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World Wise Japan Inc. All Rights Reserved 発行:株式会社ワールド•ワイズ•ジャパン 〒550-0015 大阪市西区南堀江 1-16-11RE008-5A TEL 06-6536-3488 ★無断転送 / 無断複製 / 無断転載を禁じます★ World Wise Japan Inc. All Rights Reserved ★無断転送 / 無断複製 / 無断転載を禁じます★ 今後、パチンコ業界は、持続可能な産業・企業とし て、社会に対してどのような働きかけを取ることが望 まれているのか。これに対するソリューションのヒン トとすべく、他業種や別の視点からCSRに根差した 取り組みを紹介する同コラム。 CASE18では、企業の競争戦略論の第一人者と して知られるアメリカの経営学者、マイケル・ポーター 米ハーバード大学教授が提唱する「CSVという概念」 を取り上げた。そこでは経営戦略の1つとして展開さ れるCSR活動にアプローチしたが、<CASE23 >では番外編として、同氏の名前を冠した賞から戦略 的経営そのものについてアプローチしてみたい。そこ から、遊技業界におけるビジネスの閉塞感を打破する ヒントも見えてくる。 第 10 回マイケル・ポーター賞を受賞した“キリンビー ル”の事例 マイケル・ポーター賞とは、日本企業の競争力を向 上させることを目的に一橋大学大学院国際企業戦略研 究科が 2001 年に創設した賞。独自性がある優れた戦 略を実行し、その結果として高い収益性を達成、維持し ている企業を毎年表彰している。 酒類製造販売業のキリンビールは、2010 年度第 10 回ポーター賞を「ゼロ・サム・ゲームからポジティ ブ・サムの競争へ戦略転換」で受賞した。 以下、ポーター賞に関する詳細や受賞企業を紹介す るHP「ポータープライズ」の情報をベースに、キリン のチャレンジについてレポートしていきたい。 ビールとパチンコ 流通の共通点 日本のビール市場の背景をみると、1994年にピー クを記録して以来縮小し、特に 2002 年以降はその傾 向が顕著に。1994年の規制緩和により地ビールメー カーが新規参入したが、キリン、アサヒ、サントリー、 サッポロの 4 社による競争の構図は崩れず、現在に至 る。なお、近年は流通企業によるプライベート・ブラン ドが市場シェアを増加させている。 一方、規制緩和によって販売チャネルの主力が酒販 店から量販店に移行。集客手段としてビールの値引き 販売やリベートを多用した営業活動が行われた。また、 需要を刺激するために各社盛んに新製品を出したが、 すぐに類似商品が投入されるなど、製品差別化は容易 ではなく、新商品は次々に消えていった。ビールが盛ん に値引き販売されることも、製品差別化を一層難しく した。 こうした値引き販売と製品ライフサイクルの短期化 により、メーカー、卸、小売りは収益性が悪化。1994 年に発泡酒が登場し、キリンも 1997 年に「麒麟淡麗」 を発売して発泡酒市場 1 位を獲得したものの、キリン の市場シェアはさらに低下して 40% を下回り、 2001 年にはついにアサヒに市場シェア 1 位の座を 奪われた。 同年、キリンは、原点である「お客様本位」、「品質本 位」に立ち返ることを決め、「価格軸の競争」から「価値 軸の競争」に舵を切った。2004年には第3のビール という新しい製品カテゴリーが登場、キリンも2005 年に第3のビールである「キリンのどごし」を投入して LOGOS MEMBER’S COLUMN 他業種に見るCSRへの取り組み CASE23;(番外編)マイケル・ポーター賞から見る経営戦略【キリンビール】 2014.7.10 配信号 VOL.249

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Page 1: World Wise Japan Inc. All Rights Reserved ★無断転送/無断複製/無断 ... - R …rnavi.biz/upload/logos_vol249.pdf · 2014. 7. 17. · そこでは経営戦略の1つとして展開さ

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発行:株式会社ワールド•ワイズ•ジャパン〒550-0015 大阪市西区南堀江1-16-11RE008-5A TEL 06-6536-3488

