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臨床医薬 32巻 6号( 6月)2016

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サウナ浴による健常成人脱水モデルを対象としたHS-12Sの水・電解質補給効果の検討-市販ミネラルウォーターとの比較試験-

A comparative study in sauna-induced dehydration model of

healthy adults to investigate the effect of HS-12S and

commercial mineral water on benefit of

water-electrolyte supplementation

松隈 京子1)  光安 翔吾1)  稲田 健一1)  月川  洋1)  松木 俊二1)

秋元 浩二2)  野村 之博2)  北吉 正人2)  二宮 伸二2)       

 BACKGROUND AND OBJECTIVE : HS-12S is a hypotonic drink containing sodium and glucose for efficient

absorption of electrolytes and water. Consumption of such drinks is recommended by the Ministry of Health,

Labour and Welfare as a measure to prevent heatstroke at workplaces. HS-12S is suitable for the recommendation ;

however, its effectiveness has not been confirmed clinically. We compared the effectiveness of HS-12S with that

of mineral water (MW) for water-electrolyte supplementation during dehydration.

 DESIGN AND METHODS (including study setting, subjects, treatments, and judgment criteria) : We conducted

a crossover trial in which subjects were divided randomly into two groups. A state of dehydration was induced

through a dry sauna bath in 24 healthy adult men, who were subsequently divided into two groups (with 12 men

each). HS-12S or MW was administered orally to each subject ; the amount administered to a subject was equal to

the weight he lost in the sauna bath. This amount was divided into three doses over 30 minutes. The primary

parameter of measurement was the rate of weight gain, while secondary parameters of measurement included

electrolyte concentrations in blood and urine, hematology laboratory test-based values, and blood biochemical

test-based values.

 RESULTS : The rates of weight gain during the sauna bath and 4 hours after intake of fluids were compared for

HS-12S and MW groups. It was observed that the absolute rate in the HS-12S group was significantly lower than

that in MW group. Further, compared with the MW group, the HS-12S group showed significant recovery in

1)Kyoko Matsuguma, Shogo Mitsuyasu, Kenichi Inada, Hiroshi Tsukikawa, Syunji Matsuki 福岡みらい病院 臨床研究センター  2)Koji Akimoto, Yukihiro Nomura, Takahito Kitayoshi, Shinji Ninomiya 武田薬品工業株式会社 ジャパンコンシューマーヘルスケアビジネスユニット 研究開発部

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terms of changes in serum osmolality ; serum levels of total protein, total albumin, Na, and Cl ; and urinary levels

of Cl.

 CONCLUSIONS : Compared to MW, HS-12S was more effective in water-electrolyte supplementation in a

sauna-induced dehydration model . We conclude that a hypotonic drink such as HS-12S, which contains sodium

and glucose, is beneficial during mild dehydration because of its water-electrolyte supplementation efficacy.

Key words : heatstroke ; dehydration ; water-electrolyte supplementation ; bodyweight gain ; sauna ; sodium ;

glucose ; hypotonic

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は じ め に

 平成 27年 5月から 9月までの全国における熱中症による救急搬送人員数の累計は55,852人であり1),年によっては 1 ,000人以上の方が亡くなる社会問題となっている。また,誤った対処により低ナトリウム血症などで症状を悪化させるケースも問題となっている。このため,熱中症などの脱水状態の対処に適した飲料を上市することは社会的に意義がある。 このような飲料の一例として,OS-1(株式会社大塚製薬工場;ナトリウムを 115 mg/100 mL含有)のように,医師から脱水状態時の食事療法として指示された場合に,医師,薬剤師,看護師,管理栄養士の指導に従って飲用するものとして消費者庁から個別評価型病者用食品の表示許可を取得した病者用食品2)がある。 また,表示許可を要する病者用食品ではないが,厚生労働省は,職場の熱中症予防対策として,例えばナトリウムを 40~80 mg/100 mL含有するスポーツドリンクまたは経口補水液などを,20~30分ごとにカップ 1~ 2杯程度摂取することが望ましいとしている3)。温熱脱水からの回復には,水とともにナトリウムの摂取が不可欠であるが,小腸の管腔側上皮でのナトリウムイオンをブドウ糖やクロールイオンと共に体内に取り込む仕組みから,効率よく水や電解質を吸収するためにブドウ糖の配合が有効であると報告されている4)。さらに,摂取飲料の浸透圧が血清よりも低い場合に小腸での水・電解質吸収に優れることが報告されている5)。 HS-12Sは,ナトリウム(44 .7mg/100mL)やブドウ糖を含有した約 200 mOsm/kgの低浸透圧の飲料であることから,熱中症予防対策に適していると考えられる。 しかし,これまで当該量のナトリウムを含有し,かつ,効果的な水吸収を意図して設計した飲料が,いわゆるミネラルウォーターなどの水飲料と比較して脱水状態時の水や電解質補給効果に優れることを実証した報告は見出されず,明確なエビデンスが提供されていない。このため,先行研究6)7)を参考に,脱水状態時の HS-12Sの水・電解質補給効果を確認することとした。

