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The Japan Society of Mechanical Engineers Kyushu Student Council

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  • The Japan Society of Mechanical Engineers Kyushu Student Council

  • No.158-2

    日本機械学会 九州学生会 第 46回卒業研究発表会

    卒業研究発表講演会

    企 画 九州学生会

    開催日時 2015年 3月 3日(火)

    9:00〜17:10

    会場 国立高等専門学校機構

    北九州工業高等専門学校

    〒803-0985 北九州市小倉南区志井 5-20-1

    参加登録費 2,000円

    講演論文集は指定の URLから

    各自ダウンロードしてください

    九州学生会総会

    日時 2015年 3月 3日(火)

    12:10〜13:30

    会場 北九州工業高等専門学校

    2号館1階・合同講義室

    議題 2014年度事業報告

    2015年度事業計画および予算案

    2015年度委員長校および幹事校選出

    その他

    顧問会

    日時 2015年 3月 3日(火)

    12:10〜12:45

    会場 北九州工業高等専門学校

    1号館2階・会議室

    13:40 ~ 15:16 / 流体力学6

    座長: 平口 裕之 (鹿児島大)

    I31 トルクコンバータの内部流れ解析/○有江研人(九工大)

    I32 自動車用トルクコンバータに生じる気体性キャビテーションの観察/○早田諒(九大),堤啓介(九

    大),渡邉聡(九大),原義則(九大),津田伸一(九大)

    I33 単独翼に生じるキャビテーションの非定常現象に及ぼす溶存酸素の影響/○手島慶祐(九大),大

    同春輝(九大),渡邉聡(九大),津田伸一(九大)

    I34 軸流ファンの動翼後縁近傍の渦の相関長さに関する研究/○小田開成(大分大),濱川洋充(大分

    大),栗原央流(大分大)

    I35 尾翼つき Waverider周りの流れ場における空力特性評価/○牟田 智幸(九工大),衞藤遥(九工大),

    坪井伸幸(九工大),丸祐介(JAXA),藤田和央(JAXA)

    I36 クアッドロータのプロペラ形状が空力特性に及ぼす影響/○光崎翔平(熊本大),片岡誠士(熊本

    大),辻大貴(熊本大),宗像瑞恵(熊本大),吉川浩行(熊本大)

    I37 飛翔する蝶の後流の可視化/○松田啓(九工大)

    I38 壁面近傍でホバリングする小型クアッドロータの空力特性に関する研究/○當房航(熊本大),横

    山侑矢(熊本大),片岡誠士(熊本大),辻大貴(熊本大),宗像瑞恵(熊本大),吉川浩行(熊本大)

  • (社)日本機械学会 九州学生会 第 46 回卒業研究発表講演会(No.158-2)論文集 2015.3.3

    トルクコンバータの内部流れ解析

    Internal Flow Analysis of a Torque Converter

    学 ○有江 研人(九工大) 正 田中 和博(九工大) 正 渕脇 正樹(九工大)

    Kento ARIE, Faculty of Computer Science and Systems Engineering, Kyushu Institute of TechnologyKazuhiro TANAKA, Faculty of Computer Science and Systems Engineering, Kyushu Institute of Technology

    Masaki FUCHIWAKI, Faculty of Computer Science and Systems Engineering, Kyushu Institute of Technology

    Key words : Automatic transmission, Torque converter, Bondgraph, AMESim---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

    1.緒言

    近年,自動変速機車(AT 車)や無段変速機車(CVT 車)の普及に伴い,環境浄化および省エネルギー化に対する社会的欲求

    から,車両燃費や動力性能の向上に対する要求はますます高

    まっており,その中でもパワートレインの主要な要素である

    変速機の高効率化が必須となっている.

    自動変速機は主にトルクコンバータ,油圧回路および遊星

    歯車から構成されており,高効率化の手法として変速機の集

    中定数系モデル化が挙げられる.集中定数系モデル化を行う

    ことで実験回数の削減,理論的な性能予測,AT システム全体での性能予測,解析時間の短縮等が可能となる.自動変速

    機においては構成要素の一つである遊星歯車およびトルク

    コンバータの集中定数系モデルはすでに確立されている[1].しかしながら,トルクコンバータの集中定数系モデルの妥当

    性は保証されていないのが現状である.

    そこで本研究では,トルクコンバータの集中定数系モデル

    の妥当性を,ボンドグラフ法に基づくモデル化(以下ボンド

    グラフモデル)およびシミュレーションの結果と、システム

    動特性シミュレーション用の市販コード AMESim による動特性を比較することで検討を行い,またその結果として,ト

    ルクコンバータの動特性を明らかにすることを目的とする.

    2.トルクコンバータ

    トルクコンバータは AT 車や CVT 車に共通して搭載されている.主にポンプ,タービン,ステータの三つの翼列で構

    成されており,これらの要素が ATF(Automatic Transmission Fluid)と呼ばれる作動油を介して動力伝達(流体駆動)を行っている.主な機能としては,エンジンのトルク変動や駆動系

    から入力される振動を減衰し,入出力回転数に応じたトルク

    の可変増幅を行うなどが挙げられる.さらに,ポンプとター

    ビンの回転速度が近づくとロックアップクラッチが作動し,

    ポンプとタービンが直結される.これによって流体を介さず

    機械的な動力伝達を行うことが可能となり,燃費の大幅な改

    善が実現される.

    Fig. 1 Torque converter with Lockup clutch

    3.ボンドグラフ法

    ボンドグラフ法は,パワーの伝達に着目してモデル化を行

    う手法である.パワーは,エフォートとフローという物理量

    の積で表現される.エフォートとフローは,流体系,直線・

    回転運動系それぞれの物理量が割り当てられており,表 に,

    流体系,回転運動系のエフォートとフローの対応を示す.パ

    ワーを共通して用いるため,ボンドグラフ法は,エネルギー

    保存が適用できる系であれば,流体系,直線・回転運動系,

    電気系といった異なる系が連結されていても,一つの系とし

    て表現すること(アナロジーの成立)が可能である.

    Table 1 Effort and flow of Bondgraph model

    4.一次元運動量理論

    本研究の動特性解析には石原ら が構築した一次元運動

    量理論を用いている.ポンプ,タービンおよびステータの理

    論をそれぞれ式 ,式 および式 に示す.

    1321312122121111 tantan rcrrcrQQSIT 2122123223232222 tantan rcrrcrQQSIT 3223231321313333 tantan rcrrcrQQSIT

    ここで, はトルク, はイナーシャ,ω は角速度,ρ は

    密度, は羽根形状によって定まる定数, は流量, は要

    素入口半径, は絶対流速の子午面成分,α は設計角度を

    示す.また,添字 は, :ポンプ, :タービン, :ステー

    タを,添字 は, :要素入口, :要素出口を示す.

    5.解析対象および解析条件

    トルクコンバータのボンドグラフモデルを図 2 に示す.このモデルはポンプ,タービン,ステータおよび流体の領域か

    ら構成されており,ポンプおよびタービンの各 SE 素子からトルク入力を行う.各素子の構成方程式は集中定数系モデル

    で表現されている.このモデルと式(1)(2)(3) と結び付けてシミュレーションを行う.

    また,AMESim におけるトルクコンバータのモデル(以下AMESim モデル)を図 3 に示す.このモデルはトルクコンバータのアイコン,さらに,ポンプおよびタービンそれぞれの

    トルク入力ポートから構成され,各ポートへ信号を入力する

    ことでトルクを入力する.

    Pump

    Stator

    Turbine

    Lockup clutch

    Mechanical-Rotary Fluid systemEffort e T [Nm] P [Pa]Flow f ω [rad/s] Q [m3/s]

    I31

    - 429 -

  • Fig. 2 Bondgraph model for Torque converter

    Fig. 3 AMESim model for Torque converter

    また,入力条件を含む他のパラメータをボンドグラフモ

    デルおよび AMESim モデルそれぞれで同条件とした.入力条件を表 2 に示す.Case1 は比較の基準として入力ポンプトルクを 10[N],タービントルクは 0[N]とした.Case2 は入力ポンプトルクを Case1 より 10 倍大きくした場合,そして,Case3 はタービントルクをポンプトルクより大きくした場合である.

    Table 2 Analysis conditionsCase1 Case2 Case3

    Pump torque[N] 10 100 10Turbine torque[N] 0 0 20

    6.トルクコンバータ動特性解析

    6 1. ボンドグラフモデルの妥当性の検討

    図 4,図 5 および図 6 にボンドグラフモデルと AMESimモデルの動特性解析の結果を示した.図 4 は Case1 の結果を示しており,図 5 は Case2,図 6 は Case3 の結果である.実線が AMESim モデルでのポンプ回転数 w1 とタービン回転数 w2 をそれぞれ示しており,破線,一点鎖線および点線がボンドグラフモデルで流体慣性値(I4 素子)をそれぞれ1 倍,10 倍および 100 倍とした結果を示している.これらの結果から,全ての Case においてボンドグラフモデルおよび AMESim モデルの解析結果はそれぞれ w2 が w1 に追従していることが確認できる.また,ボンドグラフモデルにお

    いて流体慣性を 100 倍した結果が AMESim の結果と一致している.このことから,ボンドグラフモデルでは流体慣性

    のモデル化に改善の余地があると考えられるが,結果とし

    てボンドグラフモデルは概ね妥当であると考えられる.

    6 2. 動特性に関する考察

    全ての Case において,時間が経過するにつれてタービン回転数 w2 がポンプ回転数 w1 に追従する.そして,Case1と Case2 を比較すると,Case2 の方が w2 が w1 に追いつくまでの時間が早くなり,さらに回転数も増幅した.一方,

    Case1 と Case3 を比較すると,Case3 の方が w2 が w1 に追いつくまでの時間が早くなったが,回転数の大きさに変化は

    なかった.このことから,回転数の大きさはポンプトルク

    に依存し,追従する早さは,ポンプトルクおよびタービン

    トルクそれぞれに依存することがわかる.

    Fig. 4 Analysis result in Case1

    Fig. 5 Analysis result in Case 2

    Fig. 6 Analysis result in Case 3

    7.結言.

