修士論文 興奮系におけるパターンの制御 1 はじめに 1-1...

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修士論文 興奮系におけるパターンの制御 九州大学大学院総合理工学府 量子プロセス理工学専攻 非線形物性学講座 藤本 武文 2003 2 19

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Page 1: 修士論文 興奮系におけるパターンの制御 1 はじめに 1-1 生物の模様(Turing パターン) 細胞性粘菌が作るらせんパターン。BZ 反応におけるターゲットパターン、ら

修士論文

興奮系におけるパターンの制御

九州大学大学院総合理工学府

量子プロセス理工学専攻

非線形物性学講座

藤本 武文

2003 年 2 月 19 日

Page 2: 修士論文 興奮系におけるパターンの制御 1 はじめに 1-1 生物の模様(Turing パターン) 細胞性粘菌が作るらせんパターン。BZ 反応におけるターゲットパターン、ら

目次 要旨 1 1 はじめに 3 1‐1 生物の模様(Turing パターン) 3 2 化学反応でみられるパターン(BZ 反応) 8 2‐1 BZ 反応とは 8 2‐2 Oregonator の構築 9 2‐3 Tyson による Oregonator の無次元化 10 2‐4 相平面(nullcline) 13 2‐5 振動系、興奮系 15 2‐6 BZ 反応におけるリズムはなぜ起こるのか? 19 2‐7 1 次元進行波解の解析 19 2‐8 興奮系におけるらせん波のダイナミックス 22 3 シミュレーションで用いる方程式について 28 3‐1 心臓のらせんパターンと FitzHugh-Nagumo 方程式、Aliev

-Panfilov 方程式 28 3‐2 FHN 方程式 28 3‐3 AP 方程式 32 4 計算方法 37 4‐1 改良 Euler 法 37 4‐2 空間に関する微分 38 4‐3 境界条件 40 5 シミュレーションの方法 41 5‐1 らせんパターンを得るための初期条件 41 5‐2 パターンの制御方法 43 5‐2‐1 FHN 方程式で得られるらせんパターンの制御方法 44 5‐2‐2 AP 方程式で得られるパターンの制御方法 46

Page 3: 修士論文 興奮系におけるパターンの制御 1 はじめに 1-1 生物の模様(Turing パターン) 細胞性粘菌が作るらせんパターン。BZ 反応におけるターゲットパターン、ら

6 シミュレーションの結果 52 6‐1 FHN 方程式で得られたらせんパターンの制御 52 6‐2 AP 方程式で得られたパターンの制御 56 7 考察 63 7‐1 FHN 方程式で得られたらせんパターンの制御に関する考察 63 7‐2 AP 方程式で得られた分裂したパターンの制御に関する考察 64 参考文献 65 謝辞 66

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要旨 反応拡散系、特に興奮系のシミュレーションを行い、それから得られるパタ

ーンの制御を行った。反応拡散系は、次式の偏微分方程式で表わされる。 、 :拡散係数を成分にもつ対角行列

:空間のラプラシアン ここで、右辺第1項は、u、vの拡散を表わし、右辺第2項の ),( vuf 、 ),( vug

はそれぞれ、 u 、 v の反応を表わす。反応拡散系の代表的な方程式として

FitzHugh-Nagumo 方程式(神経の興奮伝播を表わす方程式)や BZ 反応をモ

デル化した Oregonator(オレゴネータ)などがある。 心臓の拍動は、通常、右心房にある洞房結節がペースメーカーとなり、電気

的興奮が伝播し、他の心房、心室へと広がっていく。しかし、何らかの拍子で

通常の拍動に異常が生じることがあり、その重篤な場合には、心臓死につなが

ることがある。このような心臓死が起こるまえに、不整頻脈が認められること

が多く、特別なケースでは、心臓の電気的興奮がらせん状の空間パターンを形

成することがあり、それが分裂し、複雑になると、上途した心臓死につながる

と言われている。従って、この不整頻脈とらせん状の空間パターンはなんらか

の関係があるのではないかと考えられている。 興奮の神経伝達を表わす方程式として、FitzHugh-Nagumo 方程式、Aliev-Panfilov 方程式を用いた。これらの方程式もある条件下では、空間的らせん

パターンを形成することがあり、Aliev-Panfilov 方程式では、らせんパターン

が分裂を起こすことがある。本研究では、これらの方程式で見られるパターン

をシミュレーションにより制御することを目的とする。 FitzHugh-Nagumo 方程式はある条件下に対して、空間的らせんパターンを

表わす。このとき、渦の中心にスポット状に興奮しにくい領域を作り、その領

域を少しずつ移動させる。すると、渦の中心もそれにつられ、動くことが、シ

( )

( )vugvDtv

vufuDtu

v

u

,

,

2

2

+∇=∂∂

+∇=∂∂

uD

2∇

vD

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ミュレーションでわかった。そこで、スポット状の領域を境界に移動させるこ

とにより、渦の中心も境界に移動させ、渦を消すようにした。(ただし、境界上

では興奮が消えるように Neumann 境界条件とした。) また、Aliev-Panfilov方程式もある条件下で、空間的らせんパターンを作り、

さらに、あるパラメータを変えると、このパターンが分裂する。今回、この分

裂したパターンに、空間全体に刺激を加えることにより、パターンを消去する

ことができた。

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1 はじめに 1-1 生物の模様(Turing パターン) 細胞性粘菌が作るらせんパターン。BZ 反応におけるターゲットパターン、ら

せんパターン。心臓における電気的興奮が伝達されたときにみられるらせんパ

ターンなど、自然現象でみられるパターンは様々ある。 次の2成分方程式を考えてみよう。

(1.1)式は反応拡散方程式と呼ばれる方程式であり、このシステムで記述さ

れる系を反応拡散系と呼ぶ。上途した BZ 反応でみられるターゲットパターンや

らせんパターン、心臓における電気的興奮が伝達されるときにみられる空間的

らせんパターンは反応拡散方程式によって表わされると考えられている。 昔から、人々は生物の発生現象について関心を持ってきた。例えば、生物の

発生を考えるとき、受精卵から細胞が分化していく過程において、受精卵の空

間的対称性は崩れ、手や足などのその生物固有の組織や形が現れる。キリンや

シマウマの模様もこういった細胞分化の過程で出来たものである。 英国の A.Turing(チューリング)もまた生物の形や模様などの生物の多様性

に魅了され、そういった生物の多様性を数学的に解析することを考えた一人で

ある。彼が考えたパターンは Turing パターンと呼ばれ、反応拡散系でみられる

パターンの 1 つである。 (1.1)式について、それぞれ ),( txu 、 ),( txv とし、系は1次元を考えよ

う。定常解を とし、定常解からのわずかなずれをそれぞれ uδ 、 vδ

する。(1.1)式を 、 のまわりで Taylor 展開すると、

∇+=∂∂

∇+=∂∂

vDvugtv

uDvuftu

v

u

2

2

),(

),((1.1)

),( 00 vuS =

uu δ+0 vv δ+0

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を得る。 、 は、u、vに関する非線形項であり、その寄与は無視

できると考え、(1.2)式を線形化する。また、定常解からのずれを改めて uu =δ 、

uu =δ とした。このとき、(1.2)式をFourier モード 、 を用いて表わす。 、

は、 と表わされので、(1.2)式の非線形項を消去したものに(1.3)式を代入する

と、 を得る。ただし、 、 、 、 と

する。波数k に対する安定性は、(1.4)式の固有値 の性質で決まる。 は、

++

∂∂

+

∂∂

=∂∂

++

∂∂

+

∂∂

=∂∂

xxvv

xxuu

vDvuOvvg

uug

tv

uDvuOvvf

uuf

tu

),(

),(

00

00(1.2)

−+=∂

+−=∂

kvvkuk

kvkuuk

vkDgugt

v

vfukDft

u

)(

)(

2

2

(1.4)

),( vuOu ),( vuOv

ku kv ku kv

==

)exp()()exp()(

ikxtvvikxtuu

k

k (1.3)

ufuf =∂∂ 0)/( vfvf =∂∂ 0)/( ugug =∂∂ 0)/( vgvg =∂∂ 0)/(

kω kω

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行列式 から求めることができ、 となる。ただし、T と ∆をそれぞれ、

とする。 仮に 、 、 、 になるとする。すると、u成分はu成分、

v成分の成長を促進する効果を持ち、また v成分は u成分、v 成分の成長を抑え

る効果がある。 u、vをそれぞれ活性因子(activator)、抑制因子(inhibitor)と呼ぶことがある。 さて、a、b、c、 d を正の定数とし、 、 、 、 とすると、(1.2)式は、上途した活性因子、抑制因子の性質を満足する。このと

き、固有値 は、(1.6)の解を求め、上のa、b、c、 d で表わすと、

0)(

)(2

2

=−−

−−

kvvu

vkuu

kDggfkDf

ωω

(1.5)

(1.6) 02 =∆+− kk Tωω

)(2vuvu DDkgfT +−+=

42)( kDDkgDfDgfgf vuvuuvuvvu ++−−=∆ (1.8)

