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2014 年年 年年年年 年年年年年年年年年年年年年年年年年年年年年年 —年年年年年年年年年年年年年年— 年年年年年年 年年年 年年年年年年 年年年年年 年年年年年年年 11105820 年年年年

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2014年度 卒業論文

国立大学における授業料政策と奨学制度の在

り方

—高等教育機会の均等化にむけて—

慶應義塾大学

文学部 人文社会学科

教育学専攻 松浦良充研究会

11105820 久保千尋

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目次

序章 1

第一節 はじめに 1第二節 テーマ概要と基本的な概念 2

第三節 家庭的背景による進学格差 2

第一項 貧困率の上昇 2

第二項 家庭環境の影響力 5第四節 問題提起 7

第一項 高等教育の社会的機能 7

第二項 機会均等と公平性 8

第一章 研究目的と論証方法の提示 10

第一節 授業料を巡る現状 10

  第一項 日本の高学費負担の現状 10

第二項 授業料の高騰 12

第三項 日本の奨学金制度 13

 第二節 先行研究検討 16  第一項 高学費負担の思想的要因 16

第二項 公的支出 18第三項 奨学金制度 19

第四項 先行研究検討まとめ 20

第三節 筆者の主張と論証方法の提示 21

  第一項 筆者の主張 21

  第二項 論証方法の提示22

第二章 授業料減免と奨学金制度 23

第一節 有利子貸与型奨学金制度の拡大政策 23

 第二節 授業料減免制度の現状 23

第一項 日本における給付型奨学金制度と授業料減免制度 24

  第二項 授業料減免制度の根拠 24

2

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第三章 国立大学の社会的役割 26

第一節 国立大学法人化の目的 26

第二節 セーフティネットとしての役割と大学の自主性 27

第三節 大学資金配分 27

第四章 本研究のまとめ 29

第一節 まとめと示唆 29

第二節 残された課題 30

参考文献 31

要約 38

3

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序 章

第 一 節   は じ め に 大学進学率が2009 年度に50% を超えてから、「大学全入時代」という言葉をたびた

び耳にするようになった。グローバル化や情報化、少子高齢化などの社会情勢に直面した

現在、高等教育において育成が目指されている課題解決能力、批判的思考力、リーダー

シップ、高度な知識を有した人材への需要はさらに高まると予想される。実際、OECD に加盟している先進諸国では、高等教育への進学率は上昇し続けている。日本においても、

高等教育機会の充実に努めることは重要な課題とされている。

 しかし、現状では、OECD 加盟国のなかでも、日本の高等教育の進学率は高いとはいえず、OECD 平均を下回っており、進学率が50% で留まっている。また、大学自体も増加

し、大学収容力が増えてきているにも関わらず、進学率は前述の通りである。それらの要

因として、高等教育への公的支出の少なさが指摘されており、私費負担の高さが問題とさ

れている。各家庭において、「多少の無理をして」子どもを大学に進学させる家計に支え

られて、現在の大学進学率を維持していると指摘されている。事実、家庭の経済力によっ

て進学率が異なることが、東京大学大学院の調査によって明らかにされている。親の経済

力が子どもの学習意欲に影響することも、先行研究により明らかにされており、大学進学

を志望するまえにあきらめてしまっている潜在的な層も存在すると推測される。

 高等教育の高学費負担の問題は、さまざまな問題をもたらす。そのひとつに、少子化問

題がある。少子化対策に関する特別世論調査をはじめとする各種世論調査において、教育

費負担の重さが子供の数に少なからず影響していることがアンケートにより示されている。

特に大学へ通う子供をもつ家庭の消費支出は、支出の3分の1以上を占めており、世帯収

入を超え、赤字となっている1 。

 また、高等教育を受けた人材は、高等教育を受けていない人材に比べ、社会へ還元する

収益率が高いことがわかっている。2012 年、日本は長年留保してきた国連の人権規約に

おける「高等教育の無償化の漸進的導入」についての留保を撤回した。高等教育を必要と

する人が、いつでも高等教育にアクセスすることのできる環境を整えることが求められて

いるのは、国際的な社会動向である。

 現在、グローバル化の流れを受けて、留学生の受け入れや外国人教員の受け入れや質の

保証など、さまざまな課題を抱える中で、大学のコストという問題は大きなトピックと

なっている。そのさまざまな問題に対して多くの費用を投資しなければならないなかで、

どのように学生への経済的支援を行っていくべきか。

 本研究は、高等教育への進学機会の均等化にむけて、現行の奨学金制度について検討す

ると共に、授業料減免制度について考察するものである。

1 統計局 HP「平成 21年全国消費実態調査」http://www.stat.go.jp/data/zensho/2009/hutari/pdf/gaiyo.pdf(2014年 12 月 22日取得)

1

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第 二 節   テ ー マ 概 要 

 本論文では、「国立大学における授業料減免制度」を軸にして、高等教育機会の均等に

ついて論じる。戦後、国立大学の授業料は、低所得者層へのセーフティネットとして低廉

に抑えられており、高等教育機会の均等を保証してきた。しかし、私立大学によって高等

教育人口が拡大していくと、国立大学の授業料の低さが私立大学に比べて不平等であると

考えられ、社会的な問題となった。これは、国立大学は入試の難易度が高く、高い選抜性

をもつということ、また、高所得な家庭出身者は学力が高い、という二つの考え方に基づ

いて、国立大学に低い学費で通う学生には高所得者層の学生が多く、私立大学に高い学費

を支払って通う学生のほうに低所得者層が多くなったと考えられたからである。その結果、

国立大学の授業料は引き上げられ、現在はセーフティネットとしての役割は薄くなってい

る。しかし筆者は、国立大学は未だ低所得者層へのセーフティネットとして機能しうると

考え、高等教育機会の格差を論じるにあたって、国立大学に焦点を絞って論を進めたいと

考える。

 次に、本論文における基本的な概念をあきらかにしておく。

 まず、「奨学金」についてである。「奨学」には、奨学金といった学生への経済的援助

だけではなく、寮・食堂などの福利厚生や学生相談などの学習支援などが含まれることが

ある。本論文では、「奨学金制度」として、狭義に、学生に対する経済的な援助として用

いる。「学生支援」場合もこれと同じである。

 次に、学費・授業料・学納金についてである。本論文では、基本的に「授業料」という

言葉を用いて論じている。「授業料」には、広義に捉えるとき、入学金や学納金、書籍代

や通学費などが含まれることがある。本論文においては、家計の教育費負担(もしくは私

費負担)としての文脈では、「学費」という言葉を用いることとし、狭義に学納金のみを

さす場合に「授業料」という言葉を用いることとする。

第 三 節   家 庭 的 背 景 に よ る 進 学 格 差 本研究における課題となる、授業料の高騰や高額な教育費の負担のために引き起こされ

る高等教育の進学格差には、家庭の経済的格差という背景が存在する。この節では、進学

格差への家庭の影響を概観する。

第一項 貧困率の上昇 現在、日本における子どもの相対的貧困率(社会のなかで何%の人が貧困であるか)は

上昇傾向にある。「貧困」とは、1世帯あたりの可処分所得(あるいは手取りの所得)を

家族人数で調整した値(等価可処分所得)を、最高の人から最低の人まで順に並べて、そ

の真ん中にいる人の所得を基準とする。2 また、子どもの貧困率とは、子ども(17 歳以

下)が属する世帯の可処分所得をもとに、子ども全体に占める等価可処分所得が基準に満

たない子どもの割合を指す。3 子どもは、自ら所得を稼がないので、子どもを扶養する保

2橘木俊昭『日本の教育格差』、岩波書店、2010年、p.1613 厚生労働省「国民生活基礎調査(貧困率)よくあるご質

2

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護者の貧困率が、子どもの貧困率とされている。以下の図0 3 1は、相対的貧困率と− − 、

子どもの貧困率の推移を示している。日本において、20 年前と比較して貧困率が上昇傾

向にあることがわかる。17 歳以下の子どもの相対的貧困率が上昇傾向にあるということ

から、十分な学校教育および後期中等教育が受けられていない可能性があるといえる。こ

のことは、子どもの学力や進学傾向に影響を与えると推測することができる。

図0—3—1. 相対的貧困率4

昭和 60_x0

00d_ ( 198

5 )

平成 3_x00

0d_( 199

1 )

9_x00

0d_( 199

7 )

15_x0

00d_ ( 200

3 )

21_x0

00d_ ( 200

9 )048

1216

全体子どもの貧困率

図0 3 2− − . 先進諸国における貧困率5

メキシコアメリカ 日本 カナダ

イギリスOEC

D 平均 ドイツスウェーデン

フランスデンマーク

0

5

10

15

20

25

先進諸国の貧困率

 図0 3 2から、− − OECD 諸国と比較しても、相当高い数値を示していることを読み取

ることができる。日本における貧困問題が深刻な状況にあることがわかる。

 

 以下の図0 3 3は、子どものいる世帯を大人が一人の世帯と、二人以上の世帯にわ− −けた貧困率である。(「大人が一人」世帯には、ひとり親家庭以外にも祖父母などの場合

問」http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/20-21a-01.pdf(2014年9月7日取得)4厚生労働省「平成 25年度国民生活基礎調査」http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa13/dl/03.pdf(2014年9月6日取得)をもとに作成5 OECD 東京センター「貧困率 (Poverty rate)」http://www.oecd.org/tokyo/statistics/(取得日:2014年9月6日)をもとに作成

3

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も含まれている。6

図0 3 3− − . 子どもがいる現役世帯の貧困率7

昭和 60_x0

00d_ ( 198

5 )

平成 3_x00

0d_( 199

1 )

9_x00

0d_( 199

7 )

15_x0

00d_ ( 200

3 )

21_x0

00d_ ( 200

9 )0

204060

子どもがいる現役世帯(全体)大人が1人大人が2人以上

「大人が一人」世帯には、母子家庭・父子家庭以外の世帯も含まれているが、ひとり親家

庭および母子家庭がいかに経済的に不利な状況にあるかが推察できる。

 稲葉8 は、母子家庭における子どもの教育達成について、「家庭の経済状況が子どもの

進学に影響を与える」ことを示した。社会保障制度が整備されていったことによって、貧

困が個人の人生に及ぼす影響が小さくなっているという仮説は、少なくとも母子家庭出身

者にはあてはまらないとし、遺族年金や児童扶養手当などの社会保障制度は、子どもの大

学進学を想定していなかったため、社会全体の高学歴化にともなって大きな格差が顕在化

してきたと主張している。

第二項 家庭環境の影響力 出身階層における経済力が本人の教育達成に影響することから、階層が再生産されるこ

とがわかっている。

 耳塚9 は、日本において、学力を獲得するのに特に大きな規定要因となるものは、保護

者学歴期待、学校外教育費支出、世帯所得であると明らかにした。ブラウンが、市場化し

た社会においては、人々の選抜は「能力+努力=業績」というメリトクラシー方式ではな

く、「富+願望=選択」というペアレントクラシー方式に沿って行われる、という考えに

あてはめ、親の富(学校外教育費支出、世帯所得)と願望(保護者学歴期待)が子どもの

学力を規定しているという意味で、日本社会もペアレントクラシーへの道を歩んでいると

推測できると主張した。

 片瀬・平沢10 は、自らが学校外教育を受けた経験を持つ親ほど子どもへの教育投資意向

6厚生労働省「国民生活基礎調査(貧困率)よくあるご質問」http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/20-21a-01.pdf(取得日:2014年9月7日)7厚生労働省「平成 25年度国民生活基礎調査」http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa13/dl/03.pdf(取得日:2014年9月6日)をもとに作成8 稲葉昭英「ひとり親家庭における子どもの教育達成」,『現代の階層社会』,p.2509耳塚寛明 「小学校学力格差に挑む だれが学力を獲得するのか」『教育社会学研究』第 80号 pp.23-39,2007年10片瀬一男,平沢和司「少子化と教育投資・教育達成」,『教育社会学研究』,第82集,pp.43-

