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PRI Discussion Paper Series (No.16A-08) ロジック・モデルについての論点の整理 財務省財務総合政策研究所副所長 大西 淳也 財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員 日置 瞬 2016 5 財務省財務総合政策研究所総務研究部 1008940 千代田区霞が関 311 TEL 0335814111 (内線 5489本論文の内容は全て執筆者の個人的見解であ り、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式 見解を示すものではありません。

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PRI Discussion Paper Series (No.16A-08)

ロジック・モデルについての論点の整理

財務省財務総合政策研究所副所長

大西 淳也

財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員

日置 瞬

2016年 5月

財務省財務総合政策研究所総務研究部

〒100-8940 千代田区霞が関 3-1-1

TEL 03-3581-4111 (内線 5489)

本論文の内容は全て執筆者の個人的見解であ

り、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式

見解を示すものではありません。

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ロジック・モデルについての論点の整理 1

大西淳也 2

日置瞬 3

要旨

本稿では、ロジック・モデルについての論点を整理する。まず、ロジック・

モデルの歴史をおさえる。そのうえで、ロジック・モデルについてはいくつ

かのイメージがあることから、これらについて概観する。そして、ロジック・

モデルは米国のプログラム評価論の文脈で論じられることが多いので、プロ

グラム評価論について、ロジック・モデルとの関係を意識しつつ鳥瞰的に整

理する。さらに、ロジック・モデルはほかの分野でも活用されており、また、

類似の方法論もみられることから、これらについても言及する。そして、最

後に、暫定的な考察をくわえることとしたい。

キーワード:ロジック・モデル、ロジカル・フレームワーク、プロジェクト・

デザイン・マトリックス、ケロッグ財団、理論モデル、アウト

カム・モデル、活動モデル、プログラム評価論、評価階層、セ

オリー評価、プロセス・セオリー、戦略マップ

1 本稿を執筆するにあたり、財務総合政策研究所で開催された研究会および

玉川大学で開催された研究会の参加者からたいへん有益なコメントをいただ

いた。ここに記して感謝申し上げたい。なお、本稿で示される結論は、筆者

個人の見解であり、所属する組織の見解ではない。 2 財務省財務総合政策研究所副所長 3 財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員

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Ⅰ.はじめに

近年、わが国行政においても、ロジック・モデルという用語がもちいられ

るようになってきている。従来、この用語は、政策評価・行政評価の文脈で

比較的みられた 4が、最近では、経済財政諮問会議のとりまとめにもみられる

ようになってきている(経済財政諮問会議( 2015, p.3))。そこで、以下では、

ロジック・モデルについての論点を整理することとしたい。

本稿では、まず、ロジック・モデルの歴史をおさえる。そのうえで、ロジ

ック・モデルについてはいくつかのイメージがあることから、これらについ

て概観する。そして、ロジック・モデルは米国のプログラム評価論の文脈で

論じられることが多いので、プログラム評価論について、ロジック・モデル

との関係を意識しつつ鳥瞰的に整理する。さらに、ロジック・モデルはほか

の分野でも活用されており、また、類似の方法論もみられることから、これ

らについても言及する。そして、最後に、暫定的な考察をくわえることとし

たい。

なお、本稿は、小稿であることもあり、もっぱら米国の議論を参照してい

る。しかしながら、平澤ほか( 2016, p.672)によれば、ドイツ・フランスに

はアウトカムに相当する概念はないとのことであり、このことからすると、

ロジック・モデルに相当する概念は、国により異なっている可能性もある。

したがって、本来であれば、米国の議論への適切な距離感を維持する観点か

ら、ほかの先進国の議論も参照することがのぞましい 5。しかし、残念ながら、

本稿はこの点で力及ばずとなっている。あらためて他日に期したい。

Ⅱ.ロジック・モデルの歴史

4 たとえば、文部科学省 HP

http://www.mext.go.jp/a_menu/hyouka/kekka/06032711/002.htm

平成 28 年 3 月アクセス。 5 ロジック・モデルのような実務に近い議論の場合、それぞれの国情を反映

していることが多いと思われる。このため、米国の議論だけをみていると、

そういう視点が欠落しかねない。したがって、ほかの先進国における議論、

とりわけ、工夫しつつ国情を反映させているさまを観察することが、本来で

あればのぞましい。

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ここでは、ロジック・モデルの歴史をおさえる。前史として、いくつかの

