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Page 1: 臨床PPK/PDと 統計解析 ―ブリッジング試験とNONMEM―

臨床PPK/PDと 統計解析

―ブリッジング試験 とNONMEM―

朝野 芳郎

Statistical Analyses in Clinical PPK/PD Studies

— Bridging Studies using NONMEM—

Yoshiro TOMONO

Clinical Pharmacology Biometrics, Biometrics, Pfizer Pharmaceuticals Inc., Tokyo

Summary: The present paper reports a new approach to building a population pharmacokinetic and pharmacodynamic model (PPK/PD) and interpreting clinical data.<BR>

In design of PK studies for the bridging strategy, a simple formula which gives the 90 per cent confidence interval to prove no ethnic PK difference is proposed, which derives the approximate estimation method for calculation of power and sample size for the parallel group design.<BR>

In clinical studies, it is important to apply a technique to analyze the linking model with the drug concentration (pharmacokinetics, PK) and the efficacy (pharmacodynamics, PD) which are related closely. Effect compartment model and Jusko-type indirect PD model examples are shown using PPK/PD model analyzed with NONMEM.<BR>

Recently the validation method of NONMEM is concerned. The bootstrap approach has been to use to assess the stability and predictive performance of a pharmacokinetic model developed using NONMEM.

&lsquo;Guidance for Industry: Population Pharmacokinetics&rsquo; suggested the use of the bootstrap procedure as a satisfactory method for the validation and checking of population models in the drug approval process. Although validation methods are still being evaluated and may require further testing.<BR>

The PPK/PD approaches are hopeful about the future in the field of drug development and drug evaluation.

Key words: Population pharmacokinetics, Pharmacodynamics, NONMEM, Effect compartment, In

direct model, Bridging study, Interoccasion variability, Model varidation, Bootstrapping

ファイザー製薬(株)バ イオ メ トリクス部ク リニカルファーマ コロジー ・バイオメ トリクス部

〒163-0461東 京都 新宿区西新宿2-1-1新 宿三井 ビル内 私書箱226号

ともの  よしろう

朝野芳郎:1951年 生まれ.1975年 東京大学薬学部卒業後,エーザイ㈱に入社,生物薬剤研究室,臨床薬理センタ

ー,データマネジメン ト部等を経て1999年 ファイザー製薬㈱ に転職,現在に至る.薬物動態、臨床薬理及び臨床統

計分野を中心に仕事をやってきました.最近はNONMEMもSASも ライセンスがあれば,簡単に10万 円のパソコン

で動かせますので,考えたことがす ぐ出来る環境が整い,話 しに具体性が出てきて面白い時代になった と思います.

現在はNONMEMの バリデーショソと効率的なサンプリング戦略を中心に研究を行っています。

は じ め に

 「外国臨床データを受け入れる際に考慮すべき民族的

要因についての指針」1)が1998年8月 に公表され,臨床

における薬物動態,有効性および安全性に関するブリッ

ジングの考え方が示された.さらに,現在 「臨床薬物動

態ガイダンス」および 「薬物相互作用ガイダンス」が作

成 され て い る。 この よ うな状 況 の中 で 臨 床 薬物 動 態 に関

す る解 析 技 術 は 急 速 に 変貌 を遂 げて い る. 特 に薬 物 動 態

(pha㎜acokinetics;PK)と 薬 効(pharmacodymanics;

PD)が 密 接 に 関連 して い る こ とが明 らか とな り, そ の結

果 ,薬 物 療 法 の 適 正 化 ,個 別化 を行 う薬 物 血 中 濃 度 モ ニ

タ リソ グ(TDM)が 医療 の 場 で 日常 的 に 行 わ れ る よ うに

な った .

Page 2: 臨床PPK/PDと 統計解析 ―ブリッジング試験とNONMEM―

一方,薬物治療において,治療 を受ける患者集団の

PK情 報を知 ることは,そのPD(含 安全性)を より正確

に予測するための必須の事項である.患者の少数回のま

ばらな採血データを用いてPK解 析を行う母集団薬物動

態解析法(PopulationPK;PPK)が 注 目されてい る.

