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ファームテクジャパン 第32巻第11号 平成28年9月25日発行 Vol.32 No.11 2016 臨時増刊号 ICH UPDATE Q カルテット

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Page 1: Vol.32 No.11 2016...第1章 ICH Q8:QbD申請の現状と連続生産への展望 マネジメント」の採用は今まで行われていなかった。PMDAの新薬審査部門ではQbDによる申請数・相談件

Vol.32 No.11 2016

臨時増刊号

ICHQカルテット

UPDATE

発行所

じほう

(株)

〒  

 東京都千代田区猿楽町一│五│一五 猿楽町SSビル

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6364(編集)3233│

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101-8421

平成二十八年九月二五日発行

定価(本体四、一〇〇円+税)

©

ファームテクジャパン 第32巻第11号 平成28年9月25日発行

Vol.32 No.11 2016 臨時増刊号

ICHUPDATEQカルテット

Page 2: Vol.32 No.11 2016...第1章 ICH Q8:QbD申請の現状と連続生産への展望 マネジメント」の採用は今まで行われていなかった。PMDAの新薬審査部門ではQbDによる申請数・相談件

本稿は平成28年2月3日に開催された第18回医薬品品質フォーラムシンポジウムにおける講演『QbDに取り組むためのPQS/GMP』の内容を編集したものである。

Quality by Designとは何だったか?1

2003年のICHビジョ ン 1)採 択 前 後からQuality by Design(以後QbD)という名のもとにある種の品質改善運動が欧米の大企業の間で始まった。この運動は分光学的なモニター・ 評 価 技 術であるProcess Analytical Technology(以後PAT)2)と同時に話題にされることが多く,ときにこの両者が混同されることもあった。また,QbDが新しい概念ではなく,近代的品質管理そのものであるとの主張も少なくなかった。また,QbDに対比するように,従来手法,伝統的手法など用語,定義も不明のまま使われた。いずれにせよ,QbDのほうは2008年のICH Q8の補遺3)になり図1のように定義された。

このQbDの定義を見渡し,QbDに対比される従来の

手法・伝統的手法に比べ特徴を抜き出すと,「工程管理に重点」,「品質リスクマネジメント」,「体系的」が筆者には浮かぶ。「事前の目標設定」がないもの,「製品及び工程の理解」を無視するような開発は従来も,伝統的にも一般的だったとは思えない。QbDの特徴に戻り思い起こすと,「工程管理に重点」は試験検査に重点(Quality by Testing)に対比しているように思える。「品質リスク

ICH Q8の理解およびQbD実践のためのPQS/GMPUnderstanding of ICH Q8 and PQS/GMP for QbD practice

国立医薬品食品衛生研究所 客員研究員

檜山行雄YUKIO HIYAMA

National Institute of Health Sciences, Visiting researcher

1

第1章

ICH Q8:QbD申請の現状と連続生産への展望

QbDとは何だったか?

・ICH Q8(R2)におけるQbDの定義クオリティ・バイ・デザイン(QbD):事前の目標設定に始まり,製品及び工程の理解並びに工程管理に重点をおいた,立証された科学及び品質リスクマネジメントに基づく体系的な開発手法。

・QbDに対比される従来の方法などの本質は?・QbDのメリットは?

図1  製剤開発ガイドライン補遺に採用されたQbDの定義

 ● Vol.32 No.11(2016) 9(2021)

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第1章 ICH Q8:QbD申請の現状と連続生産への展望

マネジメント」の採用は今まで行われていなかった。PMDAの新薬審査部門ではQbDによる申請数・相談件数をリスクマネジメントの適用を基準に集計しているとのことである。「体系的」ということからは,個人の技量に依存する職人的な手法との対比とも考えられる。

開発アプローチと管理戦略の関係2

さて,QbDという開発アプローチとそうでないアプローチ(従来手法,伝統的手法?)を対比し,QbDアプローチの利点をあげてみる。完成された製造方法の一式である管理戦略に,リアルタイムリリース試験などより進んだものが採用可能であることである。なぜそうなのかと考えると,QbD開発アプローチにより得られた,体系的で整理され,共有された高度な知識が介在していることがわかる。QbDで得られた知識を用いて従来の管理戦略の採用も可能であるものの,非QbD手法ではより進んだ管理戦略の採用は難しい(図2)。後述するサクラ錠事例を復習することで以上の点はわかるはずである。ICHガイドラインにおける管理戦略の定義,設定の経緯および一般の言葉としての戦略との違いの解説を図3

