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公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団 2015 年度(前期)一般公募「在宅医療研究への助成」完了報告書 「在宅における摂食嚥下障害者への必要な 評価とケアの質の向上を推進する教育」 申請者:山根 由起子 所属機関:京都府立医科大学 提出年月日:2016 年 9 月 26 日

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公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団

2015年度(前期)一般公募「在宅医療研究への助成」完了報告書

「在宅における摂食嚥下障害者への必要な

評価とケアの質の向上を推進する教育」

申請者:山根 由起子

所属機関:京都府立医科大学

提出年月日:2016 年 9 月 26 日

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はじめに

我が国では、死因順位の第3位に肺炎が位置した(厚生労働省.平成 23 年人

口動態統計)。また、肺炎死亡者の9割以上が高齢者であり、誤嚥性肺炎が多く

を占めている。誤嚥性肺炎は嚥下障害を前提とした疾患であり、病院だけでな

く在宅においても嚥下障害を評価してケアすることが必要である。摂食嚥下障

害者に対しては、重症なほど根気強く継続した関わりが必要であるが、急性期

では治療が最優先されるため、摂食嚥下障害に対するアプローチの優先順位が

下げられてしまうことがある。

今後、2025 年に向けて後期高齢者が増加する。それに伴い誤嚥性肺炎も増加

することが予測され、在宅での摂食嚥下障害者へのチーム医療を構築すること

が重要である。

生活期では、高齢者にとって“食べること”が、日常生活において最も重要

な関心ごとである。そのため、在宅医療スタッフに、摂食嚥下障害者へ適切な

ケアを提供する教育が必要である。在宅医療者が、摂食嚥下機能をアセスメン

トして、適切な摂食嚥下訓練やリスク管理が実施出来、本人や家族への説明や

指導が行えることにより、摂食嚥下障害者へ関わる質が上がる。

本研究では、摂食嚥下障害に関わる多職種に向けた集合教育と現場教育を行

い、摂食嚥下障害に関わる質の向上の教育効果を測定し、より効果的な教育プ

ログラムを作成することを目的とする。

Ⅰ.方法

本研究は所属する大学の倫理委員会の審査の承認を得て行った。

摂食嚥下教育窓口を大学の在宅チーム医療推進学に 2016 年 1 月~8 月の間設

置し、担当を本研究の申請者が行い、責任者に報告しながら、プロトコルに従

い集合教育と現場教育を行った(図 1)。教育対象は、在宅医療者(施設も含む)

とした。

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図 1 在宅チーム医療推進学 摂食嚥下に対する在宅医療スタッフの教育窓口プロトコル

1. 集合教育

集合教育の内容、講師、開催日の一覧を表 1 に示す。

集合教育を行うにあたり、京都市内の約 220 カ所の訪問看護ステーション

に郵送し、京滋摂食嚥下を考える会のメーリングリストでのお知らせを行っ

た。

その後の毎月の研修会のお知らせは、参加された施設には、チラシを毎月

の研修会で渡し、過去の研修会の参加者へはメールや郵送でのお知らせも行

った。申し込み用紙によるFAXをもって研修会参加者予定とした。

開催場所は毎回同じ建物で、駅に近く利便性の良い所で行った。

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表 1 摂食嚥下に関する在宅医療スタッフの研修会一覧表

集合教育参加者を対象に、知識の理解度をシリーズ毎に、教育の前後で同じ

学習評価(テスト 4 択式で 5 問程度)を行った。この学習評価の設問は申請者

がまず作成し、各講師に修正をいただき、講演内容と照合する内容とした。例

としてシリーズ①の設問内容を表2に示す。

事前・後学習評価に記入した者を研究参加者(対象者)とし、データ管理は

個人情報とは無関係の番号を付して秘密保護に十分配慮した。(連結可能匿名化

で管理)。学習評価は個人を評価するものではなく、また、個人を特定すること

なく、まとめて学習効果の分析データとして用い、発表する予定であることを

記して協力を得た。また、集合教育各月終了毎に表 3 の自己評価の提出の協力

を得た。

集合教育に 7 割以上参加した者に修了証の発行を行った。

表2 シリーズ毎学習評価例 シリーズ①

シリーズ① 学習評価

Q 問題 A選択肢 1 2 3 4

1 摂食嚥下の5期にないものはどれか 先行期 口腔期 食道期 喉頭期

2 食道入口部が開く時間は 約0.1秒 約0.5秒 約1秒 約3秒

3 嚥下造影で評価できるのは 食道の蠕動運動 咽頭の感覚 咽頭の粘膜の状態 普段食べている物

4 嚥下内視鏡検査で評価できるのは 舌の動き 咀嚼・食塊形成 喉頭蓋の閉鎖 普段食べている物

5咽頭残留したものを誤嚥するのは何誤嚥か

前咽頭期型誤嚥(嚥下前誤嚥)

喉頭挙上期型誤嚥(嚥下中誤嚥)

喉頭下降期型誤嚥(嚥下後誤嚥)

喉頭挙上不全型誤嚥(嚥下反射なし)

該当するものを選択してまるで囲んで下さい

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解答を講演後に学習評価を記入し提出後に対象者に閲覧出来るようにして、

