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チモール海 ダーウィン市 北部準州 約889km イクシス パイプライン イクシス ガス・ コンデンセート田 A U S T R A L I A 14 Vol.11 季刊 新日鉄住金 Ichthys 天然ガスは火力発電の主要な燃料として、また日常生活では調理など の熱源として、私たちの暮らしに欠かせないライフラインの一つだ。 日本で使われている天然ガスの97%は、海外から輸入されている。 日本に届けられる天然ガスは、どこで、どのように開発・生産され、 どのようにして日本まで運ばれてきているのだろうか。 現在、国際石油開発帝石(株)(INPEX)が日本企業で初めてオペレーター (操業主体)としてオーストラリアの北西沖合で開発作業を進める、世界 的にも大規模な LNG プロジェクトである「イクシス LNG プロジェクト」 を詳しく見てみよう。 日本の未来に 天然ガスを届ける オーストラリア イクシスLNG プロジェクト PROJECT STORY

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Page 1: PROJECT STORY 日本の未来に - Nippon Steel...15 季刊 新日鉄住金 Vol.11 プロジェクト写真提供:INPEX 01. 2000 年。オーストラリア北西沖合に 「イクシス」ガス・コンデンセート田を発見。ガスのサプライチェーンを構築し、未来の

チモール海 ダーウィン市

北部準州

約889km

イクシス

パイプライン

イクシス ガス・コンデンセート田

A U S T R A L I A

14Vol.11 季刊 新日鉄住金

Ichthys

天然ガスは火力発電の主要な燃料として、また日常生活では調理などの熱源として、私たちの暮らしに欠かせないライフラインの一つだ。日本で使われている天然ガスの97%は、海外から輸入されている。日本に届けられる天然ガスは、どこで、どのように開発・生産され、どのようにして日本まで運ばれてきているのだろうか。現在、国際石油開発帝石(株)(INPEX)が日本企業で初めてオペレーター(操業主体)としてオーストラリアの北西沖合で開発作業を進める、世界的にも大規模なLNGプロジェクトである「イクシスLNGプロジェクト」を詳しく見てみよう。

日本の未来に天然ガスを届けるオーストラリア イクシスLNGプロジェクト

PROJECT STORY

Page 2: PROJECT STORY 日本の未来に - Nippon Steel...15 季刊 新日鉄住金 Vol.11 プロジェクト写真提供:INPEX 01. 2000 年。オーストラリア北西沖合に 「イクシス」ガス・コンデンセート田を発見。ガスのサプライチェーンを構築し、未来の

15 季刊 新日鉄住金 Vol.11

プロジェクト写真提供:INPEX

01. 2000 年。オーストラリア北西沖合に「イクシス」ガス・コンデンセート田を発見。ガスのサプライチェーンを構築し、未来の日本にエネルギーを安定供給する挑戦が始まった。02-03.天然ガスを運ぶためのさまざまな種類のパイプ。04.オーストラリア北部準州ダーウィン近郊に建設中のガスを液化するプラント。鉄はプロジェクトのさまざまな場面に欠かせない。

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Page 3: PROJECT STORY 日本の未来に - Nippon Steel...15 季刊 新日鉄住金 Vol.11 プロジェクト写真提供:INPEX 01. 2000 年。オーストラリア北西沖合に 「イクシス」ガス・コンデンセート田を発見。ガスのサプライチェーンを構築し、未来の

■ イクシスLNGプロジェクトの概要

沖合生産・貯油出荷施設

海底生産施設

直江津LNG基地日本国内天然ガスパイプラインネットワーク約 1,400km

イクシスLNGプロジェクト

ダーウィン

沖合生産・処理施設

陸上ガス液化プラント

ガス輸送パイプライン約 889km

LNG生産量840万トン/年海洋掘削リグ

AUSTRALIA

LPG 160万トン/年 コンデンセート 約10万バレル/日          (ピーク時)

輸送距離約7,000km

天然ガス生産物

コンデンセート

生産井水深250m程度

(天然ガス戻し)

