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R E D O X N A V I  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 先端融合医療レドックスナビ研究拠点 R E D O X N A V I

  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 先端融合医療レドックスナビ研究拠点の3年間のシステム改革

I n f o rm a t i o nURL:http://www.redoxnavi.com/index.html

先端融合医療レドックスナビ研究拠点HPレドックスナビゲーションや各研究グループの紹介等をホームページにて公開しています。詳細はホームページをご覧ください。

レドックスナビ拠点の概観とナビ拠点の位置

 九州大学は、来年2011年に総合大学として創立百周年

を迎えます。日本を代表する基幹総合大学として、その百

年の伝統を礎に、世界的研究・教育拠点として次の百年に

向けて知の新世紀を拓くべく、教育・研究・診療等の諸活

動を展開することとしています。研究においては、卓越し

た研究者が集い成長していく学術環境を充実させ、世界的

水準での魅力ある研究や新しい学問分野・融合研究の発

展及び創成を促進し、環境・エネルギー・健康問題等人類

が抱える諸課題を総合的に解決するための研究を強力に

推進し、国際社会・国・地域の持続可能な発展に貢献する

ことを目標に掲げています。

 生体現象のセントラルドグマ的な原理ともいえるレ

ドックス(酸化・還元)反応は、様々な環境要因(物理因子、

化学因子、生物因子)の変動、あるいは非健康的な生活習慣

により異常を起こすことが知られています。この生体レ

ドックス変動により、がん、生活習慣病、脳神経変性疾患等

の種々の難治性疾患に繋がる可能性が強く指摘されてい

ます。これら疾患の患者、患者予備軍はわが国だけでも

1000万人以上、医療費は約10兆円にものぼるといわれ

ており、私たちの生活の質の向上と健康寿命に基づく安

心・安全な健康社会を妨げ、国民健康保険を大きく圧迫す

ることが憂慮されています。

 こうした課題の解決へ向けて、本学では、薬学・医学・工

学・農学の各研究院で行われているレドックスに関係す

る先駆的な研究を結集し、新たな融合医療領域の創成を提

案したところ、文部科学省科学技術振興調整費「先端融合

領域イノベーション創出拠点の形成」事業に採択されまし

た。これを機に、「先端医療レドックスナビ研究拠点」を

2007年8月に開設し、生体レドックス関連疾患の徴候を

発症前に発見し(視る)、適切な治療薬を投与し(操る)、生

体レドックス異常に基づいた施術を行う(治療する)こと

を一貫して推進する先端融合医療領域のイノベーション

を目指して、大学と協働企業が対等のパートナーとして協

力する新しい社会連携を進めています。

 真の協働研究をすすめるためには、大学部局間、あるい

は産学官の組織の壁を乗り越える必要があります。そこ

で、本学では、病院キャンパス内に約1,000m2の占有ス

ペースを提供し、専任教員や専門職員の配置、関係諸規則

の改正、知的財産マネジメントの新方法の制定等、産学協

働研究が進めやすい制度作り等を行い、全学的な協力体制

のもとで本拠点の基盤整備を行ってきました。

 大学のミッションである教育・人材育成の面では、本拠

点に結集した様々な分野の大学院生、若手研究者、企業研究

者が、日々、同じ場所で議論を自由にできる環境を整えたこ

とで、全く新しい概念の融合研究が生まれ、また世界最先端

の研究者を招いた国際フォーラムの開催等により若手人材

に大きな刺激を与えるなど、新たな力が芽生えています。

 昨年8月には新たに先端融合医療創成センターを設置

しました。本センターでは、本拠点の成果をもとにした産

学官共同・受託研究等を推進していきます。多くの企業や

研究機関の叡智が本拠点の研究にアクセスし、互いに連携

し合うことによって、更なるイノベーションが創出される

ことを期待しています。それらの研究成果が地域住民に

還元されるネットワークを構築し、地域住民が健康で安心

安全な暮らしを行うことにつながるものと考えています。

 2010年度からは新たな協働機関の参加を得て、文部科

学省の事業により研究を進めていくことが内定していま

す。皆様のこれまでのご協力、支援に篤くお礼を申し上げ

ますとともに、今後とも更なるご支援を賜りますよう、心

からお願いいたします。

 総長直轄の組織として、新施設を九州大学病院キャンパス内ウエ

ストウイング棟5階(約1,000 m2)に設置しました。本拠点は、九州

大学病院と医学部臨床研究棟にそれぞれ「レドックスナビ回廊」を

隔てて繋がっており、医療分野に関する基礎研究から臨床研究まで

一貫して進められる環境が整っています。医薬農工と協働機関が

お互いに意見を交わし、研究を進めることで、医療現場のニーズに

基づいた実用化につながるイノベーションを促進する環境を整え

ました。フロアの入り口には鍵を設け、出入りできる人を制限する

ことにより機密情報の管理を行うとともに、クローズドな研究や意

見交換を行うことができるように配慮しています。また、本拠点に

総長の裁量において専任教員を2名採用し、さらに、専属の事務支

援室を配置することで、本拠点における研究が迅速に、且つ、円滑に

推進できる体制を整えました。また、2008年10月より拠点長が副

学長兼研究戦略企画室長に任命され、本拠点を九州大学における最

重要プロジェクトとして位置付けられ、全学の研究協力・結集体制

を整えています。

 本拠点は各協働機関の独自性を確保するだけでなく、分野の異な

る協働機関間の融合を促進し、新たなイノベーションを創成するこ

とを目的としています。そこで、全ての協働機関が同意でき、実用

化に向けて実施しやすい知的財産の取扱い方法を、九州大学および

全ての協働機関の知財担当者から構成される知的財産委員会で充

分に協議し整備しました。また、九州大学と各協働機関との個別の

研究で生まれ、共同出願した知的財産については、機密性を堅持す

るためのシステムの整備(ラボノート、アイソレートラボなど)をし、

協働機関が独占的通常実施権を得られるなど個別知財を確保でき

るようにし、本拠点で共有することにより融合研究が発展する知的

財産については、他の協働機関が他社よりも優先的に実施できるよ

う仕組みつくりを行いました。

 

 融合研究の研究開発を促進するためには、医薬農工の各領域に精

通し、産学双方のニーズに応えられる先端融合医療研究者の育成が

必須です。そこで、各研究グループ長、協働機関の研究者、外部の講

師によるセミナー、講演会やフォーラムを開催しました。セミナー

等の内容は、基礎研究、臨床研究、企業研究、知財戦略、事業化戦略等

多様な分野にわたり、ポスドクや学生に対して研究開発内容の共有

を図るとともに、企業の視点から研究開発の進め方や経営や知財に

ついて教育を行いました。ポスドク30名、大学院生40名、学部生

30名が延べ参加し、レドックスナビ医療研究開発人材の育成を進

めています。また、本レドックスナビ研究拠点と協力関係にある

JSPS Core-to-Core Project(国際戦略型)「生体レドックスの磁

気共鳴分子イメージング研究拠点」と連携し、若手人材育成を行っ

ています。

 

 先端融合医療レドックスナビ研究拠点を中心として外部の企業

や治験センター等の機関、橋渡し研究やスーパー特区等の事業の連

携を可能とする体制として2009年8月「先端融合医療創成セン

ター」を設立し、ウエストウイング棟6階(約1,000 m2)に占有施設

を準備しています(2010年3月完成予定)。これにより、本拠点で

得られた成果を外部の機関が利用できるだけでなく、本拠点と他事

業・他機関との連携により見出された研究シーズをもとに本セン

ターが実用化を進めることができるため、今後、本センターが外部

協力企業との連携窓口となり、さらなる研究の発展と出口を見据え

た展開が期待できることから、創薬、診断、治療をより効果的に、効

率的に実現することが可能です。

 

 分析、診断、治療、創薬を一貫して先端融合医療領域をイノベー

ションするという本拠点の目的を達成するには、医薬農工の4領

域が有機的に連携し、情報を交換して統合することが必須です。

そこで、協働機関が一つの場所(九州大学ウエストウイング棟5

階)で研究を行える環境を整えました。また、真の人材育成は、大

学と企業が一体となって行う研究・開発と日々の教員・学生・ポス

ドク間の交流・ディスカッションを通してなされるものと考え、実

際の研究場所では、居室をグループごとに区切らず、一つの空間に

同居させる事により、日々、研究に関してディスカッションできる

ように配慮しました。同じ空間で時間を過ごすことで、日常的に

お互いの研究内容を知り、コミュニケーションを行うことができ、

融合研究が促進され、これまでに既に8つの融合研究が進行し、成

果を得ています。

ごあいさつ

有川 節夫 九州大学 総長拠点総括責任者

 私たち生命体の恒常性維持には、レドックス反応

「レダクション(還元)とオキシデイション(酸化)」を

経由して生成する活性酸素や酸化性物質、還元性物

質が生体因子の活性を制御することで重要な役割を

果たしていると考えられています。

 外部環境要因(物理因子、化学因子、生物因子)、あ

るいは非健康的な生活習慣により、この制御が崩壊

することで、がん、生活習慣病、心疾患等を引き起こ

す可能性が示唆されています。これら疾患の患者、患

者予備軍は我が国だけでも1,000万人以上にも上る

と言われています。

 そこで本研究拠点は、「生体レドックスを詳細に評

価し、自在に操ることを可能とする統合技術」として

レドックスナビゲーションの概念を提唱し、1年間の

フィージビリティスタディを経て平成19年度より科

学技術振興調整費「先端融合領域イノベーション創

出拠点の形成」事業に本採択され、レドックス関連疾

患の早期診断・治療法の確立、治療薬の開発を指向し

た先端融合医療領域の創成を目指しています。この

目的を達成するために、医学、薬学、農学、工学の学の

英知と医療・製薬・分析機器の各工業界の創造力を結

集し、要素技術の開発を行い、さらには、医療分野に

関する基礎研究から臨床研究を一貫して進めるため

に、分野横断型の融合研究を実施してきました。

 これらの産学協働、融合研究を進めるため、本拠点

では統括責任者のもと、革新的なシステム改革を行

いました。具体的には、拠点の占有スペースの設置、

知的財産の取り扱いや管理についての改革、医薬農

工が融合的に連携し教育・研究を推進するための環

境・若手研究者の人材育成に関する改革等です。これ

らの斬新なシステム改革を行うことで、異分野の教

員・学生、また企業の研究者が機密保持をしつつ自由

な発想のもとイノベーションを創出し、融合的な研

究を進める環境を整えました。その結果、当初は7年

目で融合研究を遂行し、10年目でセンターを設置す

ることを達成目標としていましたが、現在までに各

研究グループが掲げた3年目の目標のほとんどを達

成できただけでなく、九州大学と企業間及び大学を

挟んで企業間で既に8つの融合研究が進むなど、グ

ループ間融合も進みつつあります。また、終了時に設

立を目標としていた生体レドックスナビ医療セン

ター(仮称)の役割を担う先端融合医療創成センター

を2009年8月に設立するなど、着実に成果をあげて

います。

 今後も本拠点の成果が世界に波及し、世界中から

研究者が集まるような拠点の形成を目指し、拠点形

成を進めています。平成22年度以降も本拠点は継続

することとなりました。皆様方のご指導とご支援を

賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

先端融合医療レドックスナビ研究拠点の3年間のシステム改革

1 九州大学病院キャンパス内に先端融合医療レドックスナビ研究拠点(約1,000m2)を設立

2 九州大学と協働機関とで結成した知的財産委員会を設置し、規則を整備

3 生体レドックスに関する知識共有化のため、若手研究者を対象としたセミナーを開催

4 医療における各プロセスを一貫して進める先端融合医療創成センターを設立

5 融合領域の研究開発を推進

ごあいさつ

内海 英雄 拠点長 / 副学長九州大学大学院薬学研究院 教授

32 54

R E D O X N A V I  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 先端融合医療レドックスナビ研究拠点 R E D O X N A V I

  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 先端融合医療レドックスナビ研究拠点の3年間のシステム改革

I n f o rm a t i o nURL:http://www.redoxnavi.com/index.html

先端融合医療レドックスナビ研究拠点HPレドックスナビゲーションや各研究グループの紹介等をホームページにて公開しています。詳細はホームページをご覧ください。

レドックスナビ拠点の概観とナビ拠点の位置

 九州大学は、来年2011年に総合大学として創立百周年

を迎えます。日本を代表する基幹総合大学として、その百

年の伝統を礎に、世界的研究・教育拠点として次の百年に

向けて知の新世紀を拓くべく、教育・研究・診療等の諸活

動を展開することとしています。研究においては、卓越し

た研究者が集い成長していく学術環境を充実させ、世界的

水準での魅力ある研究や新しい学問分野・融合研究の発

展及び創成を促進し、環境・エネルギー・健康問題等人類

が抱える諸課題を総合的に解決するための研究を強力に

推進し、国際社会・国・地域の持続可能な発展に貢献する

ことを目標に掲げています。

 生体現象のセントラルドグマ的な原理ともいえるレ

ドックス(酸化・還元)反応は、様々な環境要因(物理因子、

化学因子、生物因子)の変動、あるいは非健康的な生活習慣

により異常を起こすことが知られています。この生体レ

ドックス変動により、がん、生活習慣病、脳神経変性疾患等

の種々の難治性疾患に繋がる可能性が強く指摘されてい

ます。これら疾患の患者、患者予備軍はわが国だけでも

1000万人以上、医療費は約10兆円にものぼるといわれ

ており、私たちの生活の質の向上と健康寿命に基づく安

心・安全な健康社会を妨げ、国民健康保険を大きく圧迫す

ることが憂慮されています。

 こうした課題の解決へ向けて、本学では、薬学・医学・工

学・農学の各研究院で行われているレドックスに関係す

る先駆的な研究を結集し、新たな融合医療領域の創成を提

案したところ、文部科学省科学技術振興調整費「先端融合

領域イノベーション創出拠点の形成」事業に採択されまし

た。これを機に、「先端医療レドックスナビ研究拠点」を

2007年8月に開設し、生体レドックス関連疾患の徴候を

発症前に発見し(視る)、適切な治療薬を投与し(操る)、生

体レドックス異常に基づいた施術を行う(治療する)こと

を一貫して推進する先端融合医療領域のイノベーション

を目指して、大学と協働企業が対等のパートナーとして協

力する新しい社会連携を進めています。

 真の協働研究をすすめるためには、大学部局間、あるい

は産学官の組織の壁を乗り越える必要があります。そこ

で、本学では、病院キャンパス内に約1,000m2の占有ス

ペースを提供し、専任教員や専門職員の配置、関係諸規則

の改正、知的財産マネジメントの新方法の制定等、産学協

働研究が進めやすい制度作り等を行い、全学的な協力体制

のもとで本拠点の基盤整備を行ってきました。

 大学のミッションである教育・人材育成の面では、本拠

点に結集した様々な分野の大学院生、若手研究者、企業研究

者が、日々、同じ場所で議論を自由にできる環境を整えたこ

とで、全く新しい概念の融合研究が生まれ、また世界最先端

の研究者を招いた国際フォーラムの開催等により若手人材

に大きな刺激を与えるなど、新たな力が芽生えています。

 昨年8月には新たに先端融合医療創成センターを設置

しました。本センターでは、本拠点の成果をもとにした産

学官共同・受託研究等を推進していきます。多くの企業や

研究機関の叡智が本拠点の研究にアクセスし、互いに連携

し合うことによって、更なるイノベーションが創出される

ことを期待しています。それらの研究成果が地域住民に

還元されるネットワークを構築し、地域住民が健康で安心

安全な暮らしを行うことにつながるものと考えています。

 2010年度からは新たな協働機関の参加を得て、文部科

学省の事業により研究を進めていくことが内定していま

す。皆様のこれまでのご協力、支援に篤くお礼を申し上げ

ますとともに、今後とも更なるご支援を賜りますよう、心

からお願いいたします。

 総長直轄の組織として、新施設を九州大学病院キャンパス内ウエ

ストウイング棟5階(約1,000 m2)に設置しました。本拠点は、九州

大学病院と医学部臨床研究棟にそれぞれ「レドックスナビ回廊」を

隔てて繋がっており、医療分野に関する基礎研究から臨床研究まで

一貫して進められる環境が整っています。医薬農工と協働機関が

お互いに意見を交わし、研究を進めることで、医療現場のニーズに

基づいた実用化につながるイノベーションを促進する環境を整え

ました。フロアの入り口には鍵を設け、出入りできる人を制限する

ことにより機密情報の管理を行うとともに、クローズドな研究や意

見交換を行うことができるように配慮しています。また、本拠点に

総長の裁量において専任教員を2名採用し、さらに、専属の事務支

援室を配置することで、本拠点における研究が迅速に、且つ、円滑に

推進できる体制を整えました。また、2008年10月より拠点長が副

学長兼研究戦略企画室長に任命され、本拠点を九州大学における最

重要プロジェクトとして位置付けられ、全学の研究協力・結集体制

を整えています。

 本拠点は各協働機関の独自性を確保するだけでなく、分野の異な

る協働機関間の融合を促進し、新たなイノベーションを創成するこ

とを目的としています。そこで、全ての協働機関が同意でき、実用

化に向けて実施しやすい知的財産の取扱い方法を、九州大学および

全ての協働機関の知財担当者から構成される知的財産委員会で充

分に協議し整備しました。また、九州大学と各協働機関との個別の

研究で生まれ、共同出願した知的財産については、機密性を堅持す

るためのシステムの整備(ラボノート、アイソレートラボなど)をし、

協働機関が独占的通常実施権を得られるなど個別知財を確保でき

るようにし、本拠点で共有することにより融合研究が発展する知的

財産については、他の協働機関が他社よりも優先的に実施できるよ

う仕組みつくりを行いました。

 

 融合研究の研究開発を促進するためには、医薬農工の各領域に精

通し、産学双方のニーズに応えられる先端融合医療研究者の育成が

必須です。そこで、各研究グループ長、協働機関の研究者、外部の講

師によるセミナー、講演会やフォーラムを開催しました。セミナー

等の内容は、基礎研究、臨床研究、企業研究、知財戦略、事業化戦略等

多様な分野にわたり、ポスドクや学生に対して研究開発内容の共有

を図るとともに、企業の視点から研究開発の進め方や経営や知財に

ついて教育を行いました。ポスドク30名、大学院生40名、学部生

30名が延べ参加し、レドックスナビ医療研究開発人材の育成を進

めています。また、本レドックスナビ研究拠点と協力関係にある

JSPS Core-to-Core Project(国際戦略型)「生体レドックスの磁

気共鳴分子イメージング研究拠点」と連携し、若手人材育成を行っ

ています。

 

 先端融合医療レドックスナビ研究拠点を中心として外部の企業

や治験センター等の機関、橋渡し研究やスーパー特区等の事業の連

携を可能とする体制として2009年8月「先端融合医療創成セン

ター」を設立し、ウエストウイング棟6階(約1,000 m2)に占有施設

を準備しています(2010年3月完成予定)。これにより、本拠点で

得られた成果を外部の機関が利用できるだけでなく、本拠点と他事

業・他機関との連携により見出された研究シーズをもとに本セン

ターが実用化を進めることができるため、今後、本センターが外部

協力企業との連携窓口となり、さらなる研究の発展と出口を見据え

た展開が期待できることから、創薬、診断、治療をより効果的に、効

率的に実現することが可能です。

 

 分析、診断、治療、創薬を一貫して先端融合医療領域をイノベー

ションするという本拠点の目的を達成するには、医薬農工の4領

域が有機的に連携し、情報を交換して統合することが必須です。

そこで、協働機関が一つの場所(九州大学ウエストウイング棟5

階)で研究を行える環境を整えました。また、真の人材育成は、大

学と企業が一体となって行う研究・開発と日々の教員・学生・ポス

ドク間の交流・ディスカッションを通してなされるものと考え、実

際の研究場所では、居室をグループごとに区切らず、一つの空間に

同居させる事により、日々、研究に関してディスカッションできる

ように配慮しました。同じ空間で時間を過ごすことで、日常的に

お互いの研究内容を知り、コミュニケーションを行うことができ、

融合研究が促進され、これまでに既に8つの融合研究が進行し、成

果を得ています。

ごあいさつ

有川 節夫 九州大学 総長拠点総括責任者

 私たち生命体の恒常性維持には、レドックス反応

「レダクション(還元)とオキシデイション(酸化)」を

経由して生成する活性酸素や酸化性物質、還元性物

質が生体因子の活性を制御することで重要な役割を

果たしていると考えられています。

 外部環境要因(物理因子、化学因子、生物因子)、あ

るいは非健康的な生活習慣により、この制御が崩壊

することで、がん、生活習慣病、心疾患等を引き起こ

す可能性が示唆されています。これら疾患の患者、患

者予備軍は我が国だけでも1,000万人以上にも上る

と言われています。

 そこで本研究拠点は、「生体レドックスを詳細に評

価し、自在に操ることを可能とする統合技術」として

レドックスナビゲーションの概念を提唱し、1年間の

フィージビリティスタディを経て平成19年度より科

学技術振興調整費「先端融合領域イノベーション創

出拠点の形成」事業に本採択され、レドックス関連疾

患の早期診断・治療法の確立、治療薬の開発を指向し

た先端融合医療領域の創成を目指しています。この

目的を達成するために、医学、薬学、農学、工学の学の

英知と医療・製薬・分析機器の各工業界の創造力を結

集し、要素技術の開発を行い、さらには、医療分野に

関する基礎研究から臨床研究を一貫して進めるため

に、分野横断型の融合研究を実施してきました。

 これらの産学協働、融合研究を進めるため、本拠点

では統括責任者のもと、革新的なシステム改革を行

いました。具体的には、拠点の占有スペースの設置、

知的財産の取り扱いや管理についての改革、医薬農

工が融合的に連携し教育・研究を推進するための環

境・若手研究者の人材育成に関する改革等です。これ

らの斬新なシステム改革を行うことで、異分野の教

員・学生、また企業の研究者が機密保持をしつつ自由

な発想のもとイノベーションを創出し、融合的な研

究を進める環境を整えました。その結果、当初は7年

目で融合研究を遂行し、10年目でセンターを設置す

ることを達成目標としていましたが、現在までに各

研究グループが掲げた3年目の目標のほとんどを達

成できただけでなく、九州大学と企業間及び大学を

挟んで企業間で既に8つの融合研究が進むなど、グ

ループ間融合も進みつつあります。また、終了時に設

立を目標としていた生体レドックスナビ医療セン

ター(仮称)の役割を担う先端融合医療創成センター

を2009年8月に設立するなど、着実に成果をあげて

います。

 今後も本拠点の成果が世界に波及し、世界中から

研究者が集まるような拠点の形成を目指し、拠点形

成を進めています。平成22年度以降も本拠点は継続

することとなりました。皆様方のご指導とご支援を

賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

先端融合医療レドックスナビ研究拠点の3年間のシステム改革

1 九州大学病院キャンパス内に先端融合医療レドックスナビ研究拠点(約1,000m2)を設立

2 九州大学と協働機関とで結成した知的財産委員会を設置し、規則を整備

3 生体レドックスに関する知識共有化のため、若手研究者を対象としたセミナーを開催

4 医療における各プロセスを一貫して進める先端融合医療創成センターを設立

5 融合領域の研究開発を推進

ごあいさつ

内海 英雄 拠点長 / 副学長九州大学大学院薬学研究院 教授

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R E D O X N A V I  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 先端融合医療レドックスナビ研究拠点 R E D O X N A V I

  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 先端融合医療レドックスナビ研究拠点の3年間のシステム改革

I n f o rm a t i o nURL:http://www.redoxnavi.com/index.html

先端融合医療レドックスナビ研究拠点HPレドックスナビゲーションや各研究グループの紹介等をホームページにて公開しています。詳細はホームページをご覧ください。

レドックスナビ拠点の概観とナビ拠点の位置

 九州大学は、来年2011年に総合大学として創立百周年

を迎えます。日本を代表する基幹総合大学として、その百

年の伝統を礎に、世界的研究・教育拠点として次の百年に

向けて知の新世紀を拓くべく、教育・研究・診療等の諸活

動を展開することとしています。研究においては、卓越し

た研究者が集い成長していく学術環境を充実させ、世界的

水準での魅力ある研究や新しい学問分野・融合研究の発

展及び創成を促進し、環境・エネルギー・健康問題等人類

が抱える諸課題を総合的に解決するための研究を強力に

推進し、国際社会・国・地域の持続可能な発展に貢献する

ことを目標に掲げています。

 生体現象のセントラルドグマ的な原理ともいえるレ

ドックス(酸化・還元)反応は、様々な環境要因(物理因子、

化学因子、生物因子)の変動、あるいは非健康的な生活習慣

により異常を起こすことが知られています。この生体レ

ドックス変動により、がん、生活習慣病、脳神経変性疾患等

の種々の難治性疾患に繋がる可能性が強く指摘されてい

ます。これら疾患の患者、患者予備軍はわが国だけでも

1000万人以上、医療費は約10兆円にものぼるといわれ

ており、私たちの生活の質の向上と健康寿命に基づく安

心・安全な健康社会を妨げ、国民健康保険を大きく圧迫す

ることが憂慮されています。

 こうした課題の解決へ向けて、本学では、薬学・医学・工

学・農学の各研究院で行われているレドックスに関係す

る先駆的な研究を結集し、新たな融合医療領域の創成を提

案したところ、文部科学省科学技術振興調整費「先端融合

領域イノベーション創出拠点の形成」事業に採択されまし

た。これを機に、「先端医療レドックスナビ研究拠点」を

2007年8月に開設し、生体レドックス関連疾患の徴候を

発症前に発見し(視る)、適切な治療薬を投与し(操る)、生

体レドックス異常に基づいた施術を行う(治療する)こと

を一貫して推進する先端融合医療領域のイノベーション

を目指して、大学と協働企業が対等のパートナーとして協

力する新しい社会連携を進めています。

 真の協働研究をすすめるためには、大学部局間、あるい

は産学官の組織の壁を乗り越える必要があります。そこ

で、本学では、病院キャンパス内に約1,000m2の占有ス

ペースを提供し、専任教員や専門職員の配置、関係諸規則

の改正、知的財産マネジメントの新方法の制定等、産学協

働研究が進めやすい制度作り等を行い、全学的な協力体制

のもとで本拠点の基盤整備を行ってきました。

 大学のミッションである教育・人材育成の面では、本拠

点に結集した様々な分野の大学院生、若手研究者、企業研究

者が、日々、同じ場所で議論を自由にできる環境を整えたこ

とで、全く新しい概念の融合研究が生まれ、また世界最先端

の研究者を招いた国際フォーラムの開催等により若手人材

に大きな刺激を与えるなど、新たな力が芽生えています。

 昨年8月には新たに先端融合医療創成センターを設置

しました。本センターでは、本拠点の成果をもとにした産

学官共同・受託研究等を推進していきます。多くの企業や

研究機関の叡智が本拠点の研究にアクセスし、互いに連携

し合うことによって、更なるイノベーションが創出される

ことを期待しています。それらの研究成果が地域住民に

還元されるネットワークを構築し、地域住民が健康で安心

安全な暮らしを行うことにつながるものと考えています。

 2010年度からは新たな協働機関の参加を得て、文部科

学省の事業により研究を進めていくことが内定していま

す。皆様のこれまでのご協力、支援に篤くお礼を申し上げ

ますとともに、今後とも更なるご支援を賜りますよう、心

からお願いいたします。

 総長直轄の組織として、新施設を九州大学病院キャンパス内ウエ

ストウイング棟5階(約1,000 m2)に設置しました。本拠点は、九州

大学病院と医学部臨床研究棟にそれぞれ「レドックスナビ回廊」を

隔てて繋がっており、医療分野に関する基礎研究から臨床研究まで

一貫して進められる環境が整っています。医薬農工と協働機関が

お互いに意見を交わし、研究を進めることで、医療現場のニーズに

基づいた実用化につながるイノベーションを促進する環境を整え

ました。フロアの入り口には鍵を設け、出入りできる人を制限する

ことにより機密情報の管理を行うとともに、クローズドな研究や意

見交換を行うことができるように配慮しています。また、本拠点に

総長の裁量において専任教員を2名採用し、さらに、専属の事務支

援室を配置することで、本拠点における研究が迅速に、且つ、円滑に

推進できる体制を整えました。また、2008年10月より拠点長が副

学長兼研究戦略企画室長に任命され、本拠点を九州大学における最

重要プロジェクトとして位置付けられ、全学の研究協力・結集体制

を整えています。

 本拠点は各協働機関の独自性を確保するだけでなく、分野の異な

る協働機関間の融合を促進し、新たなイノベーションを創成するこ

とを目的としています。そこで、全ての協働機関が同意でき、実用

化に向けて実施しやすい知的財産の取扱い方法を、九州大学および

全ての協働機関の知財担当者から構成される知的財産委員会で充

分に協議し整備しました。また、九州大学と各協働機関との個別の

研究で生まれ、共同出願した知的財産については、機密性を堅持す

るためのシステムの整備(ラボノート、アイソレートラボなど)をし、

協働機関が独占的通常実施権を得られるなど個別知財を確保でき

るようにし、本拠点で共有することにより融合研究が発展する知的

財産については、他の協働機関が他社よりも優先的に実施できるよ

う仕組みつくりを行いました。

 

 融合研究の研究開発を促進するためには、医薬農工の各領域に精

通し、産学双方のニーズに応えられる先端融合医療研究者の育成が

必須です。そこで、各研究グループ長、協働機関の研究者、外部の講

師によるセミナー、講演会やフォーラムを開催しました。セミナー

等の内容は、基礎研究、臨床研究、企業研究、知財戦略、事業化戦略等

多様な分野にわたり、ポスドクや学生に対して研究開発内容の共有

を図るとともに、企業の視点から研究開発の進め方や経営や知財に

ついて教育を行いました。ポスドク30名、大学院生40名、学部生

30名が延べ参加し、レドックスナビ医療研究開発人材の育成を進

めています。また、本レドックスナビ研究拠点と協力関係にある

JSPS Core-to-Core Project(国際戦略型)「生体レドックスの磁

気共鳴分子イメージング研究拠点」と連携し、若手人材育成を行っ

ています。

 

 先端融合医療レドックスナビ研究拠点を中心として外部の企業

や治験センター等の機関、橋渡し研究やスーパー特区等の事業の連

携を可能とする体制として2009年8月「先端融合医療創成セン

ター」を設立し、ウエストウイング棟6階(約1,000 m2)に占有施設

を準備しています(2010年3月完成予定)。これにより、本拠点で

得られた成果を外部の機関が利用できるだけでなく、本拠点と他事

業・他機関との連携により見出された研究シーズをもとに本セン

ターが実用化を進めることができるため、今後、本センターが外部

協力企業との連携窓口となり、さらなる研究の発展と出口を見据え

た展開が期待できることから、創薬、診断、治療をより効果的に、効

率的に実現することが可能です。

 

 分析、診断、治療、創薬を一貫して先端融合医療領域をイノベー

ションするという本拠点の目的を達成するには、医薬農工の4領

域が有機的に連携し、情報を交換して統合することが必須です。

そこで、協働機関が一つの場所(九州大学ウエストウイング棟5

階)で研究を行える環境を整えました。また、真の人材育成は、大

学と企業が一体となって行う研究・開発と日々の教員・学生・ポス

ドク間の交流・ディスカッションを通してなされるものと考え、実

際の研究場所では、居室をグループごとに区切らず、一つの空間に

同居させる事により、日々、研究に関してディスカッションできる

ように配慮しました。同じ空間で時間を過ごすことで、日常的に

お互いの研究内容を知り、コミュニケーションを行うことができ、

融合研究が促進され、これまでに既に8つの融合研究が進行し、成

果を得ています。

ごあいさつ

有川 節夫 九州大学 総長拠点総括責任者

 私たち生命体の恒常性維持には、レドックス反応

「レダクション(還元)とオキシデイション(酸化)」を

経由して生成する活性酸素や酸化性物質、還元性物

質が生体因子の活性を制御することで重要な役割を

果たしていると考えられています。

 外部環境要因(物理因子、化学因子、生物因子)、あ

るいは非健康的な生活習慣により、この制御が崩壊

することで、がん、生活習慣病、心疾患等を引き起こ

す可能性が示唆されています。これら疾患の患者、患

者予備軍は我が国だけでも1,000万人以上にも上る

と言われています。

 そこで本研究拠点は、「生体レドックスを詳細に評

価し、自在に操ることを可能とする統合技術」として

レドックスナビゲーションの概念を提唱し、1年間の

フィージビリティスタディを経て平成19年度より科

学技術振興調整費「先端融合領域イノベーション創

出拠点の形成」事業に本採択され、レドックス関連疾

患の早期診断・治療法の確立、治療薬の開発を指向し

た先端融合医療領域の創成を目指しています。この

目的を達成するために、医学、薬学、農学、工学の学の

英知と医療・製薬・分析機器の各工業界の創造力を結

集し、要素技術の開発を行い、さらには、医療分野に

関する基礎研究から臨床研究を一貫して進めるため

に、分野横断型の融合研究を実施してきました。

 これらの産学協働、融合研究を進めるため、本拠点

では統括責任者のもと、革新的なシステム改革を行

いました。具体的には、拠点の占有スペースの設置、

知的財産の取り扱いや管理についての改革、医薬農

工が融合的に連携し教育・研究を推進するための環

境・若手研究者の人材育成に関する改革等です。これ

らの斬新なシステム改革を行うことで、異分野の教

員・学生、また企業の研究者が機密保持をしつつ自由

な発想のもとイノベーションを創出し、融合的な研

究を進める環境を整えました。その結果、当初は7年

目で融合研究を遂行し、10年目でセンターを設置す

ることを達成目標としていましたが、現在までに各

研究グループが掲げた3年目の目標のほとんどを達

成できただけでなく、九州大学と企業間及び大学を

挟んで企業間で既に8つの融合研究が進むなど、グ

ループ間融合も進みつつあります。また、終了時に設

立を目標としていた生体レドックスナビ医療セン

ター(仮称)の役割を担う先端融合医療創成センター

を2009年8月に設立するなど、着実に成果をあげて

います。

 今後も本拠点の成果が世界に波及し、世界中から

研究者が集まるような拠点の形成を目指し、拠点形

成を進めています。平成22年度以降も本拠点は継続

することとなりました。皆様方のご指導とご支援を

賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

先端融合医療レドックスナビ研究拠点の3年間のシステム改革

1 九州大学病院キャンパス内に先端融合医療レドックスナビ研究拠点(約1,000m2)を設立

2 九州大学と協働機関とで結成した知的財産委員会を設置し、規則を整備

3 生体レドックスに関する知識共有化のため、若手研究者を対象としたセミナーを開催

4 医療における各プロセスを一貫して進める先端融合医療創成センターを設立

5 融合領域の研究開発を推進

ごあいさつ

内海 英雄 拠点長 / 副学長九州大学大学院薬学研究院 教授

32 54

R E D O X N A V I  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 先端融合医療レドックスナビ研究拠点 R E D O X N A V I

  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 先端融合医療レドックスナビ研究拠点の3年間のシステム改革

I n f o rm a t i o nURL:http://www.redoxnavi.com/index.html

先端融合医療レドックスナビ研究拠点HPレドックスナビゲーションや各研究グループの紹介等をホームページにて公開しています。詳細はホームページをご覧ください。

レドックスナビ拠点の概観とナビ拠点の位置

 九州大学は、来年2011年に総合大学として創立百周年

を迎えます。日本を代表する基幹総合大学として、その百

年の伝統を礎に、世界的研究・教育拠点として次の百年に

向けて知の新世紀を拓くべく、教育・研究・診療等の諸活

動を展開することとしています。研究においては、卓越し

た研究者が集い成長していく学術環境を充実させ、世界的

水準での魅力ある研究や新しい学問分野・融合研究の発

展及び創成を促進し、環境・エネルギー・健康問題等人類

が抱える諸課題を総合的に解決するための研究を強力に

推進し、国際社会・国・地域の持続可能な発展に貢献する

ことを目標に掲げています。

 生体現象のセントラルドグマ的な原理ともいえるレ

ドックス(酸化・還元)反応は、様々な環境要因(物理因子、

化学因子、生物因子)の変動、あるいは非健康的な生活習慣

により異常を起こすことが知られています。この生体レ

ドックス変動により、がん、生活習慣病、脳神経変性疾患等

の種々の難治性疾患に繋がる可能性が強く指摘されてい

ます。これら疾患の患者、患者予備軍はわが国だけでも

1000万人以上、医療費は約10兆円にものぼるといわれ

ており、私たちの生活の質の向上と健康寿命に基づく安

心・安全な健康社会を妨げ、国民健康保険を大きく圧迫す

ることが憂慮されています。

 こうした課題の解決へ向けて、本学では、薬学・医学・工

学・農学の各研究院で行われているレドックスに関係す

る先駆的な研究を結集し、新たな融合医療領域の創成を提

案したところ、文部科学省科学技術振興調整費「先端融合

領域イノベーション創出拠点の形成」事業に採択されまし

た。これを機に、「先端医療レドックスナビ研究拠点」を

2007年8月に開設し、生体レドックス関連疾患の徴候を

発症前に発見し(視る)、適切な治療薬を投与し(操る)、生

体レドックス異常に基づいた施術を行う(治療する)こと

を一貫して推進する先端融合医療領域のイノベーション

を目指して、大学と協働企業が対等のパートナーとして協

力する新しい社会連携を進めています。

 真の協働研究をすすめるためには、大学部局間、あるい

は産学官の組織の壁を乗り越える必要があります。そこ

で、本学では、病院キャンパス内に約1,000m2の占有ス

ペースを提供し、専任教員や専門職員の配置、関係諸規則

の改正、知的財産マネジメントの新方法の制定等、産学協

働研究が進めやすい制度作り等を行い、全学的な協力体制

のもとで本拠点の基盤整備を行ってきました。

 大学のミッションである教育・人材育成の面では、本拠

点に結集した様々な分野の大学院生、若手研究者、企業研究

者が、日々、同じ場所で議論を自由にできる環境を整えたこ

とで、全く新しい概念の融合研究が生まれ、また世界最先端

の研究者を招いた国際フォーラムの開催等により若手人材

に大きな刺激を与えるなど、新たな力が芽生えています。

 昨年8月には新たに先端融合医療創成センターを設置

しました。本センターでは、本拠点の成果をもとにした産

学官共同・受託研究等を推進していきます。多くの企業や

研究機関の叡智が本拠点の研究にアクセスし、互いに連携

し合うことによって、更なるイノベーションが創出される

ことを期待しています。それらの研究成果が地域住民に

還元されるネットワークを構築し、地域住民が健康で安心

安全な暮らしを行うことにつながるものと考えています。

 2010年度からは新たな協働機関の参加を得て、文部科

学省の事業により研究を進めていくことが内定していま

す。皆様のこれまでのご協力、支援に篤くお礼を申し上げ

ますとともに、今後とも更なるご支援を賜りますよう、心

からお願いいたします。

 総長直轄の組織として、新施設を九州大学病院キャンパス内ウエ

ストウイング棟5階(約1,000 m2)に設置しました。本拠点は、九州

大学病院と医学部臨床研究棟にそれぞれ「レドックスナビ回廊」を

隔てて繋がっており、医療分野に関する基礎研究から臨床研究まで

一貫して進められる環境が整っています。医薬農工と協働機関が

お互いに意見を交わし、研究を進めることで、医療現場のニーズに

基づいた実用化につながるイノベーションを促進する環境を整え

ました。フロアの入り口には鍵を設け、出入りできる人を制限する

ことにより機密情報の管理を行うとともに、クローズドな研究や意

見交換を行うことができるように配慮しています。また、本拠点に

総長の裁量において専任教員を2名採用し、さらに、専属の事務支

援室を配置することで、本拠点における研究が迅速に、且つ、円滑に

推進できる体制を整えました。また、2008年10月より拠点長が副

学長兼研究戦略企画室長に任命され、本拠点を九州大学における最

重要プロジェクトとして位置付けられ、全学の研究協力・結集体制

を整えています。

 本拠点は各協働機関の独自性を確保するだけでなく、分野の異な

る協働機関間の融合を促進し、新たなイノベーションを創成するこ

とを目的としています。そこで、全ての協働機関が同意でき、実用

化に向けて実施しやすい知的財産の取扱い方法を、九州大学および

全ての協働機関の知財担当者から構成される知的財産委員会で充

分に協議し整備しました。また、九州大学と各協働機関との個別の

研究で生まれ、共同出願した知的財産については、機密性を堅持す

るためのシステムの整備(ラボノート、アイソレートラボなど)をし、

協働機関が独占的通常実施権を得られるなど個別知財を確保でき

るようにし、本拠点で共有することにより融合研究が発展する知的

財産については、他の協働機関が他社よりも優先的に実施できるよ

う仕組みつくりを行いました。

 

 融合研究の研究開発を促進するためには、医薬農工の各領域に精

通し、産学双方のニーズに応えられる先端融合医療研究者の育成が

必須です。そこで、各研究グループ長、協働機関の研究者、外部の講

師によるセミナー、講演会やフォーラムを開催しました。セミナー

等の内容は、基礎研究、臨床研究、企業研究、知財戦略、事業化戦略等

多様な分野にわたり、ポスドクや学生に対して研究開発内容の共有

を図るとともに、企業の視点から研究開発の進め方や経営や知財に

ついて教育を行いました。ポスドク30名、大学院生40名、学部生

30名が延べ参加し、レドックスナビ医療研究開発人材の育成を進

めています。また、本レドックスナビ研究拠点と協力関係にある

JSPS Core-to-Core Project(国際戦略型)「生体レドックスの磁

気共鳴分子イメージング研究拠点」と連携し、若手人材育成を行っ

ています。

 

 先端融合医療レドックスナビ研究拠点を中心として外部の企業

や治験センター等の機関、橋渡し研究やスーパー特区等の事業の連

携を可能とする体制として2009年8月「先端融合医療創成セン

ター」を設立し、ウエストウイング棟6階(約1,000 m2)に占有施設

を準備しています(2010年3月完成予定)。これにより、本拠点で

得られた成果を外部の機関が利用できるだけでなく、本拠点と他事

業・他機関との連携により見出された研究シーズをもとに本セン

ターが実用化を進めることができるため、今後、本センターが外部

協力企業との連携窓口となり、さらなる研究の発展と出口を見据え

た展開が期待できることから、創薬、診断、治療をより効果的に、効

率的に実現することが可能です。

 

 分析、診断、治療、創薬を一貫して先端融合医療領域をイノベー

ションするという本拠点の目的を達成するには、医薬農工の4領

域が有機的に連携し、情報を交換して統合することが必須です。

そこで、協働機関が一つの場所(九州大学ウエストウイング棟5

階)で研究を行える環境を整えました。また、真の人材育成は、大

学と企業が一体となって行う研究・開発と日々の教員・学生・ポス

ドク間の交流・ディスカッションを通してなされるものと考え、実

際の研究場所では、居室をグループごとに区切らず、一つの空間に

同居させる事により、日々、研究に関してディスカッションできる

ように配慮しました。同じ空間で時間を過ごすことで、日常的に

お互いの研究内容を知り、コミュニケーションを行うことができ、

融合研究が促進され、これまでに既に8つの融合研究が進行し、成

果を得ています。

ごあいさつ

有川 節夫 九州大学 総長拠点総括責任者

 私たち生命体の恒常性維持には、レドックス反応

「レダクション(還元)とオキシデイション(酸化)」を

経由して生成する活性酸素や酸化性物質、還元性物

質が生体因子の活性を制御することで重要な役割を

果たしていると考えられています。

 外部環境要因(物理因子、化学因子、生物因子)、あ

るいは非健康的な生活習慣により、この制御が崩壊

することで、がん、生活習慣病、心疾患等を引き起こ

す可能性が示唆されています。これら疾患の患者、患

者予備軍は我が国だけでも1,000万人以上にも上る

と言われています。

 そこで本研究拠点は、「生体レドックスを詳細に評

価し、自在に操ることを可能とする統合技術」として

レドックスナビゲーションの概念を提唱し、1年間の

フィージビリティスタディを経て平成19年度より科

学技術振興調整費「先端融合領域イノベーション創

出拠点の形成」事業に本採択され、レドックス関連疾

患の早期診断・治療法の確立、治療薬の開発を指向し

た先端融合医療領域の創成を目指しています。この

目的を達成するために、医学、薬学、農学、工学の学の

英知と医療・製薬・分析機器の各工業界の創造力を結

集し、要素技術の開発を行い、さらには、医療分野に

関する基礎研究から臨床研究を一貫して進めるため

に、分野横断型の融合研究を実施してきました。

 これらの産学協働、融合研究を進めるため、本拠点

では統括責任者のもと、革新的なシステム改革を行

いました。具体的には、拠点の占有スペースの設置、

知的財産の取り扱いや管理についての改革、医薬農

工が融合的に連携し教育・研究を推進するための環

境・若手研究者の人材育成に関する改革等です。これ

らの斬新なシステム改革を行うことで、異分野の教

員・学生、また企業の研究者が機密保持をしつつ自由

な発想のもとイノベーションを創出し、融合的な研

究を進める環境を整えました。その結果、当初は7年

目で融合研究を遂行し、10年目でセンターを設置す

ることを達成目標としていましたが、現在までに各

研究グループが掲げた3年目の目標のほとんどを達

成できただけでなく、九州大学と企業間及び大学を

挟んで企業間で既に8つの融合研究が進むなど、グ

ループ間融合も進みつつあります。また、終了時に設

立を目標としていた生体レドックスナビ医療セン

ター(仮称)の役割を担う先端融合医療創成センター

を2009年8月に設立するなど、着実に成果をあげて

います。

 今後も本拠点の成果が世界に波及し、世界中から

研究者が集まるような拠点の形成を目指し、拠点形

成を進めています。平成22年度以降も本拠点は継続

することとなりました。皆様方のご指導とご支援を

賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

先端融合医療レドックスナビ研究拠点の3年間のシステム改革

1 九州大学病院キャンパス内に先端融合医療レドックスナビ研究拠点(約1,000m2)を設立

2 九州大学と協働機関とで結成した知的財産委員会を設置し、規則を整備

3 生体レドックスに関する知識共有化のため、若手研究者を対象としたセミナーを開催

4 医療における各プロセスを一貫して進める先端融合医療創成センターを設立

5 融合領域の研究開発を推進

ごあいさつ

内海 英雄 拠点長 / 副学長九州大学大学院薬学研究院 教授

32 54

R E D O X N A V I  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果 R E D O X N A V I

  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果

(図2-11)合成したニトロキシルラジカル(一部既存化合物を含む)

(図2-3)生体レドックス画像の比較低磁場OMRI画像(左、スライス厚20mm)、新OMRI画像(中央、スライス厚2mm)、ESRI画像(右、スライス厚約5mm)

(図2-4)マウスにおけるOMRIレドックス画像の比較低磁場OMRI画像(右列):スライス厚20mm,シャトル型OMRI画像(左列):スライス厚2 mm.低磁場OMRIでは低感度のためMRI像が得られないのに対し,高磁場装置では,明瞭なMRI像も得られている。

(図2-10)ニトロキシルラジカルとアスコルビン酸の反応性X-band ESRにてニトロキシルラジカルのESRシグナル強度の減衰速度を算出 *測定開始35秒後には測定限界までニトロキシルラジカルが減少

(図2-9)造影剤の同位体、官能基置換とその効果

(図2-5)各種化合物T1値と分子量(図2-2)新しい磁場循環法による1.5 T OMRI装置設計図、概念と概観

(図2-1)開発したOMRI試作機のブロック図と概観

a) ニトロキシルラジカルと脂質ラジカルとの反応性.リノール酸/リポキシゲナーゼ系にて脂質ラジカルを産生させ,ニトロキシルラジカルのシグナル強度を経時的に測定。b) ESRシグナル強度の傾き

(図2-12)

0.427

0.031 0.004

1.057

0.106

1.292

0.126

0.543

2.469

生体レドックス画像解析グループ(薬学研究院・工学研究院・日本電子株式会社)

■ OMRI装置の開発【背景】 誘電体である生体では、周波数に依存して生体への浸透距

離(表皮深さ)が低下するため、マウス程度のサイズの試料測定に利

用可能な電磁波は1GHz程度が上限である。従って、ESR励起は低磁

場(5~40mT)で行う必要がある。また、MRI検出磁場強度に制限は

ないものの緩和時間に依存して励起状態は失われるため、ESR励起

後短時間でMRI検出を行う必要がある。従って、測定組織によって低

磁場であるもののESR励起後短時間で撮像する装置、あるいは高磁

場でOMRI撮像する装置の2系統のOMRI装置が考えられる。

 当初三年の目標である協働機関が市販しているESRI装置をベース

に 100 mT OMRI装置を試作するとともに、新たな磁場循環法によ

り高磁場検出(高感度化)を試み、製品化を目指した開発研究を行った。

【研究方法】 安定した磁場が得られるL-Band帯ESR用磁石

(JES-CM3L)を用いた。本磁石は磁極間隙25cm程度と広く、磁場均

一度が高いことから(100ppm、 70mm DSV)、磁場強度も100mTま

で適用できる。NMR用共振器にESR励起用の高周波コイルを追加し

たOMRI用共振器とOMRI用NMRブリッジを製作し、MRIコンソール

にはESR励起用高周波の制御を行うパルスを追加したOMRI用MRI

コンソールソフトウェアの開発を行った。

 また、高感度化を目的とした磁場循環法の有用性の検討を行った。

電子スピン励起は低磁場で行う必要があるがプロトン検出磁場には

制限がない。従って、励起・検出過程で異なる磁場を用いる磁場循環

法が有効であるが、電磁石を用いる場合には最大磁場強度が限定さ

れる。この制限を克服するために、検体を複数磁石間で移動させる新

たな磁場循環法の有用性を検証した。

【結果】 開発した100 mT OMRI装置を図2-1に示す。磁場安定度、

磁場線形性により評価したところ、約25mm径の対象物(マウス程

度)のOMRI画像化に適していることが分かった。内径18mmのガラ

ス管にレドックス造影剤水溶液を封入したものを擬似試料として使

用し、OMRI撮像を行った。ESR励起を行っていない画像では、ガラ

スセル、ガラス板の識別が可能であるが、肉厚0.3mmガラス細管は識

別できなかった。一方、ESR照射を行い取得したOMRI画像では、造

影剤の存在によりプロトン信号強度が向上し、肉厚0.3mmのガラス

細管を十分識別できる鮮明画像を得ることに成功した。

 次にシャトル型磁場循環法による装置開発を試みた。本構成では

異なる2種の磁石装置を設置し、検体は移動装置により両磁石間を一

定速度で移動する。従って1個の電磁石を用いる場合に比べて、最大

磁場強度に制限がない。本手法により、検出磁場強度1.5 T(ESR励起

20mT)のOMRI装置の開発に成功した。本装置は世界で初めて1テ

スラ以上の検出磁場を実現したOMRI装置である。 (図2-2)。

 一般に、検出感度は磁場強度の2分の3乗に依存して増加する。従

来装置に比べて本装置の磁場強度は100倍増強していることから、

本装置のNMR検出感度は約1000倍に増強する計算になる。実際に

生体レドックス造影剤の画像を比較したところ、プロトン検出感度

は大幅に増強し、その結果本装置を用いて得られたOMRI画像の分解

能は既存低磁場装置より顕著に向上していた(図2-3)。また、これま

で用いられてきた連続波ESR画像化法と比べると、分解能等が格段

に優れていることが分かった。

 本装置を動物モデルに適用したところ、従来装置では、低感度のた

め事実上画像スライス厚を設定できなかったのに対して、高磁場装

置では高感度化を達成したために実験上適切なスライス厚さで、高

解像度のレドックス画像撮像を実現した(図2-4)。従って、本手法は、

生体レドックス動態の高解像度可視化に対して有用な手法であるこ

とを実証した。

■ DNP-NMR研究【背景】 NMR法は、化学シフトの違いから複数の化合物の情報

を分離できる。しかし、他の測定法に比べて非常に感度が低く、in

vivo代謝のリアルタイム解析を行うには至っていない。超偏極

(Dynamic Nuclear Polarization、 DNP)法は、核の超偏極化

(hyperpolarization)を行うことにより、NMRの感度を10000倍

以上上昇させることが可能である。超偏極化により増強された核

磁化は、その緩和時間:T1値に従って熱平衡状態へと減衰するた

め、DNP法を用いた測定を行う上で対象核のT1値は重要な因子

である。本研究では生体関連物質のT1依存性を解析した。

【研究方法】 T1値測定;600MHz NMRを用いて、反転回復法にて主

要な生体内物質(グルコース、ピルビン酸、アミノ酸等)や、簡易構造

のカルボニル化合物(尿素、アセトン等)の計30化合物、113官能基の13C核のT1値測定を行った。

【研究結果】 本研究項目では、T1値に関する網羅的解析を行った。T1

値に影響する因子として、官能基や分子量等が考えられる。そこで、

代表的な生体内物質や、簡易な構造のカルボニル化合物の計30化合

物、のべ113官能基中の13C核のT1値測定を行い、化合物の構造によ

るT1値の差異を調べ、またT1値の大きい13C核を有する化合物(官能

基)を探索した。その結果T1値と分子量の間に負の相関が見られ、ま

た、直接1Hと結合していない4級炭素(d)やカルボニル炭素(e、f、g)

は、他の炭素に比べてT1値が大きい傾向が見られた(図2-5)。

【考察】 本研究では、生体で有用な化合物のT1値に関する網羅的実

験及び、DNP-NMR法における代謝速度算出法の確立のための検討

を行った。DNPの特性から緩和時間が長く生命活動に重要な生体内

化合物の探索がキーであり、本手法の実用化にはなお基礎的な探索

研究を要することが明らかとなった。

■ 生体レドックス造影剤の新規合成1.新規ニトロキシルラジカルの酸化還元電位【研究方法】 新規ニト

ロキシルラジカルは、こ

れまでに開発した新規

合成法にて、ペンタメチ

ルピペリドンを出発原

料とし、目的のケトン物

質と反応させて合成し

た。合成したニトロキシルラジカル(2 mM)をリン酸緩衝液

(pH7.4)に溶解し、脱気した後に、電気化学測定装置を用いて酸化還

元電位を測定した。

【成果】 新規ニトロキシルラジカルは、新規合成法(PCT/

JP2008/051899、特願2007-022042)に従い合成した。合成し

た化合物と生体内還元物質であるアスコルビン酸との反応性を

X-band ESRを用いて評価した。その結果、ピペリジン環の2、6位を

置換することで、アスコルビン酸との反応性が大きく変化すること

がわかった(図2-10)。

 ニトロキシルラジカルは2つの酸化還元対を有する。2、6位に環状

の化合物(電子吸引性)を置換した場合ニトロキシルラジカルの

Redox ⅠのEpa、Epcが高電位側にシフトし酸化されにくくなってい

る。一方、Redox Ⅱでは、Epcが低電位側にシフトし還元されやすく

なっており、アスコルビン酸との反応性と相関が見られた。一方、鎖

状の化合物、特に2、6位にエチル基を導入した場合は、アスコルビン

酸との反応性が低下することがわかった。エチル基は電子供与性基

であり、ニトロキシルラジカルのRedox Ⅰでは、Epa、 Epcが低電位

側にシフトし、酸化されやすくなっている。一方、Redox Ⅱでは、エ

チル基の導入により予想と反し低電位側にシフトしている。従って、

エチル基を導入した場合、アスコルビン酸との反応性は酸化還元電

位のみで解釈することはできず、置換基の誘起効果以外の効果が影

響していることがわかった。

 以上の結果より、ピペリジン環の2、6位を修飾することで、生体内の

代表的な還元物質であるアスコルビン酸との反応性を制御でき、環状

化合物については酸化還元電位で説明できることがわかった。一方、

エチル基を導入した場合は、アスコルビン酸との反応性が著しく低下

すること、しかしながらこの反応は酸化還元電位のみでは説明できず、

置換基の誘起効果以外の影響を考慮する必要があると考えられる。

 我々は、既にアスコルビン酸と反応性が低いテトラエチルニトロ

キシルラジカルがOMRI用の造影剤として使用できることを既に報

告(Kinoshita Y et al.、 Free Radic Res 2009)している。また、既存

化合物であるTempol(現在米国にて放射線防護剤としてPhaseⅡ)と

比較し細胞毒性が低いこと(未発表)も見出しており、今後、新たな造

影剤、抗酸化剤としての応用展開が可能になると考えている。

2.脂質ラジカルとの反応性【研究方法】 ニトロキシルラジカル(0.5 mM)と脂質ラジカルとの

反応性は、リノレン酸(1 mM)とリポキシゲナーゼ(0.2 mg/ml)系に

て脂質ラジカルを産生させ、ニトロキシルラジカルのESRシグナル

強度の減衰から算出した。

【成果】 細胞膜は、生体内で産生したフリーラジカルなどの第1ター

ゲットであり、その結果、脂質ラジカルが生成される。この脂質ラジ

カルは、疾患の発症・進展に関与していることが多数報告され、脂質

ラジカルを生体内で捉えることが求められている。我々は、脳虚血再

灌流傷害、ニトロソアミン誘発肝障害モデルなどにて、ニトロキシル

ラジカルが生体内で産生した脂質ラジカルを捉え、またニトロキシ

ルラジカルの添加が疾患の発症を抑制することを報告した。そこで、

今回新たに合成した新規ニトロキシルラジカルと脂質ラジカルとの

反応性について評価を行った。脂質ラジカルは、リノール酸/リポキ

シゲナーゼを用いて産生させ、ニトロキシルラジカル添加後、

X-band ESRにてシグナル減衰速度を算出した。使用した化合物を

図2-11に示す。また、代表的な化合物のシグナル減衰速度を図

2-12aに、また今回測定した化合物の減衰速度を図2-12bに示す。

その結果、2、6位あるいは4位を置換したニトロキシルラジカルは、

脂質ラジカルとの反応性が亢進すること、既存化合物であるTempol

と比較し2~5倍高い反応性を示す化合物も見出した。さらに、ニト

ロキシルラジカルと脂質ラジカルとの反応後の試料を99℃で10分

間加熱すると、Tempolは脂質ラジカルとの共有結合が切れ大部分が

ニトロキシルラジカルとなること(82.5%)、一方、テトラエチル体は

全くニトロキシルラジカルに戻らないことがわかった。すなわち、テ

トラエチル体と脂質ラジカルとの結合は安定性化作用が強い、ある

いは既存化合物と作用点が異なるなどの可能性があり、今後詳細を

検討する予定である。

 以上の結果より、ニトロキシルラジカルの反応部位周囲の置換基

を変えることで、脂質ラジカルとの反応性が変化することがわかっ

た。今後、病態モデルなどに適用することで新たな抗酸化物質の創出

も可能となる。

3.酸素濃度感受性造影剤【研究方法】 合成したニトロキシルラジカルをリン酸緩衝液に溶解

し、異なる酸素濃度(0~20%)のガスにてバブリング下で凍結融解を

3回繰り返し、一定酸素濃度溶液になるよう調整した。その後、

X-band ESRにて、ニトロキシルラジカルの線幅を測定した。

【成果】 ニトロキシルラジカルは不対電子を有することから、酸素

分子とスピン-スピン相互作用し、ニトロキシルラジカルのESR線幅

がブロード化する。すなわち、酸素濃度に応じて線幅が変化すること

から、生体内酸素濃度をモニターする酸素濃度感受性造影剤として

使用可能である。古くからニトロキシルラジカルを用いた酸素濃度

変動を捉える試みがなされてきたが実用化には至っていない。これ

は、ESR狭線幅を持つOxo-TEMPOが、生体内に投与されると4位の

ケトン基が還元されヒドロキシル基になるため線幅がブロード化し、

酸素濃度変化をモニターすることができないためである。そこで

我々は、新たな狭線幅ニトロキシルラジカルを合成し、さらに酸素濃

度の影響について検討した。その結果、化合物9は、Oxo-TEMPOと

ほぼ同等の狭線幅を持ち、高い酸素濃度感受性を有することがわ

かった。さらにこの化合物を動物生体内に投与したところ、

Oxo-TEMPOと異なり、10分後に採血した血液のESRスペクトルで

もESR線幅に変化がないことがわかった(data not shown)。

 以上の結果より、新たに狭線幅ニトロキシルラジカルを開発し、こ

の化合物が酸素濃度感受性が高いこと、また動物体内に投与後も線

幅に変化が生じないことがわかり、酸素濃度感受性造影剤として、腫

瘍細胞内での酸素濃度変動をモニターすることができる可能性を示

した。

 以上、我々は、ニトロキシルラジカルの新規合成法の開発、並びに

化合物の創出を通じて、反応性を制御できることを見出した。また

現在放射線防護剤として米国でPhaseⅡであるTempolと比較して

も細胞傷害性が低く、脂質ラジカルなどとの反応性が高いことから、

造影剤のみでなく新たな抗酸化医薬の創出も可能であると考えて

いる。

4.酸化・還元の同時測定【研究方法】 生体レドックス造影剤のニトロキシルラジカルは、生

体内還元酵素やアスコルビン酸、活性酸素等と反応してヒドロキシ

ルアミン体に還元される一方、ヒドロキシルアミン体も容易に一電

子を失いラジカル体に酸化されることが知られている。レドックス

状態を物理化学的な酸化還元反応の視点から検討し、酸化・還元反応

の同時検出について検討を行った。

【成果】 15N体hydroxy-TEMPOと14N体hydroxy-TEMPOのヒドロ

キシルアミン体の組合せでは、15N体hydroxy-TEMPOのESR信号強

度は一次反応に従い減少したのに対して14N体hydroxy-TEMPOは

一次反応に従い増加した。一方、15N体carbamoyl-PROXYLと14N体

carbamoyl-PROXYLのヒドロキシルアミン体の組合せでは、14N、15N体ともに信号強度の変化は僅かであり、各々の一電子還元体との

平衡状態が大きく異なることが示唆された。

 次に、15N体hydroxy-TEMPOと14N体carbamoyl-PROXYLのヒド

ロキシルアミン体の組合せについて検討した結果、混合60分後には、15N体は約20 μMにまで減少し、14N体は約80 μMに増加した。一

方、15N体carbamoyl-PROXYLと14N体hydroxy-TEMPOのヒドロキ

シルアミン体の組合せでは、14N、15N体ともに信号強度の変化は僅か

で、混合60分後に、15N体は約80 μM、14N体は約20 μMであり、14N

体と15N体を入れ替えた結果とほぼ一致していた。

 現在、上記の15N体ニトロキシルラジカル体・14N体ヒドロキシルア

ミン体の系に活性酸素発生系を加え、反応速度や酸化還元平衡に及

ぼす影響を検討しているところである。

生体レドックスを画像化する新たなOMRI、DNP-MRIシステムを開発する視る

76 98

R E D O X N A V I  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果 R E D O X N A V I