に示す。

新規開発の場合の事例̶サクラ錠3

典型的なQbDアプローチとされる(また,知識獲得のためのプロセスともされる)サクラ錠事例4)で振り返る。目標製品品質プロファイルの決定から始まるQbDプロセスをたどり,製剤設計,製造工程の開発,インプット

変数の管理を通じ管理戦略の設定への流れを提示している。その流れの中で原薬の特性情報と経験に基づく初期リスク評価に続き,処方設計・製造工程設計段階,製造工程開発後,管理戦略適用後のそれぞれの段階のリスク評価が行われている。リスクマネジメント活用の利点としては,考察・検討の経過を開示することによる客観性のある判断となり,結果の表示が伝達しやすい形式となる。このことが,製薬企業内,行政へ対するコミュニケーションをスムースにする。一方,係数化されたリスク指数は任意で相対的なものであることに注意が必要である。係数化されたアセスメント結果により,リスクコントロールとして何らかの行動をとることになるが,現れた具体的な状況が許容できるどうかの判断についてキャリブレーションを係数化する際に行っておく必要がある。すなわち,任意に決めた係数付けに基づく結果を自動的に行動に結びつけるのでは,係数付けの運営方法の妥当性を実例・経験を基に検証しておくことが必要である。

図4,図5に示す事例においては溶出性,含量均一性に対しリアルタイムリリース試験を採用する管理戦略を提示しているが,リアルタイムリリース試験を採用しな

QbD以外科学より経験

整理されない深みのない知識

共有されない知識

従来型の管理戦略例 パラメーター

固定

QbD科学,リスク系統的

整理され共有可能な知識

より進んだ管理戦略

例 リアルタイムリリース試験,デザインスペース,連続生産(新技術)

図2  開発アプローチ(QbD手法,非QbD手法)と採用可能な管理戦略

(定義)ICH Q10管理戦略(Control Strategy)最新の製品及び製造工程の理解から導かれる,製造プロセスの稼働性能及び製品品質を保証する計画された管理の一式。管理は,原薬及び製剤の原材料及び構成資材に関連するパラメータ及び特性,設備及び装置の運転条件,工程管理,完成品規格及び関連するモニタリング並びに管理の方法及び頻度を含み得る。

ー個別品目の製造方法,品質試験に加え工場の一般(共通)の管理手順の総体ーー Q8R(開発手法に焦点を当てる)とQ10(システムに焦点を当てる)の合同会議で確認し,上記下線部分を含め定義した。

(目的)Q8R2 第二部 2.5管理戦略は,要求される品質の製品が一貫して生産されることを保証するために策定される。

「一般に戦略とは,大きな目標を定めそれを達成するために計画を立て実行をしていくことであって,Q10の定義には時間軸の概念は入っていない」

(今井昭生ら,PHARM TECH JAPAN, 31(9)1567-1577(2015)

図3  管理戦略の用語解説

 ● Vol.32 No.11(2016)10(2022)

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はじめに〜医薬品品質システムの目的〜

ICH3極ガイドライン「Pharmaceutical Quality System Q10」は,日本では,「医薬品品質システムに関するガイドラインについて」(薬食審査発0219第1号/薬食監麻発0219第1号,厚生労働省医薬食品局審査管理課長,厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課長)として,2010年2月に発行された。

Q10の医薬品品質システム(PQS)は,製薬企業の実効的な品質マネジメントシステムのモデルを記したもので,国際標準化機構(ISO)の品質マネジメントシステムおよび米国FDAのドラフトガイダンス“Draft Guidance for Industry Concerning Quality Systems Approach to Pharmaceutical current Good Manufacturing Practice Regulations”(Sept 2006に最終化)も参考にされた1〜3)。

企業および規制当局が共通の理解と認識に達した実効的な医薬品品質システム(PQS)は,世界中で医薬品の品質および安定供給を向上させ,適正な公衆衛生を維持お

よび促進するとされ,企業におけるQ10の実施は,製品ライフサイクルの全期間にわたるイノベーションと継続的改善を促進し,医薬品開発と製造活動の連携を強化すると言及されている。

