

合いとして理解する。そして、上述の実数の観点と合わせて、2016年時点における各職業集

団の党員リクルートの優先順位は、第3表のように表わせる。

ここにみられるように、入党者数の多さと減少率の大きさが、対応関係にある職業群(農

牧漁民、党政機関工作人員、学生)と、そうでないもの(労働者、企業事業単位・民弁非企業単

位の管理人員と専業技術人員)の2種類がある。

前者は要するに、「入党者が多い(少ない)ので、それに見合った削減幅の大きさ(小ささ)

が与えられた」、言わば、自・

然・

なグループである。入党の量的規制の結果、削減幅が最も大き

かったのは、「学生」であった(第1表:-10.0%、本節以下のカッコ内の数字も同表)。他方、

「党政機関工作人員」は、2013年以降もほとんど減っていない(-1.5%)。すなわち、各地の

党組織にとって、政党としての質を重視した最優先のリクルート対象は、元々、支配体制の

習近平時代における中国共産党の党員リクルート政策―労働者の疎外と労農同盟喪失の組織実態

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 22

3,700

3,600

3,500

3,400

3,300

3,200

3,100

3,000

2,900

2,800

 筆者作成。(出所)

2016 (年)

第 5 図 全国における在籍党員の職業別人数の変化予測(2016―25年)�(万人)

17 18 19 20 21 22 23 24 25

3305.2

3011.3

3074.5

3341.1 3411.2

3482.9

3556.0

3630.7

3272.3

3139.1

3205.0

党政機関工作人員+企業事業単位・�民弁非企業単位の管理人員と専業技術人員�

労働者+農牧漁民�

内部に位置する各種組織(例:党政府機関、国有企業、人民団体)で働いている非党員の(若)

者である。これに対して「学生」は、もっぱら、数合わせ要員の性格が強い。

後者のグループは、「入党者が多い(少ない)のに、さほど減っていない(よりいっそう減っ

た)」という、ね・

じ・

れ・

た・

関係にある。「労働者」(-8.7%)は、「学生」に次いで2番目に大きな

削減対象で、入党者数も「党政機関工作人員」の次に少ない(第3表)。既存の支配体制下で

は、共産党への加入は、一般市民にとって、最も基本的かつ枢要な政治活動のひとつである。

だが「労働者」は、その前衛を自称する共産党の組織から、明らかに疎外された状態にある。

対照的に、実数・削減幅ともに優遇されているのが、「企業事業単位・民弁非企業単位の

管理人員と専業技術人員」である(第3表)。削減幅では、第1位の「党政機関工作人員」に

比べると、見劣りするものの、それでも第2位(-6.5%)を確保している。この点、全国統

計では、「農牧漁民」(-7.2%)との差はあまりないが、地域によっては、両者の間には相当に

大きな隔たりが現われる。例えば、貴州省の場合、習近平期の4年間(2013―16年)では、入

党の削減幅のランキング(小→大)は、第1位「党政機関工作人員」(+6.0%)→第2位「企業

事業単位・民弁非企業単位の管理人員と専業技術人員」(- 0.2%)→ 第 3位「学生」(-

7.6%)→第4位「農牧漁民」(-12.4%)→第5位「労働者」(-19.2%)であった(14)。

以上のように、実数と削減幅の2つを考慮すると、党員リクルートに際し、各級の党委員

会は、元々、体制の内部に属する「党政機関工作人員」を党組織の〈骨格〉とし、その周り

の〈筋肉〉には、主に、「企業事業単位・民弁非企業単位の管理人員と専業技術人員」をもっ

て充てようとしている。同時に、「労働者」と「農牧漁民」を冷遇し、特に、「労働者」への

締め出しの姿勢を強めている。

3 「新社会階層」への党員リクルート

すでにみたように、2013年以来、各地の入党工作では、「党政機関工作人員」と共に「企

業事業単位・民弁非企業単位の管理人員と専業技術人員」が優遇されている。このカテゴリ

ーに含まれる職業人と、現実社会で多く重なり、また共産党がその動静に細心の関心を払っ

ているのが、新興の社会経済エリート、すなわち「新社会階層」の人々である。

「新社会階層」への政治的アプローチに関し、習近平時代の発展として、2015年5月の「中

国共産党統一戦線工作条例(試行)」の施行に伴い、その構成集団について部分的調整がなさ

習近平時代における中国共産党の党員リクルート政策―労働者の疎外と労農同盟喪失の組織実態

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 23

第 3 表 全国の党員リクルートにおける各職業集団の優先順位(2016年)

(注) 削減幅の欄のうち、カッコ内の数字は、実数に基づく優先順位との対応関係から想定される仮の削減幅の順位を、△と▼は、それよりも実際の順位の上下をそれぞれ示す。

(出所) 筆者作成。

労働者 第4位 第4位(2、▼)

農牧漁民 第3位 第3位(3、―)

党政機関工作人員 第5位 第1位(1、―)

企業事業単位・民弁非企業単位の管理人員と専業技術人員 第2位 第2位(4、△)

学生 第1位 第5位(5、―)

削減幅(小→大)実数(多→少)

れた(15)。ただし、全体として、大きな変化はない。

第4表には、胡錦濤期(2004―12年)と習近平期(2013―16年)における「新社会階層」の

入党状況を、これと対比的に言及されることの多い「生産・工作現場の第一線」の者と併せ

習近平時代における中国共産党の党員リクルート政策―労働者の疎外と労農同盟喪失の組織実態

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 24

第 4 表 全国における「新社会階層」への党勢発展(2004―16年)

2004年 2005年 2006年

①全国の党員総数� (前年比)�

②新規入党者の総数 (前年比)

 うち「生産・工作現場� の第一線」の者 (前年比)� [②に占める割合]�

 うち新社会階層の者 (前年比)� [②に占める割合]�

③入党申請者の総数 (前年比)

 うち「入党積極分子」� に認定された者� (前年比)� [③に対する認定率]�

70,800,000(+2.0%)

2,470,000(+2.2%)�

72,391,000(+2.2%)

2,635,000(+6.7%)

69,603,000

2,418,000

74,153,000(+2.4%)

80,269,000(+2.9%)

+2.4%77,995,000(+5.2%)

2,782,000(+5.6%)

3,075,000(+3.5%)

+4.1%2,971,000(+6.8%)

1,233,000�

(-2.9%)�[49.9%]�

1,323,000�

(+7.3%)�[50.2%]�

1,270,000

[52.5%]�

1,307,000�

(-1.2%)�[47.0%]�

1,395,000�

(+3.5%)�[45.4%]�

+1.6%1,348,000

�(+3.1%)�[45.4%]�

10,000(-9.1%)�[0.4%]�

10,773(+7.7%)�[0.4%]�

11,000

[0.5%]�

16,000(+48.5%)�[0.6%]�

16,000(+3.4%)�[0.5%]�

+6.4%15,470

(-3.3%)�[0.5%]�

17,670,000(+1.7%)

19,073,000(+7.9%)

17,380,000 19,608,000(+2.8%)

21,017,000(+4.3%)

+3.2%20,156,000(+2.8%)

9,596,000�

(+3.1%)�[54.3%]�

10,021,000�

(+4.4%)�[52.5%]�

9,305,000

[53.5%]�

9,878,000�

(-1.4%)�[50.4%]�

10,555,000�

(+5.0%)�[50.2%]�

+2.1%10,053,000

�(+1.8%)�[49.9%]�

2010年年平均成長率

(2004-10年)�

(単位:人)

2009年2007年

2011年 2012年 2013年

①全国の党員総数� (前年比)�

②新規入党者の総数 (前年比)

 うち「生産・工作現場� の第一線」の者 (前年比)� [②に占める割合]�

 うち新社会階層の者 (前年比)� [②に占める割合]�

③入党申請者の総数 (前年比)

 うち「入党積極分子」� に認定された者� (前年比)� [③に対する認定率]�

85,127,000(+3.1%)

3,233,000(+2.1%)�

86,686,000(+1.8%)

2,408,000(-25.5%)

82,602,000

3,167,000

87,793,000(+1.3%)

89,447,000(+0.8%)

+1.1%88,758,000(+1.1%)

2,057,000(-14.6%)

1,911,000(-2.7%)

-7.4%1,965,000(-4.5%)

1,429,000�

(+2.3%)�[44.2%]�

1,098,000�

(-23.2%)�[45.6%]�

1,397,000

[44.1%]�

962,000�

(-12.4%)�[46.8%]�

953,000�

(-2.5%)�[49.9%]�

-4.6%977,000�

(+1.6%)�[49.7%]�

�―�

14,000�

[0.6%]�

�―�

13,000(-7.1%)�[0.6%]�

14,000(-6.7%)�[0.7%]�

±0%15,000

(+15.4%)�[0.8%]�

―�21,661,000(―)

21,604,000 21,815,000(+0.7%)

20,264,000(-8.9%)

-2.2%22,247,000(+2.0%)

―�10,513,000

��

[48.5%]�

10,684,000

[49.4%]�

10,297,000�

(-2.1%)�[47.2%]�

9,402,000�

(-5.8%)�[46.4%]�

-3.7%9,983,000

�(-3.0%)�[44.9%]�

2016年年平均成長率

(2013-16年)�2015年2014年

 以下の資料を総合的に利用して、筆者作成。鈴木、前掲『中国共産党の支配と権力』、184ページ、表3-1の抜粋、一部改。前掲「全国党員総数8620.2万名 党的基層組織総数402.7万個」。盛若蔚、前掲「我們党充満生機活力」、同「2013年中国共産党党内統計公報顕示 発展党員調控効果明顕」、同「従厳治党,党員総量増速再放緩」、同「中国共産党党員結構持続優化 基層党組織功能不断強化」。中共中央組織部「2013年中国共産党党内統計公報」『中国組織人事報』2014年7月2日。同、前掲「2015年中国共産党党内統計公報」、同「2016年中国共産党党内統計公報」、同「全国党員総数8260.2万名 党的基層組織総数402.7万個」『人民網』2012年7月1日〈http://politics.people.com.cn/n/2012/0701/c1001-18417196.html〉(2018年3月30日確認、以下同じ)。周英峰「我国目前党員8260.2万名 基層党組織402.7万個」『中国政府門戸網』2012年6月30日〈www.gov.cn/jrzg/2012-06/30/content_2174072.htm〉。同「截至2012年底:中共党員共有8512.7万名 基層党組織420.1万個」『人民網』2013年7月1日〈http://politics.people.com.cn/n/2013/0701/c1001-22024024.html〉。

(出所)