(1.7)

0>uf 0<vg 0>ug 0<vf

afu = bf v −= cg u = dg v −=

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となる。 (1.9)式をみると が小さく が大きいときは、根号の中が正の大き

な値をとり得るので、ある有限の波数の揺らぎが増大することがある。このと

き、根号の中の第一項が大きくなるので、固有値は実数をとる。従って、この

ような場合、定常な空間的周期パターンが出来ることが予想される。このよう

に活性因子が局所的に成長するとき、抑制因子の拡散が大きいため、その場で

の抑制が十分にできず、まわりの活性因子の増大を抑制することになる(図 1)。このようにしてできるパターンを Turing パターンという。 仮に、活性因子がメラニン色素のようなものの生産をつかさどるとすると、

図 1 のように有限の波数が空間的に成長する構造は、ある種の縞模様を想像す

る。タテジマキンチャクダイやエンジェルフィッシュの模様、あるいは胎児の

頃にキリンやシマウマの模様が決まるときには、Turing の機構が働いているの

ではないかと考えられている。

uD vD

( )±−−−= 22

21

kDdkDa vukω

(1.9) ( ) ackDdkDa uu 421 222 −++−

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参考文献[1] p1-p3,p144-p152 [2] p65-p67

u

v

x

図 1 1 次元系における Turing パターン。活性因子が局所的に成長するとき、抑制因

子の拡散が大きいため、その場での抑制が十分に出来ず、まわりの活性因子の

増大を抑制することになる(図 1‐2)。そして抑制因子の拡散が及ばないとこ

ろで活性因子が成長し、周期的なパターンを形成する。(図 1‐3)。

u u u

u

v vv

v

x

x

図 1‐1

図 1‐2

図 1‐3

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2 化学反応でみられるパターン(BZ 反応) 2-1 BZ 反応とは BZ 反応とは、この化学反応の発明者と改良者であるBelousov(ベローソフ)、

Zhabotinskii(ジャボチンスキー)の姓に由来しており、4種類の化合物を混合

してできる、周期的な酸化還元反応の一種である。酸化剤と還元剤を同じ容器

に混合すると、通常は瞬時に反応が完了するが、BZ 反応では、酸化還元反応が

ゆっくりと周期的に進行する。 1972 年、R.J.Field(フィールド)、E.Koros(ケレス)、R.M.Noyes(ノイ

エス)は BZ 反応の詳細を研究した。彼らが研究した BZ 反応の機構を FKN 機

構と呼ばれる。FKN 機構は 10 個の過程からなる。それを表 1 で示す。

表 1

−+++

+++

+−

++−+

+++

+−

+−

+−−

+−

+−

++++→++

+++→++

++→+

++→←++

+→←++

+→←++

++→←

+→←++

→←++

+→←++

BrHCOHCOOHCeOHCOOHBrCHCe

HCOHCOOHCeOHCOOHCHCe

HBrCOOHBrCHCOOHCHBr

HCeBrOOHCeBrO

CeHBrOHCeBrO

OHBrOHHBrOBrO

HHOBrBrOHBrO

HOBrHBrOHBrBrO

HOBrHBrHBrO

OHBrHBrHOBr

5242)(4

6262)(6

)()(

2

2

2

2

2

23

224

23

2224

2222

332

42

42

32

2223

32

23

2

22 (R1)

(R2)

(R3)

(R4)

(R5)

(R6)

(R7)

(R8)

(R9)

(R10)

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全体の反応の収支は、

OHCOHCOOHCOOHBrCH

HCOOHCHBrO

222

223

542)(3

2)(56

+++→

++ +−

となる。つまり、BZ 反応は、臭素酸 によるマロン酸 の酸

化反応である。 FKN 機構では、反応中間体が 6 個ある。従って、BZ 反応の動的挙動を 6 個

の反応中間体による反応速度式で表わすことができる。しかし、系をより解析

的に調べるためには、これより少ない変数のモデルをつくる必要がある。 2-2 Oregonator の構築

Field たちは、さらに、表 1 の反応から、重要なステップとして、(R2)、(R3)、(R4)、(R10)、および(R5)+2(R6)を取り出し、表 2 の機構を考えた。

表 2

(2.1)

−3BrO 22 )(COOHCH

−+++

+−

++−+

+−

+−−

++++→++

++→

++→+++

→++

+→++

BrHCOHCOOHCeOHCOOHBrCHCe

HHOBrBrOHBrO

OHHBrOCeHHBrOBrOCe

HOBrHBrHBrO

HOBrHBrOHBrBrO

5242)(4

2

2232

2

2

23

224

32

224

233

2

23

(R2)

(R3)

(R5)+2(R6)

(R4)

(R10)

hYZB

PAX

ZXXA

PYX

PXYA

→+

+→

+→+

→+

+→+

2

22

2

(O1)

(O5)

(O3)

(O4)

(O2)

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ただし、 、 、 、 、 、 、hは 1 個を消費するのに伴ってどれ

だけのY が生成されるかというパラメータである。表 1‐2 は Oregonator(オ

レゴネータ)と呼ばれる機構で知られる。 さて、表 2 を見ると,反応中間体は、 X 、Y 、 Z の 3 種である。化学種 X の

濃度を ][X を X とし、それぞれの速度式をつくると、

となる。

Oregonator の(O5)過程は、FKN 機構の(R10)に対応しているが、(R9)

の寄与も考慮し、(2.3)右辺の第 2 項で表わされる。 2-3 Tyson による Oregonator の無次元化 Oregonator をコンピュータで計算シュミレーションするために、通常、無次

元化という処理を行う。Tyson(タイソン)は、以下の無次元化パラメータを用

いて、Oregonator を無次元化した。

−≡ 3BrOA 222 )()( COOHBrCHCOOHCHB +≡ HOBrP ≡

2HBrOX ≡ −≡ BrY +≡ 4CeZ +4Ce

HXYkAYHkdt

dX2

23 −=

(2.2)

(2.2) 2

45 2 XkHAXk −+

HXYkAYHkdtdY

22

3 −−=

BZhk i+

BZkHAXkdtdZ

i−= 52 (2.3)

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さらに、

とすると、(2.2)~(2.3)式は、次のようになる。

( )

====

====

,1

,,,

,,,2

,

004

25

00

2

50

04

50

0

BkT

Tt

BkkHAk

YZZ

z

kAk

YYYy

kHAk

XXXx

ii

τ

(2.4)

12,2

, 252

4'

5

===

= hfAHkk

BkkHAkBk ii εε (2.5)

fzxyqyddy

+−−=

τε '

(2.6)

(2.7)

(2.8) zxddz

−=τ

( ) xxxyqyddx

−+−=

1

τε

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となる。ただし、パラメータq については、

であり、反応速度定数にのみ決まる定数である。Tyson は、実験的に不確定さ

が残るパラメータ 、 、 の値に関して、“Lo values”と“Hi values”の2

種類を提案した。それぞれの組は、( 12113126 10,102,10 −−−−−− × sMsMsM )と( ×2 123118128 102,104,10 −−−−−− ×× sMsMsM )である。従って、q の値は、

と2種類の値をとることになる。現在、“Lo values”の値が正しいことがわかっ

ている。 (2.6)~(2.8)式の無次元化されたモデルから、Oregonator のもつ時間

構造を解析することができる。さらにε 、ε ’については、ε ’ 1<<<< ε となるので、ε ’ ( )τddy は他よりも著しく小さくなる。よって、近似的に ε ’ ( ) 0=τddy と置い

てもよい。これを y について解くと、

= 2

5

4

2

532

kk

kk

kq (2.9)

2k 4k 5k

42

5

4

2

53 1082 −×=

=

kk

kk

kq

3104 −×=

(2.10) (Hi values)

(Lo values) (2.11)

qxfz

y+

= (2.12)

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となり、(2.6)及び(2.8)式に(2.12)式を代入し、 y を消去すると、

となる。(2.13)式及び、(2.14)式は、Keener-Tyson モデル(以下 KT モ

デル)と呼ばれている。また、 0),(),( '' == yxHyxF が定常状態に対応する。さ

らに、(2.13)式、及び、(2.14)式に、化合物 x、 z が場に拡散することを

考慮し、その項を加えると、 となる。(2.15)式は、(1.1)式で示した反応拡散方程式に対応する。また、

(2.13)、(2.14)式をみると、 xと z がそれぞれ 1-1 で述べた活性因子、抑

制因子に相当することがわかる。 2-4 相平面(nullcline) BZ 反応の数理モデルを用いて定常状態の不安定化を調べる手段として、線形

( ) ( )zxFxqqx

fzxxddx

,1 '≡+−

−−=

τε

( )zxHzxddz

,'≡−=τ

(2.13)

(2.14)

( )

( )

+∇=∂∂

+∇=∂∂

zxHzDz

zxFxDx

z

x

,

,1

'2

'2

τ

ετ (2.15)

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安定性解析という手法がある。しかし、線形安定性解析では、時間発展方程式

