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Title パラレルキャリア活動とキャリア形成に関する考察 : 市民 活動団体NAGOYA×FOREVERを事例に Author(s) 三井, 栄; 今永, 典秀 Citation [岐阜大学地域科学部研究報告] vol.[44] p.[15]-[25] Issue Date 2019 Rights Version 岐阜大学地域科学部 / 岐阜大学地域協学センター URL http://hdl.handle.net/20.500.12099/77412 ※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。

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Title パラレルキャリア活動とキャリア形成に関する考察 : 市民活動団体NAGOYA×FOREVERを事例に

Author(s) 三井, 栄; 今永, 典秀

Citation [岐阜大学地域科学部研究報告] vol.[44] p.[15]-[25]

Issue Date 2019

Rights

Version 岐阜大学地域科学部 / 岐阜大学地域協学センター

URL http://hdl.handle.net/20.500.12099/77412

※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。

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岐阜大学地域科学部研究報告第 44号: 15– 25(2019)

パラレルキャリア活動とキャリア形成に関する考察

―市民活動団体 NAGOYA×FOREVER を事例に―

三 井 栄、今 永 典 秀

(2018 年 11 月 27 日受理)

A Study on Parallel Career Activities and Career Formation

―A Case of Citizen Group NAGOYA × FOREVER―

Sakae MITSUI and Norihide IMANAGA

Ⅰ はじめに

厚生労働省(2016)「働き方の未来 2035」では、AI を中心とした技術革新は、多様な

働き方を可能にするツールとして、時間・空間・年齢・性別といった「壁」を取り除き、

働くすべての人々に大きな恩恵をもたらすだけでなく、企業や組織の在り方、労働政策

にも変革をもたらすと予測している。それゆえ、日本社会を支えていた終身雇用が変化

し、企業で働く個人のキャリア形成は OJT を中心とした社内研修に加え、社外におけ

る自己研鑽の機会が重要となる。複数の企業や組織、プロジェクトに所属する働き方は、

各個人が多様なキャリア形成を図ると同時に、企業は効率的かつ効果的な人材育成の機

会になりうる。

そこで本稿では、専業、兼業・副業、ワークライフバランスとパラレルキャリアの枠

組みを提示し、パラレルキャリアを「仕事(本業)と社外活動」として位置づけた上で、

市民活動団体「NAGOYA×FOREVER」の参加者を対象に本業と社外活動を両立するパラ

レルキャリアに関する意識調査を行い、その印象や認知度を把握した上で、社外活動が

本業のキャリア形成にもたらす効果について考察を行う。

本稿の構成は以下の通りである。まず、パラレルキャリア研究に関連する先行事例を

概観し、研究の枠組みを提示する。次に、NAGOYA×FOREVER の活動を紹介した上で、

参加者を対象とした意識調査の結果及び考察を行う。最後にまとめと今後の課題を言及

する。

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三 井 栄、今永 典秀