て示した(16)(2008・2011・2012年の新社会階層の入党者数は不詳)。この表からは、次の諸点が

判明する。

1つめに、「新社会階層」と「生産・工作現場の第一線」の双方の入党者数が把握できる

2010年と2016年の二時点比較では、それぞれ-12.5%、-31.7%で、両者ともに、その数を

大きく減らした。新興エリート層といえども、量的削減の措置を免れなかった。ただし、前

者の削減幅が1割程度であったのに対し、後者は、元々の人数が多かった分、3割超減った。

2つめに、習近平期には、「生産・工作現場の第一線」の者の新規入党者に占める比率は、

45%台から50%近くに増えた(第4表:次段落の実数と百分比も同表)。だが、当該カテゴリ―

について、習近平期の単年度の入党者数は、胡錦濤期のどの年度よりも少ない。入党者の総

数に占める割合も、2004年や2006年の水準には及ばない。入党工作に関する限り、胡錦濤の

掲げた「調和のとれた社会構築」のスローガンは、決して意味のないものではなかった。

3つめに、習近平期について、「新社会階層」の入党者数は、実数で1万3000―1万5000人

で推移し、当該期間の年平均成長率は±0%、つまりまったく減っていない。胡錦濤期の2007

―10年に比べると、実数では、当該期間の平均人数で約1割減ったが、各年の入党者に占め

る割合は、0.6―0.8%へと、むしろ微増した。

もっとも、新規入党者全体に占める「新社会階層」の割合も、地方ごとにかなりバラツキ

がある。網羅的な資料は見当たらないが、蓋然性の高い見方としては、経済発展の先進地域

ほど、「新社会階層」にカウントされる人々も多く、したがって入党総数に占めるその比率も

高まると思われる。2014年末時点で、1人当たり国内総生産(GDP)が全国31の省・自治区

中、第5位を誇る浙江省の場合、同じ年の省全体の入党者のうち、「新社会階層」は1.6%で、

第4表の全国統計の0.6%を上回っている(17)。省内の金華市では、同じく2014年の「新社会階

層」の入党者は、市全体の入党者の3.9%を占める(18)。これらの数字は、発展のレベルが進ん

だ浙江省の社会経済を反映している。

これまでにみてきたとおり、入党者の主な職業集団や公式統計の分類項目(例:「生産・工

作現場の第一線」の者)のすべてで、習近平期には、新規入党者が大幅に減らされたり、年平

均成長率がマイナスに落ち込んだことを考慮すると、「新社会階層」の入党状況は、実質的な

増員と言ってもよい。江沢民・胡錦濤時代からの新興エリート層への優遇の姿勢は、習近平

時代になっても変わっていない。

おわりに―習近平政権の性格規定をめぐる疑念

本文の分析で得られた知見は、次のとおりである。

第1に、2012年11月、党総書記に就任した習近平は、2013年1月には、入党工作の新たな

指針として、「16字の総合要求」を提示した。その要点は、質の向上を目的とした新規入党

の量的制限、労働者・農民・知識人の重視などである。

第2に、指導部が党員リクルートの刷新を求めた背景には、規律なき腐敗した党員集団へ

の国民の反発、それに起因する政権の不安定化への強い危惧があった。習近平は、人心の獲

得と支配体制の維持強化のため、党内秩序の再構築の観点から、質の重視・量の抑制を主眼

習近平時代における中国共産党の党員リクルート政策―労働者の疎外と労農同盟喪失の組織実態

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 25

とする入党工作の改革を求めた。

第3に、2013年以来の党員リクルートの実績について、全国概況では、次の(a)―(d)が明

らかとなる。

(a) 2013年以降、新規入党は大幅に減少した。これに伴い、在籍党員の伸びも低下した。

現在の趨勢が続く場合、2022年の党員総数は約9500―9700万人台と推計される。共

産党の予測のうち、最多のシナリオでは、2022年時点で、およそ9900万人に達する。

より高い実現見込みは、9600万人程度である。

(b) 実数と削減幅の両面からみると、各地の党組織は、コアメンバーとして「党政機関

工作人員」と「新社会階層」の者を、量的主力軍として「企業事業単位・民弁非企業

単位の管理人員と専業技術人員」を、それぞれ優先的にリクルートしている。学生の

入党は、数合わせの意味合いが強い。一方で、「労働者」と「農牧漁民」は冷遇され、

特に「労働者」は、組織的に排斥されていると言っても過言ではない。

(c) これらの結果、早ければ2021年、すなわち党創立百周年の記念すべき年に、毛沢東

主義への思想的共鳴を、部分的にせよ露わにするリーダーの下、中国共産党は、組織

実態としての労農同盟の性質を失う可能性がある。

(d)「新社会階層」への党員リクルートについて、2013―16年は、実質的な削減がゼロ

であった。胡錦濤時代の2007―10年に比べると、実数は減ったが、各年の入党者総

数に占める割合は、むしろ微増した。入党工作における江沢民・胡錦濤時代からの新

興エリート層の重視は、習近平時代にも受け継がれている。

また、これまでの議論を敷衍して、共産党の中国社会における政治的立ち位置、および、

習近平時代における中国共産党の組織的性格と政治運営について、若干の評価を述べるなら

ば、以下の3点が指摘できる。

1つめに、現政権は、大衆からの政治的遊離を防ぐため、すなわち、支配の正統性におい

て、〈大衆性〉の再調達を図るため、党員リクルートの転換を決定した。しかるに入党の実情

は、共産党本来の〈労農同盟の階級性〉がさらに失われるとともに、政治と社会経済のエリ

ート(党政機関工作人員+新社会階層+企業事業単位・民弁非企業単位の管理人員と専業技術人

員)からなる政党の組織化が、いっそう進展している様子がうかがわれる。

党勢発展のこうした状況が今後も続くとすれば、指導部の本来の意図とは裏腹に、政党の

内部で〈エリート同盟の階級性〉が強まる一方、社会全体に占める共産党組織の〈大衆性〉

の実態的基盤が、先細りしていく可能性は否定できない。

2つめに、新たな党員リクルート政策の開始にあたり、指導部は、労働者と農民を重視す

べきことを繰り返し要求した。にもかかわらず、政治家の発言と各地の状況との間には相当

な乖離がある。この理由について、そうした言辞は、共産党の伝統イメージを守るためのレ

トリックにすぎず、背後には、エリート優遇の隠された別の指示があるという、一種の陰謀

論的解釈も成り立つであろう。だが、現時点での筆者の見方は、言説と実態のそうしたギャ

ップは、習近平がどれほどストロングマンの政治家であったとしても、中国の政治社会の現

実の前には妥協を余儀なくされ、ある意味では、敗北していることの表われとして理解すべ

習近平時代における中国共産党の党員リクルート政策―労働者の疎外と労農同盟喪失の組織実態

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 26

きというものである。

改めて言うまでもなく、統治の現場にいる地方の幹部たちは、各地の社会経済の構造と状

況に向き合いながら、良好なガバナンスを実現しなければならない。その際、今日の「新常

態」の経済の下、税収・雇用・投資の各方面で大きな貢献を果たしている新興エリート層を、

党建設の面で蔑ろにすることは、かつての高度成長期以上に、当地の安定的な政治運営にと

って、デメリットが大きい。言い換えれば、現場の実情が、中央のイデオロギー的思惑―

習近平個人の政治思想と指導スタイルをも含め―を裏切っていることの証左ではなかろう

か。そうであるがゆえに、第1期習近平政権(2012―17年)の組織工作を総括した『人民日報』

の特集記事は、「総書記自ら、党員リクルートの全体計画の制定を指揮した」結果、2013―

16年まで、全国の党員数の伸びが抑制されたことを称賛しつつも、労働者と農民の入党実績

には、沈黙せざるをえなかったのである(19)。

したがって3つめに、支配体制の掲げる大きな政治目標や、現実の社会経済の構造が相当

大きく変わらない限り、江沢民や胡錦濤の時代に苦心して案出された支配のアプローチも、

そう簡単には変わらないということになる。

実際、「新社会階層」への入党工作をみる限り、習近平と胡錦濤の両時期は連続性が大き

い。このことは、現政権の性格規定について重要な問いを投げかける。すなわち、胡錦濤期

には、党員メンバーシップの付与や統一戦線政策を通じて、私営企業家に代表される新興エ

リート層の取り込みが本格化した。他方、習近平の執政下では、腐敗追及の嵐が吹き荒れる

なか、汚職の助長など、一部の新興エリート層の逸脱行動への取り締まりが強化され、彼ら

に対する政治的冷遇の傾向が強まったようにみえる。

だが、「新社会階層」への入党優遇が、両時期を通じて基本的に変わっていないとすれば、資

本家抑制のポーズの裏側で、習近平指導部もまた、支配体制の存続のため、前任者以上に、社

会経済エリートへの接近に注力しているのかもしれない。つまり、「アンチ資本家/経済エリ

ート」的な強面の指導者イメージによって、「プロ資本家/経済エリート」的な党建設(と政権

運営)の実態が、覆い隠されているとの仮説も成り立つであろう。なにより、ごく平凡な推

論として、反腐敗キャンペーンで最も多くの物質的利得を得ているのは、汚職官僚に賄賂を渡

したり、望まない宴席を設ける必要のなくなった、企業家などの経済エリートではあるまいか。

この点を付言すれば、習近平期に入って以降、胡錦濤期の実践を発展させるかたちで、「新

社会階層」への統一戦線活動が活発化している事実は見逃せない。2016年7月、中央統一戦

線工作部は、新興エリート層対策を専門に行なう「新社会階層人士工作局」を、局レベルの

部署としては11年ぶりに、部内に新設した(20)。2017年2月には、中国人民政治協商会議全国

委員会主席の兪正声(当時)の臨席の下、「新社会階層」への統一戦線工作をテーマとする全

国レベルの会議(全国新社会階層人士統一戦線工作会議)が、初めて開かれた(21)。

それゆえ、習近平時代の政権運営の実態、特に新興エリート層との政治的関係をより的確

に把握するには、党員リクルートだけでなく、統一戦線政策も視野に入れる必要があろう。

これが、筆者の次なる検討課題である(22)。

習近平時代における中国共産党の党員リクルート政策―労働者の疎外と労農同盟喪失の組織実態

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 27

[付記] 本稿の内容は、2017年10月のアジア政経学会での研究報告に基づく。筆者の報告に対し、討論

者としてコメントを寄せられた毛里和子氏には、特記して深謝する。学会提出論文のうち、特に、

地方の入党動向の叙述は、紙幅の都合により、本稿ではほとんど割愛した。別の文章で発表する。

なお、筆者は現在、2018年9月初めまでの予定で、ロシアで在外研究に従事している。

( 1)『人民日報』2017年7月3日。

( 2) 鈴木隆『中国共産党の支配と権力―党と新興の社会経済エリート』、慶應義塾大学出版会、2012年。

( 3) 孫應帥「十八大以来党員数量結構不断優化」『前線』2014年第9期。佐倉晴葵「中国共産党が抱え

る党員管理の問題と習近平の取り組み」『海外事情』2014年11月号。

( 4) 胡錦濤「堅定不移沿着中国特色社会主義道路前進,為全面建成小康社会而奮闘」、中共中央文献研

究室編『十八大以来重要文献選編(上)』(以下『十八大以来(上)』)、中央文献出版社、2014年、42

ページ。

( 5)「習近平同志主持召開中央政治局会議研究部署加強新形勢下党員発展和管理工作」『党建研究』

2013年第3期、4ページ。本文中の本政治局会議に関する記述についても同じ。

( 6) 趙楽際「求真務実 開拓創新 在落実十八大精神中推進組織工作」『党建研究』2013年第2期、19

ページ。

( 7)「全国発展党員和党員管理工作座談会精神伝達提綱」『荊州党建網』2013年11月14日、〈http://www.

jzdjw.gov.cn/article/zhengcewenjian/13878.html〉、2018年3月30日確認。以下のホームページの確認日に

ついて、すべて同じ。

( 8)『中国組織人事報』2015年10月28日。

( 9) 習近平「在全国組織工作会議上的講話」、前掲『十八大以来(上)』、351ページ。

(10) 2012年の全国統計では、分類項目の説明として、「企業事業単位(民弁非企業単位を含む)管理人

員、専業技術人員」との記述がある。これは、企業事業単位の人数に、民弁非企業単位の就業者も

含まれていたことを示す。周英峰「截至2012年底:中共党員共有8512.7万名 基層党組織420.1万

個」『人民網』2013年7月1日〈http://politics.people.com.cn/n/2013/0701/c1001-22024024.html〉。

(11) 面談での証言(2017年12月実施)。

(12) 前掲「全国発展党員和党員管理工作座談会精神伝達提綱」。佐倉、前掲「中国共産党が抱える党員

管理の問題と習近平の取り組み」、124ページ。

(13) 平均値の算出は、付記に示した学会提出論文に基づく。紙幅の余裕がないため、具体的な数値の

記載は省略。

(14) 貴州省のデータも、同上。

(15)『人民日報』2015年9月23日。

(16)「生産・工作現場の第一線」の者とは、末端レベルの就労者の総称である。したがって、実際に

は、このグループのなかにも、「経営管理人員」や「専業技術人員」が含まれる。

(17)『浙江日報』2015年7月12日。記事中の関連数値から算出。次注の金華市も同じ。

(18)『金華日報』2015年7月7日。

(19)『人民日報』2017年6月29日。

(20)『人民政協報』2016年7月6日。

(21)『人民日報』2017年2月25日。

(22) 近日中に、別稿を発表の予定。

習近平時代における中国共産党の党員リクルート政策―労働者の疎外と労農同盟喪失の組織実態

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 28

すずき・たかし 愛知県立大学准教授[email protected]

はじめに

近年、中国型社会統制のシステムが、かつてないほど注目を集めている。特に人工知能

(AI)技術を応用した監視カメラ網の整備と拡大は、市場経済導入以降の犯罪急増に頭を悩ま

せていた中国の治安当局に技術的打開策を与えつつある。顔認証システム開発企業のある関

係者は、日本の『読売新聞』の記者に対して、彼らの企業と各地の公安当局との連携が2000

人以上の容疑者確保に役立ったことを明かしている(1)。またBBCのジョン・サドワース記者

による貴陽市公安当局ハイテク制御室の取材によって明らかになった高度な監視カメラシス

テムは、世界的にも大きなインパクトを与えた(2)。

ビッグデータの集積とAIの発達、そのような技術革新と一党独裁体制は現在、さまざまな

面で融合し始めており、政治、経済、社会、文化の各方面において中国に新たな進化をもた

らそうとしている。「デジタル・レーニン主義」(セバスチャン・ハイルマン)(3)とも称される

こうした進化が一党独裁体制にもたらす変化をめぐっては、すでにさまざまな研究が始まり

つつある。

本稿が論じる社会統制にとっても、このようなデジタル技術の発達と応用は大きな意味を

もつ。しかしここで注意が必要なのは、監視カメラやビッグデータの利用といった最近の目

立った変化だけに注目したセンセーショナルな議論が、逆に中国型社会統制の全体像をぼや

かしてしまう危険性である。

例えば高度な監視システムの運用も、実際には、法によるルールの明示とその背後にある

物理的暴力を可能とする装置―中国国内に無数に存在する警察組織、民兵や人民武装警察

部隊のような準軍事的組織、国家安全部、公安部、軍の情報部のような中央・地方の組織的

ネットワーク―があってはじめて意味をもつものである。

またビッグデータを利用した住民管理についても同じで、当然のことではあるが、共産党

や政府の監視システムだけが中国の人々の振る舞いを規制しているわけではない。草の根住

民組織や教育機関も含む広範な社会組織を動員した大衆路線的犯罪抑止もいまだに生命力を

保っている。デジタル技術を応用した監視システムが導入されているのは事実だが、第1図

をみてもわかるように、むしろ近年の犯罪件数は増加しているのが現状である(4)。

それでは中国共産党の一党独裁下の社会統制を考える際、われわれは現在起きている変化

をどのようなかたちで全体のなかに位置付け、理解することができるのだろうか。また、か

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 29

Konno Jun

つてステファン・ハルパーが『北京コンセンサス』で主張したように(5)、中国という世界最

大の一党独裁国家で進化を続けている統制モデルは、これから他の権威主義国家群にまで拡

大する可能性はあるのだろうか。

中国型社会統制の「進化」を分析する筆者が注目したいのは、①生活空間に張りめぐらさ

れる法、②サイバー空間を規制するアーキテクチャに対する共産党のコントロール強化、で

ある。上述した監視カメラやビッグデータの利用といった個々の現象は、こうした大きな流

れのなかに位置付けて考える必要があるというのが筆者の立場である。なお「アーキテクチ

ャ」という用語は日本人にとって馴染みのない表現だが、現代の社会統制を考えるうえで極

めて重要な概念であるため、ここで説明を加えておきたい。

サイバー法分野で著名な法学者ローレンス・レッシグは、人々の振る舞いを規制する制約

条件として、①法律、②規範、③市場、④アーキテクチャ、の4点を指摘している(6)。これ

らは相互に作用し合いながら、われわれの日々の振る舞いを規制している。事例を挙げてみ

よう。例えば児童ポルノのような有害なサイトへのアクセスを規制しようとするとき、法的

規制として考えられるのはアクセス自体を違法として高額な罰金等を科す方法である。一方、

そもそもアクセス自体を困難なかたちにして閲覧できないようにしてしまうこと―ハー

ド・ソフト面の構造によって事前に選択肢を狭めること―が、アーキテクチャによる規制

方法である(7)。前者がコミュニケーション型の目に見える規制だとするならば、後者は非コ

ミュニケーション型の目に見えない規制である。

本稿では以下、このような法とアーキテクチャという2つの主要な制約条件に対する共産

党のコントロール強化に着目しつつ、中国型社会統制の進化とその国際的な影響力について

考えてみたい。

中国型社会統制システムの進化と影響―法とアーキテクチャによる支配を中心に

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 30

8,000

7,000

6,000

5,000

4,000

3,000

2,000

1,000

0

 犯罪の定義、統計方法の変化、警察による犯罪記録の整理方法の変更等によって統計の数字は変化するため、他の統計資料同様に数値の精度にはばらつきがある。

(注)

 Xuezhi Guo, China’s Security State: Philosophy, Evolution, and Politics, New York: Cam-bridge University Press, 2012, および『中国法律年鑑』1987―2016年各年版、北京:中国法律出版社、を参照して筆者作成。

(出所)

1978 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 2000 02 04 06 08 10 12 14(年)

第 1 図 犯罪の全体数の推移(中国、1978―2015年)(犯罪件数 1000)