動きを確認する。そして、Hatry( 1999, 訳 p.64)にしたがい、ロジック・

モデルは Wholey( 1979)により登場したことを述べる。

Ⅱ―1.前史

高崎( 2001, p.69)は、ロジック・モデルの起源について、1960 年代後半

に米国国際開発庁(USAID)が開発したロジカル・フレームワークとされて

いるとする。城山( 1993, p.56)によれば、ロジカル・フレームワークの基

本的発想は、当初目標に対する実際の達成度を測定しようというものであり、

そこには、経済収益率分析のような投下資源と達成された効用とを比較する

という発想はない。目標( goal)、目的( purpose)、産出( output)、活動

( activities)という当初目標のレベルと、各レベルに対応する指標があらか

じめ設定され、評価時に各指標の達成度とその要因が判断され、記入される

というものである。これを図示すれば、(図表1)のとおりとなる 6。

(図表1)ロジカル・フレームワーク

6 (図表1)には例示がないことから、若干わかりにくいところがある。そ

の場合には、(図表2)を参照されたい。

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ODA(政府開発援助)の文脈では、ロジカル・フレームワークにはさらな

る展開がみられる。具体的には、このロジカル・フレームワークと、これを

発展させたドイツの目標志向型プロジェクト立案手法( ZOPP) 7を参考にし

て、財団法人国際開発高等教育機構が 1990 年の設立当初からプロジェクト・

サイクル・マネジメント(PCM)手法の研究開発を進めてきた(財団法人国

際開発高等教育機構( 2007, p.12))。

山谷( 1994, pp.11-13)によれば、プロジェクト・サイクル・マネジメン

トには、3つの特徴がある。第1には、一連のながれを「一貫性」をもって

認識することである。第2に、因果関係を踏まえて目的 -手段関係を考えてい

く「論理性」である。第3に、関係者間でのコミュニケーションを促進する

「参加型」であるとのことである 8。そして、そこでは、ロジカル・フレーム

7 ZOPP(Zielorientierte Projektplanung)は、ドイツ技術公社(GTZ)が

1983 年にロジカル・フレームワークをもとに開発したものであり、 1980 年

代後半には欧州諸国の援助機関でも導入された(財団法人国際開発高等教育

機構( 2007, p.12))。 8 後述するロジック・モデルとの共通性が感じられるので、あえて記述した。

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ワークとほぼ同じ内容のプロジェクト・デザイン・マトリックス( PDM)が

もちいられる。これを図示すれば(図表2)のとおりとなる。そこでは、プ

ロジェクトの目標、活動、投入等が記載され、それらの論理的な関係が示さ

れている。

(図表2)プロジェクト・デザイン・マトリックス( PDM)

高崎( 2001, p.60)は、ロジック・モデルの誕生には、このような開発援

助分野での経験が影響を与えていると指摘する。そして、開発援助分野の政

策立案の際に使われるプロジェクト・デザイン・マトリックスも、ロジック・

モデルの一種とされていると位置づけている。なお、このように、ODA の分

野がロジック・モデルの誕生に深くかかわった背景として、ODA では、なぜ

税金による巨額な資金が海外の諸国に供与ないし貸与されなければならない

のかという質問にどのように答えるかが、ODA 体制の核ともいえる領域にあ

ることが指摘されている(高橋( 1993, p.1))。

また、亀山( 2010, p.171)は、ロジック・モデルの前身となるのは、上述

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の米国国際開発庁が発表したロジカル・フレームワークであるとともに、

1976 年の Claude Bennett によるプログラム有効性の階層(Hierarchy of

Program Effectiveness)であるといわれていると指摘する。そこで、Bennett

によるプログラム有効性の階層についての図表を、亀山( 2010, p.172)から

引用する。(図2)に示すように、プログラム有効性の階層は、プログラムの

工程の資源、参加者の活動、反応、学習、行動、効果が、入力から出力、そ

して成果のそれぞれのレベルに対応するかを示したものである。

(図表3)Bennett の「プログラム有効性の階層」

Ⅱ―2.ロジック・モデルの登場

Hatry( 1999, 訳 p.64)によれば、ハトリーの把握するなかで最初にロジ

ック・モデルという用語を使い、その例を示したのは Wholey( 1979)であ

るとする。Wholey( 1979)は、評価論の文脈から、評価可能性についての

評価を8つの段階にわけている。具体的には、①評価対象となるプログラム

の選定、②対象プログラムに関する情報の収集、③情報を総合しモデル化、

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④対象プログラムの業績評価指標の分析、⑤実績に関する情報の収集、⑥プ