Ⅱ パラレルキャリア研究と分析の枠組み

パラレルキャリアとは、ドラッカー(1999)によれば、これからの社会では、自分に責

任を持ち、特定の組織に依存せず、自分のキャリアは自分で決めることが求められるこ

とから、仕事以外の仕事を本業外で有し、社会活動等に参加することにより、本業とそ

れ以外のキャリアを両立させる生き方であり、パラレルキャリアを推奨する背景には、

知識労働者は生涯にわたる活動を続けることを望み、会社外で別の世界を持つことが生

涯にわたる活躍へつながるとしている。

石山(2015)は、パラレルキャリアを促進する事業主体について、中間支援団体として

の NPO、プロボノ、フューチャーセンター、地域活性化を進める任意団体等、様々な活

動形態が存在することを示した上で、石山(2016)では、「働くこと×働くこと」という

枠組みの中で、社会活動、地域活動、社会人大学院や研究会などにおける学び、趣味の

サークル、家事、育児など人生の役割を自在に組み合わせることは、個人と組織の双方

に相乗効果があると言及している。

次に、プロボノについて、嵯峨(2011)ではラテン語の「Pro Bono Publico (公共善のた

めに)」を語源とし、社会的・ 公共的な目的のために、自らの職業を通じて培ったスキ

ルや知識を提供するボランティア活動と定義し、プロボノの役割と全体像を論じている。

また、杉岡他(2016)は、京都府におけるプロボノ活動の事例研究から、プロボノの実践

が地域課題解決の担い手となる可能性を見出している。さらに、藤澤・香川(2015)では、

プロボノ活動へ参加する効果について、組織にとって従業員の変革的役割志向を伴う組

織再社会化の機会となり、働く上での自己や所属組織の資源に関する理解を促進する場

合があることを示している。

代表的なプロボノ活動の事例として、「NPO 法人二枚目の名刺」や「NPO 法人サー

ビスグラント」等が挙げられる。いずれもプロボノ支援を依頼する団体や企業等との間

で中立的な立場から双方の利害を調整する役割を担う中間支援組織である。中間支援組

織は、課題を抱える NPO 法人と課題解決能力を保有するプロボノ(本業以外の二枚目の

名刺を持つ社会人)のマッチングに加え、プロジェクトとして機能させるために、NPO

法人側のニーズを読み取り、プロボノスタッフが関与できる形に加工するなどの付加価

値を提供する(石山(2015)参照)。実際、先駆的存在である NPO 法人サービスグラント

に登録するプロボノに対する参加動機の調査においては、第 1位は「スキルや経験の活

用」、第 2位は「ボランティア・社会貢献への興味関心」、第 3位は「スキルアップ・

成長・視野拡大・仕事へのヒント」となっている(嵯峨(2011)参照)。

同時に、企業内における本業外の活動が近年加速している。例えば、パナソニックで

は、2012 年に若手社員の濱松が中心となり「志・モチベーションの向上」「意識・見識

の拡大」「組織・年代・国籍を超えた人的ネットワークの構築」を目指した One Panasonic

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パラレルキャリア活動とキャリア形成に関する考察

―市民活動団体 NAGOYA×FOREVER を事例に―

という有志の社内勉強会が発足した(石山(2015)参照)。2016 年には、濱松が代表とな

り、富士ゼロックス社内の有志団体「秘密結社わるだ組1」、東日本電信電話内の有志団

体「O-DEN2」と共同で、大企業の若手有志団体のコミュニティ One Japan3を形成し、双

方の社内における本業外活動をより浸透させ、企業風土の改善や若手社員自身の働きが

いの増加、社外における人的ネットワークの強化等の取組みが図られている。また、会