1 法による規制分野の拡大

急速な社会変化に伴って中国共産党の指導力強化の動きが続いている。象徴的な変化が

2017年の党規約改訂である。1982年以降「党の指導は主に政治、思想、組織の指導」とされ

てきた党規約が、2017年の改訂で「党、政治、軍事、民間、学術(党政軍民学)、全国各地

(東西南北)において党は一切を指導する」とされた(8)。

社会への統制を強める習近平政権に特徴的なのが、法を通した規制の拡大である。法は究

極においては国家の物理的強制力に支えられた社会統制技術であり(9)、人々の振る舞いを規

制する諸要素のなかでも極めて重要な役割を果たしている。現在話題となることが多い中国

の顔認証付き監視カメラ・ネットワークについても、たとえ情報技術の発達で高度な監視体

制が可能になったとしても、守るべきルールが法として明示されず、また監視の背後に物理

的強制力が存在しないのであれば、人々が振る舞いを自己規制することはないであろう。

したがって中国型社会統制の今後を考えるうえで、習政権が推し進める法治は極めて大き

な意味をもっているわけであるが、果たして習の考える法治とはどのようなものなのだろう

か。彼の法治と「党が一切を指導する」ことの間には矛盾がないのだろうか。こうした疑問

を抱いている者にとって参考になるのが、2014年1月の中央政法工作会議での習近平講和で

ある。党の政策と国家の法律との関係について、習は以下のように述べている。

「党の政策と国家の法律との関係を正確に処理しなければならない。われわれ党・

の・

政・

策・

と・

国・

家・

の・

法・

律・

は・

す・

べ・

て・

人・

民・

の・

根・

本・

的・

意・

志・

の・

反・

映・

であり、本質的には一致しているものである。党・

の・

政・

策・

は・

国・

家・

の・

法・

律・

の・

先・

導・

と・

導・

き・

(指引)であり、立法の根拠と法執行の重要な導きである……法・

律・

に・

よ・

っ・

て・

党・

の・

政・

策・

の・

有・

効・

な・

実・

施・

を・

保・

証・

し、党が全体を総攬することを確実に保証し、各方面

の指導において中核的役割を調整する」(傍点筆者、以下同様)(10)。

「党の政策は法律の先導」であり、「法律によって党の政策の有効な実施を保証する」と言

う習にとって、法治とは共産党の独裁と統制を強化する有効な手段であり、「法の支配」では

なく「法を利用した(党による)支配」を意味しているのである。習政権下の共産党による

法の支配強化を端的に示しているのが多数の弁護士らの摘発である。本来法の専門家である

はずの弁護士でも、党の政策にとって有害とみなされれば法によって有罪判決を受ける現状

は、中国での共・

産・

党・

に・

よ・

る・

法の支配を背景としており、それは民主主義国家における一般的

な法治イメージとは大きく異なっている。

習政権下では、すでに反スパイ法、国家安全法、反テロ法、サイバーセキュリティー法、

海外非政府組織(NGO)国内活動管理法といった法律が次々と施行されており、党による規

制の網は公的領域やサイバー領域も含む広範囲に拡大している。またそれを管理する組織的

ネットワークも着々と整備されている。その全体像をまとめたものが第2図である。国家安

全の法制領域における「基本法」(畢雁英)(11)とも言えるのが国家安全法で、そこで示された

「総体国家安全観」がカバーする領域は、人民の安全、政治の安全、経済の安全、軍事、文

化、社会の安全、国際安全とかなり幅広い。その支柱となるのが反スパイ法と反テロ法であ

り、さらに種々の法を通して各領域に規制の網が広がっている。

中国型社会統制システムの進化と影響―法とアーキテクチャによる支配を中心に

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 31

党中央主導の法治建設の流れを固めたい習は、2017年10月、中国共産党第19回全国代表

大会(党大会)において法治建設に対する党中央の指導力強化のため中央全面依法治国領導

小組の成立に言及した。それは2018年改革方案ではさらに中央全面依法治国委員会へと格上

げされたかたちで構想された(12)。今後も党中央による法の支配強化と、その法を通した社会

規制の動きが加速するだろう。それでは以下、社会領域を中心としつつ、注目すべき法治建

設の内容を第2図の枠組みから総合的に確認したい。

(1) 公的領域

国家監察委員会が憲法に明記され、さらに2018年3月、国家監察法が全国人民代表大会

(全人代)で採決された。これにより国家・省・市・県レベルで監察委員会が組織され、同レ

ベルの規律検査委員会と共同業務を行なうことになる。汚職や腐敗の取り締まり対象は共産

党機関から国有企業管理職、さらには公立の教育機関なども含むすべての公的職員にまで拡

大する(13)。現時点でみると、規律検査委員会書記が監察委員会のトップを兼任することが多

く、実質的には規律検査委員会の権限が従来にも増して大幅に拡大することが予想される。

(2) 社会領域

全体的方向性として目指されているのが、司法における利害関係調節機能の強化である。

近年盛んに強調されているのは「裁判を中心とした司法改革」であり、司法制度内における

裁判所の地位を向上させる動きが加速している。裁判所を単に公安の捜査結果を追認する場

ではなく、証拠に基づいた実質的審議の場とすることによって独立的地位を向上させ、一般

民衆のさまざまな利害関係を調整する場として機能させることは、共産党にとって社会管理

コストの削減につながる。

こうした改革によってすでに中国の死刑判決は減少傾向にあるが、大きな課題となるのが

中国型社会統制システムの進化と影響―法とアーキテクチャによる支配を中心に

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 32

第 2 図 法と組織

(出所) 筆者作成。

サイバー領域

国家安全法 2015年施行反スパイ法 2014年施行反テロ法  2016年施行

中央国家安全委員会

国家監察委員会

主席:習近平中央規律検査委員会

書記:趙楽際中央政法委員会中央全面依法治国委員会

総体国家安全観

書記:郭声 

公安部

国家互聯網信息弁公室

中共中央網絡安全和信息化領導小組弁公室

海外NGO国内活動管理法

2017年施行

監察委員会

規律検査委員会

司法部

法院

検察院

公安部

政法委員会

サイバーセキュリティー法

2017年施行

公安部

公的領域

社会領域

刑法(2015年修正)

党内各種法規 国家監察法(2018年施行)

境外領域

司法関係者の汚職問題である。党幹部や公安関係者とのもたれ合いによる不正や秘密漏洩、

奚暁明(元最高人民法院副院長)の事例のように、地位を利用して賄賂と引き換えに企業や個

人に便宜を図る事件も後を絶たない。そのため共産党は司法内部の規律検査に力を注いでお

り、2016年においては司法に関係する多くの裁判官、警察官、党幹部に対し問責や調査処分

が行なわれた(14)。

すなわち、(1)の公的領域における国家監察委員会の成立は、社会領域における司法改革

―ひいては習政権が目指す法治―にとっても、重要な意味をもっているのである。三権

分立が難しい一党独裁国家の中国は、そもそも公安、検察、法院のもたれ合いや党幹部が関

与した不正が生じやすい政治環境にある。それを防ぐためには、抑止力として強力な外部組

織による規律検査が必要となるのである。

社会の人々の法への信頼構築にとって、もうひとつの課題となるのは公平性と透明性の確

保である。とかくベールに包まれたイメージのある中国の裁判であるが、2006年7月以降、

最高人民法院ではすべての公開開廷事件をインターネット上で放送するなど、一定程度の透

明性を高める努力をしており(15)、また中国裁判文書網というウェブサイトで大量の裁判文書

を公開している(16)。

各級法院で放送された法廷審理は89万件を超え、公開された裁判文書は2018年5月時点で

4000万を超えている。政治的に影響の大きい事件は公開されていないとはいえ、こうした大

量の裁判情報は研究者にとっても利用価値の高いものである。種々の事件は中国のいまを反

映しており、それらの膨大なデータの分析は、中国社会の現状をさまざまな視点から研究す

ることを可能とするだろう。こうした裁判文書の大規模な公開は類似事件の判決結果を相互

参照することを可能としており、裁判の公平性を高めるうえで重要な役割が期待されている。

ただし、ここで注意が必要なのは、公平性や透明性の拡大が非政治的分野に限定されてい

るという点である。2015年7月に200人以上の弁護士や活動家らが一斉に逮捕・拘束された

事件が起きたことからもわかるように、一党独裁に脅威とみなされた人々に対しては国家政

権転覆扇動罪のようなかたちで恣意的な法運用と暴力が行使される。現時点で4000万を超え

る公開された裁判文書データベースでも、彼らに関する判決文書の多くは確認できないのが

現実である。

こうしてみると習政権における社会領域の法治は、観察者を惑わせる二面性をもってい

る。 小平時代以降かつてなかったほどの厳しい政治弾圧を行なう一方、一般社会において

は裁判を中心とする司法改革と情報公開で公平性と透明性を確保しようとしている。法によ

って正当化された物理的暴力によって一党独裁に対する潜在的脅威を排除しつつも、社会一

般の人々の振る舞いについては、これまでよりも公正なかたちで規制しようとしている。こ

の手法は「一部の政治的異議申し立て者」と「その他大勢」を分断する効果をもっているが、

さらに以下に説明する「境外領域」の法整備により、中国の活動家らに対する海外からの支

援も困難化している。

(3) 境外領域

中国政府が直接支配していない地域との関連性において注目されるのは、海外NGO国内活

中国型社会統制システムの進化と影響―法とアーキテクチャによる支配を中心に

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 33

動管理法である。2014年の時点で中国国内で活動する海外のNGOは4000から6000団体ある

と推定されている。中国に流入している活動資金は数億ドルにのぼり、活動範囲も貧困対策、

障害者支援、環境保護、衛生、教育など幅広く、中国政府はこうしたNGOがもたらす恩恵を

認めつつも、一部の組織が文化交流のようなかたちで中国社会に浸透して反体制派をつくり

だすことを懸念している。

弱者の支援は、結果的に弱者を生む環境をもたらした共産党政権への批判とつながる可能

性がある。そのため民衆と党・政府との対立感情を る恐れがあると共産党は考えている(17)。

一党独裁政権が一部の社会問題に神経質となり、それを暴き出すような活動を行なう弁護

士・活動家を迫害する要因は、そうした共産党の恐怖心に由来するわけだが、習政権はこれ

までにも増して不安定要因に神経をとがらせているように感じられる(18)。

したがって海外NGO国内活動管理法においてNGO管理の責任主体は公安機関とされ、

NGOは公安機関に登記を行なわなければならなくなった。この法律によって、疑いのある

NGOに対して公安機関は活動停止や財産没収ができるほか、責任者の拘留も可能となった。

さらに慈善法(2016年施行)によって外国の団体が中国国内で寄付を募ることなどにも制限

が課され、外国や香港・マカオなどの境外領域に対する法規制の網が急速に広がっている(19)。

(4) サイバー領域

この領域で興味深いのは中国政府が打ち出している「サイバー空間主権」概念であり、イ

ンターネットにおける「国界(国境)」概念の提起である。中国には2017年12月時点でおよ

そ7億7200万人のネットユーザーが存在し(20)、オンライン・アクティビズムが盛んなことも

あり、現在の共産党にとって重要な統制領域となりつつある。

インターネットが本質的に越境的であるという古い既成概念はすでに過去のものとなって

おり、中国はサイバー空間におけるコントロール・モデルの代表格となっている。その中国

は2017年にサイバーセキュリティー法を施行することで法の網をサイバー空間に拡大してお

り、「サイバー空間における安全と秩序」を守るために制定されたこの法律によってインター

ネット上への政府当局の関与は急速に強まっている。

ネットワークプロバイダーは要求されれば公安機関や国家安全機関に「技術的サポートと

協力」を提供しなければならず、中国国内で収集、作成した個人情報やデータは中国国内で

保存することが義務付けられ、インターネット事業者は発見した「違法な内容」を保存して

関係部局へ報告する義務を負うようになった。この法律によって、サイバー空間上でも「国

家の安全、栄誉と利益を脅かし、国家政権の転覆、社会主義制度の転覆を扇動し、国家の分

裂および国家統一の破壊を扇動し、テロリズムと過激主義を宣揚し、民族の憎悪や差別を宣

揚し、暴力とわいせつ情報を流布し、虚偽情報を捏造、散布して経済秩序と社会秩序を乱し、

個人の名誉、プライバシー、知的財産権とその他の合法的権益を侵害するなどの活動」は取

り締まりの対象となった(21)。

このような法によってサイバー空間上における人々の振る舞いにも法的規制が拡大してい

る。第3図は中国のスマートフォンユーザーの大半が利用しているWeChat(微信)の利用規

約である。この規約においても先に紹介したサイバーセキュリティー法の内容が反映されて

中国型社会統制システムの進化と影響―法とアーキテクチャによる支配を中心に

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 34

ウェイシン

おり、こうした内容を送受信したユーザーは法的責任

を追及される危険性があることが理解できる。また注

目すべきなのは、収集した膨大なデータの国内保存が

義務付けられ、その扱いが中国政府の意向で左右され

る現状である。これはビッグデータを活用する分野で

中国の優位性を高める可能性がある。

サイバー空間上の主権を主張する共産党による規制

は、すでに外国企業に政治的な影響をもたらしている。

中国の会員向けメールのアンケートで台湾を「国家」

として扱った米ホテル大手マリオット・インターナシ

ョナルはサイバーセキュリティー法に違反した疑いで

当局に事情聴取され、中国語版サイトとアプリ運用の

一時停止が命じられ、スペイン衣料ブランドのZARA

などのウェブサイトでも同様の問題が発生したことが

報じられている(22)。中国が盛んに提起している「サイ

バー空間主権」概念と実際の法規制拡大によって、外

国企業のネット上の振る舞いにも規制が強化されてい

るのである。

2 アーキテクチャによる支配

大陸中国においてはVPN(virtual private network)などを利用しない限り、Google、Face-

book、Twitter、YouTube、Lineなどに自由にアクセスできないことはよく知られている。それ

らは一時的に利用可能なこともあるが、基本的にアクセス状況は不安定で利用しにくい。し

かしそれらのサービス内容に対応する百バイ

度ドゥ

、人レン

人レン

網ワン

、微博、優ヨウ

酷ク

、微信といったサービスを

中国の事業者が提供しており、人々は中国政府が定めるルール下において―主にフィルタ

リングとブロッキングを通して―あらかじめ選択肢が限定されるアーキテクチャによって

ソフトな規制を受けている。

もちろんこうした規制が行なわれているのは中国にかぎらず、多くの国々がフィルタリン

グを行なっている。しかし一方で、インターネットユーザー数も含めた規模の面と規制方法

の巧みさという面において、中国が世界で突出した存在となっているのも確かである。

中国政府にとってインターネットのような情報インフラの整備は経済発展にとって重要な

意味をもっているものの、共産党のプロパガンダを弱体化させる危険性もはらんでおり、そ

こに規制の必要性が生じている。中国政府のサイバー空間の規制は、海外や中国国内のすべ

てのサイトをブロックできるいわゆるグレート・ファイアーウォール(Great Firewall)や危

険と判断されたキーワードでの検索をフィルタリングしたり禁止したりする技術的手法によ

ってなされている。

ここで注目すべきなのは、共産党政権の規制がフィルタリングやブロッキングを通して作

中国型社会統制システムの進化と影響―法とアーキテクチャによる支配を中心に

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 35

第 3 図 WeChatの利用規約

(出所) weixim.qq.com.