PPKは 高齢者,小児,肝 ・腎障害者等の特殊な集団,

相互作用および民族差を臨床の場で評価できる.さらに,

PKとPDを 関連させて解析するPK/PD解 析にも適用

できる.PDを モデル化 して評価する方法をブリッジン

グ試験に用いることにより民族差を評価することも可能

である.

そこで,ブリッジング試験の前提 となるPKに おける

民族差の検討方法についてその手法を紹介する.さら

に,臨床におけるPPKIPD試 験の解析結果のバ リデー

シ ョソに関する手法をFDAのPPKガ イダンス2)をも

とに紹介する.

ブ リッジ ング試験 におけ るPK:の 役割

ブリッジングデータパッケージとして必須項目のPK

について述べる.PK試 験は内因性要因に依存す るの

で,必ず しも日本で実施する必要はない.海外の施設に

おいて, 日本人 と外国人を同時に同一プロ トコールで

PK試 験を実施する方法が統計的にはよい と考えられ

る.さらに血中薬物濃度測定のための微量定量分析はわ

ずかな条件等の違いで変動を生 じることもあるので,実

施条件 と実施時期を一致させることは純粋に民族差要因

を評価できる.

1.PK試 験デザイン

試験デザインとしては,同時比較試験を実施する場合

は基本的には推定臨床用量以上の単回投与試験 となるで

あろう.線形 とは投与量が2倍 になったときに血中薬物

濃度も2倍 になる場合(ク リアランスが一定)を いうので

あるから,図1右 に示すように用量 との回帰式 としては

原点を通 る直線でなくてはならない.それを確認するた

めには海外に十分な情報がある場合は2用 量あれば証

明可能と考えられる.一方,反復投与試験の実施につい

ては,目的がPKパ ラメータの比較だけならば得られる

情報量は実施の手間 と投資の割には少ない.線形性が確

認されており,海外の試験において単回からの予測が十

分可能な らPK試 験 としての必要性はない と考 えられ

る.ところで,線形性を示すためには統計的には,直線

を当てはめて切片が0で あることを示す方法や,パワ

ー曲線を当てはめてパワーが1で あることを示す方法

な どが提案されている3)が,一般には原点を通る直線を

測定値に当てはめ視覚的に検討すればよいと考える.こ

のためには,2点 以上の用量依存性のPKパ ラメー タ

(、4ひC,Cm、x等)を最小二乗法で当てはめた図を示すの

が 最 も効 果 的 で あ る 。

X軸 に 用 量@用 量), ッ軸 にPKパ ラ メ ー タを と り,

回 帰 直 線 を ッ=礁 と して , 各 測 定 点 の 重 み を そ れ ぞ れ

ωゴ(仁1,…,勿 とす る . こ こ で い う重 み は , 通 常 分散 の

逆 数 を と る の で , 標 準 偏 差(")の2乗 の 逆 数(砺=1/

SDI)と な る . 回 帰 す べ き 関 数 は , 切 片 を 持 た な い1次

式 で算 出 す べ きパ ラ メ ー タ を αす る . 以 下 に そ の 手 法

を 示 す .

ツ=ακ(1)

この 理 論 直 線 に観 測値(こ こで はPKパ ラメ ー タ の平 均

値)を 当て は め る . そ の た め に は 理 論 値(ツ)と 実 測 値(の

の 差 の2乗 に 重 み を 掛 け た重 み 付 き残 差 の2乗 和(SS)

を最 小 化 す れ ば よい .

  ね

∬=Σ ω・(夕「 ア∂2=Σ ω、(ακ「 夕、)2-min(2)ガ=1ゴ=1

そ こで , パ ラ メ ー タ αで 偏 微 分 して0と 置 くこ とで 解

は 求 ま る.