社の枠を超えた複数企業の社員や行政職員などによる有志活動の事例としては、2014年

より実施されている地域企業や行政の課題を参加者が議論し解決策を提言する企画「若

手サミット」4がある。

パラレルキャリアが提唱され、プロボノ活動が推奨される背景には、スキルの面でも

複数の活動を平行して取組むことにより、1つの組織に属するだけでは得られない新し

い人脈や、知識、経験を得ることがあり、本業の仕事に対して新たな社会的意味や価値

を見出すなど、仕事と生活の好循環を生み出すことが期待できる。

次に、2つの自律したキャリア「プロティアン・キャリア(protean career)」(アイデン

ティティの変化を伴うキャリア)と「バウンダリーレス・キャリア(boundary less career)」

(境界のないキャリア)およびパラレルキャリアとの位置づけを考察する。

プロティアン・キャリアは、Hall(1996)が提唱し、移り変わる環境に対して、変幻自

在に適応するキャリアのあり方を意味している。地位や収入などの客観的価値ではなく、

個人価値に基づく心理的成功を重視した自己主導的なキャリアの概念である。

バウンダリーレス・キャリアは、Arthur & Rousseau(1996)が提唱し、職務、組織、仕

事と家庭、国家、産業という境界を越えて展開するキャリアを意味している。伝統的な

雇用の前提を打開する様々なキャリアのあり方を包含しており、組織主体から個人主体

へと行動特性にも変化がもたらされる。

Briscoe at al.(2006)は、2 つの自律したキャリアに関する測定尺度を開発し、プロテ

ィアン・キャリアを測定するための 14 項目の質問から、「自己指向(Self-Directed Career

Management)」と「価値優先(Values-Driven)」の 2 因子、バウンダリーレス・キャリア

を測定するための 13 項目の質問から、「バウンダリーレス思考(Boundaryless Mindset)」

と「移動への選好(Organizational Mobility Preference)」の 2因子が抽出された。日本にお

いては、武石・林(2013)が、Briscoe at al. (2006)と同様の質問調査を日本の企業規模 100

人以上の 25 歳から 39 歳の正社員を対象に実施し、同じ 4 因子が抽出された。また、

Briscoe at al.(2006)と同様に、「自己指向」「価値優先」「バウンダリーレス思考」の尺

度間の相関が高いという分析結果を示した。同調査を用いて、梅崎他(2015)は、自律的

1 http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/073000022/080400003/参照(2017.11.26 アクセス) 2 http://workmill.jp/sea/report/sea-day-02-1report.html/参照(2017.11.26 アクセス) 3 2018 年 11 月時点で、35 団体が加入している。

http://onepana.sakura.ne.jp/wp/?page_id=50/参照(2018.11.11 アクセス) 4 https://www. ourfutures.net/ groups/53/参照(2017.11.26 アクセス)

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三 井 栄、今永 典秀

なキャリア意識が主観的および客観的キャリア・サクセスや転職との影響を分析し、キ

ャリア・サクセスに対しプロティアン・キャリアの中でも「自己指向」の影響が大きく、

企業から評価されている一方、転職を伴うバウンダリーレス・キャリアが評価されてお

らず、日本の大企業では新卒一括採用と長期雇用を基盤とした内部育成(内部労働市場)