    トルクコンバータのボンドグラフモデルでトルクコンバ

    ータの動特性解析を行った.AMESim モデルと同様の動特性が得られたために,ボンドグラフモデルの妥当性は得ら

    れた.また,トルクコンバータの動特性を明らかにした.

    8.参考文献

    [1] 鈴木勝也,中村育雄,田中和博:ボンドグラフによるトルクコンバータの動特性解析,日本機械学会論文集 B 編62(595),(1996.3)[2] 石原智男:流体変速機の研究 第 1 報 一般的性能計算式と正転用 1 段トルクコンバータの性能,日本機械学会論文集 21(101),(1955.1)

    Stator

    Pump Turbine

    Fluid

    Pump Torque

    Torque Converter

    Turbine Torque

    0

    400

    800

    1200

    1600

    2000

    0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

    Rot

    atio

    n N

    umbe

    r [r

    pm]

    Time [s]

    AMESim_w1AMESim_w2Bondgraph_w1_IBondgraph_w2_Ibondgraph_w1_I*10Bondgraph_w2_I*10Bondgraph_w1_I*100Bondgraph_w2_I*100

    0

    1000

    2000

    3000

    4000

    5000

    6000

    7000

    0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

    Rot

    atio

    n N

    umbe

    r [r

    pm]

    Time [s]

    AMESim_w1AMESim_w2Bondgraph_w1_IBondgraph_w2_IBondgraph_w1_I*10Bondgraph_w2_I*10Bondgraph_w1_I*100Bondgraph_w2_I*100

    0

    500

    1000

    1500

    2000

    2500

    3000

    0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5

    Rot

    atio

    n N

    umbe

    r [r

    pm]

    Time [s]

    AMESim_w1AMESim_w2Bondgraph_w1_IBondgraph_w2_IBondgraph_w1_I*10Bondgraph_w2_I*10Bondgraph_w1_I*100Bondgraph_w2_I*100

    - 430 -

  • Fig. 2 Bondgraph model for Torque converter

    Fig. 3 AMESim model for Torque converter

    また,入力条件を含む他のパラメータをボンドグラフモ

    デルおよび AMESim モデルそれぞれで同条件とした.入力条件を表 2 に示す.Case1 は比較の基準として入力ポンプトルクを 10[N],タービントルクは 0[N]とした.Case2 は入力ポンプトルクを Case1 より 10 倍大きくした場合,そして,Case3 はタービントルクをポンプトルクより大きくした場合である.

    Table 2 Analysis conditionsCase1 Case2 Case3

    Pump torque[N] 10 100 10Turbine torque[N] 0 0 20

    6.トルクコンバータ動特性解析

    6 1. ボンドグラフモデルの妥当性の検討

    図 4,図 5 および図 6 にボンドグラフモデルと AMESimモデルの動特性解析の結果を示した.図 4 は Case1 の結果を示しており,図 5 は Case2,図 6 は Case3 の結果である.実線が AMESim モデルでのポンプ回転数 w1 とタービン回転数 w2 をそれぞれ示しており,破線,一点鎖線および点線がボンドグラフモデルで流体慣性値(I4 素子)をそれぞれ1 倍,10 倍および 100 倍とした結果を示している.これらの結果から,全ての Case においてボンドグラフモデルおよび AMESim モデルの解析結果はそれぞれ w2 が w1 に追従していることが確認できる.また,ボンドグラフモデルにお

    いて流体慣性を 100 倍した結果が AMESim の結果と一致している.このことから,ボンドグラフモデルでは流体慣性

    のモデル化に改善の余地があると考えられるが,結果とし

    てボンドグラフモデルは概ね妥当であると考えられる.

    6 2. 動特性に関する考察

    全ての Case において,時間が経過するにつれてタービン回転数 w2 がポンプ回転数 w1 に追従する.そして,Case1と Case2 を比較すると,Case2 の方が w2 が w1 に追いつくまでの時間が早くなり,さらに回転数も増幅した.一方,

    Case1 と Case3 を比較すると,Case3 の方が w2 が w1 に追いつくまでの時間が早くなったが,回転数の大きさに変化は

    なかった.このことから,回転数の大きさはポンプトルク

    に依存し,追従する早さは,ポンプトルクおよびタービン

    トルクそれぞれに依存することがわかる.

    Fig. 4 Analysis result in Case1

    Fig. 5 Analysis result in Case 2

    Fig. 6 Analysis result in Case 3

    7.結言.

    トルクコンバータのボンドグラフモデルでトルクコンバ

    ータの動特性解析を行った.AMESim モデルと同様の動特性が得られたために,ボンドグラフモデルの妥当性は得ら

    れた.また,トルクコンバータの動特性を明らかにした.

    8.参考文献

    [1] 鈴木勝也,中村育雄,田中和博:ボンドグラフによるトルクコンバータの動特性解析,日本機械学会論文集 B 編62(595),(1996.3)[2] 石原智男:流体変速機の研究 第 1 報 一般的性能計算式と正転用 1 段トルクコンバータの性能,日本機械学会論文集 21(101),(1955.1)

    Stator

    Pump Turbine

    Fluid

    Pump Torque

    Torque Converter

    Turbine Torque

    0

    400

    800

    1200

    1600

    2000

    0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

    Rot

    atio

    n N

    umbe

    r [r

    pm]

    Time [s]

    AMESim_w1AMESim_w2Bondgraph_w1_IBondgraph_w2_Ibondgraph_w1_I*10Bondgraph_w2_I*10Bondgraph_w1_I*100Bondgraph_w2_I*100

    0

    1000

    2000

    3000

    4000

    5000

    6000

    7000

    0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

    Rot

    atio

    n N

    umbe

    r [r

    pm]

    Time [s]

    AMESim_w1AMESim_w2Bondgraph_w1_IBondgraph_w2_IBondgraph_w1_I*10Bondgraph_w2_I*10Bondgraph_w1_I*100Bondgraph_w2_I*100

    0

    500

    1000

    1500

    2000

    2500

    3000

    0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5

    Rot

    atio

    n N

    umbe

    r [r

    pm]

    Time [s]

    AMESim_w1AMESim_w2Bondgraph_w1_IBondgraph_w2_IBondgraph_w1_I*10Bondgraph_w2_I*10Bondgraph_w1_I*100Bondgraph_w2_I*100

    (社)日本機械学会 九州学生会 第 46 回卒業研究発表講演会(No.158-2)論文集 2015.3.3

    自動車用トルクコンバータに生じる気体性キャビテーションの観察

    An observation of gas cavitation in automotive torque converter

    学 ○早田 諒(九大) 正 堤 啓介(九大院)正 渡邉 聡(九大) 正 原 義則(九大) 正 津田 伸一(九大)

    Ryo HAYATA, School of Engineering, Kyushu University, 744 Motooka, Nishi-ku, Fukuoka

    Keisuke TSUTSUMI, Graduate School of Engineering, Kyushu UniversitySatoshi WATANABE , Yoshinori HARA, Shinichi TSUDA, Dept. of Mech. Eng., Kyushu University

    Key words : Gas cavitation, Torque converter, Stator profile---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

    1.緒言

    近年 環境問題が注目されるなか温室効果ガスの排出削

    減が要求されており 自動車産業でもクリーンエネルギー

    車の開発 また既存車(AT 車)の燃費向上に取り組んでいる AT 車の燃費を悪化させている要因の 1 つとして トルクコンバータがある トルクコンバータは 流体の角運動

    量の授受でトルクを伝達し 入出力軸の回転速度差に応じ

    て自動的に伝達トルクが決定される回転速度差感応型の流

    体継手である

    トルクコンバータの作動流体である ATF(Automatic Transmission Fluid)等の作動油は 一般に空気を多量に溶解するため トルクコンバータ内で過度の低圧域がある場合

    に 空気が析出することによるガスキャビテーションの発

    生が懸念される 自動車の発進時などタービンの回転数が

    ゼロであるストール条件においては,タービンからステータ

    へ流入する流れが大きな正の迎え角を有し,ステータの発生

    トルクが最大となることから,キャビテーションが最も発生

    し易いことが知られている 実車ではトルクコンバータの

    作動油はオイルポンプにより十分に加圧されているものの

    近年のエンジンルーム狭小化に伴うトルクコンバータの偏

    平化により キャビテーションの発生が懸念されるように

    なってきている キャビテーション発生防止の観点から

    その発生条件と発生様相の解明が欠かせない

    著者らのグループはこれまでに トルクコンバータの可

    視化モデルを透明樹脂で製作し キャビテーションの直接

    観察に成功している 本研究では ステータ翼形状の違い

    がキャビテーション発生に及ぼす影響を明らかにすること

    を目的に ポンプ・タービンを同一のまま 2 種類のステータを用いてキャビテーションの観察を行った

    2.実験装置および方法

    Fig.1および Fig.2に本実験に用いたトルクコンバータの可視化モデルの写真を示す Fig.1(a),(b)はそれぞれポンプ タービンを示しており それぞれの翼枚数は 31 枚,29 枚である また Fig.2 は翼枚数が 20 枚で等しく形状の異なるステータ stator1, stator2 を示している 図から stator1 の入口角は stator2 より大きいが 両者の出口角に大きな違いはないことがわかる Fig.3 に実験で用いたトルクコンバータの断面図を示す トルクコンバータの子後面流路は図に示すよ

    うにポンプ,タービン,ステータからなる環状流路となって

    おり,以下では環状流路外側をシェル側 環状流路内側をコ

    ア側と呼ぶ 作動流体には ATF オイルを用いた 供試トルクコンバータはチャンバー内で ATF オイルに浸された状態である タンクには真空ポンプ及び大気開放弁が接続され

    ており,タンク内及びチャンバー内の圧力を調整できる

    (a)pump (b)turbine Fig. 1 Photographs of transparent torque converter elements

    Fig. 2 Two stators with different blade shapes

    Fig. 3 Torque converter in our experimental apparatus

    実験では チャンバー内圧力を真空ポンプで大気圧状態

    から連続的に下げることによりキャビテーションを発生・成

    長させ それと同時にポンプトルク チャンバー内圧力

    チャンバー内油温の計測 ハイスピードカメラによるトル

    クコンバータ内部のキャビテーション様相の撮影を行った

    3.実験結果

    3-1 ポンプトルクの比較

    Fig.4 にキャビテーションの初生から 成長してチャンバー内が気泡で満たされるまでに 2 つのステータで得られたポンプトルクの変化を示す 横軸にはチャンバー内圧力を

    とっている ポンプ回転数は 600rpm である江尻 によると 低速度域での伝達トルク容量を低く保

    つために ステータの負圧面の流れを意図的に剥離させる

    ことで ステータの損失を大きくしトルクコンバータ内を

    循環する流量(以下 循環流量)を低下させることがある.

