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1 2018 春 経済原論(ミクロ経済学) 2018 年 6 月 14 日 第 4 章 市場取引と資源配分(後半) 4.3 なぜ市場均衡が望ましいのか(つづき) 基本的に,総余剰の大きさは「量」のみに依存する. 「価格」は総余剰の大きさには直接関係ない(生産者余剰,消費者余剰には関係ある.両者を併せた 総余剰には無関係). ある量を生産・消費することで生じる総余剰とは,その量を消費することで得られる満足の合計から, その量を生産するのにかかる費用(厳密には可変費用)の合計を差し引いたもの. したがって,市場均衡(X * )において実現される総余剰は図では以下のように表される. 市場均衡より手前(X 1 )までしか生産・消費しない場合は,総余剰は次のようになる. X 1 のところでは限界効用が限界費用より高いため, X 1 からさらに生産・消費することで総余 剰を増やすことができる.X 1 では総余剰は最大化されていない.したがって,総余剰は市場 均衡まで生産・消費する場合より小さくなる.生産・消費が過小である. 限界効用の合計(=総効用)= OBEX * 限界費用の合計(=総費用)= OAEX * 総余剰 = 総効用 ʷ 総費用 = ABE 限界効用の合計(=総効用)= OBKX 1 限界費用の合計(=総費用)= OACX 1 総余剰 = 総効用 ʷ 総費用 = ABKC = ABE ʷ CKE

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2018 春 経済原論(ミクロ経済学)

2018 年 6 月 14 日

第 4 章 市場取引と資源配分(後半)

4.3 なぜ市場均衡が望ましいのか(つづき)

基本的に,総余剰の大きさは「量」のみに依存する.

「価格」は総余剰の大きさには直接関係ない(生産者余剰,消費者余剰には関係ある.両者を併せた

総余剰には無関係).

ある量を生産・消費することで生じる総余剰とは,その量を消費することで得られる満足の合計から,

その量を生産するのにかかる費用(厳密には可変費用)の合計を差し引いたもの.

したがって,市場均衡(X*)において実現される総余剰は図では以下のように表される.

市場均衡より手前(X1)までしか生産・消費しない場合は,総余剰は次のようになる.

X1のところでは限界効用が限界費用より高いため,X1からさらに生産・消費することで総余

剰を増やすことができる.X1では総余剰は最大化されていない.したがって,総余剰は市場

均衡まで生産・消費する場合より小さくなる.生産・消費が過小である.

限界効用の合計(=総効用)= OBEX*

限界費用の合計(=総費用)= OAEX*

総余剰 = 総効用 − 総費用 = ABE

限界効用の合計(=総効用)= OBKX1

限界費用の合計(=総費用)= OACX1

総余剰 = 総効用 − 総費用 = ABKC

= ABE − CKE

2

市場均衡を超える量(X2)を生産・消費する場合には,総余剰は次のようになる.

X*から先は限界費用が限界効用を上回っているため,生産・消費することで純粋に費用だけが

発生していく(つくる人の苦労を下回る喜びしか消費者に生み出せない).せっかくX*までのと

ころで増やしてきた余剰を,どんどん減らしていくことになる.X2では総余剰は最大化されな

い.したがって,総余剰は市場均衡まで生産・消費する場合より小さくなる.生産・消費が過

大である.

このように,総余剰の大きさは「どこまで生産・消費するか」に依存するのであって,「いくらで売買

されているか」は必要な情報ではない.

さらに,総余剰を最大化する生産・消費量とは,市場均衡において実現される生産・消費量である.

市場均衡取引量より少なくても多くても,総余剰は小さくなってしまう.

4.4 政府による市場介入の評価:総余剰の観点から(教科書「Ⅲ資源配分のゆがみ」)

政府による市場介入の典型的手段

間接税(例:ひとつ売る/買うごとに 20 円の税金を政府に払う)

補助金(例:ひとつ売る/買うごとに 20 円の補助金を政府からもらう)

価格規制(上限規制:100 円を超える価格で売買してはいけない

下限規制:100 円未満の価格で売買してはいけない)

(1) X*まで生産・消費することによる総余剰 = ABE

(2) X*からX2まで生産・消費することによる総余剰

限界効用の合計(=総効用)= X*EGX2

限界費用の合計(=総費用)= X*EFX2

総余剰 = 総効用 − 総費用 = −EFG

総余剰 = (1) + (2) = ABE - EFG

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間接税(売手への課税のケース)は均衡取引量にどう影響するか1

ひとつ売るごとに 20 円の税金を政府に払う

= ひとつ追加で生産・販売する際に,アルバイトの賃金や原材料費といった費用に加えて税金 100

円を負担しなければならない

= 生産者にとっては限界費用が税金分増加するのと同じ.