が中心で、「移動への選好」や「バウンダリーレス思考」の高い人材をうまく活用でき

ていない可能性を指摘している。

また、日本企業における自律したキャリアの研究について、宇田(2007)はある特定の

企業内での長期間に及ぶ安定的なキャリアに代わるキャリアとして、日本におけるバウ

ンダリーレス・キャリアに関する実証研究の積み重ねや、企業に雇われないキャリアを

体現する個人へのアプローチの必要性を言及している。

企業や職場の境界を超えた学習に対する研究に関しては、事例研究が蓄積されており、

中原(2010)は職場における学習を探求し、職場における越境活動とその動機に関する実

証研究を行い、荒木(2009)では、キャリア確立において、職場内や社外で仕事に関する

学習を主な目的とする実践共同体への参加が有用と論じている。

このような自律的なキャリアの成立には、兼業・副業などが関連すると考えられる。

なお、「複業」として複数の業務を兼務する概念は、本稿では兼業に含まれるものとす

る。日本企業における兼業・副業の状況は、リクルートキャリア(2017)「兼業・副業に

対する企業の意識調査」によると、兼業・副業を容認・推進している企業は 22.9%であ

った。禁止理由は「社員の過重労働の抑制」が 55.7%と最も高く、「情報漏洩のリスク」

が 24.4%、「労働時間の管理・把握が困難なため」が 19.3%である。一方、兼業・副業を

容認・推進している理由は「特に禁止する理由がない」が 68.7%と最も高く、次いで「社

員の収入増」が 26.7%であり、「人材育成・本人のスキル向上につながる」は 5.0%にと

どまった。また、社員が兼業・副業を行う際に会社から要求する条件は「本業に支障が

出ない」が 60.3%、次いで「特に条件はない」が 35.5%である。

加えて、「平成 29 年大企業勤務者の副業に関する意識調査」(2017)では、会社員以外

の活動に関して(複数回答可)、「特に何もしていない」が 66.9%で大半を占めるものの、

「副業」が 16.7%、「趣味の同好会」が 13.5%、「ボランティア」が 9.9%、「地域活動」が

8.3%、「NPO 活動」が 2.5%であり、副業・兼業に該当しない金銭面の授受がないボラン

ティアやプロボノ活動への参加者も一定数存在する。

一方、日本における兼業・副業の実施によるスキルアップやキャリアアップについて

の調査研究や、自律的キャリアである「プロティアン・キャリア」や「バウンダリーレ

ス・キャリア」とパラレルキャリアの位置づけは明確ではない。そこで、本稿では、分

析の枠組みとして、パラレルキャリアの境界に加え、パラレルキャリアがもたらす効果

と自律的キャリアとの関係性の仮説を提示する。まず、専業、兼業・副業、パラレルキ

ャリア、ワークライフバランスの境界は、図 1に示したとおり、①専業は仕事のみへ従

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パラレルキャリア活動とキャリア形成に関する考察

―市民活動団体 NAGOYA×FOREVER を事例に―

事、②兼業・副業は本業の仕事以外に複数の職を有する、③パラレルキャリアは仕事に

加えてボランティアや NPO 法人の活動やプロボノとしての無償でスキルを生かしたサ

ポートなどに参加する、④ワークライフバランスは仕事と余暇活動・家庭生活との組み

合わせとする。

石山(2016)では、②兼業・副業、③仕事とボランティア・NPO・プロボノとの両立、

④仕事と余暇活動・家庭生活との両立が広義のパラレルキャリアに該当するとしている

が、本稿では、パラレルキャリアを「仕事(本業)と社外活動」として、その役割を明示

する。なお、特定の本業を持たずに生計を立てるフリーランスや、社外活動を実施する

専業主婦等は、本稿の分析対象から外す。

図 1 分析の枠組み

Ⅲ パラレルキャリア活動に関する意識調査

本稿では、図 1に示した枠組みにおける「仕事(本業)と社外活動」に着目し、市民活

動団体「NAGOYA×FOREVER」の運営者や参加者を中心にパラレルキャリア活動に関す

る意識調査を対象に、パラレルキャリアに関する印象や認知度を把握した上で、本業外

の社外活動への参加が本業のキャリア形成に与える影響について考察を行う。

本稿の対象事例である市民活動団体 NAGOYA×FOREVER は、2012 年 12 月に 20 代

から 30 代の若手社会人が中心となり、「名古屋を盛り上げる」ことを目指し、「座談会」

「アイデアソン」「ビジネスプラン発表会」などを実施している。

座談会は、将来のキャリアに関する自由な議論を車座形式で 4 人から 6人 1 組で 1 セ

ット 30 分程度の話し合いを 3 セット行い、相互に学び合い成長する機会を提供するも

のである。直接利害関係のない社会人が、学生と対等に本音で話し合える場を創造する

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三 井 栄、今永 典秀

