Title <批評・紹介>滿和辭典 羽田亨編

Author(s) 石濱, 純太郎

Citation 東洋史研究 (1938), 3(3): 243-245

Issue Date 1938-02-28

URL https://doi.org/10.14989/145606

Right

Type Journal Article

Textversion publisher

Kyoto University

批

評

満

　

和

　

誹

　

典

紹

刎

　

田

　　

亨編

昭和十二年十二月・京都帝國大學満

蒙調査會刊・菊判五〇〇頁・定價五圓

　　　

満洲語の研究は清朝に接肩した耶蘇會士等によって

　　

始められた。固より常時の賓用語學としても必要であ

　　

ったんだが、賓は之に依って支那文化一般の理解に資

　　

せんとしたのでもあった。會士等の支那文化研究が漢

　　

字漢文の困難に衝突してゐた際に、彼等の必要とした

　　

漢文書類が相常多量に浦洲語詳されて居り、文字こそ

　　

異たって居れども標巻式であった語學習得の容易さに

　　

よって、支那文化研究に満洲詳書の比較參照の便益な

　　

るを曼り、逡に欧洲の東洋學者をして競って満洲語學

　　

習得に走らしめたのであった。かくして忽ちにして文

　　

典辞書讃本の編纂が続々として起った。その篤めには

　　

支那で編纂出版されてゐた満文語學書類は頻りに研究

む″

　

翻詳されて欧文となったものであ『る。特に辞典を畢ぐ

れば、アミョ（｛｝icｔｉｏｎｎａｉｒｅ　Ｔａｒｔａｒｅ-Ｍａｎｔｃｈ　ｏｕ　ｆｒａｎｃａｉｓ｡

ｃｏｍｐｏｓｅ　ｄ'ａｐｒ＾ｓ　ｕｎ　Ｄｉｃｔｉｏｎｎａｉｒｅ　ｍａｎｔｃｈ　ｏｕ-ｃｈｉｎｏｉｓ｡　ｐａｒ

　

Ｍ

.

　Amｙｏｔ｡　　　ｒ＾ｄｉｇｇ　　　ｅｔ　　　ｐｕblie　　　ａｖｅｃ　ｄｅｓ　ａｄｄｉｔｉｏｎｓ　ｅｔ

I'ａｌｐｈａｂｅｔ　ｄｅ　ｃｅｔｔｅ　　　ｌａｎｇｕｅ｡　　　ｐａｒ　Ｌ.　Ｌａｎｇｌ＾ｓ.　３　　ｔｏｍｅｓ.

Ｉ）ａｒiｓ｡　１７８９-１７９０.）’ガペ’レンツ（Ｓｓｅ-ｓｃｈｕ｡　Ｓｃｈｕ-ｋｉｎｇ｡

Ｓｃｈｉ-ｋｉｎｇ　in　Ｍａｎｄｓｃｈ　ｕiｓｃｈ　ｅｒ　Ｕｅｂｅｒｓｅｔｚｕｎｇ　miｔ　ｅｉｎｅｍ

Ｍａｎｓｃｈ　ｕ-Ｄｅｕｔｓｃｈｅｎ

　Ｗｆｉｒｔｅｒｂｕｃｈ｡

　　ｈｅｒａｕｓｆｆｅｓｅｂｅｎ　ｖｏｎ

Ｈ.Ｃ.　ｖｏｎ　ｄｅｒ　Ｇａｂｅｌｅｎｚ.　Ａｂｈａｎｄｌｕｎｅｅｎ　ｄｅｒ　Ｄｅｕｔｓｃｈ　　ａ

Ｍｏｒｇｅｎｌａｎｄｉｓｃｈｅｎ　　　Ｇｅｓellｓｃｈ　ａｆｔ｡　　　ＩＩＩ.　　　　Ｂａｎｄ｡　　　Ｎｏ.　　　１.