地下4,000 ~4,500m

16Vol.11 季刊 新日鉄住金

悲願の日の丸プロジェクト

イクシスLNGプロジェクトは、INPEXがオペレー

ターとして推進し、日本の輸入量の約10%に相当する年間

840万トンのLNG(液化天然ガス)などを生産するビッグ

プロジェクトだ。西オーストラリア州沖合にあるイクシス

ス・コンデンセート田から採掘される天然ガスを、約889

キロメートルの海底パイプラインで北部準州にある陸上ガス

液化プラントに運ぶ。現在さまざまな施設の建設が進められ、

計画どおり2016年末までに生産が開始されると、生産

されるLNGの約70%が日本向けとして出荷される。

気体である天然ガスをマイナス162℃まで冷やすと液

体(LNG)にすることができ、また容積が約600分の1

と非常に小さくなるため、効率的に輸送できる。1回の航

海で運べるLNGは、約20万世帯が1年間使用できる量に

匹敵する。INPEXもイクシスで生産したLNGの一部を

引き取る計画で、同社が操業する直江津LNG基地(新潟県

上越市)を通じてLNGを受け入れる。そこでLNGを製品

ガスとして気化し、日本海側から太平洋側まで本州を横断

して関東甲信越1都7県を結ぶ、総延長1400キロメー

トル超の、同社が保有する天然ガスパイプライン網を通じて

供給されることになる。製品ガスは、都市ガス事業者の原料

に使われる一方、電力会社に販売されたLNGについては、

火力発電の燃料にも使われることになる。

イクシスLNGプロジェクトとは、日本企業である

INPEXが中心となって、天然ガスの開発から生産、輸送、

供給に至るガスのサプライチェーンを構築する壮大な計画だ。

INPEXイクシス事業本部の岡田二郎本部長補佐は、プ

ロジェクトへの想いを次のように語る。

「1969年にアラスカから初めて日本向けにLNGが輸

出されて以来、INPEXをはじめとする日本の石油・天然

ガス開発企業や商社は、世界各地で数多くのLNGプロジェ

クトに参画してきました。しかし、日本企業の参加はジョイ

ントベンチャーパートナーとしての参画に留まっていました。

なぜなら、プロジェクト全体を統括するオペレーター(操業

主体)を務めるためには高い技術力はもちろん、人材や資金

力などの総合力が必要であり、現在においてもLNGプロジェ

クトのオペレーターを担うのは世界的にも十数社に限られて

います。いつかLNGオペレーターを務めたい。これは石油

天然ガス開発事業に携わる日本企業の夢でした。イクシスは

INPEXが日本企業で初めて大型LNGプロジェクトの

オペレーターとして事業を推進し、日本の電力・ガス会社と

共に権益の70%弱を保有する〝悲願の日の丸プロジェクト〞

なのです」

大海原に眠るガスを見つける

では、そもそもなぜ西オーストラリア州沖合の海底に、

天然ガスがあることがわかったのだろう。INPEXは

1980年代後半から、ジョイントベンチャーパートナーと

してオーストラリア海域のさまざまなプロジェクトに参画し、

石油開発プロジェクトの実績を積み重ねていた。しかしプロ

ジェクトを実質的に主導するのはオペレーターであり、ジョ

イントベンチャーパートナーの立場では、オペレーターの探鉱・

開発方針に不満を感じることも少なくなかったという。

INPEXの地質技術者たちは、ホームグラウンドのイン

ドネシアやそれまでのオーストラリアにおける知識経験をフ

ルに動員して、多様な地下の情報をイマジネーションでつな

ぎ合わせ、広域の地質解釈を行ってきていた。1998年、

オーストラリア政府が新規探鉱鉱区の公開入札を行った際に、

INPEXはこの蓄積してきた地質解釈をもとに有望と判断

した鉱区に狙いを定め、探鉱権を取得した。そして天然ガス

が存在する可能性が高いと判断した3カ所に試掘井を掘り、

INPEX(国際石油開発帝石(株))イクシス事業本部

岡田 二郎 本部長補佐

「ガスのサプライチェーンを構築する」INPEXは、イクシスLNGプロジェクトをはじめとするさまざまなLNGプロジェクトを通じ、日本にエネルギーを安定供給するため、ガスのサプライチェーンを構築する。

LNG:液化天然ガス / LPG:液化石油ガス / コンデンセート:ガス田から液体分として採取される原油の一種で、地下では気体状で存在している。原油または化学原料として利用される。コンデンセートを伴うガス田をガス・コンデンセート田と呼ぶ。

