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2005年度 下水道新技術研究所年報〔1/2巻〕 流出解析モデルに関する研究 「流出解析モデル利活用マニュアル」は,効率的か つ効果的な浸水対策の立案・検証等に利活用されるこ とを目指して1999年に発刊され,合流式下水道改善対 策への活用を視野に入れ,2003年6月に1回目の改訂 に至っている。その後,2002年度からの合流式下水道 緊急改善事業の実施,2004年の改正下水道法施行令の 施行,特定都市河川浸水被害対策法の施行等社会情勢 の変化と共に,流出解析モデルの活用範囲が更に広が りつつある。このような状況を鑑み,下水道機構では, 2004年から2005年にかけて固有研究により全国の自治 体を対象に既刊マニュアルに関するアンケート調査を 実施した。 本研究は,より効率的かつ効果的な雨水計画の検討 に対応するため,固有研究の成果として得られた課 題・要望への対応,氾濫解析に関する事項の追加およ び事例の一新など,既刊マニュアル内容の一層の充実 を図り,「流出解析モデル利活用マニュアル」をより使 いやすく応用性の高いマニュアルへ改訂することを目 的としたものである。 本研究は,(財)下水道新技術推進機構,オリジナル 設計㈱,国際水道コンサルタント㈱,㈱三水コンサル タント,㈱東京設計事務所,中日本建設コンサルタン ト㈱,㈱日水コン,日本上下水道設計㈱,日本水工設 計㈱,日本理水設計㈱の共同研究により実施した。 3.1 流出解析モデルの利活用フィールド 流出解析モデルは,様々な目的の解析において利用 が可能であり,マニュアルを活用することにより以下 に挙げられる解析に対応できることを確認した。 (1) 浸水対策 ① 現況施設の能力評価,浸水原因の把握 ② 整備計画の策定 ③ 下水道と河川の統合解析 ④ 浸水想定区域図の作成 ⑤ 浸水対策事業の費用効果 (2) 合流式下水道改善 ① 現況の汚濁負荷流出状況の把握と将来の予測 ② 合流式下水道改善計画の提案および効果の確 (3) その他 ① 効率的な運用計画(ポンプ場,ゲート施設等) ② 雨天時浸入水対策手法の提案および効果の確 ③ 浸透施設の評価 ④ 他部局や住民へのプレゼンテーション 3研究内容 2研究体制 1研究目的 -157-

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2005年度 下水道新技術研究所年報〔1/2巻〕

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流出解析モデルに関する研究

「流出解析モデル利活用マニュアル」は,効率的か

つ効果的な浸水対策の立案・検証等に利活用されるこ

とを目指して1999年に発刊され,合流式下水道改善対

策への活用を視野に入れ,2003年6月に1回目の改訂

に至っている。その後,2002年度からの合流式下水道

緊急改善事業の実施,2004年の改正下水道法施行令の

施行,特定都市河川浸水被害対策法の施行等社会情勢

の変化と共に,流出解析モデルの活用範囲が更に広が

りつつある。このような状況を鑑み,下水道機構では,

2004年から2005年にかけて固有研究により全国の自治

体を対象に既刊マニュアルに関するアンケート調査を

実施した。

本研究は,より効率的かつ効果的な雨水計画の検討

に対応するため,固有研究の成果として得られた課

題・要望への対応,氾濫解析に関する事項の追加およ

び事例の一新など,既刊マニュアル内容の一層の充実

を図り,「流出解析モデル利活用マニュアル」をより使

いやすく応用性の高いマニュアルへ改訂することを目

的としたものである。

本研究は,(財)下水道新技術推進機構,オリジナル

設計㈱,国際水道コンサルタント㈱,㈱三水コンサル

タント,㈱東京設計事務所,中日本建設コンサルタン

ト㈱,㈱日水コン,日本上下水道設計㈱,日本水工設

計㈱,日本理水設計㈱の共同研究により実施した。

3.1 流出解析モデルの利活用フィールド

流出解析モデルは,様々な目的の解析において利用

が可能であり,マニュアルを活用することにより以下

に挙げられる解析に対応できることを確認した。

(1) 浸水対策

① 現況施設の能力評価,浸水原因の把握

② 整備計画の策定

③ 下水道と河川の統合解析

④ 浸水想定区域図の作成

⑤ 浸水対策事業の費用効果

(2) 合流式下水道改善

① 現況の汚濁負荷流出状況の把握と将来の予測

② 合流式下水道改善計画の提案および効果の確

(3) その他

① 効率的な運用計画(ポンプ場,ゲート施設等)

