radioss-cfd による排気消音器の数値解析 - altair …...radioss-cfd...

12
RADIOSS-CFD による排気消音器の数値解析 Numerical analysis of the flow in an exhaust silencer by RADIOSS-CFD 笠島祐也 唐澤萌 山本賢秀(東電大) 桜井雅人(本田技術研究所) Yuuya KASAJIMA, Moe KARASAWATakahide YAMAMOTO,Tokyo Denki University, Nishikicho2-2, Chiyoda-ku, Tokyo Masato SAKURAI, Honda R&D, 4630Shimotakanezawa, Haga,-Machi, Haga-Gun, Tochigi Key Word; Exhaust System, Pulsating Flow, Computational Fluid Dynamics, Internal Combustion EngineHigh-Speed Pulsating Flow 1.研究背景と目的 近年,車の環境騒音に対する規制は厳しくなりつつある.そこで排気騒音の低減を実現すべ くシミュレーション技術が必要であると考える.本研究では,排気騒音の低減化に向けて,排 気消音器内部の RADIOSS-CFD を用いた数値解析による排気脈動の管内流れ現象の考察をおこ なった. 2.消音器の数値解析 2-1 数値解析について 年々,自動車業界では車に対する安全性能を重視する一方で,モデルチェンジあるいは新車の 開発を早めるべく,実験用の試作車で実験を行うのではなく,コンピュータシミュレーションに よる計算を行うことで開発日数を減らすとともにコスト削減につなげている.このような手法を CAE(Computer Aided Engineering)という.本研究では市販のソフトウェアRADIOSS-CFDを使用す る. RADIOSS-CFDとはフランスMECALOG社で開発された,時間積分に陽解法を用いた有限要素 (流体計算は有限体積法)の構造・流体連成プログラムである.工業用としては 1998 年に最初 のバージョンがリリースされ,その後,数々の機能拡張を行い 2006 12 月現在の最新バージョ ンは 5 であり,陽解法圧縮性流体の比較的現象時間の短い流体や,構造との連成振動流れを扱う. 本研究では,時間ステップが非常に小さい陽解法の特長を生かして排気脈動といった圧縮性非線 形流れ場への適用を試みた 12-2 本数値解析手法の特徴 本研究で用いた市販解析プログラムRADIOSS-CFDは有限体積法と有限要素法を組み合わせ た陽解法圧縮性流体・構造連成解析プログラムである.本研究においては流体要素のみの計算で

Upload: others

Post on 10-Mar-2020

41 views

Category:

Documents


1 download

TRANSCRIPT

RADIOSS-CFD による排気消音器の数値解析

Numerical analysis of the flow in an exhaust silencer by RADIOSS-CFD

○ 笠島祐也 唐澤萌 山本賢秀(東電大) 桜井雅人(本田技術研究所)

Yuuya KASAJIMA, Moe KARASAWA,Takahide YAMAMOTO,Tokyo Denki University,

Nishikicho2-2, Chiyoda-ku, Tokyo Masato SAKURAI, Honda R&D, 4630Shimotakanezawa, Haga,-Machi, Haga-Gun, Tochigi

Key Word; Exhaust System, Pulsating Flow, Computational Fluid Dynamics, Internal Combustion Engine,High-Speed Pulsating Flow

1.研究背景と目的

近年,車の環境騒音に対する規制は厳しくなりつつある.そこで排気騒音の低減を実現すべ

くシミュレーション技術が必要であると考える.本研究では,排気騒音の低減化に向けて,排

気消音器内部の RADIOSS-CFD を用いた数値解析による排気脈動の管内流れ現象の考察をおこ

なった.

2.消音器の数値解析

2-1 数値解析について 年々,自動車業界では車に対する安全性能を重視する一方で,モデルチェンジあるいは新車の

開発を早めるべく,実験用の試作車で実験を行うのではなく,コンピュータシミュレーションに

よる計算を行うことで開発日数を減らすとともにコスト削減につなげている.このような手法を

CAE(Computer Aided Engineering)という.本研究では市販のソフトウェアRADIOSS-CFDを使用す

る.

RADIOSS-CFDとはフランスMECALOG社で開発された,時間積分に陽解法を用いた有限要素

法(流体計算は有限体積法)の構造・流体連成プログラムである.工業用としては 1998 年に最初

のバージョンがリリースされ,その後,数々の機能拡張を行い 2006 年 12 月現在の最新バージョ

ンは 5 であり,陽解法圧縮性流体の比較的現象時間の短い流体や,構造との連成振動流れを扱う.

本研究では,時間ステップが非常に小さい陽解法の特長を生かして排気脈動といった圧縮性非線

形流れ場への適用を試みた(1).

