事 例 2-2-14...事 例 2-2-14...

23
2-2-14 事 例 日本のラーメン専門店としてぶれず、香港出店での教訓を活かし、 米国・アジア市場を開拓する企業 北海道札幌市の株式会社アブ・アウト(従業員210 名、 資本金2,460万円)は、ラーメン店等の飲食店の運営・ フランチャイズ等を行う企業である。 海外市場の拡大を見据え、10年前に「らーめん山頭火」 の海外展開を開始した。現在、米国、カナダ、香港、シ ンガポール、マレーシアに展開しており、今後も海外出 店を加速する計画である。日本のラーメン専門店として、 ぶれずに味にこだわり、海外でも、「山頭火」のファンを 着実に増やしている。 しかし、同社も、初めての海外事業となる2003 年の香 港への出店では、苦い思いをした。現地のパートナーを 見付け、1 号店からフランチャイズで任せてみたが、同社 が求める味やサービスの水準を守ることができず、出店 から2年で一度撤退をした。その後、必ず信頼と評判を 取り戻すという同社の菊田伸一社長の強い意気込みのも と、2008年に、香港への再挑戦となる独資の直営店を出 店した。徹底した店舗管理を行った結果、現地で受け入 れられ、直営店をもう1 店増やしている。直近では、以前 に日系の大手流通企業から紹介された、現地市場や雇用 慣行等に精通している日系のパートナーにより、フラン チャイズでの 3 号店を出店し、業績も順調である。 同社の店舗開発の責任者である植田昌紀取締役は、「香 港出店の教訓として、いかに問題を早く食い止め解決する かが重要と痛感した。リスクの高い海外展開は、撤退の期 限を区切り、事業の継続性を見極めることも必要だ。」との 考えで、現地政府の規制や商慣習等の壁に直面しながら も、世界各国を飛び回り、「山頭火」ラーメンが心から好 きで信頼できるパートナーの発掘と育成に取り組んでいる。 香港店舗内観 以上、中小企業の輸出及び直接投資について概 観してきたが、グローバル化の著しい進展にもか かわらず、大半の中小企業が、輸出及び直接投資 を行っていないことが分かった。 国内経済は低迷しているが、今も世界第 3 位の 経済規模を誇っており、国内で活動していくこと を選択する中小企業は多い。また、海外に踏み出 す際の障壁や、現地での課題・リスクもあること から、我が国の中小企業の輸出及び直接投資が、 短期的に急増するとは考えにくい。しかし、国内 市場と海外市場の成長性の差は明白であり、成長 を追い求める企業と海外との結びつきは、今後、 より強くなっていくであろう。 我が国経済の屋台骨を支える中小企業が、国外 に羽ばたいていくことによって発展を遂げ、現在 の我が国の停滞を打破していくことが期待され る。 2 社会環境の変化に対応する女性の事業活動 前節では、海外需要の取り込みによる国内事業 の活性化の観点から、輸出及び直接投資の動向を 示した上で、我が国の中小企業が、海外展開を行 う際に直面する様々な課題やリスクを分析した。 しかし、人口減少に伴う内需減少が見込まれる 我が国において、中小企業が成長するためには、 海外需要を取り込むことだけでなく、新たな視点 から、潜在している内需を掘り起こすことも、有 114 2012 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan 需要の創出・獲得に挑む事業活動 第2章

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Page 1: 事 例 2-2-14...事 例 2-2-14 日本のラーメン専門店としてぶれず、香港出店での教訓を活かし、 米国・アジア市場を開拓する企業 北海道札幌市の株式会社アブ・アウト(従業員210名、

2-2-14事 例

日本のラーメン専門店としてぶれず、香港出店での教訓を活かし、 米国・アジア市場を開拓する企業

北海道札幌市の株式会社アブ・アウト(従業員210名、資本金2,460万円)は、ラーメン店等の飲食店の運営・フランチャイズ等を行う企業である。海外市場の拡大を見据え、10年前に「らーめん山頭火」の海外展開を開始した。現在、米国、カナダ、香港、シンガポール、マレーシアに展開しており、今後も海外出店を加速する計画である。日本のラーメン専門店として、ぶれずに味にこだわり、海外でも、「山頭火」のファンを着実に増やしている。しかし、同社も、初めての海外事業となる2003年の香港への出店では、苦い思いをした。現地のパートナーを見付け、1号店からフランチャイズで任せてみたが、同社が求める味やサービスの水準を守ることができず、出店から2年で一度撤退をした。その後、必ず信頼と評判を取り戻すという同社の菊田伸一社長の強い意気込みのもと、2008年に、香港への再挑戦となる独資の直営店を出店した。徹底した店舗管理を行った結果、現地で受け入れられ、直営店をもう1店増やしている。直近では、以前に日系の大手流通企業から紹介された、現地市場や雇用慣行等に精通している日系のパートナーにより、フラン

チャイズでの3号店を出店し、業績も順調である。同社の店舗開発の責任者である植田昌紀取締役は、「香港出店の教訓として、いかに問題を早く食い止め解決するかが重要と痛感した。リスクの高い海外展開は、撤退の期限を区切り、事業の継続性を見極めることも必要だ。」との考えで、現地政府の規制や商慣習等の壁に直面しながらも、世界各国を飛び回り、「山頭火」ラーメンが心から好きで信頼できるパートナーの発掘と育成に取り組んでいる。

香港店舗内観

以上、中小企業の輸出及び直接投資について概

観してきたが、グローバル化の著しい進展にもか

かわらず、大半の中小企業が、輸出及び直接投資

を行っていないことが分かった。

国内経済は低迷しているが、今も世界第3位の経済規模を誇っており、国内で活動していくこと

を選択する中小企業は多い。また、海外に踏み出

す際の障壁や、現地での課題・リスクもあること

から、我が国の中小企業の輸出及び直接投資が、

短期的に急増するとは考えにくい。しかし、国内

市場と海外市場の成長性の差は明白であり、成長

を追い求める企業と海外との結びつきは、今後、

より強くなっていくであろう。

我が国経済の屋台骨を支える中小企業が、国外

に羽ばたいていくことによって発展を遂げ、現在

の我が国の停滞を打破していくことが期待され

る。

第2節 社会環境の変化に対応する女性の事業活動

前節では、海外需要の取り込みによる国内事業

の活性化の観点から、輸出及び直接投資の動向を

示した上で、我が国の中小企業が、海外展開を行

う際に直面する様々な課題やリスクを分析した。

しかし、人口減少に伴う内需減少が見込まれる

我が国において、中小企業が成長するためには、

海外需要を取り込むことだけでなく、新たな視点

から、潜在している内需を掘り起こすことも、有

114 2012 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

需要の創出・獲得に挑む事業活動第2章

Page 2: 事 例 2-2-14...事 例 2-2-14 日本のラーメン専門店としてぶれず、香港出店での教訓を活かし、 米国・アジア市場を開拓する企業 北海道札幌市の株式会社アブ・アウト(従業員210名、

効な取組の一つである。

そこで、本節では、個人向けサービスへの需要

が増加傾向にある中で、個人向けサービス分野

で、需要を掘り起こしている女性の起業に着目

し、女性の起業の現状及び課題について分析を行

い、課題を乗り越えた女性起業家等を紹介する。

また、女性の起業による新たなサービスの提供

が、個人の生活を充実させるだけでなく、家事・

育児を負担する女性が就業する際の課題解決につ

ながり、女性の社会参加や更なる課題解決サービ

スの拡大という好循環をもたらす可能性があるこ

とを示す。なお、本節の概念図については、第

2-2-42 図を参照されたい。

第 2-2-42 図 社会環境の変化に対応する女性の事業活動(概念図)

