te ngae road tephra section (ニュージーランド) における opal …

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Page 1: Te Ngae Road Tephra Section (ニュージーランド) における Opal …

第 四紀 研 究 (The Quaternary Research) 27 (3) p. 153-163 November 1988

Te Ngae Road Tephra Section (ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド) に お け る

火 山 灰 土 壌 の 植 物 珪 酸 体 分 析1)

-過 去2万 年 間 の土 壌 と植 生 の 関係-

佐 瀬 隆2)・細 野 衛3)・宇 津 川 徹4)・青 木 潔 行5)

Opal Phytolith Analysis of Present and Buried Volcanic

Ash Soils at Te Ngae Road Tephra Section, Rotorua

Basin, North Island, New Zealand1)

-Soil-Vegetation Relationship for Last 20,000yrs-

Takashi SASE2), Mamoru HOSONO3), Tohru UTSUGAWA4) and Kiyoyuki AOKI5)

Opal phytolith analysis using A horizons of present and buried soils at Te Ngae Road TephraSection in Rotorua Basin, New Zealand, was carried out to clarify the relationship between vege-tation and volcanic ash soils during the last 20,000yrs. Silica bodies in some New Zealand nativetrees were also examined. The results are summarized as follows.

1) For the period between 20,000 and 11,250y. B. P. grass was the main source of phytolith.The very low amount of phytolith in soils formed before the deposition of the Rerewhakaaitu Ash(14,700y. B. P.) indicates that these soils developed under scattered grassland or in forests poor inphytolith-supplying trees. During the formation period of soil in the Waiohau Ash (11,250~

7,330y. B. P.) the main sources of phytolith were grasses and trees. The clear rise of cauliflower-head-like phytolith originating from trees suggested that the climate was wetter and milder thanat an earlier stage. Between 7,330 and 930y. B. P. tree-origin phytolith was dominant. Thisindicates that forest vegetation completely covered soils. After the deposition of the Kaharoa Ash

(930y. B. P.), grass, trees, and ferns were sources of phytolith. The increase of grasses and fernswas due to Polynesian settlements with a resultant reduction in forest cover and increase in fernlandand grassland.

2) Holocene volcanic ash soils buried beneath the Kaharoa Ash contain very low amounts ofhumus because these soils developed under forest vegetation without grasses and ferns. After thedeposition of the Kaharoa Ash, widespread grassland and fernland introduced by Polynesian set-tlements provided the volcanic ash soils with a black humus horizon.

3) It is said that volcanic ash soils with thick black humus horizons (Koroboku soils) were formedunder grass vegetation and slow tephra deposition of slow rate. The fact that few Kuroboku soilsare distributed in New Zealand might be explained by the fact that until the deposition of the Ka-haroa Ash (930y. B. P.) there was little human activity which destroyed forests and induced grassvegetation.

4) Small cauliflower-head-like phytoliths were found in the leaves of Rewarewa (Knightia excelsa)and the wood of Kohekohe (Dysoxylum spectabile). These trees seemed to be one of the sources oftree-origin phytolith (small grain type) in the soils of New Zealand.

1) 1988年1月22日 受 付. 1988年9月3日 受 理. 日本 土 壌 肥 料 学会1987年 度 大会 で 発 表.

2) 岩 手 県 埋 蔵 文 化 財 セ ン タ ー Center of Buried Cultural Property, Iwate Prefecture.

3) 埼 玉 県 立 新 座 高 等 学 校 Niiza Senior High School, Saitama Prefecture.

4) 日本 学 園 高 等 学 校 Nihon Gakuen Senior High School.

5) 光 明 学 園 相 模 原 高 等 学 校 Koumei Gakuen Sagamihara Senior High School.

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154 The Quaternary Research Vol. 27 No. 3 Nov. 1988

I. は じ め に

ニ ュー ジーラン ドと日本の火山灰土壌 の大 きな違い の

一つは, それ らの腐植層 の性質にあ る. す なわ ち, 日本

で よくみ られ る厚層 な黒色腐植質A層 を もつ火 山灰土壌

は, ニュージーラ ン ドでは認 め られ ず (音 羽, 1983),

また, 腐 植層に含 まれ る腐植酸 の形態 において, 日本 の

ものが多 くの場合A型 であるのに対 し, ニュー ジーラン

ドの ものは腐植化度 の低 いP型, B型 であ ることが多い

(庄子ほか, 1987; 山本 ほか, 1988).

この ような両 国の火山灰土壌 にみ られ る差異は, いか

なる原因に よる の で あ ろ うか. 植物 珪酸 体分析に よれ

ば, イネ科 草本 植生の影 響下で生成 した とされ る日本 の

火 山灰土壌 と異な り, ニュージーラン ドのそれは森林植

生 とシダ植物 の影響 を受 けて生成 した ことが推定 され る

(佐瀬, 1986). この よ うな植生経歴の違いが, 両国 の火

山灰土壌 の腐 植層の性質に差異を生み出 した重要 な要因

としてかかわ ってい ると考 えられ る.