★無断転送 /無断複製 /無断転載を禁じます★

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 今後、パチンコ業界は、持続可能な産業・企業とし

て、社会に対してどのような働きかけを取ることが望

まれているのか。これに対するソリューションのヒン

トとすべく、他業種や別の視点からCSRに根差した

取り組みを紹介する同コラム。

 CASE18では、企業の競争戦略論の第一人者と

して知られるアメリカの経営学者、マイケル・ポーター

米ハーバード大学教授が提唱する「CSVという概念」

を取り上げた。そこでは経営戦略の1つとして展開さ

れるCSR活動にアプローチしたが、<CASE23

>では番外編として、同氏の名前を冠した賞から戦略

的経営そのものについてアプローチしてみたい。そこ

から、遊技業界におけるビジネスの閉塞感を打破する

ヒントも見えてくる。

第 10 回マイケル・ポーター賞を受賞した“キリンビー

ル”の事例

 マイケル・ポーター賞とは、日本企業の競争力を向

上させることを目的に一橋大学大学院国際企業戦略研

究科が 2001 年に創設した賞。独自性がある優れた戦

略を実行し、その結果として高い収益性を達成、維持し

ている企業を毎年表彰している。

 酒類製造販売業のキリンビールは、2010 年度第

10 回ポーター賞を「ゼロ・サム・ゲームからポジティ

ブ・サムの競争へ戦略転換」で受賞した。

 以下、ポーター賞に関する詳細や受賞企業を紹介す

るHP「ポータープライズ」の情報をベースに、キリン

のチャレンジについてレポートしていきたい。

ビールとパチンコ 流通の共通点

 日本のビール市場の背景をみると、1994 年にピー

クを記録して以来縮小し、特に 2002 年以降はその傾

向が顕著に。1994 年の規制緩和により地ビールメー

カーが新規参入したが、キリン、アサヒ、サントリー、

サッポロの 4 社による競争の構図は崩れず、現在に至

る。なお、近年は流通企業によるプライベート・ブラン

ドが市場シェアを増加させている。

 一方、規制緩和によって販売チャネルの主力が酒販

店から量販店に移行。集客手段としてビールの値引き

販売やリベートを多用した営業活動が行われた。また、

需要を刺激するために各社盛んに新製品を出したが、

すぐに類似商品が投入されるなど、製品差別化は容易

ではなく、新商品は次々に消えていった。ビールが盛ん

に値引き販売されることも、製品差別化を一層難しく

した。

 こうした値引き販売と製品ライフサイクルの短期化

により、メーカー、卸、小売りは収益性が悪化。1994

年に発泡酒が登場し、キリンも 1997 年に「麒麟淡麗」

を発売して発泡酒市場 1 位を獲得したものの、キリン

の市場シェアはさらに低下して 40% を下回り、

2001 年にはついにアサヒに市場シェア 1 位の座を

奪われた。

 同年、キリンは、原点である「お客様本位」、「品質本

位」に立ち返ることを決め、「価格軸の競争」から「価値

軸の競争」に舵を切った。2004 年には第3のビール

という新しい製品カテゴリーが登場、キリンも 2005

年に第3のビールである「キリンのどごし」を投入して

LOGOS MEMBER’S COLUMN

他業種に見るCSRへの取り組みCASE23;(番外編)マイケル・ポーター賞から見る経営戦略【キリンビール】

2014.7.10 配信号

VOL.249

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販売数量を伸ばし、2009 年、9 年ぶりに市場シェア

1 位を僅差で獲得した。

価格営業から価値営業へ

 キリンは、「価格営業」から「価値営業」への戦略転換

によって、ゼロ・サム・ゲームから、ポジティブ・サム

のゲームへと競争の質を変えた。同社では「価値営業」

を「価格によらない営業、価格でなく価値で商品を選択

してもらえることを目指す営業」と定義。なお「価値営

業」とは、営業機能に限定した概念ではなく、商品開

発、製造、物流、マーケティングなどさまざまな機能

が、この概念を中心に連携している。つまり、「価値営

業」は戦略レベルの概念であるという。

 消費者に対しては、酒類や食事を楽しむ方法を提案

し、小売業者にはキリンの商品にとどまらず、食品など

他社製品も含む売り場づくりを提案した。消費者、小売

業者にメリットのある売り場を作ることによって付加

価値を創出し、自社の利益にもつなげている。

 キリンのターゲット顧客は、" 価格だけ " でビール類

の銘柄を選択するのではなく、ビール類から得られる

便益によって選択する人々である。ブランドの便益を

高める活動により、高くても買ってもらえる構造を作

ろうとしている。また、製品については、歳月をかけて

ブランドを確立した商品と新商品で製品ポートフォリ

オを構成し、多様化した消費者の価値観に対応してい

る。 ちなみに、いまでは市場の 5%を占めるといわれ

るプライベート・ブランドに商品を供給しないことも、

この戦略の一環に位置づけている。

メーカーが小売の集客・売上改善を提案

 キリンは、製品ラインが多品種化した中で、品質を落