ウェイボー

動しているだけではない点である。重要なのは、サイバー空間上のアーキテクチャそのもの

に対して共産党政権のルール群が支配的な影響を及ぼしている点である。例えば中国で最も

利用され、影響力の強い検索サイトである百度を例にとってみよう。百度のページでは「網

頁」、「新聞」、「貼 」などの9項目が並んでいるがニュースでは政府記事が目につきやすい

位置に配置され、共産党のルール群に配慮したプロバイダーが選別した記事が並び、なおか

つ「ネット有害情報通報」がクリックひとつで可能な構造になっている。特定のテーマに関

する掲示板では政治的に微妙なものはあらかじめ排除され、検索したとしても「関連する法

律法規と政策により、公開していない」と表示される。その非公開分野は時期によって異な

っており、政府によるコントロールに応じて変化している。

上述したサイバーセキュリティー法により、この傾向はさらに強化されることが予想され

る。加えて膨大な個人データを利用することで中国の社会統制は新たな段階に入りつつある。

それはサイバー領域と実社会を結びつけたアーキテクチャの構築である。その一例がスマー

トフォンを通した電子決済情報、学歴、職歴、交友関係を変数として個々人の信用を数値化

し、その数値によっては実社会での行為の選択肢が制限されるというシステムである。

2017年12月、政府系ウェブサイト「信用中国」に掲載された記事は、芝ご

麻ま

信用、騰訊征

信、深 前海征信などの8つの民間企業の信用情報を政府のプラットフォームに統一する構

想を明らかにした(23)。中国ではすでに、信用情報によって数百万人もの人々のフライトチケ

ットの購入や高速鉄道の乗車が制限されており(24)、日々の生活から集められたデジタル情報

によって個々人の信用度を数値化し、その多寡で日常生活の選択肢の数が変わるアーキテク

チャの構築が急速に進んでいる。これは人々の振る舞いを内面から規制するものであり、中

国の社会統制に技術的進化をもたらすかもしれない。

現に、サイバー空間の支配とビッグデータの利用は、共産党がより深く社会動向を探るた

めの技術的解決策を与える可能性がある。具体例のひとつが「検索情報」の利用である。

Googleのデータ・サイエンティストだったセス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツの興味

深い研究が指摘するように、人々が情報を求めるための検索は、それ自体が内面の告白でも

あり、「それは彼らの本当の考え、望み、あるいは恐れについて、どんな推測よりも正確に明

かすもの」となる(25)。一党独裁体制下のメディア支配の大きな問題は、権力者側が世論の本

音を知ることが難しくなるため、政策が現実と乖離することだった。1950年前後から共産党

幹部が各地のうわさを内部資料によってチェックしていたのはそのためである。しかし、膨

大な検索情報の利用によって表面的な世論調査を超えた「人々の内面告白」に共産党が耳を

傾けること、それ自体がもはや不可能なことではなくなっているのである。

おわりに

かつて胡錦濤政権時代の2006年、J・ゴールドスミスとT・ウーによる研究はインターネ

ットへの中国政府のコントロールについて、「西側はそれらのコントロールに意味がないであ

るとか、効果がないであるとか、失敗するに決まっているだとか、安易な、しかしいまだに

支配的な仮説を捨て去るべきである」と述べ、次のように未来を予言した。

中国型社会統制システムの進化と影響―法とアーキテクチャによる支配を中心に

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 36

テンセント

「(問題の核心は)単に国家がさまざまな方法でインターネットのアーキテクチャを形成する

力をもっているということではない。それはアメリカ、中国、そしてヨーロッパはインターネ

ットのあり方についての異なるヴィジョンを確立するために強制的権力を使っているというこ

とである。そうするなかで、それらは他の国々がアメリカの比較的自由で開かれたモデルから

中国の政治支配のモデルにいたる種々のコントロール・モデルのなかで選択するように誘導す

るであろう。その結果は、そ・

れ・

ぞ・

れ・

の・

陣・

営・

が・

イ・

ン・

タ・

ー・

ネ・

ッ・

ト・

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将・

来・

の・

独・

自・

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ヴ・

ィ・

ジ・

ョ・

ン・

を・

押・

し・

広・

げ・

る・

と・

い・

う・

、冷・

戦・

の・

技・

術・

バ・

ー・

ジ・

ョ・

ン・

の・

開・

始・

である」(26)。

習近平政権下にある現在、結果としてみればゴールドスミスらの指摘は正 を射ていたと

言える。さらに付け加えるなら、サイバー空間における中国型コントロール・モデルを機能

させているのは―最終的には国家の物理的強制力に支えられている―法であり、インタ

ーネットも含めたあらゆる社会統制は、広範な法規制と絡み合いながら人々の振る舞いを規

制しているのである。

それはデジタル技術を応用した監視システムでも同様である。例えばファーウェイ(華為

技術)が展開する顔認証・車体番号認証付きの監視カメラ、地理情報システム、空対地ビデ

オなどを利用した安全対策(Safe City Solutions)は、中国諸都市だけでなくアフリカ、中東、

ヨーロッパにまで拡大している。しかし、それをもって直ちに「中国モデルの拡大」と判断

するのは、表面的な見方である。ロンドンやアムステルダムのように中国とは法的環境が異

なれば、同じファーウェイの監視システムを導入したとしても、その運用形態は異なってく

る。また警察組織などの物理的強制力を保証する組織的ネットワークも、社会統制を規定す

る重要要素だが、こうした組織モデルも国家によって多様性がある。

このように考えると、本稿で冒頭に挙げた問い―中国の社会統制モデルは他の権威主義

国家群に広がっていくのだろうか―への回答は、至極一般的なものとならざるをえない。

すなわちインフラ設備の輸出のようにデジタルな統制技術の部分的移植は可能だが、8000万

人を超えるメンバー、複雑な組織ネットワーク、歴史的に創られた制度環境の下で作動して

いる統制システムを他の国で実現することは至難の業である。したがって中国モデルの拡大

は、必然的に現地化するなかで多様なヴァリエーションを生みだす過程を伴いながら進行し

ていくと思われる。

先に紹介したゴールドスミスが指摘しているように、中国が自由で開かれた民主主義モデ

ルとは異なる政治的支配モデルを体現していることは確かであり、国家の安定を権利や自由

の上位に置くシステムに魅力を感じる権力者は少なくないだろう。しかし、中国モデルの核

となる価値観やアイディアを反映しているものはデジタル技術ではない。それは第2図に示

した統制を作動させる諸々の法のなかに内包されているのである。

2017年に施行された中国のサイバーセキュリティー法についてはすでに述べた。ロシアで

も2018年7月から法律に基づき、ネット事業者は個人情報だけでなく、すべての通信記録の

データをロシア国内のサーバーに保存するように義務付けられた。それによって利用者間の

やりとりを連邦保安局などの治安機関が把握し、通信の記録を監視下に置くことが可能にな

った(27)。このロシアの動きの背後に、近年中国で行なわれている法整備の影響があることは

中国型社会統制システムの進化と影響―法とアーキテクチャによる支配を中心に

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 37

間違いないだろう。

第4図は2006年の国際共同研究で明らかになった世界のフィルタリング概況である。フィ

ルタリングを行なう国家は現在も増加しているであろう。こうした状況を考えると、中国の

主張する「サイバー空間主権」はロシアに限らず一部の国家群にとって魅力的アイディアと

映るだろう。そのアイディアを正当化するために、中国と類似の法規制が世界に拡大すれば、

その時こそ中国モデルのイデオロギー的影響力が拡大し、深く浸透することになる。

われわれが注意すべきなのはデジタルな統制技術の輸出ではない。むしろ中国モデルの価

値を内包した法規制の越境的拡大、またその価値を反映したアーキテクチャの形成と増殖に

対してより深い注意を払う必要があるのである。

( 1)「改革・開放40年―第2部『科学強国』(4)」『読売新聞』2018年5月4日。

( 2)「中国の監視網がたちまち人を特定――AI付き監視カメラ全国に」(2017年12月11日)、BBCウェ

ブサイト〈http://www.bbc.com/japanese/video-42304882〉(最終閲覧日:2018年5月13日)。この動画

は、YouTubeにもChina: “the world’s biggest camera surveillance network” として公開されており、すでに

閲覧数は50万回を超えている。

( 3) この表現は、ハイルマンがハーバード大学で行なった講演(Leninism Upgraded: Restoration and

Innovation Under Xi Jinping)で使用し、話題となった〈https://asiacenter.harvard.edu/news/event-recap---

leninism-upgraded-restoration-and-innovation-under-xi-jinping〉(最終閲覧日:2018年6月20日)。

( 4) 中国型社会統制の全体構造については、金野純「第10章 社会の統制」、高橋伸夫編著『現代中

国政治研究ハンドブック』、慶應義塾大学出版会、2015年、223―250ページを参照。

( 5)ステファン・ハルパー(園田茂人・加茂具樹訳)『北京コンセンサス―中国流が世界を動かす?』、

中国型社会統制システムの進化と影響―法とアーキテクチャによる支配を中心に

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 38

第 4 図 国家別フィルタリング概況(2006年)

(出所) Ronald Deibert, John Palfrey, Rafal Rohozinski, and Jonathan Zittrain eds., Access Denied: The Practice and Policy of Global Internet Filtering, Cambridge, Massachusetts: The MIT Press, 2008, p. 26.

中国

エチオピアイランミャンマーパキスタン

サウジアラビアシリアチュニジアアラブ首長国連邦(UAE)

オマーンシンガポールスーダン

イエメン

韓国

インド

モロッコ

バーレーン ウズベキスタン

タイ

ベトナム

アゼルバイジャン

リビア

ヨルダン

タジキスタン

政治的フィルタリング 

社会的  フィルタリング

安全保障/紛争に関わる フィルタリング

岩波書店、2011年。

( 6) ローレンス・レッシグ(山形浩生・柏木亮二訳)『CODE―インターネットの合法・違法・プラ

イバシー』、翔泳社、2001年、153―178ページ。

( 7) また道徳的側面からそのようなサイトへのアクセスを悪とする規範的規制や、プロバイダー(接

続業者)というインターネット市場を通した規制も可能であろう。

( 8)「党章党規学習補導(2018年最新版)」、編写組編著『党章党規学習補導』、北京・人民出版社、

2017年。

( 9) 碧海純一『法と社会―新しい法学入門』、中公新書、1998年、133ページ。

(10) 麗華『十八大以来的法治変革』、北京・人民出版社、2015年、23ページ。

(11) 畢雁英ほか著『国家安全―法治問題研究(第二輯)』、北京・法律出版社、2017年、6ページ。

(12)「中共中央印発『深化党和国家機構改革方案』」(2018年3月21日)、『新華網』〈http://www.xinhuanet.

com/2018-03/21/c_1122570517.htm〉(最終閲覧日:2018年5月19日)。

(13)「中華人民共和国監察法」(2018年3月20日第13届全国人民代表大会第1次会議通過)、中国人大網

〈http://www.npc.gov.cn/npc/xinwen/2018-03/21/content_2052362.htm〉(最終閲覧日:2018年5月19日)。

(14)『最高人民法院工作報告(2017)』、北京・法律出版社、2017年。

(15) 中国廷審公開網〈http://tingshen.court.gov.cn〉。

(16) 中国裁判文書網〈http://wenshu.court.gov.cn〉。

(17) 前掲『国家安全―法治問題研究(第二輯)』、16ページ。

(18) John Sudworth, “China lawyer recounts torture under Xi’s ‘war on law’,” BBC News〈http://www.bbc.com/

news/blogs-china-blog-41661862〉(最終閲覧日:2018年5月21日)。

(19) 前掲『国家安全』、17ページ。

(20) 中央網絡安全和信息化領導小組弁公室・国家互聯網信息弁公室・中国互聯網絡信息中心「第41次

中国互聯網絡発展状況統計報告」(2018年1月)〈http://www.cnnic.net.cn/hlwfzyj/hlwxzbg/hlwtjbg/2018

03/P020180305409870339136.pdf〉(最終閲覧日:2018年5月21日)。

(21)『中華人民共和国網絡安全法』、北京・法律出版社、2016年。

(22)「〈社説〉外国企業への『検閲』は問題だ」『読売新聞』2018年5月21日。

(23)「 的信用,它的生意」(2017年12月7日)、信用中国〈https://www.creditchina.gov.cn/gerenxinyong/

gerenxinyongliebiao/201712/t20171207_98740.html〉(最終閲覧日:2018年5月21日)。

(24) 前掲『最高人民法院工作報告(2017)』、14―15ページ。

(25) セス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツ(酒井泰介訳)『誰もが をついている―ビッグデ

ータ分析が暴く人間のヤバい本性』、光文社、2018年、14―16ページ。

(26) Jack Goldsmith and Tim Wu, Who Controls the Internet?: Illusions of a Borderless World, New York: Oxford

University Press, 2008, p. 184.

