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京都大学 大学院理学研究科

物理学・宇宙物理学教室

グローバルCOEプログラム

「普遍性と創発性から紡ぐ次世代物理学

フロンティア開拓のための自立的人材養成」

評価報告書

目  次

1章 はじめに5

1. 総評5

2. 構成メンバー6

3. 委員会開催日程7

2章 議事録10

1. 第1回 外部評価委員会10

2. 第2回 外部評価委員会15

3. 第3回 外部評価委員会25

4. 第4回 外部評価委員会30

5. 第5回 外部評価委員会34

6. 第6回 外部評価委員会38

7. 第7回 外部評価委員会44

8. 会議の様子49

3章 評価コメント50

1. 平成20年度 点検評価コメント50

2. 平成21年度 点検評価コメント60

3. 平成22年度 点検評価コメント72

4. 平成23年度 点検評価コメント85

5. 平成24年度 点検評価コメント94

1章 はじめに

1. 総評

29 |

本GCOEにおける点検・評価委員会の役割は、外部有識者による提言を集約し、それをGCOEプログラムの改善に生かすように提言することである。この目的のため、毎年2月に開かれたシンポジウムにおいて外部評価委員および招待講演者を招いて昼食会を開催した。その際に、GCOEの活動内容を説明し、それに対する評価をしていただくとともに、活動を一層改善するための提言、課題の指摘をお伺いした。また海外アドバイザーが本大学を訪問中には、やはり評価委員会を開催し、同様に提言をお伺するとともに、中間年には国内アドバイザリーにお集まり頂き、外部評価委員会を開催した。

本GCOEの特色はTRAとBIEPの制度を考案し、確立した点である。TRAはTAとRAを組み合わせた制度で、従来別々であった制度を組み合わせて運用したものである。これは学生に研究のみを遂行させるのではなく、TAを行なうことにより教育経験も積ませることを目的に実施している。人に教えるには自分がより深く理解している必要があり、TAを行うことで学生の学問に対する理解が深まることを期待して実施した。BIEPは、本専攻の学生を短期海外に派遣し、海外での研究経験を積ませると同時に、海外からも学生を招聘し、共同研究の機会をプロモートすることを目的とした制度である。毎年の総予算のうち、半分程度はこの制度を実施するために利用された。

TAに関しては、学部学生にその効果をアンケートし、効果を確かめているが、概ね好評であった。またBIEPに関しても、この制度を利用して海外で共同研究を始めた学生がそのポスドクで採用されたり、海外学振に採用されたりして再び共同研究を続けるなど、目に見える効果があった。

毎年開かれた評価委員会では、これらの制度に対する意見をしばしば尋ねたが、評価委員の評価は概ね高かった。これらを今後も継続していくべきだという意見はどの委員にもほぼ共通した。

一方、課題も指摘された。たびたび指摘されたのは、宣伝の不足である。たとえば、BIEPという制度がせっかくあるのに、海外の研究機関に知られていないという指摘があった。これについてはその後、宣伝活動を充実させるなどの改善を行うのに役立った。それ以外にも、分野間の交流がなかなか進まない、分野の異なる学生間の交流が少ない、などの指摘も出された。実際に毎年開かれたGCOEシンポジウムに学生の参加者が少なかったのは大きな問題であると言える。GCOEシンポジウムの意義が多くの学生に浸透しなかったと言わざるを得ないかもしれない。この問題はすぐに改善できる課題ではないが、教員は常に頭において長期的には改善に向けた努力を実行すべき課題であろう。

最も切実な問題としてあげられたのが、TRAとBIEPの制度をどのように継続していくか、という課題である。これについては5年間で方策を得られなかったが、具体的に行うべきは、これらの制度が非常に優れており、外部有識者からも高く評価されている点を予算を出す側に訴えていく努力を行うことであろう。これについては、外部評価委員からもたびたび指摘を受けたが、残念ながら妙案を得ていないのが現状である。

点検・評価委員会 委員長 柴田 大 教授

2. 構成メンバー

$外部評価委員$

常任:国内アドバイザー

鈴木 在乃 講師 (京都大学大学院理学研究科国際交流室)

益川 敏英 名誉教授 (京都大学)

蔵本 由紀 教授 (京都大学数理解析研究所)

政池 明 名誉教授(京都大学)

田中 耕一郎 教授 (京都大学大学院理学研究科)

常任:国際評価委員

Piet Hut 教授 (Princeton University)

Manfred Sigrist 教授 (ETH - Eidgenössische Technische Hochschule Zürich)

Michel Gonin 教授 (Ecole Polytechnique)

#ヘッドクォーター#

1章・はじめに

リーダー:川合 光 教授

サブリーダー:前野 悦輝 教授

→山本 潤 教授

佐々木 節 教授

谷森 達 教授

柴田 一成 教授

早川 尚男 教授

長田 哲也 教授

\点検・評価委員\

委員長:柴田 大 教授

副委員長:菅沼 秀夫 准教授

Head:山本 潤 教授

小山 勝二 教授

Glenn Paquette GCOE特定准教授

上田 佳宏 准教授

市川 正敏 講師

川畑 貴裕 准教授

松田 和博 准教授

吉川 研一 教授

^国際会議・外国人招聘委員^

委員長:田中 貴浩 教授

副委員長:太田 隆夫 教授

(順不同)

3. 委員会開催日程

H21.2.16 (月) 第1回 外部評価委員会

於:京都大学百周年時計台記念館 会議室

$外部評価委員$

常任:

益川 敏英 名誉教授、蔵本 由紀 教授、村松 秀 氏、小松 栄一郎 准教授

#ヘッドクォーター#

川合 光 教授、前野 悦輝 教授、佐々木 節 教授

\点検・評価委員\

小山 勝二 教授、菅沼 秀夫 准教授、上田 佳宏 准教授、市川 正敏 講師

H22.2.16 (火) 第2回 外部評価委員会

於:京都大学百周年時計台記念館 会議室

$外部評価委員$

常任:

Piet Hut 教授

ゲスト:

Shane Kennedy 博士、Andrew Schofield 教授、David Wands 教授、

横山 広美 准教授、青木 薫 氏、三田 一郎 教授

#ヘッドクォーター#

川合 光 教授、前野 悦輝 教授、

\点検・評価委員\

Glenn Paquette 特定准教授、菅沼 秀夫 准教授、上田 佳宏 准教授、市川 正敏 講師、

川畑 貴裕 准教授、松田 和博 准教授

H22.7.15 (木) 第3回 外部評価委員会

於:京都大学百周年時計台記念館 会議室

$外部評価委員$

Manfred Sigrist 教授

#ヘッドクォーター#

川合 光 教授、前野 悦輝 教授、佐々木 節 教授、谷森 達 教授、早川 尚男 教授、

長田 哲也 教授

\点検・評価委員\

Glenn Paquette GCOE特定准教授、菅沼 秀夫 准教授、市川 正敏 講師、柴田 大 教授

H22.9.27 (月) 第4回 外部評価委員会

於:京都大学百周年時計台記念館 会議室

$外部評価委員$

益川 敏英 名誉教授、蔵本 由紀 名誉教授、政池 明 名誉教授、田中 耕一郎 教授、

鈴木 在乃 講師

#ヘッドクォーター#

川合 光 教授、前野 悦輝 教授、佐々木 節 教授、長田 哲也 教授、谷森達 教授、

早川 尚男 教授

\点検・評価委員\

柴田 大 教授、菅沼 秀夫 准教授、上田 佳宏 准教授、松田 和博 准教授、

川畑 貴裕 准教授、市川 正敏 講師

H23.2.22 (火) 第5回 外部評価委員会

於:理学部5号館115号室

$外部評価委員$

常任:

Michel Gonin 教授

ゲスト:

John Doyle 教授、佐々 真一 教授、谷村 吉隆 教授

#ヘッドクォーター#

山本 潤 教授、柴田 大 教授

\点検・評価委員\

Glenn Paquette GCOE特定准教授、上田 佳宏 准教授、川畑 貴裕 准教授、

市川 正敏 講師、松田 和博 准教授

H24.2.14 (火) 第6回 外部評価委員会

於:京都大学百周年時計台記念館 会議室

$外部評価委員$

常任:

政池 明 名誉教授、田中 耕一郎 教授、鈴木 在乃 講師

ゲスト:

佐野 雅己 教授、小林 亮 教授、小玉 英雄 教授、矢花 一浩 教授、北野 正雄 教授

#ヘッドクォーター#

山本 潤 教授

\点検・評価委員\

柴田 大 教授、上田 佳宏 准教授、川畑 貴裕 准教授、市川 正敏 講師、

松田 和博 准教授

^国際会議・外国人招聘委員^

    田中 貴浩 教授

H25.2.13 (水) 第7回 外部評価委員会

於:京都大学百周年時計台記念館 会議室

$外部評価委員$

政池 明 名誉教授、Manfred Sigrist 教授、鈴木 在乃 講師

#ヘッドクォーター#

川合 光 教授、長田 哲也 教授、早川 尚男 教授、佐々木 節 教授、谷森 達 教授、

前野 悦輝 教授

\点検・評価委員\

山本 潤 教授、柴田 大 教授、上田 佳宏 准教授、川畑 貴裕 准教授、市川 正敏 講師、

松田 和博 准教授

^国際会議・外国人招聘委員^

田中 貴浩 教授、太田 隆夫 教授

2章 議事録

1. 第1回 外部評価委員会

概要

開催日:平成21年2月16日(月)

開催場所:京都大学百周年時計台記念館 会議室

出席者:

$外部評価委員$

 常任:

益川 敏英 名誉教授 (京都大学・京都産業大学)

蔵本 由紀 教授 (京都大学数理解析研究所)

ゲスト:

村松 秀 氏 (NHKエデュケーショナル エグゼクティブプロデューサー)

小松 栄一郎 准教授 (テキサス大学 オースティン校)

#ヘッドクォーター#

川合 光 教授

前野 悦輝 教授

佐々木 節 教授

\点検・評価委員\

小山 勝二 教授

菅沼 秀夫 准教授

上田 佳宏 准教授

市川 正敏 講師

会議要旨

21世紀COEの内容をもとにした本GCOEプロジェクトと、TRA、BIEPを含む新しい制度について概説され、アウトリーチの方法について議論が交わされた。また、物理教室における交流の活発化や研究環境の充実を促進する為に、GCOEプロジェクトをどのように関連づけるかに関しても意見が交わされた。

質疑応答

1. 本GCOEの概説

#川合#:本GCOEのタイトルは「普遍性と創発性から次の世代へ」。21世紀COEの内容をもとにしたシステムで行う。学生に対して、教育の面では、TRA制度、BIEP制度、カリキュラム改革、キャリアパス支援を新たに行う。一方研究プロジェクトにおいては、特別研究ユニットとして准教授を3名採用し、融合分野の強化を目指す。

$小松$:このGCOEの前にあった21世紀COEの拡張ということだが、そこでの成果や変更すべき反省点をどのようにふまえているのか。

#前野#:研究テーマについてはシンポジウムで説明の予定なので、制度の方に関して説明する。大きなものはTRAで、これは21世紀COEではTAだけであった。今回はリサーチアシスタントを加え、日本に即した新しい制度にする。BIEPの制度では、海外の国際会議に日本の学生を派遣するだけでなく、滞在型にする。海外で実際に研究するだけでなく、海外の大学院生を呼んできて滞在させ、こちらの学生が日本に居ながらに国際研究体験をできるという形で展開させる。

\小山\:TRAは本GCOEの特徴であり、教えることも勉強になるということを教育できる。

$村松$:GCOEはプロジェクトの年限が切られていて、そのなかで得られた成果を評価していく仕組みである。しかし、「『次に』取り組むべき問いは何か」と言う部分はなかなか表に出にくい。その部分を大事にできるようにしていただいたらうれしい。

$益川$:そういう仕組みは馴染みやすい分野とそうでない分野があり、「こことここで共同研究をやれ」と言われても難しい分野がある。共同研究は「日常の研究生活でたまたま周囲の分野の人が、我々の既に持っている技術を要している」というようなところで始まるようなものだと思う。そういう性質を、こういったプロジェクトにどういう具合に流し込んでいったらいいのか。

$蔵本$:そういうチャンスが生まれやすい雰囲気・体制が必要ということか。

$益川$:成果はあまり求めずこの間にチャンスを生かせというのだったら意味があると思うが、初めからこの間に必ず共同研究せよと言われても難しさがある。

\小山\:21世紀COEとGCOEを通じて、物理教室と宇宙物理教室の間で一緒にやろうという雰囲気が感じられるようになってきてはいる。

$蔵本$:国の経済状況などが色々厳しい中、このGCOEもいつまで続くということは本当に見通せない。そういう中で、この計画の中で成果を出すということも大事だが、たとえ予算が切れても将来資産として残るようなものは何かということを考えるとよい。たとえば人材は大切だ。

$小松$: BIEPのような制度から始まり、海外で学んだことをフィードバックしていくような雰囲気になれば、それは大きな資産になるだろう。僕はマスター修了後に、東北大に籍を残したままプリンストン大学に行った。その時には学振が当たっていたから行けたわけで、そういう風なものになり替わるシステムがあれば非常にいい。たとえばGCOEで1年とか、期間付きで滞在をサポートしてはどうだろうか。

#川合#:今のところはできるだけ広くたくさんの大学院生に外国に行ってもらいたい。

$小松$:たとえば1人くらい優秀な者を長期間派遣するということは可能か。

#前野#:制度としては、翌年にまた行ってもらってもいいし、何か他のものと組み合わせて2回目は6か月行くということもできる。毎年10人以上は派遣し10人以上は呼び、計20人以上の規模で毎年行う。

$村松$:GCOEのような仕組みがないとそんなに簡単に行けるものではないと思うが。このGCOEの終了後に、ポスドクの方などをどうしていったらいいのかということは具体的に想定しているか。

#前野#:これだけいい制度で非常に充実した成果が上がったということを主張して、それが文科省の次のプロジェクトや学内のプロジェクトにつなげたい。今のところそれくらいしかできないし、5年先どうなるか読むこともできない。継続性がないとやはり教育の問題は立ち消えになってしまうと不安だ。

$村松$:特任の先生も採用するのか。

#川合#:特任の人たちは、テニュアトラックと絡めて採用することが不可能なので、4年半できっちり外に出られそうな人を採用する。ただ、ここでせっかく仕事をしてもらったのに外に出すことになってしまうが、それはやむを得ない。

$村松$:GCOEの仕組み上どうしてもそうせざるを得ないだろう。その辺に工夫があるとよい。

2.科学コミュニケーション・市民との対話

#前野#:村松さんはNHKで科学番組のディレクターをずっとやってこられたが、物理の出身の人はスタッフにいるか。「ためしてガッテン」では緻密な検証をされているが、スタッフの方々は博士を取ったレベルなのか。

$村松$:私は科学環境番組部というところにいたが、そこではディレクターの文理は大体半分に分かれている。理系の人では、修士修了の人が割と多く、ドクターまでとった人もまれにいる。科学のことをあまりにも知りすぎた人間がそのままのモードで番組を作ると、どうしても普通の方の興味とはずれてしまう。そこを修正できないとやはり面白さがなく、視聴者に届かない番組になってしまうのでそこは相当気を付けている。ただもちろん、その専門性や、科学的な方法論の導き方を持っている人間がいることは決して悪いことではない。今人材の話をされていたが、そういう方々が本当は放送現場や科学コミュニケーションの現場でもっと活躍できる素地が出てくるといいのかなと思う。

$蔵本$:京大には科学コミュニケーションの養成コース等はないのか。私が北大にいた時にはCoSTEP(北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニット)というのがあり、国から一定期間予算をもらっていた。それで市民サイエンスカフェなどを開いていた。出版物もあるし、色々な活動をしているようだ。わくわくドキドキするようなものは専門家が独占すべきではなく、やはり市民と共有すべきものだ。サイエンスカフェのようなものは、これから非常に重要だと思う。

$村松$:アウトリーチ自体は重要だが、科学コミュニケーションという言葉にはファジーでよくわからないところがある。単なるアウトリーチではなく、もっと市民サイドからの積極的なアプローチとか、専門家と対話することの中で生まれてくるようなものを大事にしていこうという空気は生まれている。GCOEでもそういったことが実現するといいのではないか。特に世界で最先端の研究をずっと切り開いてこられた方々が見る世界と、人々の普通に生きていることとが何かつながるように感じられるような仕掛けが、単なる広報やPR、説明責任を超えたところを目指していると良い。「普遍性と創発性から紡ぐ次世代物理学」というタイトルは一般の人たちから見るとすごく観念的に見えるだろう。それは逆にこのGCOEの特徴であるとも思いますが、その特徴をうまく市民に提示できないだろうか。

$蔵本$:物理がそもそもそういうもので、それが物理の魅力であると訴えられれば良いのだが。

$村松$:私たちのような素人の人間が生きている世界のものの見方を、ダイナミックに変えてくれるようなものであってほしい。このGCOEの成果を通して、ただ教えたり伝えたりするだけでなく、少しでも共有できると工夫があるとうれしい。

#川合#:アウトリーチの具体案として出前講義を行うといった議論はしているが、それ以上のアイディアがあればやりたい。

$村松$:出前授業は良い案だ。あとは、たとえば、計300人弱の教員と博士課程の方々がそれぞれ、年に1回、10人の人に自分のやっている研究テーマを伝えることを義務にしてはどうか。すると3000人が1年でこのGCOEのことを知ることになる。逆に、そこで話を聞いた相手が研究の中身や意義を分かってくださるかどうかが、このGCOEの意義を自己反省する材料になるのではないだろうか。