を定常解のまわりで線形化するので、系の挙動は、定常解近傍の情報しか知る

ことができない。つまり、もし、定常解が不安定であるなら、外部からの摂動

に対して、系は定常解から遠ざかることを知るのみで、その後、系がどのよう

な挙動を示すのか、線形解析ではそういった情報を引き出すことはできない。

また、逆に定常解が安定な場合に関しても、定常解から遠く離れた系の挙動を

知ることはできない。 こういった問題を解決するためには、時間発展方程式を相平面で表わすのが

便利な方法である。相平面上では、ある時点における系の状態は1つの点で表

わされる。系の時間発展は、相平面上では点の軌道として記述される。また、

相平面を用いると、振動系、興奮系の違いが簡単に把握できるのも便利である。 (2.13)、(2.14)式にこの方法を適応し、BZ 反応の系の挙動を考えてみよ

う。(2.13)、(2.14)式の 0),(),( '' == zxHzxF とし、図 2 で表わされる曲線

を描く。それぞれ曲線をΣ、Γとし、それらの曲線はΣ‐nullcline(ヌルクラ

イン)Γ‐nullcline と呼ぶことがある。

0.1

0.2

0.3

0.4

1.0

0 5.0 1

2.0

3.0

4.0

z

x

図 2 zx − 平面におけるΣ‐nullcline、Γ‐nullcline

Σ

Γ

0,0 <<ττ d

dzddx

0,0 ><ττ d

dzddx

0,0 <<ττ d

dzddx

0,0 >>ττ d

dzddx

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(2.13)、(2.14)式において、 0),(),( 77 == zxHzxF なので、

となり、(2.16)式の曲線の交点が BZ 反応の定常状態に対応する定常解であ

る。2つの nullcline は相平面を4つの領域に分ける。それぞれの領域におい

て 、 の正負がわかる。図 2 で示した通りに、Σ‐nullcline の左右でそ

れぞれ 、 であり、Γ‐nullcline の上下の領域で 、 となる。つまり、摂動を加えても系はΓ‐nullcline 上に戻ろうとする。 しかし、Σ‐nullcline をみると、不安定な領域が存在する。Σ‐nullcline の

傾きが正の領域がそれに対応する。この領域において、系はわずかなゆらぎに

対して、左右のどちらかのΣ‐nullcline の傾きが負の領域に引き込まれる。 Σ‐nullcline とΓ‐nullcline を連立させた場合、図 2 のように、例え、Γ‐

nullcline が安定であっても、定常解(Σ‐nullcline とΓ‐nullcline の交点)が

Σ‐nullcline において不安定な領域にあるので、定常解は不安定になる。すな

わち、連立方程式の定常解は、この場合不安定になる。 2-5 振動系、興奮系 2-4 で述べた相平面での 、 の正負により、系の振動状態が説明で

きるが、そのことについて考えてみよう。まず、(2.30)式の両辺に f をかけ

ると、

=−

+−=

xzfqx

qxxxz

)())(1(

(2.16)

τddx τddz0<τddx 0>τddx 0<τddz

0<τddz

τddx τddz

=−

+−=

fxfzqx

qxxxfz

)())(1(

(2.17)

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図 3(a)は、図 2 で描いた相平面図と同様な相平面図である。系の初期状態

が定常解から遠く離れた S 点にあるとする。S 点のある領域では系は時間ととも

に定常解から遠ざかる。そして、Σ‐nullcline に到達するとそれに沿うように

してゆっくりと系は動く。系が極大点 Dを超えると、Σ‐nullcline の不安定な

領域を飛び越えて、A点にジャンプする。また、Σ‐nullcline に沿うように B 点

まで動くと、再びΣ‐nullcline の不安定な領域を飛び越え、C 点までジャンプ

する。続いて、系は極大点 Dまで動き、以降はこのサイクルを繰り返す。これ

が、系が振動状態にあるときの系の相平面上における周期軌道、すなわち、リ

ミットサイクルである。こういった、リミットサイクルにおける“ジャンプ”

が起こる理由として、(2.13)式をみればわかるように、(2.13)式の左辺にεがかけてある。(2.13)式における xの時間発展方程式の両辺をε で割ると、 となる。(2.18)式の反応項は、ε で割ることになり、また、ε は 1 よりも非常

に小さな定数なので、反応項にかかる係数 ε1 は大きな値をとる。従って、xは z

に比べ速い反応となり、初期状態にある系は、Σ‐nullcline にたちまち引き付

けられ、その後、Σ‐nullcline に沿うようにしてゆっくりと動くようなリミッ

トサイクルを描くわけである。 また、(2.18)式の f の値を変えることにより、定常解がΣ‐nullcline の不

安定な領域から安定な領域へと変化することがある。このとき、系は図 3(b)のようなサイクルを描き、これは、興奮系と呼ばれる系を示す。興奮系におい

て、定常状態にある系に対して、系を少し動かすと、図 3( b)のα 、β のよう

な 2 種類のサイクルを描く。これは、刺激に対して、ある一定値以下の刺激の

とき、図 4(a)のようにすぐに定常状態に戻るが、ある一定値以上の刺激を加

えると、図 4(b)のように xが大きくなり、 xが左右に伝播していくことにな

る。(ただし、 xが場に拡散することを考慮する。)

( ) ( )yxFxqqx

fzxxddx

,1

11 '

εετ≡

+−

−−=

(2.18)

Page 20: 修士論文 興奮系におけるパターンの制御 1 はじめに 1-1 生物の模様(Turing パターン) 細胞性粘菌が作るらせんパターン。BZ 反応におけるターゲットパターン、ら

17

0.1

0.2

0.3

0.4

0.1

0.2

0.3

0.4

AD

C

B

S

)(a

S

α

β

)(b

図 3 (a )振動系の相平面 (b )興奮系の相平面

fz

fz

x

x

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18

xx

x

x

x

図 4(a )

図 4(b )

図 4 1 次元における KT モデルのパルスが伝播する様子。ある一定値以下の刺激のと

き、図 4(a )のようにすぐに定常状態に戻るが、ある一定値以上の刺激を加え

ると、図 4(b )のように xが大きくなり、 xが左右に伝播していく。(ただし、

xが場に拡散することを考慮する。)

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19

2-6 BZ 反応におけるリズムはなぜ起こるのか? BZ 反応では、酸化還元反応がゆっくりと周期的に進行する。なぜ、こういっ

た周期的な“リズム”が生まれるのかについて、相平面を用いると、それは、

系の定常解が不安定であるから、一言で述べることができる。また、不安定な

解が生まれる条件も、パラメータ f で決まり、そして、nullcline や f の値は、

そもそも Oregonator のもとである FKN 機構、すなわち、化学反応に由来して

いるのである。 2-7 1 次元進行波解の解析

BZ 反応では、媒質の一部に適当な刺激を加えることにより、円形波が発生し、

これがほぼ一定速度で伝播し、半径が拡大する。さらに、試薬に適当な流動的

撹乱を与えるか、あるいは、光を照射するなどの方法により、円形波の一部を

消去する。すると、そこが端点となり、1 対のらせん波へ発展する。1 対の端点

からは、1 対であり、互いに逆回転するらせん波を形成する。 こういった空間パターンを解析するためには、モデル式を解析するわけだが、

BZ 反応のモデルである KT モデルは、数値的に解くのも、解析的に解くのも容

易ではない。従って、モデルをさらに縮約する必要がある。その縮約の方法と

して、界面ダイナミックス、メゾスコピック理論、及び位相ダイナミックスな

どの解析アプローチがある。 特に、界面ダイナミックスでは、BZ 反応系のような波動パターンのように、

空間的にも時間的にも、狭い領域において急激に状態変化が集中しているよう

なときには、その領域の厚みを「ゼロ」と考え、その局在構造を通して現象を

考える。これは、前途した観測されるパターンダイナミックス(映像)を線画

(もしくは2値画像)として捉えることに対応し、現象の本質的な部分を摘出

し、簡略化したものになる。 次の反応拡散方程式、

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20

に対して、拡散項を摂動項とみなし、 vu DD=δ 、 ( )vuu ,= として、

を考える。 ( )vuf , 、 ( )vug , の nullcline は、図 3(b)ように、 ( ) 0, =vuf の nullclineは、S 字型曲線(Σ‐nullcline)を表わし、また、 ( ) 0, =vug の nullcline は、直

線的な曲線(Γ‐nullcline)と仮定し、その2曲線Σ、Γは興奮系を示すと仮

定する。また、 0→ε において、 を満足する定常解 は

局所的には安定であるが、励起可能であるとする。特異摂動法に従い、1 次元 x軸上における進行波の波頭の解を解析的に求める。 波頭の伝播が一定速度cで進行し、波面の形状も変化しないと仮定すると、

∇+=∂∂

∇+=∂∂

vDvugtv

uDvuftu

v

u

2

2

),(

),(ε(2.19)

∇+=∂∂

∇+=∂∂

vvugtv

uvuftu

2

22

),(

),(

εδ

εε(2.20)

( ) ( ) 0,, == ssss vugvuf ( )ss vu ,

( ) ( ) ( )φuctxutxu =−=,

( ) ( ) ( )φvctxvtxv =−=,

ctx −=φ (2.23)

