visualizing human walking in daily life by smart …visualizing human walking in daily life by smart...

53
スマートデバイスを用いた生活空間における歩行の 可視化 Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 2 19 指導教員 三宅 美博 教授

Upload: others

Post on 24-May-2020

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

スマートデバイスを用いた生活空間における歩行の

可視化

Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart

Device

学籍番号 09B02010

氏名 磯崎 保徳

提出日 2013年 2月 19日

指導教員 三宅 美博 教授

Page 2: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

ii

 

Page 3: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

i

要旨

本研究の目的は、健康状態を反映し日常的な動作である歩行に注目し、歩行

時の腰の軌道の可視化技術(以下腰軌道)による分析手法用いた健康支援シス

テムを、実社会への導入するための基盤の確立することである。

そのために、日常的に普及しているスマートデバイス上に内蔵されている加

速度計を用いて腰軌道を計測するシステム。解析能力と画面が表示できる特性

を生かし、計測した結果から腰軌道を計算し得られた結果を表示するシステ

ム。データ通信能力を生かして得られた結果をサーバーへ転送するシステム。

以上の3つを実装した。

実装後は、本システムを用いて歩行障害を持つ代表的な症状であるパーキン

ソン病患者と健常者の歩行の計測を行った。他の手法を用いて計測を行った先

行研究によれば、得られた腰軌道についてパーキンソン病の方が上下方向の変

位幅が小さいことが示唆されていた。なので、上下方向の変位幅に関して両者

の腰軌道の差がみられるかについて検証した。

実験方法は、健常者 10名とパーキンソン病 12名に対し本システムを用いて

腰軌道の計測を行った。結果、健常者に比べ PDの方が上下方向の変位が有意

に小さいことが確認できた。すなわち、先行研究通りから示唆されることが、

本システムを用いても計測することが確認できた。以上により、スマートデバ

イス上に腰軌道を用いた計測システムを実装でき、さらに本システムが健康状

態の把握に十分な性能を持っている可能性を示唆した。

Page 4: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日
Page 5: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

iii

目次

第 1章 序論 3

1.1 生活空間の中での健康把握 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3

1.2 生活空間における歩行計測 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

1.3 スマートデバイスの利用 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

1.4 目的と方針 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

1.5 本論文の構成 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

第 2章 仕様とスマートデバイスの利用 9

2.1 目的を達成するのに必要な仕様 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

2.2 スマートデバイスの利用 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

2.3 ソフトウェアの実装方針 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

第 3章 スマートデバイスへのソフトウェアの実装 11

3.1 計測された加速度の処理の方法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11

3.1.1 データ補正処理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13

3.1.2 腰軌道算出処理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15

3.1.3 腰軌道対象抽出処理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15

3.2 結果表示とデータ通信について . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18

3.3 制作したインターフェース . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19

3.3.1 腰軌道の計測画面 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19

3.3.2 腰軌道の解析画面 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20

3.3.3 腰軌道のデータ保存画面 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21

3.3.4 腰軌道の表示画面 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22

3.3.5 データ通信画面 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23

Page 6: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

1

第 4章 制作したシステムの性能評価実験 25

4.1 システムの性能を評価する指標とその方法 . . . . . . . . . . . . . . . . 25

4.2 実験手法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26

4.3 結果 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 27

4.4 考察 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 29

4.4.1 システムの改善について . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 29

4.4.2 腰軌道のより詳細な分析 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 29

第 5章 結論 31

参考文献 33

謝辞 35

付録 A 腰軌道とパーキンソン病の重症度の関係性 37

A.1 序論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 37

A.1.1 パーキンソン病に関して . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 37

A.1.2 パーキンソン病の歩行との関連 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 38

A.1.3 実験目的 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 38

A.2 実験手法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 39

A.2.1 測定方法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 39

A.2.2 評価指標 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 39

A.3 結果 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 41

A.4 考察 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 44

付録 B 歩行周期処理 47

Page 7: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日
Page 8: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

3

第 1章

序論

1.1 生活空間の中での健康把握

高齢化社会の進展に伴い健康への関心が高まっている。疾患予防・健康の維持という点

において日常の中で日々変化する自己の健康状態を把握することが重要である。近年、日

常生活での健康に関する計測データを情報通信技術の活用によって、医療機関やコミュニ

ティ内でデータを共有する試みがある。例えば Omron の「Wellness Link」[1] がある。

このようなシステムにより、今まで断続的な診断では把握が難しかった日常生活における

日々の健康状態が把握でき、自己の日々の健康状態の管理や、医師の診断に活用すること

ができる。

Fig. 1.1.1 Sharing the data using the network is helpful in the management their

health condition

Page 9: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

4

1.2 生活空間における歩行計測

健康状態を把握する方法は様々であるが、本研究では、日常的に行われる動作である歩

行に着目する。歩行を計測し分析することは、自己の身体の状態を把握するのに役立てる

ことができると考えられる。歩行は身体の状態を反映することが明らかになっており、歩

行の計測を行い、計測結果と疾患との関連について調べられてきている。[2]