Ⅰ 対象と方法

 本試験は,ヘルシンキ宣言の精神に基づく倫理的原則を遵守して実施した。試験の実施に先立ち,試験計画書および説明・同意文書などについては,博多クリニック臨床試験審査委員会で審議され,2016年 2月 5日に承認された。また,大学病院医療情報ネットワーク研究センターの臨床試験登録システムに登録(登録番号;UMIN000021059)し,2016年2月 16日に公開している。

1.試験食品 被験食品 HS-12S,対照食品ミネラルウォーター(MW)の組成を表 1に示す。被験食品の原料は食品または食品添加物として安全性が確立されている素材を使用しており,食品製造法の基準を満たした施設および方法により製造されている。また,対照食品は,HS-12Sの効果を確認するためにナトリウム含量が少なく,一般的によく知られている市販品を選択した。

2.被験者 乾式サウナ浴により脱水状態とした健常成人男性24名とした。選択基準は,スクリーニング検査において,以下の条件を全て満たすものとした。 ⑴ 文書による同意の取得が可能で,同意取得時

に年齢 20歳以上の男性 ⑵ 体重が 50kg以上のもの ⑶ BMIが 18.5~24.9のもの ⑷ 体脂肪率が 25%以下のもの(体脂肪率は市販

の体脂肪計で測定) ⑸ 試験参加に問題となる異常が認められないも

表 1 試験食品の組成(100mL中)

栄養成分表示 HS-12S MW

たんぱく質 0 g 0 g

脂質 0 g 0 g

炭水化物 2.3g 0 g

ナトリウム 44.7mg 0.4~1.0mg

ビタミン B1 2.5mg -カルシウム 1.5mg 0.6~1.5mg

マグネシウム 5.1mg 0.1~0.3mg

カリウム 1.6mg 0.1~0.5mg

リン - 1 mg未満

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 また,下記のいずれかの項目に該当するものは,本試験の対象から除外した。 ⑴ 重篤な心血管障害,肝機能障害,腎機能障害,

呼吸障害,内分泌障害,代謝障害に罹患しているもの,またはこれらの既往歴があるもの

 ⑵ 試験開始前 1カ月以内に 200 mL,または 3カ月以内に 400mLを超える採血,あるいは 2週間以内に成分採血(献血など)をしたもの

 ⑶ 過去 4カ月以内に他の臨床試験に参加したもの,および現在他の臨床試験に参加中のもの

 ⑷ その他,試験担当医師が対象として不適当と判断したもの

 試験担当医師は試験の開始に先立ち,対象となる被験者本人に試験の内容について,説明文書に基づいて十分に説明し,被験者に説明文書を手渡した。被験者が内容をよく理解したことを確認した上で,本試験への参加について被験者本人の自由意思による同意文書を得た。

3.試験デザインおよび群構成 無作為に割り付けた 2群からなるクロスオーバー試験とした(表 2)。被験者数は各群 12名の合計24名で実施した。第Ⅰ期(試験日)と第Ⅱ期(試験日)は,6日間空けて実施した。

4.サウナ浴実施方法 被験者(予備被験者を含む)は試験前日夕方に試験実施医療機関に入院し,入院日夕食,試験日朝食および昼食は院内にて同一の時間帯に同一の食事を摂取した。試験前日の水分摂取は自由としたが,試験日は朝食時および昼食時に各々 200 mLを摂取する以外は原則として水分摂取を禁止した。 サウナ浴の開始は 12:00頃とした。一回の入浴時間を 8分以上 10分以内とし,入浴後室外で 10分の休憩を取った。この方法でサウナ浴を 3回繰り返した。その後 30分を安静期間とした。なお,予備被験者は,予定された被験者が第Ⅰ期の試験食品を摂取した後に,試験食品以外の水分摂取を行い,安全性が確認された後に退院した。

5.試験食品摂取方法 約 10分間× 3回のサウナ浴終了後,30分間の安静期間を経て被験者の体重を測定し,サウナ浴による体重減少重量と同量の試験食品を 30分間で 3回に分割して経口摂取させた。体重減少重量を 1 kgとした場合,1回目は安静期間終了直後に体重減少重量の半量(500g),2回目はその後 15分以内に体重減少重量の 4分の 1量(250g),3回目は 1回目摂取 15分以降 30分以内に体重減少重量の 4分の 1量(250g)を摂取させた。試験食品は室温保存とし,一定の容器に注ぎ分けて提供した。

6.観察・検査項目および被験者の管理(図 1)  1)被験者背景 同意取得時に,生年月日,年齢,身長を調査した。入院時,サウナ浴開始前に体脂肪率を測定した。  2)食事の栄養成分および摂取状況 試験前日夕食,試験日朝食および昼食について,食事の摂取量を調査し,結果を記録した。なお,第Ⅰ期と第Ⅱ期の献立は同一とした。また,試験日の水分摂取量(mL)および種類(水または麦茶)を調査し,結果を記録した。  3)体重 入院時,サウナ浴開始前,試験食品摂取開始前,試験食品摂取開始 1,2,3,4時間後に実施した。測定時の着衣は下着のみとし,試験期間中常に同じとした。  4)医師の診察 試験前日(入院時),サウナ浴開始前,試験食品摂取開始 4時間後に実施した。また,サウナ浴開始後,被験者の体調を随時観察した。  5)一般症状(皮膚症状,口渇感) サウナ浴開始前,試験食品摂取開始前,試験食品摂取開始 2,4時間後に実施した。なお,皮膚症状は「良い」・「普通」・「悪い」で,口渇感は「有」・「無」で判定した。  6)理学的検査(体温,脈拍数,血圧)