② 雨天時浸入水対策手法の提案および効果の確

③ 浸透施設の評価

④ 他部局や住民へのプレゼンテーション

3. 研究内容

2. 研究体制

1. 研究目的

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2005年度 下水道新技術研究所年報〔1/2巻〕

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3.2 固有研究成果の反映

3.2.1 基本方針

浸水被害の発生と流出解析モデルの使用実態より,

効果的な雨水計画立案のフィールドはまだまだ多くあ

り,わかりやすく応用性の高いマニュアルを目指す方

針とした。

3.2.2 マニュアルの課題と反映

固有研究結果および解析知見調査からマニュアルの

課題・懸案事項として以下の事項が挙げられ,これら

を中心に内容の充実を図った。

① 汚濁負荷量解析に関わる理論式・パラメータの

整理と解説

② キャリブレーション・シュミレーションにおけ

る判断要素・判断基準

③ 浸透施設などのモデル化手法の整理と解説

④ 下水道台帳など電子化データの効率的利用法

⑤ 氾濫解析等新たなニーズへの対応

3.3 流出解析モデルの機能

3.3.1 対象とする流出解析モデル

本マニュアルで対象とする流出解析モデルは以下の

3モデルである。

① InfoWorks CS(インフォワークス・シーエス)

② MOUSE(マウス)

③ XP-SWMM(エックスピースイム)

各ソフトウェアは開発以後逐次バージョンアップが

図られており,これらを調査した結果を表-1に示す。

3.3.2 流出解析モデルの概要

(1) 降雨損失モデル

地表面貯留,浸透,蒸発散による降雨の損失を

モデル化し,降雨量から地表面に流出する有効降

雨を算定する。

(2) 表面流出モデル

有効降雨が地表面を流れる経過を運動力学的に

求め,ノードへの流入量を算定する。

(3) 管内水理モデル

地表面流出モデルより算出された各ノードでの

ハイドログラフを用いて,質量および運動量保存

則からなる「サンヴナン方程式」により管きょや

河道等の流れを解析する。

(4) 汚濁負荷量モデル

地表面汚濁物の堆積量および流出負荷量の算定

と管きょや河道等における水質の挙動を解析する。

(5) その他の機能

流出解析モデルは上記の機能の他に,以下に示

す機能も有している。

① リアルタイムコントロール

② 河川統合解析

③ GIS機能

3.3.3 マニュアル運用上の注意事項

流出解析モデルでは,調査データ,管路データ,降

雨データ等の調査および資料収集から得られるデータ

に加え,技術者が流域特性より設定する諸元・パラメ

ータを用いて解析が実施される。したがって,解析精

表-1 流出解析モデルの機能概要

InfoWorks CS MOUSE XP-SWMM・降雨損失モデル ・降雨損失モデル

・流出係数モデル ・流出係数モデル

・二重線形貯留法 ・時間面積法

・非線形貯留法 ・非線形貯留法

・完全サンヴナン方程式 ・完全サンヴナン方程式 ・完全サンヴナン方程式

(Dynamic wave法) (Dynamic wave法) (Dynamic wave法)

・地表面堆積流出モデル ・地表面堆積流出モデル ・地表面堆積流出モデル

・堆積物輸送モデル ・堆積物輸送モデル ・堆積物輸送モデル

・水質7項目 ・水質7項目 ・水質:任意項目

 +ユーザー定義項目  +ユーザー定義項目

・二次元不定流モデル ・二次元不定流モデル ・二次元不定流モデル

(InfoWorks CS+SULIS) (MIKE Urban Flood) (XP-Flood:2D)