3.研究環境

\菅沼\:ノーベル賞を受賞された益川さんにお聞きしたいのだが、ノーベル賞クラスの偉大な研究を育むにはどういった研究環境や社会環境が望ましいとお考えか。

$益川$:基本的には研究者の層の問題だと思う。研究者の能力というのは色々あり、必要な時に必要な人ががんばるわけです。ある局面では有用だけども別の局面では対して役に立たないということはある。ひとつのソサイエティーのなかで研究者の層をどれだけ持っているかに尽きる。

\菅沼\:研究者の層という意味では、GCOEで教育などについても活動しているが、今後、あるいは現在、具体的に大学や大学院の教育でどういうものが望まれているとお考えか。

$村松$:限られた時間で成果を出す必要があるが、そこに埋没しすぎないような仕組みを考えた方がいい。教育現場でも、先生によってはそういう方向に学生を持っていくケースもままあるように感じる。また、研究者自身は探究のプロセス自体を科学だと考えているだろうが、外から見ると、「何か成果が導かれた」ということが科学の達成感のようになり、成果が存在したということが科学である、という部分があるように受け取ってしまいがちである。小中高などで、結果が大事なのだという受け取り方をしてしまうところもあり、大学の教育の中でもそこの違いがうまく消化されないまま来ているところもあるかもしれない。それが成果主義と結びついてしまうと、余計にそのプロセスの方をおざなりにしがちな方向に進みがちだと思うので、そのあたりを改めて考え直すようなやり方があったらいいかなと思う。

$小松$:私のところではトピカルレクチャーというのだが、あるスペシフィックなサイエンスコースを持つというのはどうか。大学の授業では基礎的なことはもちろん重要だが、時々は、今一番何が面白いのかということを、たとえば宇宙論の最難問とか天文学の際難問とかと言う風に限って、それしかしゃべらないクラスを作るというのがあったらいい。

#川合#:集中講義の形ではやっていますが、それを1つのコースで先生が入れ代わり立ち代わりでと言う形ではまだやっていない。

$小松$:うちでは結構人気もある。プリンストン大学にもそんな形のものがあり、そこでは物理も天文も、バイオロジーもケミストリーも全部合わさったセンターができて、そこで最先端のトピックをトピカルレクチャーとして行っている。

#川合#:色々な話が混じるわけだが、どういう話を聞きに来るのか。

$小松$:聞きに来るということはそのコースを取るわけだから、わからない話でも聞くことになる。どういうテーマが今一番ホットなのかと言うことを知らせることがいいことだと思う。

#川合#:理学部では今、物理以外に化学と生物、数学がGCOEを持っている。そういう取組は連携をつくれば出来ないことではない。

$小松$:また、たとえばナショナルアカデミーのフロンティア・オブ・サイエンスのような、他分野交流用のシンポジウムも絶対に必要。僕は最初すごく懐疑的だったが、あれは非常に面白い。各分野のリーダーを集めているので、言っていることがわからなくても最先端と言うことだけで十分面白く、ものすごく刺激的だった。

2. 第2回 外部評価委員会

概要

開催日:平成22年2月16日(火)

開催場所:京都大学百周年時計台記念館 会議室

出席者:

$外部評価委員$

常任:

Piet Hut 教授 (Princeton University)

ゲスト:

Andrew Schofield 教授 (Birmingham University)

David Wands教授 (Portsmouth University)

Shane Kennedy 博士 (Bragg Institute, ANSTO)

横山 広美 准教授 (東京大学)

青木 薫 氏 (科学翻訳者)

三田 一郎 教授 (神奈川大学)

#ヘッドクォーター#

川合 光 教授

前野 悦輝 教授

\点検評価委員\

Glenn Paquette 特定准教授

菅沼 秀夫 准教授

上田 佳宏 准教授

市川 正敏 講師

川畑 貴裕 准教授

松田 和博 准教授

会議要旨

Paquette准教授の司会により、英語にて開催された。外部評価委員により説明された海外の現状が説明された。これらと比較検討しつつ、TRA、BIEP、アウトリーチ活動、キャリアパス制度の整備・拡充に関して議論が行われた。BIEP制度は高く評価された一方、広報活動の不足が指摘された。またキャリアパスの獲得の為、大学が企業と大学院生の双方に意識改革を促す必要性が指摘された。

質疑応答

1. 導入

\Paquette\:まず京都大学での皆さんの研究について、皆さんの京都大学での経験を通じた助言や考えを聞きたい。我々京大GCOEが大学の構成員や仕事について取り組めることの強みや弱みに関して、あなた方がご存知の点を聞きたい。

$Schofield$:この大学での私の研究経験のほとんどは前野さんのグループの仕事を通じてのものであり、私はここで幅広い活動をしている。昨日開催されたミーティングもとても充実したものだった。異なるグループを結び付ける目的の一つは、それをきっかけに異分野とのつながりの可能性を模索することである。我々はお互いの考えを聴く時間をもっともつべきであった。

$Schofield$:色々な難しさがあるのは私の経験から知っているが、学生の質問を見たかった。彼らの訓練になるか否かはともかく、セッションをもう少しオープンにしてはどうか。また、最も優れた学生質問への賞を用意してはどうか。

$Wands$:私は宇治キャンパスに2週間ほど滞在し、修士2年の学生たちととても良い時間を過ごしている。しかし、研究の中で交わることこそが本当の挑戦的意義だと思う。私はGCOEに対する強い意識を持ってここに来たというわけではないが、実際GCOE客員研究員としてここにいるわけだから、ここに来てすぐ、GCOEに関わる人たちと知り合うためコーヒーを飲みながら互いの経験を語り合い、フィードバックを行なった。

$Wands$:私は宇治のグループについてもう一つ意見がある。私は宇治のICRの加速器研究所にいる。私が来るきっかけとなった彼らの研究は、ニュートロン光学に関するものである。しかし思うに、宇治のグループは日本の他大学のキャンパス間でもっとつながる必要がある。しかし、宇治の環境において、そのようなつながりが容易に構築できるものなのか、私にははっきりしない。もちろん国際的なつながりを持つことは常にいいことだが、宇治キャンパスは日本の中でも少し孤立しているように思われる。

$Hut$:京大は非常に質の高い研究をしていて世界的に高い評価を得ているということは、確実に言える。日本の研究事情にとっての挑戦とは、大体において、その研究の質に値する直截の評価を受けるための国際的な影響力を得ることであると思う。日本国外とそういったリンクを作るという問題である。私自身GCOEに特別関わっているというわけではないが、湯川研究所に来ている招聘外国人研究者として、物理学科、天文学科に来ている外部研究者と出会う格好の機会であることは間違いない。湯川研究所では、ある意味、それがずっと行われてきたし、レセプションがあった時には、私が会っておくべき人たちに私を紹介してもらいました。

\Paquette\:あなたがここに滞在していた間に、湯川研究所と学部の間でコミュニケーション不足があったかもしれないということか。

$Hut$:そのようなプログラムを大事にする機会がもっとあってもよい。おそらく大学のプログラムとして定期的な外国人研究者の招聘枠があると思うが、そういったプログラムをもっと幅広く有効的に使ってはどうかと思う。シンポジウムや昨日の講演等は、参加しやすく構成されていただけでなく、その内容についても質の高いものであったと感銘を受けた。物理学の中でも異なる研究領域の研究者がお互いの研究内容を知ることは難しいと耳にするが、何とも面白いことだと思う。また、セッションで使われる言語が英語か日本語かを明確にしてもらえれば、外国人には有益だと思うが。

\Paquette\:そうだ。外部の人にも参加してもらうには、(日本語だけではなく)英語講演にもする必要があるかもしれない。それについては長期的プロジェクトになりそうだ。

2. TRA

\Paquette\:では次に、TRAプログラムについて。これはTAとRAを合体させる取り組みである。20時間の労働に対し年間2~30000ドルを支給している。雇用時間のうち半分は教育に、そして残り半分は基本的に研究に費やす。このプログラムについて、何か意見あるいは自身の大学での経験など、聞かせてほしい。

$三田$:このプログラムについては、大いに賞賛する。学生がアルバイトや資格の取得に、学業のための時間やお金を費やす必要がないということは、とても重要なことだ。

$Schofield$:TRAプログラムはとてもよいアイディアだ。しかし、平日の20時間が労働時間となっているが、これはTRAの学生が担当学生に応対するべきコンタクトアワーなのか、それとも準備の時間なのか。というのも、週20時間というのは我々研究者にとって、かなり長い拘束時間だ。私がこれまで務めていた大学では、教育に費やす時間はそんなに長くなかった。自分の研究を遂行すること自体大変なことで、その上教育となると、TRA学生にとってかなりの負担になる。

\Paquette\:準備時間は除外されるだろうし、準備時間をいれて週10時間の教育で、授業時間は週30時間しかない。

$Schofield$:もし学生が、あまり教育が得意ではない者から教えられると問題だ。TRA学生の教育技術を訓練して、さらに学部生からフィードバックを得ることが重要だ。

\Paquette\:TRAの前にワークショップで訓練させてはどうか。

$Schofield$:何かしなければならないことは明らかだ。評価はどう行われるのか。

#前野#:各クラスにコース内容と教師を評価するためのコース評価を設けている。

$Kennedy$:私は仕事量について同じ質問を持っていた。それが研究に支障を来たしてはならない。教育に10時間、研究サポートに10時間ということでよいのだろうか。

\Paquette\:はい。

$Kennedy$:それなら妥当なバランスだが、フィードバックだけではなく、大学の掲げる基準に合うように教育の質を監査する制度があればと思う。

\Paquette\:そちらにはTAのプログラムはあるのか?