今 回, 著 者 らは ニュージーラン ドの約2万 年前以降 に

堆 積 した累積 テフラ断面中 の現世 お よび埋没土壌 の植物

珪酸体 分析を行い, 植生変遷 と土壌生成 につ いて調べ た

結果, ニュージーラン ドに厚 層な腐植 質A層 を もつ火 山

灰土壌 がなぜ ないのか, とい う問題 を解 く手がか りを得

ることがで きたので報告す る. また, ニ ュー ジー ラン ド

の火山灰土壌に多数含 まれ, 樹木 木部 起源 と推 定 され た

ミミズの糞塊 状形 態を もつ珪酸体 (佐瀬, 1986) の給源

種を 明 らかにす るた めに, 数種類 のニ ュー ジーラン ド在

来種 について, 珪酸体の有無 と形態を調べたので, その

結果 について も報 告する.

II. 累 積 テ フ ラ断 面 の 記 載 と 自然 環 境 の 概 況

分析試料を採取 した Te Ngae Road Tephra Section

は, ニュージーラン ド北島の Rotorua 湖の東 岸, 国道

50号 線の分岐点 か ら約700m北 方へ進 んだ ところに位

置す る (Fig. 1). 同 section の累積 テフラ断面を Fig. 2

に示 した.

この露頭 では, 約2万 年 前に 堆積 した Kawakawa

Tephra 以上12層 のテフラと, テフ ラに介在す る2層

の レス層を認 めることが できる. なお, レス層は火 山ガ

ラスを豊富 に含有 し, テフ ラの2次 堆積物的性格 を もつ

ものである. テ フラの岩 質は, Rotokawau Ash が玄武

岩質 であるほかは, すべ て流紋岩質 である. また, 土性

は Rotomahana Mud・Taupo Pumice の各層が シル ト

質壌土 (SiL) で, その他 はいずれ も砂壌 土 (SL) か ら

砂土 (S) であった. 構造は, 前記 の2テ フ ラ層が軟粒

Fig. 1 Location of Te Ngae Road Tephra Section

×Te Ngae Road Tephra Section

Fig. 2 Stratigraphy at Te Ngae Road Tephra

Section

1) PULLAR et al. (1973); MCGLONEand TOPPING (1977)

■ Pumice ■ Ash ■ Humic horizon

■ Buried Ahorizon □ Loess・Sample

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昭和63年11月 第四紀研 究 第27巻 第3号 155

状, Rotokawau Ash が亜角塊状 を呈す るほかは, いず

れ も単粒状で, 未固結 のルーズな堆 積を していた.

各 テ フラを母材に して, 発達程度を異にす る埋没土壌

・現世土壌 が生成 してい る (以下, これ らの土壌 を母材

テフラ名をつけて呼ぶ, 例えば Taupo 土壌, Kaharoa

土壌 などと 呼 ぶ こ とに す る. なお, 最下位の レスを母

材 とす る土 壌 は 上 位 を レス1土 壌, 下位 を レス2土 壌

と呼 ぶ). 現世土壌は1886年 に 堆 積 した Rotomahana

Mud を母材 とす る未熟 土壌 であ る. その下の Kaharoa

土壌 は, 当累積 テ フラ断面 で最 も腐植 質のA層 を有す る

埋没土壌 である. Kaharoa Ash よ り下位 の埋没土壌 は,

腐 植の集積が弱 く, 層位 の分 化が未発達で, A層 の土色

が Table 1に 示 した ように, いずれ も明度 ・彩度 とも

に3以 上であ り, 日本で よ くみ られ るよ うな黒色の埋没

腐植 層で各 テフラ層が 明瞭に区分 され るよ うな状況に な

い. したが って, これ らの埋没土壌 のA層 は, いわゆ る

(A) 層 と呼 んだ 方 が ふ さわ しいのか もしれ ない. この

よ うな埋没土壌 の中で一 見した時 に, 最 も目立 つ ものは

Waiohau 土壌で ある. このA層 の土色 は2.5Y5/6 (黄

福) で, 2.5Y6/4 (にぶい黄) のC層 や2.5Y7/6 (明黄

褐) の上位 テ フラ Rotoma Ash とは 比較 的区別 しやす

い. Waiohau Ash の堆積年代 が約11,250y. B. P., 上

位 の Rotoma Ash の それ が 約7,330y. B. P. で, 約

4,000年 間 とい うこの累積 テフラ断面の埋没土壌の中で

最 も長 い土壌生成期間を もって いることが, 明瞭 な埋没

土壌 になっている原因 の一つで あろ う. このA層 上面は

5~10cm間 隔 で 乳頭状 に上位 テフラ層に食 い込 んでい

るが, この成 因は明らかでは ない. なお各土壌A層 の土

性は, Rotomahana・Kaharoa・Taupo の各土壌 と レス

1土 壌が シル ト質壌 土 (SiL), Whakatane・Waiohau・

Rerewhakaaitu の各 土 壌 と レス1土 壌 が 壌 土 (L),

Mamaku・Rotoma・Rotorua の各土壌 が砂壌 土 (SL)

であった (Table 1).