・リアルタイムコントロール ・リアルタイムコントロール ・リアルタイムコントロール

・河川統合解析 ・河川統合解析 ・河川統合解析

・GIS ・GIS ・GIS

・降雨損失モデル

2.表面流出モデル ・非線形貯留法

3.管内水理モデル

追加機能

5.氾濫解析モデル

6.その他の機能

基本機能

1.降雨損失モデル

4.汚濁負荷量モデル

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度を確保するためには,雨水の流出機構を十分に理解

した上で使用するデータの量と質を確保し,熟練した

技術者が適切な諸元・パラメータを設定することが重

要である。

流出機構の概念図を図-1に示す。

図-1 流出機構の概念図

3.4 流出解析モデルの応用手法調査

事例調査に基づき以下の2手法の記述を充実もしく

は追加した。

3.4.1 下水道と河川の統合解析の応用

流出解析モデルでは,河川からの影響や,河川への

影響を考慮する必要がある場合には,下水道と河川を

統合的に解析することが可能である。

マニュアルでは,河川統合解析手法の見直しとして

分類手法や解析内容を見直し,判り易く整理し,以下

の2項目についての解説を記載した。

① 統合解析

② 従来の解析手法(個別解析)

また,下水道と統合解析を行うような都市域の中小

河川における計画上の違いを表-2に示す。

表-2 下水道・河川における計画上の違い

項目 下  水  道 中 小 河 川

確率規模 1/5~1/10程度 1/30~1/100程度

流域規模 2km2 mk002そよお下以 2以下

降雨継続時間 流達時間 5~30分程度 洪水到達時間 30分~6時間程度

確率降雨算出法 地点雨量による 流域平均雨量,地点雨量による

流出計算法 合理式 合理式,貯留関数法等

地下系は,流出解析モデルと同様の解

析をする。

地表面系

地下系

図-2 氾濫解析モデルのモデル化イメージ図

浸透

地下水

の浸入

雨水ます

蒸発散

地表面貯留 観測所

地表面流

降雨

降雨 降雨レーダー

工場廃水 家庭下水

分水施設

側溝排水

水路・小河川

分水マンホール

管きょ

貯留施設

排水ポンプ施設

吐き口

河川

晴天時下水

(出典:「都市型水害対策検討の手引き(案)」

都市型水害対策検討委員会)

3.4.2 内水氾濫解析への応用

内水氾濫解析は,氾濫解析モデルの使用や流出解析

モデルを応用することで,解析が可能であり,都市型

浸水対策の検討や内水ハザードマップの作成を行うこ

とができる。

マニュアルでは,モデル化の考え方・留意点を充実

させ,図-2,3に,地表面のモデル化について追加

した2例を示す。

地表面は,メッシュで表現しているた

め,流向に制限はない。

地表面は,道路を仮想水路で表現し

ているため,流向に制限がある。

地下系は,流出解析モデルと同様の

解析をする。

地表面系

地下系

下水道管きょ

仮想開水路

(道路) 管路に余裕があるとマン

ホールから管路に流入

マンホールからの 噴き出し

図-3 流出解析モデルを応用した場合の モデル化イメージ

(道路を仮想水路にモデル化するイメージ)

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3.5 入力データおよび出力結果

3.5.1 入力データ

入力データの主なものは,地表面に関するデータ,

マンホールに関するデータ,管きょに関するデータ等

の7種類に関するデータから構成されており,各々の

データの概念およびデータの設定方法を示した。

3.5.2 出力結果

計算結果は全て数値情報であるが,これをテキスト

ファイルの他に,グラフやアニメーションを使って時

系列の変化等を表現することが可能である。なお,GIS

を利用して流出解析モデルの計算結果を地図上に表示

することもできることを示した。

また,計画説明資料が作成できる出力結果(項目)

