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ROAD TEST No 5089 BMW M135i ビーエムダブリュー M135i 先代モデルに設定された1シリーズMクーペほどには本格的ではないM135iだが、 BMWはこの現行最強のホットモデルにどこまで本格的な乗り味を与えたのか? photo: Stuart Price(スチュアート・プライス) WE LIKE 驚異的な直線路でのパフォーマンス、スペックから見たときのバリュー、スムーズなエンジンとギヤシフト ドアミラーとフロントバンパーの一部に使われ ているフェリックグレーの外装トリムは、B M W M パフォーマンスのスタイリング的な特徴にな るだろう。 1 8 イン チ の M ス ポ ー ツ・ア ルミホ イー ル は M135iの専用品である。通常の1シリーズと違 い、タイヤはリヤのほうが広く、フロントは225 サイズ、リヤは245サイズを装着する。 フロントエプロンの突起は、レースマシーンのエ アロパーツに対するオマージュである。LED式 のデイタイムランニングライトのおかげで、フォ グライトは不要となった。 ソリッドのボディカラーはアルピンホワイトの み。それ以外は有償オプションで、ブラックサ ファイア、エストリルブルー、グレイシャルシル バー、ミネラルグレー、バレンシアオレンジが用 意される。専用色の設定はない。 082 AUTOCAR 02/2013

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Page 1: ROAD TEST No 5089 BMW M135i - AUTOCAR JAPAN...ROAD TEST No 5089BMW M135i ビーエムダブリュー M135i 先代モデルに設定された1シリーズMクーペほどには本格的ではないM135iだが、

ROAD TEST No 5089

BMW M135i ビーエムダブリュー M135i

先代モデルに設定された1シリーズMクーペほどには本格的ではないM135iだが、BMWはこの現行最強のホットモデルにどこまで本格的な乗り味を与えたのか?photo: Stuart Price(スチュアート・プライス)

WE LIKE 驚異的な直線路でのパフォーマンス、スペックから見たときのバリュー、スムーズなエンジンとギヤシフト

ドアミラーとフロントバンパーの一部に使われているフェリックグレーの外装トリムは、BMW M パフォーマンスのスタイリング的な特徴になるだろう。

18インチのMスポーツ・アルミホイールはM135iの専用品である。通常の1シリーズと違い、タイヤはリヤのほうが広く、フロントは225サイズ、リヤは245サイズを装着する。

フロントエプロンの突起は、レースマシーンのエアロパーツに対するオマージュである。LED式のデイタイムランニングライトのおかげで、フォグライトは不要となった。

ソリッドのボディカラーはアルピンホワイトのみ。それ以外は有償オプションで、ブラックサファイア、エストリルブルー、グレイシャルシルバー、ミネラルグレー、バレンシアオレンジが用意される。専用色の設定はない。

082 AUTOCAR 02/2013

Page 2: ROAD TEST No 5089 BMW M135i - AUTOCAR JAPAN...ROAD TEST No 5089BMW M135i ビーエムダブリュー M135i 先代モデルに設定された1シリーズMクーペほどには本格的ではないM135iだが、

BMW M135i ROAD TEST

MODEL TESTED ◎テスト車輌概要

●モデル名:M135i(3ドア)●車両本体価格:549.0万円(5ドア)●日本発売時期:2012年8月1日●最高出力:320ps/5800rpm●最大トルク:45.9kgm/1300-4500rpm●0-97km/h加速:4.6秒●113-0km/h制動距離:45.9m●最大求心加速度:1.05G●テスト平均燃費:10.7km/ℓ●二酸化炭素排出量:175g/km

WE DON’T LIKE スペシャルなデザインタッチの欠如、平凡な室内、ハードドライビングでのタイヤの摩耗

 BMWはこのところ、“M”の神聖化されたイメージを捨てようとしているようにも思える。狂気の沙汰とも思えるが、これはじつに筋道が通った措置だ。彼らは本格的なMモデルよりも、性能的には一歩後退しているが利幅の大きいパフォーマンスモデルのレンジを設定しようとしており、M135iはその戦略にのっとった一台なのである。そして、これらの派生モデルを純粋なモータースポーツマシーンではなく、

“powered by M”と考えてほしがっているらしい。X5 M50dあたりもこの戦略によって生み出されたモデルで、そんな新しい区分に組

HISTORY 目指すは“M”の大衆化!?