歩行を分析する手法として、代表的な手法はモーションキャプチャー・床反力計などで

ある。これらは、決められた環境下での計測ではよく用いられる。(光学式の)モーショ

ンキャプチャーの場合、体中に基準点となるマーカーをつけ、その状態で設置されている

複数のカメラをの中を歩行することで人間の動きを記録する。床反力計はあらかじめ決め

られた場所に床反力計が搭載されており、その上を歩くことで床反力を計測しそれを用い

て歩行を分析する。しかし、これらの機器は限られた環境でしか使用できないという問題

点がある。それに対して、近年日常的な場においても歩行分析を可能にする手法として加

速度計を用いた手法が提案されている。加速度計は小型で軽量なセンサである。そのた

め、ウェアラブルなセンサとして使用でき歩行の計測を容易にするデバイスとして注目を

され、多く研究例がみられる。

歩行をどのように評価するかについてだが、大きく分けると歩行周期などの時間的情報

と空間的情報に分けられる。そのうち、歩行の空間的情報を用いて評価した例として、歩

行時の腰の軌道(以下では腰軌道と呼ぶ)によるものがある。その概念を次のページの

Fig1.2.1示す。腰軌道は前後・水平・垂直方向の3軸の方向の変位があるものの、今回は、

背面から見た軌道のみ考慮している。すなわち、背面から見た腰の軌道を本論文では「腰

軌道」と呼んでおり、Fig1.2.1のようなリサージュ図形であらわす。

Page 10: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

5

Fig. 1.2.1 This figure shows concept of trunk trajectory

その腰軌道を計測する手法だが、次のページの Fig1.2.2に先行研究 [3][4]で腰軌道を計

測するための装置を示した。このシステムは、まず、計測装置としてフットセンサ、加速

度計。さらに、両者のデータを受信するのに無線機、計測データを記録するためのパソコ

ンの4つからなる。

加速度計は腰につけて、歩行時の腰の加速度情報を取得する。なお、腰部の変位を正確

にとらえるために腰の廻旋の影響が少ない腰椎 L3部位に付近に着ける。得られた加速度

情報は小林の手法 [4]により、腰軌道が算出される。フットセンサは足につけて足接地・

離地タイミングを検出するために用いる。なお、フットセンサを用いる理由として、接地

離地情報をもとに歩行周期を Fig1.2.3 のような4つのフェーズに分けるためである。こ

れにより、詳細な評価を可能にしている。この腰軌道を用いた利用例として片麻痺に対し

重症度の評価を行う例 [3]や、あるいは股関節疾患へのリハビリの効果の測定に用いる [4]

などの例がある。このように、歩行時の腰の軌道を可視化することによる有効性が示され

てきている。

Page 11: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

6

Fig. 1.2.2 Measurement system of trunk trajectory

Fig. 1.2.3 Gait cycle can devide 4 phase by footsensor

Page 12: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

7

しかしながら、本システムを用いる際、計測機器にフットセンサと加速度計を必要し、

また、データを解析するためのパソコンを必要とする。すなわち、実際にこの計測装置を

用いて歩行を評価するにはこれらの機器を導入する必要があった。これでは、金銭的な理

由等から必ずしも手軽に導入できるとは言い難い。もし、この技術が我々が「手軽に」使

えるものであるならば、社会的に広めることでき、実社会の中で役立つことができるので

はないかと考えた。

1.3 スマートデバイスの利用

そこで、本研究ではスマートデバイスに目を付けた。スマートデバイスとは、iPhone

や Xperiaなどのスマートフォンや iPadなどのタブレットなどを含めた情報機器を含め

て指す言葉である。最近、著しい勢いで普及しているデバイス [5]であり、利用者も多い

ことがわかる。

スマートデバイスを簡単に言えば、計測機器とパソコンが1つになった物といえる。

(特徴をまとめたものを Fig1.3.1に示す) 具体的には、計測機器として加速度計とジャイ

ロセンサなどを搭載し、その上画面・解析能力・無線通信などの要素がそろったデバイス

である。この、スマートデバイスをウェアラブルセンサとして歩行の計測を行い、デバイ

ス上で解析を行う研究もおこなわれている。[6][7] それらによると、計測機器(加速度計)