限界費用曲線が税金分だけ上方にシフトする.

=供給曲線が税金分だけ上方にシフトする.

千葉さんの限界費用

1 杯目 2 杯目 3 杯目 4 杯目 5 杯目 6 杯目 7 杯目

限界費用 1

(生産要素のみ) 10 円 20 円 30 円 40 円 50 円 60 円 70 円

税金 20 円 20 円 20 円 20 円 20 円 20 円 20 円

限界費用 2

(税金含む) 30 円 40 円 50 円 60 円 70 円 80 円 90 円

間接税が課されると,生産者から見れば各生産量における限界費用が上昇するため,同じ市場価格の

下で利潤(厳密には生産者余剰)を最大にする生産量は課税前より少なくなる.したがって,全ての

価格水準に対して生産量を縮小させる.

→ グラフでいえば,間接税は供給曲線を左側へシフトさせる効果を持つ.

1 ここでは売手に課税するケースを扱うが,買手に課税するケースも結論は全く同じである.ただし,買手に課税する

ケースでは需要曲線が税金分だけ下方にシフトする.したがって,市場価格も低下することになる.しかし,取引量へ

の影響や,総余剰への影響は,売手に課税するケースと全く同じである.詳しくは『マンキュー経済学⟨1⟩ミクロ編』

などを参照されたい.

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⇒ 間接税は均衡取引量を縮小させる(すなわち市場を収縮させる)効果を持つ.

総余剰の大きさはどうなるか?

総余剰への影響

すでにみたように,総余剰の大きさは取引量の大きさのみによって決まる.

そして,間接税が供給を抑制して取引を縮小させる以上,総余剰は必ず減少することになる.

このように課税によって総余剰が減少するは明らかだが,ここでは敢えて①消費者余剰,②生産者余

剰,③政府の税収を別々に求め,3 つを合計して総余剰を求めてみよう.

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課税前の総余剰(図の左側)

課税後の総余剰(図の右側)

間接税のない場合と比較して,△CKE の分だけ総余剰が減少してしまう.

すなわち,間接税によって資源配分は「非効率」になってしまう(総余剰をもっと大きくする余地

がある/十分に余剰を生み出せていない).

間接税がない場合より,社会に生み出される「お得感」が減少してしまう.

この「お得感」の減少分を「死荷重(dead-weight loss)」という.

課税が社会に強いる犠牲という意味で,死荷重こそが課税の社会的費用である.

ポイント

間接税によって,消費者の支払う金額は増え,生産者の受け取る金額は減るが,このこと自体は

総余剰の観点からは問題ではない.なぜなら,それらは税金という形で政府の収入になるので,

政府も含めた社会全体の観点からは影響がないからである(=社会の成員の間で余剰を得る人が

消費者余剰=総効用 − 支払額

= OBKX1 − OP3KX1

= P3BK

消費者余剰=総効用 − 支払額

= OBEX* − OP*EX*

= P*BE

生産者余剰=総売上 − 総可変費用

= OP*EX* − OAEX*

= AP*E

総余剰=消費者余剰 + 生産者余剰

= P*BE + AP*E

= ABE

生産者余剰=総売上 − 総可変費用

= OP4CX1 − OACX1

= AP4C

政府の税収=税額×販売個数

= P4P3KC

総余剰=消費者余剰 + 生産者余剰 + 政府の税収

= P3BK + AP4C + P4P3KC

= ABKC

= ABE − CKE

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変わっただけ)2.

重要なのは,取引される財・サービスの量が減少してしまうということ(X*→X1).

X1からX*までについては,消費者の得られる満足が生産者の費用を上回っているため,生産して

消費することで社会に余剰が発生する.それにもかかわらず,課税によってなぜかこの部分の取

引が成立しなくなるため,△CKE の分の総余剰が生み出されずに終わってしまう.

なぜX1からX*までの取引が成立しなくなるのか?

課税によって生じるインセンティヴ

千葉さんによるアイスコーヒーの生産費用が 50 円,それを安藤さんが消費することで得られる効用

が 70 円であるとする.

千葉さんがアイスコーヒーを淹れ,安藤さんがそれを飲むならば,社会には純粋に 15 円分の喜びが

発生する(総余剰).

