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日医大医会誌 2011; 7(4) 146 ―グラビア― 飛行機を利用した人工呼吸器管理下の重症高齢患者の遠隔地への搬送経験 三枝 英人 1,2 門園 1,2 山口 1,2 伊藤 裕之 1,2 粟屋 俊輔 3 藤井さくら 4 小川 香野 4 安部 節美 5 杉本 泰彦 6 阿部 利雄 6 1 日本医科大学大学院医学研究科頭頸部・感覚器科学 2 日本医科大学付属病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科 3 日本医科大学付属病院 ME 部 4 日本医科大学付属病院 C 棟 6 階第 2 病棟 5 日本医科大学付属病院在宅支援室 6 日本医科大学付属病院ドクターカー Remote Distance Airfreight Transportation for an Aged-patient with Severe General Condition under the Control of the Artificial Ventilator System Hideto Saigusa 1,2 , Osamu Kadosono 1,2 , Satoshi Yamaguchi 1,2 , Hiroyuki Itou 1,2 , Shyunsuke Awaya 3 , Sakura Fujii 4 , Kano Ogawa 4 , Setsumi Abe 5 , Yasuhiko Sugimoto 6 and Toshio Abe 6 1 Department of Head & Neck and Sensory Organ Science, Graduate School of Medicine, Nippon Medical School 2 Department of Otolaryngology and Head and Neck Surgery, Nippon Medical School Hospital 3 The Section of Medical Engineering, Nippon Medical School Hospital 4 The Second Office of the C-ward, Nippon Medical School Hospital 5 The Section of Supporting for Medical Home Care, Nippon Medical School Hospital 6 The Section of the Doctor Car, Nippon Medical School Hospital 症例は 75 歳男性.3 カ月前に脳出血を発症し,その後, 重症胃食道逆流による誤嚥性肺炎,ARDS,敗血症を反復 していた.嚥下障害治療のため当科へ転院時にはすでに両 肺は器質的変化へ移行しており,人工呼吸器離脱は困難な 状態であった.このため,胃"から胃内排液チューブと空 腸への栄養チューブを挿入し,栄養管理を行った.半年後, 全身状態改善したので,娘の住む札幌への遠隔地搬送を行 う予定となった.羽田空港までは付属病院の誇る高機能型 ドクターカーで搬送したが(1),ストレッチャーへ の移動,車中の揺れにて容易に血圧,SPO2 値が低下する ため,その都度 DOA の点滴速度,酸素濃度の変更で対応 した.搭乗前点検は,空港職員が車中で行った(1). その後,飛行機にドクターカーを横付けし,リフトで機内 へ上がった.機内へは,担架型ボードに患者を移し,3 席 分の椅子の上にボードを設置した(1).搬入は一般 乗客搭乗前に行った.機内では,機内酸素を使用したが, チューブ先端径が合わず,先端を切断し,人工呼吸器と連 結しようとしたが,鋏やカッターを持ち込めず,旅客員も 所持していないため,点滴セットの 18 G 針を利用した. その間の急激な SPO2 値の低下に,肝を冷した.ドクター カー下車後は,患者の口唇色調と簡易型 SPO2 モニターで 呼吸を,橈骨動脈触診で循環を,頻回の呼び掛けで意識を モニタリングした(1).機内では,離着陸時も含め て全身状態は安定していた.下車は乗客退出後に行った. タラップへ搬送後,ストレッチャーへ移動,貨物用リフト で下車し(2),待機していた民間救急車へ搬入の上 2),目的地の札幌市内の病院へ搬送した(2⑦, ).2カ月後,患者は希望通り在宅医療へと移行した. 謝辞:患者管理を御指導下さった集中治療室麻酔科の竹 田晋浩先生,三井誠司先生,中里桂子先生,心臓血管外科 の廣本敦之先生,札幌社会保険総合病院の小野雄二先生(本 学平成11年卒),そして搬送を許可,支援して下さった当 科大久保公裕主任教授,福永慶隆付属病院院長に深謝致し ます. 1 ドクターカーから飛行機内搬入まで. :日本医科大学付属病院の誇る高機能型ドクターカーの 内部.様々な医療器具が装着されているにもかかわらず, 車内は広く,医療器具も余裕をもって搬送出来た.:空 港職員が車内に乗り込み,搭乗前点検を行った.:機内 での様子.:ドクターカーを離れてからは,呼吸を患者 の口唇色調と簡易型 SPO2 モニターで,循環を橈骨動脈触 診で,意識を頻回の呼び掛けでモニタリングした. 2 飛行機下車から,搬送先の病院まで. :貨物用リフトで機外へと退出した.北海道の広大な地 平が見える.:吹雪の中,飛行機に横付けされた民間救 急搬送車へと搬入した.:民間救急搬送車は,非常に狭 い上,モニタリング機器もなく,乗り心地も良くない.人 工呼吸器を必死に把持している.ドクターカーの有難さを 実感した.:搬送先の病院へ無事搬送出来た. 連絡先:三枝英人 〒1138603 文京区千駄木 115 日本医科大学付属病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科 E-mail: [email protected] Journal Website(http : !! www.nms.ac.jp! jmanms!