Σ 郷 茄トユα=η(3)

Σ ω㌶f=1

この ようにして求めたパ ラメータαを用いてエクセ

ル⑭等で作図 して線形関係を視覚的に調べ線形性の検討

を行う.なお,パワー曲線で回帰する場合は,重み付 き

非線形最小二乗法 となるので,エクセル⑭のソルバー等

を用いた解析 となる.さらに,クロスオーバー法や2

群に分けて交互に増量する方法など同一人物で複数回の

測定がある場合には,個体内 ・個体間変動を考慮 した混

合効果モデル解析 を行 う必要がある. これは後述の

NONMEM4・5)で 対応できる.

一方,半減期が適切に長い薬剤においては,推定臨床

用量以上での反復投与試験を工夫することにより線形性

の証明は累積係数(1~α,)を利用 した実測値 との比較や重

ね合わせ法等によるシミュレーショソとの一致性を評価

す る ことに よ り可能 と考 え られる.平均血 中濃度

(Cρ㎜。)の比較は,単回投与の・4ひC(・4σCろ_。。)は反復

投与 に おけ る定常 状態 での 投与 間隔(τ)での・4㏄

(・4ひCぎ£,)に等 しいので注1)以下のような関係を検討す

ることで証明できる6).

の麗側Aひcぎ £。/τ4σcぎΣ, 五σCl...亀 =臨=AσCl. ノ,=五ひCl.,=且ひCl.,(4)

すなわち,単回投与においてその係数が予測でき,実測

値 と比較することにより線形性の評価が可能である.

2. 日本人および外国人におけるPK:成 績の比較

得 られたPK成 績における比較は,記述統計 と統計学

的な検証を用いてPKの 類似性について明らかにする.

評価項 目は,薬物の体内における速度と量の指標 として

Page 3: 臨床PPK/PDと 統計解析 ―ブリッジング試験とNONMEM―

生物学的同等性試験で も用い られているCm。xお よび

、4ひCである.また,これ らのパラメータは対数変換 し

て統計処理するのが標準的である.対数変換 した.AひC

およびCm。xの 差は元に戻すと比 となる.さらに逆変換

した信頼区間を求めて生物学的同等性の基準を流用 し,

90%信 頼区間が80%か ら125%(1/0。8=1.25)の 間に

あると民族差は無いことが主張できると考えられる.し

か し,体重な どの違いで2,3割 異なるケースもあるよ

うである7).この場合は体重で補正 して検討する必要が

ある.Cm旺 や且σCは 体重(BW)や 投与量(Dose)で 補

正す る と,Cm謎 ・BW/Doseや 且ひC・BW/Doseと な

る.いずれにして も,PK評 価で民族差がないことが証

明された場合は次のブリッジング試験に進んでも問題は

ないが,差が無いことが証明できなかった り,明確な差

が認め られればブ リッジング試験の進め方に工夫がい

る.たとえば,より多 くのPK情 報を得るためにブリッ

ジング試験において採血を行いPPKに より患者におけ

るPKを 検討することや,血中濃度の差が認め られる

場合はPKとPDの 関係を用いて投与量の調節等を考慮

すべきである.

図1直 線回帰 におけ る非線形動態(左)と 線形動態(右)を 示す例

3. 例 数 設 計

日本 人 と外 国 人 の2群 比 較 に お け る例 数 設 計 は , た

とえば 両 群 の 人 数 を等 しい と仮 定 し, 両群 の平 均 値 の 比

を θ, ば らつ きは 等 しい と仮 定 す る. 一 方 , 対 数(自 然)

変 換 時 のSDと , 逆 変 換 時 のcyと は 以 下 の 関 係 が あ

る8).

cy=exp(8Z)2)一1(5)

ま た ,式(5)よ り以 下 の 関係 が導 け る .

SZ)2=1n(1十cy2)応Cy2(6)

した が っ て対 数 変 換 時 のSOと ,逆 変 換 時 のCVは 値 が

小 さ い場 合 は ほ ぼ 等 し くな る. しか し, これ らの 値 が 大

き くな る と上 記 の 式 を 用 い てSDの 修 正 を行 い例 数 設 計

を実 行 す る。

平 均 値 の 比(ほ とん どの 場 合 は1と 仮 定 す る)とcy

が わ かれ ば 例 数 設 計 は 可能 とな る. そ こで ,逆 変 換 後 の

信 頼 区 間 が80%か ら125%に は い る た め の1群 の 症 例

数Nを 求 め る場 合 , 以下 の式 で近 似 で きる .