  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果

(図2-11)合成したニトロキシルラジカル(一部既存化合物を含む)

(図2-3)生体レドックス画像の比較低磁場OMRI画像(左、スライス厚20mm)、新OMRI画像(中央、スライス厚2mm)、ESRI画像(右、スライス厚約5mm)

(図2-4)マウスにおけるOMRIレドックス画像の比較低磁場OMRI画像(右列):スライス厚20mm,シャトル型OMRI画像(左列):スライス厚2 mm.低磁場OMRIでは低感度のためMRI像が得られないのに対し,高磁場装置では,明瞭なMRI像も得られている。

(図2-10)ニトロキシルラジカルとアスコルビン酸の反応性X-band ESRにてニトロキシルラジカルのESRシグナル強度の減衰速度を算出 *測定開始35秒後には測定限界までニトロキシルラジカルが減少

(図2-9)造影剤の同位体、官能基置換とその効果

(図2-5)各種化合物T1値と分子量(図2-2)新しい磁場循環法による1.5 T OMRI装置設計図、概念と概観

(図2-1)開発したOMRI試作機のブロック図と概観

a) ニトロキシルラジカルと脂質ラジカルとの反応性.リノール酸/リポキシゲナーゼ系にて脂質ラジカルを産生させ,ニトロキシルラジカルのシグナル強度を経時的に測定。b) ESRシグナル強度の傾き

(図2-12)

0.427

0.031 0.004

1.057

0.106

1.292

0.126

0.543

2.469

生体レドックス画像解析グループ(薬学研究院・工学研究院・日本電子株式会社)

■ OMRI装置の開発【背景】 誘電体である生体では、周波数に依存して生体への浸透距

離(表皮深さ)が低下するため、マウス程度のサイズの試料測定に利

用可能な電磁波は1GHz程度が上限である。従って、ESR励起は低磁

場(5~40mT)で行う必要がある。また、MRI検出磁場強度に制限は

ないものの緩和時間に依存して励起状態は失われるため、ESR励起

後短時間でMRI検出を行う必要がある。従って、測定組織によって低

磁場であるもののESR励起後短時間で撮像する装置、あるいは高磁

場でOMRI撮像する装置の2系統のOMRI装置が考えられる。

 当初三年の目標である協働機関が市販しているESRI装置をベース

に 100 mT OMRI装置を試作するとともに、新たな磁場循環法によ

り高磁場検出(高感度化)を試み、製品化を目指した開発研究を行った。

【研究方法】 安定した磁場が得られるL-Band帯ESR用磁石

(JES-CM3L)を用いた。本磁石は磁極間隙25cm程度と広く、磁場均

一度が高いことから(100ppm、 70mm DSV)、磁場強度も100mTま

で適用できる。NMR用共振器にESR励起用の高周波コイルを追加し

たOMRI用共振器とOMRI用NMRブリッジを製作し、MRIコンソール

にはESR励起用高周波の制御を行うパルスを追加したOMRI用MRI

コンソールソフトウェアの開発を行った。

 また、高感度化を目的とした磁場循環法の有用性の検討を行った。

電子スピン励起は低磁場で行う必要があるがプロトン検出磁場には

制限がない。従って、励起・検出過程で異なる磁場を用いる磁場循環

法が有効であるが、電磁石を用いる場合には最大磁場強度が限定さ

れる。この制限を克服するために、検体を複数磁石間で移動させる新

たな磁場循環法の有用性を検証した。

【結果】 開発した100 mT OMRI装置を図2-1に示す。磁場安定度、

磁場線形性により評価したところ、約25mm径の対象物(マウス程

度)のOMRI画像化に適していることが分かった。内径18mmのガラ

ス管にレドックス造影剤水溶液を封入したものを擬似試料として使

用し、OMRI撮像を行った。ESR励起を行っていない画像では、ガラ

スセル、ガラス板の識別が可能であるが、肉厚0.3mmガラス細管は識

別できなかった。一方、ESR照射を行い取得したOMRI画像では、造

影剤の存在によりプロトン信号強度が向上し、肉厚0.3mmのガラス

細管を十分識別できる鮮明画像を得ることに成功した。

 次にシャトル型磁場循環法による装置開発を試みた。本構成では

異なる2種の磁石装置を設置し、検体は移動装置により両磁石間を一

定速度で移動する。従って1個の電磁石を用いる場合に比べて、最大

磁場強度に制限がない。本手法により、検出磁場強度1.5 T(ESR励起

20mT)のOMRI装置の開発に成功した。本装置は世界で初めて1テ

スラ以上の検出磁場を実現したOMRI装置である。 (図2-2)。

 一般に、検出感度は磁場強度の2分の3乗に依存して増加する。従

来装置に比べて本装置の磁場強度は100倍増強していることから、

本装置のNMR検出感度は約1000倍に増強する計算になる。実際に

生体レドックス造影剤の画像を比較したところ、プロトン検出感度

は大幅に増強し、その結果本装置を用いて得られたOMRI画像の分解

能は既存低磁場装置より顕著に向上していた(図2-3)。また、これま

で用いられてきた連続波ESR画像化法と比べると、分解能等が格段

に優れていることが分かった。

 本装置を動物モデルに適用したところ、従来装置では、低感度のた

め事実上画像スライス厚を設定できなかったのに対して、高磁場装

置では高感度化を達成したために実験上適切なスライス厚さで、高

解像度のレドックス画像撮像を実現した(図2-4)。従って、本手法は、

生体レドックス動態の高解像度可視化に対して有用な手法であるこ

とを実証した。

■ DNP-NMR研究【背景】 NMR法は、化学シフトの違いから複数の化合物の情報

を分離できる。しかし、他の測定法に比べて非常に感度が低く、in

vivo代謝のリアルタイム解析を行うには至っていない。超偏極

(Dynamic Nuclear Polarization、 DNP)法は、核の超偏極化

(hyperpolarization)を行うことにより、NMRの感度を10000倍

以上上昇させることが可能である。超偏極化により増強された核

磁化は、その緩和時間:T1値に従って熱平衡状態へと減衰するた

め、DNP法を用いた測定を行う上で対象核のT1値は重要な因子

である。本研究では生体関連物質のT1依存性を解析した。

【研究方法】 T1値測定;600MHz NMRを用いて、反転回復法にて主

要な生体内物質(グルコース、ピルビン酸、アミノ酸等)や、簡易構造

のカルボニル化合物(尿素、アセトン等)の計30化合物、113官能基の13C核のT1値測定を行った。

【研究結果】 本研究項目では、T1値に関する網羅的解析を行った。T1

値に影響する因子として、官能基や分子量等が考えられる。そこで、

代表的な生体内物質や、簡易な構造のカルボニル化合物の計30化合

物、のべ113官能基中の13C核のT1値測定を行い、化合物の構造によ

るT1値の差異を調べ、またT1値の大きい13C核を有する化合物(官能

基)を探索した。その結果T1値と分子量の間に負の相関が見られ、ま

た、直接1Hと結合していない4級炭素(d)やカルボニル炭素(e、f、g)

は、他の炭素に比べてT1値が大きい傾向が見られた(図2-5)。

【考察】 本研究では、生体で有用な化合物のT1値に関する網羅的実

験及び、DNP-NMR法における代謝速度算出法の確立のための検討

を行った。DNPの特性から緩和時間が長く生命活動に重要な生体内

化合物の探索がキーであり、本手法の実用化にはなお基礎的な探索

研究を要することが明らかとなった。

■ 生体レドックス造影剤の新規合成1.新規ニトロキシルラジカルの酸化還元電位【研究方法】 新規ニト

ロキシルラジカルは、こ

れまでに開発した新規

合成法にて、ペンタメチ

ルピペリドンを出発原

料とし、目的のケトン物

質と反応させて合成し

た。合成したニトロキシルラジカル(2 mM)をリン酸緩衝液

(pH7.4)に溶解し、脱気した後に、電気化学測定装置を用いて酸化還

元電位を測定した。

【成果】 新規ニトロキシルラジカルは、新規合成法(PCT/

JP2008/051899、特願2007-022042)に従い合成した。合成し

た化合物と生体内還元物質であるアスコルビン酸との反応性を

X-band ESRを用いて評価した。その結果、ピペリジン環の2、6位を

置換することで、アスコルビン酸との反応性が大きく変化すること

がわかった(図2-10)。

 ニトロキシルラジカルは2つの酸化還元対を有する。2、6位に環状

の化合物(電子吸引性)を置換した場合ニトロキシルラジカルの

Redox ⅠのEpa、Epcが高電位側にシフトし酸化されにくくなってい

る。一方、Redox Ⅱでは、Epcが低電位側にシフトし還元されやすく

なっており、アスコルビン酸との反応性と相関が見られた。一方、鎖

状の化合物、特に2、6位にエチル基を導入した場合は、アスコルビン

酸との反応性が低下することがわかった。エチル基は電子供与性基

であり、ニトロキシルラジカルのRedox Ⅰでは、Epa、 Epcが低電位

側にシフトし、酸化されやすくなっている。一方、Redox Ⅱでは、エ

チル基の導入により予想と反し低電位側にシフトしている。従って、

エチル基を導入した場合、アスコルビン酸との反応性は酸化還元電

位のみで解釈することはできず、置換基の誘起効果以外の効果が影

響していることがわかった。

 以上の結果より、ピペリジン環の2、6位を修飾することで、生体内の

代表的な還元物質であるアスコルビン酸との反応性を制御でき、環状

化合物については酸化還元電位で説明できることがわかった。一方、

エチル基を導入した場合は、アスコルビン酸との反応性が著しく低下

すること、しかしながらこの反応は酸化還元電位のみでは説明できず、

置換基の誘起効果以外の影響を考慮する必要があると考えられる。

 我々は、既にアスコルビン酸と反応性が低いテトラエチルニトロ

キシルラジカルがOMRI用の造影剤として使用できることを既に報

告(Kinoshita Y et al.、 Free Radic Res 2009)している。また、既存

化合物であるTempol(現在米国にて放射線防護剤としてPhaseⅡ)と

比較し細胞毒性が低いこと(未発表)も見出しており、今後、新たな造

影剤、抗酸化剤としての応用展開が可能になると考えている。

2.脂質ラジカルとの反応性【研究方法】 ニトロキシルラジカル(0.5 mM)と脂質ラジカルとの

反応性は、リノレン酸(1 mM)とリポキシゲナーゼ(0.2 mg/ml)系に

て脂質ラジカルを産生させ、ニトロキシルラジカルのESRシグナル

強度の減衰から算出した。

【成果】 細胞膜は、生体内で産生したフリーラジカルなどの第1ター

ゲットであり、その結果、脂質ラジカルが生成される。この脂質ラジ

カルは、疾患の発症・進展に関与していることが多数報告され、脂質

ラジカルを生体内で捉えることが求められている。我々は、脳虚血再

灌流傷害、ニトロソアミン誘発肝障害モデルなどにて、ニトロキシル

ラジカルが生体内で産生した脂質ラジカルを捉え、またニトロキシ

ルラジカルの添加が疾患の発症を抑制することを報告した。そこで、

今回新たに合成した新規ニトロキシルラジカルと脂質ラジカルとの

反応性について評価を行った。脂質ラジカルは、リノール酸/リポキ

シゲナーゼを用いて産生させ、ニトロキシルラジカル添加後、

X-band ESRにてシグナル減衰速度を算出した。使用した化合物を

図2-11に示す。また、代表的な化合物のシグナル減衰速度を図

2-12aに、また今回測定した化合物の減衰速度を図2-12bに示す。

その結果、2、6位あるいは4位を置換したニトロキシルラジカルは、

脂質ラジカルとの反応性が亢進すること、既存化合物であるTempol

と比較し2~5倍高い反応性を示す化合物も見出した。さらに、ニト

ロキシルラジカルと脂質ラジカルとの反応後の試料を99℃で10分

間加熱すると、Tempolは脂質ラジカルとの共有結合が切れ大部分が

ニトロキシルラジカルとなること(82.5%)、一方、テトラエチル体は

全くニトロキシルラジカルに戻らないことがわかった。すなわち、テ

トラエチル体と脂質ラジカルとの結合は安定性化作用が強い、ある

いは既存化合物と作用点が異なるなどの可能性があり、今後詳細を

検討する予定である。

 以上の結果より、ニトロキシルラジカルの反応部位周囲の置換基

を変えることで、脂質ラジカルとの反応性が変化することがわかっ

た。今後、病態モデルなどに適用することで新たな抗酸化物質の創出

も可能となる。

3.酸素濃度感受性造影剤【研究方法】 合成したニトロキシルラジカルをリン酸緩衝液に溶解

し、異なる酸素濃度(0~20%)のガスにてバブリング下で凍結融解を

3回繰り返し、一定酸素濃度溶液になるよう調整した。その後、

X-band ESRにて、ニトロキシルラジカルの線幅を測定した。

【成果】 ニトロキシルラジカルは不対電子を有することから、酸素

分子とスピン-スピン相互作用し、ニトロキシルラジカルのESR線幅

がブロード化する。すなわち、酸素濃度に応じて線幅が変化すること

から、生体内酸素濃度をモニターする酸素濃度感受性造影剤として

使用可能である。古くからニトロキシルラジカルを用いた酸素濃度

変動を捉える試みがなされてきたが実用化には至っていない。これ

は、ESR狭線幅を持つOxo-TEMPOが、生体内に投与されると4位の

ケトン基が還元されヒドロキシル基になるため線幅がブロード化し、

酸素濃度変化をモニターすることができないためである。そこで

我々は、新たな狭線幅ニトロキシルラジカルを合成し、さらに酸素濃

度の影響について検討した。その結果、化合物9は、Oxo-TEMPOと

ほぼ同等の狭線幅を持ち、高い酸素濃度感受性を有することがわ

かった。さらにこの化合物を動物生体内に投与したところ、

Oxo-TEMPOと異なり、10分後に採血した血液のESRスペクトルで

もESR線幅に変化がないことがわかった(data not shown)。

 以上の結果より、新たに狭線幅ニトロキシルラジカルを開発し、こ

の化合物が酸素濃度感受性が高いこと、また動物体内に投与後も線

幅に変化が生じないことがわかり、酸素濃度感受性造影剤として、腫

瘍細胞内での酸素濃度変動をモニターすることができる可能性を示

した。

 以上、我々は、ニトロキシルラジカルの新規合成法の開発、並びに

化合物の創出を通じて、反応性を制御できることを見出した。また

現在放射線防護剤として米国でPhaseⅡであるTempolと比較して

も細胞傷害性が低く、脂質ラジカルなどとの反応性が高いことから、

造影剤のみでなく新たな抗酸化医薬の創出も可能であると考えて

いる。

4.酸化・還元の同時測定【研究方法】 生体レドックス造影剤のニトロキシルラジカルは、生

体内還元酵素やアスコルビン酸、活性酸素等と反応してヒドロキシ

ルアミン体に還元される一方、ヒドロキシルアミン体も容易に一電

子を失いラジカル体に酸化されることが知られている。レドックス

状態を物理化学的な酸化還元反応の視点から検討し、酸化・還元反応

の同時検出について検討を行った。

【成果】 15N体hydroxy-TEMPOと14N体hydroxy-TEMPOのヒドロ

キシルアミン体の組合せでは、15N体hydroxy-TEMPOのESR信号強

度は一次反応に従い減少したのに対して14N体hydroxy-TEMPOは

一次反応に従い増加した。一方、15N体carbamoyl-PROXYLと14N体

carbamoyl-PROXYLのヒドロキシルアミン体の組合せでは、14N、15N体ともに信号強度の変化は僅かであり、各々の一電子還元体との

平衡状態が大きく異なることが示唆された。

 次に、15N体hydroxy-TEMPOと14N体carbamoyl-PROXYLのヒド

ロキシルアミン体の組合せについて検討した結果、混合60分後には、15N体は約20 μMにまで減少し、14N体は約80 μMに増加した。一

方、15N体carbamoyl-PROXYLと14N体hydroxy-TEMPOのヒドロキ

シルアミン体の組合せでは、14N、15N体ともに信号強度の変化は僅か

で、混合60分後に、15N体は約80 μM、14N体は約20 μMであり、14N

体と15N体を入れ替えた結果とほぼ一致していた。

 現在、上記の15N体ニトロキシルラジカル体・14N体ヒドロキシルア

ミン体の系に活性酸素発生系を加え、反応速度や酸化還元平衡に及

ぼす影響を検討しているところである。

生体レドックスを画像化する新たなOMRI、DNP-MRIシステムを開発する視る

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R E D O X N A V I  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果 R E D O X N A V I

  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果

(図2-11)合成したニトロキシルラジカル(一部既存化合物を含む)

(図2-3)生体レドックス画像の比較低磁場OMRI画像(左、スライス厚20mm)、新OMRI画像(中央、スライス厚2mm)、ESRI画像(右、スライス厚約5mm)

(図2-4)マウスにおけるOMRIレドックス画像の比較低磁場OMRI画像(右列):スライス厚20mm,シャトル型OMRI画像(左列):スライス厚2 mm.低磁場OMRIでは低感度のためMRI像が得られないのに対し,高磁場装置では,明瞭なMRI像も得られている。

(図2-10)ニトロキシルラジカルとアスコルビン酸の反応性X-band ESRにてニトロキシルラジカルのESRシグナル強度の減衰速度を算出 *測定開始35秒後には測定限界までニトロキシルラジカルが減少

(図2-9)造影剤の同位体、官能基置換とその効果

(図2-5)各種化合物T1値と分子量(図2-2)新しい磁場循環法による1.5 T OMRI装置設計図、概念と概観

(図2-1)開発したOMRI試作機のブロック図と概観

a) ニトロキシルラジカルと脂質ラジカルとの反応性.リノール酸/リポキシゲナーゼ系にて脂質ラジカルを産生させ,ニトロキシルラジカルのシグナル強度を経時的に測定。b) ESRシグナル強度の傾き

(図2-12)

0.427

0.031 0.004

1.057

0.106

1.292

0.126

0.543

2.469

生体レドックス画像解析グループ(薬学研究院・工学研究院・日本電子株式会社)

■ OMRI装置の開発【背景】 誘電体である生体では、周波数に依存して生体への浸透距

離(表皮深さ)が低下するため、マウス程度のサイズの試料測定に利

用可能な電磁波は1GHz程度が上限である。従って、ESR励起は低磁

場(5~40mT)で行う必要がある。また、MRI検出磁場強度に制限は

ないものの緩和時間に依存して励起状態は失われるため、ESR励起

後短時間でMRI検出を行う必要がある。従って、測定組織によって低

磁場であるもののESR励起後短時間で撮像する装置、あるいは高磁

場でOMRI撮像する装置の2系統のOMRI装置が考えられる。

 当初三年の目標である協働機関が市販しているESRI装置をベース

に 100 mT OMRI装置を試作するとともに、新たな磁場循環法によ

り高磁場検出(高感度化)を試み、製品化を目指した開発研究を行った。

【研究方法】 安定した磁場が得られるL-Band帯ESR用磁石

(JES-CM3L)を用いた。本磁石は磁極間隙25cm程度と広く、磁場均

一度が高いことから(100ppm、 70mm DSV)、磁場強度も100mTま

で適用できる。NMR用共振器にESR励起用の高周波コイルを追加し

たOMRI用共振器とOMRI用NMRブリッジを製作し、MRIコンソール

にはESR励起用高周波の制御を行うパルスを追加したOMRI用MRI

コンソールソフトウェアの開発を行った。

 また、高感度化を目的とした磁場循環法の有用性の検討を行った。

電子スピン励起は低磁場で行う必要があるがプロトン検出磁場には

制限がない。従って、励起・検出過程で異なる磁場を用いる磁場循環

法が有効であるが、電磁石を用いる場合には最大磁場強度が限定さ

れる。この制限を克服するために、検体を複数磁石間で移動させる新

たな磁場循環法の有用性を検証した。

【結果】 開発した100 mT OMRI装置を図2-1に示す。磁場安定度、

磁場線形性により評価したところ、約25mm径の対象物(マウス程

度)のOMRI画像化に適していることが分かった。内径18mmのガラ

ス管にレドックス造影剤水溶液を封入したものを擬似試料として使

用し、OMRI撮像を行った。ESR励起を行っていない画像では、ガラ

スセル、ガラス板の識別が可能であるが、肉厚0.3mmガラス細管は識

別できなかった。一方、ESR照射を行い取得したOMRI画像では、造

影剤の存在によりプロトン信号強度が向上し、肉厚0.3mmのガラス

細管を十分識別できる鮮明画像を得ることに成功した。

 次にシャトル型磁場循環法による装置開発を試みた。本構成では

異なる2種の磁石装置を設置し、検体は移動装置により両磁石間を一

定速度で移動する。従って1個の電磁石を用いる場合に比べて、最大

磁場強度に制限がない。本手法により、検出磁場強度1.5 T(ESR励起

20mT)のOMRI装置の開発に成功した。本装置は世界で初めて1テ

スラ以上の検出磁場を実現したOMRI装置である。 (図2-2)。

 一般に、検出感度は磁場強度の2分の3乗に依存して増加する。従

来装置に比べて本装置の磁場強度は100倍増強していることから、

本装置のNMR検出感度は約1000倍に増強する計算になる。実際に

生体レドックス造影剤の画像を比較したところ、プロトン検出感度

は大幅に増強し、その結果本装置を用いて得られたOMRI画像の分解

能は既存低磁場装置より顕著に向上していた(図2-3)。また、これま

で用いられてきた連続波ESR画像化法と比べると、分解能等が格段

に優れていることが分かった。

 本装置を動物モデルに適用したところ、従来装置では、低感度のた

め事実上画像スライス厚を設定できなかったのに対して、高磁場装

置では高感度化を達成したために実験上適切なスライス厚さで、高

解像度のレドックス画像撮像を実現した(図2-4)。従って、本手法は、

生体レドックス動態の高解像度可視化に対して有用な手法であるこ

とを実証した。

■ DNP-NMR研究【背景】 NMR法は、化学シフトの違いから複数の化合物の情報

を分離できる。しかし、他の測定法に比べて非常に感度が低く、in

vivo代謝のリアルタイム解析を行うには至っていない。超偏極

(Dynamic Nuclear Polarization、 DNP)法は、核の超偏極化

(hyperpolarization)を行うことにより、NMRの感度を10000倍

以上上昇させることが可能である。超偏極化により増強された核

磁化は、その緩和時間:T1値に従って熱平衡状態へと減衰するた

め、DNP法を用いた測定を行う上で対象核のT1値は重要な因子

である。本研究では生体関連物質のT1依存性を解析した。

【研究方法】 T1値測定;600MHz NMRを用いて、反転回復法にて主

要な生体内物質(グルコース、ピルビン酸、アミノ酸等)や、簡易構造

のカルボニル化合物(尿素、アセトン等)の計30化合物、113官能基の13C核のT1値測定を行った。

【研究結果】 本研究項目では、T1値に関する網羅的解析を行った。T1

値に影響する因子として、官能基や分子量等が考えられる。そこで、

代表的な生体内物質や、簡易な構造のカルボニル化合物の計30化合

物、のべ113官能基中の13C核のT1値測定を行い、化合物の構造によ

るT1値の差異を調べ、またT1値の大きい13C核を有する化合物(官能

基)を探索した。その結果T1値と分子量の間に負の相関が見られ、ま

た、直接1Hと結合していない4級炭素(d)やカルボニル炭素(e、f、g)

は、他の炭素に比べてT1値が大きい傾向が見られた(図2-5)。

【考察】 本研究では、生体で有用な化合物のT1値に関する網羅的実

験及び、DNP-NMR法における代謝速度算出法の確立のための検討

を行った。DNPの特性から緩和時間が長く生命活動に重要な生体内

化合物の探索がキーであり、本手法の実用化にはなお基礎的な探索

研究を要することが明らかとなった。

■ 生体レドックス造影剤の新規合成1.新規ニトロキシルラジカルの酸化還元電位【研究方法】 新規ニト

ロキシルラジカルは、こ

れまでに開発した新規

合成法にて、ペンタメチ

ルピペリドンを出発原

料とし、目的のケトン物

質と反応させて合成し

た。合成したニトロキシルラジカル(2 mM)をリン酸緩衝液

(pH7.4)に溶解し、脱気した後に、電気化学測定装置を用いて酸化還

元電位を測定した。

【成果】 新規ニトロキシルラジカルは、新規合成法(PCT/

JP2008/051899、特願2007-022042)に従い合成した。合成し

た化合物と生体内還元物質であるアスコルビン酸との反応性を

X-band ESRを用いて評価した。その結果、ピペリジン環の2、6位を

置換することで、アスコルビン酸との反応性が大きく変化すること

がわかった(図2-10)。

 ニトロキシルラジカルは2つの酸化還元対を有する。2、6位に環状

の化合物(電子吸引性)を置換した場合ニトロキシルラジカルの

Redox ⅠのEpa、Epcが高電位側にシフトし酸化されにくくなってい

る。一方、Redox Ⅱでは、Epcが低電位側にシフトし還元されやすく

なっており、アスコルビン酸との反応性と相関が見られた。一方、鎖

状の化合物、特に2、6位にエチル基を導入した場合は、アスコルビン

酸との反応性が低下することがわかった。エチル基は電子供与性基

であり、ニトロキシルラジカルのRedox Ⅰでは、Epa、 Epcが低電位

側にシフトし、酸化されやすくなっている。一方、Redox Ⅱでは、エ

チル基の導入により予想と反し低電位側にシフトしている。従って、

エチル基を導入した場合、アスコルビン酸との反応性は酸化還元電

位のみで解釈することはできず、置換基の誘起効果以外の効果が影

響していることがわかった。

 以上の結果より、ピペリジン環の2、6位を修飾することで、生体内の

代表的な還元物質であるアスコルビン酸との反応性を制御でき、環状

化合物については酸化還元電位で説明できることがわかった。一方、

エチル基を導入した場合は、アスコルビン酸との反応性が著しく低下

すること、しかしながらこの反応は酸化還元電位のみでは説明できず、

置換基の誘起効果以外の影響を考慮する必要があると考えられる。

 我々は、既にアスコルビン酸と反応性が低いテトラエチルニトロ

キシルラジカルがOMRI用の造影剤として使用できることを既に報

告(Kinoshita Y et al.、 Free Radic Res 2009)している。また、既存

化合物であるTempol(現在米国にて放射線防護剤としてPhaseⅡ)と

比較し細胞毒性が低いこと(未発表)も見出しており、今後、新たな造

影剤、抗酸化剤としての応用展開が可能になると考えている。

2.脂質ラジカルとの反応性【研究方法】 ニトロキシルラジカル(0.5 mM)と脂質ラジカルとの

反応性は、リノレン酸(1 mM)とリポキシゲナーゼ(0.2 mg/ml)系に

て脂質ラジカルを産生させ、ニトロキシルラジカルのESRシグナル

強度の減衰から算出した。

【成果】 細胞膜は、生体内で産生したフリーラジカルなどの第1ター

ゲットであり、その結果、脂質ラジカルが生成される。この脂質ラジ

カルは、疾患の発症・進展に関与していることが多数報告され、脂質

ラジカルを生体内で捉えることが求められている。我々は、脳虚血再

灌流傷害、ニトロソアミン誘発肝障害モデルなどにて、ニトロキシル

ラジカルが生体内で産生した脂質ラジカルを捉え、またニトロキシ

ルラジカルの添加が疾患の発症を抑制することを報告した。そこで、

今回新たに合成した新規ニトロキシルラジカルと脂質ラジカルとの

反応性について評価を行った。脂質ラジカルは、リノール酸/リポキ

シゲナーゼを用いて産生させ、ニトロキシルラジカル添加後、

X-band ESRにてシグナル減衰速度を算出した。使用した化合物を

図2-11に示す。また、代表的な化合物のシグナル減衰速度を図

2-12aに、また今回測定した化合物の減衰速度を図2-12bに示す。

その結果、2、6位あるいは4位を置換したニトロキシルラジカルは、

脂質ラジカルとの反応性が亢進すること、既存化合物であるTempol

と比較し2~5倍高い反応性を示す化合物も見出した。さらに、ニト

ロキシルラジカルと脂質ラジカルとの反応後の試料を99℃で10分

間加熱すると、Tempolは脂質ラジカルとの共有結合が切れ大部分が

ニトロキシルラジカルとなること(82.5%)、一方、テトラエチル体は

全くニトロキシルラジカルに戻らないことがわかった。すなわち、テ

トラエチル体と脂質ラジカルとの結合は安定性化作用が強い、ある

いは既存化合物と作用点が異なるなどの可能性があり、今後詳細を

検討する予定である。

 以上の結果より、ニトロキシルラジカルの反応部位周囲の置換基

を変えることで、脂質ラジカルとの反応性が変化することがわかっ

た。今後、病態モデルなどに適用することで新たな抗酸化物質の創出

も可能となる。

3.酸素濃度感受性造影剤【研究方法】 合成したニトロキシルラジカルをリン酸緩衝液に溶解

し、異なる酸素濃度(0~20%)のガスにてバブリング下で凍結融解を

3回繰り返し、一定酸素濃度溶液になるよう調整した。その後、

X-band ESRにて、ニトロキシルラジカルの線幅を測定した。

【成果】 ニトロキシルラジカルは不対電子を有することから、酸素

分子とスピン-スピン相互作用し、ニトロキシルラジカルのESR線幅

がブロード化する。すなわち、酸素濃度に応じて線幅が変化すること

から、生体内酸素濃度をモニターする酸素濃度感受性造影剤として

使用可能である。古くからニトロキシルラジカルを用いた酸素濃度

変動を捉える試みがなされてきたが実用化には至っていない。これ

は、ESR狭線幅を持つOxo-TEMPOが、生体内に投与されると4位の

ケトン基が還元されヒドロキシル基になるため線幅がブロード化し、

酸素濃度変化をモニターすることができないためである。そこで

我々は、新たな狭線幅ニトロキシルラジカルを合成し、さらに酸素濃

度の影響について検討した。その結果、化合物9は、Oxo-TEMPOと

ほぼ同等の狭線幅を持ち、高い酸素濃度感受性を有することがわ

かった。さらにこの化合物を動物生体内に投与したところ、

Oxo-TEMPOと異なり、10分後に採血した血液のESRスペクトルで

もESR線幅に変化がないことがわかった(data not shown)。

 以上の結果より、新たに狭線幅ニトロキシルラジカルを開発し、こ

の化合物が酸素濃度感受性が高いこと、また動物体内に投与後も線

幅に変化が生じないことがわかり、酸素濃度感受性造影剤として、腫

瘍細胞内での酸素濃度変動をモニターすることができる可能性を示

した。

 以上、我々は、ニトロキシルラジカルの新規合成法の開発、並びに

化合物の創出を通じて、反応性を制御できることを見出した。また

現在放射線防護剤として米国でPhaseⅡであるTempolと比較して

も細胞傷害性が低く、脂質ラジカルなどとの反応性が高いことから、

造影剤のみでなく新たな抗酸化医薬の創出も可能であると考えて

いる。

4.酸化・還元の同時測定【研究方法】 生体レドックス造影剤のニトロキシルラジカルは、生

体内還元酵素やアスコルビン酸、活性酸素等と反応してヒドロキシ

ルアミン体に還元される一方、ヒドロキシルアミン体も容易に一電

子を失いラジカル体に酸化されることが知られている。レドックス

状態を物理化学的な酸化還元反応の視点から検討し、酸化・還元反応

の同時検出について検討を行った。

【成果】 15N体hydroxy-TEMPOと14N体hydroxy-TEMPOのヒドロ

キシルアミン体の組合せでは、15N体hydroxy-TEMPOのESR信号強

度は一次反応に従い減少したのに対して14N体hydroxy-TEMPOは

一次反応に従い増加した。一方、15N体carbamoyl-PROXYLと14N体

carbamoyl-PROXYLのヒドロキシルアミン体の組合せでは、14N、15N体ともに信号強度の変化は僅かであり、各々の一電子還元体との

平衡状態が大きく異なることが示唆された。

 次に、15N体hydroxy-TEMPOと14N体carbamoyl-PROXYLのヒド

ロキシルアミン体の組合せについて検討した結果、混合60分後には、15N体は約20 μMにまで減少し、14N体は約80 μMに増加した。一

方、15N体carbamoyl-PROXYLと14N体hydroxy-TEMPOのヒドロキ

シルアミン体の組合せでは、14N、15N体ともに信号強度の変化は僅か

で、混合60分後に、15N体は約80 μM、14N体は約20 μMであり、14N

体と15N体を入れ替えた結果とほぼ一致していた。

 現在、上記の15N体ニトロキシルラジカル体・14N体ヒドロキシルア

ミン体の系に活性酸素発生系を加え、反応速度や酸化還元平衡に及

ぼす影響を検討しているところである。

生体レドックスを画像化する新たなOMRI、DNP-MRIシステムを開発する視る

76 98

R E D O X N A V I  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果 R E D O X N A V I

  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果

(図2-11)合成したニトロキシルラジカル(一部既存化合物を含む)

(図2-3)生体レドックス画像の比較低磁場OMRI画像(左、スライス厚20mm)、新OMRI画像(中央、スライス厚2mm)、ESRI画像(右、スライス厚約5mm)

(図2-4)マウスにおけるOMRIレドックス画像の比較低磁場OMRI画像(右列):スライス厚20mm,シャトル型OMRI画像(左列):スライス厚2 mm.低磁場OMRIでは低感度のためMRI像が得られないのに対し,高磁場装置では,明瞭なMRI像も得られている。

(図2-10)ニトロキシルラジカルとアスコルビン酸の反応性X-band ESRにてニトロキシルラジカルのESRシグナル強度の減衰速度を算出 *測定開始35秒後には測定限界までニトロキシルラジカルが減少

(図2-9)造影剤の同位体、官能基置換とその効果

(図2-5)各種化合物T1値と分子量(図2-2)新しい磁場循環法による1.5 T OMRI装置設計図、概念と概観

(図2-1)開発したOMRI試作機のブロック図と概観

a) ニトロキシルラジカルと脂質ラジカルとの反応性.リノール酸/リポキシゲナーゼ系にて脂質ラジカルを産生させ,ニトロキシルラジカルのシグナル強度を経時的に測定。b) ESRシグナル強度の傾き

(図2-12)

0.427

0.031 0.004

1.057

0.106

1.292

0.126

0.543

2.469

生体レドックス画像解析グループ(薬学研究院・工学研究院・日本電子株式会社)

■ OMRI装置の開発【背景】 誘電体である生体では、周波数に依存して生体への浸透距

離(表皮深さ)が低下するため、マウス程度のサイズの試料測定に利

用可能な電磁波は1GHz程度が上限である。従って、ESR励起は低磁

場(5~40mT)で行う必要がある。また、MRI検出磁場強度に制限は

ないものの緩和時間に依存して励起状態は失われるため、ESR励起

後短時間でMRI検出を行う必要がある。従って、測定組織によって低

磁場であるもののESR励起後短時間で撮像する装置、あるいは高磁

場でOMRI撮像する装置の2系統のOMRI装置が考えられる。

 当初三年の目標である協働機関が市販しているESRI装置をベース

に 100 mT OMRI装置を試作するとともに、新たな磁場循環法によ

り高磁場検出(高感度化)を試み、製品化を目指した開発研究を行った。

【研究方法】 安定した磁場が得られるL-Band帯ESR用磁石

(JES-CM3L)を用いた。本磁石は磁極間隙25cm程度と広く、磁場均

一度が高いことから(100ppm、 70mm DSV)、磁場強度も100mTま

で適用できる。NMR用共振器にESR励起用の高周波コイルを追加し

たOMRI用共振器とOMRI用NMRブリッジを製作し、MRIコンソール

にはESR励起用高周波の制御を行うパルスを追加したOMRI用MRI

コンソールソフトウェアの開発を行った。

 また、高感度化を目的とした磁場循環法の有用性の検討を行った。

電子スピン励起は低磁場で行う必要があるがプロトン検出磁場には

制限がない。従って、励起・検出過程で異なる磁場を用いる磁場循環

法が有効であるが、電磁石を用いる場合には最大磁場強度が限定さ

れる。この制限を克服するために、検体を複数磁石間で移動させる新

たな磁場循環法の有用性を検証した。

【結果】 開発した100 mT OMRI装置を図2-1に示す。磁場安定度、

磁場線形性により評価したところ、約25mm径の対象物(マウス程

度)のOMRI画像化に適していることが分かった。内径18mmのガラ

ス管にレドックス造影剤水溶液を封入したものを擬似試料として使

用し、OMRI撮像を行った。ESR励起を行っていない画像では、ガラ

スセル、ガラス板の識別が可能であるが、肉厚0.3mmガラス細管は識

別できなかった。一方、ESR照射を行い取得したOMRI画像では、造

影剤の存在によりプロトン信号強度が向上し、肉厚0.3mmのガラス

細管を十分識別できる鮮明画像を得ることに成功した。

 次にシャトル型磁場循環法による装置開発を試みた。本構成では

異なる2種の磁石装置を設置し、検体は移動装置により両磁石間を一

定速度で移動する。従って1個の電磁石を用いる場合に比べて、最大

磁場強度に制限がない。本手法により、検出磁場強度1.5 T(ESR励起

20mT)のOMRI装置の開発に成功した。本装置は世界で初めて1テ

スラ以上の検出磁場を実現したOMRI装置である。 (図2-2)。

 一般に、検出感度は磁場強度の2分の3乗に依存して増加する。従

来装置に比べて本装置の磁場強度は100倍増強していることから、

本装置のNMR検出感度は約1000倍に増強する計算になる。実際に

生体レドックス造影剤の画像を比較したところ、プロトン検出感度

は大幅に増強し、その結果本装置を用いて得られたOMRI画像の分解

能は既存低磁場装置より顕著に向上していた(図2-3)。また、これま

で用いられてきた連続波ESR画像化法と比べると、分解能等が格段

に優れていることが分かった。

 本装置を動物モデルに適用したところ、従来装置では、低感度のた

め事実上画像スライス厚を設定できなかったのに対して、高磁場装

置では高感度化を達成したために実験上適切なスライス厚さで、高

解像度のレドックス画像撮像を実現した(図2-4)。従って、本手法は、

生体レドックス動態の高解像度可視化に対して有用な手法であるこ

とを実証した。

■ DNP-NMR研究【背景】 NMR法は、化学シフトの違いから複数の化合物の情報

を分離できる。しかし、他の測定法に比べて非常に感度が低く、in

vivo代謝のリアルタイム解析を行うには至っていない。超偏極

(Dynamic Nuclear Polarization、 DNP)法は、核の超偏極化

(hyperpolarization)を行うことにより、NMRの感度を10000倍

以上上昇させることが可能である。超偏極化により増強された核

磁化は、その緩和時間:T1値に従って熱平衡状態へと減衰するた

め、DNP法を用いた測定を行う上で対象核のT1値は重要な因子

である。本研究では生体関連物質のT1依存性を解析した。

【研究方法】 T1値測定;600MHz NMRを用いて、反転回復法にて主

要な生体内物質(グルコース、ピルビン酸、アミノ酸等)や、簡易構造

のカルボニル化合物(尿素、アセトン等)の計30化合物、113官能基の13C核のT1値測定を行った。

【研究結果】 本研究項目では、T1値に関する網羅的解析を行った。T1

値に影響する因子として、官能基や分子量等が考えられる。そこで、

代表的な生体内物質や、簡易な構造のカルボニル化合物の計30化合

物、のべ113官能基中の13C核のT1値測定を行い、化合物の構造によ

るT1値の差異を調べ、またT1値の大きい13C核を有する化合物(官能

基)を探索した。その結果T1値と分子量の間に負の相関が見られ、ま

た、直接1Hと結合していない4級炭素(d)やカルボニル炭素(e、f、g)

は、他の炭素に比べてT1値が大きい傾向が見られた(図2-5)。

【考察】 本研究では、生体で有用な化合物のT1値に関する網羅的実

験及び、DNP-NMR法における代謝速度算出法の確立のための検討

を行った。DNPの特性から緩和時間が長く生命活動に重要な生体内

化合物の探索がキーであり、本手法の実用化にはなお基礎的な探索

研究を要することが明らかとなった。

■ 生体レドックス造影剤の新規合成1.新規ニトロキシルラジカルの酸化還元電位【研究方法】 新規ニト

ロキシルラジカルは、こ

れまでに開発した新規

合成法にて、ペンタメチ

ルピペリドンを出発原

料とし、目的のケトン物

質と反応させて合成し

た。合成したニトロキシルラジカル(2 mM)をリン酸緩衝液

(pH7.4)に溶解し、脱気した後に、電気化学測定装置を用いて酸化還

元電位を測定した。

【成果】 新規ニトロキシルラジカルは、新規合成法(PCT/

JP2008/051899、特願2007-022042)に従い合成した。合成し

た化合物と生体内還元物質であるアスコルビン酸との反応性を

X-band ESRを用いて評価した。その結果、ピペリジン環の2、6位を

置換することで、アスコルビン酸との反応性が大きく変化すること

がわかった(図2-10)。

 ニトロキシルラジカルは2つの酸化還元対を有する。2、6位に環状

の化合物(電子吸引性)を置換した場合ニトロキシルラジカルの

Redox ⅠのEpa、Epcが高電位側にシフトし酸化されにくくなってい

る。一方、Redox Ⅱでは、Epcが低電位側にシフトし還元されやすく

なっており、アスコルビン酸との反応性と相関が見られた。一方、鎖

状の化合物、特に2、6位にエチル基を導入した場合は、アスコルビン

酸との反応性が低下することがわかった。エチル基は電子供与性基

であり、ニトロキシルラジカルのRedox Ⅰでは、Epa、 Epcが低電位

側にシフトし、酸化されやすくなっている。一方、Redox Ⅱでは、エ

チル基の導入により予想と反し低電位側にシフトしている。従って、

エチル基を導入した場合、アスコルビン酸との反応性は酸化還元電

位のみで解釈することはできず、置換基の誘起効果以外の効果が影

響していることがわかった。

 以上の結果より、ピペリジン環の2、6位を修飾することで、生体内の

代表的な還元物質であるアスコルビン酸との反応性を制御でき、環状

化合物については酸化還元電位で説明できることがわかった。一方、

エチル基を導入した場合は、アスコルビン酸との反応性が著しく低下

すること、しかしながらこの反応は酸化還元電位のみでは説明できず、

置換基の誘起効果以外の影響を考慮する必要があると考えられる。

 我々は、既にアスコルビン酸と反応性が低いテトラエチルニトロ

キシルラジカルがOMRI用の造影剤として使用できることを既に報

告(Kinoshita Y et al.、 Free Radic Res 2009)している。また、既存

化合物であるTempol(現在米国にて放射線防護剤としてPhaseⅡ)と

比較し細胞毒性が低いこと(未発表)も見出しており、今後、新たな造

影剤、抗酸化剤としての応用展開が可能になると考えている。

2.脂質ラジカルとの反応性【研究方法】 ニトロキシルラジカル(0.5 mM)と脂質ラジカルとの

反応性は、リノレン酸(1 mM)とリポキシゲナーゼ(0.2 mg/ml)系に

て脂質ラジカルを産生させ、ニトロキシルラジカルのESRシグナル

強度の減衰から算出した。

【成果】 細胞膜は、生体内で産生したフリーラジカルなどの第1ター

ゲットであり、その結果、脂質ラジカルが生成される。この脂質ラジ

カルは、疾患の発症・進展に関与していることが多数報告され、脂質

ラジカルを生体内で捉えることが求められている。我々は、脳虚血再

灌流傷害、ニトロソアミン誘発肝障害モデルなどにて、ニトロキシル

ラジカルが生体内で産生した脂質ラジカルを捉え、またニトロキシ

ルラジカルの添加が疾患の発症を抑制することを報告した。そこで、

今回新たに合成した新規ニトロキシルラジカルと脂質ラジカルとの

反応性について評価を行った。脂質ラジカルは、リノール酸/リポキ

シゲナーゼを用いて産生させ、ニトロキシルラジカル添加後、

X-band ESRにてシグナル減衰速度を算出した。使用した化合物を

図2-11に示す。また、代表的な化合物のシグナル減衰速度を図

2-12aに、また今回測定した化合物の減衰速度を図2-12bに示す。

その結果、2、6位あるいは4位を置換したニトロキシルラジカルは、

脂質ラジカルとの反応性が亢進すること、既存化合物であるTempol

と比較し2~5倍高い反応性を示す化合物も見出した。さらに、ニト

ロキシルラジカルと脂質ラジカルとの反応後の試料を99℃で10分

間加熱すると、Tempolは脂質ラジカルとの共有結合が切れ大部分が

ニトロキシルラジカルとなること(82.5%)、一方、テトラエチル体は

全くニトロキシルラジカルに戻らないことがわかった。すなわち、テ

トラエチル体と脂質ラジカルとの結合は安定性化作用が強い、ある

いは既存化合物と作用点が異なるなどの可能性があり、今後詳細を

検討する予定である。

 以上の結果より、ニトロキシルラジカルの反応部位周囲の置換基

を変えることで、脂質ラジカルとの反応性が変化することがわかっ

た。今後、病態モデルなどに適用することで新たな抗酸化物質の創出

も可能となる。

3.酸素濃度感受性造影剤【研究方法】 合成したニトロキシルラジカルをリン酸緩衝液に溶解

し、異なる酸素濃度(0~20%)のガスにてバブリング下で凍結融解を

3回繰り返し、一定酸素濃度溶液になるよう調整した。その後、

X-band ESRにて、ニトロキシルラジカルの線幅を測定した。

【成果】 ニトロキシルラジカルは不対電子を有することから、酸素

分子とスピン-スピン相互作用し、ニトロキシルラジカルのESR線幅

がブロード化する。すなわち、酸素濃度に応じて線幅が変化すること

から、生体内酸素濃度をモニターする酸素濃度感受性造影剤として

使用可能である。古くからニトロキシルラジカルを用いた酸素濃度

変動を捉える試みがなされてきたが実用化には至っていない。これ

は、ESR狭線幅を持つOxo-TEMPOが、生体内に投与されると4位の

ケトン基が還元されヒドロキシル基になるため線幅がブロード化し、

酸素濃度変化をモニターすることができないためである。そこで

我々は、新たな狭線幅ニトロキシルラジカルを合成し、さらに酸素濃

度の影響について検討した。その結果、化合物9は、Oxo-TEMPOと

ほぼ同等の狭線幅を持ち、高い酸素濃度感受性を有することがわ

かった。さらにこの化合物を動物生体内に投与したところ、

Oxo-TEMPOと異なり、10分後に採血した血液のESRスペクトルで

もESR線幅に変化がないことがわかった(data not shown)。

 以上の結果より、新たに狭線幅ニトロキシルラジカルを開発し、こ

の化合物が酸素濃度感受性が高いこと、また動物体内に投与後も線

幅に変化が生じないことがわかり、酸素濃度感受性造影剤として、腫

瘍細胞内での酸素濃度変動をモニターすることができる可能性を示

した。

 以上、我々は、ニトロキシルラジカルの新規合成法の開発、並びに

化合物の創出を通じて、反応性を制御できることを見出した。また

現在放射線防護剤として米国でPhaseⅡであるTempolと比較して

も細胞傷害性が低く、脂質ラジカルなどとの反応性が高いことから、

造影剤のみでなく新たな抗酸化医薬の創出も可能であると考えて

いる。

4.酸化・還元の同時測定【研究方法】 生体レドックス造影剤のニトロキシルラジカルは、生

体内還元酵素やアスコルビン酸、活性酸素等と反応してヒドロキシ

ルアミン体に還元される一方、ヒドロキシルアミン体も容易に一電

子を失いラジカル体に酸化されることが知られている。レドックス

状態を物理化学的な酸化還元反応の視点から検討し、酸化・還元反応

の同時検出について検討を行った。

【成果】 15N体hydroxy-TEMPOと14N体hydroxy-TEMPOのヒドロ

キシルアミン体の組合せでは、15N体hydroxy-TEMPOのESR信号強

度は一次反応に従い減少したのに対して14N体hydroxy-TEMPOは

一次反応に従い増加した。一方、15N体carbamoyl-PROXYLと14N体

carbamoyl-PROXYLのヒドロキシルアミン体の組合せでは、14N、15N体ともに信号強度の変化は僅かであり、各々の一電子還元体との

平衡状態が大きく異なることが示唆された。

 次に、15N体hydroxy-TEMPOと14N体carbamoyl-PROXYLのヒド

ロキシルアミン体の組合せについて検討した結果、混合60分後には、15N体は約20 μMにまで減少し、14N体は約80 μMに増加した。一

方、15N体carbamoyl-PROXYLと14N体hydroxy-TEMPOのヒドロキ

シルアミン体の組合せでは、14N、15N体ともに信号強度の変化は僅か

で、混合60分後に、15N体は約80 μM、14N体は約20 μMであり、14N

体と15N体を入れ替えた結果とほぼ一致していた。

 現在、上記の15N体ニトロキシルラジカル体・14N体ヒドロキシルア

ミン体の系に活性酸素発生系を加え、反応速度や酸化還元平衡に及

ぼす影響を検討しているところである。

生体レドックスを画像化する新たなOMRI、DNP-MRIシステムを開発する視る

76 98

R E D O X N A V I  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果 R E D O X N A V I

  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果

(図1-1)MALDI-MSによるモデル代謝物の定量性

(図1-2)MALDI-MS測定データを用いたPCA score plot (A)およびOPLS S-plot (B)

(図1 -3)尿サンプルのMALDI-MSスペクトル

(図2-1)CTU guanamineおよびPAPSのMSスペクトル

(A)

(B)

(表2-1)CTU guanamineの同位体ピーク比の実測値および     理論値の比較

(図3-1)異なる測定法で得られたデータを用いたPCA。 (A)MALDI-FT-ICR-MS、 (B)HILIC-LC-MS、 (C)RP-LC-MS

(図3 -2)各測定法で見出されたマーカー候補代謝物数の比較

(図4-2)GSSG/GSH比を用いたマウス脳内のレドックスマップ

(図4-1)質量分析イメージングによる生体内代謝物のマウス脳内分布の可視化(A) NADH、(B) ATP、(C) citric acid、(D) fructose 1,6-bisphosphate

Elemental composition foreach peak

The ratio for measuredarea (%)

The ratio for simulatedarea (%)

C17H27N10O4 100 100

C17H27N915N1O4 3.8 3.7

C1613C1H27N10O4 18.6 18.4

C1613C1H27N9

15N1O4 0.6 0.7

C17H27N10O318O1 0.8 0.8

C1513C2H27N10O4 1.6 1.6

質量分析計を用いたメタボリック・プロファイリング技術を開発する

メタボリック・プロファイリンググループ(農学研究院・株式会社島津製作所) ■ 三年目の目標と目標に対する結果①高感度かつハイスループットな代謝物測定技術の開発(図1) レドックス関連疾患に対する特異的なマーカー代謝物を検出・同

定するには、微量な代謝物を定量性良く測定し、さらに統計学的に

信頼できるだけのサンプルを測定するためには、測定技術の高感度

化およびハイスループット化は極めて重要な要素技術である。

我々はこれまで低分子量物質への適用が困難であるといわれてい

たマトリックス支援型レーザー脱離イオン化法(MALDI法)に着目

し、研究を開始した。MALDI法は代表的なソフトイオン化法として

主にタンパク質やペプチド分析に用いられるが、代謝物分析におい

ては、代表的なマトリックスである2、5-ジヒドロキシ安息香酸

(DHB)を用いた場合でも、エレクトロスプレーイオン化法(ESI法)

や大気圧化学イオン化法(APCI法)の数パーセントしか検出対象に

ならないと言われている。一方、検出感度はESI法・APCI法を遙か

に凌ぐ。我々は9-aminoacridineをマトリックスとして用い、負イ

オン測定を行うことで、既存の常識を覆す生体代謝物質の超高感度

(サブattomoleレベル)測定法および単一細胞からの非標的型代謝

物検出法の開発に成功した。また、MALDI法は従来定量性に欠ける

測定法であると言われているが、サンプル調製およびデータの標準

化を工夫することで、高い定量性を確保できることも同時に明らか

とし、MALDI法を用いた超高速メタボリック・プロファイリング法

の確立に成功した。

要 旨

 がんや心疾患、生活習慣病の多くは、直接的・間接的に生体内レドックス状態の変動により引き起こされると言われている。これらレドックス関

連疾患に対する特異的なマーカーを見出すことは、生体レドックス異常による発症機構の解明、さらに総合診断・総合診療へと繋がるため、本グ

ループで開発する技術は、生体レドックス計測と医療・創薬をつなぐ重要なリンカーになると考えられる。メタボロミクスはゲノムの物質的最終

表現型ともいえる代謝物を対象とするため、バイオマーカー探索や創薬ターゲットの同定、疾病発症メカニズム解明における重要性が強く指摘さ

れている。現在メタボロミクスには多くの場合LC-MSやGC-MS、CE-MS等の質量分析ベースの分析法が用いられており、メタボロミクスの基

盤技術は確立されつつあるが、今後、診断・創薬分野でメタボロミクス技術を利用していくには、膨大なサンプルを極めて短時間で効率よく測定で

き、かつより高感度な代謝物測定法の開発が重要となると考えられる。さらに、疾患部位からの代謝物抽出法については決して優れた標準法があ

るわけではなく、また抽出することで患部組織の持つ形態情報は失われてしまう。組織試料から直接代謝物を検出する技術があれば、疾患メタボ

ロミクスにおける大きなブレイクスルーになると考えられる。

 我々はこの三年間を新たな革新的メタボロミクスに対する要素技術の開発・確立の期間と位置づけ、①高感度かつハイスループットな代謝物測

定技術の開発、②標品非依存型代謝物同定法の開発、③高精度メタボリック・プロファイリング技術の開発とレドックス関連疾患への適用、以上三

点に焦点を絞った研究開発を行ってきた。さらに、①高感度かつハイスループットな代謝物測定技術の開発における、MALDI法を用いた代謝物測

定技術の開発において、当初の予想以上に研究の進展が見られたため、7年目までの達成目標であった④ in situメタボロミクスイメージング技術の

開発も前倒しで行った。

②標品非依存型代謝物同定法の開発(図・表2) メタボロミクスおよびメタボリック・プロファイリングでは測定

対象が低分子量代謝物であり、動物の場合その種類は数千~一万に

上ると言われている。従来、代謝物を同定するには標品と比較する

以外には、対象化合物を大量に精製しNMR測定を行う以外に方法

が無いが、入手可能な標品が全代謝物の二割程度しか存在せず、ま

た貴重なサンプル中の微量成分が対象となるため、多くの場合未知

代謝物として放置されてしまう。今後レドックス関連疾患に対す

る特異的マーカー代謝物を開発するにあたり、標品に依存しない代

謝物同定技術の確立が必須となってくる。そこで我々は、極めて高

い質量精度(1 ppm以下)および質量分解能(FWHM = 1,000,000

以上)超高感度(1 fmol以下)を達成できるFT-ICR-MSを用いて、測

定した化合物の同位体ピーク比より正確に組成式を決定できる手

法を確立した。さらに、島津製作所製LCMS-IT-TOFを用いて標品

および未知代謝物を含むMS/MSスペクトルデータベースを作成す

ることで、部分構造(MS/MSスペクトルの質量差)情報から未知代

謝 物 の 構 造 推 定 シ ス テ ム の 構 築 を 行 っ て い る。ま た、

MALDI-TOF/TOF-MSによるMS/MSデータベースの充実にも着

手している。

③高精度メタボリック・プロファイリング技術の開発と レドックス関連疾患への適用(図3)