<社会環境の趨勢> ・個人向けサービスや女性顧客を対象とした  商品・サービスのニーズの高まり ・医療・介護分野等での女性雇用の拡大

<効果> ・新たな需要の掘り起こし ・女性雇用ニーズへの対応

収入・雇用

社会の活力

ハードル:家事・育児、経験不足等

政策支援、課題解決型事業による対応

女性の柔軟な対応力女性の潜在労働力(342万人)

起業・就業

1 女性起業の特長

中小企業白書(2011年版)では、起業30の意義

として、①経済の新陳代謝と新規企業の高い成長

力、②雇用創出、③起業が生み出す社会の多様

性、が存在することを指摘した31が、女性の起業

には、どのような特長があるのだろうか。

■ニーズに応じた身近なサービスの創出

第 2-2-43 図は、家計における、個人向けサー

ビス32分野の支出割合の推移を示したものであ

る。これを見ると、家計消費支出に占める個人向

けサービス分野への支出の割合は、上昇傾向にあ

ることが分かる。また、第 2-2-44 図は、総務省

「就業構造基本調査33」を用いて、起業家の起業分野を男女別に比較したものである。女性起業家

の起業分野を見ると、飲食店・宿泊業、教育・学

習支援業、生活関連サービス業を含む個人向けの

身近なサービス分野での起業の割合が、40.0%と高くなっている。これらの分野は、今後、社会が

30 起業の動向については、付注2-2-13~2-2-17図を参照。31 中小企業白書(2011年版)p.186を参照。32 本節では、おおむね、第2-2-44図で個人向けサービス業として示している業種で提供されるサービスをいうこととする。33 同調査は、全国から抽出した世帯の15歳以上の世帯員を対象に実施している。数値結果は、実際の対象となった約45万世帯の約100万人(平成19年)の調査

に基づき、母集団推計により調査の範囲となる人口全体について算出したものである。

115中小企業白書 2012

第2部潜在力の発揮と中小企業の役割

第2節

Page 3: 事 例 2-2-14...事 例 2-2-14 日本のラーメン専門店としてぶれず、香港出店での教訓を活かし、 米国・アジア市場を開拓する企業 北海道札幌市の株式会社アブ・アウト(従業員210名、

更に成熟化していく中で、成長が期待される、個

人の生活を充足させるのに寄与する分野であると

いえる。

第 2-2-43 図 家計(勤労者世帯)における個人向けサービス分野の支出割合の推移

13.0

13.613.5

13.6

13.3 13.413.5 13.6

13.6 13.7 13.6

13.7

14.1

14.9

14.4

14.5

14.8 14.915.1

14.6

14.8

12.0

13.0

14.0

15.0

16.0

91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11

(%)

(年)

資料:総務省「家計調査」(1世帯当たり年平均1か月間の収入と支出(勤労者世帯)-全国)(注) 1.2人以上の非農林漁家世帯が対象。

2. ここでは、「家事サービス」、「被服関連サービス」、「保健医療サービス」、「授業料等」、「補習教育」、「教養娯楽サービス」及び「理美容サービス」を「個人向けサービス」とする。

第 2-2-44 図 男女別の起業家の起業分野

21.9

資料:総務省「平成19年就業構造基本調査」再編加工(注) 1.ここでいう起業家とは、過去1年間に職を変えた又は新たに職に就いた者のうち、現在は自営業主(内職者を含ま

ない。)となっている者をいう。なお、ここでは非一次産業を集計している。2.「その他サービス業」には、他に分類されないサービス業及び不明が分類されている。3.ここでは、「飲食店,宿泊業」、「医療,福祉」、「教育,学習支援業」、「洗濯・理容・美容・浴場業」及び「生活関連サービス業」を「個人向けサービス業」とする。

14.6

0.3

4.1

3.0

4.8

2.3

6.0

0.3

3.0

0.3

11.0 4.8

3.9

12.0

4.9

6.7

11.3

4.5

3.2

2.1

15.9

1.8

4.5

1.9

5.1

22.6

23.1

0 100

男性(14.3万人)

女性(7.8万人)

建設業運輸業

製造業

飲食店,宿泊業

専門サービス業金融・保険業,不動産業

小売業医療,福祉

教育,学習支援業

洗濯・理容・美容・浴場業

生活関連サービス業

その他サービス業

個人向けサービス業(40.0%)

情報通信業

卸売業

(%)

21.9

116 2012 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

需要の創出・獲得に挑む事業活動第2章

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第 2-2-45 図は、男女別に見た、給与所得者数

及び給与総額の推移を示したものである。給与所

得者数及び給与総額は、男性ではいずれも減少傾

向にあるのに対し、女性は、いずれも増加傾向に

ある。女性の所得拡大に伴い、女性顧客を対象と

した新たな商品やサービスに対する需要が増加

し、今後、女性の社会進出が更に進めば、女性の

視点による商品やサービスの企画力や開発力が、

より重視されるようになると推察される。女性の

起業は、これらの分野のニーズに対応すること

で、新たな需要を掘り起こす可能性があると考え

られる。

第 2-2-45 図 男女別の給与所得者数及び給与総額の推移

資料:国税庁「民間給与実態調査」(注) 給与所得者とは、各年12月31日現在で民間の事業所に勤務している従業員(パート、アルバイトを含む。)及び役員を対象

としている。

16.5 16.6 17.2 18.2

45.6

46.546.7

46.546.3

46.646.1

45.7

46.546.9

47.147.7

48.9

47.0

49.1

15.5

16.0

16.5

17.0

17.5

18.0

18.5

40

41

42

43

44

45

46

47

48

49

50

96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10

給与総額(左軸) 給与所得者数(右軸)

(百万人)

女性

(兆円)

(年)

28.4 28.4 27.7 27.3

161.3

165.0164.5161.1

160.8158.2

154.1152.6

148.9

149.4

147.9

150.8148.1

135.9

138.4

26.0

26.5

27.0

27.5

28.0

28.5

29.0

120

125

130

135

140

145

150

155

160

165

170

96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10

給与総額(左軸) 給与所得者数(右軸)

(百万人)

男性

(年)

(兆円)

2-2-15事 例

子どもに夢と職業意識を与えるため、地域の大人達との出会いを提供する女性起業家

神奈川県川崎市の特定非営利活動法人キーパーソン21(事務局スタッフ8名)は、キャリア教育プログラム「夢発見プログラム」を開発し、これまで2万人以上の子ども達にキャリア教育を行っている法人である。同プログラムは、社会人に仕事内容等を取材する「かっこいい大人ニュース」等のワークショップを通じて、子ども達が、普段は簡単に接することができない大人の仕事に触れ、生き方や職業観を学べるように構成されている。同法人の朝山あつこ代表理事は、長男の「高校に進学

しない。」という言葉を契機に、「現代の子ども達は、地域や家庭における明確な役割がなく、大人と接する機会も少ない。そのため、自分達が何のために勉強をするのかが分からなくなっている。」と考えるようになり、「子ども達には、働く大人と出会い、夢や職業意識を持ってもらいたい。」との思いから2000年に同法人を設立した。「子ども達には、わくわくして動き出さずにはいられな

い原動力のようなものを探し出し、自分に素直に生きていってほしい。」と語る朝山代表理事は、同プログラムを経験した子ども達が夢や職業意識を獲得し、次世代の子ども達に社会への憧れや希望を与えられるようなキーパーソンになってもらいたいと考えている。