Page 4: PROJECT STORY 日本の未来に - Nippon Steel...15 季刊 新日鉄住金 Vol.11 プロジェクト写真提供:INPEX 01. 2000 年。オーストラリア北西沖合に 「イクシス」ガス・コンデンセート田を発見。ガスのサプライチェーンを構築し、未来の

■ イクシスLNGプロジェクトの概要

沖合生産・貯油出荷施設

海底生産施設

直江津LNG基地日本国内天然ガスパイプラインネットワーク約 1,400km

イクシスLNGプロジェクト

ダーウィン

沖合生産・処理施設

陸上ガス液化プラント

ガス輸送パイプライン約 889km

LNG生産量840万トン/年海洋掘削リグ

AUSTRALIA

LPG 160万トン/年 コンデンセート 約10万バレル/日          (ピーク時)

輸送距離約7,000km

天然ガス生産物

コンデンセート

生産井水深250m程度

(天然ガス戻し)

地下4,000 ~4,500m

17 季刊 新日鉄住金 Vol.11

2000年についに大規模なガス・コンデンセート層を発見

した。地中から得られる限定的な情報から、知見・経験を活

かしたイマジネーションが実り、大海原で天然ガスを掘り当

てるという壮大なチャレンジに成功したのだ。約4億年前、

この海域に生息していた全長10メートルに達する古代巨大魚

の学名にちなんで、プロジェクトは〝イクシス〞と名付けられた。

高温・高圧に耐え抜く鉄のチカラ

イクシスは地下4000〜4500メートルにガス層が

広がっている。地下のガス層から生産物を採掘するための

生産井は、まずビットと呼ばれる歯の付いたドリルを掘削

用油ゆ

せいかん

井管の先端に取り付け、回転させながら硬い岩盤を削り、

地中を掘り進んでいく。そのとき井戸の壁が崩れないように、

ケーシングと呼ばれる土留め用の油井管を入れる。そして

ガス層まで到達したら、ケーシングの中にチュービングと

呼ばれる油井管を入れガスを汲み上げる。

天然ガスは硫化水素や炭酸ガスを多量に含んだ高温・高

圧の地層にあることも多く、ガスの採掘に使用される油井

管は大変厳しい腐食環境にさらされる。特にイクシスのよ

うな海上ガス田開発の場合は、ひとたびトラブルが発生す

るとガスの生産・輸送を一時的に停止させる必要があり、

プロジェクトの経済性にも影響を及ぼす恐れがある。その

ため、高強度・高耐食の油井管が求められる。イクシスで

は、新日鉄住金のシームレスパイプ(※)が、チュービングに

全量使われる。

シームレスパイプ:製鉄所でビレット

と呼ばれる丸太状の形をした鋼の塊を、

真っ赤になるまで加熱し、その中心を

工具で押し広げ中空にして製造される。

Page 5: PROJECT STORY 日本の未来に - Nippon Steel...15 季刊 新日鉄住金 Vol.11 プロジェクト写真提供:INPEX 01. 2000 年。オーストラリア北西沖合に 「イクシス」ガス・コンデンセート田を発見。ガスのサプライチェーンを構築し、未来の

18Vol.11 季刊 新日鉄住金

ケーシング(地層倒壊防止)

チュービング(天然ガス生産)

天然ガス層(高温・高圧)

生産井クリスマスツリー(坑口装置※)

「油井管には自重や地層圧、生産流体による内圧に耐え

る高い強度と耐食性の両立が要求されます。イクシスでは

40年にわたる長期での採掘が見込まれているため、その間

メンテナンスフリーで安全操業を続けられるように、イク

シスのエンジニアと共に当社の製造・販売・技術部隊が一

体となって高合金油井管の仕様に関する共同研究に取り組

み、最適な材料選定を実現しました。尼崎製造所や和歌山

製鉄所で腐食環境を再現した試験を行い、品質や安全性を

実証した上で、製品を無事に納品しました」(新日鉄住金・

花田憲士室長)