ログラムの目的についての妥当性分析、⑦評価ならびにマネジメントに関す

るオプションの検討、⑧報告、の各段階からなるとする(Wholey( 1979,

pp.75-76))。

そして、ロジック・モデルという用語を示し、これは上記の③の段階に属

するものであり、資源のインプット( input)、活動( activities)、アウトカ

ム( outcome)ないしはインパクト( impact)の関係を論理的に図解するも

のであると指摘する(Wholey( 1979, p.58))。そこでは、典型的なロジック・

モデルとして、(図表4)が示されている(Wholey( 1979, p.59))。

(図表4)登場時のロジック・モデル

Ⅲ.ロジック・モデルについてのいくつかのイメージ

その後、ロジック・モデルについては、いくつかのイメージが示されてい

る。そこで、ここでは、その代表的な例として、まず、ケロッグ財団が提示

するロジック・モデルをおさえる。そして、わが国における一般的なロジッ

ク・モデルのイメージをいくつか確認する。そのうえで、これら以外にもい

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くつかのイメージが提示されていることから、それらについてあわせて言及

する。

Ⅲ―1.ケロッグ財団が示すロジック・モデル

ケロッグ財団においては、生活の質の向上の観点から、ロジック・モデル

の策定と活用のためのガイドブックを作成している( Kellogg Foundation

( 1998, 2004))。そこで、ここではまず、Kellogg( 2004)に示されている

ロジック・モデルをおさえることとしたい。

Kellogg( 2004, pp.2-3)では、ロジック・モデルの目的について、関係者

にロード・マップを示すことにあるとする。そこでは、のぞましい結果とと

もに、計画されたプログラムに必要とされる関連する一連の出来事が記述さ

れる。そして、ロジック・モデルでは、時間のながれのもと、推論のチェー

ン( the chain of reasoning)、すなわち「もし…ならば、どうなる」( if-then)

という言葉にしたがって示されることになる。これを基本形として図示すれ

ば、(図表5)のとおりとなる。

(図表5)ロジック・モデルの基本型

その一方で、Kellogg( 2004, pp.8-9)では、実際のロジック・モデルはも

っと複雑であり、そこでは3つの類型に落とし込まれるとする。この3類型

とは、具体的には、①理論モデル( theory approach model( conceptual))、

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②アウトカム・モデル( outcome approach model)、③活動モデル( activities

approach model( applied))である。これらのロジック・モデルは、それぞ

れに目的が異なっている。①の理論モデルは、資金獲得の目的のために、計

画・設計されるものである。②のアウトカム・モデルは、報告等の目的のた

めに、評価等がなされるものである。③の活動モデルは、マネジメントの目

的のために、実施されるものである。そして、これらのすべてのニーズにか

なうロジック・モデルはないことから、その使い分けが重要であるとされる。

これら3類型の関係を図示すれば、(図表6)のとおりとなる。これらの3類

型がサイクルとなって示されていることが注目される。

(図表6)ロジック・モデルの3類型

以下では、3つの類型のロジック・モデルについて、 Kellogg( 2004,

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pp.9-13)に示されている順で整理する 9。まず、①の理論モデルである。こ

のモデルでは、仮定事項( assumptions)が重要となる。そこでは、課題と

想定される解決策の理由づけに焦点があてられる。そして、理論モデルは大

きな絵を描くものであり、詳細を示すものではない。このモデルは、資金提

供者や援助者が活用するのに適したものであるとされている。

(図表7)ロジック・モデルのうち理論モデル

つぎに、(図表6)の②で示すアウトカム・モデルである。このモデルでは、

プログラムの構成要素間に存在すると考えられる因果関係( casual linkage)

が重要となる。そこでは、特定のプログラムの活動とアウトカムとの相互関

係が、ロジック・モデルで描かれることになる。このモデルでは、一連の活

動の結果として得られる、短期(1~3年)のアウトカム、長期(4~6年)

のアウトカム、それにインパクト(7~10年)に細分化されることもある。

9 (図表6)に示された矢印にしたがえば①→③→②となるが、ここでは

Kellogg( 2004)にしたがう。

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アウトカム・モデルは、効果的な評価や戦略の報告に役立つものであるとさ

れている。

(図表8)ロジック・モデルのうちアウトカム・モデル

最後に、(図表6)の③で示す活動モデルである。このモデルは、実施プロ

セスの詳細に注意をはらうものである。そこでは、プログラムの実施プロセ

スに描かれる、計画されたさまざまな活動について関連づけられるものとな

っている。これは、プログラムの監視・管理の目的に役立つものであり、作

業計画あるいは管理ツールとして活用される。そして、この活動モデルによ

り、プログラムの資源と活動がのぞましい結果にどのようにつながるのか、

詳細が示されることとなる。

(図表9)ロジック・モデルのうち活動モデル

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Ⅲ―2.わが国におけるロジック・モデルの一般的なイメージ