半円形に熱線が入ったリヤウィンドウは、リヤワイパーが拭き取るエリアの曇り取りに有効だ。われわれの知る限り、1シリーズ以外ではまだ使われていない。

欧州仕様ではパーキングセンサーが前後それぞれ別のオプションとなっている。テスト車両については、BMWは賢明にもリヤのみに装着しており、フロントの外観に悪影響を与えていなかった。

欧州仕様の1シリーズではキセノンヘッドライトとのセットオプションとなる、L字型のLED式サイドランプを備えたテールライト。M135iでは標準装備となる。

サイドスカートの張り出しはMパフォーマンスエアロキットの一部として設定されている。これは、よりスポーティなスタンスを作り出し、ボディと路面の近さを際立たせる。

み込まれた最初のガソリンエンジン車が、このM135iというわけである。

M135iはX5 M50dなどと同様、BMWの新しいジャンルのクルマである。

083www.autocar.jp

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ON THE INSIDE

COMMUNICATIONコミュニケーション標準のBMWプロフェッショナルラジオ/CDシステムにはBluetooth接続機能が備わる。ビジネスまたはプロフェッショナルメディアにアップグレードすると、コミュニケーションシステムにBMWアシストが付帯し、故障の際の助けとなる。電話の適合は簡単で素早く、接続の信頼性も高い。

NAVIGATIONGPSナビゲーション8.8インチワイドスクリーンディスプレイと、3Dマップ/バーズアイビューガイダンス付きナビゲーションが欲しい場合、BMWプロフェッショナルマルチメディアに

アップグレードする必要がある。高額だが、車両の資産価値を高く保つにも役立ってくれるはずだ。機能にも優れ、幅の広いディスプレイに分割スクリーンがうまく収まっている。ビジネスナビシステムのスクリーンは6.5インチである。

ENTERTAINMENTエンターテインメントすでにこのクルマをオーダー済みでも、7個のスピーカーを持つビジネスステレオへのフリーアップグレードを受けられるかもしれない。テスト車はハーマン・カードン製ハイファイを装備していた。素晴らしいサウンドながらリーズナブルだ。だが、驚くべきことにDAB製ラジオはオプションである。

“M135i”のロゴ入りキックプレートは、このモデルがノーマルの1シリーズのMスポーツ仕様とは異なることを示す、数少ない内装パーツのひとつだ。

青いアクセントが付いた“アルミヘキサゴン”キャビントリムは魅力的だが、120d Mスポーツでも同じものが手に入る。BMWにはもっと工夫を望みたい。

車線逸脱警告システムには、簡単に切り替えできるこのようなボタンを付けるべきだ。走行中にメニューと格闘するのは困難で、注意も散漫になる。

084 AUTOCAR 02/2013

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2690mm765mm 869mm

4324mm

1421mm

52% 48%

860mm min

1030mm max

490mm min

820mm m

ax

940m

m m

in10

60m

m m

ax

960m

m

360-1200 litres

0.33

1765mm1569mm1535mm

Turn

ing

circle

: 10.

9m

8.4ºobscured

8.0ºobscured

160m

m

Cent

re40m

m

BMW M135i ROAD TEST

WHEEL AND PEDAL ALIGNMENT ステアリングホイールとペダルの配置

荷室はかなり広く、60:40の分割可倒リヤシートがそれをさらに拡大する。だが、フロア用のネットとサイドの小物入れはオプションだ。

標準的なシート位置での足元スペース:850mm

幅:980-1060mm

奥行き:790-1580mm

高さ:450-730mm

FRONT前方視界はそこそこ良好だが、後方視界は制約を受ける。

HEADLIGHTSテスト車が装着していたアダプティブヘッドライトの性能はエクセレント。

HOW BIG IS IT? サイズはどれくらい?

