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US Commercial Real Estate Project PIMCO 2005 年に、PIMCO のインベストメント・コミッティーは、過剰 なレバレッジにより高騰した住宅市場の現状を直に評価するため に、PIMCO のモーゲージ・チームを、国内上位 20 地域の住宅市 場へ派遣しました。こうしてPIMCOの「住宅市場調査プロジェクト」 が発足し、調査の結果、住宅価格が前例のない下落を遂げるという 予測にたどり着きました。そこで得た知識は、後に PIMCO がお客 様のためにどう信用危機に対処するかにおいて非常に重要な役割を 果たしました。 商業用不動産市場は、住宅市場が抱える問題のほとんどを共有して います。すなわち、ローンの引受体制が極めて脆弱であること、過 剰なレバレッジ、また、銀行および格付機関の双方でリスク管理が 存在しないことなどです。そこで PIMCO は、公表データに表れ ない角度から各地域の不動産市場のダイナミクスを最前線 で理解するため、また現在の市場サイクルが従来 のものとはどう異なるかをより深 く理解するため、さらに地域性 の強い市場での資産選択につい て情報提供をするために、「商業 用不動産調査プロジェクト」を 実施しました。 2010年 6月 商業用不動産調査プロジェクト

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US Commercial Real EstateProject

PIMCO

2005 年に、PIMCO のインベストメント・コミッティーは、過剰

なレバレッジにより高騰した住宅市場の現状を直に評価するため

に、PIMCO のモーゲージ・チームを、国内上位 20 地域の住宅市

場へ派遣しました。こうしてPIMCOの「住宅市場調査プロジェクト」

が発足し、調査の結果、住宅価格が前例のない下落を遂げるという

予測にたどり着きました。そこで得た知識は、後に PIMCO がお客

様のためにどう信用危機に対処するかにおいて非常に重要な役割を

果たしました。

商業用不動産市場は、住宅市場が抱える問題のほとんどを共有して

います。すなわち、ローンの引受体制が極めて脆弱であること、過

剰なレバレッジ、また、銀行および格付機関の双方でリスク管理が

存在しないことなどです。そこで PIMCO は、公表データに表れ

ない角度から各地域の不動産市場のダイナミクスを最前線

で理解するため、また現在の市場サイクルが従来

のものとはどう異なるかをより深

く理解するため、さらに地域性

の強い市場での資産選択につい

て情報提供をするために、「商業

用不動産調査プロジェクト」を

実施しました。

2010年 6月

商業用不動産調査プロジェクト

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PIMCO US Commercial Real Estate Project

2June 2010

商業用不動産(CRE)そのもののファンダメンタルズ

が依然悪化傾向にあり、また資本市場が急速に変化を遂

げていることに鑑み、PIMCO のポートフォリオ・マネー

ジャーおよびアナリストは、10 都市を対象に実地調査

の場所を選出しました。調査チームは、100 名を超す

業界関係者にインタビューしました。これらには、現地

の投資アドバザー、リーシングブローカー、CRE レン

ダー、スペシャルサービサー、不動産開発業者、不動産

オーナーなどが含まれ、その範囲はオフィス、工業用、

小売業店舗、ホテル、集合住宅などの不動産を含む、最

大の商業用不動産セクターをカバーしました。一連のイン

タビューを通して、チームは 現地の状況を刻々と把握

するとともに、主要な資産に関する洞察を深めました。

主要な調査結果の要旨:

1. 資金は明らかに商業用不動産に還流しつつあり、こ

れが同セクターにおける価格の下落に歯止めを掛け

ている。ただし、楽観には慎重を要する。なぜなら、

取引が限定的で不動産評価額に関する深刻な不透明

感を反映していないときは、全国的な価格指数は誤

解を生じ易いからである。

2. 資本市場の構造変化は、レバレッジ解消プロセス

を長引かせ、市場の回復の重石となろう。特に、

1990 年代初頭に起きた前回の CRE 危機以降急激

に増加した、複雑な証券化商品が、変化の代表的な

ものとして挙げられる。過去の市場サイクルと比較

して、今回は CRE リスクを銀行システムから他へと

移転する機能が損なわれているため、V 字型回復は

もとより、安定的な回復さえ期待し難い。それどこ

ろか CRE 物件の多くが、2010 年代の終わり頃ま

では、2007 年の価格水準を回復しないであろう。

3. 米国の GDP 成長率の低迷、失業率の高止まり、規

制強化の兆し、貯蓄率の長期的な上昇などのマクロ

経済の逆風によって、市場は従来適用していた CRE

の評価に関する前提を見直さざるを得なくなるであ

ろう。これらのトレンドは、賃料、空室率、キャッ

プレートなどの見通しに深刻な影響を与え、CRE 市

場に依然残る下振れリスクを強調するものである。

PIMCOでは、CRE市場には不動産評価額に深刻な不透

明感があり、これが回復の先行きに影響を及ぼすと考

えています。従って投資家は、浮上しつつある複雑な

投資機会を検討するにあたり慎重姿勢を保つべきです。

前回のCRE危機以来資本市場の複雑性が高まっている

ことを考慮すると、CRE市場の分析やそこでの投資に

関するいかなるアプローチも、過去の市場サイクルで適

用された方法からは大きく異なるものでなければなりま

せん。

輝くもの全てが金とは限らない

資本は確かに CRE に戻ってきており、市場の一部にお

ける活発な入札活動は、多くの市場関係者や参加者を楽

観的にしました。取引は概して限定的であり、また資金

流入は、トロフィー物件(超一流物件)や、政府系住宅

金融機関から市場実勢を下回る金利で融資を受けられる

物件に集中しています。これが原因で、不動産価額の実

勢に透明度があるかのごとき錯覚が生じています。実際

には脆弱で債務不履行状態にある大量の物件が清算を控

えており、この事実は価格がさらに下押しされることを

予想させます。このような背景から、PIMCO は、市場の

急速で広範囲な回復が進行中であるという説に対しては注意

を呼びかけています。

資金は還流している

金融緩和政策と流動性の高まりのおかげで、エクイティ

およびデット資本の両方が商業用不動産セクターへと還

流し始めています。当然のことながら、資金は上場さ

れている不動産投資信託(REIT)や商業用不動産担保

証券(CMBS)などを始めとする、CRE 市場で最も流

動性の高い部分に戻ってきています。REIT 市場では、

2009 年に、240 億ドルを超すエクイティと 100 億

ドルのデットによる資金調達が行なわれました。以下の

図が示すように、2009 年第1四半期から 2010 年第

1 四半期にかけておきた REIT および CMBS への資金

流入は、REIT 価格を 96% 以上も押し上げるとともに、

CMBS のスーパーシニア債トランシェ(CMBS 債の最

上級クラス)のスプレッド を 70% 近くも縮小させま

した。

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3

資金はCRE資産を追う

スワ

ップ

に対

する

スプ

レッ

ド(

bp

s)

指数

CMBS スーパーシニア債

DJ エクイティ REIT 指数

1,000

900

800

700

600

500

400

300

200

215

190

165

140

115

90

Mar-09

May-09

Apr-09

Jun-0

9

Jul-0

9

Aug-09

Sep-09

Oct-09

Nov-09

Dec-09

Feb-10

Jan-1

0

Mar-10

Apr-10

May-10

出所:ブルームバーグ、PIMCO

デット資本については、保険会社が優良不動産に対する

資金提供に積極的であり、かつてのウォール街の投資

コンジットグループが体勢を立て直し、また複数のプラ

イベート・デット投資会社が資金調達を行なっています。

主要市場にある安定的なトロフィー物件のように比較的

流動性の高い資産については、取引が本格的に再開され

ています。投資家およびレンダーは、マンハッタンやワ

シントン DC を含む主要市場に強気で戻ってきていま

す。これら市場では、海外資金による需要により、オフィ

ス物件のキャップレートおよび 1 平方フィート当たり

単価が、2006 年から 2007 年のピーク時付近まで押

し上げるような取引が最近行なわれました。(キャップ

レートとは、年間の純営業収益を不動産価格で除したも

の、換言すれば、不動産の取引価格に基づく直接利回り

を意味します。)

買い意欲は、ファニーメイおよびフレディマックの長年

の貸出プログラムを通して資金調達が可能な、集合住

宅用不動産にも戻ってきています。CRE の融資条件は

ここ 2 年間で大幅に保守的になりましたが、ファニー

メイおよびフレディマックはいまだに 2007 年当時を

彷彿とさせるような条件で貸し続けています。このよ

うな魅力的な融資により、取引価格は 2005-2007 年

当時の水準へと押し上げられ、キャップレートレンジは

5-6% になっています。

価格は底打つも回復は遅い

低リスクの「トロフィー」CRE 物件に対する最近の入

札活動の活発化を受けて、エクイティおよびデット資本

の両方が、より高い利回りを求めてリスク曲線上を上昇

し始めています。現に、十分な資金力のある REIT は不

動産の取得に向けた活動を再開しており、また複数のプ

ライベート・エクイティ・ファンドが積極的に新物件の

取得に動いており、問題を抱えた市場でさえ考慮の対象

となってるようです。

現在、買い手の要求利回りから推測すると、CRE 資産

価値は大方 2007 年のピーク水準から 35-45% の下

落をしたことになります。これは、2009 年初頭(買

い手の要求利回りが急上昇し、不動産価値は 2007 年

水準から 50% 以上も下落していた)との比較では、大

幅な回復といえます。ただし、このような CRE 資産価

値の改善はあくまでも推測であって、実際の CRE 資産

価格の急速な回復を予告するわけではないことに留意す

る必要があります。むしろ、過剰なレバレッジを伴う

5,000 億ドルを超す CRE 物件が、レンダーによる売却

処分やリストラを通して漸次市場に放出されるに従い、

PIMCO では、一般的な CRE 資産価格が向こう 3-5 年

間は 2007 年のピーク価格水準を 30-40% ほど下回

るであろうと予想しています。

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PIMCO US Commercial Real Estate Project