    両者のトルクの値を比較すると stator2 に比べて stator1 使用時のポンプトルクが小さい これは ステータ翼に対す

    I32

    - 431 -

  • Fig. 4 Comparison of pump torque (600rpm)

    Fig. 5 Cavitation aspects on stator1 blade(800rpm, -40kPa)

    る流れの衝突角の違いに起因すると考える stator1 は stator2に比べて入口角が大きいことから流れの衝突角が大きく

    負圧面における剥離が大きいと考えられる したがって

    stator1 の方が損失が大きく 循環流量が少ないため ポンプトルクが小さいと考えられる

    3-2 キャビテーション様相

    stator1 および stator2 において発生するキャビテーションは以下のように分類された

    (A)シェル側の渦キャビテーション(B)コア側の渦キャビテーション(C)負圧面側のバブルキャビテーション(D)ポンプ圧力面でのキャビテーションstator1 では(A),(B) (C)の順にキャビテーションが発生し

    た.最終的には上記 3 つのキャビテーションが成長し トルクコンバータ内が気泡で満たされる これまでの研究(1)で,

    (A) (B)のキャビテーションは共に馬蹄形渦に起因する渦キャビテーションであることがわかっている.これらは細い糸

    状であり これは渦中心の低圧部に気泡核が流入して渦キ

    ャビテーションが発生し 渦に沿って成長したものである

    (C)のキャビテーションについては ステータ翼に対する衝突角が大きいため 翼前縁が低圧になることで発生してい

    る Fig.5 における黄色で示されるように,翼前縁で発生したキャビテーション気泡が剥離域に流入して停滞する.

    一方,本研究で実験を行った stator2 では,Fig.6 に示すようなキャビテーションが観察された (A),(C)のキャビテーションに加えて,(D)のキャビテーションが観察された.最終的には(A)のキャビティが成長し 内部が気泡で満たされる

    (A)のキャビテーションの発生様相は stator1 の場合と同様であったが stator2 では(A)が最初に発生した.stator2 の方が循環流量,したがって通過流速が大きく,低圧部の圧力が

    stator1 に比べて低くなったためであると考えられる(B)のキャビテーションは stator1 と同様に馬蹄形渦に起因

    するものであると考えられる stator1 に比べて翼後縁側で発生しているのは stator2 では循環流量が大きいため気泡核が渦内に流入して成長する間に流路後半まで流下したことに

    よると推測される.また stator2 ではコア側の渦キャビテー

    Fig. 6 Cavitation aspects on stator2 blade(800rpm, -40kPa)

    Fig. 7 Cavitation aspects on pump blade(800rpm, -40kPa)

    ションは観察されなかった コア側のキャビテーションが

    観察されなかった原因としては 循環流量が多いためター

    ビンからの流出流れがシェル側に偏ることで コア側へ流

    入する流体の速度が小さく,馬蹄形渦が弱くなったことが考

    えられる

    最後に,ポンプのシェル側圧力面に観察されたキャビテー

    ションの発生原因について考察する 両者のステータの出

    口流れを比較すると stator2 の方が循環流量が大きく通過流速が速いため ポンプに流入する相対速度がポンプ翼に対

    して大きな負の迎え角を有すると考えられる したがって

    ポンプ圧力面前縁近傍に強い低圧域が現れ キャビテーシ

    ョンが発生し易くなったと考えられる

    4 結言

    翼形状の異なるステータを用いてキャビテーションの発

    生様相を観察し比較することで以下の知見を得た

    (1)2 種類のステータの入口角の違いにより 循環流量が大きい stator2 の場合において,負圧面のキャビテーションの初生が高い圧力で確認された.

    (2)ステータの出口流れの分布に大きな違いはないが 循環流量が大きいため, stator2 ではポンプ圧力面においてもキャビテーションが発生した

    5.参考文献

    (1) Watanabe, S. et al.: Vibration Characteristics due to Cavitation in Stator Element of Automotive Torque Converter at Stall Condition, ASME Fluids Engineering Division Summer Meeting (2012), FEDSM2012-72418

    (2)江尻英治, 自動車用トルクコンバータの流体解析における最近の技術動向, ターボ機械 26(4) 216-224 (1998)

    - 432 -

  • Fig. 4 Comparison of pump torque (600rpm)

    Fig. 5 Cavitation aspects on stator1 blade(800rpm, -40kPa)

    る流れの衝突角の違いに起因すると考える stator1 は stator2に比べて入口角が大きいことから流れの衝突角が大きく

    負圧面における剥離が大きいと考えられる したがって

    stator1 の方が損失が大きく 循環流量が少ないため ポンプトルクが小さいと考えられる

    3-2 キャビテーション様相

    stator1 および stator2 において発生するキャビテーションは以下のように分類された

    (A)シェル側の渦キャビテーション(B)コア側の渦キャビテーション(C)負圧面側のバブルキャビテーション(D)ポンプ圧力面でのキャビテーションstator1 では(A),(B) (C)の順にキャビテーションが発生し

    た.最終的には上記 3 つのキャビテーションが成長し トルクコンバータ内が気泡で満たされる これまでの研究(1)で,

    (A) (B)のキャビテーションは共に馬蹄形渦に起因する渦キャビテーションであることがわかっている.これらは細い糸

    状であり これは渦中心の低圧部に気泡核が流入して渦キ

    ャビテーションが発生し 渦に沿って成長したものである

    (C)のキャビテーションについては ステータ翼に対する衝突角が大きいため 翼前縁が低圧になることで発生してい

    る Fig.5 における黄色で示されるように,翼前縁で発生したキャビテーション気泡が剥離域に流入して停滞する.

    一方,本研究で実験を行った stator2 では,Fig.6 に示すようなキャビテーションが観察された (A),(C)のキャビテーションに加えて,(D)のキャビテーションが観察された.最終的には(A)のキャビティが成長し 内部が気泡で満たされる

    (A)のキャビテーションの発生様相は stator1 の場合と同様であったが stator2 では(A)が最初に発生した.stator2 の方が循環流量,したがって通過流速が大きく,低圧部の圧力が

    stator1 に比べて低くなったためであると考えられる(B)のキャビテーションは stator1 と同様に馬蹄形渦に起因

    するものであると考えられる stator1 に比べて翼後縁側で発生しているのは stator2 では循環流量が大きいため気泡核が渦内に流入して成長する間に流路後半まで流下したことに

    よると推測される.また stator2 ではコア側の渦キャビテー

    Fig. 6 Cavitation aspects on stator2 blade(800rpm, -40kPa)

    Fig. 7 Cavitation aspects on pump blade(800rpm, -40kPa)

    ションは観察されなかった コア側のキャビテーションが

    観察されなかった原因としては 循環流量が多いためター

    ビンからの流出流れがシェル側に偏ることで コア側へ流

    入する流体の速度が小さく,馬蹄形渦が弱くなったことが考

    えられる

    最後に,ポンプのシェル側圧力面に観察されたキャビテー

    ションの発生原因について考察する 両者のステータの出

    口流れを比較すると stator2 の方が循環流量が大きく通過流速が速いため ポンプに流入する相対速度がポンプ翼に対

    して大きな負の迎え角を有すると考えられる したがって

    ポンプ圧力面前縁近傍に強い低圧域が現れ キャビテーシ

    ョンが発生し易くなったと考えられる

    4 結言

    翼形状の異なるステータを用いてキャビテーションの発

    生様相を観察し比較することで以下の知見を得た

    (1)2 種類のステータの入口角の違いにより 循環流量が大きい stator2 の場合において,負圧面のキャビテーションの初生が高い圧力で確認された.

    (2)ステータの出口流れの分布に大きな違いはないが 循環流量が大きいため, stator2 ではポンプ圧力面においてもキャビテーションが発生した

    5.参考文献

    (1) Watanabe, S. et al.: Vibration Characteristics due to Cavitation in Stator Element of Automotive Torque Converter at Stall Condition, ASME Fluids Engineering Division Summer Meeting (2012), FEDSM2012-72418

    (2)江尻英治, 自動車用トルクコンバータの流体解析における最近の技術動向, ターボ機械 26(4) 216-224 (1998)

    (社)日本機械学会 九州学生会 第 46 回卒業研究発表講演会(No.158-2)論文集 2015.3.3

    単独翼に生じるキャビテーションの

    非定常現象に及ぼす溶存酸素の影響

    Effects of Dissolved Gas on Unsteady Cavitating Flow around a Single Blade

    学 ○手島 慶祐(九大) 学 大同 春輝(九大院)正 渡邉 聡(九大) 正 津田 伸一(九大)

    Keisuke TESHIMA, School of Engineering, Kyushu University 744, Motooka, Nishi-ku, Fukuoka Haruki DAIDOU, Graduate School of Engineering, Kyushu University

    Satoshi WATANABE, Department of Mechanical Engineering, Kyushu UniversityShinichi TSUDA, Department of Mechanical Engineering, Kyushu University

    Key words : Blade Clark Y-11.7%,Cavitation,Lift and Drag Characteristics,Effects of Dissolved Gas---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

    1.緒言近年,様々な流体システムでポンプの小型化が求められて

    いる.高速で回転するポンプの内部では,翼周りの流速の上

    昇に伴い局所的に低圧部が生じ,キャビテーションが発生す

    る.ポンプ内部で生じたキャビテーションは,著しい性能低

    下や壊食,またキャビティの成長・崩壊に伴う騒音,流体力

    学的不安定現象に伴う軸振動などの問題を引き起こす(1).こ

    のキャビテーションに影響を及ぼす因子として,溶存空気の

    影響がある.一般にキャビテーションの研究では,溶存空気

    の影響を排除するために,十分に脱気した水を使用すること

    が多い.しかし,水道水などの通常の水には,少なからず溶

    存空気が含まれており,そのキャビテーションに及ぼす影響

    を明らかにしておくことは有用である.これまで,溶存空気

    が多く含まれた条件について,定常状態におけるキャビテー

    ションの研究は広くなされているが(2),非定常状態における

    キャビテーションの研究は,まだ十分になされていない.