VISIBILITY TEST 視認性テスト

M135iのリヤシート構成は3座のベンチシートのみとなっている。下位の3ドアの1シリーズでは、左右が独立した2座シートを選ぶことも可能だ。

低く座り、足を伸ばす1シリーズのドライビングポジションは、ホットモデルに最適だ。フロントはヘッドルームも広い。

ふたつしかないペダルは、理想的な配置がされている。

085www.autocar.jp

でトリッキーさを抑えた折衷案的なマシーンとして

は、十分にスペシャルだろう。

 ボンネットの下には、やや目新しく興味をそそる

エンジンが収まる。その3.0ℓ直6ターボは、最高

出力が320ps、最大トルクは45.9kgmだ。中回転

域のトルクは、クーペの135i Mスポーツに比べて

10%強化されている。一方で、価格は性能で劣る

クーペモデルより65.5万円安い。

 しかし、シャシーはどちらかといえば下位の1シ

リーズに類似した内容だ。サスペンションは、フロ

ントがアルミを多用したマクファーソン・ストラット、

リヤがマルチリンクで、どちらも“専用スペック”と

称するスプリングとダンパーが装着されているが、

BMWが“Mスポーツサスペンション”と呼んでいる

ものは、125i Mスポーツのそれとさほど違いがな

い。アダプティブダンパーはオプション設定だ。操

舵系には、パッシブ式の可変レシオパワーステアリ

ングを標準装備する。

 タイヤサイズは現行1シリーズとしては唯一、リ

ヤがフロントよりも大きい。当然、それは駆動輪で

ある後輪によって、強大なトルクを効率よく路面に

ルセデスのA45 AMGも出番待ちの段階だ。

 結果的に、BMWはこれでひと息つく余裕ができ

たわけだが、結果としてできあがったクルマは、由

緒あるMバッジにふさわしいものなのだろうか。

DESIGN&ENGINEERING意匠と技術★★★★★★★☆☆☆ 重ねて言おう。これはBMWモータースポーツの

モデルとしてふさわしいクルマなのだろうか? そ

れがこのM135iに対する根本的な問いであり、わ

れわれはここでその答えを出そうとしている。

 M135iはライプツィヒにある1シリーズの生産ラ

インで製造されており、ミュンヘンのMディビジョン

で造られているわけではない。だが、それはE39型

のM5以降に登場した主要なMモデルすべてで同

じことだ。したがって、それ自体は必ずしもマイナ

ス要素とはならない。

 パワートレインとサスペンションは、“特別”だと

形容できる内容だ。1シリーズMクーペに肩を並べ

るほどだとはいえないが、より手が届きやすい価格

このクルマが市場に投入された理由を説明す

るのはじつに簡単だ。われわれは先代に設

定された特別仕立ての1シリーズであるMクーペ

の野性味を賞賛したが、それは大量生産を意図し

ていない限定車ということもあり、恐ろしく高価な

モデルだった。市場に求められているのは、同じく

らいに強烈なパワーをハッチバックのボディシェル

で包み、少々鋭さを増したシャシーに載せて、しか

もより安価で購入できるクルマなのは明白である。

M135iは、その要求に対するBMWの回答だ。

 1Mクーペがハードコアなエンスージアスト向け

の派手な打ち上げ花火的企画だったのに対し、こ

のM135iはBMWの新しいパフォーマンス戦略に

沿った最上級モデルであり、純粋に最新の技術を

投じたハイパフォーマンスハッチというコンセプト

に魅力を感じる多数の顧客への提案である。

 マーケットに同種の商品がないわけではない

が、今回のデビューはきわめてタイミングがいい。

やたらに高価なアウディRS3はもはや去るのみの

モデル末期にあり、次世代のVWゴルフRとフォー

ド・フォーカスRSの登場までにはまだ間がある。メ

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■ドライサーキット

225km/h

25.3s

209km/h

20.4s

193km/h

16.6s

177km/h

13.5s

48km/h 64 80 97 113 129 145 160km/h

1.6s 2.5s 5.8s3.4s 4.5s 11.2s7.2s 9.1s

20s10s0 25s15s5s

225km/h

25.1s

209km/h

20.7s

193km/h

16.6s

177km/h

13.7s

48km/h 64 80 97 113 129 145 160km/h

1.8s 2.6s 5.9s3.5s 4.6s 11.4s7.5s 9.2s

20s10s0 25s15s5s

48-0km/h

48-0km/h

80-0km/h

80-0km/h 113-0km/h

113-0km/h

45.9m

55.0m25.4m

23.2m

9.0m

8.7mDRY

WET

20m10m 40m 50m30m0

Start/finishT1T2

T4

T3

T5 T6

T7

T8

■ドライサーキットBMW M135iラップタイム:1分15秒9アウディRS3参考タイム:1分15秒6

アウディRS3のほうがわずかに速いが、M135iのテスト時は路面が少し湿っていた。完全なドライコンディションであれば、状況は逆転するだろう。いずれにしてもM135iのほうが愉しさで上回る。