また,PQSは,各極が規定するGMP(製造管理および品質管理に関する基準)を包含するが,現行の各極のGMP要件に対して付加的な部分となる内容の実施は任意とされている。しかし,実際の医療現場・患者の利益,満足度の向上を促進するために,製薬企業がすでに実践しているGMPをより堅牢にする要素を有する必要がある。この要素は,Q10の「3.2 医薬品品質システムの要素」において,製品品質に対するライフサイクルアプローチを促進するためと記述された①製造プロセスの稼働性能および製品品質のモニタリングシステム,②是正措置および予防措置(CAPA)システム,③変更マネジメントシステム,④製造プロセスの稼働性能および製品品質のマネジメントレビューである。そして,製品ライフサイクルを通じて以下のことを確実にする活動でもある(図1)。

株式会社大塚製薬工場研究開発・信頼性保証担当 役員付次長

秋元雅裕MASAHIRO AKIMOTO

R&D and Quality Assurance Division, Senior ManagerOtsuka Pharmaceutical Factory Inc.

1

第3章

医薬品品質システム構築のポイントと経営陣の責務Points to consider in building the pharmaceutical quality system and Responsibilities of the managements

ICH Q10:医薬品品質システム構築とクオリティカルチャー

 ● Vol.32 No.11(2016)82(2094)

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1 医薬品品質システム構築のポイントと経営陣の責務

◦意図された品質の製品を確実に製造できる堅牢なプロセス

◦その意図された使用目的に一貫性をもって適う原薬と製剤の品質

◦プロセスとシステムの継続的な改善また,Q10に基づくPQSの実践には,以下を期待する

側面がある。①規制当局と企業は,品質マネジメントの概念を通じて,

品質保証およびGMPに対する査察の視点を共有し,査察等を通じて,製品品質にかかわる企業あるいは組織のマネジメントの課題等について,共通の理解と認識に立つ改善の契機をつくることができる。

②製品ライフサイクルを通じた,企業の適正なPQSとGMPの運営を促進するICH Q9「品質リスクマネジメント」と知識管理のマネジメントへの取り込みが,盲目的な規制遵守から,より自律的なコンプライアンスの強化と品質保証の推進につながる。これにより,規制当局は,より実効的な規制と査察を行うことが期待できる。

③合理的な企業活動の維持あるいは改善を継続することにより,適正な利益を確保し,医療現場で医薬品を直接に使用する患者と医師等の関係者(以降,外部顧客

と記す)への危害・リスクを最小限とする製品を提供し続ける。そして規制当局,外部顧客および従業員などステークホルダーに対し,組織の能力維持・継続について,説明責任を果たすことができる。

このような期待に適うPQSの構築,維持,そして改善も求められることから,医薬品の品質にかかわる環境の変化に目を向けることも必要であろう。

Q10が2008年6月にSTEP4,2010年2月に日本でSTEP5に至って以降,多くの状況変化が生じている。PQSの基となった品質マネジメントシステムのISO9000は2015年版に改 定されているが,PQSで使 用しているQ10で,ISO9000:2005と同義とされている用語の変更は必要ない。しかし,PQSの目的から,概念の改定,変更等は参考にすべきであろう。2015年版のISO9000規格では,マネジメントシステムにプロセスアプローチを利用すること,品質に関するリスクマネジメントと知識管理に基づく改善の機会の有効性に焦点が当てられている。

また,2014年7月に,ICH Q11「原薬の開発と製造ガイドライン(化学薬品及びバイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)」が発効となり,Q8「製剤開発」,Q9「品質リスクマネジメント」とともに,Q10の相

プロセスバリデーション

GMP

ICH Q10 ガイドライン 付属書2より一部改変

PQSシステムとプロセスの継続的改善

クオリティカルチャー

医薬品開発

治験薬

技術移転 商業生産 製品の終結

Stage 1プロセスの設計

Stage 2プロセスの適格性検証

Stage 3継続的な

プロセスベリフィケーション

経営陣の責任

プロセス稼働性能および製品品質のモニタリングシステム是正措置および予防措置(CAPA)システム

変更マネジメントシステムマネジメントレビュー

製品知識管理

品質リスクマネジメント

医薬品品質システム要素

達成のための手段

図1 ICH Q10 PQSのモデルとシステムの要素

 ● Vol.32 No.11(2016) 83(2095)