(2.21)

(2.22)

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が成り立つ。従って、(2.20)式は、速度cで運動する座標系φ 上では、

と表わすことができる。まず、uの変動に関して 2 つの領域に分けて議論する。

すなわち、uが鋭く変化する領域と、緩やかに変化する領域である。uが緩やか

に変動する領域において 0→ε と置き、 に対して、 ( ) 0, =vuf の方

程式の適切な 2 つの解 を得る。ここで、 である。さらに、 を 0<φ の解とし、 を 0>φ の解と仮定すると、 0=φ における

解 ( )φu はもはや連続ではなくなり、(2.24)式における ( )222 φε dud 、 ( )φε dduc

の項は無視できなくなる。言い換えると、 の間にある境界層を考えることになる。この境界層の性質を調べるために、

εφξ = のように座標変換すると、(2.24)、(2.25)式は、

( )

( )

=++

=++

0,

0,

2

2

2

22

vugddv

cd

vd

vufddu

cd

ud

φφεδ

φε

φε (2.24)

[ ]maxmin ,vvv ∈

( )vhu ±= ( ) ( )vhvh −+ >

( )vhu += ( )vhu −=

( ) ( )vhuvh −+ << (2.26)

( )

( )

=++

=++

0,

0,

2

2

2

2

vugddv

cd

vd

vufddu

cd

ud

εξξ

δ

ξξ(2.27)

(2.25)

(2.28)

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22

となる。 0→ε と置くと、境界層内において、 が要請される。(2.31)、(2.32)式は、境界層内の ( )を制

御パラメータとして、伝播速度 が一意に決まることを示している。すな

わち、抑制因子 のレベルにより、波の伝播方向と速度が決定される。 2-8 興奮系におけるらせん波のダイナミックス 2 次元では、1 次元と異なり、波頭の法線速度は波頭での抑制因子 のみに

よっては決まらず、波頭の局所的な曲率にも依存する。波頭の曲率を K と法線

速度cの関係を調べるために、境界領域の波頭とともに伝播する運動座標系への

変数変換

0vv =

( ) 0, 0

2

=++ vufddu

cd

udξξ

( ) ( )0vhu +=−∞→ξ

( ) ( )0vhu −=+∞→ξ (2.32)

(2.30)

(2.31)

(2.29)

max0min vvv <<0v( )0vcc =

0v

( )0v

( )τηεξ ,,Xx =

( )τηεξ ,,Yy =

(2.33)

(2.34)

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23

を行う。ηとξ は局所的に直交する座標系である。η座標を波頭の座標とし、座

標変換に対して不変な解を求める。つまり、波頭位置が曲線 0=ξ で与えられる

ような解 ( )ξuu = を求める。この座標系において uはηやτ には依存しないので

各偏微分係数は、 で与えられる。N 及び K は(2.27)式で与えられ、おのおの法線速度と曲率を

表わす。 こうして、(2.15)式の最初の式は、

τ=t (2.35)

+=∇

−=

∂∂

ξξξ

ξξ

εετ

ε

Kuuu

Nuu

22(2.36)

( )

( )

+

−=

+

−=

2322

2122

ηη

ηηηηηη

ηη

ητητ

YX

XYYXK

YX

XYYXN

(2.37)

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24

で与えられる。この式は、(2.23)式と同様な形をしており、 は波頭の

伝播速度 に対応する。すなわち、1 次元では波頭の伝播速度が反応溶液中の

抑制物質vの濃度 だけに依存して決定するのに対して、2 次元では法線速度Nは、波頭での局所的な曲率 K にも依存し、 のように表わされる。 さて、(2.39)式で与えられる曲率の効果は、ターゲットパターンでは大き

く働かないが、らせんパターンでは、その回転周波数、伝播速度および形状の

決定に大きく影響を与えることを示す。 今、(2.39)式に対して、反時計回りに安定して回転しているらせん波の波

頭の解( ( )τη,,0Xx = 、 ( )τη,,0Yy = )を次のように置く。

このらせん波に対し、法線速度 N と曲率 K は(2.37)及び(2.40)式より、

次のように与えられる。

( ) ( ) 0, =+++ vuFuKNu ξξξ ε (2.38)

KN ε+

( )0vc

0v

( ) KvcN ε−= 0 (2.39)

( )( )

−=

−=

]sin[

]cos[

trrY

trrX

ωθ

ωθ(2.40)

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ここで、 ( ) drrdr θψ = 、 である。最も簡単ならせん波の解は、

(3.39)式の曲率の効果を無視して、 を解くことである。従って、 を得る。ここで、 は、

である。 2120

2 ]1[ −= rrs と変数変換することで、

( ) 2121 ψ

ω

+=

rN

( ) ( ) 212232

'

11 ψ

ψ

ψ

ψ

++

+=

rK

(2.41)

(2.42)

( ) 2122 yxr +≡≡η( )0vcN =

( )21

20

21

21

20

2

1tan1

−−

−= −

rr

rrrθ (2.43)

0r

( ) ( ) ( )πω 2

0000

vTvcvcr == (2.44)

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を得る。このらせん波の波頭の形状は、半径 の円の伸開線と呼ばれ、 で

は波長 の Archimedes(アルキメデス)のらせん( )により近似で

きる。この結果は、現実でのらせん波の特徴をいくつかの点でよく再現してい

る。(端点が存在し、それがコアと呼ばれる円形領域の周辺に沿ってらせん波が

回転することは実験的に観測されていることなど。) そこで、(2.29)式に(2.41)、(2.42)式を代入すると、未知関数 ( )rψ に

対する 1 次の常微分方程式を得る。 従って、 ( )rψ が決まれば、 によりらせん波の形状を求めること

ができる。ところで、一般的に(2.46)式における cは r に依存する。なぜな

ら、平面波の伝播速度cは波頭での抑制物質濃度 に依存し、 は波頭の位置 ( )r

に依存するからである。らせん波のコア付近を除いてcは r に依存しないと仮定

すると、(2.41)、(2.42)式と(2.46)式より、

( )( )

−=+=

ssrsrsYssrsrsX

cossinsincos

00

00(2.45)

0rr >>0r

02 rπ 0rr=θ

( ) ( )

−−

++=

ψ

εω

εψ

ψψ 2212

2 11

rrcdrd

r (2.46)

( ) ( )∫ −= drrrr ψθ 1

0v 0v

( )

+−= 2121

ωε

c

rcK (2.47)

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を得る。この式により、大きな r に対して crωψ ~ であり、予想通り 0→Kε と

なる。しかし、らせん波の中心近くでは 0→r あるいは ( 0≠r )と考

えられる。従って、 cK~ε となり、曲率の効果を無視することができなくなる。

一方、(2.46)式は適当な境界条件下において解かれている。例えば、半径 の

コアのまわりにピン止めされて回転するらせん波( )の場合には、曲

率関係式(らせん波の回転角周波数ω と伝播速度cとの関係式)と分散関係式(繰

り返し波の周期T と平面波としての伝播速度cの関係式)と呼ばれる次の 2 つの

拘束条件式によって解が決定される。 コア付近のらせん波の挙動をより現実的に記述するためには、(2.46)式に

おいて、 ( )( )rvcc = として扱う必要がある。特に、メアンデリング( meandering)

など、空間パターンの自由端の複雑な振る舞いの説明には、自由境界問題の設

定が必要になってくる。 参考文献[1] p27-p53,p69-p84,p179-p181 [2] p14-p21

∞→ψ

0r∞<≤ rr0

Ω= 0; r

cc εω

= ε

ωπ

σ ;2

c

(2.48)

(2.49)

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3 シミュレーションで用いる方程式について 3-1 心臓のらせんパターンと FitzHugh-Nagumo 方程式、Aliev-

Panfilov 方程式 次に、心臓で見られるスパイラルパターンを取り上げる。心臓の拍動は、通

常、右心房にある洞房結節がペースメーカーとなり、電気的興奮が伝播し、他

の心房、心室へと広がっていく。William Harvey(1628)は、正常な心臓の拍

動は、右心房に始まって、他の心房、心室へ広がっていくことを見出し、そし

て、心臓のペースメーカー領域、すなわち洞房結節は、1907 年に Keith と Flackによりはじめて報告された。 しかし、何らかの拍子でその拍動に異常をきたす場合がある。その極端な例

として心不全などの心臓死につながる病気である。こういった心臓死が起こる

前に心室性の不整脈が認められる場合が多く、そのとき心臓の活動電位はらせ

ん状の空間パターンを形成することがある。さらにこのパターンが複雑になる

と心室細動と呼ばれる重篤な状態へと移行する。 興奮の神経伝達を表わす方程式として、FitzHugh-Nagumo 方程式(以下

FHN 方程式)、Aliev-Panfilov 方程式(以下AP 方程式)などがある。これら

の方程式もある条件下では、空間的スパイラルパターンを形成するときがあり、

AP 方程式では、スパイラルパターンが分裂を起こすことがある。従って、FHN方程式で得られたらせんパターン、及び、AP 方程式で得られた分裂したパター

ンをシミュレーションにより制御することは、直接、心臓病の治療に役立つわ

けではないが、間接的に心臓病の治療に役立つのではないかと考えており、本

研究の目的である。 3-2 FHN 方程式

1952 年、Hodgkin(ホジキン)と Huxley(ハクスレイ)はイカの神経にお

ける興奮伝達方程式を以下の4変数関数として、

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とした。ただし、V は膜電圧、I は膜電流、C はキャパシタ、 、 、 はNaイ

