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≪研究室紹介≫ QOLの向上を目指した創剤研究 茂* Shigerultai 静岡県立大学薬学部創剤工学研究室 2007年4月,私は長年,勤務した製薬会社を退職 し,静岡県立大学薬学部の教授として迎えられた. 私にとってまさに, 「青天の爵塵」であったが,それ から2年が経過し,教員や学生とのふれあいの中で 研究の方針と構成がほぼ固まってきた状態にある. とは言うものの,まだ,目に見える成果を上げるに は至っていない.ここで紹介された多くの研究室の ように研究の成果を胸をはって報告することは出来 ないが,いくつかの注目したい知見が得られてい る.本稿では現在,我々が興味を持ち,取り組んで いる課題を説明させて頂きたい. 現在の創剤工学研究室の職員は,私以外に,宮城 島博夫准教授,岩尾康範助教の3名である.宮城島 准教授は生え抜きの静岡県立大学教員であり,研究 活動のみならず,学生実習においても中心的役割を 果たして頂いている.岩尾助教は熊本大学薬学部の 出身で小田切前教授のもとで学位を取得され,昨年 から当大学に勤務されている.まだ30歳を過ぎた ばかりの若手教員のホープであり,また,学内ソフ トボール大会において当研究室を破竹の四連破に導 いた4番バッターでもある.この3名で現在,研究, 指導をしているが,院生や学生の協力も研究室運営 の大きな支えになっている. 研究室の構成については,博士課程3名,修士課 程9名,学部学生(4年生) 5名の合計17名である が今後,学部学生については4, 5, 6年生を受け入 れることになるため,大幅な増加が見込まれている (図1).また,本大学においては社会人が博士課程 *〒422-8526静岡市駿河区谷田52-1 TEL: 054-26415614, FAX: 0541264-5615 E-mail: [email protected] 420 薬剤学,69(6),420-42 を履修するコースがあり,私が赴任以来,この2年 問で既に2名の社会人ドクターが誕生している. 1.静岡県立大学薬学部創剤工学(薬品製造工学) 研究室 創剤工学研究室は昨年まで薬品製造工学研究室と 呼ばれていたが,その歴史は古く1967に東出福司 先生(教授在職: 1967- 1986)が主任教授と 着任して以来,広田貞雄先生(1990-1997) 尚先生(1997-2007)と企業研究者が教授 を引き継ぎ,私で4代目になる.そのため,学生や 院生には企業における研究手法を直接学ぶ風土が出 来ており,この伝統を守りながら,より水準の高い 研究成果を達成していくことが私の使命であると考 えている.創剤工学は評価系の学問が多い薬学の中 にあって,新薬合成と同様にものを創る学問であ る.この「モノ創り」を通じ,人材を育成していく ことが,前任者の園部名誉教授から私に引き継がれ た課題である.我々は研究を遂行するにあたり, PDCAサイクルを取り入れている.これはISOや JISに採用されている考え方であり,例えば研究の 開始時に過去の文献や結果の予測をもとに計画し (Plan),計画に沿って実験を行い(Do),実験の 果と予測の尭離を検証し(Check),乗離を狭めるた めの改善策を考え,新たな計画を立てる.この Plan-Do-Check-Action (PDCA) 返すことにより,研究の完成度をより高めることが 出来る.わたしはこの研究のサイクルを如何に効率 的に展開出来るかにより研究者の資質は決まると考 えている.そしてそれは本人の努力と訓練により獲 得可能な顕在能力である.当研究室においては, 薬剤学Vol.69,No.6(2009)

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Page 1: QOLの向上を目指した創剤研究w3pharm.u-shizuoka-ken.ac.jp/pharmeng/images/itai-2.pdf · 2016-05-10 · トボール大会において当研究室を破竹の四連破に導

≪研究室紹介≫

QOLの向上を目指した創剤研究

坂 井  茂* Shigerultai

静岡県立大学薬学部創剤工学研究室

2007年4月,私は長年,勤務した製薬会社を退職

し,静岡県立大学薬学部の教授として迎えられた.

私にとってまさに, 「青天の爵塵」であったが,それ

から2年が経過し,教員や学生とのふれあいの中で

研究の方針と構成がほぼ固まってきた状態にある.

