snow walking_japnese
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スノーキン: 積雪の中での歩行感覚を再現するデバイス
Snow Walking: Motion-Limiting Device that Reproduces the Experience of Walking in Deep Snow
横田智大,大嶽志拓,西村幸泰,油井俊哉,内倉理子
チーム太平洋側育ち, 早稲田大学基幹理工学部表現工学科3年
Concept … 積雪の中を歩く感覚を再現する意義
■積雪の中を歩くという行為は1つの技能であるとい
える。豪雪地帯に住む人々は、歩き方のコツを経験的に知っているものである。一方で、雪に慣れていない人が不意に大雪に見合うようなことがあったとしたら、外を歩くのは危険であると言わざるを得ない。
■バーチャルリアリティ(VR)の分野においては、カナダのMcGill大学が、雪を踏みしめたときに足の裏が得る感覚の再現に成功している[1]。このような特定の場に
立ったときの感覚を再現する研究は、「足の裏への触覚提示」として、雪以外にもさまざまな場に関して取り組まれている。
■しかしながら、例として挙げた雪の場の再現でもそうであるように、特定の場の感覚を足に提示するVR分野
の研究においては、足の裏のみに触覚提示をすれば再現することができるような、表面的な場が取り扱われることが多い。
深く積もった雪のような、足の裏でなく足全体で特殊な感覚を得る“深さ”を持った場を再現している前例はあまり見られない。
■積雪のような一定以上の深さを持った場に立った人間は、場によって足の動きを制限されて思うように動くことができない。私たちはこのような、現実でも起こり得る、体の動きの制限を伴う状況をVRによって再現することは、この分野にとって非常に重要であると考える。
このことは、単に体験を楽しむ以上の意味を持っていると言える。VR技術によって、このような状況を非常に高い没入感をもって再現することができれば、そのVR
を体験した際の経験が、現実において同じ状況へ遭遇した際の対応力となることが期待されるためである。
■私たちは今回、深く雪が積もった場の再現をテーマに制作を行った。装着型、持ち運び可能という条件でデバイスを実装することで、普段雪の降ることのないあらゆる地域の人々に対して積雪の中を歩く体験を提供することができるようになっている。
このデバイスによる体験は、雪という環境の本質的な楽しさと、その中を歩くことの困難さを同時に体験する機会となり、VR分野において1つ重要な役割を果たすことになると考えられる。
[1] Law, A.W., Peck, B.V., Visell, Y., Kry, P.G., and Cooperstock, J.R. A Multi-modal Floor-space for
Experiencing Material Deformation Underfoot in Virtual Reality. In Proceedings of IEEE International
Workshop on Haptic Audio Visual Environments and Games (Ottawa, Canada, Oct 18-19, 2008).
HAVE '08, IEEE. 126-131.
① 雪の中に足を下ろす
② 雪を踏みしめる
③ 雪の中から足を抜く (②と逆の足)
私たちは積もった雪の中を歩くという行為を右図のような3段階に分類し、この一連の流
れを繰り返すことで、人々は雪の中を歩行していると仮定した。
今回はその3段階をさらに2種類に分類し、それぞれの段階で人々が得る感覚を
積雪の深さによって得られる感覚
雪を足の裏で踏みしめることで得られる感覚
と名付けた。
この2種類の感覚を再現・提示する機構をそれぞれ実装し、
積雪の中を歩く感覚を再現する長靴型のデバイス “スノーキン” を制作した。
Walking in deep snow … 再現する行為の分析
■2種類の機構によって構成される。
(a) Concept 長靴をベースとしたデバイス
■Size[mm] W … boot’s width + 80 D … boot’s depth + 45
H … boot’s height + 13 ■Weight[g]
boot’s weight + 1237
(b) Implementation
Overview … 概図
Slider-magnet mechanism スライダー・マグネット機構
①雪の中に足を下ろす
③雪の中から足を抜く 積雪の深さによって得られる感覚
Starch-moving mechanism 片栗粉駆動機構
②雪を踏みしめる 雪を足の裏で踏みしめることによって得られる感覚
■再現範囲
■再現範囲
Implementation … 2種類の機構によって感覚を再現
■構成 • スライダー(+マジックテープ、エアダンパー) • 電磁石 • 距離センサ • 振動スピーカー(+アンプ) • 鉄板 ■雪の深さに関わる情報を提示する • 雪によって足の動きが制限される感覚 • 雪に足を出し入れする際に受ける抵抗 • およそ15cmまでの深さを再現可能(スライダー
の長さの問題)
Slider-magnet mechanism スライダー・マグネット機構
Slider-magnet mechanism スライダー・マグネット機構
①電磁石をONにしてデバイスを鉄板に固定する →デバイスを履き、床に敷かれた鉄板の上に
立った体験者は、スライダーの駆動する上方向にのみ足を動かすことができる(=雪から足を抜くフェーズ)。このとき、距離センサで足の高さをセンシングする