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  • 日医大医会誌 2011; 7(4)146

    ―グラビア―

    飛行機を利用した人工呼吸器管理下の重症高齢患者の遠隔地への搬送経験

    三枝 英人 1,2 門園 修 1,2 山口 智 1,2 伊藤 裕之 1,2 粟屋 俊輔 3藤井さくら 4 小川 香野 4 安部 節美 5 杉本 泰彦 6 阿部 利雄 6

    1日本医科大学大学院医学研究科頭頸部・感覚器科学2日本医科大学付属病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科

    3日本医科大学付属病院ME部4日本医科大学付属病院C棟 6階第 2病棟

    5日本医科大学付属病院在宅支援室6日本医科大学付属病院ドクターカー

    Remote Distance Airfreight Transportation for an Aged-patient with Severe GeneralCondition under the Control of the Artificial Ventilator SystemHideto Saigusa1,2, Osamu Kadosono1,2, Satoshi Yamaguchi1,2, Hiroyuki Itou1,2,

    Shyunsuke Awaya3, Sakura Fujii4, Kano Ogawa4, Setsumi Abe5,Yasuhiko Sugimoto6 and Toshio Abe6

    1Department of Head & Neck and Sensory Organ Science, Graduate School of Medicine, Nippon Medical School2Department of Otolaryngology and Head and Neck Surgery, Nippon Medical School Hospital

    3The Section of Medical Engineering, Nippon Medical School Hospital4The Second Office of the C-ward, Nippon Medical School Hospital

    5The Section of Supporting for Medical Home Care, Nippon Medical School Hospital6The Section of the Doctor Car, Nippon Medical School Hospital

    症例は 75 歳男性.3カ月前に脳出血を発症し,その後,重症胃食道逆流による誤嚥性肺炎,ARDS,敗血症を反復していた.嚥下障害治療のため当科へ転院時にはすでに両肺は器質的変化へ移行しており,人工呼吸器離脱は困難な状態であった.このため,胃�から胃内排液チューブと空腸への栄養チューブを挿入し,栄養管理を行った.半年後,全身状態改善したので,娘の住む札幌への遠隔地搬送を行う予定となった.羽田空港までは付属病院の誇る高機能型ドクターカーで搬送したが(図 1―①),ストレッチャーへの移動,車中の揺れにて容易に血圧,SPO2値が低下するため,その都度DOAの点滴速度,酸素濃度の変更で対応した.搭乗前点検は,空港職員が車中で行った(図 1―②).その後,飛行機にドクターカーを横付けし,リフトで機内へ上がった.機内へは,担架型ボードに患者を移し,3席分の椅子の上にボードを設置した(図 1―③).搬入は一般乗客搭乗前に行った.機内では,機内酸素を使用したが,チューブ先端径が合わず,先端を切断し,人工呼吸器と連結しようとしたが,鋏やカッターを持ち込めず,旅客員も

    所持していないため,点滴セットの 18 G針を利用した.その間の急激な SPO2値の低下に,肝を冷した.ドクターカー下車後は,患者の口唇色調と簡易型 SPO2モニターで呼吸を,橈骨動脈触診で循環を,頻回の呼び掛けで意識をモニタリングした(図 1―④).機内では,離着陸時も含めて全身状態は安定していた.下車は乗客退出後に行った.タラップへ搬送後,ストレッチャーへ移動,貨物用リフトで下車し(図 2―⑤),待機していた民間救急車へ搬入の上(図 2―⑥),目的地の札幌市内の病院へ搬送した(図 2―⑦,⑧).2カ月後,患者は希望通り在宅医療へと移行した.

    謝辞:患者管理を御指導下さった集中治療室麻酔科の竹田晋浩先生,三井誠司先生,中里桂子先生,心臓血管外科の廣本敦之先生,札幌社会保険総合病院の小野雄二先生(本学平成 11 年卒),そして搬送を許可,支援して下さった当科大久保公裕主任教授,福永慶隆付属病院院長に深謝致します.

    図 1 ドクターカーから飛行機内搬入まで.①:日本医科大学付属病院の誇る高機能型ドクターカーの内部.様々な医療器具が装着されているにもかかわらず,車内は広く,医療器具も余裕をもって搬送出来た.②:空港職員が車内に乗り込み,搭乗前点検を行った.③:機内での様子.④:ドクターカーを離れてからは,呼吸を患者の口唇色調と簡易型 SPO2モニターで,循環を橈骨動脈触診で,意識を頻回の呼び掛けでモニタリングした.

    図 2 飛行機下車から,搬送先の病院まで.⑤:貨物用リフトで機外へと退出した.北海道の広大な地平が見える.⑥:吹雪の中,飛行機に横付けされた民間救急搬送車へと搬入した.⑦:民間救急搬送車は,非常に狭い上,モニタリング機器もなく,乗り心地も良くない.人工呼吸器を必死に把持している.ドクターカーの有難さを実感した.⑧:搬送先の病院へ無事搬送出来た.

    連絡先:三枝英人 〒113―8603 文京区千駄木 1―1―5 日本医科大学付属病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科E-mail: [email protected] Website(http :��www.nms.ac.jp�jmanms�)

  • 日医大医会誌 2011; 7(4) 147

    図 1

    図 2