2-2 本数値解析手法の特徴

本研究で用いた市販解析プログラムRADIOSS-CFDは有限体積法と有限要素法を組み合わせ

た陽解法圧縮性流体・構造連成解析プログラムである.本研究においては流体要素のみの計算で

あるため,有限体積法を使用する.

2-3 支配方程式について

(1)Navier-Stokesの方程式

粘性流体に対する運動方程式をNavier-Stokesの方程式といい,式(3.1)のように表すことがで

きる.

⎭⎬⎫

⎩⎨⎧ ∇++−= uudivgradpgradK

DtuD 2) (

31 μρρ ・・・・・・・・・・・・・・・(2.1)

ρ

u

t

: 時間(s)

: 流速(m/s)

: 密度(kg/m3)

K

p

μ

なお, )(,, zyx ∂∂

∂∂

∂∂

=∇ とした.

ナビエ・ストークスの方程式は,流体にどのような力が加わるとどのような動きが生まれるかを

表している.

(2)連続の式

流体が運動している場合においても質量保存則が成立する.これを定式化して流体力学では連続

の式と呼び,式(2.2)のように表すことができる.

0))(( =×∇+∇×−+∂∂ uwu

tρρρ

・・・・・・・・・・・・・・・・・(2.2)

ρ

t

u

w

なお, )(,, zyx ∂∂

∂∂

∂∂

=∇ とした.

単 質位 量あたりの外力(N) 圧 (P力 a) 粘 率性 (kg/(m・s)) : 粘性率(kg/(m・s))

: 圧力(Pa)

: 単位質量あたりの外力(N)

: 節点速度(m/s)

: 流速(m/s)

: 時間(s)

: 密度(kg/m3)

(3)エネルギ保存則

流体の持つ単位質量あたりの位置エネルギ,運動エネルギ,圧力エネルギ,エネルギ損失(ま

たは授受)の総和は変わらない.これを式(2.3)のように表すことができる.

0)())(( =×∇++∇×−+∂

∂ upeewute ρρρ

・・・・・・・・・・・・・・・・・(2.3)

ρ

: 節点速度(m/s)

: 流速(m/s)

: 全エネルギ(N・m)

: 密度(kg/m3) e

u

w

なお, )(,, zyx ∂∂

∂∂

∂∂

=∇ とした.

2-4 計算モデル 2-4-1 高速脈動発生装置全体計算モデル

本計算モデルは図 2.1 に示すように 0.25mm 間隔の正方メッシュを持った,y 軸を中心とする

2D 軸対称モデルを使用する(使用した要素数 268164).管出口下流のモデルは計算リソース(PC

メモリ~1GB)の関係で図 2.1 のような 100mm 四方の噴流場での計算を行うこととした.

高速脈動実験装置(3)のノズル,ロータリーバルブ,排気管および排気吐出部分までを境界条

件を与えて解析モデルで模擬的に再現する.

まず,モデル Aで計算をし,断面 A-A’の計算結果をモデル Bの断面 B-B’に入力する.

計算モデル生成法として,RADIOSS 形式のメッシュ生成ファイルを C言語により作成する.

Nozzle

ValveStraight Tube

1000 100

High-Pressure Chamber

Center Axis0.25 mm

Silent Boundary

10

0

100

ReflectiveArea of

Compression

200

300

Center Axis0.5 mm

0.25

mm

0.5

mm

Silent Boundary

ReflectiveArea of

Compression

A

A'

B

B'

Model B

Model A

Fig.2.1 Calculation Model

(Real Size Muffler~Φ115,Φ150,Φ150 Double Expansion)

2-4-2 内燃機関における消音器計算モデル 消音器の部分をクローズアップした計算モデルを図 2.2-図 2.6 に示す.本モデルはスポーツマ

フラなどでよく見られる膨張型同軸構造の消音器モデルで,入口側のインナーパイプはアウター

パイプ全長の 1/2 に開口端のあるパイプとし,出口側のインナーパイプはアウターパイプ全長の

1/4 に開口端のあるパイプとする.また,図 2.5 はスポーツマフラなどでよく見られる開口端部

より 10mm の位置に吐出口端と平行に設置した,気流音を発生させるアタッチメントを取り付け

た消音器である.消音器の容量は 7 リットルで,アウターパイプの内径を D,全長を L とする.

各寸法を表 2.1 に示す.