表 2 試験のデザイン

群 被験者数 第Ⅰ期 2期の実施間隔 第Ⅱ期

HS-12S先行群 12 HS-12S6日間

MW

MW先行群 12 MW HS-12S

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 体温(口腔内)は,入院時,サウナ浴開始前,試験食品摂取開始前,試験食品摂取開始 1,2,3,4時間後に測定した。脈拍数(座位),血圧(座位)は,入院時,サウナ浴開始前,試験食品摂取開始前,試験食品摂取開始 2,4時間後に測定した。  7) 血液検査(ヘマトクリット,ヘモグロビン,

Na,K,Cl,総タンパク質,アルブミン,尿素窒素,Cr,グルコース,血清浸透圧)

 サウナ浴開始前,試験食品摂取開始前,試験食品摂取開始 0 .5,1,2,3,4時間後に実施した。血液検査は 1回 10mLの静脈血を被験者の上腕部静脈より採血した。中止・脱落例を除く被験者 1人あたりの総血液量はⅠ期( 7回),Ⅱ期( 7回)を通して 140mLであった。  8) 尿検査(尿量,尿浸透圧,Na,K,Cl,Cr,

比重,定性(糖,蛋白,潜血,ウロビリノーゲン),比重,pH)

 サウナ浴開始前,試験食品摂取開始前,その後

0~ 1時間,1~ 2時間,2~ 3時間,3~ 4時間の蓄尿後に採尿し,尿量,尿浸透圧,Na,K,Cl,Cr,比重を測定した。また,サウナ浴開始前,試験食品摂取開始前および試験食品摂取開始 4時間後の採尿については,定性(糖,蛋白,潜血,ウロビリノーゲン),比重,pHを測定した。  9)FENa値 サウナ浴開始前,試験食品摂取開始前,試験食品摂取開始 1,2,3,4時間後に採血した血中 Cr値と Na値およびサウナ浴開始前,試験食品摂取開始前の採尿,0~ 1時間,1~ 2時間,2~ 3時間,3~ 4時間の蓄尿した尿中 Cr値,尿中 Na値を用いて,下式により計算した。

 FENa値(%)=尿中 Na(mEq/L)×血中 Cr(mg/dL)

×100血中 Na(mEq/L)×尿中 Cr(mg/dL)

 10)電解質出納および水分出納

時期 試験前日 試験日中止時検査実施日 Day-1 Day1

時刻1)(予定) 入院時 19 :00 7 :00 10 :00 12 :00 13 :00 14 :00 15 :00 16 :00 17 :00 18 :00

安静期間終了後経過時間(時間) -0.5 0 0.5 1 2 3 4

入退院 入院 退院

サウナ浴 ① 休憩 ② 休憩 ③

安静期間30分間

試験食品摂取 ●●●

同意取得2) ●

背景調査(年齢,身長)2) ●

食事 ● ● ●

体温,体重 ● ● ● ● ● ● ● ●

体脂肪率 ● ● ●

医師の診察 ● ● ● ●

皮膚症状,口渇感 ● ● ● ● ●

血圧,脈拍数 ● ● ● ● ● ●

採血 ● ● ● ● ● ● ● ●

採尿 ● ●蓄尿 蓄尿 蓄尿 蓄尿

● ●

飲みやすさ(官能評価) ●

疲労感(VAS)3) ● ● ●

自覚症状の調査 ●

1)実施時刻は計画時の目安であり,第Ⅰ期と第Ⅱ期における試験食品摂取時刻( 0時間)とする。2)第 I期のみ実施。3)VAS(Visual Analogue Scale)とは,被験者が,その時点で,感じている疲労感の度合いを指定の用紙に記入する検査である。

図 1 試験スケジュール

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Ⅱ 結   果

1.被験者背景および試験食品摂取量 本試験では,試験食品摂取前の検査,診断により参加の適格性を満たす 26名が選定された。当該被験者 26名についてサウナ浴を実施し,予備被験者2名を除く 24名を 2群に割り付けた。試験に参加した 24名の被験者背景を表 3に示す。サウナ浴実施中の室内温度は 85~91℃であった。サウナ浴による体重減少量は試験食品摂取量と同量となるため表 4のとおりである。試験食品を摂取した全例が試験食品を全量摂取し,試験食品摂取量と体重減少量に有意差はなかった。中止・脱落例は HS-12S群で 2名発生し,うち 1名は第Ⅱ期サウナ浴中( 1回目)の気分不良,もう 1名は第Ⅱ期前日のウイルス性胃腸炎による嘔気・水様性下痢出現によるものであったが,2名共に水分摂取・安静にて症状は消失した。なお,いずれも試験食品との因果関係は否定された。その他を含め全ての試験期間において,安全性に問題のある事象は認められなかった。したがって,被験者数は HS-12S群で 22名,MW群で24名であった。なお,サウナ終了から試験食品摂取開始までの時間は約 1時間 30分であった。