Start/finishT1

T2

T3

T4

T5T6

T7

TRACK NOTES サーキットテスト

 競合するアウディRS3は車重とパワーの配分の関係でリヤタイヤ(225幅)がフロント(235幅)より細いが、M135iはリヤタイヤのほうが20mm広い。これはより均一な重量バランスと後輪駆動に対応した結果だ。 その結果、M135iはスロットルで対処

できる程度の弱いアンダーステア傾向を備えた、とてもバランスに優れたクルマとなっている。これでリヤに機械式リミテッドスリップディファレンシャルを備えてさえいれば、われわれはその走りにかなり満足できただろうと思う。なぜなら、アンダーステアからオーバーステアへの移行が、

時としてぎこちないことがあり、それが解消される可能性がかなり高いと思われるからだ。 コーナーではブレーキを残しながら鼻先を突っ込み、それからスロットルを踏み込んでやるのが正しい作法だ。そうしなければアンダーステアが出て、フロントタイ

ヤがすぐにオーバーヒートしてしまう。そのあたりのコツをつかめば、M135iは操りやすく愉しい。 ただ、ひとつ忠告しておくなら、このタイヤは横方向のグリップは強力だが、少しでもざらざらした路面でハードにコーナリングすると、すぐに摩耗してしまう。

ON THE LIMIT 限界時の挙動

BMW M135i

ドライハンドリングサーキットを5周しても、ブレーキはフェードしなかった。

M135iのリヤエンドは、ヘアピンからの立ち上がりを除いて、ワイドにステップすることを嫌う傾向が見られた。

■ウェットサーキットBMW M135iラップタイム:1分19秒8アウディRS3参考タイム:1分10秒4

運転は愉しく、ウェットでも少しも心配はない。ただし、装着タイヤの銘柄と後輪駆動により、M135iはRS3よりも遅く、絶対的に見てもとくに速いというわけではない。

サスペンションをスポーティなモードに切り替えると、ESPはより多くのスリップを許容するセッティングになる。解除すればコントロールは意のままだ。

直線ではハードブレーキングでも安定しているが、コーナーではテールは徐々にブレークする。

■発進加速テストトラック条件:乾燥路面/気温18℃0-402m発進加速:14.0秒(到達速度:173.2km/h)0-1000m発進加速:24.7秒(到達速度:220.5km/h)