オン、 K イオン、その他のイオンが担い手となり細胞内外に電流が流れるとき

に生じるそれぞれの伝導率、m 、h、nはそれぞれのイオン透過性を表わす変数、 、 、 は刺激V により変化する関数である。 細胞内外のイオン差が原因となって、通常、細胞の外に比べその中が、70 mV程度電位が低くなっている。この状態が定常状態であり、弱い摂動に対しては

安定であるが、ある閾値を超える大きな電圧を加えると、膜の状態が変化して、

Naイオンや K イオンが膜を通じて出入りするようになる。その結果、膜電位は

負から正へと変化する。その後、急速に膜の状態はがもとの状態に戻り、膜電

位も正から負へともとの状態へ戻る。この一過性の膜電位の変化を神経膜の興

奮という。この神経膜の興奮がパルス状に神経繊維を伝播することによって、

情報が伝達される。

( )NaNa VVhmgIdt

dVC −−=

3

( ) ( )LLKK VVgVVng −−−− 4

( )( ) ( )mVmVdt

dmmm βα −−= 1

(3.1)

(3.2)

( )( ) ( )hVhVdtdh

hh βα −−= 1 (3.3)

( )( ) ( )nVnVdtdn

nn βα −−= 1 (3.4)

Nag Kg Lg

( )Vmα ( )Vhα ( )Vnα

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Hodgkin と Huxley によって提唱されたこのモデル方程式は、生物学の非線

形現象を記述する際の基本となり、1962 年、この方程式を下にし、Noble(ノ

ーブル)が、心臓組織の生理学的モデルを初めて提唱した。 こういったモデル方程式は、心臓組織で見られる基本的な現象を忠実に再現

できるが、数値シミュレーションを行う際、非常に困難な問題が 1 つ生じる。

例えば、Nobel と同じように、心臓組織をモデル化した Beeler-Reuter 方程式

を用いて、数値シミュレーションを行った場合、1 3cm の心臓組織をモデル化す

るのに、約 100 万個の細胞を必要とする。従って、心臓の大域的なダイナミッ

クスを見る際には、こういったモデル方程式では莫大な計算が必要になる。 こういった計算上の問題をさけるために、Hodgkin-Huxley 方程式を簡略化

した FitzHugh‐Nagumo 方程式(以下 FHN 方程式とする。)がある。FHN 方

程式は以下の2変数関数として、 で表わすことができる。u、vはそれぞれ活性因子、抑制因子であり、Dは拡散

定数、また、α 、β 、γ 、σ 、ε はそれぞれ定数であり、ε に関しては、 10 <<< ε

とし、従って、 uの反応はv反応に比べ早く時間発展することになる。(3.5)式は、反応拡散系であり、前途した BZ 反応と同じような相平面を描く。 また、(3.5)式の nullcline は、(3.5)式の拡散項を無視し、さらに

0== dtdvdtdu とするとu、vに関する nullcline は、

+−=∂∂

−−−+∇=∂∂

σγ

βαε

vutv

vuuuuDtu

))((12

(3.5)

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で与えられる。(3.6)式のuに関する 3 次関数の nullcline をΣ‐nullcline、uの直線の式で表わされる nllcline をΓ‐nullcline とすると、相平面は図8にな

る。(3.6)式をみれば、わかるように、相平面が興奮系、振動系を決めるパラ

メータは、γ 、σ になることがわかる。

( )σγ

βα

+=

−−=

uv

uuuv

1

))(((3.6)

図 5 FHN 方程式における nullcline

Γ

Σ v

u

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3-3 AP 方程式 心臓死が起こる前に心室性の不整脈が認められる場合が多く、そのとき心臓

の活動電位はらせん状の空間パターンを形成することがある。さらにこのパタ

ーンが複雑になると心室細動と呼ばれる重篤な状態へと移行すると言われてい

る。 心臓の不整脈を考える上で重要な要因になるのは、活動電位の継続時間( APD

(Action Potential Duration))と前の活動電位から次の活動電位が到着するま

での時間( CL(Cycle Length))の関係である。例えば、犬の心筋の場合、APDが ms330 だは、CLが ms5000 となるが、 APDが約 21 の ms150 にすると、CL は

約 131 の ms350 になる。特に、不整脈が始まる前にはこういった APDとCLの変

化がよく見られる。 こういった実験的実例があり、現在の理論的研究において APDとCLとの関係

がパターンの分裂を引き起こす重要な要因だと考えられている。しかし、FHN方程式では、この APDは、CLを変えても APDはあまり変化せず、また、Hodgkin-Huxley 方程式や FHN 方程式の興奮波で見られる一度u(ここでは、活動電

位)の値が定常値よりも低い値をとり、また定常値に戻るような波形(図6)

は、心臓組織では見られないことも知られている。

APD

CL

図 6 FHN 方程式における APDとCLについて。円領域内は、活動電

位が定常値よりも低くなる領域を示す。

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こういった活動電位の波形や、心臓組織で見られる APDとCLの関係を満たす

方程式として、本研究では、Aliev-Panfilov 方程式を採用した。この方程式は、

犬の心筋を用いて実験的に得られた方程式であり、Nobel が提唱した心臓組織

のモデルのように細胞 1 つ 1 つのNaイオンや K イオンの流れを考えずに、心臓

組織中の興奮伝達のダイナミックスを記述できる利点がある。 AP 方程式は以下の 2 変数関数で表わすことができる。 ここで、 であり、 、 、 となり、

( )vu,ε 全体では 1 よりも非常に小さな値をとる。また、 は隣接する細胞の電流

であり、 と表わすことが

できる。ここで、 g は細胞間における伝導率を表わす定数である。 は、lを細

胞間距離とすることで、連続近似 ugl 22∇ となり、従って、(3.7)式は、反応拡

散方程式と言える。また、a、bは興奮伝達の度合いを表わす定数である。パラ

メータaに関して、aは 1 よりも小さな値をとる。また、k は、約 8 の値をとる。

このとき、(3.8)式の uの時間発展方程式をみると、仮に、 uの初期値が aの値よりも小さな値をとる場合、uの時間発展方程式 は負になり、従って、

この場合、uが時間発展していくと、uは減少することが予測できる。逆に初期

値 がaの値よりも大きな値をとる場合、 uの時間発展方程式 は正にな

り、従って、この場合、uが時間発展していくと、uは増加し、uの値が 1 より

も大きくなると uは減少していくことが予測できる。つまり、パラメータ aは、

系が興奮するのかを決定する閾値であると考えることができる。最後に、u、vは FHN 方程式と同様にそれぞれ活性因子、抑制因子である。 AP 方程式における nullclineについて考えよう。 0== dtdvdtdu とし、また、

を無視すると、(3.7)式は以下のようになる。

( )( )

( ) ( )

−−−−=∂∂

+−−−−=∂∂

1,

1

bukuvvutv

Iuvuaukutu

ex

ε(3.7)

( ) ( )210, µµεε ++= uvvu 01.00 =ε 11.01 =µ 3.02 =µ

exI( ) ( ) ( ) ( ) jijijijijijijijiex uuuuuuuugI ,1,,,1,1,,,1 −+−+−+−= −−++

exI

0u tu ∂∂ 0

tu ∂∂ 0

exI

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ただし、 ( )vu,ε に関しては、着目する系に対して微視的な量であり、従って、こ

れを断熱的に消去する。(3.8)、(3.9)式で得られる AP 方程式の nullclineは、図 7 のようになる。 FHN 方程式で得られる nullcline との違いは、大きく 2 つある。1 つ目は、(3.8)式の左辺のuvは、FHN 方程式では、vになるという点である。(3.8)式の

nullcilne を描く上で、 0=u と 0≠u のそれぞれの領域で場合分けする必要があ

る。それぞれの nullcline は、 となり、 0=u の nullcline があるために、系の挙動は、 0>u の領域内を動く。

言い換えれば、 0=u の nullcline が一種の“壁”となり、系の挙動が 0>u の領

域で制限をされていることに対応する。これは、図 6 の円内領域で示したよう

な FHN 方程式の興奮波で見られる一度uの値が定常値よりも低い値をとり、ま

た定常値に戻るような過程を消去することに対応し、前途したように、実際の

心筋においてもuは、図 8 右のような波形になる。 2 つ目は、(3.9)式の右辺の項が uの 2 次関数になっているが、FHN 方程式

では 1 次関数になっているという点である。このような nullcline は、心臓組織

において、FHN 方程式より適切な nullcline になる。

( )( )1−−−= uaukuuv

( )1−−−= bukuv

(3.8)