(27)「露、強まるネット規制」『読売新聞』2018年5月4日。

中国型社会統制システムの進化と影響―法とアーキテクチャによる支配を中心に

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 39

こんの・じゅん 学習院女子大学准教授

今年(2018年)、「一帯一路」(1)は提起以来5周年となる。世界の100ヵ国余りが参加・支持

しているとされるが、一国が提起したプロジェクトが、5年という短期間にこれほどの世界

的コンセンサスを得たことは、これまで例がなかったのではないか。

2013年9月、一帯一路が提起されたカザフスタンのナザルバエフ大学での講演(テーマ「人

民の友諠を発展させ、共に美しい未来を創ろう」)で、習近平中国国家主席は、紀元前2世紀に

漢代の武帝の命を受け中央アジア(西域)に赴いた張騫の歴史的業績に触れ、「区域の大協力

で共同富裕を目指すシルクロード経済帯を構築しよう」と提起、その事業の柱として「五通」

事業(第2表参照)を強調した。

同じく、翌10月、インドネシア国会の講演(テーマ:「手を携えて中国・ASEAN〔東南アジ

ア諸国連合〕運命共同体を建設しよう」)では、15世紀に明の永楽帝の命を受け、中国からアフ

リカ東海岸まで7度の大航海を成し遂げた 和の業績と、1955年インドネシアで開催され、

中国(周恩来総理)とインドネシア(スカルノ大統領)等が主導したバンドン会議(アジア・

アフリカ会議)でのバンドン精神に言及し、「中国・ASEAN運命共同体の美しい未来を切り

開こう」と提起している。

中国の要人は大事業の意義を語る際、よく歴史的業績に言及し、関係国・地域との過去の

交流実績を強調するが、習主席は、武帝と永楽帝の業績に、自らが提起した一帯一路の意義

を重ねていたのかもしれない。

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 40

Ehara Noriyoshi

一帯一路が提起されたナザルバエフ大学(筆者撮影)�

1 構想から実務の段階へ

一帯一路は、歴史にその名をどうとどめるか。2017年5月14―15日、北京で「一帯一路国

際協力サミットフォーラム」(以下、「北京フォーラム」)が開催されたが、そこには29ヵ国の

元首をはじめ、140ヵ国余りの元首・政府首脳、80を超える国際組織トップの総勢1400人以

上の参加があったとされる。元首と政府首脳の参加国に限ってみると、東南アジアと上海協

力機構(SCO)関係国(2)に集中している。開幕式の当日、壇上で28ヵ国の元首・政府首脳を

1人1人迎える習主席の姿がテレビで実況放送されたが、「北京フォーラム」で一帯一路は実

質的に世界デビューしたと言える。日本からは、自民党の二階俊博幹事長が参加したが、習

主席との会談が実現するなど、日本の要人の「北京フォーラム」参加に、中国側が大きな期

待を寄せていることをうかがわせるものがあった。

「北京フォーラム」では、一帯一路のそれまでの事業実績や今後の方向が示され、何より、

一帯一路が構想から実務の段階に入ったことが高らかに宣言されていた。

2 一帯一路の行方をみる視点

第1図は、一帯一路沿線65ヵ国(参加国、色塗り部分)を示している。一帯一路が欧州の一

部を除く、ユーラシア大陸全域を占めていることがわかる。一帯一路の参加・支持国は100

ヵ国余りとされていることから、これらを含めれば、色塗りの部分(地中海、アラビア海は除

く)は、点線で囲んだ部分へとさらに拡大する。そのことは、「北京フォーラム」にアフリカ

や中南米の元首の参加が少なくなかったことからもみてとれる

一帯一路の行方をみる視点として、①沿線65ヵ国との連携強化、②アフリカと中南米での

関連事業の進捗、③日米の対応、の3点が戦略的に重要とみられる。欧州連合(EU)を軸と

する欧州、オセアニア地域も、一帯一路展開上、重要な地域に変わりはないが、囲碁の対局

「一帯一路」の現段階と日本

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 41

第 1 図 一帯一路沿線65ヵ国

(出所) 筆者作成。

■ 沿線65ヵ国 ○ 今後拡大する地域

に例えれば、次の布石は、この3点にあると考えられる。

3 一帯一路と日本との関係

中国は、一帯一路への参加・支持国をさらに拡大し、沿線国を軸とする一帯一路のグロー

バルネットワークを構築しようとしている(第1表参照)。

この一帯一路グローバルネットワークの構築において、中国は日本をどうみているのであ

ろうか。日本の積極的参加を期待していることは、まず間違いない。このことは、今年4月、

8年ぶりに開催された第4回日中ハイレベル経済対話出席のため来日した王毅国務委員兼外交

部長(外相)が、安倍晋三首相との会談で、「一帯一路への日本側の参加は日中の経済・貿易

協力に新たな空間を切り開く。参加の適切な方法と具体的ルートを日本側と検討したい」と

していることなどからも認められよう。中国側は、二階幹事長の「北京フォーラム」参加、

さらに、日中両国関係の持続的改善・発展を後押しすることで重要な合意に至ったとされる

ベトナム・ダナンでの安倍・習会談(アジア太平洋経済協力会議〔APEC〕首脳会議時、2015年

11月)を経て、一帯一路において、日中両国による第三国(市場)での事業展開(3)などに強

い期待をもっている。この点、安倍首相との会談で、王毅外相が、「中国は一帯一路について

の安倍首相の前向きな姿勢表明を重視している」と表明している。今年5月の日中韓首脳会

談、その後に予想される安倍首相の訪中、習主席の訪日によって日中関係改善が図られると

するシナリオに、一帯一路は大きくかかわっているということである。

(1) 日本にとって一帯一路は鶏けい

肋ろく

か奇貨か

今年は、日中関係にとって大きな節目の年に当たっている。すなわち、「日中平和友好条

約」締結40周年、「日中共同宣言」(4)発表20周年、「戦略的互恵関係の包括的推進に関する日

中共同声明」発表10周年、そして、中国の改革開放40周年である。「日中平和友好条約」は

1978年に北京で締結されたが、同年10月、中国の総設計師と言われた 小平副総理がその批

准書の交換式のために来日している。 小平氏が、後に中国を世界第2位の経済大国に押し

上げ、世界経済の発展に大きく影響する改革開放を発表するのは、来日から2ヵ月後のこと

「一帯一路」の現段階と日本

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 42

第 1 表 一帯一路のグローバルネットワーク

(出所) 筆者作成。

沿線65ヵ国との連携強化

アフリカと中南米での関連事業の進捗

一帯一路との関係をみる最近の事例国・地域

2017年、中国と沿線65ヵ国との貿易、投資の伸び率が、中国と世界全体とのそれを上回り、経済交流先としての期待が高まっている。特に、一帯一路の主要事業であるインフラ整備関連の海外工事請負事業は、名目、実質額とも中国全体の5割を超えている。

2018年1月、中国・CELAC(中南米33ヵ国で構成する中南米・カリブ海諸国共同体)フォーラムにおいて、中国は「一帯一路」経済圏構想に中南米諸国も加わるよう呼び掛けた。フォーラム参加国は、一帯一路の枠組みでの協力深化の新たな構想と理念に積極的に賛同し、一帯一路は中南米の発展実現に新しい重大なチャンスをもたらすとの認識で一致。

日米の対応の行方日本が、一帯一路を含めた中国との第三国事業に協力の意向を示したことを、中国は高く評価し、今後の進展に期待している。米国とは一帯一路の推進で協力関係が構築されていない。

EUを中心とする欧州およびオセアニアとの関係強化

EU主要国であるイギリス、フランス、ドイツとの経済交流が拡大方向にある。オーストラリア、ニュージーランドとは自由貿易協定(FTA)など経済連携で進展がある。

であった。

その改革開放の下で、日中両国は多くの点でウィンウィンの関係を構築してきたと言える。

日本は、改革開放では、円借款の対中供与などで、当初から改革開放に積極的に協力する姿

勢をとってきた。一帯一路には、改革開放と多くの点で共通点(後述)が見出せるが、日本

は、提起から5年となる一帯一路には、まだ、改革開放当初のような積極的協力姿勢を示し

ていない。なぜか? 日本に「雁頭」意識が依然根強いことが要因のひとつとして指摘でき

る。戦後のアジアの経済発展は、日本から始まり、その後、NIEs(韓国、台湾、香港、シンガ

ポールなどの新興工業経済地域)へ、そしてASEANへ、さらにその次へと順を追って波及す

るとした雁行型経済発展論が支持されていた。アジアの経済発展は日本を「雁頭」にして飛

ぶ雁の一群に見立てたのが、この発展論の由来である。

この雁の群れ(雁群)は、そのまま飛び続けることなく、改革開放で成長の機会を模索し

ていた中国に着地し巣作りしつつ、次のテイクオフの機会をうかがっていた。一帯一路は、

まさに、その次の機会となったと言えよう。その雁群には、現在100を超える国・国際組織

が参加しており、さらに増える見込みとなっている。日本は、まだ雁群参加への積極表明は

していない。かつて雁頭にいたという面子からか、別の雁群の編成(インド太平洋戦略)に意

欲をみせたりする。中国は、「三共」(第2表参照)精神を前面に押し出し、一帯一路を共に

「世界の公共財」にしようと世界に熱心に働きかけている。言葉をかえれば、中国は雁頭では

なく雁群の一員であるとの姿勢を強調している。一帯一路が世界の関心を引き付け、世界的

コンセンサス(5)を得つつあるゆえんと言えよう。ただ、雁群が拡大すればするほど、飛翔に

は相応の推進力が必要となる。中国は、日本も共にその推進力を担うことを期待していると

言えるのではないだろうか。以下の報道(人民網、2008年1月9日、抜粋)が、そのことを雄

弁に物語っている。

「日本はアジアで最も早く工業が発展した国であり、他国よりも早くアジア諸国に資本と技術

を輸出する国・地域の仲間入りを果たし、ほぼすべてのアジア諸国の人々や政府とどのように

つきあうかをよく心得ている。中国は多くの技術が段階的な進歩を遂げ、人口は多く、各レベ

ルの労働者や技術者も非常に多い。一帯一路参加国のプロジェクトは多いが、日本はプロジェ

クト実施国に多数の労働者・技術者を派遣することは難しい。中国は、大量の人員を海外へ派

遣してプロジェクト建設の目的を果たすことができる。今後、日中両国のそれぞれの特徴が、

一帯一路で段階的に応用されるようになることが必要だ」。

この点、最近、安倍首相が、「日本は自由で開かれた『インド太平洋戦略』の下で、一帯

一路と連携させる形で推進したい」としたことに対する中国側の反響は大きかった。一帯一

路での日中協力で、改革開放のような多くの日中ウィンウィン関係を構築できるかについて

は、今のところ未知数なところが少なくないが、日本の財界に関して言えば、一帯一路を

「鶏肋」から「奇貨」(6)へと急速に見直しつつあることは間違いない。

(2) 一帯一路は日中協力の新たな道を切り開けるか

8年ぶりに開催された日中ハイレベル経済対話には、反グローバリズムや保護主義の台頭

への懸念も反映されていたと言える。そうした風潮下で、今や、中国は、開放経済のプラッ

「一帯一路」の現段階と日本

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 43

トフォームとして、一帯一路を前面に押し出している。日本が、ようやく一帯一路での日中

協力に重い腰を上げたのは、①一帯一路の参加・支持国が増えてきていること、② 2017年5

月の「北京フォーラム」の成果から一帯一路が構想から実務(ビジネス)の段階に入ったと

の見方が出てきたこと、特に、日中経済関係が回復の兆しをみせつつあることから、③一帯

一路事業に対する産業界の関心が高まってきたこと、などが背景にあるものとみられる。実

際、2017年の日中貿易は、5年ぶりに前年比マイナス成長からプラス成長となっている。日

中双方の投資も低迷状態を脱し回復基調に入ったとされる。

今後、日本企業の一帯一路でのビジネス展開として、中国に進出している日本企業と中国

企業の連携による第三国でのビジネス展開(注3参照)、例えば、中国が提起しているPPP事

業(7)の一帯一路展開への参画、海外経済貿易合作区(以下、「合作区」)の日中共同建設・進出(8)

などが期待できよう。この点、2018年5月の来日時、李克強首相が一帯一路での日中協力の

意義につき再三にわたり強調し、かつ第三国で日中民間企業によるインフラ整備事業での協

力を進めていくため官民の新たなフォーラムを設置することで合意したことは、今後、日中

両国企業の第三国展開、とりわけインフラ建設を主要事業とする協力を後押しすることにな

るのではないだろうか。

ちなみに、2017年の中国と一帯一路沿線国との経済交流実績(人民元ベース、中国海関総署

発表)をみると、中国の対外貿易全体の26.5%(輸出同28.0%、輸入同24.9%)を占め、前年比

伸び率において、輸出入いずれも中国全体のそれを大きく上回った。また商務部によれば、

一帯一路(59ヵ国)への直接投資は中国全体の12.0%(143.6億ドル)、対外工事請負では、契

約ベース(61ヵ国)で同54.4%(1443.2億ドル)、実行ベース(営業額)で同50.7%を占めてい

る。中国の経済交流において、一帯一路は主要な位置を占めつつあり、今後、急速にビジネ

スチャンスが拡大するとみる識者や報道が少なくない。

4 一帯一路をみる視点

今や、中国は世界第2位の経済大国で、その経済規模は世界全体の15%余りを占め、世界

経済の成長率への寄与率は世界1位の30%超となり、世界経済の発展に大きく貢献してきて

いる。一帯一路はどうか。沿線65ヵ国は、人口にして世界全体の3分の2を占め、経済規模

では、同3分の1を占めている。この世界全体に占める人口比率と経済規模比率のアンバラン

スをどこまで縮小することができるのかが、一帯一路の成果と世界経済に対する貢献の多少

をみる視点であり、一帯一路を人類運命共同体の建設のためのプラットフォームとして強調

「一帯一路」の現段階と日本

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 44

第 2 表 一帯一路をみる視点

(出所) 筆者作成。

理念(精神):三共(共商・共建・共享〔共に協議し・建設し、分かち合う〕)/合作共贏(協力ウィンウィン)事業:五通(政策溝通・設施聯通・貿易暢通・資金融通・民心相通〔政策協調・インフラ整備・貿易円滑化・

資金確保・文化交流等〕)視点:改革開放の国際化行方:①新しいタイプのFTAの構築のためのプラットフォーム建設、朋友圏の拡大、国際公共財の提供   ②新型国際関係の構築のためのプラットフォーム、グローバルガバナンス改革、人類運命共同体建設手法: 伴関係(パートナーシップ)の構築・格上げ

している中国の面子がかかっていると言っても過言ではない。この点、日本が一帯一路に参

加すれば、このアンバランスは確実に縮まる。中国が一帯一路への日本の参加を期待するゆ

えんでもある。

さて、一帯一路の行方をどうみるか。一帯一路は、改革開放の国際化であり、①新しいタ

イプのFTAの構築、および②中国が言う「新型国際関係」の構築のためのプラットフォー

ム、と言える。

(1) 一帯一路は改革開放の国際化という視点

改革開放は、今年で40周年を迎えるが、一帯一路と多くの点で共通点(第3表参照)があ

る。改革開放の対象は中国一国であるのに対し、一帯一路では、参加・支持国が100ヵ国余

りとほぼ世界全域に及んでいる。一帯一路を改革開放の国際化とするゆえんである。

改革開放と一帯一路の共通点は3点に集約できる。1点目は、両者が経済発展に向け、交

通・物流・電力ネットワークの整備などインフラ整備を優先していること、2点目は、外資

導入拠点づくりを優先していること、すなわち、改革開放では、当初の経済特区から自由貿

易試験区(FTZ)に至る多種多様な外資導入拠点が中国全土に設置されてきた。同じく、一

「一帯一路」の現段階と日本

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 45

第 2 図 「合作区」設置国(色塗り部分)

(出所) 筆者作成。

第 3 表 一帯一路と改革開放の共通点

(出所) 筆者作成。

主要事業・発展方向

外資導入拠点整備

理念/目標/成果

一帯一路 改革開放

・インフラ整備(五通の設施聯通)など・都市化

・海外経済貿易合作区の設置:一帯一路沿線20を超える国・地区に75ヵ所

・合作共贏(協力ウィンウィン)・共同富裕・一帯一路経済圏(FTA)・新型国際関係の構築

・グローバルガバナンス改革・人類運命共同体建設

・インフラ整備(七通一平(9)など)�・都市化/農業近代化�

・経済特区→自由貿易試験区(FTZ) (5経済特区→11FTZ)

・先富論(小康社会→共同富裕)・発展硬道理(発展こそすべて)・社会主義市場経済

帯一路でも経済特区に準ずる合作区が沿線20を超える国・地域に75ヵ所建設され、中国企業

を中心に外資導入の拠点となっている(第2図参照)。

3点目が、共同発展・共同富裕を原則としていること。すなわち、改革開放の先富論(10)と

一帯一路の理念である合作共贏(協力ウィンウィン)が共通していることが指摘できる。

(2) 新しいタイプのFTA(経済圏)の構築

一帯一路の行方を新しいタイプのFTA構築のプラットフォームとする根拠は、習主席が

2017年5月の「北京フォーラム」での基調講演に求められよう。すなわち、習主席は、「中国

は、一帯一路参加国と互利共贏(ウィンウィン)の経貿 伴関係(経済・貿易パートナーシッ

プ)を積極的に構築し、関係国との貿易・投資の円滑化を推進し、一帯一路FTAネッワーク

を構築する」と表明した。この“経貿 伴関係”の構築を前提としているところが、「新し

いタイプ」とするゆえんである。これについては後述するが、ここではまず、現在の中国の

FTAネットワークを考察しておく。なお、一帯一路の主要事業である「五通」における「貿

易暢通」(貿易円滑化)でも、一帯一路FTA(経済圏)の構築に関係していると言える。

2018年1月時点、中国は15ヵ国・地区およびASEANと15FTAを締結済み(第4表)で、そ

「一帯一路」の現段階と日本

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 46

第 4 表 中国のFTAネットワーク

(注) 2018年1月時点。(出所) 筆者作成。

交渉中日中韓、スリランカ、湾岸協力会議(GCC)、ノルウェー、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、ASEAN・中国FTA(ASEAN+1〔ACFTA〕)昇級版(グレード・アップ版)、パキスタン第2段階、中国・ニュージーランドFTA昇級協議、中国・チリFTA昇級協議

締結済みASEAN、シンガポール、ニュージーランド、チリ、ペルー、コスタリカ、パキスタン、スイス、アイスランド、香港/マカオ(経済貿易緊密化協定〔CEPA〕)、韓国、オーストラリア、ジョージア(旧グルジア)、モルディブ

