"wood joints reconsidered 2: scarf joint in ancient rome"

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「伝木」特定非営利活動法人伝統木構造の会会報 27号 pp.-“Den-Moku”, Newsletter of Dento-Mokukozou no Kai, No.27, pp.8-9 平成25年 6 月20 日発行 published on June 20, 2013 「続・接合部を推理する〜金輪継等(古代ローマ編)」 “Wood Joints reconsidered: Kanawatsugi 2; Scarf Joint in Ancient Rome” 西本直子 Naoko Nishimoto

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A joining method similar to Daimochitsugi or Kanawatsugi in Japan is seen in an Ancient Roman wood joint also. The similarity and difference are discussed.

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Page 1: "Wood Joints Reconsidered 2: Scarf Joint in Ancient Rome"

「伝木」特定非営利活動法人伝統木構造の会会報 27号 pp.8-9 “Den-Moku”, Newsletter of Dento-Mokukozou no Kai, No.27, pp.8-9

平成25年 6月20日発行 published on June 20, 2013

「続・接合部を推理する〜金輪継等(古代ローマ編)」 “Wood Joints reconsidered: Kanawatsugi 2; Scarf Joint in Ancient Rome”

西本直子

Naoko Nishimoto

Page 2: "Wood Joints Reconsidered 2: Scarf Joint in Ancient Rome"

伝木 第27 号 平成25 年6 月20 日

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堆積する泥の重圧の下で生じたヤセや歪みは考慮される

べきだろう。竜骨は接合部近くで曲率が変化する(図6)。

船体構造の要として積載荷重や水の抵抗に耐える役目を

思えば、元来接合面は接していたと考えられる。a部で人

工的な斜め面加工が目を惹く。組み易さの工夫か。住吉・

松井の加力実験写真を見ると何らかの困難にあって加力

変形が起こったとも考えられる。

内田の基本形「略鎌、目違い、栓」の合成形では日本の

金輪・尻鋏と共通性がある。図5に接合線を比較する。船

体に面する側が金輪のような目違いで、水面と直接ぶつ

かり合う側は接合線を一文字として内に目違いを包み込

む形が尻鋏と同じである。一文字の接合線は柱の根継ぎ

などみえがかりの意匠性を持つが、竜骨では水面とぶつ

かる位置にあって凹凸を減らして接合部に余計な衝撃が

働くことを避けようとする実利的意図が考えられる。母

材成一七㎝に対して継手長は約2倍であった。もう一点

はフィウミチーノ号の継手には殺ぎがない。増田先生は

母材強度を急変させない滑らかな殺ぎの効果を評価して

いる。成熟した西洋型木船図(図6)には竜骨の接合に殺

ぎのあるスカーフ・ジョイントが看取され、その効果が

推測される。東大赤門の柱の金輪継ぎも殺ぎがない。垂直

に使われる時の構造的効果はどうであろう。伝聞ではあ

るが田中文男棟梁が、柱継ぎの金輪には殺ぎを取らない

と言われたと伺い、興味深かった。今回、古代ローマ人が

「締まり嵌め」を指向したかはまだ判断に至らない。接合

補強の3つの木栓の内2つの位置などもまだ掴めない。

一九五〇年代といえば古代エジプトのクフ王の木船が発

見されたことも思い出されてきたところだ。

[註1]世界最古の木構造はライプツィヒで紀元前五二〇〇年頃伐

採し、石斧で製材したカシ材を井楼組した井戸の「囲い」。交互

に段をなして細やかな仕口で組まれる。

[註2]一九五九年、ローマ発祥の地、オスティアでレオナル

ド・ダ・ヴィンチ空港建設時に発見された曳舟。他に漁船を

含む四艇と、テヴェレ河底でシルトに埋もれ、酸素に触れず

腐敗を免れた。共に博物館で公開されている。一世紀前後の

ローマは食料不足で外地から物資調達の必要に迫られてい

た。シーザーもテヴェレ河の港湾/護岸計画を模索している

が、紀元四二年にクラウディウス帝が河口のオスティアに港

をつくり、海からの積荷を曳舟に移し、牛馬で曵いて内陸に

運ぶ水路網が発達した。この方式は一九世紀まで続く。尚、

Ulrichによれば古代ローマ人は建築主構造ではスカーフ・

ジョイントの使用は避け、大屋根の垂木の継手等に使ってい

たとされる。

[註3]レジン保護塗装もあり断定は困難ながら、外板はイトスギ

(Cupressus sempervirens )、カサマツ(Pinus pinea )、カシ

(Quercus sp.)。外板と骨組との接合には鉄釘に先行して施され

る埋木(図3破線部)はヤナギ(Salix sp.)と推定される。

[主な参考文献]

内田祥哉『在来構法の研究─木造の継手仕口について』一九九

三年、住宅総合研究財団

太田博太郎他編『日本建築辞彙』[新訂]二〇一〇年、中央公論

美術出版

増田一眞『日本の木造架構史』二〇一二年、私家版

太田邦夫『世界の住まいに見る─工匠たちの技と知恵』二〇〇

七年、学芸出版社

藤澤好一、田處博昭『組み上げる』二〇〇四年、井上書院

住吉寅七、松井源吾『木造の継手と仕口』二〇〇一年、一九八

九年初版、鹿島出版会

V.S.M.Scrinari "Le navi del porto di Claudio" Rome, 1979

R.B.Ulrich "Roman Woodworking" London, 2007

C.A.Hewett "English Historic Carpentry" Fresno, 1997

(rev.ed.of 1980)

