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  • 認知症を知るⅠ  1.総論 増加する認知症高齢者 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 本間 昭 8

      2.認知症の種類 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 角 徳文 14

      3.中核症状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 臼井 樹子,本間 昭 28

      4.周辺症状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 平井 茂夫 34

      5.認知症診断の検査,診断の進め方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 須貝 佑一 38

      6.認知症の薬物療法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 北村 伸 48

      7.認知症の非薬物療法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 小林 小百合 54

      8. 注意すべき身体症状(嚥下障害,誤嚥性肺炎を中心に) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 板倉 潮人 58

    認知症者への支援Ⅱ  1.総論 これからの認知症ケア ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 本間 昭 66

      2.認知症の人とのコミュニケーション ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 関 由香里 70

  •   3. 病気・薬の説明のポイント─優しく・厳しく・心地よく─ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 椎谷 里美 74

      4.在宅での支援のポイント ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 水谷 佳子 80

      5.認知症の人への支援制度 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 谷 規久子 86

    薬剤師の取り組みと連携Ⅲ  1.薬剤師として認知症にどう関わるべきか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 天正 雅美 94

      2.薬剤師による長谷川式簡易知能評価スケールを用いた多職種連携 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 雜賀 匡史 98

      3.認知症における多職種連携・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 坂本 岳志 104

      4.認知症の発見,薬の調整,地域連携 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 萩田 均司 110

      5.認知症患者およびその家族の支援活動 ・・・・・・・・・ 北村 哲司,高橋 將喜 114

      6.バラ公園ネットワーク─認知症に対する地域の多職種協働 ・・・・・・・・・ 小塚 ひとみ,上田 康二 122

      7.名古屋市千種区認知症地域連携の会の取り組み ・・・・・・・・・・ 犬飼 陽子 126

      8.精神科病院における認知症者の薬物療法に関する薬剤師業務 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 中村 友喜 132

  • 認知症を知る

    8 調剤と情報 2014.7 臨時増刊号(Vol.20 No.8)(976)

    高齢化の状況

     わが国の総人口は,2012年10月1日現在,1億2,752万人であった。65歳以上の高齢者人口は,過去最高の3,079万人(前年2,975万人)となり,総人口に占める割合(高齢化率)も24.1%(前年23.3%)となった。わが国の

    65歳以上の高齢者人口は,1950年には総人口の5%に満たなかったが,1970年に7%を超え(国連の報告書において「高齢化社会」と定義された水準),さらに,1994年にはその倍化水準である14%を超えた(「高齢社会」と称された)。そして,高齢化率は上昇を続け,2012年現在,24.1%に達している。 高齢者人口は今後増加を続け,2042年に3,878万人で

    認知症を知るⅠ1.総論 増加する認知症高齢者

    認知症介護研究・研修東京センター 本間 昭

    図1 高齢化の推移と将来推計

    5,017

    2,979

    1950

    8,411

    5,517

    3,012

    1955

    9,008

    6,047

    2,843

    1960

    9,430

    6,744

    2,553

    1965

    9,921

    7,212

    2,515

    1970

    10,467

    7,581

    2,722

    1975

    11,194

    7,883

    2,751

    1980

    11,706

    8,251

    2,603

    1985

    12,105

    597

    892

    8,590

    2,249

    1990

    12,361

    717

    1,109

    8,716

    2,001

    1995

    12,557

    900

    1,301

    8,622

    1,847

    2000

    12,693

    1,160

    1,407

    8,409

    1,752

    2005

    12,777

    1,407

    1,517

    8,103

    1,680

    2010

    12,806

    8,018(62.9%)

    1,560(12.2%)

    1,519(11.9%)

    1,655(13.0%)

    2012

    12,752

    1,646

    1,749

    7,682

    1,583

    2015

    12,660

    1,879

    1,733

    7,341

    1,457

    2020

    12,410

    2,179

    1,479

    7,084

    1,324

    2025

    12,066

    2,278

    1,407

    6,773

    1,204

    2030

    11,662

    2,245

    1,495

    6,343

    1,129

    2035

    11,212

    2,223

    1,645

    5,787

    1,073

    2040

    10,728

    2,257

    1,600

    5,353

    1,012

    2045

    10,221

    2,385

    1,383

    5,001

    939

    2050

    9,708

    2,401

    1,225

    4,706

    861

    2055

    9,193

    2,336(26.9%)