$Schofield$:週に6時間のプログラムがある。これは学期内での仕事量だが、実際にはもう少し多めだろう。我々が行なっているのは、PhDプログラムに課外時間を付け加えることだ。博士号を取得するまでに3年研究しなければならないが、それに半年特別に与えられる。博士課程の最終年が最も研究成果のある年だが、その最後に教育の責務を果たしていく。全員が出来るわけではなく、実際には競争がある。組織配置(身分)によって支給金額が異なり、面接もある。研究に従事してTAに最もふさわしい人が選ばれる。TRAの選考には、高レベルの選抜があるのか?

\Paquette\:原則として誰でも可能だ。

$Wands$:年間何人と、決まった数字があるのか?

#前野#:この申し込みの申請数は自然に均衡する。

$Wands$:では、PhDコースに受け入れられる成績を持つ人数程度は賄える予算があるということか。

#前野#:150人のPhDがいる中で、60-70人の学生がTRAとして働いている。JSPSから奨学金を得る学生がほぼ同数いる。これらの数は自然に均衡している。

$Schofield$:では学生はどこからかサポートを受けているということか。

#前野#:そうなっている。

3. BIEP

\Paquette\:BIEPのプログラムは、博士課程に在籍する大学院生を3ヶ月間、外国の大学に送り、外国から大学院生を3ヶ月間招聘するという、海外の大学との双務的なものである。学生は、留学・招聘期間の終わりに、レポートを書くことになる。

$Schofield$:聞く限りこのプログラムはよいもので、教育的にも優れている。学生の質は、いわば大学の直接の成果であるから、交換留学プログラムでその学生を外国に送ることはよい広報にもなる。特に、まったく面識もなく交流のない海外の研究機関でポスドクのポジションを得るのは容易なことではないが、このようなプログラムはそのための一つの道を開拓することになる。ここで問題になるのは、どの時点で学生が海外に行くべきなのかということだ。博士課程の最後の方で留学を経験すれば、とても有益だと思う。学生の選定には、将来のポスドクの可能性やキャリアへつながるような人選をすべきだ。あと一つ、書かれている説明で分からないのは、受入れ研究機関では誰か責任者になるかということ。というのも、留学生が新しい研究環境や生活環境に馴染めるように受入れ先にいる誰かが世話すれば、学生は受入れ先の研究グループにうまく入っていけると思う。

#前野#:応募にあたり、学生は自分を受け入れてくれる研究者を確保する必要があり、教授とはEメールで連絡を取るように求めている。

$三田$:送る側ではなく、受入れ先が留学生に支給することはとても重要な意味がある。お金が支払われれば学生は、研究成果を挙げようと努力するだろう。しかし送り側が支払っていると、学生はじっと何もしないままに終わってしまうだろう。

$Kennedy$:相互留学プログラムはとてもよいアイディアだが、これに関して質問がある。成功の鍵は、送り側と受入れ側の両方にある。三田教授も言ったように、送り側・受入れ側双方共にコミットしなければならない。受入れ側が現地でのコストを負担するなど、その他多くの努力が必要だ。研究だけではなく生活面でも、学生がちゃんと面倒を見てもらい、しかるべきところに配属されているか確認も必要だ。また、柔軟性も重要だ。期間や双方の平等性について規則が厳しすぎると、成功はそれほど期待できない。お互いをよく知った研究者や教授の研究室から学生を送るという、ある意味有機的なものがうまくいくだろう。また、役所的な書類手続きは科学的には重荷で、このプログラムがうまくいくかは、この点にもあるかもしれない。このプログラムには、関わった者すべてへの影響力があり、その後に続くような機会になることが求められるだろう。どう広報するのかという点も重要だ。大学内にのみ広報されるのか?あるいは国際的にか?インターネットが充実していれば、世界中の人が受入れ先を提供してくるかもしれない。私は、京都大学内の研究者すべてがこの制度を知っていて、機会があれば、この制度を利用するようになることがこのプロジェクトの目標になると思う。質の高い応募者を求めようと考えているならば、プログラムを宣伝しなければならない。

#前野#:全世界向けには特に広報はしてきていない。こちらの学生を受け入れてもらうお願いは、研究者が各自でコンタクトしている。柔軟性についての質問だが、常時応募者を受け付け、Eメールによる推薦書で選考するので、学生はいつでも応募して、いつでも行ける。

$Kennedy$:それは期間と時期に対してもそうなのか。このプログラムは「交換」留学だと理解しているが。

\Paquette\:交換と言っても、実際は一対一ではないようだ。

#前野#:普通の交流ではなく、総合的な交流です。だから一対一の交流ではない。我々は学生を送り出し、また受け入れている。

$三田$:研究者仲間の間で調整して、「君の学生を受け入れるから、私のところからも受け入れて下さい」と言えば良いのだ。

#前野#:そういうことも行っている。外国からここに来る留学生は、京都大学の学生に英語でコミュニケーションをとるためのよい機会を与えていて、その影響力は大きい。

$Kennedy$:このようなプログラムは、世界に向けて広報するべきものだ。

#前野#:どんな方法でやるのか、提案はあるか?

$Kennedy$:インターネットの影響力は大きく、きちんとしたホームページがあれば、それはよい出発点になる。このような会議の場でも、「私の大学のホームページを見てみてください。このプログラムのことが書かれていますから」と言えるようになる。これはかなり効果がある。ホームページには、プログラムの利用を勧めるメニューや、体験や意見を書き込むページがあれば、広報に役立つだろう。

$Wands$:留学プログラムは、確かに強調し推奨されるべきよいものだし、どの学生もこのプログラムを知っているようにするべきで、それはそれほど難しくないだろう。海外へ行くことは大きなチャンスなので、積極的に奨励してあげてほしい。もちろん英国のシステムではこのような機会は得られない。交流の双方とも受け入れ側が負担すべしと、明確な注意の言葉があるかもしれない。必ずしも意図していない部分で障害が出てくるかもしれないので、施設の経済的責任の点では柔軟であることが望まれる。しかし、監督の観点からは施設がそれを受け入れることは間違いなく重要であり、施設はプロジェクトのための時間確保の点では大抵柔軟である。時に学生ビジターのために財政支援を探すのが難しいこともあるだろうが、送り主は送り出した学生がよく面倒を見てもらえることを望んでいる。明確に定義されたプロジェクトと優秀なスーパーバイザーがいればうまくいくだろう。

4. アウトリーチ

\Paquette\:では次に、科学コミュニケーションのアウトリーチ活動について、特に横山先生にお聞きしたい。ご専門の観点からアドバイスを頂きたい。

$横山$:ニュースレター、シンポジウムのポスターとウェブサイトを拝見した。すばらしい活動をされていて、ニュースレターとウェブサイトも充実している。私の大学の他のGCOEプログラムには、助手のようなアウトリーチ研究者のコースがあり、アウトリーチのプロフェッショナルを雇うこともできる。同様に京大には他のGCOE やWPIにも多くの科学コミュニケーターがいる。こういった多くの人々とうちの大学とをつなげることもできる。生物学のWPIにいる科学コミュニケーターと話していたのだが、彼らはとてもハードに働いていながら、ここや他の学科と接する機会がない。京都大学にはとても多くの科学コミュニケーターがいるので、お互いに接しあうことができるポテンシャルがある。

$横山$:先日、菅沼先生から、私の活動が学科の教授にどのような影響を与えたか質問を受けた。何人かの先生に尋ねたところ、合原先生からは次の四つのコメントを頂いた。一番目は広報の必要性、重要性を皆が共通認識として持つようになった。これは理科離れに象徴される、若い人の理科嫌いが増えたこと、ビッグサイエンスのみならず、事業仕分けに代表されるように、科学分野の予算がマスコミや世論の影響を受けやすくなったと感じていることなどが原因だろう。二つ目として、IPMUの村山先生や私のように、注目される広報活動や話し手が増えたことから、一般の人へ講演することに関するモデルが増え、教員のモチベーションも上がってきた。三つ目に、同時に学生の広報に対する興味も増えてきた。四つ目として、その上で理学系としては広報が科学コミュニケーションとイコールになることに、ここは議論があるところだが、広報活動にはきりがないのでどこまでやれば十分なのか、あるいはどこまでやる必要があるのか。さらに科学コミュニケーションを学問として発展させるにはどうすればよいのかなど、新しい問題が生まれているように思う、というコメントであった。