D L 1/2×L 1/4×L

Φ115 115 700 350 175

Φ150 150 396 198 99

Φ150 Double Expansion 150 198 99 50

Table.2.1 Size of Muffler

L

L L1

2 4_ 1_

62 34

200

300

41

135

Center Axis

Inlet

Silent Boundary

Wall

Fig.2.2 Coaxial Pipe Muffler Model

700

350 175

Fig.2.3 Φ115 Axisymmetric Muffler Model

396

198 99

Fig.2.4 Φ150 Axisymmetric Muffler Model

396

198 99 10

Fig.2.5 Φ150 Axisymmetric Muffler with Attachment Model

496198198 100

995099 50

Fig.2.6 Φ150 Double Expansion Axisymmetric Muffler Model

2-5 排気脈動数値解析条件 本数値計算においては,外部の系との熱の授受が行われていない等エントロピー仮定のもとに

計算を行い,入口,出口の排気管圧力,流速,温度,密度を出力する.これにより,高速脈動発

生装置で得られた実験値との比較検証をおこなうものとする.

流入条件としては高圧タンク内初期圧を任意に設定し,流出条件として管内壁面境界条件はノ

ンスリップ境界とし,圧縮性解法を用いる.吐出噴流空間上は,初期設定は大気開放(圧力一定,

速度ゼロ),境界面は無反射境界とし圧縮性流体解法(MAT6)に設定した. 2-5-1 入力物性値 次に計算に用いた物性値を表 2.2 に示す.

Fluid Viscous

Initial density 1.2 (kg/m3)

Speed of sound 344.98 (m/s)

Kinematic viscosity 1.5E-05 (m2/s)

Table.2.2 Input Data

2-5-2 移動メッシュ(ALE 法)による脈動生成バルブモデル

高圧タンク内初期圧を任意に流入条件を設定し,RADIOSS-CFD の機能の特徴のひとつであ

るALE 法(Arbitrary Lagrangian Eulerrian)(2)による移動メッシュ(図 2.7)を用いてバルブ

部分の断面積を変化させ,高速脈動を生成させる.この断面積変化は実験装置での断面積変化

をシミュレートしている.

open

close

Fig.2.7 Calculation Mode

2-6 数値解析結果

2-6-1 Φ115 消音器圧力履歴計算結果 Φ115 の消音器の管中央部における圧力履歴結果を図 2.8 に示す.横軸が脈動の半周期に

かかる時間で無次元化した無次元時間,左側の縦軸は大気圧で無次元化した圧力,右側の縦

軸はそれぞれの測定位置である.なお,図中の赤と青の破線は管内圧縮波および管内膨張波

の立ち上がり部分を上流 Port 順(①~⑨)に結んだ線である.

High pressure

Rotary valve

Nozzle

ap

p/

Nor

mal

ized

Pre

ssur

e

Port

Num

ber

Compression WaveExpansion Wave

Normalized Time t/τ

Fig.2.8 Φ115 Muffler Pressure History

2-6-2 Φ150 消音器圧力履歴計算結果

Φ150 の消音器の管中央部における圧力履歴結果を図.2.9 に示す.

app

/

τ/t

Nor

mal

ized

Pre

ssur

e

Normalized Time

Port

Num

ber

Compression WaveExpansion Wave

Fig.2.9 Φ150 Muffler Pressure History

2-6-3 Φ150 二段膨張消音器圧力履歴計算結果 図 2.10 に Φ150 二段膨張消音器の圧力履歴結果を示す.

Compression WaveExpansion Wave

Fig.2.10 Φ150 Double Expansion Muffler Pressure History

2-6-4 消音器内部の圧力分布の比較 消音器内部の圧力分布図を図 2.11 に示す.圧力のコンターカラーマップは大気圧で無次元化

している.高速脈動発生装置の高圧タンクの圧力比は 1.2 に設定して計算した.

Fig.2.11 Pressure Distribution

参考として,図 2.12 に 3 種 す.

(a) Φ115 Muffler (b) Φ150 Muffler

類の消音器の管内での反射の様子を示

bl(c) Φ150 Dou e Expansion

Fig.2.12 Pr stribution

2-6-5 開口端部の圧力波形の比較

を図 2.13 に示す.圧力のコンターカラーマッ

Fig2.13 Pressu istribution

Muffler

essure Di

吐出口端から拡大管部吐出口以降の圧力分布図

は大気圧で無次元化している.高速脈動発生装置の高圧タンクの圧力比は 1.2 に設定して計算

した.