次 に, Te Ngae Road Tephra Section のあ る Ro-

torua 盆地 の気候 ・植生環境 を, MCGLONE (1983) に も

とづき示 す. 年平均 気 温12℃, 年 降 水 量1,500mm

で, 北半球の ほぼ 同緯度に 位置す る 日本 の仙台 (N38

度) の値 とだいたい同 じであ る. ただ, Rotorua 盆 地で

は, 気温の年較差が小 さく, また最大降水月は冬季にあ

る. 当盆地 は, 本来 Dacrydium cupressium (マキ科)-

Metrosidoros (フ トモ モ科)/Beilschmiedia tawa (クスノキ

科) class の森林が成立す る気候条件下にあ るが, 今 日,

森林は局所的に残 され てい るにす ぎない. これには, 約

1,000年 前に 始 まった ポ リネシア人 に よる 火 入れ のた

めに, 森林 が 破壊 された こ とが 関係 している といわれ

る (MCGLONE, 1983). なお, Te Ngae Road Tephra

Section の現植生は, イチ ゴツナギ 亜科 の イネ科牧 草

(Lodium sp.) と Bracken fern (Pteridium esculentum)

を主要 構成種 とする草地 であ る.

III. 分 析 試 料 と分 析方 法

分析試料は, テ フラお よび レス各層の最上部, す なわ

ち埋没 ・現世各土壌 のA層 を採取 した合計11点 であ る

(Fig.2, Table 1).

植物珪酸体は, 佐瀬 ・近 藤 (1974) の方法に従 い, 試

料 か ら分離 した. ただ し, 重液分離 に用 いた粒径画分は

10~100μmで ある. 取 り出され た植物珪酸体群 集 を,

イネ科起源 (図版Iの19, 20)・ 樹木起源 (図版Iの1

~13, 29, 32, 33)・ シダ植物起源 (図版Iの14~18)・

その他の各珪酸体群に区分 して, それ らの検 出率を求め

Table 1 Some properties of A horizons, Te Ngae Road Tephra Section

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156 The Quaternary Research Vol. 27 No. 3 Nov. 1988

た. なお, その他 の珪酸体群は, 大部分, 同定不能 の風

化粒子か らなるが, カヤ ツリグサ科起源珪酸体 ・帰 属未

整理 の珪酸体 も含 まれ る.

イネ科起 源の珪酸 体群については, 佐瀬 ・近藤 (1974)

の細分法 に準 じ, 組成を求めた. 樹木起 源 は, ラージ

グ レイン (以下, L. G. と略記) タイプ, スモールグ レ

イ ン (以下, S. G. と略記) タイプ, そ の 他 に 細 分 し

た. L. G., S. G. は, 既報 (佐瀬, 1986) で樹木木部

起源 として 一括 した ミミズの 糞塊 状, あるいはカ リフ

ラ ワーの 頭部状 の 形 態を 有 す る 粒子を, 粒径 に よ り仮

に分けた もので, L. G. は直径45μm前 後, S. G. は

直径15μm前 後 のものとした. L. G., S. G. は, それ

ぞれRICKER (1980) の Rough Grain, Smooth Grain に

ほぼ相当す ると思われ るが, S. G. には Rough Grain

の うち, 小粒径 の もの が 含 ま れ る 可 能 性 が あ る. な

お, これ らの粒子 の比重 は2.3よ り小 さく, 屈折 率は

封入剤 として 用 い た カナダバ ルサ ムよりかな り低 いの

で, 光学顕 微鏡下では輪 郭の きわめて 明瞭な無色透明粒

子 として 観 察 され る. また, 直 交 ニコルの状態で消光

し, 光学的等方性を示す. おお よその化学組成を知 る 目

的で, EPMA (エネルギー分散型X線 分 析機) にかけ て

みた ところ, Si以 外の ピー クが認め られ なかった. こ

れ らの性質 か ら, 当粒子 をオパ ール と考 えてほぼ間違 い

ない と思われ る. す でにRAESIDE (1964) は, ニュー ジ

ー ラン ド南 島の レス土壌 か ら, この 形 態 の 粒 子 を検出

し, 植物珪酸体 として記載 してい るが, 起源については

言及 していない. この粒子 の給源について, 若干の手が

か りを得 ているが, これに関 しては後ほ どふれ る.

各試料 の 植物珪酸体含量は, 比重2.3の 重液 (ブロ

モホル ム) で浮いた画分 の重量百分率 に, その画分 中の

植物珪酸体 粒数割合を 乗 じた値 で 表 した. また, 炭 素

含 量は, 竹迫 ・伊達 (1981) に準 じ, CNコ ーダ (柳本

MT500) に より測定 した.

植物珪酸体につ いて調べた植物試料は, Table 2に 示

した とお りで ある. これ らは ニュージーラン ドの植生に

おける主要 な樹種に含 まれ る (WARDLE et al., 1983) の

で, 糞塊状珪酸体 の給源 である可能性が高 いと考 えた.

各 試 料 と も乾 物500mg前 後 を湿式灰化法 で処理 し,

残滓 の有無を確 認 した. 残 滓の認 め られた ものにつ いて

は, プ レパ ラー トを作製 して, そ こに含 まれ てい る珪酸

体 の形態を調べた.

なお, これ らの土壌 と植物試料は, 著者 らが1986年

7月 か ら8月 にかけて実施 した ニュージーラン ド調査の

際 に入手 した もので ある.

IV. 結 果 お よ び考 察

1. 各土壌 の植 物珪 酸体組成 と植生変遷

Te Ngae Road Tephra Section の現世 お よび埋没土

壌A層 の植物珪酸体組成 と, 植物珪酸体含量 ・炭素含量

の層位 変化を Fig. 3に 示 した. なお, 植物珪酸体含量 ・

Table 2 Ash and opal phytolith distribution in some New Zealand native trees

1) L: Leave, W: Wood, B: Bark 2) F.: Fragment. S. G.: Small Grain,

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昭和63年11月 第四紀研究 第27巻 第3号 157

炭素含量 の測定値 は Table 1に 表示 して いる.