②足が一定の高さが達したとき電磁石をOFFにし、デバイスを自由にする →デバイスが鉄板から離れて足を前に出せる
ようになる。体験者は足を一歩前に出すことができ、次にスライダーを下方向に押し込みながら再び鉄板の上に足を下ろす(=雪に足を下ろすフェーズ)。その過程で電磁石が再びON
になり、足が地面についたとき、デバイスは再び①の状態に戻る。
■スライダーの抵抗によって雪から得られる抵抗を与え再現する →スライダーに仕込んだマジックテープによる
摩擦と、エアダンパーによる抵抗(次項に詳細)。足を下ろす際には、それに加えて振動スピーカーの振動が雪の感覚を再現する。
×
× ×
×
①
②
Slider-magnet mechanism スライダー・マグネット機構
■Hook and loop fastener マジックテープ
上図に示した、白い枠で囲まれている黒い部分がスライダーに仕込まれたマジックテープである。図の中の赤い破線で囲っている部分の先端には、小さな爪がついている。スライダーが伸縮する際には、図示した部分を含め計4箇所でそれぞれの爪とマジックテープが接触し、摩擦抵抗が
生まれる。マジックテープとの摩擦で生まれる抵抗は約5.54Nである。
■Air damper 簡易エアダンパー 上図右側のスライダーが持つ簡易エアダンパーは16㎜(内径)×130㎜(高さ)のアクリルシリンダから成り、底面は直径2㎜の穴
を持った状態で閉じられている。スライダーの上下と共に、シリンダ内のロッドが上下する。底面の穴がシリンダ内の空気の出入りを制限することで、抵抗が生まれる。
■上記の2つを同時に用いることで、スライダーの駆動に対して雪のような抵抗を与える。
組み上げたモノによって多少左右されるが、上の2つを両方を用いたスライダーの抵抗の値は約11.73Nである。現時点では各部の抵抗の値を自由に調整することができないため、上部の左側の図のように、スライダーにおけるエアダンパーの有無を区別する等の工夫でデバイス全体に加わる抵抗を調整していた(例:デバイス右側面のスライダーのみエアダンパー有りとする)。今回提案した機構によって雪の深さが再現可能であることは既に確認できたため、今後は実際の雪の詳しい評価に基づき、それに合わせて抵抗が可変なスライダーを提案することが課題となる。雪から足を抜く際と雪に足を下ろす際で抵抗の大きさを変える(後者の方が大きいと考えられる)ことで、更に体験のリアリティが増すことが期待できる。また、様々な雪質の表現することも可能になる。
■構成 • 片栗粉 • モーター • キャタピラ • 距離センサ(前の機構と共有) ■積雪の底を踏みしめる感覚を足の裏に提示する
Starch-moving mechanism 片栗粉駆動機構
①デバイスの底面に仕込まれた片栗粉を、足の裏で踏みしめる →片栗粉の感触はある種の雪のそれに似
通っている。片栗粉を詰めた袋を足の裏で踏みしめると、積もった雪を踏みしめたかのような感覚を得ることができる。
②モーターを回転させ、キャタピラ部分に取り付けられた片栗粉の袋を前後に動かす →片栗粉を踏みしめた足を次にレールに沿っ
て上げたとき、モーターによってキャタピラを動かし、足の裏に対する片栗粉の袋の位置を前、又は後ろに数cmずらす。一歩歩くたび
に、片栗粉を足の下で前後させる。そうすることで踏みしめる袋の位置が毎回ずれて、何歩歩いても袋の中で片栗粉を寄って固まらなくなり、踏みしめたときの感覚は体験と共に失われない。
Starch-moving mechanism 片栗粉駆動機構
①
②
Crunch
System control 制御方法
■ArduinoとProcessingをFirmataにより連携、有線(length: 3m)でデバイスとPCを接続して制御する モーターの回転はPWMによって制御した。
消費電力は合計で300W前後(使用したアンプ(model: P4050, YAMAHA)が250Wを占める)
User experience … ユーザーの体験
IVRC2014 決勝大会での展示の様子 (2014/10/23)
以下に、ユーザーの体験の仕方を説明する
①デバイスを右足に履き、床に敷かれた鉄板の上に立つ →鉄板(1mm×600mm×900mm)を3枚敷いた道の上に、両足の靴を脱いで立つ。
→右足にのみデバイスを装着する。両足分の機構を実装し
たが、装着の時間の短縮ために過去の展示は片足のみで行った。写真のように、ストックで体を支えながら体験する。
②デバイスを履いた状態で、鉄板の上を以下の流れで歩く
<1> 足を上げる
<2> 足を1歩前に出す
<3> 足を下げる
→ユーザーには雪道を歩くというシチュエーションを意識し、
ゆっくりと、足を垂直に上げ下げして、小股で歩くよう事前に話をしておく。
ユーザーは上記のような通常の歩く動作の中で、以下の感覚を得る(この体験の流れは次項に図示する)。
・雪の中に足がはまって動かせない感覚
・雪の中から足を抜く感覚
・雪の中に足を下ろす感覚
・雪の底を踏みしめる感覚
<1> 足を上げる <3> 足を下げる
Starch-moving mechanism Slider-magnet mechanism
雪の中に足がはまって動かせない感覚
雪の中から足を抜く感覚
<2> 足を1歩前に出す
雪の中に足を下ろす感覚
雪の底を踏みしめる感覚
User experience … ユーザーの体験
Crunch
■2014
05/29 IVRC2014に応募(企画書提出)
07/05 IVRC2014プレゼン大会に参加(企画書発表)
09/18-19 IVRC2014予選大会に参加(デモ展示)
10/23-26 IVRC2014決勝大会に参加(デモ展示)
■2015
03/09-11 Augmented Human 2015に登壇予定(Short-paper発表)
History … 展示・発表歴