点が特徴であり、仕事のみならず、家庭生活・趣味などの仕事以外に関して広く議論さ

れる。2017 年 7月時点で 18 回が実施され、のべ参加者は約 600 人である。

アイデアソンは、idea(アイデア)+marathon(マラソン)からの造語で、一定期間特定

のテーマについてチームごとにアイデアを出し合い、共同作業で問題解決を図る。2015

年より合計 4回実施され、2016 年には「起業部」が発足し、起業経験やビジネススクー

ルで経営を学んだ社会人でスキルを有した数人が中心となり、アイデアソンで生まれた

アイデアを具体化し、プロボノ活動を実施している事例もみられる。

ビジネスプラン発表会は、参加者の将来の目標や、アイデアソンで得られたプランの

経過報告等の機会であり、参加者間の交流促進も目的として、2016 年 6月と 2017 年 11

月に実施され、約 80 人が参加した。9グループが発表を行い、発表者は、活動に対する

助言、活動の周知や新たな仲間を集める機会になったといえる。

NAGOYA×FOREVER の関係者は、運営スタッフ・社会人サポーター・参加者等に分

類される。運営スタッフは 30 人程度で構成され、運営・イベント企画など全ての活動

を担う。社会人サポーターは、イベント企画等には携わらないが、NAGOYA×FOREVER

の活動の理念・内容等に共感し、活動のサポートや過去の経験・能力を活かしたアドバ

イス役として 40人程度が関与している。

運営スタッフは、企画を通じてノウハウが蓄積され、スキルアップにもつながってお

り仕事と社外活動を両立するパラレルキャリア活動に該当するといえる。特に起業部の

活動をはじめとしたアイデアソンにおける情報提供やサポートは、無償で行っているが

有償での提供が成立すると推察される。

そこで本稿では、社外活動の参加が本業のキャリア形成にもたらす影響を把握するた

めに、NAGOYA×FOREVER の運営者や参加者を中心に、本業を有しながら本業外の活

動に取組むパラレルキャリア活動に関する意識調査を行う。

<調査要領>

1)調査目的:社外活動への参加が本業のキャリア形成にもたらす影響を把握

2)調査方法:E メールにてアンケート調査を依頼し、回収

3)調査対象:「NAGOYA×FOREVER」を中心とした本業外の社外活動への参加経験者

4)調査期間:2016 年 3~7 月

5)回収数:93

6)調査項目

属性:1.性別(①男②女③不明) 2.年齢(①20代②30代③40代④その他) 3.職業(①

学生②会社員(転職無し)③会社員(転職 1 回)④会社員(転職 2 回)⑤会社員(転職 3 回以

上)⑥公務員⑦起業家⑧その他) 4.最終学歴(①高校卒業(大学生はこちら)②大学卒業

③大学院在学中(ビジネススクールも含む)④大学院卒業⑤その他)

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パラレルキャリア活動とキャリア形成に関する考察

―市民活動団体 NAGOYA×FOREVER を事例に―

5.NAGOYA×FOREVER という活動についてお伺いします。参加したことはあります

か?(①2 回以上参加したことがある②1 回参加したことがある③聞いたことはあるが

参加したことは無い(機会があれば参加しても良いと思っている)④参加したことが無

い⑤わからない⑥その他)

質問項目:Q1.自分のスキルを活かしてサポートをした経験(プロボノ活動)はありま

すか?(①ある(今でも行っている)②ある(今は行っていないが、機会があれば行いたい

と思っている)③ある(ただし、今は行いたいと思っていない)④ない⑤その他)、Q2.あ

なたの属する組織(会社や学校)でパラレルキャリアを認識している人と、その認知度は

いかがですか?(①周りに実践している人がいて、認知度は高い②周りに実践している

人はいるが、認知度は低い③ほとんどの人が知らないし、関心も低い④ほとんどの人が

知らない上に悪いものと思っている⑤わからない)、Q3.自分の本業以外の活動(社外活

動)についての印象は?(複数選択可)(①スキルとしても得られるものが多く、大切だと

思っている②スキルよりは、自分の趣味・やりたいことを実現する意味で、大切だと思

っている③参加しているが特にメリットは考えていない④参加しない⑤その他)、Q4.社

外活動に参加することで本業の職業に影響はありますか?(複数選択可)(①本業に好影

響が出る②自分が好きで参加している③どちらともいえない④本業に悪影響が出る⑤

参加しないのでわからない⑥その他)、Q5.あなた自身はパラレルキャリアの活動をどう

思っていますか?(①自分にとっては良い活動なので続けていきたい②良い活動だが、

続けるのは困難でもある③どちらともいえない④あまり良い活動と思っていない⑤良

い活動と思っていない)、Q6.パラレルキャリア活動の印象について(自由記載)、Q7.社

外活動参加によって得られる能力について(自由記載)