    そこで,本研究では,翼形状がシンプルで高揚抗比を示す

    Clark Y-11.7%翼を用い,キャビテーション非定常現象に及ぼす溶存空気の影響を明らかにすることを目的とした.溶存空

    気量の評価には溶存酸素量(DO 値)を用いることとし,高(約7mg/l)・低(2mg/l 以下)DO 条件において,キャビテーション非定常挙動と揚抗力の関係を調査した.

    2.実験装置および方法実験装置として上部タンク,下部タンク,試験部,回流ポ

    ンプおよび管路からなる密閉型キャビテーション・タンネル

    を使用した.試験部は幅 81.5mm,高さ 200mm の矩形断面を有し,試験部中央の回転台に供試翼を設置して実験を行う.

    供試翼は,翼弦長 C=100mm,翼スパン長 s=81mm(翼端隙間=0.5mm)である.試験部に設置した供試翼は翼中心軸周りに回転することができるため,迎え角を任意に変えることが可能であり,本実験では,=8.0deg とする.また,観察を容易にするため試験部の上面,側面,下面はアクリル製の透明

    窓となっている.供試翼に作用する揚抗力は,既報(3)と同様

    に,供試翼を支持する長方形断面(20mm×10mm)を有する片持ち梁の側面に貼り付けた歪ゲージを用いて計測した.

    本研究では,回流ポンプの回転数を一定に保ったまま,真

    空ポンプを用いてシステム全体の圧力を低下させることで,

    試験部に設置した翼形にキャビテーションを発生させるキ

    ャビテーション試験を行った.実験は非キャビテーション状

    態から段階的に減圧を行い,スーパーキャビテーション状態

    に達するまで行った.Fig.1 に試験部での計測の様子を示す.

    計測では,高速度ビデオカメラ・デジタル HD ビデオを用いた動画撮影と,揚抗力変動,各値の時間平均データの取得を

    行った.キャビテーション形状の観察には 2 台の高速度ビデオカメラを使用し,試験部上面と側面からキャビティの挙動

    を同時撮影した.撮影条件は撮影速度を 8000frames/s,撮影時間を 1.024s とした.また,揚抗力,翼上・下流圧力の測定条件もサンプリング時間 1.024s,サンプリング周波数 8000Hzとし,高速度ビデオカメラと同期して取得した.計測結果は,キャビテーション数= 2(𝑃𝑃𝑡𝑡 − 𝑃𝑃𝑣𝑣) 𝜌𝜌𝜌𝜌2⁄ ,揚

    力係数𝐶𝐶𝐿𝐿 = 2𝐿𝐿 𝐶𝐶𝐿𝐿𝜌𝜌𝜌𝜌2⁄ ,抗力係数𝐶𝐶𝐷𝐷 = 2𝐷𝐷 𝐶𝐶𝐿𝐿𝜌𝜌𝜌𝜌2⁄ を用いて整理した.ここで,𝑃𝑃𝑣𝑣は水の飽和蒸気圧,𝜌𝜌は水の密度,𝜌𝜌は試験部主流流速(約 8.1m/s)である.

    3.実験結果および考察高・低 DO 条件において,キャビテーション非定常現象と

    して,部分キャビテーション時・遷移キャビテーション時(4)

    における揚抗力変動に着目して考察を行う.ただし,低 DO条件における実験結果は,過去の研究データ(3)を用いる.

    Fig.2 に Clark Y-11.7%翼のキャビテーション数と揚抗力値の関係を示す.各図において縦軸は揚力係数𝐶𝐶𝐿𝐿/𝐶𝐶𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝑣𝑣𝐿𝐿および抗力係数 𝐶𝐶𝐷𝐷,横軸はキャビテーション数𝜎𝜎/𝐶𝐶𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝑣𝑣𝐿𝐿,である.ここで,揚力係数に関する図において,𝐶𝐶𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝐿𝑣𝑣𝐿𝐿は非キャビテーション時の揚力係数の値であり,この値で縦

    軸・横軸を除することにより,迎え角の設定において生じる

    高・低 DO 条件の迎え角の微小な差を排除している.図中の各プロットは,それぞれのキャビテーション数における揚抗

    力値の 40 秒間の平均値である.また,Fig.3,Fig.4 に低・高

    Fig.1 Experimental apparatus around test section

    I33

    - 433 -

  • DO 条件において,部分キャビテーション発生時の高速度ビデオカメラによる画像を示す.

    低 DO 条件においては,=1.90 でキャビテーションが初生した後,=1.80 で安定したシートキャビティが発生した.その後,=1.64 付近で部分キャビティ振動へと移行し,=1.38付近で遷移キャビティ振動へと移行した.この間,時間平均

    の揚力係数𝐶𝐶𝐿𝐿は安定したシートキャビティ時に極大値をとり,一時減少するが,遷移キャビティ振動へと移行する直前

    に減少が止まり,=1.45 付近で不明瞭な 2 度目のピークが確認された.そして,遷移キャビティ振動が生じた後,揚力係

    数𝐶𝐶𝐿𝐿は急減少した.また,時間平均の抗力係数𝐶𝐶𝐷𝐷は=1.90で初生後単調に増加し,遷移キャビティ振動に移行する

    =1.38 以降減少した.高 DO 条件においては,=2.10 付近でバブルキャビテーシ

    ョンが初生した.これは,溶存空気の析出によって発生した

    と考えられる.また,=1.63 付近にかけて前縁近傍のバブルキャビテーションがシート状に発達した.その後,=1.60~1.30 付近まで,バブルキャビティが成長し,崩壊してクラウド状になる現象が確認された.そして,=1.30 から遷移キャビティ振動へと移行した.この間,時間平均の揚力係数𝐶𝐶𝐿𝐿は初生後微増し,バブルキャビティが成長し,シート状に近い

    様相を示した=1.80 から上昇を開始し,=1.63 付近で極大値をとった.その後,崩壊したバブルキャビティが翼後縁を

    流下し始めると減少し始め,遷移キャビティ振動へ移行する

    と急減少した.また,時間平均の抗力係数𝐶𝐶𝐷𝐷は=2.10 で初生後微減し,=1.80 で極小値をとり,以降単調に増加した.その後,遷移キャビティ振動へと移行する=1.30 付近で極大値をとり,以降減少した.

    以上より,揚力係数𝐶𝐶𝐿𝐿・抗力係数𝐶𝐶𝐷𝐷において,高・低 DO条件ともに定性的には同じ傾向がみられた.しかし,低 DO条件で確認されたキャビテーション数の低下に対する揚力

    係数𝐶𝐶𝐿𝐿の 2度目のピークが高 DO 条件では確認できなかった.低 DO 条件において 2 度目のピークができる理由としては,Fig.3 に丸で示すようにクラウドキャビティが大規模になることにより,翼負圧面の低圧部が大きくなることで揚力が増

    加したと考えられる.これに対して,高 DO 条件においては,Fig.4 に丸で示すように,細かなクラウドキャビティが流下していくため,低圧部が大きくならなかった.このため,ピ

    ークが出るほどの揚力の上昇がみられなかったと考えられ

    る.また,低 DO 条件において,膜状のシートキャビティが生じているが,高 DO 条件ではバブル状となっている.この違いがクラウドキャビティでの規模の違いと関係している

    と考えられる.

    4.結言

    本実験で得られた結果を以下のようにまとめる.

    (1) 低DO条件では部分キャビティ振動時にキャビテーション数の低下に対する揚力係数𝐶𝐶𝐿𝐿の2度目のピークがみられたが,高DO条件ではキャビテーション数の低下に対する揚力係数𝐶𝐶𝐿𝐿の2度目のピークはみられなかった.

    (2) 高・低DO条件において,遷移キャビティ振動時における揚力係数𝐶𝐶𝐿𝐿・抗力係数𝐶𝐶𝐷𝐷の変化の傾向は,定性的に同様であった.

    参考文献

    (1) 加藤洋治,キャビテーション(増補版),槙書店, ,p.1-8

    (2) Kodama, Y, et al., 1981, ”The effect of nuclei on inception of bubble and sheet cavitation on axisymmetric bodies”,Tran.ASME J. Fluids Eng., 103, pp.557-563

    (3) 渡邉・末藤・山岡・古川,キャビテーション発生下のClark-Y 11.7%翼の揚抗力特性,ターボ機械,41-7 (2013),56-62

    (4) 渡邉,小西,松成,古川,単独翼に生じるキャビテーションの不安定現象の実験的研究,ターボ機械,40-4(2012), 56

    Fig.3 Cavity patterns of partial cavity oscillation

    in low dissolved gas condition(=1.45)

    Fig.4 Cavity patterns of partial cavity oscillation in

    high dissolved gas condition(=1.50)

    Fig.2 Lift and drag force characteristics against cavitation number(=8.0deg)

    - 434 -

  • DO 条件において,部分キャビテーション発生時の高速度ビデオカメラによる画像を示す.