(i)θ=1を 仮 定 す る とき(両 群 の 平 均 値 が 等 しい):

N>_[t(ォ,2N-2)十t(/i/2,2N-2)]Z

×[⑫ ・sz)/1n1.25]2(7)

(ll)1く θ〈1.25を 仮 定 す る と き:

N>_[t(ォ,2N-2)十t(/3,2N-2)]2

・[而 一・SD/(1n1.25-1・ θ)]・(8)

㈹0.8<θ 〈1を 仮定 す る と き:

ハr≧['(α,21>一2)十'(β ,2/V-2)]2

・[万 ・翫)/(1・ θ一1・0 .8)]・(9)

α=0.1,β=0.4と して1>の 最 小値 を電 卓 と ≠分 布表 か ら

試 行 錯 誤 的 に 求 め る と, 正 確 な 計 算 値 と1例 程 度 の 誤

差 で結 果 が得 られ るの で 実用 上 は問 題 ない . 表1に 未 変

換(additivemode1)と 対 数 変 換(multiplicativemode1)の

場 合 で , 平 均 値 が 等 しい と き と10%異 な った ときの 比

較 を示 す .

PK/P1)モ デルを用いた臨床試験解析

血 中 薬物 濃 度 と薬 効 は 密接 な 関係 に あ る . しか し,血

中 濃度 が直 接 関 係 す るケ ー ス よ り も血 中 濃 度 よ りや や遅

れ て 間 接 的 に 効 果 が発 現 す る こ とが 多 い . 効 果Eは ,

そ の効 果 を発 揮 す る コンパ ー トメ ソ トを 薬効 コ ンパ ー ト

メ ン トと定 義 す る と以下 の よ う に表 さ れ る10).

E(の=φ(Cθ)=φ(レ*γ)(10)

こ こで ,C6は 薬 効 コ ン パ ー トメ ン トの 濃 度 , φは変 換

関 数 で 薬 効 コ ンパ ー トメ ン トの濃 度 と効 果Eの 関 係 で あ

る. ま た , レは 血 中 濃 度 か ら薬 効 コ ンパ ー トメソ トの濃

度 へ の 伝 達 関 数 で ,7は 血 中 濃 度 関 数 ,*は コ ン ボ リ ュ

ー シ ョン(畳 み 込 み)を 示 す. こ こでC6は アと レの コ ン

ボ リ ュー シ ョンで 次式 を用 い る .

・・(')一(ゲ ・)一∫:醐 ・(・)・・(・ ・)

Page 4: 臨床PPK/PDと 統計解析 ―ブリッジング試験とNONMEM―

また,薬効は投与量あるいは血中濃度と一般には線形

関係にはならず,ばらつきも大きいため解析を行うには

測定点がより多 く必要である.さらに,低用量では効果

は認められず,高用量では効果の飽和が観察される場合

が多い.そのような場合,個別解析ではPD関 数のパラ

メータを求めることはできない.この非線形現象の解析

には,集団のデータを用いて非線形混合効果モデルプロ

グラムNONMEM(NONIinearMixedE飴ctModelの

略)死5)は有用な道具である.こ こでは薬効モ デル と

PPK/PD解 析について述べる.

1. 抗不整脈薬剤のPPKIPDモ デル解析

血中薬物濃度 と薬効を組み合わせたPK/PDモ デル解

析については,一般に薬物の作用点が血中では無いこと

が多 く,現象 として血中濃度を横軸に薬効を縦軸にプロ

ッ トすると,「左回 りの履歴特性」 といわれる反時計回

りの曲線を描 く.Sheinerら11-13)は この現象を解析する

ため図2に 示す ような薬効 コンパー トメソ ト(ef驚ct

compartment)を 定義 し,セン トラルコンパー トメン ト

と1次 速度で結んだモデルを提案 した.このモデルを

用いて解析 した例を紹介する.