$横山$:もう一つ、早野龍五先生からもコメントを頂いた。理学系研究科で広報を科学コミュニケーションとしてつくり、そこにPhDを組み込むことができたが、それだけで我々に大きな変化をもたらした。学外の方々も時代の変化を感じている。論文を出して引用数が多ければそれでよいという考え方はアカデミックな評価としては依然として主流だが、それだけでは若い方を惹き付けられないし、また事業仕分けで明らかになったように税負担者の支持も得られない。戦略的な科学コミュニケーションが必要だということは、多くの研究者が認識しつつあると思う、というのが早野先生からのコメントだ。

$横山$:このように東京大学の理学研究科では、人々が科学について知りたがっていて、税負担者は予算に対して非常に厳しい眼を向けている、ということを強く感じている。もっと一般向けにコミュニケーションをとる必要があると思う。

$横山$:科学コミュニケーションは2005年に始まった。研究システムは日本ではまだ確立されておらず、まず日本で専門の会議を立ち上げなくてはならない。我々は研究の緒に就いたところで、まだ研究は十分なものではない。

$三田$:この GCOE はいつか終了するので、次のプログラムが必要となるだろう。したがって終了時には多くの公的サポートを必要とすることになるだろう。例えば、川合さんと私がIPMUの評価を行なったが、「仕分け」による予算カットで、予算が1/3削減される見込みだった。メールというものは世界中の誰からでも受け取ることができるし、鳩山首相に送ることさえできる。結果的に執行予算が変わり、IPMUも改められた。だから京都の住民とコミュニケーションの場を築くことはとても重要で、そうすれば次のステップに行くことへの確信を持てる。文部科学省にメールを送ることでそういうことができる。やってみた方がいいだろう。

\Paquette\:それはとても大事なことだ。

5.キャリアパス

\Paquette\:次の話題であるキャリアパスに移ろうと思う。学生のためのキャリアパスに関し、どのような取り組みがあるのか説明してほしい。

#前野#:日本では、近年高校の教師に多くの退職者が出ており、理科の教職に多くの需要が予想される。そのため京都府や大阪府などの教育委員会に理科教師の雇用に関する連絡を取っている。また、学内にはキャリアパスセンターがある。実際に今日の午後、センター長を招いてセンターとその活動について話してもらう。特に教職に就いた先生のことについて重点的に話してもらう。

\Paquette\:この件についてまず青木さんに、選んだキャリアパスについて聞いてみたい。私の知る限り、学生はこのような翻訳などの進路を一般的には勧められたりはしていないと思うが、このような進路は多くの学生にとって良い進路だと思う。そういう進路に興味を持った学生に対して、我々がサポートできることがあるだろうか?

$青木$:はい。20年前私が「ポピュラーサイエンス」の翻訳を始めた頃、日本には科学書のプロの翻訳者はほとんどいなかった。なぜなら翻訳でさえも科学知識はとても重要だからです。日本の出版社は大学で働いている科学者に著名な科学書の翻訳を依頼していた。近年では日本にもプロの科学翻訳家がおり、高い学位を持っている人も見られるが、深い科学的背景を持つ翻訳者の数は限られている。だからポスドクが翻訳者になることは常に歓迎する。特に翻訳自体を楽しむ科学者や、科学に限らず幅広い事柄を喜んで学ぶ科学者は。すぐに成功するのは難しいので、現実的には経済的な問題がある。

\Paquette\:そう、翻訳については強いニーズがあると思う。特にあなたのように英語を日本語に訳すのは大きいニーズがある。しかし日本の科学者が海外で働くことの一助として、日本語を英語に訳すことも重要だと思う。そしてその数は十分ではない。以前は少なくともそういった目的のための予算やプログラムがあったように思うが。定かではないが、特に日本人科学者の本の英訳に関して。そのプログラムはまだあるのだろうか? Schofield氏が言ったように日本人を売り込むならば、日本の科学者をもっとよく知らしめることが重要だ。

\Paquette\:ガイダンス等、大学のどのプログラムが進路探しに利用できるのかを聞きたい。うまくいったもの、いかなかったものはあるか?

$Schofield$:この件についてはたくさん言いたいことがある。一つは三田先生が言っていた、とても明白なことだが、政府は多くの研究に対して助成を行なっていて、恐らくそうした研究から得られる経験のほとんどは実際には院生が享受している。ポスドクと院生の両方共が、経済に貢献し得る存在であることを政府に知らしめることが重要だ。PhDを取得した修了生が機会を存分に利用できると知ることが大きな課題になるのではないだろうか。残念ながら、彼らが毎日接しているのは我々で、我々はPhDを持つ人間について非常に一面的な見方しか持っていない。だから我々がすべきことの一つは、できる限り同窓生のデータベースを維持し、研究員がどこへ行き何をしているのかわかるようにすることだ。彼らがきちんと連絡をくれれば、我々も彼らを呼び戻してキャリアアップについて彼らに発表してもらうこともでき、活動の幅広さについて皆が知ることにもつながるだろう。

$Schofield$:それを何か系統的かつ統計的に行なうことで、修了生が何をしているか概要をつかむことができるだろう。そうすればPhD取得後の人間にどのようなキャリアを用意すればいいのかもわかるだろう。もう一つの観点として、教育と述べていたが、バーミンガムで気づいたことがある。実は今年我が校のPhDの学生が、驚くべき割合で教職へ向かった。我々はアウトリーチプログラムの一環として、彼らに学校に行く機会を与えている。彼らは学校に行き、教育に挑戦しています。こういったことはこれまで有効だったが、恐らくここでも既に行っていることだろう。 

$Kennedy$:アウトリーチとキャリアサポートの間には、強く重なるところがあると気付いた。成功するためには少なくとも、大学レベルの教育とそれ以前の教育との間にも、強い重なりが求められると思う。実験や実演等により何らかのサポートを提供できるだろうし、子どものためのゲスト授業も考えられる。本質的にこれら二つのレベルの教育間にある障壁を取り除くことができるならば、人々と科学の最良の結びつきを継続して得られるだろう。そうなれば科学にとっては、地域の中で評価される最良のチャンスになるだろう。なぜなら、子どもたちが科学に彼らの道を見つけたり科学に興味を持ったりすれば、その子の家庭や地域にも同様に影響を及ぼすからだ。現在オーストラリアでも、大学以前の学校が大学との相互連携のプログラムを導入することが、確実に一つの流れになっている。

$Wands$:キャリアガイダンスについては、Schofield氏が言ったことを常に気にかけている。恐らくそういうことをするのに我々は最適の人間ではないし、少なくともそのことについて狭い見識しか持っていない。だから、キャリアガイダンスに関し、その事実を意識して注目しつつ、外部から人材を呼びたい。Schofield氏が示したような、卒業生を呼び戻して現在の学生に向けて喋らせるというのは、素晴らしいやり方だと思う。他のやり方として、大学にキャリアガイダンスセンターがあったら、そこに多くを任せることで学生の可能性を広げることができる。研究のことに限って、交流プログラムについてこれまでに述べられたことの中で改めて強調すべきことは、学生を送り出すことの価値や、学生と学外の研究者との交流を培うことだ。なぜならポスドクのポジションを確保することは大事なことで、どのような個人的なつながりでも価値のあることだからだ。自身のグループ外での共同研究に学生を巻き込むことは、潜在的に彼らの将来のキャリアパスにかなりの価値をもたらすだろう。自分の研究室の同僚が大規模な共同研究に携わっているのを羨ましく思うし、学生が彼らのところに来ているのも羨ましく思う。彼らはこのデータベースを用いながらどのように働くか、または共同研究の中でどのようにそれを操作するかを学生に教えている。潜在的には彼らを受け入れてくれる研究機関が世界に20から30はあるだろう。我々理論物理の世界ではもう少し少なく、共同研究についてはもっと極端に少ないかもしれない。理論物理学の学生のキャリアパスはもっと厳しいだろう。従って、彼らに学問分野のキャリアパスを支援するのはとても価値がある。

$三田$:アカデミックな地位が確保できなかったとき、それには所謂「失敗」という、確固とした意識が生じると思う。人々や学生はあたかも「失敗」したかのように感じてしまう。だから、教授になる以外の働く道があり、それで良いと感じられる体制作りの努力がなされるべきだ。学部のメンバーが学生に語る際にも、それはシステマチックにできることだ。私はよく、「素粒子理論のPhDを取って三井物産に行くのは何もおかしいことではない」と言う。当初は、自分は何の役にも立たなかったと思ったが、年を経て、三井物産にいる人間がそう思っていないことを知り、分析的に考えることができるようになった。多大な貢献ができる。常にそう言えるようになれば、学生も他の方面に進んでいいのだと考え始める。