    低 DO 条件においては,=1.90 でキャビテーションが初生した後,=1.80 で安定したシートキャビティが発生した.その後,=1.64 付近で部分キャビティ振動へと移行し,=1.38付近で遷移キャビティ振動へと移行した.この間,時間平均

    の揚力係数𝐶𝐶𝐿𝐿は安定したシートキャビティ時に極大値をとり,一時減少するが,遷移キャビティ振動へと移行する直前

    に減少が止まり,=1.45 付近で不明瞭な 2 度目のピークが確認された.そして,遷移キャビティ振動が生じた後,揚力係

    数𝐶𝐶𝐿𝐿は急減少した.また,時間平均の抗力係数𝐶𝐶𝐷𝐷は=1.90で初生後単調に増加し,遷移キャビティ振動に移行する

    =1.38 以降減少した.高 DO 条件においては,=2.10 付近でバブルキャビテーシ

    ョンが初生した.これは,溶存空気の析出によって発生した

    と考えられる.また,=1.63 付近にかけて前縁近傍のバブルキャビテーションがシート状に発達した.その後,=1.60~1.30 付近まで,バブルキャビティが成長し,崩壊してクラウド状になる現象が確認された.そして,=1.30 から遷移キャビティ振動へと移行した.この間,時間平均の揚力係数𝐶𝐶𝐿𝐿は初生後微増し,バブルキャビティが成長し,シート状に近い

    様相を示した=1.80 から上昇を開始し,=1.63 付近で極大値をとった.その後,崩壊したバブルキャビティが翼後縁を

    流下し始めると減少し始め,遷移キャビティ振動へ移行する

    と急減少した.また,時間平均の抗力係数𝐶𝐶𝐷𝐷は=2.10 で初生後微減し,=1.80 で極小値をとり,以降単調に増加した.その後,遷移キャビティ振動へと移行する=1.30 付近で極大値をとり,以降減少した.

    以上より,揚力係数𝐶𝐶𝐿𝐿・抗力係数𝐶𝐶𝐷𝐷において,高・低 DO条件ともに定性的には同じ傾向がみられた.しかし,低 DO条件で確認されたキャビテーション数の低下に対する揚力

    係数𝐶𝐶𝐿𝐿の 2度目のピークが高 DO 条件では確認できなかった.低 DO 条件において 2 度目のピークができる理由としては,Fig.3 に丸で示すようにクラウドキャビティが大規模になることにより,翼負圧面の低圧部が大きくなることで揚力が増

    加したと考えられる.これに対して,高 DO 条件においては,Fig.4 に丸で示すように,細かなクラウドキャビティが流下していくため,低圧部が大きくならなかった.このため,ピ

    ークが出るほどの揚力の上昇がみられなかったと考えられ

    る.また,低 DO 条件において,膜状のシートキャビティが生じているが,高 DO 条件ではバブル状となっている.この違いがクラウドキャビティでの規模の違いと関係している

    と考えられる.

    4.結言

    本実験で得られた結果を以下のようにまとめる.

    (1) 低DO条件では部分キャビティ振動時にキャビテーション数の低下に対する揚力係数𝐶𝐶𝐿𝐿の2度目のピークがみられたが,高DO条件ではキャビテーション数の低下に対する揚力係数𝐶𝐶𝐿𝐿の2度目のピークはみられなかった.

    (2) 高・低DO条件において,遷移キャビティ振動時における揚力係数𝐶𝐶𝐿𝐿・抗力係数𝐶𝐶𝐷𝐷の変化の傾向は,定性的に同様であった.

    参考文献

    (1) 加藤洋治,キャビテーション(増補版),槙書店, ,p.1-8

    (2) Kodama, Y, et al., 1981, ”The effect of nuclei on inception of bubble and sheet cavitation on axisymmetric bodies”,Tran.ASME J. Fluids Eng., 103, pp.557-563

    (3) 渡邉・末藤・山岡・古川,キャビテーション発生下のClark-Y 11.7%翼の揚抗力特性,ターボ機械,41-7 (2013),56-62

    (4) 渡邉,小西,松成,古川,単独翼に生じるキャビテーションの不安定現象の実験的研究,ターボ機械,40-4(2012), 56

    Fig.3 Cavity patterns of partial cavity oscillation

    in low dissolved gas condition(=1.45)

    Fig.4 Cavity patterns of partial cavity oscillation in

    high dissolved gas condition(=1.50)

    Fig.2 Lift and drag force characteristics against cavitation number(=8.0deg)

    軸流ファンの動翼後縁近傍の渦の相関長さに関する研究 Spanwise Correlation Length of Vortex Shedding from Trailing Edge

    of Rotor Blade of Axial Flow Fan 学 ○小田 開成(大分大) 正 濱川 洋充(大分大) 正 栗原 央流(大分大)

    Kaisei ODA, Department of Mechanical Engineering, Oita University, 700 Dannoharu, Oita 870-1192

    Hiromitsu HAMAKAWA, Department of Mechanical Engineering, Oita University Eru KURIHARA, Department of Mechanical Engineering, Oita University

    Key words : Vortex, Velocity Fluctuation, Spanwise Correlation Length, Axial Flow Fan

    ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

    1.緒 言 比較的回転数の低い送風機が設計点付近で運転される場

    合,翼から放出される渦が原因となる広帯域騒音が支配的で

    あるとされている(1).深野らは,平板翼を一様流中に設置し

    た一様場において渦放出に基づく簡易な音圧レベル予測式

    を理論的に導入し,その妥当性を明らかにした(2).さらに,

    単独平板翼を実機の動翼と同様に回転軸まわりに回転させ

    た回転場において,ある半径では一様場と同様に一定の周波

    数をもつ周期性の強い速度変動成分があり,これが翼後縁か

    ら放出されるカルマン渦によるものであること,この渦放出

    周波数が翼スパン方向に変化するために発生騒音はいわゆ

    る広帯域騒音となることを明らかにした(3).著者らは,一様

    場で導入した音圧レベル予測式に修正を行えば,供試モデル

    を平板翼とする回転場においても,それは十分に適用可能で

    あることを立証した(4).また,実機で用いられる流線形断面

    の反りとひねりを有する単独翼の場合には,過大流量時には

    平板翼と同様に翼後縁からカルマン渦が放出され,この渦放

    出周波数が翼スパン方向に変化するために発生騒音が広帯

    域騒音となることを明らかにした(5).さらに,設計流量時と

    同じ相対流れの迎え角時の軸流ファンにおいて,低レイノル

    ズ数時には,動翼後縁近傍に周期性の強いカルマン渦が形成

    されることを明らかにした(6).しかしながら,設計流量時に

    おいては,翼後方にカルマン渦に起因すると考えられる周期

    性の強い速度変動現象は確認されておらず,その挙動は未だ

    明らかにされていない. 本研究では,設計流量時における軸流ファンの動翼後縁近

    傍の速度変動現象の特性を実験的に調査し,カルマン渦のス

    パン方向相関長さについて検討した. 2.実験装置および方法 乱流騒音と密接に関係する翼近傍後流の速度の時間変動

    特性を詳細に調査するために,供試モデルとともに熱線を回

    転させ,供試モデル後部の相対流れの測定を行った.実験装

    置の測定部の概略を図 1 に示す.熱線は,ボス内部に取付けたトラバース装置を介してコンピュータにより制御され,回

    転中においても動翼に相対的に任意の位置に移動可能であ

    る.センサからの出力はコンピュータにより自動的にサンプ

    リングされ,諸統計量が算出される. 供試軸流ファンは,流量係数Φ=0.41,全圧上昇係数 Ψt=0.30,

    翼枚数 9 枚,回転数が 1000 rpm である.流量係数 Φと全圧上昇係数 Ψは次式で定義した. 𝛷𝛷𝛷𝛷 = 4𝑄𝑄𝑄𝑄 {π(𝐷𝐷𝐷𝐷𝑡𝑡𝑡𝑡2 − 𝐷𝐷𝐷𝐷ℎ2)𝑈𝑈𝑈𝑈𝑡𝑡𝑡𝑡}⁄

    Ψt= 2∆𝑃𝑃𝑃𝑃𝑡𝑡𝑡𝑡 (𝜌𝜌𝜌𝜌𝑈𝑈𝑈𝑈𝑡𝑡𝑡𝑡2)⁄ ここで,Q は流量[m3/s],Rtは翼先端半径[m],Rhはハブ半径[m],Utは翼先端の周速度[m/s],⊿Ptは全圧上昇[Pa],ρは空

    気密度[kg/m3]である.全圧上昇⊿Ptは供試ファンの前後で全圧を測定し算出した.羽根車の翼先端隙間は 2.0mm,翼型はNACA65 系統である.翼先端のスタッガは 63.9°,翼後縁の厚さはスパン全体にわたり 2.0mm である.翼に固定した座標系は,半径方向が R,周方向が L,管軸方向が Z であり,半径一定の L-Z 断面で相対流れの速度分布,速度変動強さ分布および速度変動のスペクトルを調査した.発生騒音は,供

    試モデル翼基部の後縁の回転面から 1m上流の回転軸上に精密騒音計を設置し測定した. 3.実験結果および考察

    図 2 は設計流量時の発生騒音の音圧レベルのスペクトルである.翼通過周波数(BPF)とその倍音において音圧レベルが増加する.また,約 1800Hz 付近においても音圧レベルが増加することがわかる.

    Fig.1 Schematic of the test section

    Fig.2 Sound Pressure Level of Test Fan

    30

    50

    70

    90

    0 1000 2000 3000

    SPL

    dB

    f Hz

    1800Hz

    BPF=150Hz(n=1)

    n=2n=3

    n=4

    (社)日本機械学会 九州学生会 第 46 回卒業研究発表講演会(No.158-2)論文集 2015.3.3

    I34

    - 435 -

  • 設計流量時において動翼後縁近傍の速度分布から求めた

    排除厚さは約 2mm となり,後縁厚さと等しくなる(6).低レイノルズ数時には,動翼後縁近傍に周期性の強いカルマン渦

    が形成され,そのストローハル数は約 0.12~0.15(6)となることを考慮すると,設計流量時においては翼根元から先端にか

    けて 1450~1900Hz 付近でカルマン渦が放出されていることが予想される.そこで,翼根元から先端付近までの後縁近傍

    の速度変動特性を測定した. 図 3 は,動翼後縁近傍の二つの速度変動強さ最大点に 2 本

    の熱線を挿入し同時計測した 1500~2000Hz の速度変動の振幅の時間変化の比較である.それぞれ同一のバンドパスフィ

    ルターを用いて 1500~2000Hz の速度変動成分を抽出した.図 3 中実線が翼圧力側,点線が翼負圧側である.局所的に見ると,片側の振幅が増加するとき,もう一方の振幅が減少し