は歩行を計測して身体の健康状態を診断するのに十分な精度を持っていることが示唆され

ている。

Fig. 1.3.1 Charactristic of smartdevice

Page 13: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

8

先ほどの腰軌道は加速度計の情報から取得できる。フットセンサはないため接地点と離

地点を検出することができず、腰軌道を Fig1.2.3 のような歩行フェーズごとにわけるこ

とが出来ないものの、腰軌道をとることは十分可能である。その加速度計から腰軌道を得

るシステムをアプリケーションとして実装を行うことで、ユーザーは導入する際すでに

持っているスマートデバイスにアプリのダウンロードを行うだけで済む。すなわち、社会

の中で広く利用してもらうことができ、実際に多くの人に役立つための技術となりうる。

さらに、今までのシステムではネットワークを用いた通信機能が実装されていなかっ

た。先に述べたとおりネットワーク上でデータ共有を行うことで、コミュニティを用いた

情報共有や医療機関との提携を行うことができ、より健康状態の把握に役立てることがで

きることが期待される。

1.4 目的と方針

以上の点を踏まえて、本研究の目的は歩行時の腰の軌道の可視化技術(腰軌道)による

分析手法用いた健康支援システムを、実社会への導入するための基盤の確立することで

ある。

方針として、ハードウェアとしてスマートデバイスを使用する、そのスマートデバイス

の特性を生かし、スマートデバイス上に腰軌道を計測するシステム、計測した結果から腰

軌道を求めるのと得られた結果を表示するシステム。腰軌道のデータをサーバーへ転送す

るシステムの以上の3つを実装した。そして、得られたシステムが歩行障害を見分ける性

能が十分にあるかという点について検討を行った。その方法として、歩行障害がみられる

代表的な疾患であるパーキンソン病に着目した。そして、制作したシステムを用いて健常

者とパーキンソン病の歩行を測定し、先行研究によって示唆される結果が、本システムに

よっても見られるかどうか調べた。

1.5 本論文の構成

第2章では仕様とスマートデバイスの利用について記述する。第3章ではソフトウェア

の実装方法とインターフェースに関して述べる。第4章ではシステムの有効性について、

パーキンソン病と健常若年者の計測結果の比較から述べる。最後に第5章で本研究をまと

める。

Page 14: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

9

第 2章

仕様とスマートデバイスの利用

この章では、要求される仕様の確認とスマートデバイスを用いてどのようなシステムを

搭載するかについて述べた。。

2.1 目的を達成するのに必要な仕様

本研究の目的を達成するためには以下の3つの要素が必要であった。

1. 日常生活の中で装着しても違和感を覚えない小型で軽量なデバイスの利用

2. 腰軌道の計測・解析(計算)・計測した結果の表示ができる。

3. ネットワークに対応する。すなわち、無線を使ったデータ通信ができる。

2.2 スマートデバイスの利用

先の仕様を満たすべく、本研究ではスマートデバイスを用いる。スマートデバイスは、

搭載されている加速度計の情報から腰軌道 [4]を求めることができ。計測した結果で解析

を行うこともできる。その解析を行った結果を画面があるので表示が容易であり、また、

無線通信を行う能力を持っているためサーバーへの転送も容易である。すなわち、先ほど

あげた要求をすべて満たしている。

また、体に着けても違和感を覚えない小型なデバイスという点で、本研究では iPod

touch(第4世代 高さ 111.0mm 幅 58.9mm 厚さ 7.2mm 重さ 101g iOS 5.0 Apple)を

用いた。また、 iPhone も候補の選択肢ではあったが、実験のしやすさなどの理由から

こちらを選択した。iPod touch と iPhone はそこまで機能差がないと考えており、iPod

Page 15: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

10

touchで実装したものを iPhoneでも利用することは十分可能だと考えられる。

2.3 ソフトウェアの実装方針

スマートデバイス上にどのようなシステムを載せるかについて述べる。今回、制作する

要素は「腰軌道の計測」「計測結果の分析と表示」「通信」3つの要素からなる。

「計測」にはスマートデバイス上の加速度を用いて歩行時の腰の軌道を計測するシステ

ムの実装した。「計測結果の分析」には、得られた加速度から腰軌道を算出するアルゴリ

ズムを搭載し、得られた腰軌道を表示する機能を実装を搭載した。なお、将来的には、計

測してた腰軌道の結果から疾病などの健康状態を診断の表示を目指している。「計測結果

の通信」には求められた腰軌道のデータをサーバーへ転送するプログラムを実装した。

Page 16: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

11

第 3章

スマートデバイスへのソフトウェア

の実装

この章では、スマートデバイスへのソフトウェアの実装手法について記述した。また、

実装した結果についても示した。

3.1 計測された加速度の処理の方法

計測した加速度の処理方法の流れを次のページ Fig.3.1.1に示した。

処理の流れは以下のとおりである。まず、iPod touchで得られた加速度データを線形

補間による補正を行う。次に、得られた加速度データに対して小林のアルゴリズムに従っ

て腰軌道を求める。その後、全体の歩行のうち定常歩行の部分を抽出する。今回は、先行

研究 [3]にならい最も安定した歩行周期10周期分を算出する。最後に、腰軌道のばらつ

きの評価と定性的にどのような歩行を示すかを明らかにするために、平均的な腰軌道を算

出する。これにより、ユーザーが一目でみてどのような歩行をしていたかを把握する手助

けになる。なお、加速度計から歩行周期を求める方法は伊藤 [8]のアルゴリズムを用いた。

手法に関しては付録 Bに記載する。

Page 17: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

12

Fig. 3.1.1 Data processing of the measured acceleration by this flowchart

Page 18: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

13

3.1.1 データ補正処理

Fig3.1.2に iPod touchで計測したデータの一例を示す。左から3列のデータは3軸の

加速度データ (G)である。それと同時にデータ取得時の iPod touchの内部の時間 (タイ

ムスタンプ)も取得した。そのデータが4列目である。今回の加速度のサンプリングレー

トは設定上の最高値 100Hzに設定した。しかしながら、5列目に便宜上追加した測定間

隔を見ると明らかなように、計測したデータは設定値より少なく (実際には 95Hz程度)、

さらに等間隔ではないことが観察された。後に、腰軌道の得られたデータに対し平均をと

る必要があり、その際に時間の間隔をそろえる必要があった。そのため、線形補間によ

る補正処理を行い等間隔の 100Hzの加速度データに変換した。具体的には、一番最初の

データの取得時間を0とし、データのタイムスタンプとの差分を経過時間とした。iPod

touchで計測したデータ間を直線で結び、0.01sごとの加速度の値を求める。それにより、

等間隔で 0.01sごとのデータに変換した。

Table 3.1.1 Example of timeseries of acceleration data

X軸 (G) Y軸 (G) Z軸 (G) タイムスタンプ 測定間隔

0.047 0.983 -0.096 429759.558

0.043 0.976 -0.091 429759.568 0.01

0.043 0.975 -0.093 429759.579 0.011

0.04 0.973 -0.088 429759.59 0.011

0.042 0.974 -0.088 429759.601 0.011

0.039 0.979 -0.087 429759.611 0.01

0.036 0.981 -0.086 429759.622 0.011

0.036 0.981 -0.091 429759.633 0.011

0.033 0.981 -0.092 429759.643 0.01

0.034 0.981 -0.09 429759.654 0.011

Page 19: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

14

データ補正処理の処理前後を Fig3.1.2 のグラフに示した。縦軸が計測した1軸につい

ての加速度、横軸が経過時刻を示す。また、□が計測データを示し、○が補正後のデータ

を示す。また、補助線が 0.01sごとに入っている。□が iPod touchで計測したデータで

あり、補正処理によって得られた加速度のデータは○である。○のデータが補助線上に

乗っていることがわかる。

Fig. 3.1.2 Revise of accelerometer data

Page 20: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

15

3.1.2 腰軌道算出処理

この補正した加速度データから小林ら [4]の方法により、腰軌道を算出する処理を行っ

た。なお、軸は以下の Fig3.1.3のとおり水平方向が X軸、垂直方向が Y軸である。今回

は、前後方向については考慮せず左右・上下方向(すなわち背面から見た腰軌道)のみ求

めた。

Fig. 3.1.3 Vector of trunk trajectory

3.1.3 腰軌道対象抽出処理

先ほどの算出処理をすることにより得られた、腰軌道の全体図の例を Fig3.1.4に示す。

Fig. 3.1.4 This picture shows that trunk trajectory obtained from the measured

acceleration by [4]

Page 21: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

16

歩行分析は、歩きはじめと終わりの過渡期を除いた定常歩行を行われるのがふつうであ

る。そこで、定常歩行時の範囲を抽出するための処理を行った。すなわち、この得られた

腰軌道全体から定常歩行時部分の腰軌道を抽出した。定常歩行の範囲は先行研究 [3]にな

らい、はじめと終わりの3歩分は除いた歩行周期の時系列データの CVの値が最も小さい

10周期分の区間を対象とした。なお、歩行周期に関しては伊藤のアルゴリズムを利用す

る [8]。また、CVは時系列データの変動の大きさを表す値であり、以下の式 3.3.1で与え

られる

CV =標準偏差

平均(3.1.1)