 これまで、多くの研究者がメタボリック・プロファイリングによ

る病態診断やバイオマーカー探索技術の開発を試みているが、多く

の場合一元的な測定技術のみを用いており、実際には変動のある代

謝物を見逃している可能性が高い。生体内には化学的性質の異な

る極めて多種多様な代謝産物が非常に大きな濃度範囲で存在して

いる事が挙げられるため、一つの測定法では全ての代謝物をカバー

できないのは明白である。また、上記②で述べたような理由から多

くの場合はマーカー代謝物の同定には至っておらず、スペクトル全

体を用いた病態診断に留まっている。そこで我々は多元的に代謝

物分離法および質量分析法を組み合わせることによって、高精度な

メタボリック・プロファイリング技術の開発に着手した。健常およ

び先天性高血圧症ラットから採取した尿を用いて、LC-MS(前分離

として逆相・親水性相互作用)、MALDI-MS(TOFおよびFT-ICR-

MS)にて測定し、それぞれの測定データ単独で多変量解析を行った

結果、どのデータでも健常および先天性高血圧症ラットの二群を識

別することが可能であった。しかし、二群間の違いに大きく寄与す

る代謝物はそれぞれの測定法毎に異なることが明らかとなった。

これらのデータを全て統合することで、測定対象の拡充とマーカー

代謝物の信頼性を向上させる高精度メタボリック・プロファイリン

グ技術の開発に成功した。

④ in situメタボロミクスイメージング技術の開発(7年目までの達成目標)(図4)

 既存のイメージング技術の大半は単一の分子もしくは単一の現

象に対象を絞って画像化するため、高い検出感度と時空間分解能を

有する一方、得られる情報は極めて限定的である。現在盛んに行わ

れている質量分析イメージングにおいては、いくつかの生体分子の

局在を同時に可視化出来るものの、組織中に圧倒的多量に存在する

細胞膜脂質等の分子群に限定された適用に留まっている。一方、近

年飛躍的に向上しつつあるメタボロミクス解析技術は、測定におけ

る種々の制約により、代謝物の抽出・濃縮が不可欠である。したがっ

て結果的に得られる情報は生体組織全体の平均値となり、局所的な

メタボローム変動情報は完全に消失してしまう。本研究は、生体内

に存在する代謝物の総体を解析するメタボロミクス解析技術と、新

しい情報可視化技術である質量分析イメージングの融合による、時

空間分解・網羅的生体情報解析法の確立に向けた基盤技術の創出を

目指すものである。①にて開発した微量生体物質の高感度測定法を

質量イメージングに適応することを試みた。9-aminoacridineをマ

トリックスとして用い、50μmの空間分解能で質量分析イメージン

グを行った。その結果、生体内レドックス状態を反映する代謝物

(NADH、GSH/GSSG)やエネルギ-物質(ATPなど)、セカンドメッ

センジャー(cAMP、cGMPなど)、中央代謝系中間体など、約100種

の代謝物について組織内分布の可視化に成功した。

視る

11 131210

R E D O X N A V I  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果 R E D O X N A V I

  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果

(図1-1)MALDI-MSによるモデル代謝物の定量性

(図1-2)MALDI-MS測定データを用いたPCA score plot (A)およびOPLS S-plot (B)

(図1 -3)尿サンプルのMALDI-MSスペクトル

(図2-1)CTU guanamineおよびPAPSのMSスペクトル

(A)

(B)

(表2-1)CTU guanamineの同位体ピーク比の実測値および     理論値の比較

(図3-1)異なる測定法で得られたデータを用いたPCA。 (A)MALDI-FT-ICR-MS、 (B)HILIC-LC-MS、 (C)RP-LC-MS

(図3 -2)各測定法で見出されたマーカー候補代謝物数の比較

(図4-2)GSSG/GSH比を用いたマウス脳内のレドックスマップ

(図4-1)質量分析イメージングによる生体内代謝物のマウス脳内分布の可視化(A) NADH、(B) ATP、(C) citric acid、(D) fructose 1,6-bisphosphate

Elemental composition foreach peak

The ratio for measuredarea (%)

The ratio for simulatedarea (%)

C17H27N10O4 100 100

C17H27N915N1O4 3.8 3.7

C1613C1H27N10O4 18.6 18.4

C1613C1H27N9

15N1O4 0.6 0.7

C17H27N10O318O1 0.8 0.8

C1513C2H27N10O4 1.6 1.6

質量分析計を用いたメタボリック・プロファイリング技術を開発する

メタボリック・プロファイリンググループ(農学研究院・株式会社島津製作所) ■ 三年目の目標と目標に対する結果①高感度かつハイスループットな代謝物測定技術の開発(図1) レドックス関連疾患に対する特異的なマーカー代謝物を検出・同

定するには、微量な代謝物を定量性良く測定し、さらに統計学的に

信頼できるだけのサンプルを測定するためには、測定技術の高感度

化およびハイスループット化は極めて重要な要素技術である。

我々はこれまで低分子量物質への適用が困難であるといわれてい

たマトリックス支援型レーザー脱離イオン化法(MALDI法)に着目

し、研究を開始した。MALDI法は代表的なソフトイオン化法として

主にタンパク質やペプチド分析に用いられるが、代謝物分析におい

ては、代表的なマトリックスである2、5-ジヒドロキシ安息香酸

(DHB)を用いた場合でも、エレクトロスプレーイオン化法(ESI法)

や大気圧化学イオン化法(APCI法)の数パーセントしか検出対象に

ならないと言われている。一方、検出感度はESI法・APCI法を遙か

に凌ぐ。我々は9-aminoacridineをマトリックスとして用い、負イ

オン測定を行うことで、既存の常識を覆す生体代謝物質の超高感度

(サブattomoleレベル)測定法および単一細胞からの非標的型代謝

物検出法の開発に成功した。また、MALDI法は従来定量性に欠ける

測定法であると言われているが、サンプル調製およびデータの標準

化を工夫することで、高い定量性を確保できることも同時に明らか

とし、MALDI法を用いた超高速メタボリック・プロファイリング法

の確立に成功した。

要 旨

 がんや心疾患、生活習慣病の多くは、直接的・間接的に生体内レドックス状態の変動により引き起こされると言われている。これらレドックス関

連疾患に対する特異的なマーカーを見出すことは、生体レドックス異常による発症機構の解明、さらに総合診断・総合診療へと繋がるため、本グ

ループで開発する技術は、生体レドックス計測と医療・創薬をつなぐ重要なリンカーになると考えられる。メタボロミクスはゲノムの物質的最終

表現型ともいえる代謝物を対象とするため、バイオマーカー探索や創薬ターゲットの同定、疾病発症メカニズム解明における重要性が強く指摘さ

れている。現在メタボロミクスには多くの場合LC-MSやGC-MS、CE-MS等の質量分析ベースの分析法が用いられており、メタボロミクスの基

盤技術は確立されつつあるが、今後、診断・創薬分野でメタボロミクス技術を利用していくには、膨大なサンプルを極めて短時間で効率よく測定で

き、かつより高感度な代謝物測定法の開発が重要となると考えられる。さらに、疾患部位からの代謝物抽出法については決して優れた標準法があ

るわけではなく、また抽出することで患部組織の持つ形態情報は失われてしまう。組織試料から直接代謝物を検出する技術があれば、疾患メタボ

ロミクスにおける大きなブレイクスルーになると考えられる。

 我々はこの三年間を新たな革新的メタボロミクスに対する要素技術の開発・確立の期間と位置づけ、①高感度かつハイスループットな代謝物測

定技術の開発、②標品非依存型代謝物同定法の開発、③高精度メタボリック・プロファイリング技術の開発とレドックス関連疾患への適用、以上三

点に焦点を絞った研究開発を行ってきた。さらに、①高感度かつハイスループットな代謝物測定技術の開発における、MALDI法を用いた代謝物測

定技術の開発において、当初の予想以上に研究の進展が見られたため、7年目までの達成目標であった④ in situメタボロミクスイメージング技術の

開発も前倒しで行った。

②標品非依存型代謝物同定法の開発(図・表2) メタボロミクスおよびメタボリック・プロファイリングでは測定

対象が低分子量代謝物であり、動物の場合その種類は数千~一万に

上ると言われている。従来、代謝物を同定するには標品と比較する

以外には、対象化合物を大量に精製しNMR測定を行う以外に方法

が無いが、入手可能な標品が全代謝物の二割程度しか存在せず、ま

た貴重なサンプル中の微量成分が対象となるため、多くの場合未知

代謝物として放置されてしまう。今後レドックス関連疾患に対す

る特異的マーカー代謝物を開発するにあたり、標品に依存しない代

謝物同定技術の確立が必須となってくる。そこで我々は、極めて高

い質量精度(1 ppm以下)および質量分解能(FWHM = 1,000,000

以上)超高感度(1 fmol以下)を達成できるFT-ICR-MSを用いて、測

定した化合物の同位体ピーク比より正確に組成式を決定できる手

法を確立した。さらに、島津製作所製LCMS-IT-TOFを用いて標品

および未知代謝物を含むMS/MSスペクトルデータベースを作成す

ることで、部分構造(MS/MSスペクトルの質量差)情報から未知代

謝 物 の 構 造 推 定 シ ス テ ム の 構 築 を 行 っ て い る。ま た、

MALDI-TOF/TOF-MSによるMS/MSデータベースの充実にも着

手している。

③高精度メタボリック・プロファイリング技術の開発と レドックス関連疾患への適用(図3)

 これまで、多くの研究者がメタボリック・プロファイリングによ

る病態診断やバイオマーカー探索技術の開発を試みているが、多く

の場合一元的な測定技術のみを用いており、実際には変動のある代

謝物を見逃している可能性が高い。生体内には化学的性質の異な

る極めて多種多様な代謝産物が非常に大きな濃度範囲で存在して

いる事が挙げられるため、一つの測定法では全ての代謝物をカバー

できないのは明白である。また、上記②で述べたような理由から多

くの場合はマーカー代謝物の同定には至っておらず、スペクトル全

体を用いた病態診断に留まっている。そこで我々は多元的に代謝

物分離法および質量分析法を組み合わせることによって、高精度な

メタボリック・プロファイリング技術の開発に着手した。健常およ

び先天性高血圧症ラットから採取した尿を用いて、LC-MS(前分離

として逆相・親水性相互作用)、MALDI-MS(TOFおよびFT-ICR-

MS)にて測定し、それぞれの測定データ単独で多変量解析を行った

結果、どのデータでも健常および先天性高血圧症ラットの二群を識

別することが可能であった。しかし、二群間の違いに大きく寄与す

る代謝物はそれぞれの測定法毎に異なることが明らかとなった。

これらのデータを全て統合することで、測定対象の拡充とマーカー

代謝物の信頼性を向上させる高精度メタボリック・プロファイリン

グ技術の開発に成功した。

④ in situメタボロミクスイメージング技術の開発(7年目までの達成目標)(図4)

 既存のイメージング技術の大半は単一の分子もしくは単一の現

象に対象を絞って画像化するため、高い検出感度と時空間分解能を

有する一方、得られる情報は極めて限定的である。現在盛んに行わ

れている質量分析イメージングにおいては、いくつかの生体分子の

局在を同時に可視化出来るものの、組織中に圧倒的多量に存在する

細胞膜脂質等の分子群に限定された適用に留まっている。一方、近

年飛躍的に向上しつつあるメタボロミクス解析技術は、測定におけ

る種々の制約により、代謝物の抽出・濃縮が不可欠である。したがっ

て結果的に得られる情報は生体組織全体の平均値となり、局所的な

メタボローム変動情報は完全に消失してしまう。本研究は、生体内

に存在する代謝物の総体を解析するメタボロミクス解析技術と、新

しい情報可視化技術である質量分析イメージングの融合による、時

空間分解・網羅的生体情報解析法の確立に向けた基盤技術の創出を

目指すものである。①にて開発した微量生体物質の高感度測定法を

質量イメージングに適応することを試みた。9-aminoacridineをマ

トリックスとして用い、50μmの空間分解能で質量分析イメージン

グを行った。その結果、生体内レドックス状態を反映する代謝物

(NADH、GSH/GSSG)やエネルギ-物質(ATPなど)、セカンドメッ

センジャー(cAMP、cGMPなど)、中央代謝系中間体など、約100種

の代謝物について組織内分布の可視化に成功した。

視る

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  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果

(図1-1)MALDI-MSによるモデル代謝物の定量性

(図1-2)MALDI-MS測定データを用いたPCA score plot (A)およびOPLS S-plot (B)

(図1 -3)尿サンプルのMALDI-MSスペクトル

(図2-1)CTU guanamineおよびPAPSのMSスペクトル

(A)

(B)

(表2-1)CTU guanamineの同位体ピーク比の実測値および     理論値の比較

(図3-1)異なる測定法で得られたデータを用いたPCA。 (A)MALDI-FT-ICR-MS、 (B)HILIC-LC-MS、 (C)RP-LC-MS

(図3 -2)各測定法で見出されたマーカー候補代謝物数の比較

(図4-2)GSSG/GSH比を用いたマウス脳内のレドックスマップ

(図4-1)質量分析イメージングによる生体内代謝物のマウス脳内分布の可視化(A) NADH、(B) ATP、(C) citric acid、(D) fructose 1,6-bisphosphate

Elemental composition foreach peak

The ratio for measuredarea (%)

The ratio for simulatedarea (%)

C17H27N10O4 100 100

C17H27N915N1O4 3.8 3.7

C1613C1H27N10O4 18.6 18.4

C1613C1H27N9

15N1O4 0.6 0.7

C17H27N10O318O1 0.8 0.8

C1513C2H27N10O4 1.6 1.6

質量分析計を用いたメタボリック・プロファイリング技術を開発する

メタボリック・プロファイリンググループ(農学研究院・株式会社島津製作所) ■ 三年目の目標と目標に対する結果①高感度かつハイスループットな代謝物測定技術の開発(図1) レドックス関連疾患に対する特異的なマーカー代謝物を検出・同

定するには、微量な代謝物を定量性良く測定し、さらに統計学的に

信頼できるだけのサンプルを測定するためには、測定技術の高感度

化およびハイスループット化は極めて重要な要素技術である。

我々はこれまで低分子量物質への適用が困難であるといわれてい

たマトリックス支援型レーザー脱離イオン化法(MALDI法)に着目

し、研究を開始した。MALDI法は代表的なソフトイオン化法として

主にタンパク質やペプチド分析に用いられるが、代謝物分析におい

ては、代表的なマトリックスである2、5-ジヒドロキシ安息香酸

(DHB)を用いた場合でも、エレクトロスプレーイオン化法(ESI法)

や大気圧化学イオン化法(APCI法)の数パーセントしか検出対象に

ならないと言われている。一方、検出感度はESI法・APCI法を遙か

に凌ぐ。我々は9-aminoacridineをマトリックスとして用い、負イ

オン測定を行うことで、既存の常識を覆す生体代謝物質の超高感度

(サブattomoleレベル)測定法および単一細胞からの非標的型代謝

物検出法の開発に成功した。また、MALDI法は従来定量性に欠ける

測定法であると言われているが、サンプル調製およびデータの標準

化を工夫することで、高い定量性を確保できることも同時に明らか

とし、MALDI法を用いた超高速メタボリック・プロファイリング法

の確立に成功した。

要 旨

 がんや心疾患、生活習慣病の多くは、直接的・間接的に生体内レドックス状態の変動により引き起こされると言われている。これらレドックス関

連疾患に対する特異的なマーカーを見出すことは、生体レドックス異常による発症機構の解明、さらに総合診断・総合診療へと繋がるため、本グ

ループで開発する技術は、生体レドックス計測と医療・創薬をつなぐ重要なリンカーになると考えられる。メタボロミクスはゲノムの物質的最終

表現型ともいえる代謝物を対象とするため、バイオマーカー探索や創薬ターゲットの同定、疾病発症メカニズム解明における重要性が強く指摘さ

れている。現在メタボロミクスには多くの場合LC-MSやGC-MS、CE-MS等の質量分析ベースの分析法が用いられており、メタボロミクスの基

盤技術は確立されつつあるが、今後、診断・創薬分野でメタボロミクス技術を利用していくには、膨大なサンプルを極めて短時間で効率よく測定で

き、かつより高感度な代謝物測定法の開発が重要となると考えられる。さらに、疾患部位からの代謝物抽出法については決して優れた標準法があ

るわけではなく、また抽出することで患部組織の持つ形態情報は失われてしまう。組織試料から直接代謝物を検出する技術があれば、疾患メタボ

ロミクスにおける大きなブレイクスルーになると考えられる。

 我々はこの三年間を新たな革新的メタボロミクスに対する要素技術の開発・確立の期間と位置づけ、①高感度かつハイスループットな代謝物測

定技術の開発、②標品非依存型代謝物同定法の開発、③高精度メタボリック・プロファイリング技術の開発とレドックス関連疾患への適用、以上三

点に焦点を絞った研究開発を行ってきた。さらに、①高感度かつハイスループットな代謝物測定技術の開発における、MALDI法を用いた代謝物測

定技術の開発において、当初の予想以上に研究の進展が見られたため、7年目までの達成目標であった④ in situメタボロミクスイメージング技術の

開発も前倒しで行った。

②標品非依存型代謝物同定法の開発(図・表2) メタボロミクスおよびメタボリック・プロファイリングでは測定

対象が低分子量代謝物であり、動物の場合その種類は数千~一万に

上ると言われている。従来、代謝物を同定するには標品と比較する

以外には、対象化合物を大量に精製しNMR測定を行う以外に方法

が無いが、入手可能な標品が全代謝物の二割程度しか存在せず、ま

た貴重なサンプル中の微量成分が対象となるため、多くの場合未知

代謝物として放置されてしまう。今後レドックス関連疾患に対す

る特異的マーカー代謝物を開発するにあたり、標品に依存しない代

謝物同定技術の確立が必須となってくる。そこで我々は、極めて高

い質量精度(1 ppm以下)および質量分解能(FWHM = 1,000,000

以上)超高感度(1 fmol以下)を達成できるFT-ICR-MSを用いて、測

定した化合物の同位体ピーク比より正確に組成式を決定できる手

法を確立した。さらに、島津製作所製LCMS-IT-TOFを用いて標品

および未知代謝物を含むMS/MSスペクトルデータベースを作成す

ることで、部分構造(MS/MSスペクトルの質量差)情報から未知代

謝 物 の 構 造 推 定 シ ス テ ム の 構 築 を 行 っ て い る。ま た、

MALDI-TOF/TOF-MSによるMS/MSデータベースの充実にも着

手している。

③高精度メタボリック・プロファイリング技術の開発と レドックス関連疾患への適用(図3)

 これまで、多くの研究者がメタボリック・プロファイリングによ

る病態診断やバイオマーカー探索技術の開発を試みているが、多く

の場合一元的な測定技術のみを用いており、実際には変動のある代

謝物を見逃している可能性が高い。生体内には化学的性質の異な

る極めて多種多様な代謝産物が非常に大きな濃度範囲で存在して

いる事が挙げられるため、一つの測定法では全ての代謝物をカバー

できないのは明白である。また、上記②で述べたような理由から多

くの場合はマーカー代謝物の同定には至っておらず、スペクトル全

体を用いた病態診断に留まっている。そこで我々は多元的に代謝

物分離法および質量分析法を組み合わせることによって、高精度な

メタボリック・プロファイリング技術の開発に着手した。健常およ

び先天性高血圧症ラットから採取した尿を用いて、LC-MS(前分離

として逆相・親水性相互作用)、MALDI-MS(TOFおよびFT-ICR-

MS)にて測定し、それぞれの測定データ単独で多変量解析を行った

結果、どのデータでも健常および先天性高血圧症ラットの二群を識

別することが可能であった。しかし、二群間の違いに大きく寄与す

る代謝物はそれぞれの測定法毎に異なることが明らかとなった。

これらのデータを全て統合することで、測定対象の拡充とマーカー

代謝物の信頼性を向上させる高精度メタボリック・プロファイリン

グ技術の開発に成功した。

④ in situメタボロミクスイメージング技術の開発(7年目までの達成目標)(図4)

 既存のイメージング技術の大半は単一の分子もしくは単一の現

象に対象を絞って画像化するため、高い検出感度と時空間分解能を

有する一方、得られる情報は極めて限定的である。現在盛んに行わ

れている質量分析イメージングにおいては、いくつかの生体分子の

局在を同時に可視化出来るものの、組織中に圧倒的多量に存在する

細胞膜脂質等の分子群に限定された適用に留まっている。一方、近

年飛躍的に向上しつつあるメタボロミクス解析技術は、測定におけ

る種々の制約により、代謝物の抽出・濃縮が不可欠である。したがっ

て結果的に得られる情報は生体組織全体の平均値となり、局所的な

メタボローム変動情報は完全に消失してしまう。本研究は、生体内

に存在する代謝物の総体を解析するメタボロミクス解析技術と、新

しい情報可視化技術である質量分析イメージングの融合による、時

空間分解・網羅的生体情報解析法の確立に向けた基盤技術の創出を

目指すものである。①にて開発した微量生体物質の高感度測定法を

質量イメージングに適応することを試みた。9-aminoacridineをマ

トリックスとして用い、50μmの空間分解能で質量分析イメージン

グを行った。その結果、生体内レドックス状態を反映する代謝物

(NADH、GSH/GSSG)やエネルギ-物質(ATPなど)、セカンドメッ

センジャー(cAMP、cGMPなど)、中央代謝系中間体など、約100種

の代謝物について組織内分布の可視化に成功した。

視る

11 131210

R E D O X N A V I  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果 R E D O X N A V I

  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果

(図1-1)MALDI-MSによるモデル代謝物の定量性

(図1-2)MALDI-MS測定データを用いたPCA score plot (A)およびOPLS S-plot (B)

(図1 -3)尿サンプルのMALDI-MSスペクトル

(図2-1)CTU guanamineおよびPAPSのMSスペクトル

(A)

(B)

(表2-1)CTU guanamineの同位体ピーク比の実測値および     理論値の比較

(図3-1)異なる測定法で得られたデータを用いたPCA。 (A)MALDI-FT-ICR-MS、 (B)HILIC-LC-MS、 (C)RP-LC-MS

(図3 -2)各測定法で見出されたマーカー候補代謝物数の比較

(図4-2)GSSG/GSH比を用いたマウス脳内のレドックスマップ

(図4-1)質量分析イメージングによる生体内代謝物のマウス脳内分布の可視化(A) NADH、(B) ATP、(C) citric acid、(D) fructose 1,6-bisphosphate

Elemental composition foreach peak

The ratio for measuredarea (%)

The ratio for simulatedarea (%)

C17H27N10O4 100 100

C17H27N915N1O4 3.8 3.7

C1613C1H27N10O4 18.6 18.4

C1613C1H27N9

15N1O4 0.6 0.7

C17H27N10O318O1 0.8 0.8

C1513C2H27N10O4 1.6 1.6

質量分析計を用いたメタボリック・プロファイリング技術を開発する

メタボリック・プロファイリンググループ(農学研究院・株式会社島津製作所) ■ 三年目の目標と目標に対する結果①高感度かつハイスループットな代謝物測定技術の開発(図1) レドックス関連疾患に対する特異的なマーカー代謝物を検出・同

定するには、微量な代謝物を定量性良く測定し、さらに統計学的に

信頼できるだけのサンプルを測定するためには、測定技術の高感度

化およびハイスループット化は極めて重要な要素技術である。

我々はこれまで低分子量物質への適用が困難であるといわれてい

たマトリックス支援型レーザー脱離イオン化法(MALDI法)に着目

し、研究を開始した。MALDI法は代表的なソフトイオン化法として

主にタンパク質やペプチド分析に用いられるが、代謝物分析におい

ては、代表的なマトリックスである2、5-ジヒドロキシ安息香酸

(DHB)を用いた場合でも、エレクトロスプレーイオン化法(ESI法)

や大気圧化学イオン化法(APCI法)の数パーセントしか検出対象に

ならないと言われている。一方、検出感度はESI法・APCI法を遙か

に凌ぐ。我々は9-aminoacridineをマトリックスとして用い、負イ

オン測定を行うことで、既存の常識を覆す生体代謝物質の超高感度

(サブattomoleレベル)測定法および単一細胞からの非標的型代謝

物検出法の開発に成功した。また、MALDI法は従来定量性に欠ける

測定法であると言われているが、サンプル調製およびデータの標準

化を工夫することで、高い定量性を確保できることも同時に明らか

とし、MALDI法を用いた超高速メタボリック・プロファイリング法

の確立に成功した。

要 旨

 がんや心疾患、生活習慣病の多くは、直接的・間接的に生体内レドックス状態の変動により引き起こされると言われている。これらレドックス関

連疾患に対する特異的なマーカーを見出すことは、生体レドックス異常による発症機構の解明、さらに総合診断・総合診療へと繋がるため、本グ

ループで開発する技術は、生体レドックス計測と医療・創薬をつなぐ重要なリンカーになると考えられる。メタボロミクスはゲノムの物質的最終

表現型ともいえる代謝物を対象とするため、バイオマーカー探索や創薬ターゲットの同定、疾病発症メカニズム解明における重要性が強く指摘さ

れている。現在メタボロミクスには多くの場合LC-MSやGC-MS、CE-MS等の質量分析ベースの分析法が用いられており、メタボロミクスの基

盤技術は確立されつつあるが、今後、診断・創薬分野でメタボロミクス技術を利用していくには、膨大なサンプルを極めて短時間で効率よく測定で

き、かつより高感度な代謝物測定法の開発が重要となると考えられる。さらに、疾患部位からの代謝物抽出法については決して優れた標準法があ

るわけではなく、また抽出することで患部組織の持つ形態情報は失われてしまう。組織試料から直接代謝物を検出する技術があれば、疾患メタボ

ロミクスにおける大きなブレイクスルーになると考えられる。

 我々はこの三年間を新たな革新的メタボロミクスに対する要素技術の開発・確立の期間と位置づけ、①高感度かつハイスループットな代謝物測

定技術の開発、②標品非依存型代謝物同定法の開発、③高精度メタボリック・プロファイリング技術の開発とレドックス関連疾患への適用、以上三

点に焦点を絞った研究開発を行ってきた。さらに、①高感度かつハイスループットな代謝物測定技術の開発における、MALDI法を用いた代謝物測

定技術の開発において、当初の予想以上に研究の進展が見られたため、7年目までの達成目標であった④ in situメタボロミクスイメージング技術の

開発も前倒しで行った。

②標品非依存型代謝物同定法の開発(図・表2) メタボロミクスおよびメタボリック・プロファイリングでは測定

対象が低分子量代謝物であり、動物の場合その種類は数千~一万に

上ると言われている。従来、代謝物を同定するには標品と比較する

以外には、対象化合物を大量に精製しNMR測定を行う以外に方法

が無いが、入手可能な標品が全代謝物の二割程度しか存在せず、ま

た貴重なサンプル中の微量成分が対象となるため、多くの場合未知

代謝物として放置されてしまう。今後レドックス関連疾患に対す

る特異的マーカー代謝物を開発するにあたり、標品に依存しない代

謝物同定技術の確立が必須となってくる。そこで我々は、極めて高

い質量精度(1 ppm以下)および質量分解能(FWHM = 1,000,000

以上)超高感度(1 fmol以下)を達成できるFT-ICR-MSを用いて、測

定した化合物の同位体ピーク比より正確に組成式を決定できる手

法を確立した。さらに、島津製作所製LCMS-IT-TOFを用いて標品

および未知代謝物を含むMS/MSスペクトルデータベースを作成す

ることで、部分構造(MS/MSスペクトルの質量差)情報から未知代

謝 物 の 構 造 推 定 シ ス テ ム の 構 築 を 行 っ て い る。ま た、

MALDI-TOF/TOF-MSによるMS/MSデータベースの充実にも着

手している。

③高精度メタボリック・プロファイリング技術の開発と レドックス関連疾患への適用(図3)

 これまで、多くの研究者がメタボリック・プロファイリングによ

る病態診断やバイオマーカー探索技術の開発を試みているが、多く

の場合一元的な測定技術のみを用いており、実際には変動のある代

謝物を見逃している可能性が高い。生体内には化学的性質の異な

る極めて多種多様な代謝産物が非常に大きな濃度範囲で存在して

いる事が挙げられるため、一つの測定法では全ての代謝物をカバー

できないのは明白である。また、上記②で述べたような理由から多

くの場合はマーカー代謝物の同定には至っておらず、スペクトル全

体を用いた病態診断に留まっている。そこで我々は多元的に代謝

物分離法および質量分析法を組み合わせることによって、高精度な

メタボリック・プロファイリング技術の開発に着手した。健常およ

び先天性高血圧症ラットから採取した尿を用いて、LC-MS(前分離

として逆相・親水性相互作用)、MALDI-MS(TOFおよびFT-ICR-

MS)にて測定し、それぞれの測定データ単独で多変量解析を行った

結果、どのデータでも健常および先天性高血圧症ラットの二群を識

別することが可能であった。しかし、二群間の違いに大きく寄与す

る代謝物はそれぞれの測定法毎に異なることが明らかとなった。

これらのデータを全て統合することで、測定対象の拡充とマーカー

代謝物の信頼性を向上させる高精度メタボリック・プロファイリン

グ技術の開発に成功した。

④ in situメタボロミクスイメージング技術の開発(7年目までの達成目標)(図4)

 既存のイメージング技術の大半は単一の分子もしくは単一の現

象に対象を絞って画像化するため、高い検出感度と時空間分解能を

有する一方、得られる情報は極めて限定的である。現在盛んに行わ

れている質量分析イメージングにおいては、いくつかの生体分子の

局在を同時に可視化出来るものの、組織中に圧倒的多量に存在する

細胞膜脂質等の分子群に限定された適用に留まっている。一方、近

年飛躍的に向上しつつあるメタボロミクス解析技術は、測定におけ

る種々の制約により、代謝物の抽出・濃縮が不可欠である。したがっ

て結果的に得られる情報は生体組織全体の平均値となり、局所的な

メタボローム変動情報は完全に消失してしまう。本研究は、生体内

に存在する代謝物の総体を解析するメタボロミクス解析技術と、新

しい情報可視化技術である質量分析イメージングの融合による、時

空間分解・網羅的生体情報解析法の確立に向けた基盤技術の創出を

目指すものである。①にて開発した微量生体物質の高感度測定法を

質量イメージングに適応することを試みた。9-aminoacridineをマ

トリックスとして用い、50μmの空間分解能で質量分析イメージン

グを行った。その結果、生体内レドックス状態を反映する代謝物

(NADH、GSH/GSSG)やエネルギ-物質(ATPなど)、セカンドメッ

センジャー(cAMP、cGMPなど)、中央代謝系中間体など、約100種

の代謝物について組織内分布の可視化に成功した。

視る

11 131210

R E D O X N A V I  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果 R E D O X N A V I

  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果

(図4-8)テトラピロール誘導体の糖尿病発症抑制の可能性

(図4-7)ビリベルジンの糖尿病膵β細胞保護作用

(図4-1)ジルベール症候群併発糖尿病患者における     合併症発症頻度

(図4-2)ビリルビンの血管壁細胞に対する抗酸化作用 1

(図4 -3)ビリルビンの抗酸化作用

(図4-4)ビリベルジンの糖尿病腎症改善作用

(図4-5)糖尿病血管合併症におけるキマーゼの重要性

(図4-6)キマーゼの糖尿病腎組織酸化ストレス改善作用

要 旨

■ 抗酸化による糖尿病性血管合併症進展抑制を示す世界で初めてのエビデンスの解明

【目的】 糖尿病性血管合併症の成因として酸化ストレス亢進が注

目されているが、血管合併症に対する抗酸化薬の有効性を示すヒト

でのエビデンスは極めて少ない。そこで、本研究では、血清ビリルビ

ンの抗酸化作用に着目し、高ビリルビン血症を示す体質性黄疸ジル

ベール症候群を併発した糖尿病患者(DM)における血管合併症発症

頻度を検討する。

【対象と方法】 平成18年4月1日より7月30日の期間に九州大学

病院および関連病院またはクリニック12施設に来院した5080人

のDMのうち、DM病歴5年以上のジルベール症候群併発DM 96例

を登録した。同期間に九州大学病院に来院しジルベール症候群非

併発を確認出来たDM 426例を対照群とし血管合併症の発症頻度

を比較検討した。

【結果】 ジルベール症候群併発DMの網膜症、蛋白尿、冠動脈疾患の

頻度は12.5%、3.1%および2.1%と対照DMの38.2%、16.2%およ

び12.3%に比較し有意に低率であった (各々 P<0.01、P<0.01、

P=0.006)。さらに性、血圧値、BMI、HbA1c、総コレステロール、

LDLコレステロール、中性脂肪、HDLコレステロールを含む多変量

解析においてジルベール併発は各合併症と有意な負の相関を認め、

これらの因子で調整されたオッズ比は網膜症で0.22、(P<0.01)、

蛋白尿で0.20 (P<0.01)、冠動脈疾患で0.21(P=0.04)と著明な

低下を認めた。

 また、ジルベール症候群併発DMの酸化ストレス指標尿中8-ヒド

ロキシデオキシグアノシン(8-OHdG)および炎症指標血清高感度

CRR濃度は、非ジルベール併発群に比し有意に低値であった。

【考察】 ジルベール症候群併発DMにおいて網膜症、蛋白尿および

冠動脈心疾患の発症頻度は極めて低率であることを世界で初めて

示した。糖尿病性血管合併症発症・進展における酸化ストレスの重

要性を示唆する有力なエビデンスであり、新しい治療薬創薬への応

用が期待された。

■ ビリルビン、ビリベルジンおよびフィコシアノビリン含有フィコシアニンの糖尿病モデル動物腎症に対する改善効果の証明:

【目的】 ビリルビンの糖尿病性血管合併症抑制効果を証明するた

め、体質性黄疸を示すGunnラットを用い糖尿病を作成し、モデル動

物で検討可能な腎症に対する効果を検討する。次に、実際投与可能

なビリルビン類縁物質としてビリルビンの前駆物質であるビリベ

ルジン、フィコシアノビリン含有フィコシアニンを用い、自然発症2

型糖尿病モデル動物であるdb/dbの腎症改善効果とその分子機序を

検討する。

【方法】 Gunn j / jラットの検討ではストレプトゾトシンを投与し

糖尿病を作成した。尿中アルブミン、酸化ストレスマーカーである

尿中8-OHdG / 8 ─イソプロスタグランジンF2α(8-iso-PGF2

α)排泄量を測定した。腎組織では、免疫染色法により8-OHdG含

量およびNAD(P)Hオキシダーゼ構成蛋白NOX4/p22phox蛋白量

を、またNOX4/p22phox mRNA量をRT-PCR法にて測定した。腎

メサンギウム領域拡大などの組織異常も検討した。また、腎組織異

常に関与するTGFβ、主な基質蛋白フィブロネクチン、酸化ストレ

ス関連転写因子AP-1、Ets-1等の発現を検討した。

【結果】 糖尿病ラットは糖尿病発症後、著明にアルブミン尿が増大

したが、高ビリルビン血症を示す糖尿病 Gunn j / j ラットまたは

ビリベルジン、フィコシアニン投与のdb/dbラットでは正常ラット

近くまで抑制された。 酸化ストレスマーカーである尿中8-OHdG

および尿中8-epi-PGF2α 排泄量は、Gunn糖尿病ラットでは正常

ラットレベルへとまで減少した。ビリベルジン、フィコシアニン投

与のdb/dbラットでも同様に減少した。

 腎組織において主要な活性酸素産生源と考えられるNAD(P)H

オキシダーゼ構成蛋白NOX4 についてその発現を検討したが、糖

尿病腎組織で増加したNOX4発現はGunn糖尿病ラットおよびビリ

ベルジン、フィコシフィコシアニン投与で改善することが示された。

【考案】 ビリルビン、ビリベルジンや類似低分子物質は、糖尿病

腎における酸化ストレス亢進の主因である腎NAD(P)Hオキシ

ダーゼの発現亢進を改善することによって酸化ストレスを低減

させること、これによって、糖尿病性腎症の特徴である蛋白尿お

よび腎糸球体メサンギウム領域の拡大を改善させることを示し

た。本研究によりビリルビン、ビリベルジンおよびフィコシアノビ

リンは、糖尿病性腎症の成因と考えられる酸化ストレスの亢進を改

善し腎症を改善することが糖尿病モデル動物で示された。これら

の実験成果により、テトラピロール誘導体およびその医療用途

(出願番号 PCT/JP2008/003044、2008/10/25)のタイトル

で特許出願を行った。

 糖尿病患者数は近年急速に増加しており、それに伴う合併症の増加は国民の健康および医療経済の両面において重要な問題となっている。しかし

ながら、その重要性にもかかわらず、糖尿病合併症の成因および治療法は未だ確立されていない。本疾患創薬グループは、糖尿病合併症の成因におけ

る酸化ストレス亢進の重要性とその発生メカニズムを明らかにし、この酸化ストレス亢進メカニズムをターゲットとした新規合併症治療薬の創薬を

目的としている。

 まず、血清ビリルビンの抗酸化作用に着目し疫学研究を施行し、高ビリルビン血症を示す体質性黄疸ジルベール症候群を併発する糖尿病患者では

一般の糖尿病患者と比較し、網膜症、腎症、虚血性心疾患の発症頻度が著明に低率であることを世界で始めて明らかにした。

 そこでビリルビン、ビリルビンの前駆物質であるビリベルジンおよびその類縁体をツールとして糖尿病合併症の治療薬開発に資する創薬研究を開

始した。体質性黄疸を示すモデル動物であるGunnラットでは実験糖尿病発症後も腎症の発症進展が抑制されること、また、ビリベルジンや藻類スピ

ルリナより抽出精製したビリベルジン類似体フィコシアノビリンの投与により、2型糖尿病モデルdb/dbマウス腎の酸化ストレス亢進の改善ととも

に腎機能障害および組織学的異常が改善されることを明らかにした。さらに、その分子機序として、糖尿病で増加する活性酸素種(ROS)の主な発生

源であると申請者らが報告してきたNAD(P)Hオキシダーゼ発現亢進の改善効果を明らかにした。

 次に、我々は、糖尿病における酸化ストレス亢進メカニズムとして組織アンジオテンシンⅡ産生に重要な役割を果たすキマーゼの関与を新たに明ら

かにし、糖尿病における酸化ストレス亢進の新しい成因仮説を提唱した。さらに、キマーゼ特異的阻害薬の投与によって酸化ストレス亢進の改善と

ともに腎症が改善されることを糖尿病モデル動物を用いて示し、糖尿病血管合併症治療の新たなシーズとしてキマーゼ阻害の重要性を明らかにした。

■ 糖尿病酸化ストレス亢進の機序としてのキマーゼの重要性の解明:

【目標】 申請者らはこれまでに糖尿病心腎血管組織におけるNAD

(P)Hオキシダーゼ発現および酸化ストレスの亢進には高血糖の直

接の影響とともに組織レニンアンジオテンシン系(RAS)活性化の関

与を報告してきた。一方、組織RASではアンジオテンシン変換酵素

(ACE)とともにセリンプロテアーゼの一種であるキマーゼによるア

ンジオテンシンⅡ(AⅡ)産生系が存在し、ヒトやハムスターではむ

しろ後者の方が高い重要性を占めることが示されている。そこで申

請者らは、糖尿病心腎血管組織における酸化ストレス亢進にキマー

ゼが重要な役割を果たしている可能性を推定し、まずヒトに近い組

織RA系を有するハムスターを用い糖尿病モデルを作成して、心腎血

管組織にキマーゼ発現の動態を検討した。次に、キマーゼ特異的阻

害薬をストレプトゾトシン(STZ)誘発糖尿病ハムスターに投与し、

糖尿病モデル動物の腎症に対する改善効果について検討を加えた。

【方法】 シリアンハムスター(8週齢)にストレプトゾトシンを腹腔

内投与して糖尿病を作成した。

 糖尿病発症後第2週、第8週にて、心腎大動脈組織のキマーゼ発現動

態を免疫染色法およびRT-PCR法にて検討した。また、インスリン治

療による血糖コントロールとの関連も検討した。次に、キマーゼ阻害

薬の酸化ストレスに対する効果を検討するために、非糖尿病コント

ロール群、キマーゼ阻害薬非投与糖尿病群には標準飼料のみを投与

し、キマーゼ阻害薬(TEI-E00548(Ki=30.6nM)、TEI-F00806

(Ki=9.85nM))投与糖尿病群には混餌飼料(それぞれ10mg/kg/日)

を8週間経口投与した後、深麻酔下で心腎大動脈を摘出した。糖尿

病腎症に対する効果は蛋白尿およびPeriodic acid-Schiff染色によ

るメサンジウム領域/糸球体面積比を用いて評価し、血漿および腎

組織AⅡ濃度も測定した。同時に、腎組織NAD(P)Hオキシダーゼ

構成蛋白(NOX4、 p22phox)の発現を免疫染色法とウエスタンブ

ロット法で、尿中および腎組織の酸化ストレス指標8-ヒドロキシ

デオキシグアノシン(8-OHdG)を免疫染色法とELISA法を用いて

検討した。

【結果】 糖尿病ハムスターの心腎血管組織において有意なキマー

ゼ蛋白量およびmRNA発現増加を認めた。キマーゼ特異的阻害薬

投与により、糖尿病心腎大動脈各組織で増加した酸化ストレスマー

カー 8-OHdG含量およびNAD(P)Hオキシダーゼ構成蛋白

(NOX4、 p22phox)は、ほぼ対照群レベルまで有意に抑制された。

腎症に対する検討では、糖尿病ハムスターでは非糖尿病群と比して

有意に腎組織AⅡ濃度の増加、蛋白尿増加および糸球体メサンジウ

ム領域拡大を認めたが、キマーゼ阻害薬によりこれらの異常はほぼ

完全に改善した。また、糖尿病ハムスターでは心筋線維化の増加を

認めたが、キマーゼ阻害薬投与により酸化ストレスの抑制とともに

有意に改善した。

【考察】 糖尿病ハムスター心腎大動脈におけるキマーゼ発現の増

加を認め、キマーゼ特異的阻害薬の投与により、これら各臓器にお

けるNAD(P)Hオキシダーゼ発現亢進と酸化ストレス亢進が抑制

されることを明らかにした。糖尿病腎組織においては、酸化ストレ

スの改善とともに蛋白尿および腎組織異常も改善し、キマーゼ阻害

薬の治療薬としての可能性が強く示唆された。「キマーゼ阻害薬の

抗酸化作用」として国際特許を申請した。キマーゼ特異的阻害薬を

新たな低分子創薬の目標として今後研究を進める。以上、糖尿病血

管合併症治療薬の新しいシーズを見つけることを7年目までの目標

としていたが目標を超える成果を得た。

■ 糖尿病発症予防薬創薬への新たなシーズの創成:①コホート研究【目的】酸化ストレスは、糖尿病性合併症の発症進展のみでなく、糖

尿病そのものの増悪進展、すなわち、インスリン抵抗性への関与や2

型糖尿病進展にみられる膵β細胞機能異常や膵β細胞死への関与

が推定されている。そこで、申請者らが21世紀COE研究において

登録した約12400例の福岡市住民コホートの解析を行い、血清ビ

リルビン値と糖尿病罹患率の関連を検討し、ビリルビンの糖尿病発

症に対する効果を検討した。

【方法】 対象は2003年から2007年にかけて九州大学の福岡

COEコホートに登録された50-74歳の男女12,949名のうち、慢

性肝炎や肝硬変などの慢性肝疾患、肝・胆・膵の悪性腫瘍と血清ト

ランスアミナーゼ値高値(正常上限の3倍以上)などを除いた

12,438名(平均年齢62.5歳、男性5,526名、女性6,912名)であっ

た。基礎調査時に文書にて同意を得た上で、生活習慣調査票を用い

て生活習慣と病歴についての聞き取り調査を行い、身長、体重、血圧

測定、腹囲などの身体計測と血液採取を行った。血液一般生化学、

HbA1c、高感度CRPの測定に加え、血清の総ビリルビン、直接ビリ

ルビン、間接ビリルビンの測定を行った。これらのパラメーターと

糖尿病、虚血性心疾患、脳梗塞等の生活習慣病の有病率について統

計学的解析を行った。

【結果】 血清のビリルビン値の年齢階級別平均値はいずれも、女性

より男性の方が高く、また男女とも年齢とともに低下した。血清の

高感度CRPとHbA1cはビリルビン値と負の相関を示した。虚血性

心臓病、脳梗塞の有病者では非有病者に比べ、有意にビリルビン値

の調整平均値(年齢、BMI、喫煙、飲酒、身体活動度で調整)が低かっ

た。多重ロジスティック回帰分析において、年齢、BMI、喫煙、飲酒、

身体活動度で調整した虚血性心臓病、脳梗塞の有病率のオッズ比は、

総ビリルビン、間接ビリルビン値の低い群と比較して、ビリルビン値

の高い群で有意に低かった。また、血清ビリルビン値で5群に分類し

た場合、2型糖尿病の有病率のオッズ比は1.00、 1.00、 0.73、

0.80、 0.73とビリルビン高値群で低率となった(trend P = 0.002)。

【考察】 ビリルビンは抗酸化作用を介して炎症を抑制し、一般住民

を対象としても虚血性心臓病や脳梗塞などの動脈硬化性疾患の発

症を抑制するとともに、糖尿病の発症そのものも低下させる可能性

が示唆された。ビリルビンの糖尿病発症抑制の証明とその分子機

序の解明が必要と考えられた。

②ビリベルジン投与による自然発症糖尿病の抑制効果 福岡コホートの疫学研究によりビリルビンの糖尿病発症抑制効

果の可能性を示した。そこで、ビリベルジン投与による自然発症2

型糖尿病モデルdb/dbマウスに対する糖尿病発症抑制効果の証明と

その分子機序の検討を行った。

【方法】 糖尿病発症前の第5週齢のdb/dbマウスにビリベルジン

(20mg/kg)を8週間経口投与し、非投与群db/dbマウスと比較した。

隔週ごとに16時間絶食後、血糖値を測定し、投与開始後第4週に

IPGTT(グルコース 0.5g/kg腹腔内投与)を行った。IPGTTでは

15、30、60、90、120分後に血糖値を測定した。第4、第8週に膵組

織を採取し組織免疫染色法にて膵島の8-OHdG含量、NAD(P)Hオ

キシダーゼ発現量(gp91phox、p22phox)およびインスリン含量を

測定した。

【結果】 第5週以降db/dbマウスの血糖は徐々に上昇したが、ビリ

ベルジン投与第4週より、ビリベルジン投与db/db群において非投

与群に比較し、空腹時血糖値の有意の減少を認めた。また、第4週時

に行ったIPGTTではdb/db群の血糖値のAUCは正常対照群db/+に

比し著明に増加していたが、ビリベルジン投与群において有意に減

少していた(p=0.0255)。第4週、8週においてdb/db群の膵島の

8-OHdG含量およびNAD(P)Hオキシダーゼ構成蛋白(gp91phox、

p22phox)発現量の増加、およびインスリン含量の減少を認めたが、

これらの変化はビリベルジン投与により有意に改善した。

【結語】 ビリベルジン投与はdb/dbマウスの糖尿病発症を遅延さ

せることを示した。また、その機序として膵β細胞のNAD(P)Hオ

キシダーゼ発現亢進の改善、酸化ストレス亢進の改善と、それを介

した膵β細胞の保護効果の可能性が示唆された。現在、糖尿病発症

進展予防薬または膵β細胞保護薬は存在しない。本研究を進める

ことにより、2型糖尿病発症進展または膵β細胞障害において酸化

ストレス亢進が重要な役割をもつことを確認し、これらの機序を

ターゲットとした新しい観点よりの糖尿病発症進展予防または膵

β細胞保護のための治療戦略の開発または創薬の可能性を探索す

る予定である。

レドックス疾患・創薬グループ(医学研究院・田辺三菱製薬株式会社)

ポリフィリン代謝物の糖尿病及び合併症に対する有用性を評価する操る

15 171614

R E D O X N A V I  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果 R E D O X N A V I

  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果

(図4-8)テトラピロール誘導体の糖尿病発症抑制の可能性

(図4-7)ビリベルジンの糖尿病膵β細胞保護作用

(図4-1)ジルベール症候群併発糖尿病患者における     合併症発症頻度

(図4-2)ビリルビンの血管壁細胞に対する抗酸化作用 1

(図4 -3)ビリルビンの抗酸化作用

(図4-4)ビリベルジンの糖尿病腎症改善作用

(図4-5)糖尿病血管合併症におけるキマーゼの重要性

(図4-6)キマーゼの糖尿病腎組織酸化ストレス改善作用

要 旨

■ 抗酸化による糖尿病性血管合併症進展抑制を示す世界で初めてのエビデンスの解明

【目的】 糖尿病性血管合併症の成因として酸化ストレス亢進が注

目されているが、血管合併症に対する抗酸化薬の有効性を示すヒト

でのエビデンスは極めて少ない。そこで、本研究では、血清ビリルビ

ンの抗酸化作用に着目し、高ビリルビン血症を示す体質性黄疸ジル

ベール症候群を併発した糖尿病患者(DM)における血管合併症発症

頻度を検討する。

【対象と方法】 平成18年4月1日より7月30日の期間に九州大学

病院および関連病院またはクリニック12施設に来院した5080人

のDMのうち、DM病歴5年以上のジルベール症候群併発DM 96例

を登録した。同期間に九州大学病院に来院しジルベール症候群非

併発を確認出来たDM 426例を対照群とし血管合併症の発症頻度

を比較検討した。

【結果】 ジルベール症候群併発DMの網膜症、蛋白尿、冠動脈疾患の

頻度は12.5%、3.1%および2.1%と対照DMの38.2%、16.2%およ

び12.3%に比較し有意に低率であった (各々 P<0.01、P<0.01、

P=0.006)。さらに性、血圧値、BMI、HbA1c、総コレステロール、

LDLコレステロール、中性脂肪、HDLコレステロールを含む多変量

解析においてジルベール併発は各合併症と有意な負の相関を認め、

これらの因子で調整されたオッズ比は網膜症で0.22、(P<0.01)、

蛋白尿で0.20 (P<0.01)、冠動脈疾患で0.21(P=0.04)と著明な

低下を認めた。

 また、ジルベール症候群併発DMの酸化ストレス指標尿中8-ヒド

ロキシデオキシグアノシン(8-OHdG)および炎症指標血清高感度

CRR濃度は、非ジルベール併発群に比し有意に低値であった。

【考察】 ジルベール症候群併発DMにおいて網膜症、蛋白尿および

冠動脈心疾患の発症頻度は極めて低率であることを世界で初めて

示した。糖尿病性血管合併症発症・進展における酸化ストレスの重

要性を示唆する有力なエビデンスであり、新しい治療薬創薬への応

用が期待された。

■ ビリルビン、ビリベルジンおよびフィコシアノビリン含有フィコシアニンの糖尿病モデル動物腎症に対する改善効果の証明:

【目的】 ビリルビンの糖尿病性血管合併症抑制効果を証明するた

め、体質性黄疸を示すGunnラットを用い糖尿病を作成し、モデル動

物で検討可能な腎症に対する効果を検討する。次に、実際投与可能

なビリルビン類縁物質としてビリルビンの前駆物質であるビリベ

ルジン、フィコシアノビリン含有フィコシアニンを用い、自然発症2

型糖尿病モデル動物であるdb/dbの腎症改善効果とその分子機序を

検討する。

【方法】 Gunn j / jラットの検討ではストレプトゾトシンを投与し

糖尿病を作成した。尿中アルブミン、酸化ストレスマーカーである

尿中8-OHdG / 8 ─イソプロスタグランジンF2α(8-iso-PGF2

α)排泄量を測定した。腎組織では、免疫染色法により8-OHdG含

量およびNAD(P)Hオキシダーゼ構成蛋白NOX4/p22phox蛋白量

を、またNOX4/p22phox mRNA量をRT-PCR法にて測定した。腎

メサンギウム領域拡大などの組織異常も検討した。また、腎組織異

常に関与するTGFβ、主な基質蛋白フィブロネクチン、酸化ストレ

ス関連転写因子AP-1、Ets-1等の発現を検討した。

【結果】 糖尿病ラットは糖尿病発症後、著明にアルブミン尿が増大

したが、高ビリルビン血症を示す糖尿病 Gunn j / j ラットまたは

ビリベルジン、フィコシアニン投与のdb/dbラットでは正常ラット

近くまで抑制された。 酸化ストレスマーカーである尿中8-OHdG

および尿中8-epi-PGF2α 排泄量は、Gunn糖尿病ラットでは正常

ラットレベルへとまで減少した。ビリベルジン、フィコシアニン投

与のdb/dbラットでも同様に減少した。

 腎組織において主要な活性酸素産生源と考えられるNAD(P)H

オキシダーゼ構成蛋白NOX4 についてその発現を検討したが、糖

尿病腎組織で増加したNOX4発現はGunn糖尿病ラットおよびビリ

ベルジン、フィコシフィコシアニン投与で改善することが示された。

【考案】 ビリルビン、ビリベルジンや類似低分子物質は、糖尿病

腎における酸化ストレス亢進の主因である腎NAD(P)Hオキシ

ダーゼの発現亢進を改善することによって酸化ストレスを低減

させること、これによって、糖尿病性腎症の特徴である蛋白尿お

よび腎糸球体メサンギウム領域の拡大を改善させることを示し

た。本研究によりビリルビン、ビリベルジンおよびフィコシアノビ

リンは、糖尿病性腎症の成因と考えられる酸化ストレスの亢進を改

善し腎症を改善することが糖尿病モデル動物で示された。これら

の実験成果により、テトラピロール誘導体およびその医療用途

(出願番号 PCT/JP2008/003044、2008/10/25)のタイトル

で特許出願を行った。

 糖尿病患者数は近年急速に増加しており、それに伴う合併症の増加は国民の健康および医療経済の両面において重要な問題となっている。しかし

ながら、その重要性にもかかわらず、糖尿病合併症の成因および治療法は未だ確立されていない。本疾患創薬グループは、糖尿病合併症の成因におけ

る酸化ストレス亢進の重要性とその発生メカニズムを明らかにし、この酸化ストレス亢進メカニズムをターゲットとした新規合併症治療薬の創薬を

目的としている。

 まず、血清ビリルビンの抗酸化作用に着目し疫学研究を施行し、高ビリルビン血症を示す体質性黄疸ジルベール症候群を併発する糖尿病患者では

一般の糖尿病患者と比較し、網膜症、腎症、虚血性心疾患の発症頻度が著明に低率であることを世界で始めて明らかにした。

 そこでビリルビン、ビリルビンの前駆物質であるビリベルジンおよびその類縁体をツールとして糖尿病合併症の治療薬開発に資する創薬研究を開

始した。体質性黄疸を示すモデル動物であるGunnラットでは実験糖尿病発症後も腎症の発症進展が抑制されること、また、ビリベルジンや藻類スピ

ルリナより抽出精製したビリベルジン類似体フィコシアノビリンの投与により、2型糖尿病モデルdb/dbマウス腎の酸化ストレス亢進の改善ととも

に腎機能障害および組織学的異常が改善されることを明らかにした。さらに、その分子機序として、糖尿病で増加する活性酸素種(ROS)の主な発生

源であると申請者らが報告してきたNAD(P)Hオキシダーゼ発現亢進の改善効果を明らかにした。

 次に、我々は、糖尿病における酸化ストレス亢進メカニズムとして組織アンジオテンシンⅡ産生に重要な役割を果たすキマーゼの関与を新たに明ら

かにし、糖尿病における酸化ストレス亢進の新しい成因仮説を提唱した。さらに、キマーゼ特異的阻害薬の投与によって酸化ストレス亢進の改善と

ともに腎症が改善されることを糖尿病モデル動物を用いて示し、糖尿病血管合併症治療の新たなシーズとしてキマーゼ阻害の重要性を明らかにした。

■ 糖尿病酸化ストレス亢進の機序としてのキマーゼの重要性の解明:

【目標】 申請者らはこれまでに糖尿病心腎血管組織におけるNAD

(P)Hオキシダーゼ発現および酸化ストレスの亢進には高血糖の直

接の影響とともに組織レニンアンジオテンシン系(RAS)活性化の関

与を報告してきた。一方、組織RASではアンジオテンシン変換酵素

(ACE)とともにセリンプロテアーゼの一種であるキマーゼによるア

ンジオテンシンⅡ(AⅡ)産生系が存在し、ヒトやハムスターではむ

しろ後者の方が高い重要性を占めることが示されている。そこで申

請者らは、糖尿病心腎血管組織における酸化ストレス亢進にキマー

ゼが重要な役割を果たしている可能性を推定し、まずヒトに近い組

織RA系を有するハムスターを用い糖尿病モデルを作成して、心腎血

管組織にキマーゼ発現の動態を検討した。次に、キマーゼ特異的阻

害薬をストレプトゾトシン(STZ)誘発糖尿病ハムスターに投与し、

糖尿病モデル動物の腎症に対する改善効果について検討を加えた。

【方法】 シリアンハムスター(8週齢)にストレプトゾトシンを腹腔

内投与して糖尿病を作成した。

 糖尿病発症後第2週、第8週にて、心腎大動脈組織のキマーゼ発現動

態を免疫染色法およびRT-PCR法にて検討した。また、インスリン治

療による血糖コントロールとの関連も検討した。次に、キマーゼ阻害

薬の酸化ストレスに対する効果を検討するために、非糖尿病コント

ロール群、キマーゼ阻害薬非投与糖尿病群には標準飼料のみを投与

し、キマーゼ阻害薬(TEI-E00548(Ki=30.6nM)、TEI-F00806

(Ki=9.85nM))投与糖尿病群には混餌飼料(それぞれ10mg/kg/日)

を8週間経口投与した後、深麻酔下で心腎大動脈を摘出した。糖尿

病腎症に対する効果は蛋白尿およびPeriodic acid-Schiff染色によ

るメサンジウム領域/糸球体面積比を用いて評価し、血漿および腎

組織AⅡ濃度も測定した。同時に、腎組織NAD(P)Hオキシダーゼ

構成蛋白(NOX4、 p22phox)の発現を免疫染色法とウエスタンブ

ロット法で、尿中および腎組織の酸化ストレス指標8-ヒドロキシ

デオキシグアノシン(8-OHdG)を免疫染色法とELISA法を用いて

検討した。

【結果】 糖尿病ハムスターの心腎血管組織において有意なキマー

ゼ蛋白量およびmRNA発現増加を認めた。キマーゼ特異的阻害薬

投与により、糖尿病心腎大動脈各組織で増加した酸化ストレスマー

カー 8-OHdG含量およびNAD(P)Hオキシダーゼ構成蛋白

(NOX4、 p22phox)は、ほぼ対照群レベルまで有意に抑制された。

腎症に対する検討では、糖尿病ハムスターでは非糖尿病群と比して

有意に腎組織AⅡ濃度の増加、蛋白尿増加および糸球体メサンジウ

ム領域拡大を認めたが、キマーゼ阻害薬によりこれらの異常はほぼ

完全に改善した。また、糖尿病ハムスターでは心筋線維化の増加を

認めたが、キマーゼ阻害薬投与により酸化ストレスの抑制とともに

有意に改善した。

【考察】 糖尿病ハムスター心腎大動脈におけるキマーゼ発現の増

加を認め、キマーゼ特異的阻害薬の投与により、これら各臓器にお

けるNAD(P)Hオキシダーゼ発現亢進と酸化ストレス亢進が抑制

されることを明らかにした。糖尿病腎組織においては、酸化ストレ

スの改善とともに蛋白尿および腎組織異常も改善し、キマーゼ阻害

薬の治療薬としての可能性が強く示唆された。「キマーゼ阻害薬の

抗酸化作用」として国際特許を申請した。キマーゼ特異的阻害薬を

新たな低分子創薬の目標として今後研究を進める。以上、糖尿病血

管合併症治療薬の新しいシーズを見つけることを7年目までの目標

としていたが目標を超える成果を得た。

■ 糖尿病発症予防薬創薬への新たなシーズの創成:①コホート研究【目的】酸化ストレスは、糖尿病性合併症の発症進展のみでなく、糖

尿病そのものの増悪進展、すなわち、インスリン抵抗性への関与や2

型糖尿病進展にみられる膵β細胞機能異常や膵β細胞死への関与

が推定されている。そこで、申請者らが21世紀COE研究において

登録した約12400例の福岡市住民コホートの解析を行い、血清ビ

リルビン値と糖尿病罹患率の関連を検討し、ビリルビンの糖尿病発

症に対する効果を検討した。

【方法】 対象は2003年から2007年にかけて九州大学の福岡

COEコホートに登録された50-74歳の男女12,949名のうち、慢

性肝炎や肝硬変などの慢性肝疾患、肝・胆・膵の悪性腫瘍と血清ト

ランスアミナーゼ値高値(正常上限の3倍以上)などを除いた

12,438名(平均年齢62.5歳、男性5,526名、女性6,912名)であっ

た。基礎調査時に文書にて同意を得た上で、生活習慣調査票を用い

て生活習慣と病歴についての聞き取り調査を行い、身長、体重、血圧

測定、腹囲などの身体計測と血液採取を行った。血液一般生化学、

HbA1c、高感度CRPの測定に加え、血清の総ビリルビン、直接ビリ

ルビン、間接ビリルビンの測定を行った。これらのパラメーターと

糖尿病、虚血性心疾患、脳梗塞等の生活習慣病の有病率について統

計学的解析を行った。

【結果】 血清のビリルビン値の年齢階級別平均値はいずれも、女性

より男性の方が高く、また男女とも年齢とともに低下した。血清の

高感度CRPとHbA1cはビリルビン値と負の相関を示した。虚血性

心臓病、脳梗塞の有病者では非有病者に比べ、有意にビリルビン値

の調整平均値(年齢、BMI、喫煙、飲酒、身体活動度で調整)が低かっ

た。多重ロジスティック回帰分析において、年齢、BMI、喫煙、飲酒、

身体活動度で調整した虚血性心臓病、脳梗塞の有病率のオッズ比は、

総ビリルビン、間接ビリルビン値の低い群と比較して、ビリルビン値

の高い群で有意に低かった。また、血清ビリルビン値で5群に分類し

た場合、2型糖尿病の有病率のオッズ比は1.00、 1.00、 0.73、

0.80、 0.73とビリルビン高値群で低率となった(trend P = 0.002)。

【考察】 ビリルビンは抗酸化作用を介して炎症を抑制し、一般住民

を対象としても虚血性心臓病や脳梗塞などの動脈硬化性疾患の発

症を抑制するとともに、糖尿病の発症そのものも低下させる可能性

が示唆された。ビリルビンの糖尿病発症抑制の証明とその分子機

序の解明が必要と考えられた。

②ビリベルジン投与による自然発症糖尿病の抑制効果 福岡コホートの疫学研究によりビリルビンの糖尿病発症抑制効

果の可能性を示した。そこで、ビリベルジン投与による自然発症2

型糖尿病モデルdb/dbマウスに対する糖尿病発症抑制効果の証明と

その分子機序の検討を行った。

【方法】 糖尿病発症前の第5週齢のdb/dbマウスにビリベルジン

(20mg/kg)を8週間経口投与し、非投与群db/dbマウスと比較した。

隔週ごとに16時間絶食後、血糖値を測定し、投与開始後第4週に

IPGTT(グルコース 0.5g/kg腹腔内投与)を行った。IPGTTでは

15、30、60、90、120分後に血糖値を測定した。第4、第8週に膵組

織を採取し組織免疫染色法にて膵島の8-OHdG含量、NAD(P)Hオ

キシダーゼ発現量(gp91phox、p22phox)およびインスリン含量を

測定した。

【結果】 第5週以降db/dbマウスの血糖は徐々に上昇したが、ビリ

ベルジン投与第4週より、ビリベルジン投与db/db群において非投

与群に比較し、空腹時血糖値の有意の減少を認めた。また、第4週時

に行ったIPGTTではdb/db群の血糖値のAUCは正常対照群db/+に

比し著明に増加していたが、ビリベルジン投与群において有意に減

少していた(p=0.0255)。第4週、8週においてdb/db群の膵島の

8-OHdG含量およびNAD(P)Hオキシダーゼ構成蛋白(gp91phox、

p22phox)発現量の増加、およびインスリン含量の減少を認めたが、

これらの変化はビリベルジン投与により有意に改善した。

【結語】 ビリベルジン投与はdb/dbマウスの糖尿病発症を遅延さ

せることを示した。また、その機序として膵β細胞のNAD(P)Hオ

キシダーゼ発現亢進の改善、酸化ストレス亢進の改善と、それを介

した膵β細胞の保護効果の可能性が示唆された。現在、糖尿病発症

進展予防薬または膵β細胞保護薬は存在しない。本研究を進める

ことにより、2型糖尿病発症進展または膵β細胞障害において酸化

ストレス亢進が重要な役割をもつことを確認し、これらの機序を

ターゲットとした新しい観点よりの糖尿病発症進展予防または膵

β細胞保護のための治療戦略の開発または創薬の可能性を探索す

る予定である。

レドックス疾患・創薬グループ(医学研究院・田辺三菱製薬株式会社)

ポリフィリン代謝物の糖尿病及び合併症に対する有用性を評価する操る

15 171614

R E D O X N A V I  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果 R E D O X N A V I

  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果

(図4-8)テトラピロール誘導体の糖尿病発症抑制の可能性

(図4-7)ビリベルジンの糖尿病膵β細胞保護作用

(図4-1)ジルベール症候群併発糖尿病患者における     合併症発症頻度

(図4-2)ビリルビンの血管壁細胞に対する抗酸化作用 1

(図4 -3)ビリルビンの抗酸化作用

(図4-4)ビリベルジンの糖尿病腎症改善作用

(図4-5)糖尿病血管合併症におけるキマーゼの重要性

(図4-6)キマーゼの糖尿病腎組織酸化ストレス改善作用

要 旨

■ 抗酸化による糖尿病性血管合併症進展抑制を示す世界で初めてのエビデンスの解明

【目的】 糖尿病性血管合併症の成因として酸化ストレス亢進が注

目されているが、血管合併症に対する抗酸化薬の有効性を示すヒト

でのエビデンスは極めて少ない。そこで、本研究では、血清ビリルビ

ンの抗酸化作用に着目し、高ビリルビン血症を示す体質性黄疸ジル

ベール症候群を併発した糖尿病患者(DM)における血管合併症発症

頻度を検討する。

【対象と方法】 平成18年4月1日より7月30日の期間に九州大学

病院および関連病院またはクリニック12施設に来院した5080人

のDMのうち、DM病歴5年以上のジルベール症候群併発DM 96例

を登録した。同期間に九州大学病院に来院しジルベール症候群非

併発を確認出来たDM 426例を対照群とし血管合併症の発症頻度

を比較検討した。

【結果】 ジルベール症候群併発DMの網膜症、蛋白尿、冠動脈疾患の

頻度は12.5%、3.1%および2.1%と対照DMの38.2%、16.2%およ

び12.3%に比較し有意に低率であった (各々 P<0.01、P<0.01、

P=0.006)。さらに性、血圧値、BMI、HbA1c、総コレステロール、

LDLコレステロール、中性脂肪、HDLコレステロールを含む多変量

解析においてジルベール併発は各合併症と有意な負の相関を認め、

これらの因子で調整されたオッズ比は網膜症で0.22、(P<0.01)、

蛋白尿で0.20 (P<0.01)、冠動脈疾患で0.21(P=0.04)と著明な

低下を認めた。

 また、ジルベール症候群併発DMの酸化ストレス指標尿中8-ヒド

ロキシデオキシグアノシン(8-OHdG)および炎症指標血清高感度

CRR濃度は、非ジルベール併発群に比し有意に低値であった。

【考察】 ジルベール症候群併発DMにおいて網膜症、蛋白尿および

冠動脈心疾患の発症頻度は極めて低率であることを世界で初めて

示した。糖尿病性血管合併症発症・進展における酸化ストレスの重

要性を示唆する有力なエビデンスであり、新しい治療薬創薬への応

用が期待された。

■ ビリルビン、ビリベルジンおよびフィコシアノビリン含有フィコシアニンの糖尿病モデル動物腎症に対する改善効果の証明:

【目的】 ビリルビンの糖尿病性血管合併症抑制効果を証明するた

め、体質性黄疸を示すGunnラットを用い糖尿病を作成し、モデル動

物で検討可能な腎症に対する効果を検討する。次に、実際投与可能

なビリルビン類縁物質としてビリルビンの前駆物質であるビリベ

ルジン、フィコシアノビリン含有フィコシアニンを用い、自然発症2

型糖尿病モデル動物であるdb/dbの腎症改善効果とその分子機序を

検討する。

【方法】 Gunn j / jラットの検討ではストレプトゾトシンを投与し

糖尿病を作成した。尿中アルブミン、酸化ストレスマーカーである

尿中8-OHdG / 8 ─イソプロスタグランジンF2α(8-iso-PGF2

α)排泄量を測定した。腎組織では、免疫染色法により8-OHdG含

量およびNAD(P)Hオキシダーゼ構成蛋白NOX4/p22phox蛋白量

を、またNOX4/p22phox mRNA量をRT-PCR法にて測定した。腎

メサンギウム領域拡大などの組織異常も検討した。また、腎組織異

常に関与するTGFβ、主な基質蛋白フィブロネクチン、酸化ストレ

ス関連転写因子AP-1、Ets-1等の発現を検討した。

【結果】 糖尿病ラットは糖尿病発症後、著明にアルブミン尿が増大

したが、高ビリルビン血症を示す糖尿病 Gunn j / j ラットまたは

ビリベルジン、フィコシアニン投与のdb/dbラットでは正常ラット

近くまで抑制された。 酸化ストレスマーカーである尿中8-OHdG

および尿中8-epi-PGF2α 排泄量は、Gunn糖尿病ラットでは正常

ラットレベルへとまで減少した。ビリベルジン、フィコシアニン投

与のdb/dbラットでも同様に減少した。

 腎組織において主要な活性酸素産生源と考えられるNAD(P)H

オキシダーゼ構成蛋白NOX4 についてその発現を検討したが、糖

尿病腎組織で増加したNOX4発現はGunn糖尿病ラットおよびビリ

ベルジン、フィコシフィコシアニン投与で改善することが示された。

【考案】 ビリルビン、ビリベルジンや類似低分子物質は、糖尿病

腎における酸化ストレス亢進の主因である腎NAD(P)Hオキシ

ダーゼの発現亢進を改善することによって酸化ストレスを低減

させること、これによって、糖尿病性腎症の特徴である蛋白尿お

よび腎糸球体メサンギウム領域の拡大を改善させることを示し

た。本研究によりビリルビン、ビリベルジンおよびフィコシアノビ

リンは、糖尿病性腎症の成因と考えられる酸化ストレスの亢進を改

善し腎症を改善することが糖尿病モデル動物で示された。これら

の実験成果により、テトラピロール誘導体およびその医療用途

(出願番号 PCT/JP2008/003044、2008/10/25)のタイトル

で特許出願を行った。

 糖尿病患者数は近年急速に増加しており、それに伴う合併症の増加は国民の健康および医療経済の両面において重要な問題となっている。しかし

ながら、その重要性にもかかわらず、糖尿病合併症の成因および治療法は未だ確立されていない。本疾患創薬グループは、糖尿病合併症の成因におけ

る酸化ストレス亢進の重要性とその発生メカニズムを明らかにし、この酸化ストレス亢進メカニズムをターゲットとした新規合併症治療薬の創薬を

目的としている。

 まず、血清ビリルビンの抗酸化作用に着目し疫学研究を施行し、高ビリルビン血症を示す体質性黄疸ジルベール症候群を併発する糖尿病患者では

一般の糖尿病患者と比較し、網膜症、腎症、虚血性心疾患の発症頻度が著明に低率であることを世界で始めて明らかにした。

 そこでビリルビン、ビリルビンの前駆物質であるビリベルジンおよびその類縁体をツールとして糖尿病合併症の治療薬開発に資する創薬研究を開

始した。体質性黄疸を示すモデル動物であるGunnラットでは実験糖尿病発症後も腎症の発症進展が抑制されること、また、ビリベルジンや藻類スピ

ルリナより抽出精製したビリベルジン類似体フィコシアノビリンの投与により、2型糖尿病モデルdb/dbマウス腎の酸化ストレス亢進の改善ととも

に腎機能障害および組織学的異常が改善されることを明らかにした。さらに、その分子機序として、糖尿病で増加する活性酸素種(ROS)の主な発生

源であると申請者らが報告してきたNAD(P)Hオキシダーゼ発現亢進の改善効果を明らかにした。

 次に、我々は、糖尿病における酸化ストレス亢進メカニズムとして組織アンジオテンシンⅡ産生に重要な役割を果たすキマーゼの関与を新たに明ら

かにし、糖尿病における酸化ストレス亢進の新しい成因仮説を提唱した。さらに、キマーゼ特異的阻害薬の投与によって酸化ストレス亢進の改善と

ともに腎症が改善されることを糖尿病モデル動物を用いて示し、糖尿病血管合併症治療の新たなシーズとしてキマーゼ阻害の重要性を明らかにした。

■ 糖尿病酸化ストレス亢進の機序としてのキマーゼの重要性の解明:

【目標】 申請者らはこれまでに糖尿病心腎血管組織におけるNAD

(P)Hオキシダーゼ発現および酸化ストレスの亢進には高血糖の直

接の影響とともに組織レニンアンジオテンシン系(RAS)活性化の関

与を報告してきた。一方、組織RASではアンジオテンシン変換酵素

(ACE)とともにセリンプロテアーゼの一種であるキマーゼによるア

ンジオテンシンⅡ(AⅡ)産生系が存在し、ヒトやハムスターではむ

しろ後者の方が高い重要性を占めることが示されている。そこで申

請者らは、糖尿病心腎血管組織における酸化ストレス亢進にキマー

ゼが重要な役割を果たしている可能性を推定し、まずヒトに近い組

織RA系を有するハムスターを用い糖尿病モデルを作成して、心腎血

管組織にキマーゼ発現の動態を検討した。次に、キマーゼ特異的阻

害薬をストレプトゾトシン(STZ)誘発糖尿病ハムスターに投与し、

糖尿病モデル動物の腎症に対する改善効果について検討を加えた。

【方法】 シリアンハムスター(8週齢)にストレプトゾトシンを腹腔

内投与して糖尿病を作成した。

 糖尿病発症後第2週、第8週にて、心腎大動脈組織のキマーゼ発現動

態を免疫染色法およびRT-PCR法にて検討した。また、インスリン治

療による血糖コントロールとの関連も検討した。次に、キマーゼ阻害

薬の酸化ストレスに対する効果を検討するために、非糖尿病コント

ロール群、キマーゼ阻害薬非投与糖尿病群には標準飼料のみを投与

し、キマーゼ阻害薬(TEI-E00548(Ki=30.6nM)、TEI-F00806

(Ki=9.85nM))投与糖尿病群には混餌飼料(それぞれ10mg/kg/日)

を8週間経口投与した後、深麻酔下で心腎大動脈を摘出した。糖尿

病腎症に対する効果は蛋白尿およびPeriodic acid-Schiff染色によ

るメサンジウム領域/糸球体面積比を用いて評価し、血漿および腎

組織AⅡ濃度も測定した。同時に、腎組織NAD(P)Hオキシダーゼ

構成蛋白(NOX4、 p22phox)の発現を免疫染色法とウエスタンブ

ロット法で、尿中および腎組織の酸化ストレス指標8-ヒドロキシ

デオキシグアノシン(8-OHdG)を免疫染色法とELISA法を用いて

検討した。

【結果】 糖尿病ハムスターの心腎血管組織において有意なキマー

ゼ蛋白量およびmRNA発現増加を認めた。キマーゼ特異的阻害薬

投与により、糖尿病心腎大動脈各組織で増加した酸化ストレスマー

カー 8-OHdG含量およびNAD(P)Hオキシダーゼ構成蛋白

(NOX4、 p22phox)は、ほぼ対照群レベルまで有意に抑制された。

腎症に対する検討では、糖尿病ハムスターでは非糖尿病群と比して

有意に腎組織AⅡ濃度の増加、蛋白尿増加および糸球体メサンジウ

ム領域拡大を認めたが、キマーゼ阻害薬によりこれらの異常はほぼ

完全に改善した。また、糖尿病ハムスターでは心筋線維化の増加を

認めたが、キマーゼ阻害薬投与により酸化ストレスの抑制とともに

有意に改善した。

【考察】 糖尿病ハムスター心腎大動脈におけるキマーゼ発現の増

加を認め、キマーゼ特異的阻害薬の投与により、これら各臓器にお

けるNAD(P)Hオキシダーゼ発現亢進と酸化ストレス亢進が抑制

されることを明らかにした。糖尿病腎組織においては、酸化ストレ

スの改善とともに蛋白尿および腎組織異常も改善し、キマーゼ阻害

薬の治療薬としての可能性が強く示唆された。「キマーゼ阻害薬の

抗酸化作用」として国際特許を申請した。キマーゼ特異的阻害薬を

新たな低分子創薬の目標として今後研究を進める。以上、糖尿病血

管合併症治療薬の新しいシーズを見つけることを7年目までの目標

としていたが目標を超える成果を得た。

■ 糖尿病発症予防薬創薬への新たなシーズの創成:①コホート研究【目的】酸化ストレスは、糖尿病性合併症の発症進展のみでなく、糖

尿病そのものの増悪進展、すなわち、インスリン抵抗性への関与や2

型糖尿病進展にみられる膵β細胞機能異常や膵β細胞死への関与

が推定されている。そこで、申請者らが21世紀COE研究において

登録した約12400例の福岡市住民コホートの解析を行い、血清ビ

リルビン値と糖尿病罹患率の関連を検討し、ビリルビンの糖尿病発

症に対する効果を検討した。

【方法】 対象は2003年から2007年にかけて九州大学の福岡

COEコホートに登録された50-74歳の男女12,949名のうち、慢

性肝炎や肝硬変などの慢性肝疾患、肝・胆・膵の悪性腫瘍と血清ト

ランスアミナーゼ値高値(正常上限の3倍以上)などを除いた

12,438名(平均年齢62.5歳、男性5,526名、女性6,912名)であっ

た。基礎調査時に文書にて同意を得た上で、生活習慣調査票を用い

て生活習慣と病歴についての聞き取り調査を行い、身長、体重、血圧

測定、腹囲などの身体計測と血液採取を行った。血液一般生化学、

HbA1c、高感度CRPの測定に加え、血清の総ビリルビン、直接ビリ

ルビン、間接ビリルビンの測定を行った。これらのパラメーターと

糖尿病、虚血性心疾患、脳梗塞等の生活習慣病の有病率について統

計学的解析を行った。

【結果】 血清のビリルビン値の年齢階級別平均値はいずれも、女性

より男性の方が高く、また男女とも年齢とともに低下した。血清の

高感度CRPとHbA1cはビリルビン値と負の相関を示した。虚血性

心臓病、脳梗塞の有病者では非有病者に比べ、有意にビリルビン値

の調整平均値(年齢、BMI、喫煙、飲酒、身体活動度で調整)が低かっ

た。多重ロジスティック回帰分析において、年齢、BMI、喫煙、飲酒、

身体活動度で調整した虚血性心臓病、脳梗塞の有病率のオッズ比は、

総ビリルビン、間接ビリルビン値の低い群と比較して、ビリルビン値

の高い群で有意に低かった。また、血清ビリルビン値で5群に分類し

た場合、2型糖尿病の有病率のオッズ比は1.00、 1.00、 0.73、

0.80、 0.73とビリルビン高値群で低率となった(trend P = 0.002)。

【考察】 ビリルビンは抗酸化作用を介して炎症を抑制し、一般住民

を対象としても虚血性心臓病や脳梗塞などの動脈硬化性疾患の発

症を抑制するとともに、糖尿病の発症そのものも低下させる可能性

が示唆された。ビリルビンの糖尿病発症抑制の証明とその分子機

序の解明が必要と考えられた。

②ビリベルジン投与による自然発症糖尿病の抑制効果 福岡コホートの疫学研究によりビリルビンの糖尿病発症抑制効

果の可能性を示した。そこで、ビリベルジン投与による自然発症2

型糖尿病モデルdb/dbマウスに対する糖尿病発症抑制効果の証明と

その分子機序の検討を行った。

【方法】 糖尿病発症前の第5週齢のdb/dbマウスにビリベルジン

(20mg/kg)を8週間経口投与し、非投与群db/dbマウスと比較した。

隔週ごとに16時間絶食後、血糖値を測定し、投与開始後第4週に

IPGTT(グルコース 0.5g/kg腹腔内投与)を行った。IPGTTでは

15、30、60、90、120分後に血糖値を測定した。第4、第8週に膵組

織を採取し組織免疫染色法にて膵島の8-OHdG含量、NAD(P)Hオ

キシダーゼ発現量(gp91phox、p22phox)およびインスリン含量を

測定した。

【結果】 第5週以降db/dbマウスの血糖は徐々に上昇したが、ビリ

ベルジン投与第4週より、ビリベルジン投与db/db群において非投

与群に比較し、空腹時血糖値の有意の減少を認めた。また、第4週時

に行ったIPGTTではdb/db群の血糖値のAUCは正常対照群db/+に

比し著明に増加していたが、ビリベルジン投与群において有意に減

少していた(p=0.0255)。第4週、8週においてdb/db群の膵島の

8-OHdG含量およびNAD(P)Hオキシダーゼ構成蛋白(gp91phox、

p22phox)発現量の増加、およびインスリン含量の減少を認めたが、

これらの変化はビリベルジン投与により有意に改善した。

【結語】 ビリベルジン投与はdb/dbマウスの糖尿病発症を遅延さ

せることを示した。また、その機序として膵β細胞のNAD(P)Hオ

キシダーゼ発現亢進の改善、酸化ストレス亢進の改善と、それを介

した膵β細胞の保護効果の可能性が示唆された。現在、糖尿病発症

進展予防薬または膵β細胞保護薬は存在しない。本研究を進める

ことにより、2型糖尿病発症進展または膵β細胞障害において酸化

ストレス亢進が重要な役割をもつことを確認し、これらの機序を

ターゲットとした新しい観点よりの糖尿病発症進展予防または膵

β細胞保護のための治療戦略の開発または創薬の可能性を探索す

る予定である。

レドックス疾患・創薬グループ(医学研究院・田辺三菱製薬株式会社)

ポリフィリン代謝物の糖尿病及び合併症に対する有用性を評価する操る

15 171614

R E D O X N A V I  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果 R E D O X N A V I

  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果

(図4-8)テトラピロール誘導体の糖尿病発症抑制の可能性

(図4-7)ビリベルジンの糖尿病膵β細胞保護作用

(図4-1)ジルベール症候群併発糖尿病患者における     合併症発症頻度

(図4-2)ビリルビンの血管壁細胞に対する抗酸化作用 1

(図4 -3)ビリルビンの抗酸化作用

(図4-4)ビリベルジンの糖尿病腎症改善作用

(図4-5)糖尿病血管合併症におけるキマーゼの重要性

(図4-6)キマーゼの糖尿病腎組織酸化ストレス改善作用

要 旨

■ 抗酸化による糖尿病性血管合併症進展抑制を示す世界で初めてのエビデンスの解明

【目的】 糖尿病性血管合併症の成因として酸化ストレス亢進が注

目されているが、血管合併症に対する抗酸化薬の有効性を示すヒト

でのエビデンスは極めて少ない。そこで、本研究では、血清ビリルビ

ンの抗酸化作用に着目し、高ビリルビン血症を示す体質性黄疸ジル

ベール症候群を併発した糖尿病患者(DM)における血管合併症発症

頻度を検討する。

【対象と方法】 平成18年4月1日より7月30日の期間に九州大学

病院および関連病院またはクリニック12施設に来院した5080人

のDMのうち、DM病歴5年以上のジルベール症候群併発DM 96例

を登録した。同期間に九州大学病院に来院しジルベール症候群非

併発を確認出来たDM 426例を対照群とし血管合併症の発症頻度

を比較検討した。

【結果】 ジルベール症候群併発DMの網膜症、蛋白尿、冠動脈疾患の

頻度は12.5%、3.1%および2.1%と対照DMの38.2%、16.2%およ

び12.3%に比較し有意に低率であった (各々 P<0.01、P<0.01、

P=0.006)。さらに性、血圧値、BMI、HbA1c、総コレステロール、

LDLコレステロール、中性脂肪、HDLコレステロールを含む多変量

解析においてジルベール併発は各合併症と有意な負の相関を認め、

これらの因子で調整されたオッズ比は網膜症で0.22、(P<0.01)、

蛋白尿で0.20 (P<0.01)、冠動脈疾患で0.21(P=0.04)と著明な

低下を認めた。

 また、ジルベール症候群併発DMの酸化ストレス指標尿中8-ヒド

ロキシデオキシグアノシン(8-OHdG)および炎症指標血清高感度

CRR濃度は、非ジルベール併発群に比し有意に低値であった。

【考察】 ジルベール症候群併発DMにおいて網膜症、蛋白尿および

冠動脈心疾患の発症頻度は極めて低率であることを世界で初めて

示した。糖尿病性血管合併症発症・進展における酸化ストレスの重

要性を示唆する有力なエビデンスであり、新しい治療薬創薬への応

用が期待された。

■ ビリルビン、ビリベルジンおよびフィコシアノビリン含有フィコシアニンの糖尿病モデル動物腎症に対する改善効果の証明:

【目的】 ビリルビンの糖尿病性血管合併症抑制効果を証明するた

め、体質性黄疸を示すGunnラットを用い糖尿病を作成し、モデル動

物で検討可能な腎症に対する効果を検討する。次に、実際投与可能

なビリルビン類縁物質としてビリルビンの前駆物質であるビリベ

ルジン、フィコシアノビリン含有フィコシアニンを用い、自然発症2

型糖尿病モデル動物であるdb/dbの腎症改善効果とその分子機序を

検討する。

【方法】 Gunn j / jラットの検討ではストレプトゾトシンを投与し

糖尿病を作成した。尿中アルブミン、酸化ストレスマーカーである

尿中8-OHdG / 8 ─イソプロスタグランジンF2α(8-iso-PGF2

α)排泄量を測定した。腎組織では、免疫染色法により8-OHdG含

量およびNAD(P)Hオキシダーゼ構成蛋白NOX4/p22phox蛋白量

を、またNOX4/p22phox mRNA量をRT-PCR法にて測定した。腎

メサンギウム領域拡大などの組織異常も検討した。また、腎組織異

常に関与するTGFβ、主な基質蛋白フィブロネクチン、酸化ストレ

ス関連転写因子AP-1、Ets-1等の発現を検討した。

【結果】 糖尿病ラットは糖尿病発症後、著明にアルブミン尿が増大

したが、高ビリルビン血症を示す糖尿病 Gunn j / j ラットまたは

ビリベルジン、フィコシアニン投与のdb/dbラットでは正常ラット

近くまで抑制された。 酸化ストレスマーカーである尿中8-OHdG

および尿中8-epi-PGF2α 排泄量は、Gunn糖尿病ラットでは正常

ラットレベルへとまで減少した。ビリベルジン、フィコシアニン投

与のdb/dbラットでも同様に減少した。

 腎組織において主要な活性酸素産生源と考えられるNAD(P)H

オキシダーゼ構成蛋白NOX4 についてその発現を検討したが、糖

尿病腎組織で増加したNOX4発現はGunn糖尿病ラットおよびビリ

ベルジン、フィコシフィコシアニン投与で改善することが示された。

【考案】 ビリルビン、ビリベルジンや類似低分子物質は、糖尿病

腎における酸化ストレス亢進の主因である腎NAD(P)Hオキシ

ダーゼの発現亢進を改善することによって酸化ストレスを低減

させること、これによって、糖尿病性腎症の特徴である蛋白尿お

よび腎糸球体メサンギウム領域の拡大を改善させることを示し

た。本研究によりビリルビン、ビリベルジンおよびフィコシアノビ

リンは、糖尿病性腎症の成因と考えられる酸化ストレスの亢進を改

善し腎症を改善することが糖尿病モデル動物で示された。これら

の実験成果により、テトラピロール誘導体およびその医療用途

(出願番号 PCT/JP2008/003044、2008/10/25)のタイトル

で特許出願を行った。

 糖尿病患者数は近年急速に増加しており、それに伴う合併症の増加は国民の健康および医療経済の両面において重要な問題となっている。しかし

ながら、その重要性にもかかわらず、糖尿病合併症の成因および治療法は未だ確立されていない。本疾患創薬グループは、糖尿病合併症の成因におけ

る酸化ストレス亢進の重要性とその発生メカニズムを明らかにし、この酸化ストレス亢進メカニズムをターゲットとした新規合併症治療薬の創薬を

目的としている。

 まず、血清ビリルビンの抗酸化作用に着目し疫学研究を施行し、高ビリルビン血症を示す体質性黄疸ジルベール症候群を併発する糖尿病患者では

一般の糖尿病患者と比較し、網膜症、腎症、虚血性心疾患の発症頻度が著明に低率であることを世界で始めて明らかにした。

 そこでビリルビン、ビリルビンの前駆物質であるビリベルジンおよびその類縁体をツールとして糖尿病合併症の治療薬開発に資する創薬研究を開

始した。体質性黄疸を示すモデル動物であるGunnラットでは実験糖尿病発症後も腎症の発症進展が抑制されること、また、ビリベルジンや藻類スピ

ルリナより抽出精製したビリベルジン類似体フィコシアノビリンの投与により、2型糖尿病モデルdb/dbマウス腎の酸化ストレス亢進の改善ととも

に腎機能障害および組織学的異常が改善されることを明らかにした。さらに、その分子機序として、糖尿病で増加する活性酸素種(ROS)の主な発生

源であると申請者らが報告してきたNAD(P)Hオキシダーゼ発現亢進の改善効果を明らかにした。

 次に、我々は、糖尿病における酸化ストレス亢進メカニズムとして組織アンジオテンシンⅡ産生に重要な役割を果たすキマーゼの関与を新たに明ら

かにし、糖尿病における酸化ストレス亢進の新しい成因仮説を提唱した。さらに、キマーゼ特異的阻害薬の投与によって酸化ストレス亢進の改善と

ともに腎症が改善されることを糖尿病モデル動物を用いて示し、糖尿病血管合併症治療の新たなシーズとしてキマーゼ阻害の重要性を明らかにした。

■ 糖尿病酸化ストレス亢進の機序としてのキマーゼの重要性の解明:

【目標】 申請者らはこれまでに糖尿病心腎血管組織におけるNAD

(P)Hオキシダーゼ発現および酸化ストレスの亢進には高血糖の直

接の影響とともに組織レニンアンジオテンシン系(RAS)活性化の関

与を報告してきた。一方、組織RASではアンジオテンシン変換酵素

(ACE)とともにセリンプロテアーゼの一種であるキマーゼによるア

ンジオテンシンⅡ(AⅡ)産生系が存在し、ヒトやハムスターではむ

しろ後者の方が高い重要性を占めることが示されている。そこで申

請者らは、糖尿病心腎血管組織における酸化ストレス亢進にキマー

ゼが重要な役割を果たしている可能性を推定し、まずヒトに近い組

織RA系を有するハムスターを用い糖尿病モデルを作成して、心腎血

管組織にキマーゼ発現の動態を検討した。次に、キマーゼ特異的阻

害薬をストレプトゾトシン(STZ)誘発糖尿病ハムスターに投与し、

糖尿病モデル動物の腎症に対する改善効果について検討を加えた。

【方法】 シリアンハムスター(8週齢)にストレプトゾトシンを腹腔

内投与して糖尿病を作成した。

 糖尿病発症後第2週、第8週にて、心腎大動脈組織のキマーゼ発現動

態を免疫染色法およびRT-PCR法にて検討した。また、インスリン治

療による血糖コントロールとの関連も検討した。次に、キマーゼ阻害

薬の酸化ストレスに対する効果を検討するために、非糖尿病コント

ロール群、キマーゼ阻害薬非投与糖尿病群には標準飼料のみを投与

し、キマーゼ阻害薬(TEI-E00548(Ki=30.6nM)、TEI-F00806

(Ki=9.85nM))投与糖尿病群には混餌飼料(それぞれ10mg/kg/日)

を8週間経口投与した後、深麻酔下で心腎大動脈を摘出した。糖尿

病腎症に対する効果は蛋白尿およびPeriodic acid-Schiff染色によ

るメサンジウム領域/糸球体面積比を用いて評価し、血漿および腎

組織AⅡ濃度も測定した。同時に、腎組織NAD(P)Hオキシダーゼ

構成蛋白(NOX4、 p22phox)の発現を免疫染色法とウエスタンブ

ロット法で、尿中および腎組織の酸化ストレス指標8-ヒドロキシ

デオキシグアノシン(8-OHdG)を免疫染色法とELISA法を用いて

検討した。

【結果】 糖尿病ハムスターの心腎血管組織において有意なキマー

ゼ蛋白量およびmRNA発現増加を認めた。キマーゼ特異的阻害薬

投与により、糖尿病心腎大動脈各組織で増加した酸化ストレスマー

カー 8-OHdG含量およびNAD(P)Hオキシダーゼ構成蛋白

(NOX4、 p22phox)は、ほぼ対照群レベルまで有意に抑制された。

腎症に対する検討では、糖尿病ハムスターでは非糖尿病群と比して

有意に腎組織AⅡ濃度の増加、蛋白尿増加および糸球体メサンジウ

ム領域拡大を認めたが、キマーゼ阻害薬によりこれらの異常はほぼ

完全に改善した。また、糖尿病ハムスターでは心筋線維化の増加を

認めたが、キマーゼ阻害薬投与により酸化ストレスの抑制とともに

有意に改善した。

【考察】 糖尿病ハムスター心腎大動脈におけるキマーゼ発現の増

加を認め、キマーゼ特異的阻害薬の投与により、これら各臓器にお

けるNAD(P)Hオキシダーゼ発現亢進と酸化ストレス亢進が抑制

されることを明らかにした。糖尿病腎組織においては、酸化ストレ

スの改善とともに蛋白尿および腎組織異常も改善し、キマーゼ阻害

薬の治療薬としての可能性が強く示唆された。「キマーゼ阻害薬の

抗酸化作用」として国際特許を申請した。キマーゼ特異的阻害薬を

新たな低分子創薬の目標として今後研究を進める。以上、糖尿病血

管合併症治療薬の新しいシーズを見つけることを7年目までの目標

としていたが目標を超える成果を得た。

■ 糖尿病発症予防薬創薬への新たなシーズの創成:①コホート研究【目的】酸化ストレスは、糖尿病性合併症の発症進展のみでなく、糖

尿病そのものの増悪進展、すなわち、インスリン抵抗性への関与や2

型糖尿病進展にみられる膵β細胞機能異常や膵β細胞死への関与

が推定されている。そこで、申請者らが21世紀COE研究において

登録した約12400例の福岡市住民コホートの解析を行い、血清ビ

リルビン値と糖尿病罹患率の関連を検討し、ビリルビンの糖尿病発

症に対する効果を検討した。

【方法】 対象は2003年から2007年にかけて九州大学の福岡

COEコホートに登録された50-74歳の男女12,949名のうち、慢

性肝炎や肝硬変などの慢性肝疾患、肝・胆・膵の悪性腫瘍と血清ト

ランスアミナーゼ値高値(正常上限の3倍以上)などを除いた

12,438名(平均年齢62.5歳、男性5,526名、女性6,912名)であっ

た。基礎調査時に文書にて同意を得た上で、生活習慣調査票を用い

て生活習慣と病歴についての聞き取り調査を行い、身長、体重、血圧

測定、腹囲などの身体計測と血液採取を行った。血液一般生化学、

HbA1c、高感度CRPの測定に加え、血清の総ビリルビン、直接ビリ

ルビン、間接ビリルビンの測定を行った。これらのパラメーターと

糖尿病、虚血性心疾患、脳梗塞等の生活習慣病の有病率について統

計学的解析を行った。

【結果】 血清のビリルビン値の年齢階級別平均値はいずれも、女性

より男性の方が高く、また男女とも年齢とともに低下した。血清の

高感度CRPとHbA1cはビリルビン値と負の相関を示した。虚血性

心臓病、脳梗塞の有病者では非有病者に比べ、有意にビリルビン値

の調整平均値(年齢、BMI、喫煙、飲酒、身体活動度で調整)が低かっ

た。多重ロジスティック回帰分析において、年齢、BMI、喫煙、飲酒、

身体活動度で調整した虚血性心臓病、脳梗塞の有病率のオッズ比は、

総ビリルビン、間接ビリルビン値の低い群と比較して、ビリルビン値

の高い群で有意に低かった。また、血清ビリルビン値で5群に分類し

た場合、2型糖尿病の有病率のオッズ比は1.00、 1.00、 0.73、

0.80、 0.73とビリルビン高値群で低率となった(trend P = 0.002)。

【考察】 ビリルビンは抗酸化作用を介して炎症を抑制し、一般住民

を対象としても虚血性心臓病や脳梗塞などの動脈硬化性疾患の発

症を抑制するとともに、糖尿病の発症そのものも低下させる可能性

が示唆された。ビリルビンの糖尿病発症抑制の証明とその分子機

序の解明が必要と考えられた。

②ビリベルジン投与による自然発症糖尿病の抑制効果 福岡コホートの疫学研究によりビリルビンの糖尿病発症抑制効

果の可能性を示した。そこで、ビリベルジン投与による自然発症2

型糖尿病モデルdb/dbマウスに対する糖尿病発症抑制効果の証明と

その分子機序の検討を行った。

【方法】 糖尿病発症前の第5週齢のdb/dbマウスにビリベルジン

(20mg/kg)を8週間経口投与し、非投与群db/dbマウスと比較した。

隔週ごとに16時間絶食後、血糖値を測定し、投与開始後第4週に

IPGTT(グルコース 0.5g/kg腹腔内投与)を行った。IPGTTでは

15、30、60、90、120分後に血糖値を測定した。第4、第8週に膵組

織を採取し組織免疫染色法にて膵島の8-OHdG含量、NAD(P)Hオ

キシダーゼ発現量(gp91phox、p22phox)およびインスリン含量を

測定した。

【結果】 第5週以降db/dbマウスの血糖は徐々に上昇したが、ビリ

ベルジン投与第4週より、ビリベルジン投与db/db群において非投

与群に比較し、空腹時血糖値の有意の減少を認めた。また、第4週時

に行ったIPGTTではdb/db群の血糖値のAUCは正常対照群db/+に

比し著明に増加していたが、ビリベルジン投与群において有意に減

少していた(p=0.0255)。第4週、8週においてdb/db群の膵島の

8-OHdG含量およびNAD(P)Hオキシダーゼ構成蛋白(gp91phox、

p22phox)発現量の増加、およびインスリン含量の減少を認めたが、

これらの変化はビリベルジン投与により有意に改善した。

【結語】 ビリベルジン投与はdb/dbマウスの糖尿病発症を遅延さ

せることを示した。また、その機序として膵β細胞のNAD(P)Hオ

キシダーゼ発現亢進の改善、酸化ストレス亢進の改善と、それを介

した膵β細胞の保護効果の可能性が示唆された。現在、糖尿病発症

進展予防薬または膵β細胞保護薬は存在しない。本研究を進める

ことにより、2型糖尿病発症進展または膵β細胞障害において酸化

ストレス亢進が重要な役割をもつことを確認し、これらの機序を

ターゲットとした新しい観点よりの糖尿病発症進展予防または膵

β細胞保護のための治療戦略の開発または創薬の可能性を探索す

る予定である。

レドックス疾患・創薬グループ(医学研究院・田辺三菱製薬株式会社)

ポリフィリン代謝物の糖尿病及び合併症に対する有用性を評価する操る

15 171614

R E D O X N A V I  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果 R E D O X N A V I

  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果

(図3)

(図1)

(図2)

(図4)

(図5)

(図6)

(図7)

(図8)

先端がん診断・創薬グループ(医学研究院・薬学研究院・大鵬薬品工業株式会社)

■ はじめに 現在、日本では毎年60万人のヒトが癌と診断され35万人近いヒ

トが癌で亡くなっています。病気で亡くなる3人に2人は癌が原因

であると言われています。国をあげての癌撲滅にむけての事業プ

ログラムも推進され、がん治療研究ならびにがん専門医療の育成は

重要なこの分野での使命であります。我々の先端がん診断・創薬グ

ループでは、癌患者に有用な診断・治療の開発に貢献することが重

要と考えています。我々は図1に示す研究グループで仕事を進めて

います。

 先端がん診断・創薬グループでは、癌の発症と進展と癌治療にお

いて、癌のレドックス反応という観点から先端的ながん診断と治療

の創薬を新たに創出することを目的としています。すなわち、癌の

レドックス応答という新しい観点から、癌患者を主な研究対象とし

て癌の発症と進展ならびに癌の治療の個別化に関する仕組みを明

らかにします。また、独自性が高く有用性が期待されるレドックス・

バイオマーカーを提示し、更に、レドックス・バイオマーカーを標的

として診断及び治療の有用性をレドックスナビシステムとの融合

研究で検証し、大鵬薬品工業株式会社と協働して癌の診断と治療に

有用なレドックス・バイオマーカーを標的とした治療薬を創出する

ことを目的としています。本研究を進める上で、3つの研究戦略に

より先端的な癌診断と治療の創薬を目指しています(図2)。

■ がん化学予防戦略(レドックスと炎症と腎がん) レドックス応答はがんの発症と進展に深く関与することが知ら

れています。我々は透析腎がんのがん発症や食道や大腸などの消

化器がんならびに泌尿器科系がんについての発症や発症高感受性

遺伝子などについて検討を進めています。関連するメカニズムと

レドックス反応を明らかにすることによりがん発症を予防する創

薬戦略を考えています。特に、透析患者では健常人に比較して腎が

んをはじめとしてがんの発生率が高いことが知られていますが、こ

の原因の一つに血液が透析膜に接触することによる酸化ストレス

への暴露が考えられています。我々は透析腎がんにおいてiNOS、

8-OHdG、COX-2などの酸化ストレスマーカーが高発現している

ことを見出しており(図3)、今後、具体的なレドックス・バイオマー

カーを提示してがん発症予防治療の開発を目指します。

透析腎癌におけるレドックス反応 長期透析患者の腎の形態は、嚢胞を多く含むように変化して後天

性嚢胞腎と呼ばれる状態になることが知られています。そして、こ

の状態が腎癌発生の母地になるものと考えられます。長期透析患

者では、透析による酸化ストレスが増大しているとの数多くの報告

があり、レドックス反応と癌化との関連を研究する格好の材料であ

ると考えられます。我々は、酸化ストレスマーカーであるiNOS、

8-OHdG、COX-2が透析腎癌で明らかに高発現していることを明

らかにしており、透析による酸化ストレスが生体の防御機構を上

回っている状態であると考えています。さらに、我々のグループで

は、ストレス応答や血管新生に関わるNDRG1/Cap43や、化学療法

や放射線などの細胞障害性ストレスに応答するYB-1の核移行が透

析腎癌で有意に高いことを見出しました。

8-OHdG DNAグリコシラーゼ(OGG1) 細胞は様々な外因的・内因的環境暴露により酸化ストレスを受け

ます。特にDNAの酸化的損傷は遺伝子変異を誘発し発癌の原因と

なります。酸化ストレス刺激を受けた細胞は酸化損傷を受けた核

酸を修復するかアポトーシスを起こすことで癌化を未然に防いで

いると考えられています(図4)。8-ヒドロキシデオキシグアニン

(8-OHdG)は、核酸塩基グアニンの酸化体であり、酸化損傷の指標

です。また、8-OHdGはアデニンと誤塩基対を形成することでトラ

ンスバージョン変異を誘発し発癌の原因となりますが、OGG1に

よって塩基が除去、修復されます。我々のグループでは、食道扁平上

皮癌において、癌の深達度が高いほど8-OHdGの染色陽性率が高

く、癌の進展と酸化損傷とが関連することを明らかにしました。ま

た、OGG1の発現は癌の進展に伴って減少しており、8-OHdGと

OGG1の局在の不一致が塩基除去修復の障害につながるものと考

えられました。

■ がん間質標的治療戦略(レドックスと血管新生とマクロファージ標的治療)

 がんの間質に浸潤してくる様々な炎症や免疫担当細胞は、がんの

免疫制御に破綻をきたすとしばしばがんの悪性化を支援するよう

になります。その代表的な細胞が好中球、単球/マクロファージやマ

スト細胞などです。特に、レドックス反応が極めて活発なマクロ

ファージ(腫瘍関連マクロファージ:TAM)は、がん間質において血

管新生やがんの増大・転移に重要な役割を果たしていることを明ら

かにしてきました(図5)。また、生体レドックス画像解析グループ・

日本電子株式会社との融合研究によって、肺癌細胞を移植したマウ

スの腫瘍内レドックス状態を可視化し(図6)、マクロファージ標的

薬剤が腫瘍内のレドックス状態を変化させていることを明らかに

しました。

チミジンホスホリラーゼ(TP) がんの間質に浸潤してくる様々な炎症・免疫担当細胞は、がんの

免疫制御に破綻をきたしがんの悪性化を促進します。特に、癌に浸

潤してくるマクロファージは腫瘍関連マクロファージ(TAM)とし

て知られ、活性酸素の産生をはじめ非常にレドックス反応性が高い

ことが報告されています。我々は、がんの間質において腫瘍関連マ

クロファージが血管新生やがんの増大・転移に重要な役割を果たし

ていることを明らかにしてきました。従って、炎症やマクロファー

ジや癌間質応答を標的とすることによる癌治療への応用の可能性

が考えられます。その可能性を検討する目的の一環として、マクロ

ファージ標的薬剤であるクロドロネート含有リポソームを投与す

ると、癌の体積増大、微小血管密度(MVD)の減少、F4/80陽性マク

ロファージの浸潤を抑制することが明らかとなりました。更に、胃

癌症例における免疫組織染色の結果、TAMがTPを強く発現してい

ることも明らかとなりました。

N-myc downstream regulated gene 1 (NDRG1)/Cap43 NDRG1/Cap43は癌の血管新生や間質応答の重要な鍵を担って

いる分子として知られています。我々のグループでは、膵癌細胞株

を用いてNDRG1/Cap43により発現が調節される遺伝子群をマイ

クロアレイと定量的リアルタイムPCR解析から同定し、CXCケモ

カインやVEGFの発現がNDRG1/Cap43高発現細胞で低下してい

ることを見出しました。また、膵癌皮下移植モデルにおいて

NDRG1/Cap43が腫瘍の増大や血管新生を明らかに抑制すること

も報告しています。更に、NDRG1/Cap43はCXCケモカインの産

生を阻害することや、動物モデルで好中球等の炎症性細胞の浸潤を

抑制することを明らかにしています。加えて、NDRG1/Cap43によ

るCXCケモカインの産生抑制のメカニズムとして、NF-κBシグナ

ルの不活性化が関与している可能性も示唆されています(図7)。

■ がん最適化治療戦略(レドックスとバイオマーカーと抗がん剤感受性と個別化診断・治療)

 活性酸素種(ROS)はがん治療において効果もしくは副作用を亢

進するために両刃の剣と言われています。我々のグループでは、レ

ドックス応答を制御するY-ボックス結合タンパク質1 (YB-1)、グ

ルタチオン系レドックスタンパク質(TRXやPrdx)、上皮間葉系変

換(EMT)に関与するTwist、また細胞障害ストレスタンパク質

HMGB1などに注目して研究を進めています。特に、分子腫瘍学や

実験治療学を駆使した研究を基盤にしてがん患者におけるがん部

位の悪性進展やレドックス関連タンパク質の発現と分子病理学研

究を進めています。特に、YB-1については乳がん、卵巣がんや肺が

んなどにおいて臨床的に有用なバイオマーカーであることが明ら

かとなりました(図8)。

Y-ボックス結合タンパク1 (YB-1) YB-1はヒト癌の抗癌剤多剤耐性の重要な鍵をにぎる因子であり、

8-ヒドロキシデオキシグアニン(8-OHdG)含有RNAや障害

DNA/RNAに高い親和性を示すことから、レドックススキャベン

ジャーとしても重要な働きを示すことが明らかとなっています。

YB-1は通常腎癌に比して透析腎癌で核内への移行率が高く、酸化

ストレスのマーカーである8-OHdGの陽性率とも相関する傾向が

認められました。また、乳癌株や肺癌株を用いた解析から、YB-1が

各種の増殖因子受容体の発現を制御していることも明らかとなっ

ています。臨床サンプルを用いた免疫組織化学染色では、核内

YB-1の発現と各種の増殖因子受容体の発現との間に関連性がある

ことが明らかとなりました。

T-cell leukemia homeobox 3 (TLX3) DNAのメチル化は発生過程での細胞分化や分化後の組織特異的

な遺伝子発現、更にゲノムインプリンティングやX染色体の不活化

など遺伝子発現に重要な働きをしています。癌においても、DNAの

メチル化は癌抑制遺伝子の不活性化など遺伝子発現に重要な働き

をしていることが明らかとなっています。臨床上、尿路性器悪性腫

瘍において抗癌剤化学療法は有用ですが、膀胱癌の化学療法のキー

ドラッグであるシスプラチンに対する耐性に関する分子機構や、臨

床診断上有用なシスプラチン耐性に関するバイオマーカーについ

ては未だ不明な点が残されています。我々のグループでは、

Restriction landmark genomic scanning (RLGS)法の結果から、

膀胱がん細胞株及びそのシスプラチン耐性株、シスプラチン耐性度

の高い膀胱癌の臨床検体でTLX3遺伝子のプロモーターが高度にメ

チル化されていることを明らかにしました。また、培養膀胱癌細胞

にTLX3を過剰発現させるとシスプラチンに対する感受性が上昇す

ることも明らかとなりました。

Twist1 再発性前立腺癌および転移性前立腺癌はホルモン療法が第一選

択ですが、多くは数ヶ月から数年でホルモン抵抗性前立腺癌

(HRPC)に移行します。また、ホルモン抵抗性獲得のメカニズムの

一つにアンドロゲン受容体(AR)の過剰発現が知られています。

我々のグループでは、前立腺癌細胞株に過酸化水素による酸化スト

レスを与えるとTwist1、YB-1、ARの発現上昇が誘導され、ARの発

現上昇はTwist1のノックダウンにより抑制されることを明らかに

しました。また、前立腺癌細胞の増殖にTwist1が関与していること

も明らかとなりました。

■ まとめと展望 現在までに先端がん診断・創薬グループでは、がんとレドックス

を標的とした研究から、がん化学予防、がん間質制御、がん最適化医

療に貢献できる標的分子(レドックス・バイオマーカー)や標的細胞

を提示しています。これらのベーシックリサーチで見出したレ

ドックス・バイオマーカーや標的細胞、分子メカニズムをターゲッ

トとして、“レドックス・ナビゲーションシステム”で評価すると共

に、がんの臨床研究分野や分子病理学分野を含む融合研究から同定

した有用なレドックス・バイオマーカーを対象にがん創薬に向けて

のトランスレーショナルリサーチを進めていく予定です。

■ 原著論文による研究成果の発表(主なもの)1) Hori Y, Oda Y, Kiyoshima K, et al., Oxidative stress and

DNA hypermethylation status in renal cell carcinoma

arising in patients on dialysis. J Pathol, 2007; 212:

218-26.

2) Kawahara A, Azuma K, Hattori S, et al., The close

correlation between 8-hydroxy-2'- deoxyguanosine and

epidermal growth factor receptor activating mutation in

non-small cell lung cancer. Human Pathol, 2010; in press.

3) Ono M. Molecular links between tumor angiogenesis and

inflammation: inflammatory stimuli of macrophages and

cancer cells as targets for therapeutic strategy. Cancer

Sci, 2008; 99: 1501-6.

4) Kimura YN, Watari K, Fotovati A, et al., Inflammatory

stimuli from macrophages and cancer cells synergistically

promote tumor growth and angiogenesis. Cancer Sci,

2007; 98: 2009-18.

5) Watari K, Nakao S, Fotovati A, et al. , Role of

macrophages in inflammatory lymphangiogenesis:

Enhanced production of vascular endothelial growth

factor C and D through NF-kappaB activation. Biochem

Biophys Res Commun, 2008; 377: 826-31.

6) Hiraoka K, Zenmyo M, Watari K, et al., Inhibition of bone

and muscle metastases of lung cancer cells by a decrease

in the number of monocytes/macrophages. Cancer Sci,

2008; 99: 1595-602.

7) Nishio S, Ushijima K, Tsuda N, et al., Cap43/NDRG1/Drg-1

is a molecular target for angiogenesis and a prognostic

indicator in cervical adenocarcinoma. Cancer Lett, 2008;

264: 36-43.

8) Oda Y, Kohashi K, Yamamoto H, et al., Different

expression profiles of Y-box-binding protein-1 and

multidrug resistance-associated proteins between

alveolar and embryonal rhabdomyosarcoma. Cancer Sci,

2008; 99: 726-32.

9) Akiba J, Ogasawara S, Kawahara A, et al., N-myc

downstream regulated gene 1 (NDRG1)/Cap43

enhances portal vein invasion and intrahepatic metastasis

in human hepatocellular carcinoma. Oncol Rep, 2008;

20: 1329-35.

10) Hosoi F, Izumi H, Kawahara A, et al., N-myc downstream

regulated gene 1/Cap43 suppresses tumor growth and

angiogenesis of pancreatic cancer through attenuation of

IKKbeta expression. Cancer Res, 2009; 69: 4983-91.

11) Song Y, Oda Y, Hori M, et al., N-myc downstream

regulated gene-1/Cap43 may play an important role in

malignant progression of prostate cancer, in its close

association with E-cadherin. Human Pathol, 2010; 41;

214-22.

12) Basaki Y, Hosoi F, Oda Y, et al., Akt-dependent nuclear

localization of Y-box-binding protein 1 in acquisition of

malignant characteristics by human ovarian cancer cells.

Oncogene, 2007; 26: 2736-46.

13) Oda Y, Ohishi Y, Basaki Y, et al., Prognostic implications

of the nuclear localization of Y-box-binding protein-1 and

CXCR4 expression in ovarian cancer: their correlation

with activated Akt, LRP/MVP and P-glycoprotein

expression. Cancer Sci, 2007; 98; 1020-6.

14) Fujii T, Kawahara A, Basaki Y, et al., Expression of HER2

and estrogen receptor alpha depends upon nuclear

localization of Y-box binding protein-1 in human breast

cancers. Cancer Res, 2008; 68: 1504-12.

15) Shiota M, Izumi H, Onitsuka T, et al., Twist promotes

tumor cell growth through YB-1 expression. Cancer Res,

2008; 68: 98-105.