について記載した。

3.6 調査概要

調査は,信頼性の高い流出解析を行う基礎となるも

ので,広範囲にわたる精度の高い各種資料を収集およ

び調査し整理することができるように再編集し,内容

の充実を図った。

調査対象地域をモデル化する際の,対象業務別の必

要データと資料収集の主なデータ例を一覧表で示し,

必要データの内容と流出解析モデルでの構成イメージ

を新たに図化した。

また,図-4に,解析モデル作成に必要なデータを

示す。

土地利用用途

地表面データ

解析モデル

管路データ

計算対象条件に応じて,地表面情報をデータ化

幹線・準幹線を対象としてランピング

構造物データ

QsCs

1日間汚水データ

降雨データ

ポンプ場・雨水吐室をデータ化

日間汚水量・水質変動をデータ化

排水区域

不浸透域

計算パラメータ

雨水流出量算定●不浸透域率●浸透能●凹地貯留量

汚濁負荷算定●負荷堆積●負荷流出

 (地表面・管内)等

浸透施設設置区域

管路台帳データすべて地表面データ

t各観測地点降雨の偏在化を考慮してデータ化

放流先水位データ

図-4 解析モデル作成に必要なデータ

3.7 解析作業の概要

3.7.1 解析作業項目と手順

下水道における雨水の流出解析は,①基本事項の確

認,②流出解析方法の選定,③対象流域のモデル化,

④データの作成,⑤キャリブレーション,⑥シミュレ

ーション,⑦シミュレーション結果の評価および活用,

という作業項目と手順により解析作業を行い,対策案

の検討を行う。マニュアルでは,流出解析作業の手順

フローを見直した。

解析作業フローを図-5に示す。

(§33) 対象流域のモデル化

(§37) キャリブレーション

(§40) シミュレーション結果の

評価および活用

(§34) 浸透施設のモデル化

(§35) 地表面のモデル化

(§38) キャリブレーションの

視点・判断

(§31) 基本事項の確認

(§32) 流出解析方法の選定

(§36) データの作成

(§39) シミュレーション

図-5 解析作業フロー

3.7.2 基本事項の確認

シミュレーションに際して事前に確認を行う以下の

基本事項について,解説を充実させた。

① 解析の目的

② 対象降雨

③ 海域・河川の取り扱い

④ 地表面の取り扱い

⑤ モデル化

⑥ キャリブレーション方針

3.8 流出解析方法の選定

流出解析モデルを用いた解析では,検討区域の地域

特性や,求められる要件に応じて,以下に示す事項に

ついて選定する際の考え方を示した。

3.8.1 流出解析方法の選定

流出解析方法を,下水道と河川を一体として解析す

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る統合解析と従来の下水道のみの解析手法(個別解析)

に大別し,その特長と適切な解析を行うための考え方

を示した。図-6に,その概念図を示す。

従来の解析(個別解析)

基本的に下水道の解析のみを

行う。必要に応じて河川水位

(外水位)を吐き口に設定す

る。

管きょ

必要に応じて外水位を設定

統合解析 1つの流出解析モデルにより下水道と河川をモデル化し,同時に

解析を行う。

または,2つの流出解析モデルにより下水道と河川を別々にモデ

ル化し,同時に解析を行う。

河 川

管きょ

統合解析モデル 下水道モデル

河川モデル

図-6 流出解析方法の概念図

3.8.2 降雨損失モデルの選定

雨水流出の計算方法は,降雨損失モデルと流出係数

モデルとがあり,計画との整合性や地域特性,データ

の有無等を勘案し,適切なモデルを選択するための考

え方を示した。

3.9 モデル化

3.9.1 対象流域および降雨のモデル化

解析する対象流域を,流出解析モデルを用いて解析

できるように降雨や流域の管きょ・区域等をデータ化

することをモデル化というが,主なモデル化について

内容を充実させた。

また,降雨モデル化の際に,複数の地点雨量データ

がある場合に,降雨の再現性を高めるために用いられ

る,ティーセン分割法を紹介した。

図-7に,区域のティーセン分割例を示す。

ティーセン分割線

凡 例

降雨観測所

図-7 区域のティーセン分割例

3.9.2 浸透のモデル化

新たなモデル化として,浸透施設のモデル化手法を

追加した。

浸透施設のモデル化手法には以下のものなどがあり,

解析の目的,収集可能なデータにより使い分ける必要

があり,その考え方を示した。

① ホートンモデルによる手法

② 有効降雨の低減によりモデル化する手法

③ 流出係数の低減によりモデル化する手法

図-8に,有効降雨の低減によりモデル化する手法

のイメージを示す。

(

降雨量[m

m/hr])

(経過時間)