    ており,両者の振幅の位相が 180°ずれていることが分かる.また,大局的には,片側の振幅が増大するとき,もう一方も

    増大する.このように両者は密接に関係しており,相互に逆

    位相で生じていることが分かる.これは,鈍頭物体の後方に

    形成されるカルマン渦と類似な傾向である.したがって,速

    度変動のスペクトルは広帯域分布となるが,動翼後縁からは

    カルマン渦が放出されていると考えられる.同様な傾向は現

    象の 400 周期中約 32%で見られた.したがって,スペクトルが広帯域分布となる原因は,時間的に間欠的にカルマン渦が

    放出されているためと考えられる. 次に,カルマン渦のスパン方向の相関長を明らかにするた

    めに,一本の熱線を圧力面側の速度変動強さ最大点に固定し,

    もう一方の熱線をその点を通って翼後縁に沿って移動させ

    て,1500~2000Hz の速度変動の振幅の同位相となる割合を測定した.カルマン渦がスパン方向にセル構造を成す場合,

    スパン方向に離れた二点間の速度変動は同位相になると考

    えられる.図 4 は,スパン方向に異なる二点間で同時計測した 1500~2000Hz の速度変動の振幅の時間変化の比較である.図 4 中実線が 63%スパン位置の結果,点線がスパン方向に移動させた熱線の結果である.両者は灰色で示す領域で同位相

    となる.一本の熱線をスパン方向に移動させたときの両者が

    同位相となる割合を図 5 に示す.スパン方向の距離が増大するにつれて,同位相の割合が減少することがわかる.基準点

    近傍では 34%が同位相であり,これが半径方向に保たれたと仮定して積分長さを算出すると約 28mm となる.これは翼後縁厚さ δtの 14 倍となる. 4.結 論

    設計流量時において動翼後縁近傍の速度変動現象を翼根

    元から翼先端にわたって実験的に調査した.その結果,翼後

    縁付近には二つの速度変動が強い領域が存在し,その速度変

    動強さは,翼先端付近で大きく,翼中央では小さくなる.速

    度変動最大点のスペクトルは広帯域の分布となるが,空力音

    との相関が瞬間的には増大することから,周期性の弱いカル

    マン渦が放出されていると考えられる.スパン方向の相関長

    さは後縁厚さの 14 倍程度である. 参考文献 (1)Sharland, I. J., Souces of Noise in Axial Flow Fans, J. Sound and Vibration, 1-3,(1964), 303-322. (2)Fukano, T., Talukuder, A. A., Kozu, T. and Takamatsu, Y., Discrete Frequency Noise Generated from a Flat Plate in Parallel with a Uniform Oncoming Flow, Memoirs of the Fac. of Eng. Kyushu Univ., 44-1, (1984), 19-39. (3)Fukano, T., Saruwatari, H., Hayashi, H., Isobe, H. and Fukuhara, M., Periodic Velocity Fluctuation in the Near Wake of a

    Rotating Flat Plate Blade and Their Role in the Generation of Broadband Noise, J. Sound and Vibration, 181-1(1995), 53-70. (4)Fukano, T., Hamakawa, H. and Saruwatari, H., Prediction of Sound Pressure Level o Broadband due to Periodic Velocity Fluctuation in the Near Wake of a Rotating Flat Plate Blade, Trasaction of JSME, 61-581, (1995-1), 173-180. (5)Fukano, T., Saruwatari, H., Kitamura, T. and Hamakawa, H., Prediction of Spectral Density Distribution of Noise Generated from a Rotating NACA 65 Blade, JSME CENTENNIAL GRAND CONGRESS International Conference on Fluid Engineering, (1997-7), 1771-1776. (6)濱川洋充,森竹貴章,塩月将智,中村太郎,軸流ファンの動翼後縁近傍のカルマン渦の挙動に関する研究,ターボ機械,

    第 40 巻第 7 号,(2011),pp.441-447.

    Fig.3 Variation of the amplitude of velocity fluctuations

    (1500-2000Hz component)

    Fig.4 Variation of the amplitude of velocity fluctuations

    (1500-2000Hz component)

    Fig.5 Synchronous rate of velocity fluctuations at the

    pressure side along the blade span

    -3

    -2

    -1

    0

    1

    2

    3

    0.825 0.83 0.835 0.84 0.845

    Am

    plitu

    de

    t s

    Suction sidePressure side

    -3

    -2

    -1

    0

    1

    2

    3

    0.355 0.357 0.359 0.361 0.363 0.365

    Am

    plitu

    de

    t s

    Reference pointMoving point

    0.1

    0.2

    0.3

    0.4

    0.4 0.5 0.6 0.7 0.8

    In-p

    ahse

    rate

    (R-Rh)/(Rt-Rh)

    Reference point

    - 436 -

  • 設計流量時において動翼後縁近傍の速度分布から求めた

    排除厚さは約 2mm となり,後縁厚さと等しくなる(6).低レイノルズ数時には,動翼後縁近傍に周期性の強いカルマン渦

    が形成され,そのストローハル数は約 0.12~0.15(6)となることを考慮すると,設計流量時においては翼根元から先端にか

    けて 1450~1900Hz 付近でカルマン渦が放出されていることが予想される.そこで,翼根元から先端付近までの後縁近傍

    の速度変動特性を測定した. 図 3 は,動翼後縁近傍の二つの速度変動強さ最大点に 2 本

    の熱線を挿入し同時計測した 1500~2000Hz の速度変動の振幅の時間変化の比較である.それぞれ同一のバンドパスフィ

    ルターを用いて 1500~2000Hz の速度変動成分を抽出した.図 3 中実線が翼圧力側,点線が翼負圧側である.局所的に見ると,片側の振幅が増加するとき,もう一方の振幅が減少し

    ており,両者の振幅の位相が 180°ずれていることが分かる.また,大局的には,片側の振幅が増大するとき,もう一方も

    増大する.このように両者は密接に関係しており,相互に逆

    位相で生じていることが分かる.これは,鈍頭物体の後方に

    形成されるカルマン渦と類似な傾向である.したがって,速

    度変動のスペクトルは広帯域分布となるが,動翼後縁からは

    カルマン渦が放出されていると考えられる.同様な傾向は現

    象の 400 周期中約 32%で見られた.したがって,スペクトルが広帯域分布となる原因は,時間的に間欠的にカルマン渦が

    放出されているためと考えられる. 次に,カルマン渦のスパン方向の相関長を明らかにするた

    めに,一本の熱線を圧力面側の速度変動強さ最大点に固定し,

    もう一方の熱線をその点を通って翼後縁に沿って移動させ

    て,1500~2000Hz の速度変動の振幅の同位相となる割合を測定した.カルマン渦がスパン方向にセル構造を成す場合,

    スパン方向に離れた二点間の速度変動は同位相になると考

    えられる.図 4 は,スパン方向に異なる二点間で同時計測した 1500~2000Hz の速度変動の振幅の時間変化の比較である.図 4 中実線が 63%スパン位置の結果,点線がスパン方向に移動させた熱線の結果である.両者は灰色で示す領域で同位相

    となる.一本の熱線をスパン方向に移動させたときの両者が

    同位相となる割合を図 5 に示す.スパン方向の距離が増大するにつれて,同位相の割合が減少することがわかる.基準点

    近傍では 34%が同位相であり,これが半径方向に保たれたと仮定して積分長さを算出すると約 28mm となる.これは翼後縁厚さ δtの 14 倍となる. 4.結 論

    設計流量時において動翼後縁近傍の速度変動現象を翼根

    元から翼先端にわたって実験的に調査した.その結果,翼後

    縁付近には二つの速度変動が強い領域が存在し,その速度変

    動強さは,翼先端付近で大きく,翼中央では小さくなる.速

    度変動最大点のスペクトルは広帯域の分布となるが,空力音

    との相関が瞬間的には増大することから,周期性の弱いカル

    マン渦が放出されていると考えられる.スパン方向の相関長

    さは後縁厚さの 14 倍程度である. 参考文献 (1)Sharland, I. J., Souces of Noise in Axial Flow Fans, J. Sound and Vibration, 1-3,(1964), 303-322. (2)Fukano, T., Talukuder, A. A., Kozu, T. and Takamatsu, Y., Discrete Frequency Noise Generated from a Flat Plate in Parallel with a Uniform Oncoming Flow, Memoirs of the Fac. of Eng. Kyushu Univ., 44-1, (1984), 19-39. (3)Fukano, T., Saruwatari, H., Hayashi, H., Isobe, H. and Fukuhara, M., Periodic Velocity Fluctuation in the Near Wake of a

    Rotating Flat Plate Blade and Their Role in the Generation of Broadband Noise, J. Sound and Vibration, 181-1(1995), 53-70. (4)Fukano, T., Hamakawa, H. and Saruwatari, H., Prediction of Sound Pressure Level o Broadband due to Periodic Velocity Fluctuation in the Near Wake of a Rotating Flat Plate Blade, Trasaction of JSME, 61-581, (1995-1), 173-180. (5)Fukano, T., Saruwatari, H., Kitamura, T. and Hamakawa, H., Prediction of Spectral Density Distribution of Noise Generated from a Rotating NACA 65 Blade, JSME CENTENNIAL GRAND CONGRESS International Conference on Fluid Engineering, (1997-7), 1771-1776. (6)濱川洋充,森竹貴章,塩月将智,中村太郎,軸流ファンの動翼後縁近傍のカルマン渦の挙動に関する研究,ターボ機械,

    第 40 巻第 7 号,(2011),pp.441-447.