アウディRS3

■制動距離97-0km/h制動時間:2.6秒

ON THE ROAD

086 AUTOCAR 02/2013

伝達するのが目的だろう。だが、機械式リヤLSDは

装備されていない。われわれからすれば、これはM

モデルとして減点対象になると感じられる。

INTERIOR室内★★★★★★★☆☆☆ 欧州では、M135iは3ドアと5ドアの両方から選

べるが、今回テストしたのは3ドアのほうだ。選定理

由は安価な価格設定と、実用性で劣る3ドアの1シ

リーズをわれわれがフルテストする初の機会とな

るからである。

 1シリーズでは2座のリヤシートも設定されてい

るが、このクルマには3座のベンチシートとレザー

内装が標準装備になるのは残念だ。M135iのオー

ナーは、左右独立式の2座リヤシートのほうを好む

はずだとわれわれは考えるのだが。

 後席へのアクセスは良好だ。ドアが長く、前席を

簡単に倒せるおかげである。ただし、バックレスト

の電動スライドスイッチは有償オプションだ。後席

のスペースは十分とはいえず、どうにか我慢でき

るというレベルである。かさばるチャイルドシートを

装着したり、平均よりも体格の大きい大人が前席

に乗る場合には、理想的とはいえない。もっとも、こ

の手のクルマを選んだ人にとっては、こうした点は

おそらく些末な問題だろう。

 対して、前席の状況はずっと良好である。すべ

ての1シリーズがそうであるように、M135iもレッ

グルームとヘッドルームはオーバースペックに感じ

られるほど余裕がある。シートとステアリングコラ

ムの両方ともアジャスト幅が大きいおかげで、ドラ

イビングポジションには欠点らしい欠点は見当た

らない。ハッチバックとは思えないほどヒップポジ

ションが低く、居心地がいい。

 ところが、キャビンの仕立てと装備については、

それほど感銘を受けない。下位モデルのMスポー

ツ仕様とこのモデルを区別する装飾がきわめて少

ないためだ。さらに、ほかのホットハッチのメーカー

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BMW M135i ROAD TEST

3.0ℓ直列6気筒ターボは、320psと45.9kgm(1300〜5000rpm)を発生する。

排気系をチューニングし直し、ECUセッティングも変更。またヘビーデューティな冷却キットを装着した。

 “モータースポーツディビジョン”と聞くと、依然として8500rpmのレッドラインを期待するだろうが、今後はそういうこともなくなるだろう。したがって、そうした原理主義的な面でM135iの6気筒ターボに失望する必要はないし、それ以外の理由でも同じである。 通常モデルの335iなどでは306psとされている3.0ℓツインスクロールターボエンジンは、ヘビーデューティ冷却システム、専用の排気系チューニング、新たなECUセッティングによって320psを実現した。さらにトルクは40.8kgmから45.9kgmへと増強され、それが1300〜5000rpmで発生する。直噴インジェクションとバルブトロニック、ダブルVANOSの恩恵だ。 ドライブトレインについては通常は個人的な嗜好だと考えているが、このクルマの場合、A/Tを選ぶのが得策だ(日本仕様はA/Tのみ)。8段A/Tによって0-97km/hが5.0秒を切る(ハッチバックとしては立派なタイム)だけでなく、燃費もリセールバリューもはるかに向上するからだ。 新設計の冷却系は、夏のサーキットでも問題ない。M/Tがドライサンプ式ギヤボックスとなるものの、賢明な選択はA/Tだ。

M135iの乗り心地は非常に硬いが、許容できないほどではない。

UNDER THE SKIN チューンド・バイ“M”