とは言うものの,まだ,目に見える成果を上げるに

は至っていない.ここで紹介された多くの研究室の

ように研究の成果を胸をはって報告することは出来

ないが,いくつかの注目したい知見が得られてい

る.本稿では現在,我々が興味を持ち,取り組んで

いる課題を説明させて頂きたい.

現在の創剤工学研究室の職員は,私以外に,宮城

島博夫准教授,岩尾康範助教の3名である.宮城島

准教授は生え抜きの静岡県立大学教員であり,研究

活動のみならず,学生実習においても中心的役割を

果たして頂いている.岩尾助教は熊本大学薬学部の

出身で小田切前教授のもとで学位を取得され,昨年

から当大学に勤務されている.まだ30歳を過ぎた

ばかりの若手教員のホープであり,また,学内ソフ

トボール大会において当研究室を破竹の四連破に導

いた4番バッターでもある.この3名で現在,研究,

指導をしているが,院生や学生の協力も研究室運営

の大きな支えになっている.

研究室の構成については,博士課程3名,修士課

程9名,学部学生(4年生) 5名の合計17名である

が今後,学部学生については4, 5, 6年生を受け入

れることになるため,大幅な増加が見込まれている

(図1).また,本大学においては社会人が博士課程

*〒422-8526静岡市駿河区谷田52-1

TEL: 054-26415614, FAX: 0541264-5615

E-mail: [email protected]

420

薬剤学,69(6),420-425(2009) I

を履修するコースがあり,私が赴任以来,この2年

問で既に2名の社会人ドクターが誕生している.

1.静岡県立大学薬学部創剤工学(薬品製造工学)

研究室

創剤工学研究室は昨年まで薬品製造工学研究室と

呼ばれていたが,その歴史は古く1967に東出福司

先生(教授在職: 1967- 1986)が主任教授として

着任して以来,広田貞雄先生(1990-1997),園

部 尚先生(1997-2007)と企業研究者が教授職

を引き継ぎ,私で4代目になる.そのため,学生や

院生には企業における研究手法を直接学ぶ風土が出

来ており,この伝統を守りながら,より水準の高い

研究成果を達成していくことが私の使命であると考

えている.創剤工学は評価系の学問が多い薬学の中

にあって,新薬合成と同様にものを創る学問であ

る.この「モノ創り」を通じ,人材を育成していく

ことが,前任者の園部名誉教授から私に引き継がれ

た課題である.我々は研究を遂行するにあたり,

PDCAサイクルを取り入れている.これはISOや

JISに採用されている考え方であり,例えば研究の

開始時に過去の文献や結果の予測をもとに計画し

(Plan),計画に沿って実験を行い(Do),実験の結

果と予測の尭離を検証し(Check),乗離を狭めるた

めの改善策を考え,新たな計画を立てる.この

Plan-Do-Check-Action (PDCA)のサイクルを繰り

返すことにより,研究の完成度をより高めることが

出来る.わたしはこの研究のサイクルを如何に効率

的に展開出来るかにより研究者の資質は決まると考

えている.そしてそれは本人の努力と訓練により獲

得可能な顕在能力である.当研究室においては,

薬剤学Vol.69,No.6(2009)

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図1創剤工学研究室の現在のメンバー

表1創剤工学研究室研究テーマ一覧

1.新剤形の開拓・製剤設計の最適化(粉体工学研究)・グリセリン脂肪酸エステルの滑沢メカニズムに関する研究

・新規遠心転動流動造粒法を用いた時限放出製剤の設計と製造に関する研究・結晶転移を利用した新規胃内滞留製剤の設計と評価・糖アルコールによる錠剤の成型性向上に関する研究

2.分散系及び高分子性製剤の製造・脂質ナノ粒子製剤の研究・骨形成促進剤の6週間持続放出製剤の設計と評価・花粉症特異的減感作療法薬の放出制御製剤の設計と評価

3.ワックスマトリックス製剤の設計と評価・大腸デリバリーに関する研究・苦味マスキングに関する研究・機能性粒子(マイクロポア)に関する研究

4.医薬品溶出過程における有効表面積経時変化の解析・崩壊剤の影響・界面活性剤の影響

各々の学生,院生に対し, 2週間に一皮,教員3名

との個人面談を実施しているが,その目的は単に研

究の進捗を討議するだけでなく,この顕在能力の向

上を期待したものである.