4June 2010

底は打ったか

ムー

ディ

ーズ

CP

PI 2

00

0年

12

月 =

10

0

90

110

130

150

170

190

210

出所;ムーディーズCPPI、リアルエステート・アナリティックスLLC

(2010年5月31日現在)

Dec-00

May-01

Oct-01

Mar-02

Aug-02

Jan-0

3

Jun-0

3

Nov-03

Apr-04

Sep-04

Feb-0

5

Jul-0

5

Dec-05

May-06

Oct-06

Mar-07

Aug-07

Jan-0

8

Jun-0

8

Nov-08

Apr-09

Sep-09

Feb-1

0

ここで重要なのは、トロフィー物件や政府機関の融資を

受けられる集合住宅物件に関わる取引活動を、全体的な

CRE 不動産価額の回復の先行指標として捉えてはいけ

ないということです。最近の取引状況は、2007 年の価

格水準への急速な回復を示唆するかにみえますが、これ

らの資産クラスは今後も値下がりするリスクを抱えてい

ます。例えば、先述のワシントン DC のオフィス用物件

については、PIMCO が会見した複数の現地投資家によ

ると、当該市場に流入している海外資金の大きさに当惑

しているとのことでした。価格の急上昇がこのように海

外資金に依存しているということは、外部要因が CRE

資産価格を地域レベルで動かす可能性があることを明ら

かにしています。集合住宅に関しては、ファニーメイお

よびフレディマックによる融資への依存度の高さからす

ると、融資条件の些細な変更が資産価格に直に影響する

可能性があります。

誤解を招く指標

ムーディーズの商業用不動産価格指数である Commercial

Property Price Index (CPPI)のような全国的な価格

指数は、CRE 資産価格水準の回復について誤解を招く

指標となることがあります。2009 年 11 月以来、同

指数は反転し 3% 上昇しています。

CPPI 指数と、住宅価格の推移を把握するために用いら

れる S&P ケース・シラー価格指数を自然と比較しがち

ですが、今日のような薄商いの環境では CPPI などの指

数は比較的無意味であることを指摘しておく必要があり

ます。なぜなら、2007 年から 2009 年にかけて、商

業用不動産の取引は約 90% も減少したからです。

PIMCO が実施した実地調査によって、CPPI の弱点が

いまひとつ明らかになりました。CPPI 指数は、再販取

引高をベースとしているため、過去 2・3 年の間に取得

されいまだに再販されていない、真に債務不履行状態に

ある物件や割高物件を除外しており、そのかわり、トロ

フィー物件や政府機関の融資を受けた集合住宅の取引に

偏っています。実際、ブローカーがトロフィー物件や集

合住宅の加熱した入札について語るたびに、一方では現

実にはピーク時から半値以下に下落したであろう物件で

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5

オーナーとの交渉が難航したという話を、PIMCO のチー

ムはいくつも聞かされました。これらの 問題物件が最

終的に取引された暁には、CPPI に対して過大な影響を

及ぼすでしょう。例えば、2010 年 3 月に CPPI 指数

が動いたときは、わずか 17 億ドル相当の取引が基に

なっていました。対照的に、高い注目を浴びたマンハッ

タンのスタイヴァサント・タウンは、2006 年に売却

されたとき、その一件だけで 54 億ドルに上りました。

この物件が今日清算されるとしたら(当該物件は現在デ

フォルトに陥っています)、2006 年当時の購入価格よ

り 60% も低い価格で売却されるであろうというのが大

方の予想です。

回復への道程はとてつもなく 長い

1990 年代以来、矛盾を効率的に解消する政策も伴わ

ずに資本構造が益々複雑に発展したことは、今回の市場

サイクルにおけるレバレッジ解消プロセスが今まで以上

に長引くことを示唆しています。加えて、地方銀行が建

設ローン・ポートフォリオ上で損失の認識を余儀なくさ

れると、物件が最終的に売却処分されるため、市場の回

復を速めることや不動産価格の透明性を高めることには

ほとんど貢献しないでしょう。複雑な証券化構造や地銀

のローン・ポートフォリオの解消プロセスが長引き、迅

速かつ V 字型の回復への期待は遠のくばかりです。そ

れどころか、多くの物件は 2020 年代までは、2007

年のピーク時の価格を回復しないかもしれません。

レバレッジ解消は厄介なプロセス

ここ 10 年の間に発展したデットとエクイティの資本構

造の多くは迷路のように複雑なものであり、その清算に

は、1990 年代に発生した CRE の問題在庫より遥かに

長期間を要するでしょう。なぜなら、証券化によって

CRE 物件のリスクの第一義的負担者が交代したからで

す。こうしてレバレッジ解消のプロセスが長引くことに

より、今後長期にわたり価格の透明性が害されるととも

にリスク回避姿勢が生じるでしょう。

前回の重大な危機においては、CRE 市場は経済全般か

ら比較的隔離されていました。市場の急騰やその後の下

落は、税制がらみの過剰供給に起因したものでした。さ

らに、CRE の資本構造は簡素で、シニア・レンダー(貯

蓄貸付組合、貯蓄金融機関、銀行など)や個人の借主

から成っていました。CRE リスク負担者が比較的隔離

されていたため、連邦預金保険公社(FDIC)は危機を

沈静化することができたのです。FDIC は整理信託公社

(RTC)の設立により、率先して CRE リスクを速やか

に移転させました。RTC は、大量売却処分、民間セクター

のパートナーとのエクイティ・パートナーシップなどの