4

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が強いことを明らかにしている。また、学校外教育投資が大衆化した現在では、「抜け駆

け効果」はもたなくなっているが、大学進学率の上昇期には教育達成を直接高めると同時

に、中学3年時成績を経由して間接的にも教育達成を促進する効果をもつことも明らかに

している。そして、教育の市場化によって高騰する教育費負担のもと、依然としてきょう

だい数に応じて教育投資が希釈されている可能性も示唆した。

苅谷11 は、教育の不平等が生じるメカニズムとして、「インセンティブ・ディバイド」と

いう概念をあげている。「過度な受験戦争」や「詰め込み教育」の反省から、学業成績を

基準として競争の圧力を学校教育から取り除くことに全力をあげ、「ゆとり教育」や

「AO 入試」の拡大などを取り入れた結果として、やる気を引き起こす要因、インセン

ティブが見えにくくなってきたことを指摘している。このことは、社会階層の比較的低い

層において、「将来の生活への効果が勉強することによって得られるとは限らない」と感

じさせ、学校での成功をあきらめさせるという、学習意欲の低下を引き起こしている。

このことから苅谷は、(1) 社会階層の比較的上位の家庭で育った子どもたちは、たとえイ

ンセンティブが見えにくくなっても、その環境ゆえにそれを見抜き、意欲を維持している

可能性、 (2) 社会階層・上位グループの子どもほど、興味・関心をもちやすく、しかも

それを学習意欲に結びつける術を知っている、つまり、「内発的な動機づけ」による学習

が容易であるという可能性から、社会階層の上位と下位の子どもにおいて学習意欲の二極

化が進み、「意欲格差」が生じていると主張している。

以上の研究において、教育費が親の社会階層や期待や経済力によって子供の教育達成が規

定されることが示されている。貧困率の上昇や母子家庭の増加など、経済的格差の増加す

る日本において、高等教育における教育費の高負担は、さらなる格差をもたらすと考えら

れる。

以下の図0 3 4は、高校卒業後の進路を両親の年収別に表したものである。− −図0 3 4− − . 高校卒業後の予定進路(両親年収別)12

59,2008年11苅谷剛彦『階層化日本と教育危機 : 不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ』, 有信堂高文社,2001年12東京大学大学経営・政策研究センター「高校生の進路調査 第1次報告書」http://ump.p.u-tokyo.ac.jp/crump/resource/crumphsts.pdf(2014年8月 26日取得)

5

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親の年収が400万円以下の場合、就職と4年制大学への進学がほぼ同水準であるのに対し

て、親の年収が1000 万円超の場合、4年制大学への進学が6割を超え、就職する人は

10% にも満たない。就職と進学の動きが家庭の経済的背景によって左右されていること

がわかる。また、同調査では、進路を決めた要因についても明らかにしている。進路を決

定した要因としては、「成績が進路を決める理由になった」という回答が最も多く、全体

の67.3%を占める。以下、「地理的条件が、進路を決める理由になった」(57.9%) 、「経

済的な条件が、進路を決める理由になった」(43.9%) と続く。家庭の経済的条件が、高校

3年生が進学するかどうかを決定する際に、大きな一要因となっていることが認識できる。

 また、角岡13 は高等教育機関への進学率と貧困に関する指標には、弱い相関関係が認め

られることを示し、「進学率の高い国では経済的格差が小さい」ことを確認した。さらに

大学学費とジニ係数や相対的貧困率といった貧困に関する指標に相関関係があることを示

し、「社会的不公平が大きい国においては大学学費が高い」という傾向を示した。これら

のことから、社会的・経済的格差は高等教育の在り方と関連があるとして、格差が拡大す

るということは貧困層が増えることに結びつき、子どもに高等教育まで受けさせる機会が

少なくなると結論づけた。

 以上のように、高等教育機関への進学と、家庭の経済的背景をはじめとする家庭的背景

には、有意な相関関係が認められ、「大学全入時代」としてもたれているイメージとは異

なり、依然として高等教育機会に不平等が生じている現状があることがわかる。

第 四 節   問 題 提 起 第三節において、進学格差を引き起こす家庭の影響を確認した。本節では、なぜ家庭的

背景から生じる進学格差が問題となるのか、現代日本の社会的背景や高等教育に求められ

る社会的機能を確認する。

13角岡賢一「高等教育の学費と格差社会の相関関係について」、『社会科学研究年報』、龍谷大学社会科学研究所、41巻、pp.84 – 95、2011年

6

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第一項 高等教育の社会的機能

 現在、日本における高等教育への進学率は50%14を超えている。文部科学省において

も、OECD 諸国と比較して、日本は低水準であり、進学率も停滞していることを問題視さ

れている。しかし、高等教育は、能力に応じて進学する教育機関であり、なぜ進学率の上

昇が目指されるのか、また進学格差が問題となるのか。本項では、現代社会から高等教育

に求められているもの、高等教育の社会的機能を確認することでこの問いに答えていく。

図0 4 1− − . 学歴・年齢別賃金15

20~24

25~29

30~34

35~39

40~44

45~49

50~54

55~59

60~64

65~69

0.0

100.0

200.0

300.0

400.0

500.0

600.0

大学・大学院卒高校卒

 上記の図0 4 1では、最終学歴によって、企業における賃金に差が生じることを− −示している。一般的に子どもが初等教育や中等教育に通い始めると考えられる35 〜39歳において、大学・大学院卒では、353.8 万となっているのに比べ、高校卒では257.1 万となっており、賃金におよそ100万円もの差が生じていることがわかる。また、子どもが

大学・大学院に進学すると考えられる、50~54 歳においては、大学・大学院卒が512.1万なのに対して、高校卒では、303.0 万となっており、およそ200万円もの差が生じてい

ることがわかる。このように、個人・世帯レベルにおいて、教育達成における格差が、所

得格差を生み、子ども世代への教育格差へと連鎖していく構造が推測できる. 島16 は、国立大学の外部効果について、研究機能、大学院教育機能、研究的大学開放機

能において、中核的な役割を果たしているとの見方を示した。さらに学部教育機能も有し

ており、人材育成に大きな役割を果たしていることを明らかにした。

さらに、グローバル化や情報化という、急激に変化し続ける現代社会において、高等教育には様々なことが要求されている。政府は「グローバル人材育成推進会議」を立ち上げ、

14電子政府の総合窓口イーガブ「平成 25年度学校基本調査」http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001051733&cycode=0(取得日:2015年1月2日)15厚生労働省「賃金構造基本統計調査」http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2013/index.html(取得日:2014年 12 月 26日)をもとに作成16 島一則「国立大学システムの機能に関する実証分析―運営費交付金の適切な配分に向けて―」、『RIETI Discussion Paper Series 09-J-034』、pp.1-73、2009年

7

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具体的な育成についての目標や方策を検討している。そのなかでも、平成24 年度に出さ

れた文部科学省による「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び

続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)」では、グローバル人材の土台とし

て必要な、国の歴史や文化に関する知識や認識、多元的な文化の受容性、あるいは前述の

ような認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力を育成するた

めに、高等教育の果たす役割は大きいとしている。17 また、大学は「未来を見通し、これ

からの社会を担い、未知の時代を切り拓く力のある学生の育成や、将来にわたって我が国

と世界の社会経済構造や文化、思想に影響を及ぼす可能性を持つ学術研究の推進などを通

して、未来を形づくり、社会をリードする役割を担うことができる。」とし、「様々な社

会システムの中で、知的蓄積を踏まえた「知」の継承や発展そのものを目的とした自律的

な存在である大学にこそ、こうした役割が求められている」としている。18

 事実、そういった高等教育の役割は国際的に認識されており、これまでの「エリート」

のための教育ではなく、高等教育の機会は今後ますますの拡大が目指されている。

図0 4 2− − .OECD諸国の高等教育進学率の比較

2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 2011 年0

20

40

60

80

100

120

オーストラリアフィンランドドイツ日本韓国イギリスアメリカOECD 平均

 高等教育の意義が拡大され、大学には多様性が求められている。今後の知識基盤社会の

発展において、日本が国際的な競争力を持って、国際社会で発展していくには、大卒の人

材を増やす必要がある。まず、そのための人材の確保が必要とされており、前述の答申に

おいても、「現在の大学進学率等の水準が過剰であるという立場をとら」ず、高等教育人

材需要の増加に対応して人材を輩出する責務を持つとしている。19

第二項 機会均等と学生支援の公平性

17 文部科学省「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)」、平成 24年 8 月 28日、http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1325047.htm(取得日:2014年 12 月 26日)18 前掲(15)に同じ19 前掲(15)に同じ

8

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 政府による政策目標として、「高等教育機会の均等」の重要性が認識され、理念として

掲げられているにもかかわらず、高等教育機会における格差が社会的な問題として顕在化

されてこなかったのはなぜか。それを踏まえた上で、本項では高等教育機会の格差を問題

とする根拠を筆者の問題意識とする。

 

 第一項であげた高等教育の社会的機能は、国連の人権条約においても認識されており、

「高等教育を受ける権利」として保証されている。

 世界人権宣言の第26 条第1項20 では、「すべての人は、教育を受ける権利を有する。

教育は、少なくとも初等の及び基礎的の段階においては、無償でなければならない。初等

教育は、義務的でなければならない。技術教育及び職業教育は、一般に利用できるもので

なければならず、また、高等教育は、能力に応じ、すべての者に等しく開放されていなけ

ればならない。」とされており、初等教育のように無償と規定してはいないが、いかなる

差別的な待遇によって機会を閉ざされることなく、能力に応じてひとしく開放されなけれ

ばならないことが定められている。

 また、ユネスコの「教育における差別待遇の防止に関する条約」の第1条21 では、教育

における差別的な待遇として、「人種皮ふの色、性、言語、宗教、政治上その他の意見、

国民的若しくは社会的出身、経済的条件又は門地に基づき、教育における待遇の平等を無

効にし又は害すること」と定義されている。

 国際人権規約(社会権規約)の第13条22 では、「高等教育は、すべての適当な方法に

より、特に、無償教育の漸進的な導入により、能力に応じ、すべての者に対して均等に機

会が与えられるものとすること」と、高等教育の機会均等に関する考え方が、端的に「無

償」という言葉によって表されている。

 日本は、長年この条約について、留保という措置をとってきた。日本においては、高等

教育機会の拡大に対して、私立大学の役割が大きく、私立大学も含めた無償化を実現する

ことが難しいと判断されたためである。しかし、2012 年9月に「高等教育の無償教育の

漸進的導入」についての条約の留保を撤回しため、国際人権規約に拘束されることとなり、

機会均等の達成に向けて努力しなければならないようになった。賃金格差を生じさせる教

育達成の格差は、第三節で概観してきたように、家庭がどれほど子どもに対して投資する

ことができるのかということの影響を受けている。つまりこのような不平等が存在するこ

とを課題として、不平等を是正し、高等教育へのアクセスを拡大しなければならない義務

を有しているといえる。

 さらに、教育機会均等については、国内法においても規定されており、教育基本法第4

条(教育の機会均等)23 において、

20 外務省 HP「世界人権宣言」http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/udhr/(取得日:2014年12 月 27日)21 文部科学省 HP「教育における差別待遇の防止に関する条約」http://www.mext.go.jp/unesco/009/003/007.pdf(取得日:2014年 12 月 27日)22 外務省 HP「経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)第 13条 2(b)及び(c)の規定に係る留保の撤回(国連への通告)について」http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/tuukoku_120911.html(取得日:2014年 12 月 27日)23 電子政府の総合窓口イーガブ「教育基本