(編集委員)

図4:船と波。架構学講座、第20講のノートから。

図6:西洋型木造船、キールの角度が変わる手前の継手。

*図版作成は筆者

図5:接合線比較図左:フィウミチーノ1号の接合部。中:*金輪継ぎ、右:*尻鋏継ぎ

0 50mm *竜骨と同じ幅130mm、成170mmの角材に施した場合

単純梁となる時。 片持梁となる時。

Page 3: "Wood Joints Reconsidered 2: Scarf Joint in Ancient Rome"

続・接合部を推理する

~金輪継ぎ等〈古代ローマ編〉

㈲一級建築士事務所クロノス

西本直子

先回に引き続き「略鎌、目違い、栓」の接合方法につい

て少し紙幅をいただく。

□スカーフ・ジョイント(ScarfJoint)

二六号でご紹介したスタジオ・ムンバイの継手に似た

例が英国の伝統的なスカーフ・ジョイントにあった(図

1)。中央の突起の作り方は異なっている。「日本建築字

彙」[新訂]後註で紹介されている英国の例も参照された

い。「だんつぎ」という項目で、殺ぎ継ぎに段がついたス

カーフ・ジョイントとして紹介されている。エセックス

州の一三世期中頃の小麦倉庫で、洋小屋トラス繋ぎ梁に

見られるそうだ。Scarfは「そぐ」の訳で、段継ぎと結び

つきにくかった。言葉と形の迷路に迷う。Hewettは木工

通史本文の後に補足の章を設けて、スカーフ・ジョイン

トの発展過程を単独の項で纏めている。殺ぎ、相欠き(段

継ぎ)から始まり、台持ち・金輪・尻鋏を思わせながらも

日本の典型とは微妙に違う継手が図とともに三〇例紹介

されている。スカーフ・ジョイントにこれ程広範な形が

含まれていることに驚いた。「継手」と同義と言えそうな

内容である。

英国では一九五〇年頃から木材の年代鑑定技術の進歩

に伴い古い木造の存在が確認され始めた。、目下は一二世

紀の教会建築(Greensted Church)が最古の例である[註

1]。用材は主にカシ材で、インドのスタジオ・ムンバイ

のチーク用材同様に堅木である点が重要だ。英国とイン

ドと言えば植民地関係があるが、木工のルーツ判定はそ

う簡単ではないと考えている。何故なら古代ローマの例

を見たからである。

□オスティアの船〈図2、3、5〉

数年前まで木工技術で日本の右に出るものはないと考

えていたし、今でもそう思うが、古代ローマで三世紀から

使われたと推定される平底船[註2]、フィウミチーノ一

号の竜骨を成すスカーフ・ジョイントを見てから少し考

えが変わった〈図2〉。竜骨と肋骨と外板からなる西洋型

フレーム構造の船である。フィウミチーノ一号の部材の

年代は三~十四世紀と幅広い。つまり補修、再利用が繰り

返されていたのである。webサイトに長期の使用はフレ

ーム構造であったが故に可能であったとあるのは興味深

い。(

http://www2.rgzm.de/Navis/Ships/Ship051/Fiumicin

o1engl.htm)和船では一般に厚板構造が多いが、類例とし

て桃山時代の安宅船がある(増田、二〇一二)。

フィウミチーノ一号の大きさは、長さ:一三•八三m、

船体最大幅:四•五七m、右舷船首側高さ:一•四七m(左

舷側は破損している)となっている。

図2のスカーフ・ジョイントについて決定条件と目的

を挙げる。

・使用材料[註3]:竜骨は、長さ二•七二m×幅一〇―

一二㎝×成一六㎝の部材と、長さ一一•一一mで幅一三

㎝×成一七㎝から幅一〇㎝×成一〇•五㎝などに断面が

変化する部材の接合材。材種はカシ、トキワガシ(Quercus

ilex、ナラ属の常緑樹)。木栓はトキワガシ。webサイトで

は3個の木栓で接合補強されていると書かれている。

・接合場所:竜骨の曲率が変化する部分。

・施工性:斧、のこぎりなど手加工。竜骨は最初に組む

部材。釘は使われていない。

・強度:水面の抵抗、積荷の荷重、流れや波による捻れ

に抵抗する。

・接合部をどう見せるか:合理性が先行するだろう。

図2を見ると接合面に隙間がある。七百余年間、水中で

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図2:フィウミチーノ1号竜骨部のスカーフ・ジョイント。破線は竜骨に接合される外板(翼板)位置を示す。(図2,3はScrinari 1979, 図18から輪郭をトレース)。

図1:英国のスカーフ・ジョイント略図。ソールズベリー旧司祭公邸(13世紀中頃)にある。Hewett 1997、図250を参照。面取りなど詳細は不明。破線は穴の推測線筆者加筆。

図3:竜骨(幅約130mm、成約170mm)と竜骨翼板(厚40~35mm)の仕口は鉄釘で固定されている。鉄釘の締りを助けるために予め開けた穴に粘りのあるヤナギ材のダボを打ち込んでから釘を打っている。

0 50mm

船体内フレーム

0 50 100mm

竜骨

a