この処理により抽出した結果を以下の Fig3.1.5に示した。

Fig. 3.1.5 This picture shows that part of the trunk trajectory extracted from

the Fig 3.1.4

しかしながら、ユーザーがこれ見た際得られる腰軌道に対し、どのような特徴があるの

かが把握しづらい。そこで、以下の手順に従って平均化処理を行った。

1. 歩行周期 10周期分の腰軌道データを、歩行周期1周期分ごとに分解する

2. 分割された腰軌道に対し、歩行周期 1 周期分を 100 %として 0~100 %の点を 1

%ごとに取る

3. 10周期分の腰軌道を重ね合わせ、対応する点の平均値を求める

なお、2番目の手順に関してだが、元の腰軌道のデータと 0~100 % の点はたいてい一

致していないので、データがない部分に関しては、線形補間による補正の点を用いてい

る。参考までに Fig3.1.6 に、ある1周期分の腰軌道に対し上の2番目の処理を行った結

果の例を示した。青線が1周期分の腰軌道を示し、赤色の点が 0 ~ 100 % の点を示して

Page 22: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

17

いる2番目を行って得られた 10周期分の腰軌道に関して、それぞれの軸方向に分解し重

ね合わせたものと、その平均を示したものを Fig3.1.7に示す。また、得られた平均化した

軌道を太い青線で示している。

Fig. 3.1.6 One of the trunk trajectory is got 100 points at regular intervals

Fig. 3.1.7 Overlapping 10 cycles of the trunk trajectory and, the average tra-

jectory is given by blue line

Page 23: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

18

最終的に、各軸に対して平均化を行いリサージュプロットした結果を以下の Fig3.1.8

に示す(Fig3.1.7の青線をリサージュプロットしたもの)。青線のデータが先の10周期

分のデータを示し、赤線が平均化した結果を示している。スマートデバイス上では、この

10周期分の腰軌道と、平均化処理を行った結果について搭載した。

Fig. 3.1.8 This picture shows 10 cycles of the trunk trajectory and the average

trunk trajectory

3.2 結果表示とデータ通信について

計測された腰軌道の表示には CorePlot と呼ばれるフレームワークを用いて実装する。

サーバーへのデータの転送は HTTPプロトコルを用いて実装した。なお、現状では試作

段階ということもあり決められたサーバーに転送する機能のみ搭載している。

Page 24: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

19

3.3 制作したインターフェース

完成したシステムの写真を以下に示す。

3.3.1 腰軌道の計測画面

Fig3.3.1は計測画面である。以下の画面のスタートを押すことで加速度の取得が開始さ

れる。下の3つのボタンはそれぞれ、後の Fig3.3.1,Fig3.3.2,Fig3.3.3 の画面に切り替え

するためのボタンとなっている。

Fig. 3.3.1 This figure shows the picture of measurement. Acceleromter can

measure by pushing start button

Page 25: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

20

3.3.2 腰軌道の解析画面

先の計測したデータは Fig3.3.2 で示す解析画面に保存されている。解析画面で解析す

るファイルを選んで OKボタンを押すと、小林らのアルゴリズム [4]に従い腰軌道を計算

する。

Fig. 3.3.2 This figure shows the picture of analysis.After Select the Acceleration

data,analysis begins by pressing the OK button

Page 26: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

21

3.3.3 腰軌道のデータ保存画面

計算された腰軌道の結果はこの画面にデータが保存される。一度解析したデータは再

解析しなくとも、この画面でファイルを選択し OK を押すことで腰軌道を見ることがで

きる。

Fig. 3.3.3 This figure shows the picture of savedata.

Page 27: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

22

3.3.4 腰軌道の表示画面

計算後は Fig3.3.3 のように計算された腰軌道が画面に表示される。オレンジ色の線が

定常歩行時(CVが最も小さい歩行周期10周期分)の腰軌道を示し、緑の線が平均化し

た処理の結果を示している。また、黄色線であらわす横軸は水平方向の変位、赤線の縦軸

は垂直方向の変位を示している。

Fig. 3.3.4 Result of Trunk trajectory.Orange line is 10 cycle of trunk trajectory

and green line is the average plot of the orange line

Page 28: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

23

3.3.5 データ通信画面

Fig3.2.4は保存されている腰軌道のファイルとサーバーへ転送する画面を示している。

保存されているファイルの中から選択を行い、選択後「Send to Server」ボタンを押すこ

とでデータを転送することができる。

Fig. 3.3.5 Data can send to server to push 「send to server」 button

Page 29: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日
Page 30: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

25

第 4章

制作したシステムの性能評価実験

スマートデバイス上にシステムは実装できたが、残された問題として本システムが実際

に歩行障害を見分けるのに十分な性能を持つかが問題があった。そこで、本研究では歩行

障害がみられる代表的な疾患であるパーキンソン病に着目した。本システムを用いて、若

年健常者とパーキンソン病の歩行を計測し、先行研究で示唆されることが、計測で得られ

た腰軌道の結果から確認できるかどうかを検証した。

4.1 システムの性能を評価する指標とその方法

先行研究ではパーキンソン病の歩幅が若年健常者より小さいことが知られている [9] 一

方で腰の上下方向の変位幅と歩幅には関連があり、歩幅が小さいと上下方向の変位幅も小

さい。[10] 以上より、得られる腰軌道の上下方向の変位幅について、パーキンソン病の方

が小さくなるはずである。そこで、若年健常者とパーキンソン病の歩行を本システムで計

測し、得られた平均的な腰軌道の上下方向の変位幅についての比較を行うことで、本シス

テムの性能を評価した。(Fig4.1.1)

Fig. 4.1.1 This picture shows amplitude of vartical displacement

Page 31: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

26

4.2 実験手法

実験参加者は、若年健常者10名とパーキンソン病患者の方12名であった。なお、全

員男性であった。実験要領は iPod touchを伸縮性のベルトを用いて体の重心部分に近い

腰椎 L3部位に取り付けた (Fig4.2.1)。

Fig. 4.2.1 i Pod touch was mounted on the back of the waist of partcipant

この状態でまっすぐな60mほどの距離の廊下を1往復させ、実験参加者の腰軌道を計

測した。計測自体は行きと帰りの2回を行った。なお、歩行補助器具は使用しなかった。

1回目は装置に慣れる意味で除外し、2回目を解析対象とした。本実験は倫理委員会の承

諾を得た後、被験者に実験の趣旨を説明し書面で同意を得たうえで実施した。

Page 32: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

27

4.3 結果

若年健常者とパーキンソン病の得られた腰軌道の数例を示した (Fig4.3.1)。左の列が若

年健常者、右の列がパーキンソン病の腰軌道の計測結果を示している。また、グラフは縦

軸が上下方向、横軸が左右方向の変位を示し、青線は定常歩行時の腰軌道、赤線が平均化

した腰軌道を示している。今回注目する赤線の軌道について、上下方向の変位幅が若年健

常者よりもパーキンソン病の腰軌道の方が、小さいことが観察された。

Fig. 4.3.1 C Fig. 4.3.2 F

Fig. 4.3.3 Example of trunk trajectory(A/B/C : Subject with Healthy D/E/F

Subject with Parkinson’s disease)