9

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  「第4条 すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えら

れなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、

教育上差別されない。

2  国及び地方公共団体は、障害のある者が、その障害の状態に応じ、十分な教

育を受けられるよう、教育上必要な支援を講じなければならない。

3  国及び地方公共団体は、能力があるにもかかわらず、経済的理由によって修

学が困難な者に対して、奨学の措置を講じなければならない。」

と定められている。教育基本法における「教育」のなかには、当然高等教育も含まれるた

め、国際条約である「高等教育の無償教育の漸進的導入」についての条約の留保を撤回し

た現在、国立大学・私立大学という設置形態に関係なく教育費の私費負担が大きく、高等

教育機会の均等の不平等をもたらしている問題をそのままにしておくわけにはいかない喫

緊の課題であるといえる。

 矢野24 が、「機会を平等化すれば、格差が是正されるかどうかは、不確かである。しか

し、機会の平等化によって格差が拡大することは決してなく、そして格差を是正する可能

性が高い。これが機会平等政策の強みである。「機会を平等化しても格差が是正しない」

という事例を取り上げて、機会の平等政策を排除すべきではない。機会は、常に広く開か

れていることに価値がある。」と主張しているように、より高等教育機会が平等化された

状態を目指すことで格差の是正を目指すために重要な課題であるといえる。

法」http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H18/H18HO120.html(取得日:2014年 12 月 30日)24 矢野眞和「教育費の社会学」、『教育機会均等への挑戦』、東信堂、pp.427-439

10

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第 一 章   研 究 目 的 と 論 証 方 法 の 提 示

 序章では、高等教育での人材育成に関して社会的に多様なニーズが存在していること、

日本の高等教育において家庭の経済的背景による格差が生じており、高等教育機会の不平

等が存在していることを概観し、高等教育を必要とする人がいつでも高等教育にアクセス

することができるようにするために高等教育機会を拡大すべきであるという筆者の主張を

確認した。本章では、高等教育機会への機会拡大に対して、現状として学生への経済的支

援が十分でないことを確認する。先行研究者による日本における授業料および奨学金制度

についての主張を確認、検討した上で、筆者の主張を述べる。

第 一 節 授 業 料 を 巡 る 現 状

 第一節では、日本の高学費負担問題について、授業料及びそれに伴う奨学金制度が充実

したものになっているのかどうか、確認する。

第一項 日本の高学費負担の現状 教育費の家計負担の増加や、家庭の経済的背景が進学への障害となる背景に、教育の公

費負担が抑制されている現状がある。

図1 1 1では、− − OECD 諸国において、対GDP比で教育費をどれほど支出しているか

示したデータである。このうち、フランス・イギリス・フィンランドは高等教育機関のほ

とんどが国立及び州立の大学である。日本の教育支出は 5.11%であり、OECD 平均の6.26%を下回り、OECD 諸国の中でもかなり低い水準に位置していることがわかる。また

日本の教育支出と経年比較しても、2000 年の4.98%、2005 年の4.88%から、さほど変

化はないことから、日本において公的教育支出の低さにそれほど関心がもたれてこなかっ

たことが伺える。2000 年に同水準であったイギリスにおける支出が2010 年にはOECD平均を大きく上回っていること、また、他のOECD 諸国でも、一部の国をのぞいて、ほと

んどの国が、2005 年度よりも教育支出の割合が増加していることがわかる。つまり、国

際的に教育への支出に関心がもたれていたにもかかわらず、日本においてはそれほど政策

として実行されていなかったことが伺える。

図1 1 1− − . 国内総生産に対する教育支出の割合25

25 文部科学省「図表でみる教育(Education at a Glance)OECDインディケータ 2013年度版」http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/002/index01.htm(2014年9月8日取得)をもとに作成

11

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日本

オーストラリアOEC

D 平均フランス

イギリスフィンランド カナダ

アメリカ 韓国デンマーク

0123456789

対 GDP 比 (%) 2000対 GDP 比 (%) 2005対 GDP 比 (%) 2010

  このように、日本の教育における支出は、各国と比較して低水準である。これについ

ては、平成24 年度の厚生労働省白書においても、「国民生活を保障する枠組みを社会保

障と雇用の観点から捉えると、安定的な雇用の維持 によって人々( 特に現役世代) の生

活が支えられていたため、社会保障への支出規模 (OECD の定義する社会支出の対

GDP 比) は他の先進諸国に比べて小さく、また、少子化対策が進展せず、家族給付が少

なかった結果、その支出の多くは企業等を退職した高齢者のための医療、介護や年金に向

けられていたということかができる。」と記述されている。26

図1 1 3− − . 高等教育における教育支出の公私負担割合27

日本イギリス

スウェーデン

オーストラリアイタリア

フランス0%

10%20%30%40%50%60%70%80%90%

100%

高等教育 公的支出高等教育 家計支出高等教育 その他の私的支出

 さらに高等教育における教育支出は極端に抑えられていることが図1 2 5からわか− −26 厚生労働省「平成 24年度厚生労働白書」http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/12/(取得日:2014年9月7日)27文部科学省「図表でみる教育(Education at a Glance)OECDインディケータ 2013年度版」http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/002/index01.htm(2014年9月8日取得)をもとに作成

12

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る。家計の負担が50% を超えているのは、チリ、イギリス、日本の3カ国のみである。

また、日本では、アメリカやイギリスほど奨学金制度が充実していないという点を考慮す

ると、家計への負担はかなり大きいものだと考えられる。

 金子28 は、政府支出を、①高等教育機関の土地の獲得、建物の建設などの不動産への投

資を中心とし、家具調度、実験研究設備の獲得、研究・教育用の図書の獲得等の用途にあ

てる「資本的支出」②高等教育機関の設立、維持、運営に要する経常費用の全部ないし一

部を補助する目的で支出する「機関補助」、③学生に対する直接の補助である奨学金、そ

して大学における研究活動にたいする直接の補助である研究助成の二つからなる「非機関

補助」にわけて、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、日本の5カ国について比較し

た。日本では、非機関補助が1980 年に対GDP比率で0.04%弱であり、アメリカの約10分の1 、ドイツの5分の1、イギリスの3分の1という低水準にあることを示した。

表1 1 4− − . 政府支出の高等教育費の国際比較(非機関補助)29

奨学金・学生

補助

研究費助成 非機関補助計

年 総額 総額 対GDP比率

アメリカ

(100 万ドル)198019841985

6,3376,2418,959

4,1595,622—

0.3840.314—

イ ギ リ ス

( 100 万ポン

ド)

1981/821985/861986/87

107160183

—283—

—0.112—

ドイツ (100万マルク)

19801985

1,9961,889

1,2201,547

0.2170.187

フランス(100万フラン)

198019861988

1,3672,2363,079

———

———

日本 (100 万

円)19801986

80,46640,660

32,50043,500

0.0470.037

28 金子元久「高等教育財政の国際的動向」、『大学とマネー 経済と財政』、玉川大学出版、2011年29金子元久「高等教育財政の国際的動向」、『大学とマネー 経済と財政』、玉川大学出版、2011年、p.200、表3をもとに作成

13

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第二項 授業料の高騰 1960 年代から1970 年代にかけて、国立大学の授業料は低廉に抑えられていた。国立

大学における低価格の授業料設定によって、低所得層出身の学生への高等教育進学機会を

保証するセーフティネットとなると考えられていたためである。しかし、国立大学の収容

力は私立大学に比べて少なく、実際に高等教育の機会拡大に大きな役割を果たしたのは私

立大学であった。このことから、国立大学における低価格の授業料設定による高等教育機

会の拡大という国立大学の社会的機能に対する疑問視する声があがり、国立大学と私立大

学の授業料格差の問題は社会的な議論を呼んだ。

 国立大学の授業料値上げからの影響を受けて、私立大学の授業料も上昇したことで、

いっそう高等教育費の私費負担が増大していった。こうして、日本には授業料の低価格な

大学は存在しなくなったといえる。

 2006 年に国立大学が法人化されたことを受けて、国立大学・私立大学での授業料の騰

勢は終息し始めていると考えられる。しかし、昨今の20 年間においても消費者物価指数

が下降傾向であった時期にも大学入学金と授業料は上昇し続けたことから、学費負担者に

とって、とくに「無理をしている」家計にとっては、限界を超えているものと思われる。

第三項 日本の奨学金制度

 第二項で確認したような大学の授業料値上げに伴って、日本は「高授業料、高奨学金」

政策へと転換し、日本学生機構を通して行われる奨学金プログラムを充実させる動きと

なった。

 日本学生機構による奨学金には、利息のつかない第一種奨学金と利息のつく第一種奨学

金、また入学時の一時金として貸与する入学時特別増額貸与奨学金がある。第一種・第二

種共に学力基準と家計基準が定められている。学力基準はそれぞれ、第一種奨学金では、

「大学における学業成績が本人の属する学部(科)の上位1/3 以内の者」、第二種奨学金

では、「大学における学修に意欲があり、学業を確実に修了できる見込みがあると認めら

れる」と定められている。家計基準は以下の表の通りである。

表1 3 1− − . 収入・所得の上限額の目安30

第一種奨学金 第二種奨学金

区分 給与所得

給 与 所

得以外

区分 給与所

得者

給与所

得以外

国 ・ 公

自宅773万円318万円

国 ・ 公

自宅 1,095万円

609万円

自宅 836万円 362 万 自 宅 1,139 653万

30 独立法人日本学生支援機構HP「大学で奨学金の貸与を希望する方へ」http://www.jasso.go.jp/saiyou/daigaku.html#tekikaku(取得日:2014年 12 月 26日)

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外 円 外 万円 円

私立

自宅842万円

366 万

円私立

自宅 1,143万円

657万円

自宅

外895万円

409 万

自 宅

1,186万円

700万円

国 ・ 公

自宅 852万円373 万

円 国 ・ 公

自宅1,175万円

689万円

自宅

903万円 417 万

自 宅

1,219万円

733万円

私立

自宅 907万円421 万

円私立

自宅1,223万円

737万円

自宅

950万円 464 万

自 宅

1,266万円

780万円

国 ・ 公

自宅924万円

438 万

円 国 ・ 公

自宅 1,348万円

862万円

自宅

外968万円

482 万

自 宅

1,436万円

950万円

私立

自宅972万円

486 万

円私立

自宅 1,444万円

958万円

自宅

1,015 万円

529 万

自 宅

1,530万円

1,044万円

 日本学生支援機構によって運営されている奨学金プログラムは、一般会計からの予算分

と財政融資資金からの調達分の2つの財源によって行われている。また平成24 年度から

は、卒業後に一定の収入(年収300万円以上)を得るまでの間、返還期限を猶予する所得

連動返済型無利子奨学金制度も導入されている。

 実際の奨学金の需給状況は以下の図1 3 2で示される通りである。一般的に考えら− −れる通り、低所得者層のほうがより受給率が高く、高所得者層では受給率が低いことがわ

かる。

図1 3 2− − . 家庭の年間収入別奨学金の希望及び受給の状況31

31 独立法人日本学生支援機構「平成 24年度学生生活調査について」http://www.jasso.go.jp/statistics/gakusei_chosa/12.html#shougakukinn(取得日:2014年 12 月 26日)をもとに作成

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200 万円以内300~400 万500~600 万700~800 万