現世土壌 (Rotomahana 土壌) と Kaharoa 土壌 の植

物珪酸 体組成 は, イネ科>樹 木>シ ダであ った. イネ科

起源が最 も多い ものの, その割合 は60%を こえない.

イネ科 起源珪酸体 では, 大 型で棒 状型, 小型で ウシノケ

グサ型 (図版Iの19・20) が きわめて多い. 樹 木 起源

のほ とん どは, S. G. とL. G. (図版Iの1) で占め ら

れ る (S. G.>L. G.) が, 紡錘状珪酸体 (図版Iの12.

13) も認 め られ る. 植物珪酸体含量は, Rotomahana 土

壌 で0.15%, Kanaroa 土壌 で0.04%で あ った. 炭 素

は, Rotomahana・Kaharoa 各土壌 でそれ ぞれ5.9%,

4.4%含 まれ ていた. Rotomahana 土壌は, 全供 試土壌

中で最 も高い炭 素含量を 示すが, その土色は2.5Y4/2

(暗灰黄) で, それほ ど黒味を帯びてい ない. これは,

当土壌が1886年 に堆積 した Rotomahana Mud を母材

とす るきわめて若い土壌 であ り, 腐植の重縮合が充分に

進んでい ないためであろ う.

Taupo・Whakatane・Mamaku・Rotoma の各土壌 で

は, 全植物珪酸体の90%以 上が樹木起源で 占 め ら れ

た. イネ科お よび シダ起源珪酸体 は, ほ とん ど含 まれ て

い ない. 樹 木 起源は, 大部分 がS. G. (図版Iの6~

10) とL. G. (図版Iの2~5, 29, 33) (S. G.>L.

G.) であるが, 紡錘 状珪酸体 (図版Iの11) も検 出 さ

れ る. 各土壌 の植物珪酸体含量は, Taupo 土壌, Wha-

katane 土壌がそれぞれ0.29%, 0.17%で, Mamaku

土壌 と Rotoma 土壌 では0.01%に 満た ない. 炭素含

量は, 上部 か ら3.9%, 1.4%, 0.8%, 0.4%で あった.

Taupo 土壌は3.9%の 炭 素 を 含 ん でい るが, 上位 の

Kaharoa Ash が腐植 ま じりのAC層 的様相を呈 してお

り, 埋没後そ こか らの腐植の流入や, 試料採取時 の混入

があ った可能性があ る.

Waiohau 土壌 の植物珪酸 体組成 は, 樹木起源が約56

%以 上を 占め て 優勢で あ るが, イネ科起源 も約35%

含 まれ ていた. シダ起源は1%に 達 しない. 樹木起源

はL. G. >S. G. で, 上位 の各土壌 と異 なってい る. イ

ネ科起源は, 小型がほ とん ど検出 されず, 大型では フ ァ

ソ型 の検出率が 明らかに高い. 植物珪酸体含量は0.21

%で, 供試土壌中 Taupo 土壌 に 次いで大 きい値であ

る. 炭素含量は0.3%に す ぎず, 既述 した よ うに Kaha-

roa Ash 以下で 最 も 目立 つ 埋没土壌 であ るが, 腐植 の

集積は きわめて微弱であ る. Rotorua 土壌 ・Rerewhak-

aaitu 土壌 ・レス1土 壌, それに レス2土 壌は, イネ科

起源珪酸体が優勢 な珪酸体群集で特徴づけ られ る. 樹木

起源・ シダ起源はほ とんど検 出 され な い. イネ科起源

Fig. 3 Phytolith diagram, Te Ngae Road Tephra Section

■ 20% ●5%>

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158 The Quaternary, Research Vol. 27 No. 3 Nov. 1988

は, 大型では棒状型 が, 小型 では ウシノケ グサ型 が高い

検 出率 を示 した. レス1土 壌 か らはカヤ ツ リグサ科の種

実皮 に由来す るホ ック状の珪 酸体 が1個 検出 されたが,

これ は 当分 析で 確認 された 唯一の カヤ ツ リグサ科起源

の珪酸体 で あ る. 植物珪酸体含量は, Rotorua 土壌 と

Rerewhakaaitu 土壌 で0.01%で あ るが, レス起源土壌

では0.01%に 達せず, きわめ てわずか の珪酸体 しか含

まれてい ない. なお, レス起源土壌 は, 粒数 で植物珪酸

体 の0.15倍 前後 の 動物 珪酸体 (海綿 骨針) (宇津川 ほ

か, 1979) を含有 していた. 炭素含量 はすべ ての土壌 で

0.3%以 下で あった.

以上, ま とめた各土壌 の植 物珪酸体組成 に もとづ き,

次 の ような植物 珪酸体 の給 源種の変遷 を読み取 ることが

できる (Fig. 4).