加藤 ら14)により報告された,抗不整脈剤を心室性期

外収縮のある患老に10分 間の静脈内定速投与を行った

ときの血中濃度 と効果(期 外収縮の停止)についてNON-

MEMを 用いてPPKIPD解 析を行った例である.血中

薬物濃度は2コ ソパー トメン トモデルで表すことがで

き,効果は1分 ごとに測定 した期外収縮の投与前値に

対する減少率についてシグモイ ドEm齪 モデルを用いて

解析 した.以下に解析に用いた式を示す.

dCe

7=々 ・・((レCの(12)

Emax・ α γE=Eo一(13)C

6乙o十C〆

こ こ で,C6は 薬 効 コ ンパ ー トメ ン トにお け る薬物 濃度 ,

Cρ は セ ソ トラル コ ソ パ ー トメ ソ トに お け る血 中 濃 度 ,

舵oは 薬 効 コ ンパ ー トメ ン トか らの 消 失 速 度 を表 し, 薬

効 の平 衡 速 度 定 数(equilibrationrateconstant)と な る .

ま たEは 薬 効 を ,Ebは 薬 剤 の効 果 の な い 状 態 で の 基 準

値 ,Em。xは 効 果 の 最 大 を示 す .Cθ50は50%の 効 果 を

示 す とき の薬 効 コ ンパ ー トメ ン トの濃 度 を ,γは シ グモ

イ ド係 数 を 表 す . 図3にposthoc法(NONMEMで 行

うベ イ ジア ン 法)に よ り得 られ た 当 て はめ の 例 を示 す .

表1エ クセ ル ⑱を用 いて'分 布 か ら近 似 的 に 計算 した値(Calc.N)と 正 確 に 計算 した場 合(nQueryAdvisor⑧Vers三 〇n3.09))との 比 較

2. 内因性物質のPPKIPDモ デル解析

また,薬剤による内因性物質の変動を解析することも

できる.生体内に恒常的に存在する物質(た とえばホル

モン,ビタミン,尿酸,血糖,脂質,血球等)の 薬物に

よる変化もPPK/PDモ デルで解析が可能である.内因

性物質やメディエータの生成 ・分解を,促進あるいは阻

害することによって作用する薬物の効果を動態学的に説

Page 5: 臨床PPK/PDと 統計解析 ―ブリッジング試験とNONMEM―

明する間接反応モデルをJuskoら15)は 提案 した(図4).

ここに示す ものは,薬物による血中内因性物質の低下作

用の解析例16)である.薬物が内因性物質(R)の クリアラ

ンスを増加させるモデル(式14)に よりうま く説明され

た.健康成人に,単回投与および反復投与のデータを用

いて解析 した.図5に 当てはめの例を示す.

響 一砺 一・曜(Emax・C♪1十EC50+qク)覗(・4)

その他,アルツハイマー病の病態進行 と薬剤効果17)

や途中 で脱落 の多 い鎮痛効 果 のNONMEMに よる

PPK/PD解 析の報告18)があり,本格的な臨床試験評価

への応用が盛んである.

図2薬 効 コンパー トメン トを用 いたPK/PDモ デル

図3抗 不整脈剤 のPPKIPD解 析例

FI)APPKガ イダ ンスにおける統計解析

PPK/PDの 解析に関 して,得られた結果の信頼性は

主 としてデータの質およびモデル構築過程の2つ の要

因に依存 している. とりわけモデル構築過程に関 して

は,構造モデルの仮定,誤差モデルの仮定,固定および

変量効果の決定に対する分布の仮定と多 くの仮定が必要

になるため,モデルの検証(modelvalidation)が 必要 と

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なる.ICHの 合意に基づ く 「臨床試験のための統計的

原則」19)においてもバイアスの影響を調べ,治験の結果

と主要な結論の安定性を評価する必要があることが記載

されている.このことは当然PPK解 析などを行った場

合にも適用される. しかしながら,PPKに おける安定

性の評価方法は現在のところ確立されてはいない.最近

発表された米国FDAのPPKガ イダンス2)には,母集

団薬物動態試験の実施法 ・解析法や様々なmodelvalida-

tionの 方法が示 してある.そこでガイダンスにある統計

関連のポイン トを紹介する.