900~1000 万1100~1200 万1300~1400 万1500 万円以上

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90%100%

受給者申請したが不採用希望するが申請しなかった必要ない

表1 3 3− − . プログラム別奨学金の受給希望・受給状況32

日本学生支援機構 日本学生支援機構以外の民間奨学金

国立 公立 私立 平均 国立 公立 私立 平均

第一種奨学金

/給付奨学金

を受けた

15.8%

18.7%

10.6% 11.9% 3.7% 3.3% 6.7% 6.0%

第二種奨学金

/貸与奨学金

を受けた

24.8%

31.3%

32.1% 30.8% 3.2% 3.4% 3.0% 3.1%

両方を受けた 3.8%

4.2% 3.5% 3.6% 0.2% 0.1% 0.3% 0.3%

申請したが不

採用

1.8%

1.3% 1.5% 1.5% 0.9% 1.4% 2.5% 2.2%

希望するが申

請しなかった

10.5%

7.9% 10.3% 10.2% 13.0%

11.2% 12.9%

12.8%

必要なかった 43.3%

36.7%

42.1% 42.0% 79.0%

80.6% 74.5%

75.6%

 上記の二つの表を参照して、低所得者層においても奨学金を希望するが申請しなかった

という人や、申請したが不採用であった人が少なからず存在することがわかる。

 また、上記の表1 3 3における「平均」を参照すると、奨学金の申請者に対する受− −給率(採用率)は、日本学生機構の奨学金が96.9%であるのに対して、それ以外の奨学金

では、81.2%であり、給付型が多いこともあり、民間の奨学金プログラムの採用は狭き門

であることが推測できる。

32前掲(26)に同じ

16

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 これらについて、小林33 は、「高等教育機会の是正策として、現在では公的奨学金が最

も重要なものであるが、実質的にはローンである日本学生支援機構奨学金には、ローン回

避の問題が生じる恐れがあること」を示し、「とりわけ低所得層がローンを回避すれば、

奨学金の本来の目的である高等教育機会の格差の是正には効果がなく、本末転倒になる可

能性が高い。」としている。

さらに丸山34 も、「現行の学生個人に奨学金を手厚く提供し、富裕層でない学生の進学機

会を保証する方式は、効率的といえる。しかし、高等教育進学は、一般に富裕層からそう

でない層へ拡大し、進学率が60% を超える今後はさらに裕福でない家計出身者が増える

と思われる。そのような家計は、将来の負債を避ける傾向が指摘されている。よって、現

行のローン奨学金は、機会均等達成に効果的でないかもしれない。」と主張している。

 ローン回避の問題については、東京大学大学院教育学研究科大学経営・政策研究セン

ターによる高校生とその保護者へのアンケート調査35 において、「卒業後の返済が不安だ

から、なるべく奨学金を借りたくない」という理由で、奨学金の申請を希望しない層が半

数近く存在することが明らかにされている。

 さらに藤森36 は、支出項目、およびアルバイト収入・家庭からの給付に対して、奨学金

がどのような影響を持っているのかという分析を行った。その結果、①国立・私立関係な

く、奨学金によって家庭からの給付額は抑制されていること、②アルバイト収入に対する

奨学金の効果は、1996 年度は国公立大学に対してみられたが、2004 年になると、いずれの場合も観測されず、学業への負担となるアルバイトを抑制する効果がもっていないと

いうこと、③娯楽嗜好費には効果を示さず、娯楽にまわされているという結果は出なかっ

たが、修学費に奨学金が充てられているという結果も得られなかったことから、必ずしも

学業を直接的に助けるようなものとして有効に使われているとは断言できないこと、を明

らかにした。以上のことから、現行の奨学金制度が効率的に行われていないことを指摘し

た。

 また、奨学金の返済率は現状の日本においては、海外と比較してもそれほど低くはない

が、今後問題となってくる可能性が指摘されている。

図1 3 4− − . 日本学生支援機構奨学金の未返還率の推移

33小林雅之「高等教育機会の格差と是正政策」、 『教育社会学研究』、第80集、pp.101-125、2007年、p.11634 丸山文裕「高等教育への公財政支出の変容」、『大学とコスト 誰がどう支えるのか』、岩波書店、pp.49-76、2013年35東京大学大学経営・政策研究センター「高校生の進路調査 第1次報告書」http://ump.p.u-tokyo.ac.jp/crump/resource/crumphsts.pdf(2014年8月 26日取得)36 藤森宏明「奨学金が学生生活に与える影響」、『大学とマネー 経済と財政』、玉川大学出版部、2011年 pp.131-152

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1991199

2199

3199

4199

5199

6199

7199

8199

9200

0200

1200

2200

3200

4200

5200

6200

7200

8200

90

5

10

15

20

25

30

合計第一種奨学金第二種奨学金

 1990 年代から上昇傾向にあり、現在は停滞しているが、今後奨学金が拡大するにつれ

て、さらに上昇すると推測される。また、第一種奨学金の返還率の低さは、第一種奨学金

の受給者層がより低所得者層中心となっていることからきているのではないかと推測する。

 現状でも、日本学生支援機構による奨学金の受給者の中で、返還のための口座に登録さ

えもしない人が5%存在することが指摘されている。37

第 二 節 先 行 研 究 検 討 第一節において、あげられた現状の奨学金制度において抱えている問題点をまとめると

次のとおりになる。つまり、①適切に低所得者に対して受給されていない、特に給付型の

奨学金を受給するのが難しくなっている、②低所得者層がローンを回避する傾向にあり、

高等教育機会の均等化のための政策として機能できていない、③奨学金が各個人で必ずし

も授業料に対して有効に用いられているとはいえない、④現状返済率は海外と比較しても

低いわけではないが今後低下が推測される、という四つの問題点があげられる。

 本節では、家庭の経済的背景から生じる高等教育への進学格差の要因となる高学費負担

について、先行研究検討を行う。第一項では、高等教育費高学費負担に対する思想的背景

を確認し、先行研究者の意見を確認する。第二項では、第一項で確認した思想的背景から

生じる物理的な要因を確認し、第三項において筆者の主張を述べる。

第一項 高学費負担の思想的要因

 学費負担の考え方には二つの考え方がある。一つ目は、「公共財」としての考え方であ

る。「公共財」とは、社会一般に利益が等しく分配されるものであり、それによってサー

ビスの質が落ちることがないために「競合性」をもたず(=非競合性)、あるサービスが

誰かに消費されることによって他の人が消費できなくなるような、サービスからの排除が

37 芝田政之「英国における授業料・奨学金制度改革と我が国の課題」、国立大学財務・経営センター『大学財務経営研究』、第3号、pp.89-112、2006年、p.105

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おこらない(=非控除性)状態を示す。多くの人が同時に利用することのできる、公園や

警察など政府や公共団体によって提供されるものが多い。

 矢野38 は、高等教育の社会収益率が6%を超えるということを試算した。つまり、高等

教育への投資が国家にとってきわめて有益であることを示している。また、上山39 は、知

識や技術を社会に影響する研究機関としての大学の側面を強調すれば、大学の公共財的性

質が強くなるため、大学の科学研究から生まれる学術情報や技能が、一部の人間に囲い込

まれることなく広く社会に伝播すると考えられることによって、大学は公共財的な性格を

持つといえるだろうと主張した。高等教育は、人々の能力を高め、社会全体の生産性を向

上させることができるだけでなく、知識や技術の発展に寄与することで、社会全体の生活

水準の向上などという形で社会全体の便益を生むことができる。

 もうひとつの考え方は「受益者負担」である。高等教育は、進学率がおよそ50% であ

ることからもわかるように、国民のすべての人が高等教育に進学するわけではない。また、

大学を卒業した人と卒業していない人では、獲得する賃金が異なる、つまり学歴に応じて

所得に格差が生じることは、序章第四節第一項で確認した通りである。このように、所得

格差が生じており、個人の地位達成のためだけに高等教育が行われていると考えると、税

金によって高等教育を行うことは高等教育へいくことのない人々も高等教育へ進学した結

果高い所得を得る人々の為に高等教育費を支払うこととなり、ここに「所得の逆再分配」

が行われてしまう。以上のような、高等教育における利益は個人に還元されるため、高等

教育における教育費も個人で負担すべきであるという考え方が受益者負担である。矢野40

は、ベネッセ教育研究開発センターと朝日新聞の共同による『学校教育に対する保護者の

意識調査』41 における「あなたは次のことについてどの程度、税金で負担すべきだと思い

ますか」という質問事項に対する回答結果を用いてこのことを説明している。国公立の授

業料は、個人が負担すべきであると考える人が29% 、税金で負担すべきであると考える

人が、61% にまで上っているのに対して、私立大学の授業料では65% が個人負担を支

持し24% が税金負担を支持している。矢野はこのことを、「国公立大学は社会全体のた

めに役立っているが、私立は個人だけのため役立つ大学だ」という意識の反映であるとし

ている。つまり、学力のある人は税金によって授業料が安く押さえられた国立大学に進学

すればいい。国公立大学に進学できない学力層は、学力もないのに無理をして大学にいく

ことがないのだから、授業料の高い私立に進学するかしないかは、個人の好みで決めれば

いいという辛辣な受益者負担の考え方が根底にあることがわかるとしている。近年、この

傾向は国立大学にも生じているため、国立大学における私費負担も高騰しているのである

と考えられる。

38 矢野眞和「費用負担のミステリー 不可解ないくつかの事柄」、『大学とコスト 誰がどう支えるのか』、岩波書店、p. 184、2013年39 上山隆大「公益と私益をつなぐもの———民間資金と大学運営のダイナミズム」、『大学とコスト 誰がどう支えるのか』、岩波書店、pp.137-168、2013年40矢野眞和「大学は誰のためにあるのか (高等教育と費用負担)」、『IDE : 現代の高等教育』、555巻、pp. 4-12、2013年41 ベネッセ教育研究所「朝日新聞社共同調査「学校教育に対する保護者の意識調査 2012」」http://berd.benesse.jp/shotouchutou/research/detail1.php?id=3267(取得日:2014年 12 月 12日)

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 多くの先行研究者は、高等教育を公共財とみなしてすべてを公的負担によって運営すべ

きであると主張することには限界があるとしている。それは、大学では、入学時の選抜に

よって利用者を排除することができ、教育を受ける者が増えることによってサービスの便

益が減少することも考えられ、公共財の二条件である「非競合性」と「非控除性」に反す

るからである。

 日本では、以上の理由に加えて、高等教育の拡大の背景に私立大学の貢献があったこと、

家族主義的な考え方が根強く残っていること、などの理由から、受益者負担の考え方が先

行し、高等教育の高学費負担をもたらしていると考えられる。

第二項 公的支出

 第一項であげた思想的背景に基づいた高学費負担の物理的な要因は、公的支出の少なさ

と、奨学金制度にある。日本では、受益者負担の考え方がとられている。そのために、教

育への公的支出が少ない。本項では、まず公的支出の少なさについて先行研究者の意見を

検討する。

 小林42 は、公的負担の少なさについて、教育費の公的負担の根拠が、教育の外部性とと

もに、教育の公共性あるいは準公共財としての性格に求められるという公的負担の意味を

あらためて問い直す必要があると主張している。そのために、大学は公共性と社会貢献を

高めること、大学のアカウンタビリティを高め情報公開を行うだけではなく、大学関係者

とりわけ大学生に対して大学教育の公共性の認識を求めるべきであろうと主張している。

事実、東京大学による「達成度調査」43 によれば、「国立大学で税金で教育を受けたとい

う意識がある」東大生は半数にすぎないことが明らかにされている。つまり、大学側が公

共性と社会貢献性を高め、国民へのアカウンタビリティを高めること、さらに学生の国民

からの「税金」によって教育を受けたという意識を高めることで、大学の「公共財」とし

ての捉え方を社会的に浸透させ、従来の家族主義から来る受益者負担の考えから脱し、公

的負担を増やすべきであるとしている。

 広井44 は、「ライフサイクルの変容が進む中で、高齢期の延長に関しては一定以上の対

応や給付・支援の拡大が行われてきているにもかかわらず、「後期子ども」期、つまり

20 代〜30 代前半前後の若者への対応に関しては、新たな政策的支援が半ば空白のまま

現在に至り、その結果、人生全体を視野にいれて見た場合、公共政策ないし公的支援のあ

り方に著しいアンバランスが生じている」と考え、「格差が世代を通じて累積されるとい

う姿を是正し、個人が人生のはじめにおいて共通のスタートラインに立てるという方向を

実現するために、相続税等の強化を行うことが重要であり、それらによって得られる財源

を、高等教育ないし若者支援を含めた「人生前半の社会保障」に充てるという政策が、今

こそ求められている」と主張する。

42小林雅之「国際的に見た教育費負担」、『IDE:現代の高等教育』、555巻、pp.13-18、2013年、p1743 東京大学大学院総合文化研究科・教養学部「教養教育の達成度についての調査」http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/about/assessment/ (取得日:2015年1月5日)44広井良典「「人生前半の社会保障」と高等教育費」、『 IDE:現代の高等教育』、555巻、pp.19-24、2013年、pp23-24