研究中インド、コロンビア、モルドバ、フィジー、ネパール、モーリシャス、中国・ペルーFTA昇級

準備中EU、カナダ、BRICS(新興5ヵ国)、上海協力機構(SCO)、一帯一路(65ヵ国)、16+1協力(16:中・東欧諸国 1:中国)など

■ 締結済み ○ 交渉中 ○ 研究中

のうち一帯一路沿線国とは7ヵ国・地区およびASEANと7FTAが締結済みとなっている。一

帯一路が中国のFTAネットワークの核になっていることがわかる。

習主席が、「北京フォーラム」の基調講演で強調した“経貿 伴関係”による一帯一路FTA

ネットワークの構築にはRCEPや日中韓FTAなどのメガFTAとは別に、新しいタイプのメガ

FTA(大経済圏)に発展する可能性が秘められているとみられる。

(3) 一帯一路と関係する地域連携・協力の枠組み

一帯一路FTAネットワークは、今後、沿線国・地域組織との双務(bilateral)FTAを増やす

ことで構築されていくとみられるが、注目すべきは、一帯一路と関係する地域連携・協力の

枠組みがすでに存在している点である(第3図、第5表)。

今後、こうした枠組みとの関係をどう進展させてゆくかが、中国にとって、一帯一路FTA

ネットワークの構築から一帯一路メガFTA(大経済圏)の構築のカギとみられる。

(4) 伴関係(パートナーシップ)は一帯一路FTAネットワーク構築のカギ

さて、一帯一路FTAネットワークの構築であるが、経済発展水準に大きなバラツキがあり、

かつ、多様な宗教、民族、価値観、そして、利害が複雑に交差する一帯一路沿線各国との

FTAの締結はそう簡単ではないが、そのカギは、中国がすでに世界的ネットワークを構築し

ている 伴関係が握っている(第6表)。

伴関係とは、①中国と一定の信頼関係を構築しており、重大な問題について基本的に意

見を異にしない関係とされている。その最大の特徴は、②拘束力のある条約や協定によって

構築されるのではなく、元首(首脳)の信頼関係に基づく共同声明をもって構築され、③随

時見直し(格上げなど)される(11)など、当事国の経済状況や事情をより反映できる融通性が

ある。

この点にこそ、習主席が、「北京フォーラム」の基調講演で、「中国は、一帯一路関係国と、

「一帯一路」の現段階と日本

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 47

第 3 図 一帯一路関連地域連携・協力の枠組み

(注) 1. 点線で囲まれた一帯一路は支持国・地域・国際組織を含む。 2. SAARC=南アジア地域協力連合。

(出所) 筆者作成。

一帯一路

SCO

BRICS

GCC

EU

SAARC

16+1

ASEAN

日中韓

ユーラシア経済連合

RCEP

『ウインウイン』の経貿 伴関係の構築によって一帯一路FTAネットワークを構築する」と

した本音があると言えよう。新しいタイプのFTAとは、「 伴関係」に基づくFTAというこ

とである。すなわち、一帯一路沿線のどの国・地区・組織にとっても、「参加が容易な開かれ

たFTA」、「加入のハードルが高くないFTA」の構築を目指しているということになる。この

点、中国が一帯一路で朋友圏を拡大し、国際公共財としての一帯一路を提供するとの主張

(第2表)に通じている(12)。

筆者が調べたところでは、 伴関係は16種類(第6表参照)あり、戦略、全面、合作、協

作、全天候、全方位、互恵、創新、友好の9の漢語の組み合わせからなっている(13)。すでに、

16のメガFTA(大経済圏)の予備軍が存在していると言えよう。

伴関係は、一帯一路に限ったものではないが、一帯一路の提起以来、その構築・見直し

(格上げなど)で、当該国との、①一帯一路における協力強化、②FTAの構築にかかわる表現

が目立って増えてきている点は、注目に値しよう。この点、一例ではあるが、第7表(中ロ

全面戦略協作 伴関係にかかわる最新の共同声明の要点)を参照いただきたい。

習主席の関係国への外遊時、また、関係国首脳の訪中時などの首脳会談で常に最重要テー

マ(当該国との 伴関係の構築の確認およびその見直しなど)となっていることから、その構

「一帯一路」の現段階と日本

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 48

第 5 表 一帯一路と関係する地域連携・協力の枠組み

(出所) 筆者作成。

SCOBRICS

ユーラシア経済連合

現 状主要な枠組み

中国はSCOとBRICSでは中心的メンバー国であり、2017年9月には、福建省アモイ市で第9回BRICS首脳会議を主催し、2018年6月には、青島市でSCO加盟国首脳理事会第18回会議を開催。注目すべきは、2017年、カザフスタンの首都アスタナで開催されたSCO加盟国首脳理事会第17回会議で、アジアにおける中国のライバル国インドと、中国の重要なパートナー国であるパキスタンを共にSCOの正式なメンバー国としたことである。中国は一帯一路推進上、インドと新たな交渉・協議の場を手にしたことになる。BRICSは、南アフリカとブラジルがメンバー国であることもあり、中国が意図している一帯一路のアフリカと中南米への延伸化(グローバル化)を積極推進しつつある。�

ロシアが主導する「ユーラシア経済連合」とは、一帯一路と同経済連合の発展戦略を連携・発展させることで一致しており、両者の協力関係は密接度を増している。中国は、目下、ロシアとは史上最良の関係(全面戦略協作 伴関係)にあると公言している。

16+1協力(中・東欧16ヵ国+中国)

「16+1協力」では、2017年、ブルガリアのブダペストで開催された第6回16+1協力国家首脳会議で、この枠組みにより、「三共」精神の一帯一路を継続し、一帯一路と欧州投資計画など重大なイニシアチブおよび各国の発展計画との連携を推進する(「中国・中東欧国家協力ブダペスト綱要」)としている。一帯一路は欧州との経済交流の円滑化と強化を図ることを主要な目的のひとつとしているが、「16+1協力」は、いわばその前線基地となっている。近年、同地域への中国企業の進出が増えている。

SAARCGCC

インド主導のSAARCとは、前述したSCOにインドが正式メンバーとなるなど、一帯一路の展開に新たな機会となると期待できる。サウジアラビア主導のGCCとは、2016年にFTA交渉の再開が決定している。

ASEAN、日中韓、RCEP

ASEAN、日中韓、RCEPとの関係については、中国はASEANをRCEPの核としている。ASEANとは、2015年11月、ASEAN+1(ACFTA)昇級版に署名するなど、経済連携が緊密化の方向にある。�RCEPに対しては、中国は締結に向け積極的な姿勢を表明しているが、日本とインドを除く参加国とすでにFTAを構築済みであることから、RCEPの構築より一帯一路FTAネットワークの構築を優先すると考えられる。日中韓については、経済交流の緊密度や補完関係が深まっているのに対し、FTA構築などの三国の経済連携の枠組み構築は遅れているが、2018年5月、日本における日中韓3ヵ国首脳会談で日中韓FTA交渉、RCEP交渉の加速化が謳われたことから、進展が期待される。北東アジア情勢が急変するなか、日中韓FTAが構築されれば、世界経済の発展と国際経済ガバナンスの改革に大きな貢献が期待できよう。

築・見直しは、まさに、中国の対外発展戦略の最前線にあると言っても過言ではない。

5 一帯一路は新型国際関係構築のためのプラットフォームとの視点

新型国際関係構築の意義については、2015年の訪米前夜、習主席が『ウォールストリー

「一帯一路」の現段階と日本

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 49

第 6 表  伴関係構築表(2018年4月末時点)

(出所) 筆者が各種資料から作成( 伴関係ネットワークは公式には未発表)。

戦略 伴関係

全面戦略 伴関係

国・地区など

ASEAN、アラブ首長国連邦、アンゴラ、トルクメニスタン、ナイジェリア、カナダ、チリ、ウクライナ、アフリカ連合(AU:54ヵ国、世界最大の地域機関)、モンゴル、カタール、チェコ、モロッコ、ウルグアイ、オマーン

EU、英国、イタリア、フランス、スペイン、ポルトガル、ギリシャ、デンマーク、ベラルーシ、ブラジル、メキシコ、アルゼンチン、ベネズエラ、カザフスタン、インドネシア、マレーシア、南アフリカ、アルジェリア、オーストラリア、ニュージーランド、カンボジア、エジプト、サウジアラビア、イラン、ラオス、モザンビーク、セルビア、ポーランド、ウズベキスタン、エクアドル、ペルー、チリ、シエラレオネ、タジキスタン、ジブチ、キルギス

戦略合作 伴関係 アフガニスタン、韓国、インド、スリランカ、トルコ、バングラデシュ

全面戦略協作 伴関係 ロシア

全天候戦略合作 伴関係 パキスタン

全方位戦略 伴関係 ドイツ

互恵戦略 伴関係 アイルランド

創新戦略 伴関係 スイス

創新全面 伴関係 イスラエル

合作 伴関係フィジー(重要合作)、アルバニア(伝統合作)、トリニダード・トバゴ、アンティグア・バーブーダ

友好合作 伴関係 ハンガリー、モルディブ、セネガル

全面友好合作 伴関係 ルーマニア

全方位友好合作 伴関係 ベルギー

友好 伴関係 ジャマイカ

参考:番外� 米国:新型大国関係、日本:戦略的互恵関係 いずれも、「 伴」の2字はない(注4参照)

全面合作 伴関係コンゴ共和国、ネパール、クロアチア、タンザニア、オランダ、東ティモール、エチオピア、中南米・カリブ海諸国共同体(CELAC:33ヵ国)、ガボン

全面戦略合作 伴関係タイ、ベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマー、モザンビーク、コンゴ民主共和国、ギニア、ナミビア(2018年3月29日決定)

 伴関係の種類

第 7 表 中ロ全面戦略協作 伴関係をさらに深化することに関する共同声明(要点)�

(出所) 筆者作成。

発表年月(見直し時期):2017年7月協力要点:一帯一路とロシアが主導するユーラシア経済連合との連携、地域一体化を推進するためのユーラ

シア経済 伴関係の構築にかかわる措置、知的財産権の保護、インフラ整備協力、欧州に至るシベリア鉄道貨物輸送条件の改善協力、宇宙開発協力、さらに、中国とロシアが主導しているBRICS関連では、BRICS新開発銀行の運営やPPP事業の国際展開における協力強化などを指摘できる。

構成字数:5300字(中国語)。内訳:政治互信(500字)、実務協力(2000字)、安全協力(350字)、人文交流(1000字)、国際協力(800字)、その他(650字)。

※実務協力、すなわち、経済交流に関わる記述が他を圧倒している。

ト・ジャーナル』紙の書面取材(同9月22日)に応じた次の一節に代表される。すなわち、

「国際連合は、間もなく創設70周年の盛大な式典を挙行する。中国は、加盟国と共に合作共

贏を核心とする新型国際関係の構築を推進し、グローバルガバナンス構造を改革し、人類運

命共同体を構築したい」。合作共贏を核心とする新型国際関係の構築は、グローバルガバナン

ス構造の改革、人類運命共同体の構築と三位一体となっていることが認められる。

さて、一帯一路と新型国際関係の関係については、新型国際関係の構築が、①一帯一路の

理念である合作共贏に基づいている点、②一帯一路事業の「五通」で政策溝通(政策協調)(14)

を推進するとしている点、および③人類運命共同体のプラットフォームとなっている点、で

一帯一路と共通している。何より、④ 伴関係の構築・見直し(格上げなど)が、新しいタ

イプの一帯一路FTAと新型国際関係の構築に密接にかかわっている点で、両者は密接な関係

にあると言える。この 伴関係について、2017年1月、習国家主席が、外遊先(スイス)の

国連ジュネーブ事務局での講演で、「中国は何よりも 伴関係の構築を国家間交流の指導原

則と定める。現在90を超える国・地区(15)と 伴関係を構築している」としている点が注目

される。 伴関係の構築は、国家間交流の指導原則となっているとの表明は、中国の新型国

際関係の行方をみる重要な視点である。習主席は、さらに、こう付け加えている。

「中国は、安定、均衡、発展の大国関係の枠組みを構築することに努力する。米国とは、新型

大国関係を、ロシアとは全面戦略協作を、欧州とは、平和、発展、改革、文明 伴関係を、

BRICSとは、団結、協力 伴関係を積極的に発展させ、発展途上国とは、義利観(正義・道義、

ウィンウィン原則)を堅持し、実務協力を深化させ、呼吸を同じくし、命運を共にし、共に発

展する。周辺国家とは親・誠・恵・容の理念に基づきウィンウィン協力を深化させ、アフリカ

諸国とは発展を共に探り、中南米諸国とは、全面合作 伴関係を推進し新たな発展を実現す

る」。

習主席のこの講演から、 伴関係が中国の新型国際関係構築の柱となっていることが容易

に読み取れる。

改革開放の国際化として一帯一路は、 伴関係の構築・見直し(格上げなど)を軸に、新

しいタイプのFTAと新型国際関係構築のプラットフォームとして機能しつつある。その先に、

中国が見据えているのは、グローバルガバナンス改革であり、それは、すなわち、中国の言

う人類運命共同体の建設ということである。

( 1)「一帯一路イニシアチブ」、「一帯一路構想」、「一帯一路戦略」、「一帯一路建設」など状況に応じた

言い方があるが、本稿では、単に「一帯一路」とした。

( 2) SCOの正式加盟国は、中国、ロシア、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、ウズベキス

タン、インド、パキスタン。オブザーバー国は、アフガニスタン、ベラルーシ、イラン、モンゴル。

対話パートナーは、アルメニア、アゼルバイジャン、ネパール、カンボジア、スリランカ、トルコ。

客員参加は、ASEAN、独立国家共同体(CIS)、トルクメニスタン。

( 3) 中国では、「国際産能合作」とも言われる。典型例は、中国企業と外国企業が連携して第三国に投

資する形態を指す。現時点では、中国企業の単独投資が圧倒的に多い。李克強首相は、「産業輸出」

としている。日中両国の第三国協力について、第4回日中ハイレベル経済対話での日中共同発表で

「一帯一路」の現段階と日本

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 50

は、「双方は、2017年11月の日中首脳会談で確認された認識に基づき、民間企業間のビジネスを促

進し、第三国でも日中のビジネスを展開していくことが、両国の経済分野での協力の拡大、さらに

は対象国の発展にとっても有益であるとの点で一致し、意思疎通を維持し、官民の関係者による議

論の場をもち、具体的な協力案件を検討することを確認した」となっている。なお、2018年5月、

李克強首相の来日時、第三国で日中民間企業によるインフラ整備事業での協力を進めていくため官

民の新たなフォーラムを設置することで合意した。

( 4) 日中平和友好条約と日中共同声明に続く日中間の第3の重要文書として、江沢民国家主席と小渕

恵三内閣総理大臣との間で発表された「平和と発展のための友好協力パートナーシップの構築に関

する日中共同宣言」(1998年11月)があり、そこでは地域と世界に共に貢献することが謳われた。

ただ、この時の平和と発展のための友好協力パートナーシップ(和平発展友好合作 伴関係)は、

習近平国家主席が、2017年1月、スイスの国連ジュネーブ事務局を訪問した折、講演で中国が構築

している90ヵ国余りとの 伴関係に含まれているかは、中国が 伴関係構築国を公式に対外発表し

ていないため確認できない。

関係資料では、日中間では依然 伴関係は構築されていないとする見方が主流である。2008年の

日中戦略的互恵関係には「 伴」の2字がない。平和友好条約調印40周年の今年、日中 伴関係の

構築あるいは確認が期待される(本文中、49ページの第6表「 伴関係構築表」の「参考:番外」

を参照)。

( 5) 国際連合総会や国連安全保障理事会などの重要な決議にも「一帯一路」および関連の内容が盛り

込まれている。

( 6) 鶏肋とは、大して役には立たないが、捨てるには惜しいもののたとえ。三国時代の魏王の曹操が

言った言葉とされる。奇貨とは、利用すれば思わぬ利益を得られそうな事柄・機会のことで、先行

投資ほどの意味がある。史記の呂不韋(秦の商人)伝の故事によるとされる。

( 7) PPPとは、Public Private Partnershipの略で、公民が連携して公共サービスを提供するスキームのこと。

中国では、2017年1月、国家発展委員会、外交、環境、交通、水利等関係および銀行、企業等16

省・政府関係機関・企業が、「一帯一路PPP実行メカニズム」を共同設立し、一帯一路沿線国のイン

フラ整備等において、PPPモデルを積極推進し、中国企業の対外進出を支援すると発表。また、2016

年12月には、北京で国家発展改革委員会と国連欧州委員会が、一帯一路の「五通」事業実施に関し

協力を推進することで意見の一致をみている。なお、一帯一路沿線国でのPPP事業規模については、

2017年5月時点、865事業、5300億ドルとのレポートがある(『国際貿易』第9期〔2017年〕、57ペー

ジ)。

( 8) 既存の海外経済貿易合作区としては、例えば、中国・マレーシア両国双園(中国・マレーシア欽

州産業園、マレーシア・中国関丹産業園)、中国・ベラルーシ工業園区、カンボジア・シハヌーク港

経済特区、ベトナム・中国(深 ・ハイフォン)経済合作、ロシアのウスリースク経貿合作区など。

呼称はさまざまである。

( 9) 七通:道路、電気、上水道、ガス、雨水、下水道、通信の整備、一平:整地の完備。

(10) 小平氏が唱えた改革開放の基本原則で、一部の人・地域がまず豊かになり、やがてすべての

人・全域が豊かになればよいとする考え方。

(11)中国が構築した 伴関係の見直し(格上げなど)推移(韓国との事例)