フィードバックした。

2. 現場教育

現場教育を行うにあたり、在宅チーム医療推進学の作業部会、附属大学病

院の嚥下回診チーム、退院調整看護師へ図2とプロトコル(図1)を用いて

説明しお知らせを行った。対象希望者には所定の用紙で参加申し込みを行っ

てもらうようにした。(図 3)

参加希望者には、説明文書による教育の説明を行い、同意に署名した者を

研究対象者とした。

現場教育の効果を測るため、教育を行う前と行った後に表 3 の自己評価を

記載してもらい前後比較を行った。

この参加者は診療所の医師の了解を得た上で、ご本人やご家族へ研究によ

る現場教育であることを説明いただき、申請者と共に自宅へ同行した。

3 回以上の現場教育を受けた者に修了証を発行した。

図2 摂食嚥下教育窓口による現場教育のお知らせ 図3 現場教育申し込み用紙

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表 3 摂食嚥下障害患者への対応における自己評価

3. 摂食嚥下に関する在宅医療者教育における満足度調査

本教育において、修了証を授与された方を対象に満足度調査を行った。職種

と職歴年数を記入したアンケートを郵送いただいた。

4. 分析

研修会各シリーズ 5 問程度の設問への回答率を前後で比較を行った。また、

集合教育と現場教育の自己評価の総得点の前後比較を Wilcoxon の符号付き

順位検定を行い、p<0.05 を有意差があるとした。分析は IBM SPSS Statistics

ver19 を使用した。

Ⅱ.結果

1. 集合教育

1)参加者の職種と人数

2016年      月     日 職種 氏名

項目 ④優秀 (期待以上) ③合格 (期待通り)②ボーダーライン(やや改善が必要)

①未達成 (改善が必要)

1摂食嚥下障害、誤嚥、窒息、低栄養、脱水、呼吸状態のリスク評価

問題点を明確に評価した上で,随時,妥当な患者への適応を行っている.必要性や目標を明確にして継続的に評価している.

問題点を明確に評価した上で,患者への適応を行っている.

問題点を評価して必要とされる内容のマネジメントをしている.

問題点を評価することが丌十分.

2摂食嚥下障害に応じたリハビリテーション

日常生活機能やQOLをアセスメントした上で,摂食嚥下リハビリテーションの目標やプランにつなげている.一定期間後に介入に対する評価を行っている.

摂食嚥下リハビリテーションの目標や必要なプランを実施し,一定期間の後に介入に対する評価を行っている.

必要なリハビリテーションのプランを述べることが出来る.

リハビリテーションの目標,プラン,介入に対する評価が丌十分である.

3摂食嚥下障害のある高齢者への対応

医学・心理社会の両面から多面的に情報収集した上で,高齢者ケアの特徴を踏まえて明確にゴールを設定し,妥当な対応が行える.

多面的に情報収集した上で,高齢者ケアの特徴を踏まえて対応が行える.

多面的に情報収集した上で,高齢者ケアの特徴を踏まえた対応に繋げている.

多面的な情報収集,対応のいずれかが欠けている.

4 摂食嚥下障害のある小児への対応医学・心理社会の両面から多面的に情報収集した上で,年齢・発達・社会背景に応じた対応と家族への指導・説明が行える.

病歴,身体所見などの情報を整理して対応を行える.

病歴,身体所見などの情報を整理して問題点を列挙できる.

情報を整理して問題点を挙げることが難しい.

5摂食嚥下障害者に対する多職種との協働

医療専門職との協働を適切にマネジメントしている.心理社会面,家族といった側面にも配慮ができている.

医療専門職との協働を通じ,適切にマネジメントしている.

医療専門職との協働に繋げている.医療専門職との協働が丌十分である.

6 摂食嚥下障害者に対する自身の職種を生かした行動

課題・目標・プランを明確にし,活動を一定期間行い,継続的に評価している.

課題・目標・プランを明確にし,活動出来ている.

課題・目標・プランを明確にし,活動に繋げている.

課題・目標が決まらず,活動に繋げられない.

各項目に対して①~④を選択し,該当する内容を○で囲んでください.

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各研修会における参加者の職種別人数を表4に示す。集合教育の参加者は

93 名で 1 名あたり最低 1 回、最高 12 回の研修会への参加があった。参加者

の職歴年数の平均は 18.29(SD11.50)年で、訪問年数の平均は 5.30(SD6.36)