2.食事摂取量および飲水量 試験前日(入院日)の夕食,試験日の朝食,昼食の献立および栄養成分は被験者全て同一とした。全被験者が全献立を完食し,例外はなかった。またⅠ期,Ⅱ期のサウナ浴実施日における朝食,昼食時に全被験者がそれぞれ 200mLずつの水またはお茶を摂取した。

3.体重の変化(主要評価項目) サウナ浴実施前の体重は,HS-12S群で 62 .98±1.81kg,MW群で 63.24±1.81kgであった。サウナ浴実施前を基準とした体重の変化率を図 2に示した。サウナ浴により体重は約 2%減少し,試験食品摂取開始 1時間後には約-0 .5%まで回復,その後の 3時間は漸次減少したが,HS-12S摂取において減少の程度がMWに比べて小さく,摂取開始 3,4時間後では両食品間に有意差が認められた。

4.血液学検査,血液生化学検査 ヘマトクリットおよびヘモグロビン値の変化を図3 に示した。 ヘマトクリット,ヘモグロビンともに HS-12S群

 電解質出納(Na,K,Cl)は,試験食品摂取開始0~ 1時間,1~ 2時間,2~ 3時間,3~ 4時間の蓄尿した尿中電解質(Na,K,Cl)濃度を用いて,下式により計算した。 電解質出納(mEq)=A-B(総和) A: 摂取飲料中の電解質濃度(mEq/L)×摂取量

(L) B: 摂取開始 0~ 1時間目の蓄尿中の電解質濃度

(mEq/L)×尿量(L)    摂取開始 1~ 2時間目の蓄尿中の電解質濃度

(mEq/L)×尿量(L)    摂取開始 2~ 3時間目の蓄尿中の電解質濃度

(mEq/L)×尿量(L)    摂取開始 3~ 4時間目の蓄尿中の電解質濃度

(mEq/L)×尿量(L) 水分出納は,試験食品摂取量から尿量を減ずる方法で計算した。 11)被験者の管理 入院中の被験者に対し下記項目を遵守させた。 ⑴ 入院時より退院時まで,食事は所定のものと

し,水分の摂取については指示に従う。また,アルコール類およびカフェイン類の摂取は禁止する。

 ⑵ サウナ浴開始時より検査終了時まで,他の薬剤(目薬,湿布,トローチ,ドリンク剤などを含む)の服用および喫煙を禁止する。

 ⑶ 入院中は安静にし,激しい運動を避け,休養状態とする。

 ⑷ 入院中は試験担当医師の指示に従うものとする。

 ⑸ 第Ⅰ期退院後,第Ⅱ期入院までの間,規則正しい生活をする。

7.統計解析 解析対象集団は ITT(intention-to-treat)集団とした。ただし,欠測値は補完せず,欠測として取り扱った。なお,ITT集団とは,試験食品が割り付けられ一度でも試験食品を摂取した被験者からなる集団とした。試験食品間の差(被験食品;HS-12S,対照食品;MW)の推定と検定は,評価項目値を応答変数,試験食品群(HS-12 S,MW),時点(試験食品摂取開始 1,2,3,4時間後),期,試験食品群と時点の交互作用を固定効果,症例を変量効果とした混合効果モデルにて実施した。検定に際しては,有意水準は両側 5.0%未満とした。

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でサウナ浴により数値が若干変動したが,大きな変化はなく,摂取開始 0,0 .5時間後では両食品間に有意差が認められた。 血清総タンパク質およびアルブミン値の変化を図4に示した。 血清総タンパク質,アルブミンともにサウナ浴により有意に数値の上昇が認められた。摂取開始 4時間後では両食品間で差はなかったものの,血清総タンパク質では摂取開始 0.5,1,2時間後に,アルブミンでは 0 .5,1時間後に両食品間に有意差が認め

られ,HS-12S群の方が低値を示した。 血清 Na,K,Cl値の変化について図 5に示した。 血清 Na濃度は,サウナ浴により上昇を示した。また,試験食品摂取により低下が認められ,摂取0 .5,1,2,3,4時間後において前値より低い値で推移した。しかし,HS-12S摂取 1,3時間後にはそれぞれ 138.7,139.7mEq/Lと,MWでの 137.8,139 .0mEq/Lよりも前値に近い値で推移し,両食品間で有意差が認められた。血清 K濃度は,Na,Clと異なり,サウナ浴実施により若干の低下が認めら

表 4 試験食品摂取量(体重減少量)(g)

例数 平均値 標準偏差 最小 中央値 最大

摂取量群間差(HS-12S群-MW群)

差平均 標準誤差 (SE) p値第Ⅰ期

HS-12S群 12 1233.3 270.8 800 1200.0 1700 MW群 12 1200.0 307.5 700 1250.0 1700 第Ⅰ期全体 24 1216.7 283.9 700 1200.0 1700