<集計結果からの考察>

全体の集計結果は表 1に示したとおりである。

属性について、1.性別は、「男」66人(71.0%)、「女」24人(25.8%)、「不明」3人(3.2%)

であり、男性の比率が高い。2.年代は、「20 代」11 人(11.8%)、「30 代」66 人(71.0%)、

「40 代」16 人(17.2%)と 30 代が中心である。3.職業は「学生」2 人(2.2%)、「会社員

(転職無し)」42 人(45.2%)、「会社員(転職 1 回)」21 人(22.6%)、「会社員(転職 2 回)」

12 人(12.9%)、「会社員(転職 3 回以上)」4 人(4.3%)、「公務員」5 人(5.4%)、「起業家」

7 人(7.5%)、と会社員が中心である。4.最終学歴は、「高校卒業」3 人(3.2%)、「大学卒

業」23 人(24.7%)、「大学院在学中」21 人(22.6%)、「大学院卒業」46 人(49.5%)と大学以

上の学歴が多い。5.NAGOYA×FOREVER という活動への参加経験は、「2回以上参加し

たことがある」41人(44.1%)、「1 回参加したことがある」19人(20.4%)、「聞いたことは

あるが参加したことは無い」23 人(24.7%)、「参加したことが無い」10 人(10.8%)、「わ

からない」0人(0.0%)、と参加経験者は 60 人(64.5%)である。

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三 井 栄、今永 典秀

各質問項目への回答は、Q1.自分のスキルを活かしてサポートをした経験(プロボノ活

動)は、「ある(今でも行っている)」22 人(23.7%)、「ある(今は行っていないが、機会が

あれば行いたいと思っている)」23 人(24.7%)、「ある(ただし、今は行いたいと思って

いない)」3人(3.2%)、「ない」45人(48.4%)である。

Q2.あなたの属する組織(会社や学校)でパラレルキャリアを認識している人と、その

認知度は、「①周りに実践している人がいて、認知度は高い」6人(6.5%)、「周りに実践

している人はいるが、認知度は低い」25 人(26.9%)、「ほとんどの人が知らないし、関心

も低い」40 人(43.0%)、「ほとんどの人が知らない上に悪いものと思っている」15 人

(16.1%)、「わからない」7人(7.5%)である。一般的にはパラレルキャリア活動に対する

認知度は低く、悪影響をもたらすと不安視する状況が伺える。

Q3.自分の本業以外の活動(社外活動)についての印象は、「スキルとしても得られるも

のが多く、大切だと思っている」61 人(65.6%)、「スキルよりは、自分の趣味・やりたい

ことを実現する意味で、大切だと思っている」46人(49.5%)、「参加しているが特にメリ

ットは考えていない」2人(2.2%)、「参加しない」2人(2.2%)、「その他」5人(5.4%)であ

る。本業外の活動が本業に対してもプラス影響があることを示すことにより、パラレル

キャリア活動の価値を高め、認知度向上につながると推察される。

表 1 調査結果

度数 % 度数 %

1 Q1

① 男 66 71.0 ① ある(今でも行っている) 22 24

② 女 24 25.8 ② ある(今は行っていないが、機会があれば行いたいと思っている) 23 25

③ 不明 3 3.2 ③ ある(ただし、今は行いたいと思っていない) 3 3.2

2 ④ ない 45 48

① 20代 11 11.8 Q2