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 筆者は、公的負担の少なさについて、海外諸国と比較してみても、日本の水準の低さは

一目瞭然であるため、政府は、高等教育の正の外部性や高等教育の拡大が国際的な課題と

なっていることを認識し、国際人権規約である「高等教育の無償教育の漸進的導入」の留

保を撤回した今、理念に反映するだけではなく、政策として実行に移す努力をすべきであ

ると考える。しかし、逼迫した政府財政や長年続いた不景気を鑑みれば、漸進的な努力は

見込めるとしても、即座に公的資金が増額されることは望めないだろう。公財政支出の配

分について、少子高齢化・非正規雇用などの問題を抱える日本の現代社会において、公財

政を現状割かれている以上に高等教育に割くことを要求することはむずかしいと考える。

同じく、高等教育機会の拡大に私立大学が大きな役割を果たしたアメリカは、国際人権規

約(社会権)に批准していないため、日本は現状「高授業料・高奨学金」政策をとってい

る国家として、無償化に漸進的な努力を進めるロールモデルとなることが求められている。

 小林による社会的背景から変容させていく高等教育の公的負担の意味の捉え直しは、選

ばれたエリートだけが通う従来型の大学であれば、公的支出も十分に割かれ税金によって

学生は教育を受けることができ、社会への責任を感じていただろう。しかし、マス化が進

み、今後ユニバーサル化へと進んでいく日本の高等教育において、一人当たりの公的支出

はさらに減少すると見込まれ、公的負担の意味を捉え直すことで社会的通念を変容するこ

とは、社会的合意を得られるとは考えにくく、現実的にむずかしいだろう。

第三項 奨学金制度

 公的支援に頼ることなく、高等教育機会を拡大するために主にとられている政策が奨学

金政策である。しかし、これまで確認してきた通り、現状では奨学金制度には不十分な点

が多い。

 先行研究者は、奨学金制度について、イギリスやオーストラリアにおいて行われている

所得連動返済型奨学金制度を検討すべきであるとしている。そして成績に連動した奨学金

制度を見直すべきであると主張している。

 義本45 は、奨学金制度の将来的な取り組みとして、イギリスの高等教育財政の制度改革

から示唆を得られる部分が大きいとしている。イギリスでは、学生の卒業後の所得に応じ

た授業料の後払い、大学に係る経費(授業料相当分)の国による代理支出、質保証のため

の徹底した大学選択のための情報公開、学生定員等の規制緩和などを柱にした高等教育の

制度改革が進行中であり、日本学生支援機構による奨学金においても平成24 年度から、

所得連動返済型無利子奨学金制度を創設し、貸与奨学金下での返済の予見可能性を高める

ための制度改革が進行中であることからも、上記のイギリスでの改革は我が国でも検討さ

れるべきであるとしている。

 小林・濱中46 は日本の奨学金制度において、貸与者の卒業後の追跡システムがなく、貸

与者がいかなる状況にあるかはほとんど把握されていないことを指摘している。奨学金の

45義本博司「高等教育費政策の課題」、『IDE:現代の高等教育』、555巻、pp.59-65、2013年,p.6546小林雅之・濱中義隆「待ったなしの奨学金制度改革」、『教育機会均等への挑戦 授業料と奨学金の8カ国比較』、東信堂、2012年、pp.441-451

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未返済率が上昇するなかで、諸外国のシステムを参考にした追跡システム導入することに

よって、返済する能力のある人にはきちんと返済してもらい、返済する能力のない人から

は強制的な回収を行わないといった所得連動型奨学金制度を導入することが可能になる。

そのため、家族主義の土壌をもつ日本において所得連動型奨学金制度を導入するために、

慎重に追跡システムを検討する必要があると主張している。

 支給された奨学金が授業料に有効に使われているのか不確かであり、アルバイトの抑制

などに効果をもっていないという問題について、宮田47 は、「奨学金を受ける学生は、経

済的な困窮度とともに成績によって決定されることが多い。経済的に困窮している学生は

奨学金を受けていても、アルバイトで生活費を稼がなくてはならないことも多く、学業成

績が悪くなることが考えられる。経済的理由で奨学金を得ている学生は、落第・留年にな

らない限り受給資格が維持されるべきであろう。」と主張している。

 貸与者の卒業後の追跡システムを導入し、イギリスにおける所得連動返済型奨学金制度

を日本に取り入れることは、現在日本においてマイナンバー制度が導入されようとしてい

ることから、今後さらに日本のおかれている状況にあわせて充実させていくことは可能で

あると考える。イギリスにおける所得連動返済型奨学金制度も、元はオーストラリアにお

ける高等教育拠出金制度(Higher Education Contribution Scheme :HECS 制度)48 を

参考にし、イギリスの状況に応じて導入されたものである。また、イギリスにおける所得

連動返済型奨学金制度は、政府による授業料の代理支出が行われているため、公的負担の

少ない日本における適用については、十分な検討が必要とされると推測できる。

 所得連動返済型奨学金制度の導入については、奨学金の返済率に対策になるとは考えら

れるが、高等教育機会均等政策として機能するかどうかは疑問が残る。低所得者層が高等

教育へ進学をしない要因は、家庭の経済的背景によるものが大きいことは序章で確認した

通りであるが、家庭の経済的背景によって進学をあきらめる層・家庭の経済的背景によっ

て教育外投資を受けることができず潜在的に進学をあきらめる層へのアプローチ、また低

所得層ほど奨学金におけるローンを回避する傾向にあるという問題に対するアプローチと

して、所得連動返済型奨学金制度の導入が根本的な解決になるとはいえないと考える。授

業料と奨学金制度の一本化など、さらなる包括的な検討が必要である。

 また、奨学金貸与に関する成績の条件を緩和すべきであるという宮田の主張は、高等教

育への公的支出の少なさ、奨学金制度の実現可能性から考えて妥当ではないと考える。高

等教育機会の拡大に関する論拠となる国際人権規約(社会権)や教育基本法においても

「能力に応じ、すべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること」とあるよう

に、高等教育を必要とする人に対して、高等教育機会が開かれるべきである。確かに、ア

ルバイトによって学習の時間が制限されてしまうことによって成績に影響する可能性は考

えられる。そのため、アルバイトや家計負担を増やさずに学生の高等教育進学機会を保証

するような学生への経済的支援を検討する必要があると考える。しかし、量的拡大を求め

47宮田由起夫「アメリカにおける経済格差と大学進学」、『IDE:現代の高等教育』、555巻、pp.25-30、2013年、p.3048 教育費の3分の1から半分ほどの金額をすべての学生が借金して、卒業後に所得に応じて返済する制度。事前に一括して前払いできるようになっており、前払いの場合は負担額の 20%割引である。この制度は、オーストラリアが財政難に面して導入された制度である。

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られると同時に、高い質も求められている現在の高等教育において、成績に関する条件を

緩和することは、その限りではないと筆者は考える。

第四項 先行研究検討のまとめ

 第一節では、第一項では、日本において高等教育に係る教育費に対して公的支出が低水

準であることを確認し、第二項において、大学における授業料の高騰がどのように推移し

ていったかを概観し、第三項において、現行の奨学金制度に関する①適切に低所得者に対

して受給されていない、特に給付型の奨学金を受給するのが難しくなっている、②低所得

者層がローンを回避する傾向にあり、高等教育機会の均等化のための政策として機能でき

ていない、③奨学金が各個人で必ずしも授業料に対して有効に用いられているとはいえな

い、④現状返済率は海外と比較しても低いわけではないが今後低下が推測される、という

四つの問題点を確認してきた。

 そのうえで、第二節では、それらの諸問題に対する先行研究者の主張を紹介した。

①公的負担に関しての先行研究 小林は、日本における公的負担の少なさについて、大学は公共性と社会貢献を高めるこ

と、大学のアカウンタビリティを高め情報公開を行うだけではなく、大学関係者とりわけ

大学生に対して大学教育の公共性の認識を求めるべきであり、それによって教育費の公的

負担の根拠が、教育の外部性とともに、教育の公共性あるいは準公共財としての性格に求

められるという公的負担の意味をあらためて問い直す必要があると主張した。つまり、社

会における思想的背景である受益者負担の考え方を変容させ、公共財としての認識を求め

ることによって公的負担を増加させる政策的論拠とすべきであると主張した。これに対し

て筆者は、マス化が進み、今後ユニバーサル化へと進んでいく日本の高等教育において、

一人当たりの公的支出はさらに減少すると見込まれ、公的負担の意味を捉え直すことで社

会的通念を変容することは、現実的にむずかしいだろうと考える。

 また、広井は、「格差が世代を通じて累積されるという姿を是正し、個人が人生のはじ

めにおいて共通のスタートラインに立てるという方向を実現するために、相続税等の強化

を行うことが重要であり、それらによって得られる財源を、高等教育ないし若者支援を含

めた「人生前半の社会保障」に充てるという政策が、今こそ求められている」と主張する。

つまり、所得の世代間での相続を通じて学生に対する支援を行う、すなわち教育を広く

「人生前半の社会保障」のうちのひとつとして捉え、教育領域外において学生支援を行う

べきであるとしている。これに対して筆者は、公財政支出の配分について、少子高齢化・

非正規雇用などの問題を抱える日本の現代社会において、公財政を現状割かれている以上

に高等教育に割くことを要求することはむずかしいと考える。

②奨学金制度に関しての先行研究 多くの研究者が、奨学金制度の抱える諸問題について、近年オーストラリアやイギリス

などの国において採用されている所得連動返済型奨学金制度の導入を検討すべきであると

主張している。加えて、小林・濱中は、諸外国のシステムを参考にした追跡システム導入

することによって、返済する能力のある人にはきちんと返済してもらい、返済する能力の

ない人からは強制的な回収を行わないといった所得連動型奨学金制度を導入することが可

能になると主張している。

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 これに対して筆者は、奨学金の返済率に対策になるとは考えられるが、低所得層ほど奨