更新世後 期 と予想 され る Okareka Ash 堆積当時か ら

Waiohau Ash の堆積 (11,250y.B.P.) まで, 植物珪酸

体 は イネ科に よ り主に供給 された. このイネ科は, 小型

珪酸体にお いてウシノケ グサ型が優勢 なので, イチ ゴツ

ナギ亜科を主体 とす る ものであった であろ う. なお, 大

型珪酸体で棒状型 が優勢 であるが, これ は ウシノケグサ

型が優勢 な場合 に認 め られ る傾 向であ る (佐瀬 ・近藤,

1974; 佐瀬 ほか, 1987). 更新世か ら完新世に またが る

Waiohau 土壌形成期 間は, イネ科 と 樹木が珪酸体 の主

要給 源であ った. ここにおけ るイネ科は, 小型珪酸体が

ほ とん ど検出 され ないのでは っき りしないが, 大型珪酸

体 で ファン型が多 く, 棒状型 の多 い下位埋没土壌 と異 な

るので, 給 源種に変動が あった可能性 がある. 完新世 に

入 り, Rotorua Ash 堆積 時 (7,330y. B. P.) か ら Kaharoa

Ash 堆 積 (930y. B. P.) までは, ほ とん ど樹木 に より珪

酸体が供給 され, Kaharoa Ash 堆 積以後 は, 樹木, イネ

科 (イチ ゴツナギ亜 科が主体), シダ植物が珪酸 体の主要

給 源 とな った.

この よ うな 植物珪酸体 給 源種の 変遷か ら, Waiohau

土壌形成 期 と Kaharoa Ash 堆 積時を境に, 植生 のきわ

めて大 きな変動があ った と推定 され る. 前者は更新世か

ら完新世へ の移行に伴 う環境変化が, 後者は ポ リネシア

人移住 に よる植生破壊が関係 している と考 え られ る もの

であ る. これ らにつ いては, 後で土壌生成 の問題 に関連

して触れ る ことにした い.

2. 土壌生成, 特に厚層な腐植 質A層 をもつ火山灰 土

壌 について

Te Ngae Road Tephra Section の累積テ フラ断面が

日本 のそれ と違 うところは, 多 くの埋没土壌 において腐

植 の集積がほ とん ど認 め られない ことであ る. 日本では

九州か ら北海道 まで少な くとも完新世に生成 した埋没火

山灰土壌 にお いて, 著 しい腐植の集積がみ られ るのが普

通 である. しかし, Te Ngae Road Tephra Section で

は, 約1,800年 前に堆積 した Taupo Pumice よ り上位

で肉眼的にまた全炭素分析に よ り腐植の集積が認め られ

るが, 下位 に存在す る少 な くとも4つ の完新世に生成 し

た埋 没火山灰土壌 においては, Rotoma 土壌が約300年,

他の土壌 が1,000年 以上の土壌生成期 間を有 しているに

もかかわ らず, 腐 植の集積 は ぎわ めて微 弱である. これ

らの埋没土壌 では, いずれ も樹木 起源の珪酸体 が きわ め

て優勢であ り, イネ科起源の ものはほ とん ど含 まれてい

ない. このことは, これ らの火山灰土壌が森林植生の影

響 の下で生成 した ことを示 してい よ う. イネ科草本植生

が黒色腐植質A層 の形成を促す (山根, 1973) と考 えられ

てお り, したが ってこれ らの埋没土壌が黒色腐植質A層

を もた ないのは, イネ科植物 に乏 しい森林植生 の影響 の

下で生成 した ことが 原因 と考 え られ る. なお, Taupo

土壌 では腐 植の集積 が認 め られたが, 珪酸体 の大部分は

樹木起源であ り, すでに述べた よ うに, その腐植 は上位

の Kaharoa 土壌 の混 入に よると考えた方が よさそ うで

ある.

Te Ngae Road Tephra Section に きわ め て近 い

Rotorua 湖 畔 の完 新 世 堆 積 物 で 実 施 された花粉分析

(MCGLONE, 1983) に よれば, Rotoma Ash 堆積 の前後

か ら1,000y. B. P. まで, Rimu (Dacrydium cupressium)

を主 要構成種 とす るマキ科類 と広 葉樹 類の混 交林 (Dac-

rydium cupressium-dominant podocarp-hardwood for-

est) が継続 して成 立 していたが, その後, 移住 してきた

ポ リネ シア人に よ り森林が焼 き払わ れ, シダ植物 ・イネ

科 ・矮小木優勢の植生が広が った と推定 されてい る. こ

の花粉分析の示す植生変遷は, 今回得 られた植物珪酸体

分析 の結果 と調和的で, 非常に興味深 い. これ らの古植

物学的 デ ータに よって, Rotorua 湖周 辺では約1,000年

前 以後, 腐植 質A層 が形成 され る条件が ととのった とみ

ることがで きるであろ う (Fig. 4).