16) Kashihara M, Azuma K, Kawahara A, et al., Nuclear Y-box

binding protein-1 (YB-1), a predictive marker of

prognosis, is correlated with expression of HER2/ErbB2

and HER3/ErbB3 in non-small cell lung cancer. J Thorac

Oncol, 2009; 4: 1066-74.

17) Basaki Y, Taguchi K, Izumi H, et al., Y-box binding

protein-1 (YB-1) promotes cell cycle progression

through CDC6-dependent pathway in human cancer cells.

Eur J Cancer, 2010; in press.

癌の悪性進展やレドックス反応に関与する癌間質の標的タンパクを解析する操る

19 212018

R E D O X N A V I  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果 R E D O X N A V I

  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果

(図3)

(図1)

(図2)

(図4)

(図5)

(図6)

(図7)

(図8)

先端がん診断・創薬グループ(医学研究院・薬学研究院・大鵬薬品工業株式会社)

■ はじめに 現在、日本では毎年60万人のヒトが癌と診断され35万人近いヒ

トが癌で亡くなっています。病気で亡くなる3人に2人は癌が原因

であると言われています。国をあげての癌撲滅にむけての事業プ

ログラムも推進され、がん治療研究ならびにがん専門医療の育成は

重要なこの分野での使命であります。我々の先端がん診断・創薬グ

ループでは、癌患者に有用な診断・治療の開発に貢献することが重

要と考えています。我々は図1に示す研究グループで仕事を進めて

います。

 先端がん診断・創薬グループでは、癌の発症と進展と癌治療にお

いて、癌のレドックス反応という観点から先端的ながん診断と治療

の創薬を新たに創出することを目的としています。すなわち、癌の

レドックス応答という新しい観点から、癌患者を主な研究対象とし

て癌の発症と進展ならびに癌の治療の個別化に関する仕組みを明

らかにします。また、独自性が高く有用性が期待されるレドックス・

バイオマーカーを提示し、更に、レドックス・バイオマーカーを標的

として診断及び治療の有用性をレドックスナビシステムとの融合

研究で検証し、大鵬薬品工業株式会社と協働して癌の診断と治療に

有用なレドックス・バイオマーカーを標的とした治療薬を創出する

ことを目的としています。本研究を進める上で、3つの研究戦略に

より先端的な癌診断と治療の創薬を目指しています(図2)。

■ がん化学予防戦略(レドックスと炎症と腎がん) レドックス応答はがんの発症と進展に深く関与することが知ら

れています。我々は透析腎がんのがん発症や食道や大腸などの消

化器がんならびに泌尿器科系がんについての発症や発症高感受性

遺伝子などについて検討を進めています。関連するメカニズムと

レドックス反応を明らかにすることによりがん発症を予防する創

薬戦略を考えています。特に、透析患者では健常人に比較して腎が

んをはじめとしてがんの発生率が高いことが知られていますが、こ

の原因の一つに血液が透析膜に接触することによる酸化ストレス

への暴露が考えられています。我々は透析腎がんにおいてiNOS、

8-OHdG、COX-2などの酸化ストレスマーカーが高発現している

ことを見出しており(図3)、今後、具体的なレドックス・バイオマー

カーを提示してがん発症予防治療の開発を目指します。

透析腎癌におけるレドックス反応 長期透析患者の腎の形態は、嚢胞を多く含むように変化して後天

性嚢胞腎と呼ばれる状態になることが知られています。そして、こ

の状態が腎癌発生の母地になるものと考えられます。長期透析患

者では、透析による酸化ストレスが増大しているとの数多くの報告

があり、レドックス反応と癌化との関連を研究する格好の材料であ

ると考えられます。我々は、酸化ストレスマーカーであるiNOS、

8-OHdG、COX-2が透析腎癌で明らかに高発現していることを明

らかにしており、透析による酸化ストレスが生体の防御機構を上

回っている状態であると考えています。さらに、我々のグループで

は、ストレス応答や血管新生に関わるNDRG1/Cap43や、化学療法

や放射線などの細胞障害性ストレスに応答するYB-1の核移行が透

析腎癌で有意に高いことを見出しました。

8-OHdG DNAグリコシラーゼ(OGG1) 細胞は様々な外因的・内因的環境暴露により酸化ストレスを受け

ます。特にDNAの酸化的損傷は遺伝子変異を誘発し発癌の原因と

なります。酸化ストレス刺激を受けた細胞は酸化損傷を受けた核

酸を修復するかアポトーシスを起こすことで癌化を未然に防いで

いると考えられています(図4)。8-ヒドロキシデオキシグアニン

(8-OHdG)は、核酸塩基グアニンの酸化体であり、酸化損傷の指標

です。また、8-OHdGはアデニンと誤塩基対を形成することでトラ

ンスバージョン変異を誘発し発癌の原因となりますが、OGG1に

よって塩基が除去、修復されます。我々のグループでは、食道扁平上

皮癌において、癌の深達度が高いほど8-OHdGの染色陽性率が高

く、癌の進展と酸化損傷とが関連することを明らかにしました。ま

た、OGG1の発現は癌の進展に伴って減少しており、8-OHdGと

OGG1の局在の不一致が塩基除去修復の障害につながるものと考

えられました。

■ がん間質標的治療戦略(レドックスと血管新生とマクロファージ標的治療)

 がんの間質に浸潤してくる様々な炎症や免疫担当細胞は、がんの

免疫制御に破綻をきたすとしばしばがんの悪性化を支援するよう

になります。その代表的な細胞が好中球、単球/マクロファージやマ

スト細胞などです。特に、レドックス反応が極めて活発なマクロ

ファージ(腫瘍関連マクロファージ:TAM)は、がん間質において血

管新生やがんの増大・転移に重要な役割を果たしていることを明ら

かにしてきました(図5)。また、生体レドックス画像解析グループ・

日本電子株式会社との融合研究によって、肺癌細胞を移植したマウ

スの腫瘍内レドックス状態を可視化し(図6)、マクロファージ標的

薬剤が腫瘍内のレドックス状態を変化させていることを明らかに

しました。

チミジンホスホリラーゼ(TP) がんの間質に浸潤してくる様々な炎症・免疫担当細胞は、がんの

免疫制御に破綻をきたしがんの悪性化を促進します。特に、癌に浸

潤してくるマクロファージは腫瘍関連マクロファージ(TAM)とし

て知られ、活性酸素の産生をはじめ非常にレドックス反応性が高い

ことが報告されています。我々は、がんの間質において腫瘍関連マ

クロファージが血管新生やがんの増大・転移に重要な役割を果たし

ていることを明らかにしてきました。従って、炎症やマクロファー

ジや癌間質応答を標的とすることによる癌治療への応用の可能性

が考えられます。その可能性を検討する目的の一環として、マクロ

ファージ標的薬剤であるクロドロネート含有リポソームを投与す

ると、癌の体積増大、微小血管密度(MVD)の減少、F4/80陽性マク

ロファージの浸潤を抑制することが明らかとなりました。更に、胃

癌症例における免疫組織染色の結果、TAMがTPを強く発現してい

ることも明らかとなりました。

N-myc downstream regulated gene 1 (NDRG1)/Cap43 NDRG1/Cap43は癌の血管新生や間質応答の重要な鍵を担って

いる分子として知られています。我々のグループでは、膵癌細胞株

を用いてNDRG1/Cap43により発現が調節される遺伝子群をマイ

クロアレイと定量的リアルタイムPCR解析から同定し、CXCケモ

カインやVEGFの発現がNDRG1/Cap43高発現細胞で低下してい

ることを見出しました。また、膵癌皮下移植モデルにおいて

NDRG1/Cap43が腫瘍の増大や血管新生を明らかに抑制すること

も報告しています。更に、NDRG1/Cap43はCXCケモカインの産

生を阻害することや、動物モデルで好中球等の炎症性細胞の浸潤を

抑制することを明らかにしています。加えて、NDRG1/Cap43によ

るCXCケモカインの産生抑制のメカニズムとして、NF-κBシグナ

ルの不活性化が関与している可能性も示唆されています(図7)。

■ がん最適化治療戦略(レドックスとバイオマーカーと抗がん剤感受性と個別化診断・治療)

 活性酸素種(ROS)はがん治療において効果もしくは副作用を亢

進するために両刃の剣と言われています。我々のグループでは、レ

ドックス応答を制御するY-ボックス結合タンパク質1 (YB-1)、グ

ルタチオン系レドックスタンパク質(TRXやPrdx)、上皮間葉系変

換(EMT)に関与するTwist、また細胞障害ストレスタンパク質

HMGB1などに注目して研究を進めています。特に、分子腫瘍学や

実験治療学を駆使した研究を基盤にしてがん患者におけるがん部

位の悪性進展やレドックス関連タンパク質の発現と分子病理学研

究を進めています。特に、YB-1については乳がん、卵巣がんや肺が

んなどにおいて臨床的に有用なバイオマーカーであることが明ら

かとなりました(図8)。

Y-ボックス結合タンパク1 (YB-1) YB-1はヒト癌の抗癌剤多剤耐性の重要な鍵をにぎる因子であり、

8-ヒドロキシデオキシグアニン(8-OHdG)含有RNAや障害

DNA/RNAに高い親和性を示すことから、レドックススキャベン

ジャーとしても重要な働きを示すことが明らかとなっています。

YB-1は通常腎癌に比して透析腎癌で核内への移行率が高く、酸化

ストレスのマーカーである8-OHdGの陽性率とも相関する傾向が

認められました。また、乳癌株や肺癌株を用いた解析から、YB-1が

各種の増殖因子受容体の発現を制御していることも明らかとなっ

ています。臨床サンプルを用いた免疫組織化学染色では、核内

YB-1の発現と各種の増殖因子受容体の発現との間に関連性がある

ことが明らかとなりました。

T-cell leukemia homeobox 3 (TLX3) DNAのメチル化は発生過程での細胞分化や分化後の組織特異的

な遺伝子発現、更にゲノムインプリンティングやX染色体の不活化

など遺伝子発現に重要な働きをしています。癌においても、DNAの

メチル化は癌抑制遺伝子の不活性化など遺伝子発現に重要な働き

をしていることが明らかとなっています。臨床上、尿路性器悪性腫

瘍において抗癌剤化学療法は有用ですが、膀胱癌の化学療法のキー

ドラッグであるシスプラチンに対する耐性に関する分子機構や、臨

床診断上有用なシスプラチン耐性に関するバイオマーカーについ

ては未だ不明な点が残されています。我々のグループでは、

Restriction landmark genomic scanning (RLGS)法の結果から、

膀胱がん細胞株及びそのシスプラチン耐性株、シスプラチン耐性度

の高い膀胱癌の臨床検体でTLX3遺伝子のプロモーターが高度にメ

チル化されていることを明らかにしました。また、培養膀胱癌細胞

にTLX3を過剰発現させるとシスプラチンに対する感受性が上昇す

ることも明らかとなりました。

Twist1 再発性前立腺癌および転移性前立腺癌はホルモン療法が第一選

択ですが、多くは数ヶ月から数年でホルモン抵抗性前立腺癌

(HRPC)に移行します。また、ホルモン抵抗性獲得のメカニズムの

一つにアンドロゲン受容体(AR)の過剰発現が知られています。

我々のグループでは、前立腺癌細胞株に過酸化水素による酸化スト

レスを与えるとTwist1、YB-1、ARの発現上昇が誘導され、ARの発

現上昇はTwist1のノックダウンにより抑制されることを明らかに

しました。また、前立腺癌細胞の増殖にTwist1が関与していること

も明らかとなりました。

■ まとめと展望 現在までに先端がん診断・創薬グループでは、がんとレドックス

を標的とした研究から、がん化学予防、がん間質制御、がん最適化医

療に貢献できる標的分子(レドックス・バイオマーカー)や標的細胞

を提示しています。これらのベーシックリサーチで見出したレ

ドックス・バイオマーカーや標的細胞、分子メカニズムをターゲッ

トとして、“レドックス・ナビゲーションシステム”で評価すると共

に、がんの臨床研究分野や分子病理学分野を含む融合研究から同定

した有用なレドックス・バイオマーカーを対象にがん創薬に向けて

のトランスレーショナルリサーチを進めていく予定です。

■ 原著論文による研究成果の発表(主なもの)1) Hori Y, Oda Y, Kiyoshima K, et al., Oxidative stress and

DNA hypermethylation status in renal cell carcinoma

arising in patients on dialysis. J Pathol, 2007; 212:

218-26.

2) Kawahara A, Azuma K, Hattori S, et al., The close

correlation between 8-hydroxy-2'- deoxyguanosine and

epidermal growth factor receptor activating mutation in

non-small cell lung cancer. Human Pathol, 2010; in press.

3) Ono M. Molecular links between tumor angiogenesis and

inflammation: inflammatory stimuli of macrophages and

cancer cells as targets for therapeutic strategy. Cancer

Sci, 2008; 99: 1501-6.

4) Kimura YN, Watari K, Fotovati A, et al., Inflammatory

stimuli from macrophages and cancer cells synergistically

promote tumor growth and angiogenesis. Cancer Sci,

2007; 98: 2009-18.

5) Watari K, Nakao S, Fotovati A, et al. , Role of

macrophages in inflammatory lymphangiogenesis:

Enhanced production of vascular endothelial growth

factor C and D through NF-kappaB activation. Biochem

Biophys Res Commun, 2008; 377: 826-31.

6) Hiraoka K, Zenmyo M, Watari K, et al., Inhibition of bone

and muscle metastases of lung cancer cells by a decrease

in the number of monocytes/macrophages. Cancer Sci,

2008; 99: 1595-602.

7) Nishio S, Ushijima K, Tsuda N, et al., Cap43/NDRG1/Drg-1

is a molecular target for angiogenesis and a prognostic

indicator in cervical adenocarcinoma. Cancer Lett, 2008;

264: 36-43.

8) Oda Y, Kohashi K, Yamamoto H, et al., Different

expression profiles of Y-box-binding protein-1 and

multidrug resistance-associated proteins between

alveolar and embryonal rhabdomyosarcoma. Cancer Sci,

2008; 99: 726-32.

9) Akiba J, Ogasawara S, Kawahara A, et al., N-myc

downstream regulated gene 1 (NDRG1)/Cap43

enhances portal vein invasion and intrahepatic metastasis

in human hepatocellular carcinoma. Oncol Rep, 2008;

20: 1329-35.

10) Hosoi F, Izumi H, Kawahara A, et al., N-myc downstream

regulated gene 1/Cap43 suppresses tumor growth and

angiogenesis of pancreatic cancer through attenuation of

IKKbeta expression. Cancer Res, 2009; 69: 4983-91.

11) Song Y, Oda Y, Hori M, et al., N-myc downstream

regulated gene-1/Cap43 may play an important role in

malignant progression of prostate cancer, in its close

association with E-cadherin. Human Pathol, 2010; 41;

214-22.

12) Basaki Y, Hosoi F, Oda Y, et al., Akt-dependent nuclear

localization of Y-box-binding protein 1 in acquisition of

malignant characteristics by human ovarian cancer cells.

Oncogene, 2007; 26: 2736-46.

13) Oda Y, Ohishi Y, Basaki Y, et al., Prognostic implications

of the nuclear localization of Y-box-binding protein-1 and

CXCR4 expression in ovarian cancer: their correlation

with activated Akt, LRP/MVP and P-glycoprotein

expression. Cancer Sci, 2007; 98; 1020-6.

14) Fujii T, Kawahara A, Basaki Y, et al., Expression of HER2

and estrogen receptor alpha depends upon nuclear

localization of Y-box binding protein-1 in human breast

cancers. Cancer Res, 2008; 68: 1504-12.

15) Shiota M, Izumi H, Onitsuka T, et al., Twist promotes

tumor cell growth through YB-1 expression. Cancer Res,

2008; 68: 98-105.

16) Kashihara M, Azuma K, Kawahara A, et al., Nuclear Y-box

binding protein-1 (YB-1), a predictive marker of

prognosis, is correlated with expression of HER2/ErbB2

and HER3/ErbB3 in non-small cell lung cancer. J Thorac

Oncol, 2009; 4: 1066-74.

17) Basaki Y, Taguchi K, Izumi H, et al., Y-box binding

protein-1 (YB-1) promotes cell cycle progression

through CDC6-dependent pathway in human cancer cells.

Eur J Cancer, 2010; in press.

癌の悪性進展やレドックス反応に関与する癌間質の標的タンパクを解析する操る

19 212018

R E D O X N A V I  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果 R E D O X N A V I

  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果

(図3)

(図1)

(図2)

(図4)

(図5)

(図6)

(図7)

(図8)

先端がん診断・創薬グループ(医学研究院・薬学研究院・大鵬薬品工業株式会社)

■ はじめに 現在、日本では毎年60万人のヒトが癌と診断され35万人近いヒ

トが癌で亡くなっています。病気で亡くなる3人に2人は癌が原因

であると言われています。国をあげての癌撲滅にむけての事業プ

ログラムも推進され、がん治療研究ならびにがん専門医療の育成は

重要なこの分野での使命であります。我々の先端がん診断・創薬グ

ループでは、癌患者に有用な診断・治療の開発に貢献することが重

要と考えています。我々は図1に示す研究グループで仕事を進めて

います。

 先端がん診断・創薬グループでは、癌の発症と進展と癌治療にお

いて、癌のレドックス反応という観点から先端的ながん診断と治療

の創薬を新たに創出することを目的としています。すなわち、癌の

レドックス応答という新しい観点から、癌患者を主な研究対象とし

て癌の発症と進展ならびに癌の治療の個別化に関する仕組みを明

らかにします。また、独自性が高く有用性が期待されるレドックス・

バイオマーカーを提示し、更に、レドックス・バイオマーカーを標的

として診断及び治療の有用性をレドックスナビシステムとの融合

研究で検証し、大鵬薬品工業株式会社と協働して癌の診断と治療に

有用なレドックス・バイオマーカーを標的とした治療薬を創出する

ことを目的としています。本研究を進める上で、3つの研究戦略に

より先端的な癌診断と治療の創薬を目指しています(図2)。

■ がん化学予防戦略(レドックスと炎症と腎がん) レドックス応答はがんの発症と進展に深く関与することが知ら

れています。我々は透析腎がんのがん発症や食道や大腸などの消

化器がんならびに泌尿器科系がんについての発症や発症高感受性

遺伝子などについて検討を進めています。関連するメカニズムと

レドックス反応を明らかにすることによりがん発症を予防する創

薬戦略を考えています。特に、透析患者では健常人に比較して腎が

んをはじめとしてがんの発生率が高いことが知られていますが、こ

の原因の一つに血液が透析膜に接触することによる酸化ストレス

への暴露が考えられています。我々は透析腎がんにおいてiNOS、

8-OHdG、COX-2などの酸化ストレスマーカーが高発現している

ことを見出しており(図3)、今後、具体的なレドックス・バイオマー

カーを提示してがん発症予防治療の開発を目指します。

透析腎癌におけるレドックス反応 長期透析患者の腎の形態は、嚢胞を多く含むように変化して後天

性嚢胞腎と呼ばれる状態になることが知られています。そして、こ

の状態が腎癌発生の母地になるものと考えられます。長期透析患

者では、透析による酸化ストレスが増大しているとの数多くの報告

があり、レドックス反応と癌化との関連を研究する格好の材料であ

ると考えられます。我々は、酸化ストレスマーカーであるiNOS、

8-OHdG、COX-2が透析腎癌で明らかに高発現していることを明

らかにしており、透析による酸化ストレスが生体の防御機構を上

回っている状態であると考えています。さらに、我々のグループで

は、ストレス応答や血管新生に関わるNDRG1/Cap43や、化学療法

や放射線などの細胞障害性ストレスに応答するYB-1の核移行が透

析腎癌で有意に高いことを見出しました。

8-OHdG DNAグリコシラーゼ(OGG1) 細胞は様々な外因的・内因的環境暴露により酸化ストレスを受け

ます。特にDNAの酸化的損傷は遺伝子変異を誘発し発癌の原因と

なります。酸化ストレス刺激を受けた細胞は酸化損傷を受けた核

酸を修復するかアポトーシスを起こすことで癌化を未然に防いで

いると考えられています(図4)。8-ヒドロキシデオキシグアニン

(8-OHdG)は、核酸塩基グアニンの酸化体であり、酸化損傷の指標

です。また、8-OHdGはアデニンと誤塩基対を形成することでトラ

ンスバージョン変異を誘発し発癌の原因となりますが、OGG1に

よって塩基が除去、修復されます。我々のグループでは、食道扁平上

皮癌において、癌の深達度が高いほど8-OHdGの染色陽性率が高

く、癌の進展と酸化損傷とが関連することを明らかにしました。ま

た、OGG1の発現は癌の進展に伴って減少しており、8-OHdGと

OGG1の局在の不一致が塩基除去修復の障害につながるものと考

えられました。

■ がん間質標的治療戦略(レドックスと血管新生とマクロファージ標的治療)

 がんの間質に浸潤してくる様々な炎症や免疫担当細胞は、がんの

免疫制御に破綻をきたすとしばしばがんの悪性化を支援するよう

になります。その代表的な細胞が好中球、単球/マクロファージやマ

スト細胞などです。特に、レドックス反応が極めて活発なマクロ

ファージ(腫瘍関連マクロファージ:TAM)は、がん間質において血

管新生やがんの増大・転移に重要な役割を果たしていることを明ら

かにしてきました(図5)。また、生体レドックス画像解析グループ・

日本電子株式会社との融合研究によって、肺癌細胞を移植したマウ

スの腫瘍内レドックス状態を可視化し(図6)、マクロファージ標的

薬剤が腫瘍内のレドックス状態を変化させていることを明らかに

しました。

チミジンホスホリラーゼ(TP) がんの間質に浸潤してくる様々な炎症・免疫担当細胞は、がんの

免疫制御に破綻をきたしがんの悪性化を促進します。特に、癌に浸

潤してくるマクロファージは腫瘍関連マクロファージ(TAM)とし

て知られ、活性酸素の産生をはじめ非常にレドックス反応性が高い

ことが報告されています。我々は、がんの間質において腫瘍関連マ

クロファージが血管新生やがんの増大・転移に重要な役割を果たし

ていることを明らかにしてきました。従って、炎症やマクロファー

ジや癌間質応答を標的とすることによる癌治療への応用の可能性

が考えられます。その可能性を検討する目的の一環として、マクロ

ファージ標的薬剤であるクロドロネート含有リポソームを投与す

ると、癌の体積増大、微小血管密度(MVD)の減少、F4/80陽性マク

ロファージの浸潤を抑制することが明らかとなりました。更に、胃

癌症例における免疫組織染色の結果、TAMがTPを強く発現してい

ることも明らかとなりました。

N-myc downstream regulated gene 1 (NDRG1)/Cap43 NDRG1/Cap43は癌の血管新生や間質応答の重要な鍵を担って

いる分子として知られています。我々のグループでは、膵癌細胞株

を用いてNDRG1/Cap43により発現が調節される遺伝子群をマイ

クロアレイと定量的リアルタイムPCR解析から同定し、CXCケモ

カインやVEGFの発現がNDRG1/Cap43高発現細胞で低下してい

ることを見出しました。また、膵癌皮下移植モデルにおいて

NDRG1/Cap43が腫瘍の増大や血管新生を明らかに抑制すること

も報告しています。更に、NDRG1/Cap43はCXCケモカインの産

生を阻害することや、動物モデルで好中球等の炎症性細胞の浸潤を

抑制することを明らかにしています。加えて、NDRG1/Cap43によ

るCXCケモカインの産生抑制のメカニズムとして、NF-κBシグナ

ルの不活性化が関与している可能性も示唆されています(図7)。

■ がん最適化治療戦略(レドックスとバイオマーカーと抗がん剤感受性と個別化診断・治療)

 活性酸素種(ROS)はがん治療において効果もしくは副作用を亢

進するために両刃の剣と言われています。我々のグループでは、レ

ドックス応答を制御するY-ボックス結合タンパク質1 (YB-1)、グ

ルタチオン系レドックスタンパク質(TRXやPrdx)、上皮間葉系変

換(EMT)に関与するTwist、また細胞障害ストレスタンパク質

HMGB1などに注目して研究を進めています。特に、分子腫瘍学や

実験治療学を駆使した研究を基盤にしてがん患者におけるがん部

位の悪性進展やレドックス関連タンパク質の発現と分子病理学研

究を進めています。特に、YB-1については乳がん、卵巣がんや肺が

んなどにおいて臨床的に有用なバイオマーカーであることが明ら

かとなりました(図8)。

Y-ボックス結合タンパク1 (YB-1) YB-1はヒト癌の抗癌剤多剤耐性の重要な鍵をにぎる因子であり、

8-ヒドロキシデオキシグアニン(8-OHdG)含有RNAや障害

DNA/RNAに高い親和性を示すことから、レドックススキャベン

ジャーとしても重要な働きを示すことが明らかとなっています。

YB-1は通常腎癌に比して透析腎癌で核内への移行率が高く、酸化

ストレスのマーカーである8-OHdGの陽性率とも相関する傾向が

認められました。また、乳癌株や肺癌株を用いた解析から、YB-1が

各種の増殖因子受容体の発現を制御していることも明らかとなっ

ています。臨床サンプルを用いた免疫組織化学染色では、核内

YB-1の発現と各種の増殖因子受容体の発現との間に関連性がある

ことが明らかとなりました。

T-cell leukemia homeobox 3 (TLX3) DNAのメチル化は発生過程での細胞分化や分化後の組織特異的

な遺伝子発現、更にゲノムインプリンティングやX染色体の不活化

など遺伝子発現に重要な働きをしています。癌においても、DNAの

メチル化は癌抑制遺伝子の不活性化など遺伝子発現に重要な働き

をしていることが明らかとなっています。臨床上、尿路性器悪性腫

瘍において抗癌剤化学療法は有用ですが、膀胱癌の化学療法のキー

ドラッグであるシスプラチンに対する耐性に関する分子機構や、臨

床診断上有用なシスプラチン耐性に関するバイオマーカーについ

ては未だ不明な点が残されています。我々のグループでは、

Restriction landmark genomic scanning (RLGS)法の結果から、

膀胱がん細胞株及びそのシスプラチン耐性株、シスプラチン耐性度

の高い膀胱癌の臨床検体でTLX3遺伝子のプロモーターが高度にメ

チル化されていることを明らかにしました。また、培養膀胱癌細胞

にTLX3を過剰発現させるとシスプラチンに対する感受性が上昇す

ることも明らかとなりました。

Twist1 再発性前立腺癌および転移性前立腺癌はホルモン療法が第一選

択ですが、多くは数ヶ月から数年でホルモン抵抗性前立腺癌

(HRPC)に移行します。また、ホルモン抵抗性獲得のメカニズムの

一つにアンドロゲン受容体(AR)の過剰発現が知られています。

我々のグループでは、前立腺癌細胞株に過酸化水素による酸化スト

レスを与えるとTwist1、YB-1、ARの発現上昇が誘導され、ARの発

現上昇はTwist1のノックダウンにより抑制されることを明らかに

しました。また、前立腺癌細胞の増殖にTwist1が関与していること

も明らかとなりました。

■ まとめと展望 現在までに先端がん診断・創薬グループでは、がんとレドックス

を標的とした研究から、がん化学予防、がん間質制御、がん最適化医

療に貢献できる標的分子(レドックス・バイオマーカー)や標的細胞

を提示しています。これらのベーシックリサーチで見出したレ

ドックス・バイオマーカーや標的細胞、分子メカニズムをターゲッ

トとして、“レドックス・ナビゲーションシステム”で評価すると共

に、がんの臨床研究分野や分子病理学分野を含む融合研究から同定

した有用なレドックス・バイオマーカーを対象にがん創薬に向けて

のトランスレーショナルリサーチを進めていく予定です。

■ 原著論文による研究成果の発表(主なもの)1) Hori Y, Oda Y, Kiyoshima K, et al., Oxidative stress and

DNA hypermethylation status in renal cell carcinoma

arising in patients on dialysis. J Pathol, 2007; 212:

218-26.

2) Kawahara A, Azuma K, Hattori S, et al., The close

correlation between 8-hydroxy-2'- deoxyguanosine and

epidermal growth factor receptor activating mutation in

non-small cell lung cancer. Human Pathol, 2010; in press.

3) Ono M. Molecular links between tumor angiogenesis and

inflammation: inflammatory stimuli of macrophages and

cancer cells as targets for therapeutic strategy. Cancer

Sci, 2008; 99: 1501-6.

4) Kimura YN, Watari K, Fotovati A, et al., Inflammatory

stimuli from macrophages and cancer cells synergistically

promote tumor growth and angiogenesis. Cancer Sci,

2007; 98: 2009-18.

5) Watari K, Nakao S, Fotovati A, et al. , Role of

macrophages in inflammatory lymphangiogenesis:

Enhanced production of vascular endothelial growth

factor C and D through NF-kappaB activation. Biochem

Biophys Res Commun, 2008; 377: 826-31.

6) Hiraoka K, Zenmyo M, Watari K, et al., Inhibition of bone

and muscle metastases of lung cancer cells by a decrease

in the number of monocytes/macrophages. Cancer Sci,

2008; 99: 1595-602.

7) Nishio S, Ushijima K, Tsuda N, et al., Cap43/NDRG1/Drg-1

is a molecular target for angiogenesis and a prognostic

indicator in cervical adenocarcinoma. Cancer Lett, 2008;

264: 36-43.

8) Oda Y, Kohashi K, Yamamoto H, et al., Different

expression profiles of Y-box-binding protein-1 and

multidrug resistance-associated proteins between

alveolar and embryonal rhabdomyosarcoma. Cancer Sci,

2008; 99: 726-32.

9) Akiba J, Ogasawara S, Kawahara A, et al., N-myc

downstream regulated gene 1 (NDRG1)/Cap43

enhances portal vein invasion and intrahepatic metastasis

in human hepatocellular carcinoma. Oncol Rep, 2008;

20: 1329-35.

10) Hosoi F, Izumi H, Kawahara A, et al., N-myc downstream

regulated gene 1/Cap43 suppresses tumor growth and

angiogenesis of pancreatic cancer through attenuation of

IKKbeta expression. Cancer Res, 2009; 69: 4983-91.

11) Song Y, Oda Y, Hori M, et al., N-myc downstream

regulated gene-1/Cap43 may play an important role in

malignant progression of prostate cancer, in its close

association with E-cadherin. Human Pathol, 2010; 41;

214-22.

12) Basaki Y, Hosoi F, Oda Y, et al., Akt-dependent nuclear

localization of Y-box-binding protein 1 in acquisition of

malignant characteristics by human ovarian cancer cells.

Oncogene, 2007; 26: 2736-46.

13) Oda Y, Ohishi Y, Basaki Y, et al., Prognostic implications

of the nuclear localization of Y-box-binding protein-1 and

CXCR4 expression in ovarian cancer: their correlation

with activated Akt, LRP/MVP and P-glycoprotein

expression. Cancer Sci, 2007; 98; 1020-6.

14) Fujii T, Kawahara A, Basaki Y, et al., Expression of HER2

and estrogen receptor alpha depends upon nuclear

localization of Y-box binding protein-1 in human breast

cancers. Cancer Res, 2008; 68: 1504-12.

15) Shiota M, Izumi H, Onitsuka T, et al., Twist promotes

tumor cell growth through YB-1 expression. Cancer Res,

2008; 68: 98-105.

16) Kashihara M, Azuma K, Kawahara A, et al., Nuclear Y-box

binding protein-1 (YB-1), a predictive marker of

prognosis, is correlated with expression of HER2/ErbB2

and HER3/ErbB3 in non-small cell lung cancer. J Thorac

Oncol, 2009; 4: 1066-74.

17) Basaki Y, Taguchi K, Izumi H, et al., Y-box binding

protein-1 (YB-1) promotes cell cycle progression

through CDC6-dependent pathway in human cancer cells.

Eur J Cancer, 2010; in press.

癌の悪性進展やレドックス反応に関与する癌間質の標的タンパクを解析する操る

19 212018

R E D O X N A V I  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果 R E D O X N A V I

  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果

(図3)

(図1)

(図2)

(図4)

(図5)

(図6)

(図7)

(図8)

先端がん診断・創薬グループ(医学研究院・薬学研究院・大鵬薬品工業株式会社)

■ はじめに 現在、日本では毎年60万人のヒトが癌と診断され35万人近いヒ

トが癌で亡くなっています。病気で亡くなる3人に2人は癌が原因

であると言われています。国をあげての癌撲滅にむけての事業プ

ログラムも推進され、がん治療研究ならびにがん専門医療の育成は

重要なこの分野での使命であります。我々の先端がん診断・創薬グ

ループでは、癌患者に有用な診断・治療の開発に貢献することが重

要と考えています。我々は図1に示す研究グループで仕事を進めて

います。

 先端がん診断・創薬グループでは、癌の発症と進展と癌治療にお

いて、癌のレドックス反応という観点から先端的ながん診断と治療

の創薬を新たに創出することを目的としています。すなわち、癌の

レドックス応答という新しい観点から、癌患者を主な研究対象とし

て癌の発症と進展ならびに癌の治療の個別化に関する仕組みを明

らかにします。また、独自性が高く有用性が期待されるレドックス・

バイオマーカーを提示し、更に、レドックス・バイオマーカーを標的

として診断及び治療の有用性をレドックスナビシステムとの融合

研究で検証し、大鵬薬品工業株式会社と協働して癌の診断と治療に

有用なレドックス・バイオマーカーを標的とした治療薬を創出する

ことを目的としています。本研究を進める上で、3つの研究戦略に

より先端的な癌診断と治療の創薬を目指しています(図2)。

■ がん化学予防戦略(レドックスと炎症と腎がん) レドックス応答はがんの発症と進展に深く関与することが知ら

れています。我々は透析腎がんのがん発症や食道や大腸などの消

化器がんならびに泌尿器科系がんについての発症や発症高感受性

遺伝子などについて検討を進めています。関連するメカニズムと

レドックス反応を明らかにすることによりがん発症を予防する創

薬戦略を考えています。特に、透析患者では健常人に比較して腎が

んをはじめとしてがんの発生率が高いことが知られていますが、こ

の原因の一つに血液が透析膜に接触することによる酸化ストレス

への暴露が考えられています。我々は透析腎がんにおいてiNOS、

8-OHdG、COX-2などの酸化ストレスマーカーが高発現している

ことを見出しており(図3)、今後、具体的なレドックス・バイオマー

カーを提示してがん発症予防治療の開発を目指します。

透析腎癌におけるレドックス反応 長期透析患者の腎の形態は、嚢胞を多く含むように変化して後天

性嚢胞腎と呼ばれる状態になることが知られています。そして、こ

の状態が腎癌発生の母地になるものと考えられます。長期透析患

者では、透析による酸化ストレスが増大しているとの数多くの報告

があり、レドックス反応と癌化との関連を研究する格好の材料であ

ると考えられます。我々は、酸化ストレスマーカーであるiNOS、

8-OHdG、COX-2が透析腎癌で明らかに高発現していることを明

らかにしており、透析による酸化ストレスが生体の防御機構を上

回っている状態であると考えています。さらに、我々のグループで

は、ストレス応答や血管新生に関わるNDRG1/Cap43や、化学療法

や放射線などの細胞障害性ストレスに応答するYB-1の核移行が透

析腎癌で有意に高いことを見出しました。

8-OHdG DNAグリコシラーゼ(OGG1) 細胞は様々な外因的・内因的環境暴露により酸化ストレスを受け

ます。特にDNAの酸化的損傷は遺伝子変異を誘発し発癌の原因と

なります。酸化ストレス刺激を受けた細胞は酸化損傷を受けた核

酸を修復するかアポトーシスを起こすことで癌化を未然に防いで

いると考えられています(図4)。8-ヒドロキシデオキシグアニン

(8-OHdG)は、核酸塩基グアニンの酸化体であり、酸化損傷の指標

です。また、8-OHdGはアデニンと誤塩基対を形成することでトラ

ンスバージョン変異を誘発し発癌の原因となりますが、OGG1に

よって塩基が除去、修復されます。我々のグループでは、食道扁平上

皮癌において、癌の深達度が高いほど8-OHdGの染色陽性率が高

く、癌の進展と酸化損傷とが関連することを明らかにしました。ま

た、OGG1の発現は癌の進展に伴って減少しており、8-OHdGと

OGG1の局在の不一致が塩基除去修復の障害につながるものと考

えられました。

■ がん間質標的治療戦略(レドックスと血管新生とマクロファージ標的治療)

 がんの間質に浸潤してくる様々な炎症や免疫担当細胞は、がんの

免疫制御に破綻をきたすとしばしばがんの悪性化を支援するよう

になります。その代表的な細胞が好中球、単球/マクロファージやマ

スト細胞などです。特に、レドックス反応が極めて活発なマクロ

ファージ(腫瘍関連マクロファージ:TAM)は、がん間質において血

管新生やがんの増大・転移に重要な役割を果たしていることを明ら

かにしてきました(図5)。また、生体レドックス画像解析グループ・

日本電子株式会社との融合研究によって、肺癌細胞を移植したマウ

スの腫瘍内レドックス状態を可視化し(図6)、マクロファージ標的

薬剤が腫瘍内のレドックス状態を変化させていることを明らかに

しました。

チミジンホスホリラーゼ(TP) がんの間質に浸潤してくる様々な炎症・免疫担当細胞は、がんの

免疫制御に破綻をきたしがんの悪性化を促進します。特に、癌に浸

潤してくるマクロファージは腫瘍関連マクロファージ(TAM)とし

て知られ、活性酸素の産生をはじめ非常にレドックス反応性が高い

ことが報告されています。我々は、がんの間質において腫瘍関連マ

クロファージが血管新生やがんの増大・転移に重要な役割を果たし

ていることを明らかにしてきました。従って、炎症やマクロファー

ジや癌間質応答を標的とすることによる癌治療への応用の可能性

が考えられます。その可能性を検討する目的の一環として、マクロ

ファージ標的薬剤であるクロドロネート含有リポソームを投与す

ると、癌の体積増大、微小血管密度(MVD)の減少、F4/80陽性マク

ロファージの浸潤を抑制することが明らかとなりました。更に、胃

癌症例における免疫組織染色の結果、TAMがTPを強く発現してい

ることも明らかとなりました。

N-myc downstream regulated gene 1 (NDRG1)/Cap43 NDRG1/Cap43は癌の血管新生や間質応答の重要な鍵を担って

いる分子として知られています。我々のグループでは、膵癌細胞株

を用いてNDRG1/Cap43により発現が調節される遺伝子群をマイ

クロアレイと定量的リアルタイムPCR解析から同定し、CXCケモ

カインやVEGFの発現がNDRG1/Cap43高発現細胞で低下してい

ることを見出しました。また、膵癌皮下移植モデルにおいて

NDRG1/Cap43が腫瘍の増大や血管新生を明らかに抑制すること

も報告しています。更に、NDRG1/Cap43はCXCケモカインの産

生を阻害することや、動物モデルで好中球等の炎症性細胞の浸潤を

抑制することを明らかにしています。加えて、NDRG1/Cap43によ

るCXCケモカインの産生抑制のメカニズムとして、NF-κBシグナ

ルの不活性化が関与している可能性も示唆されています(図7)。

■ がん最適化治療戦略(レドックスとバイオマーカーと抗がん剤感受性と個別化診断・治療)

 活性酸素種(ROS)はがん治療において効果もしくは副作用を亢

進するために両刃の剣と言われています。我々のグループでは、レ

ドックス応答を制御するY-ボックス結合タンパク質1 (YB-1)、グ

ルタチオン系レドックスタンパク質(TRXやPrdx)、上皮間葉系変

換(EMT)に関与するTwist、また細胞障害ストレスタンパク質

HMGB1などに注目して研究を進めています。特に、分子腫瘍学や

実験治療学を駆使した研究を基盤にしてがん患者におけるがん部

位の悪性進展やレドックス関連タンパク質の発現と分子病理学研

究を進めています。特に、YB-1については乳がん、卵巣がんや肺が

んなどにおいて臨床的に有用なバイオマーカーであることが明ら

かとなりました(図8)。

Y-ボックス結合タンパク1 (YB-1) YB-1はヒト癌の抗癌剤多剤耐性の重要な鍵をにぎる因子であり、

8-ヒドロキシデオキシグアニン(8-OHdG)含有RNAや障害

DNA/RNAに高い親和性を示すことから、レドックススキャベン

ジャーとしても重要な働きを示すことが明らかとなっています。

YB-1は通常腎癌に比して透析腎癌で核内への移行率が高く、酸化

ストレスのマーカーである8-OHdGの陽性率とも相関する傾向が

認められました。また、乳癌株や肺癌株を用いた解析から、YB-1が

各種の増殖因子受容体の発現を制御していることも明らかとなっ

ています。臨床サンプルを用いた免疫組織化学染色では、核内

YB-1の発現と各種の増殖因子受容体の発現との間に関連性がある

ことが明らかとなりました。

T-cell leukemia homeobox 3 (TLX3) DNAのメチル化は発生過程での細胞分化や分化後の組織特異的

な遺伝子発現、更にゲノムインプリンティングやX染色体の不活化

など遺伝子発現に重要な働きをしています。癌においても、DNAの

メチル化は癌抑制遺伝子の不活性化など遺伝子発現に重要な働き

をしていることが明らかとなっています。臨床上、尿路性器悪性腫

瘍において抗癌剤化学療法は有用ですが、膀胱癌の化学療法のキー

ドラッグであるシスプラチンに対する耐性に関する分子機構や、臨

床診断上有用なシスプラチン耐性に関するバイオマーカーについ

ては未だ不明な点が残されています。我々のグループでは、

Restriction landmark genomic scanning (RLGS)法の結果から、

膀胱がん細胞株及びそのシスプラチン耐性株、シスプラチン耐性度

の高い膀胱癌の臨床検体でTLX3遺伝子のプロモーターが高度にメ

チル化されていることを明らかにしました。また、培養膀胱癌細胞

にTLX3を過剰発現させるとシスプラチンに対する感受性が上昇す

ることも明らかとなりました。

Twist1 再発性前立腺癌および転移性前立腺癌はホルモン療法が第一選

択ですが、多くは数ヶ月から数年でホルモン抵抗性前立腺癌

(HRPC)に移行します。また、ホルモン抵抗性獲得のメカニズムの

一つにアンドロゲン受容体(AR)の過剰発現が知られています。

我々のグループでは、前立腺癌細胞株に過酸化水素による酸化スト

レスを与えるとTwist1、YB-1、ARの発現上昇が誘導され、ARの発

現上昇はTwist1のノックダウンにより抑制されることを明らかに

しました。また、前立腺癌細胞の増殖にTwist1が関与していること

も明らかとなりました。

■ まとめと展望 現在までに先端がん診断・創薬グループでは、がんとレドックス

を標的とした研究から、がん化学予防、がん間質制御、がん最適化医

療に貢献できる標的分子(レドックス・バイオマーカー)や標的細胞

を提示しています。これらのベーシックリサーチで見出したレ

ドックス・バイオマーカーや標的細胞、分子メカニズムをターゲッ

トとして、“レドックス・ナビゲーションシステム”で評価すると共

に、がんの臨床研究分野や分子病理学分野を含む融合研究から同定

した有用なレドックス・バイオマーカーを対象にがん創薬に向けて

のトランスレーショナルリサーチを進めていく予定です。

■ 原著論文による研究成果の発表(主なもの)1) Hori Y, Oda Y, Kiyoshima K, et al., Oxidative stress and

DNA hypermethylation status in renal cell carcinoma

arising in patients on dialysis. J Pathol, 2007; 212:

218-26.

2) Kawahara A, Azuma K, Hattori S, et al., The close

correlation between 8-hydroxy-2'- deoxyguanosine and

epidermal growth factor receptor activating mutation in

non-small cell lung cancer. Human Pathol, 2010; in press.

3) Ono M. Molecular links between tumor angiogenesis and

inflammation: inflammatory stimuli of macrophages and

cancer cells as targets for therapeutic strategy. Cancer

Sci, 2008; 99: 1501-6.

4) Kimura YN, Watari K, Fotovati A, et al., Inflammatory

stimuli from macrophages and cancer cells synergistically

promote tumor growth and angiogenesis. Cancer Sci,

2007; 98: 2009-18.

5) Watari K, Nakao S, Fotovati A, et al. , Role of

macrophages in inflammatory lymphangiogenesis:

Enhanced production of vascular endothelial growth

factor C and D through NF-kappaB activation. Biochem

Biophys Res Commun, 2008; 377: 826-31.

6) Hiraoka K, Zenmyo M, Watari K, et al., Inhibition of bone

and muscle metastases of lung cancer cells by a decrease

in the number of monocytes/macrophages. Cancer Sci,

2008; 99: 1595-602.

7) Nishio S, Ushijima K, Tsuda N, et al., Cap43/NDRG1/Drg-1

is a molecular target for angiogenesis and a prognostic

indicator in cervical adenocarcinoma. Cancer Lett, 2008;

264: 36-43.

8) Oda Y, Kohashi K, Yamamoto H, et al., Different

expression profiles of Y-box-binding protein-1 and

multidrug resistance-associated proteins between

alveolar and embryonal rhabdomyosarcoma. Cancer Sci,

2008; 99: 726-32.

9) Akiba J, Ogasawara S, Kawahara A, et al., N-myc

downstream regulated gene 1 (NDRG1)/Cap43

enhances portal vein invasion and intrahepatic metastasis

in human hepatocellular carcinoma. Oncol Rep, 2008;

20: 1329-35.

10) Hosoi F, Izumi H, Kawahara A, et al., N-myc downstream

regulated gene 1/Cap43 suppresses tumor growth and

angiogenesis of pancreatic cancer through attenuation of

IKKbeta expression. Cancer Res, 2009; 69: 4983-91.

11) Song Y, Oda Y, Hori M, et al., N-myc downstream

regulated gene-1/Cap43 may play an important role in

malignant progression of prostate cancer, in its close

association with E-cadherin. Human Pathol, 2010; 41;

214-22.

12) Basaki Y, Hosoi F, Oda Y, et al., Akt-dependent nuclear

localization of Y-box-binding protein 1 in acquisition of

malignant characteristics by human ovarian cancer cells.

Oncogene, 2007; 26: 2736-46.

13) Oda Y, Ohishi Y, Basaki Y, et al., Prognostic implications

of the nuclear localization of Y-box-binding protein-1 and

CXCR4 expression in ovarian cancer: their correlation

with activated Akt, LRP/MVP and P-glycoprotein

expression. Cancer Sci, 2007; 98; 1020-6.

14) Fujii T, Kawahara A, Basaki Y, et al., Expression of HER2

and estrogen receptor alpha depends upon nuclear

localization of Y-box binding protein-1 in human breast

cancers. Cancer Res, 2008; 68: 1504-12.

15) Shiota M, Izumi H, Onitsuka T, et al., Twist promotes

tumor cell growth through YB-1 expression. Cancer Res,

2008; 68: 98-105.

16) Kashihara M, Azuma K, Kawahara A, et al., Nuclear Y-box

binding protein-1 (YB-1), a predictive marker of

prognosis, is correlated with expression of HER2/ErbB2

and HER3/ErbB3 in non-small cell lung cancer. J Thorac

Oncol, 2009; 4: 1066-74.

17) Basaki Y, Taguchi K, Izumi H, et al., Y-box binding

protein-1 (YB-1) promotes cell cycle progression

through CDC6-dependent pathway in human cancer cells.

Eur J Cancer, 2010; in press.

癌の悪性進展やレドックス反応に関与する癌間質の標的タンパクを解析する操る

19 212018

R E D O X N A V I  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果 R E D O X N A V I

  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果

(図1)レドックス内視鏡及び小型コイルの概念図

(図2)レドックス内視鏡用小型コイルの感度評価

タイプA タイプB

(図3)培養細胞系におけるMPC01の癌集積性

ヒト膵癌細胞 ヒト正常膵管上皮細胞

(図4)ヒト膵癌微小転移巣のin vivoイメージング

実体写真 蛍光画像

膵癌転移巣の例

(図5)レドックス対応手術支援システム

鉗子駆動部

操作用コンソール

(図6)レドックスナビ対応小型手術支援システムによる    胃穿孔部に対するクリッピング

(図7)OMRI画像と内視鏡画像の重畳表示

a) OMRI装置

b) 病変部位の検出

c) 内視鏡画像との重畳

レドックスシグナルレドックスシグナル

生体レドックス内視鏡グループ(医学研究院・HOYA株式会社)

要 旨

① レドックス内視鏡システムの開発 内視鏡外科手術の核となる内視鏡システムをレドックスナビ

ゲーションに対応させるため、新規デバイスの開発を行った。

ESRI・MRI融合型磁気画像解析装置と内視鏡との融合には、内視

鏡先端の鉗子口へ挿入可能なESR撮影用コイルが必要となる。コ

イル作製に関しては、感度と観察範囲の最適化について留意する

必要がある。すなわちOMRI用コイルの径が大きいほど観察範囲

が拡大するものの、一方で検出感度は低下する傾向がある。逆に

コイルの径が小さければ感度が上がるが、観察範囲が狭くなる。

したがって微小部位の観察では小型コイルが有効であり、低侵襲

観察が可能な内視鏡との組み合わせが最適である。そこでカテー

テルの先端に取り付け可能な二種類のコイルを立案し、性能評価

を行った。まず、製作したコイルを実際に内視鏡先端部に装着し、

これをOMRI装置のコイル内に設置し、互いの装置への影響につ

いて検討した。この結果、内視鏡からのOMRI装置への影響は無

いことが明らかとなった。しかしながらOMRIコイルと内視鏡先

端部が近い場合には、OMRI画像が取れなくなる障害が確認され

た。この障害は内視鏡から距離をとった場合に回復するため、

OMRIコイルを内視鏡に内蔵するタイプではなく、図1にある

OMRIコイルを内視鏡先端部より離して使用できるカテーテルタ

イプが適していることが明らかとなった。そこで本コイルのレ

ドックス応答特性をOMRI装置にて測定した結果、十分な感度を

有していることが確認された。今後は引き続き本コイルの性能評

価を継続すると同時に、コンデンサ部分をカテーテルチューブに

挿入、さらに防水化処理を行ったうえで実際の動物実験などに使

用する予定である。

② 疾患集積性分子プローブの開発 画像診断法の発展は疾病の早期発見とその治療効果の改善に

めざましい進歩をもたらした。しかし微小な病変部位を的確に診

断・検出するためには、細胞表面に発現するタンパク質や細胞内

部でのシグナルの変化を捉えることが重要となる。レドックス内

視鏡グループでは特に癌部を標的化した新しい分子イメージン

グ試薬の開発を行った。癌は、現在もなお我が国における死因の

第1位(全体の約30%)を占めており、癌患者の生存率やQOL

(Quality of Life)の向上と診断・治療に係る医療費を抑制するた

めの早急な対策が必要である。特に癌治療においては、腫瘍の発

見と悪性度、進行度の診断をより早期に行うことが重要であり、

そのためには、病変が微小な段階、すなわち早期に診断しうる技

術の開発が不可欠である。生体レドックス内視鏡グループでは、

癌に対する特異性を有し、なおかつ先の高機能化目にも対応でき

る新しい分子プローブを開発した。

 この新しい癌特異的分子プローブ(開発コード:MPC01)の各

種癌細胞への集積性をin vitroにおいて評価した。分子プローブ

MPC01は実験条件下において、膵癌、肝癌細胞へ効果的に集積し

たのに対して、正常な膵管上皮細胞や肝細胞にはほとんど集積し

なかった(図3)。この分子機序については今後詳細に検討する予

定である。

 レドックス内視鏡グループの最重要課題である癌による死亡者数は、我が国において年間約30万人、全世界では約760万人に達している。癌の

治療薬や治療法は年々進化しているものの、未だに死因と死亡率の高い疾患であり続けている。癌治療のために最も重要なポイントは、現在もな

お早期発見と早期治療であり、早期癌の診断法とそれを低侵襲に治療するシステムの開発が不可欠である。多くの疾患において異常が確認されて

いる生体レドックスを検知できる診断システムは、これら早期癌の発見にも有効であると期待できる。とりわけ外科領域においては、内視鏡画像

と生体レドックスの診断画像を統合することにより、患部の形態情報と機能情報を術者に同時に呈示することができるため、内視鏡外科手術の際

に極めて有効な方法となる。

 しかし、生体レドックス情報を検出できる臨床診断機器は従来報告例が無く、低侵襲治療との統合には大きな壁があった。とりわけレドックス

ナビゲーション下における内視鏡外科手術の実現には、生体レドックスの検出、内視鏡画像との重畳、あるいはレドックス情報による病変部位へ

の誘導技術など克服すべき課題が数多く存在する。

 そこで当グループでは疾患特異的なレドックス反応をイメージングすることによって、これまで見過ごされてきた極初期の病変を検出し、さら

にその情報を次世代低侵襲治療機器と融合させることで患者に負担をかけない新しい診断・治療システムの開発を目指した。九州大学は内視鏡外

科手術の拠点として豊富な臨床実績を有すると同時に、また密接な医工ならびに産学連携のもと、カプセル型内視鏡や腫瘍摘出のための画像誘導

システムといった診断技術から、内視鏡外科手術の一つである手術支援ロボット等の治療技術に至るまで、最先端の医療技術開発の実績を有する。

これらの経験を踏まえ、当グループでは内視鏡やMRIを中心とする従来の画像診断法に、生体レドックスの概念をソフト・ハードの両面から融合

させることを最大の目標とした。この目標を達成するために、これまで三年間は以下の四つの開発目標を設定し、開発を行った。

① レドックス内視鏡システムの開発

② 疾患に起因するレドックス変動を検知し、それを分光学的シグナルに変換するための分子プローブ

③ レドックスナビゲーションに対応する小型手術支援システムの開発

④ 生体レドックス診断情報に基づく画像誘導システムの開発

 この分子プローブMPC01の癌細胞集積性は、in vivoにおいて

も有効に機能した。ヒト膵癌腹膜播種モデルマウスを用いて実験

を行ったところ、分子プローブMPC01は、腸間膜に転移した膵癌

を特異的に描出した。直径1mmに満たない転移巣をも明瞭にイ

メージングすることに成功しており、癌標的化分子プローブとし

てのMPC01の高い性能が示された。

 今後、大腸癌モデルマウスなど様々な病態モデルを用いた癌の

in vivoイメージングを予定している。また分子プローブMPC01

は430nmに特異的な吸収を有するため、生体レドックス内視鏡

グループで開発中の高機能カメラにより、より効果的な癌イメー

ジングが可能となる。これらの技術を融合することにより、癌の

超早期画像診断の実現が期待されている。これまで組織レベルま

で拡大進行した病変しか検出できなかった画像診断を、細胞から

分子レベルの病変で見いだし、患者の重症化を回避しうる画像診

断へと、その役割を飛躍的に発展させる可能性を秘めている。

③ レドックス対応手術支援システム 内視鏡外科手術には視野や鉗子操作に多くの制限があり、感触

や立体感覚等に基づく直感的な操作性には難点がある。特に生体

レドックスによる極早期の微小病変の場合には、従来にない極め

て精密な手術が必要となる。そこで生体レドックス内視鏡グルー

プでは将来のレドックスナビゲーション手術の実現に向けて、操

作性に優れた小型手術支援システムを試作した。このシステムは

(1)体腔の映像を提供する内視鏡、(2)関節自由度の高い鉗子、

(3)上記を保持するボールジョイント部および駆動部、そして

(4)操作部から構成される(図5)。術者は患者から離れたコン

ソールに座り、画面を見ながらマニピュレータを操作すると、手

首の動きがコンピュータ制御により患者の腹腔内に挿入したロ

ボットのアームに忠実に再現される。これによりこれまでにない

精密手術が可能となる。試作機の鉗子は上下、左右、さらに前後に

可動であり、各動作におけるヒステリシス特性を実測したところ、

100gの加重を付加した条件下において、右腕、左腕とも設計通り

良好なヒステリシス特性を示した。

 このレドックス対応双腕型手術支援システム試作機を用いて、

ブタ胃を用いた前臨床試験を実施した。早期胃癌や早期食道癌に

対する低侵襲治療法である内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を施

行したところ、噴門部から挿入した小型手術支援システムは、癌

部に見立てた病変部位辺縁を効果的に把持し、粘膜表面をITナイ

フで切開剥離することに成功した。また、穿孔部位の閉鎖に対し

ては、小型手術支援システムの両腕で胃穿孔両端を把持すること

により、止血クリップによる孔の閉鎖を効果的に行うことにも成

功した(図6)。ESDの重大な合併症である胃原性穿孔は時として

生命に関わる問題であるが、この小型手術支援システムを用いれ

ば、即座に穿孔部位の閉鎖・修復が可能となり、合併症の減少と

ESDの適応拡大に寄与するものと期待される。これらの知見は、

レドックス対応小型手術支援システムの高いポテンシャルと示

唆すると同時に、経生理的開口部的管腔内視鏡手術(Natural

Orifice Translumenal Endoscopic Surgery; NOTES)な ど 次

世代の低侵襲治療法への展開にも道を開くものである。

④ レドックスナビゲーションによる内視鏡外科手術 術者に患部の正確な位置とその深部への広がり、また周辺の血

管情報などをリアルタイムに提示する画像誘導システムを開発

するために、生体レドックス画像解析グループと共同で、生体レ

ドックス診断画像(OMRI)に基づく世界初のレドックスナビゲー

ション内視鏡外科手術を実施した。

 対象として1.8Kgの雄性ウサギ(日本白色種)を使用し、病変部

位を模擬するレドックスファントムとして2mMの3-カルボキシ

プロキシル4ccを胃前壁および皮下に注入した。これをOMRI装

置内に設置し、全身麻酔下においてウサギ腹部のレドックス画像

をイメージングした。得られたレドックス診断画像をDICOM

データに変換し、3D画像処理ワークステーション AZE Virtual

Placeによってレドックスファントムのセグメンテーション・三

次元画像を作製し、腹腔鏡画像とリアルタイムに重畳させた。こ

のレドックス画像誘導により胃前壁に設置したレドックスファ

ントムを確認し、腹腔鏡下においてそれを最小限の侵襲で摘出し

た。

 実験の結果、体腔内に局所用ESRコイルを挿入することにより、

胃前壁に注入したレドックスファントムを描出することができ、

3D画像処理ワークステーションを用いてレドックス診断画像と

内視鏡画像を重畳することに成功した。またウサギの体腔内に挿

入した腹腔鏡を光学式三次元位置計測装置によってトラッキン

グし、腹腔鏡の視野に合わせてレドックス画像をリアルタイムに

重畳させることができた。毎秒3-4フレームの速度で追従させる

ことが可能であり、レドックスナビゲーションシステムは十分高

速で、臨床的にも有用であることを確認した。レドックスファン

トムの摘出に際しては、画面上に提示されたレドックス診断画像

の誘導のもと、術者は術野から目を離すことなく直感的にファン

トムを確認し、レドックスファントムだけを正確に摘出すること

に成功した(図7)。

 今後はマルチスライスのDICOMデータを用いたレジストレー

ションを実行し、レドックスナビゲーションの精度向上を目指す。

また同時に、ESR画像取得からそれを内視鏡画像へ重畳するまで

の時間を短縮させることを検討する。さらには、これらの技術的

課題を克服した新しいレドックスナビゲーション技術を開発し、

実験動物を用いた検証実験を実施する。内視鏡用磁気共鳴機を開発する治療する

23 252422

R E D O X N A V I  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果 R E D O X N A V I