であった。

表 4 集合教育参加者の職種と人数

集合教育の様子

職種 /シリーズ ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ ⑪ ⑫医師 4 15% 3 7% 3 7% 0 0% 1 3% 0 0% 0 0% 2 5% 2 5% 1 3% 2 6% 2 6%歯科医師 2 7% 2 5% 2 5% 1 3% 1 3% 1 3% 1 3% 2 5% 1 3% 1 3% 0 0% 0 0%看護師 15 56% 17 41% 17 41% 17 57% 15 47% 20 59% 20 59% 15 38% 15 41% 14 39% 10 29% 10 32%理学療法士 1 4% 3 7% 3 7% 2 7% 2 6% 1 3% 1 3% 2 5% 2 5% 2 6% 3 9% 2 6%作業療法士 0 0% 0 0% 0 0% 0 0% 0 0% 1 3% 1 3% 0 0% 0 0% 0 0% 2 6% 2 6%言語聴覚士 0 0% 0 0% 0 0% 0 0% 0 0% 0 0% 0 0% 0 0% 0 0% 1 3% 0 0% 0 0%管理栄養士 2 7% 5 12% 5 12% 4 13% 7 22% 6 18% 6 18% 6 15% 6 16% 6 17% 9 26% 8 26%歯科衛生士 3 11% 1 2% 1 2% 6 20% 6 19% 4 12% 4 12% 11 28% 11 30% 11 31% 8 24% 7 23%薬剤師 0 0% 1 2% 1 2% 0 0% 0 0% 0 0% 0 0% 0 0% 0 0% 0 0% 0 0% 0 0%介護職、その他 0 0% 9 22% 9 22% 0 0% 0 0% 1 3% 1 3% 1 3% 0 0% 0 0% 0 0% 0 0%合計 27 100% 41 100% 41 100% 30 100% 32 100% 34 100% 34 100% 39 100% 37 100% 36 100% 34 100% 31 100%

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2)シリーズ別研修会前後の学習評価の結果

シリーズ毎に、講演開始前後に行った同じ内容の学習評価(テスト 4 択式 5

問)の全体の平均得点と正解率の比較を表5に示す。シリーズ⑧⑨以外で研修

会による知識の向上が測れた。

表 5 研修会前後の学習評価の正解率の変化

シリーズ pre平均点 pre正解率 post平均点 post正解率前後正解率変化

(後ー前の正解率)自由記述欄

① 2.22 44.4% 4 80.0% +35.6%

・嚥下についてわかりやすくご説明いただきありがとうございました。(看護師)

・嚥下、誤嚥のメカニズムについて理解できました。(看護師)

・これからの研修会の理解が深まるようなとても良い内容でした。(看護師)

・学生時代、嚥下は「最も退屈」な授業でしたが、手術のビデオを供覧し尐し理解ができました。

(医師)

・これから摂食嚥下に関する知識を深めていきたい。(看護師)

・他職種との話す場もなく、現状は単独行動で、どのように介入すれば良いか悩んでいます。

(看護師)

② 2.78 55.6% 3.37 67.0% +11.4%

・わかりやすいお話しでした。

 ・エビデンスの話をもう尐し聞きたかったです。

 ・まだまだアセスメントできてないと痛感しました。

 ・基礎力なしを痛感しています。

 ・学習評価の質問がわかりにくい。

 ・勉強になりました。ありがとうございました。

 ・在宅リハビリを行っています。難病などで嚥下障害の方にもかかわりますが、評価などが明

確に出来ていないので勉強していきたいです。

 ・学ばせていただいたことを臨床の場で生かしていきたいと思います。

③ 2.4 48.0% 3.28 65.6% +17.6%

・在宅で、薬剤師さんが介入している方が尐なく、お薬のことは看護師に任されることが多いよ

うに感じています。明確に答えられないこともあり、今回とても勉強になりました。

 もっと勉強しなくてはと思いました。ありがとうございました。

 ・まだまだアセスメントできてないと痛感しました。

 ・基礎力なしを痛感しています。

 ・勉強になりました。ありがとうございました。

 ・在宅リハビリを行っています。難病などで嚥下障害の方にもかかわりますが、評価などが明

確に出来ていないので勉強していきたいです。

・とろみ剤の使用方法の勉強不足でした。とても勉強になりました。

 ・学ばせていただいたことを臨床の場で生かしていきたいと思います。

 ・協同方法を考え、患者を中心にしたサイクルをポイントがあれば学びたいです。

④ 2.68 67.7% 3.31 82.8% +15.1%

・先生のお話はとてもためになりました。(管理栄養士)

・恥ずかしながら、まずは水分が禁止でゼリー、とろみからと思っていました。(看護師)

・パーキンソン病の方の食事も下を向いたままは良くないと思っていました。とても勉強になり

ました。本当にありがとうございました。参加させていただいて良かったです。(看護師)

・今日の先生のお話を聞いて、私自身、摂食嚥下障害に対してまだまだ勉強不足出ることを感

じました。これからもっと勉強していこうと考えています。(管理栄養士)

・きちんとした評価を単独では行えない。歯科医師と一緒に評価し、判断する、チームとして仲

間の育成にも取り組みたい(歯科衛生士)

・大変参考になりました。現状ではチームの取り組みが尐しずつ進み、嚥下障害のある方の在

宅期間が長いように感じます。今後も嚥下障害の理解を深めていきたいと思います。(看護師)

・WSをしてほしいです。多職種みなさん揃って相談したいです。(看護師)

⑤ 2.38 47.5% 3 60.0% +12.5%

・今日の先生のお話を聞いて、私自身、摂食嚥下障害に対してまだまだ勉強不足出ることを感

じました。これからもっと勉強していこうと考えています。(管理栄養士)

・きちんとした評価を単独では行えない。歯科医師と一緒に評価し、判断する、チームとして仲

間の育成にも取り組みたい。(歯科衛生士)