この よ うな植生史 は, ニ ュー ジー ラン ドにおいて厚 層

な腐植質A層 を もつ火山灰土壌 がみ いだ され ない ことに

も深 くかかわ ってい ると思われ る. 厚 層な腐植 質A層 の

形成には, テフラの堆積様式が関係す る. テ フラの堆 積

速 度 が 遅 く, 土 壌 生成 とテ フラの堆積 が平行 して進む

と平行型 (加藤, 1978) あ るいは若が え り型 (庄子, 1983)

と呼 ばれ る火 山灰土壌が形成 され, 厚層 な腐植質A層 が

できやす い. しかし, 厚層 な腐植質A層 の形成は テフラ

の堆積様式だ けで決 まる ものでは な く, 腐植 の集積を促

す植生の条件 が不 可欠 である. テフラが少 しずつ堆積 し

て も, 腐 植の集積 が微弱だ と, 厚層 な腐植質A層 はで き

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昭和63年11月 第 四紀研 究 第27巻 第3号 159

ないで あろ う. す なわ ち, イネ科を主要構成種 とす る植

生 が継続 して成立す る条件があ り, テフラの堆積 が これ

を妨げず少 しずつ堆積す る場合に, 厚層 な腐植 質A層 が

形成 され るこ とが考 え られ る. 日本 の場合, イネ科 起源

珪酸 体に富む腐 植質A層 を有す る現世お よび埋没火 山灰

土壌 が 各 地に 普遍的に 認め られ て お り (佐瀬 ・加藤,

1976; 近藤, 1982), 少な くとも完新世を通 じて, この

よ うな植生を成立 させ る条件があ った. したが ってテフ

ラの堆積速度 の小 さな地域では, 厚層 な腐植 質A層 を も

つ火 山灰土壌が生成 した ので あろ う. これ に対 して, ニ

ュージーラン ドでは約1,000年 前以後 に 始 ま った ポ リ

ネシア人 に よる森林破壊以前は, イネ科 に乏 しい森林植

生が成立 してお り (MCGLONE, 1978, 1983), テフラ堆

積 速度の小 さな地域 で平 行型 のA層 がで きて も, 腐植の

集積が微弱 なために, それが腐植質A層 に ならなか った

もの と推定 され る. なお, この よ うな火 山灰土壌は, 肉

眼的 には不 明瞭 な厚層A層 を もってい るはず で, 今後 の

調査 で発 見され る可能性があ る. その際, 植物珪酸体分

析 は大 いに役立 つであろ う.

ところで, 日本や ニ ュージーラン ドの よ うな温 暖湿潤

地域 で, イネ科 を主 要構成種 とす る植生を成 立 させ る条

件 とは何 であろ うか. イネ科 草原植生が気候 的制約の も

とで成立す ることはい うまで もないが, この気候 条件は

ケッペ ンの乾湿度指数 が18以 下 とい うことで あ り, 温

暖湿潤気候下にあ る日本や ニュージーラン ドは この条件

を満 していない. 両 国に おける気候的極 相は 森 林 で あ

り, 気候 的には イネ科 草原植生 が継続 し成立す る地域 で

はない し, 完 新世 のあ る時期 にその よ うな気候 条件下に

あ った とい う証拠 も得 られ ていない. それでは, 何が イ

ネ科草本植生を維持 させる働 きを したのであろ うか. わ

が国においては, 人間活動 と腐 植質A層 を もつ火 山灰土

壌, いわゆ る黒 ボク土のかかわ りについ て, これ まで し

ば しば 言及 されて きた (加藤, 1964; 山根, 1973). 最

近, 阪 口 (1987) は, 立川 ローム堆積 期の泥炭層 に多量

に含 まれ る灰粒子や非樹木起源 の花粉 の存在 に注 目 し,

旧石器時代か ら狩猟や焼畑 のため に行われ た野焼 きが森

林 ・草原混交地帯 を維持 し, 黒 ボ ク土形成 に関与 した こ

とを主張 している. ニ ュージー ラン ドにおいて も, 既述

した よ うに, 人 間活動がイネ科 草本 を主 要構成種 とす る

植生の成 立に密接にかかわ ってい ることが推定 され る.

以上, 述べて きた ことをふまえ るな らば, 森林を気候

的極相 とす る湿潤温帯では, 人間活動が イネ科草本植生

を維持 させ る働 きを し, 結果 として腐植質A層 を もつ火

山灰土壌, いわゆ る黒 ボ ク土の生成を促 した重要 な要因

といえそ うで ある.

さて, 更新世 テフラお よびそれ らに介在す る レス起 源

の埋没土壌 の珪酸体組成は, 更新世 と完新世 にまたが っ

て形成 した と推定 され る Waiohau 土壌 を除 き, 樹 木起

源をほ とん ど含 まず, イネ科 起源珪酸体 の優 勢 な珪酸 体

群集で特 徴づけ られ た. しか し, この よ うな珪酸体 群集

は森林植生の欠 如を必ず しも意味 しないであろ う. なぜ

なら, すべての樹木が風化低抗性 があ り, 長 期間土 壌中

に残 存 す る 珪 酸 体 を形成す るわけでは ないか らで ある

(Table 2). Rotorua 盆地 の南部, Tongariro 地域で

Fig. 4 Soil-Vegetation relationship, Te Ngae Road Tephra Section

1) MCGLONE (1983)

Page 8: Te Ngae Road Tephra Section (ニュージーランド) における Opal …

160 The Quaternary Research Vol. 27 No. 3 Nov. 1988

の花粉分析 に よれ ば, 約14,000年 前 以後, 優 占種 の変

動 を伴 いなが らマキ科の植物 と 広葉樹 の 混交林 (podo-

carp-hardwood forest) が継続 して成 立 し, この間約1

万年前 に温 暖要 素樹種の顕 著な増加があ り, 急激 な森林

構成 の変動 が確 かめ られ る (MCGLONE and TOPPING,

1977). この1万 年前 の変動は, 更新世か ら完新世 への

移行 に伴 う汎世 界的 な気候 の温 暖化に対応す るものであ

ろ う. Rotorua 盆 地では, 花粉分 析のデ ータがないので

は っき りしたこ とはいえないが, 当地にあ って も1万 年

以前, 森林 が成 立 していた可能性は 否 定 で き な い. た

だ, 更新世埋 没土壌では, S. G., L. G. な どの樹 木起

源珪酸体が きわ めて少ない ことか ら (Fig. 3), Tonga-

riro 地域 と同様, 完新世 の もの とは質的にかな り異な る

ものであったろ う. 少な くとも, S. G., L. G. の給 源

となる樹種 はほ とん ど存在 しなか ったのは確 かであ る.