手段を採用し、最終的に、リスクの再構築および売却を

目的とした証券化も利用しました。

時は経って、CMBS、大型のローン・シンジケーション、

メザニン債務ビークル、債務担保証券(CDO)、プライ

ベート・エクイティ・ファンドなどの発展は、資本構造

をいっそう複雑なものに変えました。そのため、今日、

特定の不動産物件に関わるリスクの負担者には、資本構

造全体にわたり直接および間接的な何百もの主体が存在

し、利益が相反するという状況がよくあります。例えば

CMBS においては、劣後債には、差押え手続の開始で

はなく融資の延長を導き出すような債務再構築交渉に関

して、承認権が付与されています。しかし差押えが信託

財産の回復を最大化させるが、劣後債保有者の元本を帳

消しにしてしまうような場合には、矛盾が起こります。

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PIMCO US Commercial Real Estate Project

6June 2010

これらの要素は全て、それまでのレバレッジ解消戦略の

スピードや効果を低下させ、結果、清算プロセスに何年

もかかるだけでなく、不動産の底値水準に関する透明性

も害されてしまいます。実際、PIMCO が会見した CRE

案件を取り扱う法律事務所の多くが、以下のように証言

しています。すなわち、特定の物件の資本構造に関する

利害関係者の数があまりにも多いため、債務再構築の作

業は過去のサイクルのときよりも遥かに複雑化している

とのことです。

キャップレートは長期的に高止まり

PIMCO では、キャップレートと 10 年物米国債利回り

とのスプレッドは、1995 年以来の平均値である 265

ベーシスポイントを今後も上回ると予想しています。こ

れは、係争を伴うレバレッジ解消プロセスによって、当

該セクターにおいてリスク回避姿勢が長期に渡り支配す

ると思われるからです。

以下の図が示すように、10 年物フォワードカーブは、

10 年物米国債利回りが今後数年のうちに 5% 水準に接

近することを示唆しています。もしキャップレートのス

プレッドが引き続き平均を上回るなら、市場は 8% 前

後の長期キャップレートを覚悟すべきでしょう。その場

合、変動金利付きの負債を抱えた物件が短期的に債務不

履行をうまく回避できたとしても、長期金利の上昇によ

りキャップレートに下限ができるため、CRE の回復は

限定的になるでしょう。

小型のローン売却で透明性は改善しない

米政府による様々なガイドラインの展開や低政策金利の

おかげで、銀行は不良債権化した商業ローンの解決にお

いて「見ぬふりと延長」戦略をとることができますが、

大量の建設ローンが存在するため、多くの地銀は融資問

題に決着をつけざるを得ない日がやって来るでしょう。

銀行は、融資残高に見合って必要な準備金が枯渇すると

ともに借手が資金供給を拒む状況では、建設融資を正常

債権として計上し続けることはできなくなります。同様

に、CMBS スペシャルサービサーも、小額の不良債権

の CMBS ローンから成るポートフォリオを売却処分す

るでしょう。なぜなら、これらの小額債権は、解決して

もサービサーにとって利益にならないからです。

ローン・ポートフォリオの売却処分により、2009 年

に比べて取引量が増加するでしょうが、しかし小額の不

良債権化したローンから成るポートフォリオを売却して

も、全体的な市場の価格水準の透明度を増すことにはほ

とんど貢献しないでしょう。例えば、2010 年初頭に

行なわれた FDIC による売却においては、10 億ドルの

ポートフォリオのうち僅か 41.5% が、伝統的な商業用

不動産物件の担保付きのものでした。残部のローンは、

土地、洗車機、教会建物、葬儀場などを担保としていた

ため、オフィスビルの価値評価において有用な比較がで

きるとはいい難いものでした。

日本との簡単な比較

CRE リスクの銀行システムから他への移転の成功は、

市場の回復のタイミングも左右するでしょう。日本を例

にとると、財政状態が深刻な打撃を受けているにもかか

わらず営業を続けるゾンビ状態の銀行は、何年にもわた

り不良債権化したローンを抱え続けました。なぜなら、

時価評価を強制されなかったからです。これがもとで、

長期にわたり価格の不透明感が支配し市場が下落したた

め、相場が崩れ始めてから 10 年以上も価格が底打ちし

ませんでした。

長期国債の利回り上昇が予想され、キャップレートの低下を制限

パー

セン

ト(%

)

キャップレート

10年物米国債利回り

出所:ブルームバーグ、プロパティ・アンド・ポートフォリオ・

リサーチ社

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0

7.0

8.0

9.0

1995

Q1

1997

Q1

1999

Q1

2001

Q1

2003

Q1

2005

Q1

2007

Q1

2009

Q1

2011

E

2013

E

2015

E

2017

E

2019

E

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7

V型の回復はどこに

指数

0

50

00 01 02 03 04 05 06 07 08 0910E11

E12

E13

E14

E15

E16

E17

E18

E19

E20

E21

E

83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04

100

150

200

250

200

出所:ムーディーズ、MTB-IKOMA不動産投資インデックス、

ESRI、日銀、PIMCO (2009年Q4現在)