それでは、わが国においてロジック・モデルがどのようにイメージされて

いるのかについて確認する。結論から先に示せば、(図表6)②のアウトカム・

モデルに相当する説明が一般的であるように思われる。たとえば、高崎

( 2001,pp.60-61)は、ロジック・モデルについて、具体的な行政活動から最

終的な成果にいたるまでの中間段階でおこりうるであろうさまざまな出来事

( event)を要素として示し、それら要素間の関係を1本ないし複数の線で

つなげることによって、成果達成のための道筋・手順をあきらかにする役割

を果たす。そして、ブラック・ボックスになりがちであるプログラムの成果

導出過程について、それをだれの目にもあきらかな形で示すことができると

いう特徴を有するとする。以上のようなロジック・モデルの説明においては、

(図表6)①の理論モデルでいう仮定事項には言及されておらず、また、③

の活動モデルでいう行政内部の活動も細かくわけられていないことが一般的

であることが注目されるのである。

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ロジック・モデルは図の形で示されるが、そのイメージもいくつかあるよ

うである。高崎( 2001, pp.60-62)によれば、ロジック・モデルには、フロ

ー・チャート型とボックス型の2つの表現形式がある 10。そして、このボッ

クス型には、高崎( 2001)が示すようなヨコ・ボックス型と、龍 =佐々木( 2000)

が示すようなタテ・ボックス型がある 11。そこで、ここでは、①フロー・チ

ャート型、②ヨコ・ボックス型、③タテ・ボックス型について、それぞれ代

表的な例と思われるものを示こととする。

まず、①のフロー・チャート型のロジック・モデルである。これは、個別

の出来事の要素をそれぞれ別個の箱に表現して、要素単位でのつながりをみ

るものである(高橋( 2001, p.61)。その具体的なイメージは、(図表10)

のとおりである。わが国で普及していると思われる概説書(Rossi ほか( 2004,

訳 p.90))においても、同じイメージのロジック・モデルが掲げられている。

このイメージのロジック・モデルは、後述の2つのボックス型にくらべると、

要素単位でのつながりについて、個別に確認しやすいという特徴を有してい

ると思われる。

(図表10)フロー・チャート型のロジック・モデル

10 高崎( 2001)が参照する TBSCanada( 2001, pp.12-15)では、“Flow Chart”

Logic Model と“Results Chain”Logic Model が代表的な例として示されて

いる。ここでは、わが国での活用イメージということから、高崎( 2001)に

ならう。 11 ヨコ、タテの名称は、あくまで仮のものである。

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つぎに、②のヨコ・ボックス型のロジック・モデルである。これは、資源、

活動、結果、成果の各段階といったレベルごとに複数の出来事をたばねて、

ひとつのボックスに表現して、ボックス単位でのつながりをみていくもので

ある。その具体的なイメージは、(図表11)のとおりである。わが国で普及

していると思われる概説書(Rossi ほか( 2004, 訳 p.138))でも、これと同

じイメージのロジック・モデルが掲げられており、ほかにも、三菱 UFJ リサ

ーチ&コンサルティング( 2006, p.31)や野地ほか( 2009, p.79)などの例

がある。わが国では、この形のロジック・モデルがもっとも一般的なイメー

ジであるかもしれない。

(図表11)ヨコ・ボックス型のロジック・モデル

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最後に、③のタテ・ボックス型のロジック・モデルである。②のものをタ