(a) Φ115 Muf Pressure Distribution

Normalized Pressure

(b) Φ150 Mu r Pressure Distribution

(c) Φ

1.20

1.18

1.16

1.14

1.12

1.10

1.08

1.06

1.04

1.02

0.99

fler

ffle

150 Double pansion Muffler Pressure Distribution ex

re D

2-6-6 LES乱流モデルを用いた気流音アタッチメントの消音器内部と吐出

図2.14に開口 に吐出口端と平行に設置したアタッチメントを取り付け

た消

Fig.2.14 Pressure Distribution

3.数値解析における考察

3-1 Φ115 消音器圧力履歴数値解析における考察

中では高い圧力波(圧縮波

と膨張波

3-2 Φ150 消音器圧力履歴数値解析における考察

射に比較して,反射の回数

が多いこ

同軸消音器の圧力履歴に対し低減している

-3 Φ150 二段膨張消音器圧力履歴数値解析における考察

目の膨張室の入

口端部の圧力分布 端部より10mmの位置

音器の圧力分布を示す.圧力のコンターカラーマップは大気圧で無次元化している.なお本

計算の吐出口からの吐出噴流計算には RADIOSS-CFD の機能の特徴であるLES乱流モデルを

用いて計算した.また高速脈動発生装置の高圧タンクの圧力比は PR=1.2 に設定して計算した.

Time= 4.700e-3

図 2.8 より,アウターパイプ全長の 1/2 の入口側インナーパイプの

)が連続して出ているが,入口側のインナーパイプの開口端を出た後は圧力が極端に低

下している.出口側のインナーパイプに入ると,再び圧力波が成長してきているが拡大管(スウ

ェージング)で再び圧力が低下したのが分かる.全長の 1/2 入口側のインナーパイプを出たとき

に開口端反射が生じていることがわかる.

図 2.9 より,Φ115 同軸消音器の入口側インナーパイプの開口端反

とが分かる.このことは,Φ150 の同軸消音器の入口側インナーパイプが Φ115 のイン

ナーパイプよりも短いためであると考えられる.

一方,出口側インナーパイプでの圧力履歴は Φ115 の

ことがわかる.

図 2.10 より,一つ目の膨張室の入口側インナーパイプで開口端反射し,二つ

口側インナーパイプで二度目の開口端反射をしているのがわかる.一つ目の膨張室の入口側イン

ナーパイプを出た後,圧力が極端に低下している.

3-4 消音器内部の圧力分布の比較における考察 の運動エネルギの関係が一定

3-5 開口端部の圧力波形の比較における考察 するため,単純な進行方向に平

3-6 気流音アタッチメントによる計算結果における考察 布の計算結果(図

4.結論

本研究で以下のことが RADIOSS-CFD による数値解析の結果,確認された.

数値解析による可視化により,内燃機関における消音器内および吐出口端の排気脈動流れの挙

ナーパイプの高い脈動圧力波が,開口端部で球面伝播し,消音器外壁

消音器出口側吐出口の複雑に反射された圧力波は,重なりあった球面状の波であり,吐出口

エネルギ保存則により静圧によるポテンシャルエネルギと速度

あると仮定すると,Φ115 同軸消音器は Φ150 同軸消音器に対し消音器内インナーパイプ開口

端部圧力が高いと思われる.このとき,Φ115 同軸消音器は圧力が高くなり反対に流速が小さく

なる.一方 Φ150 同軸消音器は圧力が低くなり流速が大きくなると考えられる(図 2.11-2.12).

出口側インナーパイプに複雑に反射された圧力波が管内を入射

な平面波ではなく重なりあった球面上の波であることが分かる.さらに吐出口端から出た圧縮

波は複雑な球面形状の波が重なり合っていることがわかる(図 2.13).

開口端部より 10mmの位置にアタッチメントを取り付けた消音器の圧力分

2.14)から,開口端部とアタッチメントの 10mmの隙間から衝突噴流が生じていることが分かる.

さらに,衝突噴流は開口端部径方向全周に同心円状に広がり,渦輪が生成されている過程が計算

によって可視化された(4).

に以下の知見を得た.

・消音器内の入口側イン

部に複雑に反射して出口側インナーパイプに入射する様子を確認した.

端から出た圧縮波は複雑な球面形状の波となり,脈動周期(内燃機関の場合はエンジン回転

数)に同期した脈動音の音源となる.また,吐出口端部から発生した渦輪が成長し,脈動周

期に非同期の高周波成分が吐出口の流速に応じて増加し気流音の音源となる.

参考文献

(1) RADIOSS-CFD ユーザーマニュアル

rian Finite Elements Methods,Computational Methods

(3) haust noise generated by pulsating flow

downstream of pipe end,JSAE Review 20, p.73-79 (1999)

(4) Masato Sakura ,“Simulation Technology of Exhaust Pulsating Flow & Orifice Noise”

JSAE「Review of Automotive Engineering」Vol.27 No.4 (2006)

(2) Donea,J.:Arbitary Lagrangian-Eule

in Transient Analysis,Vol.1,No.10 (1983)

Higashiyama,J.,et al.:Experimental study of ex