第Ⅱ期HS-12S群 10 1130.0 294.6 700 1050.0 1700 MW群 12 1208.3 337.0 700 1100.0 1700 第Ⅱ期全体 22 1172.7 313.5 700 1100.0 1700

第Ⅰ期,第Ⅱ期併合HS-12S群 22 1186.4 280.0 700 1150.0 1700 -27.3 36.1 0.4589MW群 24 1204.2 315.5 700 1150.0 1700

* 1標本 t検定

表 3 被験者の背景

ITT解析対象集団全体割付グループ

HS-12S先行群 MW先行群

年齢 (歳) 例数,平均,SD 24 23.0 3.9 12 22.1 1.8 12 24.0 5.2 最小,中央値,最大 20 22.0 35 20 22.0 27 20 22.0 35

身長 (cm) 例数,平均,SD 24 171.57 4.78 12 170.18 4.95 12 172.96 4.37 最小,中央値,最大 160.4 171.75 179.2 160.4 171.10 178.0 164.2 173.75 179.2

BMI 例数,平均,SD 24 21.21 1.51 12 21.23 1.62 12 21.19 1.47 最小,中央値,最大 18.6 21.05 24.0 18.6 20.70 24.0 19.3 21.50 22.9

体脂肪率 (%) 例数,平均,SD 24 15.80 3.41 12 14.63 3.65 12 16.96 2.84 入院時* 最小,中央値,最大 9.3 16.00 20.6 9.3 14.55 20.0 11.9 17.50 20.6

体脂肪率 (%) 例数,平均,SD 24 15.60 3.33 12 14.43 3.66 12 16.76 2.62 サウナ浴開始前* 最小,中央値,最大 8.8 15.90 20.4 8.8 14.60 19.4 12.1 17.05 20.4

現病歴 例数,割合 (%) なし 24 100.0 12 100.0 12 100.0 あり 0 0.0 0 0.0 0 0.0

既往歴 例数,割合 (%) なし 24 100.0 12 100.0 12 100.0 あり 0 0.0 0 0.0 0 0.0

*第Ⅰ期

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**

-2.5

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

0.0

体重変化率(%)

サウナ前 0 1 2 3 4摂取後時間 (hr)

HS-12S群 MW群

図 2  体重のサウナ浴前からの変化率(95 %信頼区間)の食品群間の比較 *混合効果モデルによる推定

図 3  ヘマトクリット(%)およびヘモグロビン(g/dL)の推移(95%信頼区間)の食品群間の比較 *混合効果モデルによる推定

*

*

43

44

45

46

47

48

*

*

15.0

15.5

16.0

16.5

サウナ前 0 1 2 3 4摂取後時間 (hr)

サウナ前 0 1 2 3 4摂取後時間 (hr)

HS-12S群 MW群

ヘマトクリット(%)

ヘモグロビン

(g/dL)

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れ,試験食品摂取により摂取開始 0 .5時間後に有意に上昇,その後低下,前値よりわずかに低い値で推移した。なお,HS-12 S群は,摂取開始 4時間後には 4 .18mEq/Lで MW群の摂取開始 4時間後は4 .02mEq/Lと両食品間で有意差が認められた。血清 Cl濃度は,Naと同様サウナ浴により上昇し試験食品摂取により低下したが,試験食品摂取 0 .5,1,2,3,4時間後の回復は HS-12 S群が全てより高い値で推移したのに対し,MW群では全てより低い値で推移し,摂取 1,2,3時間後では HS-12S群が 104.3,104.8,104.9mEq/Lに対し,MW摂取

群が 102.9,103.8,104.1mEq/Lと両食品間で有意差が認められた。 血清グルコース,血清浸透圧の変化について図 6

に示した。 血清グルコースは,サウナ浴により有意に上昇した。HS-12S摂取開始 0 .5,1時間後に高値を示し,摂取開始 2時間後では逆に HS-12S摂取により低値を示しMW摂取に比較して有意差が認められた。MW摂取では大きな変動は認められず,摂取後は前値付近で推移した。血清浸透圧は,サウナ浴にて有意に上昇が認められた。HS-12S摂取により漸次

図 4  総タンパク質(g/dL)およびアルブミン(g/dL)の推移(95 %信頼区間)の食品群間の比較 *混合効果モデルによる推定

*** ***

7.2

6.8

7.6

8.0

*** *

4.4

4.2

4.6

4.8

5.0

サウナ前 0 1 2 3 4摂取後時間 (hr)

サウナ前 0 1 2 3 4摂取後時間 (hr)

HS-12S群 MW群

アルブミン

(g/dL)

総タンパク質

(g/dL)

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図 5  血清 Na,Kおよび Cl(mEq/L)の推移(95 %信頼区間)の食品群間の比較 *混合効果モデルによる推定

****

137

139

141

143

(mEq/L)

血清Na

サウナ前 0 1 2 3 4摂取後時間 (hr)

**

3.8

4.2

4.6

サウナ前 0 1 2 3 4摂取後時間 (hr)

(mEq/L)

血清K

***

** *105

101

103

107

サウナ前 0 1 2 3 4摂取後時間 (hr)