米国市場(年)2010年以降は指定

日本市場(年)

弱気予測 -日本の回復パターン

強気予測 - 1990年代米国の回復パターン

米国 CPPI 指数: 実績 2000年-2007年 (下の時間軸)

日本、 MTB-IKOMA CRE インデックス: 実績 1983年 - 2004年 (上の時間軸)

日本の危機から学んだ教訓をもとに、米国では、日本

の「失われた 10 年」を引き起こした財政政策や税制の

いくつかを回避できることを望むばかりです。しかし、

CRE ローン損失の認識に関わる日本の政策と、最近の

米国政府による銀行ガイドラインの緩和との間には、類

似点が認められます。CRE ブローカーやコンサルタン

トとの会見を通して明らかになったことですが、多くの

地銀がいまだにローンの時価評価を回避する方策をとっ

ています。例えば、PIMCO のアナリストが複数のブロー

カーから聞いたところでは、銀行の融資担当者が、当該

銀行が資金提供した物件の評価額に関する見解を口頭だ

けで済ませるよう、わざわざブローカーに指示するよう

なケースがあるとのことです。これは、損失を認識させ

るいかなる書類も避けるためであることが窺えます。

以下の図は、市場の回復を推定することにより、日本

の CRE 危機に起因する失われた 10 年からの回復と、

1990 年代米国の回復に基づく回復シナリオを比較し

たものです。米国では 1990 年代に、FDIC が、CRE

リスクを RTC を通じ、迅速に移転するよう強制しまし

た。興味深いことに、当時の市場関係者が証言するよう

に、その時の CRE の回復でさえ、V 字型からは程遠い

ものでした。

落とし穴の回避

2007 年から 2008 年にかけて発生した信用危機は、

商業用不動産向け融資はもとより、企業融資、住宅

ローン、消費者ローンなど、広範囲にわたる問題を抱え

ていました。それゆえ CRE 市場は、景気循環上の回復

段階において典型的に見られる経済成長率の加速による

恩恵を受けることはほとんどないでしょう。それどころ

か、市場さらには広く経済全体が、ニュー・ノーマル時

代へ向かう過程で、幾多の新たな障害に晒され回復が阻

まれるでしょう。具体的に、米国 GDP の成長率は限定

的で、失業率は頑固に高止まりし、規制強化の可能性が

あり、さらには貯蓄率の長期的な上昇により消費が減少

するおそれがあります。これらのマクロ経済指標のトレンド

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PIMCO US Commercial Real Estate Project

8June 2010

オフィスおよび工業セクターの純営業収益(NOI)はGDPに遅れをとる

NO

Iの四

半期

伸び

率(%

)

四半

期G

DP

成長

率 (

%)

85-Q487-Q489-Q491-Q493-Q495-Q497-Q499-Q401-Q403-Q405-Q407-Q409-Q4

1.5

1.0

0.5

0

-0.5

-1.0

-1.5

-2.0

2.5

2.0

1.5

1.0

0.5

0

NOIの四半期伸び率 (2年のタイムラグ) NOIの四半期伸び率

四半期GDP成長率 (右軸)

出所:ブルームバーグ、プロパティ・アンド・ポートフォリオ・

リサーチ社

出所:プロパティ・アンド・ポートフォリオ・リサーチ社

全国平均年間家賃 2007年

全国平均年間家賃 2009年

変化率

アパート (ユニット当り) $16,238 $15,142 -6.8%

オフィス (スクエアフィート当り) $26.99 $24.28 -10.0%

小売業 (スクエアフィート当り) $20.02 $17.76 -11.3%

工業用 (スクエアフィート当り) $5.26 $4.63 -12.0%

が賃料、空室率、キャップレートに及ぼす影響を、把握

し理解することが、CRE 市場の回復の落とし穴を回避

するために重要になります。CRE 市場では、今後 3 年

から 5 年にわたり、多くの物件の稼働率や価格が下落

し続けるでしょう。

賃料は報告されている以上に下落している

空室率や賃料動向など、業界のファンダメンタルズに関

する市場レポートは、限定的なリース環境では誤解を生

じさせます。PIMCO が全国のリーシングブローカーや

不動産オーナーと実施したインタビューでは、賃貸市場

環境について、市場レポートが示すより遥かに冷静な見

方が示されました。

プロパティ・アンド・ポートフォリオ・リサーチ社(PPR)