検討対象降雨量

有効降雨量

浸透能

浸透を考慮した有効降雨モデル

図-8 有効降雨の低減によりモデル化する

手法のイメージ

3.9.3 地表面のモデル化

マンホールから溢水した雨水や河川の氾濫による影

響等を解析に考慮する場合には,地表面をモデル化し

て,地表面流の挙動を把握する必要がある。以下に示

す地表面のモデル化の2手法について解説した。

① 氾濫解析モデルによるモデル化

② 流出解析モデルを応用したモデル化

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地表面モデル化の2手法の概要を表-3に示す。

表-3 地表面のモデル化手法の概要

項 目(1)氾濫解析モデルによる         モデル化

(2)流出解析モデルを     応用したモデル化

適 用 適用における制限は無い。  主に道路の整備密度が高い

都市部で適用できる手法である。

特 徴

 氾濫原の分割の仕方による氾濫流向の変化が少なく,更にメッシュを細分することにより,より精度の高い解析を行うことができる。

 仮想水路の形状や適正な諸元を与えることにより,精度の高い解析を行うことができる。

モデル化の考え方

 対象流域をメッシュで分割し,メッシュ間の水の移動により,溢れた雨水の移動・拡散現象を表現する手法。

 主に検討対象とする下水道管網がある道路を対象に,仮想水路に見立ててモデル化する。マンホールから溢れた雨水は,仮想水路をつたわって余裕のあるマンホール,または低地部に溜まるという実現象を再現することができる。

3.10 キャリブレーション(再現性の確認)

3.10.1 キャリブレーション

キャリブレーションでは,以下に示す項目の留意事

項を充実させた。

① キャリブレーションの基本的な考え方

② キャリブレーションに必要なデータ

③ キャリブレーションで定める諸元・パラメータ

具体的には,汚濁負荷量解析における理論式,キャ

リブレーションを整理すると共に,地表面や管きょ等,

堆積物の汚濁負荷量の諸元・パラメータの解説を一覧

表で記載した。

図-9に,汚濁負荷量の主な諸元・パラメータを示

す。

汚濁負荷の

管渠内堆積

汚濁負荷の

地表面堆積

雨水桝からの 汚濁負荷流出

地表面汚濁負荷の

流出波形

図-9 汚濁負荷量の主な諸元・パラメータ

3.10.2 キャリブレーションの視点・判断

キャリブレーション手法や検証の考え方を充実させ

るため,「キャリブレーションの視点・判断」を追加記

載した。具体的にはチェックフローの提示等で整合性

判断に関する解説を充実させた。

図-10に,汚濁負荷キャリブレーション確認(比較)

フローを示す。

実績データが充実している場合の詳細なキャリブレーション例

モニタリング日のシミュレーション

アウトプット:ピーク水質や時系列の水質変動

キャリブレーション終了

概ね整合

アウトプット:比較時間の負荷量

比 較

アウトプット:晴天時汚水の水質変動 アウトプット:晴天時汚水の水質変動

汚水を見込まない雨天時のシミュレーション結果 アウトプット: 雨天時の汚濁負荷の平均値

モニタリング調査成果 (ピーク水質や時系列の水質変動)

a)処理場やポンプ場の維持管理台帳 (比較時間の負荷量の積算値)

b)晴天時汚水の水質変動データ c)管きょの維持管理記録

地表面堆積量≒a)総負荷量-b)汚水の負荷量-c)管きょ内の堆積負荷量

または, ≒文献調査資料 概ね整合

比 較

比 較

比 較 整合しない場合

(試行錯誤により各種パラメータの調整)

(トライアル計算により各種パラメータの調整)