学金におけるローンを回避する傾向にあるという問題等を有する高等教育機会均等政策と

して機能するかどうかは疑問が残ると考える。授業料と奨学金制度の一本化など、さらな

る包括的な検討が必要である。

 また、宮田は支給された奨学金が授業料に有効に使われているのか不確かであり、アル

バイトの抑制などに効果をもっていないという問題について、経済的理由で奨学金を得て

いる学生は、落第・留年にならない限り受給資格が維持されるべきであると主張している。

 これについては、高等教育への公的支出の少なさ、奨学金制度の実現可能性から考えて

妥当ではないと考え、そのため、アルバイトを必要としないような学生への経済的支援を

検討する必要があると主張する。

 以上の先行研究検討を通して、先行研究者の間では、日本における公的支出の少なさを

指摘し改善を要求しつつも、貸与型の奨学金制度についてオーストラリアやイギリス等の

国において採用されている所得連動返済型奨学金制度の導入が検討されていることがわ

かった。

第 四 節   筆 者 の 主 張 と 論 証 方 法 の 提 示

 第一項 筆者の主張

 日本において高等教育費の家族負担から本人負担への移行が行われている現在、奨学金

制度は結果として自己負担となるために推進されている。しかし、貸与型奨学金制度では、

あらかじめ借金をするとわかっているため、ローンを回避する可能性が高く機会拡大につ

ながらないことは第一章にて確認した通りである。加えて、親から子どもへの借金の先送

り、つまり不平等の先送りであるため、高等教育機会の格差についての根本的な解決と

なっていないと筆者は考える。このような考えから授業料減免制度を充実させるべきであ

ると主張する。

 ではなぜ授業料減免制度の充実や給付型奨学金制度の充実について先行研究者において

も議論されず、充実に向けた政策が行われていないのか。授業料減免制度充実のためには

どうのようにすればよいのか。第三章以降では、これらの問いに答える形で本論文全体の

主張とする。

第二項 論証方法の提示

 ではなぜ授業料減免制度の充実や給付型奨学金制度のほうが、高等教育機会均等政策と

して適していると考えられるにもかかわらず、それらの制度の充実に力がいれられていな

いのか。

 筆者は、ここで、

各国立大学法人は自主性・自律性を行使することを抑制されてしまって

いるために、授業料減免制度の充実に踏み込めていない。

という仮説を提示する。

 公的負担の軽減という観点から考えると、授業料減免制度や給付型奨学金制度よりも貸

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与型奨学金制度のほうが実現可能性をもつのは明らかである。しかし、現状の高等教育機

会における格差をみれば、貸与型奨学金制度だけでは対応がむずかしいと考えられる。さ

らに、貸与型奨学金制度は、教育は機会均等のために無償であるべきだという考え方に反

するものである。高等教育機会の不平等をもたらす阻害要因を緩和する施策として、授業

料減免制度や給付型奨学金制度の拡大についても十分な検討が行われるべきであると考え

る。

 現在の日本の高等教育において、授業料減免制度や給付型奨学金制度は十分であるとは

いえない。にもかかわらず、それらの制度の充実について議論があがらず、十分な検討が

行われていないのはなぜだろうか。

 まず、第二章において、①授業料減免制度の概要、②授業料減免制度の充実が教育機会

均等政策として妥当であると筆者が考える論拠を確認する。

 そして、第三章において、授業料減免制度の充実強化がなされなかったのは、各国立大

学法人が自主性・自律性を行使することを抑制されてしまっているためであるという仮説

について、検証していくこととする。まず、国立大学法人化において国立大学に求められ

ていたひとつに、「効率的な運営」「特色ある大学づくり」があり、その中に授業料政策

も含まれていることを確認する。さらに、筆者は、学生援助に資金が割かれるべきである

と考えており、現状でも授業料減免制度をさらに充実させる余地が存在するということを

主張する。

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第 二 章  授 業 料 減 免 と 奨 学 金 制 度

日本においては、高等教育の授業料の高騰と共に、貸与型奨学金が拡大されていった。逼

迫した公財政を考慮におけば、公的負担の軽減という観点から、授業料減免制度や給付型

奨学金制度よりも貸与型奨学金制度のほうが実現可能であり、貸与型奨学金が拡大して

いったこともうなずける。しかし、高等教育機会における格差や今後さらにユニバーサル

化していくと考えられる高等教育の現状を考えてみれば、もはや貸与型奨学金制度だけで

は対応がむずかしいと考えられる。さらに、貸与型奨学金制度は、教育は機会均等のため

に無償であるべきだという考え方に反するものである。高等教育機会の不平等をもたらす

阻害要因を緩和する施策として、授業料減免制度や給付型奨学金制度の拡大についても十

分な検討が行われるべきであると考える。

 

第 一 節   有 利 子 貸 与 型 奨 学 金 制 度 の 拡 大 政 策

 文部省の大学審議会が1998 年6月に提示した「21 世紀の大学像と今後の改革方策に

ついて(中間まとめ)」49 において、「我が国発展の原動力となる優れた人材の養成・確

保」を大学の役割のひとつであるとして、「奨学金については、能力と意欲を持つ者に経

済的援助を与えるという観点から、経済的困難度を重視した拡充を図り、学生の経済的必

要度に応じて貸与できる方向を目指すことが必要である。また、大学院学生に対する奨学

金については、自立した家計を持つ場合が多いことを考慮し、更に拡充することが必要で

ある。」と述べられたことを論拠として、1999 年度の予算編成過程を確認すると、日本育英会への財政投融資計画について「有利子奨学金の抜本的拡充」として1,490 億円が要求されているようだ50 。前年度1998 年度の予算額が490億円であったことと比較すると、

3倍程度の予算要求となっている。

 当時、「育英事業の在り方に関する調査研究協力者会議」による提言を参照すれば、

「大学学部等の段階の今後の育英奨学事業の整備の在り方としては、有利子制度の活用に

も配慮しつつ、その充実を図る必要がある。」とされている。51 つまり、政府は潜在的に

有していた有利子貸与制度の活用という政策手段の具体化を意図したと考えられる。52

以上のように、現在日本において最も受給率の高い貸与型奨学金制度は抜本的に拡充さ

れていった。それと同時に、授業料減免制度は授業料制度等の大学改革の実施に伴い、縮

小傾向にあった。

49 文部科学省 HP「21 世紀の大学像と今後の改革方策について -競争的環境の中で個性が輝く大学- (中間まとめ要旨)」http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/old_chukyo/old_daigaku_index/toushin/1315905.htm(取得日:2015年1月2日)50小林雅之編『教育機会均等への挑戦 授業料と奨学金の8カ国比較』、東信堂、2012年、p.8551前掲(49)に同じ52 前掲(49)に同じ

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第 二 節   授 業 料 減 免 制 度 の 現 状

 有利子貸与型奨学金制度が拡大される一方で、授業料減免制度は縮小されていった。本

節では、授業料減免制度とはなにかについて概観し、高等教育機会の均等化政策としては

授業料減免制度が適していることを主張する。

第一項 日本における給付型奨学金制度と授業料減免制度

 国立大学の授業料免除制度は、「国立大学等の授業料その他の費用に関する省令」53 の

11条において、「国立大学法人は、経済的理由によって納付が困難であると認められる

者その他のやむを得ない事情があると認められる者に対し、授業料、入学料又は寄宿料の

全部若しくは一部の免除又は徴収の猶予その他の経済的負担の軽減を図るために必要な措

置を講ずるものとする。」と規定されている。そのため、現在すべての国立大学が授業料

減免制度を設けている。

 平成24 年度の文部科学白書54 によれば、現在、全ての国立大学において授業料減免制

度を設けており、平成23 年度の授業料免除実施額は「約248億円、免除人数は約13 万

9,000 人(延べ数)」となっている。公立大学では、現在、全ての大学が授業料減免制度

を設けており、平成23 年度実績で「約1 万800人に対して約36 億円の減免措置」がな

されている。また、私立大学等が実施している授業料減免事業に対しては、平成23 年度

に51 億円、約3 万2,000 人分を補助しているとされている。さらに、平成25 年度概算

要求における中教審答申(「新たな未来を築くための大学 教育の質的転換に向けて」)

関係予算の概要55 を参照すれば、「学生が経済的な理由により学業を断念することのない

ようにするため、各大学がさらなる授業料減免等の拡大を図れるよう、運営費交付金、私

大経常費補助金により支援を行う 」として、国立大学では、 309 億円(対前年度比

4,139 百万円増)の予算が割かれている。平成25度のデータを用いて、国立大学に通う

学生数の全体(約61 万人56 )からみると、約9%の学生が授業料減免制度を受けている

こととなる。政府目標として、学部・修士における授業料減免率を8%から10%へ引き

上げることが提言されている。

 さらに、国立大学法人において独自の給付型奨学金をもつ大学は86校中40校である。

ただし、ほとんどが成績優秀者に対しての給付型奨学金である。

53電子政府の総合窓口イーガブ「国立大学等の授業料その他の費用に関する省令」http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H16/H16F20001000016.html(取得日:2015年1月3日)54 文部科学省 HP「第 4章 新たな知と価値を創造・発信する高等教育へ向けて」http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpab201301/detail/1339467.htm(取得日:2015年1月2日)55 文部科学省 HP「平成 25年度概算要求における中教審答申(「新たな未来を築くための大学 教育の質的転換に向けて」)関係予算の概要」http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/siryo/attach/1327459.htm(取得日:2015年1月2日)56 電子政府の総合窓口イーガブ「平成 25年度学校基本調査」http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001051733&cycode=0(取得日:2015年1月2日)

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第二項 授業料減免制度の根拠

 国立大学は授業料減免制度をもつが独自の奨学金制度をもっている大学は少ない上に、

ほとんどが貸与の奨学金である。また、学生のほとんどは日本学生支援機構による貸与奨

学金を受給していると推測できる。貸与型奨学金では、より多くの学生に対して奨学金を

貸与することが可能であり、給付奨学金や授業料の減免よりも効率的に運営することがで

きる。

  しかし、機会拡大という観点では、貸与の奨学金よりも給付型奨学金や授業料減免の

ほうが、低所得者層が安心して大学に進学することを可能にする。このことは、第一章に

おいて確認した、現行の奨学金制度における問題点として明らかである。つまり、低所得

者層は貸与型奨学金制度に対してローンを回避する傾向にあるということである。

 イギリスでは、給付型奨学金は1998 年度に完全に貸与奨学金に転換されたが、2004年度に復活した。また、日本円にして37万円以上41.1万円医科の授業料を設定する