Ｌｅｉｐｚig｡　１８６４.）’ワシリェフ

　

（Ｖ.　Ｖａｓil'ｅｖ:

　Ｍａｎ'ｅ＾ｕ-

ｒｓｋｏ-ｒｕｓｓkii　　ｓloｖａｒ'｡　Ｓｔ.-Ｐｅｔｅｒｂ.ｕｒｓ｡　１８６６.）

’ザハロフ

（｛’ＮＱ９　ａｒｏｖ:　Ｐｏｌｎｙj　ｍａｎ'i^ｚａｒｓｋｏ-ｒｕｓｓkij　ｓloｖａｒ'｡　Ｓｔ.-

Ｐｅｔｅｒｂｕｒｇ｡　１８７５.）の如き諸刊本以外に、パリツォフ、

ウラドイキン、クーフプロオト（Ｃｆ.　Ｃａｔａｌｏｇｕｅ　ｄｅｓ　liｖｒｅｓ

８ｍｐｏｓａｎｔ　la　biblioｔｈｅｑｕｅ　ｄｅ　ｆｅｕ　Ｍ.　Ｋｌａｐｒｏｔｈ.　Ｄｅｕ-

ｘieme　Ｐａｒｔie｡　ｐ.　５３-５ｉ.　Ｐａｒiｓ｡　１８３９.）

’７　エルビイス

ト（Ｃｆ.　Ｌａｎｇｌｅｓ:　Ａｌｐｈａｂｅｔ　ｔａｒｔａｒｅ-ｍａｎtｃｈｏｕ｡　　ｄａｎｓ　ｌｅ

ｄｉｃｔｉｏｎｎａｉｒｅ　　ｄｅ　　　Ｍ.Amｙｏｔ.　　　ｐ.　　　ＸＸＸＩＩＩ.

　　　Ａ.　Wｙlie:

Ｔｒａｎｓlaｔｉｏｎ　ｏｆ　ｔｈｅ　Ｔｓ'inｓ　Ｗａｎ　Ｋ'ｅ　Ｍｕｎｅ｡　ａ　Ｃｈｉｎｅｓｅ

ｇｒａ日日ｅｒ　　　ｏｆ　　　ｔｈｅ　　　Ｍａｎｃｈ　ｕ　　　Ｔａｒｔａｒ　　　Ｌａｎｇｕａｇｅ｡　　　　wiｔｈ　

-79-

；

・

：

：

≫｡

　

　inｔｒｏｄｕｃｔｏｒｙ　ｎｏｔｅｓ　ｏｎ　Ｍａｎｃｈｕ　　Liｔｅｒａｔｕｒｅ.　　　Ｓｈａｎｇｈａｉ｡

１８５５.　ｐ.　　Iii.）　iS:＜どの未刊の稿本などが有る・然し此等

　　

の辞典は稿本は論外だが、刊本も稀購に唱して入手し

　　

難い上に、アミオは清文彙書の不完全な則詳であり、

　　

（□ＩＫｌａｐｒｔｈ:　　Ｍｅｍｏｉｒｅｓ　ｒｅｌａｔifｓ　li　l'Ａｓie　　Ｔｏｍｅ　ＩＩＩ.

　　

ｐ.　９-１６｡　Ｍｅａｄｏwｓ:　Ｔｒａｎｓlaｔｉｏｎｓ　ｆｒom　ｔｈｅ　Ｍａｎｃｈｕ｡

　　

wiｔｈ　ｔｈｅ　ｏｒｇｉｎａｌ　ｔｅｘｔｓ｡　ｐｒｅｆａｃｅｄ　ｂｙ　　　ａｎ　　　ｅｓｓａｙ　　　ｏｎ　ｔｈｅ

　　

一ａｎｇｕａｇｅ.　　　Ｃａｎｔｏｎ｡　１８４９.　ｐ.　２９-３１.）、ザハロフは清

　　

文鑑清文彙書を主としたものだし、（Ｅ.　Ｖ.　Ｚａｃｈ　は再

　　

三の柿訂を試みてゐる）ガペレヱツは四書書経詩経の

　　

語彙であるから、例へ佛露狽の語に通じてゐても支那

　　

文化の影響の多い満洲文語では此等の漢詳の對照を閥

　　

いだものでは賀意を捕捉し難い。だから稀購の辞典も

　　

賓はアルフｙペット式で捜索し易いと云ふ程度の語彙

　　

に過ぎなかった。其後欧洲の満洲語學も、支那學輔助

　　

手段としてそれ程の價値あるものでない事が分り、賓

　　

用語としても支那語とは到底比較にたらす、欧洲學者

　　

の漢宇克服も進んで来ては殆んど顧みられす、極めて

　　