6.その他

$三田$:私はGCOEには重要な問題があると考えている。GCOEプログラムの目的は科学者のエリート集団を作りあげるということだが、政府は彼らの雇用についてなんら手を貸していない。つまり、日本で言われているところの「ワーキングプア」をつくりだしていることになっている。問題の一つは、産業界がPhDを持った人間を「扱いがとても難しい」と見て雇いたがらないということだ。米国では、PhDの素粒子物理学者の多くは、銀行などの産業界で雇われている。京大のGCOEでやればいいと思うことは、産業界から人を招き、学生たちと討議してもらうことだ。しかし、この討議を実行に移す前に、学生たちの才能を評価できるように産業界の人を教育する必要がある。産業界が学生たちを安心して雇用できるように産業界の人々に保障を与える等、何か手を打たなければならないし、それができれば、学生たちは会社にとって大きな戦力となるだろう。産業界がPhDたちを雇用するように教育することを、文部科学省に納得させるのも大いに大事だ。

#前野#:他にコメントは?

$Hut$:私には一つ言いたいことがある。学生には英語の表現力を身につけてほしい。本当にそれが上達すれば比類なきレベルになるだろう。何人かの学生は非常に熱心で、外国人とたやすく会話できる。しかし何人かは、恥ずかしいのか自分をさらけ出さず、結果的にもっと自分を表現できなくなっている。1年前ドミニカの科学センターからのポスドクを受け入れたのだが、一策を講じて毎週1時間セミナーを開くことにした。二人の学生が英語で5分間話すのだ。学生はレジュメを二つ作り、研究について5分間発表し、25分を質疑に充てる。残りの30分は、もう一人の学生が5分発表し、25分質疑を行う。こうして学生は年間のいくらかの時間を英語で話し、英語の質問に答えることになる。なぜなら外国に行く日本の学生にとって難しいのは、発表することではなくて質問に答えることだからだ。私はオランダ出身なので自分自身そのことを知っている。私が初めて英語で国際的な会話をしたときも、それは簡単ではなかった。話すことより答えることを練習することで、より英語に対する準備ができ、より英会話を覚えるようになる。

\Paquette\:青木さんに聞きたいが、今日の会議以前に京大に戻って話したことはあるか?ここに招かれて、仕事について宣伝したり、そういったキャリアの可能性について話したりしたか? たぶん、そういう活動が通常当たり前に行なわれるべきなのだろう。

#前野#:今日の午後、青木さんと横山さんの発表の後で同窓会を2、3開催する。産業界で活躍している研究所出身のPhDが発表する。それは通常の外部評価委員会の活動とはかなり違うものである。八田先生は外部評価委員会の正会員だが、このシンポジウムに講演者を招いたので、別のコメントと論評を予定している。このことについてとても短い告知しかできず申し訳なく思っている。

3. 第3回 外部評価委員会

概要

開催日:平成22年7月15日(木)

開催場所:京都大学百周年時計台記念館 会議室

出席者:

$外部評価委員$

常任:

Manfred Sigrist 教授 (ETH)

#ヘッドクォーター#

川合 光 教授

前野 悦輝 教授

佐々木 節 教授

谷森 達 教授

早川 尚男 教授

長田 哲也 教授

\点検・評価委員\

Glenn Paquette GCOE特定准教授

菅沼 秀夫 准教授

市川 正敏 講師

柴田 大 教授

会議要旨

Sigrist教授による聞き取り形式の外部評価が英語にて開催された。ETHにおける制度と比較しつつ、TAの評価やGCOEプロジェクト自体の自己評価のシステムの必要性・方法論が議論された。BIEP制度の可視化は前年に引き続き改善の余地があると指摘された。また、GCOEプロジェクトの終了後に同様の体制を維持するための戦略が不足していることが指摘された。政府だけでなく地域の政治家へ積極的に働きかけを行うなど、アイディアを深めるべきだとの意見が提示された。

質疑応答

1. GCOEと大学院生の関わり方

\Paquette\:それではSigrist先生からの質問、意見をお伺いしたい。

$Sigrist$:大学院生がGCOEに参加するにはどのような過程があるのか。

#長田#:本GCOEでは、博士過程学生なら希望者はだれでも参加可能であり、GCOEに参加するための試験などがあるわけではない。実際8割ほどが参加している。

$Sigrist$:GCOEに参加した大学院生のキャリアパスをサポートする仕組みはGCOEの中にあるのか。

#長田#:アカデミアだけでなく、高校教師、企業就職を含め様々な可能性を増やす努力をしている。

$Sigrist$:私が筑波大学にいた時には、企業とのコンタクトをもつ担当者を置いていた。ここでもそういったシステムがあるか?

#早川#:ある。京都大学にはキャリアパスオフィスがあるし、雇用やキャリアパス紹介の担当者もいる。

#長田#:京都の教育委員会とのコラボレーションを始めている。博士の学生が学部時代に高校教師の資格を取っていなくても高校教師として働けるようなプログラムをつくっている。

$Sigrist$:学生の分野に対する視野を広げる努力をしているということだが、どのいったことを行っているのか?

#早川#:本GCOEでは、科学英語の向上や、物理第一と物理第二、宇宙物理間の交流を目指している。

\Paquette\:科学英語では物理のすべての分野をカバーしている。この講義は基本的に1年目の院生を対象にしているので、多くの分野の導入部分を教えることを目指している。

$Sigrist$:ETHでは、博士学生用にも一般教養教育を担当する教員がおり、人文までおよぶ幅広い教養教育がなされている。

2. TAの評価システム

$Sigrist$:TRAプログラムでは、全生徒が参加できるのか、それとも持ち回りのような制度なのか。

#早川#:希望者はTRAプログラムに参加できるが、中にはJSPSやその他の奨学金制度を受けており、参加を希望しない者もいる。また、博士の最終学年ではTRAに時間を割きたくないということでRAのみを希望する者もいる。

$Sigrist$:ETHでは、学生のすべてにTAを経験させ、それを評価している。このGCOEプログラムで大学院生にクラスを持たせ、学生を指導するという制度は考えているか。

\Paquette\:各学生がセメスターごとにティーチングをするのか?

$Sigrist$:はい。

\Paquette\:大学院生による授業はどのように指導されるのか?授業に見学がつくのか?

$Sigrist$:すべての教授が授業評価を行う。見学をする教授もいるが、私自身は学生にプレッシャーを与えないように見学はしていない。我々は演習の授業も開講しており、そこでは数週間後に学生がどのくらい授業に残っているかを見れば、ある種の統計的評価ができる。

#長田#:ここではTAは少し違ったシステムであり、TAが教えることはあまりない。教授が授業を持ち、TAの持ち場はレポート評価や採点である。

\Paquette\:時々でも大学院生が授業をもつことは良い経験になるだろう。京都大学の制度として大学院生が授業をもつことは可能なのか?

#前野#:教授の指導のもとであれば可能である。

#長田#:問題演習の講義では、大学院生は良い教師となり得るだろう。

$Sigrist$:最初は難しいが、経験を積むうちに指導能力は鍛えられる。また大学院生と学部生の距離を縮めるためにも良い制度である。個別指導でもよいだろう。

3. 評価委員会を行うことによるフィードバックについて

$Sigrist$:GCOEには自己評価委員会はあるのか?

#長田#:年に1回シンポジウムを開き、各研究室が成果と展望について発表する。これはある種の自己評価といえる。

#前野#:7人の評価委員を含む13人の委員がいる。半年前には彼らが所属する各研究グループの進捗状況を報告し、相互評価を行っている。

$Sigrist$:そういった自己評価はどのようにフィードバックされるのか?仮にあるグループの成果が低くても、そこからサポートや研究費を取り上げることは実際的には難しいだろう。我々は余剰金を持っておいて、良い評価を得たグループにさらに資金を配分するが、このGOCEではフィードバックはどのように行われるのか?