テにしたものである。東( 2011, p.112)でも、このイメージのロジック・モ

デルが示されている。このタテ・ボックス型には、スペースの関係から、段

階が多くなっても記述が容易という特徴があるように思われる 12。

(図表12)タテ・ボックス型のロジック・モデル

12 行政内部の活動を細かく記述できるという点では、(図表6)③の活動タ

イプに適した表記であろう。

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Ⅲ―3.そのほかのイメージのロジック・モデル

ロジック・モデルは、実務での活用が重要である。このため、実務の要請

に応じて、さまざまなイメージのロジック・モデルが活用されることとなる。

そこで、ここでは、上記の3つのイメージとは異なるイメージのロジック・

モデルをみることとする。

まず、戦略目標を階層的に設定するタイプのロジック・モデルである。こ

こでは、階層的戦略目標設定型という。具体的なイメージは、(図表13)の

とおりである。これは上水道事業に関するロジック・モデルである 13が、上

述のロジック・モデルにくらべると、結果(アウトプット)や多段階にわた

る成果(アウトカム)を、階層的な戦略目標のなかで整理しており、図とし

13 坂本( 2012)においてはあきらかではないものの、図の様式、および、階

層的戦略目標設定型のロジック・モデルと具体的な個別の業務活動とを関連

づけていることなどから、その発想方法には後述の戦略マップの影響がみら

れるようにも思われる。

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ていくぶんすっきりしているように思われる 14。

(図表13)階層的戦略目標設定型のロジック・モデル

また、ロジック・モデルの導出プロセスに着目したユニークな方法論も存

在する。刈谷ほか( 2008, pp.71-75)では、4つのステップからなる方法論

が示されている。まず、Step1「問題の列挙化」として、思いつくかぎりの

問題や課題を紙に書きだす。つぎに、Step2「問題の構造化」として、書き

だされた各要素間の関係を因果関係にもとづき整理していく。そして、Step

3「問題の切りだしと再構造化」として、特定の問題に関係する部分の範囲

を限定(切りだし)し、より本質的な問題について再度項目を整理する(再

構造化) 15。最後に、Step3の結果を踏まえて、 Step4「ロジック・モデル

の構築」を行う。このながれを図示すれば、(図表14)のとおりとなる 16。

14 アウトプット、多段階にわたるアウトカム、最終的なインパクト(あるい

はアウトカム)といった言葉や枠組みを理解する手間が省けるからである。 15 刈谷ほか( 2008, pp.71-75)においては、再構造化という用語はもちいら

れていない。 16 刈谷ほか( 2008)では言及されていないが、川喜田二郎・東京工業大学名

誉教授が提唱する KJ 法の影響が強いように思われる。

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(図表14)独特の方法論にもとづくロジック・モデルの構築

Ⅳ.プログラム評価論のなかのロジック・モデル

ロジック・モデルは、米国のプログラム評価の文脈で論じられることが多

い。そこで、ここでは、プログラム評価論について、ロジック・モデルとの

関係を意識しつつ、俯瞰的に整理することとしたい。

Ⅳ―1.プログラム評価論の概要

ここでは、まず、5つの評価階層について概略をおさえる。そののち、そ

れぞれの評価階層について端的に整理する。

Ⅳ―1―1.評価階層

Rossi ほか( 2004 訳 p.28)によれば、プログラム評価( program evaluation)

とは、社会的介入プログラムの効果性をシステマティックに検討するために、

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社会調査法 17を利用することをいうとされる。プログラム評価における具体

的な評価手法は、その内容から、①評価性評価、②セオリー評価、③プロセ

ス評価、④インパクト評価、⑤効率性評価の5つに分類される。そして、こ

れらは(図表15)に示すように階層を形成している。下位の階層が上位の

階層にくらべて、より詳細なものとなっており、それぞれ下位の階層にある

評価が、その上位の階層の評価に必要な情報を提供するという関係にある。

(図表15)評価階層

Ⅳ―1―2.個々の階層

ここでは、それぞれの評価階層について、上位の階層から順に、端的に整

理する。なお、以下では、プログラム評価論のながれについて、わかりやす

くまとめている田辺( 2002)を中心に記述することとしたい。

(1)効率性評価

効率性評価とは、投入された資源と政策効果を比較し、予算額に見合う効

17 社会調査法は、体系的な観察、測定、標本抽出、調査統計、データ解析と

いった諸技法を活用して、事実に即して社会現象を記述するものである

(Rossi ほか( 2004 訳 p.16))。

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果があるかどうかの分析や、政策代替案の優劣の比較を行うものである。そ

して、効率性評価には、費用便益分析と費用効果分析との2種類がある(田

辺( 2002, p.41))。

前者の費用便益分析は、政策の費用と便益をすべて貨幣価値に換算し、便

益総額と費用総額との差(純便益)や、便益総額を費用総額で除したもの(費

用便益比)などを算出するものである。この費用便益分析における金銭価値

で示される便益評価には、(図表16)で示される手法がある。

(図表16)便益評価の手法

後者の費用効果分析は、後述のインパクト評価でえられた政策効果を貨幣

価値に換算せず、そのままの単位でかかった費用と比較するものである。政

策の効果を貨幣価値に換算する際の技術的な問題点を回避することができる。

しかし、そのぶん、純便益等の算出が困難であったり、同種の効果間での比

較しかできなかったりなど、その応用可能性に限界があるとされる(田辺

( 2002, p.42))。

(2)インパクト評価

インパクト評価は、政策による社会状況への改善効果(インパクト)があ

ったかどうか、あったとしたらどの程度かについて、あきらかにするもので

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ある。政策が意図した目的を達成しているかどうかは、アウトカムの指標に