現在,当研究室で実施している研究テーマの一覧

を表1に示す.ここには,園部教授時代からの継続

テーマ,企業の体験をもとにした発展テーマ及び新

規テーマが乱立しており,総花的な内容になってい

る.また,先にも述べたように,赴任してわずか2

年であり,どのテーマにおいてもPDCAサイクルを

回し始めたばかりである.今後,取捨選択,新規導

人を推進し,当研究室を特徴付ける研究テーマを構

築していきたい.その中でも既にある程度の成果や

知見が得られている研究のいくつかを紹介したい.

2.機能性高分子とワックスの複合による

新放出技術の確立

一般に放出制御製剤の消化管移動速度は,製剤の

大きさ,形,比重,付着性などによって変化する.そ

のため,消化管内でその形状を維持したまま,薬物

を放出するシングルユニット製剤(錠剤等)は消化管

のpHや胃内滞留時間の個人差により,吸収の再現

薬剤学 Vbl.69,No.6(2009) 421

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性に影響を及ぼすことが知られている.そこで,輿

剤の消化管内の移動を考慮した場合,粒子ごとに放

出制御を施したマルチユニット製剤が望まれている.

しかし,マルチユニット製剤をコーティング制御す

る際,粒子径が小さくなればなる程,長時間のコー

ティング処理が必要になる.この解決策として,

我々は機能性(胃溶性)高分子と低融点物質の加熱溶

融混合物に主薬を分散させ,アトマイザーにより液

滴を形成させ,それを冷却凝固させる手法を開発し

た(Chem・ Pharm・ Bull., 47, 220-225(1999) ; Chem.

Pharm・ Bull・, 50, 147-152(2002) ; Chem. Pharm.

Bull・, 50, 1430-1433 (2002) ; Chem. Pharm. Bull.,

51, 1223-1226(2003)).本法は噴霧凝固造粒法

(Spray Congealing Method)と呼ばれ,著しい苦

味を有する抗生物質であるClarythromysinの小児

用製剤(ドライシロップ)の苦味マスキングに応用

された・現在はこの企業時代に実用化した技術の用

途拡大を検討している.我々は単位表面積あたりの

マトリックスからの放出速度の測定より任意の粒子

径マトリックの放出速度を予測する簡易な手法を考

案した.これと,実験計画法による最適処方及び製

造条件の決定を組み合わせることにより,胃溶性高

分子を利用した苦味マスキングに留まらず,腸溶性

高分子を配合した大腸デリバリーシステム,糖アル

コールと徐放性高分子を利用したマイクロポアによ

る新しい放出制御技術の確立を目指している.苦味

マスキングについては胃溶性高分子-ワックスの系

にpH非依存性の徐放性高分子を更に添加すること

により胃内pHで溶けやすく口腔内pHで溶けにく

い性質(pH依存性)が助長され,従来では不可能

であった溶解性の高い薬物への適用も可能であろう

と考えている.現在, pH依存性の異なる多くの腸

溶性高分子が利用されているが,それとワックスを

組み合わせる事により,小腸(pH6.8)では放出せ

ず,大腸(pH7.4)で放出する大腸デ)バリーシス

テムを設計し,難治性疾患である潰癌性大腸炎への

適用を指向している.構成成分として糖アルコール

を分散させたマトリックスは溶液中で糖アルコール

が瞬時に溶解するため,微細な孔(マイクロポア-)

がマトリックス表面に生成され,マトッリクスの有

効表面積(溶液と接する部分の面積)が変化する.

我々はこの機構を利用し,糖アルコールの粒子径や

添加量を変化させ,薬物放出を制御する試みを実施

422

している.

3.脂質ナノ粒子製剤の研究

難溶性薬物の吸収を増大させ,体内に効率的に薬

物を送達させることで適切な経口バイオアベイラビ

リティを得るためには,薬物の水-の溶解性を改善

することが重要である.これまで世界中で,水溶性

高分子との混合粉砕,薬物の非晶質化固体分散体

の調製など,さまざまな方法が用いられている.近

年では,特にナノテクノロジーが注目されており,

リビッドエマルションやリポソームなど薬剤を選択

的かつ効率的に送達するための薬物送達システム

(DDS)の研究開発が活発に行われている.