Page 33: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

28

上下の方向の変位幅について、結果の全体をボックスプロットにした結果を Fig4.3.2

に示す。縦軸が上下方向の変位幅を示し、横軸が健常者 (HY)、パーキンソン病 (PD)の

各群を示す。ウィルコクソンの順位和検定を行ったところ、上下方向の変位幅について健

常者より PDの方が有意に小さかった。(p < 0.01)

HY PD

0

2

4

6

8

10

Subjects

Am

plitu

de o

f Var

tival

dis

plac

emen

t(cm

)

*

*:p < 0.01

Fig. 4.3.4 PD subject was smaller than healthy subject in ampulitude of vartical

displacement

Page 34: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

29

4.4 考察

4.4.1 システムの改善について

本システムが抱える問題点として、腰に着けて計測するため計測開始が難しいことが最

大の難点である。本実験の計測では、Bluetoothを用いて他の iPod touchからスタート

をさせていた。しかしながら、この手法の場合他の機種が必要という難点がある。一応本

来は、iPod touchのクリップに着けた腰のベルトに着けて計測することを想定している

が、それでも、計測を行うには手をうまく後ろに持ってきてスタートさせる必要がある。

さらに、上下方向の装着位置のずれによる誤差も懸念される。それをどうするかについて

も今後の課題である。

本システムをさらなる発展させる手法として、計測で得られたデータをサーバーを介し

て医療機関と情報を共有することがあげられる。具体的には、患者さん側で計測したデー

タをサーバー上に貯え、医療機関がそのデータを見て、患者さんにフィードバックするシ

ステムが想定される。このようなシステムにより、患者の自己管理に役立てることがで

き、それにより病院外(日常生活)での支援が必要ができ、QOLの向上にも役立てること

ができる一方で、計測したデータから。医者や療法士が診断する際の手助けとなることが

期待される。また、今まで断続的な問診では難しかった日々の状態の経過をみることがで

き、より最適な治療を行うことができることが期待される。現状では、腰軌道を計測し、

表示、またデータ通信をするところまでにとどまっている。そのため、今後はサーバーに

集めたデータから評価のフィードバックをするシステムの開発が必要となるだろう。

4.4.2 腰軌道のより詳細な分析

以前はフットセンサーを用いて接地情報を取得していたが、今回のシステムでは、歩

行時の時間情報(接地時・離地時のタイミング)を無視して制作した。加速度計から接地

点・離地点の検出を行うアルゴリズムの開発よって、より詳しく歩行障害の程度を評価す

ることが可能ではないかと考えられる。また、今まで様々な機器が必要であった腰軌道計

測システムだが、計測装置の簡略化を行うことができる。それにより、腰軌道システムの

臨床への普及も期待される。

先行研究の例として加速度情報に対して、時系列解析やカオス解析を行い、歩行の安定

性や自然さを定量的に評価した例がある。さらには、今回は利用しなかった歩行周期など

Page 35: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

30

時間的指標との組み合わせを行うことも考えられる。すなわち、幾何的特徴のみではな

く、その他の要因に対しても着目することで腰軌道による歩行評価の有効性を高めること

ができるのではないかと考えられる。

現在、腰軌道を用いた評価例は片麻痺と股関節疾患のみにとどまっていた。今回、歩行

障害の代表例であるパーキンソン病をとりあげて、健常者との両者の腰軌道を比較をし

た。その結果腰軌道の上下方向の変位幅に対して、パーキンソン病の方が健常者よりも有

意小さい結果が得られた。これは、先行研究で言われている通りの結果であり、本システ

ムの有効性を示している。また、今まで腰軌道を用いたこの結果によりパーキンソン病に

対しても有効な可能性が示唆された。さらなる進展として、パーキンソン病の重症度と腰

軌道との関連について調べることがあげられる。現状として、まだ十分に腰軌道の空間的

特性を用いた評価は十分にやられていない。例としてパーキンソン病の重症度を評価する

のによく用いられる Hoehn and Yahrの指標 [11]腰軌道との関連性を含めて調査するこ

とがあげられる。

Page 36: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

31

第 5章

結論

本研究の目的は腰軌道による分析手法用いた健康支援システムを、実社会への導入する

ための基盤の確立することであった。スマートデバイスの特性を生かし、スマートデバイ

ス上に腰軌道を計測するシステム、計測した結果から腰軌道を求めるのと得られた結果を

表示するシステム、腰軌道のデータをサーバーへ転送するシステムの以上の3つを実装し

た。また、制作したシステムの性能評価として、健常者とパーキンソン病の腰軌道を本シ

ステムを用いて計測した。実際に、先行研究で示唆されている通りに腰の上下方向の変位

幅に違いがみられたことから、本システムが十分に有効であることを示唆した。以上によ

り、当初の目的は達成された。今後は実際に日常生活へ本システムの導入をすることを目

指している。

Page 37: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日
Page 38: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

33

参考文献

[1] http://www.ntt.co.jp/news2012/1201/120127a.html, “ウェルネスリンク - well-

nesslink.”

[2] 臨床歩行分析研究会, “臨床歩行計測入門,” 医歯薬出版株式会社, vol. 42, no. 15, pp.

567–576, 2006.

[3] 西. 辰徳, 和. 義明, and 三. 美博, “腰軌道の運動学的分析に基づく片麻痺歩行評価シ

ステム,” 計測自動制御学会論文集, vol. 47, no. 1, pp. 8–16, 2011.

[4] 小林哲平, 三宅美博, 和田義明, and 松原正明, “加速度センサを用いた運動学的歩

行分析システム: 股関節疾患の術後リハビリにおける walk-mate有効性評価への適

用,” 計測自動制御学会論文集, vol. 42, no. 15, pp. 567–576, 2006.