水量変動

図-10 汚濁負荷キャリブレーション

確認(比較)フロー

3.11 シミュレーション

3.11.1 シミュレーション

シミュレーションは,問題点の把握と対策案の評価

を行う2つの段階からなり,以下に示す内容について

解説した。

① 現況シミュレーションと問題点の把握

② 対策案を含むシミュレーションと対策案の評価

3.11.2 シミュレーション結果の評価および活用

シミュレーションで得られた結果は,施設の評価,

浸水規模の想定,計画策定・設計における必要な施設

規模の検討,住民説明用資料など,様々に活用するこ

とができ,その活用方法を示した。

3.12 適用事例の紹介

3.12.1 日本における適用状況

これまでの流出解析モデルを用いた業務の調査を行

い,累計520件(平成17年12月末現在,建設コンサルタ

ント9社調べ)が確認できた。その件数は年を追うご

とに増加しており,流出解析モデルの需要の高まりと

ともに,合流改善事業や河川との統合的な解析,氾濫

解析を考慮したものなどへと適用範囲の広がりが見ら

れる。

表-4に,流出解析モデル適用業務実績を示す。

また,図-11に,実績件数(※建設コンサルタント

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9社調べ)に示す。

表-4 流出解析モデル適用業務実績

1998年

以前

水量 45 32 42 47 42 29 48

水量・水質 7 9 12 9 23 46 72河川含む - 1 2 2 6 2 3氾濫解析 - - - - - 4 2その他 7 5 3 5 7 4 4合計 59 47 59 63 78 85 129

解析対象

年 度

1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年

3.12.2 一新した適用事例の概要

適用事例として代表的な流出解析モデルの活用事例

9件について事例を一新し紹介した。また,この中か

ら事例8の「河川-下水道統合解析の効率的な運用事

例」を示す。

(1) 適用事例

① 事例1 浸水対策:モデル化(管きょ)の視点

概要:既設管網の流下能力評価および浸水原因

を究明し,浸水解消方策として,バイパス管

など浸水対策案を立案

② 事例2 合流改善:モデル化(浸透施設)の視点

概要:合流式下水道の改善対策として,浸透施

設の整備による汚濁負荷量の低減効果を検証

③ 事例3 浸水対策:キャリブレーションの視点

概要:モニタリングデータ(水量)を基にした

キャリブレーションの考え方

④ 事例4 合流改善:キャリブレーションの視点

概要:モニタリングデータ(水量,水質)を基

にしたキャリブレーションの考え方

⑤ 事例5 浸水対策計画立案

概要:浸水対策のための整備計画の立案

⑥ 事例6 合流改善計画立案

概要:合流式下水道の改善計画の立案

⑦ 事例7 雨天時浸入水対策の検討

概要:雨天時浸入水による浸水被害要因の検証

と浸水解消に向けた対策方針検討

⑧ 事例8 河川-下水道統合解析による効率的運用

概要:河川と下水道の一体的な評価による,効

率的なポンプ運転調整ルールの検証

⑨ 事例9 氾濫解析

概要: 都市域における氾濫解析の適応性の検証

0

20

40

60

80

100

120

140

実績件数

1999年度

2000年度

2001年度

2002年度

2003年度

2004年度

その他業務実績

氾濫解析

河川を含んだ業務実績

水量・水質解析業務実績

水量解析業務実績

図-11 実績件数

(※建設コンサルタント9社調べ)

(2) 河川-下水道統合解析の効率的な運用事例

① 業務概要

河川と下水道の一体的な評価による,効率的

なポンプ運転調整ルールの検証を行う。

② 調査流域の概要(図-12)

排除方式,排水面積,流域の現況等を把握整

理する。

③ モデル化状況

管きょ(600mm以上の管きょ等)・ポンプ場,域

内の全ての河川・排水機場,対象降雨,地表面デ

ータ(GISデータ)を用いてモデル化を行う。

⑤ N水 路

⑥ C水 路

② Kポ ン プ 場

K川

雨 水 幹 線排 水 区 域

雨 水 幹 線A

主 要 な 河川 ・ 水 路

④ T川

① N 川

③ 雨水 幹 線 A

⑦ N川排 水 機 場

河 道 ネ ック 地 点( 越 水 危 険地 点)

流域 概要 図

図-12 流域概要図

④ キャリブレーション

複数の降雨データをティーセン分割により与

え,ポンプ場流入渠水位と河川水位の各々で,

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2005年度 下水道新技術研究所年報〔1/2巻〕

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時系列の水位について実測値と計算値の整合を

図る。

⑤ シミュレーション解析結果Ⅰ

(現況施設での評価)