あらわれる。しかし、この指標はさまざまな外部要因によって影響される。

そこで、社会状況の改善が政策実施の結果か否かという因果関係の確認と、

その程度を測定する(田辺( 2002, p.39))。このインパクト評価の手法につ

いて、端的にまとめれば(図表17)のとおりである。

(図表17)インパクト評価の手法

(3)プロセス評価

プロセス評価は、政策が意図されたとおりに実施されているか、想定され

た質・量のサービスが提供されているかを検証するもので、モニタリングと

もよばれる。政策の実施状況についての情報を政策実施者にフィードバック

することによって、政策改善に役立つものである。このプロセス評価は、前

述のインパクト評価の前提ともなる。なぜなら、政策が当初の計画どおりに

実施されておらず、効果があがっていない場合には、政策のインパクトも期

待しえないという関係にたつからである(田辺( 2002, p.39))。

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(4)セオリー評価

セオリー評価は、政策のデザインが政策目的達成のために妥当かどうかを

検証し、どういった事象がどのように実施されるべきか、実施のためにはど

れだけの資源が必要か、などについてあきらかにするものである。具体的に

は、インプット→活動→アウトプット→アウトカムにいたる仮定の連鎖があ

り、これをセオリーといい、(図表18)のようなロジック・モデルで示され

る。(図表18)にあるように、インプット→活動→アウトプットまでのプロ

セス・セオリーと、アウトプット→アウトカムのインパクト・セオリーとの

2つの部分からなるとする(田辺( 2002, p.38))。

政策のなかには、目的達成までの道筋がよく考えられていないために失敗

するものが多くある。セオリー評価は、政策のよってたつ前提をあきらかに

し、その妥当性を検証するものでもある。政策立案段階の事前準備として、

また、すでに実施されている政策の見直しのためにも有用である。そして、

セオリー評価でえられた情報は、前述のプロセス評価やインパクト評価の際

にも役立つものとなる。このため、プログラム評価のテキストでは、セオリ

ー評価の重要性がとくに強調されている(田辺( 2002, p.39))。

(図表18)セオリーとロジック・モデル

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(5)必要性評価

最後に、必要性評価である。あらゆる政策は、社会に何らかの問題があり、

政策的介入が必要であることを前提としている。この問題の性質と程度を分

析するのが、必要性評価である(田辺( 2002, p.38))。したがって、前述の

すべての評価の前提となる評価といえるものである。

Ⅳ―2.米国における評価の歴史

米国におけるプログラム評価論の体系は上記のとおりであるが、つぎに、

このプログラム評価論が歴史的にどのように展開してきたのかを確認する。

まず、効率性評価に含まれる費用便益分析の導入からはじまり、その後、プ

ログラム評価論について、より下位の評価階層に対象を拡充してきた。近年

では、より簡易な評価手法である業績測定を開発する方向に進んでいること

をみる。

Ⅳ―2―1.費用便益分析

米国における政策評価の起源である効率性評価については、1930 年代に水

資源開発プロジェクトの採否に際して、費用便益分析にもとづき便益が費用

を上回ることが条件とされたことからはじまった。その後、 1960 年代には、

費用便益分析を連邦政府の政策立案に大々的に導入することを意図して、

PPBS(Planning Programming Budgeting System)が導入された。しかし、

PPBS は大きな成果をあげることなく、短期間で挫折した。その後、費用便

益分析は、公共事業等のいくつかの分野で限定的に活用されるにとどまって

いる(田辺( 2002, p.43))。

Ⅳ―2―2.プログラム評価

1960 年代の米国においては、民主党政権による「偉大な社会」「貧困との

戦い」とよばれる一連の社会政策が推進され、数多くの公共プログラムが実

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施された。これらについて評価がもとめられたことから、それを契機に政策