大学については、最低でも設定授業料と37万円の差額を大学独自の給付奨学金として提

供しなければならないこととされている。また、給付奨学金は、入学機会確保のための計

画に盛り込み、機会均等局による承認を得なければならない。57 これは、低所得者ほど高

等教育がもたらす便益に関する情報が不足しており、負債を避けようとする傾向が強いの

で、高等教育機会均等確保のためには、十分高額な給与制奨学金が必要不可欠であるとい

う考え方に基づいている。この事例からも、貸与型奨学金では、高等教育機会の拡大のた

めの施策として不十分であるということがわかる。

 では、なぜ給付型の奨学金制度の充実ではなく、授業料減免制度の充実を主張するのか。

授業料減免制度では、学生個人に対して大学から間接的に学生支援を行うこととなる。第

一章で確認したように、確実に奨学金が確実に授業料に使われているかどうか不確かであ

るという問題を鑑みると、奨学金という形ではなく授業料減免という形で学生支援をすべ

きであると筆者は考える。

57小林雅之編『教育機会均等への挑戦 授業料と奨学金の8カ国比較』、東信堂、2012年、p.157

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第 三 章   国 立 大 学 の 社 会 的 役 割

 文部科学省の予算案においても、授業料減免制度を拡大する方針が出されているが、現

状では授業料減免制度は充実されていないことがわかった。

 本章では、なぜ授業料減免制度ほうが、高等教育機会均等政策として適していると考え

られるにもかかわらず、各国立大学法人ではそれらの制度の充実に力がいれられていない

のか。

 そもそも、国立大学の社会的役割は本当に機能しなくなり、学費の安い国立大学に高所

得者層が多く通っているという制度的矛盾をかかえてしまっているのだろうか。

第 一 節 国 立 大 学 法 人 化 の 目 的

 2004 年に国立大学が法人化してから10年が経過した。国立大学を法人化するにあ

たって、「新しい「国立大学法人」像について」58 によれば、「大学の研究力・国際競争

力の強化などの大学改革」、「労働人口・研究者等の人材養成、知的産業からくる社会的

便益などの大学の使命」、「大学の自主性・自律性」を前提として、①「個性豊かな大学

づくりと国際競争力ある教育研究の展開」、②「国民や社会への説明責任の重視と競争原

理の導入」、③「経営責任の明確化による機動的・戦略的な大学運営の実現」が大学に求

められた。このなかの、「国民や社会への説明責任の重視と競争原理の導入」と「経営責

任の明確化による機動的・戦略的な大学運営の実現」とは、メリハリのある大学運営や学

生支援が求められているということである。「大学の運営に当たって、教育研究の「サプ

ライ・サイド」からの発想だけではなく、常に、学生、産業界、地域社会などの「デマン

ド・サイド」からの発想を重視する姿勢が重要であり、とりわけ教育の受け手である学生

の立場に立った教育機能の強化が、強く求められる。」という文章からも読み取ることが

できる。

 つまり、法人化の目的のうちのひとつとして、各大学がそれぞれの自主性・自律性を発

揮し、大学間の競争的な環境を作りつつ、効率性の高い運営をすることによって、特色の

ある大学づくりをすることが想定されていたことが推測できる。

また、国立大学が法人化されることとなり、「国立大学等の授業料その他の費用に関す

る省令」59 において、授業料・入学料・検定料の標準額が規定された。これに基づいて、

各国立大学法人はこの標準額の120% を超えない程度で独自の授業料・入学料・検定料を

定めることができる。

 さらに、2012 年の大学改革実行プラン60 においても、「国立大学における政策目的に

58 国立大学等の独立行政法人化に関する調査検討会議「新しい「国立大学法人」像について」(平成14年3月26日)http://www.nougaku.jp/buchokaigi/seimei/houjin.pdf(取得日:2015年1月3日)59 前掲(49)に同じ60 文部科学省 HP「大学改革実行プラン」http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/24/06/__icsFiles/afieldfile/

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基づいた基盤的経費の重点的配分の実現」と称して学長がリーダーシップを発揮した資金

配分やPDCA サイクルの展開が行われることが求められており、大学運営の効率性が志向

されていると考えられる。

 以上のことから、授業料減免などの学生の経済的援助への資金配分も大学独自の特色と

考えられてよいはずであり、国立大学法人の運営努力によって学生への経済的援助の充実

が行われることが必要とされていることがわかる。

第 二 節 セ ー フ テ ィ ネ ッ ト と し て の 役 割 と

大 学 の 自 主 性

 高所得者層ばかりが、国立大学に通うようになったのは、実際には、一部の大学のみで

あり、地方の国立大学では、未だセーフティネットとしての役割を果たしている。

 図3 2 1− − . 家庭の年間収入別学生数の割合61

国立

私立

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

200_x000d_ 万円 _x000d_ 未満200   ~     300300   ~     400400   ~     500500   ~     600600   ~     700

 低所得者層出身の学生の割合は、私立大学・国立大学共に、多少国立大学が多いという

程度であり、ほとんどかわらない。ただし、平均年間収入額は、国立大学が7,770,000円であるのに対して、私立大学は7,970,000円であり、20万円もの差が存在することも事

実である。

 さらに、地方国立大学は、各都道府県に点在しているため、他の国立大学法人と授業料

政策や奨学金制度によって高等教育機会格差が生じることによって、高等教育機会の地方

格差も同時に生んでしまうことなる。このことからも、国立大学法人は、高等教育機会均

等政策への責任を有しているといえる。

第 三 節 大 学 資 金 配 分

2012/06/05/1312798_01_3.pdf(取得日:2015年1月7日)61独立法人日本学生支援機構HP「平成 24年度学生生活調査について」http://www.jasso.go.jp/statistics/gakusei_chosa/12.html(取得日:2014年 12 月 26日)

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 第一節において確認したように、国立大学が法人化されることとなり、国によって授業

料・入学料・検定料の標準額が規定されているが、国立大学法人はこれに基づいて、この

標準額の120% を超えない程度で独自の授業料・入学料・検定料を定めることができる。

国立大学法人化後の国立大学における基本的な収入源は、政府からの運営費交付金収益、

学生納付金収益、付属病院収益、外部資金収益である。

図3 3 1− − . 国立大学法人の経常費用の推移62

平成 22 年度

平成 23 年度

平成 24 年度

平成 25 年度

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

10512

10741

10134

9960

8493

8887

9325

9667

3430

3410

3420

3391

3536

3674

3687

4183

1559

1678

1842

2102

運営費交付金付属病院収益学生納付金収益競争的資金等その他

しかし、上記の図3 3 1からも見て取れるように、政府による運営費交付金は年々− −減額している。これは、「大学の効率的な運営を促進する」という名目のもとに行われて

いる。実際には、運営費交付金が削減され続けている現在、大学側はそのあおりを受け、

学生支援のために資金を割くことができず、政府の目的とは裏腹に独自の運営を行うこと

を抑制されてしまっていると推測できる。

 佐賀大学では、独自の理念のもと、2006 年度と2007 年度に授業料を標準額より低く

設定していた。「地域格差を無くし教育の機会均等を維持していくことが使命」であるこ

とをその理由の第一に掲げて実施された措置である。しかし、運営費交付金削減により

2009 年度に標準額通りの授業料を徴収せざるをえなくなってしまったという事例もある。

運営費交付金の削減を受けて、最も端的に収益を増やすことができるのは学生納付金収益

を増額することであるため、運営努力がなされなくなり、大学の独自性を大学運営によっ

て出すことがむずかしくなると考えられる。

 同様に、授業料減免制度への資金配分についても、「機会均等」や「10% まで拡大」

といったことを使命として拡大しようとしても、やむを得ず資金配分に組み込まれなく

なってしまう可能性が高いと考える。

また、各国立大学法人の中期目標・中期計画63 を参照しても、運営費交付金の使途は規定

62 文部科学省 HP「国立大学法人等の平成 25年度決算について」http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/houjin/detail/__icsFiles/afieldfile/2014/11/28/1353583_01.pdf(取得日:2015年1月7日)63 文部科学省 HP「各国立大学の中期目標・中期計画(平成 26年 9月)」http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/houjin/1352343.htm(取得日:2015年1

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されていない。収支計画にはほとんど具体的なことは記載されていないため、中期目標・

中期計画のなかに学生援助という文言は見つけられるが、実際にどのように行われるのか

は不確かである。各大学法人に運営費交付金の使途を細かく明確化しなければならない義

務はないが、このことも授業料減免政策に学生への経済援助制度としての充実が図られな

い一因として考えられる。授業料減免政策は学生納付金収益を放棄することでもあること

からも推測できる。

 さらには、余剰金の繰り越し承認が行われており、国立大学法人による運営のインセン

ティブとされている。本来の計画通りの運営を行えば損益は均衡するように計画されてい

るが、各国立大学法人による経営努力により、余剰金を生む成果をあげており、学生援助

に充てることも不可能ではないことが推測できる。

表3 3 2− − . 主な国立大学法人における余剰金大学名 余剰金額(円)

東北大学 28,633,047宮城教育大学 13,595,329東京学芸大学 34,276,450東京大学 81,442,959一橋大学 63,544,907山梨大学 112,497,403名古屋工業大学 6,891,564京都大学 36,897,145九州大学 165,487,333

86国立大学法人のうち、55法人が余剰金の承認を得ていることから、大学側は、競争

的資金の獲得や経費削減などを通して、経営努力をしていることが伺える。一千万円規模

の余剰金ではあるが、この余剰金と資金配分によって学生への経済的援助を拡大する余地

は存在すると考えられる。

第 四 章 本 研 究 の ま と め

 本章では、第一章から第三章において論じてきたことについてまとめる。

第 一 節 本 研 究 の ま と め と 示 唆

 本論文において筆者は、高等教育機会の均等のために、貸与型奨学金よりも授業料減免

制度を充実すべきであるということを主張したい。

 まず、家庭的背景によって高等教育への機会格差が生じていることを確認した。そして、

その高等教育機会格差に対する施策としての学生への経済的援助が十分でないことを第一

月6日)

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章において明らかにした。高等教育への公的負担が少ない上に、授業料は高騰しているに

もかかわらず、現行の奨学金制度は、①適切に低所得者に対して受給されていない、特に

給付型の奨学金を受給するのが難しくなっている、②低所得者層がローンを回避する傾向

にあり、高等教育機会の均等化のための政策として機能できていない、③奨学金が各個人

で必ずしも授業料に対して有効に用いられているとはいえない、④現状返済率は海外と比

較しても低いわけではないが今後低下が推測される、という四つの問題点をもつ。

 これに対して、筆者は、貸与型奨学金制度は不平等の先送りでしかなく、高等教育機会

の均等政策に十分ではないとして、授業料減免制度を充実させるべきであると考える。授

業料減免制度は実質学生への給付である上に、大学から学生への間接的な援助として行わ

れるため、奨学金制度のように授業料以外の用途で用いられることがないからである。

 しかし、各国立大学法人の政策上において、現状、授業料減免制度の充実に力がいれら

れていない。筆者は、自主性・自律性を行使することを抑制されてしまっていることが要

因であると考える。国立大学法人化における目的と運営費交付金削減に対する各国立大学

法人の対応を確認することでそのことを明らかにした。そして、現行の各国立大学法人の

経営努力によって、授業料減免制度を充実させる余地は存在することを明らかにした。

 国立大学法人において、政府が各国立大学法人の効率的な大学運営を期待して運営費交

付金を削減しているにもかかわらず、各国立大学法人は一律で授業料を標準額に設定し、

独自性を出せていないことが明らかとなった。運営費交付金の使途を明確化するなどして、

各国立大学法人の独自性を強める必要があると考える。また、大学側は運営費交付金の削

減に対して、保守的な対応をとるのではなく、高等教育機会均等への十分な対応を行うべ

きである。

第 二 節 残 さ れ た 課 題

 本論文では、授業料減免制度が実質の給付型奨学制度であり事前予約型であることから、

経済的背景から生じる高等教育格差という観点からも、従来の奨学金制度よりも低所得者

層にむけて適した奨学制度であるという考えのもと考察を行った。しかし、奨学金制度に

おける継続的な課題である、成績優秀者を支援するための「育英」を重視した奨学制度に

すべきなのか、経済的に進学が困難な学生を支援するための「奨学」を重視した奨学制度

にすべきなのかという課題についての十分な議論をすることができなかった。

 また授業料減免制度における資金について、より具体的な検討を行うことができず、今

回は一要因を主張するにとどまった。大学の経営努力によって公的支出や家計負担に頼ら

ない新たな大学独自の学生援助の形を検討されたい。

 日本における奨学金制度には、未だ多くの課題が残されている。誰が高等教育費を負担

するのかという問いは、継続して議論し続けられる課題となっている。本論文では、先行

研究者が検討すべきであると主張する所得連動返済型奨学金については多くを触れること

ができなかった。所得連動返済型奨学金制度と授業料政策を統一化することは、すべての

学生に対する公平性を保ちながら、高等教育機会を拡大させることができる可能性をもつ。

今後は、大学の資金配分と授業料減免制度、所得連動返済型奨学金を連携させて、高等教

育機会の均等を目指す必要があり、これらの導入が検討される必要がある。

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参 考 文 献 一 覧

【書籍】

・ 阿部彩『子どもの貧困』、岩波新書、2008 年・ 安彦忠彦『「教育」の常識・非常識 : 公教育と私教育をめぐって』、 学文社、

2010 年・ 石田浩、近藤博之、中尾啓子編『現代の階層社会. 2 、 階層と移動の構造』、 東

京大学出版会、2011 年・ 稲垣恭子編『教育文化を学ぶ人のために』、 世界思想社、2011 年・ 上村敏之、田中宏樹『検証 格差拡大社会』、日本経済新聞出版社、2008 年・ 上山隆大編『大学とコスト ——誰がどう支えるのか』、岩波書店、2013 年・ 苅谷剛彦『階層化日本と教育危機 : 不平等再生産から意欲格差社会( インセンティ