#前野#:外部評価委員に指摘された点は改善している。たとえば、ホームページを改編し、若手研究者の研究プロジェクトを紹介するページを追加した。余剰金に関しては、我々は多くはもっていない。

#長田#:評価委員会では各研究がよりよく進むように示唆を与え評価をするが、懲罰的な面は取り入れていない。

$Sigrist$:それはすべきでない。余剰金があれば褒章を与えれば良いということだ。

4. アウトリーチに対する努力について

#長田#:関西圏の子供300人に対する市民公開講座を開いた。そのうち一部はリピーターとして今年の公開講座への参加を望んでいる。また研究者向けにはニュースレターも発行している。多くの教授は高校・中学で講義を行っている。また今年からは、教授だけでなく大学院生も京都府の高校で授業を行う。Sigrist氏の指摘の通り、ティーチングの経験として良いものになるだろう。

$Sigrist$:それはとても重要だ。物理は高校生にとって実際それほどポピュラーな学問ではない。高校へのアウトリーチは人材開拓の意味でも有効だ。

5. 特任教員の処遇と任期後に対するケア、ポストGCOEについて

#前野#:特任教員には平均よりも恵まれた研究費を支給している。

#谷森#:一方、任期後に関しては、今のところ妙案はない。

$Sigrist$:ETHでも似たシステム(科研費による任期つき雇用)があるが、任期後のポストを用意できない問題がある。ETHでは、雇用後1年目から様々なポストに応募するよう働きかけている。もちろん次のポストを獲得することが最重要だが、応募の経験自体も重要なので。

#早川#:ポストの問題は難しいが、これは政府の決定に大きく依存している。我々は政府に似たようなプログラムを継続するよう求めている。

$Sigrist$:日本のような大きい国では難しいかもしれないが、政治家など、プロジェクトの存続を決定する人へのアウトリーチ活動が重要なのではないだろうか。研究者向けのニュースレターを発行していると言ったが、政治家に向けたニュースレターを作るのも良いだろう。我々はそういったものを一般配布用に作り、送付している。

\Paquette\:彼らは実際にそれを読むのか?

$Sigrist$:それは分からない。しかし、私たちは時折政治家と直接会う機会も設けている。これはスイスが小さい国だからできることで、日本では難しいのかもしれない。

#早川#:確かに難しいが、GCOEシンポジウムには政治家を招待し、ポストGCOEに関する考えを聞いている。我々もそういったアプローチに関するアイディアを深めていくべきだ。

6. BIEPについて

\Paquette\:このプログラムを海外の研究者にとってより魅力的にするために何かアイディアはあるか?

$Sigrist$:BIEPは優れたシステムではある。しかし、まずそもそも海外で知られていない。この企画をどのように可視化するかを考えなくてはいけない。たとえばポスター、パンフレット、ニュースレターを送る、あるいはコミュニティーの情報流通経路に載せる努力が必要だ。また、海外出張時のスカウト活動も重要だろう。ネットワークを使って情報を伝播させていかなくてはいけない。私も協力できる部分があるが、皆さんも持っているネットワークを使って海外に宣伝してみてはどうか。

7. GCOEを運営することの労力と対価について

#前野#:TRAを維持する意味は大いにある。また、物理第一、第二、宇宙物理の三教室でのコミュニケーションもGCOEプログラムによって促進されている。

$Sigrist$:事務的な面だけでなく、研究でもそうなっている?

#前野#:お互いの物の見方を互いに理解しつつある。そしてもちろんお互いがどのような研究をしているかを知りつつある。21世紀COE、GCOEを通じて、物理教室の文化はかなり変わってきた。

\市川\:Sigrist氏は前野G、松田Gなどを訪れ学生に会ったと思うが、学生というのはいわばこのプロジェクトの成果である。彼らに対する印象はどうだったか?

$Sigrist$:彼らは研究結果の水準だけでなく英語での議論の能力も高く、感銘を受けた。こういった学生が多いのもこのプロジェクトの効果だろう。彼らのほとんどはすでに何かの国際研究会で発表をしたことがあるのだろうが、そういうトレーニングが効いているのだろう。

\Paquette\:私の見た限り、大学院生同士の研究室を超えた交流が少ないように感じられる。

$Sigrist$:私はその点をよく評価できるわけではないが、学生の分野間交流は活発ではないだろう。これは、ボスにさせられて、というのではなく、学生の中にイニシアチブをとる者がいて良くなるといった性質の物だろう。しかし、改善のために共通スペースを充実させるなど、簡単に取り組める部分もあろう。

4. 第4回 外部評価委員会

概要

開催日:平成22年 9月27日(月)

開催場所:京都大学 理学部5号館 115号室

出席者:

$外部評価委員$

常任:

益川 敏英 名誉教授 (京都大学・京都産業大学)

蔵本 由紀 名誉教授 (京都大学)

政池 明 名誉教授 (京都大学)

田中 耕一郎 教授 (京都大学)

鈴木 在乃 講師 (京都大学)

#ヘッドクォーター#

川合 光 教授

前野 悦輝 教授

佐々木 節 教授

長田 哲也 教授

谷森 達 教授

早川 尚男 教授

\点検・評価委員\

柴田 大 教授

菅沼 秀夫 准教授

上田 佳宏 准教授

松田 和博 准教授

川畑 貴裕 准教授

市川 正敏 講師

会議要旨

BIEP、TRA制度の現状について確認され、改善可能な点の模索が行われた。GCOE制度の利便性、プロジェクト終了後にとって代わる制度についても議論が行われ、政府への効率的なアピールの重要性が改めて指摘された。

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質疑応答

1. BIEP

$政池$:海外から大学院生を招聘するときに、期間を3か月と短く限っている理由は?

#前野#:ビザの関係。3か月を越えると事務手続きが繁雑になる。

$蔵本$:BIEPについて、アメリカからの招聘学生が少ない理由は?

#前野#:パケットGCOE特任准教授が米国でPRしており、今後は増えると期待している。一方、ヨーロッパとの交流が積極的なのは、海外留学を博士号取得の条件としているから。

$鈴木$:BIEP招聘学生のために、英語によるセミナーや講義は行なわれているか?

#前野#:幾つかの研究室では、英語での研究室セミナーは定常的にとりいれている。

$鈴木$:ヨーロッパでは留学先で「単位」をとることが必要だが、英語の授業がないと外国人学生には不便だろう。その対応は?

#前野#:文科省のGCOEは、あくまで日本人学生を育成するための制度であり、海外からの招聘学生を直接教育する制度ではない。

$田中$:JSPSの「国際交流プログラム」(修士対象、2千万円/年)があるので、それとの差別化はBIEPには必要。GCOE後は、外国人学生に単位を出す事なども検討してはどうか。

#川合#:気軽に行き来できるというのは大きなメリット。外国人学生に単位を出すとなると学内のシステムの変更など非常に大変。

$蔵本$:BIEPの募集方法は?完全に国際公募か?

#佐々木#:研究室レベルで調整後、上の委員会で承認という方法。だから気軽に行け、申請後すぐに学生を送り込める。

$田中$:海外に行こうとしない学生が多いのは重大な懸念である。気軽に海外に行ける環境作りは重要で、GCOEはそれに貢献すべき。

$政池$:国際性の低下は科学技術立国の日本としては大きな問題。BIEPなどの試みが国際化へのきっかけになれば良い。そもそも国際化は互恵であり、自国の利益のみという視点はダメ。国際交流では相手国側のメリットも配慮すべき。その点も文科省へ訴えるべき。

2. TRA

$政池$:米国ではむしろRAとTAを区別している。RAのみを廃止してTRAとした理由は?

#川合#:(1)単なる金のばらまきでない事と(2)教える事の重要性を学生に訴える為。

$政池$:TRAの仕事量はどの程度か?

#長田#:週10時間、7時間、5時間(学振DC用)の3パターンがある。

#前野#:TRA制度はいまや教室に必要不可欠な制度になった。教育プログラムを期限つきにされるのは問題である。

$益川$:政府へサマリーを提出するときに、附属文書をつけるとよい。予算の計画性の必要を訴えるべきである。

$蔵本$:院生への競争的研究補助金は必要か?学振の科研費との違いは?

#谷森#:学振の科研費は無条件に貰えているもので、額も60万と限られている。学生が目的をもって実験を行なったり、会議を主催したりするためのものである。将来の競争的資金申請への訓練にもなる。

$鈴木$:TRA雇用は競争がない状態だが、それで良いのか?採用数を減らして額を増やすというのはどうか?

#川合#:今回は全体に行き渡る様にして成功している。

#谷森#:大学院では、分野が違うと成績を客観的に評価することが非常に難しい。

#早川#:とても優秀な学生は学振特別研究員に採用されることが多い。学振との比較や税金の問題で上限が決まってくる。

$政池$:学振に採用されない晩成型の学生は大化けすることもある。そういった層への経済的なサポートも大切。

$政池$:TAの義務化・必修化は良い考えかも知れない。アメリカではそういう大学もある。

#長田#:理学研究科では博士課程の院生に対し授業料相当はサポートを行う方針にしている。

$田中$:博士課程で「授業料程度はTAなどでカバーできる」というのは、いまや世界標準になりつつある。GCOE後も維持すべき。

3. 特別研究ユニット

$蔵本$:今後の展望に関して、「特別ユニットの制度化」のための財源はどうなるのか?

#川合#:明確な当てはないが、非常に良く機能しているので、大学に制度化を要請する。

$蔵本$:特別ユニットの准教授の教育義務は?