    1,128(13.0%)

    4,418(50.9%)

    791(9.1%)

    2060(年)

    8,674

    189434

    224516

    284602

    366699

    471

    776

    107309

    139338

    164376

    0

    2,000

    75 歳以上

    4,000

    6,000

    8,000

    10,000

    12,000

    14,000実績値 推計値(万人)

    45.0

    40.0

    35.0

    30.0

    25.0

    20.0

    15.0

    10.0

    5.0

    0.0

    (%)

    (62.9%)(62.9%)(62.9%)(62.9%)

    65~74歳 15~64歳 0~14歳

    4,9 5.35.7 6.3

    7.17.9

    9.110.3

    12.1

    14.6

    17.4 20.2

    23.0

    24.1

    26.8

    29.130.3

    31.6 33.4

    36.137.7

    38.8 39.439.9

    総人口(棒グラフ上数値)

    高齢化率(65歳以上人口割合)

    資料: 2010年までは総務省「国勢調査」,2012年は総務省「人口推計」(2012年10月1日現在),2015年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(2012年1月推計)」の出生中位・死亡中位仮定による推計結果

    (注)1950年~2010年の総数は年齢不詳を含む。高齢化率の算出には分母から年齢不詳を除いている。 (内閣府:平成25年版高齢社会白書より引用)

  • 11調剤と情報 2014.7 臨時増刊号(Vol.20 No.8)

    1.総論 増加する認知症高齢者

    (979)

    いる(図3)。

    認知症高齢者は2025年に470万人

     2010年における認知症高齢者の現状を図4に示す。全国の65歳以上の高齢者について,認知症有病率推定値15%,認知症有病者数約439万人と推計されている。また,全国のMCI〔正常でもない,認知症でもない(正常と認知症の中間)状態の者〕の有病率推定値13%,MCI有病者数約380万人と推計されている。この中で介護保険制度を利用している認知症高齢者は約280万人と推計されている。さらにこの中で半数の140万人が居宅で生活している。介護保険を利用している認知症高齢者(「認知症高齢者の日常生活自立度」Ⅱ以上の高齢者)については今後の予想が推計されており,2025年には470万人に増加する(図5)。

    は減少傾向である一方,親と未婚の子のみの世帯と夫婦のみの世帯は増加傾向にある。1980年では世帯構造の中で3世代世帯の割合が一番多く,全体の半分程度を占めていたが,2011年では夫婦のみの世帯が一番多く3割を占めており,単独世帯と合わせると半数を超える。 65歳以上の高齢者の子どもとの同居率は,1980年にほぼ7割であったものが,1999年に50%を割り,2011年には42.2%となっており,子どもとの同居の割合は大幅に減少している。1人暮らしまたは夫婦のみの世帯については,ともに大幅に増加し,1980年には合わせて3 割弱であったものが,2004年には過半数を超え,2011年には合わせて54.0%まで増加している。 65歳以上の1人暮らし高齢者の増加は男女ともに顕著であり,1980年には男性約19万人,女性約69万人,高齢者人口に占める割合は男性4.3%,女性11.2%であったが,2010年には男性約139万人,女性約341万人,高齢者人口に占める割合は男性11.1%,女性20.3%となって

    図4 認知症高齢者の現状(2010年)

    約 280万人

    一部の人

    介護保険制度を利用している認知症高齢者(日常生活自立度Ⅱ以上)日常生活自立度Ⅰ又は要介護認定を受けていない人 約 160万人

    約 380万人(注)MCI の全ての者が認知症になるわけではないことに留意

    健常者

    認知症施策推進 5か年計画で対応 ・早期診断・早期対応 ・認知症の普及・啓発 ・見守りなどの生活支援の充実など  → 地域での生活継続を可能にする。

    持続可能な介護保険制度を確立し,安心して生活できる地域づくり。

    MCI の人 正常と認知症の 中間の人( )