夢発見プログラムの実施風景

117中小企業白書 2012

第2部潜在力の発揮と中小企業の役割

第2節

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2-2-16事 例

プロボノ 34支援を受け、エシカル 35ジュエリーのパイオニアとなった女性起業家

東京都港区の株式会社HASUNA(従業員10名、資本金950万円)は、エシカルジュエリーの制作・販売を行う企業である。同社は、素材調達から生産・流通までの過程を可視化することにより、「一生に一度の結婚指輪には、誰かの不幸の上に成り立つものを使いたくない。」という社会的意識の強い女性を中心とした、若い世代の需要を掘り起こしている。同社の白木夏子社長は、2006年に金融業界に就職したものの、リーマン・ショックで業界全体に危機感を抱き、働きながらの起業準備期間を経て、2009年に同社を立ち上げた。学生時代に訪れたインドの鉱山での劣悪な労働環境に疑問を抱いていた白木社長にとって、ジュエリーの分野は前職とは無関係であったが、ジュエリー制作の学校で作り方を学び、技術を身につけた。また、テレビや雑誌、新聞等プレス向けの広報業務や顧客管理・在庫管理のシステム構築といった専門的な業務については、SNS(SocialNetworkingService)や友人の紹介で知り合った、各分野の専門家であるプロボノの方から多くの

支援を受けた。同社のプロボノ登録者は、当初5名前後であったが、現在では60名にも及ぶ。「起業時はプロボノ元年と呼ばれていた。仕事の傍ら社会的事業に関わりたいという人が増えてきており、非常に多くの人に助けられた。」と語る白木社長は、プロボノの支援を受け、事業継続と社会的課題解決の両立を目指している。

HASUNA 社員・インターン・プロボノメンバー

2-2-17事 例

地元の宿泊施設と生産者をつなぐ女性起業家

福島県会津若松市の特定非営利活動法人素材広場(従業員5名)は、県内の旅館・ホテル等の宿泊施設と農作物・工芸品等の生産者を交流会やインターネットを介してつなぐことで、県内の地産地消を推進する法人である。同法人の横田純子理事長は、大手旅行情報誌で営業兼

ライターとして10年間勤務した後、2005年に独立し、県内の旅館に対して、集客や顧客満足度を高めるためのコンサルティングを始めた。「当時、旅館等の料理長は、県外から来ている方が多かったため、福島の食材に関する情報が不足しており、福島の食材が手に入りにくい状況であった。」と語る横田理事長は、料理長と生産者をつなぐ取組として、交流会を実施する福島県宿泊施設地産地消推進委員会を立ち上げ、この委員会を母体として2009年に同法人を設立した。「福島の素材を観光客に楽しんでもらうことが目的であり、食材だけでなく、お箸やお皿等テーブルの上にある素

材全てが福島産となることが、究極の目標。」と語る横田理事長は、宿と生産者をつなぐことが、観光産業を中心とした地域振興に不可欠と考え、精力的に取り組んでいる。

地産地消イベント「会津・麗(うるわし)の食スタイル」の準備風景

34 プロボノ(probono)とは、「probonopublico」を略した英単語で「公益のために」という意味。実際には、「公益のために無償で仕事を行う」ことを指しており、ソーシャルビジネス推進研究会報告書(2011年3月)では、「企業人材や士業等の専門家によるスキルを活かした社会貢献活動」としている。

35 直訳すると、“倫理的な”、“道徳的な”という意味。エシカルジュエリーとは、環境や社会に配慮をした素材・フェアトレードやリサイクルの素材を使用したジュエリーのことを指している。

118 2012 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

需要の創出・獲得に挑む事業活動第2章

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2 女性起業の現状と課題

前項では、女性起業家は、個人向けサービス等

の暮らしを充実させる分野での事業展開が多いと

いう特長があることを示した。本項では、女性の

起業の動向について概観した上で、女性が起業す

る上での課題について分析する。

■女性起業の現状

ここでは、総務省「就業構造基本調査」及び「女性起業家に関するアンケート調査36」をもと

に、男性の起業と比較しながら、女性の起業の現

状を見ていく。

まず、男女別に起業家の年齢層を見ると、男性

起業家は30歳代と60歳代において人数が多くなっており、年代による差があることが分かる。

一方で、女性起業家は30歳代の人数が多いものの、他はどの年代でもほぼ同数で横ばいとなって

おり、女性の起業は、男性と比べて少ないことが

分かる(第 2-2-46 図)。

第 2-2-46 図 男女別・年代別の起業家数

資料:総務省「平成19年就業構造基本調査」再編加工(注) ここでいう起業家とは、過去1年間に職を変えた又は新たに職に就いた者のうち、現在は自営業主(内職者を含まない。)となっ

ている者をいう。

3.25.2

11.9

20.5

23.4

15.5

11.1

13.213.4

27.7

23.0

1.7

6.97.7

10.4 12.1

8.26.1

4.86.5 6.1

9.9

0

5

10

15

20

25

30

15~19歳 20~24歳 25~29歳 30~34歳 35~39歳 40~44歳 45~49歳 50~54歳 55~59歳 60~64歳 65歳以上

男性 女性

(千人)

男女別に起業家の企業規模を見ると、女性起業

家の個人所得は7割が100万円未満となっている(第 2-2-47 図)。また、起業家の企業規模を従業者数で見ると、女性起業家は、9割が従業員を雇

用せずに起業している(第 2-2-48 図)。このことから、男性と比べて、女性の起業は、比較的小規

模な起業が多いことが分かる。

36 経済産業省の委託により三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)が、2011年3月に、20歳以上で、起業して10年未満の者(インターネット調査会社に登録されているモニターに対して事前調査を行い、調査対象に該当する男女を抽出。)を対象に実施した、インターネットによるアンケート調査。回答者数は、618人(男性309人、女性309人)。

119中小企業白書 2012

第2部潜在力の発揮と中小企業の役割

第2節

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第 2-2-47 図 男女別の起業家の個人所得

資料:総務省「平成19年就業構造基本調査」再編加工(注) 1.ここでいう起業家とは、過去1年間に職を変えた又は新たに職に就いた者のうち、現在は自営業主(内職者を含まない。)

となっている者をいう。なお、ここでは、非一次産業を集計している。2.個人所得について回答した者を集計している。3.所得平均は、「収入なし、50万円未満」を25万円、「50~ 99万円」を75万円、同様に他の階層についても両端の平均を用いて推計している。ただし、「1,500万円以上」は1,500万円とみなしている。

31.9

69.1

16.8

18.0

16.0

8.7

13.1

2.8

8.0

0.9

11.4

0.6

2.8

0.0

0 100

男性(14.1万人)

女性(7.6万人)

100万円未満 100万円以上200万円未満

200万円以上300万円未満

300万円以上400万円未満

400万円以上500万円未満

500万円以上1,000万円未満 1,000万円以上

平均93.1万円

平均272.7万円

(%)

第 2-2-48 図 男女別の起業家が経営する企業の従業者数

資料:総務省「平成19年就業構造基本調査」再編加工(注) ここでいう起業家とは、過去1年間に職を変えた又は新たに職に就いた者のうち、現在は自営業主(内職者を含まない。)

となっている者をいう。なお、ここでは非一次産業を集計している。

72.6

89.5

20.4

9.4

4.9

1.0

2.1

0.1

0 100(%)

男性(14.2万人)

女性(7.8万人)

1人 2~ 4人

5~ 9人 10人以上

120 2012 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

需要の創出・獲得に挑む事業活動第2章

Page 8: 事 例 2-2-14...事 例 2-2-14 日本のラーメン専門店としてぶれず、香港出店での教訓を活かし、 米国・アジア市場を開拓する企業 北海道札幌市の株式会社アブ・アウト(従業員210名、

起業時の年齢を見ると、女性は男性と比較し

て、平均年齢が4.5歳低く、低い年代で起業する割合が高い(第 2-2-49 図)。また、起業前の就業経験年数も、女性の方が短い傾向にある(第 2-2-

50 図)。就業経験の短い女性は、資金や経験を得る機会が少なく、相対的に起業を実現しにくい環

境に置かれていると考えられる。

第 2-2-49 図 男女別の起業時の年齢

12.0

21.0

13.6

23.0

21.7

21.0

20.1

15.9

11.7

12.3

11.0

4.5

7.4

1.9

2.6

0.3

0 100

男性(n=309)