[5] http://www.seedplanning.co.jp/press/2012/2012072601.html.

[6] S. Nishiguchi, M. Yamada, K. Nagai, S. Mori, Y. Kajiwara, T. Sonoda,

K. Yoshimura, H. Yoshitomi, H. Ito, K. Okamoto et al., “Reliability and va-

lidity of gait analysis by android-based smartphone,” Telemedicine and e-Health,

vol. 18, no. 4, pp. 292–296, 2012.

[7] R. LeMoyne, T. Mastroianni, M. Cozza, C. Coroian, and W. Grundfest, “Im-

plementation of an iphone for characterizing parkinson’s disease tremor through

a wireless accelerometer application,” in Engineering in Medicine and Biology

Society (EMBC), 2010 Annual International Conference of the IEEE. IEEE,

2010, pp. 4954–4958.

[8] 伊. 将, “生活空間における歩行可視化のためのスマートフォンアプリの開発,” 制御

システム工学科 卒業論文, 2012.

[9] R. d. e. M. Roiz, E. W. Cacho, M. M. Pazinatto, J. G. Reis, A. Cliquet, and

E. M. Barasnevicius-Quagliato, “Gait analysis comparing Parkinson’s disease

with healthy elderly subjects,” Arq Neuropsiquiatr, vol. 68, no. 1, pp. 81–86, Feb

Page 39: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

34

2010.

[10] S. A. Gard and D. S. Childress, “The effect of pelvic list on the vertical displace-

ment of the trunk during normal walking,” Gait & Posture, vol. 5, no. 3, pp.

233–238, 1997.

[11] M. Hoehn and M. Yahr, “Parkinsonism: onset, progression and mortality.” Neu-

rology, vol. 17, no. 5, p. 427, 1967.

[12] 政府統計の総合窓口 (e Stat), “総患者数,性・年齢階級 × 傷病小分類別,” Journal

of Applied Physiology, 2011.

[13] 「パーキンソン病治療ガイドライン」作成委員会, “パーキンソン病治療ガイドライ

ン 2011.” 日本神経学会, 2011.

[14] J. Hausdorff, J. Lowenthal, T. Herman, L. Gruendlinger, C. Peretz, and N. Gi-

ladi, “Rhythmic auditory stimulation modulates gait variability in parkinson’s

disease,” European Journal of Neuroscience, vol. 26, no. 8, pp. 2369–2375, 2007.

[15] C. J. Hass, P. Malczak, J. Nocera, E. L. Stegemoller, A. Shukala, I. Malaty,

C. E. Jacobson, M. S. Okun, and N. McFarland, “Quantitative normative gait

data in a large cohort of ambulatory persons with Parkinson’s disease,” PLoS

ONE, vol. 7, no. 8, p. e42337, 2012.

[16] K. Lowry, A. Smiley-Oyen, A. Carrel, and J. Kerr, “Walking stability using

harmonic ratios in parkinson’s disease,” Movement Disorders, vol. 24, no. 2, pp.

261–267, 2009.

[17] C. C. Yang, Y. L. Hsu, K. S. Shih, and J. M. Lu, “Real-time gait cycle parameter

recognition using a wearable accelerometry system,” Sensors (Basel), vol. 11,

no. 8, pp. 7314–7326, 2011.

[18] C. G. Goetz, W. Poewe, O. Rascol, C. Sampaio, G. T. Stebbins, C. Counsell,

N. Giladi, R. G. Holloway, C. G. Moore, G. K. Wenning et al., “Movement

disorder society task force report on the hoehn and yahr staging scale: Status

and recommendations the movement disorder society task force on rating scales

for parkinson’s disease,” Movement disorders, vol. 19, no. 9, pp. 1020–1028, 2004.

[19] L. Ota, H. Uchitomi, K. Suzuki, Y. Miyake, M. Hove, and S. Orimo, “Evaluation

of severity of parkinson’s disease using stride interval variability,” pp. 521 –526,

july 2012.

Page 40: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

35

謝辞

本研究をすすめるにあたり,研究生活のご指導を賜りました三宅美博教授に感謝の意

を表します。また、以下の方に多大なご協力を賜りました。ここに、深く感謝の念を表し

ます。

1. 実験に協力いただいた関東中央病院の織茂先生

2. 卒論の執筆に当たり情熱的な添削指導いただいた東京大学の緒方 大樹助教

3. システムの制作に指導していただいた金沢工業大学の山本知仁准教授と脳機能科学

研究所の小林 洋平氏

4. 実験の際、多大な指導をしていただいた東京工業大学の太田 玲雄氏

5. 忙しい中でも、発表・スライド・その他の指導をしてくださった三宅研究室の先輩

の皆様

Page 41: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日
Page 42: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