少数の特殊學者の１　考に供せられるのみで、寧ろ支那

　　

學者よりは蒙古學者などの手に移って行き、専門的著

述も間敵的に現はれるに過ぎなくたった。

　

我國の満洲語學は割に古く、高橋景保の如き偉才を

有するを誇りとしてもいｘのであるが、景保の翻謬編

纂した１　典も長崎通事の昌典も稿本の僕で學界に稗釜

を典ふるに至らなかっだのは時勢上致方もなかったら

う。此等の辞典も矢張り清文鑑が底木であった。明治

以後東洋史家言語學者の間に満洲語に興味を有する人

人もあったが、西洋學者に追隨してゐた間は、既に欧

洲で頭勢であった斯學に従事する人はたく、一の老學

者渡部薫太郎先生を奮起せしめ、清文彙書の詳述稿本

を留めたのみであった。たよ匹の清朝史研究を終生指

導せられた内膝湖南先生は多大の開心を以て斯學を修

め資料の蒐集請来、研究の示唆奨励忙い努力されてゐた。

その傅統を紹ぐ京大東洋史研究室は老槽資録の研究に

沈潜し、我國の満洲語學は必ず此處に腿するを慄想せ

しめたのであったが、果然刎田先生の鑑修の下に１　典

編纂は企圖せられ、かくて助纂者の非凡の努力によっ

て浦和浴典を我學界に附るに至った。

　

本浴典は諸清文鑑清文彙書の語を類次詳述したもの

であるから、欧洲、我國の諸學者の先棄を認うたに過ぎ

80-

　　

たい様であるが、賓は先業を精確に集大成をしたと見

　　

るべきものである。その編纂の苦心等は史林第二１　三

　　

巻第一胱の鴛淵先生の紹介に見えるが、我等は今にし

　　

て先業の玲訂完成版を有するに至ったのである。かく

　　

て久しく顧みられなかった浦洲語學は新しき出狸胞を

　　

茲に於て持っであらう・浦洲史料の研究も茲に於て新

　　

しき工具を見出すであらう・豊に只我國學界のみたら

　　

寸、欧洲浦洲支那の學界も此書の出世に於て新しい満

　　

洲學を知るに至らう。

　　　

我國の満洲語學は先雛を踏んで辞典を以て再び現出

　　

したが、今よりは史學は固よりであるが語學に於ても

　　

世界の腹威として確立されねばならない。満洲語は文

　　

語としても最近その存在を抹殺せらるＸ様にたったら

　　

しいが、學術界に於ては無用脱されてはたらない・満

　　

洲國の語學的調査も學術的立場に於て急速に賓施され

　　

ねば、動いてゐるこの時代を経過して了っては後悔ず

　　

るに至らう。軍なる文語語彙ではあるが、この堆訂翁

　　

版の出現を機として満洲語學の躍進を期待したい。そ

　　

れが東洋文化開硬に對する我國學界の義務であらう。

る″

　

此等の語を以て本書紹介の辞とする。（石躍純太郎）

　

金代女員の研究

　　　　　

三上次男著

　　　　　　　　　

昭和十二年十二月日満文化協會稜行

　　　　　　　　　

四六倍版・五五六頁・索引・附圖。

　　　　　　　　　

頒價五圓五拾銭

　

本書の悳呉をうけたのは著臓も押迫った二十八日の

ことで、懇到なる池内博士の序文を以て巻頭を飾り、

本文五百五十六頁に索引及び多彩刷の附圖を添へた堂

堂たる大書冊を手にしては、著者の驚くべき努力をま

づ感じた。同じ方面の研究に志す者としての異常たる

興味と昂奮とを以て、歳末歳始の数日を本書の讃破に

あてだことは言ふまでもたい・左に簡軍に本書の紹介

を試み若干讃後の感想を附加へたいと思ふ。本書は二

篇の論文より成り、第一篇は『完顔阿骨打の経略と金

國の成立』（一二四頁）、第二篇は『猛安謀克制の研究』

（四三二頁）と題し、ともに昭和八年以降著者が海蒙文

化研究員として研鐙を積んだ輝しき成果である。

　