女性(n=309)

30歳未満 50~54歳45~ 49歳40~ 44歳35~ 39歳30~ 34歳

55~ 59歳 60歳以上

平均36.5歳

平均41.0歳

(%)

資料:経済産業省委託「女性起業家に関するアンケート調査」(2011年3月、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株))

第 2-2-50 図 男女別の起業家の起業前の就業経験年数

1.6

3.6

13.9

16.5

20.1

24.9

14.9

21.0

49.5

34.0

0 100

男性(n=309)

女性(n=309)

資料:経済産業省委託「女性起業家に関するアンケート調査」(2011年3月、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株))(注) 複数の職場や業種を経験した場合は、その合計年数を就業経験年数としている。

就業経験なし

5年未満 5年以上10年未満 10年以上15年未満 15年以上

(%)

121中小企業白書 2012

第2部潜在力の発揮と中小企業の役割

第2節

Page 9: 事 例 2-2-14...事 例 2-2-14 日本のラーメン専門店としてぶれず、香港出店での教訓を活かし、 米国・アジア市場を開拓する企業 北海道札幌市の株式会社アブ・アウト(従業員210名、

■女性起業の課題

こうした起業時の年齢や就業経験についての男

女の違いは、起業時における課題にどのような影

響を与えているだろうか。

起業時の課題を男女別に見てみると、女性が起

業する際の課題は、男性と比べて「経営に関する知識・ノウハウ不足」、「事業に必要な専門知識・ノウハウ不足」と回答する割合が高い(第 2-2-

51 図)。これは、就業経験の短さから、経営や事業に関する知識や経験を得る機会が少なく、ま

た、これらの知識・ノウハウを与えてくれる助言

者に出会う機会も乏しいことが、要因であると考

えられる。他方、「開業資金の調達」という課題は、男性においては最も多く回答されているもの

の、女性においては最多となっていない。これ

は、男性の起業と比べると、女性の起業は、比較

的小規模であり、自己資金のみで起業する割合が

高い傾向にある37ため、資金ニーズに関する回答

が、最多となっていないのではないかと推察され

る。さらに、「家事・育児・介護との両立」という課題については、他の項目における回答に比べ

れば、割合は低いものの、男性と比べると約4倍の開きがあり、女性が起業する際に留意しなけれ

ばならない課題の一つといえる。

第 2-2-51 図 男女別の起業時の課題(複数回答)

4.9

36.9

44.0

32.0

36.6

18.1

30.4

35.9

38.2

41.7

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50

家事・育児・介護との両立

販売先の確保

開業資金の調達

事業に必要な専門知識・ノウハウ不足

経営に関する知識・ノウハウ不足

女性(n=309) 男性(n=309)

資料:経済産業省委託「女性起業家に関するアンケート調査」(2011年3月、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株))(注) 女性が回答した割合が高い5項目を抜粋。

(%)

以上、我が国の女性起業の現状及び課題につい

て分析してきたが、女性の起業活動を促進するた

めには、どのような支援が必要だろうか。

第 2-2-52 図によると、女性が起業時に欲しかっ

た支援は、「同じような立場の人(経営者等)との交流の場」、「経営に関するセミナーや講演会」と回答する割合が男性と比べて高い。就業経験が

少なく、ビジネスにおける知識や経験が不足して

いる女性起業家には、相談に乗り、助言を与えて

くれるメンターの存在やロールモデルを提供して

くれる同じ立場の人の存在が、重要と考えられ

る。このため、これらの人々との交流や意見交換

ができる場は、女性が起業の課題を克服する上

で、重要な役割を果たすといえる。

37 借入をして起業する女性起業家の状況については、コラム2-2-8で述べる。

122 2012 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

需要の創出・獲得に挑む事業活動第2章

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第 2-2-52 図 男女別の起業時に欲しかった支援(複数回答)

24.6

2.3

10.7

27.5

35.6

22.3

24.3

5.2

16.5

23.0

29.1

35.0

0 5 10 15 20 25 30 35 40

特になし

保育施設や家事支援、介護支援等のサービスの拡充

経営に関するセミナーや講演会

低金利融資制度や税制面の優遇措置

仕入先や販売先の紹介

同じような立場の人(経営者等)との交流の場

女性(n=309) 男性(n=309)

資料:経済産業省委託「女性起業家に関するアンケート調査」(2011年3月、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株))(注) 男女差の大きい回答及び「特になし」の回答を抜粋。

(%)

2-2-18事 例

様々なつながりの支援を受けて起業した女性起業家

東京都千代田区の株式会社コラボラボ(従業員5名、資本金1,500万円)は、大手企業からのマーケティング事業等の受託及び女性起業家を会員とするポータルサイト「女性社長.net」の運営を行っている。同ポータルサイト内では、女性社長の紹介や女性社長と大手企業とのビジネスマッチング等が行われている。同社の横田響子社長は、前職の大手人材関連会社で、事業企画等に携わっていた。しかし、やりたいことを自分でしたいという気持ちが強くなったため退職し、フリーランスとして活動した後、2006年に起業した。「女性の起業には、事業面で支援してくれる人と精神面で支援してくれる人が必要。」と語る横田社長自身、起業時に様々な人に助けられた。事業面では、女性社長にインターンシップの形で、仕事と収入の機会を提供してもらうとともに、精神面では、前職の先輩や学生時代の友人に、ビジネスモデルの相談に乗ってもらい、起業の後押しをしてもらった。「女性の起業については、立ち上げ支援だけでなく、

起業後の事業継続支援も重要。」と語る横田社長は、女性起業家300名が一同に集結する「J300」を企画するなどして、高い専門性を持ちながらもビジネス経験や人脈に乏しい女性経営者が、より強みを活かせるようサポートしたいと考えている。

J300に参加する女性起業家

123中小企業白書 2012

第2部潜在力の発揮と中小企業の役割

第2節

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2-2-19事 例

支え合いにより家事・育児の課題を乗り越えて起業した主婦グループ

長野県松川村の有限責任事業組合こめのこ工房なごみや(組合員6名、従業員6名)は、地元信州安曇野産の米粉を使用したパンやケーキを製造し、地元の道の駅・農協直売所やネットで販売している。同組合の組合員及び従業員は全て、松川村の郷土料理講習会に集まった子育て世代の主婦である。そのため、家計に影響が及ばないよう、起業時に必要であった設備を中古で購入し、設備投資を自己資金の範囲内に抑えた。また、就業形態についても、土日・祝祭日、夏休み・冬休みを休業とするだけでなく、出勤日を週3日程度、勤務時間を午前か午後と設定することで、家事・育児をしながらでも、働きやすいような環境を整備している。「母親でも事業はできる。しかし、一人で起業することは困難であり、複数人で支え合ってやることが大事。」と語る同組合の吉森里和組合員は、「売上を拡大するという考え

ではなく、負担のない範囲で、お小遣い程度に稼げれば良いという考えを皆で共有していることが、うまくいっている大きな要因。」と考えており、子育てをしながら働ける場所という意識を、全員で共有することの重要性を指摘する。