37

付録 A

腰軌道とパーキンソン病の重症度の

関係性

本付録ではパーキンソン病を対象として、本システムを用いて腰軌道の計測を行った。

パーキンソン病の重症度間に着目し、得られた腰軌道にどのような特徴があるかを調査

した。

A.1 序論

A.1.1 パーキンソン病に関して

パーキンソン病とは神経変性疾患の1つであり、国内での患者数は14万人とされる

[12]。すなわち、おおよそ 1000 人に1人程度の割合で発症しており、我々に身近な病気

といえる。また、この疾患は高齢者に多くみられるため、高齢化社会に伴い増加すると予

想される。

パーキンソン病の原因として神経伝達物質「ドパミン」の減少とされている。それによ

り、運動にかかわる部位である基底核に運動の情報が伝達されにくくなる。そのため、代

表的な症状として震戦や筋肉固縮、姿勢反射障害などの特徴がみられる。

パーキンソン病は進行性の疾患である。すなわち、何も治療を行わないと病状が進行す

る。それに対して、根本的な治療方法は今のところ存在しない。しかし、近年は治療技術

の進歩により症状の進行は遅らせることができるようになり、長期間自立した生活を送る

ことができるようになった。主な治療方法は L-ドーパなどの薬物療法が中心である。そ

の上で、日常生活でのリハビリテーションは身体機能の改善や歩行能力の向上に役立つた

Page 43: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

38

めに有効とされている。[13] その一方で、パーキンソン病は重症度により症状や障害が変

化する疾患である。そのため、自分の疾患の状態に合わせたリハビリテーションが必要と

なる。

パーキンソン病の重症度の評価基準として多く用いられるものに Hoehn & Yahrの重

症度分類 [11]がある。しかし、このような指標を用いた評価は医者や療法士によって定性

的に行われることが多い。そのため見る人によって評価のぶれる可能性がある。また、日

常的に継続して評価するという点が不足していた。そのため、日常生活においてユーザー

が健康状態を把握でき日々の状態を管理するものがあれば、医者や療法士の治療にも役立

てることができると考えられる。そのためには、日常生活の中でも気軽に使うことができ

なおかつ誰でも使えるような装置が必要である。

A.1.2 パーキンソン病の歩行との関連

パーキンソン病の疾患の状態を知るうえでも歩行を計測しその計測した結果を分析する

ことが有効である。先行研究でもそのような例が多数報告されている。たとえば、健常者

とパーキンソン病で歩行周期の変動の大きさ(CV)に差がみられる報告がある [14]。重

度の患者は軽度に対して歩幅が小さくなることや歩行速度が小さくなる報告がある。[15]

また、ウェアラブルなセンサによる加速度計を用いた分析も種々行われている [16][17]。

しかし、先行研究では空間的な指標に基づいた歩行分析手法の開発が不十分であった。

パーキンソン病は重度になると姿勢反射障害という症状が生じる。姿勢反射障害とは姿

勢を保つ機能に障害を抱えバランスがとりづらい症状である。先に挙げた Hoehn & Yahr

のスケールで3度以上に対応する。その結果ゆっくり小股で歩くかつ左右歩行にふらつき

がみられることが考えられる。その影響により、腰の変位に関して上下は小さくなり、左

右方向は増すことが考えられる。すなわち、歩行時の縦の変位・横の変位、あるいはその

比に対して何かしらの影響を及ぼすことが予想され、腰軌道に対しても健常者と異なった

特徴がみられることが想定される。

A.1.3 実験目的

日常生活でも使える計測装置の必要性と、腰軌道による評価の有効性の以上2点から

考えて、本システムによる評価が有効だと考えた。そこで、今回は先に挙げた Hoehn &

Yahr のスケールで3度以上の方を重症、それ以下を軽症と2群に分けて重症度間による

違いがみられるかを検証した。なお、この分け方は3度以上が医療費の補助を受けること

Page 44: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

39

ができることも考慮している。

A.2 実験手法

A.2.1 測定方法

今回の実験には、パーキンソン病患者 23名の方にであった。各参加者は事前に関東中

央病院の織茂先生のご協力のもと、改訂版 Hoehn & Yahr のスケール [18]を用いて重症

度を評価してもらった。そして、このスケールで HY2.5以下を軽度、HY3度以上を重症

の2群に分けた。概略は以下の TableA2.1の通りとなっている。

Table A.2.1 Participants of the experiment(summary)

重症度 人数 年齢 罹患期間 HY

軽度 11 65.8± 7.63 5.27± 3.11 1.5 ~  2.5

重度 12 77.1± 4.68 6.71± 5.89 3 ~ 4

実験装置には先ほどまでの手順により開発した iPod touchを用いる。実験要領は先ほ

どまで同じ、iPod touchを伸縮性のベルトを用いて体の重心部分に近い腰椎 L3部位に取

り付けた。この状態でまっすぐな80mほどの距離がある廊下を1往復していただき、腰

軌道を計測した。計測自体は行きと帰りの2回を行う。なお歩行補助器具を使わず、靴は

普段通りの物を使用した。なお、本実験は倫理委員会の承諾を得た後、被験者に実験の趣

旨を説明し書面で同意を得たうえで実施した。

A.2.2 評価指標

今回は、平均的な腰軌道に対し縦と横の変位に着目した。重度 PDの方が、縦の変位に

関して小さくなり、横の変位に関して大きくなることが予想される。そこで、Fig.A.2.1で

あらわされる縦の変位 Y A、横の変位をXAに着目した。また、縦・横の振幅比 V Lratio

を式 A.2.1のように定義する FigA.2.1から推察される通り V Lratio が大きいほど腰軌道

が横長な形である。今回2回の施行を行ったが、1回目は装置になれるという意味で除外

し、2回目の値を統計的な指標とした。

Page 45: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

40

V Lratio =XA

YA(A.2.1)

Fig. A.2.1 This picture shows definition of XA and Y A

Page 46: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

41

A.3 結果

以下に得られた腰軌道の何例かを示す。青線が定常歩行時の腰軌道、赤線が平均的な腰

軌道を示す。左が軽度の患者、右は重度の患者の腰軌道となる。

Fig. A.3.1 A Fig. A.3.2 D

Fig. A.3.3 B Fig. A.3.4 E

Fig. A.3.5 C Fig. A.3.6 F

Fig. A.3.7 Example of trunk trajectory(A/B/C : Subject with mild symptoms

D/E/F Subject with severe symptoms)

腰軌道は多種多様であることが読み取れるが、重度の患者の方が平均的な腰軌道が横長

な印象を受けた。

Page 47: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

42

各参加者に対する結果を TableA.3 に示し、統計的な処理を行った結果を FigA.3.8

~FigA.3.10 に示す。水平方向、垂直方向の変位に関しては有意差はなかった。縦横比

(V Lratio)に関しては、2群間に有意傾向がみられた (Wilcoxon rank sum test,W = 24,p

< 0.05)

light severe

Subjects

Late

ral D

ispl

acem

ent(

cm)

01

23

45

6

Fig. A.3.8 Result of Lat-

eral displacement

light severe

Subjects

Var

tical

Dis

plac

emen

t(cm

)