現況のポンプ運転ルールのもとでシミュレー

ションを実施した結果,河川から越水が発生す

るが、雨水幹線にある程度の余裕が生じていた

ことがわかった。

対策として,ポンプ場のポンプを停止させ河

川への放流抑制を行った。これは,ポンプ場の

停止により内水側での浸水被害の拡大が懸念さ

れるが,雨水幹線に生じている余裕を活用して

貯留することを期待したものである。

しかしながら,河川からの越水は解消できた

が,ポンプ場上流域で,流域内の水路・管きょ

等から溢水が発生し,浸水被害を助長する結果

となった。そこで,追加対策等の検討が必要に

なった。図-13に現在施設の解析結果を示す。

-29000.0 -28500.0 -28000.0 -27500.0 -27000.0 -26500.0 -26000.0 -25500.0 -25000.0[m]

-117400.0

-117300.0

-117200.0

-117100.0

-117000.0

-116900.0

-116800.0

-116700.0

-116600.0

-116500.0

-116400.0

-116300.0

-116200.0

-116100.0

-116000.0

-115900.0

-115800.0

-115700.0

-115600.0

-115500.0

-115400.0

-115300.0

-115200.0

-115100.0

-115000.0

-114900.0

-114800.0

-114700.0

-114600.0

-114500.0

-114400.0

-114300.0

-114200.0

-114100.0

-114000.0

-113900.0

-113800.0

-113700.0

-113600.0

-113500.0

-113400.0

-113300.0

-113200.0

-113100.0

-113000.0

-112900.0

-112800.0

-112700.0

-112600.0

-112500.0

-112400.0

-112300.0

-112200.0

-112100.0

-112000.0

-111900.0

-111800.0

-111700.0

-111600.0

-111500.0

-111400.0

-111300.0

[m] FLOOD METER - Maximum DMI_KYOTO_OP_01_00.PRF

Kポンプ場

雨水幹線A

T川

浸水発生箇所

T川

N水路

K川

K川

雨水幹線A

N水路

山陰街道

C水路

雨水幹線A

雨水幹線A

図-13 解析結果(平面):現在施設の評価

⑥ シミュレーション解析結果Ⅱ

(将来施設での評価)

今後整備予定である対策施設(雨水貯留管)

をモデル化して,未整備の対策施設が整備され

た場合を評価すると,適切なポンプ運転調整を

実施することで河川からの越水を防除でき,か

つ流域内での浸水被害はほぼ解消される結果が

得られた。図-14に将来施設の解析結果を示す。

-29000.0 -28500.0 -28000.0 -27500.0 -27000.0 -26500.0 -26000.0 -25500.0 -25000.0[m]

-117400.0

-117300.0

-117200.0

-117100.0

-117000.0

-116900.0

-116800.0

-116700.0

-116600.0

-116500.0

-116400.0

-116300.0

-116200.0

-116100.0

-116000.0

-115900.0

-115800.0

-115700.0

-115600.0

-115500.0

-115400.0

-115300.0

-115200.0

-115100.0

-115000.0

-114900.0

-114800.0

-114700.0

-114600.0

-114500.0

-114400.0

-114300.0

-114200.0

-114100.0

-114000.0

-113900.0

-113800.0

-113700.0

-113600.0

-113500.0

-113400.0

-113300.0

-113200.0

-113100.0

-113000.0

-112900.0

-112800.0

-112700.0

-112600.0

-112500.0

-112400.0

-112300.0

-112200.0

-112100.0

-112000.0

-111900.0

-111800.0

-111700.0

-111600.0

-111500.0

-111400.0

-111300.0

[m] FLOOD - Maximum DMI_KYOTO_OP_06_00.PRF

"

"

"