信州安曇野産の米粉を使用したパン

2-2-20事 例

地元企業の支援により農産加工品の商品化やブランド化に取り組む女性グループ

山口県山口市内の5つの地域では、国の施策を活用して、女性グループ等が主体となり、地域の特産品を活かした新しい乾燥食品の開発が、進められている。その一つである阿東地域長門峡「実り会」は、篠生農業協同組合婦人部若妻会のOGが集まった10名の女性グループで、特産品の梨を使ったドライフルーツの商品開発を行っている。同会のメンバーは、地域に愛着を持ち、地域を元気にしたいという思いから、これまでは梨ジャムを作ってきた。しかし、地域の魅力をより強く発信するためには、他の地域にはない画期的な新商品が必要ではないかと感じ、試行錯誤を行っていたが、思うような新商品を開発できずに悩んでいた。そこで、助けとなったのが、同市に本社を置く株式会社木原製作所(従業員70名、資本金4,500万円)であった。

同社は、主力製品として葉たばこ乾燥機を製造・販売する国内有数の企業であるが、木原康博氏が4代目として2008年に社長に就任して以来、時代の変化に応じた新たな事業の柱として食品乾燥機に力を入れ、コンピュータ制御による燃費を大幅に改善した製品の開発やホームページを利用した販路開拓に取り組んできた。同社は、山口市の仲介で、地域の活性化を進める各グループとつながり、乾燥技術の提供や商品の試作に加え、商品パッケージや販売戦略を提案し、各グループの思いを実現する後押しをしてきた。実り会メンバーは、「パッケージデザイン等も提案して

もらったので商品として完成できたが、それがなければここまでたどり着けなかった。」と語る。地域のつながりの中で、地域を活性化したいという思いの実現に向けた取組が進められている。

商品開発に取り組む実り会メンバー

124 2012 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

需要の創出・獲得に挑む事業活動第2章

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(株)日本政策金融公庫総合研究所「新規開業実態調査」38に見る女性起業家の現状

本コラムでは、(株)日本政策金融公庫総合研究所が行っている「新規開業実態調査」により、女性起業家の現状を見る。

コラム2-2-8図①は、起業家全体に占める女性起業家の割合の推移である。同調査では、女性割合は15%前後を示

しており、総務省「就業構造基本調査」の同割合(32.3%)39と比較するとかなり低い。女性が起業した企業は男性と比

較して小規模であり40、自己資金のみで起業する割合が、男性起業家より高い傾向にあるため、同調査における女性割

合が、低くなっていると考えられる。

コラム 2-2-8 図① 起業家全体に占める女性起業家の割合の推移

93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10

資料:(株)日本政策金融公庫総合研究所「新規開業実態調査」

12.4 12.9 12.914.7 13.4 13.1 14.9 13.6 12.5 14.4

15.3 14.0 13.8 16.116.5 16.5 15.5 15.5 14.5 15.5

05101520253035404550(%)

(年度)91 92

次に、起業家の起業分野を男女別に見たのが、コラム2-2-8図②である。女性は、個人向けの身近なサービス等で起

業が多く、前掲第2-2-44図と同様の結果となっているが、同調査では医療・福祉の分野での起業の割合が男性よりも高

くなっているという特徴がある。

コラム 2-2-8 図② 男女別の起業家の起業分野

建設業

10.1

1.9

製造業5.0

2.6

2.9

0.4

2.7

0.4

卸売業

9.1

4.1

13.1

小売業

18.3

5.1

1.9

7.8

3.4

11.8

飲食店,宿泊業

18.3

14.8

医療,福祉

20.1

1.6

4.9

6.4

洗濯・理容・美容・浴場業

19.4

1.2

1.5

7.7

3.0

0.8

0.0

0 100(%)

男性(n=1,463)

女性(n=268)

運輸業 情報通信業 専門サービス業金融・保険業,不動産業

教育,学習支援業 生活関連サービス業

その他サービス業 その他

個人向けサービス業(64.2%)

資料:(株)日本政策金融公庫総合研究所「2010年度新規開業実態調査」(注) ここでは、「飲食店,宿泊業」、「医療,福祉」、「教育,学習支援業」、「洗濯・理容・美容・浴場業」及び「生活関連サービス業」

を「個人向けサービス業」とする。

コラム2-2-8

38 1991年度以降、(株)日本政策金融公庫の取引先を対象に実施しているアンケート調査。毎年ほぼ同様の要領で継続的に実施しており、2010年度調査では、1,738社が回答。

39 中小企業白書(2011年版)p.185を参照。40 前掲第2-2-47図、前掲第2-2-48図を参照。

125中小企業白書 2012

第2部潜在力の発揮と中小企業の役割

第2節

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起業時の年齢については、前掲第2-2-49図では、女性は比較的若い年代の割合が高かったものの、同調査では、女

性の平均年齢が43.7歳であるのに対し、男性が42.4歳となっており、ほとんど男女差は見られない。また、起業前の就

業経験年数を男女別に見たのが、コラム2-2-8図③である。前掲第2-2-50図では、女性は男性に比べて就業経験が少

ない傾向にあり、同調査でも同様の傾向となっているものの、それほど大きな差は見られない。

コラム 2-2-8 図③ 男女別の起業家の起業前の就業経験年数

1.8

4.6

2.9

4.2

12.9

13.8

19.3

19.5

63.1

57.9

0 100(%)

男性(n=1,424)

女性(n=261)

資料:(株)日本政策金融公庫総合研究所「2010年度新規開業実態調査」

就業経験なし1年以上5年未満

5年以上10年未満

10年以上15年未満 15年以上

これらのことから、借入を行った起業家に限って見れば、女性起業家と男性起業家は、起業分野は大きく異なるもの

の、起業前の就業経験年数や起業時の年齢は、大きな差が見られないことが分かる41。

起業活動の促進施策

2010年6月に閣議決定された中小企業憲章42において、政府は、「起業を増やす」ことを中小企業政策の基本原則と

しており、「起業・新事業展開のしやすい環境を整える」という行動指針を定めている。これに基づき、政府は、事業環

境の整備、金融環境の整備、マッチングの場の提供といった起業家支援を行っている。

また、女性に限らず、休廃業した倒産企業の経営者の多くが、経済的負担や精神的負担から再起業・再チャレンジを

希望していないとの指摘があるが43、こうした負担を軽くし、起業のリスクを低減させることで、起業・再チャレンジしや

すい環境を整えることが重要である。

起業支援策

【事業環境の整備】●Japan Venture Awards 今後、起業を目指す人々にとってモデルとなる起業家の表彰。●ベンチャーSPIRITS セミナー等を通じて創業を啓発するとともに、創業に役立つ情報を提供。

コラム2-2-9

41 他方、起業直前の職業については、「会社や団体の常勤役員」又は「正社員(管理職)」であった割合は、男性が62.9%であるのに対し、女性は31.9%となっている。これが、起業前の経験内容の差となっている可能性がある。

42 中小企業憲章は、中小企業の意義、役割の重要性、そして中小企業への期待が益々高まっていることを踏まえ、制定された。全文は、付注2-2-18を参照。43 中小企業白書(2003年版)p.130を参照。

126 2012 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

需要の創出・獲得に挑む事業活動第2章

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【金融環境の整備】①融資環境の整備●新創業融資制度  新たに事業を始める又は事業を開始して間もない起業家へ、(株)日本政策金融公庫(以下「日本公庫」という)(国民事業)

が1,500万円までを無担保・無保証人で貸付。●新規開業支援資金 新たに事業を始める又は事業を開始して間もない起業家へ、日本公庫(国民事業)が低利貸付。●再チャレンジ支援融資(再挑戦支援資金) 廃業歴などを有し、新たに事業を始める又は事業を開始して間もない起業家へ、日本公庫が低利貸付。●女性、若者/シニア起業家支援資金  新たに事業を始める又は事業を開始して間もない女性又は若者(30歳未満)、高齢者(55歳以上)へ、日本公庫が低利