ところで, これ らの更新世埋 没土壌 が, イネ科起源優

勢 の珪酸体組成 を有 し, イネ科植物 の影響下 で生成 した

と推定 され るに もかかわ らず, 腐植 質A層 を もっていな

い. たぶ ん, 更新世 の寒冷 な気候 が腐 植質A層 の形成 を

妨げ る要因 の一つ として働 いた と推定 され る. また, こ

れ らの土壌 の珪酸体含量は, 完新世埋 没土壌 に比べ て少

な く, イネ科植物 の植被は貧弱 であった と思われ, この

ことも腐植 の集積 に とってマイナスに働 いた と考 え られ

る.

3. ニ ュー ジー ラン ド在来植物 に含 まれ る植物珪酸体

Table 2に, 供試植物試料 の灰分含量 お よび灰分 に含

まれ る 珪酸体 観察 の 結果 を示 した. 灰分量 は最 も多 い

Tawa (Beilschmiedia tawa) の葉部 で も2.6%を 示す

にす ぎず, 大部分 の 試料 で1%以 下 しか含 まれ ていな

い. 灰分の認め られた試料 の うち, Rewarewa (Knigh-

tia excelsa) の葉部 お よび Kohekohe (Dysoxylum specta-

bile) の木部に, S. G. タイプの粒子 が多数確認 で きた.

これ らの粒子は, 無色透 明で光学的等方性 を示 し, カナ

ダバ ルサ ムよ り明 らかに屈折率が低 いので, 輪郭が黒 々

と浮 き上が ってみ える. また, EPMAに よる測定 では,

Si以 外の ピークは 検 出で きない (Kohekohe につ いで

は未測定). これ らの性質か ら, 当粒子 を植物珪酸体 と

認定で きるで あろ う. Rewarewa に認 め られ る 珪酸体

(図版Iの21~23, 30, 31) は, 直径10μm前 後 の球状

を示 し, 走査電子 顕微鏡 に よる 観察 では, 表面 の平滑

なもの (図版Iの31) と, イボ状突起 に 被われ るもの

(図版Iの30) に二分 され そ うで ある. 一方, Kohekohe

の珪酸体 (図版Iの24~28) は, 15μm前 後 の直径を

有 し, 外形は Rowarewa よ り不規則であ る. 分析試料

が少 ないので, 走査電子顕微鏡に よる微細 な表面構造 の

観察はで きなか った. なお, その他 の 樹種 に 含 まれ る

珪酸体は, 不定形で脆弱 な珪化細胞壁の破 片 と思 われ る

ものであ った.

以上 の分析結果 よ り, ニュー ジー ラン ドの火山灰土壌

に認め られ るいわゆ るカ リフラワー頭部 状形 態を示 す珪

酸体の給源の一つ として, Rewarewa と Kohekohe を

考え る こ とが で きる で あろ う. 特 に Rewarewa は,

Rotorua 盆地の完新世堆 積物 中に当植物 の花粉が連続 し

て検出 され (MCGLONE, 1983), また, 走査 電子顕微鏡

で観察 され る 当植物の 珪酸体 (図版Iの30) の形態 が

土壌 中のあ るもの (図版Iの32) とよく似 てい ることか

ら, Te Ngae Road Tephra Section の 土壌試料 に含

まれ るS. G. の有力な給 源の一 つ と考え られ る. なお,

S. G. の珪酸体 をす べて木部 起源 と既報 (佐瀬, 1986) で

推定 してい るが, この タイプの粒子が Rewarewa の葉

部か ら検出 された ことに よ り, 佐瀬 (1986) の考えは改

めなければな らないだろ う.

今回の分 析に よ り, カ リフラワー頭部状 の珪酸体 につ

いて, 若干の手がか りを得たにす ぎず, 依然 としてその

給 源の全貌をつかむにいた っていない. 今後, さらに多

数の ニュージーラン ド在 来樹種 について分 析を進め, 樹

木起源の珪酸体 の実態を解明す る必要がある.

V. ま と め

ニュージーラン ド北島, Rotorua 盆地に位置す る Te

Ngae Road Tephra Section の累積 テフラ断面 に認 め

られ る現世 お よび埋 没土壌 の植物珪酸体分 析 と, 数種 の

ニュージー ラン ド在来樹種 に 含 ま れ る植物珪酸体 を調

べ, 次の ことが明 らかにな った.