1992年 国交正常化

1997年 21世紀合作 伴関係(金大中大統領訪中時)

2003年 21世紀全面合作 伴関係(盧武鉉大統領訪中時)

2008年 中韓戦略合作 伴関係(李明博大統領訪中時)

(12)「 伴関係」は、“ 而不 抗, 伴而不 盟”的新路(対話し対抗しない、友となっても契

りを交わさない新たな関係)とされる。今風に言えば、まさに朋友関係ということになる。

「一帯一路」の現段階と日本

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 51

(13) 同類の 伴関係でも、内容は中国と相手国の関係、相手国の経済状況、将来のあるべき協力関係

を反映して異なる。

(14) 政策協調とは、主に、関係国の発展戦略との連携を指す。例えば、一帯一路とカザフスタンの光

明の道、モンゴルの草原の道、ベトナムの両廊一圏、EUのユンケル計画、サウジアラビアのビジョ

ン2030、カンボジアの四角戦略、ロシア・ユーラシア経済連合などとの連携などが指摘できる。発

展戦略を共有することで、経済連携を推進し、国際関係の新たな構築が期待できる。

(15) 90を超える国・地区には地域・国際組織(ASEAN、アラブ首長国連邦、AU、中南米・カリブ海

諸国共同体など)が含まれるが、それら地域・国際組織の加盟国をすべてカウントすれば、 伴関

係構築国・地区は150ヵ国・地区は下らない。

なお、今や 伴関係は世界的ネットワークを構築済みであることから、 伴関係の見直し(格上

げ、強化、発展、深化)が中心となっている。

「一帯一路」の現段階と日本

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 52

えはら・のりよし 一般財団法人国際貿易投資研究所研究主幹http://www.iti.or.jp

[email protected]

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 53

Ⅰ 国際関係

05・01 ノーベル文学賞の選考主体スウェーデン・アカデミーが2018年の文学賞の発表を

見送り2019年の受賞者と同時に発表と明らかに、関係者の性的暴行疑惑などが理由

02 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が2017年の世界の軍事費が前年比1.1%増の1

兆7390億ドル(約190兆円)だったと発表、軍拡を続ける中国と周辺国の緊張の高まり

がアジア各国の軍事費増加を誘発していると指摘、トップの米国は前年比ほぼ横ばいの

6100億ドル、2位の中国は5.6%増の推計2280億ドル、3位はサウジアラビア、4位はロ

シアで日本は前年と同じ8位

WHOが微小粒子状物質PM2.5などによる大気汚染が世界的に拡大を続けており肺がん

や呼吸器疾患などで年間約700万人が死亡しているとみられると発表

04 米中両政府による貿易摩擦問題をめぐる協議が終了(←3日、北京)、米中関係筋による

と米国は中国に対して抱える貿易赤字について中国に2020年末までに少なくとも2000

億ドル(約21兆8000億円)削減するよう要求、19日、米中両政府が貿易協議を終了(←

18日、ワシントン)、米国の対中赤字を「相当削減する」ことで合意し知的財産権の保

護強化も盛り込んだ共同声明、21日、ムニューシン米財務長官が米中両政府が貿易協議

で追加関税発動の保留で合意と明言、22日、中国政府が輸入自動車に対する関税を7月

1日から現行の25%から15%に引き下げると発表、トラックや自動車部品も引き下げ、

30日、中国政府が家電製品や衣服など日用品の輸入関税を7月1日から引き下げと決定

08 トランプ米大統領がイランの核開発を制限するため2015年に米欧など6ヵ国がイランと

結んだ核合意からの離脱表明、オバマ前政権の政策を転換、合意で解除されたイランへ

の制裁を再び発動し経済制裁を科すと宣言、9日、マクロン=フランス大統領がロウハ

ニ =イラン大統領と電話会談し「核合意の存続へ関係国と協力する方針」を確認、13

日、メイ英首相がロウハニ大統領と電話会談、英国とフランス、ドイツがイラン核合意

を堅持する立場を強調、15日、イランと英仏独、EUが外相会合を開催(ブリュッセル)、

米国抜きでも核合意の堅持を目指す方針を確認、21日、ポンペオ米国務長官が核合意か

らの離脱表明に続く新たなイラン政策を発表、ウラン濃縮の完全停止など12項目を要

求、イランが政策変更するまで「史上最強」の制裁を続ける方針を表明

15 米国と欧州の大手航空機メーカーへの補助金をめぐる通商紛争でWTOの紛争処理手続

きの「最終審」に当たる上級委員会が欧州のエアバスに対する補助金継続はWTO協定

違反と認定

31 WHOが「たばこ規制枠組み条約」が定める喫煙規制の広がりにより欧米などの高所得

国を中心に喫煙人口減、一方で世界でなお15歳以上人口の20%が喫煙との報告書を発表

【北朝鮮情勢】

05・01 安倍晋三首相が記者会見(アンマン)、2002年の日朝平壌宣言に基づき拉致・核・

Ⅰ国際関係/Ⅱ日本関係/Ⅲ地域別2018年5月1日-31日

會田 裕子・大野圭一郎 編

細川 洋嗣 (共同通信)

ミサイル問題を包括的に解決し北朝鮮と国交正常化を目指す考えを表明

03 王毅中国外相が金正恩朝鮮労働党委員長と会談(平壌)、「北朝鮮が非核化推進の過程で

正当な安全保障上の懸念を解決することを支持する」と述べ北朝鮮が求める体制保証を

重視する姿勢を示した

04 文在寅韓国大統領が習近平中国国家主席と電話会談、朝鮮戦争の終戦を宣言し現在の休

戦協定を平和協定に転換する過程で中韓両国が積極的に協力することで一致

安倍首相が習近平国家主席と電話会談、日本人拉致問題の早期解決へ向けた協力で一致、

核・ミサイル放棄への緊密連携でも合意、日本の首相と中国国家主席の電話会談は初

08 金正恩委員長が中国を訪問(←7日)、習近平国家主席と会談(大連)、朝鮮半島の非核

化を協議、両首脳は3月末に北京で会談したばかりで異例の短期間での再会談

トランプ米大統領が習近平国家主席と電話会談、北朝鮮が核・ミサイル開発を永久に廃

絶するまでは制裁履行を続ける重要性を確認、習主席が7―8日に行なわれた中朝首脳

会談の結果を説明

09 安倍首相が李克強中国首相、文在寅大統領と会談(東京)、北朝鮮の完全な非核化に向

けた連携で一致、安倍首相が拉致問題の早期解決への協力を要請し理解を得た

米ホワイトハウスが北朝鮮が拘束していた米国人3人を解放したと発表

10 トランプ大統領がツイッターで金正恩委員長との史上初の米朝首脳会談を6月12日にシ

ンガポールで開催と発表

安倍首相がトランプ大統領と電話会談、3人の解放を「大きな成果」と評価

11 ポンペオ国務長官が康京和韓国外相と会談(ワシントン)、ポンペオ長官が会談後の共

同記者会見で北朝鮮が非核化のため早期に具体的な行動をとれば「北朝鮮が繁栄するた

めに米国は協力する用意がある」と述べ経済支援を行なう考えを示した

17 トランプ大統領が北朝鮮が完全な非核化に応じれば金正恩委員長は「強い保護」を得ら

れると述べ見返りに体制保証する用意があると表明、非核化を拒めば圧力強化を辞さな

い姿勢も強調

21 20ヵ国・地域(G20)外相会合(ブエノスアイレス)、米朝首脳会談を前に日本や韓国

が北朝鮮の非核化の重要性を訴え

24 米ホワイトハウスがトランプ大統領が6月12日開催予定の史上初の米朝首脳会談を北朝

鮮側の「敵対的な言動」を理由に取りやめると発表、金正恩委員長に書簡で中止を通告

北朝鮮が北東部豊渓里の核実験場を完全に廃棄する式典を催し海外メディアに公開、記

者団などによると3本の坑道や観測所などを爆破、核開発の舞台となってきた施設が閉鎖

26 金正恩委員長と文在寅大統領が2回目の南北首脳会談(板門店)、朝鮮半島の非核化へ努

力する方針で一致、6月12日の米朝首脳会談開催への「確固たる意志」を表明

28 安倍首相がトランプ大統領と電話会談、米朝首脳会談の前に日米首脳会談を実施し意思

疎通を図る方針で一致

29 米国務省が世界の信教の自由に関する2017年版報告書を発表、北朝鮮では宗教活動に携

わった人たちへの迫害が続き政治活動や信教などを理由に政治犯収容所に投獄された人

が推定約8万―12万人に上ると非難

31 金正恩委員長がラブロフ=ロシア外相と会談(平壌)、ロシアと常に対話の用意がある

と表明、インタファクス通信によると金氏がロシア要人と公式に会談するのは初

国際問題月表

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 54

【IS関連情勢】

05・08 シリア人権監視団(英国)によると首都ダマスカス近郊でアサド=シリア政権を支

援するイランのミサイル施設などを標的としたミサイル攻撃があり少なくとも15人死

亡、国営シリア・アラブ通信が軍関係者の話として攻撃はイスラエル軍によるものとした

09 アフガニスタンの首都カブールで武装集団が2つの警察署を別々に襲撃、警察官ら少な

くとも7人死亡、17人負傷、過激派組織「イスラム国」(IS)と反政府武装勢力タリバン

がそれぞれ犯行を主張

10 イスラエル軍がシリアに展開するイラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」が約20発のロ