(3.9)

( )( )1−−−= uaukv

0=u

( )0≠u

( )0=u

(3.10)

(3.11)

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)1)(( −−−= uaukr

)1( −−−= bukur0=u

図7 AP 方程式における nullcline

定常解

図 8 FHN 方程式、AP 方程式で得られる 1 次元興奮波

それぞれ右が FHN 方程式、右が AP 方程式で得ら

れる波形である。

uu

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36

参考文献[3] p13-p15,p25-p31,p39-p51 [4],[5],[6],[7],[8]

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37

4 計算方法 反応拡散方程式 には時間に関しての 1 階、空間に関して 2 階の微分が含まれている。これらの

微分を数値的に解くための方法を述べる。 4-1 改良 Euler 法 微分方程式 に関して、この式の初期値問題の数値解法について述べる。 ある区間 を反復数nで区切る。時間刻み とする。 とし、 とおく。解法には、 を求めるときに、 か

ら直接求める陽的解法と、 自身を含めて計算する陰的解法とがある。 本研究において、実際に用いたのは、常微分方程式の数値解を得るための標

準的な方法の1種である改良 Euler(オイラー)法(陽的解法)について説明す

る。 を とおいたときの x、 y の変化量

( )XFXDt

X+∇=

∂∂ 2

( )

( )yxgdtdy

yxfdtdx

,

,

=

=(4.1)

[ ]10 , tt ( ) ntth 01 −= hjtt j ×+= 0

( ) ( ) ( )( )jjjj tytxyx ,, = ( )11, ++ jj yx ( )jj yx ,

( )11, ++ jj yx

( )11, ++ jj yx ( ) ( )jjjjjj dyydxxyx ++=++ ,, 11

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38

は次式で与えられる。 ここで、 、 は、

である。(4.2)~(4.4)式は、改良 Euler 法と呼ばれる数値解法である。こ

こで、変化率の計算において、重みをつけた上で足しあわせ精度をあげている。

初期値 を与えれば、以上の操作を繰り返すことにより、常微分方程式を

計算することができる。単純な Euler 法では、その誤差が、 であるが、改

良 Euler 法での誤差は である。 4-2 空間に関する微分 空間微分に関して、数値的に解く方法において代表的なものとして微分を差

分商で表わす有限差分商がある。差分には、前進差分、後進差分、及び中心差

分がある。 微分区間をaとして空間変数 x の関数 ( )xf を考える。 ( )axf + 、 ( )axf − を

Taylor 展開すると、

( )jj dydx ,

1

1

mdy

ldx

j

j

=

=(4.2)

1l 1m

( )2,2 001 mylxhfl ++= (4.3) ( )yxhfl ,0 =

( )2,2 001 mylxhgm ++= ( )yxhgm ,0 = (4.4)

( )00 , yx

( )3hO( )2hO

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39

の 2 次の差分は、(4.5)式と(4.6)式の和から、

( ) ( ) ( )dx

xdfaxfaxf +=+

( ) ( )・・・+++ 3

3

32

2

2

!31

!21

adx

xfda

dxxfd

( ) ( ) ( )dx

xdfaxfaxf −=+

( ) ( )・・・+−+ 3

3

32

2

2

!31

!21

adx

xfda

dxxfd

(4.5)

(4.6)

( ) xdxfd 22

( ) ( ) ( ) ( ) axfxfaxfaxd

xfd−+−+= 2

122

2

( )・・・−− 2

4

4

!42

axdxfd

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40

従って、 となる。 4-3 境界条件 本研究では、系の境界条件は、Neumann(ノイマン)境界条件にした。

Neumann 境界条件は、系の境界に対して空間微分を0にする境界条件である。

( ) ( ) ( ) ( ) axfxfaxfaxd

xfd−+−+= 2

122

2

( )2aO+ (4.7)

0=

∂∂

boundaryxf

(4.8)

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41

5 シミュレーションの方法 5-1 らせんパターンを得るための初期条件

BZ 反応では、媒質の一部に適当な刺激を加えることにより、円形波が発生し、

これがほぼ一定速度で伝播し、半径が拡大する。さらに、試薬に適当な流動的

撹乱を与えるか、あるいは、光を照射するなどの方法により、円形波の一部を

消去する。すると、そこが端点となり、1 対のらせん波へ発展する。1 対の端点

からは、1 対であり、互いに逆回転するらせん波を形成する。 FHN 方程式、あるいは AP 方程式においても BZ 反応で見られるような初期

条件を考える。つまり、活性因子 u、抑制因子vをそれぞれ帯状に置く。そのと

きuとvとが少し重なるように置く。すると、BZ 反応と同様に図 9 の円領域周

辺が端点となり、そこから巻き込みが起こり、らせんパターンへと発展する。 上途した初期条件は、興奮媒質の計算シミュレーションにおいて、らせんパ

ターンを得る上で、一般的な手法であり、本研究では、AP 方程式でらせんパタ

ーンを得るのにこの初期条件を用いた。

u

u v

v

図 9

興奮媒質のらせんパターンの初期条件。

円領域周辺で巻き込みがおこり、らせんパタ

ーンへと発展する。

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FHN 方程式では、AP 方程式とは異なり 0<u 、 0<v の領域も含んで計算で

きるので、図 10 のような初期条件かららせんパターンをつくる。u、vに関し

てそれぞれ x、 y に関する gradient を作ると、 x- y 平面はu、vの値により、

(a)~( d )の4つの領域に分けることができる。この初期条件で、系を時間

発展させると領域( b)において、 uは領域(a)、( c)、( d )へと伝播しよう

とするわけだが、領域( c)、( d )では、 vの値が正なので、結局、領域( b)にあるuは領域(a)へと伝播する。また、領域( d )のuは同じ領域( d )に

あるvにより抑制される。結局、初期条件から少し時間発展した系は図 11 のよ

うになり、さらに時間発展させると系はらせんパターンを描くのである。

00

<>

vu

00

>>

vu

00

<<

vu

00

><

vu

0=u

0=v

( )xu

yx,

y

x

)(a )(b

)(c )(d

( )yv

図9 FHN 方程式におけるらせんパターンを得るための初期条件。

1では2次元平面での u 、 vの正負を表わし、2では、それぞ

れ任意の a 、b における ay = 、 bx = での 、 を

表わす。

図 10-1 図 10-2

( ) ayxu =( ) bxyv =

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5-2 パターンの制御方法 3 章で述べたように、心臓が心室細動状態では、興奮媒質のらせんパターンが

関与していると考えられている。ここでは、FHN 方程式や AP 方程式で得られ

たパターンに外力を加えるなどして制御し、最終的にはそれらのパターンを消

去する。その制御方法について紹介する。 5-2-1 FHN 方程式で得られるらせんパターンの制御方法 2-8 では、BZ 反応でのらせんパターンには、コアがあり、そのコアが連続

的な不応期になっていること、また、そのコアは meandering していることを

説明した。つまり、らせんパターンの中心には、連続的に抑制因子 vが存在し、

それがコアとなってらせんパターンを形成していると考えられる。従って、コ

ア周辺で“仮想コア”を作ることで、らせんパターンの中心がその仮想コアに

トラップされ、それを移動させることにより、らせんパターンの中心をこちら

の思う通りに動かすことができるのではないかと考えた。 本研究では、FHN 方程式で得られるスパイラルパターンの中心にスポット状に、興

奮しにくくなるような領域を設定した。これを仮想コアとし、パターンの制御を試みた。

スポット領域内において、u の反応項 ( )vuf , を ( )vuf ,' とし、

0>u図 11

図 10 の初期条件から系を少し時間発展

させたときのu が伝播した様子。

円領域周辺でu がトラップされ、さらに

時間発展させることでらせんパターン

が得られる。

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とした。ただし、aは正の定数とする。スポット状に興奮しにくい領域を作らな

ければ、らせんパターンの中心位置はほとんど変わらないが、興奮しにくい領域を作り、

これを移動させることで、スパイラルの中心をこちらの思うところに動かすことができると

考えた。

図 12 FHN 方程式におけるらせんパターン

円内領域では興奮が伝播しにくくしている。

(つまり、円領域内では u の反応項を

( )vuf ,' とした。)

( ) ( ) avufvuf −= ,,'(5.1)

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スポット領域内のuの反応項 ( )vuf , を(5.1)式のようにすることにより、そ

の領域内が興奮しにくくなるということは、FHN 方程式の nullcline を用いて

説明することができる。図 13 は、FHN 方程式における nullcline を表わし、2つの 3 次曲線はそれぞれ ( )vuf , 、 ( )vuf ,' の nullcline である。図 12 をみると

( )vuf ,' は、 ( )vuf , をv軸へ a− 平行移動した nullcline であることがわかる。それ

により、定常解も ( )vuf , の定常解に比べ、u、vともに小さな値になる。しかし、

( )vuf ,' 、 ( )vuf , における傾きが正の領域は、ともに同じであり、定常解の差だ

け系を大きく刺激しなければ系は興奮しえない。つまり、反応項 ( )vuf , を ( )vuf ,'