  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果

(図1)レドックス内視鏡及び小型コイルの概念図

(図2)レドックス内視鏡用小型コイルの感度評価

タイプA タイプB

(図3)培養細胞系におけるMPC01の癌集積性

ヒト膵癌細胞 ヒト正常膵管上皮細胞

(図4)ヒト膵癌微小転移巣のin vivoイメージング

実体写真 蛍光画像

膵癌転移巣の例

(図5)レドックス対応手術支援システム

鉗子駆動部

操作用コンソール

(図6)レドックスナビ対応小型手術支援システムによる    胃穿孔部に対するクリッピング

(図7)OMRI画像と内視鏡画像の重畳表示

a) OMRI装置

b) 病変部位の検出

c) 内視鏡画像との重畳

レドックスシグナルレドックスシグナル

生体レドックス内視鏡グループ(医学研究院・HOYA株式会社)

要 旨

① レドックス内視鏡システムの開発 内視鏡外科手術の核となる内視鏡システムをレドックスナビ

ゲーションに対応させるため、新規デバイスの開発を行った。

ESRI・MRI融合型磁気画像解析装置と内視鏡との融合には、内視

鏡先端の鉗子口へ挿入可能なESR撮影用コイルが必要となる。コ

イル作製に関しては、感度と観察範囲の最適化について留意する

必要がある。すなわちOMRI用コイルの径が大きいほど観察範囲

が拡大するものの、一方で検出感度は低下する傾向がある。逆に

コイルの径が小さければ感度が上がるが、観察範囲が狭くなる。

したがって微小部位の観察では小型コイルが有効であり、低侵襲

観察が可能な内視鏡との組み合わせが最適である。そこでカテー

テルの先端に取り付け可能な二種類のコイルを立案し、性能評価

を行った。まず、製作したコイルを実際に内視鏡先端部に装着し、

これをOMRI装置のコイル内に設置し、互いの装置への影響につ

いて検討した。この結果、内視鏡からのOMRI装置への影響は無

いことが明らかとなった。しかしながらOMRIコイルと内視鏡先

端部が近い場合には、OMRI画像が取れなくなる障害が確認され

た。この障害は内視鏡から距離をとった場合に回復するため、

OMRIコイルを内視鏡に内蔵するタイプではなく、図1にある

OMRIコイルを内視鏡先端部より離して使用できるカテーテルタ

イプが適していることが明らかとなった。そこで本コイルのレ

ドックス応答特性をOMRI装置にて測定した結果、十分な感度を

有していることが確認された。今後は引き続き本コイルの性能評

価を継続すると同時に、コンデンサ部分をカテーテルチューブに

挿入、さらに防水化処理を行ったうえで実際の動物実験などに使

用する予定である。

② 疾患集積性分子プローブの開発 画像診断法の発展は疾病の早期発見とその治療効果の改善に

めざましい進歩をもたらした。しかし微小な病変部位を的確に診

断・検出するためには、細胞表面に発現するタンパク質や細胞内

部でのシグナルの変化を捉えることが重要となる。レドックス内

視鏡グループでは特に癌部を標的化した新しい分子イメージン

グ試薬の開発を行った。癌は、現在もなお我が国における死因の

第1位(全体の約30%)を占めており、癌患者の生存率やQOL

(Quality of Life)の向上と診断・治療に係る医療費を抑制するた

めの早急な対策が必要である。特に癌治療においては、腫瘍の発

見と悪性度、進行度の診断をより早期に行うことが重要であり、

そのためには、病変が微小な段階、すなわち早期に診断しうる技

術の開発が不可欠である。生体レドックス内視鏡グループでは、

癌に対する特異性を有し、なおかつ先の高機能化目にも対応でき

る新しい分子プローブを開発した。

 この新しい癌特異的分子プローブ(開発コード:MPC01)の各

種癌細胞への集積性をin vitroにおいて評価した。分子プローブ

MPC01は実験条件下において、膵癌、肝癌細胞へ効果的に集積し

たのに対して、正常な膵管上皮細胞や肝細胞にはほとんど集積し

なかった(図3)。この分子機序については今後詳細に検討する予

定である。

 レドックス内視鏡グループの最重要課題である癌による死亡者数は、我が国において年間約30万人、全世界では約760万人に達している。癌の

治療薬や治療法は年々進化しているものの、未だに死因と死亡率の高い疾患であり続けている。癌治療のために最も重要なポイントは、現在もな

お早期発見と早期治療であり、早期癌の診断法とそれを低侵襲に治療するシステムの開発が不可欠である。多くの疾患において異常が確認されて

いる生体レドックスを検知できる診断システムは、これら早期癌の発見にも有効であると期待できる。とりわけ外科領域においては、内視鏡画像

と生体レドックスの診断画像を統合することにより、患部の形態情報と機能情報を術者に同時に呈示することができるため、内視鏡外科手術の際

に極めて有効な方法となる。

 しかし、生体レドックス情報を検出できる臨床診断機器は従来報告例が無く、低侵襲治療との統合には大きな壁があった。とりわけレドックス

ナビゲーション下における内視鏡外科手術の実現には、生体レドックスの検出、内視鏡画像との重畳、あるいはレドックス情報による病変部位へ

の誘導技術など克服すべき課題が数多く存在する。

 そこで当グループでは疾患特異的なレドックス反応をイメージングすることによって、これまで見過ごされてきた極初期の病変を検出し、さら

にその情報を次世代低侵襲治療機器と融合させることで患者に負担をかけない新しい診断・治療システムの開発を目指した。九州大学は内視鏡外

科手術の拠点として豊富な臨床実績を有すると同時に、また密接な医工ならびに産学連携のもと、カプセル型内視鏡や腫瘍摘出のための画像誘導

システムといった診断技術から、内視鏡外科手術の一つである手術支援ロボット等の治療技術に至るまで、最先端の医療技術開発の実績を有する。

これらの経験を踏まえ、当グループでは内視鏡やMRIを中心とする従来の画像診断法に、生体レドックスの概念をソフト・ハードの両面から融合

させることを最大の目標とした。この目標を達成するために、これまで三年間は以下の四つの開発目標を設定し、開発を行った。

① レドックス内視鏡システムの開発

② 疾患に起因するレドックス変動を検知し、それを分光学的シグナルに変換するための分子プローブ

③ レドックスナビゲーションに対応する小型手術支援システムの開発

④ 生体レドックス診断情報に基づく画像誘導システムの開発

 この分子プローブMPC01の癌細胞集積性は、in vivoにおいて

も有効に機能した。ヒト膵癌腹膜播種モデルマウスを用いて実験

を行ったところ、分子プローブMPC01は、腸間膜に転移した膵癌

を特異的に描出した。直径1mmに満たない転移巣をも明瞭にイ

メージングすることに成功しており、癌標的化分子プローブとし

てのMPC01の高い性能が示された。

 今後、大腸癌モデルマウスなど様々な病態モデルを用いた癌の

in vivoイメージングを予定している。また分子プローブMPC01

は430nmに特異的な吸収を有するため、生体レドックス内視鏡

グループで開発中の高機能カメラにより、より効果的な癌イメー

ジングが可能となる。これらの技術を融合することにより、癌の

超早期画像診断の実現が期待されている。これまで組織レベルま

で拡大進行した病変しか検出できなかった画像診断を、細胞から

分子レベルの病変で見いだし、患者の重症化を回避しうる画像診

断へと、その役割を飛躍的に発展させる可能性を秘めている。

③ レドックス対応手術支援システム 内視鏡外科手術には視野や鉗子操作に多くの制限があり、感触

や立体感覚等に基づく直感的な操作性には難点がある。特に生体

レドックスによる極早期の微小病変の場合には、従来にない極め

て精密な手術が必要となる。そこで生体レドックス内視鏡グルー

プでは将来のレドックスナビゲーション手術の実現に向けて、操

作性に優れた小型手術支援システムを試作した。このシステムは

(1)体腔の映像を提供する内視鏡、(2)関節自由度の高い鉗子、

(3)上記を保持するボールジョイント部および駆動部、そして

(4)操作部から構成される(図5)。術者は患者から離れたコン

ソールに座り、画面を見ながらマニピュレータを操作すると、手

首の動きがコンピュータ制御により患者の腹腔内に挿入したロ

ボットのアームに忠実に再現される。これによりこれまでにない

精密手術が可能となる。試作機の鉗子は上下、左右、さらに前後に

可動であり、各動作におけるヒステリシス特性を実測したところ、

100gの加重を付加した条件下において、右腕、左腕とも設計通り

良好なヒステリシス特性を示した。

 このレドックス対応双腕型手術支援システム試作機を用いて、

ブタ胃を用いた前臨床試験を実施した。早期胃癌や早期食道癌に

対する低侵襲治療法である内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を施

行したところ、噴門部から挿入した小型手術支援システムは、癌

部に見立てた病変部位辺縁を効果的に把持し、粘膜表面をITナイ

フで切開剥離することに成功した。また、穿孔部位の閉鎖に対し

ては、小型手術支援システムの両腕で胃穿孔両端を把持すること

により、止血クリップによる孔の閉鎖を効果的に行うことにも成

功した(図6)。ESDの重大な合併症である胃原性穿孔は時として

生命に関わる問題であるが、この小型手術支援システムを用いれ

ば、即座に穿孔部位の閉鎖・修復が可能となり、合併症の減少と

ESDの適応拡大に寄与するものと期待される。これらの知見は、

レドックス対応小型手術支援システムの高いポテンシャルと示

唆すると同時に、経生理的開口部的管腔内視鏡手術(Natural

Orifice Translumenal Endoscopic Surgery; NOTES)な ど 次

世代の低侵襲治療法への展開にも道を開くものである。

④ レドックスナビゲーションによる内視鏡外科手術 術者に患部の正確な位置とその深部への広がり、また周辺の血

管情報などをリアルタイムに提示する画像誘導システムを開発

するために、生体レドックス画像解析グループと共同で、生体レ

ドックス診断画像(OMRI)に基づく世界初のレドックスナビゲー

ション内視鏡外科手術を実施した。

 対象として1.8Kgの雄性ウサギ(日本白色種)を使用し、病変部

位を模擬するレドックスファントムとして2mMの3-カルボキシ

プロキシル4ccを胃前壁および皮下に注入した。これをOMRI装

置内に設置し、全身麻酔下においてウサギ腹部のレドックス画像

をイメージングした。得られたレドックス診断画像をDICOM

データに変換し、3D画像処理ワークステーション AZE Virtual

Placeによってレドックスファントムのセグメンテーション・三

次元画像を作製し、腹腔鏡画像とリアルタイムに重畳させた。こ

のレドックス画像誘導により胃前壁に設置したレドックスファ

ントムを確認し、腹腔鏡下においてそれを最小限の侵襲で摘出し

た。

 実験の結果、体腔内に局所用ESRコイルを挿入することにより、

胃前壁に注入したレドックスファントムを描出することができ、

3D画像処理ワークステーションを用いてレドックス診断画像と

内視鏡画像を重畳することに成功した。またウサギの体腔内に挿

入した腹腔鏡を光学式三次元位置計測装置によってトラッキン

グし、腹腔鏡の視野に合わせてレドックス画像をリアルタイムに

重畳させることができた。毎秒3-4フレームの速度で追従させる

ことが可能であり、レドックスナビゲーションシステムは十分高

速で、臨床的にも有用であることを確認した。レドックスファン

トムの摘出に際しては、画面上に提示されたレドックス診断画像

の誘導のもと、術者は術野から目を離すことなく直感的にファン

トムを確認し、レドックスファントムだけを正確に摘出すること

に成功した(図7)。

 今後はマルチスライスのDICOMデータを用いたレジストレー

ションを実行し、レドックスナビゲーションの精度向上を目指す。

また同時に、ESR画像取得からそれを内視鏡画像へ重畳するまで

の時間を短縮させることを検討する。さらには、これらの技術的

課題を克服した新しいレドックスナビゲーション技術を開発し、

実験動物を用いた検証実験を実施する。内視鏡用磁気共鳴機を開発する治療する

23 252422

R E D O X N A V I  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果 R E D O X N A V I

  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果

(図1)レドックス内視鏡及び小型コイルの概念図

(図2)レドックス内視鏡用小型コイルの感度評価

タイプA タイプB

(図3)培養細胞系におけるMPC01の癌集積性

ヒト膵癌細胞 ヒト正常膵管上皮細胞

(図4)ヒト膵癌微小転移巣のin vivoイメージング

実体写真 蛍光画像

膵癌転移巣の例

(図5)レドックス対応手術支援システム

鉗子駆動部

操作用コンソール

(図6)レドックスナビ対応小型手術支援システムによる    胃穿孔部に対するクリッピング

(図7)OMRI画像と内視鏡画像の重畳表示

a) OMRI装置

b) 病変部位の検出

c) 内視鏡画像との重畳

レドックスシグナルレドックスシグナル

生体レドックス内視鏡グループ(医学研究院・HOYA株式会社)

要 旨

① レドックス内視鏡システムの開発 内視鏡外科手術の核となる内視鏡システムをレドックスナビ

ゲーションに対応させるため、新規デバイスの開発を行った。

ESRI・MRI融合型磁気画像解析装置と内視鏡との融合には、内視

鏡先端の鉗子口へ挿入可能なESR撮影用コイルが必要となる。コ

イル作製に関しては、感度と観察範囲の最適化について留意する

必要がある。すなわちOMRI用コイルの径が大きいほど観察範囲

が拡大するものの、一方で検出感度は低下する傾向がある。逆に

コイルの径が小さければ感度が上がるが、観察範囲が狭くなる。

したがって微小部位の観察では小型コイルが有効であり、低侵襲

観察が可能な内視鏡との組み合わせが最適である。そこでカテー

テルの先端に取り付け可能な二種類のコイルを立案し、性能評価

を行った。まず、製作したコイルを実際に内視鏡先端部に装着し、

これをOMRI装置のコイル内に設置し、互いの装置への影響につ

いて検討した。この結果、内視鏡からのOMRI装置への影響は無

いことが明らかとなった。しかしながらOMRIコイルと内視鏡先

端部が近い場合には、OMRI画像が取れなくなる障害が確認され

た。この障害は内視鏡から距離をとった場合に回復するため、

OMRIコイルを内視鏡に内蔵するタイプではなく、図1にある

OMRIコイルを内視鏡先端部より離して使用できるカテーテルタ

イプが適していることが明らかとなった。そこで本コイルのレ

ドックス応答特性をOMRI装置にて測定した結果、十分な感度を

有していることが確認された。今後は引き続き本コイルの性能評

価を継続すると同時に、コンデンサ部分をカテーテルチューブに

挿入、さらに防水化処理を行ったうえで実際の動物実験などに使

用する予定である。

② 疾患集積性分子プローブの開発 画像診断法の発展は疾病の早期発見とその治療効果の改善に

めざましい進歩をもたらした。しかし微小な病変部位を的確に診

断・検出するためには、細胞表面に発現するタンパク質や細胞内

部でのシグナルの変化を捉えることが重要となる。レドックス内

視鏡グループでは特に癌部を標的化した新しい分子イメージン

グ試薬の開発を行った。癌は、現在もなお我が国における死因の

第1位(全体の約30%)を占めており、癌患者の生存率やQOL

(Quality of Life)の向上と診断・治療に係る医療費を抑制するた

めの早急な対策が必要である。特に癌治療においては、腫瘍の発

見と悪性度、進行度の診断をより早期に行うことが重要であり、

そのためには、病変が微小な段階、すなわち早期に診断しうる技

術の開発が不可欠である。生体レドックス内視鏡グループでは、

癌に対する特異性を有し、なおかつ先の高機能化目にも対応でき

る新しい分子プローブを開発した。

 この新しい癌特異的分子プローブ(開発コード:MPC01)の各

種癌細胞への集積性をin vitroにおいて評価した。分子プローブ

MPC01は実験条件下において、膵癌、肝癌細胞へ効果的に集積し

たのに対して、正常な膵管上皮細胞や肝細胞にはほとんど集積し

なかった(図3)。この分子機序については今後詳細に検討する予

定である。

 レドックス内視鏡グループの最重要課題である癌による死亡者数は、我が国において年間約30万人、全世界では約760万人に達している。癌の

治療薬や治療法は年々進化しているものの、未だに死因と死亡率の高い疾患であり続けている。癌治療のために最も重要なポイントは、現在もな

お早期発見と早期治療であり、早期癌の診断法とそれを低侵襲に治療するシステムの開発が不可欠である。多くの疾患において異常が確認されて

いる生体レドックスを検知できる診断システムは、これら早期癌の発見にも有効であると期待できる。とりわけ外科領域においては、内視鏡画像

と生体レドックスの診断画像を統合することにより、患部の形態情報と機能情報を術者に同時に呈示することができるため、内視鏡外科手術の際

に極めて有効な方法となる。

 しかし、生体レドックス情報を検出できる臨床診断機器は従来報告例が無く、低侵襲治療との統合には大きな壁があった。とりわけレドックス

ナビゲーション下における内視鏡外科手術の実現には、生体レドックスの検出、内視鏡画像との重畳、あるいはレドックス情報による病変部位へ

の誘導技術など克服すべき課題が数多く存在する。

 そこで当グループでは疾患特異的なレドックス反応をイメージングすることによって、これまで見過ごされてきた極初期の病変を検出し、さら

にその情報を次世代低侵襲治療機器と融合させることで患者に負担をかけない新しい診断・治療システムの開発を目指した。九州大学は内視鏡外

科手術の拠点として豊富な臨床実績を有すると同時に、また密接な医工ならびに産学連携のもと、カプセル型内視鏡や腫瘍摘出のための画像誘導

システムといった診断技術から、内視鏡外科手術の一つである手術支援ロボット等の治療技術に至るまで、最先端の医療技術開発の実績を有する。

これらの経験を踏まえ、当グループでは内視鏡やMRIを中心とする従来の画像診断法に、生体レドックスの概念をソフト・ハードの両面から融合

させることを最大の目標とした。この目標を達成するために、これまで三年間は以下の四つの開発目標を設定し、開発を行った。

① レドックス内視鏡システムの開発

② 疾患に起因するレドックス変動を検知し、それを分光学的シグナルに変換するための分子プローブ

③ レドックスナビゲーションに対応する小型手術支援システムの開発

④ 生体レドックス診断情報に基づく画像誘導システムの開発

 この分子プローブMPC01の癌細胞集積性は、in vivoにおいて

も有効に機能した。ヒト膵癌腹膜播種モデルマウスを用いて実験

を行ったところ、分子プローブMPC01は、腸間膜に転移した膵癌

を特異的に描出した。直径1mmに満たない転移巣をも明瞭にイ

メージングすることに成功しており、癌標的化分子プローブとし

てのMPC01の高い性能が示された。

 今後、大腸癌モデルマウスなど様々な病態モデルを用いた癌の

in vivoイメージングを予定している。また分子プローブMPC01

は430nmに特異的な吸収を有するため、生体レドックス内視鏡

グループで開発中の高機能カメラにより、より効果的な癌イメー

ジングが可能となる。これらの技術を融合することにより、癌の

超早期画像診断の実現が期待されている。これまで組織レベルま

で拡大進行した病変しか検出できなかった画像診断を、細胞から

分子レベルの病変で見いだし、患者の重症化を回避しうる画像診

断へと、その役割を飛躍的に発展させる可能性を秘めている。

③ レドックス対応手術支援システム 内視鏡外科手術には視野や鉗子操作に多くの制限があり、感触

や立体感覚等に基づく直感的な操作性には難点がある。特に生体

レドックスによる極早期の微小病変の場合には、従来にない極め

て精密な手術が必要となる。そこで生体レドックス内視鏡グルー

プでは将来のレドックスナビゲーション手術の実現に向けて、操

作性に優れた小型手術支援システムを試作した。このシステムは

(1)体腔の映像を提供する内視鏡、(2)関節自由度の高い鉗子、

(3)上記を保持するボールジョイント部および駆動部、そして

(4)操作部から構成される(図5)。術者は患者から離れたコン

ソールに座り、画面を見ながらマニピュレータを操作すると、手

首の動きがコンピュータ制御により患者の腹腔内に挿入したロ

ボットのアームに忠実に再現される。これによりこれまでにない

精密手術が可能となる。試作機の鉗子は上下、左右、さらに前後に

可動であり、各動作におけるヒステリシス特性を実測したところ、

100gの加重を付加した条件下において、右腕、左腕とも設計通り

良好なヒステリシス特性を示した。

 このレドックス対応双腕型手術支援システム試作機を用いて、

ブタ胃を用いた前臨床試験を実施した。早期胃癌や早期食道癌に

対する低侵襲治療法である内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を施

行したところ、噴門部から挿入した小型手術支援システムは、癌

部に見立てた病変部位辺縁を効果的に把持し、粘膜表面をITナイ

フで切開剥離することに成功した。また、穿孔部位の閉鎖に対し

ては、小型手術支援システムの両腕で胃穿孔両端を把持すること

により、止血クリップによる孔の閉鎖を効果的に行うことにも成

功した(図6)。ESDの重大な合併症である胃原性穿孔は時として

生命に関わる問題であるが、この小型手術支援システムを用いれ

ば、即座に穿孔部位の閉鎖・修復が可能となり、合併症の減少と

ESDの適応拡大に寄与するものと期待される。これらの知見は、

レドックス対応小型手術支援システムの高いポテンシャルと示

唆すると同時に、経生理的開口部的管腔内視鏡手術(Natural

Orifice Translumenal Endoscopic Surgery; NOTES)な ど 次

世代の低侵襲治療法への展開にも道を開くものである。

④ レドックスナビゲーションによる内視鏡外科手術 術者に患部の正確な位置とその深部への広がり、また周辺の血

管情報などをリアルタイムに提示する画像誘導システムを開発

するために、生体レドックス画像解析グループと共同で、生体レ

ドックス診断画像(OMRI)に基づく世界初のレドックスナビゲー

ション内視鏡外科手術を実施した。

 対象として1.8Kgの雄性ウサギ(日本白色種)を使用し、病変部

位を模擬するレドックスファントムとして2mMの3-カルボキシ

プロキシル4ccを胃前壁および皮下に注入した。これをOMRI装

置内に設置し、全身麻酔下においてウサギ腹部のレドックス画像

をイメージングした。得られたレドックス診断画像をDICOM

データに変換し、3D画像処理ワークステーション AZE Virtual

Placeによってレドックスファントムのセグメンテーション・三

次元画像を作製し、腹腔鏡画像とリアルタイムに重畳させた。こ

のレドックス画像誘導により胃前壁に設置したレドックスファ

ントムを確認し、腹腔鏡下においてそれを最小限の侵襲で摘出し

た。

 実験の結果、体腔内に局所用ESRコイルを挿入することにより、

胃前壁に注入したレドックスファントムを描出することができ、

3D画像処理ワークステーションを用いてレドックス診断画像と

内視鏡画像を重畳することに成功した。またウサギの体腔内に挿

入した腹腔鏡を光学式三次元位置計測装置によってトラッキン

グし、腹腔鏡の視野に合わせてレドックス画像をリアルタイムに

重畳させることができた。毎秒3-4フレームの速度で追従させる

ことが可能であり、レドックスナビゲーションシステムは十分高

速で、臨床的にも有用であることを確認した。レドックスファン

トムの摘出に際しては、画面上に提示されたレドックス診断画像

の誘導のもと、術者は術野から目を離すことなく直感的にファン

トムを確認し、レドックスファントムだけを正確に摘出すること

に成功した(図7)。

 今後はマルチスライスのDICOMデータを用いたレジストレー

ションを実行し、レドックスナビゲーションの精度向上を目指す。

また同時に、ESR画像取得からそれを内視鏡画像へ重畳するまで

の時間を短縮させることを検討する。さらには、これらの技術的

課題を克服した新しいレドックスナビゲーション技術を開発し、

実験動物を用いた検証実験を実施する。内視鏡用磁気共鳴機を開発する治療する

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R E D O X N A V I  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果 R E D O X N A V I

  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果

(図1)レドックス内視鏡及び小型コイルの概念図

(図2)レドックス内視鏡用小型コイルの感度評価

タイプA タイプB

(図3)培養細胞系におけるMPC01の癌集積性

ヒト膵癌細胞 ヒト正常膵管上皮細胞

(図4)ヒト膵癌微小転移巣のin vivoイメージング

実体写真 蛍光画像

膵癌転移巣の例

(図5)レドックス対応手術支援システム

鉗子駆動部

操作用コンソール

(図6)レドックスナビ対応小型手術支援システムによる    胃穿孔部に対するクリッピング

(図7)OMRI画像と内視鏡画像の重畳表示

a) OMRI装置

b) 病変部位の検出

c) 内視鏡画像との重畳

レドックスシグナルレドックスシグナル

生体レドックス内視鏡グループ(医学研究院・HOYA株式会社)

要 旨

① レドックス内視鏡システムの開発 内視鏡外科手術の核となる内視鏡システムをレドックスナビ

ゲーションに対応させるため、新規デバイスの開発を行った。

ESRI・MRI融合型磁気画像解析装置と内視鏡との融合には、内視

鏡先端の鉗子口へ挿入可能なESR撮影用コイルが必要となる。コ

イル作製に関しては、感度と観察範囲の最適化について留意する

必要がある。すなわちOMRI用コイルの径が大きいほど観察範囲

が拡大するものの、一方で検出感度は低下する傾向がある。逆に

コイルの径が小さければ感度が上がるが、観察範囲が狭くなる。

したがって微小部位の観察では小型コイルが有効であり、低侵襲

観察が可能な内視鏡との組み合わせが最適である。そこでカテー

テルの先端に取り付け可能な二種類のコイルを立案し、性能評価

を行った。まず、製作したコイルを実際に内視鏡先端部に装着し、

これをOMRI装置のコイル内に設置し、互いの装置への影響につ

いて検討した。この結果、内視鏡からのOMRI装置への影響は無

いことが明らかとなった。しかしながらOMRIコイルと内視鏡先

端部が近い場合には、OMRI画像が取れなくなる障害が確認され

た。この障害は内視鏡から距離をとった場合に回復するため、

OMRIコイルを内視鏡に内蔵するタイプではなく、図1にある

OMRIコイルを内視鏡先端部より離して使用できるカテーテルタ

イプが適していることが明らかとなった。そこで本コイルのレ

ドックス応答特性をOMRI装置にて測定した結果、十分な感度を

有していることが確認された。今後は引き続き本コイルの性能評

価を継続すると同時に、コンデンサ部分をカテーテルチューブに

挿入、さらに防水化処理を行ったうえで実際の動物実験などに使

用する予定である。

② 疾患集積性分子プローブの開発 画像診断法の発展は疾病の早期発見とその治療効果の改善に

めざましい進歩をもたらした。しかし微小な病変部位を的確に診

断・検出するためには、細胞表面に発現するタンパク質や細胞内

部でのシグナルの変化を捉えることが重要となる。レドックス内

視鏡グループでは特に癌部を標的化した新しい分子イメージン

グ試薬の開発を行った。癌は、現在もなお我が国における死因の

第1位(全体の約30%)を占めており、癌患者の生存率やQOL

(Quality of Life)の向上と診断・治療に係る医療費を抑制するた

めの早急な対策が必要である。特に癌治療においては、腫瘍の発

見と悪性度、進行度の診断をより早期に行うことが重要であり、

そのためには、病変が微小な段階、すなわち早期に診断しうる技

術の開発が不可欠である。生体レドックス内視鏡グループでは、

癌に対する特異性を有し、なおかつ先の高機能化目にも対応でき

る新しい分子プローブを開発した。

 この新しい癌特異的分子プローブ(開発コード:MPC01)の各

種癌細胞への集積性をin vitroにおいて評価した。分子プローブ

MPC01は実験条件下において、膵癌、肝癌細胞へ効果的に集積し

たのに対して、正常な膵管上皮細胞や肝細胞にはほとんど集積し

なかった(図3)。この分子機序については今後詳細に検討する予

定である。

 レドックス内視鏡グループの最重要課題である癌による死亡者数は、我が国において年間約30万人、全世界では約760万人に達している。癌の

治療薬や治療法は年々進化しているものの、未だに死因と死亡率の高い疾患であり続けている。癌治療のために最も重要なポイントは、現在もな

お早期発見と早期治療であり、早期癌の診断法とそれを低侵襲に治療するシステムの開発が不可欠である。多くの疾患において異常が確認されて

いる生体レドックスを検知できる診断システムは、これら早期癌の発見にも有効であると期待できる。とりわけ外科領域においては、内視鏡画像

と生体レドックスの診断画像を統合することにより、患部の形態情報と機能情報を術者に同時に呈示することができるため、内視鏡外科手術の際

に極めて有効な方法となる。

 しかし、生体レドックス情報を検出できる臨床診断機器は従来報告例が無く、低侵襲治療との統合には大きな壁があった。とりわけレドックス

ナビゲーション下における内視鏡外科手術の実現には、生体レドックスの検出、内視鏡画像との重畳、あるいはレドックス情報による病変部位へ

の誘導技術など克服すべき課題が数多く存在する。

 そこで当グループでは疾患特異的なレドックス反応をイメージングすることによって、これまで見過ごされてきた極初期の病変を検出し、さら

にその情報を次世代低侵襲治療機器と融合させることで患者に負担をかけない新しい診断・治療システムの開発を目指した。九州大学は内視鏡外

科手術の拠点として豊富な臨床実績を有すると同時に、また密接な医工ならびに産学連携のもと、カプセル型内視鏡や腫瘍摘出のための画像誘導

システムといった診断技術から、内視鏡外科手術の一つである手術支援ロボット等の治療技術に至るまで、最先端の医療技術開発の実績を有する。

これらの経験を踏まえ、当グループでは内視鏡やMRIを中心とする従来の画像診断法に、生体レドックスの概念をソフト・ハードの両面から融合

させることを最大の目標とした。この目標を達成するために、これまで三年間は以下の四つの開発目標を設定し、開発を行った。

① レドックス内視鏡システムの開発

② 疾患に起因するレドックス変動を検知し、それを分光学的シグナルに変換するための分子プローブ

③ レドックスナビゲーションに対応する小型手術支援システムの開発

④ 生体レドックス診断情報に基づく画像誘導システムの開発

 この分子プローブMPC01の癌細胞集積性は、in vivoにおいて

も有効に機能した。ヒト膵癌腹膜播種モデルマウスを用いて実験

を行ったところ、分子プローブMPC01は、腸間膜に転移した膵癌

を特異的に描出した。直径1mmに満たない転移巣をも明瞭にイ

メージングすることに成功しており、癌標的化分子プローブとし

てのMPC01の高い性能が示された。

 今後、大腸癌モデルマウスなど様々な病態モデルを用いた癌の

in vivoイメージングを予定している。また分子プローブMPC01

は430nmに特異的な吸収を有するため、生体レドックス内視鏡

グループで開発中の高機能カメラにより、より効果的な癌イメー

ジングが可能となる。これらの技術を融合することにより、癌の

超早期画像診断の実現が期待されている。これまで組織レベルま

で拡大進行した病変しか検出できなかった画像診断を、細胞から

分子レベルの病変で見いだし、患者の重症化を回避しうる画像診

断へと、その役割を飛躍的に発展させる可能性を秘めている。

③ レドックス対応手術支援システム 内視鏡外科手術には視野や鉗子操作に多くの制限があり、感触

や立体感覚等に基づく直感的な操作性には難点がある。特に生体

レドックスによる極早期の微小病変の場合には、従来にない極め

て精密な手術が必要となる。そこで生体レドックス内視鏡グルー

プでは将来のレドックスナビゲーション手術の実現に向けて、操

作性に優れた小型手術支援システムを試作した。このシステムは

(1)体腔の映像を提供する内視鏡、(2)関節自由度の高い鉗子、

(3)上記を保持するボールジョイント部および駆動部、そして

(4)操作部から構成される(図5)。術者は患者から離れたコン

ソールに座り、画面を見ながらマニピュレータを操作すると、手

首の動きがコンピュータ制御により患者の腹腔内に挿入したロ

ボットのアームに忠実に再現される。これによりこれまでにない

精密手術が可能となる。試作機の鉗子は上下、左右、さらに前後に

可動であり、各動作におけるヒステリシス特性を実測したところ、

100gの加重を付加した条件下において、右腕、左腕とも設計通り

良好なヒステリシス特性を示した。

 このレドックス対応双腕型手術支援システム試作機を用いて、

ブタ胃を用いた前臨床試験を実施した。早期胃癌や早期食道癌に

対する低侵襲治療法である内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を施

行したところ、噴門部から挿入した小型手術支援システムは、癌

部に見立てた病変部位辺縁を効果的に把持し、粘膜表面をITナイ

フで切開剥離することに成功した。また、穿孔部位の閉鎖に対し

ては、小型手術支援システムの両腕で胃穿孔両端を把持すること

により、止血クリップによる孔の閉鎖を効果的に行うことにも成

功した(図6)。ESDの重大な合併症である胃原性穿孔は時として

生命に関わる問題であるが、この小型手術支援システムを用いれ

ば、即座に穿孔部位の閉鎖・修復が可能となり、合併症の減少と

ESDの適応拡大に寄与するものと期待される。これらの知見は、

レドックス対応小型手術支援システムの高いポテンシャルと示

唆すると同時に、経生理的開口部的管腔内視鏡手術(Natural

Orifice Translumenal Endoscopic Surgery; NOTES)な ど 次

世代の低侵襲治療法への展開にも道を開くものである。

④ レドックスナビゲーションによる内視鏡外科手術 術者に患部の正確な位置とその深部への広がり、また周辺の血

管情報などをリアルタイムに提示する画像誘導システムを開発

するために、生体レドックス画像解析グループと共同で、生体レ

ドックス診断画像(OMRI)に基づく世界初のレドックスナビゲー

ション内視鏡外科手術を実施した。

 対象として1.8Kgの雄性ウサギ(日本白色種)を使用し、病変部

位を模擬するレドックスファントムとして2mMの3-カルボキシ

プロキシル4ccを胃前壁および皮下に注入した。これをOMRI装

置内に設置し、全身麻酔下においてウサギ腹部のレドックス画像

をイメージングした。得られたレドックス診断画像をDICOM

データに変換し、3D画像処理ワークステーション AZE Virtual

Placeによってレドックスファントムのセグメンテーション・三

次元画像を作製し、腹腔鏡画像とリアルタイムに重畳させた。こ

のレドックス画像誘導により胃前壁に設置したレドックスファ

ントムを確認し、腹腔鏡下においてそれを最小限の侵襲で摘出し

た。

 実験の結果、体腔内に局所用ESRコイルを挿入することにより、

胃前壁に注入したレドックスファントムを描出することができ、

3D画像処理ワークステーションを用いてレドックス診断画像と

内視鏡画像を重畳することに成功した。またウサギの体腔内に挿

入した腹腔鏡を光学式三次元位置計測装置によってトラッキン

グし、腹腔鏡の視野に合わせてレドックス画像をリアルタイムに

重畳させることができた。毎秒3-4フレームの速度で追従させる

ことが可能であり、レドックスナビゲーションシステムは十分高

速で、臨床的にも有用であることを確認した。レドックスファン

トムの摘出に際しては、画面上に提示されたレドックス診断画像

の誘導のもと、術者は術野から目を離すことなく直感的にファン

トムを確認し、レドックスファントムだけを正確に摘出すること

に成功した(図7)。

 今後はマルチスライスのDICOMデータを用いたレジストレー

ションを実行し、レドックスナビゲーションの精度向上を目指す。

また同時に、ESR画像取得からそれを内視鏡画像へ重畳するまで

の時間を短縮させることを検討する。さらには、これらの技術的

課題を克服した新しいレドックスナビゲーション技術を開発し、

実験動物を用いた検証実験を実施する。内視鏡用磁気共鳴機を開発する治療する

23 252422

R E D O X N A V I  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果 R E D O X N A V I

  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果

(図8 . 1)部分最小二乗法判別分析による     STZ投与ラットに対するBVD投与の影響の評価(図1 . 1)再灌流24時間後の脳レドックス画像

(図1 . 2)ラット脳内におけるGSHおよび     GSSGの質量分析イメージングおよびレドックスマップ

(図2 . 1)シスプラチン(CDDP)投与ラット腎におけるOMRI画像解析A)Saline投与後ラット腎臓のレドックスマップとOMRI画像、B)CDDP投与後1時間の腎のレドックスマップとOMRI画像

(図3 . 1)OMRI/MSイメージングによるレドックスプローブの高精細分布画像

(図4 . 1)腫瘍におけるCAT-1封入リポソームのOMRI画像化A)CAT1封入リポソーム投与後のOMRIによる腫瘍の局所イメージング(差画像(上)とESR off画像(下))、 B)ROIの選択と、カップラーの設置写真、 C)ROIにおける強度変化

新たな先端融合領域の創成をめざす

グループ横断型先端融合研究

要 旨

① MS及びOMRIを用いた脳虚血再灌流ラットの脳内レドックスイメージング

(研究担当者名:大和 真由実、兵藤 文紀(画像解析グループ)、藤村 由紀、三浦 大典(メタボリック・プロファイリンググループ)) 

【研究の目的】 我が国において、「脳血管疾患」は死因の第3位を占め、その病

態メカニズム研究及び治療法開発が望まれている。脳血管障害時には、フ

リーラジカル生成、生体内抗酸化系の破綻、さらにはミトコンドリア機能障害

が惹起される。これらの変化を視覚化できれば、脳血管障害の治療戦略に貢

献出来ると考えられることから生体内レドックス反応を、オーバーハウザー

MRI(OMRI)及び質量分析イメージングを用いて画像解析することを試みた。

【研究方法】 実験には、wistar系ラット(雄性、6週齢)を用いた。脳梗塞モデル

は、ナイロン糸を用い、中大脳動脈付近を虚血させることにより作成した

(MCAOモデル:虚血1時間+再灌流3あるいは24時間)。OMRI測定の造影剤

には、methoxycarbonyl-PROXYLを用いた。また、質量分析イメージングに

は、再灌流24時間後に脳を摘出し、クリオモルドにOTCコンパウンドを用い

て包埋し-80℃で保存した脳組織を用いた。この脳組織を10 μmの凍結切片

とし、Indium tin oxide coated スライドガラスに貼り付けた。MSイメージン

グ用凍結切片にはイオン化のためのマトリックス(9-aminoacridine)をスプ

レーで均一に塗布・乾燥後、MALDI-TOF-MS(AXIMA Confidence)を用いネ

ガティブモードにて50 μmの空間分解能で質量分析イメージングを行った。

【研究成果】 OMRI測定:脳虚血再灌流時には、ミトコンドリア電子伝達系酵

素活性の低下やアスコルビン酸等の還元物質濃度の低下が起こると報告され

ている。これらの変化は、造影剤であるmethoxycarbonyl-PROXYLの輝度に

関与する。この反応を利用し、脳虚血再灌流ラットの脳レドックス画像を撮

像した。造影剤であるmethoxycarbonyl-PROXYLの画像輝度は、投与直後脳

へ移行し速やかに減衰することがOMRI画像から確認された。再灌流3時間

群においては、両半球の輝度減衰速度に違いは認められなかった。一方、再灌

流24時間後にOMRI測定を行ったところ、虚血半球画像輝度減衰の遅延が認

められた(図1.1)。脳虚血再灌流後のミトコンドリア電子伝達系酵素活性に

ついては、再灌流3時間では両半球に違いは認められなかったが、再灌流24時

間後では、複合体Ⅱの酵素活性が虚血半球にて低下していた。また、低分子還

元物質については、再灌流3時間後でグルタチオン濃度の低下が認められ、再

灌流24時間後にはアスコルビン酸の低下が認められた。以上の結果から、

OMRIで視覚化されたレドックス変動は、脳虚血再灌流により惹起されたミ

トコンドリア機能不全や脳内還元物質の低下によるものであると考えられる。

質量分析イメージング:OMRIを用いた画像解析は、非侵襲解析を可能にする

一方で、マクロスコピックなレドックス反応情報しか得られないという問題

点が上げられる。そこで、質量分析イメージングを同じサンプルに適用する

ことで、組織内レドックス変動を物質レベルでとらえることを試みた。摘出

した脳組織を10 μm厚の薄切片にしてマトリックスを噴霧し、直接質量分析

を行った結果、GSH(m/z=306.08)およびGSSG(m/z=611.14)由来の明瞭

なピークが検出され、標品のMS/MSスペクトルと比較することで同定した。

それぞれのピーク強度を元にイメージング画像を作成した結果、虚血再灌流

により障害を受けた虚血半球大脳皮質において、GSH、GSSGどちらの強度も

極端に減少していることが明らかとなった。これは、再灌流後24時間経過し

たことによる浮腫の形成に伴い、組織中から流出したためと考えられる。さ

らに、GSHおよびGSSGの質量分析イメージング画像からGSSG/GSH ratio

map(レドックスマップ)を作成した結果、これまで障害がないと考えられて

いた非梗塞半球大脳皮質において、より還元的な環境になっていることが明

らかとなった。このように、in vivoで計測可能なOMRIイメージングからは得

られなかった情報を、質量分析イメージングを相補的に利用することで得ら

れることが示された。

② 疾病・薬物が誘発する生体変化・毒性の超早期検出を目指したMalti-modality imaging(OMRI/MALDI-TOF-MS)による解析法の確立“シスプラチン誘発腎毒性の解析”

(研究担当者名:兵藤 文紀(画像解析グループ)、藤村 由紀、三浦 大典(メタボリック・プロファイリンググループ))

【研究の目的】 本研究では、生体レドックス画像解析装置であるOMRIと

MALDI-TOF-MS imaging法の二つのイメージング装置から得られる画像

情報を軸として、疾病・薬物が誘発する生体変化・毒性の超早期検出を目的と

した。具体的には、薬物が誘発する生体毒性の一例として毒性発現に活性酸

素種の関与が報告されている抗がん剤の一つであるシスプラチン誘発腎毒

性に着目し、OMRI/MALDI-TOF-MSによる解析を行った。

【研究方法】 シスプラチン誘発腎毒性モデルは、5週齢の雄性Wistarラット

にシスプラチン(CDDP:10mg/kg)を腹腔内投与する事により作製した。

OMRI測定は、造影剤としてcarbamoyl-PROXYLを用いて、CDDP投与後1時

間及び72時間にて行った。その後、腎組織、血液および尿を採取した。腎臓は、

クリオモルドにOTCコンパウンドを用いて包埋し-80℃で保存した。次に、

クリオスタットで10μmの凍結切片を作製し、Indium tin oxide coated スラ

イドガラスに貼り付けた。MSイメージング用凍結切片にはイオン化のため

のマトリックス(DHB:Dihydroxybenzoic acid)をスプレーで均一に塗布・乾

燥後、MALDI-TOF-MS(Axima Confidence)を用いネガティブモードにて

MSイメージング(1pixel 50μm)を行った。

【研究結果】 Carbamoyl-PROXYL投与後、腎において信号強度の上昇が観

察され、その後時間と共に減少した。また信号は皮質側よりも腎盂側でより

高強度を示した。シスプラチン投与後1時間のラットでは、コントロールラッ

トに比べcarbamoyl-PROXYLの還元速度が低下した(図2.1)。また、

MALDI-TOF-MSイメージングでは、特徴的なピーク(m/z 885)が検出され、

MS/MS解析によりm/z885はPhosphatidylinositol(PI)であることがわかっ

た。さらに、シスプラチン投与1時間の腎組織切片でコントロール群には存在

しない分子種が多数みつかった(図2.2)。その多くは分子量が800を超える

脂質由来と思われる分子種であった。これらのCDDP由来分子種の多くは、

皮質側に強く発現していた。本実験では、CDDP投与後1時間という非常に早

い段階において腎組織内のレドックス変動が惹起されていることを示し、ま

たOMRIイメージング後の同一個体のラット腎組織をMSイメージング解析

によりプロファイリングし腎皮質、髄質等に局在するCDDP由来代謝物を観

測することに成功した。

③ OMRI/MSイメージングによる高精度レドックス解析法の開発(研究担当者名:兵藤 文紀(画像解析グループ)、藤村 由紀、三浦 大典(メタボリック・プロファイリンググループ))

【研究の目的】 生体レドックス解析には、レドックス感受性造影剤としてニ

トロキシルラジカルが汎用されている。用いるニトロキシルラジカルの物性

により膜透過性や生体内還元物質との反応性が異なり、これらの違いを利用

すると細胞内外や反応性を区別して生体レドックスを解析できる。しかしな

がら、解像度の問題からニトロキシルラジカルの詳細な生体内分布について

 九州大学では、レドックス関連疾

患の早期診断・治療法の確立、治療薬

の開発を指向した先端融合医療領域

を創生するため、医学、薬学、農学、工

学の学の英知と医療・製薬・分析機器

の各工業界の創造力を結集し研究を

進めている。当初、各グループ間(協

働機関を含む)の融合研究は、4年次

以降と予定していたが、すでに8テー

マの融合研究がスタートしている。

研究内容については、左記の図中の

番号に従って記載した。

は不明であった。そこで、本研究では、MALDI-TOF-MSを用いニトロキシル

ラジカルの1つであるTetraethyl-CAT1の分布画像について検討した。

【研究方法】 6週齢の雄性C57BL6マウスをイソフルラン(2.5%)で麻酔後、

Tetraethyl-CAT1 を投与し、OMRI測定を行った。その後、心臓及び腎臓を摘出

し、速やかにクリオモルドにOTCコンパウンドを用いて包埋し-80℃で保存し

た。次にクリオスタットで10μmの凍結切片を作製し、組織切片をIndium tin

oxide coated スライドガラスに貼り付け、イオン化のためのマトリックス

(DHB)をスプレーで均一に塗布・乾燥後、MALDI-TOF-MS(Axima Confidence)

を用いポジティブモードにてMSイメージング(1pixel 50μm)を行った。

【研究成果】 OMRI測定では、Tetraethyl-CAT1がマウスの心臓に高濃度に

分布していることが明らかとなった(図3.1)。次に、心臓および腎臓の組織切

片について、MSイメージングを行ったところ、両組織においてTetraethyl-

CAT1の分子量である271.2のピークを得た。このピークの画像化により、心

臓内ではTetraethyl-CAT1は局在的に分布している様子が明らかとなった。

また腎臓においては、Tetraethyl-CAT1は髄質に比べ皮質部位により多く蓄

積していることが明らかとなった。

④ がん・間質を標的としたレドックス感受性リポソームの開発とその応用

(研究担当者名:兵藤 文紀(画像解析グループ)、馬崎 雄二(がん診断・創薬グループ)) 

【研究の目的】 本研究では生体レドックス画像解析装置であるオーバーハウ

ザー MRI(OMRI)を用いてがん間質の非侵襲レドックス画像解析を目的とし、

がん局所に蓄積するニトロキシルプローブ封入リポソームの開発を検討した。

【研究方法】 NL-17細胞(1.0×106)懸濁液を6週齢の雌性Balb/cマウスの

右大腿部に筋肉内投与し大腿部移植腫瘍モデルマウスの作成を行った。15N-CAT-1封入リポソーム(組成比DSPC:CH:DSPE-PEG2000=10:5:1)

を凍結融解法によって作製し、Mini Extruderによりリポソームの粒子径を

100 nmに調整した。このリポソーム溶液300μl(脂質35.51 mg)を大腿部

移植腫瘍モデルマウスに尾静脈内投与し、経時的にOMRI測定を行った。

【研究成果】 15N-CAT-1封入リポソームを大腿部移植腫瘍モデルマウスに

尾静脈投与し、大腿部の経時的OMRI測定を行った。投与後1時間後から画像

強度の上昇がOMRIにより観測され、投与後12時間および24時間後では腫瘍

における画像輝度が最も高く、CAT-1封入リポソームが腫瘍付近に滞留して

いることが明らかとなった。その後36、 48時間後その強度は減少した。以上

より血液中のリポソームに内封されたCAT-1のシグナル量が投与後一定し

て減少していることが示された。本実験より、CAT-1封入リポソームが

NL-17由来のマウス腫瘍に蓄積することが本研究で明らかとなった。

⑤ レドックス内視鏡の開発(研究担当者名:洪 在成、村田 正治(内視鏡グループ)、市川 和洋(画像解析グループ))

 レドックス対応手術支援システムの設計・試作に合わせて、レドックス画像

によるナビゲーション技術の開発に着手し、生体レドックス診断画像

(OMRI)に基づく世界初のレドックスナビゲーション内視鏡外科手術を、実

験動物を対象に実施した。詳細については、「レドックス内視鏡グループ」の

項に記した。

⑥ 膵癌特異的代謝物同定に向けたメタボリック・プロファイリング(研究担当者名:大内田研宙(内視鏡グループ)、藤村 由紀、三浦 大典(メタボリック・プロファイリンググループ)) 

【研究の目的】 膵癌は5年生存率が3%と、ここ30年間予後の改善がない疾

患である。そのため早期診断マーカー、新規治療法の開発が強く望まれてい

る。本研究により膵癌のメタボリック・プロファイリングを行い、新規マー

カー・治療標的分子の同定を行った。

【研究方法】 ヒト膵癌細胞株および膵管上皮細胞を不死化した細胞株をMS解

析にてmetabolic profilingを行い、癌特異的な代謝物の同定を行った。同時に、

mRNAレベルでも、定量的リアルタイムRT-PCRあるいは代謝関連分子に

focusした microarrayにより、レドックス関連分子を中心にメタボリック関連

分子の網羅的なスクリーニングを行い、MS解析結果との比較検討を行った。

【研究成果】 膵癌の治療抵抗性に関連する代謝産物を同定するため、放射線

耐性株(CAPAN-1、CFPAC-1)、及び膵癌の第一選択薬であるGemcitabine

耐性である膵癌細胞株(SUIT2、Capan-1)を樹立した。これらの治療抵抗性

を評価するためにin vitroの感受性試験を短期モデル(PI assay)において行っ

たところ、SUIT-2およびCAPAN-1のGemcitabine治療抵抗性株は十分な抵

抗性を獲得していた。また、CFPAC-1とCAPAN-1の放射線治療抵抗性を

colony formation assayにて評価したところ、明らかな耐性獲得を両細胞株に

おいて認めた。また、PI assayにおいては、CFPAC-1の治療抵抗性株におい

てIC50は明らかな上昇を認めたが、CAPAN-1の治療抵抗性株においては、

変化を認めなかった。

 次に、これらの耐性株について、メタノール抽出で得られた代謝物を

GC-MSを用いて解析を行った。その結果、CFPAC-1の放射線治療抵抗

性株であるR3-2 において、高濃度を示した代謝物として、Inositol、

Glycerol phosphate、beta-Alanine、Glycine、Inositol phosphate、

Glycerol-hexopyranosideが同定された。また、R3-2で低濃度を示した代

謝物としては、Phenylalanine、Hexadecanoic acid、Hexoseが同定された。

CAPAN-1 parent 細胞株及びCAPAN-1 Gemcitabine治療抵抗性株につ

いて同様に解析を行った。データ解析にはあらかじめ「各サンプル群が異

なる」という情報を与えてモデルを作成する手法である直交型部分最小二

乗法 (OPLS) を用いた。これらの結果及び解析により、GR-1 でより濃度

が高かった代謝物として、Serine、Glucose、Glycerol phosphateGR-1 で

より濃度が低かった代謝物として、Alanine、Leucine、Proline、Threonine、

Citrateが同定された。

 現在すでに同じ細胞株から抽出したRNAのマイクロアレイ解析を行い、網

羅的な発現解析を行っており、現在分析中である。現在までに同定した代謝

産物のリストに加えて網羅的なRNA解析を組み合わせることにより、治療抵

抗性に関わる代謝経路の同定を進めていくことができると考えられる。

⑦ MALDI-MSを用いたFenofibrate投与ラット肝臓のハイスループットメタボリックプロファイリング

(研究担当者名:藤村 由紀、三浦 大典(メタボリック・プロファイリンググループ)、山崎 真、太田 哲也(レドックス疾患創薬グループ)) 

【研究の目的】 本研究では、MALDI法を用いた低分子代謝物測定法の検討を

行い、その応用としてFenofibrateを投与したラット肝臓のメタボリック・プ

ロファイリングを試みた。

【研究方法】 測定には株式会社島津製作所製のレーザーイオン化四重極イオ

ントラップ飛行時間型質量分析装置(AXIMA®-QIT)を使用した。マトリクス

は9-アミノアクリジンを用いて、ネガティブモードで測定した。ADP、 ATP、

NADH、 NADPHの標準品を用いてイオンソース条件を最適化し、定量性・検

出限界およびMS/MS測定を実施した。メタボリック・プロファイリングは、

10週齢の雄ラット(F344/DuCrlCrlj rat)にFenofibrateあるいは媒体を14日

間投与した肝臓サンプルを用いた。肝臓サンプルを凍結破砕処理後、ホモジ

ネート調製あるいはメタノール/クロロホルムでクリーンアップ調製した状

態でMALDIプレートにマトリクスと混合してスポッティングした。検出

ピークは公共のデータベース (KEGG、 http://www.kegg.jp/)を用いて同定を

行い、同定代謝物について変動解析を実施した。

【研究成果】 標準品の検出に関しては、比較的良好な直線性(R2>0.99)と高

い検出感度(50 fmol/well)が確認された。肝臓サンプルからは数多くの低分

子代謝物が検出され、データベース照合によりLinoleic acid、Stearic acid等の

長鎖脂肪酸やADP、ATP、UDP、UTP等の核酸系代謝物あるいはGSH、GSSG

やNADH、NADPH等の酸化還元関連代謝物などが同定された。Fenofibrate

を投与したラット肝臓のメタボリック・プロファイリングを試みた結果、長鎖

脂肪酸類の顕著な低下、Acetyl CoAの低下とCoAの増加およびNADH、

NADPHの増加等のβ酸化の亢進を示唆する代謝物変動が得られた。あわせ

てATPの増加も確認され、これらの結果はFenofibrateの薬効であるPPARα

を介した脂質代謝改善作用に起因した変動と考えられた。本研究結果より、

MALDI-MSを用いて薬剤起因性の代謝物変動を従来法に比べて高速かつ簡

便に検出ができ、本手法が薬効・毒性評価やバイオマーカー探索などの創薬研

究に利用可能であると考えられる。

⑧ メタボリック・プロファイリングによる新しい酸化ストレス関連バイオマーカーの探索

(研究担当者名:藤村 由紀、三浦 大典(メタボリック・プロファイリンググループ)、井口 登與志、横溝 久(レドックス疾患創薬グループ)) 

【研究の目的】 最も臨床応用が検討されている尿中8-iso-PGF2α排泄量や尿

中8-OHdG排泄量は、動物モデルでは比較的良好な簡易酸化ストレスマーカー

として利用可能だが、ヒトを対象とした詳細な病態解析には、より鋭敏でかつ簡

便なバイオマーカーの開発が期待される。そこで、メタボリック・プロファイリ

ンググループおよび田辺三菱製薬と共同で、これまで確立した糖尿病モデル動

物の系を用い新たなレドックス関連バイオマーカーの探索を開始した。

【研究方法】 ICRマウスにストレプトゾトシン(STZ)投与により糖尿病を作

成し、ビリベルジン(BVD)投与による酸化ストレス抑制実験を行った。対照

正常群、対照ビリベルジン投与群、糖尿病群、糖尿病ビリベルジン投与群の4

群より尿および血清を採取し、島津高速液体クロマトグラム質量分析計

LCMS-IT-TOFを使用しメタボリック・プロファイリングを行った。

【研究成果】 LCMS-IT-TOF測定により、糖尿病でのみ増加し、ビリベルジン

投与により改善する低分子物質が数種類検出された(図8.1)。これらは、既知

の8-OHdGや8-iso-PGF2αなどの分子よりも、鋭敏な変動を認める物質で

あった。今後、これらの候補低分子物質の構造決定を行う。さらに、登録追跡

中の福岡生活習慣病コホート12400例の検体を用い、同定したバイオマー

カーのヒトでの有用性を検討する予定である。

2726 2928

R E D O X N A V I  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果 R E D O X N A V I

  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果

(図8 . 1)部分最小二乗法判別分析による     STZ投与ラットに対するBVD投与の影響の評価(図1 . 1)再灌流24時間後の脳レドックス画像

(図1 . 2)ラット脳内におけるGSHおよび     GSSGの質量分析イメージングおよびレドックスマップ

(図2 . 1)シスプラチン(CDDP)投与ラット腎におけるOMRI画像解析A)Saline投与後ラット腎臓のレドックスマップとOMRI画像、B)CDDP投与後1時間の腎のレドックスマップとOMRI画像

(図3 . 1)OMRI/MSイメージングによるレドックスプローブの高精細分布画像

(図4 . 1)腫瘍におけるCAT-1封入リポソームのOMRI画像化A)CAT1封入リポソーム投与後のOMRIによる腫瘍の局所イメージング(差画像(上)とESR off画像(下))、 B)ROIの選択と、カップラーの設置写真、 C)ROIにおける強度変化

新たな先端融合領域の創成をめざす

グループ横断型先端融合研究

要 旨

① MS及びOMRIを用いた脳虚血再灌流ラットの脳内レドックスイメージング

(研究担当者名:大和 真由実、兵藤 文紀(画像解析グループ)、藤村 由紀、三浦 大典(メタボリック・プロファイリンググループ)) 