効果の評価手法に関する研究がはじまった。そして、同時期に取り組まれて

いた PPBS の挫折により、必要性に応じた事後的な政策効果の検証という、

より現実的なアプローチにプログラム評価の関心があつまった(田辺( 2002,

p.43))。

初期のプログラム評価においては、純粋に政策効果にあたる部分を抽出す

る必要があったことから、インパクト評価に主眼がおかれた。その後、プロ

グラム評価の経験が蓄積するにつれ、現実の政策では、しばしば政策目的が

明確でないなどの理由から、意味のある評価ができないことがあった。ここ

から、政策が意図したとおりに実施されているかをみるプロセス評価や、政

策のそもそもの前提を検証するセオリー評価が発展した。こうして、プログ

ラム評価論は、当初のインパクト評価から次第に対象を広げ、現在の形にな

っていったのである(田辺( 2002, p.44))。

Ⅳ―2―3.業績測定

業績測定は、アウトプットやアウトカムに関する具体的な指標を定期的・

継続的に測定することによって、政策の改善につなげる評価方法である。こ

れは、政策のアウトカムに関するデータをもっていない地方政府においても

実施可能となるように、簡易で実用的な評価手法として開発され、1980 年代

の行政改革のながれのなかで地方政府に広く普及した(田辺( 2002, p.44))。

この業績測定について、田辺( 2002, p.45)は、プログラム評価論の「セ

オリー評価→プロセス評価→インパクト評価」にあたる部分を簡略化し、政

策現場で役立つように体系化したものであると指摘している。そして、この

業績測定とプログラム評価との関係について、山谷( 2009, p.11)は、両者

の手法や学問的背景、実践における手間のかけ方などの違いを考えると、両

者は相互補完的な関係にたつものとなろうと指摘する。

Ⅳ―3.プログラム評価論におけるロジック・モデルの位置づけ

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プログラム評価論の各評価階層については、以上のとおりである。そこで

は、セオリー評価の重要性が強調されており、その中心にロジック・モデル

が位置づけられていた。

米国のプログラム評価論は、前述のように、そもそも、もっとも難易度の

高い効率性評価からはじまり、より簡易な手法へむかう方向発展してきた。

効率性評価の大々的な導入をめざした PPBS に無理があることがわかり、効

率性評価からその一歩手前のインパクト評価に関心がむかうこととなり、そ

の後の発展過程で、プロセス評価、セオリー評価、必要性評価に対象を広げ

ていった。効率性やインパクトの定量的評価を試みるなかで、政策の前提と

したセオリーや、政策プロセスの検証の必要性に、次第に気づいていったの

が、米国における評価方式発展の歴史である 18と指摘される(田辺( 2002,

pp.45-46))。

このように、米国のプログラム評価論は、歴史的な経緯のなかで発展して

きた歴史的概念であると考えられる。したがって、その中心に位置づけられ

ているロジック・モデルについても、評価論の文脈での歴史的な経緯をじゅ

うぶんに反映している可能性もあるように思われる。換言すれば、評価に適

したロジック・モデルになっている可能性があるのではないかということで

ある。

Ⅴ.ロジック・モデルに類似する戦略マップ

以上のように、ロジック・モデルは、評価論の影響のもとに発展してきた

ものと思われる。その一方、経営管理の分野では、別の文脈から、ロジック・

モデルに類似した手法として、戦略マップが指摘されるようになってきた。

そこで、ここでは、まず、戦略マップについて鳥瞰する。そして、戦略マッ

プにおいては、マネジメントへの関心が高いことを確認する。そのうえで、

戦略マップとロジック・モデルとの両者を比較することとしたい。

18 それゆえ、プロセス・セオリーやインパクト・セオリーなどの用語法や、

評価階層の整理が、素人目には若干わかりにくいものとなるのであろう。

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Ⅴ―1.戦略マップの概要

経営管理の分野においては、多様なステーク・ホルダーを認識し、ステー

ク・ホルダー・アプローチをとる戦略の策定・実行と業績評価のシステムと

して、BSC(Balanced Scorecard:バランスト・スコアカード)が 1992 年

に提唱された(櫻井( 2015, p.611))。 1992 年の発表当初には、BSC は主と

して業績評価のツールとして提案された。しかし、その後の実務への導入過

程において、戦略を策定し実行させ、経営品質を向上させるためのツールと

しての役割が大きいことがあきらかになってきたとされる(櫻井( 2015,

p.611))。

BSC においては、財務の視点、顧客の視点、内部ビジネス・プロセスの視

点および学習と成長の視点の4つの視点から、さまざまな業績尺度をもちい

て評価していくものであり、その際には、因果関係が重視されることとなる。

この因果関係についての全体像を図に示したものが戦略マップであり 19、(図

表19)のとおりである。

このような BSC および戦略マップについては、わが国でも導入が報告され

ている。そこでは、企業の事例のみならず、医療機関をはじめとする公的組

織の事例も研究されている 20。

(図表19)戦略マップのイメージ

19 BSC と戦略マップとを別個に扱うべきか、BSC とその支援ツールとして

の戦略マップと位置づけるかについては議論もあるが、ここでは立ち入らな

い(Kaplan=Norton( 2006 訳 p.32 訳注 16))。 20 たとえば、伊藤( 2014)。

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Ⅴ―2.戦略マップのマネジメントへの活用

上記のような戦略マップは、米国における実務の展開のなかでうみだされ

た。すなわち、集中すべき戦略目標を BSC の4つの視点でとりあげると、実

務家は直感的にその戦略目標どうしを矢印で結びつけはじめた。従業員の能

力やスキルをいかに向上させるか、そして、これをあたらしい技術と組みあ

わせて重要な内部プロセスをいかに改善するか、さらに、プロセスの改善を

通じて顧客満足度ひいては顧客への価値提案を向上させ、最終的には株主価

値を向上させる、といった基本的なパターンがみられ、これを戦略マップと

してまとめたとされる(Kaplan=Norton( 2004 訳 pp.ⅹⅶ -ⅹⅷ)。

このような経緯から、戦略マップでは、いかにうまくマネジメントをして

いくかという視点が強調されていると考えられる。たとえば、(図表20)に

おいては、戦略マップのもとに、さまざまな目標を設定し、マネジメントし

ていくのか、について図示されている。そこでは、マネジメントのために必

要な情報が盛りこまれていることが確認される。

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(図表20)戦略マップから BSC およびアクション・プランへ