よれば、以下の表に示すように、全国的に家主の希望賃

料が相当程度下落しています。これは明らかに、不動産

業界全体の稼働率の低下を意味します。ただし、これら

の指標からは、家主がテナントを惹きつけ、維持するた

めにどれだけ譲歩しているかを捉えることはできません。

実効オフィス賃料(フリーレントや一時的な家賃免除な

どの譲歩を差し引いた純額)は、家主の希望賃料より遥

かに低下しています。商業用不動産に関する情報提供会

社であるレイス社によると、マンハッタンの賃貸オフィ

ス市場における希望賃料は、2008 年秋のピーク時か

ら 2009 年末にかけて 20% 以上下落したとのことで

す。しかし、PIMCO が実施したリーシングブローカー

とのインタビューでは、同地区の実効賃料は 40% も下

落したことが窺えました。当然のことながら、家主は譲

歩について開示したがりません。なぜなら、事情を心得

たテナントに、より良い条件を交渉する動機を与えかね

ないからです。そのため、実効賃料を正確に追跡するこ

とがほとんど不可能になっています。

さらなる下落を控えて…

名目 GDP は 2009 年第 3 四半期および第 4 四半期に

プラスの成長率を記録しましたが、満期を向かえたリー

ス契約 がさらに低い水準で設定されるにつれ、不動産

からのキャッシュフローは、今後 1・2 年間は減少傾向

をたどるでしょう。このようなタイムラグはオフィスお

よび工業セクターにおいて顕著であり、これまでの経験

では、名目 GDP とキャッシュフローの最も高い相関が

2 年のタイムラグで現れています。

GDP と CRE キャッシュフローの間のタイムラグに加

えて、不動産価格の大幅調整によっても、他にも見た目

には明らかでないかたちで賃料の圧迫要因が生じ得ま

す。例えば、知識のあるテナントは、現在のオーナーが

ネガティブエクイティに陥っており不動産を好ましい

状態に維持するインセンティブがほとんど無いようなゾン

ビ物件については、以前にも増して不安を感じています。

現に、複数のリーシングブローカーは、リーシングの仕

事に就いて以来初めてテナントのほうから家主の財務状

況に関する詳細を要求してくるようになったと、話して

いました。CMBS ローンを利用した過剰なレバレッジ

を伴う物件は、特にゾンビ物件とみなされ易いです。な

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9

空室率が低下すると年間家賃の伸び率が上昇

15

10

5

0

-5

-10

-158 10 12 14 16 18 20 22

オフ

ィス

家賃

の伸

び率

(%

)

空室率 (%)