図4Jusko-typeindirectPDmode1

1. 時期間効果

PPK/PDの 解析においては,個体間変動(Ω)と 個体

内変動(Σ)を分離 して求めることができる.さらに個体

内変動は時期間(interoccasion)変 動(π)と,測定誤差や

モデル誤差の2つ よりなる.そのため,個体内におい

て時期を変えた2時 点以上のサンプ リングが必要であ

る20).母集団薬物動態試験が単一の時期における各個

人の試験か らの観測値のみよりなる場合には,時期間変

動は個体間変動の中に取 り込まれ,個体内変動の項には

あらわれない.この ことは,フィー ドバ ック(た とえば

TDM, あるいは単純に観察された薬効に応 じて投与量

を調節する)を用いれば各個人の薬物治療を治療域内に

コン トロールする場合に不都合を生 じる.さらにまた,

(過大に評価 した)個体問変動を説明する個体間共変量の

検討においても不正確になる可能性がある.

図5内 因性物 質のPPKIPD解 析例

2.Mode1Validationの タイプ

FDAのPPKガ イダンスにおけるモデルの検証に関

しては以下のような手法の記載がある.検証には2種 類

あり,外部検証と内部検証である.外部データによる検

証は厳密であるが,データを全て解析結果に反映するこ

とができない.一方,内部データによる検証は全てのデ

ータを利用できる.その方法 としてはデータの分割,相

互検証およびブー トス トラップ法などがある.

データの分割(datasplitting)は ,モデルを検証する新

しい標本が得られない場合有効な方法である.この方法

の欠点は線形回帰分析の分野でモデルの予測精度は標本

サイズの関数となることである.予測精度を最大にする

ためにはモデルの開発 と評価のために全データを使用す

ることが必要 となり,予測のための洗練されたモデルを

得るためにインデックス集合 と検証集合を結合すると最

終モデルは妥当でない可能性がある.したがって3分

の2の ランダムに選んだデータをモデル開発用,その

他を検証用に使用するのがよい.

相互検証(crossvalidation)は データ分割を反復する方

法である.モデル開発データはデータ分割よりはるかに

大 きく(通常9/10), 単一のデータ分割方法によらない

ため変動性が減少する.検証過程全体を繰 り返す と精度

Page 7: 臨床PPK/PDと 統計解析 ―ブリッジング試験とNONMEM―

(accuracy)に 対 す る推 定 が 大 き く変動 す る 欠点 があ る.

ブ ー トス トラ ップ 法(bootstrapping)は モ デ ル 開 発 に

デ ー タセ ッ ト全 体 を使 う利 点 を持 つ .原 デ ー タの分 布 関

数 と して 経 験 的 分布 を使 用 す る .デ ー タ生 成 は シ ミ ュ レ

ー シ ョソ に よ って 行 わ れ る . この 方 法 は モ デ ル 開発 に全

デ ー タ を利 用 で き る利 点 が あ る .

3.ModelValidatio皿 の 方 法

PPKモ デ ル の検 証 の 問 題 は現 在 ま での と こ ろ未 解 決

で あ る . した が って デ ー タ解 析 老 は , 選 択 す る方法 を正

当化 す る必 要 が あ る.検 証 す る方 法 と して は濃 度 の予 測

誤 差 ,予 測 誤 差 の標 準化 ,共 変 量 に対 す る残 差 プ ロ ッ ト

お よびパ ラ メー タの検 証 等 があ る. これ らの方 法 を紹 介

す る.