087www.autocar.jp

が省こうとは夢にも思わないであろう多くの装備

がオプションとなっている。いずれにしても、標準

仕様のままで購入するという人は少ないだろう。こ

の問題についてはまたのちほど触れよう。

PERFORMANCE動力性能★★★★★★★★★★ M135iでMIRAのテストコースに向かう前、ある

テスターが「A/Tモデルは0-97km/hで5秒を切れ

るかもしれない」と感想を述べた。だが、テスト車は

ローンチコントロールは備えていないし、すでに写

真撮影に使われたあとでタイヤが新品ではなかっ

た。またコースに到着したとき、路面は完全なドラ

イではなく、気温も暖かくはなかった。

 それゆえに、BMWはパフォーマンスの公表値に

関して控えめな場合が多いとはいえ、2名乗車+燃

料満タン状態で、0-97km/hのタイム(往復2回計

測の平均)が公称値通りの4.6秒を達成したとき、

われわれは驚きを禁じ得なかった。Cセグメントの

特殊ではないホットハッチとしては、恐ろしく速い

タイムである。同時にこれは、ヴォグゾール・アスト

ラVXRやフォルクワーゲン・シロッコRといった前

輪駆動モデルに対して、パワーをどれだけ高めて

も、少なくともその駆動力の一部を後輪に伝えな

い限りは対抗できないというメッセージを突きつけ

る結果でもある。

 各ギヤ固定、あるいはシフトアップしつつ加速に

おいても劣るところはない。それは加速データの

一覧をひと目見ればわかる。たとえば、3速ギヤの

ままでの48-112km/h加速はわずか4.1秒だ。6

速でさえ(48km/hではアイドリング回転数の少し

上程度である)8.1秒しか要しない。このエンジン

はハイパワーながら、きわめてフレキシブルかつス

ムーズである。低回転から不平を言わずに回る。

 ムチを打つようなレスポンスを備えた、これぞ真

のMエンジンといいたくなるような自然吸気ユニッ

トでないことに、われわれが強い失望を覚えるかと

いえば、じつはそうでもない。穏やかな過給の6気

筒ターボとスムーズに動作するコンベンショナル

なA/Tは、Mのバッジとは相容れないように思える

かもしれない。だが、このクルマの妥協案的な位置

づけを考えると、十分なレスポンスと鋭さを備えて

いる。低回転域では若干ターボラグがあるが、それ

を探そうと意識しなければ気づかない。

 一方、8段A/Tがドライブモードでためらいを示

す場面があったとしても、スポーツモードへ切り替

えたり、ドライバー自身が変速する手間は少しも面

倒ではない。間違いなくこのドライブトレインは、ど

のライバル車にも負けないくらい魅力的だ。そして

正直なところ、これでまったく申し分ない。

RIDE&HANDLING乗り心地と操縦安定性★★★★★★★★☆☆ A/Tに加えて、テストした個体にはアダプティブ

Mスポーツサスペンションがオプション装備されて

いた。このサスペンションはエコプロからスポーツ

プラスまで、ダンパーの減衰力を切り替えるいくつ

かの走行モードを備えている。同時にステアリング

も、緩やかな状態からシャープな状態まで調整され

る。たいていのオーナーはコンフォート(もっとも使

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一部バックナンバーは www.autocar.jp に掲載されています。

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02000 4000 800060000

Engine (rpm)

45.9kgm1300-4500rpm

320ps5800rpm

Powe

r out

put (

ps) Torque (kgm

)14

28

41

55

69

83

52 litres

12345

61km/h 7500rpm

92km/h 7500rpm

137km/h 7500rpm

174km/h 7500rpm

6 250km/h 6479rpm

225km/h 7500rpm

78

250km/h 5436rpm

250km/h* 4321rpm* claimed

■エンジン駆動方式:縦置き後輪駆動形式:直列6気筒, 2979ccブロック/ヘッド:アルミ軽合金ボア×ストローク:φ89.6×84.0mm圧縮比:10.2:1バルブ配置:4バルブDOHC最高出力:320ps/5800rpm最大トルク:45.9kgm/1300-4500rpm許容回転数:7500rpm馬力荷重比:211ps/tトルク荷重比:30.2kgm/t比出力:107ps/ℓ

■メカニカルレイアウトスティール製モノコックのシャシーにターボチャージャー付き直6ガソリンエンジンをフロント縦置きし、8段のトルクコンバーター式A/Tを介して後輪で駆動する。サスペンション形式はフロントがマクファーソン・ストラット、リヤがマルチリンクである。

■燃料消費率オートカー実測値 消費率総平均 10.9km/ℓツーリング 14.5km/ℓ動力性能計測時 5.9km/ℓメーカー公表値 消費率市街地 9.7km/ℓ郊外 17.2km/ℓ混合 13.3km/ℓ燃料タンク容量 52ℓ現実的な航続距離 566kmCO₂排出量 175g/km

■発進加速

実測車速mph(km/h) 秒30 (48) 1.840 (64) 2.650 (80) 3.560 (97) 4.670 (113) 5.980 (129) 7.590 (145) 9.2100 (161) 11.4110 (177) 13.7120 (193) 16.6130 (209) 20.7140 (225) 25.1150 (241) -

■サスペンション前:マクファーソン・ストラット/コイル +スタビライザー後:マルチリンク/コイル+スタビライザー

■ステアリング形式:ラック&ピニオン(電動アシスト)ロック・トゥ・ロック:2.7回転最小回転半径:5.60m

■ブレーキ前:通気冷却式ディスク後:通気冷却式ディスク

■中間加速〈秒〉mph (km/h) 2nd 3rd 4th 5th 6th 7th 8th

20-40 (32-64) 1.4 2.4 2.6 - - - -

30-50 (40-80) 1.6 1.9 2.3 3.1 4.2 5.5 -

40-60 (64-97) - 2.0 2.4 3.1 4.1 5.0 6.7

50-70 (80-113) - 2.2 2.5 3.1 4.1 5.1 6.8

60-80 (97-129) - - 2.7 3.3 4.2 5.2 7.2

70-90 (113-145) - - 3.1 3.5 4.4 5.5 7.5

80-100 (129-161) - - - 3.8 4.7 5.8 8.0

90-110 (145-177) - - - 4.3 5.0 6.3 8.8

100-120 (161-193) - - - 5.2 5.5 7.0 10.0

110-130 (177-209) - - - 6.6 7.8 -

120-140 (193-225) - - - - 7.9 - -

130-150 (209-241) - - - - - - -

140-160 (193-257) - - - - - - -

■シャシー/ボディ構造:スティールモノコック車両重量:1525/1545kg(実測)抗力係数:0.33ホイール:前7.5J×18in, 後8.0J×18inタイヤ:前225/40R18, 後245/35R18スペアタイヤ:なし(補修キット)■変速機形式:8段オートマティックギヤ比/1000rpm時車速〈km/h〉①4.714/8.2②3.143/12.2③2.106/18.3④1.667/23.2⑤1.285/29.9⑥1.000/38.5⑦0.839/45.9⑧0.667/57.8最終減速比:3.077