高合金油井管の大きさは外径約25センチ、長さ約10メー

トル。外径をより大きくすることで生産効率の向上に貢献

した。ただし深さ4500メートルのガス層までは400

本以上のパイプを継ぎ足さなければならない。油井管はね

じ継手で接続されるが、パイプの重さによる耐荷重と気密

性の確保が課題となる。油井管400本の重さは車400

台程度にも相当する。新日鉄住金の油井管特殊ねじ継手は、

その自重を支える高い強度と、漏れを防ぐ気密性に優れて

いる。世界の石油大手企業であるオイルメジャー各社からも、

深いところでは3000メートル級になる超大深度の天然

ガス開発などで安定した性能を発揮するスーパーハイエン

ド品と評価され、イクシスでも採用された。

強く、しなやかな鉄のチカラ

イクシス

ガス・コンデンセート田で採掘したガスを

LNG化するために陸上ガス液化プラントへ送るガス輸送

パイプラインは全長約889キロメートル、水深250メー

トルの海底に敷設された。その約40%にあたる360キロ

「地下4,500メートルからガスを採掘する」

新日鉄住金(株)鋼管事業部油井管・ラインパイプ営業部油井管室

花田 憲士 室長

05.試掘井とそれに続く複数の評価井でガスの分布や可採埋蔵量などを確認したあと、2015年2月から生産井の掘削が始まった。06. 地層の圧力で井戸の壁が壊れないようにケーシングで守り、チュービングでガスを採掘する(図は一般的なガス井戸)。07-a.海底に設置された生産井から沖合生産・処理施設(完成予想図/ 07-bは建造中の様子)でガスとコンデンセート(原油の一種)を分離。08-a.コンデンセートの大半は沖合生産・貯油出荷施設(完成予想図/ 08-bは建造中の様子)から出荷する。

05

08-a 07-a

08-b 07-b

06※ 坑口装置:坑井(ガスの運搬のために設けた竪坑)の上部をコントロールするため、ケーシング頭部に取り付けられる装置。

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19 季刊 新日鉄住金 Vol.11

メートルをつなぐラインパイプに、新日鉄住金の高強度大

径溶接鋼管が使われている。

「大径ラインパイプを長距離にわたって海底に敷設する計

画に驚きました。イクシスのエンジニアやコンサルタントは

日本人、オーストラリア人、欧米人と多彩で、オイルメジャー

経験者も多数いましたが、技術交流を通じて日本企業初の

オペレーターとして事業を推進しようという意気込みが伝わっ

てきました。当社研究所の材料・腐食・溶接・成形・破壊

各部門の専門家、君津・鹿島両製鉄所の鋼管工場や品質管

理の技術者などが総力を結集して、ニーズに応えました」(新

日鉄住金・村田正彦上席主幹)

油井管と同じように、パイプラインもヒビが入るとそこ

からガスが漏れて海洋汚染を引き起こしてしまう。海洋環

境を守るため、水圧に耐えられる高強度厚肉サイズで、海

流や地殻変動などに対しても壊れにくく、状況変化による

低温環境でも耐えられる靭性(粘り強さ)を達成する高強度

大径溶接鋼管を技術提案した。一般的に鋼材は強度を高め

ると低温靭性や溶接性が低下する傾向にあるが、高強度大

径溶接鋼管はこれらの特性を両立し、万一、き裂が発生し

てもすぐに停止できる。また運ぶガスは脱水処理されてい

るため、微量に含まれる硫化水素の影響はほとんどないも

のの、緊急時のための安全を考えて、万一のときでも腐食

しない特性を兼ね備えている。

高強度大径溶接鋼管は製鉄所で厚板をUの形にプレスし、

その後○の形に丸めて、その両端の継ぎ目を内外面から連

続で溶接して丸いパイプにする。パイプラインは船の上で

鋼管同士を溶接して継ぎ足しながら海底に敷設されるが、

その際に鋼管の溶接部と鋼管同士の円周溶接部の特性劣化

「全長889キロメートルをラインパイプでつなぐ」

新日鉄住金(株)鋼管事業部鋼管技術部

村田 正彦 上席主幹

09-10.海中に敷設するためのラインパイプ。

09 10

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20Vol.11 季刊 新日鉄住金

を防ぐため、あらかじめ製鉄所での鋼管製造時に材料制御

を行っている。またパイプライン全長での真円度を維持す

るため、緻密な形状制御も実施している。

「当社は長年、オペレーターを務めるオイルメジャーの厳

しい特性要求に応える製品を開発し、供給してきました。

イクシスでは、これまでの知見を活かして、総合的な技術提

案力、品質管理の対応力、製鉄所の製造供給力と正確な納

期対応力を発揮できたと思います。何と言ってもイクシスは

日の丸プロジェクトです。同じ想いを共有して、鉄という素

材を通して日本のエネルギー安定供給に貢献できることを誇

りに感じています」(新日鉄住金・福田貴之室長)