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はじめに

医薬品規制国際調和会議(International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for human use:ICH)は,医薬品規制に品質システムの概念を導入し,最新の科学と品質リスク管理に基づく,開発から市販後まで一貫した品質管理システムを導入することを目的に,本増刊号に掲載されているICH Q8,Q9,Q10及びQ11(Qカルテット)ガイドラインを作成してきた。これにより,医薬品製造においても他の製造業で実施されている合理的な品質管理やコストの削減を可能とするとともに,規制の柔軟な運用が可能とする方針を打ち出した。本稿では,原薬の管理に 関 し て ICH Q11(Development and Manufacture of Drug Substances)と, 現 在 議 論が進 行 中であるICH Q11 IWG(Questions & Answers:Selection and Justifi cation of Starting Materials for the Manufacture of <Synthetic> Drug Substances)にも触れながら紹介

したい。なお,本稿は著者の個人的見解に基づくものであり,PMDA及びICH Q11の公式見解を示すものではないことにご留意いただきたい。

ICH Qガイドラインの推移1

1990年のICH発足以降,品質(化学合成品関連)のガイドラインは,Q1の安定性試験に関するガイドラインを皮切りに,Q3Dまでが国際調和(合意)され,さらに最近ではQ11 IWG及びQ12の議論が開始されている(表1)。

このガイドラインの流れを読み解くと,そこには1つの大きな動向が見て取れる。それはICH Q1〜Q6は,基本的に共通の「規制値等」の基準を明記したガイドラインであること。例えばICH Q1では保存条件やその期間,Q3では不純物の許容限度値が示されている。ICH発足は,そもそも効率の良い医薬品開発・承認審査を行うための各極における基準の標準化であり,結果として医薬品をより早く患者様の元へ届けることを目的としていること

医薬品医療機器総合機構(PMDA)ジェネリック医薬品等審査部

高木和則KAZUNORI TAKAGI

Office of Generic DrugsPharmaceuticals and Medical Devices Agency

1

第4章

ICH Q11(原薬の開発と製造ガイドライン):現状と今後の展望ICH Q11 (Development and Manufacture of Drug Substances) : Current Situation of API Assessment, and Expectation

ICH Q11:ガイドラインの現状と今後の展望

 ● Vol.32 No.11(2016)120(2132)

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1 ICH Q11(原薬の開発と製造ガイドライン):現状と今後の展望

を鑑みると,ICH Q1〜Q6は国際調和という観点から,非常に大きな役割を果たしてきた。一方,規制値等の共通化のみでは,医薬品業界において自主的な品質改善や向上が図りにくい。なぜなら医薬品の製造は,その製造工程が各規制当局の承認事項となっているという他の製造業には見られない非常に特徴的な面を有しているからである。そこでこの問題解決を図るべく作成されたのがICH Q8〜Q11であり,科学と品質リスク管理に基づくコンセプチュアル(概念的)なガイドラインである(「規制」ではなく「考え方」を示している)。

本稿で解説するICH Q11は,原薬の開発と製造に関するガイドラインであり,その考え方は化学医薬品のみならず生物薬品の原薬にも適用可能としている。そのため,ICH Q11は製造工程や化合物自体の「複雑さ」を考慮したガイドラインとするコンセプトの下に作成され,化学薬品(低分子)から生物薬品(高分子)の専門家を交えて議論を行った。

さらに昨今のICH M7(変異原性不純物)やQ3D(元素不純物)ガイドラインは,コンセプチュアルなこれらQカルテットの考え方を基礎に,規制が検討された科学と品質リスク管理に基づく新たな実効性ガイドラインであると考えられる。したがって,これらガイドラインに対応するためにも,Q11を始めとするQカルテットのコンセプトを理 解することは重 要であると考える。 さらに,Q12及びQ11 Q&Aの一部においては,承認後の変更等も見据えたガイドラインであり,現行の薬事制度にも少