ナノテクノロジーによる薬物の微細化は,薬物の

比表面積を増大させ,溶解速度を向上させるだけで

なく, ostwald-Freundlich's Equationに従って,

薬物の溶解度を増大させる.また,ナノ粒子はサブ

ミクロンサイズのため粘膜層に深く進入し,結果的

に薬物の吸収を持続化できバイオアベイラビリティ

を向上させる.さらには,粒子が微小で肝臓や牌臓

などの細綱内皮系に捕捉されにくいために全身循環

における滞留性が増大し,薬物作用の持効力が期待

できる・以上のことから,ナノサイズへの薬物の微

細化は有用な戦略であると考えられる.

当研究室ではこれまでに平均粒子径100 nm以下

の超微粒子製剤であるナノ粒子懸濁液を調製し,実

際にグリセオフルビンやニフェジピンなどの難溶性

薬物の微細化による溶解性の改善に成功してきた

(Chem・ Pharm・ Bull・, 54, 181-184(2006); Int. J.

Pharm・, 354, 242-247(2008) ; Int. J. Pharm., 377,

1801184(2009) ; Drug Deu. Ind. Pharm., 2009 in

press).現在はそのナノ粒子の物理化学的特性につ

いての詳細を検討しており,今後,様々な難溶性薬

物に対しても適応できるよう,研究を進めている.

4.グリセリン脂肪酸エステルの

滑沢メカニズムに関する研究

滑沢剤は打錠前願粒の流動性,充てん性,付着性

及び錠剤の成形性を改善する機能を持ち,固形製剤

の品質と製造効率の向上に不可欠な医薬品添加物で

ある・滑沢剤として良く用いられているものに,ス

テアリン酸マグネシウムがあるが,その添加する量

が少し増えただけで,体内における主薬の溶出が遅

薬剤学Ⅶ1.69,No.6(2009)

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れたり,適度な硬さの錠剤ができないという欠点が

ある.一方,グリセリン脂肪酸エステルという物質

を滑沢剤として用いると,ステアリン酸マグネシウ

ムの欠点が現れることなく,品質の良い錠剤が出来

る.このような違いが現れるのは,グリセリン脂肪

酸エステルとステアリン酸マグネシウムとの問で,

滑沢作用のメカニズムが違うためであり,現在はこ

のメカニズムに関して検討している.

5.新規遠心転動流動造粒法による製剤設計

一時限放出製剤の設計を目指して-

コーティング微粒子の製造には混合,造粒,球形

化,乾燥,コーティングといった5工程により成り

立っており,通常,全ての単位工程あるいは複数の

単位工程を別の機械を使用して実施する.その為,

製品の収率の低下,粒子径の変動要因の増加,コー

ティングの不均一化等の問題が機械の切り替え時に

起きる危険性を伴う.遠心転動造粒装置(図2)は

転動造粒法と流動層造粒法の機能を統合した装置で

あり,コーティング微粒子製造の全工程をこの装置

の中で連続的に実施出来る.さらに装置下部の転動

部の回転により真球度の高い重質な粒子が得られ,

最終工程でのコーティングの均一化を容易にする.

しかしながら,本装置は2種の機能を統合している

ため,操作が複雑であり,安定化した微粒子製造を

可能にするため′には,各因子の相互作用を明らかに

することが必要不可欠である.現在我々は,製造工

程における種々の条件(結合剤水溶液の噴霧時間,

噴霧圧,給気温皮,ローターの回転数,スリットエ

アーの風量)を変化させ造粒を行い,各因子と得ら

れた造粒物の粉体物性(粒皮分布,真球度,流動性)

との関係を多変量解析により明らかにし,処方及び

製造方法の最適化を検討している.本研究における

我々の最終目標は本装置を使用して時限放出製剤を

設計することにある.ヒトの生理機能や病状は日内

で周期的に変動するため,日内変動を考慮した治療

法が重要であると言われている.この考えは既に

「時間薬物治療学」として体系化されている.例え

ば,気管支嶋息発作は明け方に起きることが多い.

そのため,この時期に服薬することが望ましいが,

実際は困難である.もし,就寝前に服薬し,明け方

に作用する薬があれば非常に利便性の高い製剤にな

ると考えられる.

図2 遠心転動造粒装置

6.新規物性評価法の展開

-有効表面積評価法の用途拡大一

固形製剤の品質を評価する理化学試験の一つに

「溶出試験」がある.この試験では,溶解度や拡散に

関する定数といった主薬の性質,また主薬の粒子径

や粒度分布,処方,製造方法,崩壊性や分散性と

いった製剤性状などの製剤技術に関わる性質などが

統合された結果として算出される.薬物の溶出性に

ついては,広範囲にわたる多くの成書があり,主薬

自体の溶解性については,理論的かつ体系的な検討

がなされている.しかし,製剤からの薬物の溶出過

程を現象面のみならず,機構面より記載した文献は

ほとんどない.