とさずに製造の効率化を進め、お客様の価値につなが

らないコストの削減にも取り組んだ。

 物流部門と営業部門が共同でTCR(Total Cost

Reform) 活動を実施。パレット単位の受注や大型車両

での配送による車両効率の向上、時間指定配送の分散

化によるトラック回転率の向上などに成果を出してき

た。加えて、物流部門と生産部門とのTCR活動では、

より効率的な在庫管理方法を目指して取組みを行って

いる。

 また、お酒や食の楽しみを味わってもらうための提

案や、地域の特性を活かしたきめ細かい店頭での売り

場づくりなどを通じて、商品に魅力を付加すると同時

に、売り場づくりを提案することによって、小売の集

客・売上が改善することをめざしている。

 この提案型営業においては、市場リサーチ室という

市場分析の専門家部隊もサポートし、基礎的なデモグ

ラフィックの情報と需要予測を併せて分析を行う「商

圏情報分析」をはじめとするデータに基づいた提案を

行っている。提案を行うのは営業部隊であり、その提案

を受けて、個々の店に合わせた売場を実際に作るのが、

マーチャンダイジング機能の専門組織であるキリン

マーチャンダイジング社(KMD)である。また、市場

リサーチ室と販促室が連携して、商品、販売促進策、広

告、売場づくりを連動させる計画を策定。市場リサーチ

室が商品の年間予測を行い、それに基づいて、マーケ

ティング活動を調整している。

 価格に頼らない営業を維持するために、キリンは

ビール類の拡売条件や販促活動に関して自主ガイドラ

インを定めている。同社はこれを業界全体の公正取引

を目指すための活動と位置付け、営業担当者に徹底し

てきた。

 なお、研究開発においては、マーケティング部の中に

ある商品開発研究所で、研究・製造・商品コンセプト

開発のエキスパートが協働して商品開発を行い、消費

者にとって明確な価値を持った商品の開発を目指して

いるという。その過程で市場リサーチ室は、消費者や市

場のデータ分析で支援している。

自社にとっての「お客様本位」「品質本位」とは何か

 キリンでは、「Kirinology」という情報システムに価

値営業の成功事例、店頭陳列の優れた事例を蓄積。ノウ

ハウが横展開されている。また、2004 年から「V10

推進プロジェクト」と銘打った組織風土改革を実施。キ

リンにとっての「お客様本位」「品質本位」とは何かに

ついての議論を、部門を横断して行うことで「酒類事業

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ロゴスメールマガジン 

発行:株式会社ワールド•ワイズ•ジャパン   LOGOSプロジェクト

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(木曜PDF版)

VOL.249

の誓い」という企業理念と「行動の原点」という行動指

針を策定。これらを社内に伝える過程で、「価値営業」

は単なる方法論の転換ではなく、価値観の転換である

ことを明確化。営業部門以外にも「価値営業」の目的と

意義の理解を浸透させた。

 キリンの活動は、価値営業、流通パートナーへの価値

提供、お客様価値につながらないコストの削減を中心

に選択され、組み合わせられている(活動システムマッ

プ参照)。なお、戦略を可能にしたイノベーションとし

ては、「業界に先駆けてオープン価格を採用」「マー

チャンダイジング専門子会社を設立し、地元の消費者・

小売業者を理解した上での買場づくりの提案を行っ

た」「組織を超えてノウハウとベストプラクティスを共

有する情報プラットフォームの構築」「量販店への買場

提案に、市場分析の専門家(市場リサーチ室)が参画し

た」など。

 「価値営業」への注力は、2001 年の「新キリン宣言」

で、企業理念「お客様本位」「品質本位」への回帰が打ち

出されたことに始まる。「価格から価値へ」という戦略

の転換を社員が行動レベルにまで具体化することや

パートナーである流通業者の理解を得ることに時間が

かかったものの、価格営業への回帰は起こらず、試行錯

誤しながらも価値営業実現に向けた取り組みが行われ

た。

企業の健全な成長が業界の持続可能な成長の礎

 遊技産業にかかわらず、市場が健全な成長をとげる

ためには、企業の健全な成長が前提となる。遊技業界に

おいては、今年の総会を俯瞰しても、そのキーワードは

“市場の閉塞感”。メーカーもパチンコホールも同様

だ。もはや小手先の変化では、市場の好転は得られない

というのが多勢の見方ではなかろうか。

 かねてから「自分さえよければ」「目先に捉われた迎

合」「許可営業のネガティブさを逆手に取ったネグレク

ト」などが問題視されてきた業界だが、実際、そういう

体質が企業の健全な成長を阻害し、業界全体の持続可

能な成長を脅かしている。

 概念的なところでさまざまに理想は語られるが、ま

ずは業界全体という視野を持ちながら、その中でどの

ように企業が健全に成長していけるのか。これまでの

慣習に捉われず“正しい生き残りの方法”を模索し、無

駄な過当競争からいち早く抜け出すことが、産業の生

き残りにも繋がっていく。

活動システムマップ

※同HPより引用