濃 度 の予 測 誤 差(predictionerrorsonconcentrations)

は ,濃 度 の実 測 値 とモ デ ル に よ り予 測 され る値 との 差 で

あ る .平 均 予 測 誤 差 が 正確 さ(accuracy)の 尺 度 と して ,

絶 対 予 測 誤 差(あ る い は 平 均 二 乗 誤 差 の 平 方 根)は 精 度

(precision)の 尺度 と して使 用 さ れ る .1人 の被 験 者 に対

し1つ の 標 本 の場 合 に使 用 で き るが ,2点 以上 の観 測値

が 存 在 す る 場 合 に は 個 人 デ ー タ に お け る 内 部 相 関21)が

考 慮 され て い な い た め に こ の方 法 で は 不 十 分 で あ る注2).

予 測 誤 差 の 標 準 化(standardizedpredictionerrors)は

個 人 内の 変 動 性 お よび相 関 を考 慮 す る. 平 均標 準化 予 測

誤 差 と分 散 が計 算 さ れ ,z検 定 に よ り平 均 が0か ら有 意

に異 な っ て い るか , 標 準 偏 差 が1に 近 いか を決 定 す る.

標 準 化 予 測誤 差 の標 準 偏 差 につ いて の 信 頼 区 間 を構 成 す

る こ とが で き る.標 準 化 予 測 誤 差 の 平 均 に つ い て の検 定

は, 誤 って母 集 団パ ラ メー タ値 の 推 定 に誤 差 が な い と仮

定 して い る. した が っ て この 方 法 は 勧 め られ な い , と記

載 され て い る.

一 方, 共変 量 に対 す る残 差 プ ロ ッ ト(plottigresiduals

againstcovariates)は , 最 終 モ デ ル を 固定 化 して検 証 集

合 で 予 測 した ときの 残 差 を 共 変 量 に対 して単 純 に プ ロ ッ

トした と き,共 変 量 や 部 分 母 集 団 か ら見 た モ デ ルの 臨 床

的 有 効 性 に関 す る情 報 を もた らす . パ ラ メ ー タの 検 証

は , モ デ ルパ ラ メー タ値 で の 検証 を行 う こ とに よ って 血

中濃 度 の予 測 誤 差 の 問 題 を 回避 で きる .モ デル パ ラ メー

タ値 は(共 変 量 の あ る な しに関 係 な く)検 証 集 合 か ら予 測

され , この予 測 に関 す る偏 りと精 度 が計 算 され る.

以上 述 べた 方 法 は , 母 集 団 モ デ ル の予 測 性 能 を検 討 す

るた め の 有 益 な ア プ ロ ー チ で あ る .現 在 の 結 論 と して

は , テ ス トデー タセ ッ トが な い と きは ブー トス トラ ップ

法 を用 い るべ きで あ ろ う.最 終 の母 集 団モ デル を少 な く

と も200ブ ー トス トラ ップ に よ り繰 り返 して 合 わ せ る

こ とに よ って 得 られ た 平均 パ ラ メ ー タ値 を, ブ ー トス ト

ラ ップ に よ る繰 り返 しを 行 わ な い で得 られ た 最 終 的 な母

集 団 パ ラ メー タ の 推 定 値 と比 較 す る こ と に よ り評 価 す

る22).そ して ,事 後 的 予 測 の チ ェ ッ ク も有用 で あ ろ う .

お わ り に

薬物の効果や安全性の統計的評価は非常に困難な側面

がある.なぜな らば,得られる情報は非常に多大である

が しばしば不完全なものである.このため,患者と薬物

の相互の関係を合理的に推測して適切に組み込むモデル

が必要になる23>.さらには この相互の関係に存在す る

未知の特徴をも探索 し,検証できなければならない.先

見的知識を組み込むためには柔軟な方法が必要である.

PPK/PDを 用いた解析は柔軟な仮説に基づ く組み立て

が可能であ り,薬の開発,ブリッジング評価および合理

的な治療のために重要な観測値を解釈するための強力か

つ有益な方法である.