    Fig.3 Variation of the amplitude of velocity fluctuations

    (1500-2000Hz component)

    Fig.4 Variation of the amplitude of velocity fluctuations

    (1500-2000Hz component)

    Fig.5 Synchronous rate of velocity fluctuations at the

    pressure side along the blade span

    -3

    -2

    -1

    0

    1

    2

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    0.825 0.83 0.835 0.84 0.845

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    Suction sidePressure side

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    0.355 0.357 0.359 0.361 0.363 0.365

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    Reference pointMoving point

    0.1

    0.2

    0.3

    0.4

    0.4 0.5 0.6 0.7 0.8

    In-p

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    rate

    (R-Rh)/(Rt-Rh)

    Reference point

    (社)日本機械学会 九州学生会 第 46 回卒業研究発表講演会(No.158-2)論文集 2015.3.3

    尾翼つき 周りの流れ場における空力特性評価Aerodynamic Characteristics of the Waverider with the Tail Wing

    学 ○ 牟田 智幸(九工大) 衞藤 遥(九工大院) 正 坪井 伸幸(九工大)丸 祐介 ( ) 藤田 和央 ( )

    Tomoyuki MUTA, Kyushu Institute of Technology, Sensuicho, 1-1 Tobata-ku, Kitakyushu, Fukuoka

    Haruka ETO, Kyushu Institute of Technology, Sensuicho, 1-1 Tobata-ku, Kitakyushu FukuokaNobuyuki TSUBOI, Kyushu Institute of Technology, Sensuicho, 1-1 Tobata-ku, Kitakyushu, Fukuoka

    Yusuke MARU, JAXA, 3-1-1 Yoshinodai, Chuo-ku, Sagamihara, KanafgawaKazuhisa FUJITA, JAXA, 7-44-1 Jindaiji-higashimachi, Chofu, Tokyo

    Key words : Waverider, Hypersonic Aircraft, Aerodynamic Characteristic, Tail Wing---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

    1.はじめに

    近年、旅客機の飛行速度の向上はあまり見られない. その原因は超音速飛行特有の衝撃波発生に付随する問題に対処

    できなかったことである.その1つに一般的な航空機のような円筒形胴体の機体形状

    では衝撃波の影響により, 超音速飛行時に著しく揚抗比が低下する. この揚抗比低下の問題を解決するために Waveriderとよばれる機体形状が考案された. これは機体に発生した衝撃波の背後の高圧を利用することによって高揚抗比を実現

    する機体モデルである.[1][2][3]しかし、Waverider にも問題点があり, 理想的な Waverider

    の設計には水平尾翼の効果を考慮していない. そのため縦,横の安定性を確保するために尾翼が必要となるが, 尾翼が揚抗比に与える影響が十分に評価されていない.本研究では, 尾翼を取り付けた Waverider について, 縦・横

    の方向の空力特性を把握するとともに, 最適なサイズの尾翼を考えることを最終目的とする. そのために, まずは JAXAの超音速風洞試験で Waverider に取り付けられている尾翼を基にして格子をつくり, それに対して数値計算することで空力特性の評価を行った.

    2.研究方法

    2.1 機体形状本研究では, 尾翼つき平面形状 Waverider と尾翼なし平面

    形状 Waverider の 2 種類の数値解析を行った. Fig. 1 に尾翼つき Waverider を, Fig. 2 に尾翼なし Waverider の機体形状をそれぞれ示す. 今回数値計算, 風洞試験で使用した尾翼は V 型である. これは斜めに取り付けられた尾翼のことで, 水平尾翼と垂直尾翼の両方の役割を持っている.

    2.2 計算方法と計算格子本計算では,支配方程式に Navier-Stokes 方程式,空間方向の

    離散化に AUSM 系スキームの一種である AUSMDV スキームを用い, MUSCL法により三次精度とした. 時間積分法にはLU-ADI 陰解法を適用した. 流れ場のレイノズル数は胴体長基準で 1.74×106 であるため乱流モデルとして Degani-schiffによる修正 Baldwin-Lomax モデルを使用した. 壁面の境界条件は, 断熱, 非滑り壁とした. 一様流マッハ数については,今回は 2 とした.次に計算格子について述べる. 機体の格子トポロジーは,

    尾翼が機体後縁にあることから, 流れ方向に O 形, 周方向をO 形とする O-O 形格子を採用した. 格子点数は107 × 241 ×201で合計約 500 万点とした. 壁面の最小格子幅は 0.01mmとした. 尾翼格子は61 × 151 × 31で合計約 30 万点とした.

    3.風洞試験

    本研究では数値解析とは別に 2014 年 7 月に相模原にある宇宙科学研究所内の超音速風洞を使用して風洞試験を行っ

    た. マッハ数は試験施設の都合により 2.0 のみである. 試験は, Waverider 形状と尾翼つき Waverider 形状の 2 つを行った.今回は研究の目的に沿って, Waverider 形状(W-shape)と尾翼付き Waverider 形状(WT-shape)の試験結果を示す.4.計算結果及び考察

    始めに, 風洞試験の結果と比較するために一様流マッハ数は 2.0, 迎角は−6~2[deg]で 2[deg]刻みずつ , 飛行高度21000m 条件下で空力特性を評価した.

    Fig. 4 に揚力係数CL, Fig. 5 に抗力係数CD, Fig. 8 に揚抗比,Fig. 7 にピッチングモーメント係数Cmpの尾翼なしの数値計算結果と JAXA で行った尾翼有無の風洞試験結果をそれぞれ示す.尾翼ありの数値結果は後日発表する.

    Fig.1 Waverider with tail wing

    Fig.2 Waverider without tail wing

    I35

    - 437 -

  • 0.9 𝜌𝜌/𝜌𝜌∞ 1.4 1.4

    Fig.3 Graph of CL − α

    Fig.4 Graph of CD − 𝛼𝛼

    Fig. 5 Graph of L/D

    Fig. 6 Graph of Cmp

    この結果より, 揚力係数CLでは尾翼なしの CFD, 風洞試験結果はほぼ同じような数値を取ることがわかる. また尾翼有無の風洞試験結果について比較すると尾翼有無の影響はほと

    んど見られない. またゼロ揚力角はすべての結果で約−4°であった. 次にCDについて, 尾翼なしの CFD と風洞試験結果を比較すると迎角が負になるほど差が大きくなっているこ

    とがわかる. また, 迎角が増えるとCFDに比べて風洞試験結果における抵抗が急激に増加している. これは造波抵抗による影響であり, 迎角が増えるにつれて衝撃波による圧力上昇が大きくなり, それにより造波抵抗が増加したことが原因であると考えられる. 次に揚抗比 L/D については, 尾翼ありの風洞試験結果において, どの迎角においても値が小さいことがわかる. これは尾翼を取り付けたことによる抵抗の増加が主な原因である. 最後にピッチングモーメント係Cmpについて述べる. CFD と風洞試験結果を比べてみると傾向はほぼ一致していることがわかる. そして尾翼を取り付けると, トリム迎角が正側に改善していることがわかる. 風洞試験での尾翼なしと尾翼ありのシュリーレン画像を Fig.7 と Fig.8 示す.また, マッハ数 2, 迎角0°の密度分布の結果を Fig.9 に示す.

    Fig.7 W-shape’s Schlieren photograph

    Fig.8 WT-shape’s Schlieren photograph

    Fig.9 Density contours of W-shape

    Fig.7 より, 下面の先端から衝撃波が発生しているのがわかる. Fig.8 でも下面から同じように衝撃波が発生しており, また尾翼の部分にも衝撃波が発生している. Fig.9 からは下面だけでなく上面にも弱い衝撃波が発生しているのがわかる .数値解析と風洞試験における空力係数と流れ場の比較から,

    数値解析は妥当であると判断できる.

    5.まとめ

    本研究では尾翼つき Waverider 形状について, 一様流マッハ数が 2 における空力特性を評価した. 数値解析結果と風洞試験結果を比較した. 尾翼を取り付けることにより, トリム迎角が正よりに改善される. しかしまだトリム迎角を正にできていないため, これを正にするためには水平尾翼容積をより大きくする, または空力中心と風圧中心の距離をより小さくするなどの必要がある.謝辞

    本研究の数値解析には大阪大学サイバーメディアセンター

    スーパーコンピュータを利用した.ここに記して感謝の意を

    表する.

    参考文献(1) Nonweiler, T. R, Vol.63, pp.521-528, 1959 (2) Jones, j. G, Ingenieur-Archiv, 37, Band, 1, Heft, pp. 56-72,

    1968. (3) Mark, J. L, Foundamentals of Hypersonic Waveriders Course

    Material, AIAA Professional Study Series, 1994.

    - 438 -

  • 0.9 𝜌𝜌/𝜌𝜌∞ 1.4 1.4

    Fig.3 Graph of CL − α

    Fig.4 Graph of CD − 𝛼𝛼

    Fig. 5 Graph of L/D

    Fig. 6 Graph of Cmp

    この結果より, 揚力係数CLでは尾翼なしの CFD, 風洞試験結果はほぼ同じような数値を取ることがわかる. また尾翼有無の風洞試験結果について比較すると尾翼有無の影響はほと

    んど見られない. またゼロ揚力角はすべての結果で約−4°であった. 次にCDについて, 尾翼なしの CFD と風洞試験結果を比較すると迎角が負になるほど差が大きくなっているこ

    とがわかる. また, 迎角が増えるとCFDに比べて風洞試験結果における抵抗が急激に増加している. これは造波抵抗による影響であり, 迎角が増えるにつれて衝撃波による圧力上昇が大きくなり, それにより造波抵抗が増加したことが原因であると考えられる. 次に揚抗比 L/D については, 尾翼ありの風洞試験結果において, どの迎角においても値が小さいことがわかる. これは尾翼を取り付けたことによる抵抗の増加が主な原因である. 最後にピッチングモーメント係Cmpについて述べる. CFD と風洞試験結果を比べてみると傾向はほぼ一致していることがわかる. そして尾翼を取り付けると, トリム迎角が正側に改善していることがわかる. 風洞試験での尾翼なしと尾翼ありのシュリーレン画像を Fig.7 と Fig.8 示す.また, マッハ数 2, 迎角0°の密度分布の結果を Fig.9 に示す.

    Fig.7 W-shape’s Schlieren photograph

    Fig.8 WT-shape’s Schlieren photograph

    Fig.9 Density contours of W-shape

    Fig.7 より, 下面の先端から衝撃波が発生しているのがわかる. Fig.8 でも下面から同じように衝撃波が発生しており, また尾翼の部分にも衝撃波が発生している. Fig.9 からは下面だけでなく上面にも弱い衝撃波が発生しているのがわかる .数値解析と風洞試験における空力係数と流れ場の比較から,

    数値解析は妥当であると判断できる.