貸付。多様な担い手による新規事業や雇用の創出を図ることを目的とし、2011年度(2012年1月末時点)においては、6,374件、約302億円の融資を行っている。

②保証環境の整備●創業関連保証・創業等関連保証 新たに事業を始める又は事業を開始して間もない起業家に対して、信用保証協会が2,500万円までを無担保で保証。

③出資環境の整備●起業支援ファンド・中小企業成長支援ファンド  民間のベンチャーキャピタルや投資会社が運営するファンドへ、(独)中小企業基盤整備機構がファンド総額の2分の1以

内を出資。

④税制優遇●ベンチャー企業投資促進税制(エンジェル税制) 一定の要件を満たすベンチャー企業に対する個人投資家への減税措置。

【マッチングの場の提供】●ベンチャープラザ  資金調達を目指す中小・ベンチャー企業に対して、ベンチャーキャピタル等の投資家等へビジネスプランのプレゼンテー

ションを行う機会を提供。●販路ナビゲーター創出支援事業  ベンチャー企業の販路開拓について、豊富な経験とネットワークを有する販路ナビゲーターが商品・サービス等の評価及

び販路候補先に係る情報を提供。

( )

3 女性の就業

中小企業白書(2011年版)では、女性の起業と就業の関係の一例として、我が国の雇用慣行に

おいて、必ずしも就業や能力発揮の機会に恵まれ

てこなかった女性が、起業という選択によって、

自らの活躍の場を創出していることを示した44。

女性が就業する上で、女性の起業はどのような役

割を果たすのであろうか。本項では、女性の起業

と就業の関係を、事例をもとに探っていく。

■女性就業の重要性

内閣府によれば、求職活動をしていないが、就

業を希望している女性の非労働力人口は、約342万人存在すると推計されている(第 2-2-53 図)。女性の就業を後押しし、女性と地域や社会との関

わりを深めることは、生産年齢人口が減少傾向に

ある我が国の労働力の確保という面だけでなく、

世帯所得の増加に伴う消費活動の活発化という面

でも重要である。

44 中小企業白書(2011年版)p.200を参照。

127中小企業白書 2012

第2部潜在力の発揮と中小企業の役割

第2節

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第 2-2-53 図 M 字カーブ解消による女性の労働力人口増加の試算

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

70.0

80.0

90.0

100.0

15 ~ 19歳 20~ 24歳 25~ 29歳 30~ 34歳 35~ 39歳 40~ 44歳 45~ 49歳 50~ 54歳 55~ 59歳 60~ 64歳 65歳以上

(1)労働力率(実績)

(3)潜在的労働力率

(4)潜在的労働力率(M字カーブ解消の場合)

(2)労働力率(M字カーブ解消の場合) (5)労働力率がスウェーデンと同じ場合

(%)

(年齢)

342万人

資料:内閣府「平成23年版 男女共同参画白書」(注) 1.総務省「労働力調査(詳細集計)」(平成22年)、ILO “LABORSTA” から作成。

2.「M字カーブ解消の場合」は、30~ 34歳、35~ 39歳、40~ 44歳の労働力率を25~ 29歳と同じ数値と仮定したもの。3.潜在的労働力率=(労働力人口+非労働力人口のうち就業希望の者)/15歳以上人口4.労働力人口男女計:6,581万人、男性3,814万人(平成22年)5.労働力人口の試算は、年齢階級別の人口にそれぞれのケースの年齢階級別労働力率を乗じ、合計したもの。

第 2-2-54 図は、2002年から2010年までの間の男女雇用者数の増減を示している。その間、男性

雇用者が約41万人減少している一方、女性雇用者は約87万人増加しており、産業別に見ると、医療・福祉、教育・学習支援業、宿泊業・飲食

サービス業の分野で、女性の雇用が大きく増加し

ている。女性の雇用増が大きいこれらの分野は、

家事・育児・介護等のニーズに対応した、今後も

成長が期待される分野であることから、女性の就

業が果たす役割は、更に高まるであろう。女性の

就業を促進することは、今後の重要な課題の一つ

と位置付けられる。また、女性就労の「量的拡大」のみを求めるのではなく、女性の就業促進と併行して、女性本人の働き方の選択を尊重しなが

らも、女性が持てる能力を発揮し、適正な処遇の

もとで就労できるよう、非正規雇用から正規雇用

への雇用形態間の転換促進や、企業における女性

のキャリア開発、女性管理職比率の向上等を図

り、女性就業の質的向上を目指すことも重要であ

る。

128 2012 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

需要の創出・獲得に挑む事業活動第2章

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第 2-2-54 図 2002~2010 年における男女別・産業別の雇用者数の増減

86.6

▲19.7

▲74.1

2.8

15.2

▲26.6

27.9 1.444.6

129.5

▲5.7 ▲10.9

▲40.7

▲81.5

▲37.7

27.4

15.0

▲26.5

10.0

▲1.4

35.1

41.5

▲24.5 ▲17.5

▲150.0

▲100.0

▲50.0

0.0

50.0

100.0

150.0

200.0

全産業 建設業 製造業 情報通信業 運輸業,郵便業

卸売業,小売業

宿泊業,飲食

サービス業

生活関連サービス業,娯楽業

教育,学習支援業

医療,福祉

複合サービス事業

サービス業(他に分類されないもの)

女性女性 男性

資料:総務省「労働力調査」再編加工(注) 1.ここでいう雇用者には、家族従業者を含み、有給役員を含まない。

2.同調査の個票データを用いて、年平均した数値を用いている。3.内閣府「平成23年版 男女共同参画白書」第1-2-5図を参考に作成している。

(万人)

2-2-21事 例

女性の職域拡大により、社内の活性化に取り組むものづくり企業

滋賀県東近江市の株式会社寺嶋製作所(従業員130名、資本金1,800万円)は、炊飯ジャーの内釜や電気機械器具等の板金プレス加工を行う企業である。女性の職域拡大に取り組む前の同社の工場は、他のプ

レス工場と同様に、男性中心の職場であった。しかし、「ひたむきな努力」、「常にチャレンジ」を社是に掲げる同社の寺嶋嘉孝社長は、約10年前から安全性の高い機械設備を導入することにより、生産ラインでも女性が活躍できるよう、職場環境を整備した。また、2007年には職場の風土改革に取り組み、就業規則の見直しにより、パートから正規への転換を可能にした。現在、同社の工場では20名近くの女性が生産ラインに配属されている。また、生産ラインの改善提案においても、表彰される提案の多くが女性によるものとなっており、これらの提案は「省スペースでも生産効率を維持するという視点が明確。」と、寺嶋社長は語っている。さらに、プレス工場で必須となっているフォークリフトの運転についても、2名の女性が資格を取得した。寺嶋社長は、「女性の職域拡大により、フォークリフト

の運転のような、これまで、女性がいなかった業務分野でも、女性が責任を持って自分の役割を果たせるようになり、自信が生まれた。一方、男性も、自分の職域にとどまることなく、他の仕事でも職場を良くしたいという意識に変化した。」と語っており、女性の職域拡大による相乗効果が、社内に活気をもたらしている。

生産ラインに従事する女性従業員

129中小企業白書 2012

第2部潜在力の発揮と中小企業の役割

第2節

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女性の労働参加率と出生率

コラム2-2-10図①は、2009年のOECD加盟24か国における女性労働力率と、合計特殊出生率の関係を示している。

また、コラム2-2-10図②は、都道府県別に見た共働き率と、合計特殊出生率の関係を示している。それぞれ、両者の

関係は固定的なものでなく、仕事と育児の両立支援のための環境整備等の状況により、変化し得るものであるが、最近

では、所得要因も背景に、両者の間に正の相関があり、女性の社会進出が進んでいる国及び地域ほど、合計特殊出生

率も高い傾向にある、との指摘もある。

コラム 2-2-10 図① OECD 加盟 24 か国における女性労働力率と合計特殊出生率(2009 年)