確実に臨床試験で検証するためには,薬剤の効果を理

論的なモデルをベースに した洗練された解析により,多

面的に臨床評価を行うべきである.たとえば,臨床初期

のデータから次のステップの臨床試験を予測するPhar-

sight社(http://www.pharsight,com)のCATD(Com-

puterAssistedTrialDesign)はPPK/PDを 用いたッー

ルで,実際の検証試験の例数設計など実用化の段階まで

到達 している.新 しい手法を実際の臨床試験に適応しよ

うとする創造的な発想が今後は重要であろう.

文 献

1)厚 生 省薬務局審査課長:外 国臨床 データを受け入れる際に

考慮す べ き民族的 要因 についての指針 .医薬審 第672号

(1998).

2) FDA: Guidance for Industry, Population Pharmacokinetics. February 1999.

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注1)今 ,線形 で推移 す る単回投与時 の血 中濃度(の)を π個 の

exponentialsで 表現 できた とす る.すなわち,        カ

   qρ=Σqexp(一 λ〆)                  (A-1)        ガコユ

そ うする とA㏄ は以下のようになる.

・㏄ 一∫二。の ・・一∫二。象qex・(一 ・・')・'

     一自q∫ 二。exp・一綱

    一却[子 磯甲(一司 二。

    一碧q圭一戴          (A-2)等間隔 τで反復投与 している場合 ,初 回投与後の ≠時間の血中

濃度は以下の式で示 される.

      π   1-exp(一 .1,mt)

    の 餌=Σq・ .,xp(一 、、τ)exp(一 λ・')  (A 3)

定 常 状 態 で は(〃3→OQ)分 子 は1と な るの で ,

げ 一碧G、讐 諺1)    (A-4)

とな る.そ こで, この ときの投与 間隔 τにおけ るAσCを 求 め

る.

・喋 一∫≧。微 一∫謡q1端 モ杢{1)・'

      一書q、.議 一細)∫沖(一 λメ)・'

      一自q、.磁 一取)[一1  exp(一λメz;)]』     一象q

、一鼠 嗣{1一 警 一細)}              πq1-exp(一 λfτ)  π q

      =翫 ・一,xp(.・、τ);駄     (A ̀)とな り,理論的には単回投与の 、4㏄ 式(A-2)と 等 しくなる.

注2)NONMEMに おけ る測定値 間の相 関を考慮 したSDの 算

出法21)について.

  被験 者ゴの づ番 目の観測値(C)はNONMEMで は以下の よ う

に書 ける.                

   c"=ん(θ)+Σ9、 覇+妬 εヴ              (A.6)               ユ

ここで,∫はPKモ デルな どで, gと 海は∫(θ)のそれぞれ個 体

間変動 ηと個体 内変動 εに対 す る偏 微分で あ る.彿 は ηの 数

であ る.1>を パ ラメー タを用 いた新 しい推定値 とする と,ηの

共分散行列を Ω(物 次元)と して観測値の分散 は,

   varN(C∂=G島 ΩNGw十(ぬ 崎 σN)2         (A-7)

と表 され る. ここでGは 関数gの ベ ク トルである.

したが って観測値が1点 であ る場合のSOは 以下の式で求 まる

(仁1の 場合),                 

    8DN(Cウ)=Σ(9塒 ω酬,)2+(偏 σ砺)2      (A-8)                ト 一方

,個体 内の複数の測定点(η∫点)が ある場 合においても,予

測残差(朋)は 以下 の式で表 され る.

   PEヴ=C訂 一ん(θN)                  (A-9)

また,平均予測残差(MPE)は 以下の式で表 される.

       1町

   MP陽=一 ΣP恥                      (A-10)       πノゴ;1

ル伊Eの 分散 は以下の式で得 られる.

  蝋 聡)一 静(赫 ΣPEガご=1)   (揺・・)また,班 の分散は以下の式で得 られる.

   燭(π ゴΣPEヴt=i)一卵 ・(馬)

    +2Σ Σc・VN(PE功PE∂            (A-12)          ぎ ゴくデ

そこで個体内の測定値 の共分散は以下の式 となる.

   C・VN(朋 ゆPEη)

   一E[(象・塒砺幅)(茎 ・ η鵡 ・)]                            (A-13)

これ らを利用 してSDを 算出するこ とになる.