・大変参考になりました。現状ではチームの取り組みが尐しずつ進み、嚥下障害のある方の在

宅期間が長いように感じます。今後も嚥下障害の理解を深めていきたいと思います。(看護師)

・以前の勤務先では、時にNICUや小児病棟の相談を受けつつも、小児特有の知識不足を感じ

ており、本日は大変勉強になりました。最近は、成人したCP児の問題に直面することが増えた

ように思い、これも難しいです。

 小児をみている医療者と成人をみている医療者の情報共有、交流が必要と感じます。(事前

登録なく当日参加医師)

・WSをしてほしいです。多職種みなさん揃って相談したいです。(看護師)

⑥  2.4 48.0% 3.9 78.3% +30.3%

・知っているようで知らないことだらけで勉強になった。

・実際、トロミのものを食べてみて、違いも勉強になった。

・紙コップも!ありがとうございました。

・とろみの使い方、スプーンの使い方などすぐに役立つことばかりだった。

・実際に1%のとろみを体験し、認識しておくことができれば現場で役立つ。

⑦  2.97 59.4% 4.05 81.2% +21.8%

・ビールゼリーが美味しそうと思いました。

・サバと里芋、かぼちゃとクリーム美味しかったです。

・食べやすく美味しいのは最高!と思いました。

・管理栄養士さんが月かいしか訪問できないことを初めて知りました。

・色々なレシピ、デイケアで作ってみようと思います。

・具体的に細かくお話しいただき、とても参考になりました。

⑧⑨ 3.24 80.9% 2.78 69.6% -11.3%・小児は怖くて在宅で挑戦できないでいます。知識が足りなさを感じています。

(歯科衛生士)

⑩ 2.97 41.6% 3.26 65.1% +23.5%

・とてもわかりやすくて良かったです。(管理栄養士)

・排痰の援助を行えて良かったです。日常の業務の中で生かしていきたいと思います。

(看護師)

・施設はリスクを恐れ、スクイージングは嫌がると思いました。体位ドレナージならしてもらえそ

うだと思いました。まずは聴診器を使えるようにならないといけないと感じました。(歯科衛生士)

⑪ 2.55 50.9% 3.31 67.5% +16.6%

⑫ 3.97 80.0% 4.84 96.8% +16.8%注釈)平均点は5点満点中の平均。④⑧⑨は1問不適切問題があり、4点満点中の平均点と正解率

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3)摂食嚥下障害患者への対応における自己評価

研修会開催月毎(1 回/1 カ月)参加者に自己評価(表3参照)の提出の協力

を得た。そのうち、2 回以上の提出があった 45 名の自己評価を対象に、最初と

最後に提出された自己評価の比較を行い、集合教育が、在宅における摂食嚥下

障害者への必要な評価とケアの質の向上に繋がっているのかを測った。

45 名の自己評価の総合得点の比較平均は最初 10.44 点(SD3.92)、最後 11.33

点(SD4.12)で p=0.070 で有意差は認められなかった。総得点の前後比較では、

21 名(46.7%)が向上し、10 名(22.2%)が変化なく、14 名(31.1%)が下降したこと

に着目した質的な内容について次に示す。

(1)自己評価上昇者

最後の自己評価総得点が最初より上昇した 21 名を表 6 に示す。最も得点がア

ップしたのが、摂食嚥下障害のある高齢者への対応のケアの向上 17 名( 81%)

であった。一方、小児のケアについては関わりがもてない環境で、ケアを行う

機会がないことなどにより得点のポイントアップが乏しかった。61 か所の得点

アップ(100%)、のうち、[2]行動に繋げられるようになったのが 30 か所(49.2%)、

[3]の行動できるようになったのが 22 か所(36.1%)、[4]の視野を広げて更に行

動が出来るようになったのが 9 か所(14.7%)であった。

表 6 集合教育で最後の自己評価の総得点が最初より上昇した者

n = 21

コード増加した得点(最後-最初の総得点)

Q1 Q2 Q3 Q4 Q5 Q6最後総得点

自己評価提出回数

1 9 4 4 4 4 4 4 24 2

2 8 2 3 3 1 3 2 14 2

3 7 3 2 2 1 3 2 13 6

4 6 2 2 2 1 3 2 12 5

5 6 2 2 3 2 3 3 15 3

6 4 2 2 3 1 2 2 12 47 4 3 3 3 NA 3 3 15 38 3 1 1 2 1 2 1 8 39 3 3 4 3 2 3 3 18 3

10 3 2 1 2 1 2 2 10 211 2 2 3 2 1 2 3 13 512 2 1 1 2 1 2 2 9 513 2 2 2 2 2 2 2 12 514 2 2 1 3 1 3 3 13 315 2 4 3 4 NA 4 3 18 316 2 3 2 3 2 1 2 13 317 1 4 4 4 NA 4 4 20 618 1 2 2 2 1 2 2 11 619 1 1 1 2 1 1 2 8 220 1 1 1 2 1 1 1 7 221 1 3 NA 3 2 2 3 13 2

得点up n 11 11 17 3 7 12(%) (52) (52) (81) (14) (33) (57)注釈) 塗りつぶしカ所は最初より得点が上昇(ピンク)、下降(ブルー)を示す。    二重四角は最初より2ポイント以上上昇した箇所。