1. 約2万 年前 以降, 植物珪酸体 の給 源は, Waiohau

土壌 形成期, Kaharoa Ash 堆積期 を境 に して大 きく 変

化 した. Waiohau 土壌形成期 以前 は イネ科, Waiohau

土壌 形成期 は 樹木 とイネ科, Waiohau 土壌形成期 以後

Kaharoa Ash 堆積期 までは樹木, Kaharoa Ash 堆積 以

後 は イネ科 ・樹 木 ・シダ植物 がそれ ぞれ主要 な給 源種 で

あ った. 樹 木起源珪酸体 の大部分 は, カ リフ ラワー頭部

状あ るいは ミミズの糞塊 状形態 の もので占め られ る.

2. Kaharoa Ash より下位 の埋 没土壌 は, それ が完新

世 に生成 した ものであって も, 腐植 の集積 はきわ めて微

弱であ る. これ は, イネ科植物 をほ とん ど伴わ ない森林

植生下で これ らの火 山灰土壌 が生成 したた め と推定 され

る. Kaharoa Ash 堆 積 (約1,000年 前) 以後, ポ リネ

シア人の移住 に よ り森林破壊 が進み, イネ科 ・シダ植物

を主要構成種 とす る植生が拡大 し, 腐 植質A層 を もつ火

山灰土壌, すなわち黒 ボ ク土 が生成 す る条件 が生 まれ た

Page 9: Te Ngae Road Tephra Section (ニュージーランド) における Opal …

昭和63年11月 第 四紀研究 第27巻 第3号 161

と考え られ る.

3. 厚層 な腐植質A層 を もつ火山灰土壌 (厚層腐植質

黒 ボ ク土) の生成には, イネ科植物の寄与 と穏やか なテ

フラの継続的 な堆積が必要 とされ る. ニュージーラン ド

に おいて, このよ うな火 山灰土壌がみ いだせ ないのは,

森林を破壊 し, イネ科草原様植生を維持 させ る人為作用

が, Kaharoa Ash 堆積以前, 非常に弱か ったため と 推

定 され る.

4. Rewarewa (Knightia excelsa) の葉部 と Koheko-

he (Dysoxylum spectabile) の木部に カ リフラ ワー頭部状

形態 の珪酸体がみ いだ された. これ らの樹種は, ニュー

ジーラ ン ドの火 山灰土壌 に含 まれ る植物珪酸体 の給源 の

一つ になっている と思われ る.

謝 辞 本研 究をすす めるに際し, 多 くの方 々にお世 話

にな った. 庄子 貞雄 ・山田一郎 ・三 枝正彦 (東北大学)

の各 氏には, 本研 究のき っかけを与 えていただ き, ニュ

ージーラン ドの火山灰土壌 について ご教示 いただいた.

山本一彦 (日本大学) 氏には, 現地 調査に際 し, ニュー

ジーラン ドの土壌 研究者を紹介 していただいた. W. C.

RIJKSE・K. R. TATEの 両氏 をは じめ New Zealand

Soil Bureau の方々には, 現地 調査においてお世 話にな

った. 加藤芳朗 (静岡大学)・ 松井 健 (日本学)・ 井上克

弘 (岩手大学) の各氏か らは, ニュージーラン ドの火山灰

土壌等について の文献をお貸 しいただ き, また, 加藤芳

朗氏は原稿 の校閲 の労 を とられた. 大羽 裕 ・永 塚鎮 男

(筑波大学) の両氏か らは, 貴重 な助 言 と土壌 ・植物試

料 の輸 入および実験 に際 し, さまざまな便宜 をはかって

いただ いた. 近藤錬三 (帯広畜産大学) 氏には電子顕微

鏡写真 の撮影 を, 上條朝 宏 (東京 都 埋 蔵 文 化 財セ ンタ

ー) 氏 にはEPMA分 析 を していただいた. 田村憲司 ・

坂本一 憲 ・渋 沢孝雄 ・北條 武男 (筑波 大 学) の 各 氏 に

は, 実 験をすすめるにあた り, ご協力いただいた. 記 し

て感謝の意を表 したい.

引 用 文 献

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Page 10: Te Ngae Road Tephra Section (ニュージーランド) における Opal …

162 The Quaternary Research Vol. 27 No. 3 Nov. 1988

Explanation of Plate

1~20; Micrographs of opal phytoliths separated from buried soils.

21-28; Micrographs of opal phytoliths separated from native trees of New Zealand.

29, 32, 33; Scanning electron micrographs of opal phytoliths separated from buried soils.

30, 31; Scanning electron micrographs of opal phytoliths separated from native trees of New Zealand.

Each scale bar under nos. 29~33; 5μm

1. Large grain in sample 2, 2・4. Large grains in sample 7, 3・29・33. Large grains in sample

4, 5. Large grain in sample 6, 8. Small grains in sample 6, 6. Small grain in sample 7, 7・9・10.

Small grains in sample 4, 11. Spindle-shaped phytolith in sample 5, 12・13. Spindle-shaped phyt-

oliths in sample 2, 14・16~18. Fern phytoliths in sample 2, 15. Fern phytolith in sample 6,

19・20. Festucoids in sample 2, 21~23・30・31. Phytoliths separated from Rewarewa (Knightia

excelsa), 24~28. Phytoliths separated from Kohekohe (Dysoxylem spectabile), 32. Small grain in

sample 2

Page 11: Te Ngae Road Tephra Section (ニュージーランド) における Opal …

佐 瀬 ・細 野 ・宇 津 川 ・青 木: 図 版I

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