とすることで、 ( )vuf , に比べ ( )vuf ,' のほうが興奮しにくいということがわかる。

auuuv −−−= ))((31

βα

))((31

uuuv −−= βα

( )σγ

+= uv1

a

図 13 FHN 方程式における nullcline。2 つの 3 次曲線はそれぞれ ( )vuf , 、 ( )vuf ,'

の nullcline である。 uδ の分だけ興奮しにくくなる。

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46

興奮しにくくする方法は、(5.1)式の方法のほかにγ の値を大きくする方法

もあるが、図 13 をみればわかるように、仮にγ の値を大きくすると直線の

nullcline である ( )vug , の傾きが小さくなる。傾きをだんだんと小さくしていく

と ( )vuf , と交点が 3 つになり、これは、もはや興奮系とは呼べず安定な定常解

を2つ不安定な定常解を 1 つもつ双安定系と呼ばれる系になる。本研究では、

興奮系のパターン制御を前提として考えているので、今回、γ の値を変化させて

いない。 5‐2‐2 AP 方程式で得られるパターンの制御方法 AP 方程式では、5‐1 で述べたような初期条件から、らせんパターンが得ら

れる。さらに、興奮伝達の度合いを表わすパラメータaを変え、時間発展させる

ことで、らせんパターンが分裂を起こす。図 14 では、AP 方程式で得られたら

せんパターンが分裂する様子を描いている。

図 14( 0=t ) 図 14( 320=t )

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図 14( 360=t ) 図 14( 5000=t )

図 14 AP 方程式で得られたらせんパターンが分裂する様子。パラメータa の

値を小さくし、時間発展させている。 320=t の図の楕円領域では、活

動電位が密なところと疎なところが交互に現れている。これは、

Alternans 不安定と呼ばれ、らせんパターンが分裂を起こすときに見ら

れる不安定化である。そういった不安定化を繰り返し、パターンはよ

り複雑になる。

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興奮伝達の度合いを表わすパラメータaは、その値を小さくすると興奮の伝達

が活発になることは、3‐3 で述べたが、パターンの分裂は、パラメータaがあ

る閾値よりも小さくなると起こる。本研究では、 01.0=ε 、 11.01 =µ 、 3.02 =µ 、

1.0=b 、 8=k 、 1.0=g 、 2.0=a で上途した初期条件でらせんパターンを作り、

その後、aの値を 0.2 から 0.1 へ変えたときに分裂したパターンが得られる。さ

らに、分裂したパターンのパラメータaを元の値 0.2 に戻すとパターンは分裂し

たままだが、その系のある 1 点の活動電位uの時間発展をみるとパラメータ aの値を変えたときと変えないときでは、図 15 の活動電位の時間変化が周期的なも

のとカオス的なものになることがわかった。

( )450,150u

6.0

00 150 300

t

図 15‐1(b ) 図 15‐1(a )

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AP 方程式で得られるパターンの制御方法に関して、FHN 方程式で得られる

らせんパターンとは異なり、らせんパターンのコアが複数存在し、FHN 方程式

での制御方法では、その複数個あるコアに対して仮想コアもそれと同数のコア

を用意しなければならい。従って、AP 方程式での制御方法は、系全体に外部刺

激を加えることで、パターンの制御を試みた。 制御方法は以下で述べる 2 つの方法を用いた。

( )450,150u

6.0

t0

0 150 300

図 15‐2(a ) 図 15‐2(b )

図 15 AP 方程式で得られたパターン。系のサイズは 600600× である。図 1、2 は

それぞれ活動電位が周期的なものとカオス的なものを表わし、このときパラ

メータa は図 1 のとき 0.2、図 2 のとき 0.1 である。また、(a )は、2 次元

平面で見られるパターン。(b )は、そのパターンのある ( ) ( )450,150, =yx に

おける活動電位u の時間発展の様子を描いている。

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(1) 空間全体にuを瞬間的に加える。(刺激を与える。)

ある時刻 において刺激 を瞬間的に加えることでパターンの制御を試みた。

これを式で表わすと、 となる。ただし、 はデルタ関数であり、 である。 (2) 強制振動を加える

系全体に強制振動を加えることでパターンの制御を試みた。式で表わすと、

0t 0u

( )( ) exIuvuaukutu +−−−−=

∂∂

1

( )00 ttu −+ δ (5.2)

( )0tt −δ

(5.3) ( )∫+

−=−

0

0

'0

'0

0

1t

tdtttδ

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である。ここで、σ は刺激の振幅、ω は刺激の周波数を表わす。また、外部刺

激項 )sin1( tωσ + の中に 1 をたしているのは、AP 方程式では、静止電位からの変

化を表わすuは、通常負にならないという実験事実にあわせている。 参考文献[7],[8],[9],[10],[11],[12]

( )( ) exIuvuaukutu +−−−−=

∂∂

1

)sin1( tωσ ++ (5.4)

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52

6 シミュレーションの結果 6‐1 FHN 方程式で得られたらせんパターンの制御 FHN 方程式で得られたらせんパターンは、興奮しにくい領域を境界まで移動

させ、スパイラルの中心を境界にぶつけることで、パターンを消滅させた。こ

のとき、境界条件は Neumann 境界条件とした。また、FHN 方程式でのパラメ

ータは以下の通りである。

02.0=ε 、 7.0=σ 、 3−=α 、 3=β 、 5.0=γ 5.0=a

タイムステップ 01.0=dt 、格子間隔 32=dx 、系のサイズ 300300×

図 16‐1 図 16‐2

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53

図 16‐3

図 16‐5

図 16‐4

図 16‐6

図 16 FHN 方程式で得られたらせんパターンの制御。円領域内ではu の反応項を

( )vuf ,' (= ( ) avuf −, )とし、その領域では興奮しにくくしている。また、

1~6 は、その興奮しにくい領域を動かした様子を描いている。

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パラメータaには閾値があり、今回のシミュレーションの条件では、その閾値

の値は、約 110689.3 −×=a であった。 また、BZ 反応でも説明したように、一般的にらせんパターンは対になってで

きるパターンであることから、1 対のらせんパターンについても同等の制御方法

を試みた。ただし、対のらせんパターンを制御するときに、仮想コアを設定す

るが、その仮想コアによりらせんパターンの回転半径が変化する。従って、対

で発生するらせんパターンには、その両端にそれぞれ同等の仮想コアを置き、

片方の仮想コアを動かし片端のコアにぶつけることによりパターンを消去する

ことができた。 パラメータは以下のとおりになる。

02.0=ε 、 7.0=σ 、 3−=α 、 3=β 、 5.0=γ 4.0=a

タイムステップ 01.0=dt 、格子間隔 32=dx 、系のサイズ 300300×

図 17‐1 図 17‐2

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55

図 17‐5

図 17‐4

図 17‐6

図 17‐3

図 17 FHN 方程式で得られた 1 対のらせんパターンの制御。円領域内ではu の反

応項を ( )vuf ,' (= ( ) avuf −, )とし、その領域では興奮しにくくしている。

また、1~6 は、左側の興奮しにくい領域を動かした様子を描いている。

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56

6‐2 AP 方程式で得られたパターンの制御 AP 方程式で得られるパターンは、5‐2‐2 で述べたように活動電位uの時間

発展が周期的なものカオス的なものの両方に対して、(1)の制御方法を行い。

また、(2)の制御方法については、活動電位 uの時間発展が周期的なものに関

して制御を行った。 (1)の方法について、以下のパラメータにおいてパターンの制御を行った。

図 18 は、活動電位の時間発展が周期的なものに関するパターンの時間発展の様

子を描いている。

01.0=ε 、 11.01 =µ 、 3.02 =µ 、 1.0=b 、 8=k 、 1.0=g 、 2.0=a

01.00 =t 、 3.00 =u

タイムステップ 01.0=dt 、格子間隔 1=dx 、系のサイズ 600600×

図 18‐1( 8=t ) 図 18‐2( 12=t )

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図 18‐3( 16=t )

図 18‐5( 24=t )

図 18‐4( 20=t )

図 18‐6( 30=t )

図 18 AP 方程式で得られたパターンの制御。これらの図は、活動電位が周期的なも

のを描いている。また、1~6 は、時間発展の様子を描いている。

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図 19 は、活動電位の時間発展がカオス的なものに関するパターンの時間発展

の様子を描いている。

01.0=ε 、 11.01 =µ 、 3.02 =µ 、 1.0=b 、 8=k 、 1.0=g 、 1.0=a

01.00 =t 、 19.00 =u

タイムステップ 01.0=dt 、格子間隔 1=dx 、系のサイズ 600600×

図 19‐1( 4=t ) 図 19‐2( 10=t )

図 19‐3( 16=t ) 図 19‐4( 22=t )