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(2)自己評価下降者

総得点が下降した 14 名の自己評価得点を表 7 に示す。下降した 25 箇所のう

ち、最後の評価が[1]に 14 箇所(56.0%)、[2]に 7 箇所(28.0%)で合計 84.0%

あり情報収集・評価・対応・協働など活動の不十分さを自覚するようになって

いた。

表 7 集合教育で最後の自己評価の総得点が最初より下降した者

4)ワークショップ

ワークショップは参加者 4 名あり、現場で関わりのある患者や利用者の中で

各自一事例の提供をよびかけ、医師 1 名、看護師 1 名、管理栄養士 2 名(うち 1

名はケアマネージャーを主として活動)でディスカッションを行った。

参加者は全員修了証授与された者で、会の進行状況は表 8 に基づいて行った。

n = 14

コード下降した得点(最後ー最初の総得点)

Q1 Q2 Q3 Q4 Q5 Q6最後総得点 提出回数

22 -7 2 3 NA NA 1 3 9 2

23 -4 3 1 4 NA 4 4 16 6

24 -3 1 1 1 1 2 1 7 5

25 -3 3 3 3 2 2 3 16 326 -2 1 1 1 1 2 2 8 427 -2 1 2 2 2 2 2 11 228 -2 2 1 2 NA 1 2 8 529 -1 2 1 2 1 1 2 9 330 -1 1 1 1 1 1 1 6 531 -1 1 1 1 1 2 1 7 332 -1 2 2 3 NA 3 2 12 2

33 -1 1 1 1 2 1 2 8 2

34 -1 2 1 NA 2 2 2 9 4

35 -1 1 1 1 1 2 1 7 2得点down n 5 3 5 1 5 5

注釈) 塗りつぶしカ所は最初より得点が下降(ブルー)、上昇(ピンク)を示す。    二重四角は最初より2ポイント以上ダウンした箇所。

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表8 ワークショップ進行行程

ワークショップ後のアンケートを下記に示す。

多職種の方が集まられ、多方面の知識や、関係作りが出来そう。

基礎訓練の大切さを学び、もっと実行していこうと感じた。

図 4 ワークショップの内容は今後にも活かせそうか

理由

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2. 現場教育

現場教育の対象者は 8 名で、大学病院から退院し在宅で継続するための教育

希望参加者がなく、大学に関連のある診療所や訪問看護ステーションから教育

を受けたい希望があり、4 職種の参加があった(図 5)。職歴年数の平均は 19.75

年(SD11.01)、現場教育回数は 1 名あたり最小 1 回、最大 6 回、平均 2.38 回

(SD1.69)であった。

摂食嚥下障害を伴う方への関わりにおける現場教育では、主に①一人の高齢

者の継続した関わり、②神経筋疾患の複数名の関わり、③小児の複数名の関わ

りの教育が必要であった。

図 5 現場教育対象者職種と人数

現場教育前後に行った摂食嚥下に関する自己評価の比較結果を表 9 に示す。8

名の総得点の最初の最小値が 7 点、最大値が 12 点で平均値が 9.25 点(SD1.91)、

最後の最小値が 11 点、最大値が 19 点で平均値が 13.62 点(SD2.56)、p=0.011 で

あり、有意差を認めた。

全員最後の自己評価は最初と比較すると総得点が上昇した。そのうち、3 レベ

ル上昇したのが1箇所1名、2レベル以上の上昇が5箇所3名にあり、1レベ

ル以上の上昇は1名あたり平均 68.8%(最小 50%、最大 100%)に認めた。

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表9 現場教育で最後の自己評価 最初の評価との比較

自己評価時の自由記載内容

・摂食嚥下障害のある患者さんに接するためにはもっと勉強が必要だと感じる

ようになった。

・自身の職種で、嚥下に焦点をあてて介入することも尐なくないので、マウス

ケアなど大変勉強になった。

現場教育の様子

コード 現場教育回数 Q1 2 3 4 5 6合計

得点

前後比

較上昇

得点

36 3 3 3 3 3 4 3 19 8

37 6 3 1 NA 3 4 3 14 5

38 3 3 3 2 NA 2 2 12 5

39 2 2 2 2 2 2 2 12 4

40 2 2 2 2 1 2 2 11 4

41 1 3 3 3 NA 3 3 15 3

42 1 3 1 3 NA 4 3 14 3

43 1 2 2 2 2 2 2 12 3

前後比較上昇 n 6 6 4 3 6 7

(%) (75) (75) (50) (38) (75) (88)

注釈) UP 1レベル 2レベル 3レベル

down

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3. 修了証授与者

集合教育において全教育の 7 割(8 回のシリーズ)以上に参加した 20 名と現

場教育において 3 回以上の教育を受けた 3 名の合計 23 名(表 10)に本教育

の修了証が授与された。本教育で使用した資料を冊子にして今後何度も振り

返ってもらい継続できるようにした。ワークショップ参加者には手渡しで授

与し、来られなかった方には郵送した。

表 10 現場教育と集合教育の修了証授与者職種別人数

4. 教育満足度アンケート

集合教育で修了証授与者と現場教育参加者を対象に本教育の満足度アンケ

ートを調査した結果を図 6~図 13 に示す。満足度アンケートを配布した現場

教育8名(100%)、集合教育 14 名(70%)からの回答があった。

図 6 摂食嚥下障害の方へ関わることのやりがいを感じるか?