空室率2010年1Q現在

15年平均空室率

出所:プロパティ・アンド・ポートフォリオ・リサーチ社による

上位54 の大都市統計地域の家賃伸び率および空室率の平均値

ぜなら、大口顧客のために動いているブローカーは、そ

れらの物件に関する特定の財務情報へアクセスできるか

らです。こうして潜在的なテナントは積極的にそのよう

な物件を回避することができるため、不動産価格にさら

に下押し圧力がかかるでしょう。

差押えのペースが加速し、より多くの家主が損失を抱え

た物件を手放すようになれば、それらの処分物件の買い

手にとってコストベースが低下するため、望ましい収益

率を生み出すために必要な賃料も低くて済みます。この

ようなコストベースの再設定は、周辺地域の賃料に著し

い影響を与えるでしょう。すなわち、不動産価値を揺る

がす危険性に特に注意する必要があり、また近隣物件の

エクイティ状況についても詳細な知識が必要になります。

小売業向け店舗物件オーナーとのインタビューにおいて

も、家主が困難に直面し続ける現状が明らかになりまし

た。小売店舗物件のオーナーは、商売に行き詰ったテナン

トを売上歩合家賃制へと契約を変更することによって稼

働率を支えてきたかもしれませんが、しかし家賃の滞らな

いアンカーテナントも最終的には家賃の値下げを要求する

でしょう。PIMCO が会見した複数の小売店舗のオーナー

が、正常なアンカーテナントでさえ低い家賃体系の交渉を

持ちかけてきていると示唆しました。それは、これらテ

ナントが、多くの場合、自分が物件の生き残りに重要な役

割を果たしていることを自覚しているからです。

空室率の上昇は不動産価格を圧迫

不動産価格の急落を受けて、商業用不動産の開発(すな

わち新規の供給)は、今後数年にわたり限定的であろう

と予想されます。雇用情勢の長期的な変化もまた需要を

低下させ、空室の吸収を抑制するでしょう。フェニック

スなどの市場では、金融業および不動産業を原動力とす

るオフィス・スタッフの雇用は、向こう何年も低迷する

でしょう。なぜなら、これらの雇用の大部分は建設業に

付随するものだからです。こうして、オフィスを使う雇

用が長期的に変化したため、供給が限定的な環境にあっ

ても空室率は今後数年間、過去平均を上回るでしょう。

PPR によると、2010 年第 1 四半期の空室率は、全

国レベルで 20% 近くに上ったようですが、これは過

去 20 年間で最も高い水準でありまた、同期間の平均

値である 15% を大幅に上回るものです。新規の供給が

制限されても、空室率は一貫してトレンドを上回ると

PIMCO では予想しており、これが長期的にはオフィス

賃料の伸びを押さえつけてしまうでしょう。以下の図か

ら明らかなように、空室率が歴史的平均値を大幅に下回

らない限り、賃料の伸び率は大して上昇しない傾向にあ

ります。

満ち潮が全ての船を押上げるわけではない

消費や貯蓄性向の長期的な変化は、高級ホテルや高級小

売業などの、消費者支出と密接に関わる不動産に際立っ

た影響を及ぼします。PIMCO が予想する貯蓄率の長期的

な上昇に基づくと、消費者が裁量支出を減らすため、これ

らの資産クラスの回復の見込みは限定されるでしょう。

最近発表されたホテル業界の売上収入は 2009 年第 1

四半期比で上昇したにもかかわらず、多くの高級ホテル

の客室料金は今後数年間 2007 年水準を回復すること

はなく、また多くのフルサービス・ホテルは、スパやレ

ストラン・サービスなど利益率の低い業務ラインで収益

性を維持することは困難になるでしょう。ホテルの売上

収入がさらに減少する限り、それがホテル物件のキャッ

シュフローに及ぼす悪影響は、より一層強調されるで

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PIMCO US Commercial Real Estate Project

10June 2010

* 推定値

出所:SEC

2008年 (単位:ドル)