韓国

ポルトガル

ドイツ日本

オーストリアスペインイタリアスイスギリシア

ルクセンブルクカナダOECD平均オランダ

ベルギー デンマークフィンランド

オーストラリア

スウェーデン英国

ノルウェー

フランス

米国アイルランド ニュージーランド

アイスランド

1.00

1.20

1.40

1.60

1.80

2.00

2.20

2.40

40 45 50 55 60 65 70 75 80 85 90

合計特殊出生率

女性の労働参加率(%)

資料:内閣府「男女共同参画会議 基本問題・影響調査専門調査会報告書」(2012年2月)(注) 1.女性の労働参加率については、OECDジェンダーイニシアチブレポートp.58、合計特殊出生率については、OECD

データベース(http://www.oecd.org/document/0,3746,en_2649_201185_46462759_1_1_1_1,00.html)をもとに、内閣府男女共同参画局が作成。

2.「少子化と男女共同参画に関する社会環境の国際比較報告書」(2005年9月)を参考に、同報告書が分析対象とした24か国(OECD加盟国(30か国:当時)のうちで、2000年の1人当たりGDPが1万ドル以上となっている24か国。)を対象に作成。

3.合計特殊出生率とは、15歳から49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもので、1人の女性が仮にその年次の年齢別出生率で一生の間に生むとしたときの子ども数に相当する。

コラム2-2-10

130 2012 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

需要の創出・獲得に挑む事業活動第2章

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コラム 2-2-10 図② 都道府県別の共働き率と合計特殊出生率(2010 年)

資料:総務省「平成22年労働力調査」再編加工、厚生労働省「平成22年人口動態統計」(注) 1.共働き率については、総務省「平成22年労働力調査」、合計特殊出生率については、「平成22年人口動態統計」

をもとに作成。2.49歳以下の既婚女性で続柄が「世帯主」、「世帯主の配偶者」、「子」、「子の配偶者」について集計している。3.ここでいう共働き率とは、既婚女性のうち、夫・妻いずれも働いている割合をいう。4.合計特殊出生率とは、15歳から49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもので、1人の女性が仮にその年次の年齢別出生率で一生の間に生むとしたときの子ども数に相当する。

5.労働力調査は標本規模が小さく、都道府県別の集計結果は全国の結果に比べ標本誤差が大きくなるため、注意が必要である。

共働き率(%)

1.10

1.20

1.30

1.40

1.50

1.60

1.70

1.80

1.90

富山県

全国平均

石川県

福井県

40.0 45.0 50.0 55.0 60.0 65.0 70.0 75.0

31/47都道府県(66.0%)

4/47都道府県(8.5%)

5/47都道府県(10.6%)

7/47都道府県(14.9%)

合計特殊出生率

共働き率、合計特殊出生率のいずれもが全国平均を上回っている北陸3県(福井県、石川県、富山県)では、企業

は付加価値を高めた経営により家計に正社員雇用を提供し、家計は企業に質の高い労働を提供し、双方を高め合う好循

環を構築している。また、行政・自治体は、企業の研究開発、家計の子育てをサポートし、好循環を更に加速させてい

る(コラム2-2-10図③)。

コラム 2-2-10 図③ 北陸地方におけるダブルインカムによる価値創造モデル

行政・自治体

企業差別化された製品による安定経営

同居、近居する両親世代による子育てサポート

家計

安定した正社員雇用

正社員従業員による質の高い労働力正社員労働者と技術力強化による

付加価値創造正社員共働きによるダブルインカム

産学連携による

共同研究開発

保育施設整備

資料:産業構造審議会第5回新産業構造部会(2012年2月)配布資料

131中小企業白書 2012

第2部潜在力の発揮と中小企業の役割

第2節

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■女性の起業による課題の解決

女性の就業を阻む課題として、総務省「労働力調査」により、就業希望の女性が求職しない理由を見ると、その約3割が「家事・育児のため仕事が続けられそうにない」と回答している(第 2-2-

55 図)。また、国立社会保障・人口問題研究所が実施している「全国家庭動向調査」から、夫の家事・育児実施状況を見てみる。これによると、夫

の家事遂行割合は、どの項目についても、2003年から2008年にかけて上昇しているものの、過

半には達していない(第 2-2-56 図)。さらに、育児の分担割合を見ると、末子の年齢が低いほど、

妻の育児分担割合が高く、末子が1歳未満である場合、大半の家庭において、妻の育児分担割合が

8割以上と回答していることが分かる(第 2-2-57

図)。これらのことから、女性の就業を阻む要因として、家庭生活において家事・育児の負担が女

性に偏っており、女性の就業の大きな課題となっ

ていることが、見て取れる。

第 2-2-55 図 男女別の求職しない理由

6.3%

18.3%

6.3%

6.3%

7.9%

7.9%9.5%

36.5%

0.8%

資料:総務省「平成22年労働力調査」(注) 非労働力人口における就業希望者が対象。

32.7%

11.7%7.6%

3.5%

13.7%

4.4%

5.0%

17.8%

3.5%

男性(126万人)女性(342万人) 家事・育児のため仕事が続けられそうにない

健康上の理由

近くに仕事がありそうにない

自分の知識・能力にあう仕事がありそうにない

勤務時間・賃金などが希望にあう仕事がありそうにない

今の景気や季節では仕事がありそうにない

その他適当な仕事がありそうにない

その他

非求職理由不詳

第 2-2-56 図 妻から見た夫の家事遂行の割合

ゴミ出し 日常の買い物 部屋の掃除 洗濯 炊事 風呂洗い 食後の後片付け

03年(n=5,808) 08年(n=5,597)

資料:国立社会保障・人口問題研究所「第4回全国家庭動向調査」(2008年7月)(注) 1.表中の数値は、各項目に対して「週1~ 2回以上」と回答したケースの割合。

2.全ての項目に対して有効回答したケースを対象に集計している。3.妻の年齢69歳以下を対象に集計している。

36.431.9

16.7 17.7 15.7

24.7 23.1

42.1 39.9

20.725.3

19.4

29.3 30.7

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100(%)

132 2012 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

需要の創出・獲得に挑む事業活動第2章

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第 2-2-57 図 末子年齢別の妻の育児分担の割合

6.3 5.09.3

45.443.7 34.3

31.4

25.527.0

14.0

17.919.9

1.95.3 6.6

1.0 2.6 2.9

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

1歳未満(n=207) 3歳未満(n=357) 6歳未満(n=408)

資料:国立社会保障・人口問題研究所「第4回全国家庭動向調査」(2008年7月)(注) 妻の年齢49歳以下を対象に集計している。

(%)

妻の育児分担割合が80%以上

100%

90 ~ 99%

80 ~ 89%

60 ~ 79%

40 ~ 59%

40%未満

かかる状況のもと、前掲事例2-2-18(株式会社コラボラボ)や事例2-2-22(株式会社アクションパワー)、事例2-2-23(株式会社キャリア・マム)のように、女性起業家は、自身が抱えていた課題

から、新たな需要を掘り起こし、これらの課題を

解決するためのサービスを提供する分野で起業す

ることがあると推察される。女性の起業が活発に

なり、これらの分野に新たな企業が生まれれば、

これらの企業が提供するサービスにより、家事・

育児を負担する女性が就業する際の課題が解決さ

れ、女性の社会進出の促進につながるであろう。

また、女性が出産後、再就職した際に出てくる

解決困難な課題には、子どもの病気等の日常の突

発的な出来事による急な遅刻や休暇があるといわ

れている。これらの課題に対しては、育児休業制

度の整備等による支援では対応しきれないという

現状があり、職場の雰囲気づくりや上司の理解・

協力等の、明文化されていないサポートが必要に

なると考えられる。事例2-2-22(株式会社アクションパワー)や事例2-2-24(ふじ内科クリニック)のように、女性起業家自身が結婚や出産等のライフステージに応じた課題を乗り越えている場