図 7 職場環境は摂食嚥下障害の方へ関わりやすい環境か?

職種 集合教育 n 現場教育 n

看護師 12 2管理栄養士 4理学療法士 2医師 1歯科衛生士 1助産師 1合計 20 3

(n)

(n)

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図 8 今回の教育を受けて摂食嚥下障害に関わる自身の成長は感じられたか?

図 9 摂食嚥下障害の方に関わる時間は業務負荷がかかるか?

図 10 摂食嚥下障害の方に関わる際に協力してくれる人はいるか?

図 11 協力してくれる職種

(n)

(n)

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図 12 摂食嚥下に関して教育を受ける意義はあるか?

図 13 摂食嚥下に関する教育は今後も活用したいか?

専門的な助言をいただけて実践出来ることは患者さんのQOLの向上につながるため。

普段から症例と関わっていないから。第三者からアセスメントや意見をもらうのは貴重

だと思う。

個人に合わせて具体的に対応できる。

現場にいる者同士で共通認識ができる。

常に誤嚥の不安がありながら接している場合が尐なくない。

飲み込みの悪い人に、どうしたら良いか考えられる。

小児で療育でのSTの関わりがあっても、訪問する者にその内容が伝わらないため、リ

スクを常に感じる。

実践的な取り組みができる。

知らないことに気づかされた。

今回の研修会とWSがとても良かったと思う。

理にかなった指導ができるようになる。

「食べたい」というご本人の意思を尊重したい。

安全で効果的なケアに繋がると考える。

基礎知識を身に着けて、現場の話が聞けるので良い。

施設の中に協力者がいない。

自分の知らないことが沢山ありとても勉強になり助かる。高齢者が多いので、知識の

有無で全然違うと思った。

「食べる」ことは活力の源。摂食嚥下困難な方に尐しでも力になりたい。

自身に摂食嚥下に関する知識が尐ないため。

わかっていないことや新しい知識などを学ぶことができ、看護に活かせる。

食べることは大事なので関わりたいと思ってるので、教育を受けたい。

摂食嚥下に関して現場教育を受けることは意義があると考える理由

摂食嚥下に関して集合教育を受けることは意義があると考える理由

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現場にいる限り看護師として成長していきたいため。

継続して助言いただけたらと思う。

摂食嚥下は可能であっても、十分な評価やアプローチがなされず経過してしまう場合

があるため。

まだまだ自身の知識が不足している。

勉強したことを実行しながら色々考えられる。

今まで、わからず増段できるところがないが、現場教育が悩みの解決になった。

実践的な取り組みができる。

もっと知識や技術を身に着けたい。その上で現場に返していきたい。

今回の研修会とWSがとても良かったと思う。

自身の身に着けたい。

知識と経験を積んで、自信をもって対応できるようになりたい。

通常業務で使える知識・技術となる。

連携をとって、嚥下障害の方の治療をしていきたいので、知識を深めたい。

施設の中に協力者がいない。

高齢者の訪問もするので、参考になる。

摂食嚥下に関するフォローを必要とされる方が多いため。

知識の向上や他職種との連携の場になる。

食べることが好きなので、患者さんにもその関わりをもちたい。

摂食嚥下に関する現場教育を今後も活用したい理由

摂食嚥下に関する集合教育を今後も活用

したい理由

自由記載欄

現場教育 詳しく摂食嚥下についてお教えいただきありがとうございました。具体的な嚥下の評価方

法などを知ることができ、実践に繋げることができそうです。そして、それが患者さんのケ

ア向上に繋がていくと思います。

アセスメント及びマネジメントのためにも多面的、多角的な情報収集が必要不可欠だと

思った。現場教育されたことがとても良い経験になった。また機会があればお願いしたい。

現場教育を継続的にしていただけるとありがたいと思う。また、今回教育いただいたことを

他職種協働で患者に関わっていきたいと思う。

日ごろからむせが時々あり、特に介入していなかった症例の現場教育を受け、現状の把

握、退院時と現在の変化、それに伴う効果的な関わりを得る機会になった。食形態やとろ

みについては定期的に評価することが必要だと意識していこうと思った。

実際に家族に指導する場合があり、わかりやすく理解頂くために、小さな模型があると、

より理解が深まると思った。参考文献なども紹介いただけるとありがたい。

嚥下が悪くむせる時にどうしたら良いか、色々教えていただき、参考になった。

小児で、療育でのST介入中でも連絡が取れない状況での経口困難例で、具体的ケア方

法を個々に合った方法で、指導いただき、大変勉強になった。今後も同様の相談窓口とし

ての機能が継続されるとありがたい。

今後ともアドバイスをお願いしたい。

集合教育 実際に取り組まれている現場を見学したい。(WSも参加)

多職種の役割と関わり方を知ることが出来て、とても良かった。また、WSでは色々な人の

話を聞けてとても良かった。自身はもっと勉強する必要があると感じた。(WSも参加)