【研究の目的】 我が国において、「脳血管疾患」は死因の第3位を占め、その病

態メカニズム研究及び治療法開発が望まれている。脳血管障害時には、フ

リーラジカル生成、生体内抗酸化系の破綻、さらにはミトコンドリア機能障害

が惹起される。これらの変化を視覚化できれば、脳血管障害の治療戦略に貢

献出来ると考えられることから生体内レドックス反応を、オーバーハウザー

MRI(OMRI)及び質量分析イメージングを用いて画像解析することを試みた。

【研究方法】 実験には、wistar系ラット(雄性、6週齢)を用いた。脳梗塞モデル

は、ナイロン糸を用い、中大脳動脈付近を虚血させることにより作成した

(MCAOモデル:虚血1時間+再灌流3あるいは24時間)。OMRI測定の造影剤

には、methoxycarbonyl-PROXYLを用いた。また、質量分析イメージングに

は、再灌流24時間後に脳を摘出し、クリオモルドにOTCコンパウンドを用い

て包埋し-80℃で保存した脳組織を用いた。この脳組織を10 μmの凍結切片

とし、Indium tin oxide coated スライドガラスに貼り付けた。MSイメージン

グ用凍結切片にはイオン化のためのマトリックス(9-aminoacridine)をスプ

レーで均一に塗布・乾燥後、MALDI-TOF-MS(AXIMA Confidence)を用いネ

ガティブモードにて50 μmの空間分解能で質量分析イメージングを行った。

【研究成果】 OMRI測定:脳虚血再灌流時には、ミトコンドリア電子伝達系酵

素活性の低下やアスコルビン酸等の還元物質濃度の低下が起こると報告され

ている。これらの変化は、造影剤であるmethoxycarbonyl-PROXYLの輝度に

関与する。この反応を利用し、脳虚血再灌流ラットの脳レドックス画像を撮

像した。造影剤であるmethoxycarbonyl-PROXYLの画像輝度は、投与直後脳

へ移行し速やかに減衰することがOMRI画像から確認された。再灌流3時間

群においては、両半球の輝度減衰速度に違いは認められなかった。一方、再灌

流24時間後にOMRI測定を行ったところ、虚血半球画像輝度減衰の遅延が認

められた(図1.1)。脳虚血再灌流後のミトコンドリア電子伝達系酵素活性に

ついては、再灌流3時間では両半球に違いは認められなかったが、再灌流24時

間後では、複合体Ⅱの酵素活性が虚血半球にて低下していた。また、低分子還

元物質については、再灌流3時間後でグルタチオン濃度の低下が認められ、再

灌流24時間後にはアスコルビン酸の低下が認められた。以上の結果から、

OMRIで視覚化されたレドックス変動は、脳虚血再灌流により惹起されたミ

トコンドリア機能不全や脳内還元物質の低下によるものであると考えられる。

質量分析イメージング:OMRIを用いた画像解析は、非侵襲解析を可能にする

一方で、マクロスコピックなレドックス反応情報しか得られないという問題

点が上げられる。そこで、質量分析イメージングを同じサンプルに適用する

ことで、組織内レドックス変動を物質レベルでとらえることを試みた。摘出

した脳組織を10 μm厚の薄切片にしてマトリックスを噴霧し、直接質量分析

を行った結果、GSH(m/z=306.08)およびGSSG(m/z=611.14)由来の明瞭

なピークが検出され、標品のMS/MSスペクトルと比較することで同定した。

それぞれのピーク強度を元にイメージング画像を作成した結果、虚血再灌流

により障害を受けた虚血半球大脳皮質において、GSH、GSSGどちらの強度も

極端に減少していることが明らかとなった。これは、再灌流後24時間経過し

たことによる浮腫の形成に伴い、組織中から流出したためと考えられる。さ

らに、GSHおよびGSSGの質量分析イメージング画像からGSSG/GSH ratio

map(レドックスマップ)を作成した結果、これまで障害がないと考えられて

いた非梗塞半球大脳皮質において、より還元的な環境になっていることが明

らかとなった。このように、in vivoで計測可能なOMRIイメージングからは得

られなかった情報を、質量分析イメージングを相補的に利用することで得ら

れることが示された。

② 疾病・薬物が誘発する生体変化・毒性の超早期検出を目指したMalti-modality imaging(OMRI/MALDI-TOF-MS)による解析法の確立“シスプラチン誘発腎毒性の解析”

(研究担当者名:兵藤 文紀(画像解析グループ)、藤村 由紀、三浦 大典(メタボリック・プロファイリンググループ))

【研究の目的】 本研究では、生体レドックス画像解析装置であるOMRIと

MALDI-TOF-MS imaging法の二つのイメージング装置から得られる画像

情報を軸として、疾病・薬物が誘発する生体変化・毒性の超早期検出を目的と

した。具体的には、薬物が誘発する生体毒性の一例として毒性発現に活性酸

素種の関与が報告されている抗がん剤の一つであるシスプラチン誘発腎毒

性に着目し、OMRI/MALDI-TOF-MSによる解析を行った。

【研究方法】 シスプラチン誘発腎毒性モデルは、5週齢の雄性Wistarラット

にシスプラチン(CDDP:10mg/kg)を腹腔内投与する事により作製した。

OMRI測定は、造影剤としてcarbamoyl-PROXYLを用いて、CDDP投与後1時

間及び72時間にて行った。その後、腎組織、血液および尿を採取した。腎臓は、

クリオモルドにOTCコンパウンドを用いて包埋し-80℃で保存した。次に、

クリオスタットで10μmの凍結切片を作製し、Indium tin oxide coated スラ

イドガラスに貼り付けた。MSイメージング用凍結切片にはイオン化のため

のマトリックス(DHB:Dihydroxybenzoic acid)をスプレーで均一に塗布・乾

燥後、MALDI-TOF-MS(Axima Confidence)を用いネガティブモードにて

MSイメージング(1pixel 50μm)を行った。

【研究結果】 Carbamoyl-PROXYL投与後、腎において信号強度の上昇が観

察され、その後時間と共に減少した。また信号は皮質側よりも腎盂側でより

高強度を示した。シスプラチン投与後1時間のラットでは、コントロールラッ

トに比べcarbamoyl-PROXYLの還元速度が低下した(図2.1)。また、

MALDI-TOF-MSイメージングでは、特徴的なピーク(m/z 885)が検出され、

MS/MS解析によりm/z885はPhosphatidylinositol(PI)であることがわかっ

た。さらに、シスプラチン投与1時間の腎組織切片でコントロール群には存在

しない分子種が多数みつかった(図2.2)。その多くは分子量が800を超える

脂質由来と思われる分子種であった。これらのCDDP由来分子種の多くは、

皮質側に強く発現していた。本実験では、CDDP投与後1時間という非常に早

い段階において腎組織内のレドックス変動が惹起されていることを示し、ま

たOMRIイメージング後の同一個体のラット腎組織をMSイメージング解析

によりプロファイリングし腎皮質、髄質等に局在するCDDP由来代謝物を観

測することに成功した。

③ OMRI/MSイメージングによる高精度レドックス解析法の開発(研究担当者名:兵藤 文紀(画像解析グループ)、藤村 由紀、三浦 大典(メタボリック・プロファイリンググループ))

【研究の目的】 生体レドックス解析には、レドックス感受性造影剤としてニ

トロキシルラジカルが汎用されている。用いるニトロキシルラジカルの物性

により膜透過性や生体内還元物質との反応性が異なり、これらの違いを利用

すると細胞内外や反応性を区別して生体レドックスを解析できる。しかしな

がら、解像度の問題からニトロキシルラジカルの詳細な生体内分布について

 九州大学では、レドックス関連疾

患の早期診断・治療法の確立、治療薬

の開発を指向した先端融合医療領域

を創生するため、医学、薬学、農学、工

学の学の英知と医療・製薬・分析機器

の各工業界の創造力を結集し研究を

進めている。当初、各グループ間(協

働機関を含む)の融合研究は、4年次

以降と予定していたが、すでに8テー

マの融合研究がスタートしている。

研究内容については、左記の図中の

番号に従って記載した。

は不明であった。そこで、本研究では、MALDI-TOF-MSを用いニトロキシル

ラジカルの1つであるTetraethyl-CAT1の分布画像について検討した。

【研究方法】 6週齢の雄性C57BL6マウスをイソフルラン(2.5%)で麻酔後、

Tetraethyl-CAT1 を投与し、OMRI測定を行った。その後、心臓及び腎臓を摘出

し、速やかにクリオモルドにOTCコンパウンドを用いて包埋し-80℃で保存し

た。次にクリオスタットで10μmの凍結切片を作製し、組織切片をIndium tin

oxide coated スライドガラスに貼り付け、イオン化のためのマトリックス

(DHB)をスプレーで均一に塗布・乾燥後、MALDI-TOF-MS(Axima Confidence)

を用いポジティブモードにてMSイメージング(1pixel 50μm)を行った。

【研究成果】 OMRI測定では、Tetraethyl-CAT1がマウスの心臓に高濃度に

分布していることが明らかとなった(図3.1)。次に、心臓および腎臓の組織切

片について、MSイメージングを行ったところ、両組織においてTetraethyl-

CAT1の分子量である271.2のピークを得た。このピークの画像化により、心

臓内ではTetraethyl-CAT1は局在的に分布している様子が明らかとなった。

また腎臓においては、Tetraethyl-CAT1は髄質に比べ皮質部位により多く蓄

積していることが明らかとなった。

④ がん・間質を標的としたレドックス感受性リポソームの開発とその応用

(研究担当者名:兵藤 文紀(画像解析グループ)、馬崎 雄二(がん診断・創薬グループ)) 

【研究の目的】 本研究では生体レドックス画像解析装置であるオーバーハウ

ザー MRI(OMRI)を用いてがん間質の非侵襲レドックス画像解析を目的とし、

がん局所に蓄積するニトロキシルプローブ封入リポソームの開発を検討した。

【研究方法】 NL-17細胞(1.0×106)懸濁液を6週齢の雌性Balb/cマウスの

右大腿部に筋肉内投与し大腿部移植腫瘍モデルマウスの作成を行った。15N-CAT-1封入リポソーム(組成比DSPC:CH:DSPE-PEG2000=10:5:1)

を凍結融解法によって作製し、Mini Extruderによりリポソームの粒子径を

100 nmに調整した。このリポソーム溶液300μl(脂質35.51 mg)を大腿部

移植腫瘍モデルマウスに尾静脈内投与し、経時的にOMRI測定を行った。

【研究成果】 15N-CAT-1封入リポソームを大腿部移植腫瘍モデルマウスに

尾静脈投与し、大腿部の経時的OMRI測定を行った。投与後1時間後から画像

強度の上昇がOMRIにより観測され、投与後12時間および24時間後では腫瘍

における画像輝度が最も高く、CAT-1封入リポソームが腫瘍付近に滞留して

いることが明らかとなった。その後36、 48時間後その強度は減少した。以上

より血液中のリポソームに内封されたCAT-1のシグナル量が投与後一定し

て減少していることが示された。本実験より、CAT-1封入リポソームが

NL-17由来のマウス腫瘍に蓄積することが本研究で明らかとなった。

⑤ レドックス内視鏡の開発(研究担当者名:洪 在成、村田 正治(内視鏡グループ)、市川 和洋(画像解析グループ))

 レドックス対応手術支援システムの設計・試作に合わせて、レドックス画像

によるナビゲーション技術の開発に着手し、生体レドックス診断画像

(OMRI)に基づく世界初のレドックスナビゲーション内視鏡外科手術を、実

験動物を対象に実施した。詳細については、「レドックス内視鏡グループ」の

項に記した。

⑥ 膵癌特異的代謝物同定に向けたメタボリック・プロファイリング(研究担当者名:大内田研宙(内視鏡グループ)、藤村 由紀、三浦 大典(メタボリック・プロファイリンググループ)) 

【研究の目的】 膵癌は5年生存率が3%と、ここ30年間予後の改善がない疾

患である。そのため早期診断マーカー、新規治療法の開発が強く望まれてい

る。本研究により膵癌のメタボリック・プロファイリングを行い、新規マー

カー・治療標的分子の同定を行った。

【研究方法】 ヒト膵癌細胞株および膵管上皮細胞を不死化した細胞株をMS解

析にてmetabolic profilingを行い、癌特異的な代謝物の同定を行った。同時に、

mRNAレベルでも、定量的リアルタイムRT-PCRあるいは代謝関連分子に

focusした microarrayにより、レドックス関連分子を中心にメタボリック関連

分子の網羅的なスクリーニングを行い、MS解析結果との比較検討を行った。

【研究成果】 膵癌の治療抵抗性に関連する代謝産物を同定するため、放射線

耐性株(CAPAN-1、CFPAC-1)、及び膵癌の第一選択薬であるGemcitabine

耐性である膵癌細胞株(SUIT2、Capan-1)を樹立した。これらの治療抵抗性

を評価するためにin vitroの感受性試験を短期モデル(PI assay)において行っ

たところ、SUIT-2およびCAPAN-1のGemcitabine治療抵抗性株は十分な抵

抗性を獲得していた。また、CFPAC-1とCAPAN-1の放射線治療抵抗性を

colony formation assayにて評価したところ、明らかな耐性獲得を両細胞株に

おいて認めた。また、PI assayにおいては、CFPAC-1の治療抵抗性株におい

てIC50は明らかな上昇を認めたが、CAPAN-1の治療抵抗性株においては、

変化を認めなかった。

 次に、これらの耐性株について、メタノール抽出で得られた代謝物を

GC-MSを用いて解析を行った。その結果、CFPAC-1の放射線治療抵抗

性株であるR3-2 において、高濃度を示した代謝物として、Inositol、

Glycerol phosphate、beta-Alanine、Glycine、Inositol phosphate、

Glycerol-hexopyranosideが同定された。また、R3-2で低濃度を示した代

謝物としては、Phenylalanine、Hexadecanoic acid、Hexoseが同定された。

CAPAN-1 parent 細胞株及びCAPAN-1 Gemcitabine治療抵抗性株につ

いて同様に解析を行った。データ解析にはあらかじめ「各サンプル群が異

なる」という情報を与えてモデルを作成する手法である直交型部分最小二

乗法 (OPLS) を用いた。これらの結果及び解析により、GR-1 でより濃度

が高かった代謝物として、Serine、Glucose、Glycerol phosphateGR-1 で

より濃度が低かった代謝物として、Alanine、Leucine、Proline、Threonine、

Citrateが同定された。

 現在すでに同じ細胞株から抽出したRNAのマイクロアレイ解析を行い、網

羅的な発現解析を行っており、現在分析中である。現在までに同定した代謝

産物のリストに加えて網羅的なRNA解析を組み合わせることにより、治療抵

抗性に関わる代謝経路の同定を進めていくことができると考えられる。

⑦ MALDI-MSを用いたFenofibrate投与ラット肝臓のハイスループットメタボリックプロファイリング

(研究担当者名:藤村 由紀、三浦 大典(メタボリック・プロファイリンググループ)、山崎 真、太田 哲也(レドックス疾患創薬グループ)) 

【研究の目的】 本研究では、MALDI法を用いた低分子代謝物測定法の検討を

行い、その応用としてFenofibrateを投与したラット肝臓のメタボリック・プ

ロファイリングを試みた。

【研究方法】 測定には株式会社島津製作所製のレーザーイオン化四重極イオ

ントラップ飛行時間型質量分析装置(AXIMA®-QIT)を使用した。マトリクス

は9-アミノアクリジンを用いて、ネガティブモードで測定した。ADP、 ATP、

NADH、 NADPHの標準品を用いてイオンソース条件を最適化し、定量性・検

出限界およびMS/MS測定を実施した。メタボリック・プロファイリングは、

10週齢の雄ラット(F344/DuCrlCrlj rat)にFenofibrateあるいは媒体を14日

間投与した肝臓サンプルを用いた。肝臓サンプルを凍結破砕処理後、ホモジ

ネート調製あるいはメタノール/クロロホルムでクリーンアップ調製した状

態でMALDIプレートにマトリクスと混合してスポッティングした。検出

ピークは公共のデータベース (KEGG、 http://www.kegg.jp/)を用いて同定を

行い、同定代謝物について変動解析を実施した。

【研究成果】 標準品の検出に関しては、比較的良好な直線性(R2>0.99)と高

い検出感度(50 fmol/well)が確認された。肝臓サンプルからは数多くの低分

子代謝物が検出され、データベース照合によりLinoleic acid、Stearic acid等の

長鎖脂肪酸やADP、ATP、UDP、UTP等の核酸系代謝物あるいはGSH、GSSG

やNADH、NADPH等の酸化還元関連代謝物などが同定された。Fenofibrate

を投与したラット肝臓のメタボリック・プロファイリングを試みた結果、長鎖

脂肪酸類の顕著な低下、Acetyl CoAの低下とCoAの増加およびNADH、

NADPHの増加等のβ酸化の亢進を示唆する代謝物変動が得られた。あわせ

てATPの増加も確認され、これらの結果はFenofibrateの薬効であるPPARα

を介した脂質代謝改善作用に起因した変動と考えられた。本研究結果より、

MALDI-MSを用いて薬剤起因性の代謝物変動を従来法に比べて高速かつ簡

便に検出ができ、本手法が薬効・毒性評価やバイオマーカー探索などの創薬研

究に利用可能であると考えられる。

⑧ メタボリック・プロファイリングによる新しい酸化ストレス関連バイオマーカーの探索

(研究担当者名:藤村 由紀、三浦 大典(メタボリック・プロファイリンググループ)、井口 登與志、横溝 久(レドックス疾患創薬グループ)) 

【研究の目的】 最も臨床応用が検討されている尿中8-iso-PGF2α排泄量や尿

中8-OHdG排泄量は、動物モデルでは比較的良好な簡易酸化ストレスマーカー

として利用可能だが、ヒトを対象とした詳細な病態解析には、より鋭敏でかつ簡

便なバイオマーカーの開発が期待される。そこで、メタボリック・プロファイリ

ンググループおよび田辺三菱製薬と共同で、これまで確立した糖尿病モデル動

物の系を用い新たなレドックス関連バイオマーカーの探索を開始した。

【研究方法】 ICRマウスにストレプトゾトシン(STZ)投与により糖尿病を作

成し、ビリベルジン(BVD)投与による酸化ストレス抑制実験を行った。対照

正常群、対照ビリベルジン投与群、糖尿病群、糖尿病ビリベルジン投与群の4

群より尿および血清を採取し、島津高速液体クロマトグラム質量分析計

LCMS-IT-TOFを使用しメタボリック・プロファイリングを行った。

【研究成果】 LCMS-IT-TOF測定により、糖尿病でのみ増加し、ビリベルジン

投与により改善する低分子物質が数種類検出された(図8.1)。これらは、既知

の8-OHdGや8-iso-PGF2αなどの分子よりも、鋭敏な変動を認める物質で

あった。今後、これらの候補低分子物質の構造決定を行う。さらに、登録追跡

中の福岡生活習慣病コホート12400例の検体を用い、同定したバイオマー

カーのヒトでの有用性を検討する予定である。

2726 2928

R E D O X N A V I  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果 R E D O X N A V I

  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果

(図8 . 1)部分最小二乗法判別分析による     STZ投与ラットに対するBVD投与の影響の評価(図1 . 1)再灌流24時間後の脳レドックス画像

(図1 . 2)ラット脳内におけるGSHおよび     GSSGの質量分析イメージングおよびレドックスマップ

(図2 . 1)シスプラチン(CDDP)投与ラット腎におけるOMRI画像解析A)Saline投与後ラット腎臓のレドックスマップとOMRI画像、B)CDDP投与後1時間の腎のレドックスマップとOMRI画像

(図3 . 1)OMRI/MSイメージングによるレドックスプローブの高精細分布画像

(図4 . 1)腫瘍におけるCAT-1封入リポソームのOMRI画像化A)CAT1封入リポソーム投与後のOMRIによる腫瘍の局所イメージング(差画像(上)とESR off画像(下))、 B)ROIの選択と、カップラーの設置写真、 C)ROIにおける強度変化

新たな先端融合領域の創成をめざす

グループ横断型先端融合研究

要 旨

① MS及びOMRIを用いた脳虚血再灌流ラットの脳内レドックスイメージング

(研究担当者名:大和 真由実、兵藤 文紀(画像解析グループ)、藤村 由紀、三浦 大典(メタボリック・プロファイリンググループ)) 

【研究の目的】 我が国において、「脳血管疾患」は死因の第3位を占め、その病

態メカニズム研究及び治療法開発が望まれている。脳血管障害時には、フ

リーラジカル生成、生体内抗酸化系の破綻、さらにはミトコンドリア機能障害

が惹起される。これらの変化を視覚化できれば、脳血管障害の治療戦略に貢

献出来ると考えられることから生体内レドックス反応を、オーバーハウザー

MRI(OMRI)及び質量分析イメージングを用いて画像解析することを試みた。

【研究方法】 実験には、wistar系ラット(雄性、6週齢)を用いた。脳梗塞モデル

は、ナイロン糸を用い、中大脳動脈付近を虚血させることにより作成した

(MCAOモデル:虚血1時間+再灌流3あるいは24時間)。OMRI測定の造影剤

には、methoxycarbonyl-PROXYLを用いた。また、質量分析イメージングに

は、再灌流24時間後に脳を摘出し、クリオモルドにOTCコンパウンドを用い

て包埋し-80℃で保存した脳組織を用いた。この脳組織を10 μmの凍結切片

とし、Indium tin oxide coated スライドガラスに貼り付けた。MSイメージン

グ用凍結切片にはイオン化のためのマトリックス(9-aminoacridine)をスプ

レーで均一に塗布・乾燥後、MALDI-TOF-MS(AXIMA Confidence)を用いネ

ガティブモードにて50 μmの空間分解能で質量分析イメージングを行った。

【研究成果】 OMRI測定:脳虚血再灌流時には、ミトコンドリア電子伝達系酵

素活性の低下やアスコルビン酸等の還元物質濃度の低下が起こると報告され

ている。これらの変化は、造影剤であるmethoxycarbonyl-PROXYLの輝度に

関与する。この反応を利用し、脳虚血再灌流ラットの脳レドックス画像を撮

像した。造影剤であるmethoxycarbonyl-PROXYLの画像輝度は、投与直後脳

へ移行し速やかに減衰することがOMRI画像から確認された。再灌流3時間

群においては、両半球の輝度減衰速度に違いは認められなかった。一方、再灌

流24時間後にOMRI測定を行ったところ、虚血半球画像輝度減衰の遅延が認

められた(図1.1)。脳虚血再灌流後のミトコンドリア電子伝達系酵素活性に

ついては、再灌流3時間では両半球に違いは認められなかったが、再灌流24時

間後では、複合体Ⅱの酵素活性が虚血半球にて低下していた。また、低分子還

元物質については、再灌流3時間後でグルタチオン濃度の低下が認められ、再

灌流24時間後にはアスコルビン酸の低下が認められた。以上の結果から、

OMRIで視覚化されたレドックス変動は、脳虚血再灌流により惹起されたミ

トコンドリア機能不全や脳内還元物質の低下によるものであると考えられる。

質量分析イメージング:OMRIを用いた画像解析は、非侵襲解析を可能にする

一方で、マクロスコピックなレドックス反応情報しか得られないという問題

点が上げられる。そこで、質量分析イメージングを同じサンプルに適用する

ことで、組織内レドックス変動を物質レベルでとらえることを試みた。摘出

した脳組織を10 μm厚の薄切片にしてマトリックスを噴霧し、直接質量分析

を行った結果、GSH(m/z=306.08)およびGSSG(m/z=611.14)由来の明瞭

なピークが検出され、標品のMS/MSスペクトルと比較することで同定した。

それぞれのピーク強度を元にイメージング画像を作成した結果、虚血再灌流

により障害を受けた虚血半球大脳皮質において、GSH、GSSGどちらの強度も

極端に減少していることが明らかとなった。これは、再灌流後24時間経過し

たことによる浮腫の形成に伴い、組織中から流出したためと考えられる。さ

らに、GSHおよびGSSGの質量分析イメージング画像からGSSG/GSH ratio

map(レドックスマップ)を作成した結果、これまで障害がないと考えられて

いた非梗塞半球大脳皮質において、より還元的な環境になっていることが明

らかとなった。このように、in vivoで計測可能なOMRIイメージングからは得

られなかった情報を、質量分析イメージングを相補的に利用することで得ら

れることが示された。

② 疾病・薬物が誘発する生体変化・毒性の超早期検出を目指したMalti-modality imaging(OMRI/MALDI-TOF-MS)による解析法の確立“シスプラチン誘発腎毒性の解析”

(研究担当者名:兵藤 文紀(画像解析グループ)、藤村 由紀、三浦 大典(メタボリック・プロファイリンググループ))

【研究の目的】 本研究では、生体レドックス画像解析装置であるOMRIと

MALDI-TOF-MS imaging法の二つのイメージング装置から得られる画像

情報を軸として、疾病・薬物が誘発する生体変化・毒性の超早期検出を目的と

した。具体的には、薬物が誘発する生体毒性の一例として毒性発現に活性酸

素種の関与が報告されている抗がん剤の一つであるシスプラチン誘発腎毒

性に着目し、OMRI/MALDI-TOF-MSによる解析を行った。

【研究方法】 シスプラチン誘発腎毒性モデルは、5週齢の雄性Wistarラット

にシスプラチン(CDDP:10mg/kg)を腹腔内投与する事により作製した。

OMRI測定は、造影剤としてcarbamoyl-PROXYLを用いて、CDDP投与後1時

間及び72時間にて行った。その後、腎組織、血液および尿を採取した。腎臓は、

クリオモルドにOTCコンパウンドを用いて包埋し-80℃で保存した。次に、

クリオスタットで10μmの凍結切片を作製し、Indium tin oxide coated スラ

イドガラスに貼り付けた。MSイメージング用凍結切片にはイオン化のため

のマトリックス(DHB:Dihydroxybenzoic acid)をスプレーで均一に塗布・乾

燥後、MALDI-TOF-MS(Axima Confidence)を用いネガティブモードにて

MSイメージング(1pixel 50μm)を行った。

【研究結果】 Carbamoyl-PROXYL投与後、腎において信号強度の上昇が観

察され、その後時間と共に減少した。また信号は皮質側よりも腎盂側でより

高強度を示した。シスプラチン投与後1時間のラットでは、コントロールラッ

トに比べcarbamoyl-PROXYLの還元速度が低下した(図2.1)。また、

MALDI-TOF-MSイメージングでは、特徴的なピーク(m/z 885)が検出され、

MS/MS解析によりm/z885はPhosphatidylinositol(PI)であることがわかっ

た。さらに、シスプラチン投与1時間の腎組織切片でコントロール群には存在

しない分子種が多数みつかった(図2.2)。その多くは分子量が800を超える

脂質由来と思われる分子種であった。これらのCDDP由来分子種の多くは、

皮質側に強く発現していた。本実験では、CDDP投与後1時間という非常に早

い段階において腎組織内のレドックス変動が惹起されていることを示し、ま

たOMRIイメージング後の同一個体のラット腎組織をMSイメージング解析

によりプロファイリングし腎皮質、髄質等に局在するCDDP由来代謝物を観

測することに成功した。

③ OMRI/MSイメージングによる高精度レドックス解析法の開発(研究担当者名:兵藤 文紀(画像解析グループ)、藤村 由紀、三浦 大典(メタボリック・プロファイリンググループ))

【研究の目的】 生体レドックス解析には、レドックス感受性造影剤としてニ

トロキシルラジカルが汎用されている。用いるニトロキシルラジカルの物性

により膜透過性や生体内還元物質との反応性が異なり、これらの違いを利用

すると細胞内外や反応性を区別して生体レドックスを解析できる。しかしな

がら、解像度の問題からニトロキシルラジカルの詳細な生体内分布について

 九州大学では、レドックス関連疾

患の早期診断・治療法の確立、治療薬

の開発を指向した先端融合医療領域

を創生するため、医学、薬学、農学、工

学の学の英知と医療・製薬・分析機器

の各工業界の創造力を結集し研究を

進めている。当初、各グループ間(協

働機関を含む)の融合研究は、4年次

以降と予定していたが、すでに8テー

マの融合研究がスタートしている。

研究内容については、左記の図中の

番号に従って記載した。

は不明であった。そこで、本研究では、MALDI-TOF-MSを用いニトロキシル

ラジカルの1つであるTetraethyl-CAT1の分布画像について検討した。

【研究方法】 6週齢の雄性C57BL6マウスをイソフルラン(2.5%)で麻酔後、

Tetraethyl-CAT1 を投与し、OMRI測定を行った。その後、心臓及び腎臓を摘出

し、速やかにクリオモルドにOTCコンパウンドを用いて包埋し-80℃で保存し

た。次にクリオスタットで10μmの凍結切片を作製し、組織切片をIndium tin

oxide coated スライドガラスに貼り付け、イオン化のためのマトリックス

(DHB)をスプレーで均一に塗布・乾燥後、MALDI-TOF-MS(Axima Confidence)

を用いポジティブモードにてMSイメージング(1pixel 50μm)を行った。

【研究成果】 OMRI測定では、Tetraethyl-CAT1がマウスの心臓に高濃度に

分布していることが明らかとなった(図3.1)。次に、心臓および腎臓の組織切

片について、MSイメージングを行ったところ、両組織においてTetraethyl-

CAT1の分子量である271.2のピークを得た。このピークの画像化により、心

臓内ではTetraethyl-CAT1は局在的に分布している様子が明らかとなった。

また腎臓においては、Tetraethyl-CAT1は髄質に比べ皮質部位により多く蓄

積していることが明らかとなった。

④ がん・間質を標的としたレドックス感受性リポソームの開発とその応用

(研究担当者名:兵藤 文紀(画像解析グループ)、馬崎 雄二(がん診断・創薬グループ)) 

【研究の目的】 本研究では生体レドックス画像解析装置であるオーバーハウ

ザー MRI(OMRI)を用いてがん間質の非侵襲レドックス画像解析を目的とし、

がん局所に蓄積するニトロキシルプローブ封入リポソームの開発を検討した。

【研究方法】 NL-17細胞(1.0×106)懸濁液を6週齢の雌性Balb/cマウスの

右大腿部に筋肉内投与し大腿部移植腫瘍モデルマウスの作成を行った。15N-CAT-1封入リポソーム(組成比DSPC:CH:DSPE-PEG2000=10:5:1)

を凍結融解法によって作製し、Mini Extruderによりリポソームの粒子径を

100 nmに調整した。このリポソーム溶液300μl(脂質35.51 mg)を大腿部

移植腫瘍モデルマウスに尾静脈内投与し、経時的にOMRI測定を行った。

【研究成果】 15N-CAT-1封入リポソームを大腿部移植腫瘍モデルマウスに

尾静脈投与し、大腿部の経時的OMRI測定を行った。投与後1時間後から画像

強度の上昇がOMRIにより観測され、投与後12時間および24時間後では腫瘍

における画像輝度が最も高く、CAT-1封入リポソームが腫瘍付近に滞留して

いることが明らかとなった。その後36、 48時間後その強度は減少した。以上

より血液中のリポソームに内封されたCAT-1のシグナル量が投与後一定し

て減少していることが示された。本実験より、CAT-1封入リポソームが

NL-17由来のマウス腫瘍に蓄積することが本研究で明らかとなった。

⑤ レドックス内視鏡の開発(研究担当者名:洪 在成、村田 正治(内視鏡グループ)、市川 和洋(画像解析グループ))

 レドックス対応手術支援システムの設計・試作に合わせて、レドックス画像

によるナビゲーション技術の開発に着手し、生体レドックス診断画像

(OMRI)に基づく世界初のレドックスナビゲーション内視鏡外科手術を、実

験動物を対象に実施した。詳細については、「レドックス内視鏡グループ」の

項に記した。

⑥ 膵癌特異的代謝物同定に向けたメタボリック・プロファイリング(研究担当者名:大内田研宙(内視鏡グループ)、藤村 由紀、三浦 大典(メタボリック・プロファイリンググループ)) 

【研究の目的】 膵癌は5年生存率が3%と、ここ30年間予後の改善がない疾

患である。そのため早期診断マーカー、新規治療法の開発が強く望まれてい

る。本研究により膵癌のメタボリック・プロファイリングを行い、新規マー

カー・治療標的分子の同定を行った。

【研究方法】 ヒト膵癌細胞株および膵管上皮細胞を不死化した細胞株をMS解

析にてmetabolic profilingを行い、癌特異的な代謝物の同定を行った。同時に、

mRNAレベルでも、定量的リアルタイムRT-PCRあるいは代謝関連分子に

focusした microarrayにより、レドックス関連分子を中心にメタボリック関連

分子の網羅的なスクリーニングを行い、MS解析結果との比較検討を行った。

【研究成果】 膵癌の治療抵抗性に関連する代謝産物を同定するため、放射線

耐性株(CAPAN-1、CFPAC-1)、及び膵癌の第一選択薬であるGemcitabine

耐性である膵癌細胞株(SUIT2、Capan-1)を樹立した。これらの治療抵抗性

を評価するためにin vitroの感受性試験を短期モデル(PI assay)において行っ

たところ、SUIT-2およびCAPAN-1のGemcitabine治療抵抗性株は十分な抵

抗性を獲得していた。また、CFPAC-1とCAPAN-1の放射線治療抵抗性を

colony formation assayにて評価したところ、明らかな耐性獲得を両細胞株に

おいて認めた。また、PI assayにおいては、CFPAC-1の治療抵抗性株におい

てIC50は明らかな上昇を認めたが、CAPAN-1の治療抵抗性株においては、

変化を認めなかった。

 次に、これらの耐性株について、メタノール抽出で得られた代謝物を

GC-MSを用いて解析を行った。その結果、CFPAC-1の放射線治療抵抗

性株であるR3-2 において、高濃度を示した代謝物として、Inositol、

Glycerol phosphate、beta-Alanine、Glycine、Inositol phosphate、

Glycerol-hexopyranosideが同定された。また、R3-2で低濃度を示した代

謝物としては、Phenylalanine、Hexadecanoic acid、Hexoseが同定された。

CAPAN-1 parent 細胞株及びCAPAN-1 Gemcitabine治療抵抗性株につ

いて同様に解析を行った。データ解析にはあらかじめ「各サンプル群が異

なる」という情報を与えてモデルを作成する手法である直交型部分最小二

乗法 (OPLS) を用いた。これらの結果及び解析により、GR-1 でより濃度

が高かった代謝物として、Serine、Glucose、Glycerol phosphateGR-1 で

より濃度が低かった代謝物として、Alanine、Leucine、Proline、Threonine、

Citrateが同定された。

 現在すでに同じ細胞株から抽出したRNAのマイクロアレイ解析を行い、網

羅的な発現解析を行っており、現在分析中である。現在までに同定した代謝

産物のリストに加えて網羅的なRNA解析を組み合わせることにより、治療抵

抗性に関わる代謝経路の同定を進めていくことができると考えられる。

⑦ MALDI-MSを用いたFenofibrate投与ラット肝臓のハイスループットメタボリックプロファイリング

(研究担当者名:藤村 由紀、三浦 大典(メタボリック・プロファイリンググループ)、山崎 真、太田 哲也(レドックス疾患創薬グループ)) 

【研究の目的】 本研究では、MALDI法を用いた低分子代謝物測定法の検討を

行い、その応用としてFenofibrateを投与したラット肝臓のメタボリック・プ

ロファイリングを試みた。

【研究方法】 測定には株式会社島津製作所製のレーザーイオン化四重極イオ

ントラップ飛行時間型質量分析装置(AXIMA®-QIT)を使用した。マトリクス

は9-アミノアクリジンを用いて、ネガティブモードで測定した。ADP、 ATP、

NADH、 NADPHの標準品を用いてイオンソース条件を最適化し、定量性・検

出限界およびMS/MS測定を実施した。メタボリック・プロファイリングは、

10週齢の雄ラット(F344/DuCrlCrlj rat)にFenofibrateあるいは媒体を14日

間投与した肝臓サンプルを用いた。肝臓サンプルを凍結破砕処理後、ホモジ

ネート調製あるいはメタノール/クロロホルムでクリーンアップ調製した状

態でMALDIプレートにマトリクスと混合してスポッティングした。検出

ピークは公共のデータベース (KEGG、 http://www.kegg.jp/)を用いて同定を

行い、同定代謝物について変動解析を実施した。

【研究成果】 標準品の検出に関しては、比較的良好な直線性(R2>0.99)と高

い検出感度(50 fmol/well)が確認された。肝臓サンプルからは数多くの低分

子代謝物が検出され、データベース照合によりLinoleic acid、Stearic acid等の

長鎖脂肪酸やADP、ATP、UDP、UTP等の核酸系代謝物あるいはGSH、GSSG

やNADH、NADPH等の酸化還元関連代謝物などが同定された。Fenofibrate

を投与したラット肝臓のメタボリック・プロファイリングを試みた結果、長鎖

脂肪酸類の顕著な低下、Acetyl CoAの低下とCoAの増加およびNADH、

NADPHの増加等のβ酸化の亢進を示唆する代謝物変動が得られた。あわせ

てATPの増加も確認され、これらの結果はFenofibrateの薬効であるPPARα

を介した脂質代謝改善作用に起因した変動と考えられた。本研究結果より、

MALDI-MSを用いて薬剤起因性の代謝物変動を従来法に比べて高速かつ簡

便に検出ができ、本手法が薬効・毒性評価やバイオマーカー探索などの創薬研

究に利用可能であると考えられる。

⑧ メタボリック・プロファイリングによる新しい酸化ストレス関連バイオマーカーの探索

(研究担当者名:藤村 由紀、三浦 大典(メタボリック・プロファイリンググループ)、井口 登與志、横溝 久(レドックス疾患創薬グループ)) 

【研究の目的】 最も臨床応用が検討されている尿中8-iso-PGF2α排泄量や尿

中8-OHdG排泄量は、動物モデルでは比較的良好な簡易酸化ストレスマーカー

として利用可能だが、ヒトを対象とした詳細な病態解析には、より鋭敏でかつ簡

便なバイオマーカーの開発が期待される。そこで、メタボリック・プロファイリ

ンググループおよび田辺三菱製薬と共同で、これまで確立した糖尿病モデル動

物の系を用い新たなレドックス関連バイオマーカーの探索を開始した。

【研究方法】 ICRマウスにストレプトゾトシン(STZ)投与により糖尿病を作

成し、ビリベルジン(BVD)投与による酸化ストレス抑制実験を行った。対照

正常群、対照ビリベルジン投与群、糖尿病群、糖尿病ビリベルジン投与群の4

群より尿および血清を採取し、島津高速液体クロマトグラム質量分析計

LCMS-IT-TOFを使用しメタボリック・プロファイリングを行った。

【研究成果】 LCMS-IT-TOF測定により、糖尿病でのみ増加し、ビリベルジン

投与により改善する低分子物質が数種類検出された(図8.1)。これらは、既知

の8-OHdGや8-iso-PGF2αなどの分子よりも、鋭敏な変動を認める物質で

あった。今後、これらの候補低分子物質の構造決定を行う。さらに、登録追跡

中の福岡生活習慣病コホート12400例の検体を用い、同定したバイオマー

カーのヒトでの有用性を検討する予定である。

2726 2928

R E D O X N A V I  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果 R E D O X N A V I

  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 3年間の研究成果

(図8 . 1)部分最小二乗法判別分析による     STZ投与ラットに対するBVD投与の影響の評価(図1 . 1)再灌流24時間後の脳レドックス画像

(図1 . 2)ラット脳内におけるGSHおよび     GSSGの質量分析イメージングおよびレドックスマップ

(図2 . 1)シスプラチン(CDDP)投与ラット腎におけるOMRI画像解析A)Saline投与後ラット腎臓のレドックスマップとOMRI画像、B)CDDP投与後1時間の腎のレドックスマップとOMRI画像

(図3 . 1)OMRI/MSイメージングによるレドックスプローブの高精細分布画像

(図4 . 1)腫瘍におけるCAT-1封入リポソームのOMRI画像化A)CAT1封入リポソーム投与後のOMRIによる腫瘍の局所イメージング(差画像(上)とESR off画像(下))、 B)ROIの選択と、カップラーの設置写真、 C)ROIにおける強度変化

新たな先端融合領域の創成をめざす

グループ横断型先端融合研究

要 旨

① MS及びOMRIを用いた脳虚血再灌流ラットの脳内レドックスイメージング

(研究担当者名:大和 真由実、兵藤 文紀(画像解析グループ)、藤村 由紀、三浦 大典(メタボリック・プロファイリンググループ)) 

【研究の目的】 我が国において、「脳血管疾患」は死因の第3位を占め、その病

態メカニズム研究及び治療法開発が望まれている。脳血管障害時には、フ

リーラジカル生成、生体内抗酸化系の破綻、さらにはミトコンドリア機能障害

が惹起される。これらの変化を視覚化できれば、脳血管障害の治療戦略に貢

献出来ると考えられることから生体内レドックス反応を、オーバーハウザー

MRI(OMRI)及び質量分析イメージングを用いて画像解析することを試みた。

【研究方法】 実験には、wistar系ラット(雄性、6週齢)を用いた。脳梗塞モデル

は、ナイロン糸を用い、中大脳動脈付近を虚血させることにより作成した

(MCAOモデル:虚血1時間+再灌流3あるいは24時間)。OMRI測定の造影剤

には、methoxycarbonyl-PROXYLを用いた。また、質量分析イメージングに

は、再灌流24時間後に脳を摘出し、クリオモルドにOTCコンパウンドを用い

て包埋し-80℃で保存した脳組織を用いた。この脳組織を10 μmの凍結切片

とし、Indium tin oxide coated スライドガラスに貼り付けた。MSイメージン

グ用凍結切片にはイオン化のためのマトリックス(9-aminoacridine)をスプ

レーで均一に塗布・乾燥後、MALDI-TOF-MS(AXIMA Confidence)を用いネ

ガティブモードにて50 μmの空間分解能で質量分析イメージングを行った。

【研究成果】 OMRI測定:脳虚血再灌流時には、ミトコンドリア電子伝達系酵

素活性の低下やアスコルビン酸等の還元物質濃度の低下が起こると報告され

ている。これらの変化は、造影剤であるmethoxycarbonyl-PROXYLの輝度に

関与する。この反応を利用し、脳虚血再灌流ラットの脳レドックス画像を撮

像した。造影剤であるmethoxycarbonyl-PROXYLの画像輝度は、投与直後脳

へ移行し速やかに減衰することがOMRI画像から確認された。再灌流3時間

群においては、両半球の輝度減衰速度に違いは認められなかった。一方、再灌

流24時間後にOMRI測定を行ったところ、虚血半球画像輝度減衰の遅延が認

められた(図1.1)。脳虚血再灌流後のミトコンドリア電子伝達系酵素活性に

ついては、再灌流3時間では両半球に違いは認められなかったが、再灌流24時

間後では、複合体Ⅱの酵素活性が虚血半球にて低下していた。また、低分子還

元物質については、再灌流3時間後でグルタチオン濃度の低下が認められ、再

灌流24時間後にはアスコルビン酸の低下が認められた。以上の結果から、

OMRIで視覚化されたレドックス変動は、脳虚血再灌流により惹起されたミ

トコンドリア機能不全や脳内還元物質の低下によるものであると考えられる。

質量分析イメージング:OMRIを用いた画像解析は、非侵襲解析を可能にする

一方で、マクロスコピックなレドックス反応情報しか得られないという問題

点が上げられる。そこで、質量分析イメージングを同じサンプルに適用する

ことで、組織内レドックス変動を物質レベルでとらえることを試みた。摘出

した脳組織を10 μm厚の薄切片にしてマトリックスを噴霧し、直接質量分析

を行った結果、GSH(m/z=306.08)およびGSSG(m/z=611.14)由来の明瞭

なピークが検出され、標品のMS/MSスペクトルと比較することで同定した。

それぞれのピーク強度を元にイメージング画像を作成した結果、虚血再灌流

により障害を受けた虚血半球大脳皮質において、GSH、GSSGどちらの強度も

極端に減少していることが明らかとなった。これは、再灌流後24時間経過し

たことによる浮腫の形成に伴い、組織中から流出したためと考えられる。さ

らに、GSHおよびGSSGの質量分析イメージング画像からGSSG/GSH ratio

map(レドックスマップ)を作成した結果、これまで障害がないと考えられて

いた非梗塞半球大脳皮質において、より還元的な環境になっていることが明

らかとなった。このように、in vivoで計測可能なOMRIイメージングからは得

られなかった情報を、質量分析イメージングを相補的に利用することで得ら

れることが示された。

② 疾病・薬物が誘発する生体変化・毒性の超早期検出を目指したMalti-modality imaging(OMRI/MALDI-TOF-MS)による解析法の確立“シスプラチン誘発腎毒性の解析”

(研究担当者名:兵藤 文紀(画像解析グループ)、藤村 由紀、三浦 大典(メタボリック・プロファイリンググループ))

【研究の目的】 本研究では、生体レドックス画像解析装置であるOMRIと

MALDI-TOF-MS imaging法の二つのイメージング装置から得られる画像

情報を軸として、疾病・薬物が誘発する生体変化・毒性の超早期検出を目的と

した。具体的には、薬物が誘発する生体毒性の一例として毒性発現に活性酸

素種の関与が報告されている抗がん剤の一つであるシスプラチン誘発腎毒

性に着目し、OMRI/MALDI-TOF-MSによる解析を行った。

【研究方法】 シスプラチン誘発腎毒性モデルは、5週齢の雄性Wistarラット

にシスプラチン(CDDP:10mg/kg)を腹腔内投与する事により作製した。

OMRI測定は、造影剤としてcarbamoyl-PROXYLを用いて、CDDP投与後1時

間及び72時間にて行った。その後、腎組織、血液および尿を採取した。腎臓は、

クリオモルドにOTCコンパウンドを用いて包埋し-80℃で保存した。次に、

クリオスタットで10μmの凍結切片を作製し、Indium tin oxide coated スラ

イドガラスに貼り付けた。MSイメージング用凍結切片にはイオン化のため

のマトリックス(DHB:Dihydroxybenzoic acid)をスプレーで均一に塗布・乾

燥後、MALDI-TOF-MS(Axima Confidence)を用いネガティブモードにて

MSイメージング(1pixel 50μm)を行った。

【研究結果】 Carbamoyl-PROXYL投与後、腎において信号強度の上昇が観

察され、その後時間と共に減少した。また信号は皮質側よりも腎盂側でより

高強度を示した。シスプラチン投与後1時間のラットでは、コントロールラッ

トに比べcarbamoyl-PROXYLの還元速度が低下した(図2.1)。また、

MALDI-TOF-MSイメージングでは、特徴的なピーク(m/z 885)が検出され、

MS/MS解析によりm/z885はPhosphatidylinositol(PI)であることがわかっ

た。さらに、シスプラチン投与1時間の腎組織切片でコントロール群には存在

しない分子種が多数みつかった(図2.2)。その多くは分子量が800を超える

脂質由来と思われる分子種であった。これらのCDDP由来分子種の多くは、

皮質側に強く発現していた。本実験では、CDDP投与後1時間という非常に早

い段階において腎組織内のレドックス変動が惹起されていることを示し、ま

たOMRIイメージング後の同一個体のラット腎組織をMSイメージング解析

によりプロファイリングし腎皮質、髄質等に局在するCDDP由来代謝物を観

測することに成功した。

③ OMRI/MSイメージングによる高精度レドックス解析法の開発(研究担当者名:兵藤 文紀(画像解析グループ)、藤村 由紀、三浦 大典(メタボリック・プロファイリンググループ))

【研究の目的】 生体レドックス解析には、レドックス感受性造影剤としてニ

トロキシルラジカルが汎用されている。用いるニトロキシルラジカルの物性

により膜透過性や生体内還元物質との反応性が異なり、これらの違いを利用

すると細胞内外や反応性を区別して生体レドックスを解析できる。しかしな

がら、解像度の問題からニトロキシルラジカルの詳細な生体内分布について

 九州大学では、レドックス関連疾

患の早期診断・治療法の確立、治療薬

の開発を指向した先端融合医療領域

を創生するため、医学、薬学、農学、工

学の学の英知と医療・製薬・分析機器

の各工業界の創造力を結集し研究を

進めている。当初、各グループ間(協

働機関を含む)の融合研究は、4年次

以降と予定していたが、すでに8テー

マの融合研究がスタートしている。

研究内容については、左記の図中の

番号に従って記載した。

は不明であった。そこで、本研究では、MALDI-TOF-MSを用いニトロキシル

ラジカルの1つであるTetraethyl-CAT1の分布画像について検討した。

【研究方法】 6週齢の雄性C57BL6マウスをイソフルラン(2.5%)で麻酔後、

Tetraethyl-CAT1 を投与し、OMRI測定を行った。その後、心臓及び腎臓を摘出

し、速やかにクリオモルドにOTCコンパウンドを用いて包埋し-80℃で保存し

た。次にクリオスタットで10μmの凍結切片を作製し、組織切片をIndium tin

oxide coated スライドガラスに貼り付け、イオン化のためのマトリックス

(DHB)をスプレーで均一に塗布・乾燥後、MALDI-TOF-MS(Axima Confidence)

を用いポジティブモードにてMSイメージング(1pixel 50μm)を行った。

【研究成果】 OMRI測定では、Tetraethyl-CAT1がマウスの心臓に高濃度に

分布していることが明らかとなった(図3.1)。次に、心臓および腎臓の組織切

片について、MSイメージングを行ったところ、両組織においてTetraethyl-

CAT1の分子量である271.2のピークを得た。このピークの画像化により、心

臓内ではTetraethyl-CAT1は局在的に分布している様子が明らかとなった。

また腎臓においては、Tetraethyl-CAT1は髄質に比べ皮質部位により多く蓄

積していることが明らかとなった。

④ がん・間質を標的としたレドックス感受性リポソームの開発とその応用

(研究担当者名:兵藤 文紀(画像解析グループ)、馬崎 雄二(がん診断・創薬グループ)) 

【研究の目的】 本研究では生体レドックス画像解析装置であるオーバーハウ

ザー MRI(OMRI)を用いてがん間質の非侵襲レドックス画像解析を目的とし、

がん局所に蓄積するニトロキシルプローブ封入リポソームの開発を検討した。

【研究方法】 NL-17細胞(1.0×106)懸濁液を6週齢の雌性Balb/cマウスの

右大腿部に筋肉内投与し大腿部移植腫瘍モデルマウスの作成を行った。15N-CAT-1封入リポソーム(組成比DSPC:CH:DSPE-PEG2000=10:5:1)

を凍結融解法によって作製し、Mini Extruderによりリポソームの粒子径を

100 nmに調整した。このリポソーム溶液300μl(脂質35.51 mg)を大腿部

移植腫瘍モデルマウスに尾静脈内投与し、経時的にOMRI測定を行った。

【研究成果】 15N-CAT-1封入リポソームを大腿部移植腫瘍モデルマウスに

尾静脈投与し、大腿部の経時的OMRI測定を行った。投与後1時間後から画像

強度の上昇がOMRIにより観測され、投与後12時間および24時間後では腫瘍

における画像輝度が最も高く、CAT-1封入リポソームが腫瘍付近に滞留して

いることが明らかとなった。その後36、 48時間後その強度は減少した。以上

より血液中のリポソームに内封されたCAT-1のシグナル量が投与後一定し

て減少していることが示された。本実験より、CAT-1封入リポソームが

NL-17由来のマウス腫瘍に蓄積することが本研究で明らかとなった。

⑤ レドックス内視鏡の開発(研究担当者名:洪 在成、村田 正治(内視鏡グループ)、市川 和洋(画像解析グループ))

 レドックス対応手術支援システムの設計・試作に合わせて、レドックス画像

によるナビゲーション技術の開発に着手し、生体レドックス診断画像

(OMRI)に基づく世界初のレドックスナビゲーション内視鏡外科手術を、実

験動物を対象に実施した。詳細については、「レドックス内視鏡グループ」の

項に記した。

⑥ 膵癌特異的代謝物同定に向けたメタボリック・プロファイリング(研究担当者名:大内田研宙(内視鏡グループ)、藤村 由紀、三浦 大典(メタボリック・プロファイリンググループ)) 

【研究の目的】 膵癌は5年生存率が3%と、ここ30年間予後の改善がない疾

患である。そのため早期診断マーカー、新規治療法の開発が強く望まれてい

る。本研究により膵癌のメタボリック・プロファイリングを行い、新規マー

カー・治療標的分子の同定を行った。

【研究方法】 ヒト膵癌細胞株および膵管上皮細胞を不死化した細胞株をMS解

析にてmetabolic profilingを行い、癌特異的な代謝物の同定を行った。同時に、

mRNAレベルでも、定量的リアルタイムRT-PCRあるいは代謝関連分子に

focusした microarrayにより、レドックス関連分子を中心にメタボリック関連

分子の網羅的なスクリーニングを行い、MS解析結果との比較検討を行った。

【研究成果】 膵癌の治療抵抗性に関連する代謝産物を同定するため、放射線

耐性株(CAPAN-1、CFPAC-1)、及び膵癌の第一選択薬であるGemcitabine

耐性である膵癌細胞株(SUIT2、Capan-1)を樹立した。これらの治療抵抗性

を評価するためにin vitroの感受性試験を短期モデル(PI assay)において行っ

たところ、SUIT-2およびCAPAN-1のGemcitabine治療抵抗性株は十分な抵

抗性を獲得していた。また、CFPAC-1とCAPAN-1の放射線治療抵抗性を

colony formation assayにて評価したところ、明らかな耐性獲得を両細胞株に

おいて認めた。また、PI assayにおいては、CFPAC-1の治療抵抗性株におい

てIC50は明らかな上昇を認めたが、CAPAN-1の治療抵抗性株においては、

変化を認めなかった。

 次に、これらの耐性株について、メタノール抽出で得られた代謝物を

GC-MSを用いて解析を行った。その結果、CFPAC-1の放射線治療抵抗

性株であるR3-2 において、高濃度を示した代謝物として、Inositol、

Glycerol phosphate、beta-Alanine、Glycine、Inositol phosphate、

Glycerol-hexopyranosideが同定された。また、R3-2で低濃度を示した代

謝物としては、Phenylalanine、Hexadecanoic acid、Hexoseが同定された。

CAPAN-1 parent 細胞株及びCAPAN-1 Gemcitabine治療抵抗性株につ

いて同様に解析を行った。データ解析にはあらかじめ「各サンプル群が異

なる」という情報を与えてモデルを作成する手法である直交型部分最小二

乗法 (OPLS) を用いた。これらの結果及び解析により、GR-1 でより濃度

が高かった代謝物として、Serine、Glucose、Glycerol phosphateGR-1 で

より濃度が低かった代謝物として、Alanine、Leucine、Proline、Threonine、

Citrateが同定された。

 現在すでに同じ細胞株から抽出したRNAのマイクロアレイ解析を行い、網

羅的な発現解析を行っており、現在分析中である。現在までに同定した代謝

産物のリストに加えて網羅的なRNA解析を組み合わせることにより、治療抵

抗性に関わる代謝経路の同定を進めていくことができると考えられる。

⑦ MALDI-MSを用いたFenofibrate投与ラット肝臓のハイスループットメタボリックプロファイリング

(研究担当者名:藤村 由紀、三浦 大典(メタボリック・プロファイリンググループ)、山崎 真、太田 哲也(レドックス疾患創薬グループ)) 

【研究の目的】 本研究では、MALDI法を用いた低分子代謝物測定法の検討を

行い、その応用としてFenofibrateを投与したラット肝臓のメタボリック・プ

ロファイリングを試みた。

【研究方法】 測定には株式会社島津製作所製のレーザーイオン化四重極イオ

ントラップ飛行時間型質量分析装置(AXIMA®-QIT)を使用した。マトリクス

は9-アミノアクリジンを用いて、ネガティブモードで測定した。ADP、 ATP、

NADH、 NADPHの標準品を用いてイオンソース条件を最適化し、定量性・検

出限界およびMS/MS測定を実施した。メタボリック・プロファイリングは、

10週齢の雄ラット(F344/DuCrlCrlj rat)にFenofibrateあるいは媒体を14日

間投与した肝臓サンプルを用いた。肝臓サンプルを凍結破砕処理後、ホモジ

ネート調製あるいはメタノール/クロロホルムでクリーンアップ調製した状

態でMALDIプレートにマトリクスと混合してスポッティングした。検出

ピークは公共のデータベース (KEGG、 http://www.kegg.jp/)を用いて同定を

行い、同定代謝物について変動解析を実施した。

【研究成果】 標準品の検出に関しては、比較的良好な直線性(R2>0.99)と高

い検出感度(50 fmol/well)が確認された。肝臓サンプルからは数多くの低分

子代謝物が検出され、データベース照合によりLinoleic acid、Stearic acid等の

長鎖脂肪酸やADP、ATP、UDP、UTP等の核酸系代謝物あるいはGSH、GSSG

やNADH、NADPH等の酸化還元関連代謝物などが同定された。Fenofibrate

を投与したラット肝臓のメタボリック・プロファイリングを試みた結果、長鎖

脂肪酸類の顕著な低下、Acetyl CoAの低下とCoAの増加およびNADH、

NADPHの増加等のβ酸化の亢進を示唆する代謝物変動が得られた。あわせ

てATPの増加も確認され、これらの結果はFenofibrateの薬効であるPPARα

を介した脂質代謝改善作用に起因した変動と考えられた。本研究結果より、

MALDI-MSを用いて薬剤起因性の代謝物変動を従来法に比べて高速かつ簡

便に検出ができ、本手法が薬効・毒性評価やバイオマーカー探索などの創薬研

究に利用可能であると考えられる。

⑧ メタボリック・プロファイリングによる新しい酸化ストレス関連バイオマーカーの探索

(研究担当者名:藤村 由紀、三浦 大典(メタボリック・プロファイリンググループ)、井口 登與志、横溝 久(レドックス疾患創薬グループ)) 

【研究の目的】 最も臨床応用が検討されている尿中8-iso-PGF2α排泄量や尿

中8-OHdG排泄量は、動物モデルでは比較的良好な簡易酸化ストレスマーカー

として利用可能だが、ヒトを対象とした詳細な病態解析には、より鋭敏でかつ簡

便なバイオマーカーの開発が期待される。そこで、メタボリック・プロファイリ

ンググループおよび田辺三菱製薬と共同で、これまで確立した糖尿病モデル動

物の系を用い新たなレドックス関連バイオマーカーの探索を開始した。

【研究方法】 ICRマウスにストレプトゾトシン(STZ)投与により糖尿病を作

成し、ビリベルジン(BVD)投与による酸化ストレス抑制実験を行った。対照

正常群、対照ビリベルジン投与群、糖尿病群、糖尿病ビリベルジン投与群の4

群より尿および血清を採取し、島津高速液体クロマトグラム質量分析計

LCMS-IT-TOFを使用しメタボリック・プロファイリングを行った。

【研究成果】 LCMS-IT-TOF測定により、糖尿病でのみ増加し、ビリベルジン

投与により改善する低分子物質が数種類検出された(図8.1)。これらは、既知

の8-OHdGや8-iso-PGF2αなどの分子よりも、鋭敏な変動を認める物質で

あった。今後、これらの候補低分子物質の構造決定を行う。さらに、登録追跡

中の福岡生活習慣病コホート12400例の検体を用い、同定したバイオマー

カーのヒトでの有用性を検討する予定である。

2726 2928

主な論文

特許、 ほか

主な論文

R E D O X N A V I  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 研究成果一覧

グループ名

生体レドックス

画像解析グループ

メタボリック・

プロファイリンググループ

レドックス

疾患・創薬グループ

論文名 著 者 時期(2007.7以降)

2009

2009

2009

2009

2009

2008

2008

2008

2007

2007

2007

2007

2009

2008

2008

2010

2009

2009

2008

2008

2008

2008

2008

2008

2007

2007

2007

2007

2007

2007

2009

2009

2009

2009

2009

2008

2008

2008

2008

2008

グループ名

生体レドックス内視鏡グループ

レドックス疾患・創薬グループ

名 称 氏 名 時期(2007.7以降)

「Simultaneous imaging of tumor oxygenation and microvascular permeability using Overhauser enhanced MRI」, Proc Natl Acad Sci U S A. 106(42):17898-903.