合、女性従業員が同様の課題に直面しても、柔軟

な対応により、就業を継続しやすい環境を提供す

ることが、可能ではないかと考えられる。

一方、女性の起業により、女性の就業が促進さ

れれば、家事・育児等の課題解決サービス分野に

おける需要の高まりや世帯所得の増加により、女

性の起業が多い個人向けサービス分野の市場拡大

が予想される。同時に、女性が就業しやすい環境

が整備されることにより、女性が男性と同等の就

業経験を積むようになれば、就業経験の短さに起

因する経営や事業に関する知識・ノウハウ不足等

の、これまで女性の起業を阻んでいた課題が解決

され、就業経験を有した女性起業家の増加へとつ

ながるであろう。

133中小企業白書 2012

第2部潜在力の発揮と中小企業の役割

第2節

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2-2-22事 例

働く女性の支援と女性の働く場の提供を目指す女性起業家

愛知県名古屋市の株式会社アクションパワー(従業員9名、資本金300万円)は、家事代行、ハウスクリーニング、整理収納等のサービスを提供する企業である。同社の大津たまみ社長は、「働く女性として自分が欲しかったサービスをシンプルにビジネス化した。」と語り、サービスを提供することで働く女性の負担を軽くするとともに、プロとして代行サービスができる女性を育成することで女性が働ける場所を広げようと考えている。同社では、自立して働ける女性を育成・支援するため、

「お部屋のおそうじお片付けセミナー」、「整理収納おそうじ研究会」等の各種セミナー・講座を開催し、そうしたセミナー受講者を対象に「メイトシステム」と呼ぶ独自の業務委託システムを導入している。これは、メイトとして登録した受講者が将来的に代行サービス業者として独立し、同社の業務の一部を委託するシステムである。大津社長は、「社員もメイトも、思いを共有する女性が集まっている。全員が、それぞれの立場を身にしみて理

解できる環境にあることから、子育て等で大変なときには他の社員にカバーしてもらえ、働きやすい環境となっている。」と語る。このメイトシステムは、女性特有のライフステージや個別事情に応じた柔軟な雇用調整をしやすくしており、女性が働きやすい環境を提供することにも寄与している。

ハウスクリーニングの様子

2-2-23事 例

女性の起業・就業・社会参加をサポートする女性起業家

東京都多摩市の株式会社キャリア・マム(従業員15名、資本金3,875万円)は、全国10万人の主婦会員を抱える自社サイトを活用し、企業・行政に消費者の声を届けることで、本当に売れる商品・サービスづくりを支援する企業である。同社の堤香苗社長は、起業前はフリーアナウンサーとし

て活動していた。しかし、出産後は育児に大半の時間が割かれるようになり、思うように動けなくなった。そのような経験から、主婦が主役になれる場所を創りたいと考え、育児サークル「PAO」を設立し、2000年同社を起業した。同社は、会員だけでなく、働きたい女性等を応援する

「就労支援セミナー」の実施によりキャリア教育を行うとともに、研修を終えたSOHOワーカーに対しても自宅や自

宅周辺でできる仕事を紹介することにより、主婦会員の起業・就業・社会参加をサポートしている。堤社長は、女性の起業に関して、「世の中に対して何か

しらの不満があったが、女性ということで実現できなかった人が大勢いる。そこに仲間がいればうまく起業・事業継続できる。」と考えている。そのためには「女性起業家に対して併走してアドバイスができるコーディネーターの存在が重要であり、起業に苦労している話を聞いて適切な助言ができる実際の創業者のネットワークを形成することが必要。」と語り、意欲がありながらも、育児に追われ社会から隔絶されている女性の特徴と経験を社会に還元できる仕組みの創出を目指している。

就労支援セミナーで話す堤社長

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需要の創出・獲得に挑む事業活動第2章

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2-2-24事 例

女性のライフサイクルに配慮し、女性が働きやすい職場を目指す女性院長

山梨県甲府市のふじ内科クリニック(従業員7名)は、がん患者等の終末期患者に対する在宅ホスピスケアを行う診療所である。同診療所の内藤いづみ院長は、大学卒業後勤務医とし

て働いていたが、医師が患者より力を持っている関係に違和感を抱えていた。このため、夫の転勤を機に渡英し、ホスピスで研修を受け、帰国後に同診療所を開業した。内藤院長自身、子育てをしながらの起業であったため、

「命に向き合う仕事である以上、働く側の人間も身体を大事にしなければならず、スタッフには家庭を犠牲にして欲しくない。」と考えている。このため、勤務している看護師、保健師、事務員等の従業員が全員女性である同診療所では、子どもの容態が急変した際等には臨機応変に対応できるよう、人員に余裕を持ったワークシェアの勤務体系を構築している。「経営者である自分自身が、女性のライフサイクルにおける家事・出産・育児・介護等の仕事を女性の立場から

理解しているため、女性従業員が家庭や人生で困っていることが理解でき、それを解決するための的確なアドバイスや勤務体系の整備等が可能になる。」と語る内藤院長は、女性が働きやすい職場環境を作ることができるのが女性経営者のメリットであると考えている。

訪問診療を行う内藤院長

■女性の起業と就業の好循環

以上、女性の起業と女性の就業の関係について

言及してきたが、この関係を図示すれば第 2-2-

58 図となる。

女性起業家は、柔軟な対応力で新たな需要を掘

り起こし、女性の負担となっている家事・育児等

の課題を取り除くことで、女性の就業を促進す

る。そして、女性の社会進出が進み、これらの

サービスに対する需要が増加すれば、新たな女性

起業家が呼び込まれる。

また、女性特有の課題を乗り越えて起業した女

性起業家は、女性従業員が直面する特有の課題に

対しても柔軟に対応し得る。女性の起業によって

女性が就業しやすい環境が提供されれば、就業経

験を活かした起業も更に増加するであろう。

さらに、これらのサイクルが機能することによっ

て女性の就業促進が進み、世帯所得の増加が進め

ば、女性起業家の事業展開が多い個人向けサービ

スの分野の市場拡大につながる可能性がある。

長期にわたって低成長が続いている我が国にお

いては、かかる好循環を発生させることが、女性

の能力を発揮させることにより、新たな需要を掘

り起こし、元気な日本を取り戻すための重要な鍵

となるであろう。

135中小企業白書 2012

第2部潜在力の発揮と中小企業の役割

第2節

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第 2-2-58 図 女性の起業と就業の関係

女性の起業

所得

就業しやすい環境の提供/就業経験を活かした起業の増加

新たな需要の掘り起こし

女性の就業

○暮らしや社会を充実させるサービス○女性の社会参加の課題解決サービス ・女性起業等のサポートビジネス ・家事・育児等サービス 等

就業促進/需要増

促進(循環)

以上、本節では、現状における女性の起業の傾

向や課題を分析した後、個人向けサービスの分野

における女性の起業が生み出す好循環について言

及した。今後、生産年齢人口の減少により、更な

る内需の減少が懸念される中で、我が国の中小企

業が成長を続けるためには、既存の内需を奪い合

うのではなく、新たな内需を掘り起こすことが有

用な取組となると考えられる。その際には、従来

の男性社会の常識を打ち破り、多様化するニーズ

をすくい上げることで、需要を生み出す女性起業

家の柔軟な姿勢は、新市場の創出を目指す全ての

中小企業にとって、良い手引きとなるであろう。

136 2012 White Paper on Small and Medium Enterprises in Japan

需要の創出・獲得に挑む事業活動第2章