② 30代 66 71.0 ① 周りに実践している人がいて、認知度は高い 6 6.5

③ 40代 16 17.2 ② 周りに実践している人はいるが、認知度は低い 25 26.9

3 ③ ほとんどの人が知らないし、関心も低い 40 43.0

① 学生 2 2.2 ④ ほとんどの人が知らない上に悪いものと思っている 15 16.1

② 会社員(転職無し) 42 45.2 ⑤ わからない 7 7.5

③ 会社員(転職1回) 21 23 Q3

④ 会社員(転職2回) 12 13 ① スキルとしても得られるものが多く、大切だと思っている 61 65.6

⑤ 会社員(転職3回以上) 4 4.3 ② スキルよりは自分の趣味・やりたいことを実現する意味で大切だと思っている 46 49.5

⑥ 公務員 5 5.4 ③ 参加しているが特にメリットは考えていない 2 2.2

⑦ 起業家 7 7.5 ④ 参加しない 2 2.2

4 ⑤ その他 5 5.4

① 高校卒業(含大学生) 3 3.2 Q4

② 大学卒業 23 24.7 ① 本業に好影響が出る 33 35.5

③ 大学院在学中(含ビジネススクール) 21 22.6 ② 自分が好きで参加している 20 21.5

④ 大学院卒業 46 49.5 ③ どちらとも言えない 32 34.4

④ 本業に悪影響が出る 2 2.2

⑤ 参加しないのでわからない 3 3.2

① 2回以上参加したことがある 41 44.1 ⑥ その他 3 3.2

② 1回参加したことがある 19 20.4 Q5

③ 聞いたことはあるが参加したことは無い 23 24.7 ① 自分にとっては良い活動なので続けていきたい 60 64.5

④ 参加したことが無い 10 10.8 ② 良い活動だが、続けるのは困難でもある 16 17.2

⑤ わからない 0 0.0 ③ どちらともいえない 12 12.9

④ あまり良い活動と思っていない 0 0.0

⑤ 良い活動と思っていない 5 5.4

あなた自身はパラレルキャリアの活動をどう思っていますか?

職業

自分の本業以外の活動(社外活動)についての印象は? (複数選択可)

最終学歴は?

社外活動に参加することで本業の職業に影響はありますか?(複数選択可)

5NAGOYA×FOREVERという活動についてお伺いします。参加したことはありますか?

属性に関する項目 パラレルキャリアに関する調査項目

性別 自分のスキルを活かしてサポートをした経験(プロボノ活動)はありますか?

年齢あなたの属する組織(会社や学校)でのパラレルキャリアの認知度はいかがですか?

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パラレルキャリア活動とキャリア形成に関する考察

―市民活動団体 NAGOYA×FOREVER を事例に―

Q4.社外活動に参加することで本業の職業に影響は、「本業に好影響が出る」33 人

(35.5%)、「自分が好きで参加している」20 人(21.5%)、「どちらともいえない」32 人

(34.4%)、「本業に悪影響が出る」2人(2.2%)、「参加しないのでわからない」3人(3.2%)、

「その他」3人(3.2%)である。

Q5.あなた自身はパラレルキャリアの活動をどう思っているかについては、「自分にと

っては良い活動なので続けていきたい」60 人(64.5%)、「良い活動だが、続けるのは困難

でもある」16 人(17.2%)、「どちらともいえない」12 人(12.9%)、「あまり良い活動と思

っていない」0人(0.0%)、「良い活動と思っていない」5人(5.4%)である。また、属性 5.