■安全装備ABS, EBD, DSC, TCSEuro N CAP/ 5つ星乗員保護性能/成人:91%, 子供:83%歩行者保護性能:63%, 安全補助装置性能:86%

注意事項:馬力荷重比とトルク荷重比の計算にはメーカー公称車両重量を使用しています。 © Autocar 2012. テスト結果は権利者の書面による承諾なしに転用することはできません。

英国ではスバル・インプレッサWRX STIを購入したほうが、M135iよりも年間で40%も税金を多く払わなければならない。その金額がこれ(日本円にして16万円強)。

2006年にテストした330iクーペのツーリング燃費。同じエンジンで、当時は305psどまりだったが、最新の320ps版より消費燃料は多かったのである。

ROAD TEST

£119511.3km/ℓ

■今月の数字

■最高速

SPECIFICATIONS 計測テストデータ

DATA LOG

■エンジン性能曲線

088 AUTOCAR 02/2013

用頻度が多い)あるいはスポーツ(ワインディング

ロードで路面がなめらかな場合に使う)の、中間的

なモードに落ち着くはずだ。

 タイヤはランフラットではなく、ミシュラン・パイ

ロットスーパースポーツを装着している。だが、

それでもなお、ボディには硬さと揺れが感じられ、

たとえばフォード・フォーカスSTのようなスムーズ

な乗り心地にはなっていない。しかし、前世代の

BMW130iに比べれば格段によくなっており、硬い

セッティングでも許容できる。この硬さはボディの

動きをかなりタイトに制御する。ステアリングから

伝わってくるロードフィールは多くないが、ステアリ

ングはスムーズで正確である。切り込んでいるとき

よりも直進付近のほうがレシオはスローだが、これ

は切りはじめの敏捷なステアリングでよくある、直

線時の安定性を生み出すためのトリックだ。

 車重は実測で1545kgだったが、200kgほど軽

量なクルマのような積極性と正確さで向きを変え

ていく。フロントタイヤには車重の52%しかかかっ

ていない重量配分にも助けられているだろう。

 これまで1シリーズには、限界時にとてもバラン

スに優れ、アジャストしやすいクルマだという印象

を抱いていたが、このM135iはフロントにリヤと同

じ幅のタイヤを履かない限り、テールハッピーすぎ

るようである。現状では、たいていの道では向きを

変えるのが愉しく、真剣になったときはしかるべき

レベルのアジャスタビリティを発揮する。

 ブレーキは優秀で、97km/hからはドライ路面で

2.6秒、ウェットでも3.0秒で停止できた。

BUYING&OWNING購入と維持★★★★★★★★☆☆ BMWはM135iの549万円(日本仕様の5ドア)

というスタートプライスに、大きな意味を持たせ

た。135iよりも14ps高いパワーが30万円も安い

価格で手に入るのだ。同様に、M135iのパワーは

RS3にわずかに20psおよばないだけだが、RS3の

邦貨換算価格よりも300万円近く安い。

 だが、これはオプションリストを検討する前まで

の話である。われわれは、ほぼいちばんベーシック

な仕様のM135iを走らせて満足だったが、500万

円以上のクルマで、パーキングセンサーさえ省か

れているのは受け入れがたい。

 車輌本体以外にも出費を余儀なくさせられる不

満は拭えないが、M135iは6気筒ターボエンジンを

搭載するクルマとしては、驚異的な競争力を持っ

ている。今回のテスト車両はA/Tモデルで、これは

M/Tモデルよりも若干高額だが、CO₂排出量はむし

ろ少なく175g/kmとなる(M/T車は188g/km)。

これは新型フォーカスSTの4気筒エコブーストの

それよりも6g/km多いだけである。また、われわれ

は独自のツーリングルートで14.6km/ℓという素晴

らしい燃費を記録したが、これは以前にフォードST

で達成した燃費を若干上回りさえしている。

Page 8: ROAD TEST No 5089 BMW M135i - AUTOCAR JAPAN...ROAD TEST No 5089BMW M135i ビーエムダブリュー M135i 先代モデルに設定された1シリーズMクーペほどには本格的ではないM135iだが、