多職種の専門的なお話を沢山聞けて、とても勉強になr、勉強しなかればならないことに

気づかされた。また機会があれば、是非とも参加したい。

訪問で、嚥下障害の方は多いが、自身の職種としては、間接訓練やポジショニングが主

となる。医師や看護師と連携をとって深めていきたいと思う。ご家族は直接訓練を希望さ

れることが多く、なかなか出来ないので心苦しい。ST評価を増やしていきたい。

施設ではリハビリ職はおらず、看護師はあまり積極的に食事に関わらない現状で、頼る

人もなく悩んでいたところにこの研修会があり、とてもありがたかった。毎回、興味深い内

容だった。

日々業務に追われ、なかなか研修会に参加できなかったが、今回の研修会はとても出席

しやすかった。

嚥下に関しても知識が尐ない私にとって、とても勉強になる研修会だった。場所の利便性

も良かった。

とても勉強になった。興味がある分野なので、これからも尐しずつ勉強していくつもり。

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Ⅲ.考察

作成したプロトコルに従い、摂食嚥下に関する集合教育と現場教育による在

宅医療者を対象とした教育効果を図った。

1.集合教育

集合教育では、12シリーズのうち10シリーズ(83%)の研修会による知

識の向上を認め集合教育の効果がみられた。講師は多職種であり、各職種の役

割を知った上で、どの職種と協働すれば良いか又は、協働出来ない場合の知識

や技術を得られる研修会になり、trance disciplinary を視野に入れた教育とな

ったことが考えられる。

また、集合教育参加者による摂食嚥下障害者に対する実践の自己評価では最

初と最後の総得点の有意差は認められなかったが、向上した人では特に高齢者

のケアの意識が高まり実践に繋がっていた。そして、リスク評価、リハビリテ

ーション、自身の職種を活かした行動も 52-57%向上したことから、集合教育が

有意義であることがいえる。永長(2009)は、「医科歯科連携を中軸に,多くの人々

の努力を集結した「結い」のような多職種連携が求められている」と述べてお

り、本教育で多職種の集合教育を行ったことは自身の努力や連携に繋がり、現

場での摂食嚥下障害患者への関わりの中で、得られた知識や技術から質を向上

させることが自己評価からも明らかとなった。

一方で、最初より最後の自己評価の総得点が下降した者では、出来るとされ

ていた行動の中にも知識の不足を感じ、情報収集・評価・対応・協働などが不

十分であることを自覚出来たことは、自身の努力が必要な部分が見出せたので

はないかと考えられる。

ワークショップでは、各自の相談したい事例をグループでディスカッション

し、摂食嚥下障害患者の関わりを阻害する要因と促進する要因の視点や各専門

職からの意見を出し合い、これまでの集合教育で学んだことを踏まえ統合する

時間となり、今後に活かせるより具体的・実践的な内容で、関係作りの大切さ

も気がつくことが出来た。

2.現場教育

教育窓口を設置した半年の間で、大学病院から在宅に退院される方は、嚥下

回診で関わる方では転院が殆どを占め、退院調整看護師からの摂食嚥下障害に

関わる必要がある患者の紹介もなかった。嚥下障害のある方で退院になる情報

から直接主治医へ伺ったこともあったが、退院先の訪問診療と訪問看護へは情

報提供書のみで、退院カンファレンスが開催されないことから、在宅医療者へ

の教育窓口の紹介をすることが困難であった。そのため、病院から在宅の切れ

目のないようにするための在宅医療者への教育を行う機会が残念ながらなかっ

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た。これは、現状ともいえるが、退院調整看護師に何度も繰り返してのお知ら