における NAGOYA×FOREVER の参加経験者 60 人はパラレルキャリア活動への印象を

高く評価する傾向がみられた。

次に、パラレルキャリア活動の印象と得られる能力に関する自由記載欄の内容につい

て、キーワード毎に分類した集計結果を表 2に示した。

Q6.パラレルキャリア活動の印象について、自由記載回答 93 をキーワード毎に集計し

た結果、「相乗効果」19人(20.4%)、「会社では満たせない」9人(9.7%)、「視野が広がる」

9 人(9.7%)、「楽しい」7 人(7.5%)、「選択肢の拡大」5 人(5.4%)、「時間に制約がある」

4人(4.3%)、「家庭の事情」3人(3.2%)、「その他」(37 キーワード)37 人(39.8%)である。

メリットとして、「継続にも意味がある」「社内で得られない能力が得られる」といった

回答がみられ、一定期間本業外の活動の経験は、本業でも活用可能なスキルの向上が期

待できる。反面、デメリットとしては、時間の捻出や周囲の理解等、本業とのバランス

が難しいことが挙げられる。

Q7.社外活動参加によって得られる能力について、自由記載回答 137 をキーワード毎

に集計した結果、「スキルアップ」44 人(47.3%)、「コミュニケーション能力」23 人(24.7%)、

「視野が広がる」23 人(24.7%)、「人脈」18 人(19.4%)、「自己認知」7人(7.5%)、「知識・

情報」7人(7.5%)、「将来の方向性」3人(3.2%)であり、「その他」(12 キーワード)12 人

(12.9%)である。なお、スキルアップとして、ビジネススキルに関連するキーワードを

集約した。本業外の活動参加は能力向上にも寄与し、本業のキャリア形成にもプラス影

響がみられる。

表 2 自由記載欄の集計結果

Q6 パラレルキャリア活動の印象について 度数 % Q7 社外活動参加によって得られる能力について 度数 %

① 相乗効果 19 20.4 ① スキルアップ 44 47.3② 会社では満たせない 9 9.7 ② コミュニケーション能力 23 24.7③ 視野が広がる 9 9.7 ③ 視野が広がる 23 24.7④ 楽しい 7 7.5 ④ 人脈 18 19.4⑤ 選択肢の拡大 5 5.4 ⑤ 自己認知 7 7.5⑥ 時間に制約がある 4 4.3 ⑥ 知識・情報 7 7.5⑦ 家庭の事情 3 3.2 ⑦ 将来の方向性 3 3.2⑧ その他 37 39.8 ⑧ その他 12 12.9

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三 井 栄、今永 典秀

Ⅳ おわりに

本稿では、仕事と社外活動への参加者を対象にパラレルキャリアに関する意識調査を

実施し、社外活動が本業のキャリア形成にもたらす効果の把握を試みた。第 1 に、パラ

レルキャリア活動への参加者は、本業と社外活動のバランスや周囲の理解等の課題はあ

げられるが、社外活動への印象は良好で、活動参加継続を希望する割合が大きい一方、

活動参加者の周囲の人の関心や、認知度は低い。第 2 に、パラレルキャリア活動参加者

は、スキルアップ、コミュニケーション能力向上、視野や人脈の広がりなどを実感して

おり、本業のキャリア形成にもプラス影響がみられる。

以上のことから、パラレルキャリア活動の参加は、自律的キャリアが有する「価値観」

「判断力」「市場からの評価」「企業横断の情報ネットワーク」に対し、プラス効果をも

たらすことが示唆された(図 1 参照)。また、社外活動の実践者が、本業で活躍するロー

ルモデルとして出現することにより、企業においても人材育成の観点でパラレルキャリ

ア活動が推進されることが期待され、活動の認知度・印象が向上する好循環が生まれる

であろう(図 2 参照)。

図 2 パラレルキャリア活動の効果

本稿は、「NAGOYA×FOREVER」を中心とした本業外の社外活動への参加経験者を対

象としたパイロットスタディであり、調査対象を様々なパラレルキャリア活動参加者や

社外活動への関心がない者へ拡大し、パラレルキャリア活動と本業の相乗効果に関して

はさらなる検証が求められる。

先述の石山(2015)が指摘するように、パラレルキャリアに注目が集まる理由は、本業

と社外活動の両方から学びを得て自己成長でき、普段出会えない人々とチームを組んで

主体的に課題解決を進め、既存の組織の中では経験できないゼロからの立ち上げなどを

経験することでイノベーション思考・デザイン思考やリーダーシップを学べることであ

る。また、企業にとって、人材育成につながる社外活動は、企業研修や自己啓発の機会

ともなりうる。それゆえ、社外活動の内容や効果等の把握により、余暇活動との境界の

明確化を含め、企業と働く個人双方がパラレルキャリア活動を活用できる仕組みの構築

が課題といえる。

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パラレルキャリア活動とキャリア形成に関する考察

―市民活動団体 NAGOYA×FOREVER を事例に―

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