われわれはこう考える

ライバルと比べてパワーに劣るが、依然としてドライビングは魅力的である。

素晴らしいパフォーマンスと強力なグリップが売りだが、繊細さに欠け、価格も高い。

速くて能力は高いが繊細さに欠け、ショッキングなほどCO₂排出量が多い。

Mディビジョンのパフォーマンスを魅力的な価格で提供する、愉しい折衷案。

前輪駆動のハッチバックとしてはハイパワー。活気に欠けるが鋭く、乗り心地に優れる。

3rd 4th 5th 2nd1st

BMW M135i ROAD TEST

エンジンのサウンドはたいていの状況で好ましい程度に元気がいいが、高速道路での巡航時には静かだ。 マット・プライアー

12Vの電源ソケットが、ダッシュボードだけでなく助手席側フットウェルにも備わっている。 ニック・キャケット

JOBS FOR THEFACELIFT●マイナーチェンジ時に望むこと

率直なところ、われわれはもっとも安価な仕様のM135iが好きだ。そのため、手に入れるならできるだけ素の仕様に近付けたい。だが、これは6段M/T(未テスト)に固執するという意味ではない。手漕ぎでシフトする労力が必要なうえに、これによって0-100km/hの公称タイムが0.2秒余計にかかり、CO₂排出量が13g/km増え、複合燃費の値が0.8km/ℓ悪化するからだ。

・あと2〜3のオプションを標準装備にしてほしい(欧州仕様)。

・もう少し美しいクルマにしてほしい。

ROAD TEST

AUTOCAR VERDICT ●オートカーの結論

BMW M135i「ドライビングプレジャーと現実世界において 求められる要素がうまくバランスされている」

これは、いうなれば折衷案的なクルマである。Mモデルに近いが、完全なMモデルとは呼べない。

 スタンダードモデルと本格的なMモデルとの妥協の産物──それがこのM135iをスペックシートから見たときの姿であり、またテストの結果、実際にそうであることが判明した。スタンダードな1シリーズの持つ現実的な面でのアピールを保っていながらも、通常のモデルに期待できる以上の輝きを放っている。妥協が非常にうまく機能している。じつに愉しいクルマだ。

 とはいえこのモデルには、Mディビジョンによる専用のエンジニアリングとコンポーネンツは、残念ながら与えられていない。そのためM135iは必然的に、Mディビジョンならではの製品というよりも普通のBMW車に近い感触となっている。それも、どちらかといえばノーマルの1シリーズのほうにむしろ近い。 しかしながら、これはドライビングの相棒として優れており、壮大なパフォーマンスと魅力的なプライスが組み合わされたクルマである。

TESTERS’ NOTES●テスターのひと言コメント

SPEC ADVICE●購入にあたっての助言

★★★★★★★★☆☆

No 5089

結論

車両価格最高出力最大トルク0-97km/h加速最高速度燃料消費率(混合)車輌重量(公称値)CO₂排出量

★★★★★★★★☆☆

VOLKSWAGENScirocco Rフォルクスワーゲン・シロッコR

515.0万円 256ps/6000rpm 33.7kgm/2500-5000rpm 6.5秒250km/h(リミッター) 12.5km/ℓ 1410kg187g/km

★★★★★★★★☆☆

AUDIRS3 SportbackアウディRS3スポーツバック

邦貨換算約830万円340ps/5400rpm 45.9kgm/1600-5300rpm 4.5秒250km/h(リミッター) 11.0km/ℓ1575kg119g/km

★★★★★★☆☆☆☆

SUBARUIMPREZA WRX STI 4drインプレッサWRXSTI4ドア

373.8万円308ps/6400rpm43.0kgm/4400rpm5.2秒(0-100km/h公称)250km/h(リミッター) 9.5km/ℓ1490kg243g/km

★★★★★★★★☆☆

BMWM135i 3drBMW M135i 3ドア

549.0万円(5ドア)320ps/5800rpm 45.9kgm/1300-4500rpm 4.6秒 250km/h(リミッター) 13.3km/ℓ 1525kg175g/km

★★★★★★★★☆☆

VAUXHALLAstra VXRヴォグゾール・アストラVXR

邦貨換算約500万円 280ps/5500rpm 40.8kgm/2450-5000rpm 6.4秒250km/h(リミッター)12.4km/ℓ 1565kg 189g/km

TOP FIVE

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