2009年 前年比変化率

前年比変化率

サックス

ティファニー*

ノードストーム

メイシー

1平方フィート当たり小売売上高

-14.4%

-9.6%

-5.2%

-5.0%$152

$368

$2,759

$351-6.6%

-10.7%

-10.8%

-5.3%$160

$388

$3,051

$410

しょう。なぜなら、営業費用に占める固定費の割合が上

昇するからです。PIMCO が会見したフルサービス・ホ

テル経営者の多くが、固定費項目で削減できるものは

2008 年から 2009 年にかけてほとんど全て実行した

うえ、保険料や固定資産税など特定の費用はこれ以上削

減の余地がないことを確認しています。

小売店舗の一部もまた、ニュー・ノーマルの環境におい

て苦戦するかもしれません。大型住宅開発を見込んで建

設された多くの店舗物件は、単に業務を停止するしかな

いでしょう。なぜなら、持ち家率の継続的な低下は、多

くの住宅開発計画が向こう何年もの間再開されないこと

を意味するからです。

さらに高級小売店舗も、このような環境で苦戦するかも

しれません。小売業の賃料体系は多くの場合、固定家賃

と、店の売上高の一定割合に基づく家賃(最低保証超過

部分)を含む構造をとっています。この賃料と店の売上

高との直接的な連動が、高級小売店舗物件が、短期的な

売上高減少および長期的な裁量支出の減少にいかに影響

を受けるかを明らかにしています。以下の表は、高級小

売店が 2009 年に直面した困難を物語っています。

規制強化は今ひとつのリスク

規制環境の不確実性の高まりもまた、CRE 価格の回復

を阻むかもしれません。最近提案された、制度や会計規

則に関する変更(例えば、証券化された資産の簿外処理

に影響するFAS166および167)は、伝統的なコンジッ

ト・レンダーの再来を後退させるか、少なくともこれを

制限してしまう可能性があります。規制変更案は現在の

ところ、CMBS の発行体のリスク保有要件について明

らかな対応をしておらず、また将来の規制圧力に関する

不確実性が新たな証券化の経済性に悪影響を及ぼすかも

しれません。これらの要点について明らかにされない限

り、証券化活動が低迷し CRE 市場にとって重要な資金

源が絶たれてしまうでしょう。 

投資機会の発見

レバレッジの解消サイクルが進むにつれ、資本構造全体

にわたり CRE の投資機会にアクセスできる柔軟性を備

え、また長期的に流動性を提供できるような投資プラッ

トフォームにとって、魅力的な機会が現れるでしょう。

ただし、回復局面のスピードは緩慢であるため、資本構

造と資産プロファイル両面において相対価値のダイナミ

クスを理解できる、忍耐力のある投資家にとって有利で

しょう。

終わりに、これらの投資機会のいくつかを以下に考察し

てみましょう。

FDIC 関連の売却処分:地方銀行およびコミュニティ銀

行は、国全体の経済と地域経済の両方に特に敏感であ

り、住宅市場や商業用不動産市場の不況による深刻な影

響を受けています。2009 年には 140 の銀行が破綻し、

2010 年初頭から 5 月までにはさらに 78 行が破綻し

ており、その規模は資産にして 2,400 億ドルに上りま

した。

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経営難に陥った銀行は CRE ローン・ポートフォリオで

損失を抱えており、FDIC の支援を得た取引を通して、

あるいは管財人の管理下に置かれる前に任意に、最後は

これらのリスクをバランスシートから移転せざるを得な

いでしょう。歴史的に、リスク移転取引が集中して実行

される環境は、投資家にディストレスト・ローン・ポー

トフォリオを取得する好機を提供しています。また最近、

FDIC は、銀行の CRE ローン・ポートフォリオの証券

化を考慮する姿勢を示しています。

銀行によるローンの売却は、格安でローンの集合を取得

できるまたとない機会を提供するかもしれませんが、こ

れらの投資機会は複雑であることに注意が必要です。短

期間のうちに取引を完了させなければならないことや、

背後にある担保資産が機関所有のものでないことから、

投資家は、大きなローンの集合を効率的に引受けて管理

するための経験とインフラが必要になります。

大型 CRE ローンの再構築:2006 年から 2007 年に

かけて行なわれたプライベート・エクイティ主導の大型

取引のほとんどは、ちょうど今解消され始めたところで

す。大型の CRE ローンが満期を向かえるにつれ、債権

者であるシンジケートは、退出または債務再構築の道を

模索するでしょう。ローン再構築を含む不動産への資本

注入(新たな投資家が、減額されたシニアローンの元本

残高および優先株主の地位と引き換えに資本を提供)は、

投資家に低いコストベースと収益のアップサイドにあず

かる機会を提供します。ただし、この種の再構築は複雑

な取引であり、投資家は大型の取引に加わるための大量

の資金が必要であるばかりか、貸し手と借り手の双方と

関係構築が必要になります。

CMBS の投資機会:劣後 CMBS トランシュの伝統的な

買い手の多くは、モーゲージ REIT やスペシャルサービ

サー・アフィリエイトも含め、姿を消しています。これ

により新たな投資家にとって、劣後債権を格安で取得す

る機会や、CMBS 証券化ローンの行方を左右する可能

性も得られます。また、異なる債券クラスの間で常にス

プレッドが変動するため、様々な債券クラスと CMBS

取引の間の相対的リスクを理解している投資家にとって

は、アービトラージの機会が得られます。 

相対的価値を捉える機会:魅力的な投資機会がどこにあ

るかを判断する際、資金の流入先だけでは指標として不

十分です。先述したとおり、発行市場における多くの

オーナーが、自分たちの市場に流入する海外資金の多さ

に当惑しています。これを念頭に、新たな投資家は、こ

れらの市場におけるトロフィー物件の価格が急上昇し続

けることを期待すべきではありません。むしろ、小さな

市場で生鮮食品テナントを核にした小売店舗物件のオー

ナーは、テナント・プロファイルが健全で地元の人口構

成も有利であるにもかかわらず、現在の資金調達の困難

さに不満を述べています。資金が CRE に戻るにつれ、

トロフィー物件と小さな市場の流動性の低い優良物件の

間に現時点で存在するイールド・スプレッド(キャップ

レートに反映されるように)は、ゆくゆく縮小すると

PIMCO では予想しています。

前例のない激しい変化を遂げつつある市場に関していつ

もいえることですが、慎重で規律ある投資家にとって、

魅力的な投資機会が生まれるでしょう。取引件数が少な

い環境では測定が難しくなりますが、商業用不動産価格

は、物件そのもののファンダメンタルズに対して、明ら

かにより合理的な水準を回復しているといえます。ただ

し、レバレッジ解消サイクルや構造的な逆風から、市場

の回復は緩慢かつ局地的なボラティリティを伴うことが

予想されます。資産のファンダメンタルズおよびマクロ

経済リスクの両方を評価する際、正しい投資意思決定を

導くためには、厳しく規律を保つことが重要になるで

しょう。

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全ての投資にはリスクが伴い、価値は下落する場合があります。債券市場への投資は市場、金利、発行者、信用、インフレなどに関するリスクを伴うことがあります。モー

ゲージ担保証券や資産担保証券は金利水準の変化に対する感応度が高い場合があり、期限前償還リスクを伴います。また、一般的には政府または民間保証機関による何

らかの保証が付されていますが、民間保証機関が債務を履行する保証はありません。REITは、管理会社の業績不振、不利な税法改正、収益非課税パススルー対象除外な

どによりリスクを負う可能性があります。不動産及びポートフォリオの不動産への投資の価値は損害または収用、地域または経済前面による状況の変化、需要と供給利

率、固定資産税の税率、家賃に対する規制制限、都市計画法また営業経費などにより変動します不良貸出債権と倒産企業への投資は、投機的かつ返済義務を履行できな

い高い不確実性含みます。

運用を行う資産の評価額は、組入有価証券等の価格、金融市場の相場や金利等の変動、及び組入有価証券の発行体の財務状況による信用力等の影響を受けて変動しま

す。また、外貨建資産に投資する場合は為替変動による影響も受けます。運用によって生じた損益は、全て投資家の皆様に帰属します。したがって投資元本や一定の運用

成果が保証されているものではなく、損失をこうむることがあります。弊社が行う金融商品取引業に係る手数料または報酬は、締結される契約の種類や契約資産額によ

り異なるため、当資料には具体的な金額・計算方法は記載しておりませんのでご了承ください。

本資料の一部、もしくは全部を書面による許可なくして転載、引用することを禁じます。本資料の著作権はPIMCOに帰属します。2010年

(注)PIMCOはパシフィック・インベストメント・マネジメント・カンパニー・エルエルシーを意味し、その関係会社を含むグループ総称として用いられることがあります。

Commercial Real Estate TeamPIMCO

調査チーム

John Murray、商業不動産ポートフォリオ・マネージャーおよびPIMCO

CRE/CMBLS チーム:

Dan Ivascyn

Scott Simon

Josh Anderson

John Murray

Christian Stracke

Jon Yip

Kent Smith

Stefanie Evans

Russell Gannaway

Jesse Brettingen

Bryan Tsu

Sean McCarthy

Josh Olazabal

Jennifer Bridwell

Carrie Peterson

Ryan Murphy

Joyce Chang