    65歳以上高齢者人口 2,874 万人

    出典:「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」(2013.5報告)および『「認知症高齢者の日常生活自立度」Ⅱ以上の高齢者数について』(2012.8公表) 〔社会保障審議会介護保険部会(第47回)2013年9月4日資料より引用〕

  • 認知症を知る

    54 調剤と情報 2014.7 臨時増刊号(Vol.20 No.8)(1022)

    現実見当識訓練

     現実見当識訓練はリアリティ・オリエンテーション(reality orientation;RO)とも呼ばれ,認知症の人の見当識障害の状況に応じて,時間,日にち,曜日,季節,場所などの情報を随時提供して見当識を補い,生活上の混乱を少なくして安心して行動できるようにする関わりである。認知症の人は,「今」が不確かなうえに,記憶障害によって過去とのつながりを絶たれ,実行機能障害などによって見通しを持って行動することも困難になる。「今」を伝え,次に何をすればいいのかを伝えていくこと

    で,認知症の人の不安は緩和される可能性が高い。例えば,「そろそろ7時です。朝ご飯にしませんか」,「3時のお茶の時間ですね。おやつの前に手を洗いに行きましょう」というように,生活の1コマ1コマの中で見当識を補う方法を24時間ROという。ROを実施する際は,単に言葉や文字で伝えるのではなく,日めくりや時計,季節の植物や年中行事に合わせた食べ物や道具などを準備し,実際に手に取ることで,五感をフルに活用してもらいながら,「今」を生き生きと実感できるように伝えていくことが重要である(図1,図2)。 グループを対象として実施するROの場合は,参加者が共通して関心を持てるような物品を準備し,参加者間の会話が促進されるように働きかけていくことで,コミュニケーションが深まることも期待される。食事や回想法,音楽療法など,施設やデイサービスなどで集団行動する際には,その前後

    4 4

    に必ずROを実施する。そうすることで,認知症の人が,見ず知らずの人

    4 4 4 4 4 4 4

    に囲まれて,「ここはどこか」,「今なぜここにいなければならないのか」,「次はどうすればいいのか」といった不安な思いを持たず,安心して参加することにつながる。 基本的に,認知症の人に記憶の確認を求めるような「今日は何月何日か?」,「ここがどこかわかる?」,「私が誰か,わかるわよね」などという関わりはROではない。ま

    1.認知に焦点をあてたアプローチリアリティオリエンテーションや認知刺激療法等

    2.刺激に焦点をあてたアプローチ活動療法,レクリエーション療法,芸術療法,アロマセラピー,ペットセラピー,マッサージ等

    3.行動に焦点をあてたアプローチ行動異常を観察し評価することに基づいて介入方法を導き出すもの

    4.感情に焦点をあてたアプローチ支持的精神療法,回想法,バリデーション療法,感覚統合,刺激直面療法等

    (日本神経学会 監:認知症疾患治療ガイドライン2010,医学書院,p115,2010より引用)

    表1 認知症に対する非薬物療法

     非薬物療法とは,記憶障害や見当識障害などの認知機能障害によって,認知症の人に生じやすい生活上の不都合や,感情の不安定さ,他者とのコミュニケーションの障害などに対して治療的効果を期待する,薬物以外のアプローチである。生活上の障害が緩和されることで,認知症の人自身だけでなく,家族や介護者へのポジティブな影響も期待される。「認知症疾患治療ガイドライン2010」1)に提示されている認知症に対する非薬物療法を表1に示す。同ガイドラインによれば,これらの非薬物療法のエビデンスレベルは低く,今後,RCTやメタアナリシスによる科学的根拠の明確な提示が待たれる。 臨床では,時間や場,回数などを決めて,明確に「○○療法」として実施されることも多い。しかし,日常生活のさまざまな場面で,認知症の人に関わるすべての人によって,それぞれの非薬物療法のエッセンスを活用した関わりも重要である。本稿では,主な非薬物療法についての概要を紹介する。