通常,主薬の溶解度は薬物固有の値であり,製造

条件に影響されない.また,溶液量も任意に決定で

きる因子である.これらのことから製造条件により

溶出速度が変化した場合,それは主薬の溶液に接し

た表面積の違いであるものと考えられる.この「溶

出過程における溶液と主薬の接する部分の表面積」

を有効表面積と呼ぶが,この表面積は経時的に変化

することや他の添加物の存在などにより実測値とし

て求めることが不可能である.そこで従来より,仮

想的物性として捉えられてきた.

我々は,確率密度関数を利用することにより,こ

の有効表面積を経時的に求める解析法を確立した

(chem. Pharm. Bull., 34, 128011288(1986);

chem. Pharm. Bull., 34, 1264-1274(1986) ; Chem.

pharm. Bull., 33, 5464-5473(1985)).本法の解析

手順とその応用例を図3-5に示す.主薬の溶解

皮,単位表面積あたり溶解速度定数さえ,あらかじ

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1.主薬の溶解度(cs)、単位表面積あたりの溶解速度定数(k)を求めるo

2.溶出試験により、(1)式に各時間tにおける溶出データ(C)を代入し、F(I)を求める○

3.直線回帰、もしくは非線形最少二乗法により、各時間tのF(I)の値を

最も満足させる確率密度関数¢(t)のパラメ-タを決定するo

4.実験デ-タ(cs、k、Wo、V)及び確率密度関数の′巧メ-タを(2)式

に代入し、S(I)の経時変化を求め、(3)式の理論溶出曲線と実測値の

一致性により、S(I)の妥当性を検証する(wo:製剤中の主薬含量Ⅴ‥溶液体積)o

F(t,∫.ts(t,dt/(. S;S(t)dt - ln(Cs/(Cs-C))/ln(Cs/(Cs-Wo/V)) (1)

F(t):有効表面積の生成率

S(t)-W(・ln(Cs/Cs-Wow))I 0(t) (2)

C - Csl1-exp(-(1n(Cs/(Cs-Wow)) ・ ).i (t))] (3)

図3 有効表面積tS(t))の解析法

時間(分)

図4 Weibull分布関数に回帰させたフルフェナム酸200mg錠の有効法面積

時間(分)

図5 Weibull分布関数に回帰させたフルフェナム酸

200 mg錠の溶出濃度

め求めておけば,溶出試験結果より有効表面積を各

時間において算出することが出来る.現在,種々の

製剤的要因に関して有効表面積を算出しており,今

後,この「有効表面積」を指標とした新しい製剤設

計と評価が可能になると考えている.

424

7.お わ り に

私が今,是非実現したいことは,医療機関との関

係をより深めたいということである.現在,学生や

院生に製薬企業での経験をもとに講義をしている

が,今まで医療関係者との接触が殆どなかったた

め,現場での製剤の使われ方や要望については,哩

解できていない.企業においては大量生産性を意識

した製剤化検討のため,検討内容にある程度の制約

があった.院内製剤では個々の患者やその様態に合

わせたテーラーメイドの製剤設計が可能であり,今

まで企業で蓄積してきた技術,知識を大いに発揮で

きる分野であると考える.また,その検討の中から

新剤形の開発につながる可能性も多いに期待でき

る.幸い,私の赴任後,元東京慈恵会医科大学病院

薬剤部の並木徳之教授と元東京女子医科大学病院薬

剤部の官署靖則准教授がそれぞれ当大学に迎えられ

た.両先生とも大学病院薬剤部での経験が長く,ま

薬剤学Vbl.69,No.6(2009)

(Ntm)鰹恒解雇仲

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た製剤に関する造詣も深い.このような絶好の環境

の中,両先生とともに生活者や患者のQOL (Qual-

ityOfLife)の向上を指向した創剤研究に注力して

行きたいと考えている.

参 考 文 献

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5) T. Mizumoto, T. Tamura, H. Kawai, A. Kajiyama,

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6) T. Mizumoto, T. Tamura, H. Kawai, A. Kajiyama,

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