    5.まとめ

    本研究では尾翼つき Waverider 形状について, 一様流マッハ数が 2 における空力特性を評価した. 数値解析結果と風洞試験結果を比較した. 尾翼を取り付けることにより, トリム迎角が正よりに改善される. しかしまだトリム迎角を正にできていないため, これを正にするためには水平尾翼容積をより大きくする, または空力中心と風圧中心の距離をより小さくするなどの必要がある.謝辞

    本研究の数値解析には大阪大学サイバーメディアセンター

    スーパーコンピュータを利用した.ここに記して感謝の意を

    表する.

    参考文献(1) Nonweiler, T. R, Vol.63, pp.521-528, 1959 (2) Jones, j. G, Ingenieur-Archiv, 37, Band, 1, Heft, pp. 56-72,

    1968. (3) Mark, J. L, Foundamentals of Hypersonic Waveriders Course

    Material, AIAA Professional Study Series, 1994.

    (社)日本機械学会 九州学生会 第 46 回卒業研究発表講演会(No.158-2)論文集 2015.3.3

    クアッドロータのプロペラ形状が空力特性に及ぼす影響

    The Effect of Rotor Blade Profile on Aerodynamic Characteristics of Quad-Rotor

    学 ○光崎 翔平(熊大) 学 片岡 誠士(熊大)学 辻 大貴(熊大) 正 宗像 瑞恵(熊大)正 吉川 浩行(熊大)

    Shohei MITSUZAKI, Satoshi KATAOKA, Daiki TSUJI, Mizue MUNEKATA and Hiroyuki YOSHIKAWA

    Kumamoto University, 2-39-1, Chuo-ku Kurokami, Kumamoto-shi, Kumamoto

    Key words : UAV, Rotor blade, Fluid force, Quad-rotor---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

    1.はじめに

    近年,無人飛行機(UAV)は災害時の人命救助や情報収集等,様々な分野での活躍が期待されている.その中でも つ

    の回転翼をもつクアッドロータはプロペラの回転数制御の

    みで姿勢制御や移動ができるため小型化に向き,現在注目を

    集めている.しかし,小型な機体のため搭載できるバッテリ

    の大きさには限度があり,そのため飛行時間が限られている.

    したがって,飛行効率を高効率化するための技術を開発する

    ことは非常に有意義である.

    本研究では,クアッドロータ用のプロペラ開発を最終目的

    とした基礎研究として,ホバリング時のクアッドロータのプ

    ロペラ形状が空力特性に及ぼす影響について調査した.形状

    の異なる 種類のプロペラにおいて,それぞれ回転速度を変

    化させながら揚力と消費電力の測定,油膜法によるプロペラ

    表面の流れの可視化,単一傾斜熱線を用いたプロペラ下流側

    の流れ場の調査を行った.これらの結果から,プロペラ形状

    が空力特性に及ぼす影響について明らかにする.

    2.実験装置および実験方法

    図 1 に本研究で使用するクアッドロータの概略図と座標系を示す.試験機体には回転翼が同一平面内の前後左右に 4つ搭載されている enRoute 社製の PG400 を使用している.機体は全長 566mm,全幅 566mm であり,Rotor 1 と Rotor 4 が時計回りに,Rotor 2 と Rotor 3 が反時計回りにそれぞれ回転する.プロペラを除く機体全体の重量は 1.1kg である.各翼の回転速度はパソコンからの無線通信により制御する.単一

    傾斜熱線により,Rotor 1 の下流の流れ場を計測した.図 1に示すようにプロペラ上面軸部を原点として,半径方向に r軸,鉛直上方向に z1軸を定義する.

    図 2 に本研究で用いたプロペラを示す.調査対象の 3 種類のプロペラは,enRoute社製のPG400用のプロペラ,NEEWER社製のマルチコプタ用プロペラ,Landing Products 社製のAPC プロペラであり,それぞれ Type 1,Type 2,Type 3 とする.表 1 にそれぞれのプロペラの r/R=0.7 におけるピッチ角α0.7,翼弦長 l0.7,そり比 c0.7 示す.なお,R はスパン長さである.

    揚力の計測には 6 軸力覚センサを用いた.アルミ製の架台にセンサと機体を固定し,回転速度 N を 1500rpm から回転可能な最大速度まで 500rpm ごとに変化させながら計測した.また,消費電力は試験機体に供給する直流電源の電流と電圧

    をサンプリング周波数 200Hz で 8000 点サンプルし,その平均値を算出した.

    油膜法によるプロペラ表面の流れの可視化は,酸化チタン,

    流動パラフィン,オレイン酸を質量比 1.4:3.6:1.0(1)で混合したものを油膜として使用した.油膜を塗布したプロペラを

    90 秒間回転させた後,流れパターンをカメラで撮影し,画像解析をすることによって前縁からの剥離位置を調査した.

    Fig.1 Schematic test Quad-rotor

    (a) Type 1 (R=120mm)

    (b) Type 2 (R=128mm)

    (c) Type 3 (R=127mm) Fig.2 Test propeller

    単一傾斜熱線を用いたプロペラ下流の流れ場の計測は,そ

    れぞれのプロペラで約 1400gf の揚力が得られる回転速度(Type 1:6000rpm,Type 2:4130rpm,Type 3:5238rpm)において計測した.Rotor 1 下流の z1/R = -1.0 において,熱線プローブをプロペラの外側から水平に設置し,プロペラの旋回に

    対して接線方向から挿入して計測した.計測点の間隔は 0.1Rである.サンプリング周波数は10kHzで30000点サンプルし,軸方向速度 Vz1を求めた.3.結果及び考察

    図 3 に揚力の測定結果を示す.それぞれのプロペラで回転速度の最大値が異なるのは同一モータを使用し,許容できる

    モータの最大トルクが同じであるため,ピッチ角とプロペラ

    径が関係している.翼は迎角が大きくなれば抗力が大きくな

    Table 1 Specifications of propellerα0.7[°] l0.7[mm] c0.7[%]

    Type 1 9.63 16.7 5.5Type 2 15.0 22.4 9.7Type 3 12.0 21.9 4.4

    I36

    - 439 -

  • ることが一般的に知られているが,ピッチ角と抗力にも同じ

    関係が成り立っている.したがって,ピッチ角が大きい Type 2 と Type 3 はモータのトルクが足りず,Type 1 よりも回転速度の最大値が小さくなっている.また,Type 2 は Type 3 に比べ,翼端側で翼面積が大きくなっている.これにより,Type2のプロペラを回転させるのに必要なトルクがType 3よりも大きくなり,回転速度の最大値は Type 2 の方が Type 3 より小さくなっている.Type 3 と Type 1 を比較すると Type 3 の方が,ピッチ角が大きいため,同回転速度では高い揚力が得

    られており,Type 3 と Type 2 においても同様である.また,Type 2 は他のプロペラと比べ,そり比が大きい.一般的にそり比が大きくなると揚力も大きくなる.したがって,Type 2は低回転速度であっても高い揚力が得られている.

    次に,消費電力 P と単位揚力あたりの消費電力 P/L をそれぞれ図 3,図 4 に示す.P/L が小さいほど効率が良く,N≥3000rpm では Type 1 が高効率であるといえる.プロペラを回転させるのに必要なトルクが大きいほど消費電力が大

    きくなり,そり比が大きくなると高い揚力を得られるが,そ

    れとともに抗力も増加する.そのため,Type 2 は消費電力と消費電力の増加率が他の 2 種類のプロペラよりも大きくなっている.Type 1 と Type 3 は 1500rpm での P/L が 2000rpmでの場合よりも大きくなっている.これは 1500rpm ではほとんど揚力が得られていないためである.約 1000gf の揚力が得られる回転速度での P/L を比較すると,Type 1,Type 3,Type 2 の順番で大きくなっている.したがって,ピッチ角を大きくして低速で回転させるよりもピッチ角を小さくして

    高速で回転させる方が消費電力は小さく,効率は良くなると

    いえる.

    図 6 に油膜法により調べた負圧面の剥離位置を示す.縦軸は前縁から剥離位置までの距離 SP をその半径位置での翼弦長 l で無次元化したものである.全体的に Type 2 が最も剥離が遅れている.また,プロペラが最も仕事をするといわれて

    いる 0.7R の位置では Type 2,Type 3,Type 1 の順に剥離が遅れている.剥離が遅いほど揚力は大きくなるが,油膜法で得

    られた結果は揚力測定の結果とも一致している.

    図 7 に単一傾斜熱線により計測した軸方向速度の速度分布を示す.ロータ軸部付近に軸方向速度が局所的に小さい領

    域,その外側に極大値をもつ軸方向速度分布となっている.

    3種類のプロペラともに速度分布がロータ軸で軸対象にならず,機体中心方向に同程度偏っている.これは隣接する回転

    翼を通過した伴流との相互作用によって,それぞれの伴流が

    機体中心方向に引き寄せられたためである.それぞれのプロ

    ペラで軸方向速度の極大値をとる位置が異なるのはプロペ

    ラの形状に起因する.ピッチ角が最大になる位置や翼面積が

    大きくなる位置がプロペラごとに異なるため,軸方向速度の

    極大値をとる位置がプロペラによって異なっている.Type 2の軸方向速度が他の 2 種類のプロペラに比べ,全体的に大きくなっているのはそり比と回転速度が関係している.そり比

    が大きいほど気流が下向きに偏向されるため,Type 2 は Rωに対する軸方向速度が大きくなっている.

    4.結言

    形状の異なる 3 種類のプロペラにおいて,ホバリング時の揚力と流れ場の計測,プロペラ表面の可視化を行い,次のこ

    とを明らかにした.

    プロペラはピッチ角やそり比が大きいほど高い揚力が得ら

    れるが,同時に消費電力も大きくなるため,抗力を小さくし

    て高速回転させる方がクアッドロータには向いている.それ

    ぞれのプロペラからの伴流が干渉することによって伴流が

    機体中心に引き寄せられる程度はプロペラ形状に関わらず

    同程度である.

    Fig.3 Relationships of the lift and rotation speed

    Fig.4 Consumed electric power

    Fig.5 Consumed electric power per lift

    Fig.6 Separation point on the suction side

    Fig.7 Axial velocity distributions around the rotor 1 at z1/R = -1.0

    5.謝辞

    本研究で使用した試験機体である PG400 は株式会社enRoute から提供していただいたもので