    認知症を知るⅠ7.認知症の非薬物療法

    東京工科大学医療保健学部看護学科高齢者看護学領域 小林 小百合

  • 薬剤師の取り組みと連携

    98 調剤と情報 2014.7 臨時増刊号(Vol.20 No.8)(1066)

    はじめに

     在宅医療に携わっていると,家族や介護者から「最近物忘れがひどい」,「前までできていた料理ができなくなった」,「同じことを何度も聞いてくるようになった」など,認知症疾患への不安を抱えた相談が増えてきた。 一般的に,認知症診断は神経心理検査やCT,MRI,脳血流検査などの医学的検査を経て確定診断に至る。しかしながら,このような確定診断を受けるには認知症専門外来や物忘れ外来を受診するなどの必要があり,普段はかかりつけ医や非専門医に診てもらっているような人の場合,なかなか認知症疾患の診断が下されないケースがある。また,認知症専門医療機関で認知症専門医を受診しようと試みても,認知症者が増え続けている現在では,受診までに3カ月~半年待ちということもある。これら診断の遅れは治療の遅れにつながる。 実際には認知症が相当進行し,生活に不便を感じてから医療機関に連れてこられるため,認知症の早期発見・早期診断が遅くなってしまう認知症者が多く存在している。さらに,周囲の家族が症状を深刻に考えていないことや,認知症者の状況を正しく把握していないことも早期発見・早期治療が叶わない原因だろう。 認知症治療は,早期発見,早期治療が有効であると言われている。かなり重度の認知症になってから治療を始めると,治療薬が効果的に働かない場合がある。早期発見のメリットは治療効果だけではなく,それによって早期支援ができるようになることである。認知症は本人以外に,家族や介護者にも負担が及ぶ。早期に社会資源などの支援を受けることによって,介護者の心理的負担がいく分か軽減されるため,今後の生活への備えを早めに行うことができる。 早期発見・早期治療が遅れている現状を打開するため

    には,認知症の人を支える医療従事者や介護従事者の協力が必要である。かかりつけ医や非専門医による早期の気づきや,コメディカルや介護従事者などが早期に認知症を疑うサインを見逃さないことで,適切な医療と介護の提供ができるだろう。 その中で,私たち薬剤師はどのような役割を果たすべきだろう。薬剤師は医師,看護師と同様に,認知症の人と直接接する機会の多い職種だ。また,薬剤を用いて治療を行う場合,最も本人に近いところでその反応を見ることができる職種でもある。そのような立場の薬剤師が仲介役となって認知症治療にあたっていくことにより,1人でも多くの認知症の人の早期発見・早期治療を手助けすることができる。 今回は薬剤師による認知症治療への介入方法と,介入の際に用いるツール,多職種との情報交換について,筆者が行っている事例をもとに紹介する。

    長谷川式簡易知能評価スケール

     認知症の診断補助を目的としたスクリーニング検査には,日本国内で広く使われている長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)や世界的に使用されているMMSE(mini-mental state examination)が知られている。どちらも臨床的に重要なスクリーニング検査であり,これらは「認知症疾患治療ガイドライン2010」にも記載がある。 筆者は主にHDS-Rを使用しているが,その理由としては,MMSE検査よりもHDS-R検査の方が動作性課題がない分,簡便にできており,場所や時間といった物理的な条件に左右されずに実施できるところにある。学術的な研究を目的としないのであれば,HDS-R検査の方が利用しやすいと感じる。 HDS-R検査は所要時間約5~10分,年齢,時間の見

    薬剤師の取り組みと連携Ⅲ2.薬剤師による長谷川式簡易知能評価スケールを用いた多職種連携

    メディスンショップ蘇我薬局 雜賀 匡史

  • 薬剤師の取り組みと連携

    122 調剤と情報 2014.7 臨時増刊号(Vol.20 No.8)(1090)