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59

パターンを制御するために空間全体に刺激を瞬間的に加えたが、その刺激の

強さ には閾値が存在する。その閾値の予想の根拠になるのがパラメータaであ

る。パラメータaは、系が興奮状態になるかの閾値に対応することは 3 章で述べ

たが、系全体にaよりも大きな刺激を加えることで系全体が興奮状態になり、パ

ターンを消去できるのではないかと考えた。 本研究において、その閾値は、活動電位が周期的なものに関しては、瞬間的

に加える刺激 は、予想した値になったが、活動電位がカオス的なものに関し

ては、その閾値の値は予想した値よりも大きな値をとった。

図 19‐5( 28=t ) 図 19‐6( 34=t )

図 19 AP 方程式で得られたパターンの制御。これらの図は、活動電位がカオス的な

ものを描いている。また、1~6 は、時間発展の様子を描いている。

0u

0u

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60

(2)の方法について、以下のパラメータにおいてパターンの制御を行った。 図 20 は、活動電位の時間発展が周期的なもののパターン制御の様子を描いてい

る。

01.0=ε 、 11.01 =µ 、 3.02 =µ 、 1.0=b 、 8=k 、 1.0=g 、 2.0=a

032.0=σ 、 70=ω タイムステップ 01.0=dt 、格子間隔 1=dx 、系のサイズ 600600×

図 20‐1( 10=t ) 図 20‐2( 20=t )

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61

図 20‐3( 30=t ) 図 20‐4( 40=t )

図 20‐5( 50=t )

図 19 AP 方程式で得られたパターンの制御。ここでは、(2)の制御方法を用いて

いる。また、これらの図は、活動電位が周期的なものを描いている。ここで、

1~6 は、時間発展の様子を描いている。

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62

本研究では、上途したパラメータにおいて、σ とω がどういった条件でパタ

ーンを制御することができるのかについて、その相図を作った。図 21 にその相

図を示す。

らせんパターンが消えた領域

らせんパターンが消えない領域 02.0

06.0

04.0

0

σ

0 40 80 120

ω

図 21 σ ―ω の相平面図。図の線より上の領域においてパターンを消去することが

できる。

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63

7 考察 7‐1 FHN 方程式で得られたらせんパターンの制御に関する考察 本研究で行った、FHN 方程式におけるらせんパターンの制御方法は、光感受

性のある BZ 反応における実験で実行できる可能性がある。光感受性がある BZ反応において、レーザー光を照射することにより、興奮性をさげることができ

る。らせんパターンの中心付近にスポット状にレーザー光を照射することし、

その位置を変化させることで、本研究で行ったシミュレーションに対応する実

験ができるのではないかと考えている。また、2 章で議論したように BZ 反応の

モデルである KT モデルの nullcline と FHN 方程式の nllcline は、同じような

形になる。 しかし、FHN 方程式は、Hodgkin-Huxley モデルのようなイオンモデルと

は異なり、実際の実験系での対応関係が不明瞭な点もある。例えば、本研究で

用いたパラメータaは、興奮伝達を抑制する働きがあるが、γ の値を大きくする

ことで同様な効果が期待できる。このように同じような効果をもつパラメータ

が心筋を用いた実験ではどういった対応関係なのかを知るためには、BZ 反応で

の実験、心筋を用いた実験の対応関係を考えることで、その糸口が見つかるの

ではないかと考えている。

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7‐2 AP 方程式で得られた分裂したパターンの制御に関する考察 不整脈を治療する上で用いられる薬、抗不整脈薬は、その主たる抗不整脈作

用により、Vaughan Williams によって最初に分類された。その分類は 5 つに分

けられるが、その分類の中に +Na チャンネルを遮断する作用がある薬がある。+Na チャンネルがまったくなければ、心臓の興奮が阻害される。 +Na チャンネル

濃度を下げると ++ CaNa 交換が起こりにくくなり、 +Ca イオンが細胞内に蓄積さ

れ、その結果、筋肉の拘縮が起こる。 +Na イオンチャンネルの不活性化が部分的

に起こると、細胞興奮の伝導性は低下する。 AP 方程式においてパラメータa及びbは、興奮伝達の伝達度合いを表わすパ

ラメータである。AP 方程式で得られたパターンの制御を考える際、最初に考え

たのは、上途したように興奮の伝導性を低下させる方法である。AP 方程式にお

いて、パラメータaを大きくすることでその効果が期待できる。本研究では、パ

ラメータが 01.0=ε 、 11.01 =µ 、 3.02 =µ 、 1.0=b 、 8=k 、 1.0=g で aの値を 0.1

から 0.3 へと変えたときにパターンを制御することができた。また、分裂したパ

ターンのパラメータaを元の値 0.2 に戻すとパターンは分裂したままだが、その

系のある 1 点の活動電位 uの時間発展をみるとパラメータaの値を変えたとき

と変えないときでは、活動電位の時間変化が周期的なものとカオス的なものに

なることを述べたが、医学的には、比較的軽度な細動において、そういったパ

ターンが見られると言われている。 AP 方程式で得られたパターンの制御に関して本研究では、2 つの方法を用い

た。(1)の方法は、心臓の細動を起こした患者に対して心臓付近の部位に電気

的ショックを加える除細動の方法を想定して行った。この方法は、除細動の方

法において一般的な方法である。しかし、この方法は、比較的大きな電圧を加

えなければいけないので、患者に大きな負担がかかることが知られている。(2)

の制御方法は、上途した事を考慮し、(1)の方法よりかける刺激が小さくなる

ように考えた。実際に、2 つの制御方法の結果を比べると、活動電位の時間発展

が周期的なものに関しては、(1)と(2)の方法におけるかけた刺激の大きさ

は、それぞれ約 、 064.0=σ (周波数ω をパターンの消去に効率よくする

ように設定した場合。)となり、(2)の方法のほうが(1)の方法に比べ、か

ける刺激の量は小さくすることができた。 参考文献[3] p25-p31 [7],[8],[9],[10],[11],[12]

2.00 =u

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参考文献 [1] 三池 秀敏、森 義仁、山口 智彦著 「非平衡系の科学Ⅲ~反応・拡

散系のダイナミクス~」 講談社サイエンティフィク、1997 年 [2] 森 肇、蔵本由紀著「散逸構造とカオス」 岩波書店、2000 年 [3] Hilary Brown and Roland Kozlowski 著、加藤 貴雄監訳「心臓の生理

と薬学」 メディカル・サイエンス・インターナショナル、1998 年 [4] A.L.Hodgkin and A.F.Huxley,J.Physiol.117,500-544(1952) [5] R.FitzHugh,Biophys.J.1,445-465(1961) [6] Alain Karma,Phys.Rev.Lett.71,1103(1993) [7] R.R.Aliev and A.V.Panfilov,Chaos Solitons Fractals 7,293(1993) [8] V.Elharrar and B.Surawicz,Am.J.Physiol.244,H782-H792(1983) [9] Hidetugu SAKAGUCHI and Takefumi Fujimoto,Progress of

Theoretical Physics 108,241(2002) [10] A.V.Panfilov,StefanC.Muller and VladimirS.Zykov,

Phys.Rev.E.61,4644(2000) [11] A.V.Panfilov,Phys.Rev.Lett.88,1181101(2002) [12] O.Steinbock and C.Muller,Phys.Rev.E 47 (1993),54

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謝辞 本研究を行うにあたり、終始懇切なるご指導、ご助言を賜りました九州大学

大学院総合理工学研究院融合創造理工学部門 坂口英継助教授に厚く御礼申し

上げます。 坂口先生には、物理学を学んでいましたが、教育学部出身であり、物理学の

基礎ができていない私に対しても対して、辛抱強く、熱心にご指導を頂きまし

た。心から感謝しています。 九州大学大学院総合理工学研究院融合創造理工学部門 本庄春雄教授、九州

大学大学院総合理工学研究院流体環境理工学部門 太田正之輔教授には、セミ

ナー等で的確な御指摘、御批判を頂きました。ありがとうございました。 九州大学大学院総合理工学研究院融合創造理工学部門 桂木洋光助手には、

的確な御指摘、御批判に加え、私の研究に関する興味深い話題を多数提供して

頂きました。ありがとうございました。 九州大学大学院総合理工学府量子プロセス理工学専攻の大瀧昌子さん、北村

隆行さん、峰松賀代さん、九州大学大学院総合理工学府大気海洋システム学専

攻の坂本明大さん、昨年、九州大学大学院総合理工学府量子プロセス理工学専

攻を御修了された宮川圭裕さんには、研究に関する御指摘、御助言から研究に

対する態度、姿勢まで、数々のアドバイスを頂きました。ありがとうございま

した。 九州大学大学院総合理工学府量子プロセス理工学専攻の徳永誠士さん、本田

友和さん、九州大学大学院総合理工学府大気海洋システム学専攻の藤原敏人さ

んには適切な御意見、御感想を頂きました。ありがとうございました。 九州大学大学院総合理工学府量子プロセス理工学専攻の杉野大輔さん、高尾

健太郎さん、藤本憲雄さん、宮崎秀平さん、九州大学大学院総合理工学府大気

海洋システム学専攻の井上牧子さんには率直な御意見、御感想を頂きました。

ありがとうございました。 多くの御助力により、この修士論文を完成させることができました。ここに、

心から感謝いたします。