第一篇『完顔阿骨打の経略と金國の成立』は、池内

博士の『金史世紀の研究』の後を承けて、遼天祚帝の

天慶四年濁立の旗幟を掲げた生女頁完顔部の酋長阿骨

打が、次第に遼の版圖を経略して金國を建設するに至

-

－８

弓Z

る反對史料に論及して居たい鮎も甚だ物足りない感が

ある。これ等は著者としても再考察を要する鮎ではな

からうか。

　

又従来女具史の専攻者の間に於いて屋企てられ乍ら

その煩雑なるがために放棄されて居た猛安謀克名の蒐

バグダット旅信

宮崎

市定

　

九月七日イスタンブルに着き此處が大へん気に入りました

ので十日程滞在し海峡を越えて、小亜細亜に渡りアンゴラに

一日い

　

古城の外に別に見る可きものなく、汽車の都合でカイ

セリーといふ小都市に一日滞在しました。北京などよりもっ

と埃っぽい汚い町でし記、それから汽車にゆられること一恚

夜、シリアアレッポ着、此の地方第一の大都曾て古い城郭が

残ってゐたり博物館があったりして。割合に面白く四日間を過

しまし仁。旅行に出る時はイラクに入る考は毛頭なかったの

ですが。砂漠に誘惑されて土耳古のバグダット鏃道に黍り、

イラク國境迄来、自動車にのりかへてモスルに到着しまし仁

この汽車は何か軍経線といったやうな感じのする田舎鏃道で

一週に二同しか動きません。時間表はあれどもなきが如く、

まる一書夜荒漠たる平野を走りっゞけて人も荷物も埃まみれ

になって、チグリス河畔モスルにっいた時はホッとしました

翌日早速對岸のニネブを訪ひましたが、土山があるばかりで

何もなく失望しました。町の北方にアラビア時代の門や城壁

が残ってゐるものゝ方がすっと興味を惹きました。町の中を

歩いてゐる中、二丈程の高さの断崖あり、ペルシャ陶器の破

片を深山合んでゐるのを登見し表面探集－一名バタヤを行ひ

｀ハぷん集めました。勿論、形のまとまったものなどなく、美

集、その冠橋と先住地名どの比定（多少の疑問はある

も）等は、今後一淮深めらるぺき女武史の研究に多大

の便宜を呉へるものとして學界は阜つて著者に感謝す

べき鮎であらう。尚巻末に索引を附せられたことは大

いに著者の努を多とすべきである。

　　

（小川裕人）

術的の價値は零ですが、同じ青緑紬のものばかり隨分古い時

代のものから現代のまで連綸して見られる様ですから、製陶

業の登腫を見るにはよい材料になるかと思ひます。’併し何分

重いので捨てゝ了はうかと思ふこと屡々あり、果して持って

帰れるかどうか疑問です。（中略）自動車に飛びのってバグダ

ットに向ひまし沁。所がこの自動車。貨物自動車に腰掛をう

ちっけたもので、動拙すること一方ならず、前進するよりは

上下に動く方が多いと云ふ代物です。アラビア人とＩしよに

牛馬同様にっみこまれ身動きもなら£ｒ.、夜の十一時に着くと

いふ話しだったのが翌日の幾頃になり、結局一喪夜、漕刑囚

の苦役を１　めました。全身に打撲傷が徽ケ所出来たやうでし

た。（中略）バグダットはアッバス朝のものが深山に残ってで

もゐると思ひきや、市街の外郭も分らぬといふ状態でそれも

来て見て分りましたが、凡てが軟い粘土を軟く焼いた煉瓦を

材料にしてゐるので一度瓦解すれば一朝・に泥土に婦するとい

ふ状態で都市の膨張も早い代りに没落も徹底的なのでせう。

この附近みな石を用ひぬ泥だけの建築にて、バビロンにして

も大したものなく、寫茸で見てどんなに綺麗かと思ふものｉ

賞物を見ると粘土細工なのには全く失望して了ひます。この

土地アラビア人の尤も人気悪い所にてバタヤもうっかり出来

す何の牧穫もありません。バスラヘ行くには日徽もか？

唐宋の銅鑓が落ちてゐさうにもないので之はやめました。明

朝常地変又一書夜砂漠の族をつゞけてダｙスクスに入ります

　　　　　　　　　　　　　　　　　

（十月六日

　

羽田教授宛）

-93･