なからず影響を与える議論がなされている。

開発の手法に関して2

ICH Q11では,Q8と同様に開発手法として「従来の手法(Traditional Approach)」に加えて,「より進んだ手法

(Enhanced Approach)」,またはハイブリッドによる開発手法が記載され,それぞれ目的に適した開発手法を推奨している。より進んだ手法は,製造工程を理解した上での種々の説明が可能となり,量産すればするほど費用対効果は大きくなると見積もれる反面,やはり取組みに向けた社内の理解や開発時のリソースを考慮する必要があると思われる。一方,流通量の少ない品目等は従来の手法を主にしたハイブリッドによる開発手法が良いのかもしれない。なおどのような開発手法であっても,その製品のコンセプトを理解した上で,よりよい品質の製品を恒常的に作り続けることが最も重要である(図1)。以降3-(1)及び(2)において,パブリックコメント等を通じ特に質問が寄せられた事項を,合成医薬品及び生物医薬品のそれぞれの観点より解説する。

パブリックコメント等を通じ特に質問が寄せられた事項3

(1)上流管理の重要性(化学薬品)原薬と製剤の製造工程の違いを考察すると,原薬の製

造工程は,構造の異なる化合物が生成または除去され,

表1 ‌‌品質に関するICHガイドライン(合成医薬品関連)

安定性

Q1A(R2):安定性試験ガイドラインQ1B:新原薬及び新製剤の光安定性試験ガイドラインQ1C:新投与経路医薬品等の安定性試験成績の取扱いに関するガイドラインQ1D:原薬及び製剤の安定性試験へのブラケッティング法及びマトリキシング法の適用Q1E:安定性データの評価に関するガイドライン

分析バリデーション Q2A:分析バリデーションに関するテキスト(実施項目)Q2B:分析バリデーションに関するテキスト(実施方法)

不純物Q3A(R2):新有効成分含有医薬品のうち原薬の不純物に関するガイドラインQ3B(R2):新有効成分含有医薬品のうち製剤の不純物に関するガイドラインQ3C(R3):医薬品の残留溶媒ガイドライン

規格等 Q6A:新医薬品の規格及び試験方法の設定

GMP Q7:原薬GMPのガイドライン

QbD関連

Q8(R2):製剤開発に関するガイドラインQ9:品質リスクマネジメントに関するガイドラインQ10:医薬品品質システムに関するガイドラインQ11:原薬の開発と製造ガイドライン

不純物(リスクベース) M7:潜在的発がんリスクを低減するための医薬品中DNA反応性(変異原性)不純物の評価及び管理Q3D:医薬品の元素不純物ガイドライン

ライフサイクル Q12:医薬品のライフサイクル管理

 ● Vol.32 No.11(2016) 121(2133)

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はじめに

ICH Q12(Technical and Regulatory Considerations for Pharmaceutical Product Lifecycle)が医薬品規制調和国際会議(International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for human use:ICH)のトピックとして採択され,Expert Working Group(EWG)での議論が始まって,約2年が経過した。その間,様々な議論がEWGでなされ,考えがまとまりつつある内容もあれば,まだまだ議論が必要な内容も残されている。本稿が掲載されるのは,大阪での5回目となる対面会議に向けて議論が活発になっている時期で,本稿を執筆した時点とは異なる内容になっている可能性があるが,本稿では,ICH Q12の背景やこれまでにどのような議論があったかを中心に,今後の展望について紹介したい。

なお,本稿は,著者の個人的見解に基づくものであり,PMDA及びICH Q12 EWGの公式見解を示すものではないことにご留意いただきたい。

背景1

まず,ICH Q12のテーマである「医薬品のライフサイクルマネジメント」が,ICHの品質分野のトピックとして採択された背景を説明したい。

2014年6月のミネアポリスでのICH対面会議に合わせて,ICH Quality Strategy Workshopが開催された。本ワークショップの目的は,2003年にICHで採択されたICH Quality Vision(図1)に関して,これまでの活動を振り返り,今後,品質分野で議論すべき事項を検討することであった。

医薬品医療機器総合機構(PMDA)再生医療製品等審査部岸岡康博

YASUHIRO KISHIOKA

Office of Cellular and Tissue-based Products, Pharmaceuticals and Medical Devices Agency

1

第5章

ICH Q12(医薬品のライフサイクルマネジメント):現状と今後の展望ICH Q12 (Pharmaceutical Product Lifecycle Management) : Current Status and Future Perspectives