HS-12S群 MW群

(mEq/L)

血清Cl

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減少し,摂取開始 1時間後以降は前値を下回った。MW摂取では,摂取開始 0.5時間後以降において前値を下回るとともに,摂取開始 0 .5,1時間後において HS-12S摂取に対して有意差が認められた。両食品ともに摂取 2時間後を最低値として緩やかな上昇に転じた。

5.尿検査 尿量,尿浸透圧の変化について図 7に示した。 尿量はサウナ浴により有意に低下し,試験食品摂取後増加に転じた。試験食品摂取 1~ 2時間後では両食品ともにサウナ浴前より増加したがその後は再

び減少した。両食品間に有意差は認められなかった。尿浸透圧は試験食品摂取後サウナ浴前の値よりも低下し,1~ 2時間後には最低値となったが,その後はサウナ浴前の値とほぼ同じレベルまで回復した。両食品間に有意差は認められなかった。 尿中 Na,K,Clの変化について図 8に示した。 試験食品摂取により尿中 Naは濃度低下,摂取開始 1~ 2時間後において最低値を示し,その後増加して 3~ 4時間後ではほぼ前値にまで回復した。HS-12S群では,摂取後 2~ 3,3~ 4時間後での値がMWよりも前値に近い傾向があったが有意差

図 6  グルコース(mg/dL)および血清浸透圧(mOsm/L)の推移(95 %信頼区間)の食品群間の比較 *混合効果モデルによる推定

サウナ前 0 1 2 3 4摂取後時間 (hr)

サウナ前 0 1 2 3 4摂取後時間 (hr)

HS-12S群 MW群

***

***

**

70

90

110

130

150

***

***

280

285

290

295

グルコース

(mg/dL)

血清浸透圧

(mOsm/L)

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は認められなかった。尿中 Kは,サウナ浴により有意に濃度上昇が認められた。両試験食品摂取 0~1時間後では濃度が前値付近まで回復し,1~ 2時間後では前値より低く,最低値となった。その後両食品で増加に転じたが,HS-12 S摂取では漸次濃度が上昇し,2~ 3,3~ 4時間後でMWに対する有意差が認められた。尿中 Clについては Kと同様に推移し,2~ 3,3~ 4時間後でMWに対する有意差が認められた。 尿中 Cr濃度の変化について図 9に示した。 尿中 Crはサウナ浴により有意に濃度が増加し,

その後試験食品摂取により減少し,摂取開始 0~ 1時間後以降において,サウナ浴開始前よりも低値で推移した。両食品で 1~ 2時間後の最低値の後増加に転じたが,両食品間に有意差は認められなかった。

6.FENa値 FENa値の変化について図 10に示した。サウナ浴実施により FENa値はほぼ変わらず,試験食品摂取開始 1~ 2時間後において上昇し,その後緩やかに低下した。両食品間に有意差は認められなかった。

図 7  尿量(mL)および尿浸透圧(mOsm/L)の推移(95 %信頼区間)の食品群間の比較 *混合効果モデルによる推定

摂取後時間 (hr)

摂取後時間 (hr)

HS-12S群 MW群

-50

0

50

100

150

200

250

300

350

サウナ前 0 0-1 1-2 2-3 3-4

0

200

400

600

800

1000

サウナ前 0 0-1 1-2 2-3 3-4

尿量

(mL)

尿浸透圧

(mOsm/L)

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図 8  尿中 Na,Kおよび Cl(mEq/L)の推移(95 %信頼区間)の食品群間の比較 *混合効果モデルによる推定

摂取後時間 (hr)

摂取後時間 (hr)

HS-12S群 MW群

0

20

40

60

80

100

120

140

160

サウナ前 0 0-1 1-2 2-3 3-4

*

*

0

50

100

150

200

250

サウナ前 0 0-1 1-2 2-3 3-4

(mEq/L)

尿中Na

摂取後時間 (hr)

*

**

0

20

40

60

80

100

サウナ前 0 0-1 1-2 2-3 3-4

(mEq/L)

尿中K

尿中Cl

(mEq/L)

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7.電解質および水分出納 表 5に,HS-12 SおよびMW摂取による Na,K,Cl出納および水分出納を示した。両食品とも電解質出納はいずれも負の値を示したが,群間差(HS-12S平均-MW平均)は Naが 21 .75,Kが 0 .98,Clが 25.51となり,両食品間に明らかな相違が認められた。また,試験食品摂取開始 4時間後までの水分出納は,HS-12S摂取が 690.2mL,MW摂取では

638 .5mLとなり,MW摂取よりも高値を示したが,有意差は認められなかった(p=0.1731)。

8.一般症状 皮膚症状は,全ての被験者において試験期間中,「良い」となり,「普通」,「悪い」は認められなかった。口渇感は全被験者においてサウナ浴後「有」となったが,試験食品摂取開始 2時間後における HS-12S群の 1名が「有」とした以外は,全被験者が 2,

図 9  尿中 Cr(mg/dL)の推移(95%信頼区間)の食品群間の比較 *混合効果モデルによる推定

図 10  FENa値(%)の推移(95%信頼区間)の食品群間の比較 *混合効果モデルによる推定

摂取後時間 (hr)