    自然発生的に生まれた,ゆるやかなネットワーク「バラネット」

     バラ公園ネットワークは,2007年より神戸市認知症地域資源ネットワーク構築事業で東灘区がモデル地区になり,地域資源マップ(区内の協力施設などの情報を載せた地図)や徘徊SOSネットワーク作りが始まった中で,東灘区内の岡本バラ公園周辺で自然発生的に形成された,多職種ネットワークである。 東灘区は人口21万人。六甲山のふもとにあり,古くは「梅は岡本,桜は吉野」とうたわれた岡本梅林公園など自然が多く,複数の大学がある文京地区である。阪神大震災の被害が大きく,震災後転入した区民が5割を占め,次々に建設された大型マンションのほとんどはオートロック形式のため,民生委員が入りにくい環境の多子高齢化地域となっている。  警察は365日24時間,110番通報に対応しており,認知症らしき方からの「泥棒に入られた」などの被害妄想的な相談を頻繁に受理している。「人には見えないものが見える,聞こえない音が聞こえる」などと訴える高齢者も多い。 コンビニエンスストアでは,公共料金の支払いに戸惑っている客や,1日のうちに同じ新聞や牛乳を何度も買いに来る客,列に並ばない,悪気なく商品を持って帰るなどの客の対応に苦慮していた。 このような状況下で,個人的な知人である神戸市での地域包括支援センター(通称あんしんすこやかセンター)職員に相談したところ,認知症サポート医の内科医と連携することができ,2カ月に1度話し合いの場を持てることになった。これが「岡本・西岡本地区高齢者認知症ネットワーク」(バラ公園ネットワーク,通称バラネット)である。

     当初は7人でスタートしたバラネットであるが,警察,医療関係者,介護関係者のほかに,コンビニエンスストア,ケーキ屋,花屋,うどん屋,エステティシャン,大学関係者など,幅広い業種よりメンバーが集まり,現在25人にまでなった。狭いエリアでの活動であり,メンバーはもともと顔見知りが多く,地元の情報を共有しやすい環境下であり,「ちょっとだけおせっかい」を合い言葉に,手伝えるところだけ手伝うという,無理のない余裕を持った状態で地域の生活に密着した活動をしており,これが継続の秘けつであると考えている。

    活動内容

    1 ミーティング ミーティングは2~3カ月に1度開催し,高齢者や認知症者に関する情報交換をしている(図1)。多職種連携ではミーティングの日時設定が難しいため,ミーティングの出欠は自由とし,1時間以内で終えるというルールを厳守している。 介護職からの「認知症の薬について知りたい」,「先発

    薬剤師の取り組みと連携Ⅲ6.バラ公園ネットワーク─認知症に

    対する地域の多職種協働東灘区薬剤師会 小塚 ひとみ,上田 康二

    図1 バラ公園ネットワークのミーティングの様子

  • 125調剤と情報 2014.7 臨時増刊号(Vol.20 No.8)

    6.バラ公園ネットワーク─認知症に対する地域の多職種協働

    (1093)

    的な情報交換を行うことは,認知症に対する正しい理解の促進につながり,認知症高齢者の生活を地域で支える基盤になり得ることがわかった。地域包括支援センターを核とした高齢者支援のネットワークが各地で立ち上がりつつあるが,個々のネットワークに薬剤師が入り,その専門性を最大限に発揮して,地域支援に関与していくことが必要と考えている。 認知症の診断が下りた人が病院の次に立ち寄るのは薬局である。治療法がいまだ確立されていない認知症は,認知症者本人も家族も,告知により精神的なショックを受けることも多い。ドネペジルが処方された認知症者が独居なのか,薬の管理は自分でできるのか,アンケート

    の記載はできるのか,介助なしで歩いているか,金種は理解しているかなど,来局時に入手できる情報は多い。認知症に限らず,介護サービスが必要な状況にあるにもかかわらず,制度自体を知らない認知症者も多い。住所地から地域包括支援センターの窓口を紹介すること,介護サービス開始までの流れを説明することなどは,行政のパンフレットを用意しておくだけで簡単にできることである。 高齢化が進む中で,薬局が果たすことのできる役割はまだまだあると感じており,一般的には敷居が高いと思われている薬局を,今後は気軽に立ち寄り何でも相談してもらえる健康拠点にしていきたいと考えている。