今後のグローバル品質トピック

Develop a harmonised pharmaceutical quality system applicable across the life cycle of the product emphasizing an integrated approach to quality risk management and science

図1  ICH Quality Vision 2003

 ● Vol.32 No.11(2016)128(2140)

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1 ICH Q12(医薬品のライフサイクルマネジメント):現状と今後の展望

本ワークショップの概要は,参加者からの報告1)を参照していただきたいが,今後,議論すべき内容として,優先度順に,以下のトピックが特定された。

・Lifecycle Management・API Starting Materials・Quality Overall Summary・ Enhanced Approaches for Development and

Utilization of Analytical Procedures・Continuous Manufacturing of Pharmaceuticalsその後,ICHミネアポリス会議で,Steering Committee

(現 Management Committee)に「Lifecycle Management(医薬品のライフサイクルマネジメント)」を次の品質分野のガイドラインのトピッ クとすることが了 承され,2014年9月にコンセプトペーパー2)及びビジネスプラン3)

が採択されたわけであるが,なぜ,「医薬品のライフサイクルマネジメント」が最優先事項とされたのか。その理由として,ICH Q12のコンセプトペーパー及びビジネスプランでは,ICH Q8(R2),Q9,Q10及びQ11ガイドライン(並びに関連する留意事項及び質疑応答集)の発出により,製品ライフサイクルを通じ,より科学とリスクに基づいた品質保証の考え方(変更の評価方法)が明文化されたところであるが,これらのガイドラインは主に医薬品のライフサイクルの初期,つまり開発から承認までに焦点が当たり,承認後の段階に目を向けると,CMCに関する変更について柔軟な運用が実現されていないことが挙げられている。また,各国・地域で変更に際し必要とされる資料及び薬事手続きが異なる現状は,変更による企業のイノベーションや継続的改善を妨げる要因になっていると指摘されている。

なお,ICH Q12の議論が始まる前に,様々な学会等で,CMCに関する承認後変更管理の複雑さ(具体的には,承認を得ているすべての国・地域で1つの変更を完了するには長い期間を要すること,変更申請時に生じる各規制当局からの要求の違いにより,異なる管理が求められること等)について言及する企業からの発表が多くあったことは,触れておくべき事項である。

ICH Q12の目的及び適用対象2

そこで,ICH Q12は,製品ライフサイクルを通じて,より予測可能かつ効率的な方法でCMCに関する変更を行うことが可能となる枠組みを構築することを目的に,その活動が開始された。また,ICH Q12ガイドラインは,規制当局及び企業のリソースの最適化,企業のイノベーションや継続的改善のサポート,またこれらを通じて,医薬品の安定供給や品質向上に資することが期待されている。

ICH Q12の予定する適用対象は,既承認の化学合成品及び生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)を含む医薬品である。ジェネリック医薬品への適用については,各規制当局により判断されることとされており,日本では,ICH Q12の議論内容及び国内状況を踏まえて,ガイドライン発出時までに判断されるものと考える。

ICH Q12で解決すべき課題及びそれらに関するこれまでの議論3

前述の目的を達成するため,ICH Q12のコンセプトペーパーでは,解決すべき課題として図2に示す内容が挙げられている。

2014年11月に開催された1回目の対面会議であるリスボン会議では,筆者を含めて,コンセプトペーパー及びビジネスプランの作成に関わっていないEWGメンバーが多かったこともあり,これら資料の内容に対する共通認識を構築することから作業が始まった。その後,2015年6月福岡,2015年12月ジャクソンビル及び2016年6月リスボンと,これまでに4回の対面会議が実施された。また,対面会議間には,EWG全体での電話会議及び議論内容毎のサブチームでの電話会議やメールでの議論が実施され,EWG内に構成されるサブチームは最大で6~7になったこともあった。EWGにおけるこれまでの議論内容を本稿ですべて網羅することは難しいため,筆者が重要と考える点について,以下に紹介することとする。

なお,図2の内容に関して,EWGメンバーの一人が,ある会議で以下のように述べていた。現在,イノベーションや継続的改善を目的に,製品の製造や管理を改善したいと考えても,承認後変更管理の複雑さに起因する不確かさやコストの影響で,その計画が企業内で了承されにくい。そのため,予め規制当局と合意された計画があれ

 ● Vol.32 No.11(2016) 129(2141)

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