HS-12S群 MW群

サウナ前 0 0-1 1-2 2-3 3-4

尿中Cl

(mEq/L)

-100

0

100

200

300

400

500

摂取後時間 (hr)

HS-12S群 MW群

サウナ前 0 0-1 1-2 2-3 3-4

FENa値(%)

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

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4時間後の調査で口渇感「無」となった。9.理学的検査

 体温(口腔内),収縮期血圧,拡張期血圧および脈拍数に関して特に臨床的に問題となる変動は認められず,試験食品間にも違いは認められなかった。

Ⅲ 考   察

 本試験は,暑熱環境下における脱水とその対策を念頭にした試験であり,先行研究6)を参考に脱水状態を得る方法が全被験者で同一で,かつ失われた水分量が容易に算出でき,その程度も比較的均質であるサウナ浴脱水モデルにより,試験食品の水・電解質補給効果を評価したものである。 サウナ浴により,尿量が有意に減少し,発汗により体重が約 2%減少したことから,本試験では軽度の脱水状態8)にあると考えられた。また,サウナ浴後に血清総タンパク質,アルブミン,Na,Clおよ

びグルコースは上昇または上昇傾向にあり,血清浸透圧は有意に上昇したことから,脱水のタイプは混合性に近い高張性脱水であると考えられる。 なお,ヘマトクリットおよびヘモグロビン値については,試験食品摂取開始 0時間,すなわちサウナ浴直後に HS-12S群とMW群間で有意差を認めたが,MW群のクロスオーバー第Ⅱ期のみ両指標でサウナ浴直後に平均値が低下し,他の HS-12S群の第Ⅰ期,第Ⅱ期とMW群の第Ⅰ期ではいずれもサウナ浴後に上昇していた。MW群の第Ⅱ期を除いて,サウナ浴による混合性に近い高張性脱水との前記考察と矛盾しない結果と考えられる。MW群では,第Ⅰ期と第Ⅱ期でサウナ浴前後での変化が逆となり,両期を合わせた平均値ではサウナ浴前後でほとんど同じとなったため,両期ともに上昇したHS-12S群との間に有意差を生じたものと考えられた。MW群の第Ⅱ期のみで両指標がサウナ浴後に低下した原因としては,血清 K値に上昇が認めら

表 5 尿中 Na,K,Cl出納および水分出納

電解質出納 Na(mEq)の要約統計量原尺度の要約統計量 Paired t検定例数 平均 標準偏差 最小値 中央値 最大値 歪度 尖度 p値*

HS-12S群 22 -0.21 11.73 -27.3  3.53 15.1 -0.86 -0.24 MW群 24 -21.78 9.57 -45.8 -20.43 -7.7 -1.13  1.55 差 22  21.75 8.03   5.7  25.11 32.7 -0.58 -0.96 <.0001

電解質出納 K(mEq)の要約統計量原尺度の要約統計量 Paired t検定例数 平均 標準偏差 最小値 中央値 最大値 歪度 尖度 p値*

HS-12S群 22 -10.32 3.70 -17.9 -10.01 -4.9 -0.40 -0.87 MW群 24 -11.15 2.98 -16.2 -10.29 -4.8 -0.12 -0.52 差 22  0.98 3.68 -7.8  1.31  8.2 -0.45  0.65 0.2242

電解質出納 Cl(mEq)の要約統計量原尺度の要約統計量 Paired t検定例数 平均 標準偏差 最小値 中央値 最大値 歪度 尖度 p値*

HS-12S群 22 -6.29 12.45 -28.5 -3.64  13.4 -0.49 -0.86 MW群 24 -31.31 10.20 -58.9 -29.88 -17.8 -0.92  0.94 差 22  25.51 9.70   4.9  28.67  40.2 -0.53 -0.62 <.0001

水分出納(mL)の要約統計量原尺度の要約統計量 Paired t検定例数 平均 標準偏差 最小値 中央値 最大値 歪度 尖度 p値*

HS-12S群 22 690.2 250.6  110 727.2 1094 -0.36 -0.28 MW群 24 638.5 304.9   41 545.5 1191  0.06 -0.88 差 22 57.1 189.8 -349 61.7 392 -0.10 -0.47 0.1731