     本原稿を執筆するに当たり,バラネットメンバーとしてともに活動し,コメントをお寄せいただいた,長坂医院・長坂肇医師,本山西部あんしんすこやかセンター・植田昌美看護師,ローソン岡本3丁目店・新川敬世氏,神戸シフォン・瀬田あおい氏に深謝致します。バラネット活動にご理解をいただき,ご協力ならびにご支援をいただいております東灘警察署岡本交番の皆さま,東灘区薬剤師会・小嶋旬子常務理事に感謝いたします。 また,本稿の執筆にご協力いただきました神戸薬科大学・田内義彦教授に感謝いたします。

  • 薬剤師の取り組みと連携

    126 調剤と情報 2014.7 臨時増刊号(Vol.20 No.8)(1094)

    はじめに

     高齢社会の中,認知症患者も増加し,その介護者は日々ケアに追われている。保険薬局でも,処方せん受付と薬局内での仕事から在宅医療と介護の仕事が増えているが,医師や看護師と比べ介護での役割はまだまだ不十分と感じている。 私事ではあるが,私にも認知症の家族がいる。2年前から交通事故による脳挫傷の後遺症で見当識障害がある姑と同居している。姑は,直前に薬を飲んだことも忘れ,強く「私はまだ,薬を飲んでない!」と興奮したり,冷蔵庫の中をトマトと季節外れのスイカでいっぱいにしている。そんな彼女に「トマトはたくさんあるから買ってこなくても大丈夫だよ」と話すと「食べるからいいもの!」と子どものように答える。今日は,帰宅してみると冷蔵庫の中はトマトではなく,舅の好きならっきょう漬けでいっぱいになっている。こんなふうに興味のあるものを買い続けている姑を見ていると腹が立つというより,人間の本能である「誰かの役に立ちたい」という気持ちを満たしたいのだろうか? と感じ,悲しくなることがある。 このように,認知症患者の背景はさまざまであり,地域でさまざまな力でのケアが今後ますます重要になってくる。出遅れている介護での薬剤師の活躍を期待して,「千種区認知症地域連携の会」を紹介したい。

    千種区認知症地域連携の会の紹介

    1 会の趣旨と概要 千種区認知症地域連携の会は,厚生労働省のモデル事業として2004年にスタートした。大都市において認知症高齢者の方とその家族をサポートすることを目的とし,

    行政・保健所・地域包括支援センター・医療機関・福祉関係者・ケアマネジャー・地域住民・歯科医師・薬剤師などと地域で支える仕組みを作り出すことを目的として設立された団体である。3年間のモデル事業期間が終了した後も,現在はボランティア活動としてその活動の場を広げている。 会は以下の4つの事業を推進している。① 家族や地域住民に対する認知症についての正しい知識と理解の啓発

    ② 住民による主体的な健康作りと認知症予防活動・認知症介護予防活動③早期発見,相談機能の強化,専門人材の育成④ 地域関係者(住民,行政,保健,医療,福祉関係者など)のネットワークによる支援

     具体的な活動内容は以下の通りである。・市民向け講習会(月1回)・ ケアマネジャーやヘルパーなど実際に介護に携わっている人向けの専門職講習会(月1回)

    ・市民用啓発パンフレットの作成・地域で行われている認知症対策事業への参加協力・介護保険事業者の会への参加・中学校などでの認知症教育・市民向けシンポジウムの開催(年1回)・各職種の勉強会(および懇親会,年2回)・定例会(家族相談および専門職相談),世話人会など

    2 会での薬剤師の取り組み 前述した会の活動の中で定期的に薬剤師が関わっている事業は,次の通りである。家族や地域住民に対する認知症についての正しい知識と理解の啓発事業を行っている。 ・市民向け講習会 ・ ケアマネジャーやヘルパーなどを対象とした専門職

    薬剤師の取り組みと連携Ⅲ7.名古屋市千種区認知症地域連携の会

    の取り組みグリーン薬局 犬飼 陽子