ブ・ディバイド) へ』、 有信堂高文社、2001 年・ 苅谷剛彦『教育と平等 大衆教育社会はいかに生成したか』、中公新書、2006 年・ 苅谷剛彦『学力と階層 教育の綻びをどう修正するか』、朝日新聞出版、2008 年・ 苅谷剛彦『イギリスの大学 ニッポンの大学 カレッジ、チュートリアル、エリート

教育』、中公新書ラクレ、2012 年・ 苅谷剛彦、山口二郎著『格差社会と教育改革』、岩波書店、2008 年・ 苅谷剛彦、 志水宏吉編『学力の社会学 : 調査が示す学力の変化と学習の課題』、

岩波書店、2004 年・ 神原文子『教育と家族の不平等問題 : 被差別部落の内と外』、 恒星社厚生閣、

2000 年・ 川村千鶴子『多文化社会の教育課題 : 学びの多様性と学習権の保障』、 明石書店、

2014 年・ 小杉礼子・堀有喜衣編『キャリア教育と就業支援』、勁草書房、2006 年・ 小林雅之『進学格差————深刻化する教育費負担』、ちくま新書、2008 年・ 小林雅之編『教育機会均等への挑戦 授業料と奨学金の8カ国比 較 』、東信堂

2012 年・ 佐藤嘉倫、 尾嶋史章編『現代の階層社会. 1 、 格差と多様性』、 東京大学出版

会、2011 年・ 鹿又伸夫『機会と結果の不平等—世代間移動と所得資産格差—』、ミネルヴァ書房、

2001 年・ 鹿又伸夫『何が進学格差を作るのか 社会階層研究の立場から』、慶應義塾大学三田

哲学会、2014 年・ 志水宏吉編『調査報告「学力格差」の実態』、岩波書店、2014 年・ 島一則編『大学とマネー 経済と財政』、玉川大学出版部、2011 年・ 竹ノ下弘久『仕事と不平等の社会学』、 弘文堂、2013 年・ 橘木俊昭『日本の教育格差』、岩波書店、2010 年・ 田中昌人『日本の高学費負担をどうするか』、新日本出版社、2005 年

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・ 東京大学職員組合『国立大学はどうなる 国立大学法人法を徹底批判する』、花伝社、

2003 年・ 中井浩一『徹底検証 大学法人化』、中公新書ラクレ、2004 年・ 中田雅敏『教育改革のゆくえ : 続・家庭は子どもの教育の原点 』、 新典社、

2014 年・ 永谷敬三『経済学で読み解く教育問題』、東洋経済新報社、2003 年・ 中村高康、藤田武志、有田伸『学歴・選抜・学校の比較社会学——教育からみる日本

と韓国』、東洋館出版社、2002 年・ 西村和雄『拡大する社会格差に挑む教育』、 東信堂、2010 年・ 広田照幸『日本人のしつけは衰退したか』、講談社、1999 年・ 古松紀子『教育の公共経済学的分析』、岡山大学経済学部、2006 年・ 細川孝編著『「無償教育の漸進的導入」と大学界改革』、晃洋書房、2014 年・ 本田由紀『「家庭教育」の隘路―子育てに強迫される母親たち』、勁草書房、2008

・ 南本長穂、 伴恒信編著『発達・制度・社会からみた教育学』、北大路書房、2010年

・ 耳塚寛明編『教育格差の社会学』、有斐閣アルマ、2014 年・ 八代尚宏『「健全な市場社会」への戦略』、東洋経済新報社、2007 年・ 渡辺一雄編『大学の運営と展望』、玉川大学出版部、2010 年・ 渡邊秀樹、 稲葉昭英、 嶋崎尚子編『現代家族の構造と変容 : 全国家族調査

(NFRJ98) による計量分析』、 東京大学出版会、2004 年

【雑誌論文】

・ 天野郁夫「国立大学の財政と財務—法人化前夜—」、国立大学財務・経営センター

『大学財務経営研究』、第2号、pp.3-25 、2005 年・ 荒牧草平「高校生の教育期待形成における文化資本と親の期待の効果 「文化資本」

概念解体の提案 」、『九州大学大学院教育学研究紀要』、第57集、14号

pp.97-110、2011 年・ 石田浩「社会的不平等と階層意識の国際比較」、『 JGSS 研究論文集』、第3巻、

pp.149-161 、2004 年・ 石田浩、藤原翔「大学選択の経済的格差とその変容」、『日本教育社会学会大会発表

要旨集録 』、第64 巻、 pp.196-197 、 2012 年・ 碓井敏正「高等教育の高学費と格差社会」、『経済』、pp.78-89  、2008 年・ 卯月由佳「《教育機会の平等》の再検討と《公共財としての教育》の可能性 : 公立

学校からの退出を事例として」、『教育社会学研究』、 第 74 巻、 pp.169-187、 2004 年

・ 尾嶋史章「社会階層と進路形成の変容———90 年代の変化を考える」、『教育社会

学研究』、第70集、pp.125-142 、2002 年・ 片岡栄美「教育達成家過程における家族の教育戦略——文化資本効果と学校外教育投

資のジェンダー差を中心に——」、『教育学研究』、第68巻、第3号、2001 年

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・ 角岡賢一「高等教育の学費と格差社会の相関関係について」、『社会科学研究年報』、

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獲得 」、『人間情報学研究』、第9巻、− − pp.15-30 、2004 年・ 片瀬一男、平沢和司「少子化と教育投資・教育達成」、『教育社会学研究』、第82

集、pp.43-59 、2008 年・ 片瀬一男、土場学「現代家族における教育アスピレーションの加熱と冷却——教育選

抜は家族内部にどのように浸透しているか——」、『社会学研究』、第6 1号

pp.41-65 、1994 年・ 加藤真紀、安藤朝夫「教育投資と所得の因果関係及び投資効果発生に達する時間的遅

れ」、『応用地域学研究』、No12 、pp.1-13 、2007 年・ 釜田公良、佐藤隆、二神律子「家族における子の数及び教育投資の選択と公的教育政

策の効果」、『中京大学経済学論叢』、第25 号、pp.37-56 、2014 年・ 金子元久「財務担経営当者がみた国立大学法人」、『IDE :現代の高等教育』、561

巻、pp.65-71 、2014 年・ 金子元久「高等教育財政のパラダイム転換」、国立大学財務・経営センター『大学財

務経営研究』、第7号、pp.3-28 、2010 年・ 木谷雅人「法人化後の国立大学改革進展状況」、『IDE :現代の高等教育』、561巻、

pp.48-54 、2014 年・ 久保木匡介「イギリスにおけるキャメロン連立政権下の教育改革の動向——「民営

化」政策と学校査察改革との関係を中心に——」、『長野大学紀要』、第34 巻、3号、pp.199-214 、2013 年

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pp.101-125 、2007 年・ 小林雅之「高等教育費の負担と教育機会」『 IDE :現代の高等教育』、 492 巻、

pp.36-42 、2007 年・ 小林雅之「国際的に見た教育費負担」、『IDE :現代の高等教育』、555巻、pp.13-

18 、2013 年・ 小林雅之「高等教育進学動向の要因分析 -高等教育政策の検証」、国立大学財務・

経営センター『大学財務経営研究』、第8号、pp.65-94 、2013 年・ 小林雅之、劉文君「大学の財政基盤の強化のために——日米中の比較から①——」、

『IDE :現代の高等教育』、555巻、pp.66-71 、2013 年・ 近藤博之「社会空間と学力の階層差」、『教育社会学研究』、第 90 巻、 pp.

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配分に注目して――」、国立大学財務・経営センター『大学財務経営研究』、第1号、

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経営センター『大学財務経営研究』、第3号、pp.89-112、2006 年・ 芝田政之「我が国の学費政策の論(国立大学を中心に)」、国立大学財務・経営セン

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響について—」、 『 年報社会学論集 (17)』、 pp.60-71 、 2004 年・ 橋本剛明、白岩祐子、唐沢かおり「経済格差の是正政策に対する人々の賛意:機会の

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要 旨

 グローバル化や情報化、また少子化といった問題を抱える予測できない社会変動のある

時代において、高等教育に対する要請は多様性を増してきている。特に、高等教育におけ

る人材育成は重要な課題とされており、進学率の向上は国際的な課題となっている。高等

教育の抱える多くの問題それぞれに高いコストを必要とするにもかかわらず、日本におい

ては高等教育への公的支出が少ない。高等教育の学費に関していえば、誰がどのように負

担するべきかという命題は多く議論されている課題である。

 現在、日本において、高等教育の受益者負担という家族主義の思想的背景によって、家

計における学費負担が当たり前のように考えられていることから、公的負担が少なく、家

庭の経済的背景から高等教育機関への進学格差という機会の不平等が生じている。相対的

貧困率が上昇していることから、現状「無理をして」高等教育費を負担している家計にも

限界がくることが推測できる。高等教育は外部効果をもち、高等教育を受けた層が増加す

ることによって社会的便益が増加すると考えられることからも、高等教育機会の均等化は

重要な課題であるといえる。

 本論文ではまず、第一章において、筆者の主張と論証方法を提示する。第一節において、

高等教育の授業料を巡る現状を概観する。まず第一項では、日本の高等教育費負担が

OECD 諸国と比較して高いことを確認する。次に、第二項において、高等教育授業料の高

騰について確認する。国立大学の授業料は低所得者層へのセーフティネットとして低廉に

抑えられていたが、高等教育機会拡大に私立大学が大きな役割を果たしたことで制度的矛

盾を抱えてしまい、私立大学との授業料の格差を是正するために、上昇していった。最後

に第三項において、日本学生支援機構による現行の奨学金制度について概観する。ここで、

現行の奨学金制度には、適切に低所得者に対して受給されていないこと、低所得者層が

ローンを回避する傾向にあること、奨学金が各個人で必ずしも授業料に対して有効に用い

られているとはいえないこと、返済率が今後低下することが推測される、という四つの問

題点があげられることを確認する。第二節を通して、先行研究者の間では、日本における

公的支出の少なさを指摘し改善を要求しつつも、貸与型の奨学金制度についてイギリスに

おいて採用されている所得連動返済型奨学金制度の導入が検討されていることを確認し、

ではなぜ授業料減免制度の充実や給付型奨学金制度のほうが、高等教育機会均等政策とし

て適していると考えられるにもかかわらず、それらの制度の充実に力がいれられていない

のかという問いを設定する。ここで、各国立大学法人は自主性・自律性を行使することを

抑制されてしまっているために授業料減免制度の充実がなされないという仮説を提示し、

筆者の主張とする。

 第二章において、授業料減免制度とはなにかについて概観し、高等教育機会の均等化政

策としては授業料減免制度が適していることを主張する。高等教育の機会拡大には、不平

等の先送りとなる貸与型の奨学金制度ではなく、授業料減免制度が適している。さらに、

確実に奨学金が確実に授業料に使われているかどうか不確かであるという問題を鑑みると、

奨学金という形ではなく授業料減免という形で学生支援をすべきであると考えると主張す

る。

 そして、第三章において、授業料減免制度の充実の余地について論じる。第一節では、

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国立大大学法人化の目的を確認し、授業料についての特色をもつことも求められていると

主張する。第三節では、実際の国立大学における資金配分がどのように行われているか確

認し、学生への援助に資金配分を行う余地が存在することを確認する。

 最後に、第四章において本論文で明らかにされたこと及び本論文で得られた示唆と残さ

れた課題を論じることで本論文のまとめとする。

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