せをしても良かったかもしれない。

現場教育参加者には、退院調整看護師が教育窓口について訪問看護ステーシ

ョンにお知らせをして教育を希望された人や大学と関連のある診療所の医師の

声かけのもと、看護師やリハビリのセラピストの希望があった。希望者は5カ

所に所属する8名で、在宅やデイケア施設での教育を行った。現場教育の対象

者の自己評価では、教育前後の比較で有意差を示し、1人あたり6項目中1レ

ベル以上向上したのが平均 68.8%で、現場教育1回以上行うだけでも効果がみ

られた。1人あたりの教育回数3回以上の者は1項目1レベル以上向上するの

が 83.3-100%で、教育回数1回の者は 50%であったため、3 回以上の教育を受

けると、より教育効果が著しく認められることが明らかとなった。そのため、

継続した関わりのある教育やそれに伴う経験が、行動に活かされることがいえ

る。

中村(2014)は、「患者宅で栄養指導を行うことにより、嗜好・経済状態・間食・

実際に食べている物・量・調理者,家族の介護疲れ・価値観などがわかるため、

実践的・効果的な栄養指導を行うことができる」と述べている。現場教育にあ

たり、食事時間に訪問し、食べている状況を評価して対応する必要性の教育を

中心に行ったが、普段は食事時間に訪問することが殆どなく、介護者からの情

報によりどうしたら良いか困っていたという対象者が多くみられた。訪問時間

の変更なども考慮されるようになり、食べる場面の観察から個々の対応になっ

たことも教育の効果であることがいえる。

3.自己評価

適切な自己評価を行うことは容易ではないが、今回、ルーブリック評価に基

づいて行った。ルーブリックの自己評価が妥当であるかは検証されており(葛

西)、本教育における摂食嚥下障害対応に必要な内容の作成を行った。作成は申

請者と研修責任者で独自で作成したものにとどまっており、妥当性の改善の余

地はある。今後の運用としては、自己評価のもとに教育者が現場で評価するか

面接などを通して評価に反映させることも検討が必要であるが、これは個々の

教育に使えることが考えられる。

4.教育満足度アンケート

摂食嚥下障害者への関わりについてやりがいを感じている中で、一部では関

わりやすい環境ではないことや協力者がいないことが阻害要因となり、時間が

かかることで業務負荷がかかる意見が多かった。協力者では、看護師や家族が

多いことから、教育や指導を強化する焦点になるかもしれない。

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今回の教育を受けて自身の成長を感じられており、教育をうける意義があり、

今後も教育を活用したいとの意見がアンケートに回答した全員からあり、集合

教育、現場教育共に教育プログラムとして効果を認めた。

本教育を受けた対象者は高齢者に関わる者が多かったが、小児を中心に関わ

る者も尐数あった。共通して、相談出来るところがなく、本教育の意義を感じ、

今後も相談できるところや教育を受けることを望んでいた。本研究期間中にも、

大学病院の嚥下回診で関わった児が在宅へ退院する症例があった。しかし、県

外への退院であったことから継続の問題が浮上し、在宅医療者への教育が惜し

まれた。このような症例があるように、小児は自宅退院をしいられることが多

く、今後も在宅医療者の教育が必要な課題の一つである。

摂食・嚥下障害看護認定看護師が在宅医療者に向けた集合教育のマネジメン

トを行い、在宅現場でのスタッフ教育をした報告はなされてなく、在宅医療者

による摂食嚥下障害に関わる発展に貢献できる教育内容になったと考える。今

回は在宅医療者を対象に行った。これは、介護職や介護者への指導を行えるこ

とも考慮してのことであったが、在宅では介護者が摂食嚥下障害者のケアに関

わることが多い。松田(2003)は「摂食・嚥下障害者の主介護者に対して摂食・

嚥下リハビテーションを目的とした介護方法を検討し,教育していくことが重

要である」と述べており、介護者への教育も今後の課題である。

Ⅳ.まとめ

本研究では、摂食嚥下障害に関わる多職種に向けた集合教育と現場教育を行

い、効果的な教育プログラムの作成を目的として以下の結果を得た。

1. 集合教育では、多職種の講師による研修会を開催し、各研修会の前後に知識

を問う学習評価を行い、多職種の参加者の知識の向上が図れた。そのことが、

現場での行動レベルを向上させる傾向や出来ていない部分を意識できるこ

とが自己評価を行うことで可視化された。

2. 現場教育は、1回以上でも教育効果があり、3回以上でより顕著に教育効果

があることが自己評価から明らかとなった。

3. 集合教育は、最初と最後の自己評価では有意差を認めなかったが、現場教育

は有意差を認めた。集合教育では知識が向上して行動に繋がり、現場教育で

は経験から行動に繋がるようであり、どちらも効果的な教育プログラムとい

える。

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謝辞

本研究は公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団の助成を受け実施しま

した。

参考文献

1)永長周一郎、品川隆:医師、歯科医師,薬剤師,訪問看護師,栄養士の連

携. 治療.91(5).1547-1551,2009.

2)中村育子:在宅訪問栄養食事指導の実際と効果. IRYO.68(11).559-

562,2014.

3)葛西耕市、稲垣忠:アカデミックスキル・ルーブリックの開発―初年次教

育におけるスキル評価の試みー. 東北学院大学教育研究所報告

集.12.5-29,2012.

4)松田明子:摂食・嚥下障害者の症状の改善をめざした主介護者に対する教

育介入研究.日摂食嚥下リハ会誌.7(2).126-133,2003.

5)菊谷武:摂食・嚥下障害患者に対する地域支援体制のあり方に関する調査研究.在宅医

療助成勇美記念財団報告書.2013年度前期.

感想

研修会場の利便性、多数の講師、現場教育の交通費、必要な物品など、助成金のお陰で、

集合教育への参加対象者や現場教育の参加対象者に向けた環境を整えて行うことが出来ま

した。

今回の教育を通して、集合教育と現場教育がどのようにして、現場で活躍されているス

タッフが、摂食嚥下障害の方に関わる時に活かされていくのか整理された気がします。結

果、集合教育も現場教育も両方必要であることがわかりました。

今回研究で行った在宅医療者対象で、多職種の講師、多職種の参加者の教育プログラム

が他職種の役割を理解する上でも自身が行っていくためにも必要であることを改めて思い

ました。また、現場での教育は個別性に応じて考えることも必要であるため、集合教育と

はまた違って、実践的な経験となることから、やはり重要だと思いました。

相談出来る場や教育してもらう環境があるとありがたいため、教育窓口を継続してほし

いとの意見もある中、窓口を閉じましたが、今回の研究の教育プログラムを発展出来たら

と考えております。

助成金をいただき、このプログラムを決行できましたことに陳謝申し上げます。