Ⅴ―3.戦略マップとロジック・モデルとの比較

ここで、戦略マップとロジック・モデルとについて比較する。共通点と相

違点が、それぞれ大きくひとつずつあげられよう。

まず、両者の共通点として強調されるべきは、因果関係あるいは論理性で

ある。上記のとおり、BSC においては因果関係が強調され、それを図示した

ものが戦略マップであった。他方、既述のとおり、ロジック・モデルにおい

ては、「もし…ならば、どうなる」( i f-then)という言葉にしたがって推論の

チェーン( the chain of reasoning)が示されることとなる。

つぎに、相違点である。これは、わが国における現状のロジック・モデル

を前提にした場合、両者の相違点をひとことでいえば、マネジメントへの重

点の置き方ということになると思われる。上記の(図表20)にみられるよ

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うに、戦略マップにおいては、マネジメントへの活用が想定されていること

があきらかである。これに対して、ロジック・モデルにおいては、インプッ

ト→活動→アウトプット→アウトカムのうち、インプットからアウトプット

にいたるプロセスが一般的に非常に短いことが注目される。概念的には、

Kellogg( 2004, pp.2-3)や(図表6)③に示されているように、ロジック・

モデルのうち活動モデルがきちんと構築されれば、行政内部の活動が複数の

段階にわかれて示されることとなるので、マネジメントへの活用もじゅうぶ

んに考えられることとなろう。どのような段階の活動を、どのようにすれば、

どうなるのか、イメージしやすいからである。しかしながら、ここでみてき

たように、ロジック・モデルについてのわが国の現状からは、行政内部の活

動はひとつの段階にまとめられてしまうことが多く、活動モデルに相当する

ようなロジック・モデルは例外的ですらあると思われるのである。

Ⅵ.暫定的な考察

ロジック・モデルに関する先行研究のサーベイは、以上のとおりである。

これをうけて、ここでは、中途段階の整理として、暫定的な考察をまとめて

おくこととしたい。

Ⅵ―1.ロジック・モデルにおける目的の多様性

Kellogg( 2004)が示すように、ロジック・モデルには多様な目的が想定

されている。Kellogg( 2004, pp.2-3)では、目的により3つのロジック・モ

デルが示されている。すなわち、①資金獲得のために、すなわち、資金を拠

出する者に説明し、合意を得るために活用される理論モデル、②報告等を目

的として、評価等を行うために活用されるアウトカム・モデル、③マネジメ

ントに活用される活動モデル、の3つである。しかも、ここでみてきたよう

に、図として示されるロジック・モデルのイメージも実のところ多様である。

この両者をあわせて考えると、活用される目的、場面により、ロジック・モ

デルじたいのイメージは相当程度に異なってくる可能性もあると思われる。

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Ⅵ―2.ロジック・モデルにおけるマネジメントへの活用という課題

ロジック・モデルは、歴史的概念である米国のプログラム評価論のなかで

発展してきたという歴史を有する。すなわち、米国では主に評価の文脈で発

展してきたのである。くわえて、わが国における現状のロジック・モデルの

イメージからは、上述のとおり、行政内部のさまざまな段階の活動が、換言

すれば、行政内部のプロセスがみえにくいという課題がある。このようなこ

とから、とりわけ、わが国においては、マネジメントの文脈でのロジック・

モデルの活用という発想がきわめて弱いように思われる。

ロジック・モデルにおいては、分析への活用中心から、マネジメントへの

活用へと変わってきているとの指摘がある(三菱 UFJ リサーチ&コンサルテ

ィング( 2006 p.119))。しかし、現状では、上記のとおり、行政内部のプロ

セスがみえにくい。しかも、行政においては、複数のプログラムについて、

さまざまな制約のなかで、同時並行的に行わなければならない場合も多く、

その際に、これらをどうマネジメントしていくという視点も重要となる。し

たがって、ロジック・モデルについては、マネジメントへの活用という点が

今後の課題となると考えられるのである。

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