政府の介入がなければ,千葉さんの費用 50 円と安藤さんの支払許容額 70 円の間のどこかに価格が決

まり,この財は生産され消費されることになる(ふたり合わせて 20 円分の余剰が発生する).

一方,ここで売手である千葉さんに 30 円の税金が課されるとどうなるか?

千葉さんの負担する費用は,生産コスト 50 円に政府に支払う税金 30 円が加わる.

したがって,最低でも 80 円の価格がつかなければ供給できない.

他方,安藤さんが得られる効用は 70 円であるから,最高でも 70 円までしか払う準備はない.

したがって,取引は成立しなくなる.

問題は,この場合に千葉さんが費用として認識した 80 円(生産費用 50 円+税金 30 円)のうち,税

金は社会的観点からは費用ではないということである.なぜなら,千葉さんが徴収された税金は社会

から消えてしまうわけではなく,他の誰かに何らかの形で(たとえば社会保障給付,補助金などの形

2 さらに踏み込んで言うならば,そうして集められた税金は社会保障給付や道路整備などの形で結局消費者か生産者に

還元されるので,これ自体を課税の負の効果と考えるのは間違い.

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で)支払われるからである.このように,社会の観点からは 30 円が誰かから別の誰かに移るだけで,

費用でもなんでもない.社会の観点からは,税金があろうとなかろうと 20 円分の余剰が発生するの

である.

しかし,税金を払う千葉さんにしてみれば,税金の 30 円は紛れもなくコーヒーを一杯販売するため

に負担する犠牲に他ならない.ここにおいて,個人の費用と社会の費用が乖離し,千葉さんに社会的

に考えなくてよい費用を考えて行動する誘因を与え,社会的には望ましい生産・消費を個人の観点か

ら思いとどまらせてしまうのである.社会的には余剰が発生する余地があるにもかかわらず,個人の

観点から取引を思いとどまってしまうのである.

価格弾力性と課税による死荷重

今,コーヒー1 杯が 100 円で売買されているとする.

ここで,コーヒー1 杯の販売に 10 円の税金が課されると,今までと同じように 1 杯販売しても売手

は 90 円の収入しか得られない.すなわち,売手にとって,課税は実質的には価格低下と同じである.

だからこそ,課税によって同じ 100 円という価格でも供給量を減らすことになる.

すなわち,課税による供給量の減少は,価格低下に対する企業の反応と基本的に同じ.

したがって,供給の価格弾力性が大きいほど,課税による供給の減少は大きくなる.そして,取引量

の市場均衡からの減少幅が大きくなり,死荷重も大きくなる.

加えて,取引量が大きく縮小するためそれほど大きな税収は得られない(税収=税額×取引量).

供給減少による価格上昇は,需要の価格弾力性が大きいほど,需要量を大きく減らす.そして,取引

量の市場均衡からの減少幅は大きくなり,死荷重も大きくなる.

取引量が大きく縮小するため,それほど大きな税収は得られない.

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まとめると…

供給および需要の価格弾力性が大きいほど,課税による死荷重は大きくなり,一方で期待される税収

は縮小する.したがって,1 円の税収を得るための死荷重は大きくなる.

反対に,価格弾力性の小さい財・サービスでは,課税による死荷重は小さく,多くの税収が見込める.

4.5 まとめ

1. 市場取引のひとつの意義は余剰が生み出すことにある.市場がなければ取引がなされず,余剰

は発生しない.

2. 総余剰の大きさは取引量によって決まり,競争的な市場では市場均衡において最大になる.

3. 均衡以外の取引量においては,総余剰は最大化されない.資源配分は非効率になる.

4. 間接税は取引量を変化させるため,総余剰を減少させる.すなわち死荷重を発生させる.これ

が課税の社会的費用である.

5. 課税によって死荷重が発生するのは,それによって私的な費用と社会的な費用とが乖離し,売

手と買手に取引を抑制する誘因を与えるためである.

応用問題:補助金の効果

(1) 政府が 1 単位の生産につき一定額の補助金を出す場合,生産者の費用はどのように影響を受け

るか.また,供給曲線はどう変化するか.結果として,取引量はどのような影響を受けるか.

(2) 補助金は死荷重を発生させるだろうか.補助金による死荷重を図示してみよう.

補助金は,税金と違って政府から民間に与えられるものである.したがって,マイナスの効果はな

いのではないかという印象を持ってしまいがちである.しかし,すでに見た通り,総余剰は取引量

が多すぎても減少してしまうのである.