01

23

45

67

Fig. A.3.9 Result of Var-

tical displacement

light severe

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

Subjects

VL_

ratio

*

*:p < 0.05

Fig. A.3.10 Result of

V Lratio

Page 48: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

43

Table A.3.1 Result of subject with mild symptoms

No 年齢 (year) 性別 罹患期間 (year) Hoehn & Yahr 骨折等の外傷など VLratio YA XA

1 60 女 7.0 1.5 0.458 5.022 2.300

2 54 男 7.0 1.5 1.343 3.404 4.570

3 68 男 4.0 2.0 0.685 6.061 4.150

4 63 男 8.0 2.0 0.308 2.753 0.847

5 78 男 8.0 2.0 0.818 4.873 3.984

6 75 女 2.0 2.0 0.614 3.996 2.454

7 62 女 3.0 2.0 1.201 2.813 2.343

8 78 女 7.5 2.5 0.536 3.214 1.721

9 61 男 0.5 2.5 0.873 4.084 3.565

10 65 男 10.0 2.5 1.156 2.780 3.214

11 60 男 1.0 2.5 1.595 2.474 3.945

Table A.3.2 Result of subject with severe symptoms

No 年齢 (year) 性別 罹患期間 (year) Hoehn & Yahr 骨折等の外傷、他 VLratio YA XA

1 77 女 0.1 3.0 背中を切って手術 1.333 3.028 4.038

2 82 男 2.0 3.0 狭心症あり 1.553 3.934 2.536

3 73 男 0.7 3.0 2.022 3.530 7.137

4 78 男 0.2 3.0 1.198 4.486 5.372

5 73 女 11.0 3.0 0.767 6.789 5.206

6 79 女 9.0 3.0 骨粗鬆症、胸部の圧迫骨折 1.891 0.126 0.239

7 79 男 3.0 3.0 左側大腿骨で入院、脊椎間狭窄症 3.013 1.581 4.763

8 71 男 10.5 3.0 0.924 2.425 2.240

9 74 男 5.0 3.0 0.666 4.021 2.677

10 75 女 13.0 3.0 右腰を昔、複雑骨折 0.961 3.976 3.823

11 75 女 20.0 3.5 脊椎間狭窄症 1.003 3.318 3.307

12 89 男 6.0 4.0 1.472 1.311 1.930

Page 49: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

44

A.4 考察

今回、縦の変位と横の変位、またその比に対しての検討を行った結果、縦と横の変位に

関しては特に差がなかった。一方で、縦横比では重度のパーキンソン病 (以下、PD)の方

が大きいという結果が得られた。すなわち、重度のパーキンソン病の方が腰軌道が横長な

傾向があることが分かった。つまり、縦横比という指標により軽度 PDと重度 PD間との

違いを見ることができるのではないかと考えられる

縦横比に対して差がみられた原因は重度 PD は軽度 PD に比べて歩隔が広くなったこ

とが推測される。先も述べたように、重度 PD と軽度 PD の差の大きな違いは姿勢反射

障害の有無である。そのため、安定な歩行をするために歩隔が大きくなったことが推測さ

れる。歩隔が大きくなると腰軌道の形は横長な傾向になりやすいという結果も出ている。

(*フィールドワークの調査による)一方で、縦横の変位から見て差がみられなかったの

は歩幅や身長、また装置の装着位置などの様々な要因によって腰軌道の変位に対して変化

したことが考えられる。健常者においても V 字型や Iの字に近いなど、さまざまな形が

見れる。しかしながら幾何的な形は類似していること多い。そのためではないかと考えら

れるが、あくまでも仮説であるので今後検討していくこととする。いずれにせよ、変位の

大きさではなく、形あるいは形状に対する比でみていくことは有効な手法なのではないか

と考えられる。

今回は、腰軌道にのみに絞って分析を行ったが、本システムは歩行周期も取得可能であ

る。なので、歩行周期との組み合わせで調べることも考えられる。先行研究例で、歩行周

期の時系列特性に着目した評価で健常若年者・健常高齢者・パーキンソン病の判別を含め

た、パーキンソン病の重症度判別を行う試みがある。[19] ここから示唆するに、腰軌道と

の組み合わせを組み合わせを行うことでより詳細な分析を行うことができるのではないか

と考えられる。

今回の計測した例の中で軌道の形に左右差がみられる例もあった。こ健常者の腰軌道は

幾何的な特徴は様々であるがほぼ対称な形がみられる。それに対し、左右差がみられるの

は通常では見られない特徴である。パーキンソン病では、最初は体のどちらか片側のみに

症状があらわれて、病気が進んでも左右で症状に差があるのが特徴とされている。すなわ

ち、パーキンソン病の歩行の特徴の1つを示していることが考えられる。

今回患者の履歴や、薬の使用影響などについては一切考慮されていない。すなわち、腰

軌道と症状との関連を今後はもっと詳細な視点で分析を行うことが今後の課題となってい

Page 50: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

45

る。しかしながら、日常生活の中でも容易に計測できるので、日々のデータの関連と疾患

の状態との関連を含めてさらなる詳細な分析を行うことができることが期待される。

Page 51: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日
Page 52: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

47

付録 B

歩行周期処理

歩行周期算出方法については伊藤 [8]に基づくアルゴリズムを採用した。このアルゴリ

ズムは以下の手順による。

まず、3軸の加速度データをノルムに換算する。以下ではノルムの時系列データを

a(n)(nはデータ番号)とする

次に、前後10点の移動平均を2回とったローパスフィルタを通す。計算式はフィルタを

通した後のデータを w(i)としての B.0.1の式で示される。

w(i) =1

21

i+10∑m=i−10

(1

21

m+10∑n=m−10

a(n)) (B.0.1)

ノルムの時系列データとフィルタを通した後のデータを示したのが FigB.0.1 である。

赤線が加速度のノルムデータであり、フィルタかけた後のデータは青線である。正弦波状

になっていることが読み取れる。

歩行が周期運動であるので、加速度のデータは2 Hz程度の周期的なデータになる。そ

れ以上の高周波成分をカットするため、前後10点の移動平均を2回とることによるロー

パスフィルターをかける。このフィルタのカットオフ周波数はおおよそ約3 Hz 程度で

ある。

フィルタをかけた後は (青線の)ピークのときの値をマーク点 (緑○)とし、マークの間

隔を1つおきに計算する。マーク点とマーク点の間隔は1歩分の時間に対応していると考

えられるので、1つおきに間隔を計算することにより歩行周期の時系列データが求められ

る。なお、フットセンサとの対応と緑○との対応は実際にはずれているため、腰軌道計測

システムを代用するまでには至っていない。

Page 53: Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart …Visualizing Human Walking in Daily Life by Smart Device 学籍番号 09B02010 氏名 磯崎 保徳 提出日 2013 年2 月19 日

48

Fig. B.0.1 Norm of Accelerometer data and Filtered Norm of Accelerometer data