Kポンプ場

雨水幹線A

T川

浸水発生箇所

T川

N水路

K川

K川

雨水幹線A

N水路

山陰街道

C水路

雨水幹線A

雨水幹線A

図-14 解析結果(平面):将来施設の評価

3.13 積算資料の改訂

運用実績に基づき,積算資料の大幅な見直しを行っ

た。以下に改訂概要を示す。

① 現行の参考資料である歩掛を,工数実績調査を

踏まえ検証し,新たに設定した。

② 面積補正係数及びキャリブレーション・シミュ

レーションに関する補正係数について実績調査を

踏まえ設定した。

③ 内水氾濫解析におけるモデル化に関する歩掛を

モデルケースにより設定した。

表-5に,標準歩掛に関する新旧対照表を示す。

表-5 標準歩掛に関する新旧対照表 改訂標準歩掛 現行標準歩掛

標準歩掛 ・実績工数調査に基づき検証し設定 ・モデルケースにより設定

補正係数・「下水道用設計標準歩掛表」全体計画の 面積補正を適用

・設定なし

標準歩掛 ・実績工数調査に基づき検証し設定 ・モデルケースにより設定

補正係数・「下水道用設計標準歩掛表」全体計画の 面積補正を検証し適用

・設定なし

標準歩掛 ・モデルケースにより設定 ・設定なし

補正係数・「下水道用設計標準歩掛表」全体計画の 面積補正を検証し適用

・設定なし

標準歩掛・1降雨,1箇所(1水質項目)の単位工数 における実作業時間に基づき検証し設定

・モデルケースにより設定

補正係数 ・実績工数調査に基づき設定 ・設定なし

標準歩掛・1ケースの単位工数における実作業時間に 基づき検証し設定

・モデルケースにより設定

補正係数 ・実績工数調査に基づき設定 ・設定なし

標準歩掛 ・実績工数調査に基づき検証し設定 ・モデルケースにより設定

補正係数・「下水道用設計標準歩掛表」全体計画の 面積補正を適用

・設定なし

・初回,最終,中間3回で設定 ・初回,最終,中間2回で設定

3.キャリブレーション

4.シミュレーション

5.提出図書の作成

6.協議

作業項目

1.基礎調査

2.排水区 のモデル化

①流出 解析

②内水 氾濫解析

-164-

Page 9: 本 文 】流出解析モデルに関する研究 · 2005年度 下水道新技術研究所年報〔1/2巻〕 -87- 流出解析モデルに関する研究 「流出解析モデル利活用マニュアル」は,効率的か

2005年度 下水道新技術研究所年報〔1/2巻〕

-95-

本マニュアルは,基礎編・調査編・解析編・応用編・

資料編から構成される。

各編には,以下の内容が記述される。

(1) 基礎編:モデルの概要・理論,データ項目,対

象業務等の記載。

(2) 調査編:対象業務に応じたデータ種類と調査方

法等について記載。

(関連図書:モニタリングマニュアル,

水質検査マニュアル)

(3) 解析編:シミュレーションやキャリブレーション,

モデル化の方法等について記載。

(4) 応用編:適用事例(業務ごとに事例を分類)等の

記述。

(5) 資料編:流出解析モデルを用いる対象業務に応

じた積算根拠や仕様書の記載。

「流出解析モデル利活用マニュアル」は,前回改訂

版発刊後3年間に蓄積された知見をマニュアルに反映

することで,流出解析モデルの利活用範囲を広め,

多様化する課題に対応することを目的として今回改

訂された。

また,平成17年7月の提言「都市における浸水対策

の新たな展開」(下水道政策研究委員会浸水対策小委員

会)を受けて発足した「下水道都市浸水対策技術検討

委員会」での審議を経て,総合的な都市浸水対策計画

策定のためのマニュアルが平成18年3月に国土交通省

都市・地域整備局下水道部より発刊された。今後,こ

れらの提言,マニュアルを踏まえ,都市域における浸

水対策計画立案においてはシミュレーションや流出解

析の必要性がより一層高まるものと考えられる。

本研究成果であるマニュアルが,降雨特性や地域特

性を考慮した効率的な浸水対策計画立案に不可欠なツ

ールとして広く利用され,下水道や都市河川等の能力

診断,水質解析,計画立案といったハード対策にとど

まらず,ハザードマップ等のソフト対策や,自助を支

えるための情報提供等にも利活用され,安全で安心な

社会環境の構築に貢献できることを期待している。

●この研究を行ったのは

研究第二部長 松浦 將行

研究第二部総括主任研究員 桐原 隆

研究第二部主任研究員 津田 伸夫

研究第二部研究員 岡本 健

●この研究に対するお問い合わせは

研究第二部長 松浦 將行

研究第二部総括主任研究員 目黒 享

研究第二部総括主任研究員 津田 伸夫

研究第二部研究員 岡本 健

5. まとめ 4. 利活用マニュアルの構成

-165-