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れないことから採取血の溶血は考え難く,採血時の姿勢(安静臥位)などの生理的変動が影響した可能性が考えられた。 主要評価項目を体重の変化率と設定した理由は,一般的に脱水の程度を正確に把握することは容易ではないが,本試験のような短期間内では体重変化を知ることで,どの程度の水分を喪失したかを評価することができるためである9)。その結果,サウナ浴前から試験食品摂取開始 4時間後までの体重の変化率を HS-12S群とMW群で比較したところ,HS-12S摂取による体重変化率はMW摂取に比べて摂取開始 3,4時間後で有意に小さく,HS-12SはMWに比べて水分補給効果に優れると考えられた。 副次的評価項目では,サウナ浴により上昇した血清総タンパク質やアルブミンは,HS-12 S群はMW群と比較して,総タンパク質では摂取開始 0 .5,1,2時間後で,アルブミンでは摂取開始 0 .5,1時間後で有意に低値であった。また,血清電解質濃度は,サウナ浴後~摂取開始 4時間後まで Na,Clとも HS-12S群ではMW群よりも相対的に高値を示した。以上から HS-12 SはMWと比較して,高張性脱水を早期に緩解し水分補給効果に優れると共に電解質の補給に有用であることが示唆された。 脱水の指標の一つとして算出の FENa(fractional excretion of Na)については,サウナ浴前後で低下を認めず,先行研究6)とは異なった結果であった。体重や尿量の減少および血清電解質の変化から,脱水を生じたことを客観的に判断できるものの,FENaに反映されない理由については不明である。先行研究6)でも議論されたように,今回のような健常成人モデルにおける短時間での脱水の程度を示す指標としての FENaの有用性については,さらなる研究が必要と考えられる。 HS-12S摂取開始 0.5,1時間後の血清グルコース濃度はMW摂取に比べて高値を示し,摂取開始 2時間後では逆にMW摂取に比べて有意に低値を示した。HS-12Sでは小腸の管腔側上皮での Naイオンの吸収促進を目的にグルコースを配合しているため,その吸収により 0 .5,1時間後に血清グルコース濃度が上昇し,次に上昇したグルコースによって分泌されたインスリンの影響により,一時的に血清グルコース濃度が低下したことによると考えられる。また,血清グルコースの濃度推移から,HS-12Sの吸収は,摂取開始 2時間後まででほぼ完了し

ていることが示唆された。 血清浸透圧は,HS-12S群は摂取開始 0.5,1時間後においてMW群に対して有意に高値であったが,摂取 2時間後以降は両者の変化に差はなかった。上述のように HS-12Sの吸収は摂取開始 2時間後まででほぼ完了していると考えられることから,MWに比べて HS-12Sでは水分吸収に伴う血液の希釈は緩徐であると推察された。 主要評価項目および副次的評価項目を総合的に考えると,HS-12SはMWに対して脱水状態を改善し,血清電解質の変化を緩和する効果を示しており,水・電解質の補給効果に優れていることが示唆された。 安全性については,HS-12S群において 2例の有害事象が確認されたが,いずれも HS-12S摂取前に生じたものであり,HS-12Sとの因果関係は否定されている。このため,安全性に特に問題はなかった。 以上から,軽度の脱水状態に対して,HS-12Sのようにナトリウム(44.7mg/100mL)やブドウ糖を含有し,かつ低浸透圧の飲料は,水・電解質補給効果という観点から有用であると考えられた。

結   論

 ナトリウム(44.7mg/100mL)やブドウ糖を含有し,かつ,低浸透圧である HS-12Sについて,サウナ浴健常成人脱水モデルでクロスオーバー法にて水・電解質補給効果をMWと比較した。主要評価項目である,サウナ浴前から試験食品摂取開始 4時間後までの体重の変化率を HS-12S群とMW群で比較したところ,HS-12S摂取による体重変化率はMWに比べて摂取開始 3,4時間後で有意に小さかった。 副次的評価項目である血中・尿中電解質濃度,血液学検査値,血液生化学検査値は,MW摂取では血中・尿中の電解質濃度および浸透圧の低下が認められたが,HS-12S摂取では変動は少なかった。 サウナ浴による脱水モデルにおいて,HS-12SはMWに比べて優れた水・電解質補給効果を示し,軽度脱水状態時の飲用に有用であると考えられた。

 [利益相反 ]本試験および論文作成に関する費用は武田薬品工業株式会社が負担した。

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文 献1)総務省消防庁 HP(http://www.fdma.go.jp/neuter/

topics/houdou/h27/10/271016_houdou_1.pdf)2)株式会社大塚製薬工場 HP(http://www.os-1.jp/

lineup/)3)厚生労働省 HP(http://www.mhlw.go.jp/houdou/

2009/06/h0616-1.html)4)Nishikawa D, Kishino F, Matsuura A : Water and

electrolyte absorption from hypotonic oral

rehydration solution in rat small intestine and

colon. Pediatrics International, 46⑶ : 315-321, 2004.

5)鷹股亮:水分摂取による熱中症予防 その整理メカニズム.日本生気象学会雑誌,41⑴:55-59,2004.

6)松隈京子,入江伸,古家英寿,他:サウナ浴による健常成人脱水モデルを対象としたオーエスワン(OS-1)の水・電解質補給効果の検討-市販ミネラルウォーターとの比較試験-.薬理と治療,31

⑽:869-884,2003.7)松隈京子,入江伸,古家英寿,他:サウナ浴による健常成人脱水モデルを対象とした新オーエスワン(OS-1)の水・電解質補給効果の検討-旧 OS-1

との同一性の検討-.薬理と治療,31⑾:977-990,2003.

8)谷口英喜:改訂版 熱中症,脱水症に役立つ経口補水療法ハンドブック:51-52,2013.

9)天谷文昌,佐和貞治:経口補水療法の理論的背景と実践.臨床栄養別冊,137-141,2011.