イクシス周辺の海域には、INPEXがこれまでの探鉱

作業を通じて複数の新たなガス層を発見している。イクシ

スで敷設している約889キロメートルのガス輸送パイプラ

インでは、パイプラインの5カ所に接続部を設け、将来的

には周辺ガス田からのつなぎ込みを想定するなど、未来に

向けてさらに大きな可能性を秘めたプロジェクトといえる。

相互信頼の絆

イクシス

ガス・コンデンセート田で生産井が掘削され、

ガスを陸上のガス液化プラントへ送るためのパイプラインが

敷設され、そしてガスを液化するための陸上ガス液化プラ

ントがダーウィン郊外に建設されている。今でこそプロジェ

クトは生産開始に向けて進められているが、実はプラント

建設地の選定は容易ではなかった。プラント建設は、経済

的にも環境的にも地元地域に大きな影響を及ぼすため、地

域の行政や住民からの理解やサポートが欠かせない。当初、

「ラインパイプは深海へ」

新日鉄住金(株)鋼管事業部油井管・ラインパイプ営業部ラインパイプ室

福田 貴之 室長

11.パイプライン敷設専用船で、12.ラインパイプが水深250メートルの海底に敷設された。

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21 季刊 新日鉄住金 Vol.11

建設地にはイクシス

ガス・コンデンセート田に近いマレッ

ト島が検討されていた。無人島で飛行場もなく、オースト

ラリア国内でもあまり関心を払われていない小さな島だ。

マレット島をかつて生活圏としていた先住民が土地の所有

権を保有していることから、その土地を使用するにあたっ

ては、先住民との交渉が必要だった。 

交渉に携わったINPEXの岡田二郎本部長補佐は「日本

では田畑を耕し、肥沃な土地に改良して、後世に受け継い

でいく人間こそが最も尊敬されます。自然と共生しながら

永続的な発展を目指す文化なのです」と説明し、先住民の人々

の共感を呼んだ。しかし、プロジェクト実現のための各方

面との調整や取り巻く環境の変化などにより、マレット島

によるイクシス開発構想の先行きが不透明になり、開発構

想は暗礁に乗り上げた。

そのとき隣接するオーストラリア北部準州政府が、

INPEXのガス液化プラント建設を歓迎すると表明した。

設置すべきパイプラインの長さは、マレット島の場合に比べ

数倍になった。コストはかかるものの、技術的に問題はない。

また、ダーウィンには水や電力、交通網などの社会インフ

ラが格段に整っていること、地元政府・先住民を含む地域

社会からの全面的な協力もあり、コストを補って余りある

ほどのメリットがあった。こうしてLNGプラント建設予

定地をダーウィンとし、プロジェクトのエンジニアリング作

業などを経て、2012年1月にプロジェクトの最終投資

決定をするに至ったのだ。

「相手の気持ちを理解する〝相互信頼の絆〞が、いろいろな

危機を乗り越える秘訣だと思いました。関係者は地域の行

政や住民だけでなく、LNGの買主、資金調達を可能にし

た金融機関、ジョイントベンチャーパートナー、そして新日

鉄住金をはじめとする資材供給やエンジニアリングを担う

サプライヤー、建設・建造請負業者など、多くの方々に支

えられています。

そういった皆さんと〝相互信頼の絆〞を深め、

共存共栄のWin│Winの関係を構築してプロジェクト

を成功に導き、未来の日本にエネルギーを安定供給したい

と考えています」(INPEX・岡田二郎本部長補佐)

「LNGプラントを建設する」13.地域住民の理解を得て陸上ガス液化プラントサイトに決まったダーウィン近郊での起工式。14.大型LNGタンカーが入港できるようにダーウィン港内の海を深くして、15. 荷揚げ設備や16. LNGタンク、17. 陸上ガス液化プラントの建設が進んでいる。

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Darwin