ケット弾を占領地ゴラン高原のイスラエル軍に向けて発射したと発表、死傷者はなし、

イスラエル軍がシリアにある数十のイラン関連施設を報復攻撃しシリア人権監視団によ

るとシリア側で少なくとも23人死亡

13 インドネシアのスラバヤ一帯で14日にかけ自爆テロなど複数の連続爆発が起きテロ犯の

13人を含む25人が死亡、爆発には3家族が関与、3家族は ISとの関係が疑われ互いに連

携していた可能性

21 アサド政権軍が ISが残存していたダマスカス南部を制圧したと明らかに

29 ベルギー東部リエージュ中心部でベルギー国籍の男が刃物で襲って女性警官2人から銃

を奪って2人を射殺、付近に駐車中の車内にいた男性も射殺し警官に射殺された、30日、

ISが犯行声明を出したが真偽は不明

Ⅱ 日本関係

05・01 安倍晋三首相が超党派の「新憲法制定議員同盟」の大会にメッセージを寄せ憲法9

条に関し「自衛隊を明記し、違憲論争に終止符を打つことは今を生きる私たちの責務」

と強調

茂木敏充経済再生担当相がソムキット=タイ副首相と会談(バンコク)、タイ側から環

太平洋連携協定(TPP)に参加したいとの意欲の表明があったことを明らかに

03 日本国憲法施行から71年目の憲法記念日、安倍首相が憲法改正を訴える会合にビデオメ

ッセージを寄せ9条に自衛隊を明記する必要性を強調、改めて改憲への意欲を示した、

護憲派は「世界に誇る9条を守り抜く」と阻止を誓った

04 総務省が発表した人口推計(4月1日時点)によると外国人を含む14歳以下の子どもの

数は1553万人で前年より17万人減少、減少は37年連続、1950年以降で最低を更新

07 希望、民進両党合流による新党「国民民主党」が結党大会を開催(東京)、国民民主党

旗揚げ、両党の衆参議員計107人から不参加が相次ぎ参加は62人

08 政府が大災害時の避難所運営や仮設住宅整備などの権限について都道府県から政令指定

都市に移せるようにする災害救助法改正案を閣議決定

武田薬品工業が欧州医薬品大手シャイアーを460億ポンド(約7兆円)で買収すること

で合意と発表、国内勢で過去最高額の海外企業の買収

09 安倍首相が李克強中国首相と会談(東京)、自衛隊と中国軍が偶発的に衝突する不測の

事態を避けるため防衛当局間の相互通報体制「海空連絡メカニズム」の始動で正式合意

トヨタ自動車が発表した2018年3月期連結決算が純利益が2兆4939億円と2年ぶりに最

高益を更新し日本企業としても過去最大を記録、円安と原価低減が寄与

国際問題月表

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 55

10 加計学園問題で衆参両院の予算委員会が柳瀬唯夫元首相秘書官を参考人招致、柳瀬氏が

2015年に首相官邸で学園側と3回面会したと説明

15 河野太郎外相が閣議で2018年版外交青書を報告、安倍首相とトランプ米大統領が北朝鮮

対応で緊密に連携していると強調、4月の日米首脳会談に触れ「米朝首脳会談において

拉致問題を取り上げることに合意した」と明記

16 内閣府が発表した1―3月期のGDP速報値が物価変動を除く実質で前期比0.2%減、年率

換算で0.6%減となり9四半期(2年3ヵ月)ぶりにマイナスに転じた

議員立法の「政治分野の男女共同参画推進法」が参議院本会議で可決、成立、女性議員

を増やすため選挙の候補者数を「できる限り男女均等」にするよう政党に促す

17 6日に行なわれたアメリカンフットボールの定期戦で日本大の選手が危険な反則タック

ルをした問題で選手が負傷した関西学院大が記者会見、内田正人日大アメフット部監督

による危険行為の指示を否定した回答に疑念を表明、19日、内田監督が辞任表明、22

日、反則タックルをした日大アメフット部の宮川泰介選手が記者会見、内田前監督と井

上奨コーチの指示に従ったと説明、23日、内田前監督が会見、大学の常務理事の職務を

一時停止、謹慎の意向、井上コーチが辞任表明、ともに反則指示は否定、29日、関東学

生アメリカンフットボール連盟が臨時理事会でタックルを指示したとして内田前監督と

井上前コーチを永久追放に相当する「除名」とした

旧優生保護法下で障害などを理由に不妊手術を強制されたとする北海道、宮城県、東京

都の70代の男女3人が国に計7950万円の損害賠償を求める訴訟を札幌、仙台、東京の各

地方裁判所に起こした、宮城県の60代女性を含め原告は4人に

21 加計学園をめぐり愛媛県が新文書を国会に提出、安倍首相が2015年2月に加計孝太郎学

園理事長と面会し「獣医大学の考えはいいね」と発言したとの記載があり2017年1月に

構想を初めて知ったとする首相答弁を否定する内容、22日、安倍首相が面会否定

政府が経済財政諮問会議で医療や介護、年金などにかかる社会保障給付費について高齢

者数がピークに近づく2040年度に約190兆円に上るとの推計結果を初公表

23 財務省が森友学園との交渉記録について理財局長だった佐川宣寿氏の「廃棄した」との

国会答弁に合わせるため「廃棄を進めた」と釈明、安倍首相が衆議院厚生労働委員会で

「国会答弁との関係で文書を廃棄するのは不適切で誠に遺憾だ」と述べた

陸上自衛隊イラク派遣部隊の日報隠蔽問題で防衛省が現場の認識不足などが原因で組織

的隠蔽はなかったとの調査結果を公表、同省が陸自研究本部(現教育訓練研究本部)の

担当者や豊田硬事務次官ら計17人を処分

25 東京23区にある大学の定員増を10年間禁止するための新法が参院本会議で可決、成立、

進学を機に東京に移住する若者の増加に歯止めをかける狙い

NATO(本部ブリュッセル)加盟国代表で構成する意思決定機関の北大西洋理事会がブ

リュッセルの在ベルギー日本大使館にNATO日本政府代表部を開設することに同意

26 安倍首相がプーチン=ロシア大統領と会談(モスクワ)、北方領土での共同経済活動の

事業化に向け7、8月をめどに民間調査団を派遣する方針で合意

28 安倍首相が衆院予算委員会の集中審議で森友学園への国有地売却をめぐる「関与」につ

いて「お金のやりとりがあって頼まれて行政に働き掛けた、という意味での関わりはな

い」と説明

国際問題月表

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 56

29 国立がん研究センターが15―39歳の思春期・若年世代でがんと診断される人が年間2万

1400人に上るとの推計を発表、この世代の詳しいデータが明らかになるのは初

30 安倍首相と枝野幸男立憲民主党代表らが党首討論、首相が森友学園への国有地売却をめ

ぐる昭恵首相夫人の関与を否定、枝野氏が「昭恵氏が影響力を行使した」と追及

31 森友学園への国有地売却に関する決裁文書改竄で大阪地方検察庁特捜部が虚偽公文書作

成容疑などで告発された当時の財務省理財局長の佐川前国税庁長官らを不起訴とした、

売却価格が値引きされた取引をめぐる背任容疑も含め計38人が不起訴に

経団連が総会で新会長に中西宏明日立製作所会長を選任

麻生太郎財務相がムニューシン米財務長官と会談(ウィスラー〔カナダ〕)、米鉄鋼輸入

制限の対象から日本の恒久的除外を要請、検討中の自動車輸入制限も自制を要求

Ⅲ 地域別

●アジア・大洋州

05・01 中国とカリブ海のドミニカ共和国がこの日付で外交関係を結び国交を樹立するとの

共同コミュニケに署名、台湾はドミニカ共和国と断交、24日、ブルキナファソが台湾と

断交、26日、ブルキナファソが中国と国交樹立の共同コミュニケに署名、台湾が外交関

係をもつ国は18ヵ国と過去最少

04 日中韓とASEANが財務相・中央銀行総裁会議を開催(マニラ)、「あらゆる保護主義に

対抗する」との共同声明を採択、アジアの金融危機を防ぐため日本がシンガポール、イ

ンドネシアとの間で通貨交換協定を延長・拡大し緊急時に円を融通する支援枠組みを両

国にも適用することで合意

09 マレーシア下院選の投開票、マハティール元首相が率いる野党連合が議席の過半数を獲

得しナジブ首相の与党連合に勝利、1957年の独立以来初の政権交代が実現、10日、マ

ハティール氏が新首相に就任、21日、マハティール政権が発足

28 マハティール首相がマレーシアとシンガポールを結ぶマレー半島高速鉄道計画の廃止を

決めたと発表

30 フィリピン下院が南部ミンダナオ島でのイスラム教徒による自治政府の樹立に向けた基

本法案「バンサモロ基本法」を可決、現行の行政機関ミンダナオ・イスラム自治区

(ARMM)を廃止し代わりに権限を拡大して設立する自治政府に関する細則などを定め

た、31日、上院も可決

●中近東・アフリカ

05・01 ナイジェリア北東部アダマワ州ムビのモスクでイスラム過激派ボコ・ハラムの犯行

とみられる自爆攻撃が2回あり礼拝に集まっていた住民ら20人以上が死亡

ブリタ=モロッコ外相が同国が領有権を主張する西サハラの独立派をイランが支援して

いるとしてイランと国交を断絶したと明らかに

06 レバノンで国民議会(定数128)総選挙実施、シリアの内戦などによる政治混乱で延期

が繰り返され2009年以来9年ぶりの実施、7日までの開票結果によるとイスラム教シー

ア派の「ヒズボラ」を軸とする政治連合が躍進しスンニ派のハリリ首相率いる第1党「未

来運動」が10前後の議席を失った、ヒズボラの党首ナスララ師が勝利宣言

国際問題月表

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 57

07 イエメンでハディ暫定政権と対立する親イランの武装組織「フーシ派」が拠点としてい

る首都サヌア中心部に空爆、フーシ派系メディアによると少なくとも6人死亡、30人負

傷、暫定政権を支援するサウジアラビア主導の連合軍による空爆としている

11 ユニセフがコンゴ(旧ザイール)中部のカサイ州などで2016年に始まった政府軍兵士・

政府系民兵と反政府系民兵の戦闘により家を追われるなどした5歳未満の子供少なくと

も約77万人が深刻な栄養失調に陥りうち約40万人が命の危機に直面と発表

パレスチナ自治区ガザのイスラエルとの境界付近で反イスラエルデモがありガザの保健

当局によるとイスラエル軍の銃撃を受けたパレスチナ人1人が死亡、150人超が負傷、イ

スラエル軍との衝突は3月30日のデモ開始以降7週連続、これまでの死者は45人以上

14 トランプ米政権がイスラエル建国70年のこの日テルアビブの米大使館をイスラエルの首

都と正式認定したエルサレムに移転、ガザの保健当局が抗議デモでイスラエル軍の銃撃

などによる死者は子供を含む58人、負傷者は2700人以上に達したと明らかに、アッバ

ス=パレスチナ自治政府議長が「虐殺」と糾弾、ネタニヤフ=イスラエル首相が銃撃を

正当化し非難の応酬、パレスチナ自治区では15日も抗議デモ、ガザの保健当局によると

男性2人が死亡、2日連続で死傷者、14日からの死者は計61人、15日、国連安保理が緊

急の公開会合、ヘイリー米国連大使が大使館移転について「米国民の意思の反映だ」と

述べ正当化、17日、アラブ連盟が臨時の外相会合を開催(カイロ)、声明で「イスラエ

ル軍による犯罪や虐殺」を調べるため独立した国際的な専門家委員会の設置が必要との

認識を示した、16日にグアテマラ、21日にパラグアイも大使館をエルサレムに移転、18

日、イスラム協力機構(OIC)が臨時首脳会議開催(イスタンブール〔トルコ〕)、「残忍

な犯罪」と強く非難する声明で攻撃には米国の「後援」があったとした

19 イラク国会選挙(12日実施、定数329)で選挙管理委員会がイスラム教シーア派指導者

サドル師の政党連合「行進者たち」が54議席を獲得、第1勢力になったと発表

23 カッツ=イスラエル情報活動相が占領地ゴラン高原でのイスラエルの主権を認めるよう

トランプ米政権に求めていることを明らかに

29 イスラエル軍などによるとガザからの迫撃砲弾やロケット弾の発射とイスラエル側の報

復攻撃が相次いだ、30日、ガザを実効支配するイスラム組織ハマス高官がエジプトの仲

介でイスラエルとの停戦に合意と発表、イスラエルが守る限りハマスは停戦を順守する

と訴え、イスラエルの複数の閣僚はいかなる合意にも達していないと否定

●欧 州

05・02 スペイン北部バスク地方の分離独立を要求し1959年に結成、1960年代からテロを

繰り返してきた非合法組織「バスク祖国と自由(ETA)」が「すべての組織を完全に解

散した」との声明を発表、声明は4月16日付で「すでに組織活動を停止しETAは完全

に解散」と言明

12 パリ都心部で刃物をもった男が通行人らを襲撃し1人死亡、4人が負傷、駆け付けた警

官隊が男を射殺、男はロシア南部チェチェン共和国出身で対テロ当局の監視対象だった

14 スペイン北東部カタルーニャ自治州の州議会が独立派の作家・編集者で2017年12月の

州議選で初当選したキム・トラ議員を新たな州首相に選出

23 マッタレッラ=イタリア大統領が3月の総選挙で躍進した新興組織「五つ星運動」と右

国際問題月表

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 58

派政党「同盟」が推薦した法学者コンテ氏を新首相に指名、27日、大統領がEU懐疑派

でユーロ離脱論者を経済財務相に充てることを拒否したためコンテ氏は大統領に組閣作

業断念を伝えた、28日、大統領は元 IMF高官でエコノミストのコッタレッリ氏を新首相

に指名し組閣を命じたが30日に断念、31日、マッタレッラ大統領がコンテ氏を再び首

相に指名、コンテ氏が組閣名簿を提出、承認、議会多数派の「五つ星運動」と「同盟」

による連立政権が発足、再選挙は回避

25 EUが企業がインターネットなどを通じて集めた個人情報の保護を大幅強化し域外への

持ち出しを原則禁じる新規則を施行、違反すれば最高で世界の年間売上高の4%、また

は2000万ユーロ(約26億円)のうち高いほうを制裁金として科す

アイルランドで人工妊娠中絶の合法化の是非を問う国民投票、26日、賛成票の得票率

66.4%、反対票33.6%で賛成派が勝利

●独立国家共同体(CIS)

05・05 プーチン=ロシア大統領が7日に通算4期目の就任式を迎えるのを前に野党指導者

ナワリヌイ氏が呼び掛けた反政権デモがモスクワなどロシア全土で実施、野党系サイト

によると同氏は違法な集会を組織したとして拘束されるなど全土で約1350人が拘束

07 プーチン氏が通算4期目となる大統領に就任、演説でロシアの発展には「あらゆる分野

で躍進が必要だ」と強調、憲法規定で最終任期となる6年間で国力を増強する決意を表明

14 ラブロフ=ロシア外相代行とザリフ=イラン外相が会談(モスクワ)、トランプ米政権に

よるイラン核合意からの離脱表明を受け情勢を協議、ザリフ氏は会談後に「ロシアは核

合意を堅持し、擁護すると表明した」と述べ協力を継続することで一致したと明らかに

17 ロシアが主導するユーラシア経済同盟がイランとの間で自由貿易圏をつくることで暫定

合意、ロシアとイランのほか同盟に加わるアルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キ

ルギスの計6ヵ国の高官が合意文書に署名(アスタナ)

18 プーチン大統領に8日に再任されたメドベージェフ首相が新内閣の候補リストを大統領

に提示、プーチン氏が同意、ラブロフ外相、ショイグ国防相、オレシキン経済発展相ら

主要閣僚は留任

プーチン大統領とメルケル=ドイツ首相が会談(ソチ〔ロシア〕)、メルケル首相が会談

後の共同記者会見で険悪化している欧米とロシアの関係について「われわれには良好な

関係を維持する戦略的な利益がある」と述べEUやNATOとロシアが関係を維持するよ

う訴えた

25 プーチン大統領が日ロ両国政府が協議中の北方領土での共同経済活動を通じ4島交流、

二国間関係を発展させていけば「最終的に平和条約締結に到達できる」との考えを示した

●北 米

05・14 米連邦最高等裁判所がほぼすべての州でスポーツ賭博の運営などを禁じる連邦法を

無効とする判断、全米の州でスポーツ賭博が合法化されることに道を開く可能性

16 米財務省がイランの影響下にあるレバノンのイスラム教シーア派組織の指導者ナスララ

師らを中東全体を不安定化させているとして米独自の制裁対象に追加指定

17 米上院本会議がCIA長官にハスペル同局副長官兼長官代行を充てる人事を承認、1947年

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国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 59

設立のCIAで初の女性長官

18 米テキサス州サンタフェの高校で銃撃事件があり10人死亡、10人負傷、警察が男子生

徒を拘束し司法当局が殺人などの容疑で訴追

24 トヨタ自動車がトランプ政権が検討している自動車輸入制限に反対する声明を発表

トランプ政権が米銃器メーカーによる海外への売り込みを促進するため軍事用以外の銃

器や弾薬の輸出手続きを簡素化する方針を発表、国務省から商務省へ監督権限を移行

トランプ大統領が金融危機の再発防止を目的とする金融規制改革法(ドッド・フランク

法)を見直し規制を緩和する法案に署名

27 米海軍が中国が主権を主張する南シナ海の西沙(英語名パラセル)諸島周辺で軍艦を航

行させる「航行の自由」作戦を実施

31 トランプ政権が鉄鋼とアルミニウムの輸入制限を6月1日からEU、カナダ、メキシコに

も適用すると発表、カナダ、メキシコ両政府は報復措置をとると発表

●中南米

05・04 アルゼンチンの中央銀行が通貨ペソの下落が止まらないため政策金利を6.75%引き

上げ40%に緊急利上げ、利上げは8日間で3回目、8日、マクリ大統領が IMFに融資枠を

設定するよう支援要請、18日、IMFが理事会で金融支援策を協議(ワシントン)、ラガ

ルド専務理事が「アルゼンチン経済を強化するための目標を完全に支持する」との声明

11 グアテマラ外務省がこの日までに内政干渉を理由にグアテマラに駐在するスウェーデン

とベネズエラの大使を交代させるよう両国政府に要請したと発表

20 ベネズエラで大統領選、現職のマドゥロ氏が再選、対立候補らが買収行為などの不正が

あったと主張し選挙のやり直しを要求、国際社会からも結果を認めないとする声が続々

と上がり米国は21日新たな制裁を発表、23日、G7首脳がベネズエラ大統領選について

「国際的に認められた基準を満たしておらず公正で民主的なプロセスも保証されなかっ

た」として非難する声明を発表

24 バルバドスで下院選、25日、野党バルバドス労働党が全議席を獲得

29 ニカラグアで学生らによる左派オルテガ大統領の辞任を求める反政府デモが活発化、政

権側の弾圧でこの日までに80人近くの死者が出るなど混乱

国際問題月表

国際問題 No. 673(2018年7・8月)● 60

国際問題 第673号 2018年7・8月号[合併号]

編集人 『国際問題』編集委員会発行人 佐々江 賢一郎発行所 公益財団法人日本国際問題研究所(http://www.jiia.or.jp/)

〒100-0013 東京都千代田区霞が関3-8-1

虎の門三井ビルディング3階電話 03-3503-7262(出版・業務担当)

*本誌掲載の各論文は執筆者個人の見解であり、執筆者の所属する機関、また当研究所の意向を代表するものではありません。

*論文・記事の一部分を引用する場合には必ず出所を明記してください。また長文にわたる場合は事前に当研究所へご連絡ください。

*最近号17年 6 月号 焦点:「難民問題」の現段階17年 7・8月号 焦点:世界は「トランプ革命」をどう見たか17年 9 月号 焦点:中国経済と世界の未来17年10月号 焦点:ASEAN外交と加盟国―中心性と求心力17年11月号 焦点:外交における法の支配17年12月号 焦点:プーチン体制の現状と展望18年1・2月号 焦点:揺らぐ国際秩序18年 3 月号 焦点:台頭するインドの挑戦18年 4 月号 焦点:朝鮮半島の政治経済学18年 5 月号 焦点:中東の新たな課題18年 6 月号 焦点:問われる軍縮・不拡散・軍備管理

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