#谷森#:レギュラーな講義や会議といった義務は課していない。

#前野#:短期集中のGCOE特別講義のみ担当している。概ね実験家は二年に一度、理論家は毎年行っている。パケット准教授には、物理英語教育(前期・後期)を毎年お願いしている。

$田中$:特別ユニット教員の雇用について。優秀な人だから4年半以内に次の職を見つけられるだろう、という甘い見通しではなく、本来は積極的に大学に残ってもらう道も検討するべきではないのか。

#川合#:現在の枠ではどうしようもない。5年後の人事を見越すことは不可能なので、現状の方針は止むを得なかった。

$田中$:物1、物2という枠も50年前に決められたもの。その枠も見直す時期では?

#川合#:COEのおかげで教室間の壁は低くなった。そのうち融合できると期待している。

$政池$:特別ユニット教員の任期は厳密か?

#川合#:ポストGCOEも全く不明な現状では、任期は厳格にせざるを得ない。

4. 教育カリキュラム改革

$政池$:教育カリキュラム改革(他分野講義の履修の義務化)に関しては、義務ではなく自由意志にするべきではないか?

#谷森#:大多数の学生のためには、必修科目を提示するなどの指導も必要かも知れない。教室間・分野間の交流が盛んになったのは21COEとGCOEの大きな成果である。

5. キャリアパス

$蔵本$:就職先の割合の変化(企業や高校教員が増えた)のは、努力の結果か、社会の変化の結果か?

#川合#:両方あると思う。院生に情報を与え、考えさせる努力はしている。シンポジウムなどで企業の先輩を呼んだり、京大のキャリアサポートセンターとも連携して物理系就職ガイダンスを行ったりしている。

$蔵本$:科学ジャーナル関連やマスメディアへの就職もあり、その業界へも人材を送りたい。

#前野#:科学教育に関するNHKの方や、科学書翻訳家をシンポジウムで招聘するなど、そういった方面へのキャリアパスも学生にはアピールしている。シンポジウムでは科学教育も取り入れている。

$政池$:京都府以外でも、高校教員就職の道を探っているか?

#長田#:大阪府でも大阪教育大学を通じてやっている。

6. GCOEのシステム等に関して

$益川$:GCOEの制度について「使いにくい点」や要望は?

#川合#:予算が44%に減らされた為、競争的研究補助金、PDや特定教員の雇用件数が減った。

#前野#:大学間で、予算削減割合を一律ではなく成果に応じてメリハリをつけて欲しい。

#早川#:単年度決済では、3月に予算執行できずとても不便。

$益川$:そういった問題要望は必ず報告書に書いて訴えるべき。制度はすぐには変わらないが訴え続けることが大事。

7. ポストGCOEに関する質疑応答

$政池$:GCOEプログラムが延長される可能性は?

#川合#:ポストGCOEは全く不明。

#前野#:むしろ本年度から間接経費が無くなるなど予算的には厳しくなっている。評価もなしに減額されている。

$政池$:GCOEの将来がわからないと、大学側も計画が立てられず、教員はとても困る。そういったことも政府や文科省に提言していくことが必要。

#前野#:文科省から「良いことを考えろ」と言われて皆で考え検討し、TRAやBIEPなどの新システムを考案した。これらを実行し成果も上がっている。TRA制度はいまや教室に必要不可欠な制度になった。教育プログラムを期限つきにされるのは問題。

$政池$:だからこそ成果の発信も重要だろう。

$益川$:政府へサマリーを提出するときに附属文書をつけると良い。予算の計画性の必要を訴えるべきである。継続性のある成果にしていかないといけない。

5. 第5回 外部評価委員会

概要

開催日:平成23年2月22日(火)

開催場所:理学部5号館115号室

出席者:

$外部評価委員$

常任:

Michel Gonin 教授 (Ecole Polytechnique) 

ゲスト:

John Doyle 教授 (Harvard Univeristy) 

佐々 真一 教授 (東京大学) 

谷村 吉隆 教授 (京都大学) 

#ヘッドクォーター#

山本 潤 教授

柴田 大 教授

\点検・評価委員\

Glenn Paquette GCOE特定准教授

上田 佳宏 准教授

川畑 貴裕 准教授

市川 正敏 講師

松田 和博 准教授

^国際会議・外国人招聘委員^

田中 貴浩 教授

会議要旨

Gonin教授による聞き取り形式の外部評価が英語にて開催された。TA制度の労働時間数、教育効果の評価と、アウトリーチ活動における目的の明確化が必要であるとの指摘がなされた。またGCOEシンポジウムにおいて、大学院生の能動的な参加を促すためのアイディアが検討された。分野間交流を促進するための取り組み例がDoyle教授から紹介された。

質疑応答

1. BIEP

$谷村$:化学のGCOEではKAIST(韓国)や台湾の大学と1年交代で3日ほどの2大学シンポジウムを開き、多くの学生(20人程)が訪問する。交流している現地の大学が滞在費用を負担している。院生はあまり海外に行きたがらないのでこういう機会を設けている。学生はポスターセッションで発表し、互いに研究上の交流を行っている。シンポジウムのタイトルは、KAIST-Kyoto University Symposiumである。国外の学生との交流だけでなく、学内・国内の化学系の学生同士の交流の場にもなっている。

\Paquette\:シンポジウムをきっかけとして共同研究などに繋がっているか。

$谷村$:実際にはなかなか難しい。

$Gonin$:1-3ヶ月とは何の都合か?ビザ?ポリテクニークでは6ヶ月のインターンで国内外の大学と交換留学する。これは良いアイディアに思えるが、事務仕事は増えた。学生のレベルが大きく異なる大学間だと多少問題がある。また、USAに行きたい人は多く、来たい人は少ないので、一方通行になってしまっている。

$Doyle$:ドイツ、フランス、オーストリアあたりからの6ヶ月程度のインターンは多い。プロジェクトで色々な国を渡ることもある。こういう交流は軌道に乗せるまでのスタートが大変。

$佐々$:二国間交流は大切なことだが、GCOEの本務とは思えない。交流なら他に代わるファンドがいくつもある。GCOEではなく個別のファンドでも良いのでは?

$谷村$:化学系では、学生に海外へ行くことを奨励している。しかし、最近は学生が海外に行きたがらない。ドクターをとったポスドクでも海外に行く人は少なくなっている。

2. TRA

$谷村$:このTRA制度の給料は、日本の他のところに比べれば高く、国外と比べると少し少ない。学生の援助システムとしては良い。奨学金が就学ローンなので、あった方がよい。特に、京大には貧しい学生もいるが、アルバイトで生計を立てている人に優秀な人が多いこともある。そういう人には、金額の大小に関わらず上の様な施策はプラスであり、学科にも良い影響がある。待遇が良いから人が集まっているという統計はあるか?もし、そういった効果がないのなら何らかの戦略を講ずるべきだろう。GCOEが後2年ほどで終了するという事態の想定も視野に入れて戦略を考えるべきだ。

$佐々$:週10時間の労働は重くないか。実際どんなことに時間を用いているのか。

#山本#:コースあるいは人による。実験では、学部学生の実験のための準備などがある。理論でも演習などがある。いずれも用意の時間も含まれている。

$Doyle$: 米国では、週10時間はそんなに多くない。

$佐々$:米国ではTAなどでも実質的な作業と繋がっているが日本ではややヘルパー的な感じがある。

$Doyle$:佐々さんの質問は、週10時間で学生がつまるところ何をやっているのかということか。

$佐々$:本当に教育的効果があるのか。データは?進学時に同じ分野でふたつの大学で研究できる可能性があったら、良いサポートのある大学の方を選ぶ。学生はよく調べている。

$谷村$:化学系での事例であるが、TAが実質的には単なるフェローシップとなっていることは否めない。

3. アウトリーチ

$Doyle$:アウトリーチを行う何らかの義務があるのか?例えば、次期のファンドの獲得に必要だというような、何らかの位置づけがあるのか?

#山本#:特には明示された義務はないが、科学を目指す若い人が近年減少している背景もあり、高校での出前授業などの宣伝活動を行うなどアウトリーチに力を入れている。

$Doyle$:アウトリーチを行った後に、それをどう宣伝しているのか?宣伝が重要である。たとえば、高校で出前授業をしたら、その写真などをWebに公開すると良い。

$佐々$:同意見だ。GCOEの取り組みとして出前授業をしたということが資料に記載されていたが、ここに来る前にホームページを調べても、そのことに関して何も見つからなかった。

$Gonin$:アウトリーチのフィードバックは?

#山本#:調べないと分からないだろう。

$谷村$:むしろ、国からフィードバックの明示を要求されるかもしれない。

$Gonin$:理系を目指す学生が減少しているのか?京大や東大ではさほど影響はないが、他大学では影響があり、もっと宣伝活動をしている事例もある。

$Gonin$:自分の所属に限らず