「Noninvasive assessment of the brain redox status after transient middle cerebral artery occlusion using Overhauser-enhanced magnetic resonance imaging」, J Cereb Blood Flow Metab. 29(10):1655-64

「Development of novel nitroxyl radicals for controlling reactivity with ascorbic acid」, Free Radic Res. 43(6), 565-71

「Non-invasive monitoring of redox status in mice with dextran sodium sulphate-induced colitis」, Free Radic Res. 43(5), 505-13.

「Simple data acquisition method for multi-dimensional EPR spectral-spatial imaging using a combination of constant-time and projection-reconstruction modalities」, J Magn Reson. 197(2), 161-6.

「Formation of TEMPOL-hydroxylamine during reaction between TEMPOL and hydroxyl radical: HPLC/ECD study」, Free Radic Res. 42(5), 505-12.

「Dynamic monitoring of localized tumor oxygenation changes using RF pulsed electron paramagnetic resonance in conscious mice」, Magn Reson Med. 59(3), 619-25.

「In vivo magnetic resonance imaging of atherosclerotic lesions with a newly developed Evans blue-DTPA-gadolinium contrast medium in apolipoprotein-E-deficient mice」, J Vasc Res. 45(2), 123-8.

「Phospholipids modulate superoxide and nitric oxide production by lipopolysaccharide and phorbol 12-myristate-13-acetate-activated microglia」, Neurochem Int.,50(3), 499-506

「Advantageous Application of a Surface Coil to EPR Irradiation in Overhauser-Enhanced MRI」, Magnetic Resonance in Medicine,57(4), 806-811

「Phosphatidylserine and phosphatidylcholine-containing liposomes inhibit amyloid beta and interferon-gamma-induced microglial activation」, Free Radical Biology and Medicine,42, 945-954

「Application of in vivo ESR/spin-probe technique to monitor tumor in vivo in mouse footpad., Antioxid Redox Signal」, Antioxide Redox Signal, 9(10), 1699-1707

「Pulsed EPR Imaging of Nitroxides in Mice」, Journal of Magnetic Resonance, Apr; 197(2):181-8

「Low Field Paramagnetic Resonance Imaging of Tumor Oxygenation and Glycolytic Activity」, Journal of Clinical Investigation, May;118(5):1965-73

「Brain Redox Imaging Using Blood Brain Barrier Permeable Nitroxide MRI Contrast Agent」, Journal of Cerebral Blood Flow and Metabolism, Jun;28(6):1165-74

「Highly Ssensitive MALDI-Mass Spectrometry for High-throughput Metabolic Profiling」, Anal. Chem., 82, 498-504

「Developmental delineation of metabolic-patterns of neonatal mice by using NMR-metabolic profiling on highly-diluted urine」, J. Toxicological Sci. 34, 343-347

「Specific accumulation of γ and δ-tocotrienols in tumor and their antitumor effect in vivo」, J Nutr Biochem, 20, 607-613

「Mathematical Modeling and Sensitivity Analysis of G1/S Phase in the Cell Cycle Including the DNA Damage Signal Transduction Pathway」, BioSystems, 94, 109-117

「Novel Breast Cancer Biomarkers Identified by Integrative Proteomic and Gene Expression Mapping」, Journal of Proteome Res., 7, 1518-1528

「Green tea polyphenol epigallocatechin-3-gallate signaling pathway through 67-kDa laminin receptor」, J Biol Chem, 283, 3050-3058

「The impact of the 67 kDa laminin receptor on both cell-surface binding and anti-allergic action of tea catechins」, Arch Biochem Biophys. 476 (2), 133-138

「Involvement of 67-kDa laminin receptor-mediated myosin phosphatase activation in antiproliferative effect of epigallocatechin-3-O-gallate at a physiological concentration on Caco-2 colon cancer cells」, Biochem Biophys Res Commun, 371, 172-176

「Method for Inferring and Extracting Reliable Genetic Interactions from Time-series Profile of Gene Expression」, Mathematical Biosciences, 215, 105-114

「Design of Bio-inspired Fault-tolerant Adaptive Routing Based on Enzymatic Feedback Control in the Cell: Towards Averaging Load Balance in the Network」, Proc. of Frontiers in the Convergence of Bioscience and Information Technologies, 854-860

「A Bio-inspired Adaptive Routing Based on Enzymatic Feedback Control Mechanism in Metabolic Networks」, Proc. of International MultiConference of Engineers and Computer Scientists 2007, 1361-1365

「Multi-layered Network Structure of Amino Acid (AA) Metabolism Characterized by Each Essential AA-deficient Condition」, Amino Acids, 33(1), 113-121

「Kinetic Modeling and Sensitivity Analysis of Acetone-Butanol-Ethanol Production」, Journal of Biotechnology, 131(1), 45-56

「NMR metabolic profiling combined with two-step principac component analysis for toxin-induced diabetes model rat using urine」, J. Toxicological Sci. 32, 429-435

「The 67kDa laminin receptor as a primary determinant of anti-allergic effects of O-methylated EGCG」, Biochem Biophys Res Commun, 364, 79-85

「Mitochondrial fission factor Drp1 is essential for embryonic development and synapse formation in mice」, Nat Cell Biol 11:958-66

「Confirmation of multiple risk loci and genetic impacts by a genome-wide association study of type 2 diabetes in the Japanese population」, Diabetes 58:1690-9

「Oleic acid-induced ADRP expression requires both AP-1 and PPAR-response elements, and is reduced by Pycnogenol through mRNA degradation in NMuLi liver cells」,Am J Physiol Endocrinol Metab 297:E112-23

「ROCK inhibition by fasudil ameliorates diabetes-induced microvascular damage」, Diabetes 58:215-26

「Zeaxanthin, a retinal carotenoid, protects retinal cells against oxidative stress」, Curr Eye Res 34:311-8

「Differential effect of sulfonylureas on production of reactive oxygen species and apoptopsis in cultured pancreatic -cell line, MIN6」, Metabolism 57:1038-1045

「The lack of the C-terminal domain of adipose triglyceride lipase causes neutral lipid storage disease through impaired interactions with lipid droplets」, J Clin Endocrinol Metab 93(7) :2877-2884

「Pycnogenol, an extract from French maritime pine, suppresses Toll-like receptor 4-mediated expression of adipose differentiation-related protein in macrophages」,Am J Physiol Endocrinol Metab 295(6):E1390-400

「High Prevalence of Peripheral Arterial Disease Diagnosed by Low Ankle-Brachial Index in Japanese Patients with Diabetes: The Kyushu Prevention Study for Atherosclerosis」,Diab Res Clin Pract 82(3):378-82

「Role of TGF-β in proliferative vitreoretinal diseases and ROCK as a therapeutic target」, Proc Natl Acad Sci USA. 105:17504-17509

Matsumoto S, Yasui H, Batra S, Kinoshita Y, Bernardo M, Munasinghe JP, Utsumi H, Choudhuri R, Devasahayam N, Subramanian S, Mitchell JB, Krishna MC.

Yamato M, Shiba T, Yamada KI, Watanabe T, Utsumi H.

Kinoshita Y, Yamada K, Yamasaki T, Sadasue H, Sakai K, Utsumi H.

Yasukawa K, Miyakawa R, Yao T, Tsuneyoshi M, Utsumi H.

Matsumoto K, Anzai K, Utsumi H.

Kudo W, Yamato M, Yamada K, Kinoshita Y, Shiba T, Watanabe T, Utsumi H.

Matsumoto S, Espey MG, Utsumi H, Devasahayam N, Matsumoto K, Matsumoto A, Hirata H, Wink DA, Kuppusamy P, Subramanian S, Mitchell JB, Krishna MC.

Yasuda S, Ikuta K, Uwatoku T, Oi K, Abe K, Hyodo F, Yoshimitsu K, Sugimura K, Utsumi H, Katayama Y, Shimokawa H.

Hashioka S, Han Y H, Fujii S, Kato T, Monji A, Utsumi H, Sawada M, Nakanishi H, Kanba S.

Matsumoto S,Yamada K, Hirata H, Yasukawa K, Hyodo F, Ichikawa K, Utsumi H.

Hashioka S, Han YH, Fujii S, Kato T, Monji A, Utsumi H, Sawada M, Nakanishi H, Kanba S.

Ichikawa K, Sakabe E, Kuninobu K, Yamori T, Tsuruo T, Yao T, Tsuneyoshi M, Utsumi H.

Hyodo F, Matsumoto S, Devasahayam N, Dharmaraj D., Subramanian S, Mitchell JB, Krishna MC.

Matsumoto S, Hyodo F, Subramanian S, Devasahayam N, Munasinghe J, Hyodo E, Gadisetti C, Cook JA, Mitchell JB and Krishna MC.

Hyodo F, Chuang KH, Goloshevsky AG, Sulima A, Griffiths GL, Mitchell JB, Koretsky AP, Krishna MC.

Miura D, Fujimura Y, Tachibana H, Wariishi H

Shimizu YI, Sunaga E, Aoyagi S, Kanazawa K, Takahashi S, Takahashi Y, Nemoto T

Hiura Y, Tachibana H, Arakawa R, Aoyama N, Okabe M, Sakai M, Yamada K

Iwamoto K, Tashima Y, Hamada H, Eguchi Y, Okamoto M

Ou K, Yu K, Kesuma D, Hooi M, Huang N, Chen W, Lee SY, Goh XP, Tan LK, Liu J, Soon SY, Bin Abdul Rashid S, Putti TC, Jikuya H, Ichikawa T, Nishimura O, Salto-Tellez M, Tan P

Umeda D, Yano S, Yamada K, and Tachibana H

Fujimura Y, Umeda D, Yamada K, and Tachibana H

Umeda D, Yano S, Yamada K, and Tachibana H

Nakatsui M, Ueda T, Maki Y, Ono I, Okamoto M

Iwasaki A, Nozoe T, Kawauchi T, Okamoto M

Nozoe T, Kawauchi T, Okamoto M

Shikata N, Maki Y, Noguchi Y, Mori M, Hanai T, Takahashi M, Okamoto M

Shinto H, Tashiro Y, Yamashita M, Kobayashi G, Sekiguchi T, Hanai T, Kuriya Y,Okamoto M, Sonomoto K

Nemoto T, Ando I, Kataoka T, Arifuku K, Kanazawa K, Natori Y, Fujiwara M

Fujimura Y, Umeda D, Yano S, Maeda-Yamamoto M, Yamada K, and Tachibana H

Ishihara N, Nomura M, Jofuku A, Kato H, Suzuki SO, Masuda K, Otera H, Nakanishi Y, Nonaka I, Goto YI, Taguchi N, Morinaga H, Maeda M, Takayanagi R, Yokota S, Mihara K.

Takeuchi F, Serizawa M, Yamamoto K, Fujisawa T, Nakashima E, Ohnaka K, Ikegami H, Sugiyama T, Katsuya T, Miyagishi M, Nakashima N, Nawata H, Nakamura J, Kono S, Takayanagi R, Kato N.

Fan B, Ikuyama S, Gu J-Q, Wei P, Oyama J, Inoguchi T, Nishimura J.

Arita R, Hata Y, Nakao S, Kita T, Miura M, Kawahara S, Zandi S, Almulki L, Tayari F, Shimokawa H, Ali Hafezi-Moghadam, Ishibashi T.

Nakajima Y, Shimazawa M, Otsubo K, Ishibashi T, Hara H.

Sawada F, Inoguchi T, Tsubouchi H, Sasaki S, Fujii M, Maeda Y, Morinaga H, Nomura M, Kobayashi K, Takayanagi R.

Kobayashi K, Inoguchi T, Maeda Y, Nakashima N, Kuwano A, Eto E, Ueno N, Sasaki S, Sawada F, Fujii M, Matoba Y, Sumiyoshi S, Kawate H, Takayanagi R.

Gu JQ, Ikuyama S, Wei P, Fan B, Oyama J, Inoguchi T, Nishimura J.

Maeda Y, Inoguchi T, Sawada F, Sasaki S, Fujii M, Saito R, Nawata H, Shimabukuro M, Takayanagi R.

Kita T, Hata Y, Arita R, Kawahara S, Miura M, Nakao S, Mochizuki Y, Enaida H, Goto Y, Shimokawa H, Ali Hafezi-Moghadam, Ishibashi T.

グループ名

レドックス

疾患・創薬グループ

先端がん診断・

創薬グループ

生体レドックス

内視鏡グループ

論文名 著 者 時期(2007.7以降)

2007

2007

2007

2007

2007

2007

2008

2008

2008

2007

2008

2008

2009

2008

2008

2007

2007

2008

2009

2010

2009

2009

2009

2009

2009

2009

2009

(in press)

(in press)

(in press)

2008

2008

2009(in press)

2008

2008

「Are free radical reactions incresaed in the diabetic eye?」, Antioxid Redox Signal,9(3):367-73

「Molecular mechanisms of the antiatherogenic action of adiponectin」, Vascular Disease Prevention 4:7-9

「Pitavastatin ameliorates albuminuria and renal mesangial expansion via down-regulation of NOX4 in db/db mice」, Kidney International 72(4):473-80

「Relationship between Gilbert syndrome and prevalence of vascular complications in patients with diabetes」, JAMA 298(12):1398-1400

「Optimal cut-points of waist circumference for the clinical diagnosis of metabolic syndrome in the Japanese population」, Diabetes Care 31(3):590-592

「Oxidative stress and DNA hypermethylation status in renal cell carcinoma arising in patients on dialysis」, J Pathol, 212, 218-26

「Molecular links between tumor angiogenesis and inflammation: inflammatory stimuli of macrophages and cancer cells as targets for therapeutic strategy」, Cancer Sci, 99, 1501-6

「Cap43/NDRG1/Drg-1 is a molecular target for angiogenesis and a prognostic indicator in cervical adenocarcinoma」, Cancer Lett, 264, 36-43

「Different expression profiles of Y-box-binding protein-1 and multidrug resistance-associated proteins between alveolar and embryonal rhabdomyosarcoma」, Cancer Sci, 99, 726-32

「Inflammatory stimuli from macrophages and cancer cells synergistically promote tumor growth and angiogenesis」, Cancer Sci, 98, 2009-18

「Role of macrophages in inflammatory lymphangiogenesis: Enhanced production of vascular endothelial growth factor C and D through NF-kappaB activation」, Biochem Biophys Res Commun, 377, 826-31

「Inhibition of bone and muscle metastases of lung cancer cells by a decrease in the number of monocytes/macrophages」, Cancer Sci, 99, 1595-602

「N-myc downstream regulated gene 1/Cap43 suppresses tumor growth and angiogenesis of pancreatic cancer through attenuation of IKKbeta expression」, Cancer Res, 69, 4983-91

「N-myc downstream regulated gene 1 (NDRG1)/Cap43 enhances portal vein invasion and intrahepatic metastasis in human hepatocellular carcinoma」, Oncol Rep, 20, 1329-35

「Twist promotes tumor cell growth through YB-1 expression」, Cancer Res, 68, 98-105

「Akt-dependent nuclear localization of Y-box-binding protein 1 in acquisition of malignant characteristics by human ovarian cancer cells」, Oncogene, 26, 2736-46

「Prognostic implications of the nuclear localization of Y-box-binding protein-1 and CXCR4 expression in ovarian cancer: their correlation with activated Akt, LRP/MVP and P-glycoprotein expression」, Cancer Sci, 98, 1020-6

「Expression of HER2 and estrogen receptor alpha depends upon nuclear localization of Y-box binding protein-1 in human breast cancers」, Cancer Res, 68, 1504-12

「Nuclear Y-box binding protein-1 (YB-1), a predictive marker of prognosis, is correlated with expression of HER2/ErbB2 and HER3/ErbB3 in non-small cell lung cancer」, J Thorac Oncol, 4, 1066-74.

「N-myc downstream regulated gene-1/Cap43 may play an important role in malignant progression of prostate cancer, in its close association with E-cadherin」, Human Pathol, 41, 214-222

「Nanoparticles of Adaptive Supramolecular Networks Self-Assembled from Nucleotides and Lanthanide Ions」, Journal of the American Chemical Society 131(6): 2151-2158

「A novel protease activity assay using a protease-responsive chaperon protein」, Biochemical and Biophysical Reseach Communications 383: 293-297

「Molecular design of protein-based nanocapsules for stimulus-responsive characteristics」, Bioorganic Medical Chemistry 17:85-93

「A minimally invasive registration method using surface template-assisted marker positioning (STAMP) for image-guided otologic surgery」, Otolaryngol Head Neck Surg 140(1): 96-102

「Medical Navigation System for Otologic Surgery Based on Hybrid Registration and Virtual Intraoperative Computed Tomography」, IEEE Trans Biomed Eng 56:426-432

「The effect of Cyber Dome, a novel 3-dimensional dome-shaped display system, on laparoscopic procedures」, Int J CARS 4(2) : 125-132

「The frontal cortex is activated during learning of endoscopic procedures」, Surg Endosc 23(10), 2296-2301

「hTERT-promoter dependent oncolytic adenovirus enhances the transduction and therapeutic efficacy of replication-defective adenovirus vectors in pancreatic cancer cells」, Cancer Science

「Laparoscopic splenectomy may be a superior supportive intervention for cirrhotic patients with hypersplenism」, J Gastroenterol Hepatol.

「An effective point-based registration tool for surgical navigation」, Surg Endosc.

「Effectiveness of endoscopic surgery training for medical students using a virtual reality simulator versus a box trainer: a randomized controlled trial」, Surg Endosc 22(4): 985-990

「New real-time MR image-guided surgical robotic system for minimally invasive precision surgery」, International Journal of Computer Assisted Radiology and Surgery 2(6): 317-325

「Tumor ablation therapy of liver cancers with an open magnetic resonance imaging-based navigation system」, Surg Endosc 23:1048-1053

「Real-time magnetic resonance imaging driven by electromagnetic locator for interventional procedure and endoscopic therapy」, Surg Endosc 22(3): 552-556

「Intraoperative Magnetic tracker calibration using a magneto-optic hybrid tracker for 3-D ultrasound-based navigation in laparoscopic surgery」, IEEE Trans Med Imaging 27(2): 255-270

Yamato M, Matsumoto S, ura K, Yamada KI, Naganuma T, Inoguchi T, Watanabe T, Utsumi H.

Kobayashi K, Inoguchi T.

Fujii M, Inoguchi T, Maeda Y, Sasaki S, Sawada F, Saito R, Kobayashi K, Sumimoto H, Takayanagi R.

Inoguchi T, Sasaki S, Yamada T, Kobayashi K, Takayanagi R.

Matoba Y, Inoguchi T, Nasu S, Suzuki S, Yanase T, Nawata H, Takayanagi R.

Hori Y, Oda Y, Kiyoshima K, et al.

Ono M.

Nishio S, Ushijima K, Tsuda N, et al.

Oda Y, Kohashi K, Yamamoto H, et al.

Kimura YN, Watari K, Fotovati A, et al.

Watari K, Nakao S, Fotovati A, et al.

Hiraoka K, Zenmyo M, Watari K, et al.

Hosoi F, Izumi H, Kawahara A, et al.

Akiba J, Ogasawara S, Kawahara A, et al.

Shiota M, Izumi H, Onitsuka T, et al.

Basaki Y, Hosoi F, Oda Y, et al.

Oda Y, Ohishi Y, Basaki Y, et al.

Fujii T, Kawahara A, Basaki Y, et al.

Kashihara M, Azuma K, Kawahara A, et al.

Song YH, Oda Y, Hori M, et al.

Nishiyabu R, Hashimoto N, Cho T, Watanabe K, Yasunaga T, Endo A, Kaneko K,Niidome T, Murata M, Adachi C, Katayama Y, Hashizume M, Kimizuka N.

Sao K, Murata M, Umezaki K, Fujisaki Y, Mori T, Niidome T, Katayama Y, Hashizume M.

Sao K, Murata M, Umezaki K, Fujisaki Y, Mori T, Niidome T, Katayama Y, Hashizume M.

Matsumoto N, Hong J, Hashizume M, Komune S.

Hong J, Matsumoto N, Ouchida R, Komune S, Hashizume M.

Ohuchida K, Kenmotsu H, Yamamoto A, Sawada K, Hayami T, Morooka K, Hoshino H, Uemura M, Konishi K, Yoshida D, Maeda T, Ieiri S, Tanoue K, Tanaka M, Hashizume M

Ohuchida K, Kenmotsu H, Yamamoto A, Sawada K, Hayami T, Morooka K, Takasugi S, Konishi K, Ieiri S, Tanoue K, Iwamoto Y, Tanaka M, Hashizume M

Onimaru M, Ohuchida K, Mizumoto K, Nagai E, Cui L, Toma H, Takayama K, Matsumoto K, Hashizume M, Tanaka M

Tomikawa M, Akahoshi T, Sugimachi K, Ikeda Y, Yoshida K, Tanabe Y, Kawanaka H, Takenaka K, Hashizume M, Maehara Y

Hong J, Hashizume M

Tanoue K, Ieiri S, Konishi K, Yasunaga T, Okazaki K, Yamaguchi S, Yoshida D, Kakeji Y, Hashizume M

Hashizume M, Yasunaga T, Tanoue K, Ieiri S, Konishi K, Kishi K, Nakamoto H, Ikeda D, Sakuma I, Fuji M, Dohi T

Maeda T, Hong J, Konishi K, Nakatsuji T, Yasunaga T, Yamashita Y, Taketomi A, Kotoh K, Enjoji M, Nakashima H, Tanoue K, Maehara Y, Hashizume M.

Hong J, Hata N, Konishi K, Hashizume M.

Nakamoto M, Nakada K, Sato Y, Konishi K, Hashizume M, Tamura S

鉗子支持装置

Master-slave manipulator system

Manipulator and manipulation device equipped with it

Surgical tools snd operation system

酸化ストレス抑制剤

テトラピロール誘導体およびその医療用途

橋爪 誠

岸 宏亮、 橋爪 誠

辻田哲平、 岸 宏亮、 橋爪 誠

岸 宏亮、 橋爪 誠、 田上和夫

井口登與志、 高柳涼一、 前田泰孝

井口登與志、 高柳涼一、 藤井雅一

特許出願中

特許出願中

特許出願中

特許出願中

2008/04/02

2008/10/25

3130

主な論文

特許、 ほか

主な論文

R E D O X N A V I  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 研究成果一覧

グループ名

生体レドックス

画像解析グループ

メタボリック・

プロファイリンググループ

レドックス

疾患・創薬グループ

論文名 著 者 時期(2007.7以降)

2009

2009

2009

2009

2009

2008

2008

2008

2007

2007

2007

2007

2009

2008

2008

2010

2009

2009

2008

2008

2008

2008

2008

2008

2007

2007

2007

2007

2007

2007

2009

2009

2009

2009

2009

2008

2008

2008

2008

2008

グループ名

生体レドックス内視鏡グループ

レドックス疾患・創薬グループ

名 称 氏 名 時期(2007.7以降)

「Simultaneous imaging of tumor oxygenation and microvascular permeability using Overhauser enhanced MRI」, Proc Natl Acad Sci U S A. 106(42):17898-903.

「Noninvasive assessment of the brain redox status after transient middle cerebral artery occlusion using Overhauser-enhanced magnetic resonance imaging」, J Cereb Blood Flow Metab. 29(10):1655-64

「Development of novel nitroxyl radicals for controlling reactivity with ascorbic acid」, Free Radic Res. 43(6), 565-71

「Non-invasive monitoring of redox status in mice with dextran sodium sulphate-induced colitis」, Free Radic Res. 43(5), 505-13.

「Simple data acquisition method for multi-dimensional EPR spectral-spatial imaging using a combination of constant-time and projection-reconstruction modalities」, J Magn Reson. 197(2), 161-6.

「Formation of TEMPOL-hydroxylamine during reaction between TEMPOL and hydroxyl radical: HPLC/ECD study」, Free Radic Res. 42(5), 505-12.

「Dynamic monitoring of localized tumor oxygenation changes using RF pulsed electron paramagnetic resonance in conscious mice」, Magn Reson Med. 59(3), 619-25.

「In vivo magnetic resonance imaging of atherosclerotic lesions with a newly developed Evans blue-DTPA-gadolinium contrast medium in apolipoprotein-E-deficient mice」, J Vasc Res. 45(2), 123-8.

「Phospholipids modulate superoxide and nitric oxide production by lipopolysaccharide and phorbol 12-myristate-13-acetate-activated microglia」, Neurochem Int.,50(3), 499-506

「Advantageous Application of a Surface Coil to EPR Irradiation in Overhauser-Enhanced MRI」, Magnetic Resonance in Medicine,57(4), 806-811

「Phosphatidylserine and phosphatidylcholine-containing liposomes inhibit amyloid beta and interferon-gamma-induced microglial activation」, Free Radical Biology and Medicine,42, 945-954

「Application of in vivo ESR/spin-probe technique to monitor tumor in vivo in mouse footpad., Antioxid Redox Signal」, Antioxide Redox Signal, 9(10), 1699-1707

「Pulsed EPR Imaging of Nitroxides in Mice」, Journal of Magnetic Resonance, Apr; 197(2):181-8

「Low Field Paramagnetic Resonance Imaging of Tumor Oxygenation and Glycolytic Activity」, Journal of Clinical Investigation, May;118(5):1965-73

「Brain Redox Imaging Using Blood Brain Barrier Permeable Nitroxide MRI Contrast Agent」, Journal of Cerebral Blood Flow and Metabolism, Jun;28(6):1165-74

「Highly Ssensitive MALDI-Mass Spectrometry for High-throughput Metabolic Profiling」, Anal. Chem., 82, 498-504

「Developmental delineation of metabolic-patterns of neonatal mice by using NMR-metabolic profiling on highly-diluted urine」, J. Toxicological Sci. 34, 343-347

「Specific accumulation of γ and δ-tocotrienols in tumor and their antitumor effect in vivo」, J Nutr Biochem, 20, 607-613

「Mathematical Modeling and Sensitivity Analysis of G1/S Phase in the Cell Cycle Including the DNA Damage Signal Transduction Pathway」, BioSystems, 94, 109-117

「Novel Breast Cancer Biomarkers Identified by Integrative Proteomic and Gene Expression Mapping」, Journal of Proteome Res., 7, 1518-1528

「Green tea polyphenol epigallocatechin-3-gallate signaling pathway through 67-kDa laminin receptor」, J Biol Chem, 283, 3050-3058

「The impact of the 67 kDa laminin receptor on both cell-surface binding and anti-allergic action of tea catechins」, Arch Biochem Biophys. 476 (2), 133-138

「Involvement of 67-kDa laminin receptor-mediated myosin phosphatase activation in antiproliferative effect of epigallocatechin-3-O-gallate at a physiological concentration on Caco-2 colon cancer cells」, Biochem Biophys Res Commun, 371, 172-176

「Method for Inferring and Extracting Reliable Genetic Interactions from Time-series Profile of Gene Expression」, Mathematical Biosciences, 215, 105-114

「Design of Bio-inspired Fault-tolerant Adaptive Routing Based on Enzymatic Feedback Control in the Cell: Towards Averaging Load Balance in the Network」, Proc. of Frontiers in the Convergence of Bioscience and Information Technologies, 854-860

「A Bio-inspired Adaptive Routing Based on Enzymatic Feedback Control Mechanism in Metabolic Networks」, Proc. of International MultiConference of Engineers and Computer Scientists 2007, 1361-1365

「Multi-layered Network Structure of Amino Acid (AA) Metabolism Characterized by Each Essential AA-deficient Condition」, Amino Acids, 33(1), 113-121

「Kinetic Modeling and Sensitivity Analysis of Acetone-Butanol-Ethanol Production」, Journal of Biotechnology, 131(1), 45-56

「NMR metabolic profiling combined with two-step principac component analysis for toxin-induced diabetes model rat using urine」, J. Toxicological Sci. 32, 429-435

「The 67kDa laminin receptor as a primary determinant of anti-allergic effects of O-methylated EGCG」, Biochem Biophys Res Commun, 364, 79-85

「Mitochondrial fission factor Drp1 is essential for embryonic development and synapse formation in mice」, Nat Cell Biol 11:958-66

「Confirmation of multiple risk loci and genetic impacts by a genome-wide association study of type 2 diabetes in the Japanese population」, Diabetes 58:1690-9

「Oleic acid-induced ADRP expression requires both AP-1 and PPAR-response elements, and is reduced by Pycnogenol through mRNA degradation in NMuLi liver cells」,Am J Physiol Endocrinol Metab 297:E112-23

「ROCK inhibition by fasudil ameliorates diabetes-induced microvascular damage」, Diabetes 58:215-26

「Zeaxanthin, a retinal carotenoid, protects retinal cells against oxidative stress」, Curr Eye Res 34:311-8

「Differential effect of sulfonylureas on production of reactive oxygen species and apoptopsis in cultured pancreatic -cell line, MIN6」, Metabolism 57:1038-1045

「The lack of the C-terminal domain of adipose triglyceride lipase causes neutral lipid storage disease through impaired interactions with lipid droplets」, J Clin Endocrinol Metab 93(7) :2877-2884

「Pycnogenol, an extract from French maritime pine, suppresses Toll-like receptor 4-mediated expression of adipose differentiation-related protein in macrophages」,Am J Physiol Endocrinol Metab 295(6):E1390-400

「High Prevalence of Peripheral Arterial Disease Diagnosed by Low Ankle-Brachial Index in Japanese Patients with Diabetes: The Kyushu Prevention Study for Atherosclerosis」,Diab Res Clin Pract 82(3):378-82

「Role of TGF-β in proliferative vitreoretinal diseases and ROCK as a therapeutic target」, Proc Natl Acad Sci USA. 105:17504-17509

Matsumoto S, Yasui H, Batra S, Kinoshita Y, Bernardo M, Munasinghe JP, Utsumi H, Choudhuri R, Devasahayam N, Subramanian S, Mitchell JB, Krishna MC.

Yamato M, Shiba T, Yamada KI, Watanabe T, Utsumi H.

Kinoshita Y, Yamada K, Yamasaki T, Sadasue H, Sakai K, Utsumi H.

Yasukawa K, Miyakawa R, Yao T, Tsuneyoshi M, Utsumi H.

Matsumoto K, Anzai K, Utsumi H.

Kudo W, Yamato M, Yamada K, Kinoshita Y, Shiba T, Watanabe T, Utsumi H.

Matsumoto S, Espey MG, Utsumi H, Devasahayam N, Matsumoto K, Matsumoto A, Hirata H, Wink DA, Kuppusamy P, Subramanian S, Mitchell JB, Krishna MC.

Yasuda S, Ikuta K, Uwatoku T, Oi K, Abe K, Hyodo F, Yoshimitsu K, Sugimura K, Utsumi H, Katayama Y, Shimokawa H.

Hashioka S, Han Y H, Fujii S, Kato T, Monji A, Utsumi H, Sawada M, Nakanishi H, Kanba S.

Matsumoto S,Yamada K, Hirata H, Yasukawa K, Hyodo F, Ichikawa K, Utsumi H.

Hashioka S, Han YH, Fujii S, Kato T, Monji A, Utsumi H, Sawada M, Nakanishi H, Kanba S.

Ichikawa K, Sakabe E, Kuninobu K, Yamori T, Tsuruo T, Yao T, Tsuneyoshi M, Utsumi H.

Hyodo F, Matsumoto S, Devasahayam N, Dharmaraj D., Subramanian S, Mitchell JB, Krishna MC.

Matsumoto S, Hyodo F, Subramanian S, Devasahayam N, Munasinghe J, Hyodo E, Gadisetti C, Cook JA, Mitchell JB and Krishna MC.

Hyodo F, Chuang KH, Goloshevsky AG, Sulima A, Griffiths GL, Mitchell JB, Koretsky AP, Krishna MC.

Miura D, Fujimura Y, Tachibana H, Wariishi H

Shimizu YI, Sunaga E, Aoyagi S, Kanazawa K, Takahashi S, Takahashi Y, Nemoto T

Hiura Y, Tachibana H, Arakawa R, Aoyama N, Okabe M, Sakai M, Yamada K

Iwamoto K, Tashima Y, Hamada H, Eguchi Y, Okamoto M

Ou K, Yu K, Kesuma D, Hooi M, Huang N, Chen W, Lee SY, Goh XP, Tan LK, Liu J, Soon SY, Bin Abdul Rashid S, Putti TC, Jikuya H, Ichikawa T, Nishimura O, Salto-Tellez M, Tan P

Umeda D, Yano S, Yamada K, and Tachibana H

Fujimura Y, Umeda D, Yamada K, and Tachibana H

Umeda D, Yano S, Yamada K, and Tachibana H

Nakatsui M, Ueda T, Maki Y, Ono I, Okamoto M

Iwasaki A, Nozoe T, Kawauchi T, Okamoto M

Nozoe T, Kawauchi T, Okamoto M

Shikata N, Maki Y, Noguchi Y, Mori M, Hanai T, Takahashi M, Okamoto M

Shinto H, Tashiro Y, Yamashita M, Kobayashi G, Sekiguchi T, Hanai T, Kuriya Y,Okamoto M, Sonomoto K

Nemoto T, Ando I, Kataoka T, Arifuku K, Kanazawa K, Natori Y, Fujiwara M

Fujimura Y, Umeda D, Yano S, Maeda-Yamamoto M, Yamada K, and Tachibana H

Ishihara N, Nomura M, Jofuku A, Kato H, Suzuki SO, Masuda K, Otera H, Nakanishi Y, Nonaka I, Goto YI, Taguchi N, Morinaga H, Maeda M, Takayanagi R, Yokota S, Mihara K.

Takeuchi F, Serizawa M, Yamamoto K, Fujisawa T, Nakashima E, Ohnaka K, Ikegami H, Sugiyama T, Katsuya T, Miyagishi M, Nakashima N, Nawata H, Nakamura J, Kono S, Takayanagi R, Kato N.

Fan B, Ikuyama S, Gu J-Q, Wei P, Oyama J, Inoguchi T, Nishimura J.

Arita R, Hata Y, Nakao S, Kita T, Miura M, Kawahara S, Zandi S, Almulki L, Tayari F, Shimokawa H, Ali Hafezi-Moghadam, Ishibashi T.

Nakajima Y, Shimazawa M, Otsubo K, Ishibashi T, Hara H.

Sawada F, Inoguchi T, Tsubouchi H, Sasaki S, Fujii M, Maeda Y, Morinaga H, Nomura M, Kobayashi K, Takayanagi R.

Kobayashi K, Inoguchi T, Maeda Y, Nakashima N, Kuwano A, Eto E, Ueno N, Sasaki S, Sawada F, Fujii M, Matoba Y, Sumiyoshi S, Kawate H, Takayanagi R.

Gu JQ, Ikuyama S, Wei P, Fan B, Oyama J, Inoguchi T, Nishimura J.

Maeda Y, Inoguchi T, Sawada F, Sasaki S, Fujii M, Saito R, Nawata H, Shimabukuro M, Takayanagi R.

Kita T, Hata Y, Arita R, Kawahara S, Miura M, Nakao S, Mochizuki Y, Enaida H, Goto Y, Shimokawa H, Ali Hafezi-Moghadam, Ishibashi T.

グループ名

レドックス

疾患・創薬グループ

先端がん診断・

創薬グループ

生体レドックス

内視鏡グループ

論文名 著 者 時期(2007.7以降)

2007

2007

2007

2007

2007

2007

2008

2008

2008

2007

2008

2008

2009

2008

2008

2007

2007

2008

2009

2010

2009

2009

2009

2009

2009

2009

2009

(in press)

(in press)

(in press)

2008

2008

2009(in press)

2008

2008

「Are free radical reactions incresaed in the diabetic eye?」, Antioxid Redox Signal,9(3):367-73

「Molecular mechanisms of the antiatherogenic action of adiponectin」, Vascular Disease Prevention 4:7-9

「Pitavastatin ameliorates albuminuria and renal mesangial expansion via down-regulation of NOX4 in db/db mice」, Kidney International 72(4):473-80

「Relationship between Gilbert syndrome and prevalence of vascular complications in patients with diabetes」, JAMA 298(12):1398-1400

「Optimal cut-points of waist circumference for the clinical diagnosis of metabolic syndrome in the Japanese population」, Diabetes Care 31(3):590-592

「Oxidative stress and DNA hypermethylation status in renal cell carcinoma arising in patients on dialysis」, J Pathol, 212, 218-26

「Molecular links between tumor angiogenesis and inflammation: inflammatory stimuli of macrophages and cancer cells as targets for therapeutic strategy」, Cancer Sci, 99, 1501-6

「Cap43/NDRG1/Drg-1 is a molecular target for angiogenesis and a prognostic indicator in cervical adenocarcinoma」, Cancer Lett, 264, 36-43

「Different expression profiles of Y-box-binding protein-1 and multidrug resistance-associated proteins between alveolar and embryonal rhabdomyosarcoma」, Cancer Sci, 99, 726-32

「Inflammatory stimuli from macrophages and cancer cells synergistically promote tumor growth and angiogenesis」, Cancer Sci, 98, 2009-18

「Role of macrophages in inflammatory lymphangiogenesis: Enhanced production of vascular endothelial growth factor C and D through NF-kappaB activation」, Biochem Biophys Res Commun, 377, 826-31

「Inhibition of bone and muscle metastases of lung cancer cells by a decrease in the number of monocytes/macrophages」, Cancer Sci, 99, 1595-602

「N-myc downstream regulated gene 1/Cap43 suppresses tumor growth and angiogenesis of pancreatic cancer through attenuation of IKKbeta expression」, Cancer Res, 69, 4983-91

「N-myc downstream regulated gene 1 (NDRG1)/Cap43 enhances portal vein invasion and intrahepatic metastasis in human hepatocellular carcinoma」, Oncol Rep, 20, 1329-35

「Twist promotes tumor cell growth through YB-1 expression」, Cancer Res, 68, 98-105

「Akt-dependent nuclear localization of Y-box-binding protein 1 in acquisition of malignant characteristics by human ovarian cancer cells」, Oncogene, 26, 2736-46

「Prognostic implications of the nuclear localization of Y-box-binding protein-1 and CXCR4 expression in ovarian cancer: their correlation with activated Akt, LRP/MVP and P-glycoprotein expression」, Cancer Sci, 98, 1020-6

「Expression of HER2 and estrogen receptor alpha depends upon nuclear localization of Y-box binding protein-1 in human breast cancers」, Cancer Res, 68, 1504-12

「Nuclear Y-box binding protein-1 (YB-1), a predictive marker of prognosis, is correlated with expression of HER2/ErbB2 and HER3/ErbB3 in non-small cell lung cancer」, J Thorac Oncol, 4, 1066-74.

「N-myc downstream regulated gene-1/Cap43 may play an important role in malignant progression of prostate cancer, in its close association with E-cadherin」, Human Pathol, 41, 214-222

「Nanoparticles of Adaptive Supramolecular Networks Self-Assembled from Nucleotides and Lanthanide Ions」, Journal of the American Chemical Society 131(6): 2151-2158

「A novel protease activity assay using a protease-responsive chaperon protein」, Biochemical and Biophysical Reseach Communications 383: 293-297

「Molecular design of protein-based nanocapsules for stimulus-responsive characteristics」, Bioorganic Medical Chemistry 17:85-93

「A minimally invasive registration method using surface template-assisted marker positioning (STAMP) for image-guided otologic surgery」, Otolaryngol Head Neck Surg 140(1): 96-102

「Medical Navigation System for Otologic Surgery Based on Hybrid Registration and Virtual Intraoperative Computed Tomography」, IEEE Trans Biomed Eng 56:426-432

「The effect of Cyber Dome, a novel 3-dimensional dome-shaped display system, on laparoscopic procedures」, Int J CARS 4(2) : 125-132

「The frontal cortex is activated during learning of endoscopic procedures」, Surg Endosc 23(10), 2296-2301

「hTERT-promoter dependent oncolytic adenovirus enhances the transduction and therapeutic efficacy of replication-defective adenovirus vectors in pancreatic cancer cells」, Cancer Science

「Laparoscopic splenectomy may be a superior supportive intervention for cirrhotic patients with hypersplenism」, J Gastroenterol Hepatol.

「An effective point-based registration tool for surgical navigation」, Surg Endosc.

「Effectiveness of endoscopic surgery training for medical students using a virtual reality simulator versus a box trainer: a randomized controlled trial」, Surg Endosc 22(4): 985-990

「New real-time MR image-guided surgical robotic system for minimally invasive precision surgery」, International Journal of Computer Assisted Radiology and Surgery 2(6): 317-325

「Tumor ablation therapy of liver cancers with an open magnetic resonance imaging-based navigation system」, Surg Endosc 23:1048-1053

「Real-time magnetic resonance imaging driven by electromagnetic locator for interventional procedure and endoscopic therapy」, Surg Endosc 22(3): 552-556

「Intraoperative Magnetic tracker calibration using a magneto-optic hybrid tracker for 3-D ultrasound-based navigation in laparoscopic surgery」, IEEE Trans Med Imaging 27(2): 255-270

Yamato M, Matsumoto S, ura K, Yamada KI, Naganuma T, Inoguchi T, Watanabe T, Utsumi H.

Kobayashi K, Inoguchi T.

Fujii M, Inoguchi T, Maeda Y, Sasaki S, Sawada F, Saito R, Kobayashi K, Sumimoto H, Takayanagi R.

Inoguchi T, Sasaki S, Yamada T, Kobayashi K, Takayanagi R.

Matoba Y, Inoguchi T, Nasu S, Suzuki S, Yanase T, Nawata H, Takayanagi R.

Hori Y, Oda Y, Kiyoshima K, et al.

Ono M.

Nishio S, Ushijima K, Tsuda N, et al.

Oda Y, Kohashi K, Yamamoto H, et al.

Kimura YN, Watari K, Fotovati A, et al.

Watari K, Nakao S, Fotovati A, et al.

Hiraoka K, Zenmyo M, Watari K, et al.

Hosoi F, Izumi H, Kawahara A, et al.

Akiba J, Ogasawara S, Kawahara A, et al.

Shiota M, Izumi H, Onitsuka T, et al.

Basaki Y, Hosoi F, Oda Y, et al.

Oda Y, Ohishi Y, Basaki Y, et al.

Fujii T, Kawahara A, Basaki Y, et al.

Kashihara M, Azuma K, Kawahara A, et al.

Song YH, Oda Y, Hori M, et al.

Nishiyabu R, Hashimoto N, Cho T, Watanabe K, Yasunaga T, Endo A, Kaneko K,Niidome T, Murata M, Adachi C, Katayama Y, Hashizume M, Kimizuka N.

Sao K, Murata M, Umezaki K, Fujisaki Y, Mori T, Niidome T, Katayama Y, Hashizume M.

Sao K, Murata M, Umezaki K, Fujisaki Y, Mori T, Niidome T, Katayama Y, Hashizume M.

Matsumoto N, Hong J, Hashizume M, Komune S.

Hong J, Matsumoto N, Ouchida R, Komune S, Hashizume M.

Ohuchida K, Kenmotsu H, Yamamoto A, Sawada K, Hayami T, Morooka K, Hoshino H, Uemura M, Konishi K, Yoshida D, Maeda T, Ieiri S, Tanoue K, Tanaka M, Hashizume M

Ohuchida K, Kenmotsu H, Yamamoto A, Sawada K, Hayami T, Morooka K, Takasugi S, Konishi K, Ieiri S, Tanoue K, Iwamoto Y, Tanaka M, Hashizume M

Onimaru M, Ohuchida K, Mizumoto K, Nagai E, Cui L, Toma H, Takayama K, Matsumoto K, Hashizume M, Tanaka M

Tomikawa M, Akahoshi T, Sugimachi K, Ikeda Y, Yoshida K, Tanabe Y, Kawanaka H, Takenaka K, Hashizume M, Maehara Y

Hong J, Hashizume M

Tanoue K, Ieiri S, Konishi K, Yasunaga T, Okazaki K, Yamaguchi S, Yoshida D, Kakeji Y, Hashizume M

Hashizume M, Yasunaga T, Tanoue K, Ieiri S, Konishi K, Kishi K, Nakamoto H, Ikeda D, Sakuma I, Fuji M, Dohi T

Maeda T, Hong J, Konishi K, Nakatsuji T, Yasunaga T, Yamashita Y, Taketomi A, Kotoh K, Enjoji M, Nakashima H, Tanoue K, Maehara Y, Hashizume M.

Hong J, Hata N, Konishi K, Hashizume M.

Nakamoto M, Nakada K, Sato Y, Konishi K, Hashizume M, Tamura S

鉗子支持装置

Master-slave manipulator system

Manipulator and manipulation device equipped with it

Surgical tools snd operation system

酸化ストレス抑制剤

テトラピロール誘導体およびその医療用途

橋爪 誠

岸 宏亮、 橋爪 誠

辻田哲平、 岸 宏亮、 橋爪 誠

岸 宏亮、 橋爪 誠、 田上和夫

井口登與志、 高柳涼一、 前田泰孝

井口登與志、 高柳涼一、 藤井雅一

特許出願中

特許出願中

特許出願中

特許出願中

2008/04/02

2008/10/25

3130

R E D O X N A V I  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 新規グループ紹介

DDSグループ

 創薬・医療技術開発においてイノベーションを達成するには、

異分野の知識・技術を融合しつつ、基礎研究から臨床応用までを

一貫して強力に推進する体制の整備が重要である。本研究拠点

では、医療分野に関する基礎研究から臨床研究まで一貫して進

められる環境として、平成21年8月に先端融合医療創成セン

ターを新たに設立した。橋渡し研究事業とスーパー特区と連携

することにより、基礎研究の段階から臨床応用を見越した研究

戦略に則って基礎から臨床まで一貫した開発を効率的に推進し

得る体制が整備された。この推進基盤を基に、本拠点が掲げる

レドックスに関連する疾患の診断や治療に有用と考えられる創

薬シーズを臨床応用化するために、新たに薬物伝達システム

(DDS)研究開発グループを立ち上げることになった。

 DDSは“薬物を必要な場所に、必要な時間、必要な量だけ作用

させる”ことを目指したテクノロジーで、既存薬の最適化を可能

にするものとして、近年脚光を浴びつつある。更に、生体内に投

与しても容易に分解され効果が持続しない遺伝子・核酸や生理

活性物質の創薬化を可能にする。新たに立ち上げるDDSグルー

プは、DDS基材の基本設計、処方最適化、および臨床使用可能な

GMPグレードのスケールアップ基材製造方法確立を行う日油

株式会社と協働して、難治癌に対する高分子ミセルを用いた

DDS内包遺伝子治療薬の臨床研究を第1のミッションとして掲

げる。本拠点で築き上げてきた「レドックス分子イメージング」

や「メタボリック・プロファイリング」技術による薬効アッセイ

法を両グループとの融合研究により確立する。エビデンスに基

づくDDS内包遺伝子治療薬の臨床試験を世界に先駆けて目指

す。平行して「病態特異的な放出制御」、「アクティブ・ターゲ

ティング」、「生体バリアーの通過・吸収促進」といった次世代の

DDSに求められる基幹技術開発も進め、DDS分野におけるイノ

ベーションを目指す。

レドックスイメージンググループ

 様々な疾患に生体レドックス変動の寄与が示唆されている。

生体レドックス状態の可視化技術(生体レドックスイメージン

グ技術)は、疾患の診断、創薬創出に不可欠となる。

 レドックスイメージンググループは協働機関(富士電機ホー

ルディングス株式会社)と共にオーバーハウザー MRI(OMRI)

を始めとする生体イメージングの高感度化、病態検証を目的に

研究開発を進める。具体的には、①酸化ストレス疾患の病巣に

おけるレドックス動態の解析、② in vivo/ex-vivo融合レドッ

クスイメージング技術の先鋭化と病態応用、③新たな生体レ

ドックス解析法の構築と病態への応用性の検証、④OMRI装置

等疾患解析の観点から技術課題を明らかにし装置開発にフィー

ドバック である。また、生体レドックス画像解析グループとの

融合研究では、協働機関の有する電磁気応用技術を駆使し、臨床

応用に適合したOMRIの装置化技術の開発を進める。さらに、生

体レドックス内視鏡グループとの融合研究では、内視鏡内に小

型センシングデバイスを搭載し、診断と治療の融合を目指した

内視鏡を提供する要素技術研究を進める。以上のように、当グ

ループでは、他のグループとの連携を深めながら、レドックスイ

メージングの進展に取り組む。

ネット医療グループ

 九州大学先端融合医療レドックスナビ研究拠点での研究成果

を国民に広く還元し、安心安全な健康社会の実現を目指すため、

新たにネット医療グループを立ち上げることになった。本グ

ループでは、優れたネットワーク基盤技術を有し、カルナプロ

ジェクトや難治性皮膚炎疾患による画像診断の支援、遠隔医療

において本学と協働研究実績のある九州電力と協働し、主に以

下の3つの項目について研究を進める。

①かかりつけ医・地方病院への診療支援ネットワーク構築

②住民への健康支援ネットワーク構築

③情報機器を用いた個人疾病・健康情報の管理システムの開発

 具体的には、かかりつけ医・地方病院への診療支援ネットワー

ク構築に関して、生活習慣病(糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満

症など)のガイドラインに準拠した診療のための地域連携クリ

ティカルパスコンテンツのネットワークによる提供やハブ病院

(九州大学病院)の各専門医(レドックス関連疾患、癌、難治性皮

膚炎症疾患など)による画像診断による診療支援を推進する。

住民への健康支援ネットワーク構築に関しては、個別健康通信

教育コンテンツ、疾患自己管理指導サービスのネットワークに

よる提供やハブ病院(九州大学病院)の各専門医(レドックス関

連疾患、癌、難治性皮膚炎症疾患など)によるセカンドオピニオ

ン支援に加え、先端融合医療ネットワークを利用し、高度なセ

キュリティの下、地域住民の健康疾病情報(身体測定値、血圧値、

血糖値、既往症など)を蓄積し、生活習慣病やがん、神経疾患など

レドックス関連疾患の研究に資するコホート研究システムの構

築を目指す。また、個人認識のためのICタグの開発、および個人

疾病・健康情報のICチップ化の開発を目指す。

九州大学先端融合医療レドックスナビ研究拠点

第5回成果報告会について九州大学医学部百年講堂中ホール 平成22年2月23日開催

 本拠点は、平成19年度文部科学省科学技術振興調整費「先端融合医療イノベーション創出拠点の形成」事業の採択を

受けて設置され、レドックス(酸化・還元)反応を共通の概念とする病態分析、早期診断・治療、創薬研究(「視る」、「操る」、

「治療する」)を一貫して推進することを目的に研究を行ってきました。

 これまで幾度かのフォーラムを重ねてまいりましたが、今回は平成19年度から21年度までの3年間で得られた研究成

果を発表します。

I n f o rm a t i o n

3332

R E D O X N A V I  K Y U S H U U N I V E R S I T Y NEWS LETTER VOL.4 新規グループ紹介

DDSグループ

 創薬・医療技術開発においてイノベーションを達成するには、

異分野の知識・技術を融合しつつ、基礎研究から臨床応用までを

一貫して強力に推進する体制の整備が重要である。本研究拠点

では、医療分野に関する基礎研究から臨床研究まで一貫して進

められる環境として、平成21年8月に先端融合医療創成セン

ターを新たに設立した。橋渡し研究事業とスーパー特区と連携

することにより、基礎研究の段階から臨床応用を見越した研究

戦略に則って基礎から臨床まで一貫した開発を効率的に推進し

得る体制が整備された。この推進基盤を基に、本拠点が掲げる

レドックスに関連する疾患の診断や治療に有用と考えられる創

薬シーズを臨床応用化するために、新たに薬物伝達システム

(DDS)研究開発グループを立ち上げることになった。

 DDSは“薬物を必要な場所に、必要な時間、必要な量だけ作用

させる”ことを目指したテクノロジーで、既存薬の最適化を可能

にするものとして、近年脚光を浴びつつある。更に、生体内に投

与しても容易に分解され効果が持続しない遺伝子・核酸や生理

活性物質の創薬化を可能にする。新たに立ち上げるDDSグルー

プは、DDS基材の基本設計、処方最適化、および臨床使用可能な

GMPグレードのスケールアップ基材製造方法確立を行う日油

株式会社と協働して、難治癌に対する高分子ミセルを用いた

DDS内包遺伝子治療薬の臨床研究を第1のミッションとして掲

げる。本拠点で築き上げてきた「レドックス分子イメージング」

や「メタボリック・プロファイリング」技術による薬効アッセイ

法を両グループとの融合研究により確立する。エビデンスに基

づくDDS内包遺伝子治療薬の臨床試験を世界に先駆けて目指

す。平行して「病態特異的な放出制御」、「アクティブ・ターゲ

ティング」、「生体バリアーの通過・吸収促進」といった次世代の

DDSに求められる基幹技術開発も進め、DDS分野におけるイノ

ベーションを目指す。

レドックスイメージンググループ

 様々な疾患に生体レドックス変動の寄与が示唆されている。

生体レドックス状態の可視化技術(生体レドックスイメージン

グ技術)は、疾患の診断、創薬創出に不可欠となる。

 レドックスイメージンググループは協働機関(富士電機ホー

ルディングス株式会社)と共にオーバーハウザー MRI(OMRI)

を始めとする生体イメージングの高感度化、病態検証を目的に

研究開発を進める。具体的には、①酸化ストレス疾患の病巣に

おけるレドックス動態の解析、② in vivo/ex-vivo融合レドッ

クスイメージング技術の先鋭化と病態応用、③新たな生体レ

ドックス解析法の構築と病態への応用性の検証、④OMRI装置

等疾患解析の観点から技術課題を明らかにし装置開発にフィー

ドバック である。また、生体レドックス画像解析グループとの

融合研究では、協働機関の有する電磁気応用技術を駆使し、臨床

応用に適合したOMRIの装置化技術の開発を進める。さらに、生

体レドックス内視鏡グループとの融合研究では、内視鏡内に小

型センシングデバイスを搭載し、診断と治療の融合を目指した

内視鏡を提供する要素技術研究を進める。以上のように、当グ

ループでは、他のグループとの連携を深めながら、レドックスイ

メージングの進展に取り組む。

ネット医療グループ

 九州大学先端融合医療レドックスナビ研究拠点での研究成果

を国民に広く還元し、安心安全な健康社会の実現を目指すため、

新たにネット医療グループを立ち上げることになった。本グ

ループでは、優れたネットワーク基盤技術を有し、カルナプロ

ジェクトや難治性皮膚炎疾患による画像診断の支援、遠隔医療

において本学と協働研究実績のある九州電力と協働し、主に以

下の3つの項目について研究を進める。

①かかりつけ医・地方病院への診療支援ネットワーク構築

②住民への健康支援ネットワーク構築

③情報機器を用いた個人疾病・健康情報の管理システムの開発

 具体的には、かかりつけ医・地方病院への診療支援ネットワー

ク構築に関して、生活習慣病(糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満

症など)のガイドラインに準拠した診療のための地域連携クリ

ティカルパスコンテンツのネットワークによる提供やハブ病院

(九州大学病院)の各専門医(レドックス関連疾患、癌、難治性皮

膚炎症疾患など)による画像診断による診療支援を推進する。

住民への健康支援ネットワーク構築に関しては、個別健康通信

教育コンテンツ、疾患自己管理指導サービスのネットワークに

よる提供やハブ病院(九州大学病院)の各専門医(レドックス関

連疾患、癌、難治性皮膚炎症疾患など)によるセカンドオピニオ

ン支援に加え、先端融合医療ネットワークを利用し、高度なセ

キュリティの下、地域住民の健康疾病情報(身体測定値、血圧値、

血糖値、既往症など)を蓄積し、生活習慣病やがん、神経疾患など

レドックス関連疾患の研究に資するコホート研究システムの構

築を目指す。また、個人認識のためのICタグの開発、および個人

疾病・健康情報のICチップ化の開発を目指す。

九州大学先端融合医療レドックスナビ研究拠点

第5回成果報告会について九州大学医学部百年講堂中ホール 平成22年2月23日開催

 本拠点は、平成19年度文部科学省科学技術振興調整費「先端融合医療イノベーション創出拠点の形成」事業の採択を

受けて設置され、レドックス(酸化・還元)反応を共通の概念とする病態分析、早期診断・治療、創薬研究(「視る」、「操る」、

「治療する」)を一貫して推進することを目的に研究を行ってきました。

 これまで幾度かのフォーラムを重ねてまいりましたが、今回は平成19年度から21年度までの3年間で得られた研究成

果を発表します。

I n f o rm a t i o n

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